JP2021022662A - 量子型赤外線センサ - Google Patents
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Abstract
Description
量子型赤外線センサが室温で動作することが困難な主な理由としては、量子型赤外線センサでは化合物半導体結晶を用いるために、n型やp型の特性が現れるまで冷却する必要があることと、各種ノイズ成分の中で熱励起ノイズを減らす必要があることである。熱励起ノイズは、温度に対応した熱エネルギーにより価電子バンドから伝導バンドに熱的に励起されるキャリアの数の揺らぎである。熱励起ノイズは温度に対して変化するため、冷却することにより減らすことができる。
かかる状況に鑑みて、本発明は、室温で動作でき、赤外線を高感度に検出できる量子型赤外線センサを提供することを目的とする。
フェルミ準位は、電子の存在する確率が50%になる場所であるが、ヘテロ界面において伝導バンドのエネルギー準位がフェルミ準位より低い場合には、ヘテロ界面に沢山の電子を溜めることができる。
ここで、フェルミ準位は、系(ドープ化合物半導体層の不純物濃度や膜厚、またそれらに挟まれたアンドープ化合物半導体層の組成や膜厚などデバイス構造)でユニークに決定されるものである。
理想的な二次元のヘテロ界面では、バンド内準位間の光学遷移は禁制であるが、ヘテロ界面に量子ドットを設けることによって、この禁制則を崩すことができる。一方、ヘテロ界面が無く、量子ドットを設けただけの構造の場合には、単純に量子ドット領域の積層数を増やさなければ、沢山の電子を溜めることができない。
なお、ヘテロ接合を構成する異なる半導体としては、II−VI族の異種化合物半導体、III−V族の異種化合物半導体、Si系、Ge系、C系などのIV族半導体が挙げられる。
ヘテロ接合の設計において、ヘテロ界面を構成する異種半導体のバンドギャップの差がターゲットとする赤外線波長に対応するように、異種半導体を選定する必要がある。加えて、ヘテロ界面に転位が発生しない組成と膜厚にする。ヘテロ界面に転位(結晶欠陥)が発生すると、転位によって作り出されたエネルギー準位において無輻射再結合が生じることから、これがシグナル強度の低下を生み出すことになる。なお、転位が発生しないとは、全く発生しないというのではなく、実質的に転位が発生しないという意味である。
ここで、ヘテロ界面に転位が発生するのは、ヘテロ界面を構成する異種半導体の組成による格子定数の不整合が一つの要因として挙げられるが、それだけでなく、膜厚もまた転位の発生に影響する。すなわち、格子不整合が小さいとしても、膜厚が厚いと転位が発生するし、逆に、格子不整合が大きいとしても膜厚が薄いと転位は発生しない。転位が発生する膜厚は、臨界膜厚と呼ばれ、格子不整合が大きくなるに伴って薄くなる。ヘテロ接合の設計においては、ヘテロ界面に転位が発生しない組成と膜厚にすることが重要である。
なお、膜厚を変えると、空間電荷数が変わるのでフェルミ準位も変化する。従って、ヘテロ接合を有するデバイスの設計をする上で、膜厚の制御は、歪の制御とフェルミ準位の制御の2つの面を有しており、デバイス設計ごとに膜厚の最適化を行うことが必要である。
一方、従来の量子型赤外線センサのように、ヘテロ界面の高密度な電子を利用するのではなく、通常の量子ドットを多層に積層するものでは、量子ドットの積層数に応じてバンド内準位に励起されるキャリア数は増えるが、同時に伝導方向に続いている量子ドットによる再捕獲があり、ロスが大きい構造になっている。このため、従来の量子型赤外線センサでは、室温動作における高感度の実現は困難なのである。
1)ヘテロ界面を構成する異種半導体のバンドギャップの差がターゲットとする赤外線波長に対応し、かつ、ヘテロ界面に転位が発生しない異種半導体の組成と膜厚を選定するステップ。
2)ターゲットとする赤外線を吸収し得るバンドギャップのバンド内準位を形成し、かつ、フェルミ準位より低い伝導バンドのエネルギー準位を形成する量子ドット領域を、ヘテロ界面に形成するステップ。
アンドープ化合物半導体層4の量子ドット領域7では、赤外光により励起された電子が、量子ドットの井戸から抜け出し、ヘテロ界面6に沢山の電子が溜まり、それらを光電流として取り出すことができる。
実施例1の赤外線センサは、図2に示すように、n−i−n構造を有し、n型ドープ化合物半導体層2としてn−Al0.3Ga0.7As、n型ドープ化合物半導体層3としてn+−GaAs、アンドープ化合物半導体層4として、Al0.3Ga0.7AsとGaAsのヘテロ接合がなされ、ヘテロ界面6にはInAsの量子ドットの量子ドット領域7が形成されている。n−i−n構造の膜厚、キャリア密度、量子ドット濃度については、図2の模式図の中に示している。n−i−n構造は、n−GaAs半導体基板8の上に順に積層されており、上面と下面には、それぞれ電極5が設けられている。実施例1では、量子ドット領域7は単層であるが、複数の量子ドット領域7が積層されるものでも構わない。
図3下側に示すように、ヘテロ界面付近では内部電界が強く、励起電子はAl0.3Ga0.7Asのバリア側に引き抜かれやすい。効率的なバンド内遷移は、任意の方向からの光に対する感度とヘテロ界面での三次元電子閉じ込めを有する量子ドット領域7(以下、QD層ともいう)を挿入することによって生じさせることができる。
実施例1の赤外線センサのデバイスは、固体源の分子線エピタキシーを用いてn+−GaAs(001)基板上に製造されたものである。まず、厚さ400nmのn+−GaAs層をバッファ層として上記基板上に結晶成長させた。結晶成長中は、赤外線高温計を用いて基板温度のモニタリングを行った。その後、n+−GaAs層のバッファ層の上に、アンドープ化合物半導体層として、厚さ300nmのGaAsを堆積し、QD層を形成し、さらにGaAsを10nm堆積し、厚さ20nmのAl0.3Ga0.7Asを堆積し、Al0.3Ga0.7As/GaAsのヘテロ結合の化合物半導体の構造を有する真性キャリア層を作製した。
InAsの公称厚さは0.64nm(2.1単層)であった。InAsの量子ドットを成膜する前の基板温度は550℃である。InAsのQD層とそれに続く10nmのGaAsキャッピング層を490℃で成長させた。最後に、コンタクト層として、n−Al0.3Ga0.7As、n+−GaAs層を基板温度500℃で成長させた。As2フラックスのビーム換算圧力は1.15×10−3Paであった。次に、Au−Ge/Au電極を上面と下面にそれぞれ形成した。
図6は、実施例1のバイアス電圧(+1V,−1V)下でのバンド状態の変化を示している。図中の破線は電子のフェルミ準位(EF)を、伝導バンドの底準位(EC)又は価電子バンドの準位(EV)を示している。
すなわち、−1Vにおいて、GaAsのバンド間遷移によって励起された電子は、電界によって電極に到達する。低温では、GaAsの吸収端は比較的急峻である。温度が上昇すると、吸収端がシフトし、InAsの濡れ層に起因するギャップ以下の状態がはっきりと現れる。バイアス電圧1V、室温付近で、GaAsの吸収端が観測されるが、極低温ではそれははっきりと観測されない。このことは、GaAsで励起された電子がAl0.3Ga0.7Asの障壁によってブロックされ、したがって低温での電流のために外部に引き出すことができないことを示している。
その結果、電界によるキャリア引出しが少なくなり、ヘテロ界面に電子が高密度に分布することが予想される。160Kを超えると、GaAsの吸収端は、温度の上昇につれて徐々に現れる。いくつかの電子は熱励起の影響で取り出される。これらの結果から、本実施例の赤外線センサのデバイスのn−i−n層構造におけるAl0.3Ga0.7Asの障壁の効果と、バイアス電圧の正負を変えることによる電子の取り出し方の違いが明らかになった。
1319nmの波長を有する固体レーザーを使用してバンド内遷移を引き起こし、290Kで異なるバイアス電圧での光電流の光強度依存性を測定した結果について、図11(1)(2)の上側のグラフに示す。レーザースポットサイズは、約0.012cm2であった。光電流は、正および負の両方について、光強度およびバイアス電圧の増加と共に増加した。図11(1)(2)の下側のグラフは、ΔI/Iのバイアス依存性を示している。△I/Iは全電流に対する光電流の比を表す。△I/Iは、±0.2Vにピークを有する。電圧を印加することによって、励起されたキャリア電子の引出しが増加する。
(1)実施例1では、アンドープ化合物半導体層(i層)が、n型ドープ化合物半導体層(n層)に挟まれたn−i−nの構成であるが、これに限定されるものではなく、i型層がp型ドープ化合物半導体層(p層)に挟まれるp−i−pの構成、又は、赤外線の入射方向から順に、n層、i層、p層のn−i−pの構成、或は、p層、i層、n層のp−i−nの構成であっても構わない。
(2)実施例1では、ヘテロ界面の量子ドット領域は単層であるが、複数の量子ドット領域7を積層し多層にすることができる。
(3)実施例1では、ヘテロ界面にInAsの量子ドットを形成したが、他のナローバンドギャップ半導体のInSb、InAsSb、GaSb、Ge又はHgCdTeの量子ドットを形成することができる。
(4)実施例1では、アンドープ化合物半導体層(i層)として、AlGaAs/GaAsのヘテロ接合を用いたが、他のIII−V族の半導体、又は、II−VI族の半導体、Si系、Ge系、C系などのIV族半導体を用いることができる。
2 n型ドープ化合物半導体層(表面側)
3 n型ドープ化合物半導体層
4 アンドープ化合物半導体層
5,51,52 電極
6 ヘテロ界面
7 量子ドット領域
8 半導体基板
Claims (9)
- n型もしくはp型の何れか又は両方のドープ化合物半導体層に挟まれたアンドープ化合物半導体層を有する赤外線センサであって、
前記アンドープ化合物半導体層は、異種半導体のヘテロ接合で、ターゲットとする赤外線を吸収し得るバンドギャップのバンド内準位を形成する量子ドット領域をヘテロ界面に備え、
前記量子ドット領域によって、フェルミ準位より低い伝導バンドのエネルギー準位が形成されたことを特徴とする量子型赤外線センサ。 - 前記ヘテロ接合は、前記ヘテロ界面を構成する異種半導体のバンドギャップの差が前記ターゲットとする赤外線波長に対応し、かつ、前記ヘテロ界面に転位が発生しない組成と膜厚であることを特徴とする請求項1に記載の量子型赤外線センサ。
- 前記アンドープ化合物半導体層は、前記フェルミ準位を制御するn型ドープ化合物半導体層に挟まれたことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子型赤外線センサ。
- 前記量子ドット領域は、単層乃至複数層で構成され、厚みが50nm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の量子型赤外線センサ。
- 前記ヘテロ接合は、III−V族化合物半導体で構成され、
前記量子ドット領域はInAs,InSb,InGaAs,GaSb,Ge又はHgCdTeの何れかの量子ドットで形成されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の量子型赤外線センサ。 - 前記アンドープ化合物半導体層は、AlaGa1-aAs(0<a≦1)とGaAsのヘテロ接合で、前記量子ドット領域はInAsの量子ドットで形成され、前記ターゲットとする赤外線が1〜14μmの波長範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の量子型赤外線センサ。
- 室温で動作可能であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の量子型赤外線センサ。
- 請求項1〜7の何れかの量子型赤外線センサと、前記赤外線センサを駆動する駆動回路を備えたことを特徴とする量子型赤外線センサを用いた撮像素子。
- 請求項1〜7の何れかの量子型赤外線センサの製造方法であって、
前記ヘテロ界面を構成する異種半導体のバンドギャップの差が前記ターゲットとする赤外線波長に対応し、かつ、前記ヘテロ界面に転位が発生しない異種半導体の組成と膜厚を選定するステップと、
前記ターゲットとする赤外線を吸収し得るバンドギャップのバンド内準位を形成し、かつ、フェルミ準位より低い伝導バンドのエネルギー準位を形成する量子ドット領域を、前記ヘテロ界面に形成するステップ、
を備えたことを特徴とする量子型赤外線センサの製造方法。
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