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JP2020164948A - Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法並びに成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法 - Google Patents

Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法並びに成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法を提供する。【解決手段】所定の成分組成を有する成形用アルミニウム合金冷延板であって、L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、所定の溶体化処理人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSLが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、SLが16.0J/cm2以上であり、SL/SLTの比が1.4未満であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。【選択図】図1

Description

本発明は、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法に関するものである。
近年、地球温暖化による気候変動が激しさを増しており、COガスの排出削減が急務となっている。このため、自動車の燃費向上のため、さらなる軽量化が求められており、例えば、自動車用の各種構造部材として、6000系アルミニウム合金板が採用されている。6000系アルミニウム合金板は、高強度を有し、成形性に優れ、衝突時のエネルギーを吸収できる材料が要求されている。このため、自動車用の各種構造部材に適用する材料として、強度と圧壊特性のバランスに優れた構造部材用アルミニウム合金板も開発されている。
例えば、特許文献1には、質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、この板の示差走査熱分析曲線において、200〜320℃の温度範囲内に発熱ピークが1つだけ存在し、かつ、この1つだけの発熱ピークが200〜270℃の温度範囲内に存在するとともに、発熱ピークの高さが10μW/mg以上であることを特徴とする強度と圧壊特性のバランスに優れた構造部材用アルミニウム合金板が記載されている。これによると、通常の圧延によって製造され、構造部材への成形性を低下させずに、自動車の衝突時における強度と圧壊特性のバランスを満たした6000系アルミニウム合金板と、前記圧壊特性を満たすアルミニウム合金構造部材を提供することができるとのことである。
さらに特許文献2には、自動車の骨格構造に用いる材料として、Mg:0.5〜1.3質量%、Si:0.7〜1.5質量%を含み、 Mn:0.05〜0.5質量%、Zr:0.04〜0.20質量%、およびCr:0.04〜0.20質量%から選択される一種以上をさらに含み、残部がAlおよび不可避不純物であり、粒界上に存在する0.05μm以上の遷移元素系の分散粒子の数密度が0.001個/nm以下であり、200〜250℃で10〜30分保持する人工時効処理後の粒界のPFZ幅が60nm以下である、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板が提唱されている。これによると、冷延板に対して、溶体化処理を行い、その溶体化処理温度での保持後の平均冷却速度を厳密に制御することにより、最終的に得られるアルミニウム合金板の結晶粒界上に存在する遷移元素系の分散粒子の数密度を十分に低減し、PFZ幅を低減させ、曲げ性を向上することができるとのことである。
ところで、自動車用の各種構造部材は、一般的に6000系アルミニウム合金押出材をプレス加工、鍛造加工することによっても製造されてきた。例えば、特許文献3には、Si:0.7〜1.3%(質量%、以下同じ)、Mg:0.55〜0.95%、Cu:0.27〜0.43%、Mn:0.17〜0.43%、Cr:0.07〜0.23%、およびZr:0.10〜0.24%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、かつ[Si%]×1.73−[Mg%]>0.35%を満足する組成を有し、断面の肉厚中心部は平均結晶粒10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶組織が前記断面に占める割合が70%以上であることを特徴とする耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金鍛造材が記載されている。これによると、車両構造部材用として好適に使用し得る耐食性に優れた高強度、高靭性のAl−Mg−Si系アルミニウム合金鍛造材が提供できるとのことである。
さらに特許文献4には、Mg:0.3〜2.0mass%、Si:0.6〜2.0mass%を含有し、Mn:0.04%〜0.50mass%及びCr:0.04%〜0.30mass%の1種又は2種を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、昇温速度60℃/分で530℃まで昇温後において、隣接する結晶粒の粒界が15°未満の小角粒界である存在確率が50%以上であることを特徴とする熱間成形用アルミニウム合金板が記載されている。これによると、高歪み速度域における高温延性が高く、高速成形による量産性に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法を提供されるとのことである。このように、昇温速度60℃/分で530℃まで昇温後において、隣接する結晶粒の粒界が15°未満の小角粒界である存在確率が50%以上となるアルミニウム合金板が提唱されている。
特開2017−179469号公報 特開2018−100435号公報 特開2013−076167号公報 特開2016−023354号公報 Al−Mg−Si系合金の時効析出研究を振り返って 軽金属第63巻 第9号(2013),318-328
確かに6000系のアルミニウム押出材又は合金板は、プレス、鍛造加工用の元材として使用されており、鍛造材は自動車用の各種構造部材に適用され、高靱性で耐衝撃性に優れている。特許文献1では、構造部材の人工時効処理後の組織を、β”相が抑制されるとともに、β’相の存在量が増した、強度と圧壊特性のバランスを向上させた組織とするために、素材板や構造部材の、人工時効処理前の段階でのDSCで測定された規定の温度範囲における発熱ピーク値やピーク個数を規定している。しかしながら、上記アルミニウム合金板(成形素材板)は、Mg、Siなどの各元素の十分な固溶量を得るために、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板に対して、550℃以上の保持温度での溶体化処理および焼入れ処理などの調質(T4)が施されたものであるため、圧延板の残留塑性歪や合金組成等にもよるが、再結晶粒が粗大化する虞がある。
また、特許文献2では、PFZ幅が十分に低減されているという特性は、溶体化処理後のアルミニウム合金板(すなわち、T4材)に対して人工時効処理を行い、すなわちT6材になるように調質することで、とりわけ顕著に発現することができるとしている。しかしながら、上記アルミニウム合金板は、Mg、Siなどの各元素の十分な固溶量を得るために、冷間圧延板に対して、550℃以上の保持温度での溶体化処理および焼入れ処理などの調質(T4)が施されたものであるため、冷間圧延板の残留塑性歪や合金組成等にもよるが、再結晶粒が粗大化する虞がある。
特許文献3では、十分な強度を得るためには、さらにSi量、Mg量を[Si%]×1.73−[Mg%]>0.35%の関係式を満足するよう制御することが必要であるとしている。しかしながら、Si/Mg比を高くした過剰Si型の6000系アルミニウム合金板においては、強度が高くなるものの、その成分組成や製板条件にもよるが、溶体化処理後の時効処理によって結晶粒界に中間相として比較的粗大なβ”,β’等の金属間化合物が析出することで、耐衝撃性特性が劣化することが懸念される。
引用文献4では、昇温速度60℃/分で530℃まで昇温後において、隣接する結晶粒の粒界が15°未満の小角粒界である存在確率が50%以上となるアルミニウム合金板が示されている。しかしながら、成形品の耐衝撃性、耐衝撃性に関する異方性については何ら示されていない。
以上のことから、自動車用の各種構造部材を製造するための元板として、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、6000系アルミニウム合金冷延板を安価に製造する必要がある。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明の溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、その目的を達成するために、Si:0.50〜0.90質量%、Fe:0.70質量%未満、Cu:0.10〜0.90質量%、Mg:0.80〜1.7質量%、Mn:0.10〜1.3質量%、Cr:0.20〜0.60質量%、Ti:0.005〜0.10質量%及び残部がAl及び不可避的不純物からなり、Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である成分組成を有するアルミニウム合金冷延板であって、L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満であることを特徴とする。
また、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm以上であることが好ましい。
また、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることが好ましい。
本発明の溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、その目的を達成するために、Si:0.50〜0.90質量%、Fe:0.70質量%未満、Cu:0.10〜0.90質量%、Mg:0.80〜1.7質量%、Mn:0.10〜1.3質量%、Cr:0.20〜0.60質量%、Ti:0.005〜0.10質量%及び残部がAl及び不可避的不純物からなり、Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である成分組成を有するアルミニウム合金冷延板であって、L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満であることを特徴とする。
また、本発明の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm以上であることが好ましい。
また、本発明の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることが好ましい。
本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法は、前記成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブを連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接ロールに巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とする。
本発明の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法は、前記成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブを連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接ロールに巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とする。
本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制されるものである。Al−Mg−Si系アルミニウム合金のSi/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定して過剰Si量及び過剰Mg量を減らすことで、人工時効処理時に生成するPFZの幅を小さくすることができ、結晶粒界に中間相として析出するβ”,β’等の金属間化合物の成長を抑制することができる。したがって、溶体化・時効処理後の耐衝撃性に優れたものとすることができる。
本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法は、Mn、Crを適量含有するとともにSi/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定したAl−Mg−Si系合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機によって、連続的に鋳造する際、スラブ1/4厚みにおける鋳造凝固中のスラブ冷却速度を40〜200℃/secとすることにより、Al−Fe(Mn・Cr)−Siの晶出物のサイズを非常に細かくすることができ、晶出量も少なくすることができる。このため、溶体化処理を施した後のSi固溶量を高く保つことができ、強化相であるMg−Si系化合物に有効に利用されるSi量を確保することが可能となり、溶体化・時効処理後の強度を高めることができる。
また、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法は、Mn、Crを適量含有するとともにSi/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定したAl−Mg−Si系合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機によって、連続的に鋳造して直接ロールに巻き取り、均質化処理や中間焼鈍することなく、最終板厚まで冷間圧延を施すため、スラブ中のMn、Cr固溶量を高く保つことができる。このため、溶体化処理を施した後の金属組織を平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織とすることができ、結晶粒界の存在密度が高まって、溶体化・時効処理後の耐衝撃性に優れたものとなる。
したがって、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を提供することができる。
図1は、計装化シャルピー試験片を示す図である。
従来の6000系アルミニウム合金板は、その成分組成あるいは製造工程にもよるが、溶体化処理を施し、冷間成形又は熱間成形後、さらに時効処理を施すことにより、高強度となるものの、自動車用の各種構造部材に適用する際、耐衝撃性に劣るという場合がある。しかも、6000系アルミニウム合金板について、溶体化・時効処理を施した場合の耐衝撃性、耐衝撃性に関する異方性については十分に検討されていない。したがって、用いる材料として、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制されるものが求められる。
前述のように、Si/Mg比を高くした過剰Si型の6000系アルミニウム合金板においては、強度は高くなるものの、その成分組成や製板条件にもよるが、溶体化処理後の時効処理によって結晶粒界に中間相として比較的粗いβ”,β’等の金属間化合物が析出することで、耐衝撃性が低下することが懸念される。したがって、過剰Si型の6000系アルミニウム合金板においても、溶体化・時効処理後の耐衝撃性に関する異方性について調査しておく必要性がある。
一方、Si/Mg比をコントロール(0.4〜0.9)し、過剰Si量及び過剰Mg量を低減した6000系アルミニウム合金板とすることで、人工時効処理時に生成するPFZの幅を小さくすることができ、結晶粒界に中間相として析出するβ”,β’等の金属間化合物の成長を抑制することができ、耐衝撃性を高くすることができる。しかしながら、バランス型の6000系アルミニウム合金板は、その成分組成あるいは製造工程にもよるが、自動車用の各種構造部材として、延性、耐衝撃性に優れるものの、時効処理後の強度が低下してしまう虞がある。
本発明者等は、Mg/Si比を変化させたAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の調査を通じて、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を得るべく鋭意検討を重ね、本発明に到達した。
以下にその内容を説明する。
まず、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板に含まれる各元素の作用、適切な含有量等について説明する。
〔Si:0.50〜0.90質量%〕
Siは、鋳塊鋳造時の冷却速度にもよるが、Al−(Fe・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を晶出させ、一部はマトリックス内に固溶し、強度を高める。人工時効処理では、Mg−Si系化合物が均一微細に析出してさらに強度を高めるので、必須の元素である。
Si含有量が0.50質量%未満であると、Mg−Si系化合物の析出量も減少するため、所定の強度が得られない虞がある。Si含有量が0.90質量%を超えると、アルミニウム合金板の強度は高くなるものの、耐衝撃性が低下するとともに、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。
したがって、Si含有量は、0.50〜0.90質量%の範囲とする。より好ましいSi含有量は、0.50〜0.85質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、0.50〜0.80質量%の範囲である。
〔Fe:0.70質量%未満〕
Feは、スラブ鋳造時の冷却速度にもよるが、Al−Fe(Cr・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を晶出させ、アルミニウム合金板の強度を増加させるので、必須の元素である。
Fe含有量が0.70質量%を超えると、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物が粗大化することにより、所定の強度が得られない虞がある。
したがって、Fe含有量は、0.70質量%未満の範囲とする。より好ましいFe含有量は、0.10〜0.70質量%未満の範囲である。さらに好ましいFe含有量は、0.15〜0.65質量%未満の範囲である。
〔Cu:0.10〜0.90質量%〕
Cu含有量は、強度を増加させる元素であり、一部マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するとともに、Al−Mg−Si−Cu系化合物を形成して強度を高めるので、必須の元素である。
Cu含有量が0.10質量%未満であると、所定の強度が得られない虞がある。Cu含有量が0.90質量%を超えると、耐衝撃性が低下する虞がある。
したがって、Cu含有量は、0.10〜0.90質量%の範囲とする。より好ましいCu含有量は、0.15〜0.90質量%の範囲である。さらに好ましいCu含有量は、0.20〜0.85質量%の範囲である。
〔Mg:0.80〜1.7質量%〕
Mgは、一部はマトリックス内に固溶し、強度を高める。人工時効処理では、自然時効によってマトリックスに析出した微細なクラスターを核として、Mg−Si化合物が均一微細に析出してさらに強度を高めるので、必須の元素である。
Mg含有量が0.80質量%未満であると、所定の強度が得られない虞がある。Mg含有量が1.7質量%を超えると、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。したがって、好ましいMg含有量は、0.80〜1.7質量%の範囲とする。より好ましいMg含有量は、0.85〜1.7質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.85〜1.6質量%の範囲である。
〔Mn:0.10〜1.3質量%〕
Mnは、一部マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するとともに、溶体化処理を施した際に再結晶を遅延させて結晶粒微細化剤として作用する。また、Mnは、本発明の合金組成の範囲内では、鋳造時および溶体化処理時に生成するAl−Fe(Mn・Cr)−Si等の微細な金属間化合物を構成する元素でもあり、強度を高くするため、必須元素である。
Mn含有量が0.10質量%未満であると、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。Mn含有量が1.3質量%を超えると、Al−Fe(Mn・Cr)−Si等の金属間化合物生成量が増加することにより、人工時効処理後のMg−Si系化合物の析出量が少なくなり、所定の強度が得られない虞がある。
したがって、好ましいMn含有量は、0.10〜1.3質量%の範囲とする。より好ましいMn含有量は、0.10〜1.25質量%の範囲である。さらに好ましいMn含有量は、0.15〜1.2質量%の範囲である。
〔Cr:0.20〜0.60質量%〕
Crは、一部マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するとともに、溶体化処理を施した際に再結晶を遅延させて結晶粒微細化剤として作用する。また、Crは、本発明の合金組成の範囲内では、鋳造時および溶体化処理時に生成するAl−Fe(Mn・Cr)−Si等の微細な金属間化合物を構成する元素でもあり、強度を高くするため、必須元素である。
Cr含有量が0.20質量%未満であると、耐衝撃性が低下するとともに、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。Cr含有量が0.60質量%を超えると、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。
したがって、好ましいCr含有量は、0.20〜0.60質量%の範囲とする。より好ましいCr含有量は、0.20〜0.55質量%の範囲である。さらに好ましいCr含有量は、0.25〜0.50質量%の範囲である。
〔Ti:0.005〜0.10質量%〕
Tiは鋳塊鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造割れを防止することができるので、必須の元素である。勿論、Tiは単独で添加してもよいが、Bと共存することによりさらに強力な結晶粒の微細化効果を期待できるので、Al−5%Ti−1%Bなどのロッドハードナーでの添加であってもよい。
Ti含有量が、0.005質量%未満であると、鋳塊鋳造時の微細化効果が不十分なため、鋳造割れを招くおそれがあり、好ましくない。Ti含有量が、0.10質量%を超えると、鋳塊鋳造時にTiAl等の粗大な金属間化合物が晶出して、最終板におけるプレス成形性や曲げ加工性を低下させるおそれがあるため、好ましくない。
したがって、Ti含有量は、0.005〜0.10質量%の範囲とする。より好ましいTi含有量は、0.005〜0.07質量%の範囲である。さらに好ましいTi含有量は、0.01〜0.05質量%の範囲である。
〔Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である〕
Si/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定することで、人工時効処理時に生成するPFZの幅を小さくすることができ、結晶粒界に中間相として析出するβ”,β’等の金属間化合物の成長を抑制することができ、耐衝撃性を向上させることができる。
Si/Mg比が0.4未満であると、強化相としてのMg−Si化合物の析出量が低下し、強度が低下するため、好ましくない。Si/Mg比が0.9を超えると、時効処理によって結晶粒界に中間相として比較的粗いβ”,β’等の金属間化合物が析出することで、耐衝撃性が低下する虞があるため、好ましくない。
したがって、Si/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定する。
〔その他の不可避的不純物〕
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するもので、それらの許容できる含有量は、例えば、Znの0.20質量%未満、Niの0.10質量%未満、Zrの0.05質量%未満、Bの0.05質量%未満、Ga又はVの0.05質量%未満、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Srについては、それぞれ0.02質量%未満、その他各0.05質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
〔金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、〕
Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を成形して自動車用の各種構造部材に適用するに当たっては、溶体化処理を施した後の金属組織を再結晶組織として、結晶粒を細かくしておく必要がある。金属組織を再結晶組織として、結晶粒を細かくしておくと、結晶粒界の存在密度が高まって、時効処理時に結晶粒界に中間相として析出するβ”,β’等の金属間化合物の成長が抑制され、時効処理後の耐衝撃性を向上することができる。したがって、本発明では、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であると規定した。
〔UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満である〕
Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を成形して自動車用の各種構造部材に適用するに当たっては、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れているだけではなく、耐衝撃性に関する異方性を抑制する必要がある。溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れており、耐衝撃性に関する異方性が抑制されていると、自動車用の各種構造部材の設計の自由度が高まる。
材料の強度は引張り試験を行った時の引張り強度で、耐衝撃性はシャルピー衝撃試験を行った時のシャルピー衝撃値で、耐衝撃性に関する異方性は長手方向の異なる試験片についてシャルピー衝撃試験を行った時のそれぞれのシャルピー衝撃値を比較することによって知ることができる。
したがって、本発明では、L方向(圧延方向)を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSと定義し、LT方向(板幅方向)を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLTと定義し、L方向(圧延方向)を長手方向とする試験片のシャルピー値をSと定義し、LT方向(板幅方向)を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満であると規定した。
なお、上記したUTS、UTSLT、YS、YSLT、S、SLT等の特性を測定する前に施す熱処理条件としては、550℃×5分間の溶体化処理後に、例えば、室温にて72時間以内の自然時効を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施すものであってもよいし、550℃×5分間の溶体化処理後に、例えば、自然時効を施さず、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施すものであってもよい。
詳細は後記の実施例の記載に譲るとして、自動車用の各種構造部材に適用する本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板としては、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満の特性を示すものが好適である。また、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm以上であることが好ましい。
また詳細は後記の実施例の記載に譲るとして、いずれにしても、前記特定の成分組成を有し、且つ550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14hrsの人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満なる値を呈するものが、本発明の溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板となる。
次に、上記のような溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を製造する方法の一例について簡単に紹介する。
〔溶解・溶製〕
溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行い、さらに必要に応じてランス等を使用して炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面から滓を分離する。
この溶解・溶製では、所定の合金成分とするため、母合金等再度の原料投入も重要ではあるが、上記フラックス及び滓がアルミニウム合金溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上取ることが望ましい。
溶解炉で溶製されたアルミニウム合金溶湯は、場合によって保持炉に一端移湯後、鋳造を行なうこともあるが、直接溶解炉から出湯し、鋳造する場合もある。より望ましい鎮静時間は45分以上である。
必要に応じて、インライン脱ガス、フィルターを通してもよい。
インライン脱ガスは、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガス等を吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガスの泡中に拡散させ除去するタイプのものが主流である。不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合には、露点を例えば−60℃以下に管理することが重要である。鋳塊の水素ガス量は、0.20cc/100g以下に低減することが好ましい。
鋳塊の水素ガス量が多い場合には、鋳塊の最終凝固部にポロシティが発生するおそれがあるため、冷間圧延工程における1パス当たりの圧下率を例えば20%以上に規制してポロシティを潰しておくことが好ましい。また、鋳塊に過飽和に固溶している水素ガスは、冷延コイルの熱処理条件にもよるが、最終板のプレス成形後であっても、例えばスポット溶接時に析出して、スポットビードに多数のブローホールを発生させる場合もある。このため、より好ましい鋳塊の水素ガス量は、0.15cc/100g以下である。
〔薄スラブ連続鋳造機〕
薄スラブ連続鋳造機は、双ベルト鋳造機、双ロール鋳造機の双方を含むものとする。
双ベルト鋳造機は、エンドレスベルトを備え上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ベルト部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
双ロール鋳造機は、エンドレスロールを備え上下に対峙する一対の回転ロール部と、当該一対の回転ロール部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ロール部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
〔スラブの厚み3〜15mm〕
薄スラブ連続鋳造機は、厚み3〜15mmの薄スラブを連続的に鋳造することが可能である。スラブ厚み3mm未満の場合には、鋳造が可能な場合であっても、最終板の板厚にもよるが、後述する最終圧延率50〜95%を実現することが困難となる。スラブ厚み15mmを超えると、スラブを直接ロールに巻き取ることが困難となる。このスラブ厚みの範囲であると、スラブの冷却速度は、スラブ厚さ1/4の付近で、40〜1000℃/秒程度となり、Al−Fe(Cr・Mn)−Si等の金属間化合物が微細に晶出する。
〔冷間圧延〕
薄スラブ連続鋳造機を用いて、スラブを連続的に鋳造し、上記スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取った後、冷間圧延を施す。このため、従来の半連続鋳造によって製造される鋳造スラブに必要となる面削工程、均質化処理工程、熱間圧延工程を省略することができる。薄スラブを直接巻き取ったロールは、冷延機に通され、通常何パスかの冷間圧延が施される。
〔最終冷延率50〜95%〕
最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施した後、溶体化処理を施す。最終冷延率がこの範囲であれば、溶体化処理後の金属組織を平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織にして、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板とすることができる。したがって、加工コストを低く抑えるとともに、遷移金属元素の固溶量を確保しながら冷間加工を加えることで転位が蓄積されて、溶体化処理工程によって平均結晶粒径20μm未満に調整された再結晶組織を得ることが可能となる。
最終冷延率が50%未満であると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が少なすぎて、溶体化処理によって平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織を得ることができない。最終冷延率が95%を超えると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が多すぎて、加工硬化が激しく、エッジに耳割れを生じて圧延が困難となる。したがって、好ましい最終冷延率は、50〜95%の範囲である。より好ましい最終冷延率は、60〜95%の範囲である。さらに好ましい最終冷延率は、70〜90%の範囲である。
以上のような連続鋳造工程、冷間圧延工程を経ることにより、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を得ることができる。
次に、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の成形品への適用例について以下に述べる。
〔溶体化処理〕
溶体化処理は、例えば、連続焼鈍炉にて540℃〜570℃の保持温度で10〜300秒間保持した後、その後急速に冷却する溶体化処理が好ましい。急速に冷却する手段としては、エアー噴射による空冷、若しくはミスト噴射による水冷が望ましい。溶体化処理は比較的短時間であるため、マトリックスに固溶していたMn、Crは、金属間化合物を大きく成長させることなく、再結晶を遅延させて結晶粒微細化剤として作用し、再結晶の平均粒径を20μm未満とすることができる。
保持温度が540℃未満であると、合金組成にもよるが再結晶組織を得ることが困難となる。保持温度が570℃を超えると、合金組成にもよるがバーニングを起こすおそれがある。保持時間が10秒未満であると、板の実体温度が所定の温度に到達せず溶体化処理が不十分となるおそれがある。保持時間が300秒を超えると、処理に時間がかかりすぎ、生産性が低下する。
〔自然時効〕
溶体化処理後、自然時効を行う場合は、室温に数時間〜6ヵ月放置するものであってもよいが、コイルの保管温度を適切に管理して、例えば、保持時間を16〜72時間等に規制しておくことが品質管理上は望ましい。
〔プレス成形〕
プレス成形は、得られた上記コイルを条割後、さらにシャーにて所定寸法の切り板とし、例えば、冷間プレス成形によって、所定の形状に成形する。溶体化処理後、自然時効を施して、冷間成形又は熱間成形を行い、さらに人工時効処理を施すことが好ましい。もちろん、溶体化処理後、自然時効を施さずに冷間成形又は熱間成形を行い、さらに人工時効処理を施してもよい。
〔人工時効処理〕
人工時効処理は、成形品を加熱炉に挿入することで行い、保持温度150〜200℃で1〜72時間保持とすることが好ましい。保持温度が150℃未満であると、成形品の強度が十分に増加せず、所定の機械的特性を得ることが困難となるため、好ましくない。
保持温度が200℃を超えると、成形品の強度が低下して、所定の機械的特性を得ることが困難となるため、好ましくない。保持時間が1時間未満であると、成形品の実体温度が不均一のまま処理が終了する可能性があるため、好ましくない。保持時間が72時間を超えると、生産性が低下するため、好ましくない。
まず各必須元素の含有量が供試材の諸特性に及ぼす影響について調査するため、以下のような供試材を作製した。
〔薄スラブ連続鋳造シミュレート材の作製〕
表1に示した20水準の組成(合金No.1〜20)に配合された各種インゴット各5kgを#20坩堝内に挿入し、この坩堝を小型電気炉で加熱しインゴットを溶解した。次いで、溶湯中にランスを挿入して、Nガスを流量1.0L/minで5分間吹き込んで脱ガス処理を行なった。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去した。次に坩堝を小型電気炉から取り出して、溶湯を内寸法200×200×16mmの水冷金型に流し込み、薄スラブを作製した。坩堝中の溶湯から採取した各供試材(合金No.1〜20)のディスクサンプルは、発光分光分析によって組成分析を行なった。その結果を表1に示す。この薄スラブの両面を3mmずつ面削加工して、厚さ10mmとした後、均質化処理、熱間圧延を施すことなく、冷間圧延を施して板厚2.5mmの冷延材とした。なお、冷間圧延工程の間に中間焼鈍処理は行っていない。この場合の最終冷延率は75%であった。
次にこれらの冷延材(合金No.1〜20)を所定の大きさに切断後、この冷延材をソルトバスに挿入して、550℃×5minの条件下で加熱保持し、ソルトバスから素早く取り出して水冷し溶体化処理を施した。その後、室温にて24〜72時間の自然時効を行ってT4材とした。これらT4材をアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例1〜9、比較例1〜11)とした。
Figure 2020164948
次に、自然時効が供試材の諸特性に及ぼす影響について調査するため、以下のような供試材を作製した。
合金No.3の冷延材を所定の大きさに切断後、この冷延材をソルトバスに挿入して、550℃×5minの条件下で加熱保持し、ソルトバスから素早く取り出して水冷し溶体化処理を施した。その後、一部は自然時効を行わずにアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例11)とした。また、一部は室温にて24,48,72時間の自然時効を行ってT4材とし、これらT4材をアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例12,13,14)とした。
次に、自然時効後のプレス成形(塑性変形)が供試材の諸特性に及ぼす影響について調査するため、以下のような供試材を作製した。
合金No.3の冷延材を所定の大きさに切断後、この冷延材をソルトバスに挿入して、550℃×5minの条件下で加熱保持し、ソルトバスから素早く取り出して水冷し溶体化処理を施した。その後、室温にて48時間の自然時効を行ってT4材とした。このT4材について、冷間プレス成形を模擬して引張試験機を用いて室温にて2%予歪を導入し、さらにアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例15)とした。
次に、このようにして得られた各供試材について、諸特性の測定、評価を行った。
〔引張試験による諸特性の測定〕
得られた各供試材の機械的特性評価は、引張り試験の引張り強度、0.2%耐力、伸び(破断伸び)の値によって行った。
具体的には、得られた供試材より、引張り方向が圧延方向に対して平行方向(L方向)及び垂直方向(LT方向)になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準じて引張り試験を行って、引張り強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)、伸び(%)を求めた。なお、これら引張り試験は、各供試材のL方向/LT方向につき3回(n=3)行い、その平均値で算出した。
L方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSが350MPa以上であり、且つLT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLTが350MPa以上であった供試材を強度評価良好(〇)とし、UTS及びUTSLTのうち少なくともいずれか一方が350MPa未満であった供試材を強度評価不良(×)とした。評価結果を表2に示す。
〔計装化シャルピー衝撃試験による耐衝撃性の評価〕
得られた各供試材の耐衝撃特性評価は、計装化シャルピー衝撃試験の吸収エネルギー、シャルピー衝撃値、下り傾き値の値によって行った。
具体的には、得られた供試材より、計装化シャルピー衝撃試験用の試験片として、圧延方向に対して0°方向(L方向)/90°方向(LT方向)を長手方向として試料を採取し、図1に示すような55mm×10mm×2.5mm寸法(45°Vノッチ,深さ2mm)の試験片(n=3)に加工した。計装化シャルピー衝撃試験の結果(荷重−変位曲線)から、各供試材の吸収エネルギー(J)、シャルピー値(J/cm)、下り傾き値(N/mm/mm)を算出した。
L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値Sが16.0J/cm以上であった供試材を耐衝撃性評価良好(〇)とし、16.0J/cm未満であった供試材を耐衝撃性評価不良(×)とした。
L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるS/SLTが1.4未満であった供試材を耐衝撃性に関する異方性評価良好(〇)とし、1.4以上であった供試材を耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)とした。評価結果を表2に示す。
Figure 2020164948
〔平均結晶粒径の測定〕
得られた各供試材について、RD−ST面を研磨し、日本電子製走査電子顕微鏡(JSM−6490A)に装入し、結晶方位解析装置を用いて500μm×500μmの範囲を測定した。得られた解析結果を、TSL製OIM ANALYSISによって解析し、結晶粒径のエリア平均を平均結晶粒径とした。評価結果を、表2に示す。
〔各供試材の特性評価〕
供試材の特性評価結果を示す表2における実施例1〜9,11〜15は、本発明の組成範囲内であり、供試材のL方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTS、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLT、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値S、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるS/SLTとも全て、基準値を満たしていた。
具体的には、供試材のL方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTS:350MPa以上、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLT:350MPa以上、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値S:16.0J/cm以上、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるS/SLT:1.4未満の基準値を満たしていた。すなわち、実施例1〜9,11〜15は、強度評価良好(〇)、耐衝撃性評価良好(〇)、耐衝撃性に関する異方性評価良好(〇)であった。
供試材の特性評価結果を示す表2における比較例1〜11は、本発明の組成範囲外であり、供試材のL方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTS、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLT、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値S、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるS/SLTのうち、少なくとも一つについて、基準値を満たしていなかった。
比較例1は、Si含有量が低すぎたため、強度評価不良(×)であった。比較例2は、Si含有量が高すぎたため、耐衝撃性評価不良(×)、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。
比較例3は、Fe含有量が高すぎたため、強度評価不良(×)であった。
比較例4は、Cu含有量が低すぎたため、強度評価不良(×)であった。比較例5は、Cu含有量が高すぎたため、耐衝撃性評価不良(×)であった。
比較例6は、Mg含有量が低すぎたため、強度評価不良(×)であった。比較例7は、Mg含有量が高すぎたため、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。
比較例8は、Mn含有量が低すぎたため、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。比較例9は、Mn含有量が高すぎたため、強度評価不良(×)であった。
比較例10は、Cr含有量が低すぎたため、耐衝撃性評価不良(×)、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。比較例11は、Cr含有量が高すぎたため、強度評価不良(×)、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。
以上のことから、前記特定の成分組成を有し、且つL方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTS:350MPa以上、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLT:350MPa以上、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値S:16.0J/cm以上、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるS/SLT:1.4未満なる値を呈するものが、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板であることが判る。

Claims (8)

  1. Si:0.50〜0.90質量%、Fe:0.70質量%未満、Cu:0.10〜0.90質量%、Mg:0.80〜1.7質量%、Mn:0.10〜1.3質量%、Cr:0.20〜0.60質量%、Ti:0.005〜0.10質量%及び残部がAl及び不可避的不純物からなり、Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である成分組成を有するアルミニウム合金冷延板であって、
    L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
  2. 550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
  3. L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
  4. Si:0.50〜0.90質量%、Fe:0.70質量%未満、Cu:0.10〜0.90質量%、Mg:0.80〜1.7質量%、Mn:0.10〜1.3質量%、Cr:0.20〜0.60質量%、Ti:0.005〜0.10質量%及び残部がAl及び不可避的不純物からなり、Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である成分組成を有するアルミニウム合金冷延板であって、
    L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、Sが16.0J/cm以上であり、S/SLTの比が1.4未満であることを特徴とする成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
  5. 550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm以上であることを特徴とする請求項4に記載の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
  6. L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
  7. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法であって、請求項1に記載の成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブに連続的に鋳造し、
    前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法。
  8. 請求項4〜6のいずれか1項に記載の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法であって、請求項4に記載の成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブに連続的に鋳造し、
    前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とする成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法。
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