本発明の乳化油脂組成物は、乳化剤不使用である。ここで乳化剤には、食品衛生法や、農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)において表示義務のある乳化剤であって、一般に食品に用いられる乳化剤、特に合成された乳化剤が含まれる。本発明が対象とする乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。天然由来のレシチン(大豆レシチン、卵黄レシチン、酵素処理卵黄レシチンなど)、脱脂粉乳やカゼイン類のような乳製品などはここでの乳化剤には含まれないが、本発明においてはこれらも使用しないことが主な態様であり、各種アレルギーを持つ消費者にも効果的に対応できる。また、乳化剤を使用しないことで、乳化剤独特の異味、異臭が風味に影響することを防止し、また近年において健康志向の高まりから求められている添加物レスの製品を得ることができる。
ラウリン系油脂(a1)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40〜55質量%、より好ましくは45〜50質量%である。このようなラウリン系油脂(a1)としては、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
ラウリン系油脂(a1)として、パーム核油もしくはそれに由来する油脂と、ヤシ油もしくはそれに由来する油脂のうちでは、前者が好ましい。その中でも、乳化能の点からパーム核油、パーム核極度硬化油がより好ましく、パーム核油がさらに好ましい。また、ラウリン系油脂(a1)のヨウ素価としては、26以下が好ましく、10〜20がより好ましい。
本発明において“パーム核油”の用語は通常の技術常識に従うが、そのヨウ素価は、例えば22以下、特に18付近である。なお、パーム核油を分別した低融点画分であるパーム核分別軟質油のヨウ素価は、例えば25程度である。
パーム系油脂(a2)は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上である。このようなパーム系油脂(a2)としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部などを用いることができる。また、パーム系油脂(a2)のヨウ素価としては、60以下が好ましく、55以下がより好ましい。
パーム系油脂(a2)としては、パーム油が好ましい。乳化能の点から、パーム系油脂(a2)としてパーム油単独か、パーム油とパーム極度硬化油を併用することが好ましく、パーム油単独がより好ましい。パーム油とパーム極度硬化油を併用する場合には、これらの質量比(パーム油/パーム極度硬化油)は1/1以上が好ましく、1.5/1以上がより好ましい。
エステル交換油脂(a)のヨウ素価は、乳化能の点から20以上であり、好ましい順としては22超、23以上、27以上、30以上である。ヨウ素価の上限は特に限定されないが、好ましい順としては48以下、42未満、40以下、37以下である。
ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)の組み合わせは、乳化能の点から、ラウリン系油脂(a1)がパーム核油(ヨウ素価が22以下)またはパーム核極度硬化油であり、かつパーム系油脂(a2)が、パーム油もしくはパーム油およびパーム極度硬化油であることが好ましい。ラウリン系油脂(a1)がパーム核油(ヨウ素価が22以下)またはパーム核極度硬化油であり、かつパーム系油脂(a2)がパーム油であるエステル交換油脂(a)や、その中でもラウリン系油脂(a1)がパーム核油(ヨウ素価が22以下)であり、かつパーム系油脂(a2)がパーム油であるエステル交換油脂(a)は、良好な乳化能を発現する点において好ましい態様である。
エステル交換油脂(a)において、トリグリセリドの構成脂肪酸中のベヘン酸の含有量は、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましく、実質的にベヘン酸を含まないことが特に好ましい。ベヘン酸は炭素数22の飽和脂肪酸であり、高融点の成分である。ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)のみをエステル交換反応の原料とし、他の原料を含まないエステル交換油脂(a)であれば、構成脂肪酸中のベヘン酸の含有量は少ない。
エステル交換油脂(a)は、1種単独で使用してもよいが、2種以上の混合物であってもよく、その中でも、ヨウ素価30以上のエステル交換油脂Aと、ヨウ素価30未満のエステル交換油脂Bを組み合わせて使用することが好ましい。ここでのエステル交換油脂A、Bは単独でもエステル交換油脂(a)としての条件を満足する油脂である。エステル交換油脂A、Bを併用すると、エステル交換油脂A、Bのいずれかを1種単独で使用した場合に比べて、エステル交換油脂(a)による乳化能がより向上する。
エステル交換油脂Aは、ヨウ素価30以上であり、その中でも30〜40が好ましく、30〜37がより好ましい。エステル交換油脂Aの乳化油脂組成物への配合量は、乳化能の点から、エステル交換油脂(a)としてエステル交換油脂Aを単独で使用した場合、あるいはエステル交換油脂Aとエステル交換油脂Bを併用した場合において、油脂全体の質量に対して2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、65質量%以下が好ましく、28質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。また、エステル交換油脂(a)としてエステル交換油脂Aとエステル交換油脂Bを併用した場合には、エステル交換油脂Aの乳化油脂組成物への配合量は、乳化能に関連する可塑性油脂組成物やその焼成品等の物性や風味等の点から、油脂全体の質量に対して、18質量%以下が好ましい。
エステル交換油脂Bは、ヨウ素価30未満であり、22超30未満が好ましい。エステル交換油脂Bの乳化油脂組成物への配合量は、乳化能に関連する可塑性油脂組成物やその焼成品等の物性や風味等の点から、エステル交換油脂(a)としてエステル交換油脂Bを単独で使用した場合、あるいはエステル交換油脂Aとエステル交換油脂Bを併用した場合において、油脂全体の質量に対して2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、55質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
本発明の乳化油脂組成物に含まれるエステル交換油脂(a)が、2種以上のエステル交換油脂の混合物である場合、特に、エステル交換油脂Aの1種以上とエステル交換油脂Bの1種以上との合計2種以上の混合物、あるいはエステル交換油脂Bから選ばれる2種以上の混合物である場合、エステル交換油脂(a)全体としてのヨウ素価(合計)は、20〜50が好ましく、25〜35がより好ましく、29〜33がさらに好ましい。
エステル交換油脂(a)において、ラウリン系油脂(a1)と、パーム系油脂(a2)とのエステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウム等が用いられ、酵素触媒としてはリパーゼ等が用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属等のリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体上に固定し固定化したものを用いても、粉末の形態として用いても良い。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。エステル交換触媒として化学触媒や位置選択性のない酵素触媒を用いた場合、ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂(a)中における質量比(SUS/SSU)が0.45〜0.55の範囲内となる。
エステル交換反応に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05〜0.15質量%添加し、減圧下で80〜120℃に加熱し、0.5〜1.0時間攪拌することでラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(a)を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼ等の酵素触媒を油脂質量の0.01〜10質量%添加し、40〜80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(a)を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法で行うこともできる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭などの精製を行うことができる。
本発明の乳化油脂組成物は、油脂成分として、エステル交換油脂(a)以外の油脂を含むことが好ましい。エステル交換油脂(a)は、それ以外の油脂と併用した場合において、その乳化能を顕著に発揮し得る。このようなそれ以外の油脂としては、特に限定されるものではないが、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらを加工(硬化、エステル交換反応、分別のうち1つ以上の処理)、精製(脱酸、脱臭、脱色など)したものなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の乳化油脂組成物におけるエステル交換油脂(a)の含有量は、エステル交換油脂(a)による乳化能を顕著に発揮し、可塑性油脂組成物やその焼成品等の物性や風味等をより向上し得る点から、乳化油脂組成物中の油脂全体の質量に対して3〜58質量%が好ましい。下限値は、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。特に注目すべき点は、エステル交換油脂(a)は、油脂全体において多量に使用するのではなく、油脂全体において所定量以下の割合で使用するとその乳化能を効果的に発揮し得ることである。この点において、上限値は、55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。特に、エステル交換油脂(a)の含有量が油脂全体の質量に対して10〜40質量%であると、エステル交換油脂(a)による乳化能を顕著に発揮し得る。
本発明の乳化油脂組成物は、エステル交換油脂(a)による乳化能を顕著に発揮し、可塑性油脂組成物やその焼成品等の物性や風味等をより向上し得る点から、エステル交換油脂(a)以外の油脂として、以下の油脂Iを配合することが好ましい。油脂Iの配合量は、本発明の乳化油脂組成物の油脂全体の質量に対して35〜98質量%が好ましく、40〜95質量%がより好ましく、50〜85質量%がさらに好ましい。
本発明の乳化油脂組成物は、エステル交換油脂(a)以外の油脂として、上記油脂Iに加えて、以下の油脂IIを配合することが好ましい。油脂IIの配合量は、本発明の乳化油脂組成物の油脂全体の質量に対して50質量%以下が好ましく、3〜40質量%がより好ましく、5〜25質量%がさらに好ましい。
なお本発明の乳化油脂組成物においては、エステル交換油脂(a)以外の油脂として、上記の油脂I、油脂IIに加えてその他の油脂を配合してもよい。その他の油脂としては、パーム核油、ヤシ油などのラウリン系油脂が挙げられ、また、それらのラウリン系油脂に分別、硬化などの処理をした油脂が挙げられる。これらの油脂I、油脂II、およびその他の油脂を配合する際には、本発明の乳化油脂組成物における、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸と、トリグリセリドの2位に結合されたミリスチン酸との合計含有量、およびSOS型トリグリセリドおよびSOU型トリグリセリドの合計含有量が、以下に示す範囲となるようにすることが好ましい。
本発明の乳化油脂組成物は、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸と、トリグリセリドの2位に結合されたミリスチン酸との合計含有量が、トリグリセリドの2位構成脂肪酸全体の質量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。また、20質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、13質量%以下がさらに好ましい。ラウリン系油脂(a1)を原料に含むことで、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸と、トリグリセリドの2位に結合されたミリスチン酸との合計含有量が比較的高いエステル交換油脂(a)に対して、油脂I(および油脂II)を配合すると当該合計含有量が上記の範囲となる。当該合計含有量がこの範囲内であると、エステル交換油脂(a)による乳化能を顕著に発揮し得る。
本発明の乳化油脂組成物、油脂I、油脂IIにおける2位にラウリン酸またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのいずれであってもよい。2位がラウリン酸であるトリグリセリドとしては、SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、ULU型トリグリセリドが挙げられる。なお、「S」とは、飽和脂肪酸を意味する。「U」とは、不飽和脂肪酸を意味する。「L」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるラウリン酸を意味する。2位がミリスチン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SMS型トリグリセリド、SMU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、UMU型トリグリセリドが挙げられる。なお、「M」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるミリスチン酸を意味する。各トリグリセリド分子の1位と3位に結合している脂肪酸がいずれも飽和脂肪酸Sであるか、いずれも不飽和脂肪酸Uである場合、これらは同一の飽和脂肪酸S(不飽和脂肪酸U)であってもよいし、互いに異なる飽和脂肪酸S(不飽和脂肪酸U)であってもよい。
本発明の効果を得る点から、2位にラウリン酸またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4〜24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にラウリン酸またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14〜18の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)であることが好ましい。2位にラウリン酸またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sと不飽和脂肪酸Uである場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4〜24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14〜18の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
本発明の乳化油脂組成物は、SOS型トリグリセリドおよびSOU型トリグリセリドの合計含有量がトリグリセリド全体の質量に対して10質量%以上が好ましく、18質量%以上がより好ましく、22質量%以上がさらに好ましい。また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、28質量%未満がさらに好ましい。SOSおよびSOUの合計含有量が比較的低いエステル交換油脂(a)に対して、油脂I(および油脂II)を配合すると当該合計含有量が上記の範囲となる。当該合計含有量がこの範囲内であると、エステル交換油脂(a)による乳化能を顕著に発揮し、可塑性油脂組成物やその焼成品等の物性や風味等をより向上し得る。
本発明の乳化油脂組成物、油脂I、油脂IIにおけるSOSおよびSOUは、本発明の効果を得る点から、トリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4〜24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にリノール酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14〜18の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸など)であることが好ましい。
本発明の乳化油脂組成物は、トリグリセリドの構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、トリグリセリドの構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、トリグリセリドの構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが特に好ましい。
ここでトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3−2013トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」)で測定することができる。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出する。
本発明の乳化油脂組成物は、油相および水相を含有する形態であり、油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60〜99.4質量%、より好ましくは65〜98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6〜40質量%、より好ましくは2〜35質量%である。その中でも油中水型が好ましく、例えばマーガリンが挙げられる。
マーガリンがバタークリーム用である場合、乳化性能と相俟ってクリーミング性が向上することから、本発明の乳化油脂組成物は、トリグリセリドの構成脂肪酸全体の質量に対してラウリン酸を0.3質量%以上含有することが好ましく、1.0質量%以上含有することがより好ましく、5質量%以上含有することが最も好ましい。また12質量%以下含有することが好ましく、10.5質量%未満含有することがより好ましく、7.0質量%以下含有することが最も好ましい。
本発明の乳化油脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、水以外にも、他の成分を配合することができる。他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳、乳製品、乳製品を酵素処理した呈味剤、蛋白質、糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、増粘剤、着色成分、香料(フレーバー)、酒類、酵素、粉末油脂、酵母エキスなどが挙げられる。乳としては、牛乳などが挙げられる。これらは従来公知のものを含む。乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどが挙げられる。蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、そら豆蛋白、小麦蛋白などの植物蛋白などが挙げられる。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロースなど)、オリゴ糖、糖アルコール、ステビア、アスパルテームなどの甘味料、デンプン、デンプン分解物(デキストリン、難消化性デキストリン等)、イヌリン(アガベイヌリン等)などが挙げられる、抗酸化剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物などが挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロンなどが挙げられる。増粘剤としては、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グァーガム、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)などが挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチンなどが挙げられる。
本発明の乳化油脂組成物は、風味付与のため、呈味成分としてフレーバーを配合することが好ましい。フレーバーとしては、例えば、バターフレーバー、ミルクフレーバー、クリームフレーバー、チーズフレーバー、チョコレートフレーバー、コーヒーフレーバー、紅茶フレーバー、カスタードフレーバー、ナッツフレーバー、フルーツフレーバー、はちみつフレーバー、メイプルフレーバーなどが挙げられる。本発明の乳化油脂組成物は、油溶性フレーバーが好ましく使用される。
本発明の乳化油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、可塑性乳化油脂組成物の場合、油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。より具体的には、まず油相と水相を調製する。油相は、油脂の他に油溶性フレーバーなどを使用する場合には、これらを油相に添加してもよい。水相は、水溶性の成分を使用する場合には、これらを水相に添加する。これらの油相と水相は、好ましくは50〜90℃、より好ましくは65〜85℃に加熱し、添加した成分を完全に溶解しておくことが望ましい。これらの油相と水相を加熱下で混合し乳化する。例えば、加熱された油相に加熱された水相をゆっくりと添加しながら乳化する。その後、必要に応じて、フレーバーなどの他の添加成分を加えてもよい。その後、加熱された乳化物をコンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサスなどの冷却混合機により急冷捏和し、可塑化して本発明の可塑性乳化油脂組成物を得ることができる。また、必要に応じて冷却混合機において窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込んだり、急冷捏和後に、可塑性乳化油脂組成物を熟成(テンパリング)してもよい。
本発明によれば、エステル交換油脂(a)の優れた乳化能によって、良好に乳化された乳化油脂組成物が得られる。本発明の乳化油脂組成物は、乳化安定性が非常に良好であり製造時には乳化物から水の分離が抑制され、可塑性乳化油脂組成物中の水滴の合一が抑制され水相の分散性が良く、保存後の表面は滑らかさと艶が失われることや、水滴が浮き出ることが抑制される。
本発明の乳化油脂組成物は生地に練り込んで使用することができる。この練り込んだ乳化油脂組成物を含有する生地を焼成することによって、焼成品が得られる。エステル交換油脂(a)の優れた乳化能によって良好に乳化された本発明の乳化油脂組成物を生地に練り込んだ焼成品は、風味の持続性が良好である。
本発明の乳化油脂組成物は、単独で使用するか、あるいは他の原材料と共に配合して起泡させることで、バタークリームを製造することができる。起泡(クリーミング)は、公知の方法によって起泡させることで行うことができる。例えば、電動式もしくは手動の泡立て器を用いて、比重が適度に軽くなるまで含気させることにより行うことができる。このバタークリームは、比重が好ましくは0.8以下、より好ましくは0.3〜0.7である。
本発明の乳化油脂組成物を他の原材料と共に配合して起泡させる場合、その配合量は、本発明の乳化油脂組成物による効果を損なわない範囲が考慮される。このような他の原材料としては、呈味成分などが挙げられる。
本発明の乳化油脂組成物により得られるバタークリームは、ナッペ用、フィリング用、サンド用、注入用、トッピング用などとして、パン、菓子、ケーキなどに好適に用いることができる。
本発明の乳化油脂組成物を用いたバタークリームは、エステル交換油脂(a)の優れた乳化能によって良好に乳化された乳化油脂組成物が得られることから、起泡時の離水が抑制され、クリーミング性、保存後の保形性、保水性に優れる。風味、口溶けも良好である。
本発明の乳化油脂組成物を用いたスプレッドは主に、パンや菓子などのベーカリー製品の表面に塗り広げて、あるいはベーカリー製品に充填(注入)、サンドしたり、また食材や呈味素材を入れるパンや菓子などに塗布し、食材や呈味素材の水分がパンや菓子に移行するのを防止する目的などに使用される。
本発明の乳化油脂組成物を用いたスプレッドは、エステル交換油脂(a)の優れた乳化能によって良好に乳化された乳化油脂組成物が得られることから、塗布時の破水が抑制され、表面の滑らかさが向上する。風味、口溶けも良好である。
本発明の乳化油脂組成物は、パン生地に折り込んで使用することができる。例えば、生地の間にシート状の乳化油脂組成物を包み込み、その後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって生地中に乳化油脂組成物を層状に折り込んで、生地と乳化油脂組成物の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この乳化油脂組成物を含有する生地を焼成することによって、層状焼成品のパンが得られる。この乳化油脂組成物は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状などの様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点等から、シート状とすることが好ましい。乳化油脂組成物をシート状とした場合のサイズは、特に限定されるものではないが、例えば、幅50〜1000mm、長さ50〜1000mm、厚さ1〜50mmとすることができる。
エステル交換油脂(a)の優れた乳化能によって良好に乳化された本発明の乳化油脂組成物は、生地に折り込む際に生地へ練り込まれず、層の形成状態が良く作業性に優れる。層の形成状態が良いため焼成品の浮きが良く、ボリュームのある層状食品が焼成品として得られる。焼成品は風味の持続性も良好である。
上記において、本発明の乳化油脂組成物は生地に練り込んで、あるいは折り込んで使用する場合、乳化油脂組成物を用いた生地は、穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉などが挙げられる。
生地には、穀粉と乳化油脂組成物以外にも、通常、焼成品の生地に使用されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく適宜の量とすることができる。具体的には、例えば、水、乳、乳製品、蛋白質、糖質、卵、卵加工品、澱粉、塩類、粉末油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバーなどが挙げられる。
乳化油脂組成物を練り込んだ生地を用いた焼成品のパンとしては、例えば、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッドなどが挙げられる。
乳化油脂組成物を折り込んだ生地を用いた焼成品のパンとしては、例えば、イーストなどを使用して生地を発酵させるデニッシュやクロワッサン、発酵過程のないパイ等のペストリーなどが挙げられる。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、表1〜表14において配合した油脂とその合計量、比率はそれぞれ質量%、質量比で示している。「2位ラウリン酸+2位ミリスチン酸」は、トリグリセリドの2位構成脂肪酸全体の質量に対する、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸と、トリグリセリドの2位に結合されたミリスチン酸との合計含有量、「SOS+SOU」は、油脂全体の質量に対するSOS型トリグリセリドとSOU型トリグリセリドとの合計含有量である。
表1および表2の評価においては、○以上は最低限の基準を満たすと判断した。その中でも◎は○と有意に差がみられ、◎+は◎と有意に差がみられ、課題解決等の点で区別される程度に好ましいことを示している。
表3〜表14の評価においては、△以上は最低限の基準を満たすと判断した。△は最低限許容し得るレベルで、基本的には○以上が課題解決等において望ましいレベルである。△は全ての評価項目のうち3個以下が好ましく、2個以下がより好ましく、1個以下が特に好ましい。その中でも◎は○と有意に差がみられ、◎+は◎と有意に差がみられ、課題解決等の点で区別される程度に好ましいことを示している。
(1)測定方法
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
油脂におけるトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸、ミリスチン酸の各含有量とその合計量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおり、リパーゼ溶液で処理後のモノアシルグリセリン画分をガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である、トリグリセリドの2位構成脂肪酸全体の質量を基準としている。
油脂におけるSOS、SOUの各含有量とその合計量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
(2)エステル交換油脂と可塑性乳化油脂組成物の作製
(2−1)エステル交換油脂の作製
表1に示す配合で、各油脂を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂を得た。得られた各エステル交換油脂はIE油1〜IE油18と表記している。
なお、表3〜表14のエステル交換パーム分別軟質油はおよびエステル交換パーム油は、それぞれパーム分別軟質油、パーム油を原料として、上記IE油1〜IE油18の製法に準じてエステル交換反応等を行うことにより得た。
(2−2)可塑性乳化油脂組成物の作製
〈練り込み用マーガリン、バタークリーム用マーガリン、スプレッド用マーガリンの作製〉
表3〜表8に示す配合の油脂を75℃に調温して油相とした。一方、水に対し食塩を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和し下記の配合割合のマーガリンを可塑性油脂として得た。得られたマーガリンは、5℃で保管した。なお、下記マーガリンの配合は全体で100質量部である。
〈練り込み用マーガリン、バタークリーム用マーガリン、スプレッド用マーガリンの配合〉
油脂組成物 82.6質量部
食塩 0.5質量部
ミルクフレーバー 0.1質量部
水 残部
〈層状食品用マーガリンの作製〉
表9および表10に示す配合の油脂を75℃に調温して油相とした。一方、水に対し食塩を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和し25cm×21cm×1cmのシート状に成型し、下記の配合割合のマーガリンを可塑性油脂として得た。得られたマーガリンは、5℃で保管した。なお、下記マーガリンの配合は全体で100質量部である。
〈層状食品用マーガリンの配合〉
油脂組成物 85.5質量部
食塩 1質量部
バターフレーバー 0.1質量部
水 残部
〈加糖タイプマーガリンの作製〉
表11および表12に示す配合の油脂を75℃に調温して油相とした。一方、水に対し砂糖を添加し85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に該油相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和し、下記の配合割合の加糖タイプマーガリンを得た。
得られたマーガリンは5℃で保管した。なお、下記マーガリンの配合は全体で100質量部である。
〈加糖タイプマーガリンの配合〉
油脂組成物 84.5質量部
砂糖 7.0質量部
水 残部
<酵母エキス入りマーガリンの作製>
表13および表14に示す配合の油脂を75℃に調温して油相とした。一方水に対し酵母エキスを添加し85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に該油相を添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和し、下記の配合割合の酵母エキス入りマーガリンを得た。
得られたマーガリンは5℃で保管した。本発明にて使用した酵母エキスは、酵母エキスAが製品名「アジレックスNH」(ペプチド22%、食塩1%未満、核酸1%未満、遊離アミノ酸1%未満)、酵母エキスBが製品名「アジレックスLK」(ペプチド13%、食塩5%、核酸15%、遊離アミノ酸5%)であり、共に興人ライフサイエンス株式会社製である。
なお、下記のマーガリンの配合は全体で100質量部である。
<酵母エキス入りマーガリンの配合>
油脂組成物 85質量部
酵母エキスA 表13、14記載
酵母エキスB 表13、14記載
バターフレーバー 0.1質量部
水 残部
(3)評価
(3−1)エステル交換油脂の評価
(3−1−1)IE油1〜IE油18における乳化能の評価
上記のとおり作製した表1のIE油1〜IE油18について、次の評価を行った。なお、表1〜表14において、ヨウ素価30以上のIE油を“A”、ヨウ素価30未満のIE油を“B”と分類している。
[乳化能]
油脂(IE油1〜IE油18)85質量%に水15質量%を加え、75℃に調温し、ホモミキサーにて4000rpmで5分攪拌した後、静置にて10分後の乳化液の分離状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:油相と水相が分離せず、均一に乳化している。
◎:油相と水相が分離せずほぼ乳化している。
○:油相と水相がやや分離するが、大半が乳化している。
△:油相と水相が分離するが、一部乳化している。
×:油相と水相がはっきりと分離し、乳化していない。
上記の評価結果を表1に示す。
表1より、ラウリン系油脂およびパーム系油脂を原料とするヨウ素価20以上のエステル交換油脂(IE油1〜IE油16)は、乳化剤を配合しなかったにもかかわらず、油相と水相の分離が少なく、油脂による乳化能が確認された。このことは、原料に極度硬化油を多く含みヨウ素価の低いIE油17や、ラウリン系油脂を用いず菜種油を原料の一部に用いたIE油18では油相と水相がはっきりと分離し、乳化しなかったこととの対比としても顕著である。
ヨウ素価20以上のエステル交換油脂(IE油1〜IE油16)の中でも、ヨウ素価が30〜37のIE油1〜IE油4、IE油6、IE油12は、油相と水相が分離せず、均一に乳化し、乳化能に特に優れていた。ヨウ素価が27〜40のIE油1〜IE油8、IE油10、IE油12、IE油14、IE油15は、油相と水相が分離せず、均一に乳化しているか、あるいはほぼ乳化していた。
ラウリン系油脂およびパーム系油脂の種類では、原料のラウリン系油脂がパーム核油またはパーム核極度硬化油で、かつパーム系油脂が、パーム油もしくはパーム油およびパーム極度硬化油である場合は乳化能が良好で、その中でも原料のラウリン系油脂がパーム核油、パーム系油脂がパーム油である場合は全体的に乳化能が良好であった。一方、分別油を原料に用いた場合では、パーム分別硬質油とパーム核分別軟質油との組み合わせ(IE油15)は、ヨウ素価が同等のIE油4、IE油6、IE油12と比べると均一には乳化せず乳化能が低下する傾向がみられた。パーム油とパーム核分別軟質油を用いたIE油16は、油相と水相がやや分離した。
(3−1−2)IE油の混合物における乳化能の評価
次に、IE油の混合物における乳化能の評価を行った。表2では、分類AのIE油1とIE油5、分類BのIE油10とIE油14を用いて、これらのうち2種類を表2に示す量で、常法により均一に加熱混合した混合油脂1〜4を用い、表1と同様の乳化試験を行った。乳化性能は、表1の◎+〜×のすべての相対評価を比較基準として、◎+よりも目視で良好である場合は◎++として評価した。
上記の評価結果を表2に示す。
表2より、分類Aと分類BのIE油、すなわち分類AのIE油1と、分類BのIE油14との混合油脂である混合例1(表2、◎++)は、IE油1を単独で用いた場合(表1、◎+)、IE油14を単独で用いた場合(表1、◎)の各々に比べて、目視において油相と水相が分離せず、より均一に乳化していた。分類AのIE油1と、分類BのIE油10との混合油脂である混合例3(表2、◎++)は、IE油1を単独で用いた場合(表1、◎+)、IE油10を単独で用いた場合(表1、◎)の各々に比べて、より均一に乳化していた。分類AのIE油5と、分類BのIE油14との混合油脂である混合例4(表2、◎+)は、IE油5を単独で用いた場合(表1、◎)、IE油14を単独で用いた場合(表1、◎)の各々に比べて、目視において油相と水相の分離が少なく、より均一に乳化していた。これに対して、それぞれ分類BのIE油10とIE油14との混合油脂である混合例2は、IE油10を単独で用いた場合(表1、◎)、IE油14を単独で用いた場合(表1、◎)の各々と同等で、併用による乳化能の向上はみられなかった。
以上の結果より、エステル交換油脂として、ヨウ素価30以上のIE油“A”と、ヨウ素価30未満のIE油“B”の2種類を併用すると乳化能がより向上することが示唆された。
(3−2)練り込み用マーガリンと焼成品の評価
上記のとおり作製した練り込み用マーガリンとそれを用いた焼成品について、次の評価を行った。
[離水状態]
離水状態(マーガリンの乳化安定性)を以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:乳化状態が非常に良好であり、乳化物から水の分離がない。
◎:乳化状態が良好であり、乳化物から水の分離がない。
○:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水が分離する。
△:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水および油が分離する。
×:乳化状態が良好でなく、乳化物から水、油が分離する。
[水滴状態]
顕微鏡にてマーガリン中の水滴状態を確認し、水滴状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:水滴の合一は見られず、均一に分散している。
○:一部水滴の合一が見られるが、均一に分散している。
△:やや水滴が合一し、均一に分散していない。
×:水滴が合一し、均一に分散していない。
[表面状態]
5℃にて3日間保存後のマーガリンの表面状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:表面が滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていない。
○:表面が滑らかで艶があるが、水滴が若干浮き出ている。
△:表面の滑らかさ、艶がややなく、水滴が若干浮き出ている。
×:表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ている。
[焼成品の風味の持続性]
上記のとおり作製した練り込み用マーガリンを用いて、下記の配合と工程により食パンを作製した。
イーストを分散させた水、イーストフード、および強力粉をミキサーボールに投入しフックを使用して、下記条件にてミキシング、発酵を行い、中種生地を得た。
その後、本捏配合の練り込み用マーガリン以外の全材料および中種生地を添加し低速3分、中低速3分でミキシングした後、練り込み用マーガリンを投入し、さらに低速3分、中低速4分でミキシングしパン生地を得た。捏上温度は28℃であった。
その後、20分のフロアタイムをとった後、生地を分割し、再度20分のベンチタイムをとった。生地の成型は、モルダーで5mmに延ばし、ロール型に成型後、プルマン型に入れ、38℃、湿度80%で40分間のホイロをとり、その後200℃で40分焼成した。
〈食パンの配合〉
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
・中種工程
ミキシング 低速3分 中低速1分(フック使用)
捏上温度 24℃
発 酵 発酵室温27℃ 湿度75% 4時間
・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
練り込み用マーガリン 5質量部
水 25質量部
・本捏工程(本捏配合の練り込み用マーガリン以外の全材料および中種生地全量を添加)
ミキシング 低速3分 中低速3分
(練り込み用マーガリンを投入)、低速3分 中低速4分
捏上温度 28℃
フロアタイム 28℃ 20分
生地分割 230g
ベンチタイム 28℃ 20分
成 型 モルダーで延ばしロール型に成型
U型にしてプルマン型に6本詰め
ホイロ 室温38℃ 湿度80% 40分
焼 成 200℃ 40分
食パンを焼成後2時間室温で放冷し、放冷後20℃で1日保管したものについて、食パンの風味の持続性をパネル20名により以下の基準で評価した。
なお評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が、風味の持続性があると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が、風味の持続性があると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が、風味の持続性があると評価した。
×:パネル20名中風味の持続性があると評価したのは5名以下であった。
上記の各評価結果を表3および表4に示す。
表3において実施例1は、表2の混合例1と同様にIE油としてIE油1とIE油14を併用した。マーガリン製造時の離水状態、マーガリン中の水滴状態は乳化の良否による影響を受け、乳化が特に良好でない場合、経時でのマーガリンの表面状態にも現れて、滑らかさや艶がなくなったり水滴が浮き出たりする。実施例1は、表2において混合例1の乳化能が最良であることを反映し、上記乳化の良否に関する3つの項目の評価はいずれも最良で、マーガリン製造時の離水状態は、乳化安定性が非常に良好であり、乳化物から水の分離がなく、マーガリン中の水滴状態は、水滴の合一は見られず、均一に分散しており、マーガリン保存後の表面状態は滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていなかった。つまりIE油の乳化能の良さを反映し、乳化能を持つIE油とそれ以外の油脂を配合した油相と水相からなるマーガリンの乳化の良否の指標となる各項目をいずれも満足するものであった。実施例1のマーガリンを生地に練り込んで作製した焼成品は風味の持続性があり、乳化状態が良好であることがマーガリンのフレーバーリリースなどに影響していると考えられる。実施例2、3は、実施例1のIE油1をそれぞれIE油5(分類A)、IE油11(分類A)に変更し、実施例4はIE油10(分類B)に変更した。これらは実施例1に比べると全体的な評価は下がり、各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を示唆した。
実施例5〜9では、分類BのIE油14と併用するIE油を、IE油1(分類A)、IE油5(分類A)、IE油10(分類B)、IE油11(分類A)、IE油13(分類B)に変更した。各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例10は、実施例5からIE油1(分類A)の配合量を油脂全体の質量に対して20質量%に変更した。マーガリン製造時の乳化状態は実施例5の非常に良好な状態に比べると低下し、マーガリン中に一部水滴の合一が見られ、離水状態と水滴状態がやや低下した。この結果も含めて、分類AのIE油の配合量は、分類BのIE油と併用した場合、油脂全体の質量に対して18質量%以下が好ましい。
実施例11、12は、実施例4、7からIE油10(分類B)、IE油14(分類B)の配合量を変更した。実施例4、7、11は同等の評価であったが、実施例12ではこれらの比べると全体的に評価がやや低下した。この結果も含めて、分類BのIE油の配合量は、油脂全体の質量に対して45質量%以下が好ましい。
実施例13〜15は、実施例1から分類BのIE油を変更した。これらのうち実施例14はIE油14(分類B)からIE油10(分類B)に変更したが、これらの乳化能も同等(表1)であることと対応して各評価は同等かつ最良であった。実施例13は分類BのIE油を配合せず分類AのIE油1のみ用い、実施例15はIE油14(分類B)からIE油13(分類B)に変更したが、それぞれ表1のIE油の乳化能の結果を反映し、離水状態と水滴状態がやや低下した。
実施例16は、IE油15(分類A)、IE油16(分類A)を合計60質量%の量で用いたが、実施例1、2、4〜7、10、11、13〜15などと比べると各評価は全体として低下した。マーガリンの表面状態にも水滴が若干浮き出る傾向に差がみられ、焼成品の風味の持続性も最良評価に比べると低下傾向がみられた。
実施例17は、実施例3からIE油11(分類A)をIE油16(分類A)に変更したが、表1におけるこれらの乳化能の結果を反映し、各評価は全体として低下した。パーム油とパーム核分別軟質油を用いたヨウ素価の比較的高いIE油16を用いると、マーガリン中の表面状態は、表面の滑らかさ、艶がややなくなり、水滴が若干浮き出ており、マーガリン中の水滴状態とともにその評価は最低限許容し得るレベルの△であった。
実施例18〜21は、実施例1から主にIE油1(分類A)とIE油14(分類B)の配合量を変更した。これらの実施例18〜21においても全体的に最低限許容し得る効果が確認されたが、実施例20はIE油の合計量が多く全体的な評価は低い傾向で(実施例19との対比)、実施例21はIE油の合計量が少なく同様に全体的な評価は低い傾向であった(実施例13、18との対比)。特に注目すべき点は、IE油は、油脂全体において多量に使用するのではなく、油脂全体において所定量以下の割合で使用するとその乳化能を効果的に発揮し得ることである。これらの結果も含めて、IE油の合計量は、油脂全体の質量に対して1〜70質量%が好ましく、3〜58質量%がより好ましく、その上限は55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
比較例1はIE油を配合せず、比較例2はヨウ素価の低いIE油17を使用し、比較例3はラウリン系油脂を用いず菜種油を原料の一部に用いたIE油18を使用したが、いずれも乳化が良好でなく、製造時には乳化物から水、油が分離し、マーガリン中で水滴が合一し均一に分散せず、保存後のマーガリンは表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ており、焼成品は風味が持続しなかった。
(3−3)バタークリーム用マーガリンとバタークリームの評価
上記のとおり作製したバタークリーム用マーガリンとそれを用いたバタークリームについて、次の評価を行った。
[起泡時の離水状態]
卓上ミキサー(Kitchen Aid社)を用いて、調温したバタークリーム用マーガリンの各々500gを多羽ホイッパーで比重0.4になるまで速度4にてクリーミングし、その時の離水状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:全く離水がない。
◎:極少量の離水がある。
○:僅かに離水がある。
△:離水がある。
×:離水が多くある。
[クリーミング性]
卓上ミキサー(Kitchen Aid社製)を用いてバタークリーム用マーガリン500gを撹拌し、20℃の条件下にて比重が0.3に達するまでの時間で段階分けを行った。
評価基準
◎:6分未満
○:6分以上〜9分未満
△:9分以上〜12分未満
×:12分以上または比重0.3に到達せず
[保形性]
前記の起泡性試験で得たバタークリームを絞り袋に入れ、菊型口金で15gをポリカップ容器に絞り35℃の恒温槽で1日保管したときの保形性を目視で評価した。
評価基準
◎:形状に全く変化がない。
○:形状に若干変化がある。
△:形状の崩れがある。
×:形状の崩れが多くある。
[保水性]
前記の起泡性試験で得たバタークリームを絞り袋に入れ、菊型口金で15gをポリカップ容器に絞り35℃の恒温槽で1日保管したときの離水状態を目視で評価した。
評価基準
◎:全く離水がない。
○:僅かに離水がある。
△:離水がある。
×:離水が多くある。
[風味]
作製したバタークリーム用マーガリンを10℃で調温し、喫食したときの風味をパネル20名により以下の基準で評価した。
なお評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が良好であると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が良好であると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が良好であると評価した。
×:パネル20名中良好であると評価したのは5名以下であった。
上記の各評価結果を表5および表6に示す。
表5において実施例22は、表2の混合例1と同様にIE油としてIE油1とIE油14を併用した。起泡時の離水状態、クリーミング性、保形性、保水性は乳化の良否による影響を受ける。実施例22は、表2において混合例1の乳化能が最良であることを反映し、上記乳化の良否に関する4つの項目の評価はいずれも良好で、起泡時には全く離水がなく、クリーミング性も良好であり、バタークリームは35℃の恒温槽で1日保管した後も形状の変化や離水がないものであった。つまりIE油の乳化能の良さを反映し、乳化能を持つIE油とそれ以外の油脂を配合した油相と水相からなるマーガリンの乳化の良否の指標となる各項目をいずれも満足するものであった。実施例22のバタークリームは風味も良く、乳化状態が良好であることがマーガリンのフレーバーリリースなどに影響していると考えられる。実施例23、24は、実施例22のIE油1をそれぞれIE油5(分類A)、IE油11(分類A)に変更し、実施例25はIE油10(分類B)に変更した。これらは実施例22に比べると全体的な評価は下がり、各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例26〜30では、分類BのIE油14と併用するIE油を、IE油1(分類A)、IE油5(分類A)、IE油10(分類B)、IE油11(分類A)、IE油13(分類B)に変更した。各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例31は、実施例26からIE油1(分類A)の配合量を油脂全体の質量に対して20質量%に変更した。起泡時の離水状態は全く離水がない実施例26に比べると極少量の離水があり、バタークリームは35℃の恒温槽で1日保管した後、形状に若干変化があり僅かに離水があった。この結果も含めて、分類AのIE油の配合量は、分類BのIE油と併用した場合、油脂全体の質量に対して18質量%以下が好ましい。
実施例32、33は、実施例25、28からIE油10(分類B)、IE油14(分類B)の配合量を変更した。実施例25、28、32は同等の評価であったが、実施例33ではこれらの比べると全体的に評価がやや低下した。この結果も含めて、分類BのIE油の配合量は、油脂全体の質量に対して45質量%以下が好ましい。
実施例34〜36は、実施例22から分類BのIE油を変更した。これらのうち実施例35はIE油14(分類B)からIE油10(分類B)に変更したが、これらの乳化能も同等(表1)であることと対応して各評価は同等かつ良好であった。実施例34は分類BのIE油を配合せず分類AのIE油1のみ用い、実施例36はIE油14(分類B)からIE油13(分類B)に変更したが、それぞれ表1のIE油の乳化能の結果を反映し、起泡時の離水状態とクリーミング性、保形性、保水性がやや低下した。
実施例37は、IE油15(分類A)、IE油16(分類A)を合計60質量%の量で用いたが、実施例22、23、25〜28、31、32、34〜36などと比べると各評価は全体として低下した。起泡時の離水状態は僅かに離水があり、クリーミング性の評価もやや低下し、バタークリームは35℃の恒温槽で1日保管した後、離水がある傾向に差がみられ、風味も最良評価に比べると低下傾向がみられた。
実施例38は、実施例24からIE油11(分類A)をIE油16(分類A)に変更したが、表1におけるこれらの乳化能の結果を反映し、各評価は全体として低下した。パーム油とパーム核分別軟質油を用いたヨウ素価の比較的高いIE油16を用いると、起泡時の離水状態は僅かに離水があり、クリーミング性の評価もやや低下し、バタークリームは35℃の恒温槽で1日保管した後、離水がありその評価は最低限許容し得るレベルの△であった。風味も最良評価に比べると低下傾向がみられた。
実施例39〜42は、実施例22から主にIE油1(分類A)とIE油14(分類B)の配合量を変更した。これらの実施例39〜42においても全体的に最低限許容し得る効果が確認されたが、実施例41はIE油の合計量が多く全体的な評価は低い傾向で(実施例40との対比)、実施例42はIE油の合計量が少なく同様に全体的な評価は低い傾向であった(実施例34、39との対比)。特に注目すべき点は、IE油は、油脂全体において多量に使用するのではなく、油脂全体において所定量以下の割合で使用するとその乳化能を効果的に発揮し得ることである。これらの結果も含めて、IE油の合計量は、油脂全体の質量に対して1〜70質量%が好ましく、3〜58質量%がより好ましく、その上限は55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
実施例29〜30、33、37〜38、41〜42より、乳化性能(起泡時の離水状態)の評価が低下すると、クリーミング性の評価も低下している。また、実施例26〜28、31〜32、40より、ラウリン酸を全脂肪酸に対し、0.3〜12質量%含むことが好ましく、5〜10.5質量%未満含むことがより好ましい。このことから、クリーミング性は、乳化性能とラウリン酸量の双方の影響を受けている。
比較例4はIE油を配合せず、比較例5はヨウ素価の低いIE油17を使用し、比較例6はラウリン系油脂を用いず菜種油を原料の一部に用いたIE油18を使用したが、いずれも乳化が良好でなく、起泡時には乳化物から水、油が分離し、クリーミング性の評価も悪く、バタークリームは35℃の恒温槽で1日保管した後に形状の崩れや離水が多くあり、風味の悪いものであった。
(3−4)スプレッド用マーガリンとスプレッドの評価
上記のとおり作製したスプレッド用マーガリンを用いて、次の評価を行った。
[離水状態]
離水状態(マーガリンの乳化安定性)を以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:乳化状態が非常に良好であり、乳化物から水の分離がない。
◎:乳化状態が良好であり、乳化物から水の分離がない。
○:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水が分離する。
△:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水および油が分離する。
×:乳化状態が良好でなく、乳化物から水、油が分離する。
[水滴状態]
顕微鏡にてマーガリン中の水滴状態を確認し、水滴状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:水滴の合一は見られず、均一に分散している。
○:一部水滴の合一が見られるが、均一に分散している。
△:やや水滴が合一し、均一に分散していない。
×:水滴が合一し、均一に分散していない。
[スプレッド時の破水]
作製したスプレッド用マーガリンを3g採取し、スパテラで黒板上に薄く伸ばし、破水を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:破水がなく、表面が滑らかである。
○:極少量の破水が見られるが、表面は滑らかである。
△:若干の破水が見られ、表面にややムラがある。
×:明らかに破水しており、黒板を傾けると水が垂れる。
以下の口溶けと風味の評価において、評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
[口溶け]
作製したスプレッド用マーガリンを10℃で調温し、喫食したときの口溶けをパネル20名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が良好であると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が良好であると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が良好であると評価した。
×:パネル20名中良好であると評価したのは5名以下であった。
[風味]
作製したスプレッド用マーガリンを10℃で調温し、喫食したときの風味をパネル20名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が良好であると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が良好であると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が良好であると評価した。
×:パネル20名中良好であると評価したのは5名以下であった。
上記の各評価結果を表7および表8に示す。
表7において実施例43は、表2の混合例1と同様にIE油としてIE油1とIE油14を併用した。マーガリン製造時の離水状態、マーガリン中の水滴状態、スプレッド時の破水は乳化の良否による影響を受ける。実施例43は、表2において混合例1の乳化能が最良であることを反映し、上記乳化の良否に関する3つの項目の評価はいずれも最良で、マーガリン製造時には全く離水がなく、マーガリン中に水滴の合一は見られず均一に分散しており、スプレッド時には破水がなく表面が滑らかであった。つまりIE油の乳化能の良さを反映し、乳化能を持つIE油とそれ以外の油脂を配合した油相と水相からなるマーガリンの乳化の良否の指標となる各項目をいずれも満足するものであった。実施例43のスプレッドは口溶け、風味も良く、乳化状態が良好であることがこれらに影響していると考えられる。実施例44、45は、実施例43のIE油1をそれぞれIE油5(分類A)、IE油11(分類A)に変更し、実施例46はIE油10(分類B)に変更した。これらは実施例43に比べると全体的な評価は下がり、各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例47〜51では、分類BのIE油14と併用するIE油を、IE油1(分類A)、IE油5(分類A)、IE油10(分類B)、IE油11(分類A)、IE油13(分類B)に変更した。各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例52は、実施例47からIE油1(分類A)の配合量を油脂全体の質量に対して20質量%に変更した。マーガリン製造時の乳化状態は実施例47の非常に良好な状態に比べると低下し、マーガリン中に一部水滴の合一が見られた。この結果も含めて、分類AのIE油の配合量は、分類BのIE油と併用した場合、油脂全体の質量に対して18質量%以下が好ましい。
実施例53、54は、実施例46、49からIE油10(分類B)、IE油14(分類B)の配合量を変更した。実施例46、49、53は同等の評価であったが、実施例54ではこれらの比べると全体的に評価がやや低下した。この結果も含めて、分類BのIE油の配合量は、油脂全体の質量に対して45質量%以下が好ましい。
実施例55〜57は、実施例43から分類BのIE油を変更した。これらのうち実施例56はIE油14(分類B)からIE油10(分類B)に変更したが、これらの乳化能も同等(表1)であることと対応して各評価は同等かつ最良であった。実施例55は分類BのIE油を配合せず分類AのIE油1のみ用い、実施例57はIE油14(分類B)からIE油13(分類B)に変更したが、それぞれ表1のIE油の乳化能の結果を反映し、離水状態と水滴状態がやや低下した。
実施例58は、IE油15(分類A)、IE油16(分類A)を合計60質量%の量で用いたが、実施例43、44、46〜49、52、53、55〜57などと比べると各評価は全体として低下した。スプレッド時には若干の破水が見られ、表面にややムラがある傾向に差がみられ、口溶けと風味も最良評価に比べると低下傾向がみられた。
実施例59は、実施例45からIE油11(分類A)をIE油16(分類A)に変更したが、表1におけるこれらの乳化能の結果を反映し、各評価は全体として低下した。パーム油とパーム核分別軟質油を用いたヨウ素価の比較的高いIE油16を用いると、スプレッド時には若干の破水が見られ、表面にややムラがあり、その評価は最低限許容し得るレベルの△であった。
実施例60〜63は、実施例43から主にIE油1(分類A)とIE油14(分類B)の配合量を変更した。これらの実施例60〜63においても全体的に最低限許容し得る効果が確認されたが、実施例62はIE油の合計量が多く全体的な評価は低い傾向で(実施例61との対比)、実施例63はIE油の合計量が少なく同様に全体的な評価は低い傾向であった(実施例55、60との対比)。特に注目すべき点は、IE油は、油脂全体において多量に使用するのではなく、油脂全体において所定量以下の割合で使用するとその乳化能を効果的に発揮し得ることである。これらの結果も含めて、IE油の合計量は、油脂全体の質量に対して1〜70質量%が好ましく、3〜58質量%がより好ましく、その上限は55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
比較例7はIE油を配合せず、比較例8はヨウ素価の低いIE油17を使用し、比較例9はラウリン系油脂を用いず菜種油を原料の一部に用いたIE油18を使用したが、いずれも乳化が良好でなく、製造時には乳化物から水、油が分離し、マーガリン中で水滴が合一し均一に分散せず、スプレッド時には破水し、口溶け、風味の悪いものであった。
(3−5)層状食品用マーガリンと層状食品の評価
上記のとおり作製した層状食品用マーガリン(ロールイン用マーガリン)とそれを用いた層状食品(焼成品)について、次の評価を行った。
[離水状態]
離水状態(マーガリンの乳化安定性)を以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:乳化状態が非常に良好であり、乳化物から水の分離がない。
◎:乳化状態が良好であり、乳化物から水の分離がない。
○:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水が分離する。
△:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水および油が分離する。
×:乳化状態が良好でなく、乳化物から水、油が分離する。
[水滴状態]
顕微鏡にてマーガリン中の水滴状態を確認し、水滴状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:水滴の合一は見られず、均一に分散している。
○:一部水滴の合一が見られるが、均一に分散している。
△:やや水滴が合一し、均一に分散していない。
×:水滴が合一し、均一に分散していない。
[表面状態]
5℃にて3日間保存後のマーガリンの表面状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:表面が滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていない。
○:表面が滑らかで艶があるが、水滴が若干浮き出ている。
△:表面の滑らかさ、艶がややなく、水滴が若干浮き出ている。
×:表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ている。
上記のとおり作製した層状食品用マーガリンを用いて、下記の配合と工程によりクロワッサンを作製した。
具体的には層状食品用マーガリンおよび練り込み用ショートニング以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、練り込み用ショートニングを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地に層状食品用マーガリンを折り込み、3つ折り2回を加え−10℃にて30分リタードし、3つ折り1回を加え−10℃にて60分リタードさせた。その後シーターゲージ厚3mmまで延ばし、成型し、ホイロ後、焼成してクロワッサンを得た。
〈クロワッサンの配合〉
強力粉 90質量部
薄力粉 10質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 6質量部
練り込み用ショートニング 8質量部
(ミヨシショートニングZ:ミヨシ油脂(株))
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 53質量部
層状食品用マーガリン 生地100質量部に対して21質量部
〈クロワッサンの作製条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速5分、(練り込み用ショートニング投入)、
低速2分、中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアタイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3つ折り×2回 −10℃にてリタード30分
3つ折り×1回 −10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm 後、三角形にカットしクロワッサンを作製 ホイロ: 35℃ 75% 60分
焼成: 200℃ 14分
[作業性(生地への練り込まれ具合)]
クロワッサン作製時、ロールイン用として使用したマーガリンの生地への練り込まれ具合を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パン生地へ層状食品用マーガリンが練り込まれず、綺麗な層になる。
○:パン生地へ層状食品用マーガリンが一部練りこまれるが、綺麗な層になる。
△:パン生地へ層状食品用マーガリンが練り込まれ、層の見分けがつきにくい。
×:パン生地へ層状食品用マーガリンが練り込まれ、層の見分けがつかない。
[焼成品の浮き]
クロワッサン作製時、焼成品の浮きを以下の基準で評価した
評価基準
◎:ボリュームが非常に大きい。
○:ボリュームが大きい。
△:ボリュームがやや小さい。
×:ボリュームが小さい。
[焼成品の風味の持続性]
クロワッサンを焼成後2時間室温で放冷し、放冷後20℃で1日保管したものについて、風味の持続性をパネル20名により以下の基準で評価した。
なお評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が、風味の持続性があると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が、風味の持続性があると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が、風味の持続性があると評価した。
×:パネル20名中風味の持続性があると評価したのは5名以下であった。
上記の各評価結果を表9および表10に示す。
表9において実施例64は、表2の混合例1と同様にIE油としてIE油1とIE油14を併用した。マーガリン製造時の離水状態、マーガリン中の水滴状態は乳化の良否による影響を受け、乳化が特に良好でない場合、経時でのマーガリンの表面状態にも現れて、滑らかさや艶がなくなったり水滴が浮き出たりする。実施例64は、表2において混合例1の乳化能が最良であることを反映し、上記乳化の良否に関する3つの項目の評価はいずれも最良で、マーガリン製造時の離水状態は、乳化安定性が非常に良好であり、乳化物から水の分離がなく、マーガリン中の水滴状態は、水滴の合一は見られず、均一に分散しており、マーガリン保存後の表面状態は滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていなかった。つまりIE油の乳化能の良さを反映し、乳化能を持つIE油とそれ以外の油脂を配合した油相と水相からなるマーガリンの乳化の良否の指標となる各項目をいずれも満足するものであった。実施例64のマーガリンを生地に折り込んだ際には生地へ練り込まれず、綺麗な層になり、焼成品の浮きが良くボリュームが非常に大きい。マーガリンの乳化状態が良好であることがこれらの作業性と焼成品の結果に影響していると考えられる。また実施例64のマーガリンを生地に折り込んで作製した焼成品は風味の持続性があり、乳化状態が良好であることがマーガリンのフレーバーリリースなどに影響していると考えられる。実施例65、66は、実施例64のIE油1をそれぞれIE油5(分類A)、IE油11(分類A)に変更し、実施例67はIE油10(分類B)に変更した。これらは実施例64に比べると全体的な評価は下がり、各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例68〜72では、分類BのIE油14と併用するIE油を、IE油1(分類A)、IE油5(分類A)、IE油10(分類B)、IE油11(分類A)、IE油13(分類B)に変更した。各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例73は、実施例68からIE油1(分類A)の配合量を油脂全体の質量に対して20質量%に変更した。マーガリン製造時の乳化状態は実施例68の非常に良好な状態に比べると低下し、マーガリン中に一部水滴の合一が見られ、離水状態と水滴状態がやや低下した。この結果も含めて、分類AのIE油の配合量は、分類BのIE油と併用した場合、油脂全体の質量に対して18質量%以下が好ましい。
実施例74、75は、実施例67、70からIE油10(分類B)、IE油14(分類B)の配合量を変更した。実施例67、70、74は同等の評価であったが、実施例75ではこれらの比べると全体的に評価がやや低下した。この結果も含めて、分類BのIE油の配合量は、油脂全体の質量に対して45質量%以下が好ましい。
実施例76〜78は、実施例64から分類BのIE油を変更した。これらのうち実施例77はIE油14(分類B)からIE油10(分類B)に変更したが、これらの乳化能も同等(表1)であることと対応して各評価は同等かつ最良であった。実施例76は分類BのIE油を配合せず分類AのIE油1のみ用い、実施例78はIE油14(分類B)からIE油13(分類B)に変更したが、それぞれ表1のIE油の乳化能の結果を反映し、離水状態と水滴状態がやや低下した。
実施例79は、IE油15(分類A)、IE油16(分類A)を合計60質量%の量で用いたが、実施例64、65、67〜70、73、74、76〜78などと比べると各評価は全体として低下した。マーガリン中でやや水滴が合一し、均一に分散していない傾向に差がみられ、ロールイン時にはパン生地へ層状食品用マーガリンが練り込まれ、層の見分けがつきにくくなり、焼成品の風味の持続性も最良評価に比べると低下傾向がみられた。
実施例80は、実施例66からIE油11(分類A)をIE油16(分類A)に変更したが、表1におけるこれらの乳化能の結果を反映し、各評価は全体として低下した。パーム油とパーム核分別軟質油を用いたヨウ素価の比較的高いIE油16を用いると、マーガリン中でやや水滴が合一し、均一に分散しなくなり、ロールイン時にはパン生地へ層状食品用マーガリンが練り込まれ、層の見分けがつきにくくなり、これらの評価は最低限許容し得るレベルの△であった。
実施例81〜84は、実施例64から主にIE油1(分類A)とIE油14(分類B)の配合量を変更した。これらの実施例81〜84においても全体的に最低限許容し得る効果が確認されたが、実施例83はIE油の合計量が多く全体的な評価は低い傾向で(実施例82との対比)、実施例84はIE油の合計量が少なく同様に全体的な評価は低い傾向であった(実施例76、81との対比)。特に注目すべき点は、IE油は、油脂全体において多量に使用するのではなく、油脂全体において所定量以下の割合で使用するとその乳化能を効果的に発揮し得ることである。これらの結果も含めて、IE油の合計量は、油脂全体の質量に対して1〜70質量%が好ましく、3〜58質量%がより好ましく、その上限は55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
比較例10はIE油を配合せず、比較例11はヨウ素価の低いIE油17を使用し、比較例12はラウリン系油脂を用いず菜種油を原料の一部に用いたIE油18を使用したが、いずれも乳化が良好でなく、製造時には乳化物から水、油が分離し、マーガリン中で水滴が合一し均一に分散せず、保存後のマーガリンは表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ており、生地作製時の作業性や焼成品のボリューム、風味の持続性が悪いものであった。
(3−6)加糖タイプマーガリンの評価
上記の通り製造した加糖タイプマーガリンとそれを用いた焼成品について、次の評価を行った。
[離水状態]
離水状態(マーガリンの乳化安定性)を以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:乳化状態が非常に良好であり、乳化物から水の分離がない。
◎:乳化状態が良好であり、乳化物から水の分離がない。
○:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水が分離する。
△:乳化状態が良好であるが、乳化物から若干の水および油が分離する。
×:乳化状態が良好でなく、乳化物から水、油が分離する。
[水滴状態]
顕微鏡にてマーガリン中の水滴状態を確認し、水滴状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:水滴の合一は見られず、均一に分散している。
○:一部水滴の合一が見られるが、均一に分散している。
△:やや水滴が合一し、均一に分散していない。
×:水滴が合一し、均一に分散していない。
[表面状態]
5℃にて3日間保存後のマーガリンの表面状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:表面が滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていない。
○:表面が滑らかで艶があるが、水滴が若干浮き出ている。
△:表面の滑らかさ、艶がややなく、水滴が若干浮き出ている。
×:表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ている。
[焼成品の風味の持続性]
上記のとおり作製した加糖タイプマーガリンを用いて、食パンを作製した。使用したマーガリンを練り込み用マーガリンから加糖タイプマーガリンへ変更したことを除いて、配合と工程は上記練り込み用マーガリンの評価で行った手法と同様の手法で行った。
食パンを焼成後2時間室温で放冷し、放冷後20℃で1日保管したものについて、食パンの風味の持続性をパネル20名により以下の基準で評価した。
なお評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が、風味の持続性があると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が、風味の持続性があると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が、風味の持続性があると評価した。
×:パネル20名中風味の持続性があると評価したのは5名以下であった。
表11において実施例85は、表2の混合例1と同様にIE油としてIE油1とIE油14を併用した。マーガリン製造時の離水状態、マーガリン中の水滴状態は乳化の良否による影響を受け、乳化が特に良好でない場合、経時でのマーガリンの表面状態にも現れて、滑らかさや艶がなくなったり水滴が浮き出たりする。実施例85は、表2において混合例1の乳化能が最良であることを反映し、上記乳化の良否に関する3つの項目の評価はいずれも最良で、マーガリン製造時の離水状態は、乳化安定性が非常に良好であり、乳化物から水の分離がなく、マーガリン中の水滴状態は、水滴の合一は見られず、均一に分散しており、マーガリン保存後の表面状態は滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていなかった。つまりIE油の乳化能の良さを反映し、乳化能を持つIE油とそれ以外の油脂を配合した油相と水相からなるマーガリンの乳化の良否の指標となる各項目をいずれも満足するものであった。実施例85のマーガリンを生地に練り込んで作製した焼成品は風味の持続性があり、乳化状態が良好であることがマーガリンのフレーバーリリースなどに影響していると考えられる。実施例86、87は、実施例85のIE油1をそれぞれIE油5(分類A)、IE油11(分類A)に変更し、実施例88はIE油10(分類B)に変更した。これらは実施例85に比べると全体的な評価は下がり、各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を示唆した。
実施例89は実施例85のIE油1(分類A)の配合量を15質量%に変更した。表2の混合例1の乳化能が最良であることを反映し、乳化の良否に関する3つの項目の評価はいずれも最良であった。また、実施例89のマーガリンを生地に練り込んで作製した焼成品は風味の持続性があり、乳化状態が良好である事がマーガリンのフレーバーリリースなどに影響していると考えられる。
実施例90〜94では、分類BのIE油14と併用するIE油を、IE油1(分類A)、IE油5(分類A)、IE油10(分類B)、IE油11(分類A)、IE油13(分類B)に変更した。各実施例の傾向は、ヨウ素価を反映した表1における各IE油の乳化能の結果を反映していることを示唆した。
実施例95は、実施例90からIE油1(分類A)の配合量を油脂全体の質量に対して20質量%に変更した。マーガリン製造時の乳化状態は実施例90の非常に良好な状態に比べると低下し、マーガリン中に一部水滴の合一が見られ、離水状態と水滴状態がやや低下した。この結果も含めて、分類AのIE油の配合量は、分類BのIE油と併用した場合、油脂全体の質量に対して18質量%以下が好ましい。
実施例96、97は、実施例88、92からIE油10(分類B)、IE油14(分類B)の配合量を変更した。実施例88、92、96は同等の評価であったが、実施例97ではこれらの比べると全体的に評価がやや低下した。この結果も含めて、分類BのIE油の配合量は、油脂全体の質量に対して45質量%以下が好ましい。
実施例98〜100は、実施例85から分類BのIE油を変更した。これらのうち実施例99はIE油14(分類B)からIE油10(分類B)に変更したが、これらの乳化能も同等(表1)であることと対応して各評価は同等かつ最良であった。実施例98は分類BのIE油を配合せず分類AのIE油1のみ用い、実施例100はIE油14(分類B)からIE油13(分類B)に変更したが、それぞれ表1のIE油の乳化能の結果を反映し、離水状態と水滴状態がやや低下した。
実施例101は、IE油15(分類A)、IE油16(分類A)を合計60質量%の量で用いたが、実施例85、86、88〜92、95、96、98〜100などと比べると各評価は全体として低下した。マーガリンの表面状態にも水滴が若干浮き出る傾向に差がみられ、焼成品の風味の持続性も最良評価に比べると低下傾向がみられた。
実施例102は、実施例87からIE油11(分類A)をIE油16(分類A)に変更したが、表1におけるこれらの乳化能の結果を反映し、各評価は全体として低下した。パーム油とパーム核分別軟質油を用いたヨウ素価の比較的高いIE油16を用いると、マーガリン中の表面状態は、表面の滑らかさ、艶がややなくなり、水滴が若干浮き出ており、マーガリン中の水滴状態とともにその評価は最低限許容し得るレベルの△であった。
実施例103〜106は、実施例85から主にIE油1(分類A)とIE油14(分類B)の配合量を変更した。これらの実施例103〜106においても全体的に最低限許容し得る効果が確認されたが、実施例105はIE油の合計量が多く全体的な評価は低い傾向で(実施例104との対比)、実施例106はIE油の合計量が少なく同様に全体的な評価は低い傾向であった(実施例98、103との対比)。特に注目すべき点は、IE油は、油脂全体において多量に使用するのではなく、油脂全体において所定量以下の割合で使用するとその乳化能を効果的に発揮し得ることである。これらの結果も含めて、IE油の合計量は、油脂全体の質量に対して1〜70質量%が好ましく、3〜58質量%がより好ましく、その上限は55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
比較例13はIE油を配合せず、比較例14はヨウ素価の低いIE油17を使用し、比較例15はラウリン系油脂を用いず菜種油を原料の一部に用いたIE油18を使用したが、いずれも乳化が良好でなく、製造時には乳化物から水、油が分離し、マーガリン中で水滴が合一し均一に分散せず、保存後のマーガリンは表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ており、焼成品は風味が持続しなかった。
加糖タイプマーガリンは水相部と油相部の比重差から、乳化が不安定になりやすく、通常、配合乳化剤量の増量や、乳化効果の高い乳化剤を使用するなどして対応しているが、
本発明により、乳化剤を使用せずとも、良好な結果が確認できた。
(3−7)酵母エキス入りマーガリンの評価
上記の通り製造した酵母エキス入りマーガリンとそれを用いた焼成品について、次の評価を行った。
[乳化状態]
実施例および比較例の配合に従って、まず実施例および比較例の油脂配合によりビーカーに調合油を85g取り、70℃調温後、ホモミキサーにて70℃、4000rpmで撹拌しながら水相を添加し、乳化を行った。乳化液をステンレスシャーレに移し、70℃で2分間静置後、乳化液を廃棄し、ステンレスシャーレに付着した分離水相を計量し、乳化液中の分離した水相の割合を求め、以下の基準で評価した。
評価基準
◎+:乳化液中の分離した相水の割合が0.6%未満
◎:乳化液中の分離した水相の割合が0.6%以上1.0%未満
○:乳化液中の分離した水相の割合が1.0%以上1.4%未満
△:乳化液中の分離した水相の割合が1.4%以上1.8%未満
×:乳化液中の分離した水相の割合が1.8%以上
[水滴状態]
顕微鏡にてマーガリン中の水滴状態を確認し、水滴状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:水滴の合一は見られず、均一に分散している。
○:一部水滴の合一が見られるが、均一に分散している。
△:やや水滴が合一し、均一に分散していない。
×:水滴が合一し、均一に分散していない。
[表面状態]
5℃にて3日間保存後のマーガリンの表面状態を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:表面が滑らかで艶があり、水滴が浮き出ていない。
○:表面が滑らかで艶があるが、水滴が若干浮き出ている。
△:表面の滑らかさ、艶がややなく、水滴が若干浮き出ている。
×:表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ている。
[焼成品の風味のボディ感]
上記のとおり作製した酵母エキス入りマーガリンを用いて、食パンを作製した。使用したマーガリンを練り込み用マーガリンから酵母エキス入りマーガリンへ変更したことを除いて、配合と工程は上記練り込み用マーガリンの評価で行った手法と同様の手法で行った。
食パンを焼成後2時間室温で放冷し、放冷後20℃で1日保管したものについて、食パンの風味のボディ感をパネル20名により以下の基準で評価した。
なお評価を行ったパネルに関して、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20〜40代の男性8名と女性12名をパネルとして選抜した。
評価基準
◎:パネル20名中16名以上が、風味のボディ感があると評価した。
○:パネル20名中11〜15名が、風味のボディ感があると評価した。
△:パネル20名中6〜10名が、風味のボディ感があると評価した。
×:パネル20名中風味のボディ感があると評価したのは5名以下であった。
表13、14において実施例107〜121は酵母エキスを水相に配合した。実施例107〜109、111〜112では酵母エキスAの量を変更した。乳化液の乳化状態、マーガリンの水滴状態、表面状態、焼成品の風味のボディ感から、酵母エキスを一定量添加することで、それら評価が向上することを示唆している。同様に実施例116〜117、119〜121では酵母エキスBの量を変更した。乳化液の乳化状態、マーガリンの水滴状態、表面状態、焼成品の風味のボディ感から、酵母エキスを一定量添加することで、それら評価が向上することを示唆している。これらから判断すると、酵母エキスの添加量は0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、0.4質量%以上が最も好ましい。また、焼成品の風味のボディ感を考慮すると、酵母エキスの添加量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が最も好ましい。
実施例110、114、118は酵母エキスAを酵母エキスBに変更した。
酵母エキスBにする事で、酵母エキスAを使用した実施例より乳化状態の評価が悪くなることから、酵母エキスの成分の差が乳化状態に影響を及ぼしているものと考えられる。
実施例109、111、112はIE油1(分類A)、IE油14(分類B)を配合し、表2の混合例1の乳化能が最良であることを反映し、また、酵母エキスの種類、量とも適切であったことから乳化の良否に関する3つの項目の評価はいずれも最良であった。
実施例113では、IE油1の配合量がやや多く、実施例115では、エステル交換油脂(a)としての配合量がやや多いため、乳化状態の評価が最上とはならなかった。
実施例116〜121はIE油14(分類B)を配合していない。分類Aと分類Bの混合状態が成り立たなくなり、乳化状態が実施例107〜115と比べても、最上の乳化状態は得られなかった。
比較例16〜18はIE油を使用しない配合であるが、いずれも乳化が良好ではなく、マーガリン中で水滴が合一し均一に分散せず、保存後のマーガリンは表面の滑らかさ、艶がなく、水滴が浮き出ており、焼成品は風味のボディ感が最上とはならなかった。