JP2016002009A - タグ付抗体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】
VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子と、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を共発現させ、Fab抗体を得る。あるいは、VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子と、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を各々発現させた後、発現産物を混合し、Fab抗体を得る。ロイシンジッパーを構成する一対のペプチドの内、片方をコードする第1タグ配列を抗体H鎖遺伝子に付加しておき、他方をコードする第2タグ配列を抗体L鎖遺伝子に付加しておく。
【選択図】なし
Description
本発明の課題は、Fab抗体の有用性に注目し、Fab抗体の形成(H鎖とL鎖の会合)効率を高める技術及びその用途等を提供することにある。
[1]以下のステップ、即ち、
(A)VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子と、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を共発現させるステップ、又は
(B)VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子と、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を各々発現させた後、発現産物を混合するステップ、
を含み、
ロイシンジッパーを構成する一対のペプチドの内、片方をコードする第1タグ配列が前記抗体H鎖遺伝子に付加されており、他方をコードする第2タグ配列が前記抗体L鎖遺伝子に付加されている、Fab抗体の調製法。
[2]前記第1タグ配列の付加位置が前記抗体H鎖遺伝子の3'末端であり、前記第2タグ配列の付加位置が前記抗体L鎖遺伝子の3'末端である、[1]に記載の調製法。
[3]前記ロイシンジッパーが、ロイシン−ロイシン間の疎水結合に加え、正電荷アミノ酸−負電荷アミノ酸間の静電的相互作用により結合力を発揮する、[1]又は[2]に記載の調製法。
[4]前記第1タグ配列がリンカー配列を介して前記抗体H鎖遺伝子に付加されており、前記第2タグ配列がリンカー配列を介して前記抗体L鎖遺伝子に付加されている、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の調製法。
[5]宿主細胞を用いた発現系又は無細胞タンパク質合成系を用いて前記ステップを行う、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の調製法。
[6]前記抗体H鎖遺伝子と前記抗体L鎖遺伝子が、以下のステップ(i)〜(viii)によって調製される、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の調製法:
(i)単一のB細胞に由来するmRNAを用意するステップ;
(ii)前記mRNAを鋳型とした逆転写PCR法によりcDNAを調製するステップ;
(iii)5'末端に同一の第3タグ配列を含む複数のプライマーからなり、VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子を増幅可能なプライマーセットを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ;
(iv)5'末端に同一の第4タグ配列を含む複数のプライマーからなり、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を増幅可能なプライマーセットを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ;
(v)前記第3タグ配列を含む単一のプライマーを用い、ステップ(iii)の増幅産物を鋳型としてPCRを実施するステップ;
(vi)前記第4タグ配列を含む単一のプライマーを用い、ステップ(iv)の増幅産物を鋳型としてPCRを実施するステップ;
(vii)ステップ(v)の増幅産物である抗体H鎖遺伝子に前記第1タグ配列を付加するステップ;
(viii)ステップ(vi)の増幅産物である抗体L鎖遺伝子に前記第2タグ配列を付加するステップ。
[7]前記抗体H鎖遺伝子と前記抗体L鎖遺伝子が、以下のステップ(I)〜(IV)によって調製される、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の調製法:
(I)単一のB細胞に由来するmRNAを用意するステップ;
(II)前記mRNAを鋳型とした逆転写PCR法によりcDNAを調製するステップ;
(III)前記cDNAを鋳型としたnested PCR法により前記抗体H鎖遺伝子を増幅させるステップ、
(IV)前記cDNAを鋳型としたnested PCR法により前記抗体L鎖遺伝子を増幅させるステップ。
[8]ロイシンジッパーを構成する一対のペプチドの片方がH鎖に付加されており、他方がL鎖に付加されている、タグ付Fab抗体。
[9]前記片方のペプチドの付加位置が前記H鎖のC末端であり、前記他方のペプチドの付加位置が前記L鎖のC末端である、[8]に記載のタグ付Fab抗体。
[10]前記ロイシンジッパーが、ロイシン−ロイシン間の疎水結合に加え、正電荷アミノ酸−負電荷アミノ酸間の静電的相互作用により結合力を発揮する、[8]又は[9]に記載のタグ付Fab抗体。
[11]前記片方のペプチドがリンカーを介して前記H鎖に付加されており、前記他方のペプチドがリンカーを介して前記L鎖に付加されている、[8]〜[10]のいずれか一項に記載のタグ付Fab抗体。
[12]前記リンカーがプロテアーゼ切断部位を含む、[11]に記載のタグ付Fab抗体。
[13][8]〜[12]のいずれか一項に記載のタグ付Fab抗体からタグを除去して得られたFab抗体。
(a) ロイシンジッパーペプチドAが正電荷アミノ酸(塩基性アミノ酸)を含む。ロイシンジッパーペプチドBはロイシンジッパーペプチドAの正電荷アミノ酸に対応する位置に負電荷アミノ酸(酸性アミノ酸)を含む。
(b) ロイシンジッパーペプチドAが酸性アミノ酸を含む。ロイシンジッパーペプチドBはロイシンジッパーペプチドAの酸性アミノ酸に対応する位置に塩基性アミノ酸を含む。
(1)LZA(負電荷を保持するロイシンジッパーペプチド)
AQLEKELQALEKENAQLEWELQALEKELAQK(配列番号1)
尚、静電的相互作用のために、4番目、6番目、11番目、13番目、18番目、20番目、25番目、27番目にグルタミン酸(E)が配置されている。
(2)LZB(正電荷を保持するロイシンジッパーペプチド)
AQLKKKLQALKKKNAQLKWKLQALKKKLAQK(配列番号2)
尚、静電的相互作用のために、4番目、6番目、11番目、13番目、18番目、20番目、25番目、27番目にリシン(K)が配置されている。
(i)単一のB細胞に由来するmRNAを用意するステップ
(ii)前記mRNAを鋳型とした逆転写PCR法によりcDNAを調製するステップ
(iii)5'末端に同一のタグ配列(第3タグ配列)を含む複数のプライマーからなり、VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子(Hc遺伝子)を増幅可能なプライマーセットを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ
(iv)5'末端に同一のタグ配列(第4タグ配列)を含む複数のプライマーからなり、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子(Lc遺伝子)を増幅可能なプライマーセットを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ
(v)前記第3タグ配列を含む単一のプライマーを用い、ステップ(iii)の増幅産物を鋳型としてPCRを実施するステップ
(vi)前記第4タグ配列を含む単一のプライマーを用い、ステップ(iv)の増幅産物を鋳型としてPCRを実施するステップ
(vii)ステップ(v)の増幅産物である抗体H鎖遺伝子(Hc遺伝子)に第1タグ配列(ロイシンジッパーペプチドAをコードする配列)を付加するステップ
(viii)ステップ(vi)の増幅産物である抗体L鎖遺伝子(Lc遺伝子)に第2タグ配列(ロイシンジッパーペプチドBをコードする配列)を付加するステップ
(a) 5'末端に同一のタグ配列(第5タグ配列)を含む複数のプライマーからなり、VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子(Hc遺伝子)を増幅可能なプライマーセットと、該プライマーセットよりも高濃度で使用される、前記第5タグ配列を含む単一のプライマーとを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ
(b) 5'末端に同一のタグ配列(第6タグ配列)を含む複数のプライマーからなり、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子(Lc遺伝子)を増幅可能なプライマーセットと、該プライマーセットよりも高濃度で使用される、前記第6タグ配列を含む単一のプライマーを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ
(I)単一のB細胞に由来するmRNAを用意するステップ;
(II)前記mRNAを鋳型とした逆転写PCR法によりcDNAを調製するステップ;
(III)前記cDNAを鋳型としたnested PCR法により前記抗体H鎖遺伝子を増幅させるステップ、
(IV)前記cDNAを鋳型としたnested PCR法により前記抗体L鎖遺伝子を増幅させるステップ。
無細胞タンパク質合成系は、種々の微生物や動物細胞などの生細胞を用いないため、遺伝子導入や培養といった煩雑な操作を必要とせず、なおかつ、わずか数時間でタンパク質を合成できるという利点がある。SICREX法では、取得した抗体遺伝子を鋳型として無細胞タンパク質合成を行うことでFab抗体を合成し、合成したFab抗体をELISAによりスクリーニングしている(図1)。しかしながら、無細胞タンパク質合成系におけるFab抗体の発現量に改善の余地があり、また、Hc、Lc間のジスルフィド結合により形成されるFab形成効率が低い場合があることが、Fab抗体の効率的なスクリーニングの妨げとなっている。そこで、Fab抗体を構成するHcとLcのC末端にLZAとLZBをそれぞれ付加し、LZAとLZBの相互作用によりHc、Lcをペアリング(以下、「Fab-LZ複合体」と呼ぶ)させ、Fab形成効率を向上させることを目指した。
1-1. LZA、LZBの無細胞タンパク質合成系を用いた抗体発現における有効性の検討
1-1-1. ウサギFab-LZ融合タンパク質発現プラスミドの構築
抗AβウサギIgG Fab抗体遺伝子を保持するプラスミドpIDTSMART-KAN:Ra_HcLcを鋳型とし、RaHc-pRSET-IFC-FwとRaHc-linker-Rv、RaLc-pRSET-IFC-FwとRaLc-linker-Rvをプライマーとして用い、それぞれHc遺伝子、Lc遺伝子を増幅させた(94℃ 15秒、50℃ 15秒、68℃ 30秒で25サイクル、Tks Gflex DNA polymeraseを使用)。また、pLZAを鋳型とし、LZA-FwとLZA-Rvを用いてLZA遺伝子を増幅した(94℃ 15秒、50℃ 15秒、68℃ 15秒で25サイクル、Tks Gflex DNA polymeraseを使用)。同様に、pLZBを鋳型とし、LZB-FwとLZB-Rvを用いてLZB遺伝子を増幅させた。増幅したHc遺伝子とLZA遺伝子、Lc遺伝子とLZB遺伝子を、それぞれRaHc-pRSET-IFC-FwとLZA-Rv、RaLc-pRSET-IFC-FwとLZB-Rvをプライマーとして用いたオーバーラップPCRにより連結させた(94℃ 15秒、50℃ 15秒、68℃ 90秒で25サイクル、Tks Gflex DNA polymeraseを使用)。また、pRSET-Bを鋳型として、pRSET-IFC-FwとpRSET-IFC-Rvを用いてインバースPCRを行い、pRSET線状化ベクターを得た。連結させた遺伝子をそれぞれ、In-Fusion-Cloning kit(Clontech)によりpRSET線状化ベクターにそれぞれ連結させ、pRSET-Ra-Hc-LZA、pRSET-Ra-Lc-LZBを構築した。構築したベクターをヒートショック法により大腸菌DH5α株へ形質転換した。このDH5α株をLB/chloramphenicolプレートへ植菌し、コロニーを採取し、この菌体の保持するプラスミドを抽出した。Big Dye Terminator Ver.3.1 Cycle Sequencing Kit (ABI)を用い、抽出したプラスミドのシークエンス解析を行った。
PBSで2000倍希釈した抗FLAG-tag抗体(フナコシ)を1ウェルあたり50μlずつ分注し、4℃で一晩インキュベートし、Nuncイムノプレート(Thermo scientic)に固定した。プレートをPBSで1回洗浄した後、4% ブロックエース溶液(雪印)を400μlずつ分注し45分ブロッキングを行った。次にプレートをPBSTで2回洗った後、pRSET-Ra-Hc-LZAとpRSET-Ra-Lc-LZB鋳型とする無細胞タンパク質合成により合成されたウサギFab-LZ複合体を一次抗体として50μlずつウェルに加え、37℃で2時間反応させた。プレートを3回PBSTで洗った後、二次抗体として抗HA-biotin標識抗体(コスモ・バイオ)を2,000倍希釈した溶液を100μlずつウェルに加え、室温で2時間反応させた。3回PBSTで洗った後、PBSで2000倍希釈したstreptavidin-HRP(GE healthcare)を100μlずつウェルに加え、室温で2時間インキュベーションした。3回PBSTで洗った後、OPD基質溶液(2mg/ml o-phenylenediamine(和光純薬工業(株)), 0.009 % H2O2)を100μl加え37℃で10分から30分間反応させた。50μlの2M H2SO4を加え反応を停止させた後、492nmの吸光を測定した。測定はマイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX 250 (Wako))を用いて行った。
1-1-2.と同様の条件でウサギFab-LZ複合体を合成し、反応液を非還元SDS-PAGEにより分離し、分離したタンパク質をニトロセルロース膜(Advantec)にTrans-blot SD cell(Bio-Rad)を用いて転写した。転写された膜を、4% ブロックエース溶液(雪印)を用いて1晩ブロッキングした。PBSTで洗った後、1-1-2.で用いた抗HA-tag抗体とstreptavidin -HRPを用いて目的タンパク質を標識し、ECL発色試薬(アマシャム)とライトキャプチャーを用いて検出を行った。
抗O157マウス抗体遺伝子をコードするプラスミドを鋳型とし、図2、3に示したプライマーを用いて、No.6、No.16IgM、No.16IgG、No.23の4種類の抗O157マウスFab抗体を増幅させた。
1-1-4.で構築した抗O157マウスFab-LZ複合体発現のためのDNAを鋳型として、無細胞タンパク質合成を行った。無細胞タンパク質合成には、大腸菌A19由来S30 extractと大腸菌BL21Star(DE3)由来S30 extractを用いた(図4)。また、ELISAを行い、抗原に対する結合活性を評価した。尚、抗原にはPBSで希釈したO-157(50μg/ml)を用いた。
抗リステリアウサギFab抗体遺伝子に1-1-4.と同様の手順でT7P断片と、T7T-LZA断片又はT7T-LZB断片を付加した。尚、使用したプライマーは図2、3に示した。
1-1-6.で構築した抗O157マウスFab-LZ複合体発現のためのDNAを鋳型として、無細胞タンパク質合成を行った。反応条件は1-1-5.と同様である。また、ELISAを行い、抗原に対する結合活性を評価した。尚、抗原にはPBSで希釈したリステリア(50μg/ml)を用いた。また、二次抗体にはAnti-rabbit IgG (H+L)-poly HRP conjugated (コスモ・バイオ)を用いた。
2-1. LZA、LZBの抗体発現における有効性の検討
触媒抗体6D9など、マウス抗体Fabの一部は大腸菌由来無細胞タンパク質合成系で合成した際に高いFab形成効率を示すが、必ずしもすべてのマウス抗体Fabの形成効率が高いというわけではない。また、活性型ウサギ抗体Fabが無細胞タンパク質合成系で発現された例はいまだ報告されていない。そこで、Hc、LcのC末端にそれぞれ正と負に荷電したロイシンジッパーLZA、LZBを付加(図5)することで、LZA、LZB間での相互作用によりヘテロダイマーが形成され、Fab形成効率が向上されることを期待した。本項では、ウサギFabの形成効率と、ウサギ、マウス活性型Fabの合成量にLZA、LZBが及ぼす影響を評価した。
LZA、LZBのC末端にそれぞれHAタグ、FLAGタグを付加し、サンドイッチELISAを用いて、ウサギIgGFab-LZ複合体の形成の評価を行った。ウサギIgGFabのHc、LcのC末端にそれぞれHAタグ、FLAGタグを付加したものとシグナルを比較したところ、ウサギIgGFab-LZ複合体がより高いシグナルを示した(図6)。したがって、ウサギIgGFab-LZ複合体が形成されたことが示唆された。
ウサギIgGFabは、Hc、Lc間のジスルフィド結合の結合効率が低いため、Fab形成効率が著しく低い。そこで、ウサギIgGFab-LZ複合体において、Hc、Lc間のジスルフィド結合が形成されているかを調べた。まず、ウサギIgGFab-LZ複合体を無細胞タンパク質合成系で合成した後、非還元SDS-PAGEとウエスタンブロットにより、無細胞タンパク質合成産物の解析を行った(図7)。ウサギIgGFabにおいては、Hc、Lc間のジスルフィド結合は検出できなかったが、ウサギIgGFab-LZ複合体において、Hc、Lc間のジスルフィド結合が検出された。これは、LZA、LZBがヘテロダイマーを形成したことにより、Hc、Lcが互いに近傍に位置する状態が保たれたため、Hc、Lc間のジスルフィド結合が、より形成されやすい環境になったことが要因だと考えられる。
前述の通り、無細胞タンパク質合成系を用いて合成されたマウスFabにおいても、Fab形成効率が低いため、活性型Fabの合成量が低くなることがある。そこで、抗O157マウスFab-LZ複合体と抗マウスFabを、無細胞タンパク質合成系を用いて合成し、発現量と活性をSDS-PAGEとELISAを用いて比較した。No.6IgMFabとNo.6IgMFab-LZ複合体において、Fab形成が認められた(図8)。また、No.6Fabと比較し、No.6Fab-LZ複合体の発現量は低くなったにもかかわらず、ELISAにおいては高いシグナルを示した(図9)。このことから、Fab-LZ複合体として発現させることで、Fab形成効率が向上し、活性型Fabの合成量が増大したと考えられる。一方で、No.16IgM、No.16IgG、No.23IgMについては、Fab、Fab-LZ複合体いずれにおいても抗原に対する結合活性を保持していなかった。また、これらいずれもFab形成が見られなかった。
ウサギFabについても、マウスFabと同様にFab-LZ複合体として発現させ、活性型Fabの合成量が増大するかを調べた。ELISAとSDS-PAGEの結果をそれぞれ図10と図11に示す。SDS-PAGE解析においては、Fab、Fab-LZ複合体いずれにおいてもHc、Lc間のジスルフィド結合はほとんど見られなかったものの、ELISAにおいては全てのクローンにおいてFab-LZの方が高いシグナルを示した。この結果から、LZを導入することによって、ウサギFabはHc、Lc間のジスルフィド結合の形成の有無にかかわらずヘテロダイマー化することができ、抗原に対する結合活性を保持することができたと考えられる。
マウスFab及びウサギFabをFab-LZ複合体として発現させることによって、Fab形成効率の向上、及び活性型Fabの合成量増大に成功した。
ウサギ抗体の抗原決定部位のバリエーションはマウスに比べ豊富であり、かつウサギの免疫化や採血はヒトやマウスに比べ非常に容易である。ウサギ末梢血を用いたSICREX法の確立を目指し、以下の検討を行った。尚、ウサギを対象動物とした系を確立することで、高い結合活性を有する抗体遺伝子の獲得が可能になり、より効率的に実験等を進めることができると考えられる。
1-1. ウサギの免疫化
Listeria monocytogenes(以下L.monocytogenes)の死菌体を抗原としてウサギ(NZW)に対して免疫した。一匹あたりL. monocytegenes (5x108 CFU) / PBS溶液1 mlに完全アジュバント1.5 mlを加え、ソニケーションした後全量を皮下注射により注入した。その2週間後、抗原5x108 CFU/ PBS溶液1 mlに不完全アジュバント1.5 mlを加え、ソニケーションした後全量を皮下注射した。さらに10日後、抗原5x108 CFU/ PBS溶液2.5 mlを皮下注射した。以上の実験は名古屋大学における動物実験等に関する取扱規定に従い行った。
抗体価の上昇が確認できた個体から、名古屋大学における動物実験等に関する取扱規定に従い、耳静脈より採血を行った。得られた16 mlの血液サンプルを4 mlずつにわけ、2 mlのPBSを加え懸濁した。その後、4.5 mlずつのPancoll(フナコシ株式会社)を新しいサンプルチューブに入れ、その上に懸濁した血液サンプルを乗せるように加えた。サンプルチューブを遠心した(400×g, 40分, RT)。遠心後のサンプルは何層かに分離するが、最上層は血液のプラズマ層(血清層)であり、抗体価測定用に採取し、4℃に保存した。そしてその下の層にあるB細胞の集まりを新しいサンプルチューブに8 ml採取した。採取したB細胞溶液に3倍量のPBSを加え、400 gで10分遠心し、上清を捨て、1 mlのPBSに再懸濁した。これをリンパ細胞溶液とした。
磁気ビーズと非特異的に結合するリンパ細胞を除くため、磁気ビーズを用いた非特異的結合リンパ細胞の除去を行った。尚、磁気ビーズはE. coli O157に対するヤギポリクローナル抗体が結合した磁気ビーズであるNHビーズSepa-Max(登録商標) O157 (以下、NHビーズ) (コスモ・バイオ(株))又は、磁気ビーズ表面にストレプトアビジンが結合しているDynaBeads M-280 Streptavidin(以下、SAビーズ)(Invitogen)を使用した。1-2.調製したリンパ細胞溶液1 mlとNHビーズ又はSAビーズ5μlを混合し室温で2分間静置した後、磁気スタンドにセットし、上清を回収し、これを以降の実験に用いた。
抗原に特異的に結合する抗体を細胞表面に提示する細胞の濃縮を行った。抗原と磁気ビーズの複合体を形成させた後、抗原とビーズ複合体と結合したB細胞を磁気スタンドを用いて回収することで、抗原特異的IgM提示B細胞の単離を行った。磁気ビーズにはSAビーズを使用し、抗原にはL. monocytogenesの生菌体を使用した。
抗原として用いるL. monocytogenesをBrain Heart Infusion(Bacto)でそれぞれ15時間振盪培養した。培養液を3,000 rpm、10分間遠心分離して上清を除き、PBSを加えて洗浄した。同様の操作を再度行った後、PBS 100μlに懸濁して以下の操作に使用した。
抗原L. monocytogenes 50μl(2.0×109 個)と100mM ビオチン1μl(終濃度1mM)を混合し、50mM MESバッファー(pH=5.0)を加え100μlにした後、回転盤(マイクロチューブローテーターMTR-103(アズワン株式会社))を用いて室温で15分撹拌させた(1分間に7〜8回転程度)。更に、EDCを3mg加えて回転盤を用いて室温で2時間撹拌させた。その後、遠心分離(3000rpm, 5分, RT)し、上清を捨て、沈殿を100μlのPBSに懸濁させた。これをビオチン化抗原溶液とした。
ビオチン化抗原溶液100μlとSA beads 100μl(6×107 beads)を混合し、回転盤を用いて室温で1時間撹拌させた。PBS溶液200μlによる洗浄を行い、PBS溶液100μlに懸濁した。抗原とビーズの複合体を含む溶液を磁気スタンドにセットし氷上で10分間静置し、上清を除去して、ビーズを100μlのPBS溶液で洗浄した。再び磁気スタンドにセットし氷上で5分静置し、上清を除去して、100μlのPBSに懸濁した。抗原とビーズの複合体が形成されていることを、普通染色を用いて確認した。
1-4(c).で得られた抗原とビーズの複合体を含む溶液100μlとB細胞を含む溶液100μlを混合し、回転盤を用いて室温で1時間撹拌させた。磁気スタンドにセットし氷上で10分間静置し、上清を除去して、200μlのPBS溶液で洗浄した。再び磁気スタンドにセットし氷上で5分静置し、上清を除去して、200μlのPBSに懸濁した。この細胞を含む溶液の細胞濃度を、ビュルケルチュルク血球計測盤(日本臨床機器工業株式会社)と顕微鏡(OLYMPUS M021)を使用して測定した。
1-4(d).で得られたリンパ細胞溶液から顕微鏡下でマイクロマニュピレーターを用いて抗原特異的IgM提示B細胞を一細胞ずつ単離した。リンパ細胞溶液を1.0×104 個/mlになるようにPBSで希釈し、シャーレに100μl撒いた。顕微鏡でビーズ−抗原−B細胞複合体を確認し、先端に2.5μlのPBSを充填したパスツールを用いて細胞を吸引することで単離し、DEPC water (Invitrogen)とRNase OUT(Invitrogen)が予め入っているマイクロチューブにパスツールの先端ごと折り、細胞を回収した。
ウサギの末梢血を用いたSICREX法の更なる効率化のため、ウサギの抗体遺伝配列に会合するプライマーを再設計した。尚、これらのプライマーは、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(Kabat et al.,1991)とIMGTのデータベースから配列データを集め、すべての配列をMultalinを用いて並び替えて比較し、抗体配列を網羅できるプライマーを設計した。
用いたプライマーの配列を図12〜15に示した。PCRはVeritiTM (Applied Biosystem, USA)もしくはC1000TM Thermal Cycler(Bio-Rad)を使用した。cDNAの調製はSUPERSCRIPT III First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Invitrogen, USA)を用い、製品のプロトコルに従って行った(47℃ 90分、70℃ 15分、4℃放置)。尚、その際、コンタミネーションの有無を確認するため、細胞が入っていないウェルをコントロールとして用いた。次にH鎖とL鎖の遺伝子を別々に増幅するため、合成したcDNAを鋳型として2段階のPCRを行った。1st PCRではLA Taq HSTM DNA polymerase(タカラバイオ(株))を用いた(94℃ 3分の後、94℃ 30秒、55℃ 45秒、72℃ 45秒で25サイクル、72℃ 7分、4℃放置)。続いて、1st PCR産物を鋳型とし、Tks Gflex DNA polymerase (タカラバイオ(株))を用いて2nd PCRを行った(94℃ 1分の後、98℃ 10秒、50℃ 15秒、68℃ 30秒で25サイクル、68℃ 7分、4℃放置)。尚、上記のPCR操作は全て96穴プレートを用いて行った。
TAクローニングを行うため、LA TaqTM DNA polymerase(タカラバイオ(株))を用いたPCRにより、2nd PCR産物の配列の末端にAを付加した。続いて、PCR産物をpGEM-T easy vectorとDNA Ligation Kit (Mighty Mix)(タカラバイオ(株))を用いてTAクローニングを行った。ヒートショック法によってE. coli DH5αコンピテントセルを形質転換し、終濃度アンピシリン50μl /ml、IPTG 40μl /ml、4 % X-galを無菌的に加えたLBプレートに塗布し、37℃で15時間培養した。得られた白コロニーを爪楊枝で採取し、20μlのNaOHに懸濁してアルカリ融解を行い、そのうちの1μlを鋳型としてPCRを行った(94℃ 5分の後、94℃ 10秒、50℃ 20秒、72℃ 1分30秒で25サイクル、72℃ 7分、4℃放置)。尚、このPCRでは図16に示したプライマーを用いた。PCR後の溶液をFast Geneゲル/PCR抽出キット(Fast Gene)により精製した。このうち1μlを鋳型としBig Dye Terminator Ver.3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、キットに添付されているプロトコルに従ってシークエンス反応を行った。尚、反応後、エタノール沈殿を行い、DNAを回収した。回収したDNAにHi-Di Formamide (Applied Biosystems)を15μl加え、名古屋大学遺伝子実験施設のABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)でシークエンス解析を行った。
1-7.で得られた抗体遺伝子に無細胞タンパク質合成の際の転写・翻訳反応に必要な配列であるT7PとT7Tを以下に示す手順で付加した。上記T7P、T7T配列はそれぞれpRSET-B vector (Invitrogen)を鋳型としたPCRによって増幅を行った(94℃ 5分の後、96℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒で25サイクル、72℃ 7分、4℃放置)。T7P配列はプライマーpRSET-T7PFとpRSET-T7PRを用いて増幅した。また、T7T配列はプライマーpRSET-T7TF-OL-RとpRSET-T7TRを用いて増幅を行った。続いて、プロモーターとターミネーターを含む遺伝子断片をオーバーラップPCRによりIn-FとIn-Rを用いて増幅した(94℃ 1分の後、98℃ 10秒、50℃ 15秒、68℃ 45秒で25サイクル、68℃ 7分、4℃放置)。これらのPCRに用いたプライマーを図17に示した。
無細胞タンパク質合成反応は以前Jiangらによって開発された系(Jiang, X. P., Y. Ookubo, I. Fujii, H. Nakano, and T. Yamane, 2002, Expression of Fab fragment of catalytic antibody 6D9 in an Escherichia coli in vitro coupled transcription/translation system: Febs Letters, v. 514, p. 290-294.)に改善を加えた系で行った。オーバーラップPCR産物を鋳型として図4に示した無細胞タンパク質合成反応液を加え、30℃で1時間反応させた。この際、鋳型が入っていない無細胞タンパク質合成反応液をコントロールとしてインキュベートした。反応後は無細胞タンパク質合成反応液を氷上に移し、反応を停止させた。
まず、PBSで10μg/mlに希釈したL. monocytogenes 死菌体溶液を50μlずつ分注し、4℃で一晩インキュベートすることで抗原をプレートに固定した。プレートをPBSで1回洗浄した後、4% スキムミルク溶液を400μlずつ分注し45分ブロッキングを行った。次にプレートをPBSTで2回洗った後、1-10.で調製した抗体分子(無細胞反応溶液をPBSで希釈した溶液)を50μlずつウェルに加え、37℃で2時間反応させた。プレートを3回PBSTで洗った後、二次抗体のAnti-rabbit IgM+IgG (H+L)-poly HRP conjugate(フナコシ(株))を2,000倍希釈した溶液を100μlウェルに加え、室温で2時間反応させた。3回PBSTで洗った後、OPD基質溶液(2 mg/ml o-phenylenediamine (和光純薬工業(株)), 0.009 % H2O2)を100μl加え37℃で10分から30分間反応させた。50μlの2 M H2SO4を加え反応を停止させた後、492 nmの吸光を測定した。測定はマイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX 250 (Wako))を用いて行った。
1-7.で得られた抗体遺伝子をFab-LZ複合体として発現させるためのDNA構築を以下に示す手順で行った(図18)。プライマーraV-Lc-1FとH鎖及びL鎖の定常領域のC末端に特異的に結合するプライマーで増幅した(94℃ 1分の後、98℃ 10秒、55℃ 15秒、68℃ 30秒で25サイクル、68℃ 7分、4℃放置)。これらのPCRに用いたプライマーを図19に示した。増幅した遺伝子断片を鋳型として、1-1-4.に記載した方法と同様にオーバーラップPCRでT7PとLZ‐T7Tを付加させた後(Hc遺伝子にT7T-LZA断片、Lc遺伝子にT7T-LZB断片を付加)、無細胞タンパク質合成系により発現させた。
2-1. 磁気ビーズを用いた抗体提示B細胞(IgM提示B細胞)の濃縮の検討
SAビーズとL. monocytogenesの複合体及び磁気スタンドを用いて抗原に特異的な抗体を提示する細胞を濃縮した。その結果、約10,000個の細胞が獲得できた。また、顕微鏡で観察したところ、SAビーズとB細胞が抗原であるL. monocytogenesを介して結合している様子を観察することができた。この濃縮では抗原であるL. monocytogenesと磁気ビーズの複合体で選択しているので、原理的にはL. monocytogenesを認識するような抗体を提示している細胞が特異的に選択される。尚、磁気ビーズに非特異的に結合するB細胞を除去する操作を予め行っているため、この方法を用いて抗原に特異的な抗体を提示している細胞を濃縮できたと判断した。濃縮したB細胞溶液を顕微鏡下で磁気ビーズ-抗原-B細胞複合体を確認しながらマイクロマニピュレーターを用いて一細胞ずつ、合計13個の細胞を単離した。単離した13個の細胞をRT-PCRの鋳型として用いて一細胞RT-PCRを行った。
1-5.で単離した抗原特異的抗体提示B細胞を用いて一細胞由来抗体遺伝子の増幅を試みた。マイクロマニュピレーターにより単離した13個の細胞を用いて逆転写反応と2段階のPCRにより抗体遺伝子を増幅し、電気泳動を行った(図20)。この結果、L鎖では13細胞中6細胞において約700bp付近にバンドが確認された。このことから、L鎖の場合には設計したプライマーがウサギのL鎖の抗体遺伝子配列を完全に網羅できていないことが示唆された。よって、L鎖の遺伝子増幅について、プライマーデザイン、PCR条件等さらなる改善を行う必要があると考えられる。一方、H鎖ではIgM型の抗体遺伝子の増幅が全細胞において約700bp付近にバンドが確認された。このことから、設計したプライマーはIgM型の抗体遺伝子配列を網羅できていたことが示唆された。また、IgG型のH鎖が全細胞中2細胞において遺伝子増幅を確認することができた。No.16は細胞を鋳型として入れていないネガティブコントロールとしたが、そのウェルでの抗体遺伝子増幅は確認できなかった。このことからコンタミネーションの可能性は低いことが示唆された。H鎖、L鎖、両遺伝子で増幅が確認できた6ペア(IgM : No.1,No.6,No.9, No.12 IgG : No.4, No.9)をシークエンス解析した(実験方法:1-8.)。
H鎖、L鎖、両遺伝子で増幅が確認できた6ペア(IgM : No.1, No.6, No.9, No.12 IgG : No.4, No.9)についてシークエンス解析を行った。得られた塩基配列をBLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)のデータバンクを用いて類似する塩基配列を検索した結果、No.1, No.6, No.9, No.12はIgM型抗体遺伝子であり、No.4, No,9はIgG型抗体遺伝子であることが確認された。今回、RT-PCRの鋳型として用いた細胞は抗体提示B細胞であると考えていたが、IgG型の抗体遺伝子も増幅することができた。その理由として、IgG型の抗体を提示する記憶細胞も濃縮したリンパ細胞溶液中に存在していたことで、記憶細胞由来の抗体遺伝子を増幅したものと考えられる。
1細胞/ウェルの条件で行ったRT-PCR及び二段階PCRより得られたH鎖、L鎖の抗体遺伝子のうち、H鎖とL鎖の両方において遺伝子の増幅及びシークエンス解析をしたウェル No.1, No.4 , No.6 , No.9M , No.9G, No.12 の6ペアを鋳型としてオーバーラップPCRを行い、無細胞タンパク質合成系に必要なプロモーターやターミネーターの配列を付加した。オーバーラップPCR産物を鋳型とし、無細胞タンパク質合成系で合成したFabのL. monocytogenesに対する結合能を確認するためにELISAを行ったところ、どのサンプルにおいても有意な結合活性を確認することが出来なかった。この原因として、H鎖とL鎖間のジスルフィド結合によるFab形成の効率が低いことが、結合活性に影響を与えているのではないかと考えた。そのため、SDS-PAGEでのFab発現の解析を行った。
取得した6ペア(ウェル No.1, No.4 , No.6 , No.9M , No.9G, No.12)の抗体遺伝子のオーバーラップPCR産物を鋳型とし、無細胞タンパク質合成系で抗体を発現させ、Fabの発現の有無を調べるため蛍光リジンを用いたSDS-PAGEを行った。H鎖、L鎖ともに抗体の発現は確認できたものの、Fabの形成は見られなかった。この結果の要因として、ウサギ抗体の分子内及びH鎖L鎖間のジスルフィド結合は、システインの位置関係が複雑であることから、無細胞タンパク質合成系を用いた発現ではジスルフィド結合によるFab形成の効率が低いことが考えられた。ジスルフィド結合が形成されないことには、結合活性を測定することができため、FabではなくH鎖及びL鎖の可変領域をポリリンカーを介して結合させた一本鎖抗体(scFv)として無細胞タンパク質合成系を用いて発現させ、その結合活性を調べることにした。
ロイシンジッパー(以下、LZ)はタンパク質二量体を形成させる機能を持つことで知られている。その機能により、H鎖とL鎖がLZにより会合することでジスルフィド結合の形成効率に寄与するのではないかと仮定した。その有効性について検討するため、以下の実験を行った。まず、一本鎖抗体(scFv)として発現させた場合に結合活性を確認することができたウェル No.1, No.4 に加えてNo.9M, No.9Gの抗体遺伝子のH鎖及びL鎖にオーバーラップPCRを用いて無細胞タンパク質合成系に必要なプロモーターやターミネーター、LZの配列を付加した。無細胞タンパク質合成系で合成したFab及びFab-LZ複合体のL. monocytogenesに対する結合能を確認するためにELISAを行ったところ、全てのFab-LZ複合体のサンプルがFabの5倍程度の結合活性を有することが確認できた。この結合活性の上昇が、LZのα-へリックスの接着力によるFab形成効率の上昇によるものなのかを確認するため、蛍光リジンを用いたSDS-PAGEによりFab-LZ複合体の発現を解析した。尚、Fab-LZ複合体をコードする塩基配列の代表例(クローンNo.4)を図21に示す。
無細胞タンパク質合成系でFab-LZ複合体を発現させ、蛍光リジンを用いたSDS-PAGEを行い、LZの有効性を検討した。非還元SDS-PAGE(図22)及び、還元SDS-PAGE(図23)を行った結果、H鎖、L鎖ともに発現は確認できたものの、Fabの形成は見られなかった。このことから、LZによるH鎖とL鎖の会合がジスルフィド結合の形成効率の上昇に寄与するのではないことが判明した。しかし、ジスルフィド結合の形成が不十分であってもLZ間でのα-へリックスの接着力によりH鎖とL鎖が隣接し、本来のコンフォメーションを形成することで結合活性が上昇したのではないかと考えられる。このことから、LZをFabのC末端に融合させることで、Fabの結合活性の上昇に寄与することが示唆された。
顕微鏡及びマイクロマニピュレーターを使用することで、濃縮した抗体提示B細胞から一細胞ずつ単離することが可能になった。また、Fab-LZ複合体として発現させることにより、Fabでは測定できなかった結合活性を確認することができた。
In vivoでの抗体調製においてもLZA及びLZBの相互作用が有効に作用するかを調べるために、マウス抗大腸菌O157抗体No. 6(1-1-4.の実験と同様のもの)のFab及びFab-LZを、タンパク質発現用大腸菌Shuffle T7 express E. coli (New England Biorabs)により発現させ、ELISA法により評価した。
発現プラスミドを以下の通り構築した。まず、Fab発現ベクターの構築においては、抗O157抗体No.6のHc及びLcのFab領域をそれぞれプライマー1F(TTAAGAAGGAGAtatacatATGGAGGTCCAGCTGCAACAGTC(配列番号125))と17R(TCCTTCTAGATTATTAAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGGTACATGGTACCGCCTGGAATGGGCACATGC(配列番号126))のセット及び2F(TAATAATCTAGAAGGAGATATCATATGGATGTTTTGATGACCCAAAC(配列番号127))と18R(CATCGTCGTCCTTGTAGTCGGAACCGCCACACTCTTTCCTGTTGAAGCTC(配列番号128))のセットで増幅した(94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 2分で25サイクル、KOD plus(東洋紡)を使用)。 また、同様にpET22bベクター(Novagen製)をプライマーpET22b-F(ccGACTACAAGGACGACGATGACAAATAATAAGATCCGGCTGCTAACAAAGC(配列番号129))と pET22b-R(CATATGTATATCTCCTTCTTAA(配列番号130))のセットにて増幅した(94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 4分で25サイクル、KOD plusを使用)。これらを制限酵素DpnI(タカラバイオ)にて処理した後、DNA精製キットFastGene Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス)により精製し、Gibson Assembly システム(New England Biorabs)を用いて連結反応させた。これによりDH5alphaヒートショックコンピテントセルを形質転換し50 μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地へ塗布することにより目的のプラスミドを有するコロニーを得た。
形質転換体を50μg/mLのアンピシリンを含むLB培地(以下、LBA培地)3 mLに接種し、37℃にて一晩振とう培養した。このうち100μLをLBA培地20 mLへ植菌し、30℃にてOD600=0.5となるまで振とう培養した。これに1MのIPTGを無菌的に終濃度1 mMとなるよう添加して氷冷した後、16℃にて24時間振とう培養した。8000 G, 10分の遠心分離により菌体を回収し、PBSにて懸濁し再度遠心分離することにより培地成分を除去した。菌体に1.5 mLのPBS及び直径0.1 mmのジルコニアビーズを数十mg加え2 mLのチューブに移し、氷冷下においてビーズ破砕機(トミー精工 Micro Smash,MS-100R)により細胞を破砕した(5000 rpm, 30秒を5回繰り返し)。これを13000 rpmにて5分間遠心分離し上清を細胞破砕可溶性画分とした。本各分は4℃にて保存し以後の実験に使用した。
以下の変更点以外は、1-1-5.で示した方法に従った。まず、Nunc polysoap 96 well plateにOD600=0.1となるようPBSにて懸濁したE. coli O157(GTC 03904, ナショナルバイオリソースプロジェクトより入手)の加熱死菌体懸濁液もしくは0.4% BSA(PBS中)を50μL滴下し、4℃にて一晩静置することによりそれぞれをコーティングした。1次抗体として上述の細胞破砕可溶性画分、2次抗体としてHRP標識抗マウスFab抗体(BET A90-100P)を使用した。また、ブロッキング剤として0.4% BSAを用いた。検出反応においては、BMブルーPOD基質・可溶性(Roche)50μLを添加し、室温にて10分間反応させた後に1 M硫酸液を50μL添加することにより反応を停止した。プレートリーダー(Tecan, M200)により450 nmの吸光度を測定した。本方法により、大腸菌培養液あたりの抗体活性を知ることができる。
比較対照として、HcとLcの可変領域(V領域)にLZA及びLZBを付加したものを上記同様に大腸菌により組み換え生産し、ELISAにより評価した。まず、Hc及びのV領域をプライマー1Fと21R(CTGGGCGCTCCCACCACCGCCGTAAGCAAACCAGTCCTCGTC(配列番号137))のセット及び2Fと12R(GCTCCCACCACCGCCAGCATCAGCCCGTTTCAGCTCC(配列番号138))のセットにより増幅した。これをFab-LZの発現プラスミドを作製したときと同様にLZA及びLZBフラグメントとそれぞれオーバーラップPCRにより連結させ、最後に、VH-LZA、VL-LZBの断片及び直鎖状pET22bをGibson Assembly システムにより連結させた(構築プラスミドを以下、pET22b-m6V-LZと表記)。発現条件及びELISA条件は上記と同様であるが、一次抗体のネガティブコントロールとしてpET22b形質転換体の可溶性画分の他、PBSのみも用いた。また、二次抗体として、HRP標識抗マウスFab抗体の他、FLAGタグに対する抗体(HRP標識抗FLAGタグ抗体:GTX77454、GeneTex)を使用した。尚、m6Fab、m6Fab-LZ及びm6V-LZの全ての発現プラスミドにおいてLcのC末端側にFlagタグ配列が付加されている。
配列番号2:人工配列の説明:LZB
配列番号3:人工配列の説明:リンカー
配列番号4〜138:人工配列の説明:プライマー
配列番号139:人工配列の説明:Hc-LZA複合体
配列番号140:人工配列の説明:Lc-LZB複合体
Claims (13)
- 以下のステップ、即ち、
(A)VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子と、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を共発現させるステップ、又は
(B)VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子と、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を各々発現させた後、発現産物を混合するステップ、
を含み、
ロイシンジッパーを構成する一対のペプチドの内、片方をコードする第1タグ配列が前記抗体H鎖遺伝子に付加されており、他方をコードする第2タグ配列が前記抗体L鎖遺伝子に付加されている、Fab抗体の調製法。 - 前記第1タグ配列の付加位置が前記抗体H鎖遺伝子の3'末端であり、前記第2タグ配列の付加位置が前記抗体L鎖遺伝子の3'末端である、請求項1に記載の調製法。
- 前記ロイシンジッパーが、ロイシン−ロイシン間の疎水結合に加え、正電荷アミノ酸−負電荷アミノ酸間の静電的相互作用により結合力を発揮する、請求項1又は2に記載の調製法。
- 前記第1タグ配列がリンカー配列を介して前記抗体H鎖遺伝子に付加されており、前記第2タグ配列がリンカー配列を介して前記抗体L鎖遺伝子に付加されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の調製法。
- 宿主細胞を用いた発現系又は無細胞タンパク質合成系を用いて前記ステップを行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の調製法。
- 前記抗体H鎖遺伝子と前記抗体L鎖遺伝子が、以下のステップ(i)〜(viii)によって調製される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の調製法:
(i)単一のB細胞に由来するmRNAを用意するステップ;
(ii)前記mRNAを鋳型とした逆転写PCR法によりcDNAを調製するステップ;
(iii)5'末端に同一の第3タグ配列を含む複数のプライマーからなり、VH領域とCH1領域をコードする抗体H鎖遺伝子を増幅可能なプライマーセットを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ;
(iv)5'末端に同一の第4タグ配列を含む複数のプライマーからなり、VL領域とCL領域をコードする抗体L鎖遺伝子を増幅可能なプライマーセットを用い、前記cDNAを鋳型としてPCRを実施するステップ;
(v)前記第3タグ配列を含む単一のプライマーを用い、ステップ(iii)の増幅産物を鋳型としてPCRを実施するステップ;
(vi)前記第4タグ配列を含む単一のプライマーを用い、ステップ(iv)の増幅産物を鋳型としてPCRを実施するステップ;
(vii)ステップ(v)の増幅産物である抗体H鎖遺伝子に前記第1タグ配列を付加するステップ;
(viii)ステップ(vi)の増幅産物である抗体L鎖遺伝子に前記第2タグ配列を付加するステップ。 - 前記抗体H鎖遺伝子と前記抗体L鎖遺伝子が、以下のステップ(I)〜(IV)によって調製される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の調製法:
(I)単一のB細胞に由来するmRNAを用意するステップ;
(II)前記mRNAを鋳型とした逆転写PCR法によりcDNAを調製するステップ;
(III)前記cDNAを鋳型としたnested PCR法により前記抗体H鎖遺伝子を増幅させるステップ、
(IV)前記cDNAを鋳型としたnested PCR法により前記抗体L鎖遺伝子を増幅させるステップ。 - ロイシンジッパーを構成する一対のペプチドの片方がH鎖に付加されており、他方がL鎖に付加されている、タグ付Fab抗体。
- 前記片方のペプチドの付加位置が前記H鎖のC末端であり、前記他方のペプチドの付加位置が前記L鎖のC末端である、請求項8に記載のタグ付Fab抗体。
- 前記ロイシンジッパーが、ロイシン−ロイシン間の疎水結合に加え、正電荷アミノ酸−負電荷アミノ酸間の静電的相互作用により結合力を発揮する、請求項8又は9に記載のタグ付Fab抗体。
- 前記片方のペプチドがリンカーを介して前記H鎖に付加されており、前記他方のペプチドがリンカーを介して前記L鎖に付加されている、請求項8〜10のいずれか一項に記載のタグ付Fab抗体。
- 前記リンカーがプロテアーゼ切断部位を含む、請求項11に記載のタグ付Fab抗体。
- 請求項8〜12のいずれか一項に記載のタグ付Fab抗体からタグを除去して得られたFab抗体。
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