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JP2021098367A - 樹脂成形体およびスクロールロータ - Google Patents

樹脂成形体およびスクロールロータ Download PDF

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JP2021098367A JP2020210840A JP2020210840A JP2021098367A JP 2021098367 A JP2021098367 A JP 2021098367A JP 2020210840 A JP2020210840 A JP 2020210840A JP 2020210840 A JP2020210840 A JP 2020210840A JP 2021098367 A JP2021098367 A JP 2021098367A
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拓治 原野
Takuji Harano
拓治 原野
里路 文規
Fuminori Satoji
文規 里路
七郎 古谷
Shichiro Furuya
七郎 古谷
英利 西川
Hidetoshi Nishikawa
英利 西川
和彦 中作
Kazuhiko Nakasaku
和彦 中作
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Abstract

【課題】価格を低く抑えながらも、寸法精度に優れるとともに、機械的強度が確保された樹脂成形体およびスクロールロータを提供する。【解決手段】スクロールロータ1は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、粒状無機物と、繊維状無機物とを含む樹脂組成物の樹脂成形体であって、樹脂組成物は、粒状無機物および繊維状無機物の合計体積が、樹脂組成物全体積の30体積%〜70体積%であり、樹脂成形体は、樹脂組成物の射出成形体であり、射出成形時において溶融した樹脂組成物の流れ方向をMDと定め、MDに直交する方向をTDと定めた場合、樹脂成形体の線膨張係数の比(AMD/ATD)、または樹脂成形体の成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1である。【選択図】図1

Description

本発明は、樹脂成形体、および、スクロール型圧縮機などに搭載されるスクロールロータに関する。
冷風または温風を送り出し、室内または車内の温度を調節する冷暖房設備機、空気調和設備機、空気調和機、冷凍/冷蔵ショーケース、冷蔵庫などの冷凍機などには、冷媒圧縮機が使用されている。冷媒圧縮機の中でも、スクロール型冷媒圧縮機は近年注目され、用途が拡大するとともに、高効率化や耐久性の向上などが求められている。特に、スクロール型冷媒圧縮機内は、通常の冷媒圧縮機で約100℃、自動車用空気調和機いわゆるカー・エア・コンディショナなどでは150℃程度に加熱されるので、各種スクロール部材においても耐熱性およびそのような高温条件での耐久性が要求されている。
スクロール型冷媒圧縮機として、例えば特許文献1の圧縮機が知られている。図8に、この種の圧縮機の概要を示す縦断面図を示す。密閉容器21は、内部に圧縮機構部22とモータ機構部23とが配設され、流体吸入口24aおよび流体吐出口24bにより外部と接続されている。圧縮機構部22は、流体吸入口24aより吸入した冷媒を圧縮して流体吐出口24bより吐出する部分であり、基板(いわゆる鏡板)とその表面に直立する渦巻き状の側板(いわゆるラップ)とを備えた固定側スクロールロータ26と、この固定側スクロールロータ26に対して旋回運動する可動側スクロールロータ27とから構成されている。この可動側スクロールロータ27も基板とその表面に直立する渦巻き状の側板とを備えている。
モータ機構部23は、可動側スクロールロータ27に旋回駆動力を与える部分であり、固定子23aと回転子23bとから構成されている。また、密閉容器21の底部には、圧縮機構部22およびモータ機構部23の摺動部を潤滑する冷凍機油31が貯えられ、油供給機構(図示省略)により圧縮機構部22に供給されている。なお、可動側スクロールロータ27は、スラスト軸受(図示省略)により支えられ、このスラスト軸受がさらに軸受部品により支承され、回転子23bの主軸の端部に設けられた偏心軸受により旋回運動する機構となっている。スクロール型冷媒圧縮機が運転を開始すると、回転子23bの回転により可動側スクロールロータ27が旋回運動を始める。流体吸入口24aより圧縮機構部22に入った冷媒は、旋回する渦巻き状の側板の外周から中心に移動しながら圧縮され固定側スクロールロータ26の開口部25を経て流体吐出口24bより外部に吐出される。
次に、スクロール型冷媒圧縮機の圧縮機構部について、図9〜図11に基づいて説明する。図9は、スクロール型冷媒圧縮機の圧縮機構部の縦断面図を示し、図10は、チップシールが装着されたスクロールロータの側板の断面図を示し、図11は、スクロール型冷媒圧縮機の圧縮機構部の説明図を示す。
図9に示すように、基板26a、27aの片面に渦巻き状の側板26b、27bを形成した一対のスクロールロータ26、27を対向位置に配置して、側板26b、27bを偏心状態にかみ合わせて、各側板の壁面部29の間に圧縮室28を形成する。一対のスクロールロータ26、27を相対的に公転運動させて圧縮室28を外周から中心に向けて移動させながら(図11参照)圧縮室28内の流体を圧縮/圧送し、その圧縮/圧送流体を中心部の開口部25から吐出させる。
圧縮室28内の流体の漏洩を防止するために、側板26b、27bの軸方向端面に渦巻き状のシール溝27c(図10参照)が形成され、そのシール溝27c内に渦巻き状で長手方向に幅が均等なチップシール30が収納される。チップシール30は圧縮室28内の流体圧力によって、対向する各スクロールロータ26、27の基板26a、27aの内側面に圧接される。これにより、壁面部29の間を通過する冷媒のシールを行っている。
また、スクロール型冷媒圧縮機においては、圧縮/圧送流体が両スクロールロータ26、27の側板26b、27bの隙間から漏れ出さないように、固定側スクロールロータ26の側板26bと可動側スクロールロータ27の側板27bとが近接する側板26b、27bの隙間は、高い寸法精度で管理されている。この隙間の大小によってスクロール型冷媒圧縮機の効率などが大きく影響するため、隙間を厳密に管理する必要がある。例えば、隙間を一定に保つために、各スクロールロータの基板、および該基板に対する側板の直角度などを精度よく管理することが必要である。
特開平07−139479号公報
近年、冷媒などを圧縮するスクロール型圧縮機などのスクロール機械の需要が拡大され、それに伴って、スクロール機械の低価格化が望まれている。また、スクロール機械の静音化も要求されている。例えば、スクロール機械のスクロールロータを射出成形法に基づいて樹脂製とすることが可能になれば、スクロール機械における大きな原低効果が期待できる。
しかしながら、単に射出成形法に基づいて一般的な樹脂によりスクロールロータを作製した場合、樹脂の不均一な収縮による寸法精度の低下などの不具合が懸念される。具体的には、図10において、スクロールロータ27の基板27aに対し側板27bが傾いてしまい、基板27aに対する側板27bの直角度が下がるという不具合や、基板27aの摺接面27dから側板27bの軸方向端面27eまで側板27bの幅が不均一となって、基板27aの摺接面27dと側板27bの軸方向端面27eとの平行度が下がるという不具合が発生するおそれがある。
このように、射出成形法に基づいて作製された樹脂製のスクロールロータは、切削加工によって作製されたアルミニウム製のスクロールロータと比べて、寸法精度が劣るため、スクロールロータの樹脂化が困難であった。また、寸法精度が劣るスクロールロータをスクロール機械に組み込んで使用する場合、スクロール機械から生じる異音も問題となりえる。
また、スクロールロータを樹脂化する際には、スクロールロータの機械的強度などを確保して耐久性なども配慮する必要がある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、価格を低く抑えながらも、寸法精度に優れるとともに、機械的強度が確保された樹脂成形体およびスクロールロータを提供することを目的とする。
本発明の樹脂成形体は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、粒状無機物と、繊維状無機物とを含む樹脂組成物の樹脂成形体であって、上記樹脂組成物は、上記粒状無機物および上記繊維状無機物の合計体積が、上記樹脂組成物全体積の30体積%〜70体積%であり、上記樹脂成形体は、上記樹脂組成物の射出成形体であり、射出成形時において溶融した上記樹脂組成物の流れ方向をMDと定め、上記MDに直交する方向をTDと定めた場合、上記樹脂成形体の線膨張係数の比(AMD/ATD)、または上記樹脂成形体の成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1であることを特徴とする。
また、上記樹脂組成物は、上記樹脂組成物全体積に対して、上記粒状無機物を20体積%〜40体積%含み、かつ、上記繊維状無機物を10体積%〜30体積%含む組成物であることを特徴とする。
上記樹脂成形体は、上記MDおよび上記TDにおける成形収縮率がいずれも1%以下であることを特徴とする。
上記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であることを特徴とする。また、上記結晶性樹脂がポリアリーレンサルファイド(PAS)系樹脂であることを特徴とする。
上記樹脂組成物は、さらに非晶性樹脂を含み、該非晶性樹脂は、上記樹脂組成物全体積に対して5体積%〜20体積%含まれることを特徴とする。また、上記非晶性樹脂がポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂であることを特徴とする。
上記粒状無機物の平均粒径が0.5μm〜100μmであり、上記繊維状無機物の平均繊維長が10μm〜3mmであり、平均アスペクト比が2〜1000であることを特徴とする。
上記樹脂組成物において、上記粒状無機物の含有割合が上記繊維状無機物の含有割合よりも多いことを特徴とする。
上記粒状無機物は炭酸カルシウムであることを特徴とする。
上記繊維状無機物はガラス繊維であることを特徴とする。
本発明のスクロールロータは、略平板状の基板と、上記基板から略直角に延設された渦巻き状の側板とを備え、相手側ロータとの間で圧縮室を形成し、流体を圧縮または圧送させるスクロールロータであって、上記スクロールロータが本発明の樹脂成形体であることを特徴とする。
上記基板は略円板状であり、上記基板の上記側板が設けられた側の略中央部にゲート痕が形成されていることを特徴とする。
上記基板の上記側板が設けられた側とは反対側の面に、上記基板を補強する複数のリブが設けられ、該リブは、上記基板の内側から外側に向けて放射状に延設され、かつ、上記基板の円周方向に略等間隔で設けられていることを特徴とする。
上記基板の上記側板が設けられた側とは反対側の面に、上記基板に形成されるウエルドラインを回避した複数の凹部が設けられ、該凹部は、上記基板の円周方向に略等間隔で設けられていることを特徴とする。
上記基板の上記側板が設けられた側とは反対側の面に、上記樹脂成形体が射出金型から取り出されるときに用いられる突出しピンの跡を有し、該突出しピンの跡は、上記基板の内側から外側に向けて複数設けられ、かつ、上記基板の円周方向に複数設けられていることを特徴とする。
上記スクロールの上記側板の上記相手側ロータ側の端面に、上記相手側ロータの基板と摺接するチップシールの装着が可能な溝が形成されていることを特徴とする。
上記流体が冷媒または油であることを特徴とする。
本発明の樹脂成形体は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、所定量の粒状無機物と繊維状無機物を含む樹脂組成物の射出成形体であるので、射出成形による大量生産を可能としながらも、要求される寸法精度を確保しつつ、機械的強度も確保した樹脂成形体となる。また、生産性よく効率的に大量に生産できることから、樹脂成形体の価格を低く抑えることが可能になる。
また、上記樹脂成形体は、樹脂成形体の線膨張係数の比(AMD/ATD)、または樹脂成形体の成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1であるので、成形収縮方向にほぼムラが生じず、寸法精度に特に優れた樹脂成形体となる。
樹脂成形体は、MDおよびTDにおける成形収縮率がいずれも1%以下であるので、射出成形直後において成形体が冷やされつつ収縮する際に、安定して収縮することができる。そのため、より寸法精度に優れた樹脂成形体となる。
熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であるので、耐熱性が高く、耐溶剤性に優れ、溶融時の流れ性が良好なことから成形に適し、さらに、樹脂成形体が高剛性、高硬度となる。
また、結晶性樹脂が、耐熱性、耐寒性、耐ヒートショック性、耐クリープ性、疲労特性、難燃性に優れたPAS系樹脂であるので、樹脂成形体に必要な特性を付与しやすい。また、PAS系樹脂は、比較的低価格であるため、樹脂成形体の低価格化に寄与できる。
樹脂組成物は、さらに非晶性樹脂を含み、該非晶性樹脂は、樹脂組成物全体積に対して5体積%〜20体積%含まれる。一般に、非晶性樹脂製の成形体は、柔軟であり、強靭であり、割れにくく、反りが少なく、収縮率が小さいという優れた特性を有する。PAS系樹脂などの射出成形可能な結晶性樹脂(熱可塑性樹脂)に対し、このような優れた特性をもつ非晶性樹脂が含有されることにより、樹脂成形体の成形収縮率が小さくなり、反りが抑えられる。また、割れの発生も抑えられるとともに、機械的強度の向上も期待できる。
また、結晶性樹脂としてPPE樹脂を用いる場合、PPE樹脂は、軟化点が高く、機械的特性、低い吸水性、寸法安定性に優れた性質を有するため、樹脂組成物に所定量配合することで、樹脂成形体に優れた寸法精度を付与することができるとともに、PAS系樹脂の有する優れた各種特性を発揮させることができる。
粒状無機物の平均粒径が0.5μm〜100μmであり、繊維状無機物の平均繊維長が10μm〜3mmであり、平均アスペクト比が2〜1000であるので、樹脂成形体に要求される寸法精度と機械的強度を両立させやすい。
樹脂組成物において、粒状無機物の含有割合が繊維状無機物の含有割合よりも多いので、特に寸法精度を重視しつつ、機械的強度を確保した樹脂成形体となる。
粒状無機物が炭酸カルシウムであるので、溶融状態の樹脂組成物の流動方向にほぼ関係なく、樹脂成形体において異方性が発現しにくい。そのため、補強用無機充填材として機能しつつ、優れた寸法精度を発揮させることができる。
繊維状無機物はガラス繊維であるので、樹脂成形体に要求される強度を確保しつつ、価格を低く抑えた樹脂成形体となる。
本発明のスクロールロータは、略平板状の基板と、基板から略直角に延設された渦巻き状の側板とを備え、相手側ロータとの間で圧縮室を形成し、流体を圧縮または圧送させるスクロールロータであって、スクロールロータが本発明の樹脂成形体であるので、複雑な形状でありながら、射出成形によって製造することができる。このため、例えば切削加工で製造する場合よりも、生産性よく効率的に大量にスクロールロータを製造することができ、ひいては、スクロールロータの低価格化にも寄与できる。また、このスクロールロータは、寸法精度に優れるとともに、機械的強度が確保されていることから、圧縮/圧送流体を精度よく圧縮することができる。
基板は略円板状であり、基板の側板が設けられた側の略中央部にゲート痕が形成されているので、溶融した樹脂組成物をキャビティに略均等に行き渡せることができ、流動ムラが抑えられる。これにより、スクロールロータの基板および側板の寸法精度が向上する。
基板の側板が設けられた側とは反対側の面に、基板を補強するリブが設けられ、該リブは、基板の内側から外側に向けて放射状に延設され、かつ、基板の円周方向に略等間隔で設けられているので、スクロールロータの基板および側板の寸法精度が更に向上する。射出成形時において、溶融した樹脂組成物は、射出成形金型内のキャビティに対して、略中央部の射出ゲートから充填される。この際、溶融した樹脂組成物が、放射状の複数のリブを形成する空間を含めたキャビティを通って、速やかに基板の略中央部側から外側に向けて流れ、キャビティの隅々にまで到達することができ、基板とともに側板を形成する。そのため、溶融した樹脂組成物の流動ムラが抑えられ、スクロールロータの基板および側板の精度がさらに向上する。
また、略円板状の基板は上記リブにより補強されているので、射出成形後において基板の甚だしい不均一な収縮が抑えられることで、基板の寸法精度が一層向上する。また、基板の寸法精度が一層向上することに伴って、基板から略直角に延設された渦巻き状の側板の寸法精度も一層向上する。
また、基板の上記側板が設けられた側とは反対側の面に、基板に形成されるウエルドラインを回避した複数の凹部が設けられ、該凹部は、基板の円周方向に略等間隔で設けられているので、ウエルドラインにより、基板の寸法精度が低下することを回避でき、基板の寸法精度が一層向上する。
基板の上記側板が設けられた側とは反対側の面に、樹脂成形体が射出金型から取り出されるときに用いられる突出しピンの跡を有し、該突出しピンの跡は、基板の内側から外側に向けて複数設けられ、かつ、基板の円周方向に複数設けられているので、射出金型から樹脂成形体が取り出されるときに、樹脂成形体に無理な力がかかって樹脂成形体が変形することを回避でき、樹脂成形体は、金型から精度よく取り出される。
スクロールロータは、側板の相手側ロータ側の端面に、相手側ロータの基板と摺接するチップシールの装着が可能な溝が形成されているので、より複雑な形状となっているところ、射出成形によって製造できることから、例えば切削加工で製造する場合よりも、生産性よく効率的に大量にスクロールロータを製造することができ、ひいては、スクロールロータの低価格化にも寄与できる。
本発明の樹脂成形体の第一実施形態(スクロールロータ)を示す斜視図である。 図1のスクロールロータの底面図である。 図2のA−A線に沿った断面図である。 本発明の樹脂成形体の第二実施形態(スクロールロータ)を示す斜視図である。 チップシールを示す斜視図である。 チップシールが取り付けられたスクロールロータの斜視図である。 スクロール型圧縮機の圧縮機構部の一部断面図である。 スクロール型冷媒圧縮機の概要を示す縦断面図である。 スクロール型冷媒圧縮機の圧縮機構部を示す縦断面図である。 チップシールが装着されたスクロールロータの側板を示す断面図である。 スクロール型冷媒圧縮機の圧縮機構部を示す説明図である。 試験片形状を示す図である。
以下に、本発明に係る樹脂成形体の実施形態であるスクロールロータについて、図1〜図3に基づいて説明する。図1は、スクロールロータの第一実施形態を示す斜視図であり、図2は、該スクロールロータの底面図であり、図3は、図2のA−A線に沿った断面図である。このスクロールロータは、上述の図8で示したスクロール型圧縮機における固定側スクロールロータとして用いてもよく、可動側スクロールロータとして用いてもよい。
図1に示すように、スクロールロータ1は、略平板状の基板2と、基板2から略直角に延設された渦巻き状の側板3とを備えている。基板2の平面形状は円形状であり、基板2の内側面2aの略中央部には射出成形時のゲート痕5が形成されている。スクロールロータ1の側板3の端面(天面)3aは、対向する相手側ロータの基板との摺動面であり、圧縮室内の圧縮/圧送流体をシールするシール面になる。この端面3aには、図5に示すチップシールが装着可能な取付溝4が形成されている。取付溝4は、側板3において渦巻の内周面3bと渦巻の外周面3cに開口しておらず、摺動面内で閉じた凹溝となっている。また、取付溝4は、側板3の厚み方向の略中央部に設けられている。
ここで、便宜上、スクロールロータ1の基板2の上下方向について説明すると、側板3が設けられた側を基板2の上面側とされる内側面2aと言い、内側面2aの反対側を基板2の下面側とされる外側面と言う。図1は、内側面2a側から見た斜視図であり、図2は、外側面側から見た平面図である。
図2に示すように、基板2の外側面2bには内周側から外周側に向けて放射状に設けられた複数(図2では7本)のリブ6が形成されている。外側面2bには、中心軸Oを中心として同心円状に設けられた内側円筒部2cと外側円筒部2dが形成されている。リブ6は、内側円筒部2cと外側円筒部2dを連結するように径方向に沿って延設されている。図2において、リブ6は、円周方向に等間隔に配置されており、円周方向に隣接するリブ同士の間には軸穴部7が形成されている。軸穴部7も円周方向に等間隔に配置されている。リブ6は、軸穴部7などの他の部分と干渉することなく、直線状に基板2の周縁まで延設されている。また、内側円筒部2cと外側円筒部2d、リブ6、軸穴部7により区画された肉ぬすみ部2eが基板2の外側面2bに形成されている。肉ぬすみ部2eが基板2の外側面2bに形成されることにより、スクロールロータ1の軽量化、薄肉化が図られている。
外側面2bにおけるリブの数は、特に限定されないが、溶融樹脂を速やかにキャビティ全体に行き渡らすためには4本以上設けることが好ましく、5〜8本設けることがより好ましい。リブの幅は、図2に示すように一定幅でもよく、外周側に向けて連続的にまたは段階的に拡幅してもよい。また、軸穴部は、リブ間のすべてに設けられる必要はなく、例えば、リブ間に周方向に1つおきに設けられてもよい。
このように、外側面2bに基板2を補強する複数のリブ6を設けることで、スクロールロータ1の基板2および側板を射出成形によって精度よく形成できる。射出成形時には、成形金型内に、スクロールロータ1の形状に対応したキャビティが形成される。溶融した樹脂組成物は、ゲート痕5の位置に対応する射出ゲートからキャビティに射出充填される。図2の構成の場合、複数のリブ6に対応して、基板2の略中央部側から外側に向けて複数の直線状の空間部が形成されるため、溶融樹脂はその空間部を通って速やかに基板2の周縁部の隅々にまで到達することができる。そのため、溶融樹脂の流動ムラが抑えられ、スクロールロータ1の基板2および側板の寸法精度が向上する。
また、スクロールロータ1の円板状の基板2において、複数のリブ6は、基板2の略中央部側から外周側に向けて延設され、かつ、基板2の円周方向に等間隔に設けられているので、射出成形された後に樹脂が収縮する際の甚だしい不均一な収縮が抑えられ、基板2の寸法精度がさらに向上する。また、基板2の寸法精度の向上に伴って、基板2から略直角に延設された側板の精度もさらに向上する。
図3の断面図に示すように、スクロールロータ1において、内側面2aから側板3が直角に立設している。内側面2aは、相手側ロータの側板の端面との摺接面である。本発明のスクロールロータは、寸法精度に優れているため、内側面2aに対する側板3の直角度に優れている。本発明において「直角度」は、基板2の内側面2aを基準面とした場合の側板3の11mm長さあたりの直角方向の変位量で表すことができ、内側面2aと側板3の内周面3bとの「直角度」と、内側面2aと側板3の外周面3cとの「直角度」でそれぞれ表される。各直角度はいずれも0.025mm以下であることが好ましく、いずれも0.020mm以下であることがより好ましい。また、本発明のスクロールロータは、基板2の内側面2aに対する側板3の端面3aの平行度に優れている。本発明において「平行度」は、端面3aに置かれたブロックゲージに三次元測定機の測定子を当て8箇所の測定点を取得したときのMax値とMin値の差で表すことができ、平行度は0.025mm以下であることが好ましく、0.020mm以下であることがより好ましい。
また、図3に示すように、内側円筒部2cは、外側円筒部2d、リブ6、および軸穴部7の端面よりも突出している。軸孔部7は、内側面2a側に貫通していない。
ここで、図1に示すスクロールロータ1は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、粒状無機物と、繊維状無機物とを含む樹脂組成物の樹脂成形体であり、射出成形法に基づいて形成される。射出成形法は、大量生産性に優れているので、射出成形法が用いられることにより、効率よく成形体を製造することが可能となり、成形体の価格を低く抑えることができる。なお、射出成形法に基づいて製造された樹脂成形体には、ゲート痕、突出しピン痕などの痕跡が残されているので、射出成形法に基づいて製造されたものか否かの判別は可能である。
本発明において、樹脂組成物を射出成形する際に、溶融した樹脂組成物の流れ方向をMD(Machine Direction)と定め、MDに直交する方向をTD(Traverse Direction)と定める。
ここで、本発明では、樹脂成形体の線膨張係数の比(AMD/ATD)、または樹脂成形体の成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1であることを特徴としている。言い換えると、樹脂成形体の線膨張係数に基づく異方性数値がAMD:ATD=1:1〜1:2の範囲内であるか、成形収縮率に基づく異方性数値がBMD:BTD=1:1〜1:2の範囲内である。このように、線膨張係数の比および成形収縮率の比の少なくともいずれか一方が1/2〜1であることで、成形収縮方向にほぼムラの生じない樹脂成形体が得られる。その結果、寸法精度に優れた樹脂成形体となる。
なお、線膨張係数の比、および、成形収縮率の比は、後述の実施例に示すようなダンベル試験片(多目的試験片:JIS K 7139−A1、JIS K 7162−1A、ISO 527−2−1Aなど)およびそこから切り出した評価試験片を用いて測定した数値から評価することができる。
上記線膨張係数の比(AMD/ATD)は、好ましくは1/1.9〜1であり、より好ましくは1/1.8〜1である。AMDとATDの差をより小さくすることで、異方性を一層抑えることができる。また、上記成形収縮率の比(BMD/BTD)は、好ましくは1/1.8〜1であり、より好ましくは1/1.5〜1である。BMDとBTDの差をより小さくすることで、成形収縮方向のムラを一層抑えることができる。
本発明において、上記線膨張係数の比(AMD/ATD)および上記成形収縮率の比(BMD/BTD)のいずれも1/2〜1であることが好ましい。
樹脂成形体の成形収縮率は1%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることがさらに好ましい。なお、成形収縮率は0%よりも大きい。この場合の成形収縮率は、MD方向およびTD方向の両方向において、所定の成形収縮率(例えば1%)以下とされることが好ましい。これにより、射出成形直後の樹脂が冷やされつつ収縮する際に、安定して収縮することができる。その結果、寸法精度に優れたスクロールロータなどの樹脂成形体が得られる。
また、本発明の樹脂成形体の機械的強度については、曲げ強さが100MPa〜200MPaであり、かつ、曲げ弾性率が15GPa〜20GPaであることが好ましい。なお、曲げ強度および曲げ弾性率は、ASTM D790に準拠して測定される温度25℃での曲げ強さおよび曲げ弾性率である。また、引張強さが80MPa〜150MPaであることが好ましい。なお、引張強さは、ASTM D638に準拠して測定される温度25℃での引張強さである。
上記樹脂組成物においてベース樹脂として用いる熱可塑性樹脂には、結晶性樹脂または非晶性樹脂を用いることができる。使用可能な熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などのポリアリーレンサルファイド(PAS)系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂などのポリエーテルケトン(PEK)系樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂の中でも、PAS系樹脂、PEK系樹脂、PA樹脂、PBT樹脂、LCP樹脂などの結晶性樹脂が好ましい。結晶性樹脂は、耐熱性が高く、耐溶剤性に優れ、溶融時の流れ性が良好なことから薄肉成形に適し、さらに、高剛性、高硬度であることから、摺動部材(例えばスクロールロータ)などの樹脂成形体に適した材料といえる。結晶性樹脂の中でも、PAS系樹脂がより好ましい。
PAS系樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックの1つである。PAS系樹脂は、耐熱性、耐寒性、耐ヒートショック性、耐クリープ性、疲労特性、難燃性、耐薬品性、ほぼ吸水しないことによる寸法安定性、物性などの変化が少ないことなどに優れている。そのため、PAS系樹脂を、スクロールロータのベース樹脂として用いることで、例えば、冷媒、冷凍機油、潤滑油が使用される冷暖房設備機や、空気調和設備機、空気調和機、冷凍/冷蔵ショーケース、冷蔵庫などの冷凍機などに用いられるスクロールロータに要求される特性を付与することができる。また、PAS系樹脂は、比較的低価格であるので、スクロールロータの低価格化に寄与できる。
PAS系樹脂は、一般的に下記式(1)で示される合成樹脂である。なお、この明細書中の各式において、nは任意の整数を表す。また、下記式(1)中のArはアリーレン基を示し、Arとしては、例えば下記式(2)〜式(7)に示されるものが挙げられる。なお、下記式(5)において、XはF、ClおよびBrから選ばれるハロゲンまたはCHを示し、mは1〜4の整数を示す。
Figure 2021098367
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Figure 2021098367
PAS系樹脂としては、上記式(1)中のArが上記式(2)であるPPS樹脂を好適に用いることができる。PPS樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチックとして優れた各種特性を備えていることに加えて、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でも価格が低く抑えられているので、樹脂成形体の低価格化を一層図ることができる。
PAS系樹脂は、繰り返し単位(−Ar−S−)の含有率が70モル%以上であることが好ましく、90〜100モル%であることがより好ましい。ここでいう繰り返し単位の含有率とは、PAS系樹脂を構成する全モノマー100%に占める繰り返し単位の割合をいう。繰り返し単位の含有率が70モル%未満のPAS系樹脂を用いた場合、PAS系樹脂の低い吸水性に基づいた寸法安定性の効果が得られにくい傾向にある。
PAS系樹脂を得るためには公知の方法を用いることができる。例えば、ハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとの反応(特公昭44−27671号公報)や、ルイス酸触媒共存下における芳香族化合物と塩化硫黄との縮合反応(特公昭46−27255号公報)、または、アルカリ触媒もしくは銅塩などの共存下におけるチオフェノール類の縮合反応(米国特許第3274165号公報)などによって合成される。具体的な方法としては、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンとをN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒もしくはスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させることが挙げられる。
また、PAS系樹脂の結晶性に影響を与えない範囲で、例えば、下記式(8)〜式(12)に示される成分を、共重合成分としてPAS系樹脂に含ませることができる。下記式(8)〜式(12)に示される成分の添加量は、PAS系樹脂を構成する全モノマー100%に対して30モル%未満、好ましくは10モル%未満でかつ1モル%以上とすることができる。
Figure 2021098367
Figure 2021098367
ここで、PPS樹脂は、例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒もしくはスルホランなどのスルホン系溶媒中で反応させて得られ、この段階のPPS樹脂を重合上がりとしている。この重合上がりの低分子量PPS樹脂を熱処理などの工程にかけて、樹脂中に交差結合が全くないものから部分的交差結合(架橋)を有するものに至るまで各重合度のものを自由に製造することができる。これにより、目的の溶融ブレンドに適正な溶融粘度特性を有するものを任意に選択することができる。また、架橋構造をとらない直鎖状のPPS樹脂も使用できる。
PAS系樹脂としては、架橋型のPAS系樹脂であるか、または部分的交差結合、すなわち、部分架橋を有するPAS系樹脂であることが好ましい。部分的交差結合を有するPAS系樹脂は、半架橋型またはセミリニア型とも呼ばれる。架橋型のPAS系樹脂は、例えば、製造工程中に酸素存在下で熱処理を行ない分子量を必要な水準に高めることで得られる。架橋型のPAS系樹脂は、分子の一部がお互いに酸素を介して架橋された二次元または三次元の架橋構造を有する。そのため、後述する架橋のないリニア型のPAS系樹脂に比較して、高温環境下においても高い剛性を保持し、クリープ変形が少ない点や、応力緩和されにくい点で優れている。また、架橋型または半架橋型のPAS系樹脂は、架橋のないリニア型のPAS系樹脂に比べ、耐熱性、耐クリープ性などに優れており、射出成形した成形体にバリの発生が少なく、寸法精度に優れた成形体が得られやすい。
一方、リニア型のPAS系樹脂は、製造工程において熱処理工程がないために分子中には架橋構造は含まれず、分子は一次元の直鎖状とされている。一般的にはリニア型のPAS系樹脂は架橋型のPAS系樹脂に比較して剛性が低く、靭性や伸びが多少高いのが特長とされている。また、リニア型のPAS系樹脂は、特定方向からの機械的強度に優れており、吸湿が少ないために高温多湿雰囲気でも寸法変化が少ないなどの利点がある。また、リニア型のPAS系樹脂は、例えば分子量を調整して溶融粘度を低くすることが可能となる。このため、リニア型のPAS系樹脂に、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカなどの繊維状無機物、炭酸カルシウム、マイカなどの粒状無機物、金属粉末などの充填材を所定量混合させた樹脂組成物であっても、射出成形性は著しく阻害されない。
PAS系樹脂に架橋または部分的交差結合を形成する方法としては、例えば、低重合度のポリマーを重合した後、空気が存在する雰囲気で加熱する方法や、架橋剤や分岐剤を添加する方法がある。
PAS系樹脂の見かけの溶融粘度は、1000〜10000ポアズの範囲とすることが好ましい。見かけの溶融粘度が1000ポアズ未満であると、樹脂成形体の強度が低下するおそれがある。一方、見かけの溶融粘度が10000ポアズを超えると、成形性が低下するおそれがある。架橋型のPAS系樹脂の溶融粘度は1000〜5000ポアズとすることができ、好ましくは2000〜4000ポアズである。溶融粘度が低くなると、150℃以上の高温域で耐クリープ特性などの機械的特性が低下するおそれがある。また、溶融粘度が高くなると成形性が低下するおそれがある。なお、溶融粘度の測定は、測定温度300℃、オリフィスが穴径1mm、長さ10mm、測定荷重20kg/cm、予熱時間6分の条件下で、高化式フローテスタにて実施することができる。
また、部分的交差結合を有するPAS系樹脂の熱安定性は、上記の溶融粘度測定条件にて、予熱6分後と30分後の溶融粘度の変化率が−50%〜150%の範囲であることが好ましい。なお、変化率は下記の式で表される。
[変化率=(P30−P6)/P6×100(P6:予熱6分後の測定値、P30:予熱30分後の測定値)]
PAS系樹脂の分子量は、射出成形性を考慮すると、数平均分子量で13000〜30000が好ましく、さらに耐疲労性、高成形精度を考慮すると、数平均分子量で18000〜25000がより好ましい。数平均分子量が13000未満の場合には、分子量が低すぎて、耐疲労性が劣る傾向にある。一方、数平均分子量が30000を超える場合には耐疲労性は向上するものの、必要な衝撃強度などの機械的強度が低下するおそれがある。なお、ここでの数平均分子量とは、PAS系樹脂を溶媒に溶解させた後、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC法)で測定されるポリスチレン換算での数平均分子量を示す。
PAS系樹脂の融点は、例えば約220℃〜290℃であり、好ましくは280℃〜290℃である。一般に、PPS樹脂の融点は、約285℃であるため、PAS系樹脂としてPPS樹脂を用いることが好ましい。PAS系樹脂は吸水性が低いため、吸水による寸法変化が低減される。PPS樹脂などのPAS系樹脂をベース樹脂とする樹脂成形体は、耐クリープ性、耐薬品性などに優れるとともに、吸水による寸法変化が低減されるという優れた安定性を有する。
また、PAS系樹脂を有する樹脂組成物は、ISO75−1、2(1.8MPa)の試験法に基づいて測定された荷重たわみ温度が、例えば105℃以上とされる。
以上のように、PAS系樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物からなる樹脂成形体は、例えば、冷媒、油を圧縮するスクロール型圧縮機を構成するスクロールロータに要求される特性を備えている。
本発明に係る樹脂組成物は、上述したベース樹脂の熱可塑性樹脂に加えて、さらにベース樹脂とは異なる非晶性樹脂を含むことが好ましい。一般に、非晶性樹脂製の成形体は、柔軟であり、強靭であり、割れにくく、反りが少なく、収縮率が小さいという優れた特性を有する。PAS系樹脂などの射出成形可能な結晶性樹脂に対し、このような優れた特性をもつ非晶性樹脂が含有されることにより、樹脂成形体の成形収縮率が小さくなり、例えばスクロールロータの場合、基板および側板の反りが抑えられる。また、スクロールロータの基板および側板の割れの発生も抑えられるとともに、機械的強度の向上も期待できる。
非晶性樹脂として、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリフェニレンエーテル/ポリフェニレンオキシド(PPE/PPO)樹脂、ポリスルホン(PSF)樹脂、PES樹脂、ポリフェニルスルホン(PPSU)樹脂、PEI樹脂、PAI樹脂などが挙げられる。これらの中でも、PPE/PPO樹脂を用いることが好ましい。
PPE樹脂は、非晶性樹脂のエンジニアリングプラスチックであり、軟化点が高く、機械的特性、低い吸水性、寸法安定性に優れている。PPE樹脂としては、種々の樹脂が用いられるが、例えば、下記式(13)に示される2,6−ジ置換フェノールの単独重合体、2,6−ジ置換フェノールと多価フェノールとの酸化共重合体などが用いられ、通常、分子量が2000以上、好ましくは10000〜35000の樹脂が用いられる。なお、ここでいう分子量は数平均分子量である。
Figure 2021098367
式中、R、Rは、水素、ハロゲン、炭素数4以下のアルキル、ハロアルキル、アルコキシ、または炭素数9以下のアリル誘導体、アラルキル基を示す。
PPE樹脂は、フェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,6−ジイソプロピルフェノール、2−メチル−6−メトキシフェノールなどのフェノール類を、金属/アミン、金属キレート/塩基性有機化合物などの共触媒下に酸素と反応させ、脱水反応により得られるものであるが、上記の条件を満たす樹脂であれば、いずれの製造方法によるものであってもよい。具体的には、2,6−ジメチルフェニレンオキサイド重合体、2,6−ジメチルフェノール−ビスフェノールA共重合体、2,6−ジエチルフェニレンオキサイド重合体などが用いられて生成される。
PPE樹脂として、特に、変性ポリフェニレンエーテル/変性ポリフェニレンオキシド(m−PPE/m−PPO)樹脂を用いることが好ましい。m−PPE樹脂は、芳香族ポリエーテル構造を有するポリフェニレンエーテルを主成分とした射出成形可能な熱可塑性樹脂である。m−PPE樹脂は、例えば、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、PPS樹脂などの他の合成樹脂とアロイ化されたポリマーアロイである。m−PPE樹脂は、引張強さ、降伏強さ、弾性率などの機械的性質に優れ、耐衝撃性にも優れ、伸びが大きく、粘り強い特性を有しており、さらに温度や湿度の変化に影響されにくい特性を有している。また、吸水性が低く、加水分解も起きにくいものとされている。さらに、成形収縮率が小さいので、樹脂成形体に「ひけ」が生じにくく、寸法精度に優れる。
PPE樹脂などの非晶性樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体積に対して5体積%〜20体積%含まれることが好ましい。非晶性樹脂の含有量が5体積%未満の場合、寸法精度が低下するおそれがある。一方、非晶性樹脂の含有量が20体積%を超える場合、ベース樹脂である結晶性の熱可塑性樹脂の優れた各種特性が発揮されにくくなるおそれがある。非晶性樹脂の含有量を5体積%〜20体積%とすることで、優れた成形精度を有するとともに、結晶性樹脂のもつ優れた各種特性を発揮させることができる。なお、PAS系樹脂などの結晶性樹脂に、例えばPPE樹脂などの非晶性樹脂が所定量配合されてポリマーブレンド化された樹脂は、結晶性樹脂が「海」状とされ、非晶性樹脂が「島」状とされた、いわゆる海島構造となっている。
また、本発明に係る樹脂組成物には、無機充填材として、粒状無機物および繊維状無機物が所定量含まれている。粒状無機物および繊維状無機物を用いることにより、スクロールロータなどに要求される寸法精度と機械的強度との両立が可能となる。粒状無機物は、主に寸法精度の向上に寄与し、繊維状無機物は、主に機械的強度の向上に寄与する。
本発明における粒状無機物は、球状、不定形の粒状、板状、扁平状、鱗片状などの非繊維状の充填材である。このような形態であれば、射出成形体において粒状無機物による異方性が発現されにくくなる。粒状無機物として、例えば、珪藻土、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、シリカバルーン、球状黒鉛、フッ化黒鉛、グラファイト、球状セラミック、アルミナ、カオリン、タルク、クレー、マイカ、シリカ、酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどの粉末状のカルシウム化合物などが挙げられる。また、粒状無機物としては、1種単独の粒状無機物ばかりでなく、複数種の粒状無機物を混合して使用することもできる。
上述の粒状無機物の中でも、ガラスフレーク、アルミナ、タルク、クレー、マイカ、シリカ、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムは、比較的低価格であるため好ましい。さらに、これらの中でも炭酸カルシウムがより好ましい。炭酸カルシウムは、CaCOで表され、その形状は例えば不安定とされる異形状であるので、射出成形時において溶融した樹脂組成物の流動方向にほぼ関係なく、異方性が発現しにくい補強用の無機充填材として機能する。また、炭酸カルシウムは、水に溶けにくい性質を有し、例えば樹脂組成物の吸水性を低く抑える役割も果す。
粒状無機物の平均粒径は、下限が0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、上限が100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。平均粒径が所定の平均粒径(例えば0.5μm)未満の場合は、粒子間の凝集が起こり、均一分散が困難となるおそれがある。また、平均粒径が所定の平均粒径(例えば100μm)を超える場合は、表面平滑性が悪くなるおそれがある。ここで、平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定して得られる体積平均粒子径(MV)である。
本発明に用いる繊維状無機物として、例えば、ケイ酸カルシウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、硫酸カルシウムウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ、硝酸マグネシウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、シリコーンカーバイドウィスカ、サファイアウィスカ、ウォラストナイトウィスカ、グラファイトウィスカなどのウィスカ、ウォラストナイト、炭化珪素繊維、バサルト繊維、グラファイト繊維、炭素繊維、ガラス繊維、タングステン心線または炭素繊維などにボロン、炭化ケイ素などを蒸着したいわゆるボロン繊維、炭化ケイ素繊維、チラノ繊維などの複合繊維などが挙げられる。上記炭素繊維として、例えば、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、カーボン質、グラファイト質、レーヨン系、リグニン−ポバール系混合物など原料の種類によらない炭素繊維を使用できる。また、繊維状無機物としては、1種単独の繊維状無機物ばかりでなく、複数種の繊維状無機物を混合して使用することもできる。
上述の繊維状無機物の中でも、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素繊維、ガラス繊維は、比較的低価格であるため好ましい。粒状無機物として、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、および炭酸カルシウムの中から少なくとも1つを選択し、かつ、繊維状無機物として、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、およびガラス繊維の中から少なくとも1つを選択することにより、樹脂成形体の価格を低く抑えることができる。
繊維状無機物の平均繊維長は、下限は10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、繊維状無機物の種類によっては40μm以上、さらには50μm以上である。上限は3mm以下、実質的には2mm以下、より実質的には1mm以下であり、繊維状無機物の種類によっては700μm以下、さらには300μm以下である。なお、本発明において、平均繊維長は数平均繊維長であり、概ねカット長さに相当する。平均繊維長は、例えば、光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象の繊維状無機物をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値に基づいて得られる。
繊維状無機物の平均繊維径は、下限は5μm以上、好ましくは6μm以上であり、上限は25μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下である。なお、平均繊維径は、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定される。平均繊維径は、上記測定に基づき数平均繊維径として算出できる。
繊維状無機物の平均繊維長が所定値(例えば10μm)未満であったり、平均繊維径が所定値(例えば5μm)未満であったりすると、樹脂組成物に必要とされる機械的強度が期待できないおそれがある。一方、繊維状無機物の平均繊維長が所定値(例えば3mm)を超えたり、平均繊維径が所定値(例えば25μm)を超えたりすると、樹脂と混合する際に均一に分散させることが困難になるおそれがあり、ひいては射出成形に悪影響を及ぼすおそれがある。
繊維状無機物の平均アスペクト比は、下限は2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、繊維状無機物の種類によっては5以上、さらには6以上である。上限は1000以下、実質的には700以下、より実質的には500以下、繊維状無機物の種類によっては300以下、さらには50以下である。平均アスペクト比が所定値(例えば2)未満の場合、マトリックス自体の補強効果が損なわれて機械的特性が低下するおそれがある。平均アスペクト比が所定値(例えば1000)を超える場合には、混合時の均一分散が困難となりやすく、品質低下を招くおそれがある。
なお、「平均アスペクト比」とは、「平均繊維長/平均繊維径」を意味し、詳しくは「平均繊維長」を「平均繊維径」で除した値である。
繊維状無機物として、より好ましくはガラス繊維が用いられている。例えば、ガラス繊維は、SiO、B、Al、CaO、MgO、NaO、KO、Feなどを主成分とする無機ガラスから得られるものであり、一般に無アルカリガラス(Eガラス)が用いられて形成されているが、例えば含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス、Dガラス)などが用いられて形成もされている。ガラス繊維の引張り強さは、ほぼ2500MPa〜5000MPaとされ、ガラス繊維の弾性率は、ほぼ70GPa〜90GPaとされており、価格も低く抑えられている。そのため、繊維状無機物としてガラス繊維が用いられることにより、樹脂成形体に要求される強度を確保させつつ、価格を低く抑えた樹脂成形体を形成させることが可能となる。
また、ガラス繊維として、無アルカリガラス繊維を用いてもよい。無アルカリガラスは、例えばSiOがほぼ52〜56質量%、Bがほぼ8〜13質量%、Alがほぼ12〜16質量%、CaOがほぼ15〜25質量%を含有し、これら以外にMgOがほぼ6質量%以下、NaOおよび/またはKOがほぼ1質量%以下など、これらのうち、いずれか1種以上を含有しているものであってもよい。無アルカリガラスは、組成物中にアルカリ成分がほとんど含まれていないホウケイ酸ガラスである。このように、無アルカリガラスは、アルカリ成分がほとんど入っていないので、樹脂への影響がほとんどなく、樹脂の特性がほぼ変化しないことから、優れた補強材とされている。また、無アルカリガラス繊維の引張り強さは、平均してほぼ3500MPaとされている。また、無アルカリガラス繊維の弾性率は、平均してほぼ72GPa〜77GPaとされている。さらに、無アルカリガラス繊維は、価格も低く抑えられている。これらの点から、無アルカリガラスは、樹脂への安定性、引張り強さ、弾性率、量産性に優れた低価格などの点で総合的に優れたものである。
本発明に用いる樹脂組成物は、粒状無機物および繊維状無機物の合計体積が、樹脂組成物全体積の30体積%〜70体積%である。所定量の粒状無機物と繊維状無機物を含む樹脂組成物の射出成形体であるので、射出成形による大量生産を可能としながらも、寸法精度と機械的強度の調整が可能となる。特に、本発明に用いる樹脂組成物では、樹脂組成物全体積に対して、粒状無機物を20体積%〜40体積%含み、かつ、繊維状無機物を10体積%〜30体積%含む組成物とすることが好ましい。粒状無機物と繊維状無機物のそれぞれの含有割合を上記範囲とすることで、樹脂成形体において要求される寸法精度と機械的強度を確保しやすくなる。
粒状無機物が20体積%未満の場合、寸法精度の確保が難しくなるおそれがある。粒状無機物は、主に樹脂成形体の寸法精度の向上に寄与しており、機械的強度の向上への寄与度は比較的低い。そのため、粒状無機物が多量に含まれていても、機械的強度の向上はそれほど期待できず、粒状無機物が多量とならないように上限(40体積%以下)を設けることが好ましい。
繊維状無機物が10体積%未満の場合、機械的強度の確保が難しくなるおそれがある。繊維状無機物が30体積%を超える場合、寸法精度の確保が難しくなるおそれがある。繊維状無機物は、主に樹脂成形体の機械的強度の向上に寄与している。その一方で、繊維状無機物は多量に含まれると、その繊維配向性から異方性が発現されやすくなるため、所定以下とすることが好ましい。
また、樹脂組成物において、繊維状無機物が占める体積%よりも、粒状無機物が占める体積%の方が多いことが好ましい。これにより、寸法精度を重視させつつ、機械的強度も確保された樹脂成形体となる。
なお、本発明に用いる樹脂組成物には、発明の目的を阻害しない配合量で各種の添加剤を混合させることができる。混合可能な各種の添加剤として、例えば、離型剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、染料・顔料などの着色剤、帯電防止剤などの1種以上のものが挙げられる。
このような樹脂組成物を用いて、例えばスクロールロータが成形されることにより、単に一般的な樹脂を用いて射出成形した場合よりも寸法精度を向上させたスクロールロータの提供が可能となる。また、ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いることで、大量生産性に適している射出成形法によってスクロールロータが作製できることから、スクロールロータの単価が下がり、低価格化を図ることができる。また、金属製スクロールロータよりも樹脂製スクロールロータの方が、例えば、金属音などの高音の発生が抑えられるので、スクロール型圧縮機の異音発生防止にも貢献できる。
本発明の樹脂成形体は、射出成形機を用いて射出成形によって成形される。上述した樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形によりスクロールロータなどの樹脂成形体を成形する。
射出成形の成形条件は、特に限定されないが、例えば、シリンダ温度290〜330℃、金型温度140〜160℃、射出圧力200MPa、射出速度50mm/sec、保圧力30〜120MPa、保持時間3sec、冷却時間15〜25secである。
図4は、スクロールロータの第二実施形態を示す底面図である。なお、図1〜図3に示すスクロールロータの第一実施形態と同じものについては、同一の符号を付しその詳細な説明を省略した。
基板2の側板3が設けられた側とは反対側の面に、基板2に形成されるウエルドラインを回避した複数の凹部2fが設けられている。凹部2fは、基板2の円周方向に略等間隔で設けられている。この凹部2fにより、ウエルドラインによる基板2の寸法精度が低下するということは回避され、基板2の寸法精度が一層向上する。
基板2の側板3が設けられた側とは反対側の面に、肉ぬすみ部2eが設けられている。また、樹脂成形体が射出金型から取り出されるときに用いられる突出しピンの跡2g、2hが、肉ぬすみ部2eに形成されている。突出しピンの跡2g、2hは、基板2の内側から外側に向けて複数設けられ、かつ、基板2の円周方向に複数設けられている。突出しピンの跡がこのような配置となることで、成形時において射出金型から樹脂成形体が取り出されるときに、樹脂成形体に無理な力がかかって樹脂成形体が変形するという不具合の発生は回避され、樹脂成形体は、金型から精度よく取り出される。
続いて、図5には、チップシールの斜視図を示し、図6には、スクロールロータにチップシールを取り付けた状態の斜視図を示す。
図5に示すように、チップシール8は、断面が略矩形状の長尺部材を渦巻に巻いたような渦巻き形状を有する。チップシール8は、スクロール型圧縮機において、相手側ロータの基板と摺動しながら圧縮室のシール性を維持するためのシール部材である。このチップシール8は、樹脂製であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などのフッ素系樹脂などの結晶性樹脂で形成される。フッ素系樹脂を用いることで摺動特性に優れる。チップシール8は、図6に示すように、取付溝4に装着される。
本発明のスクロールロータは、流体を圧縮または圧送させるスクロールロータとして使用される。この流体としては、冷凍機油、潤滑油などの油、冷媒などが使用される。例えば、冷暖房設備機、空気調和設備機、空気調和機用いわゆるエア・コンディショナ用、冷凍/冷蔵ショーケース、冷蔵庫、冷凍機などの冷凍サイクル用などのスクロール型圧縮機に使用可能である。なお、冷凍サイクルとは、冷凍機油/潤滑油共存下において、冷媒が圧縮、凝縮、膨張、蒸発を繰り返し、熱の移動を行う系をいう。
図7は、一対のスクロールロータが組み付けられたスクロール型圧縮機の圧縮機構部の要部を示す縦断面図である。図7において、スクロール型圧縮機の一対のスクロールロータ1、11は、例えば、スクロールロータ1が樹脂製の可動側スクロールロータであり、スクロールロータ11がアルミニウム製の固定側スクロールロータである。この場合、樹脂製の可動側スクロールロータ(スクロールロータ1)が本発明のスクロールロータとなる。
スクロール型圧縮機においては、圧縮/圧送流体が両スクロールロータ1、11の側板3、13の隙間から漏れ出さないように、スクロールロータ11の側板13とスクロールロータ1の側板3とが近接する両側板3、13の隙間は、高い寸法精度で管理されている。
また、圧縮/圧送流体が、スクロールロータ1の側板3とスクロールロータ11の基板12との隙間から漏れ出さないように、スクロールロータ1の側板3の取付溝4には、スクロールロータ11の基板12と摺動しつつシール性を保つチップシール8が装着されている。また、圧縮/圧送流体が、スクロールロータ11の側板13と、スクロールロータ1の基板2との隙間から漏れ出さないように、スクロールロータ11の側板13の取付溝14には、スクロールロータ1の基板2と摺動しつつシール性を保つチップシール8が装備されている。
各スクロールロータ1、11は、側板3、13が対向するように配置され、各スクロールロータ1、11が相互に偏心状態でかみ合わされて、側板3と側板13の間に圧縮室9が形成される。スクロールロータ1がスクロールロータ11の軸線の周りで公転することにより、圧縮室9が渦巻き状の外側から渦巻き状の中心側に移動して流体の圧縮が行なわれる。圧縮された流体を、スクロールロータ11の略中心部に設けられる開口部10から吐出させる。
本発明のスクロールロータは、上述のとおり、所定の樹脂組成物からなる射出成形体であるので、基板および側板の寸法精度に特に優れる。更には、基板の外側面に放射状の複数のリブを設けることで、射出成形時の流動ムラを抑えることができ、寸法精度を一層向上できる。寸法精度として具体的には、基板に対する側板の直角度が優れるとともに、基板の摺接面に対する側板の端面の平行度が優れる。そのため、スクロールロータ間の漏れを抑制でき、流体の圧縮精度を向上させることができる。
また、このスクロールロータをスクロール型圧縮機に用いることで、例えば、部品の変形や異音発生などの不具合が生じることなく、良好に作動させることができる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形、応用が可能とされる。
実施例および比較例に用いた原材料を一括して以下に示す。なお、[ ]内は、表1に示す略称を示し、表1中の配合割合は全て体積%で示した。
(1−1)ガラス繊維強化(この樹脂組成物中においてGF30質量%/約18体積%)架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂[PPS樹脂組成物(1)]:FZ−1130−D5(DIC社製、商品名)
(1−2)ガラス繊維強化(この樹脂組成物中においてGF15質量%/約9体積%)ポリフェニレンサルファイド樹脂[PPS樹脂組成物(2)]:サスティール(登録商標)P−13(東ソー社製、商品名)
(2)ポリフェニレンエーテル樹脂[PPE樹脂]:ザイロン(登録商標)PPE Powder S201A(旭化成ケミカルズ社製、商品名)
(3)炭酸カルシウム[CaCO]:A 平均粒径12μm(三共精粉社製、品名)
(4)ガラス繊維[GF]:チョップドストランド ECS03−630 カット長3mm(平均繊維長3mm)、平均繊維径9μm、平均アスペクト比333(セントラルファイバーグラス社製、商品名)
上記の原材料を表1に示すとおりに配合し、ヘンシェルミキサーで十分に混合した後、二軸溶融押出し機に供給し、ストランドダイから押出してペレット状に造粒した。次に、射出成型機に実施例1〜2および比較例1のペレットを投入した。シリンダ内(シリンダ温度300〜320℃)で溶融した樹脂を、金型のキャビティ内に、金型温度150℃、射出圧力200MPa、射出速度50mm/sec、保圧力70MPa、保持時間3sec、冷却時間25secの射出条件で充填し、図1に示すスクロールロータ、および各試験用の樹脂成形体を得た。なお、比較例2に示す樹脂組成物を用いた場合、樹脂成分の配合割合が少なかったことから射出成形することができなかった。得られたスクロールロータ、および各試験用の樹脂成形体を用いて以下の評価試験を行なった。
(a)線膨張係数の比(AMD/ATD
上述の射出成形によって、図12に示すダンベル試験片(多目的試験片:JIS K 7139参照)を成形し、精密切削加工により、AMD方向用とATD方向用のそれぞれについて、縦4mm、横10mm、厚み4mmの平板状の線膨張係数測定用の試験片(□4×10mm)を切り出した。図12に示すように、射出ゲートのゲート位置は、ダンベル試験片の長手方向の端部(サイドゲート)であり、ゲートサイズは、幅10mm×厚さ2.7mmである。
線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA;島津製作所社製、TMA−60)により測定した。毎分5℃の昇温速度で、−50℃から90℃まで昇温し、その間の平均線膨張係数を測定した。
MD方向における線膨張係数AMDをTD方向における線膨張係数ATDで除して、線膨張係数の比(AMD/ATD)を求めた。
(b)成形収縮率の比(BMD/BTD
JIS K 7139多目的ダンベル試験片用の金型(長さ171.68mm、平行部幅10.09mm)を用いて、上述の射出成形によって成形体を得た。射出ゲートのゲート位置は、ダンベル試験片の長手方向の端部(サイドゲート)であり、ゲートサイズは、幅10mm×厚さ2.7mmである。流動方向MD(試験片長さ)および流動直角方向TD(試験片平行部幅)における成形収縮率を測定した。測定器として、試験片長さはノギス(読取り精度±0.01mm)、試験片平行部幅はデジタルマイクロメータ(読取り精度±0.001mm)を用いて測定し、各成形収縮率はそれぞれ、下記式で算出した。
成形収縮率=[(23±2℃での金型内の成形体の各方向の寸法−成形後の成形体の各方向の寸法)/23±2℃での金型内の成形体の各方向の寸法]×100
MD方向における成形収縮率BMDをTD方向における成形収縮率BTDで除して、成形収縮率の比(BMD/BTD)を求めた。
(c)曲げ強さ、曲げ弾性率
ASTM D790に準じた曲げ試験を実施し、曲げ強さおよび曲げ弾性率を測定した。
(d)引張強さ
ASTM D638に準じた引張試験を実施し、引張強さを測定した。
(e)直角度
得られたスクロールロータについて、基板に対する側板の直角度を三次元測定機を用いて求めた。直角度は、基板の内側面2a(図3参照)を基準面として、側板3の11mm長さあたりの直角方向の変位量で表した。渦巻き状の内周面3bと外周面3cの2箇所の各変位量を求め、平均値を表1に示した。
(f)平行度
得られたスクロールロータについて、基板の摺接面に対する側板の端面の平行度を三次元測定機を用いて求めた。平行度は、端面3aに置かれたブロックゲージに三次元測定機の測定子を当て8箇所の測定点を取得したときのMax値とMin値の差で表した。渦巻き状の8箇所の各変位量を求め、平均値を表1に示した。
(g)平面度
得られたスクロールロータについて、基板の平面度を三次元測定機を用いて求めた。平面度は、基板2の外側面2bの外側円筒部2dに三次元測定機の測定子を当て8箇所の測定点を取得したときのMax値とMin値の差で表した。8箇所の各変位量を求め、平均値を表1に示した。
Figure 2021098367
表1の実施例1、2に示すように、ベース樹脂に粒状無機物および繊維状無機物を所定量ずつ含む樹脂組成物の樹脂成形体は、一般的な組成にかかる樹脂組成物の樹脂成形体(比較例1)よりも寸法精度が向上した。表1に示すように、実施例1、2の樹脂成形体は、異方性の指標となる、線膨張係数の比(AMD/ATD)および成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1の範囲内であり、比較例1の樹脂成形体よりも、直角度および平行度が向上した。実施例1、2の樹脂成形体は、その成形収縮率がMDおよびTDともに小さく、かつ、MDとTDの差も小さいため、寸法精度の向上につながった。また、チップシールが装着される側板の取付溝も精度よく形成された。
スクロールロータの寸法精度の向上について具体的に説明すると、スクロールロータの基板に対する側板の傾き(直角方向の変位量)が減ることで、スクロールロータの基板に対する側板の直角度が向上した。また、スクロールロータの基板の摺接面から側板の端面にかけて側板の幅がほぼ均一となることで、スクロールロータの基板の摺接面とスクロールロータの側板の端面の平行度が向上した。また、スクロールロータの基板の表面がほぼ均一となることで、スクロールロータの平面度も向上した。このように、寸法精度が向上されつつ、スクロール型圧縮機におけるスクロールロータとして必要な機械的強度も備わったスクロールロータが形成された。
本発明のスクロールロータは、価格を低く抑えつつ、寸法精度を向上させることができるので、例えば、冷媒や油が使用される条件下で用いられる冷暖房設備機、空気調和設備機、空気調和機(エア・コンディショナ)、冷凍/冷蔵ショーケース、冷蔵庫などの冷凍機用などの冷媒圧縮用スクロール型圧縮機などのスクロール型圧縮機や機械に装備されるスクロールロータとして好適に利用できる。
1 スクロールロータ(樹脂成形体)
2 基板
2a 内側面
2b 外側面
2c 内側円筒部
2d 外側円筒部
2e 肉ぬすみ部
2f 凹部
2g、2h 突出しピンの跡
3 側板
3a 端面
3b 内周面
3c 外周面
4 取付溝
5 ゲート痕
6 リブ
7 軸穴部
8 チップシール
9 圧縮室
10 開口部

Claims (18)

  1. ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、粒状無機物と、繊維状無機物とを含む樹脂組成物の樹脂成形体であって、
    前記樹脂組成物は、前記粒状無機物および前記繊維状無機物の合計体積が、前記樹脂組成物全体積の30体積%〜70体積%であり、
    前記樹脂成形体は、前記樹脂組成物の射出成形体であり、
    射出成形時において溶融した前記樹脂組成物の流れ方向をMDと定め、前記MDに直交する方向をTDと定めた場合、前記樹脂成形体の線膨張係数の比(AMD/ATD)、または前記樹脂成形体の成形収縮率の比(BMD/BTD)が0.5〜1であることを特徴とする樹脂成形体。
  2. 前記樹脂組成物は、前記樹脂組成物全体積に対して、前記粒状無機物を20体積%〜40体積%含み、かつ、前記繊維状無機物を10体積%〜30体積%含む組成物であることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体。
  3. 前記樹脂成形体は、前記MDおよび前記TDにおける成形収縮率がいずれも1%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の樹脂成形体。
  4. 前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の樹脂成形体。
  5. 前記結晶性樹脂がポリアリーレンサルファイド系樹脂であることを特徴とする請求項4記載の樹脂成形体。
  6. 前記樹脂組成物は、さらに非晶性樹脂を含み、該非晶性樹脂は、前記樹脂組成物全体積に対して5体積%〜20体積%含まれることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の樹脂成形体。
  7. 前記非晶性樹脂がポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする請求項6記載の樹脂成形体。
  8. 前記粒状無機物の平均粒径が0.5μm〜100μmであり、
    前記繊維状無機物の平均繊維長が10μm〜3mmであり、平均アスペクト比が2〜1000であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の樹脂成形体。
  9. 前記樹脂組成物において、前記粒状無機物の含有割合が前記繊維状無機物の含有割合よりも多いことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項記載の樹脂成形体。
  10. 前記粒状無機物は炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項記載の樹脂成形体。
  11. 前記繊維状無機物はガラス繊維であることを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項記載の樹脂成形体。
  12. 略平板状の基板と、前記基板から略直角に延設された渦巻き状の側板とを備え、相手側ロータとの間で圧縮室を形成し、流体を圧縮または圧送させるスクロールロータであって、
    前記スクロールロータが請求項1から請求項11までのいずれか1項記載の樹脂成形体であることを特徴とするスクロールロータ。
  13. 前記基板は略円板状であり、前記基板の前記側板が設けられた側の略中央部にゲート痕が形成されていることを特徴とする請求項12記載のスクロールロータ。
  14. 前記基板の前記側板が設けられた側とは反対側の面に、前記基板を補強する複数のリブが設けられ、該リブは、前記基板の内側から外側に向けて放射状に延設され、かつ、前記基板の円周方向に略等間隔で設けられていることを特徴とする請求項13記載のスクロールロータ。
  15. 前記基板の前記側板が設けられた側とは反対側の面に、前記基板に形成されるウエルドラインを回避した複数の凹部が設けられ、該凹部は、前記基板の円周方向に略等間隔で設けられていることを特徴とする請求項13または請求項14記載のスクロールロータ。
  16. 前記基板の前記側板が設けられた側とは反対側の面に、前記樹脂成形体が射出金型から取り出されるときに用いられる突出しピンの跡を有し、該突出しピンの跡は、前記基板の内側から外側に向けて複数設けられ、かつ、前記基板の円周方向に複数設けられていることを特徴とする請求項12から請求項15までのいずれか1項記載のスクロールロータ。
  17. 前記スクロールの前記側板の前記相手側ロータ側の端面に、前記相手側ロータの基板と摺接するチップシールの装着が可能な溝が形成されていることを特徴とする請求項12から請求項16までのいずれか1項記載のスクロールロータ。
  18. 前記流体が冷媒または油であることを特徴とする請求項12から請求項17までのいずれか1項記載のスクロールロータ。
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