JP2020164948A - Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法並びに成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSLが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることが好ましい。
また、本発明の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板は、L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSLが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることが好ましい。
本発明の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法は、前記成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブを連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接ロールに巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とする。
以下にその内容を説明する。
〔Si:0.50〜0.90質量%〕
Siは、鋳塊鋳造時の冷却速度にもよるが、Al−(Fe・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を晶出させ、一部はマトリックス内に固溶し、強度を高める。人工時効処理では、Mg−Si系化合物が均一微細に析出してさらに強度を高めるので、必須の元素である。
Si含有量が0.50質量%未満であると、Mg−Si系化合物の析出量も減少するため、所定の強度が得られない虞がある。Si含有量が0.90質量%を超えると、アルミニウム合金板の強度は高くなるものの、耐衝撃性が低下するとともに、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。
したがって、Si含有量は、0.50〜0.90質量%の範囲とする。より好ましいSi含有量は、0.50〜0.85質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、0.50〜0.80質量%の範囲である。
Feは、スラブ鋳造時の冷却速度にもよるが、Al−Fe(Cr・Mn)−Si等の微細な金属間化合物を晶出させ、アルミニウム合金板の強度を増加させるので、必須の元素である。
Fe含有量が0.70質量%を超えると、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物が粗大化することにより、所定の強度が得られない虞がある。
したがって、Fe含有量は、0.70質量%未満の範囲とする。より好ましいFe含有量は、0.10〜0.70質量%未満の範囲である。さらに好ましいFe含有量は、0.15〜0.65質量%未満の範囲である。
Cu含有量は、強度を増加させる元素であり、一部マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するとともに、Al−Mg−Si−Cu系化合物を形成して強度を高めるので、必須の元素である。
Cu含有量が0.10質量%未満であると、所定の強度が得られない虞がある。Cu含有量が0.90質量%を超えると、耐衝撃性が低下する虞がある。
したがって、Cu含有量は、0.10〜0.90質量%の範囲とする。より好ましいCu含有量は、0.15〜0.90質量%の範囲である。さらに好ましいCu含有量は、0.20〜0.85質量%の範囲である。
Mgは、一部はマトリックス内に固溶し、強度を高める。人工時効処理では、自然時効によってマトリックスに析出した微細なクラスターを核として、Mg−Si化合物が均一微細に析出してさらに強度を高めるので、必須の元素である。
Mg含有量が0.80質量%未満であると、所定の強度が得られない虞がある。Mg含有量が1.7質量%を超えると、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。したがって、好ましいMg含有量は、0.80〜1.7質量%の範囲とする。より好ましいMg含有量は、0.85〜1.7質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.85〜1.6質量%の範囲である。
Mnは、一部マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するとともに、溶体化処理を施した際に再結晶を遅延させて結晶粒微細化剤として作用する。また、Mnは、本発明の合金組成の範囲内では、鋳造時および溶体化処理時に生成するAl−Fe(Mn・Cr)−Si等の微細な金属間化合物を構成する元素でもあり、強度を高くするため、必須元素である。
Mn含有量が0.10質量%未満であると、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。Mn含有量が1.3質量%を超えると、Al−Fe(Mn・Cr)−Si等の金属間化合物生成量が増加することにより、人工時効処理後のMg−Si系化合物の析出量が少なくなり、所定の強度が得られない虞がある。
したがって、好ましいMn含有量は、0.10〜1.3質量%の範囲とする。より好ましいMn含有量は、0.10〜1.25質量%の範囲である。さらに好ましいMn含有量は、0.15〜1.2質量%の範囲である。
Crは、一部マトリックス中に固溶して固溶体強化を促進するとともに、溶体化処理を施した際に再結晶を遅延させて結晶粒微細化剤として作用する。また、Crは、本発明の合金組成の範囲内では、鋳造時および溶体化処理時に生成するAl−Fe(Mn・Cr)−Si等の微細な金属間化合物を構成する元素でもあり、強度を高くするため、必須元素である。
Cr含有量が0.20質量%未満であると、耐衝撃性が低下するとともに、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。Cr含有量が0.60質量%を超えると、耐衝撃性に関する異方性が顕著になる虞がある。
したがって、好ましいCr含有量は、0.20〜0.60質量%の範囲とする。より好ましいCr含有量は、0.20〜0.55質量%の範囲である。さらに好ましいCr含有量は、0.25〜0.50質量%の範囲である。
Tiは鋳塊鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造割れを防止することができるので、必須の元素である。勿論、Tiは単独で添加してもよいが、Bと共存することによりさらに強力な結晶粒の微細化効果を期待できるので、Al−5%Ti−1%Bなどのロッドハードナーでの添加であってもよい。
Ti含有量が、0.005質量%未満であると、鋳塊鋳造時の微細化効果が不十分なため、鋳造割れを招くおそれがあり、好ましくない。Ti含有量が、0.10質量%を超えると、鋳塊鋳造時にTiAl3等の粗大な金属間化合物が晶出して、最終板におけるプレス成形性や曲げ加工性を低下させるおそれがあるため、好ましくない。
したがって、Ti含有量は、0.005〜0.10質量%の範囲とする。より好ましいTi含有量は、0.005〜0.07質量%の範囲である。さらに好ましいTi含有量は、0.01〜0.05質量%の範囲である。
Si/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定することで、人工時効処理時に生成するPFZの幅を小さくすることができ、結晶粒界に中間相として析出するβ”,β’等の金属間化合物の成長を抑制することができ、耐衝撃性を向上させることができる。
Si/Mg比が0.4未満であると、強化相としてのMg−Si化合物の析出量が低下し、強度が低下するため、好ましくない。Si/Mg比が0.9を超えると、時効処理によって結晶粒界に中間相として比較的粗いβ”,β’等の金属間化合物が析出することで、耐衝撃性が低下する虞があるため、好ましくない。
したがって、Si/Mg比を0.4〜0.9の範囲に限定する。
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するもので、それらの許容できる含有量は、例えば、Znの0.20質量%未満、Niの0.10質量%未満、Zrの0.05質量%未満、Bの0.05質量%未満、Ga又はVの0.05質量%未満、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Srについては、それぞれ0.02質量%未満、その他各0.05質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を成形して自動車用の各種構造部材に適用するに当たっては、溶体化処理を施した後の金属組織を再結晶組織として、結晶粒を細かくしておく必要がある。金属組織を再結晶組織として、結晶粒を細かくしておくと、結晶粒界の存在密度が高まって、時効処理時に結晶粒界に中間相として析出するβ”,β’等の金属間化合物の成長が抑制され、時効処理後の耐衝撃性を向上することができる。したがって、本発明では、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であると規定した。
Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板を成形して自動車用の各種構造部材に適用するに当たっては、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れているだけではなく、耐衝撃性に関する異方性を抑制する必要がある。溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れており、耐衝撃性に関する異方性が抑制されていると、自動車用の各種構造部材の設計の自由度が高まる。
したがって、本発明では、L方向(圧延方向)を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLと定義し、LT方向(板幅方向)を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLTと定義し、L方向(圧延方向)を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLと定義し、LT方向(板幅方向)を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、UTSLが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、SLが16.0J/cm2以上であり、SL/SLTの比が1.4未満であると規定した。
なお、上記したUTSL、UTSLT、YSL、YSLT、SL、SLT等の特性を測定する前に施す熱処理条件としては、550℃×5分間の溶体化処理後に、例えば、室温にて72時間以内の自然時効を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施すものであってもよいし、550℃×5分間の溶体化処理後に、例えば、自然時効を施さず、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施すものであってもよい。
〔溶解・溶製〕
溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行い、さらに必要に応じてランス等を使用して炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面から滓を分離する。
この溶解・溶製では、所定の合金成分とするため、母合金等再度の原料投入も重要ではあるが、上記フラックス及び滓がアルミニウム合金溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上取ることが望ましい。
必要に応じて、インライン脱ガス、フィルターを通してもよい。
インライン脱ガスは、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガス等を吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガスの泡中に拡散させ除去するタイプのものが主流である。不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合には、露点を例えば−60℃以下に管理することが重要である。鋳塊の水素ガス量は、0.20cc/100g以下に低減することが好ましい。
薄スラブ連続鋳造機は、双ベルト鋳造機、双ロール鋳造機の双方を含むものとする。
双ベルト鋳造機は、エンドレスベルトを備え上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ベルト部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
双ロール鋳造機は、エンドレスロールを備え上下に対峙する一対の回転ロール部と、当該一対の回転ロール部の間に形成されるキャビティーと、上記回転ロール部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して上記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
薄スラブ連続鋳造機は、厚み3〜15mmの薄スラブを連続的に鋳造することが可能である。スラブ厚み3mm未満の場合には、鋳造が可能な場合であっても、最終板の板厚にもよるが、後述する最終圧延率50〜95%を実現することが困難となる。スラブ厚み15mmを超えると、スラブを直接ロールに巻き取ることが困難となる。このスラブ厚みの範囲であると、スラブの冷却速度は、スラブ厚さ1/4の付近で、40〜1000℃/秒程度となり、Al−Fe(Cr・Mn)−Si等の金属間化合物が微細に晶出する。
薄スラブ連続鋳造機を用いて、スラブを連続的に鋳造し、上記スラブに熱間圧延を施すことなく直接ロールに巻き取った後、冷間圧延を施す。このため、従来の半連続鋳造によって製造される鋳造スラブに必要となる面削工程、均質化処理工程、熱間圧延工程を省略することができる。薄スラブを直接巻き取ったロールは、冷延機に通され、通常何パスかの冷間圧延が施される。
最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施した後、溶体化処理を施す。最終冷延率がこの範囲であれば、溶体化処理後の金属組織を平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織にして、溶体化・時効処理後に高強度で耐衝撃性に優れるとともに耐衝撃性に関する異方性が抑制される、Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板とすることができる。したがって、加工コストを低く抑えるとともに、遷移金属元素の固溶量を確保しながら冷間加工を加えることで転位が蓄積されて、溶体化処理工程によって平均結晶粒径20μm未満に調整された再結晶組織を得ることが可能となる。
最終冷延率が50%未満であると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が少なすぎて、溶体化処理によって平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織を得ることができない。最終冷延率が95%を超えると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が多すぎて、加工硬化が激しく、エッジに耳割れを生じて圧延が困難となる。したがって、好ましい最終冷延率は、50〜95%の範囲である。より好ましい最終冷延率は、60〜95%の範囲である。さらに好ましい最終冷延率は、70〜90%の範囲である。
〔溶体化処理〕
溶体化処理は、例えば、連続焼鈍炉にて540℃〜570℃の保持温度で10〜300秒間保持した後、その後急速に冷却する溶体化処理が好ましい。急速に冷却する手段としては、エアー噴射による空冷、若しくはミスト噴射による水冷が望ましい。溶体化処理は比較的短時間であるため、マトリックスに固溶していたMn、Crは、金属間化合物を大きく成長させることなく、再結晶を遅延させて結晶粒微細化剤として作用し、再結晶の平均粒径を20μm未満とすることができる。
保持温度が540℃未満であると、合金組成にもよるが再結晶組織を得ることが困難となる。保持温度が570℃を超えると、合金組成にもよるがバーニングを起こすおそれがある。保持時間が10秒未満であると、板の実体温度が所定の温度に到達せず溶体化処理が不十分となるおそれがある。保持時間が300秒を超えると、処理に時間がかかりすぎ、生産性が低下する。
溶体化処理後、自然時効を行う場合は、室温に数時間〜6ヵ月放置するものであってもよいが、コイルの保管温度を適切に管理して、例えば、保持時間を16〜72時間等に規制しておくことが品質管理上は望ましい。
プレス成形は、得られた上記コイルを条割後、さらにシャーにて所定寸法の切り板とし、例えば、冷間プレス成形によって、所定の形状に成形する。溶体化処理後、自然時効を施して、冷間成形又は熱間成形を行い、さらに人工時効処理を施すことが好ましい。もちろん、溶体化処理後、自然時効を施さずに冷間成形又は熱間成形を行い、さらに人工時効処理を施してもよい。
人工時効処理は、成形品を加熱炉に挿入することで行い、保持温度150〜200℃で1〜72時間保持とすることが好ましい。保持温度が150℃未満であると、成形品の強度が十分に増加せず、所定の機械的特性を得ることが困難となるため、好ましくない。
保持温度が200℃を超えると、成形品の強度が低下して、所定の機械的特性を得ることが困難となるため、好ましくない。保持時間が1時間未満であると、成形品の実体温度が不均一のまま処理が終了する可能性があるため、好ましくない。保持時間が72時間を超えると、生産性が低下するため、好ましくない。
〔薄スラブ連続鋳造シミュレート材の作製〕
表1に示した20水準の組成(合金No.1〜20)に配合された各種インゴット各5kgを#20坩堝内に挿入し、この坩堝を小型電気炉で加熱しインゴットを溶解した。次いで、溶湯中にランスを挿入して、N2ガスを流量1.0L/minで5分間吹き込んで脱ガス処理を行なった。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去した。次に坩堝を小型電気炉から取り出して、溶湯を内寸法200×200×16mmの水冷金型に流し込み、薄スラブを作製した。坩堝中の溶湯から採取した各供試材(合金No.1〜20)のディスクサンプルは、発光分光分析によって組成分析を行なった。その結果を表1に示す。この薄スラブの両面を3mmずつ面削加工して、厚さ10mmとした後、均質化処理、熱間圧延を施すことなく、冷間圧延を施して板厚2.5mmの冷延材とした。なお、冷間圧延工程の間に中間焼鈍処理は行っていない。この場合の最終冷延率は75%であった。
合金No.3の冷延材を所定の大きさに切断後、この冷延材をソルトバスに挿入して、550℃×5minの条件下で加熱保持し、ソルトバスから素早く取り出して水冷し溶体化処理を施した。その後、一部は自然時効を行わずにアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例11)とした。また、一部は室温にて24,48,72時間の自然時効を行ってT4材とし、これらT4材をアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例12,13,14)とした。
合金No.3の冷延材を所定の大きさに切断後、この冷延材をソルトバスに挿入して、550℃×5minの条件下で加熱保持し、ソルトバスから素早く取り出して水冷し溶体化処理を施した。その後、室温にて48時間の自然時効を行ってT4材とした。このT4材について、冷間プレス成形を模擬して引張試験機を用いて室温にて2%予歪を導入し、さらにアニーラーに挿入して、175℃×14時間の人工時効処理を施して、供試材(実施例15)とした。
〔引張試験による諸特性の測定〕
得られた各供試材の機械的特性評価は、引張り試験の引張り強度、0.2%耐力、伸び(破断伸び)の値によって行った。
具体的には、得られた供試材より、引張り方向が圧延方向に対して平行方向(L方向)及び垂直方向(LT方向)になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準じて引張り試験を行って、引張り強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)、伸び(%)を求めた。なお、これら引張り試験は、各供試材のL方向/LT方向につき3回(n=3)行い、その平均値で算出した。
L方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLが350MPa以上であり、且つLT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLTが350MPa以上であった供試材を強度評価良好(〇)とし、UTSL及びUTSLTのうち少なくともいずれか一方が350MPa未満であった供試材を強度評価不良(×)とした。評価結果を表2に示す。
得られた各供試材の耐衝撃特性評価は、計装化シャルピー衝撃試験の吸収エネルギー、シャルピー衝撃値、下り傾き値の値によって行った。
具体的には、得られた供試材より、計装化シャルピー衝撃試験用の試験片として、圧延方向に対して0°方向(L方向)/90°方向(LT方向)を長手方向として試料を採取し、図1に示すような55mm×10mm×2.5mm寸法(45°Vノッチ,深さ2mm)の試験片(n=3)に加工した。計装化シャルピー衝撃試験の結果(荷重−変位曲線)から、各供試材の吸収エネルギー(J)、シャルピー値(J/cm2)、下り傾き値(N/mm/mm2)を算出した。
L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLが16.0J/cm2以上であった供試材を耐衝撃性評価良好(〇)とし、16.0J/cm2未満であった供試材を耐衝撃性評価不良(×)とした。
L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるSL/SLTが1.4未満であった供試材を耐衝撃性に関する異方性評価良好(〇)とし、1.4以上であった供試材を耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)とした。評価結果を表2に示す。
得られた各供試材について、RD−ST面を研磨し、日本電子製走査電子顕微鏡(JSM−6490A)に装入し、結晶方位解析装置を用いて500μm×500μmの範囲を測定した。得られた解析結果を、TSL製OIM ANALYSISによって解析し、結晶粒径のエリア平均を平均結晶粒径とした。評価結果を、表2に示す。
供試材の特性評価結果を示す表2における実施例1〜9,11〜15は、本発明の組成範囲内であり、供試材のL方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSL、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLT、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SL、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるSL/SLTとも全て、基準値を満たしていた。
具体的には、供試材のL方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSL:350MPa以上、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLT:350MPa以上、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SL:16.0J/cm2以上、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLとLT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値SLTとの比であるSL/SLT:1.4未満の基準値を満たしていた。すなわち、実施例1〜9,11〜15は、強度評価良好(〇)、耐衝撃性評価良好(〇)、耐衝撃性に関する異方性評価良好(〇)であった。
比較例1は、Si含有量が低すぎたため、強度評価不良(×)であった。比較例2は、Si含有量が高すぎたため、耐衝撃性評価不良(×)、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。
比較例3は、Fe含有量が高すぎたため、強度評価不良(×)であった。
比較例4は、Cu含有量が低すぎたため、強度評価不良(×)であった。比較例5は、Cu含有量が高すぎたため、耐衝撃性評価不良(×)であった。
比較例6は、Mg含有量が低すぎたため、強度評価不良(×)であった。比較例7は、Mg含有量が高すぎたため、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。
比較例8は、Mn含有量が低すぎたため、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。比較例9は、Mn含有量が高すぎたため、強度評価不良(×)であった。
比較例10は、Cr含有量が低すぎたため、耐衝撃性評価不良(×)、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。比較例11は、Cr含有量が高すぎたため、強度評価不良(×)、耐衝撃性に関する異方性評価不良(×)であった。
Claims (8)
- Si:0.50〜0.90質量%、Fe:0.70質量%未満、Cu:0.10〜0.90質量%、Mg:0.80〜1.7質量%、Mn:0.10〜1.3質量%、Cr:0.20〜0.60質量%、Ti:0.005〜0.10質量%及び残部がAl及び不可避的不純物からなり、Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である成分組成を有するアルミニウム合金冷延板であって、
L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSLが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、SLが16.0J/cm2以上であり、SL/SLTの比が1.4未満であることを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。 - 550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
- L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSLが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
- Si:0.50〜0.90質量%、Fe:0.70質量%未満、Cu:0.10〜0.90質量%、Mg:0.80〜1.7質量%、Mn:0.10〜1.3質量%、Cr:0.20〜0.60質量%、Ti:0.005〜0.10質量%及び残部がAl及び不可避的不純物からなり、Si/Mg比が0.4〜0.9の範囲である成分組成を有するアルミニウム合金冷延板であって、
L方向を長手方向とする試験片の引張り強度をUTSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の引張り強度UTSLTと定義し、L方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片のシャルピー値をSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、金属組織が平均結晶粒径20μm未満の再結晶組織であり、UTSLが350MPa以上であってUTSLTが350MPa以上であり、SLが16.0J/cm2以上であり、SL/SLTの比が1.4未満であることを特徴とする成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。 - 550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、SLTが13.0J/cm2以上であることを特徴とする請求項4に記載の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
- L方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLと定義し、LT方向を長手方向とする試験片の0.2%耐力をYSLTと定義すると、550℃×5分間の溶体化処理を施し、さらに175℃×14時間の人工時効処理を施した後に測定した、YSLが300MPa以上であってYSLTが300MPa以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法であって、請求項1に記載の成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブに連続的に鋳造し、
前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とするAl−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法。 - 請求項4〜6のいずれか1項に記載の成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法であって、請求項4に記載の成分組成を有するアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜15mmのスラブに連続的に鋳造し、
前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率50〜95%の冷間圧延を施すことを特徴とする成形用Al−Mg−Si系アルミニウム合金冷延板の製造方法。
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