前記のようなサイドシルには、車両衝突時に車室内の搭乗者の安全を確保するために次のような特性を有することが求められている。
(A)曲げ剛性について
車両の正面衝突時には前記サイドシルに大きな軸圧縮荷重が作用するが、当該軸圧縮荷重がサイドシルの中心からわずかにずれて偏心荷重として作用した場合、当該サイドシルには上下方向または左右方向の曲げ荷重が作用することになる。従って、当該曲げ荷重に対抗する高い曲げ強度が要求される。また、当該サイドシルは、センターピラーやフロントピラーのように上下方向に延びる部材の下端に接合されて車内空間を囲むキャビン部を構成することから、骨格部材としても高い曲げ剛性が求められる。
(B)側面衝突時のエネルギー吸収について
車両の側面衝突時には側方から大きな衝撃荷重が作用するが、当該衝撃荷重から搭乗者を有効に保護するためには、サイドシル自体が多くの衝突エネルギーを有効に吸収する機能をもつことが好ましい。しかも、その側面衝突時の衝撃荷重をサイドシルが高い確率で直接受けとめるためには、ある程度大きな上下方向の寸法が必要になる。
一方、近年は、地球環境の問題から自動車への軽量化要求も強くなり、前記サイドシルについても軽量化が要求されている。このような背景から、前記曲げ剛性の確保や衝撃エネルギーの吸収のためにサイドシルの構造を重厚にすることには著しい制限がある。
本発明は、軽量な構造で、車幅方向及び上下方向の曲げ荷重に対する高い曲げ剛性の確保と優れた衝突エネルギー吸収特性を有することが可能なサイドシル及び当該サイドシルを製造するために好適な方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成する手段として、本発明者らは、車両の幅方向についてサイドシルの内側部分と外側部分とで構造を異ならせ、当該サイドシルに求められる特性を当該内側部分と当該外側部分とに割り振ることに想到した。これにより、構造を著しく重厚にすることなく、求められる特性を全て成立させることが可能である。具体的に、上下方向について大きな領域で側面衝突時の側方からの衝撃荷重を受ける必要がある外側部分には大きな上下方向の寸法を与えて上下方向の曲げ荷重に対抗し得る曲げ剛性を与える一方、フロアパネル等の設置のために高さに著しい制限のある内側部分には前記側面衝突時の側方からの衝撃荷重を有効に吸収するための構造を与えることにより、当該サイドシル全体の著しい重厚化を伴うことなく当該サイドシルに好ましい特性を全て付与することが可能である。
具体的に、提供されるのは、車両の前後方向に延びる姿勢で当該車両の幅方向である車幅方向について当該車両のフロアパネルの外側に設けられるサイドシルであって、前記サイドシルの長手方向に直交する第1横断面を有する第1横断面部と、前記第1横断面と平行な第2横断面を有し、前記車幅方向について前記第1横断面部の内側に位置しかつ当該第1横断面部とつながる第2横断面部と、を備える。前記第1横断面部は、前記第1横断面において第1内部空間を囲む閉断面を形成する第1外壁と、前記第1内部空間内で前記車幅方向に延びかつ当該車幅方向の両端部が前記第1外壁とつながる少なくとも一つの第1内部横壁と、を有する。前記第2横断面部は、前記第2横断面において第2内部空間を囲む閉断面を形成する第2外壁と、前記第2内部空間内で前記車両の上下方向である車両上下方向に延びかつ当該車両上下方向の両端部が前記第2外壁とつながる少なくとも一つの第2内部縦壁と、を有する。前記車両上下方向の前記第1外壁の寸法は前記車幅方向の前記第1外壁の寸法よりも大きく、前記第1外壁は前記車両上下方向について前記第2外壁よりも大きな寸法を有し、かつ、前記第1外壁の上端が前記第2外壁の上端よりも上下方向について高い位置にある。
前記サイドシルでは、前記第1横断面部と前記第2横断面部との前記車幅方向の連接により、当該サイドシルに加えられる車幅方向の曲げ荷重に対する高い曲げ剛性が担保されるとともに、前記第1横断面部に前記第2横断面部よりも大きな車両上下方向の寸法をもつ縦長の形状が与えられることにより当該サイドシルに加えられる車両上下方向の曲げ荷重に対しても高い曲げ剛性が担保される。特に、前記第2横断面部よりも車幅方向外側に位置する前記第1横断面部は、その前方に位置するタイヤ等を介して正面からの衝突荷重を直接受ける可能性が高く、よって当該第1横断面部が車両上下方向の荷重に対抗する高い曲げ剛性を有することは正面衝突時における車両前後方向の軸圧縮荷重に対して有効である。また、当該第1横断面部において閉断面を形成する第1外壁が前記第2横断面部において閉断面を形成する第2外壁よりも車両上下方向について大きな寸法を有することは、フロアパネルの設置等のために前記第2横断面部の高さを抑えながら車幅方向外側からの側方荷重を前記第1横断面部が受ける範囲(車両上下方向の範囲)を広げて当該側方荷重を当該第1横断面部が受ける確率を高めることができる。
一方、前記第2横断面部は、前記車幅方向について前記サイドシルの内側に配置される他の車体構成部材(例えば平面視梯子状のラダーフレームや、電気自動車等におけるフロアパネルの下方にバッテリーを格納するためのバッテリーフレーム)と前記第1横断面部との間に介在して前記第1横断面部が受ける側方荷重のエネルギーを吸収することにより、前記他の車体構成部材の変形を抑制することができる。具体的に、当該第2横断面部は、前記側方荷重を受けて座屈することにより、第1横断面部の圧壊変形と併せて車幅方向に大きなエネルギー吸収ストロークを確保し、これにより、前記側方荷重のエネルギーを有効に吸収することができる。
さらに、当該第2横断面部に含まれる第2内部縦壁は、その車両上下方向両端部がそれぞれ前記第2外壁とつながることにより、当該第2外壁の座屈波長を前記車幅方向に分割してそのエネルギー吸収効率を高めることができる。また、当該第1横断面部の第1内部横壁は、前記第1外壁の比較的高い部位に側方荷重が加わる場合にも当該側方荷重のエネルギーを前記第2横断面部に効率よく伝えて当該第2横断面部のエネルギー吸収機能を有効に発揮させることができる。
前記第2外壁は、好ましくは、前記車幅方向について、前記第1外壁よりも大きな寸法を有する。このことは、車幅方向の荷重に対するサイドシル全体の曲げ剛性を高めることに加え、第2横断面部が前記側方荷重のエネルギーを吸収するための前記車幅方向の有効ストロークを大きくすることを可能にする。しかも、このように前記第2横断面部に大きな車幅方向の寸法が与えられていても、前記少なくとも一つの第2内部縦壁が前記第2外壁における座屈波長を複数に分割することにより当該座屈波長を短くすることが可能である。このことは、荷重変動を抑えて安定したエネルギー吸収を行うことを可能にする。
前記効果は、前記少なくとも一つの第2内部縦壁が前記車幅方向に間隔をおいて並ぶ複数の第2内部縦壁を含むことにより、さらに顕著となる。当該複数の第2内部縦壁は、前記第2外壁の座屈波長をより細かく分割することが可能である。これは、前記第2外壁の車幅方向の寸法が大きい場合に特に有効である。
前記第1及び第2外壁の具体的態様として、前記第1外壁は、前記第1横断面において前記車両上下方向に延びる第1外側縦壁と、前記第1横断面において前記第1外側縦壁から前記第1内部空間を挟んで前記車幅方向の内側に離れた位置で前記車両上下方向に延びる第1内側縦壁と、前記第1横断面において前記車幅方向に延びかつ前記第1外側縦壁の上端部と前記第1内側縦壁の上端部とにつながる第1上側横壁と、前記第1横断面において前記車幅方向に延びかつ前記第1外側縦壁の下端部と前記第1内側縦壁の下端部とにつながる第1下側横壁と、を有し、前記少なくとも一つの第1内部横壁の前記車幅方向の両端部が前記第1外側縦壁と前記第1内側縦壁とにつながり、前記第1外側縦壁及び前記第1内側縦壁の前記車両上下方向の寸法が前記第1上側横壁及び前記第1下側横壁の前記車幅方向の寸法よりも大きく、前記第2外壁は、前記第2横断面において前記車両上下方向に延びかつ前記第1内側縦壁とつながる第2外側縦壁と、前記第2横断面において前記第2外側縦壁から前記第2内部空間を挟んで前記車幅方向の内側に離れた位置で前記車両上下方向に延びる第2内側縦壁と、前記第2横断面において前記車幅方向に延びかつ前記第2外側縦壁の上端部と前記第2内側縦壁の上端部とにつながる第2上側横壁と、前記第2横断面において前記車幅方向に延びかつ前記第2外側縦壁の下端部と前記第2内側縦壁の下端部とにつながる第2下側横壁と、を有し、前記少なくとも一つの第2内部横壁の前記車両上下方向の両端部が前記第2上側横壁と前記第2下側横壁とにつながり、前記第1外側縦壁及び前記第1内側縦壁は前記車両上下方向について前記第2外側縦壁及び前記第2内側縦壁よりも大きな寸法を有し、かつ、前記第1上側横壁が前記第2上側横壁よりも前記車両上下方向について高い位置にあるものが、好適である。
前記縦壁(第1外側及び第1内側縦壁、第2外側及び第2内側縦壁、並びに第2内部縦壁)のそれぞれについて、「車両上下方向に延びる」とは、当該縦壁が当該車両上下方向と完全に平行な壁であることを限定する趣旨ではなく、当該車両上下方向の荷重を受けることができる程度に当該上下方向に対して多少傾斜しながら当該車両上下方向に延びるものや前記第1横断面において前記車幅方向に多少曲がったもの、あるいは比較的小さな車幅方向の段部を含むものも包含する。同様に、前記横壁(第1上側及び第1下側横壁、第1上側及び第1下側横壁、並びに第1内部横壁)のそれぞれについて、「車幅方向に延びる」とは、当該横壁が当該車幅方向と完全に平行な壁であることを限定する趣旨ではなく、当該車幅方向の荷重を受けることによって座屈変形が可能となる程度に当該当該幅方向に対して多少傾斜しながら当該幅方向に延びるものや前記第2横断面において前記車両上下方向に多少曲がったもの、あるいは比較的小さな車両上下方向の段部を含むものも、包含する。
また、前記第2外側縦壁について「前記第1内側縦壁とつながる」とは、前記車幅方向外側から加えられる側方荷重が当該第1内側縦壁から当該第2外側縦壁に伝達されるように両縦壁が互いに接合されるものの他、当該第2外側縦壁及び当該第1内側縦壁の少なくとも一部が共通の縦壁によって構成されるものも含む。
この態様では、前記第1外側縦壁及び第1内側縦壁が前記車両上下方向について前記第2外側縦壁及び第2内側縦壁よりも大きな寸法を有することが、前記第2横断面部の高さを抑えながら車幅方向外側からの側方荷重を前記第1外側縦壁が受ける確率を高めることを可能にする。また、前記第2横断面部の第2上側横壁及び第2下側横壁は、前記側方荷重を受けて座屈することにより、前記側方荷重のエネルギーを有効に吸収することができる。さらに、前記第2横断面部の第2内部縦壁は、前記第2外側縦壁と前記第2内側縦壁との間の位置で前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁の中間部分とそれぞれつながることにより、前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁の座屈波長を前記車幅方向に分割してそのエネルギー吸収効率を高めることができる。しかも、当該第1横断面部の第1内部横壁は、前記第1外側縦壁の比較的高い部位に側方荷重が加わる場合にも当該側方荷重のエネルギーを前記第2横断面部に効率よく伝えて当該第2横断面部のエネルギー吸収機能を有効に発揮させることができる。
この態様では、前記第2横断面部の前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁が、前記車幅方向について、前記第1横断面部の前記第1上側横壁及び前記第1下側横壁よりも大きな寸法を有することが、好ましい。このことは、前記第2横断面部の前記有効ストロークを大きくすることを可能にする。しかも、前記少なくとも一つの第2内部縦壁が前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁における座屈波長を複数に分割することにより当該座屈波長を短くすることが可能である。
この態様においても、前記少なくとも一つの第2内部縦壁が前記車幅方向に間隔をおいて並ぶ複数の第2内部縦壁を含むことが、好ましい。当該複数の第2内部縦壁は、前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁の座屈波長をより細かく分割することが可能である。
前記少なくとも一つの第1内部横壁は、前記第2上側横壁と前記車幅方向に並ぶ第1内部上側横壁を含み、当該第1内部上側横壁の端部のうち前記第1内側縦壁につながる端部である内側端部の少なくとも一部が前記第2上側横壁の端部のうち前記第2外側縦壁につながる外側端部と前記車両上下方向についてオーバーラップするように当該第1内部上側横壁が配置されていることが、好ましい。当該第1内部上側横壁は、前記第1外側縦壁が受ける側方荷重のエネルギーを高い効率で前記第2上側横壁に伝えてこれを座屈変形させることができる。
この場合、前記第1内部上側横壁における前記車幅方向の寸法と最小厚みとの比である幅厚比が、前記第2上側横壁において前記少なくとも一つの第2内部縦壁により車幅方向に分割された各分割要素の前記車幅方向の寸法と最小厚みとの比である幅厚比のそれぞれよりも大きいことが、好ましい。このことは、前記第1内部上側横壁を前記第2上側横壁の前記各分割要素よりも座屈しやすくして側面衝突時に車幅方向外側から前記第1内部上側横壁及び前記第2上側横壁がその順に安定して圧壊変形することを可能にする。換言すれば、前記第2内部縦壁は、大きなエネルギー吸収ストロークの確保のために前記第2上側横壁に大きな車幅方向の寸法が与えられている場合でも、当該第2上側横壁の厚みを前記第1内部上側横壁の厚みよりも著しく大きくすることなく、前記側方荷重によって当該第1内部上側横壁及び当該第2上側横壁がその順に圧壊変形することを可能にする。
また、前記少なくとも一つの第1内部横壁は、前記第1内部上側横壁よりも下側に位置する第1内部下側横壁をさらに含み、前記第2横断面部は、前記第2横断面において前記第2上側横壁と前記第2下側横壁との間の位置で前記第2内部縦壁と交差しながら車幅方向に延びて前記第2外側縦壁と前記第2内側縦壁とにつながる第2内部横壁をさらに有し、当該第2内部横壁は前記第1内部下側横壁により伝達される側方荷重により座屈変形することが可能となる高さに位置することが、好ましい。このことは、第1外側縦壁が受ける側方荷重のエネルギーによって第2上側横壁及び第2下側横壁だけでなく第2内部横壁も座屈変形して前記第2横断面部のエネルギー吸収機能がさらに高まることを可能にする。また、前記第2内部横壁と交差する前記第2内部縦壁は、前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁に加えて前記第2内部横壁の座屈波長も分割する機能を発揮する。
この場合も、前記第1内部下側横壁の端部のうち前記第1内側縦壁につながる端部である内側端部の少なくとも一部が前記第2内部横壁の端部のうち前記第2外側縦壁につながる外側端部と前記車両上下方向についてオーバーラップするように当該第1内部下側横壁と当該第2内部横壁とが前記車幅方向に並んでいることが、好ましい。このことは、前記第1外側縦壁が受ける側方荷重のエネルギーを前記第1内部下側横壁が高い効率で前記第2内部横壁に伝えることを可能にする。
そして、この場合も、前記第1内部下側横壁における前記車幅方向の寸法と最小厚みとの比である幅厚比が前記第2内部横壁において前記少なくとも一つの第2内部縦壁により車幅方向に分割された各分割要素の前記車幅方向の寸法と最小厚みとの比である幅厚比のそれぞれよりも大きいことが、好ましい。このことは、前記第1内部下側横壁を前記第2内部横壁の各分割要素よりも座屈しやすくして側面衝突時に車幅方向外側から前記第1内部下側横壁及び前記第2内部横壁がその順に安定して圧壊変形することを可能にする。換言すれば、前記第2内部縦壁は、大きなエネルギー吸収ストロークのために前記第2内部横壁に大きな車幅方向の寸法が与えられている場合でも、当該第2内部横壁の厚みを前記第1内部下側横壁の厚みよりも著しく大きくすることなく、前記側方荷重によって前記第1内部下側横壁及び前記第2内部横壁がその順に圧壊変形することを可能にする。
前記第1横断面部は、前記第1横断面において前記第1外壁の上端からさらに上向きに突出して前記サイドシルの上方に位置する当該サイドシル以外の他の車体構成部材と連結可能な連結突出壁を有することが好ましい。当該連結突出壁は、前記サイドシルが車両の衝突によって荷重を受けた時や、車両走行時の振動等による荷重を受ける時に、当該連結突出壁に連結された前記他の車体構成部材に荷重を伝達する役目を受け持つ。当該連結突出壁が前記第2横断面部ではなくこれよりも前記車両上下方向の寸法が大きい縦長でかつ車幅方向外側に配置された前記第1横断面部に含まれることは、衝突等に起因する前記荷重を前記連結突出壁が他の車体構成部材に伝達することを容易にし、剛性の向上や衝突強度の確保に有効である。また、前記第1外壁の上端の高さ位置と前記第2外壁の上端の高さ位置との差分だけ前記連結突出壁の必要突出寸法を削減することも可能である。
より具体的に、前記第1外壁が前記第1外側及び内側縦壁並びに前記第1上側及び下側横壁を有し、前記第2外壁が前記第2外側及び内側縦壁並びに前記第2上側及び下側横壁を有する態様では、前記連結突出壁が、前記車幅方向について前記第1上側横壁の中央位置よりも前記第1内側縦壁に近い位置で当該第1上側横壁につながっていることが好ましい。このように前記第1内側縦壁に近い位置に前記連結突出壁を設けることにより、前記第1上側横壁の前記車両上下方向の撓み変形を抑えて第1内側縦壁からの荷重伝達特性を向上させることが可能である。このことは、車体剛性の向上や衝突強度の確保に有効である。また、前記車幅方向について前記連結突出壁の外側に例えばサイドドアを受け入れる空間を確保することが可能である。
前記サイドシルは、単一の部材によって構成されたものであってもよい。例えば、前記第1横断面部及び前記第2横断面部を含む当該サイドシル全体がアルミニウム合金の押出し成形等によって一体に成形されてもよい。あるいは、当該サイドシルは、前記第1横断面部が前記長手方向に延びる第1部材により構成され、前記第2横断面部が前記第1部材とは独立した部材であって前記長手方向に延びる第2部材により構成され、前記第1横断面部の前記第1外壁と前記第2横断面部の前記第2外壁とが接合されて前記第1部材と前記第2部材とが一体化されたものであってもよい。後者の場合、サイドシル全体の横断面形状が大きく、あるいは複雑であっても、当該サイドシルを構成する前記第1部材及び第2部材のそれぞれの横断面をサイドシル全体の横断面よりも小さくすることによりこれらの押出し成形等を容易にし、これにより前記第1及び第2横断面部の形状の高い精度を担保することが可能である。また、サイドシルの仕様によって、前記第1横断面部を構成する前記第1部材の材質と前記第2横断面部を構成する前記第2部材の材質とを互いに異ならせることも可能である。
また、本発明によれば、このようなサイドシルを製造するために好適な方法が提供される。当該方法は、アルミニウム合金の押出し成形によって前記第1部材を成形する工程と、アルミニウム合金の押出し成形によって前記第2部材を成形する工程と、前記第1横断面部の前記第1外壁と前記第2横断面部の前記第2外壁とを接合して前記第1部材と前記第2部材とを一体化する工程と、を含む。この方法により、アルミニウム合金からなる軽量のサイドシルが効率よく製造される。また、サイドシル全体の横断面が大きく、あるいは複雑であっても、互いに別部材である前記第1及び第2部材を容易にアルミニウム合金の押出し成形によって形成することが可能である。
ここで、「第1外壁と第2外壁とを接合」するとは、必ずしも当該第1及び第2外壁の双方に直接溶接やリベット止めを施すものに限られない。例えば、第1及び第2部材のうちの一方の部材に与えられたフランジ部が他方の部材に溶接またはリベット止めされることにより前記第1及び第2外壁が相互に接合されてもよい。
以上のように、本発明によれば、軽量な構造で、車幅方向及び上下方向の曲げ荷重に対する高い曲げ剛性の確保と優れた衝突エネルギー吸収特性を有することが可能なサイドシル及び当該サイドシルを製造するために好適な方法が、提供される。
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、以下に説明するそれぞれの実施の形態に係るサイドシル2の配置の例を示す。同図に示すサイドシル2は、図示されないクロスメンバー等とともに車体(ボディ)の下部を構成する。当該サイドシル2は、車両の前後方向(図1では左右方向)に直線状に延びる姿勢で、当該車両の幅方向である車幅方向について図2に示されるフロアパネル3の両外側の位置にそれぞれ配置される。前記クロスメンバーは左右にそれぞれ配置された前記サイドシル2を相互に接続する。
前記サイドシル2の前部及び中間部には、車両の上下方向である車両上下方向に延びるフロントピラー4及びセンターピラー6の下端部がそれぞれ接続される。前記サイドシル2の前端部は、前後方向について前記フロントピラー4と同等の位置にあるか、あるいは当該フロントピラー4よりも前方に突出している。従って、正面衝突時には、図1に矢印A1で示されるように、前記サイドシル2の前端部には後向きの大きな軸圧縮荷重が加わる。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るサイドシル2の横断面を示す。当該横断面は、前記サイドシル2の長手方向と直交する断面、換言すれば、当該サイドシル2を当該長手方向に沿ってフロント側またはリア側から見た断面、であり、例えば図1に示されるII−II線に沿った断面である。
前記サイドシル2は、前記横断面が当該サイドシル2の長手方向に均一な部材であり、第1横断面部10と、第2横断面部20と、を備える。前記第1横断面部10は、図2に示される断面、すなわち前記車幅方向と平行な第1横断面を有し、かつ、当該第1横断面が前記長手方向に均一である。同様に、前記第2横断面部10は前記車幅方向と平行な第2横断面を有し、かつ、当該第2横断面が前記長手方向に均一である。当該第2横断面部20は車幅方向について前記第1横断面部10の内側に位置して当該第1横断面部10とつながる。
この第1の実施の形態に係るサイドシル2では、前記第1横断面部10と前記第2横断面部20とを含む当該サイドシル2全体が一体に成形されている。当該サイドシル2は、例えばアルミニウム合金からなる押出し材により構成されることが可能である。
前記第1横断面部10は、第1外側縦壁11と、第1内側縦壁12と、第1上側横壁13と、第1下側横壁14と、第1内部上側横壁15と、第1内部下側横壁16と、を有する。
第1外側縦壁11、第1内側縦壁12、第1上側横壁13及び第2下側横壁14は、前記第1横断面において縦長矩形状の第1内部空間を囲む閉断面を形成する第1外壁を構成する。具体的に、前記第1外側縦壁11は、前記第1横断面において前記車両上下方向に延び、前記第1内側縦壁12は、前記第1横断面において前記第1外側縦壁11から前記車幅方向の内側(図2では左側)に離れた位置で前記車両上下方向に延びる。前記第1上側横壁13は、前記第1横断面において前記車幅方向に延び、かつ、当該第1上側横壁13の車幅方向両端部が前記第1外側縦壁11の上端部と前記第1内側縦壁12の上端部とにそれぞれ一体につながる。前記第1下側横壁14は、前記第1横断面において前記車幅方向に延び、かつ、当該第1下側横壁14の車幅方向両端部が前記第1外側縦壁11の下端部と前記第1内側縦壁12の下端部とにそれぞれ一体につながる。前記第1外側縦壁11及び前記第1内側縦壁12は、前記第1上側横壁13及び前記第1下側横壁14の前記車幅方向の寸法W1よりも大きな車両上下方向の寸法H1を有する。
前記第1内部上側横壁15及び前記第1内部下側横壁16のそれぞれは、前記第1横断面において前記第1上側横壁13と前記第1下側横壁14との間の前記第1内部空間内で前記車幅方向に延び、かつ、当該車幅方向の両端部が前記第1外側縦壁11の車両上下方向中間部分と前記第1内側縦壁12の車両上下方向中間部分とにそれぞれ一体につながる。この第1の実施の形態では、前記第1上側横壁13、前記第1内部上側横壁15、前記第1内部下側横壁16及び前記第1下側横壁14がその順にほぼ等間隔で前記車両上下方向に並んでいる。しかし、これらの間隔は必ずしも同等でなくてもよい。
前記第2横断面部20は、第2外側縦壁21と、第2内側縦壁22と、第2上側横壁23と、第2下側横壁24と、第2内部縦壁25と、第2内部横壁26と、を有する。
前記第2外側縦壁21、第2内側縦壁22、第2上側横壁23及び第2下側横壁24は、前記第2横断面において横長矩形状の第2内部空間を囲む閉断面を形成する第2外壁を構成する。具体的に、前記第2外側縦壁21は、前記第2横断面において前記車両上下方向に延び、かつ、前記第1内側縦壁12と一体につながる。前記第2内側縦壁22は、前記第2横断面において前記第2外側縦壁21から前記車幅方向の内側(図2では左側)に離れた位置で前記車両上下方向に延びる。前記第2上側横壁23は、前記第2横断面において前記車幅方向に延び、かつ、当該第2上側横壁23の車幅方向両端部が前記第2外側縦壁21の上端部と前記第2内側縦壁22の上端部とにそれぞれ一体につながる。前記第2下側横壁24は、前記第2横断面において前記車幅方向に延び、かつ、当該第2下側横壁24の車幅方向両端部が前記第2外側縦壁21の下端部と前記第2内側縦壁22の下端部とにそれぞれ一体につながる。
前記第2外側縦壁21及び前記第2内側縦壁22の前記車両上下方向の寸法H2は、前記第1外側縦壁11及び前記第1内側縦壁12の前記車両上下方向の寸法H1よりも小さい。また、前記第2下側横壁24は前記第1下側横壁14と同等の高さ位置にある(つまり同じ水平面上に位置する)のに対し、前記第2上側横壁23は前記第1上側横壁13よりも低い位置にある。換言すれば、前記第1外側縦壁11及び前記第1内側縦壁12の前記車両上下方向の寸法H1が前記第2外側縦壁21及び前記第2内側縦壁22の前記車両上下方向の寸法H2よりも大きく、かつ、前記第1上側横壁13が前記第2上側横壁14よりも高い位置にある。このことは、車両側方の位置から見て当該第1横断面部10が第2横断面部20を完全に覆うことを可能にする。
この実施の形態では、前記第1及び第2横断面部10,20が単一の部材により構成されているため、前記第1横断面部10の第1下側横壁14及び前記第2横断面部20の第2下側横壁24が実質上は単一の平板により構成されている。また、前記第1横断面部10の第1内側縦壁12及び前記第2横断面部20の第2外側縦壁21は実質上単一の共通縦壁30により構成されている。具体的に、当該共通縦壁30は前記第1横断面部10と前記第2横断面部20との境界を画定するように前記車両上下方向に延び、当該共通縦壁30のうち前記第2上側横壁23よりも下側の部分が前記第1内側縦壁12の下部と前記第2外側縦壁21の全体を兼ね、当該共通縦壁30のうち前記第2上側横壁23よりも上側に突出する部分が前記第1内側縦壁12の上部を構成している。このように、本発明にいう「第1内側縦壁とつながる第2外側縦壁」とは、当該第2外側縦壁及び当該第1内側縦壁の少なくとも一部が共通の縦壁を形成するものも含む趣旨である。
この実施の形態に係る前記第2横断面部20の第2上側横壁23及び第2下側横壁24は、前記第1横断面部10の第1上側横壁13及び第1下側横壁14の前記車幅方向の寸法W1よりも大きな車幅方向の寸法W2を有している。また、当該車幅方向の寸法W2は、当該第2横断面部20の第2外側縦壁21及び第2内側縦壁22の前記車両上下方向の寸法H2と比べても大きい。
前記第2内部縦壁25は、前記第2横断面において前記第2外側縦壁21と前記第2内側縦壁22との間の前記第2内部空間内で前記車両上下方向に延び、当該第2内部縦壁25の上下両端部は前記第2上側横壁23の中間部分と前記第2下側横壁24の中間部分とにそれぞれ一体につながっている。
前記第2内部横壁26は、前記第2横断面において前記第2上側横壁23と前記第2下側横壁24との間の前記第2内部空間内で前記第2内部縦壁25と交差(この実施の形態では直交)しながら車幅方向に延び、当該第2内部横壁26の前記車幅方向の両端部が前記第2外側縦壁21(この実施の形態では前記共通縦壁30)の前記車両上下方向の中間部分と前記第2内側縦壁22の前記車両上下方向の中間部分とにそれぞれ一体につながっている。
この実施の形態において、前記第1内部上側横壁15は、前記第2上側横壁23と前記車幅方向に並ぶように配置されている。より詳しくは、当該第1内部上側横壁15の端部のうち前記第1内側縦壁12(この実施の形態では前記共通縦壁30)につながる端部である内側端部15aの少なくとも一部が前記第2上側横壁23の端部のうち前記第2外側縦壁21(この実施の形態では前記共通縦壁30)につながる外側端部23aと前記車両上下方向についてオーバーラップする程度に、当該第1内部上側横壁15及び当該第2上側横壁23の高さ位置が互いに揃えられている。
また、前記第1内部下側横壁16は、前記第2内部横壁26と前記車幅方向に並ぶように配置されている。より詳しくは、前記第1内部下側横壁16の端部のうち前記第1内側縦壁12(この実施の形態では前記共通縦壁30)につながる端部である内側端部16aの少なくとも一部が前記第2内部横壁26の端部のうち前記第2外側縦壁21(この実施の形態では前記共通縦壁30)につながる外側端部26aと前記車両上下方向についてオーバーラップする程度に、当該第1内部下側横壁16及び当該第2内部横壁26の高さ位置が互いに揃えられている。
以上説明したサイドシル2は、前記第1及び第2横断面部10,20の前記車幅方向の連接によって当該車幅方向について高い曲げ剛性を保有することが可能であるのに加え、前記第1横断面部10に与えられた縦長の形状と前記第2横断面部20の前記車両上下方向の寸法H2よりも大きな前記車両上下方向の寸法H1とによって、前記車両上下方向の荷重に対して高い曲げ剛性を保有することができる。特に、前記第2横断面部20よりも車幅方向外側に位置する前記第1横断面部10は、その前方に位置するタイヤ等を介して正面からの衝突荷重を直接受ける可能性が高く、よって当該第1横断面部10が前記車両上下方向の荷重に対して高い曲げ剛性を有することは正面衝突時における前後方向の軸圧縮荷重に対して有効である。また、当該第1横断面部10の第1外側縦壁11及び第1内側縦壁12が前記車両上下方向について前記第2横断面部20の第2外側縦壁21及び第2内側縦壁22よりも大きな寸法を有することは、前記フロアパネル3の設置等のために前記第2横断面部20の高さを抑えながら車幅方向外側からの側方荷重A2を前記第1横断面部10が受ける確率を高めることができる。換言すれば、前記第1横断面部10に大きな高さ寸法H1を与えて当該第1横断面部10が側方荷重A2を受ける確率を高めながら、前記第2横断面部20の高さを抑えてその上方の例えば図2に二点鎖線で示されるような位置にフロアパネル3を配置することが可能である。
一方、前記第2横断面部20は、前記のような高さ制限下においても、側方荷重A2による衝突エネルギーの効果的な吸収によって車室内の搭乗者の安全確保に貢献することが可能である。具体的に、当該第2横断面部20は、前記車幅方向について前記サイドシル2の内側(図2では左側)にある車体構成部材(例えば車体中央に配置される平面視梯子状のラダーフレームや電気自動車等においてフロアパネル3の下方にバッテリーを格納するバッテリーフレーム)と前記第1横断面部10との間に介在して多くの前記衝突エネルギーを吸収することにより、前記車体構成部材の変形を有効に抑止することができる。
より具体的に、前記第2横断面部20の前記第2上側横壁23及び前記第2下側横壁24は、前記側方荷重A2を受けて座屈することにより、前記側方荷重A2のエネルギーの多くを吸収することができる。特に、この実施の形態では、前記第1横断面部10が前記第1内部上側横壁15及び前記第1内部下側横壁16を含むとともに、当該第1内部上側横壁15及び当該第1内部下側横壁16の高さ位置がそれぞれ前記第2横断面部20の第2上側横壁23及び第2内部横壁26の高さ位置に揃えられているので、当該第1内部上側横壁15及び当該第1内部下側横壁16は側面衝突時に前記第1外側縦壁11が受ける側方荷重A2を前記第2上側横壁23及び前記第2内部横壁26にそれぞれ高い効率で伝達して当該第2上側横壁23及び当該第2内部横壁26の座屈変形によるエネルギー吸収を確実に行わせることができる。
さらに、前記第2横断面部20に含まれる前記第2内部縦壁25は、前記第2外側縦壁21と前記第2内側縦壁22との間の位置で前記第2上側横壁23及び前記第2下側横壁24のそれぞれの車幅方向中間部分とつながることにより、前記第2上側横壁23及び前記第2下側横壁24の座屈波長を当該車幅方向に分割することができる。このことは、当該第2内部縦壁25によって分割された前記第2上側横壁23の各分割要素の折れ変形に伴う荷重変動を小さく抑えて高いエネルギー吸収効率の実現に寄与する。また、前記第2内部縦壁25は、前記第2横断面において前記第2内部横壁26と交差しながら前記車両上下方向に延びることにより、当該第2内部横壁26の座屈波長も分割して当該第2内部横壁26によるエネルギー吸収効率も高めることができる。これらのことは、車幅方向について前記第2上側横壁23及び前記第2下側横壁24に大きな寸法W2を与えることにより前記A2のエネルギーを吸収するための大きな有効ストロークを確保しながら、当該第2上側横壁23及び当該第2下側横壁24の座屈波長を短く抑えて高いエネルギー吸収効率を確保することを可能にする。
この効果は、本発明に係る「少なくとも一つの第2内部縦壁」が前記車幅方向に間隔をおいて並ぶ複数の第2内部縦壁を含む場合に、より顕著となる。このことは、前記各横壁の座屈波長をさらに細かく分割することを可能にし、特に当該横壁の車幅寸法が大きい場合に有効となる。
図3は、その例である第2の実施の形態に係るサイドシル2の横断面を示す。このサイドシル2の第2横断面部20は、前記第1の実施の形態に係る第2横断面部20の単一の第2内部縦壁25に代え、前記車幅方向に並ぶ2つの第2内部縦壁である第2内部外側縦壁25A及び第2内部内側縦壁25Bを含む。当該第2外側縦壁25A及び当該第2内部内側縦壁25Bの車幅方向についての位置は任意に設定されることが可能であるが、好ましくは、図3に示されるように、当該第2内部縦壁25A,25Bが各第2横壁23,24,26の車幅方向の長さを等分するように配置される。換言すれば、前記第2横断面部20の第2外側縦壁21、前記第2内部外側縦壁25A、前記第2内部内側縦壁25B及び前記第2内側縦壁22が車幅方向外側から順に等間隔で並ぶのが、好ましい。
一方、前記第1内部下側横壁16及び前記第2内部横壁26はサイドシル2の横断面の大きさや形状によっては適宜省略されることが可能である。図4は、その例である第3の実施の形態に係るサイドシル2の横断面を示す。この第3の実施の形態に係るサイドシル2の第1横断面部10はその内部に前記内部上側横壁15のみを有し、第2横断面部20はその内部に第2内部縦壁25のみを有する。この第3の実施の形態においても、前記第1内部上側横壁15は、前記第2横断面部20における第2上側横壁23と実質上同等の高さ位置にあること、具体的には、当該第1内部上側横壁15の内側端部15aの少なくとも一部が前記車両上下方向について前記第2上側横壁23の外側端部23aとオーバーラップする程度に両横壁15,23の高さ位置が揃えられていることが、好ましい。
前記いずれの実施の形態においても、前記第1内部上側横壁15における前記車幅方向の寸法と第1内部上側横壁15の厚みとの比である幅厚比が、前記第2上側横壁23において前記第2内部縦壁25により分割された各要素の車幅方向の寸法と前記第2上側横壁23の厚みとの比である幅厚比のそれぞれよりも大きいことが、好ましい。例えば、図2に示される第1の実施の形態では、前記第1内部上側横壁15における前記車幅方向の寸法(当該実施の形態では前記寸法W1)と前記第1内部上側横壁15の厚み(当該実施の形態では一定の厚みt1)との比である幅厚比R1(=W1/t1)が、前記第2上側横壁23において前記第2内部縦壁25により分割された各要素の車幅方向の寸法(前記実施の形態では図2に示される寸法W2a,W2b)と前記第2内部上側横壁23の厚み(前記各実施の形態では一定の厚みt2)との比である幅厚比R2a(=W2a/t2)及び幅厚比R2b(=W2b/t2)のそれぞれよりも大きいことが、好ましい。このことは、前記第1内部上側横壁15を前記第2上側横壁23の各分割要素よりも座屈しやすくして側面衝突時に車幅方向外側から前記第1内部上側横壁15及び前記第2上側横壁23の順に安定して圧壊変形させることを可能にする。換言すれば、前記第2内部縦壁25は、エネルギー吸収ストロークの確保のために前記第2上側横壁23に大きな車幅方向の寸法が与えられている場合でも、当該第2上側横壁23の厚みを前記第1内部上側横壁15の厚みよりも著しく大きくすることなく、車幅方向外側からの側方荷重A2によって前記第1内部上側横壁15及び前記第2上側横壁23がその順に圧壊変形することを可能にする。
さらに、前記第2上側横壁23の各分割要素については、車幅方向外側に位置する分割要素の前記幅厚比R2aが、車幅方向内側に位置する分割要素の前記幅厚比R2bよりも大きいこと(つまりR1>R2a>R2bであること)が、より好ましい。このことは、前記第2上側横壁23が車幅方向外側から円滑に圧壊変形することを可能にする。
同様に、前記第1及び第2の実施の形態のように前記第1横断面部10及び前記第2横断面部20がそれぞれ第1内部下側横壁16及び第2内部横壁26を有して当該横壁16,26が互いに略同等の高さ位置にあるものでは、前記第1内部下側横壁16における前記車幅方向の寸法と第1内部下側横壁16の厚みとの比である幅厚比が、車幅方向に分割された前記第2内部横壁26の各分割要素の前記車幅方向の寸法と前記第2内部横壁26の厚みとの比である幅厚比のそれぞれよりも大きいことが、好ましい。例えば、図2に示される第1の実施の形態では、前記第1内部下側横壁16における前記車幅方向の寸法(当該実施の形態では前記寸法W1)と前記第1内部下側横壁16の厚み(当該実施の形態では一定の厚みt3)との比である幅厚比R3(=W1/t3)が、前記第2内部横壁26においてこれと交差する前記第2内部縦壁25により分割された各分割要素の車幅方向の寸法(前記実施の形態では前記寸法W2a,W2b)と前記第2内部横壁26の厚み(前記各実施の形態では一定の厚みt4)との比である幅厚比R4a(=W2a/t4)及び幅厚比R4b(=W2b/t4)のそれぞれよりも大きいことが、好ましい。このことは、前記第1内部下側横壁16を前記第2内部横壁26の各分割要素よりも座屈しやすくして側面衝突時に車幅方向外側から前記第1内部下側横壁16及び前記第2内部横壁26の順に安定して圧壊変形させることを可能にする。換言すれば、前記第2内部縦壁25は、エネルギー吸収ストロークの確保のために前記第2内部横壁26に大きな車幅方向の寸法が与えられている場合でも、当該第2内部横壁26の厚みを前記第1内部下側横壁16の厚みよりも著しく大きくすることなく、当該第1内部下側横壁16及び当該第2内部横壁26がその順に圧壊変形することを可能にする。
ここでも、前記第2内部横壁26の各分割要素について、車幅方向外側に位置する分割要素の幅厚比R4aが車幅方向内側に位置する分割要素の幅厚比R4bよりも大きいこと(つまりR3>R4a>R4bであること)が、より好ましい。このことは、前記第2内部横壁26が車幅方向外側から円滑に圧壊変形することを可能にする。
なお、上述の幅厚比の計算は、前記第1内部横壁15,16の厚み及び前記第2内部横壁23,26の厚みがいずれも一定であることを前提とするものであるが、少なくとも一方の厚みが一定でない(つまり車幅方向の位置によって厚みが異なる)場合にも代表的な厚みを選定してこれに基づき幅厚比の計算をすることが可能である。具体的には、最も強度の低い部分が変形して座屈が生じることから、車幅方向中央近傍で最も小さい厚みを有する部位の当該厚みである最小厚みに基づいて前記計算が行われることが、好ましい。
前記いずれの実施の形態においても、前記第1横断面部10は、図2に示すような連結突出壁18をさらに含むことが、好ましい。当該連結突出壁18は、前記第1横断面において前記第1上側横壁13からさらに上向きに突出し、当該連結突出壁18の上端部が前記サイドシル2の上方に位置する当該サイドシル2以外の他の車体構成部材、この実施の形態では前記フロントピラー4及び前記センターピラー6、と連結される。
さらに、前記連結突出壁18は、図2に示されるように、前記第1上側横壁13の前記車幅方向の中央位置よりも前記第1内側縦壁12に近い位置(図2では左寄りの位置)で当該第1上側横壁13につながっていることが好ましい。前記連結突出壁18は、車両の衝突によって前記サイドシル2が荷重を受けた時、あるいは車両走行時の振動による荷重が前記サイドシル2に付加される時に、前記連結突出壁18に連結された前記他の車体構成部材に前記荷重を伝達する役目を受け持つ。前記第1内側縦壁12(前記各実施の形態では共通縦壁30)に近い位置に前記連結突出壁18を設けることは、前記のような荷重が付加された時の前記他の車体構成部材からの反力に起因する前記第1上側横壁13の前記車両上下方向の撓み変形を抑えることを可能にする。このように、サイドシル2に付加される荷重を前記連結突出壁18によって前記他の車体構成部材に効率よく伝達することにより、車体の剛性の向上や衝突強度の確保が可能となる。しかも、前記車幅方向について前記連結突出壁18の外側に例えば図2に示されるサイドドア8を受け入れる空間を確保することが可能である。
前記第1〜第3の実施の形態に係るサイドシル2は、いずれも、単一の部材によって構成されたもの、例えば前記第1横断面部10及び前記第2横断面部20を含む当該サイドシル20の全体がアルミニウム合金の押出し成形等によって一体に成形されたもの、であるが、当該サイドシル2の横断面が大きく、あるいは複雑な場合、当該横断面の寸法や形状を高い精度で得ることが困難であり、さらには当該押出し成形自体が困難となる場合がある。このような場合、前記第1及び第2横断面部10,20がそれぞれ互いに独立した部材により構成され、当該部材同士が接合されることが、好ましい。
図5は、その例である第4の実施の形態に係るサイドシル2の横断面を示す。当該サイドシル2は、前記第1の実施の形態に係るサイドシル2の第1横断面部10及び第2横断面部20と同等の第1横断面及び第2横断面をそれぞれ有する第1横断面部10及び第2横断面部20を有するが、当該第4の実施の形態に係る前記第1横断面部10は長手方向に延びる第1部材M1により構成され、当該第4の実施の形態に係る前記第2横断面部20は前記第1部材M1とは独立した部材であって前記長手方向に延びる第2部材M2により構成されている。そして、前記第1横断面部10の前記第1内側縦壁12と前記第2横断面部20の前記第2外側縦壁21とが相互に接合されて前記第1部材M1と前記第2部材M2とが一体化されている。なお、図5では、前記第1及び第2部材M1,M2の相互独立性を明確に示すため、互いに完全に接合される前の第1及び第2部材M1,M2がそれぞれ描かれている。
このサイドシル2は、例えば、アルミニウム合金の押出し成形によって前記第1部材M1を成形する工程と、アルミニウム合金の押出し成形によって前記第2部材M2を成形する工程と、前記第1内側縦壁12と前記第2外側縦壁21とを接合して前記第1部材M1と前記第2部材M2とを一体化する工程と、を含む。この方法により、アルミニウム合金からなる軽量のサイドシルが効率よく製造される。具体的に、前記押出し成形によって製造される第1及び第2部材M1,M2の横断面はサイドシル全体の横断面よりも小さいため、押出し成形及びその成形品の取扱いの双方が容易である。例えば、第1及び第2部材M1,M2の搬送や車体への組付は個別に行い、当該組付時あるいは組付後に第1及び第2部材M1,M2同士を接合することにより、作業効率の著しい向上が期待できる。
さらに、この実施の形態では、第1及び第2部材M1,M2の一方を共用設計することも可能である。例えば、第1及び第2部材M1,M2の一方を共通仕様にし、他方を車格に応じて適宜変更することにより、互いに車幅等が異なる複数の車種に低コストで対応することが可能である。また、アルミニウム押出し成形材の切断箇所の選定によって第1及び第2部材M1,M2の長手方向の寸法を自由に選ぶことが可能である。
この実施の形態では、仕様に応じて前記第1横断面部10の材質と前記第2横断面部20の材質とを互いに異ならせることも可能である。例えば、前記第1及び第2部材M1,M2のうちの一方を6000系アルミニウム合金により成形し、他方を7000系アルミニウム合金により成形することが、可能である。このような構成を採用した場合、例えば、高い強度が要求される部位には高強度材を用いて耐食性が要求される部位には高耐食性材を適用するなど、部位に応じて適正な材料を選定することが可能となる。
以上説明した効果は、例えば、図6に示される第5の実施の形態及び図7に示される第6の実施の形態においても得ることが可能である。第5の実施の形態に係るサイドシル2は、前記第2の実施の形態に係る第1横断面部10及び第2横断面部20がそれぞれ互いに独立した第1部材M1及び第2部材M2によって構成されたものであり、第6の実施の形態に係るサイドシル2は、前記第3の実施の形態に係る第1横断面部10及び第2横断面部20がそれぞれ互いに独立した第1部材M1及び第2部材M2によって構成されたものである。
前記第1内側縦壁12と前記第2外側縦壁21との接合は、例えば両者に対して直接溶接やリベット止めを施すことにより行われてもよいし、第1及び第2部材M1,M2のうちの一方の部材に与えられたフランジ部が他方の部材に溶接またはリベット止めされることにより前記第1内側縦壁12と前記第2外側縦壁21とが接合されてもよい。図5に示されるサイドシル2では、前記第2部材M2にフランジ部27,28が付加され、当該フランジ部27,28が第1部材M1に接合されることにより、前記第1内側縦壁12と前記第2外側縦壁21とが互いに接合される。具体的に、前記フランジ部27は前記第2外側縦壁21の下端から車幅方向外側に突出し、第1下側横壁14の下面に重ねられて当該第1下側横壁14と接合される。前記フランジ部28は前記第2外側縦壁21の上端から上向きに突出し、前記第1内側縦壁12の外側面(車幅方向内側を向く面)に重ねられて当該第1内側縦壁12と接合される。
なお、本発明において、各縦壁が「車両上下方向に延びる」とは、当該縦壁が前記車両上下方向と完全に平行な壁であることを限定する趣旨ではなく、前記車両上下方向の荷重を受けることができる程度に当該車両上下方向に対して多少傾斜しながら当該車両上下方向に延びるものや前記第1横断面において前記車幅方向に多少曲がったもの、あるいは比較的小さな車幅方向の段部を含むものも包含する。同様に、各横壁において「車幅方向に延びる」とは、当該横壁が当該車幅方向と完全に平行な壁であることを限定する趣旨ではなく、当該車幅方向の荷重を受けることによって座屈変形が可能となる程度に当該車幅方向に対して多少傾斜しながら当該幅方向に延びるものや前記第2横断面において前記車両上下方向に多少曲がったもの、あるいは比較的小さな前記車両上下方向の段部を含むものも、包含する。
本発明に係る第1横断面部及び第2横断面部の縦横比は適宜設定可能である。例えば第1横断面部の縦長比は、当該第1横断面部に求められる前記車両上下方向の曲げ剛性、座屈変形のしやすさ、(サイドシルがアルミニウム合金によって成形される場合の)押出し成形の事情等を加味して設定される。例えば図5に示されるサイドシル2の場合、一般に、サイドシルの最大高さが一般に200mm以下に制限されることが多いこと、及び、アルミニウム合金の押出し成形の限界を考慮すると、前記第1横断面部10(第1部材M1)の車幅方向の寸法は100mm以下とすることが、好ましい。また、第1内部横壁15,16の車幅方向の寸法(図2では寸法W1)と、当該第1内部横壁15,16により分割された第1外側縦壁11及び第1内側縦壁12の分割要素の前記車両上下方向の寸法(例えば図2に示される寸法Hd)と、の比は、正面衝突時における第1横断面部の軸圧縮性能の向上のためには、0.75〜1.25程度であることが好ましく、さらには1に近いことがより好ましい。このことは、軸圧縮荷重が作用したときの各分割要素の座屈波長を前記第1内部横壁15,16の座屈波長と略同等にして前記第1横断面部が安定したエネルギー吸収を行うことを可能にする。
また、本発明において第2横断面部に含まれる「少なくとも一つの第2内部縦壁」の数は、当該第2横断面部の車幅方向の寸法に応じて適宜設定されることが可能である。例えば、前記第2横断面部の高さ寸法が120mm以下に制限される場合、当該第2横断面部としては1〜3の第2内部縦壁と単一の内部横壁とを含むものが好適である。
前記各実施の形態では、第1下側横壁14の高さ位置と第2下側横壁24の高さ位置とが合致しているが、両高さ位置は相互ずれていてもよい。また、図2に示される第1内部上側横壁15及び第1内部下側横壁16の高さ位置も第2上側横壁23及び第2内部横壁26の高さ位置からそれぞれずれていてもよい。ただし、当該高さ位置が近いほど、側方荷重が前第1内部上側横壁15及び第1内部下側横壁16を通じてより高い効率で前記第2上側横壁23及び前記第2内部横壁26に伝えられることが可能となる。
本発明に係る第1外壁は、前記第1外側縦壁、前記第1内側縦壁、前記第1上側横壁及び前記第1下側横壁を有するもの、つまり略矩形状の横断面を有するもの、に必ずしも限定されない。同様に、本発明に係る第2外壁は、前記第2外側縦壁、前記第2内側縦壁、前記第2上側横壁及び前記第2下側横壁を有するもの、つまり略矩形状の横断面を有するもの、に必ずしも限定されない。当該第1及び第2外壁の横断面の形状は、内部空間を囲む閉断面であるという条件を満たす範囲で自由に設定されることが、可能である。