JP2015208925A - 圧電素子の設計手法、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】環境負荷が小さく且つ変位量が高い圧電素子の設計手法、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法を提供する。
【解決手段】 第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子の設計手法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを描く工程と、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離する工程と、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される有効電界(分圧)が大きくなると判断して適正な吐出周波数を算出する工程、とを具備する。
【選択図】 図6
【解決手段】 第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子の設計手法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを描く工程と、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離する工程と、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される有効電界(分圧)が大きくなると判断して適正な吐出周波数を算出する工程、とを具備する。
【選択図】 図6
Description
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせる電極及び圧電体層を有する圧電素子の設計手法、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法に関する。
液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
このような圧電素子を構成する圧電体層として用いられる圧電材料には高い圧電特性が求められており、圧電材料の代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられるが、環境問題の観点から、非鉛又は鉛の含有量を抑えた圧電材料が求められている。鉛を含有しない圧電材料としては、例えば、Bi及びFeを含有するBiFeO3系の圧電材料がある(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、このような非鉛又は鉛の含有量を抑えた複合酸化物からなる圧電体層は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)と比較すると変位量が十分ではないので、変位量の向上が求められている。
なお、このような問題は、非鉛又は鉛の含有量を抑えた複合酸化物からなる圧電体層だけでなく、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電体層についても存在し、さらに、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷が小さく且つ変位量が高い圧電素子の設計手法、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成する本発明の態様は、第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子の設計手法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを描く工程と、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離する工程と、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される有効電界(分圧)が小さくなると判断して適正な吐出周波数を算出する工程と、を具備することを特徴とする圧電素子の設計手法にある。
かかる態様では、圧電素子の変位に直接関係する圧電素子に印加される電圧である分圧以外の、寄生容量に対応する寄生成分の分圧が小さくなる周波数を把握することができ、寄生成分の分圧が小さくなる領域での周波数に対応する吐出周波数で駆動することにより、圧電素子の変位を向上させることができる。
かかる態様では、圧電素子の変位に直接関係する圧電素子に印加される電圧である分圧以外の、寄生容量に対応する寄生成分の分圧が小さくなる周波数を把握することができ、寄生成分の分圧が小さくなる領域での周波数に対応する吐出周波数で駆動することにより、圧電素子の変位を向上させることができる。
ここで、前記複数の円弧のそれぞれに対応する寄生容量を低下させるように、前記圧電体層を作成する条件を設計することが好ましい。これによれば、寄生成分の分圧が小さくなる圧電素子を設計することができる。
また、前記複数の円弧に対応する複数の寄生容量の温度依存性と周波数との関係を求め、温度依存性の良好な吐出周波数を把握する工程をさらに具備することが好ましい。これによれば、変位の温度依存性を低下させた圧電素子が設計できる。
本発明の他の態様は、第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子と、前記圧電素子に駆動波形を供給する駆動手段と、を有する液体噴射装置であって、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを求め、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離し、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される分圧が小さくなると判断して適正な吐出周波数を算出し、前記駆動手段は、前記吐出周波数で前記駆動波形を用いて駆動することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、圧電素子の変位に直接関係する圧電素子に印加される電圧である分圧以外の、寄生容量に対応する寄生成分の分圧が小さくなる周波数を把握し、寄生成分の分圧が小さくなる領域での周波数に対応する吐出周波数で駆動することにより、圧電素子の変位を向上した液体噴射装置が実現できる。
かかる態様では、圧電素子の変位に直接関係する圧電素子に印加される電圧である分圧以外の、寄生容量に対応する寄生成分の分圧が小さくなる周波数を把握し、寄生成分の分圧が小さくなる領域での周波数に対応する吐出周波数で駆動することにより、圧電素子の変位を向上した液体噴射装置が実現できる。
また、本発明の他の態様では、第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子と、前記圧電素子に駆動波形を供給する駆動手段と、を有する液体噴射ヘッドの駆動方法であって、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを求め、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離し、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される分圧が小さくなると判断して適正な吐出周波数を算出し、前記駆動手段は、前記吐出周波数で前記駆動波形を用いて駆動することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法にある。
かかる態様では、圧電素子の変位に直接関係する圧電素子に印加される電圧である分圧以外の、寄生容量に対応する寄生成分の分圧が小さくなる周波数を把握し、寄生成分の分圧が小さくなる領域での周波数に対応する吐出周波数で駆動することにより、圧電素子の変位を向上した液体噴射ヘッドの駆動が実現できる。
かかる態様では、圧電素子の変位に直接関係する圧電素子に印加される電圧である分圧以外の、寄生容量に対応する寄生成分の分圧が小さくなる周波数を把握し、寄生成分の分圧が小さくなる領域での周波数に対応する吐出周波数で駆動することにより、圧電素子の変位を向上した液体噴射ヘッドの駆動が実現できる。
(実施形態1)
図1は、本発明にかかる液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、インクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
図1は、本発明にかかる液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、インクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4には搬送手段としての搬送ローラー8が設けられており、紙等の記録媒体である記録シートSが搬送ローラー8により搬送されるようになっている。なお、記録シートSを搬送する搬送手段は、搬送ローラーに限られずベルトやドラム等であってもよい。
ここで、このようなインクジェット式記録装置IIに搭載されるインクジェット式記録ヘッドについて、図2〜図4を参照して説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図3は、図2の平面図であり、図4は図3のA−A′線断面図である。
図2〜図4に示すように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム、および物理吸着等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば厚さ300〜1500nm程度の酸化シリコン等からなり、弾性膜50等の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。なお、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜、および弾性膜が設けられていてもよい。
さらに、この密着層56上には、第1電極60と、厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としての圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び必要に応じて設ける絶縁体膜、および弾性膜が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50や密着層56を設けなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
そして、本実施形態においては、圧電体層70を構成する圧電材料は、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物である。ペロブスカイト構造、すなわち、ABO3型構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。このAサイトにBi及びBaが、BサイトにFe及びTiが位置している。
このようなBi、Fe、Ba及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとの混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物、または、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムが均一に固溶した固溶体としても表されるが、混晶又は固溶体として表される組成からずれた組成であってもよい。なお、混晶又は固溶体として表される組成であっても、X線回折パターンにおいて、鉄酸ビスマスや、チタン酸バリウムは、単独では検出されないものである。
ここで、鉄酸ビスマスやチタン酸バリウムは、それぞれペロブスカイト構造を有する公知の圧電材料であり、それぞれ種々の組成のものが知られている。例えば、鉄酸ビスマスやチタン酸バリウムとして、BiFeO3やBaTiO3以外に、元素(Bi、Fe、Ba、TiやO)が一部欠損する又は過剰であったり、元素の一部が他の元素に置換されたものも知られているが、本発明で鉄酸ビスマス、チタン酸バリウムと表記した場合、欠損・過剰により化学量論の組成からずれたものや元素の一部が他の元素に置換されたものも、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウムの範囲に含まれるものとする。また、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとの比も、種々変更することができる。
このようなペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70の組成は、例えば、代表的には、下記一般式(1)で表される混晶として表される。また、この式(1)は、下記一般式(1’)で表すこともできる。ここで、一般式(1)及び一般式(1’)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損やAサイト欠損等による不可避な組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。例えば、化学量論比が1とすると、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。また、下記のように一般式で表した場合は異なるものであっても、Aサイトの元素とBサイトの元素との比が同じものは、同一の複合酸化物とみなせる場合がある。
(1−x)[BiFeO3]−x[BaTiO3] (1)
(0<x<0.40)
(Bi1−xBax)(Fe1−xTix)O3 (1’)
(0<x<0.40)
(0<x<0.40)
(Bi1−xBax)(Fe1−xTix)O3 (1’)
(0<x<0.40)
また、本実施形態の圧電体層70を構成する複合酸化物は、Bi、Fe、Ba及びTi以外の元素をさらに含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、Mn、Co、Cr、Sr、Nbなどが挙げられる。これら他の元素を含む複合酸化物である場合も、ペロブスカイト構造を有することが好ましい。
圧電体層70が、Mn、CoやCr、Sr、Nbを含む場合、Mn、CoやCrはペロブスカイト構造のBサイトに位置した構造の複合酸化物である。例えば、Mnを含む場合、圧電体層70を構成する複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムが均一に固溶した固溶体のFeの一部がMnで置換された構造、又は、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムとの混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物として表され、基本的な特性は鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムとの混晶のペロブスカイト構造を有する複合酸化物と同じであるが、耐電圧特性が向上することがわかっている。また、CoやCrを含む場合も、Mnと同様に耐電圧特性が向上するものである。Sr、Nbは誘電率の上昇による変位向上の効果があることが分かっている。なお、X線回折パターンにおいて、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、鉄酸マンガン酸ビスマス、鉄酸コバルト酸ビスマス、及び、鉄酸クロム酸ビスマスは、単独では検出されないものである。また、Mn、CoおよびCrを例として説明したが、その他遷移金属元素の2元素を同時に含む場合にも同様に耐電圧特性が向上することがわかっており、これらも圧電体層70とすることができ、さらに、特性を向上させるため公知のその他の添加物を含んでもよい。
このようなBi、Fe、Ba及びTiに加えてMn、CoやCr、Sr、Nbも含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる圧電体層70は、例えば、下記一般式(2)で表される混晶である。また、この式(2)は、下記一般式(2’)で表すこともできる。なお一般式(2)及び一般式(2’)において、Mは、Mn、Co、Cr、Sr、Nbから選ばれる1種または2種以上である。ここで、一般式(2)及び一般式(2’)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、上述したように、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損、Aサイト欠損等による不可避な組成ずれは許容される。例えば、化学量論が1であれば、0.85〜1.20の範囲内のものは許容される。また、下記のように一般式で表した場合は異なるものであっても、Aサイトの元素とBサイトの元素との比が同じものは、同一の複合酸化物とみなせる場合がある。
(1−x)[Bi(Fe1−yMy)O3]−x[BaTiO3] (2)
(0<x<0.40、0.01<y<0.10)
(Bi1−xBax)((Fe1−yMy)1−xTix)O3 (2’)
(0<x<0.40、0.01<y<0.10)
(0<x<0.40、0.01<y<0.10)
(Bi1−xBax)((Fe1−yMy)1−xTix)O3 (2’)
(0<x<0.40、0.01<y<0.10)
ただし、圧電体層70は前記圧電材料に限定されず、例えばチタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、タンタル酸カリウム(KTaO3)、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi1/2Na1/2)TiO3)、チタン酸ビスマスカリウム((Bi1/2K1/2)TiO3)、鉄酸ビスマス(BiFeO3)、タンタル酸ストロンチウムビスマス(SrBi2Ta2O9)、ニオブ酸ストロンチウムビスマス(SrBi2Nb2O9)、チタン酸ビスマス(Bi4Ti3O12)及びこれらのうち少なくとも一つを成分として有する固溶体を用いることもできる。
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーおよび金属配線をエポキシ樹脂等の上に形成させたフレキシブル基板等からなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号(駆動信号)に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
図5は、このようなインクジェット式記録装置の制御構成例を示すブロック図である。図5を参照して、本実施形態のインクジェット式記録装置の制御について説明する。本実施形態のインクジェット式記録装置は、図5に示すように、プリンターコントローラー511とプリントエンジン512とから概略構成されている。プリンターコントローラー511は、外部インターフェース513(以下、外部I/F513という)と、各種データを一時的に記憶するRAM514と、制御プログラム等を記憶したROM515と、CPU等を含んで構成した制御部516と、クロック信号を発生する発振回路517と、インクジェット式記録ヘッドIへ供給するための駆動信号を発生する駆動信号発生回路519と、駆動信号や印刷データに基づいて展開されたドットパターンデータ(ビットマップデータ)等をプリントエンジン512に送信する内部インターフェース520(以下、内部I/F520という)とを備えている。
外部I/F513は、例えば、キャラクターコード、グラフィック関数、イメージデータ等によって構成される印刷データを、図示しないホストコンピューター等から受信する。また、この外部I/F513を通じてビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)が、ホストコンピューター等に対して出力される。RAM514は、受信バッファー521、中間バッファー522、出力バッファー523、及び、図示しないワークメモリーとして機能する。そして、受信バッファー521は外部I/F513によって受信された印刷データを一時的に記憶し、中間バッファー522は制御部516が変換した中間コードデータを記憶し、出力バッファー523はドットパターンデータを記憶する。なお、このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。
また、ROM515には、各種データ処理を行わせるための制御プログラム(制御ルーチン)の他に、フォントデータ、グラフィック関数等を記憶させてある。
制御部516は、受信バッファー521内の印刷データを読み出すと共に、この印刷データを変換して得た中間コードデータを中間バッファー522に記憶させる。また、中間バッファー522から読み出した中間コードデータを解析し、ROM515に記憶させているフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して、中間コードデータをドットパターンデータに展開する。そして、制御部516は、必要な装飾処理を施した後に、この展開したドットパターンデータを出力バッファー523に記憶させる。さらに、制御部516は、波形設定手段としても機能し、駆動信号発生回路519を制御することにより、この駆動信号発生回路519から発生される駆動信号の波形形状を設定する。かかる制御部516は、後述する駆動回路(図示なし)などと共に本発明の駆動手段を構成する。また、インクジェット式記録ヘッドIを駆動する液体噴射駆動装置としては、この駆動手段を少なくとも具備するものであればよく、本実施形態では、プリンターコントローラー511を含むものとして例示してある。
そして、インクジェット式記録ヘッドIの1行分に相当するドットパターンデータが得られたならば、この1行分のドットパターンデータは、内部I/F520を通じてインクジェット式記録ヘッドIに出力される。また、出力バッファー523から1行分のドットパターンデータが出力されると、展開済みの中間コードデータは中間バッファー522から消去され、次の中間コードデータについての展開処理が行われる。
プリントエンジン512は、インクジェット式記録ヘッドIと、紙送り機構524と、キャリッジ機構525とを含んで構成してある。紙送り機構524は、紙送りモーターと搬送ローラー8等から構成してあり、記録紙等の印刷記憶媒体をインクジェット式記録ヘッドIの記録動作に連動させて順次送り出す。即ち、この紙送り機構524は、印刷記憶媒体を副走査方向に相対移動させる。
キャリッジ機構525は、インクジェット式記録ヘッドIを搭載可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3を主走査方向に沿って走行させるキャリッジ駆動部とから構成してあり、キャリッジ3を走行させることによりインクジェット式記録ヘッドIを主走査方向に移動させる。なお、キャリッジ駆動部は、上述したように駆動モーター6及びタイミングベルト7等で構成されている。
インクジェット式記録ヘッドIは、副走査方向に沿って多数のノズル開口21を有し、ドットパターンデータ等によって規定されるタイミングで各ノズル開口21から液滴を吐出する。そして、このようなインクジェット式記録ヘッドIの圧電素子300には、図示しない外部配線を介して電気信号、例えば、後述する駆動信号(COM)や記録データ(SI)等が供給される。このように構成されるプリンターコントローラー511及びプリントエンジン512では、プリンターコントローラー511と、駆動信号発生回路519から出力された所定の駆動波形を有する駆動信号を選択的に圧電素子300に入力するラッチ532、レベルシフター533及びスイッチ534等を有する駆動回路(図示なし)とが圧電素子300に所定の駆動信号を印加する駆動手段となる。
なお、これらのシフトレジスター(SR)531、ラッチ532、レベルシフター533、スイッチ534及び圧電素子300は、それぞれ、インクジェット式記録ヘッドIの各ノズル開口21毎に設けられており、これらのシフトレジスター531、ラッチ532、レベルシフター533及びスイッチ534は、駆動信号発生回路519が発生した吐出駆動信号や緩和駆動信号から駆動パルスを生成する。ここで、駆動パルスとは実際に圧電素子300に印加される印加パルスのことである。
このようなインクジェット式記録ヘッドIでは、最初に発振回路517からのクロック信号(CK)に同期して、ドットパターンデータを構成する記録データ(SI)が出力バッファー523からシフトレジスター531へシリアル伝送され、順次セットされる。この場合、まず、全ノズル開口21の印字データにおける最上位ビットのデータがシリアル伝送され、この最上位ビットのデータシリアル伝送が終了したならば、上位から2番目のビットのデータがシリアル伝送される。以下同様に、下位ビットのデータが順次シリアル伝送される。
そして、当該ビットの記録データの全ノズル分が各シフトレジスター531にセットされたならば、制御部516は、所定のタイミングでラッチ532へラッチ信号(LAT)を出力させる。このラッチ信号により、ラッチ532は、シフトレジスター531にセットされた印字データをラッチする。このラッチ532がラッチした記録データ(LATout)は、電圧増幅器であるレベルシフター533に印加される。このレベルシフター533は、記録データが例えば「1」の場合に、スイッチ534が駆動可能な電圧値、例えば、数十ボルトまでこの記録データを昇圧する。そして、この昇圧された記録データは各スイッチ534に印加され、各スイッチ534は、当該記録データにより接続状態になる。
そして、各スイッチ534には、駆動信号発生回路519が発生した駆動信号(COM)も印加されており、スイッチ534が選択的に接続状態になると、このスイッチ534に接続された圧電素子300に選択的に駆動信号が印加される。このように、例示したインクジェット式記録ヘッドIでは、記録データによって圧電素子300に吐出駆動信号を印加するか否かを制御することができる。例えば、記録データが「1」の期間においてはラッチ信号(LAT)によりスイッチ534が接続状態となるので、駆動信号(COMout)を圧電素子300に供給することができ、この供給された駆動信号(COMout)により圧電素子300が変位(変形)する。また、記録データが「0」の期間においてはスイッチ534が非接続状態となるので、圧電素子300への駆動信号の供給は遮断される。この記録データが「0」の期間において、各圧電素子300は直前の電圧を保持するので、直前の変位状態が維持される。
なお、上記の圧電素子300は、撓み振動モードの圧電素子300である。この、撓み振動モードの圧電素子300を用いると、圧電体層70が電圧印加に伴い電圧と垂直方向(31方向)に縮むことで、圧電素子300および振動板が圧力発生室12側に撓み、これにより圧力発生室12を収縮させる。一方電圧を減少させることにより圧電体層70が31方向に伸びることで、圧電素子300および振動板が圧力発生室12の逆側に撓み、これにより圧力発生室12を膨張させる。このようなインクジェット式記録ヘッドIでは、圧電素子300に対する充放電に伴って対応する圧力発生室12の容積が変化するので、圧力発生室12の圧力変動を利用してノズル開口21から液滴を吐出させることができる。
ここで、圧電素子300に入力される本実施形態の駆動信号(COM)を表す駆動波形について説明する。なお、図6は、本実施形態の駆動信号を示す駆動波形である。
圧電素子300に入力される駆動波形は、共通電極(第1電極60)を基準電圧(本実施形態ではVbs)として、個別電極(第2電極80)に印加されるものである。すなわち、駆動波形によって個別電極(第2電極80)に印加される電圧は、基準電圧(Vbs)を基準としての電圧として示される。
本実施形態の基準となる駆動波形は、図6に示すように、駆動波形を入力する準備状態(駆動待機状態)となると、例えば、抗電圧より高い中間電圧Vmが印加される状態となる。ここで、中間電圧Vmとは、圧力室を膨張させるための第1電圧と、圧力室を収縮させるための第2電圧との間の電圧値である。この中間電圧Vmが印加される待機工程P01に続いて、中間電圧Vmを維持した状態から中間電圧Vmとは逆極性の第1電圧V1まで降下させると共に圧力発生室12を膨張させる第1の電圧変化工程P02と、第1電圧V1を一定時間維持する第1のホールド工程P03と、第1電圧V1から第1電圧V1とは逆極性で中間電圧Vmとは同極性で当該中間電圧Vmより大きい第2電圧V2まで上昇させて圧力発生室12を収縮させる第2の電圧変化工程P04と、第2電圧V2を一定時間維持する第2のホールド工程P05と、第2電圧V2から中間電圧Vmより小さな第3電圧V3まで下降させて圧力発生室12を膨張させる第3の電圧変化工程P06と、第3電圧V3を一定時間維持する第3のホールド工程P07と、電圧V3から中間電圧Vmまで電圧を上昇させる第4の電圧変化工程P08と、中間電圧Vmを維持する工程P09とで構成される。ここで、第2電圧V2から中間電圧Vmより少し低い第3電圧V3まで下降させる第3の電圧変化工程P06と、第3電圧V3を一定時間維持する第3のホールド工程P07と、第3電圧V3から中間電圧Vmまで電圧を上昇させる第4の電圧変化工程P08とは、液滴を吐出した後のメニスカスを安定化させるためのものであり、従来より公知のものであるが、これらの工程は省略してもよい。
本発明のBi、Fe、Ba及びTiに加えてMn、Co、Crの何れかも含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物からなる所定の圧電体層70は、電源オフの状態では、分極が維持されておらず、非分極状態(極一部は分極が維持されているが、実質的に非分極状態といえる場合を含む)であり、上述した駆動波形200が圧電素子300に出力される準備状態(駆動待機状態)になると、中間電圧Vmが印加された状態となり、圧電体層70が分極状態となる。そして、上述した駆動波形が入力されると、第1の電圧変化工程P02によって中間電圧Vmから逆極性の電圧V1まで電圧が変化し、第1電圧V1を一定時間維持する第1のホールド工程P03において、圧電体層70の分極が緩和される。これと同時に圧電素子300が圧力発生室12の容積を膨張させる方向に変形して、ノズル開口21内のメニスカスが圧力発生室12側に引き込まれる。次いで、第2の電圧変化工程P04によって、圧電素子300が圧力発生室12の容積を収縮させる方向に変形することにより、ノズル開口21内のメニスカスが圧力発生室12側から大きく押し出され、ノズル開口21から液滴が吐出される。
本発明は、このように圧電素子300を駆動する際に、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した場合、実際に圧電体層70のひずみに関与する電圧は印加電圧の一部であり、他の電圧は圧電体層70のひずみに関与しない、という新たな知見に基づくものである。
ここで、圧電体層70のひずみに実際に関与した電圧を圧電体層70に印加される分圧を定義し、圧電体層70のひずみに実際に関与しない電圧を寄生成分に印加される分圧と定義する。
そして、このような寄生成分への分圧は、第1電極60と第2電極80との間に、周波数を変化させた交流電圧を圧電体層70に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを描くことにより把握できる。すなわち、このようなCole−Coleプロットを描くと、完全な円弧形状ではなく、略円弧形状となり、これは複数の寄生成分に対応する複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離することができる。
そして、複数の円弧に対応する容量的成分が小さいほど寄生成分に印加される分圧が大きくなり、第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加した際の圧電体層70に実際に印加される電圧である分圧が小さくなると判断できる。
このような手法は全く新規なものであり、圧電素子300の最適な駆動条件を把握する上で、極めて重要な手法である。
ここで、Cole−Coleプロットはインピーダンスアナライザーによって容易に得ることができる。また、略円弧形状を複数の寄生成分に対応する、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離する方法は、複数のRC並列回路をもつ等価回路モデルを作成することにより、容易に求めることができ、Cole−Coleプロットの円弧形状は各RC並列回路に対して測定周波数に対応したインピーダンスの抵抗的成分Zrと容量的成分Zcを求めることで得られる。たとえば、東陽テクニカ社製 ZPlоtを用いることで容易に複数のRC並列等価回路モデルを得ることができ、各周波数における以下の式を満たすRC並列回路モデルを連立方程式で解くことで得られる。
図7には、RC並列回路モデルが4つ直列に並んだモデルを示す。図7は、寄生成分が3つと仮定したものであり、容量1、容量2、容量3、容量4で示し、それぞれが、抵抗的成分Zrと容量的成分Zcとからなると仮定したものである。そして、それぞれの抵抗的成分Zr及び容量的成分Zcを、R1、R2、R3、R4[Ω]、C1、C2、C3、C4[F]とすると、容量1のインピーダンスは下記式1で示され、右辺の第1項は抵抗的成分Zrを表し、第2項は容量的成分Zcを表す。また、容量2、容量3、容量4も同様に式2、式3、式4で示される。なお、式において、ω(=2πf)は角周波数であり、fは周波数であり、jは係数である。
下記式1〜4の連立方程式を解くことにより、複数の寄生成分に対応する、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離することができる。
ここで、第1電極60と第2電極80との間に、周波数を変化させた交流電圧を圧電体層70に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットの例を図8に示す。また、これを複数の寄生容量に対応する複数の円弧から計算により算出された各周波数での分圧を図9に示す。
Cole−Coleプロットは、圧電素子を、キャパシタと抵抗とで構成されたRC並列回路を直列に接続した等価回路に見立てて把握するものである。
この例においてRC並列回路を用いた等価回路にてフィッティングを行った結果、BFM−BT層(C1)以外に、C2〜C4の3つの寄生容量を含むことが示唆された。また、図9の寄生容量は、種々の寄生成分に起因して生じていることもわかっている。
例えば、寄生容量C2は、結晶内の、酸素欠陥、格子外の欠陥、Aサイト欠陥などに基づく可動イオンが動くことにより形成されると推定している。また、寄生容量C3は、第2電極80と圧電体層70との界面の欠陥に由来すると推定している。また、寄生容量C4は、熱履歴に依存するものか、第1電極60と圧電体層70との間の界面の欠陥に由来するものと推定している。
図9において、左が低周波数、右が高周波数であり、周波数によって寄生成分への分圧の大きさが異なることがわかる。よって、寄生成分への分圧の小さな周波数領域で駆動すれば、圧電体層70の分圧が実質的に大きくなる。ここで、圧電素子を駆動する周波数とは、インクジェット装置においては吐出周波数である。
このような手法を用いると、効率的に駆動でき、実質的な変位を向上させることができる圧電素子が設計できる。
Bi、Fe、Ba及びTiを含みペロブスカイト構造を有する複合酸化物(BFM)からなる圧電体層を有する圧電素子では、高周波数側で分圧が非常に小さくなることが把握できた。(図9)
また、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層を有する圧電素子では、低周波数側で分圧が小さくなることが把握できた。(図10)
さらに、圧電体層の分圧は、周波数によって、温度依存性がある領域と、温度依存性が非常に小さい領域とが存在することが把握できた。よって、この場合、温度依存性の小さな周波数で駆動する方が、変位の温度依存性が小さくなるので好ましいことは容易に想像できる。
また、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層を有する圧電素子では、低周波数側で分圧が小さくなることが把握できた。(図10)
さらに、圧電体層の分圧は、周波数によって、温度依存性がある領域と、温度依存性が非常に小さい領域とが存在することが把握できた。よって、この場合、温度依存性の小さな周波数で駆動する方が、変位の温度依存性が小さくなるので好ましいことは容易に想像できる。
また、上述した手法により、寄生容量を低減した圧電素子を設計し、製造することもできる。例えば、圧電材料の組成を変化させることにより、寄生容量C2を変化させることができ、また、熱履歴を変更することにより、寄生容量C2、C4を変化させることができ、さらに製造プロセスを変更することにより、寄生容量C3、C4を変化させることができる。よって、これらを総合的に調整することにより、使用したい吐出周波数で寄生容量C2〜C4が小さい圧電素子を設計、製造することが可能となる。
これにより、圧電体層の分圧が70%以上、好ましくは90%以上となる圧電素子の設計、製造が可能となる。
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
Claims (5)
- 第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子の設計手法であって、
前記第1電極と前記第2電極との間に、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを描く工程と、
前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離する工程と、
複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される有効電界(分圧)が大きくなると判断して適正な吐出周波数を算出する工程、
とを具備することを特徴とする圧電素子の設計手法。 - 前記複数の円弧のそれぞれに対応する寄生容量を低下させるように、前記圧電体層を作成する条件を設計することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の設計手法。
- 前記複数の円弧に対応する複数の寄生容量の温度依存性と周波数との関係を求め、温度依存性の良好な吐出周波数を把握する工程をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子の設計手法。
- 第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子と、前記圧電素子に駆動波形を供給する駆動手段と、を有する液体噴射装置であって、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを求め、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離し、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される有効電界(分圧)が大きくなると判断して適正な吐出周波数を算出し、
前記駆動手段は、前記吐出周波数で前記駆動波形を用いて駆動することを特徴とする液体噴射装置。 - 第1電極と、第1電極に設けられた圧電体層と、圧電体層に設けられた第2電極とを備える圧電素子と、前記圧電素子に駆動波形を供給する駆動手段と、を有する液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、周波数を変化させた交流電圧を前記圧電体層に印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗的成分Zr(Ω)と容量的成分Zc(Ω)との関係を示すCole−Coleプロットを求め、前記Cole−Coleプロットの略円弧形状を、複数の寄生容量に対応する複数の円弧に分離し、複数の円弧に対応する寄生容量的成分が小さいほど前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した際の前記圧電体層に印加される有効電界(分圧)が大きくなると判断して適正な吐出周波数を算出し、
前記駆動手段は、前記吐出周波数で前記駆動波形を用いて駆動することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法。
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JP2014092005A JP2015208925A (ja) | 2014-04-25 | 2014-04-25 | 圧電素子の設計手法、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法 |
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CN115959904A (zh) * | 2022-12-30 | 2023-04-14 | 北京七星飞行电子有限公司 | 一种用于制备小损耗超高压交流瓷介电容器的介质材料及其制备方法 |
-
2014
- 2014-04-25 JP JP2014092005A patent/JP2015208925A/ja active Pending
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CN115959904B (zh) * | 2022-12-30 | 2023-10-13 | 北京七星飞行电子有限公司 | 一种用于制备小损耗超高压交流瓷介电容器的介质材料及其制备方法 |
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