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JP2018027079A - 可塑性油脂組成物及び食品 - Google Patents

可塑性油脂組成物及び食品 Download PDF

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JP2018027079A JP2017131469A JP2017131469A JP2018027079A JP 2018027079 A JP2018027079 A JP 2018027079A JP 2017131469 A JP2017131469 A JP 2017131469A JP 2017131469 A JP2017131469 A JP 2017131469A JP 2018027079 A JP2018027079 A JP 2018027079A
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Abstract

【課題】おいしさ、物性が良好な可塑性油脂組成物及びこのような可塑性油脂組成物が添加された食品を提供する。【解決手段】本発明の可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して6.0質量%以上26質量%以下であり、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、17質量%以上58質量%以下であり、50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有する。【選択図】なし

Description

本発明は、可塑性油脂組成物及び食品に関する。
従来より、製菓又は製パン用等に用いられる可塑性油脂組成物には、おいしさ(口溶け、コク味、ソフトさ、しとり、食感等)や、作業性等に関する物性について良好な品質が求められている。
例えば、特許文献1の実施例には、所定量の水分とイヌリン(ベネオ−オラフティ社製、商品名「オラフティTMGR」)を含有するロールイン用油中水型乳化物の可塑性油脂組成物が開示されている。特許文献1には、このような油中水型乳化物が、低油分であっても作業性を損なわず、またフレーキーな食感を得られることが記載されている。
特開2015−73470号公報
しかしながら、上記の特許文献1の可塑性油脂組成物は、油脂を構成するトリグリセリドの分子種までは言及しておらず、おいしさ及び物性が十分なものでなく、改善の余地があった。
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、おいしさ、物性が良好な可塑性油脂組成物及びこのような可塑性油脂組成物が添加された食品を提供することを目的とする。
本発明者らは所定の粘性を有するイヌリンにより良好な品質を得られ、さらに油脂の飽和脂肪酸量とトリグリセリドの2位に結合したリノール酸量を所定の値で組み合わせることで、より一層良好な品質の可塑性油脂組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
(1) 可塑性油脂組成物であって、
該可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が、前記可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して6.0質量%以上26質量%以下であり、
油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、17質量%以上58質量%以下であり、
50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有する、可塑性油脂組成物。
(2) 前記イヌリンの含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以上35質量%以下である、(1)に記載の可塑性油脂組成物。
(3) 水分の含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以上55質量%以下である、(1)又は(2)に記載の可塑性油脂組成物。
(4) 油分の含有量が、組成物全体の質量に対して30質量%以上70質量%以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
(5) 水分の含有量が、組成物全体の質量に対して0.5質量%以下である、(1)又は(2)に記載の可塑性油脂組成物。
(6) 油分の含有量が、組成物全体の質量に対して60質量%以上100質量%未満である、(1)、(2)及び(5)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
(7) 前記イヌリンがアガベ由来である、(1)から(6)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
(8) 製菓又は製パン用である、(1)から(7)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
(9) (1)から(8)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物が添加された食品。
(10) 前記食品が多加水パンである、(9)に記載の食品。
(11) (1)から(8)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物が添加された多加水パン生地。
(12) 穀粉と、(1)から(8)のいずれかに記載の可塑性油脂組成物と、前記穀粉100質量部に対して70質量部以上100質量部以下の水と、を含有する多加水パン生地を焼成する工程を含む多加水パンの製造方法。
本発明によれば、おいしさ、物性が良好な可塑性油脂組成物を得ることができる。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
<可塑性油脂組成物>
本発明の可塑性油脂組成物は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して6.0質量%以上26質量%以下であり、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、17質量%以上58質量%以下であり、50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有する。本発明の可塑性油脂組成物は、これにより、おいしさ、物性が良好になる。可塑性油脂組成物の用途によるが、例えば、本発明の可塑性油脂組成物を製パン練り込み用として用いた場合、べたつき、ソフトさ、しとり、コク味、トースト後の食感、もちもち感等の総合評価が良好となり、バタークリーム用として用いた場合、起泡性、口溶け、保形性、離水のしにくさ、コク味、ザラつき等の総合評価が良好となり、ロールイン用として用いた場合、作業性(可塑性油脂組成物の伸び)、内層のみずみずしさ、サクさ等の総合評価が良好となる。
イヌリンは多糖類の一種であるが、本発明に含まれるイヌリンは、50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるという特徴を有するものである。このような特徴を有するイヌリンは、水に対する溶解性も高い上に、多糖類としては低い粘度であり、つまり、低粘度のまま多めに溶解しているということができる。このような特徴を有することにより、イヌリンが可塑性油脂組成物中で骨格を作り、また、保水性が高くなることによって、結果としておいしさ、物性が優れるものとなると考えられる。また、イヌリンを油相に分散させた場合も、その溶解性から製パン時の作業性や、おいしさが優れるものになると考えられる。また、本発明における油脂において、トリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が所定の量の範囲である。2位に結合したリノール酸は、固まりやすさ、作業性、可塑性等に影響を与えていると考えられるが、本発明では上記のようにトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が所定の範囲内であることで、固まりやすさ、作業性、可塑性等のバランスが良好になると考えられる。さらに、本発明の油脂は、飽和脂肪酸の含有量が所定の範囲内である。飽和脂肪酸の含有量は油脂の保形性、作業性等に影響を与えていると考えられるが、本発明では上記のように飽和脂肪酸の含有量が所定の範囲内であることで、固まりやすさ、保形性、作業性等のバランスが良好になると考えられる。つまり、上記で述べた全ての特徴を備えることで、本発明の可塑性油脂組成物は、おいしさ、物性が良好になると考えられる。
(油脂)
本発明の可塑性油脂組成物において、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して6.0質量%以上26質量%以下であれば特に限定されないが、リノール酸の量が過小であると、作業性、おいしさ、物性が損なわれる可能性がある。このことから、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して9.0質量%以上であることが好ましく、12.0質量%以上であることがさらに好ましい。他方、リノール酸の量が過大であると、作業性、可塑性が損なわれ、おいしさ、物性が損なわれる可能性がある。このことから、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して24.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることが好ましく、18.0質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物において、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の質量は、特に限定されないが、おいしさ、物性がより良好となる観点から、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して20.0質量%以上60.0質量%以下であることが好ましく、23.0質量%以上55.0質量%以下であることがより好ましく、25.0質量%以上52.0質量%以下であることがさらに好ましく、28.0質量%以上50.0質量%以下であることが特に好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物において、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量は、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、17質量%以上58質量%以下であれば特に限定されないが、飽和脂肪酸の量が過小であると、結晶量が少ないため、保形性、作業性が損なわれ、おいしさ、物性が損なわれる可能性がある。このことから、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量は、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、21質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。他方、飽和脂肪酸の含有量の量が過大であると、結晶量が多くなるため、作業性が損なわれ、おいしさ、物性が損なわれる可能性がある。このことから、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量は、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、48質量%以下であることがさらに好ましく、45質量%以下であることが特に好ましい。
本明細書において、「S」は、油脂を構成する飽和脂肪酸を意味し、「U」は、油脂を構成する不飽和脂肪酸を意味する。また、トリグリセリドの1、2、3位とは、構成脂肪酸が結合された位置を意味する。
本発明の油脂中の構成脂肪酸である飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、各脂肪酸の炭素数である。本発明の油脂中の構成脂肪酸である飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
本発明の油脂中の構成脂肪酸である不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。本発明の油脂中の構成脂肪酸である不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
本発明の可塑性油脂組成物において、2位にリノール酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。2位がリノール酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド、ULU型トリグリセリド等が挙げられるが、特に限定されない。なお、「L」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるリノール酸を意味する。可塑性油脂組成物のおいしさ、物性が良好となることから、2位にリノール酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸である場合、炭素数4〜24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にリノール酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合、炭素数16〜20の不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)等)であることが好ましい。2位にリノール酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸である場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4〜24の飽和脂肪酸)と上述の不飽和脂肪酸(炭素数16〜20の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物において、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。2位がオレイン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SOS型トリグリセリド、SOU型トリグリセリド、UOU型トリグリセリド等が挙げられるが、特に限定されない。なお、「O」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸を意味する。可塑性油脂組成物のおいしさ、物性が良好となることから、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸である場合、炭素数4〜24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合、炭素数16〜20の不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)等)であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位又は3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸である場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4〜24の飽和脂肪酸)と上述の不飽和脂肪酸(炭素数16〜20の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでいてもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、人体に摂取された際のLDLコレステロールが増加し得る。よって、これを抑制しやすい観点で、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。
(イヌリン)
本発明は、50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有する。このイヌリンの粘度は、50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であれば特に限定されないが、粘度が過小であると、十分な骨格を形成できず、保水性が低くなる等、おいしさ、物性が損なわれる可能性がある。このことから、本発明の可塑性油脂組成物に含まれるイヌリンは、50℃における50質量%水溶液の粘度が13mPa・s以上であることが好ましく、17mPa・s以上であることがより好ましく、20mPa・s以上であることがさらに好ましい。他方、イヌリンの粘度が過大であると、保水性等が強くなり、作業性や、ソフトさ、しとりが損なわれる可能性がある。このことから、本発明の可塑性油脂組成物に含まれるイヌリンは、50℃における50質量%水溶液の粘度が35mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましく、28mPa・s以下であることがさらに好ましい。
本発明において、イヌリンの50℃における50質量%水溶液の粘度はSV型粘度計SV−10(株式会社エー・アンド・ディ製)により測定する。
イヌリンとは、キクイモ、チコリ、ダリア、アガベ等の根や茎に貯蔵され、フルクトースが重合した構造を有するものであり、分子内にβ−2,6結合又はβ−2,1結合の少なくとも一方を有するものであるが、分子内にβ−2,6結合を少なくとも有するものである方が、その立体的構造が枝分かれして架橋されたような構造となり、保水性、骨格の強さがより高まるものと考えられ、これがおいしさ、物性をより良好とするものと考えられる。よって、本発明におけるイヌリンは、少なくとも分子内にβ−2,6結合を有するものであることが好ましい。
本発明のイヌリンは、合成されたイヌリン又は天然のイヌリンのいずれであってもよいが、天然のイヌリンとしては、分子内にβ−2,6結合を有し、おいしさ、物性がより良好となることから、アガベ(リュウゼツラン科のAgave americana)由来のイヌリンを用いることが好ましい。
本発明のイヌリンの重合度は特に限定されないが、例えば、重合度が3〜180のものを用いることが好ましい。例えば、アガベ由来のイヌリン(アガベイヌリン)は、その重合度が150を超えて分布するにもかかわらず、分枝鎖構造を有するため、驚くほどの溶解性を有し、50質量%水溶液の高濃度でさえ粘度は低いため本発明の効果を得やすいことから好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物における上記のイヌリン(50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリン)の含有量は、例えば、可塑性油脂組成物全体の質量に対して0.1〜60質量%であってもよいが、過小であると、保水性、骨格の強さを十分に得られずにおいしさ、物性が損なわられる可能性があることから、本発明の可塑性油脂組成物における上記のイヌリンの含有量は、可塑性油脂組成物全体の質量に対して3.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましく、10.0質量%以上であることが特に好ましい。他方、上記のイヌリン(50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリン)の含有量が過大であると、保水性、骨格の強さが高くなりすぎて、おいしさ、物性が損なわれる可能性がある。このことから、本発明の可塑性油脂組成物における上記のイヌリンの含有量は、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、33質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物において、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量と、上記のイヌリン(50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリン)の含有量(可塑性油脂組成物全体の質量に対する含有量)との質量比は、例えば、飽和脂肪酸:イヌリン=0.1〜45:1であってもよいが、0.5〜30:1であることが好ましく、1〜25:1であることがより好ましく、1.0〜10:1であることがさらに好ましく、1.5〜5:1であることが最も好ましい。
また、本発明の可塑性油脂組成物中における飽和脂肪酸(乳化剤を除く)の含有量と、上記のイヌリン(50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリン)の含有量との質量比は、例えば、飽和脂肪酸:イヌリン=0.3〜21:1であってもよいが、0.4〜10:1であることが好ましく、0.5〜4:1であることが最も好ましい。
本発明において、可塑性油脂組成物に含まれるイヌリンの含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定する。
本発明の可塑性油脂組成物は、上記のイヌリン(50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリン)以外のイヌリンを含んでもよく、含まなくてもよいが、上記のイヌリン(50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリン)以外のイヌリンを含む場合、本発明の可塑性油脂組成物全体に含まれるイヌリンについて、50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であることが好ましい。
(その他の成分)
本発明の可塑性油脂組成物は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態のいずれの形態であってもよい。水相を含有する形態の場合、本発明の可塑性油脂組成物は、特に限定されないが、例えば、マーガリン類であってもよい。また、水相を含有する乳化形態は、特に限定されないが、例えば、油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型等が挙げられる。この場合の油相を構成する油分の含有量は、可塑性油脂組成物に応じて適宜変更してもよいが、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、好ましくは20質量%以上99.95質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。特に、例えば、本発明の可塑性油脂組成物を製菓又は製パンの練り込み用、又はバタークリーム用として用いた場合、油分の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、より好ましくは30質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以上50質量%以下である。あるいは、本発明の可塑性油脂組成物を製菓又は製パンのロールイン用として用いた場合、油分の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、より好ましくは40質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上70質量%以下である。また、水相を構成する水分の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、好ましくは0.05〜80質量%であり、より好ましくは、5質量%以上55質量%以下である。特に、例えば、本発明の可塑性油脂組成物を製菓又は製パンの練り込み用、又はバタークリーム用として用いた場合、水分の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、より好ましくは15質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは23質量%以上55質量%以下である。あるいは、本発明の可塑性油脂組成物を製菓又は製パンのロールイン用として用いた場合、水分の含有量は、可塑性油脂組成物の全体の質量に対して、より好ましくは10質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上30質量%以下である。油分、水分の含有量が上記の好ましい範囲内にあることで、本発明の可塑性油脂組成物は、おいしさ、物性がより良好となる。また、乳化形態は、特に、おいしさ、物性が良好となることから、油中水型であることが好ましい。
マーガリン類とは、マーガリン又はファットスプレッドのことを指す。マーガリンは、油脂を80質量%以上含み、ファットスプレッドは、油脂を80質量%未満含むものである。
水相を実質的に含有しない形態としては、ショートニングが挙げられる。本発明において、「実質的に含有しない」とは、水分(揮発分を含む)の含有量が0.5質量%以下、好ましくは0.0質量%以上0.5質量%以下、より好ましくは0.0質量%以上0.2質量%以下であることである。また、水相を実質的に含有しない形態における油相を構成する油分の含有量は、可塑性油脂組成物に応じて適宜変更してもよいが、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、60質量%以上100質量%未満であり、好ましくは70質量%以上95質量以下であり、さらに好ましくは80質量%以上93質量%以下である。
本発明の可塑性油脂組成物が水相を含有する形態である場合、水分の含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以上55質量%以下であり、かつ/又は、油分の含有量が、組成物全体の質量に対して30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物が水相を実質的に含有しない形態である場合、水分の含有量が、組成物全体の質量に対して0.5質量%以下であり、かつ/又は、油分の含有量が、組成物全体の質量に対して60質量%以上100質量%未満であることが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物は、上記成分以外に、従来の公知の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。そのような公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、乳化剤、乳、乳製品、粉末油脂、酵素又は蛋白質、増粘剤、糖質、塩類、卵加工品、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、調味料、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、ウイスキー・ウォッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、乳製品を酵素処理した呈味剤、香辛料、着色成分、フレーバー等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
乳化剤としては、特に限定されず、例えば、本発明の可塑性油脂組成物は、上記のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル(例えば、モノグリセリンモノパルミチン酸エステル、モノグリセリンモノステアリン酸エステル等)、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル(グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等)、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。乳化剤の含有量は、例えば、可塑性油脂組成物全体の質量に対して、0.1〜10質量%であってよい。
乳としては、例えば、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。酵素としては、糖質分解、リン脂質分解等の酵素、蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白等が挙げられる。増粘剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、グァガム、カードラン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール等が挙げられる、抗酸化剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等の成分を含むものが挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン、アナトー等が挙げられる。フレーバーとしては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。
(用途)
本発明の可塑性油脂組成物の用途は特に限定されないが、製菓又は製パン用としては、練り込み用、バタークリーム用、ロールイン用等が挙げられる。
<可塑性油脂組成物の製造方法>
本発明の可塑性油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、水相を含有する形態のもの(マーガリン類等)は、本発明の油脂組成物を含む油相と水相とを、適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のもの(ショートニング等)は、本発明の油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。また、必要に応じて、冷却混合機において窒素ガス等の不活性ガスを吹き込んだり、急冷捏和後に熟成(テンパリング)して、得ることができる。
本発明の可塑性油脂組成物は、水相を含有しない場合、イヌリンを油相に分散させて使用することができる。また、水相を含有する場合、イヌリンは、水相、油相、乳化後のいずれにも添加できる。
本発明の可塑性油脂組成物の製造に用いられる油脂としては、特に限定されないが、
パーム系油脂、ラウリン系油脂、豚脂(ラード)、牛脂、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、イリッペ脂、マンゴー脂、サル脂、シア脂、カカオ脂、乳脂、それらの分別油又はそれらの加工油(硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等が挙げられる。油脂中の構成脂肪酸である飽和脂肪酸の含有量を適宜調整するために、これらの油脂としては、1種あるいは2種以上を選択して含有させることが好ましい。なお、パーム系油脂は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上の油脂であり、例えば、パーム油、パーム分別油等が挙げられる。ラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上の油脂であり、例えば、パーム核油、ヤシ油等が挙げられる。
以下に、本発明の可塑性油脂組成物の製造に用いる油脂について、より具体的な例示を示す。本発明の油脂は、例えば、以下の3つの油脂種(A油脂、B油脂及びC油脂)を組み合わせることで調製することができる。
(A油脂)
本明細書において、「A油脂」とは、トリ飽和量が20〜50質量%でありヨウ素価が20〜50である油脂のことを指す。このようなA油脂としては、特に限定されないが、例えば、上記で述べたパーム系油脂、パーム系油脂のエステル交換油脂等の植物油脂や乳脂等の動物油脂を挙げることができ、1種以上組み合わせて使用することもできる。中でも、パーム分別硬質油、パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を用いると、結晶核となり、その結果、他の油脂の結晶を誘発し結晶量が確保され、焼成品に弾力性を付与できる。なお、本明細書において、油脂の「トリ飽和量」とは、その油脂全体の質量に対する、その油脂に含まれるトリ飽和脂肪酸グリセリドの質量を指し、例えば、上記A油脂の「トリ飽和量」は、A油脂全体の質量に対する、A油脂に含まれるトリ飽和脂肪酸グリセリドの質量を意味する。
(B油脂)
本明細書において、「B油脂」とは、トリ飽和量が2〜20質量%未満である油脂のことを指す。(但し「B油脂」としては、前述の「A油脂」及び後述の「C油脂」は包含しない。)このようなB油脂としては、特に限定されないが、例えば、A油脂、C油脂以外の植物油脂、動物油脂(豚脂(ラード)、牛脂等)、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂が挙げられる。中でも、A油脂との相溶性を考慮すると、パーム系油脂であるパーム油、パーム分別軟質部、パーム分別軟質部のエステル交換油脂、豚脂等を組み合わせて用いることが好ましい。
(C油脂)
本明細書において、「C油脂」とは、トリ飽和量が2%未満である油脂、又はトリ飽和量が50質量%超である油脂のことを指す。
トリ飽和量が2%未満である油脂としては、特に限定されないが、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
トリ飽和量が50質量%超である油脂としては、特に限定されないが、植物油脂又は動物油脂又はこれらの硬化油(部分水素添加油又は極度硬化油)や分別油の硬質油、これらを含む油脂を原料とするエステル交換油脂等が挙げられる。これらの中でも、植物油脂又は動物油脂の極度硬化油、あるいはこれを含む油脂を原料とするエステル交換油脂を用いることが好ましい。植物油脂としては、例えば、ヤシ油やパーム核油が挙げられ、植物油脂の極度硬化油としては、例えば、ヤシ極度硬化油、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油等が挙げられる。動物油脂の極度硬化油としては、例えば、豚脂極度硬化油、牛脂極度硬化油等が挙げられる。焼成品の口溶けが良好となる観点からは、融点が50℃以上の極度硬化油を用いる場合は、油脂全量に対し、5質量%以下とすることが好ましい。
以上で述べたA油脂、B油脂、C油脂の配合割合は、A油脂は、全油脂に対して10〜65質量%で配合することが好ましく、B油脂は、全油脂に対して5〜70質量%で配合することが好ましく、C油脂は、全油脂に対して0〜68質量%で配合することが好ましい。
本発明の可塑性油脂組成物を製造に用いた焼成品の生地は、穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉、雑穀等が挙げられる。
生地には、穀粉と本発明の可塑性油脂組成物以外にも、通常、焼成品の生地に使用されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく適宜の量とすることができる。具体的には、例えば、水、乳、乳製品、蛋白質、糖質、卵、卵加工品、澱粉、塩類、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、粉末油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー等が挙げられる。
本発明の可塑性油脂組成物は、通常の焼成品の生地(パン生地等)にも使用できるが、通常の生地よりも多くの水が配合される、多加水の生地にも使用できる。通常の焼成品の生地には、穀粉100質量部に対して水が55質量部以上68質量部未満加水され得る。他方、多加水の生地には、穀粉100質量部に対して水が70質量部以上100質量部以下、好ましくは72質量部以上85質量部以下配合され得る。本発明の可塑性油脂組成物を多加水の生地(多加水のパン生地等)に使用する場合、上記量の水を配合すると、特にソフトさ、しとり、もちもち感等に優れる焼成品(多加水パン等)が得られる。多加水パンに配合する水分は水そのものであってもよいし、生クリームや牛乳等の乳製品、果汁、各種調味料由来の水分であってもよく、またそれらを混合したものであってもよい。
多加水の生地に配合される本発明の可塑性油脂組成物の配合量は、食感に優れる焼成品が得られやすいため、穀粉100質量部に対して、油分が2質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。他方、多加水の生地に配合される本発明の可塑性油脂組成物の配合量は、よりバランスのよい食感を有する焼成品が得られやすいため、穀粉100質量部に対して、油分が15質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがさらに好ましく、7質量部以下であることが最も好ましい。
<可塑性油脂組成物が添加された食品>
本発明は、上記可塑性油脂組成物が添加された食品を包含する。
本発明の食品は、特に限定されないが、焼成品であることが好ましい。焼成品は、特に限定されないが、例えば、菓子(例えば、パイ、ケーキ(パウンドケーキ等)、クッキー、ビスケット、クラッカー、ワッフル、スコーン、シュー、ドーナツ等)、パン(多加水パン、食パン、菓子パン、クロワッサン、デニッシュ、ベーグル、ロールパン、コッペパン、バンズ等)等が挙げられる。
食品が焼成品である場合、その製造方法としては常用の方法を使用できる。例えば、可塑性油脂組成物等を含有する生地を適宜発酵させ、次いで焼成することで、本発明の可塑性油脂組成物を含有する焼成品が得られる。発酵や焼成等の条件は、得ようとする焼成品の種類等に応じて適宜設定される。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
(1)測定方法
イヌリンの粘度はビーカー(100ml容量)に粉末状のイヌリンを30g計量し、そこに薬さじで攪拌しながら80℃に加温された水を等量加え、60℃湯煎にてイヌリンを溶解させる。イヌリン粉末が溶け切るのを目視で確認後、常温で放冷し、50℃になったときの粘度を50℃における50質量%水溶液の粘度とした。油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。本発明において、油脂における飽和脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。なお、飽和脂肪酸の含有量は、上記試験法のとおりガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。油脂におけるトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会))の「2.4.4.3−2013トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」で測定した。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出した。
油脂におけるトリグリセリドの2位に結合されたリノール酸の含有量、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。なお、トリグリセリドの2位に結合されたリノール酸の含有量とトリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量は、上記試験法のとおり、リパーゼ溶液で処理後のモノアシルグリセリン画分をガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の2位構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。
(エステル交換油脂組成物の作製)
エステル交換油脂1:(ヨウ素価40 トリ飽和酸量24.3質量%)
原料油脂:パーム油 70質量%、パーム核油 15質量%、パーム極度
硬化油 7.5質量%、パーム核極度硬化油7.5質量%
エステル交換油脂2:(ヨウ素価56 トリ飽和酸量9.1質量%)
原料油脂:パーム分別軟質油
エステル交換油脂3:(ヨウ素価53 トリ飽和酸量13.7質量%)
原料油脂:パーム油
エステル交換油脂1〜3は次の方法で作製した。上記に示す原料油脂の割合で混合し、減圧下で80〜120℃に加熱し、十分脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.05〜0.15質量%添加し、0.5〜1.0時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂を得た。なお、例えば、エステル交換油脂1としてラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂(a)中における質量比(SUS/SSU)が0.45〜0.55の範囲内となる。対称型トリグリセリドと非対称型トリグリセリドの比が上記範囲内であると、結晶性が良くなり、他の油脂と混合した場合、相溶性が良く、可塑性が良好であり、染みだしの少ない可塑性油脂を得ることができる。
(イヌリン)
以下の実施例及び比較例の可塑性油脂組成物の作製に用いたイヌリン1〜3と、各イヌリンの50℃における50質量%水溶液の粘度(以下、単に「粘度」と略称する場合がある。)を以下に示す。配合割合は、後述する表1〜4に記載されたとおりである。
イヌリン1:有機アガベイヌリン(アガベ由来 ニュートリアガベ社製 粘度:23mPa・s)
イヌリン2:フジFF (平均重合度16 フジ日本精糖株式会社製、粘度:15mPa・s)
イヌリン3:オラフティGR (平均重合度10 べネオ‐オラフティ社製、水に溶解せず)
(乳化剤)
以下の実施例の可塑性油脂組成物の作製に用いた乳化剤を以下に示す。配合割合は、後述する表1〜3に記載されたとおりである。
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR) (SYグリスターCR
―ED 阪本薬品工業株式会社製)
レシチン (昭和Mレシチン 昭和産業株式会社製 )
(練り込み用及びバタークリーム用可塑性油脂組成物の製造)
後述する表1、2に示す油脂配合で75℃の調温し、乳化剤、フレーバーを添加して40.3部の油相を作製した。一方、水22.7〜59.7質量部にイヌリンを0〜37質量部添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、上記で得た油相に水相を後述する表1、2に示す配合量になるように添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和して、実施例1〜33、比較例1〜8に係る可塑性油脂組成物を製造した。得られた可塑性油脂組成物は5℃で保管した。なお、下記可塑性油脂組成物の配合は全体で100質量部であり、また、実施例1〜17、比較例1〜4に係る可塑性油脂組成物を練り込み用可塑性油脂組成物とし、実施例18〜33、比較例5〜8に係る可塑性油脂組成物をバタークリーム用可塑性油脂組成物とした。
〈練り込み用及びバタークリーム用可塑性油脂組成物の配合〉
油脂 40質量部
乳化剤 0.2質量部
フレーバー 0.1質量部
イヌリン 0〜37質量部
水 22.7〜59.7質量部
(ロールイン用可塑性油脂組成物の製造)
後述する表3に示す油脂配合で75℃の調温し、乳化剤、バターフレーバーを添加して60.3質量部又は61.2質量部の油相を作製した。一方、水11.7〜38.8質量部にイヌリンを0〜28質量部添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、上記で得た油相に水相を後述する表3に示す配合量になるように添加し、プロペラ攪拌機で攪拌して、油中水型に乳化した後、パーフェクターによって急冷捏和して、実施例34〜48、比較例9〜13に係るロールイン用可塑性油脂組成物を製造した。得られた可塑性油脂組成物は5℃で保管した。なお、下記可塑性油脂組成物の配合は全体で100質量部である。
〈ロールイン用可塑性油脂組成物の配合〉
油脂 60質量部
乳化剤 0.2又は1.1質量部
バターフレーバー 0.1質量部
イヌリン 0〜28質量部
水 11.7〜38.8質量部
<練り込み用可塑性油脂組成物の評価>
(練り込み用可塑性油脂組成物を使用した焼成品の作製)
上記練り込み用可塑性油脂を用いて、下記の配合と工程により食パンを製造した。
〈食パンの配合及び工程〉
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部

・中種工程
ミキシング 低速3分 中低速1分(フック使用)
捏上温度 24℃
発 酵 発酵室温27℃ 湿度75% 4時間

・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
練り込み用可塑性油脂組成物 5質量部
水 25質量部

・本捏工程(本捏配合の全素材及び中種生地全量を添加)
ミキシング 低速3分 中低速3分
(練り込み用可塑性油脂組成物を投入)、低速3分 中低速4分
捏上温度 28℃
フロアータイム 28℃ 20分
生地分割 230g
ベンチタイム 28℃ 20分
成 型 モルダーで延ばしロール型に成型
U型にしてプルマン型に6本詰め
ホイロ 室温38℃ 湿度80% 40分
焼 成 200℃ 40分
(評価)
実施例1〜17、比較例1〜4に係る可塑性油脂組成物が練り込まれた上記食パンに関して、べたつき、ソフトさ、しとり、コク味、トースト後の食感について評価を行った。以下の各評価においてパネルは五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
[べたつき]
製パン時の生地のべたつき及び作業性を熟練した作業員が以下の基準により評価した。
◎:生地の丸め、分割時にべたつきを感じず、作業しやすい。
○:生地の丸め、分割時にべたつきを感じない。
△:生地の丸め、分割時にややべたつきを感じる。
×:生地の丸め、分割時にべたつきを感じる。
[ソフトさ]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存し、試食したときの口あたりのソフトさをパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、ソフトさがあると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、ソフトさがあると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、ソフトさがあると評価した。
×:パネル10名中ソフトさがあると評価したのは2名以下であった。
[しとり]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存し、試食したときのしとり感をパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、しとり感があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、しとり感があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、しとり感があると評価した。
×:パネル10名中しとり感があると評価したのは2名以下であった。
[コク味]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存し、試食したときにコク味があると感じるかをパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、コク味があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、コク味があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、コク味があると評価した。
×:パネル10名中コク味があると評価したのは2名以下であった。
[トースト後の食感]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存し、1100Wのトースターで3分間トーストした食パンを試食したときの、とろっとした食感をパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、とろっとした食感があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、とろっとした食感があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、とろっとした食感があると評価した。
×:パネル10名中とろっとした食感があると評価したのは2名以下であった。
<バタークリーム用可塑性油脂組成物の評価>
実施例18〜33、比較例5〜8に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物について、起泡性、口溶け、保形性、離水、コク味、ザラつきを評価した。以下の各評価においてパネルは五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
[起泡性]
卓上ミキサー(Kitchen Aid社)を用いて、調温した実施例18〜33、比較例5〜8に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物の各々500gを多羽ホイッパーで速度4にてクリーミングし、比重が0.4よりも軽くなる時間で評価した。
◎:5分以内。
○:5分超〜6分30秒以内。
△:6分30秒超〜8分以内。
×:8分超、若しくは比重0.4よりは軽くならない。
[口溶け]
前記の起泡性試験で得たバタークリームの口溶けについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、良好であると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、良好であると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、良好であると評価した。
×:パネル10名中良好であると評価したのは2名以下であった。
[保形性]
前記の起泡性試験で得たバタークリームを絞り袋に入れ、菊型口金で15gをポリカップ容器に絞り35℃の恒温槽で1日保管したときの保形性を目視で評価した。
◎:形状に全く変化がない。
○:形状に若干変化がある。
△:形状の崩れがある。
×:形状の崩れが多くある。
[離水]
前記の起泡性試験で得たバタークリームを絞り袋に入れ、菊型口金で15gをポリカップ容器に絞り35℃の恒温槽で1日保管したときの離水状態を目視で評価した。
◎:全く離水がない。
○:僅かに離水がある。
△:離水がある。
×:離水が多くある。
[コク味]
前記の起泡性試験で得たバタークリームのコク味について、パネル10名により以下の基準で評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、コク味があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、コク味があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、コク味があると評価した。
×:パネル10名中コク味があると評価したのは2名以下であった。
[ザラつき]
前記の起泡性試験で得たバタークリームのザラつきについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、ザラつきはないと評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、ザラつきはないと評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、ザラつきはないと評価した。
×:パネル10名中ザラつきはないと評価したのは2名以下であった。
<ロールイン用可塑性油脂組成物の評価>
(ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した焼成品の作製)
下記の配合及び製造条件でデニッシュを作製した。具体的には実施例及び比較例のロールイン用可塑性油脂組成物及びショートニングZ(ミヨシ油脂株式会社製)以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低5分ミキシングを行った後、ショートニングZを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアータイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地にロールイン用可塑性油脂組成物を折り込み、3つ折り2回を加え−10℃にて30分リタードし、3つ折り1回を加え−10℃にて60分リタードさせた。その後シーターゲージ厚3mmまで延ばし、10cm角(10cm×1cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
〈デニッシュの配合〉
強力粉 85質量部
薄力粉 15質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 6質量部
ショートニングZ 8質量部
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 53質量部
ロールイン用可塑性油脂組成物 生地100質量部に対して21質量部
〈デニッシュ生地の作製条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速5分、(ショートニングを投入)、低速2分、
中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアータイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3つ折り×2回 −10℃にてリタード30分
3つ折り×1回 −10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm 10cm角(10cm×10cm)にカット
ホイロ: 35℃ 75% 60分
焼成: 200℃ 14分
(評価)
実施例34〜48、比較例9〜13に係る可塑性油脂組成物が折り込まれた上記デニッシュに関して、作業性(可塑性油脂組成物の伸び)、内層のみずみずしさ、サクさを評価した。以下の各評価においてパネルは五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
[作業性(可塑性油脂組成物の伸び)]
約1.8Kgのパン生地にシート状のロールイン用可塑性油脂組成物500gをのせ、折り込み時のロールイン用可塑性油脂組成物の伸展性について、熟練した作業員が以下の基準により評価した。
◎:生地中で油脂が均一に伸び、非常に伸展性が良好である。
○:生地中で油脂が均一に伸び、伸展性が良好である。
△:伸展性はあるものの、やや油脂切れがある。
×:油脂が均一に伸びず、油脂切れがある。
[内層のみずみずしさ]
焼成したデニッシュ(焼成後20℃にて1日保管後)を食したときの内層のみずみずしさについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
◎:パネル10名中8名以上がみずみずしさがあると評価した。
○:パネル10名中7〜5名がみずみずしさがあると評価した。
△:パネル10名中4〜3名がみずみずしさがあると評価した。
×:パネル10名中みずみずしさがあると評価したのは2名以下であった。
[サクさ]
焼成したデニッシュ(焼成後20℃にて1日保管後)を食したときのサクさについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
◎:パネル10名中8名以上がサクさがあると評価した。
○:パネル10名中7〜5名がサクさがあると評価した。
△:パネル10名中4〜3名がサクさがあると評価した。
×:パネル10名中サクさがあると評価したのは2名以下であった。
<評価結果>
実施例1〜17及び比較例1〜4に係る練り込み用可塑性油脂組成物の組成並びに評価結果を、下記の表1に示す。実施例18〜33及び比較例5〜8に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物の組成並びに評価結果を、下記の表2に示す。実施例34〜48及び比較例9〜13に係るロールイン用可塑性油脂組成物の組成並びに評価結果を、下記の表3に示す。なお、以下の表中、「油脂配合」のそれぞれの欄の数値は、それぞれの配合された油脂の、油脂全体の質量に対する配合量(質量%)を意味する。以下の表中の「飽和脂肪酸量」の欄の数値は、油脂の全構成脂肪酸の質量に対する、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量(質量%)を意味する。以下の表中の「飽和脂肪酸量(全油脂)/イヌリン量」の欄の数値は、可塑性油脂組成物に含まれるイヌリンの含有量(質量%)に対する、油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量(質量%)の質量比を意味し、「飽和脂肪酸量(組成物)/イヌリン量」の欄の数値は、可塑性油脂組成物に含まれるイヌリンの含有量(質量%)に対する、可塑性油脂組成物に含まれる飽和脂肪酸の含有量(質量%)の質量比を意味する。以下の表中の「2位リノール酸量」の欄の数値は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対する、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量(質量%)を意味する。以下の表中の「2位オレイン酸量」の欄の数値は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対する、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したオレイン酸の質量(質量%)を意味する。以下の表中の「2位オレイン酸量+2位リノール酸量」の欄の数値は、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対する、可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸及びオレイン酸の合計質量(質量%)を意味する。以下の表中の「油分」「乳化剤」、「フレーバー」、「イヌリン」、「水」、の欄のそれぞれの数値は、それぞれの成分の、可塑性油脂組成物全体の質量に対する含有量(質量%)を意味する。以下の表中の「PGPR」とは、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを意味する。

Figure 2018027079
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Figure 2018027079

表1に示すように、実施例1〜17に係る練り込み用可塑性油脂組成物を使用した生地及び焼成品は、べたつき、ソフトさ、しとり、コク味及びトースト後の食感の総合評価が、比較例1〜4に係る練り込み用可塑性油脂組成物より高かった。表2に示すように、実施例18〜33に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物は、起泡性、口溶け、保形性、離水、コク味、ザラつきの総合評価が、比較例5〜8に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物より高かった。表3に示すように、実施例34〜48に係るロールイン用可塑性油脂組成物及び該組成物から得られた焼成品は、作業性(可塑性油脂組成物の伸び)、内層のみずみずしさ、サクさの総合評価が、比較例9〜13に係るロールイン用可塑性油脂組成物より高かった。つまり、実施例1〜48に係る可塑性油脂組成物は、比較例1〜13に係る可塑性油脂組成物よりおいしさ、物性が良好であった。ここで、実施例1〜48に係る可塑性油脂組成物は、2位リノール酸量が6.0質量%以上26質量%以下であること、飽和脂肪酸量が17質量%以上58質量%以下であること、及び50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有することの全ての条件を満たすものであるが、比較例1〜13に係る可塑性油脂組成物は、これら条件のいずれかを満たさない。これらのことから、2位リノール酸量が6.0質量%以上26質量%以下であること、飽和脂肪酸量が17質量%以上58質量%以下であること、及び50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有することにより、おいしさ、物性が良好になることがわかった。
実施例3に係る練り込み用可塑性油脂組成物を使用した生地及び焼成品と実施例4に係る練り込み用可塑性油脂組成物を使用した生地及び焼成品とを比較すると、実施例3に係る練り込み用可塑性油脂組成物の方がべたつき、ソフトさ、しとり、コク味の評価が高かった。実施例3に係る練り込み用可塑性油脂組成物と実施例4に係る練り込み用可塑性油脂組成物とは、実施例3においては、粘度:23mPa・sのアガベイヌリン(ニュートリアガベ社製)を用いているのに対し、実施例4においては、粘度:15mPa・sのフジFF(フジ日本精糖株式会社製)のイヌリンを用いている点以外は、同様の組成である。また、実施例6に係る練り込み用可塑性油脂組成物と実施例7に係る練り込み用可塑性油脂組成物との比較、実施例8に係る練り込み用可塑性油脂組成物と実施例9に係る練り込み用可塑性油脂組成物との比較においても同様であった。
実施例21に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物と実施例22に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物とを比較すると、実施例21に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物の方が起泡性、口溶け、保形性、離水、コク味、ザラつきの評価が高かった。実施例21に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物と実施例22に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物とは、実施例21においては、粘度:23mPa・sのアガベイヌリン(ニュートリアガベ社製)を用いているのに対し、実施例22においては、粘度:15mPa・sのフジFF(フジ日本精糖株式会社製)のイヌリンを用いている点以外は、同様の組成である。また、実施例24に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物と実施例25に係るバタークリーム用可塑性油脂組成物との比較においても同様であった。
実施例36に係るロールイン用可塑性油脂組成物から得られた焼成品と実施例37に係るロールイン用可塑性油脂組成物から得られた焼成品とを比較すると、実施例36に係るロールイン用可塑性油脂組成物の方が内層のみずみずしさの評価が高かった。実施例36に係るロールイン用可塑性油脂組成物と実施例37に係るロールイン用可塑性油脂組成物とは、実施例36においては、粘度:23mPa・sのアガベイヌリン(ニュートリアガベ社製)を用いているのに対し、実施例37においては、粘度:15mPa・sのフジFF(フジ日本精糖株式会社製)のイヌリンを用いている点以外は、同様の組成である。また、実施例40に係るロールイン用可塑性油脂組成物と実施例41に係るロールイン用可塑性油脂組成物との比較においても同様であった。
これらのことから、粘度:23mPa・sのアガベイヌリン(ニュートリアガベ社製)を用いた方が、粘度:15mPa・sのフジFF(フジ日本精糖株式会社製)のイヌリンを用いるより、可塑性油脂組成物のおいしさ、物性が良好になることがわかった。
(練り込み用可塑性油脂組成物(ショートニング)の製造)
後述する表4に示す油脂配合を調製し、イヌリンを0〜30質量部添加し、油相を作製した。得られた油相をプロペラ攪拌機で攪拌して、パーフェクターによって急冷捏和して、実施例49〜62、比較例14〜17に係る可塑性油脂組成物を製造した。得られた可塑性油脂組成物は5℃で保管した。なお、下記可塑性油脂組成物の配合は全体で100質量部である。
〈練り込み用可塑性油脂組成物(ショートニング)の配合〉
油脂 70〜100質量部
イヌリン 0〜30質量部
<練り込み用可塑性油脂組成物(ショートニング)の評価>
(練り込み用可塑性油脂組成物(ショートニング)を使用した焼成品の作製)
上記練り込み用可塑性油脂を用いて、下記の配合と工程により焼成品として食パンを製造した。
実施例49〜62、比較例14〜17については、穀粉100質量部に対して、中種の水を40質量部、本捏の水を25質量部使用し、可塑性油脂組成物を油分が3.5質量部になるよう調整した。実施例63〜71、比較例18については、穀粉100質量部に対して、中種の水を40質量部配合し、本捏の水を調整することで表5に示す水の量とし、かつ、油分が3.5質量部になるよう可塑性油脂組成物の添加量を調整した。実施例64、65、67、68、70、71、比較例18の食パンは、多加水パンに相当する。
〈食パンの配合及び工程〉
・中種配合
強力粉 70質量部
イースト 2.5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部

・中種工程
ミキシング 低速3分 中低速1分(フック使用)
捏上温度 24℃
発 酵 発酵室温27℃ 湿度75% 4時間

・本捏配合
強力粉 30質量部
上白糖 6質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 2質量部
練り込み用可塑性油脂組成物(ショートニング) 3.5〜5質量部
水 25〜40質量部

・本捏工程(本捏配合の全素材及び中種生地全量を添加)
ミキシング 低速3分 中低速3分
(練り込み用可塑性油脂組成物を投入)、低速3分 中低速4分
捏上温度 28℃
フロアータイム 28℃ 20分
生地分割 230g
ベンチタイム 28℃ 20分
成 型 モルダーで延ばしロール型に成型
U型にしてプルマン型に6本詰め
ホイロ 室温38℃ 湿度80% 40分
焼 成 200℃ 40分
(評価)
実施例49〜62、比較例14〜17に係る可塑性油脂組成物が練り込まれた上記食パンに関して、べたつき、ソフトさ(保存1日後又は4日後)、しとり(保存1日後又は4日後)、コク味、トースト後の食感について評価を行った。また実施例63〜71、比較例18においては、べたつき、ソフトさ(保存1日後又は4日後)、しとり(保存1日後又は4日後)、もちもち感(保存1日後又は4日後)の評価を行った。以下の各評価においてパネルは五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
[べたつき]
製パン時の生地のべたつき及び作業性を熟練した作業員が以下の基準により評価した。
◎:生地の丸め、分割時にべたつきを感じず、作業しやすい。
○:生地の丸め、分割時にべたつきを感じない。
△:生地の丸め、分割時にややべたつきを感じる。
×:生地の丸め、分割時にべたつきを感じる。
[ソフトさ]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日又は4日保存し、試食したときの口あたりのソフトさをパネル10名で以下の基準により評価した。
:パネル10名中9名以上が、◎と比べてさらに良好な評価であると評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、ソフトさがあると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、ソフトさがあると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、ソフトさがあると評価した。
×:パネル10名中ソフトさがあると評価したのは2名以下であった。
[しとり]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日又は4日保存し、試食したときのしとり感をパネル10名で以下の基準により評価した。
:パネル10名中9名以上が、◎と比べてさらに良好な評価であると評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、しとり感があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、しとり感があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、しとり感があると評価した。
×:パネル10名中しとり感があると評価したのは2名以下であった。
[コク味]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存し、試食したときにコク味があると感じるかをパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、コク味があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、コク味があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、コク味があると評価した。
×:パネル10名中コク味があると評価したのは2名以下であった。
[トースト後の食感]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日保存し、1100Wのトースターで3分間トーストした食パンを試食したときの、とろっとした食感をパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、とろっとした食感があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、とろっとした食感があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、とろっとした食感があると評価した。
×:パネル10名中とろっとした食感があると評価したのは2名以下であった。
[もちもち感]
焼成した食パンを放冷後、20℃で1日又は4日保存したパンを試食したときの、
もちもちとした食感をパネル10名で以下の基準により評価した。
◎:パネル10名中8名以上が、もちもちした食感があると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、もちもちした食感があると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、もちもちした食感があると評価した。
×:パネル10名中もちもちした食感があると評価したのは2名以下であった。

Figure 2018027079
Figure 2018027079

表4に示すように、実施例49〜62に係る練り込み用可塑性油脂組成物から得られた焼成品は、べたつき、ソフトさ、しとり、コク味及びトースト後の食感の総合評価が、比較例14〜17に係る練り込み用可塑性油脂組成物から得られた焼成品より高かった。実施例に係る焼成品においては、ソフトさ、しとりのいずれも、4日間の保存後も良好に維持されていた。このような傾向は比較例に係る焼成品においては認められなかった。
表5に示すように、実施例50〜52に係る練り込み用可塑性油脂組成物を用いた実施例63〜71の焼成品は、べたつき、ソフトさ、しとり、もちもち感の総合評価が、比較例14に係る練り込み用可塑性油脂組成物を用いた比較例18の焼成品より高かった。実施例に係る焼成品においては、ソフトさ、しとり、もちもち感のいずれも、4日間の保存後も良好に維持されていた。特に、実施例67、70においては1日間の保存後のソフトさ、しとりが良好に高まっていた。このような傾向は比較例に係る焼成品においては認められなかった。また、実施例63〜65の結果の比較、実施例66〜68の結果の比較、及び実施例69〜71の結果の比較から、穀粉100質量部に対して73質量%の水を配合すると、特にソフトさ、しとり、もちもち感に優れる多加水パンが得られることがわかった。
以上から、実施例49〜71に係る可塑性油脂組成物は、比較例14〜18に係る可塑性油脂組成物よりおいしさ、物性が良好であった。ここで、実施例49〜71に係る可塑性油脂組成物は、2位リノール酸量が6.0質量%以上26質量%以下であること、飽和脂肪酸量が17質量%以上58質量%以下であること、及び50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有することの全ての条件を満たすものであるが、比較例14〜18に係る可塑性油脂組成物は、これら条件のいずれかを満たさない。これらのことから、リノール酸量が6.0質量%以上26質量%以下であること、飽和脂肪酸量が17質量%以上58質量%以下であること、及び50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有することにより、おいしさ、物性が良好になることがわかった。
実施例52に係る練り込み用可塑性油脂組成物と実施例53に係る練り込み用可塑性油脂組成物とを比較すると、実施例52に係る練り込み用可塑性油脂組成物の方がソフトさ、しとり、コク味の評価が高かった。実施例52に係る練り込み用可塑性油脂組成物と実施例53に係る練り込み用可塑性油脂組成物とは、実施例52においては、粘度:23mPa・sのアガベイヌリン(ニュートリアガベ社製)を用いているのに対し、実施例53においては、粘度:15mPa・sのフジFF(フジ日本精糖株式会社製)のイヌリンを用いている点以外は、同様の組成である。また、実施例58に係る練り込み用可塑性油脂組成物と実施例59に係る練り込み用可塑性油脂組成物との比較においても同様であった。これらのことから、粘度:23mPa・sのアガベイヌリン(ニュートリアガベ社製)を用いた方が、粘度:15mPa・sのフジFF(フジ日本精糖株式会社製)のイヌリンを用いるより、可塑性油脂組成物のおいしさ、物性が良好になることがわかった。
実施例49〜52、54の結果の比較、及び、実施例55〜57の結果の比較から、可塑性油脂組成物におけるイヌリンの含有量が10〜20質量%であると、特にべたつき、ソフトさ、しとり、コク味及びトースト後の食感の総合評価が優れていた。

Claims (12)

  1. 可塑性油脂組成物であって、
    該可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合したリノール酸の質量が、前記可塑性油脂組成物に含まれるトリグリセリドの2位に結合した脂肪酸全体の質量に対して6.0質量%以上26質量%以下であり、
    油脂の全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、油脂の全構成脂肪酸の質量に対して、17質量%以上58質量%以下であり、
    50℃における50質量%水溶液の粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であるイヌリンを含有する、可塑性油脂組成物。
  2. 前記イヌリンの含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以上35質量%以下である、請求項1に記載の可塑性油脂組成物。
  3. 水分の含有量が、組成物全体の質量に対して5質量%以上55質量%以下である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
  4. 油分の含有量が、組成物全体の質量に対して30質量%以上70質量%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
  5. 水分の含有量が、組成物全体の質量に対して0.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の可塑性油脂組成物。
  6. 油分の含有量が、組成物全体の質量に対して60質量%以上100質量%未満である、請求項1、2及び5のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
  7. 前記イヌリンがアガベ由来である、請求項1から6のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
  8. 製菓又は製パン用である、請求項1から7のいずれかに記載の可塑性油脂組成物。
  9. 請求項1から8のいずれかに記載の可塑性油脂組成物が添加された食品。
  10. 前記食品が多加水パンである、請求項9に記載の食品。
  11. 請求項1から8のいずれかに記載の可塑性油脂組成物が添加された多加水パン生地。
  12. 穀粉と、請求項1から8のいずれかに記載の可塑性油脂組成物と、前記穀粉100質量部に対して70質量部以上100質量部以下の水と、を含有する多加水パン生地を焼成する工程を含む多加水パンの製造方法。
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