以下、本発明の実施の形態によるハイブリッド建設機械としてハイブリッド油圧ショベルを例に挙げて、添付図面に従って説明する。
図1ないし図5は、本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、1は後述のエンジン11と発電電動機17とを備えたハイブリッド油圧ショベル(以下、油圧ショベル1という)を示している。この油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に設けられた旋回装置3と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、上部旋回体4の前側に設けられ掘削作業等を行う多関節構造の作業装置10とにより構成されている。このとき、下部走行体2と上部旋回体4とは、油圧ショベル1の車体を構成している。
上部旋回体4は、旋回フレーム5上に設けられ後述のエンジン11等が収容された建屋カバー6と、オペレータが搭乗するキャブ7とを備える。キャブ7内には、オペレータが着座する運転席(図示せず)が設けられると共に、運転席の周囲には、下部走行体2の走行操作をするための操作レバー、操作ペダル等からなる走行操作装置と、上部旋回体4の旋回操作や作業装置10の俯仰動操作をするための操作レバー等からなる作業操作装置(いずれも図示せず)とが設けられている。
ここで、各操作装置には、走行操作、旋回操作、俯仰動操作の操作量(レバー操作量OAl,OAr,OAd)を検出する操作量センサ8A〜8C(図2参照)がそれぞれ設けられている。これらの操作量センサ8A〜8Cは、例えば下部走行体2の走行操作、上部旋回体4の旋回操作、作業装置10の俯仰動操作(掘削操作)等のような車体の操作状態を検出する車体操作状態検出装置を構成している。
また、キャブ7内には、エンジン制御ダイヤル9が設けられている。このエンジン制御ダイヤル9は、回転可能なダイヤルによって構成され、ダイヤルの回転位置に応じて後述のエンジン11の設定回転速度Nsetを設定することができる。この場合、エンジン11の設定回転速度Nsetを小さくすると、燃費を低減させることができる。エンジン制御ダイヤル9は、オペレータによって回転操作され、設定回転速度Nsetに応じた指令信号を後述のHCU23のローアイドル制御器25に出力する。
図1に示すように、作業装置10は、例えばブーム10A、アーム10B、バケット10Cと、これらを駆動するブームシリンダ10D、アームシリンダ10E、バケットシリンダ10Fとによって構成されている。ブーム10A、アーム10B、バケット10Cは、互いにピン結合される。作業装置10は、旋回フレーム5に取付けられ、シリンダ10D〜10Fが伸長または縮小することによって、俯仰動する。
ここで、油圧ショベル1は、発電電動機17等を制御する電動システムと、作業装置10等の動作を制御する油圧システムとを搭載している。以下、油圧ショベル1のシステム構成について図2を参照して説明する。
11は旋回フレーム5に搭載されたエンジンを示し、このエンジン11は、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関によって構成されている。図2に示すように、エンジン11の出力側には、後述の油圧ポンプ13と発電電動機17とが機械的に直列接続して取付けられている。これら油圧ポンプ13と発電電動機17とは、エンジン11と一緒に駆動する。
ここで、エンジン11の作動は、コントローラの一部としてのエンジンコントロールユニット12(以下、ECU12という)によって制御されている。ECU12は、後述の減算器29と、第1の速度制御器30とを備えている。また、エンジン11には、エンジン11の実回転速度N1を検出するセンサ(図示せず)が設けられ、エンジン11の実回転速度N1は、減算器29に入力される。そして、ECU12は、第1の速度制御器30により演算された第1のトルク指令T1に基づいて、エンジン11の出力トルク、回転速度(エンジン回転数)等を制御する。
13はエンジン11によって駆動される油圧ポンプを示している。この油圧ポンプ13は、タンク(図示せず)内に貯溜された作動油を加圧し、走行油圧モータ15、旋回油圧モータ16、作業装置10のシリンダ10D〜10F等に圧油として吐出する。
油圧ポンプ13は、コントロールバルブ14を介して油圧アクチュエータとしての走行油圧モータ15、旋回油圧モータ16、シリンダ10D〜10Fに接続されている。コントロールバルブ14は、走行操作装置に対する操作に応じて、油圧ポンプ13から吐出された圧油を走行油圧モータ15に供給または排出することにより、下部走行体2を走行駆動させる。また、コントロールバルブ14は、作業操作装置に対する操作に応じて、油圧ポンプ13から吐出された圧油を旋回油圧モータ16やシリンダ10D〜10Fに供給または排出することにより、上部旋回体4を旋回動作させたり、作業装置10を俯仰動させたりする。
17はエンジン11によって駆動される発電電動機(モータジェネレータ)を示している。この発電電動機17は、例えば同期電動機等によって構成される。発電電動機17は、エンジン11を動力源に発電機として働き後述の蓄電装置21への電力供給を行う発電(回生)と、蓄電装置21からの電力を動力源にモータとして働きエンジン11および油圧ポンプ13の駆動をアシストする力行との2通りの役割を果たす。従って、エンジン11のトルクには、状況に応じて発電電動機17のアシストトルクが追加され、これらのトルクによって油圧ポンプ13は駆動する。この油圧ポンプ13から吐出される圧油によって、作業装置10の動作や車両の走行等が行われる。
また、発電電動機17には、発電電動機17の実回転速度N1を検出するセンサ(図示せず)が設けられ、発電電動機17の実回転速度N1は、後述の減算器31に入力される。なお、エンジン11と発電電動機17とは、機械的に直列接続して取付けられているので、エンジン11と発電電動機17とは同一の実回転速度N1となる。このため、減算器31には、発電電動機17の実回転速度N1に代えて、エンジン11の実回転速度N1を入力してもよい。同様に、減算器29には、エンジン11の実回転速度N1に代えて、発電電動機17の実回転速度N1を入力してもよい。
図2に示すように、発電電動機17は、インバータ18を介して一対の直流母線19A,19Bに接続されている。直流母線19A,19Bは、正極側と負極側とで対をなし、例えば数百V程度の直流電圧が印加されている。インバータ18は、例えばトランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等からなる複数のスイッチング素子を用いて構成され、コントローラの一部としてのパワーコントロールユニット20(以下、PCU20という)によって各スイッチング素子のオン/オフが制御される。PCU20は、後述の減算器31、第2の速度制御器32、HPF33、減算器34を備えている。
発電電動機17の発電時には、インバータ18は、発電電動機17からの交流電力を直流電力に変換して蓄電装置21に供給する。発電電動機17の力行時には、インバータ18は、直流母線19A,19Bの直流電力を交流電力に変換して発電電動機17に供給する。そして、PCU20は、第5のトルク指令T5等に基づいて、インバータ18の各スイッチング素子のオン/オフを制御する。これにより、PCU20は、発電電動機17の発電時の発電電力や力行時の駆動電力を制御する。
21は発電電動機17に電気的に接続された蓄電装置を示している。この蓄電装置21は、例えばリチウムイオンバッテリからなる複数個のセル(図示せず)によって構成され、直流母線19A,19Bに接続されている。蓄電装置21は、発電電動機17の発電時には発電電動機17から供給される電力を充電し、発電電動機17の力行時(アシスト駆動時)には発電電動機17に向けて駆動電力を供給する。
蓄電装置21の充電量Q1は、コントローラの一部としてのバッテリコントロールユニット22(以下、BCU22という)によって演算される。BCU22は、バッテリ充電量Q1等を検出して後述のHCU23に向けて出力する。
また、蓄電装置21は、後述のローアイドル制御器25が回転速度を低下(ローアイドル回転速度Nlo)させたときに、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺するためのトルクを発電電動機17が発生するように、蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高調波成分を増加させる。
なお、本実施の形態では、蓄電装置21には、例えば電圧350V、放電容量5Ah程度、バッテリ蓄電率(蓄電量)の適正使用範囲は30〜70%程度に設定されたリチウムイオンバッテリを用いるものとする。バッテリ蓄電率の適正使用範囲等は、上述した値に限らず、蓄電装置21の仕様等に応じて適宜設定される。
23はコントローラとしてのハイブリッドコントロールユニット(HCU)を示している。このHCU23は、例えばマイクロコンピュータによって構成されると共に、CAN(Controller Area Network)24等を用いてECU12、PCU20、BCU22に電気的に接続されている。HCU23は、ECU12、PCU20、BCU22と通信しながら、エンジン11、発電電動機17、蓄電装置21を制御する。HCU23は、ECU12、PCU20、BCU22と共にコントローラを構成している。
そこで、HCU23、ECU12、PCU20を含めたコントローラの具体的な構成について、図3を参照しつつ説明する。なお、コントローラの具体的な構成は、図3に示すものに限らず、油圧ショベル1の仕様等に応じて、適宜変更することができる。
ゲイン切替器26、充電量制御器28等を備えている。
HCU23は、ローアイドル制御器25、ゲイン切替器26、充電量制御器28等を備えている。ローアイドル制御器25は、エンジン11と発電電動機17との目標回転速度を出力する。ローアイドル制御器25の入力側は、操作量センサ8A〜8C、エンジン制御ダイヤル9に接続され、ローアイドル制御器25の出力側は、ゲイン切替器26、ECU12の減算器29、PCU20の減算器31に接続されている。ローアイドル制御器25は、操作量センサ8A〜8Cから出力されたレバー操作量(OAl,OAr,OAd)と、エンジン制御ダイヤル9から出力された設定回転速度Nsetとに基づき、エンジン11の目標回転速度となる回転速度指令Nを演算する。ローアイドル制御器25は、回転速度指令NをECU12の減算器29とPCU20の減算器31とに出力する。
ここで、ローアイドル制御器25は、オペレータが操作レバーを操作してレバー操作量(OAl,OAr,OAd)が入力されている間および無操作状態になってから一定時間(例えば、数十秒から数分)の間は、回転速度指令Nを設定回転速度Nsetに設定する。一方、ローアイドル制御器25は、無操作状態が一定時間を越えると、回転速度指令Nを、設定回転速度Nset以下の値であるローアイドル回転速度Nloに設定する。なお、無操作状態を計測する一定時間は、オペレータが任意に設定できるようにしてもよい。回転速度指令Nがローアイドル回転速度Nloに設定されたときには、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動は、エンジン11を保持する構造として、例えば上部旋回体4の共振周波数近傍の低い周波数となる。
そして、回転速度指令Nがローアイドル回転速度Nloの状態で、オペレータが操作レバーを操作すると、回転速度指令Nは設定回転速度Nsetに戻る。また、回転速度指令Nが、ローアイドル回転速度Nloの状態であるときに、アイドル状態フラグFがセットされ、設定回転速度Nsetの状態であるときにアイドル状態フラグFはクリアされる。ローアイドル制御器25は、アイドル状態フラグFをゲイン切替器26に向けて出力する。
ゲイン切替器26は、ローアイドル制御器25から出力されたアイドル状態フラグFに基づいて第2の速度制御器32の制御ゲインを切り替える。このゲイン切替器26は、ローアイドル制御器25から出力されたアイドル状態フラグFのセット(オン)/クリア(オフ)に基づき、第2の速度制御器32の制御ゲインを上昇または低下させる。
この場合、アイドル状態フラグFがセットされているときは、ゲイン切替器26は、高い速度制御ゲインを出力することにより、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させる。一方、アイドル状態フラグFがクリアされているときは、ゲイン切替器26は、低い速度制御ゲインを出力することにより、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを低下させる。
即ち、ゲイン切替器26は、回転速度指令Nがローアイドル回転速度Nloであるときに第2の速度制御器32の応答を上げ、回転速度指令Nが設定回転速度Nsetであるときに第2の速度制御器32の応答を下げる。換言すると、ゲイン切替器26は、アイドル状態フラグFに基づいて、ローアイドル制御器25が回転速度指令N(目標回転速度)を低下させたか否かを判定する。従って、エンジン制御ダイヤル9で設定回転速度Nsetを低下させたときは、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させない。
減算器27には、図示しない制御装置から出力された充電量指令QとBCU22から出力されたバッテリ充電量Q1とが入力される。減算器27は、充電量指令Qとバッテリ充電量Q1との偏差を演算し、後述の充電量制御器28に向けて出力する。
充電量制御器28は、蓄電装置21の充電量を制御する。充電量制御器28の入力側は減算器27に接続され、充電量制御器28の出力側は減算器34に接続されている。充電量制御器28は、減算器27で求められた充電量指令Qと蓄電装置21のバッテリ充電量Q1の偏差に基づき、蓄電装置21のバッテリ充電量Q1が充電量指令Qに一致するように、蓄電装置21の充放電電力に応じた第4のトルク指令T4を求める。
即ち、バッテリ充電量Q1が充電量指令Qよりも大きいときには、蓄電装置21の充電量を低下させるために、充電量制御器28は、蓄電装置21の放電電力に応じた第4のトルク指令T4を出力する。一方、バッテリ充電量Q1が充電量指令Qよりも小さいときには、蓄電装置21の充電量を上昇させるために、充電量制御器28は、蓄電装置21の充電電力に応じた第4のトルク指令T4を出力する。そして、充電量制御器28は、第4のトルク指令T4を減算器34に向けて出力する。
ECU12は、減算器29と、第1の速度制御器30とを備えている。減算器29には、エンジン11のセンサから出力されたエンジン11の実回転速度N1とローアイドル制御器25から出力された回転速度指令Nとが入力される。そして、減算器29は、回転速度指令Nと実回転速度N1との偏差を演算し、後述の第1の速度制御器30に向けて出力する。
第1の速度制御器30は、減算器29に接続されている。この第1の速度制御器30は、エンジン11の回転速度をフィードバック制御する。第1の速度制御器30は、減算器29で求められた回転速度指令Nとエンジン11の実回転速度N1の偏差に基づき、エンジン11の実回転速度N1が回転速度指令Nに一致するように第1のトルク指令T1を演算する。そして、ECU12は、エンジン11の出力トルクが第1のトルク指令T1になるようにエンジン11を制御する。
PCU20は、減算器31、第2の速度制御器32、HPF33、減算器34を備えている。減算器31には、発電電動機17のセンサから出力された発電電動機17の実回転速度N1とローアイドル制御器25から出力された回転速度指令Nとが入力される。そして、減算器31は、回転速度指令Nと実回転速度N1との偏差を演算し、後述の第2の速度制御器32に向けて出力する。
第2の速度制御器32は、減算器31に接続され、発電電動機17の回転速度をフィードバック制御する速度制御器である。第2の速度制御器32は、ローアイドル制御器25から出力される目標回転速度(回転速度指令N)となるように発電電動機17の回転速度をフィードバック制御する。即ち、第2の速度制御器32は、減算器31で求められた回転速度指令Nと発電電動機17の実回転速度N1との偏差に基づき、ゲイン切替器26の出力する制御ゲインを用いて回転速度指令Nと発電電動機17の実回転速度N1が一致するように第2のトルク指令T2を演算する。そして、第2の速度制御器32は、第2のトルク指令T2を後述のHPF33に向けて出力する。
この場合、第2の速度制御器32の応答は、第1の速度制御器30の応答よりも高く設定されている。このため、エンジン11と発電電動機17の回転速度は、第1の速度制御器30と第2の速度制御器32とにより制御しているが、油圧ポンプ13の負荷が変動し、実回転速度N1が変動した場合、まず、第2の速度制御器32が第1の速度制御器30よりも先に応答する。
また、第2の速度制御器32は、ローアイドル制御器25が回転速度を低下させたときに、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルクを発生させるように、フィードバック制御のゲインを上昇させる。これにより、PCU20は、蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高周波成分を増加させる。
ハイパスフィルタ(HPF)33は、第2の速度制御器32に接続されている。HPF33は、第2の速度制御器32から出力された第2のトルク指令T2から低周波成分を除いて第3のトルク指令T3を求める。このHPF33のカットオフ周波数は、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動の周波数、即ちローアイドル回転速度Nloの周波数よりも低い値に設定されている。
即ち、HPF33は、第2のトルク指令T2のうち例えば直流成分のようにローアイドル回転速度Nloよりも低周波の成分を除去するものであり、第2のトルク指令T2のうちエンジン11の燃焼に伴うトルク変動の周波数と同じ周波数成分およびその高調波成分は、通過させる。そして、HPF33は、第3のトルク指令T3を後述の減算器34に向けて出力する。
減算器34には、HPF33から出力された第3のトルク指令T3と充電量制御器28から出力された第4のトルク指令T4とが入力される。減算器34は、第3のトルク指令T3から第4のトルク指令T4を減算して、第5のトルク指令T5を求める。
そして、PCU20は、第5のトルク指令T5に一致するように発電電動機17のトルクを制御する。このとき、第5のトルク指令T5は、第3のトルク指令T3に加えて、バッテリ充電量Q1と充電量指令Qとの偏差に応じた第4のトルク指令T4を考慮したものになっている。このため、PCU20は、第5のトルク指令T5に一致するように発電電動機17のトルクを制御することにより、蓄電装置21のバッテリ充電量Q1を充電量指令Qに近付けながら、発電電動機17の実回転速度N1の変動を抑制することができる。
本実施の形態によるハイブリッド油圧ショベルは上述のような構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
キャブ7に搭乗したオペレータがエンジン11を作動させると、エンジン11によって油圧ポンプ13と発電電動機17が駆動される。これにより、油圧ポンプ13から吐出した圧油は、キャブ7内に設けられた操作レバー(図示せず)の操作に応じて、左,右の走行油圧モータ15、旋回油圧モータ16、作業装置10のブームシリンダ10D,アームシリンダ10E,バケットシリンダ10Fに向けて吐出する。これにより、油圧ショベル1は、下部走行体2による走行動作、上部旋回体4の旋回動作、作業装置10による掘削作業等を行う。
次に、HCU23のローアイドル制御器25とゲイン切替器26との制御処理について図4の流れ図を参照して説明する。なお、図4の制御処理は、油圧ショベル1を稼働している間、所定時間毎に(所定の制御周期で)繰り返し実行される。
アクセサリONまたはエンジン11の始動(イグニッションON)により、図4の処理動作がスタートする。ステップ1では、ローアイドル制御器25は、走行操作装置および作業操作装置の操作状態を読み込む。これら操作装置の状態は、操作量センサ8A〜8Cにより検出することができる。また、ローアイドル制御器25は、エンジン制御ダイヤル9で設定された設定回転速度Nsetを読み込む。そして、続くステップ2では、操作装置の操作があるか否かを判定する。
ステップ2で「YES」、即ち操作装置の操作ありと判定された場合には、ステップ3に進み、ローアイドル制御器25は、アイドル状態フラグFをクリアする。続くステップ4では、ローアイドル制御器25は、回転速度指令Nを設定回転速度Nsetに設定する。具体的には、ステップ1で読み込まれた設定回転速度Nsetを、エンジン11および発電電動機17の目標回転速度として設定する。そして、ローアイドル制御器25から第1の速度制御器30および第2の速度制御器32に対し、回転速度指令Nとして設定回転速度Nsetを出力し、ステップ5に進む。
ステップ5では、第2の速度制御器32の制御ゲインを低く設定する。具体的には、ステップ3でアイドル状態フラグFがクリアされているので、ゲイン切替器26は、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを低く設定する。そして、ステップ5が終了すると、リターンする。
一方、ステップ2で「NO」、即ち操作装置の操作なしと判定された場合には、ステップ6に進み、所定時間(例えば、1〜5分間)経過したか否かを判定する。ステップ6で「YES」、即ち操作装置の操作なしの状態が所定時間経過したと判定された場合には、ステップ7に進み、アイドル状態フラグFをセットする。
続くステップ8では、回転速度指令Nをローアイドル回転速度Nloに設定する。具体的には、ステップ8では、エンジン制御ダイヤル9からローアイドル制御器25に対し出力された設定回転速度Nsetに拘らず、エンジン11および発電電動機17の目標回転速度をローアイドル回転速度Nloに設定する。そして、ローアイドル制御器25から第1の速度制御器30および第2の速度制御器32に対し、回転速度指令Nとしてローアイドル回転速度Nloを出力し、ステップ9に進む。
ステップ9では、第2の速度制御器32の制御ゲインを高く設定する。具体的には、ステップ7でアイドル状態フラグFがセットされているので、ゲイン切替器26は、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを高く設定する(上昇させる)。そして、ステップ9が終了すると、リターンする。
一方、ステップ6で「NO」、即ち所定時間を経過する前に走行操作装置または作業操作装置の操作が行われた場合には、ステップ3以降の処理を実行し、リターンする。
次に、ECU12、PCU20およびHCU23の動作処理について、図3および図5を参照して説明する。
図5は、時刻t1でオペレータが操作を止めて、時刻t3で操作を再開したときの時間に対する操作装置の操作状態、アイドル状態フラグ、回転速度指令、制御ゲイン、回転速度、発電電動機のトルク、蓄電装置の放電電流を示している。
この場合、時刻t1で操作量センサ8A〜8Cからの出力がない、即ち走行操作装置および作業操作装置の全てが操作されていないときには、ローアイドル制御器25は、「操作なし」であると認識する。そして、この「操作なし」の状態が継続して時刻t2になると、ローアイドル制御器25は、回転速度指令Nを設定回転速度Nsetからローアイドル回転速度Nloに変更する。
ECU12およびPCU20は、このローアイドル回転速度Nloをエンジン11および発電電動機17の目標回転速度として制御を行う。また、ローアイドル制御器25は、アイドル状態フラグFをセットする。
これにより、ゲイン切替器26は、第2の速度制御器32の制御ゲインを上げる。このとき、第1の速度制御器30および第2の速度制御器32は、実回転速度N1が回転速度指令N(ローアイドル回転速度Nlo)に一致するように、エンジン11および発電電動機17を制御する。従って、エンジン11等の実回転速度N1は、設定回転速度Nsetからローアイドル回転速度Nloに近付くように減速する。
このとき、実回転速度N1の低下に伴ってエンジン11の燃焼周期が長くなり、実回転速度N1の変動の周波数が低くなる。このようにエンジン11のトルク変動の周波数が低くなると、エンジン11の振動周波数が、エンジン11を保持する構造(例えば上部旋回体4)の共振周波数に近付くことになる。この結果、ローアイドル回転速度Nlo付近でエンジン11が駆動している間は、上部旋回体4が継続的に振動して、オペレータに不快感を与えるという問題がある。
これに対し、本実施の形態では、回転速度指令Nがローアイドル回転速度Nloになると、ゲイン切替器26が第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させる。これに伴い、発電電動機17の応答周波数も高くなるため、エンジン11の燃焼に伴う回転変動の周波数まで速度制御が可能になる。
具体的には、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルク振幅が大きくなり、回転系に加わるトルク変動が抑制されて小さくなる。このため、上部旋回体4の共振周波数近傍の実回転速度N1でエンジン11が駆動するにも拘らず、実回転速度N1の変動が許容できない程度まで大きくなることはなく、上部旋回体4の振動が抑制される。
また、発電電動機17のトルクの燃焼周波数成分(爆発周波数成分)とその高調波成分が大きくなることにより、発電電動機17に電力を供給する蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高調波成分が増加する。即ち、PCU20は、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動(出力変動)に合わせて、逆位相の電力を蓄電装置21から発電電動機17に向けて供給させることにより、全体としての出力を一定にして、ローアイドル状態における振動を抑制する。
さらに、蓄電装置21の充電量Q1が減少するなど、充電量指令Qから変動した場合は、充電量制御器28により第4のトルク指令T4が変化し、発電電動機17のトルクを制御することにより、充放電を制御する。第4のトルク指令T4の変化に伴う速度変動を抑制するため、過渡的には第2の速度制御器32が第4のトルク指令T4を相殺するトルクを出力するが、HPF33により定常的には第4のトルク指令T4に基づき発電電動機17のトルクが制御される。このため、蓄電装置21の充電量Q1が充電量指令Qに一致するように、発電電動機17を制御することができる。
そして、時刻t3でオペレータが走行操作装置および作業操作装置の操作を再開すると、油圧ショベル1が作業状態である通常状態となる。この場合、ローアイドル制御器25は、アイドル状態フラグFをセットからクリアに切り替え、回転速度指令Nをローアイドル回転速度Nloから設定回転速度Nsetに切り替える。そして、ゲイン切替器26は、第2の速度制御器32の制御ゲインを下げる。
このとき、エンジン11と発電電動機17の実回転速度N1は、設定回転速度Nsetに加速する。これにより、エンジン11の実回転速度N1は、エンジン11の保持構造の共振周波数から離れることになる。一方、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインが下がるのに伴い、発電電動機17の応答周波数も低くなり、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルク振幅が小さくなる。
このとき、実回転速度N1の変動は、発電電動機17のトルクの減少により回転系に加わるトルク変動は大きくなるが、エンジン11の振動周波数がエンジン11の保持構造となる上部旋回体4の共振周波数から離れる。このため、上部旋回体4の振動が大きく増加することはない。このとき、蓄電装置21の放電電流も発電電動機17のトルクの減少に伴い減少する。
かくして、本実施の形態によれば、PCU20およびHCU23は、ローアイドル状態でエンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺するためのトルクを発電電動機17が発生するように、蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高調波成分を増加させる。即ち、第2の速度制御器32は、ローアイドル状態でエンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺するためのトルクを発電電動機17が発生するように、フィードバック制御のゲインを上昇させる。
これにより、エンジン11の実回転速度N1がエンジン11の保持構造となる上部旋回体4の共振周波数に近付いたときでも、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動の周波数成分を相殺するので、上部旋回体4が振動するのを抑制することができる。また、ローアイドル回転速度Nloとして低い回転速度を選択することが可能となり、ローアイドル時の燃料消費を低減することができる。
さらに、エンジン11がローアイドル状態と通常状態のいずれの状態でも、充電量制御器28は、蓄電装置21の充電量Q1が充電量指令Qになるように、発電電動機17を制御する。このため、エンジン11がローアイドル状態で継続的に駆動するときでも、蓄電装置21の充電量Q1を適正に制御することができる。
また、ローアイドル状態ではエンジン11の燃焼に伴うトルク変動を抑制するが、通常状態ではトルク変動を抑制しないため、蓄電装置21の充放電電流の実効値を抑制し、蓄電装置21の劣化を抑制することができる。
次に、図6ないし図8は、本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、エンジンおよび発電電動機の回転速度を低下させたときに、エンジンの燃焼に伴うトルク変動を抑制したことにある。なお、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
41は第2の実施の形態によるローアイドル制御器を示し、ローアイドル制御器41は、第1の実施の形態によるローアイドル制御器25に代えて用いられる。このローアイドル制御器41は、操作量センサ8A〜8Cから出力されたレバー操作量(OAl,OAr,OAd)と、エンジン制御ダイヤル9から出力された設定回転速度Nsetとに基づき、エンジン11の目標回転速度となる回転速度指令Nを演算する。ローアイドル制御器41は、回転速度指令Nを減算器29、減算器31、ゲイン切替器42に出力する。
42は第2の実施の形態によるゲイン切替器を示し、ゲイン切替器42は、第1の実施の形態によるゲイン切替器26に代えて用いられる。このゲイン切替器42は、フラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部(図示せず)を備えている。この記憶部には、処理プログラムで用いるエンジン11および発電電動機17の低速度閾値Ni(Ni>Nlo)が格納(記憶)されている。
エンジン11が低速度閾値Niよりも低い回転速度で駆動すると、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動の周波数は、エンジン11を保持する構造(上部旋回体4)の共振周波数近傍の低い周波数となり、上部旋回体4の振動が許容範囲を超えて大きくなる。即ち、低速度閾値Niは、実回転速度N1がこれよりも低下したときに、上部旋回体4の振動が許容範囲を超えて大きくなるようなエンジン11の回転速度である。この低速度閾値Niは、上部旋回体4の振動の大きさに基づいて予め決められており、例えば実験的に求められる。そして、低速度閾値Niは、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させるか否かを判定する閾値となっている。
従って、ゲイン切替器42は、回転速度指令Nが低速度閾値Ni以下になったか否かに基づいて、発電電動機17の回転速度を低下させたときか否かを判定する。これにより、第2の速度制御器32は、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルクを発生させるように、フィードバック制御のゲインを上昇させる。そして、PCU20は、蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高周波成分を増加させる。
次に、第2の実施の形態によるHCU23のローアイドル制御器41とゲイン切替器42との制御処理について図7の流れ図を参照して説明する。なお、図7の制御処理は、油圧ショベル1を稼働している間、所定時間毎に(所定の制御周期で)繰り返し実行される。
アクセサリONまたはエンジン11の始動(イグニッションON)により、図7の処理動作がスタートする。ステップ11では、ローアイドル制御器41は、操作量センサ8A〜8Cを用いて、走行操作装置および作業操作装置の操作状態を読み込む。また、ローアイドル制御器41は、エンジン制御ダイヤル9で設定された設定回転速度Nsetを読み込む。そして、続くステップ12では、操作装置の操作があるか否かを判定する。
ステップ12で「YES」、即ち操作装置の操作ありと判定された場合には、ステップ13に進み、回転速度指令Nを設定回転速度Nsetに設定する。そして、ローアイドル制御器41から第1の速度制御器30、第2の速度制御器32、ゲイン切替器42に対し、回転速度指令Nとして設定回転速度Nsetの指令を出力し、ステップ16に進む。
一方、ステップ12で「NO」、即ち操作装置の操作なしと判定された場合には、ステップ14に進み、所定時間(例えば、1〜5分間)経過したか否かを判定する。ステップ14で「NO」、即ち所定時間を経過する前に走行操作装置または作業操作装置の操作が行われた場合には、ステップ13以降の処理を実行する。これに対し、ステップ14で「YES」、即ち操作装置の操作なしの状態が所定時間経過したと判定された場合には、ステップ15に進み、回転速度指令Nをローアイドル回転速度Nloに設定する。
具体的には、ステップ15では、エンジン制御ダイヤル9からローアイドル制御器41に対し出力された設定回転速度Nsetに拘らず、エンジン11および発電電動機17の目標回転速度をローアイドル回転速度Nloに設定する。そして、ローアイドル制御器41から第1の速度制御器30、第2の速度制御器32、ゲイン切替器42に対し、回転速度指令Nとしてローアイドル回転速度Nloを出力し、ステップ16に進む。
ステップ16では、ゲイン切替器42は、回転速度指令Nが低速度閾値Niよりも大きいか否かを判定する。ステップ16で「YES」、即ち回転速度指令Nが低速度閾値Niよりも大きい場合には、ステップ17に進む。また、ステップ16で「NO」、即ち回転速度指令Nが低速度閾値Ni以下の場合には、ステップ18に進む。
ステップ17では、第2の速度制御器32の制御ゲインを低く設定する。具体的には、ステップ16で「YES」と判定されるときは、回転速度指令Nに設定された設定回転速度Nsetが低速度閾値Niよりも大きくなっている。このため、ゲイン切替器42は、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを低く設定する。
一方、ステップ18では、第2の速度制御器32の制御ゲインを高く設定する。具体的には、ステップ16で「NO」と判定されるときは、回転速度指令Nがローアイドル回転速度Nloに設定されている、または、回転速度指令Nに設定した設定回転速度Nsetが低速度閾値Ni以下となっている。このため、ゲイン切替器42は、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを高く設定する。そして、ステップ17またはステップ18が終了すると、リターンする。
このような車体の振動抑制の制御処理を簡潔に説明すると、操作装置の操作がないローアイドル状態の場合と、エンジン制御ダイヤル9の設定回転速度Nsetが低速度閾値Ni以下に設定された場合には、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させる。この場合、油圧ショベル1のローアイドル状態だけでなく、油圧ショベル1の作業状態(通常状態)においてもエンジン11の低回転時に起こり得る車体(上部旋回体4)の振動を抑制することができる。
次に、ECU12、PCU20およびHCU23の動作処理について、図6および図8を参照して説明する。
図8は、時刻t1でオペレータがエンジン制御ダイヤル9を低速度閾値Niよりも低回転側の第2の設定回転速度Nset2に切替えた場合、時刻t3でオペレータが操作を止めて、時刻t5で操作を再開したときの時間に対する操作装置の操作状態、アイドル状態フラグ、回転速度指令、制御ゲイン、回転速度、発電電動機のトルク、蓄電装置の放電電流を示している。本実施の形態では、油圧ショベル1の作業状態においても第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上げることができるようにしたものである。
時刻t1において、オペレータがエンジン制御ダイヤル9を低速度閾値Niよりも低回転側の第2の設定回転速度Nset2に切替えた場合には、ローアイドル制御器41は、目標回転速度として回転速度指令Nを設定回転速度Nset2に設定する。ECU12およびPCU20は、この設定回転速度Nset2をエンジン11および発電電動機17の目標回転速度として制御を行う。このとき、設定回転速度Nset2は、低速度閾値Ni以下であるので、油圧ショベル1の操作装置の操作状態が「操作あり」でもゲイン切替器42が出力する制御ゲインが高く設定される。
即ち、回転速度指令Nが低速度閾値Ni以下の設定回転速度Nset2となると、ゲイン切替器42が第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させる。これに伴い、発電電動機17の応答周波数も高くなるため、エンジン11の燃焼に伴う回転変動の周波数まで速度制御が可能になる。具体的には、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルク振幅が大きくなり、回転系に加わるトルク変動が抑制されて小さくなるため、上部旋回体4の振動が抑制される。
このとき、発電電動機17のトルクの爆発周波数成分とその高調波成分が大きくなることにより、発電電動機17に電力を供給する蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高調波成分が増加する。即ち、PCU20は、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動(出力変動)に合わせて、逆位相の電力を蓄電装置21から発電電動機17に向けて供給することにより、全体としての出力を一定にして、設定回転速度Nset2における振動を抑制する。このような振動の抑制に併せて、充電量制御器28は、蓄電装置21の充電量Q1が充電量指令Qに一致するように、発電電動機17を制御する。
そして、時刻t2において、オペレータがエンジン制御ダイヤル9を設定回転速度Nset2から設定回転速度Nset1に設定すると、ゲイン切替器42は、第2の速度制御器32の制御ゲインを下げる。このとき、エンジン11と発電電動機17の実回転速度N1は、設定回転速度Nset1に加速する。これにより、エンジン11の実回転速度N1は、エンジン11の保持構造の共振周波数から離れることになる。一方、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインが下がるのに伴い、発電電動機17の応答周波数も低くなり、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルク振幅が小さくなる。
このとき、実回転速度N1の変動は、発電電動機17のトルクの減少により回転系に加わるトルク変動は大きくなるが、エンジン11の振動周波数がエンジン11の保持構造となる上部旋回体4の共振周波数から離れる。このため、上部旋回体4の振動が大きく増加することはない。このとき、蓄電装置21の放電電流も発電電動機17のトルクの減少に伴い減少する。
時刻t3において、操作量センサ8A〜8Cからの出力がない、即ち走行操作装置または作業操作装置のすべてが操作されていないと、ローアイドル制御器41は、「操作なし」であると認識する。そして、この「操作なし」の状態が継続して時刻t4になると、ローアイドル制御器41は、回転速度指令Nを設定回転速度Nset1からローアイドル回転速度Nloに変更する。
ECU12およびPCU20は、このローアイドル回転速度Nloをエンジン11および発電電動機17の目標回転速度として制御を行う。また、ローアイドル制御器41は、ローアイドル回転速度Nloを第1の速度制御器30、第2の速度制御器32、ゲイン切替器42に出力する。
これにより、ゲイン切替器42は、第2の速度制御器32の制御ゲインを上げる。この結果、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルク振幅が大きくなり、上部旋回体4の振動が抑制される。
このとき、発電電動機17のトルクの燃焼周波数成分とその高調波成分が大きくなることにより、発電電動機17に電力を供給する蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高調波成分が増加する。このようなローアイドル状態でも、充電量制御器28は、蓄電装置21の充電量Q1が充電量指令Qに一致するように、発電電動機17を制御する。そして、時刻t5でオペレータが走行操作装置および作業操作装置の操作を再開すると、油圧ショベル1が作業状態である通常状態となる。
かくして、第2の実施の形態においても上述した第1の実施の形態と同様の作用、効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態においては、PCU20およびHCU23は、エンジン11と発電電動機17との回転速度指令Nが低速度閾値Ni以下となったときに、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺するためのトルクを発電電動機17が発生するように、蓄電装置21の充放電電流のうちエンジン11の爆発周波数成分およびその高調波成分を増加させる。また、第2の速度制御器32は、エンジン11と発電電動機17との回転速度指令Nが低速度閾値Ni以下となったときに、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺するためのトルクを発電電動機17が発生するように、フィードバック制御のゲインを上昇させる。
これにより、エンジン11の振動周波数がエンジン11を保持する構造の共振周波数に近付くときでも、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動の周波数成分を発電電動機17のトルクによって相殺することができるので、車体(上部旋回体4)が振動するのを抑制することができる。また、アイドリング状態のエンジン11の回転速度として低い回転速度を選択することが可能となり、アイドリング状態での燃料消費を低減することができる。さらに、充電量制御器28により、発電電動機17に電力を供給する蓄電装置21の充電量を適正に制御することができる。
次に、図9は、本発明の第3の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、第2の速度制御器のゲインを上昇させる高ゲインモードと、ゲインを上昇させない低ゲインモードとを選択可能にしたことにある。なお、第3の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
51は第3の実施の形態によるローアイドル制御器を示し、このローアイドル制御器51は、第1の実施の形態によるローアイドル制御器25に代えて用いられる。ローアイドル制御器51の入力側は、操作量センサ8A〜8C、エンジン制御ダイヤル9に接続され、ローアイドル制御器25の出力側は、減算器29,31およびゲイン切替器26に接続されている。
ローアイドル制御器51は、操作量センサ8A〜8Cから出力されたレバー操作量(OAl,OAr,OAd)と、エンジン制御ダイヤル9から出力された設定回転速度Nsetとに基づき、エンジン11の目標回転速度となる回転速度指令Nを演算する。ローアイドル制御器51は、回転速度指令Nを減算器29と減算器31とに出力する。
ここで、回転速度指令Nは、オペレータが操作レバーを操作してレバー操作量(OAl,OAr,OAd)が入力されている間および無操作状態になってから一定時間(例えば、数十秒から数分)の間は、回転速度指令Nを設定回転速度Nsetに設定する。一方、ローアイドル制御器51は、無操作状態が一定時間を越えると、回転速度指令Nを、設定回転速度Nset以下の値である第1のローアイドル回転速度Nlo1または第2のローアイドル回転速度Nlo2に設定する。
この場合、第1のローアイドル回転速度Nlo1は、第2のローアイドル回転速度Nlo2よりも低い回転速度に設定されている(Nlo1<Nlo2)。なお、無操作状態を計測する一定時間は、オペレータが任意に設定できるようにしてもよい。
回転速度指令Nが第1のローアイドル回転速度Nlo1に設定されたときには、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動は、エンジン11を保持する構造として、例えば上部旋回体4の共振周波数近傍の低い周波数となる。一方、第2のローアイドル回転速度Nlo2は、エンジン11の回転速度領域のうち可及的に低い回転速度であり、かつ回転速度指令Nが第2のローアイドル回転速度Nlo2のときには、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動は、エンジン11を保持する構造(上部旋回体4)の共振周波数から離れた周波数となる。
第1のローアイドル回転速度Nlo1は、後述のモード選択器52が高ゲインモードに設定されているときに選択され、第2のローアイドル回転速度Nlo2は、モード選択器52が低ゲインモードに設定されているときに選択される。
52はローアイドル制御器51とゲイン切替器26との間に設けられたモード選択器を示している。このモード選択器52は、ローアイドル制御器51とゲイン切替器26との間を接続状態と非接続状態とに切替可能な開閉器からなっている。モード選択器52は、キャブ7内に設けられた例えばダイヤル、スイッチ等のモード切替装置(図示せず)に電気的に接続されている。このモード切替装置には、ゲインを上昇させる高ゲインモードと、ゲインを上昇させない低ゲインモードとの2種類を選択可能になっている。
この場合、オペレータが、モード切替装置で高ゲインモードを選択すると、モード選択器52が閉状態(オン状態)となることにより、ローアイドル制御器51とゲイン切替器26との間が接続状態となる。これにより、ゲイン切替器26は、第1の実施の形態と同様に機能し、ローアイドル制御器51から出力されたアイドル状態フラグFのセットに基づき、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させることができる。
従って、エンジン11等の実回転速度N1が、設定回転速度Nsetから第1のローアイドル回転速度Nlo1に近付くように減速した場合には、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動を相殺する発電電動機17のトルク振幅が大きくなり、回転系に加わるトルク変動が抑制されて小さくなる。このため、上部旋回体4の共振周波数近傍の実回転速度N1でエンジン11が駆動するにも拘らず、実回転速度N1の変動が許容できない程度まで大きくなることはなく、上部旋回体4の振動が抑制される。
一方、オペレータが、モード切替装置で低ゲインモードを選択すると、モード選択器52が開状態(オフ状態)となることにより、ローアイドル制御器51とゲイン切替器26との間が非接続状態となる。このとき、ゲイン切替器26は、ローアイドル制御器25からアイドル状態フラグFがセットされた情報を得ることができず、アイドル状態フラグFがクリアされたものとして動作する。その結果、ゲイン切替器26は、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させず、低ゲインに保持する。
この場合、ローアイドル制御器51は、減算器29と減算器31とに対して第2のローアイドル回転速度Nlo2を出力する。そして、エンジン11等の実回転速度N1が、設定回転速度Nsetから第2のローアイドル回転速度Nlo2に近付くように減速する。第2のローアイドル回転速度Nlo2のときには、エンジン11の燃焼に伴うトルク変動は、上部旋回体4の共振周波数よりも高い周波数となる。
従って、エンジン11の実回転速度N1は、上部旋回体4の共振周波数から離れることになるので、上部旋回体4の振動を抑制することができる。この場合、第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させないので、蓄電装置21の充放電を小さくすることができ、蓄電装置21の寿命を向上することができる。
かくして、第3の実施の形態においても上述した第1の実施の形態と同様の作用、効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態においては、オペレータがモード切替装置を操作することにより、ローアイドル状態の回転数が低く(第1のローアイドル回転速度Nlo1)、蓄電装置21の充放電が大きい高ゲインモードと、ローアイドル状態の回転数が高く(第2のローアイドル回転速度Nlo2)、蓄電装置21の充放電が小さい低ゲインモードを切り替えることができる。これにより、オペレータは、エンジン11の燃費を重視した高ゲインモードと、蓄電装置21の寿命を重視した低ゲインモードとを選択することができる。
なお、第3の実施の形態は、第1の実施の形態に適用した場合を例に挙げて説明したが、第2の実施の形態に適用してもよい。
また、上述した第1の実施の形態では、蓄電装置21にリチウムイオンバッテリを使用した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば必要な電力を供給可能な二次電池(例えばニッケルカドミウムバッテリ、ニッケル水素バッテリ)やキャパシタを採用してもよい。また、蓄電装置と直流母線との間にDC−DCコンバータ等の昇降圧装置を設けてもよい。このことは、第2、第3の実施の形態についても同様である。
また、上述した第1の実施の形態では、設定回転速度Nsetは、ローアイドル回転速度Nloよりも大きい値として説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば設定回転速度Nsetの最小値がローアイドル回転速度Nloとして設定してもよい。この場合、オペレータが、エンジン制御ダイヤル9を最小値に設定したときに、設定回転速度Nsetとしてローアイドル回転速度Nloが設定され、かつアイドル状態フラグFがセットされる。これにより、所定時間を待たずに第2の速度制御器32のフィードバック制御のゲインを上昇させることができる。このことは、第2、第3の実施の形態についても同様である。
また、上述した第2の実施の形態では、ローアイドル制御器41は、回転速度指令Nを減算器29、減算器31、ゲイン切替器42に出力した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばHCU23にローアイドル制御器41を設けることなく、設定回転速度Nsetを、直接的に減算器29、減算器31、ゲイン切替器42に入力させてもよい。この場合、設定回転速度Nsetは、エンジン制御ダイヤル9でローアイドル回転速度Nloに設定可能とすることができる。
また、上述した第2の実施の形態では、回転速度指令Nが低速度閾値Ni以下であるか否かに基づいて、発電電動機17の回転速度を低下させたか否かを判定するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えばゲイン切替器42は、エンジン11と発電電動機17との実回転速度N1が低速度閾値Ni以下であるか否かに基づいて、発電電動機17の回転速度を低下させたか否かを判定してもよい。
また、上述した実施の形態では、ハイブリッド建設機械としてクローラ式のハイブリッド油圧ショベル1を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、エンジンと油圧ポンプに連結された発電電動機と、蓄電装置とを備えたハイブリッド建設機械であればよく、例えばホイール式のハイブリッド油圧ショベル、ハイブリッドホイールローダ、リフトトラック等の各種の建設機械に適用可能である。