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JP2017133054A - 成形性に優れる高強度アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents

成形性に優れる高強度アルミニウム合金板及びその製造方法 Download PDF

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JP2017133054A JP2016012582A JP2016012582A JP2017133054A JP 2017133054 A JP2017133054 A JP 2017133054A JP 2016012582 A JP2016012582 A JP 2016012582A JP 2016012582 A JP2016012582 A JP 2016012582A JP 2017133054 A JP2017133054 A JP 2017133054A
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Abstract

【課題】元スラブ鋳造時にMn、Fe及びSiを含有する2次合金地金を多く配合することができ、リサイクル性に優れ、自動車ボディシートなどに適用可能な成形性及び形状凍結性に優れるアルミニウム合金板を提供する。【解決手段】本発明に係るアルミニウム合金板は、Si:1.40〜1.60質量%、Fe:0.40〜0.60質量%、Cu:0.10〜0.20質量%、Mg:0.20〜0.50質量%、Mn:0.50〜0.70質量%未満、Ti:0.01〜0.10質量%、並びに残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%未満である成分組成を有し、引張り強度が200MPa以上、0.2%耐力が170MPa未満、伸びの値が22%以上であり、再結晶粒の平均粒径が25μm未満であり、平面ひずみ破断限界が0.15以上である冷延焼鈍材である。【選択図】図1

Description

本発明は、リサイクル性にも配慮した成分組成を有し、自動車用ボディシートなどに適用可能な成形性に優れた高強度アルミニウム合金板に関するものである。
自動車ボディシートに用いるアルミニウム合金板としては、例えばA5052P−OやA5182P−Oなどの5000系合金が用いられている。しかし、アルミニウム合金板は、プレス成形用鋼板と比較すると成形性に劣り、しかも、新塊のアルミニウム地金は、精錬時のエネルギー投入量が多く、コスト高になるという問題がある。
アルミニウムはリサイクル性に優れることが知られており、2次合金製造時のエネルギーは主として原材料の溶解に用いられるため、2次合金製造時のエネルギー投入量は比較的小さい。そこで、自動車ボディシート用として、リサイクル性にも配慮した成形性に優れる5000系合金板が開発されてきた。例えば、特許文献1には、Mg:2.5〜8%(重量%、以下同じ)、Fe:0.3〜1.2%を含み、かつSi≦0.5%、Mn≦0.3%、Si/Fe≦1.0、Si+0.6×Fe≦0.9%に規制され、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、しかも10μmを越えるサイズの金属間化合物の数が300個/mm以下で、結晶粒サイズが20〜70μmの範囲内にあることを特徴とする、リサイクル性の高い自動車ボディシート用アルミニウム合金圧延板が提唱されている。特許文献1によれば、自動車スクラップなどの鉄成分を多量に含むアルミニウムスクラップを原料として、Fe含有量が高くても優れた強度ならびに成形性を有するリサイクル性に優れた自動車ボディシート用アルミニウム合金圧延板が提供できることが記載されている。
また、塗装焼付後の強度も発揮できる6000系アルミニウム合金板も開発されている。例えば、特許文献2には、0.2〜1.5重量%のSiと0.2〜1.5重量%のMgとを必須成分とし、通常スクラップ等に含有される他の成分を任意成分として含有し、板の圧延方向断面で見られる最大径が10μm以上である晶出物の個数が300個/mm以下で、かつ最大径と最小径との比(最大径/最小径)が3.5以上である晶出物の個数が100個/mm以下であることを特徴とする自動車ボディパネル用アルミニウム合金板が提唱されている。
特許文献2によれば、スクラップ等のリサイクル材を原料としても、優れたプレス成形性、耐食性、及び塗装焼付後の強度等を発揮できる自動車ボディパネル用アルミニウム合金板が提供できることが記載されている。
さらに、強度を向上させて自動車の構造上のインナー材としての要求を満たし、かつリサイクル性に優れた3000系アルミニウム合金板も開発されている。例えば、特許文献3には、Mn:0.7乃至1.5質量%、Mg:0.7乃至2.0質量%及びSi:0.2乃至0.6質量%を含有し、更にFe:0.2乃至0.7質量%、Cu:0.1乃至0.4質量%及びCr:0.3質量%以下からなる群から選択された少なくとも1種を含有すると共に、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有する自動車インナーパネル用アルミニウム合金板が提唱されている。
特許文献3によれば、原材料の選択の幅が極めて広く、パネルのスクラップ材を原材料としてパネルを作製できる等の極めて優れたリサイクル性を有し、強度及びパネルを成形するときの成形性が優れた自動車パネルインナー材用アルミニウム合金板及び自動車インナーパネルを提供できることが記載されている。
また、最近では、前述の3000系アルミニウム合金板よりも、Mg含有量を少なくした成形性に優れる高強度アルミニウム合金板も開発されている。例えば、引用文献4には、Si:0.5〜1.4質量%、Fe:0.3〜1.1質量%、Cu:0.1〜0.3質量%、Mg:0.03〜0.6質量%、Mn:0.7〜1.4質量%、Ti:0.01〜0.1質量%、及び残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%以下である成分組成を有し、引張り強度が180MPa超、0.2%耐力が140MPa未満、及び伸びの値が23%以上であり、再結晶粒の平均粒径が30μm未満である冷延焼鈍材であるアルミニウム合金板が提唱されている。
特許文献4によれば、上記組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造するため、元スラブ鋳造時にMn及びFeを含有する2次合金地金を多く配合することができ、リサイクル性に優れ、自動車ボディシートなどに適用可能な成形性及び形状凍結性に優れるアルミニウム合金板及びその製造方法を提供できることが記載されている。
特開平8−165538号公報 特開平11−71623号公報 特開2001−254136号公報 特開2015−96650号公報
アルミニウム合金製の熱交換器のスクラップ材については、Mn含有量の多い3000系合金が多く用いられている。これらスクラップ材には、Fe、Cu、Mgなどの元素は勿論のこと、ろう材やフィン材などが含まれ、さらにはSi、Znなどの元素が不純物として含まれている。
このスクラップ材を主に含む2次合金地金を原料として配合してアルミニウム合金板を製造する場合、通常のDC鋳造による製造方法では、鋳造時の凝固冷却速度が比較的遅いことから、Al−(Fe・Mn)−Siなどの粗大な金属間化合物がスラブ中央部に晶出しやすい。この場合、鋳造時に粗大に晶出した金属間化合物が破断の起点になる可能性があり、破断伸びが低下する虞がある。一方、自動車用ボディシートなどに用いられるのアルミニウム合金板には、所定の形状にプレス成形されるため、優れた成形性及び形状凍結性が要求されるとともに、高強度であることも必要とされる。
そこで、本発明者らは、特許文献4に記載のアルミニウム合金板の開発において、薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造して、均質化処理を施すことなく、直接コイルに巻き取り、中間焼鈍処理を介して、又は介さずに冷間圧延を施した後、最終焼鈍処理を施す製造工程を採用した。この薄スラブ連続鋳造法によると、鋳造時の凝固冷却速度が比較的速いことから、スラブ中に晶出する金属間化合物のサイズが小さくなり、破断伸びが増加する。その結果、リサイクル性に優れ、かつ成形性及び形状凍結性にも優れた高強度アルミニウム合金板を完成させた。
ところで、成形性の評価方法として、従来は引張り試験における伸びの値を採用する場合が多く、この場合は、一軸引張り試験となるため、いわゆる絞り領域における成形性の評価となり、実際のプレス成形における成形性を評価するには不適切であった。アルミニウム合金板のプレス成形における割れは、絞り領域と張出し領域の中間領域である平面ひずみ領域において起こり易いとされている。したがって、プレス成形における割れなどの不良発生率を低減するためには、アルミニウム合金板のプレス成形において成形限界が最も低いとされる平面ひずみ領域において、その破断限界を評価する必要がある。
本発明者等は、特許文献4に記載のアルミニウム合金板の開発において、マトリックス中のMn固溶量が比較的高い場合には、平面ひずみ領域における破断限界(=平面ひずみ破断限界)が低くなることを見出した。その結果から、特許文献4に記載のアルミニウム合金板の合金組成よりも、Mn含有量を低くし、その代わりにSi含有量またはMg含有量を高くすることで、成形性に優れる高強度アルミニウム合金板を得ることができるのではないか、との着想を得た。そして、本発明者等は、最終焼鈍板の引張り特性および平面ひずみ破断限界の調査を通じて、成形性に優れる高強度アルミニウム合金板を得るべく鋭意検討を重ね、本発明に到達した。
本発明に係るアルミニウム合金板は、元スラブ鋳造時にMn、Fe及びSiを含有する2次合金地金を多く配合することができ、リサイクル性に優れ、かつ成形性及び形状凍結性に優れているため、自動車ボディシートなどに適用可能である。
本発明に係るアルミニウム合金板は、Si:1.40〜1.60質量%、Fe:0.40〜0.60質量%、Cu:0.10〜0.20質量%、Mg:0.20〜0.50質量%、Mn:0.50〜0.70質量%未満、Ti:0.01〜0.10質量%、並びに残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%未満である成分組成を有し、引張り強度が200MPa以上、0.2%耐力が170MPa未満、伸びの値が22%以上であり、再結晶粒の平均粒径が25μm未満であり、平面ひずみ破断限界が0.15以上である冷延焼鈍材である。
本発明に係るアルミニウム合金板の特性を達成するために、第1の製造方法では、上記組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施す。さらに、最終焼鈍においては、連続焼鈍炉により、保持温度450〜550℃で10〜60秒間保持する最終焼鈍を施すことが好ましい。
本発明に係るアルミニウム合金板の特性を達成するために、第2の製造方法では、上記組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、冷間圧延を施し、前記コイルをバッチ炉に挿入し、保持温度430〜510℃で0.5〜12時間保持する中間焼鈍を施した後、最終冷延率50〜90%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施す。さらに、中間焼鈍においては、バッチ炉により、保持温度430〜510℃で0.5〜12時間保持する中間焼鈍を施すことが好ましい。さらに、最終焼鈍においては、連続焼鈍炉により、保持温度450〜550℃で10〜60秒間保持する最終焼鈍を施すことが好ましい。
本発明のアルミニウム合金板は、元スラブ鋳造時にMn、Fe及びSiを含有する2次合金地金を多く配合することができ、リサイクル性に優れ、自動車ボディシートを低コストで提供することができる。そして、自動車ボディシートとして採用されているA5052−O材並みの適度な強度、形状凍結性及び成形性を有する。
また、本発明のアルミニウム合金板は、一般のアルミニウム合金に比べて、Mn、Fe、及びSiなどが多い合金組成において、良好な成形性を有する最終焼鈍板を得るために、Mn、Fe、及びSiなどの各元素を適切に調整することに加え、鋳造時に晶出する金属間化合物のサイズを細かくするとともに、最終冷延率を高めて最終焼鈍処理によって、金属組織を平均結晶粒径25μm未満の再結晶組織とすることができる。さらに、成分組成を細かく調整することにより、ひずみ速度10−3/secにおける平面ひずみ破断限界を0.15以上として、プレス成形性に優れたアルミニウム合金板とすることができる。
平面ひずみ破断限界を測定するための引張り試験片の形状を示す図である。
以下、本発明の実施の形態に係るアルミニウム合金板について説明する。本実施の形態に係るアルミニウム合金板は、Si:1.40〜1.60質量%、Fe:0.40〜0.60質量%、Cu:0.10〜0.20質量%、Mg:0.20〜0.50質量%、Mn:0.50〜0.70質量%未満、Ti:0.01〜0.10質量%、並びに残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%未満である成分組成を有し、引張り強度が200MPa以上、0.2%耐力が170MPa未満、伸びの値が22%以上であり、再結晶粒の平均粒径が25μm未満であり、平面ひずみ破断限界が0.15以上である冷延焼鈍材である。
また、本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第1の製造方法は、本発明の実施の形態に係るアルミニウム合金の溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接コイルに巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施す。第1の製造方法では、薄スラブ連続鋳造機によって、3〜10mm厚みのスラブを鋳造することで、凝固冷却速度を速くして、Al−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物を細かく晶出させるとともに、均質化処理及び熱間圧延工程を省略して、最終板厚まで中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施して最終冷延板を得ることができる。さらに、第1の製造方法では、急速加熱及び急速冷却が可能な連続焼鈍炉(CAL)を用いて最終焼鈍を施し、細かい再結晶組織を有する冷延焼鈍材(O材)を得ることができる。
また、本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第2の製造方法は、本発明の実施の形態に係るアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接コイルに巻き取った後、冷間圧延を施し、前記コイルをバッチ炉に挿入し、保持温度430〜510℃で0.5〜12時間保持する中間焼鈍を施した後、さらに最終冷延率50〜90%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施す。第2の製造方法では、薄スラブ連続鋳造機によって、3〜10mm厚みのスラブを鋳造することで、凝固冷却速度を速くして、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物を細かく晶出させるとともに、均質化処理及び熱間圧延工程を省略して、冷間圧延を施した後、中間焼鈍を施すことで、マトリックス中のMn、Si等の固溶量を低減させるとともに、中間焼鈍を施した後、最終冷延率50〜90%の冷間圧延を施して最終冷延板を得ることができる。さらに、第2の製造方法では、急速加熱及び急速冷却が可能な連続焼鈍炉(CAL)を用いて最終焼鈍を施し、細かい再結晶組織を有する冷延焼鈍材(O材)を得ることができる。
次に、本願発明の成分組成を限定した理由について各元素毎に説明する。
Si:1.40〜1.60質量%
Siは一般的にスクラップを用いた2次合金地金に多量に含まれているため、本発明のアルミニウム合金板には必須の元素である。
Si含有量が1.40質量%未満であると、強度が低下し、2次合金地金の配合率を高くすることができないため、好ましくない。一方、Si含有量が1.60質量%を超えると、冷延材の融点が低下することで、最終焼鈍時の保持温度を高くできなくなるため、好ましくない。したがって、Si含有量は、1.40〜1.60質量%の範囲とする。好ましくは、Si含有量は、1.45〜1.60質量%の範囲である。さらに好ましくは、Si含有量は、1.45〜1.55質量%の範囲である。
Fe:0.40〜0.60質量%
Feは一般的にスクラップを用いた2次合金地金に多量に含まれているため、本発明のアルミニウム合金板には必須の元素である。
Fe含有量が0.40質量%未満であると、2次合金の配合率を高くすることができないため、好ましくない。また、Fe含有量が0.40質量%未満であると、冷延焼鈍板における引張り強度が低くなりすぎるため、好ましくない。Fe含有量が0.60質量%を超えると、Al−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物のサイズが大きくなりすぎて、平面ひずみ破断限界が低くなり成形性が低下するため、好ましくない。したがって、Fe含有量は、0.40〜0.60質量%の範囲とする。好ましくは、Fe含有量は、0.40〜0.55質量%の範囲である。さらに好ましくは、Fe含有量は、0.45〜0.55質量%の範囲である。
Cu:0.10〜0.20質量%
Cuは一般的にスクラップを用いた2次合金地金に多量に含まれているため、本発明のアルミニウム合金板には必須の元素である。
Cu含有量が0.10質量%未満であると、2次合金の配合率を高くすることができないため、好ましくない。一方、Cu含有量が0.20質量%を超えると、冷延焼鈍板の耐食性が低下するとともに、平面ひずみ破断限界が低くなり成形性が低下するため、好ましくない。したがって、Cu含有量は、0.10〜0.20質量%の範囲とする。好ましくは、Cu含有量は、0.10〜0.18質量%の範囲である。さらに好ましくは、Cu含有量は、0.12〜0.18質量%の範囲である。
Mg:0.20〜0.50質量%
Mgは一般的にスクラップを用いた2次合金地金に多量に含まれているため、本発明のアルミニウム合金板には必須の元素である。
Mg含有量が0.20質量%未満であると、2次合金の配合率を高くすることが困難になるばかりではなく、冷延焼鈍材の引張り強度が低下するため、好ましくない。一方、Mg含有量が0.50質量%を超えると、MgSiの生成量が多くなりすぎて、平面ひずみ破断限界が低くなり成形性が低下するため、好ましくない。したがって、Mg含有量は、0.20〜0.50質量%の範囲とする。好ましくは、Mg含有量は、0.20〜0.45質量%の範囲である。さらに好ましくは、Mg含有量は、0.20〜0.40質量%の範囲である。
Mn:0.50〜0.70質量%未満
Mnは一般的にスクラップを用いた2次合金地金に多量に含まれているため、本発明のアルミニウム合金板には必須の元素である。
Mn含有量が0.50質量%未満であると、自動車ボディシートとして十分な強度を確保することができないため、好ましくない。一方、Mn含有量が0.70質量%以上であると、マトリックス中のMn固溶量が高くなりすぎて、平面歪破断限界が低くなり成形性が低下するため、好ましくない。したがって、Mn含有量は、0.50〜0.70質量%未満の範囲とする。好ましくは、Mn含有量は、0.50〜0.65質量%の範囲である。さらに好ましくは、Mn含有量は、0.55〜0.65質量%の範囲である。
Ti:0.01〜0.10質量%
Tiは一般的にスクラップを用いた2次合金地金に多量に含まれているため、本発明のアルミニウム合金板には必須の元素である。
Ti含有量が、0.01質量%未満であると、2次合金の配合率を高くすることができないため、好ましくない。一方、Tiの含有量が0.10質量%を超えると、鋳造時にTiAlなどの粗大な金属間化合物が晶出して、最終板における伸びの値が低くなり、成形性が低下するおそれがあるため、好ましくない。したがって、Ti含有量は、0.01〜0.10質量%の範囲とする。好ましくは、Ti含有量は、0.01〜0.08質量%の範囲である。さらに好ましくは、Ti含有量は、0.01〜0.06質量%の範囲である。
不純物としてのZnが1.0質量%未満
不可避的不純物としてのZnの含有量は、1.0質量%未満に制限する必要がある。Zn含有量が1.0質量%以上であると、自然電極電位が低くなりすぎて自己耐食性が低下する。好ましくは、Zn含有量は、0.9質量%未満の範囲である。さらに好ましくは、Zn含有量は、0.8質量%未満の範囲である。
不純物としてのCrが0.1質量%未満
不可避的不純物としてのCrの含有量は、0.1質量%未満に制限する必要がある。Cr含有量が0.1質量%以上であると、スラブ鋳造時にAl−(Fe・Cr)−Siなどの粗大な金属間化合物が晶出して、伸びの値が低くなるため、成形性が低下する。好ましくは、Cr含有量は、0.08質量%未満の範囲である。さらに好ましくは、Cr含有量は、0.06質量%未満の範囲である。
不純物としてのNiが0.1質量%未満
不可避的不純物としてのNiの含有量は、0.1質量%未満に制限する必要がある。Ni含有量が0.1質量%以上であると、スラブ鋳造時にNiAlなどの粗大な金属間化合物が晶出して、伸びの値が低くなるため、成形性が低下する。好ましくは、Ni含有量は、0.08質量%未満の範囲である。さらに好ましくは、Ni含有量は、0.06質量%未満の範囲である。
その他の不可避的不純物について
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するもので、それらの許容できる含有量は、例えば、不可避的不純物としてのZrの含有量は0.1質量%未満であり、不可避的不純物としてのPb、Bi、Sn、Na、Ca、及びSrの含有量は各0.02質量%未満であり、その他の不可避的不純物の含有量は各0.05質量%未満であれば、管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
引張り強度が200MPa以上
本実施の形態に係るアルミニウム合金板は、自動車ボディシートに用いるアルミニウム合金板であり、高い強度が要求される。したがって、引張り強度200MPa以上に限定する。
0.2%耐力が170MPa未満
本実施の形態に係るアルミニウム合金板は、自動車ボディシートに用いるアルミニウム合金板であり、高い強度が要求される。しかし、0.2%耐力が高すぎる場合には、プレス成形時にスプリングバックが大きくなり、形状凍結性が低下する。したがって、0.2%耐力は170MPa未満に限定する。
伸びの値が22%以上
本実施の形態に係るアルミニウム合金板は、自動車ボディシートに用いるアルミニウム合金板であり、自動車ボディシートはプレス成形によって製造されるため、優れた成形性が要求される。したがって、伸びの値は22%以上に限定される。
再結晶粒の平均粒径が25μm未満
本実施の形態に係るアルミニウム合金板は、自動車ボディシートに用いるアルミニウム合金板であり、自動車ボディシートはプレス成形によって製造されるため、プレス成形後の外観に肌荒れが発生しないことが要求される。最終板の再結晶粒の平均粒径が粗い場合には、プレス成形後の外観に肌荒れが発生するおそれがある。したがって、再結晶粒の平均粒径が25μm未満に限定される。
平面ひずみ破断限界が0.15以上
さらに、プレス成形における割れなどの不良発生率を低減するためには、平面ひずみ領域においてその破断限界を評価する必要がある。
詳細は後記の実施例の記載に譲るとして、自動車用ボディーシート等に適用する本発明のアルミニウム合金板としては、最終焼鈍板として、平面ひずみ破断限界が0.15以上なる特性を有するものが好適である。
次に、上記のようなアルミニウム合金板を製造する方法の一例について説明する。
溶解・溶製
アルミニウム合金板を製造する方法では、溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行う。さらに、必要に応じてランスなどを使用して炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面からカスを分離する。
この溶解・溶製では、所定の合金成分とするために、母合金の再投入も重要であるが、フラックス及びカスがアルミニウム溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上取ることが望ましい。好ましくは、鎮静時間は45分以上である。
溶解炉で溶製されたアルミニウム合金溶湯は、鋳造ラインの構成によっては、一旦保持炉に移湯させた後、保持炉から出湯させて鋳造してもよい。また、アルミニウム合金溶湯は、鋳造ラインの構成によっては、直接溶解炉から出湯させて鋳造してもよい。
また、必要に応じて、アルミニウム合金溶湯に、インライン脱ガス処理を施してもよい。インライン脱ガス処理は、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガスなどを吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガス中の泡中に拡散させ除去するタイプのものが主流である。不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合には、露点を例えば−60℃以下に管理することが重要である。鋳塊の水素ガス量は、0.20ml/100g以下に低減することが好ましい。
薄スラブ連続鋳造機
薄スラブ連続鋳造機は、双ベルト式鋳造機、双ロール式鋳造機の双方を含むものとする。
双ベルト式鋳造機は、エンドレスベルトを備え、上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、前記回転ベルト部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して前記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
双ロール式鋳造機は、エンドレスロールを備え、上下に対峙する一対の回転ロール部と、当該一対の回転ロール部の間に形成されるキャビティーと、前記回転ロール部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して前記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の鋳造方法では、薄スラブ連続鋳造機を使用する。薄スラブ連続鋳造機を使用すると、鋳造時の凝固冷却速度を速くすることができ、スラブ鋳造時にAl−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物を細かく均一に晶出させることができる。このことにより、冷延焼鈍板における伸びの値を高めることができる。また、直接冷間圧延することができる厚さの薄スラブを得ることにより、均質化処理工程及び熱間圧延工程を省略することができる。
また、本発明の特性を達成するために、本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第1の製造方法では、上記組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接コイルに巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延を施し、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施した後、最終焼鈍を施すことを特徴とする。さらに、最終焼鈍においては、連続焼鈍炉により、保持温度450〜550℃で10〜60秒間保持する最終焼鈍を施すことが好ましい。
また、本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第2の製造方法では、上記組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、直接コイルに巻き取って、冷間圧延を施した後、保持温度430〜510℃で0.5〜12時間の中間焼鈍を施して、最終冷延率50〜90%の冷間圧延を施した後、最終焼鈍を施すことを特徴とする。さらに、最終焼鈍においては、連続焼鈍炉により、保持温度450〜550℃で10〜60秒間保持する最終焼鈍を施すことが好ましい。また、中間焼鈍処理においては、バッチ炉により、保持温度430〜510℃で0.5〜12時間保持する中間焼鈍を施すことが好ましい。
スラブ厚み:3〜10mm
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の製造方法において、鋳造する薄スラブの厚さは3〜10mmに限定される。この厚さで薄スラブを鋳造すると、薄スラブの1/4厚みの位置におけるスラブ冷却速度を40〜1000℃/秒程度とすることができる。このように、比較的速い冷却速度で溶湯を凝固させることによって、鋳造時にAl−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物を均一に細かく晶出させることが可能となる。薄スラブは、直接コイルに巻き取られ、次に冷間圧延が施される。コイルは、この冷間圧延工程間において必要に応じて中間焼鈍が施され、さらには冷間圧延工程終了後に最終焼鈍が施される。このような中間焼鈍処理及び最終焼鈍処理によって、マトリックスに固溶していたMn、Siなどの遷移元素を金属間化合物に拡散・吸収させることで、最終板における伸びの値や平面ひずみ破断限界を高めて成形性を向上させることができる。
一方、スラブ厚さが3mm未満であると、薄スラブ連続鋳造機を通過する単位時間当たりのアルミニウム量が少なくなりすぎて、鋳造が困難になる。また、スラブ厚さが10mmを超えると、直接コイルを巻き取ることが困難となる。したがって、スラブ厚さは3〜10mmに限定される。
前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の製造方法では、均質化処理及び熱間圧延が施されない。均質化処理工程及び熱間圧延工程を省略することにより、加工コストを低減することができるとともに、所望の板厚の材料を得ることができる。
冷間圧延
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の製造方法では、双ベルト式鋳造機を用いて、スラブを連続的に鋳造し、前記スラブに熱間圧延を施すことなく直接コイルに巻き取った後、冷間圧延を施す。このため、従来の半連続鋳造スラブ(DC鋳造スラブ)に必要となる面削工程、均質化処理工程及び熱間圧延工程を省略することができる。薄スラブを直接巻き取ったコイルは、冷間圧延機に通され、複数パスかの冷間圧延が通常施される。この際、冷間圧延によって導入される塑性歪によって加工硬化が起こるため、必要に応じて、中間焼鈍が施される。
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第2の製造方法では、中間焼鈍処理は軟化処理も兼ねている。つまり、冷間圧延によって導入される塑性歪をある程度解消することができる。また、この中間焼鈍処理は、マトリックスに固溶しているMn、Siなどの遷移元素をAl−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物に拡散吸収させることで、最終板における伸びの値や平面ひずみ破断限界を高めて成形性を向上させることができる。
具体的には、中間焼鈍は、バッチ焼鈍炉にコイルを挿入して、430〜510℃の温度で0.5〜12時間保持することが好ましい。一方、保持温度が430℃よりも低いと、マトリックス中のMn、Siなどの遷移元素の固溶量を低下させることができず、耐力が高くなりすぎて好ましくない。また、保持温度が510℃を超えると、コイルの酸化も激しくなり、生産性が低下するため、好ましくない。
最終冷延率70〜95%の冷間圧延
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第1の製造方法では、最終板厚まで中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施した後、最終焼鈍を施す。最終冷延率が70〜95%であれば、焼鈍後の最終板における平均結晶粒を25μm未満にして、伸びの値を22%以上にすることができ、プレス成形後の外観肌を綺麗に仕上げることができる。したがって、加工コストを低く抑えるとともに、遷移金属元素の固溶量を確保しながら加工を加えることにより転位が蓄積されて、最終焼鈍工程で25μm未満の比較的微細な再結晶粒を得ることが可能となる。一方、最終冷延率が70%未満の場合、冷間圧延で蓄積される歪エネルギーが少なく、最終焼鈍時で25μm未満の再結晶粒を得ることができない。また、最終冷延率が95%を超えると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が多すぎて、加工硬化が激しく、エッジに耳割れを生じて圧延が困難となる。したがって、最終冷延率は70〜95%の範囲である。より好ましくは、最終冷延率は70〜90%の範囲である。さらに好ましくは、最終冷延率は75〜90%の範囲である。
最終冷延率50〜90%の冷間圧延
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第2の製造方法では、中間焼鈍を施した後、さらに最終冷延率50〜90%の冷間圧延が施されて、最終焼鈍を施す。最終冷延率が50〜90%であれば、焼鈍後の最終板における平均結晶粒を25μm未満にして、伸びの値を22%以上にすることができ、プレス成形後の外観肌を綺麗に仕上げることができる。したがって、加工コストを低く抑えるとともに、遷移金属元素の固溶量を確保しながら加工を加えることにより転位が蓄積されて、最終焼鈍工程で25μm未満の比較的微細な再結晶粒を得ることが可能となる。一方、最終冷延率が50%未満の場合、最終冷間圧延で蓄積される歪エネルギーが少なく、最終焼鈍時で25μm未満の再結晶粒を得ることができない。また、最終冷延率が90%を超えると、最終冷間圧延時に蓄積される加工歪量が多すぎて、加工硬化が激しく、エッジに耳割れを生じて圧延が困難となる。したがって、最終冷延率は50〜90%の範囲である。より好ましくは、最終冷延率は50〜80%の範囲である。さらに好ましくは、最終冷延率は50〜70%の範囲である。
最終焼鈍の保持温度及び保持時間
本実施の形態に係るアルミニウム合金板の製造方法では、最終焼鈍の保持温度は450〜550℃であり、保持時間は10〜60秒である。最終焼鈍は、加熱速度および冷却速度の速い連続焼鈍が望ましい。連続焼鈍において加熱速度を速くすることで、回復過程の時間を短くすることができ、転位密度を比較的高く維持したまま圧延集合組織を再結晶化させ、均一微細な再結晶組織を得ることができ、プレス加工後の肌荒れを防止することができる。連続焼鈍において冷却速度を速くすることで、Al−(Fe・Mn)−Si等の析出物が粗大化することを防止することができるため、高強度な最終板を得ることができる。
連続焼鈍炉(CAL)によって最終焼鈍を施す場合、保持温度は450〜550℃に限定される。保持温度が450℃未満の場合、回復・再結晶化が遅延してしまい、均一な再結晶組織を得ることができない可能性がある。また、保持温度が550℃を超えると、板歪が大きくなりすぎるとともに、組成によっては、バーニング(局部融解)を起こす可能性が高まるので好ましくない。
最終焼鈍の保持時間は10〜60秒とする。保持時間が10秒未満であると、均一な再結晶組織を得ることができない可能性がある。また、保持時間が60秒を超えると、コイルの送り速度が遅くなりすぎて生産性が低下する。
最終焼鈍処理時の昇温速度は、特に限定される必要はないが、100℃/min以上とすることが好ましい。最終焼鈍処理時の昇温速度が100℃/min未満の場合、ラインの設計にもよるが、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
また、最終焼鈍処理時の冷却速度は、100℃/min以上とすることが好ましい。最終焼鈍処理時の冷却速度が100℃/min未満の場合、ラインの設計にもよるが、処理に時間が掛かりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。
次に本実施の形態に係るアルミニウム合金板の実施例について説明する。表1は供試材の成分組成を示した表である。
表1に示した12水準の組成に配合された各種インゴット各5kgを#20坩堝内に挿入し、この坩堝を小型電気炉で加熱しインゴットを溶解した。次いで、溶湯中にランスを挿入して、Nガスを流量1.0L/minで5分間吹き込んで脱ガス処理を行った。その後30分間の鎮静を行って溶湯表面に浮上したカスを攪拌棒にて除去した。次に、坩堝を小型電気炉から取り出して、溶湯を内寸法200×200×16mmの水冷鋳型に流し込み、薄スラブを作製した。坩堝中の溶湯から採取した各供試材のディスクサンプルは、発光分光分析によって組成分析を行った。表1は組成分析の結果に基づくものである。
Figure 2017133054
この薄スラブの両面を3mmずつ面削加工して、厚さ10mmの面削済み鋳塊とした後、均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、冷間圧延を施して板厚1.0mmの冷延材とした。なお、冷間圧延工程の間に中間焼鈍処理は行っていない。この場合の最終冷延率は90%であった。この冷延材を所定の大きさに切断後、最終焼鈍として連続焼鈍を模擬して、冷延材をソルトバスに挿入して、530℃で15秒間保持し、ソルトバスから素早く供試材を取り出して水冷し、溶体化処理を施した。このようにして得られた最終板(焼鈍材)を薄スラブ連続鋳造シミュレート材(供試材)とした。これら供試材の製造条件について表2に示す。なお、表2の「合金No.」は、表1の「合金No.」に対応している。
また、上記と同様の工程で作製された厚さ10mmの面削済み鋳塊に均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、冷間圧延を施して、5.0mm板厚において、これら冷延材をアニーラーに挿入し、450℃で3時間保持又は500℃で3時間保持の中間焼鈍を行った後、さらに冷延率80%の冷間圧延を施して板厚1.0mmの冷延材とした。そして、これらの冷延材を所定の大きさに切断後、最終焼鈍として連続焼鈍を模擬して、ソルトバスに挿入して、530℃で15秒間保持し、ソルトバスから素早く供試材を取り出して水冷し溶体化処理を施した。このようにして得られた最終板(焼鈍材)を薄スラブ連続鋳造シミュレート材(供試材)とした。これら供試材の製造条件について表3に示す。なお、表3の「合金No.」は、表1の「合金No.」に対応している。
Figure 2017133054
Figure 2017133054
次に、得られた最終板(各供試材)について、特性の評価及び測定を行なった。表2に示した最終板(各供試材)は、本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第1の製造方法に対応し、表3に示した最終板(各供試材)は、本実施の形態に係るアルミニウム合金板の第2の製造方法に対応している。
引張り特性の評価
得られた最終板の機械的特性の評価は、引張り試験の引張強度(UTS)、0.2%耐力(YS)、及び伸び(El)によって行った。具体的には、引張り方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号試験片を各供試材につき3本ずつ採取し、JISZ2241に準じて引張り試験を行って、引張強度(UTS)、0.2%耐力、及び伸び(破断伸び)の平均値(n=3)を算出した。表4及び表5は測定結果を示したものである。
平面ひずみ破断限界の測定
得られた最終板について、平面ひずみ破断限界の測定を行った。得られた供試材より、引張方向が圧延方向に対して平行な方向、45°方向、90°方向に沿って、図1に示すような試験片1を採取した。これらの試験片の中央部にφ5mmのスクライブドサークルを付与した後に、ひずみ速度10−3/secに設定して引張試験を行った。引張試験後、試験片中央部の破断部近傍で局部変形していないスクライブドサークルの引張方向ひずみ(最大ひずみ)を読み取り、下式から真ひずみeを算出した。
e=Ln(d/d
e:真ひずみ
:変形後径
:変形前径
なお、これら平面ひずみ破断限界の測定は、各供試材の各方向につき各3回(n=3)行って、各供試材の平面ひずみ破断限界は、その各引張方向についての最大値(n=3)の平均値を下式によって算出した。
ave.=e+eLT+2e/4
ave.:平面ひずみ破断限界(平均値)
:平面ひずみ破断限界(圧延方向)
LT:平面ひずみ破断限界(圧延方向90°)
:平面ひずみ破断限界(圧延方向45°)
最終板において、平面ひずみ破断限界の平均値eaveが、0.15以上であった供試材を成形性良好とし、0.15未満であった供試材を成形性不良とした。評価結果を表4及び表5に示す。
平均結晶粒径の測定
得られた最終板の圧延方向に平行な縦断面(LT方向に垂直な断面)を切り出して、熱可塑性樹脂に埋め込んで鏡面研磨し、ホウフッ化水素酸水溶液中で陽極酸化処理を施して、再結晶組織の観察を行った。再結晶組織を偏光顕微鏡にて写真撮影し(1視野当たりの面積;0.135mm、各試料3視野撮影)、交線法を用いて平均結晶粒径を測定した。表4、表5は測定結果を示したものである。
表4及び表5に示すように、それぞれの供試材の機械的特性、平面ひずみ破断限界及び平均結晶粒径に関連づけて、強度、形状凍結性、成形性及び肌荒れ性について評価し、要求される特性を満たすものは良好(○)、満たさないものは不良(×)とした。具体的には、引張り強度が200MPa以上であったものは、強度評価良好(○)とし、引張り強度が200MPa未満であったものは、強度評価不良(×)とした。また、0.2%耐力が170MPa未満であったものは、形状凍結性評価良好(○)とし、0.2%耐力が170MPa以上であったものは、形状凍結性評価不良(×)とした。また、伸びの値が22%以上かつ平面ひずみ破断限界が0.15以上であったものは、成形性評価良好(○)とし、伸びの値が22%未満又は平面ひずみ破断限界が0.15未満であったものは、成形性評価不良(×)とした。また、平均再結晶粒径が25μm未満であったものは、肌荒れ性良好(○)とし、平均再結晶粒径が25μm以上であったものは、肌荒れ性不良(×)とした。
Figure 2017133054
Figure 2017133054
表4に示す中間焼鈍を施さなかった供試材についての結果を以下に述べる。実施例1〜3の供試材は、成分組成が本発明の合金組成範囲内である。これらの供試材は、引張り強度が200MPa以上、0.2%耐力が170MPa未満、伸びの値が22%以上及び平面ひずみ破断限界が0.15以上であり、再結晶粒の平均粒径が25μm未満であり、強度評価良好(○)、形状凍結性評価良好(○)、成形性評価良好(○)及び肌荒れ性評価良好(○)であった。
一方、表4に示す比較例1〜7の供試材は、成分組成は本発明の合金組成範囲外である。比較例1の供試材は、Si、Mgの含有量が高かったため、0.2%耐力が高くなりすぎて、形状凍結性評価不良(×)であり、伸びの値及び平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例2の供試材は、Mnの含有量が低かったため、平均結晶粒径が大きくなりすぎて、肌荒れ性評価不良(×)であった。比較例3の供試材は、Si、Feの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Mnの含有量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。
比較例4の供試材は、Si、Fe、Mgの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Mnの含有量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例5の供試材は、Si、Fe、Mgの含有量が低かったものの、Cu、Mnの含有量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例6の供試材は、Si、Mgの含有量が低かったものの、Cu、Mnの含有量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例7の供試材は、Si、Mgの含有量が低かったものの、Fe、Mn、Cuの含有量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。
表5に示す中間焼鈍を施した供試材についての結果を以下に述べる。実施例4〜6の供試材は、成分組成が本発明の合金組成範囲内である。これらの供試材は、引張り強度が200MPa以上、0.2%耐力が170MPa未満、伸びの値が22%以上及び平面ひずみ破断限界が0.15以上であり、再結晶粒の平均粒径が25μm未満であり、強度評価良好(○)、形状凍結性評価良好(○)、成形性評価良好(○)及び肌荒れ性評価良好(○)であった。
一方、表5に示す比較例8〜14の供試材は、成分組成は本発明の合金組成範囲外である。比較例8の供試材は、Si、Mgの含有量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例9の供試材は、Mnの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であった。比較例10の供試材は、Si、Fe、Mgの含有量が低すぎたため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Cu、Mnの含有量が高すぎたため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。
比較例11の供試材は、Si、Mgの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Cu、Mnの含有量が高すぎたため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例12の供試材は、Si、Mgの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Fe、Cu、Mnの添加量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例13の供試材は、Si、Mgの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Fe、Mnの添加量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。比較例14の供試材は、Si、Mgの含有量が低かったため、引張り強度が低くなりすぎて、強度評価不良(×)であり、Fe、Mnの添加量が高かったため、平面ひずみ破断限界が低くなりすぎて、成形性評価不良(×)であった。
以上のように、本願発明に係るアルミニウム合金板は、強度評価良好(○)、形状凍結性評価良好(○)、成形性評価良好(○)及び肌荒れ性評価良好(○)であり、リサイクル性に配慮した成分組成を有し、自動車ボディシートなどに適用可能な成形性及び形状凍結性を有している。
本発明は、リサイクル性に配慮した成分組成を有し、自動車用ボディシートなどに適用可能な成形性及び形状凍結性を有するアルミニウム合金板として有用である。
1 試験片

Claims (4)

  1. Si:1.40〜1.60質量%、Fe:0.40〜0.60質量%、Cu:0.10〜0.20質量%、Mg:0.20〜0.50質量%、Mn:0.50〜0.70質量%未満、Ti:0.01〜0.10質量%、並びに残部:Al及び不純物からなり、不純物としてのZnが1.0質量%未満、不純物としてのCrが0.1質量%未満、不純物としてのNiが0.1質量%未満である成分組成を有し、引張り強度が200MPa以上、0.2%耐力が170MPa未満、伸びの値が22%以上であり、再結晶粒の平均粒径が25μm未満であり、平面ひずみ破断限界が0.15以上である冷延焼鈍材であることを特徴とするアルミニウム合金板。
  2. 請求項1に記載の組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、
    前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、中間焼鈍を施すことなく、最終冷延率70〜95%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施すことを特徴とするアルミニウム合金板製造方法。
  3. 請求項1に記載の組成のアルミニウム合金溶湯を薄スラブ連続鋳造機を用いて、厚み3〜10mmのスラブに連続的に鋳造し、
    前記スラブに均質化処理及び熱間圧延を施すことなく、コイルに直接巻き取った後、冷間圧延を施し、前記コイルをバッチ炉に挿入し、保持温度430〜510℃で0.5〜12時間保持する中間焼鈍を施した後、最終冷延率50〜90%の冷間圧延を施して、最終焼鈍を施すことを特徴とするアルミニウム合金板製造方法。
  4. 連続焼鈍炉により、保持温度450〜550℃で10〜60秒保持する前記最終焼鈍を施すことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のアルミニウム合金板製造方法。
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