JP2015160820A - 慢性腎障害治療のための多能性幹細胞 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞から分離されたSSEA−3陽性の多能性幹細胞を含む、慢性腎障害を治療するための細胞製剤を提供する。本発明の細胞製剤は、上記疾患の対象に対し、Muse細胞を静脈投与することにより、腎障害部位に選択に集積させ、その組織内でMuse細胞が腎臓を構成する細胞に分化するという腎組織再生メカニズムに基づく。
【選択図】なし
Description
[1]生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞から分離されたSSEA−3陽性の多能性幹細胞を含む、慢性腎障害を予防及び/又は治療するための細胞製剤。
[2]外部ストレス刺激によりSSEA−3陽性の多能性幹細胞が、濃縮された細胞画分を含む、上記[1]に記載の細胞製剤。
[3]慢性腎障害が、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、糖尿病性腎症、嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、急速進行性糸球体腎炎、悪性高血圧症、SLE腎炎、アミロイド腎、腎・尿路腫瘍、骨髄腫、閉塞性尿路生涯、痛風腎、腎形成不全、及び腎・尿路結核からなる群から選択される、上記[1]及び[2]に記載の細胞製剤。
[4]前記多能性幹細胞が、CD105陽性である、上記[1]〜[3]に記載の細胞製剤。
[5]前記多能性幹細胞が、CD117陰性及びCD146陰性である、上記[1]〜[4]に記載の細胞製剤。
[6]前記多能性幹細胞が、CD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性、及びCD271陰性である、上記[1]〜[5]に記載の細胞製剤。
[7]前記多能性幹細胞が、CD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snai1陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性、及びDct陰性である、上記[1]〜[6]に記載の細胞製剤。
[8]前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、上記[1]〜[7]に記載の細胞製剤:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。
[9]前記多能性幹細胞が、腎障害部位に集積する能力を有する、上記[1]〜[8]に記載の細胞製剤。
[10]前記多能性幹細胞が、足細胞、メサンギウム細胞、糸球体内皮細胞、傍糸球体細胞、近位尿細管細胞、遠位尿細管細胞、血管内皮細胞、ヘンレわな、及び/又は集合管の細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞に分化する能力を有する、上記[1]〜[9]に記載の細胞製剤。
本発明は、SSEA−3陽性の多能性幹細胞(Muse細胞)を含む細胞製剤を用いて、慢性腎障害の予防及び/又は治療を目指す。ここで、「慢性腎障害」とは、長期間(例えば、数週間、数ヶ月間、数年間、又は数十年間)にわたって発生し、腎尿細管細胞機能又は糸球体濾過率(GFR)が持続的に低下し、この期間に発症する、あらゆる腎臓の病的な状態、機能不全又は障害を意味する。しかしながら、本発明は、適用疾患として、急性腎不全などのより短時間(例えば、数分間、数時間、又は数日間)に発症する腎疾患を排除することを意図しない。したがって、本発明によれば、糸球体及び尿細管等の組織における慢性若しくは急性障害を適用疾患としてもよい。慢性腎障害としては、限定されないが、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、糖尿病性腎症、嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、急速進行性糸球体腎炎、悪性高血圧症、SLE腎炎、アミロイド腎、腎・尿路腫瘍、骨髄腫、閉塞性尿路生涯、痛風腎、腎形成不全、及び腎・尿路結核などが挙げられる。
(1)多能性幹細胞(Muse細胞)
本発明の細胞製剤に使用される多能性幹細胞は、本発明者らの一人である出澤が、ヒト生体内にその存在を見出し、「Muse(Multilineage−differentiating Stress Enduring)細胞」と命名した細胞である。Muse細胞は、骨髄液、脂肪組織(Ogura,F.,et al.,Stem Cells Dev.,Nov 20,2013(Epub)(published on Jan 17,2014))や真皮結合組織等の皮膚組織から得ることができ、各臓器の結合組織にも散在する。また、この細胞は、多能性幹細胞と間葉系幹細胞の両方の性質を有する細胞であり、例えば、それぞれの細胞表面マーカーである「SSEA−3(Stage−specific embryonic antigen−3)」と「CD105」のダブル陽性として同定される。したがって、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、例えば、これらの抗原マーカーを指標として生体組織から分離することができる。Muse細胞の分離法、同定法、及び特徴などの詳細は、国際公開第WO2011/007900号に開示されている。また、Wakaoら(2011、上述)によって報告されているように、骨髄、皮膚などから間葉系細胞を培養し、それをMuse細胞の母集団として用いる場合、SSEA−3陽性細胞の全てがCD105陽性細胞であることが分かっている。したがって、本発明における細胞製剤においては、生体の間葉系組織又は培養間葉系幹細胞からMuse細胞を分離する場合は、単にSSEA−3を抗原マーカーとしてMuse細胞を精製し、使用することができる。なお、本明細書においては、慢性腎障害を治療するための細胞製剤において使用され得る、SSEA−3を抗原マーカーとして、生体の間葉系組織又は培養間葉系組織から分離された多能性幹細胞(Muse細胞)又はMuse細胞を含む細胞集団を単に「SSEA−3陽性細胞」と記載することがある。また、本明細書においては、「非Muse細胞」とは、生体の間葉系組織又は培養間葉系組織に含まれる細胞であって、「SSEA−3陽性細胞」以外の細胞を指す。
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ
からなる群から選択される少なくとも1つの性質を有してもよい。本発明の一局面では、本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞は、上記性質を全て有する。ここで、上記(i)について、「テロメラーゼ活性が低いか又は無い」とは、例えば、TRAPEZE XL telomerase detection kit(Millipore社)を用いてテロメラーゼ活性を検出した場合に、低いか又は検出できないことをいう。テロメラーゼ活性が「低い」とは、例えば、体細胞であるヒト線維芽細胞と同程度のテロメラーゼ活性を有しているか、又はHela細胞に比べて1/5以下、好ましくは1/10以下のテロメラーゼ活性を有していることをいう。上記(ii)について、Muse細胞は、in vitro及びin vivoにおいて、三胚葉(内胚葉系、中胚葉系、及び外胚葉系)に分化する能力を有し、例えば、in vitroで誘導培養することにより、肝細胞、神経細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、骨細胞、脂肪細胞等に分化し得る。また、in vivoで精巣に移植した場合にも三胚葉に分化する能力を示す場合がある。さらに、静注により生体に移植することで損傷を受けた臓器(心臓、皮膚、脊髄、肝、筋肉等)に遊走及び生着し、組織に応じた細胞に分化する能力を有する。上記(iii)について、Muse細胞は、浮遊培養では増殖速度約1.3日で増殖するが、浮遊培養では1細胞から増殖し、胚様体様細胞塊を作り14日間程度で増殖が止まる、という性質を有するが、これらの胚様体様細胞塊を接着培養に持っていくと、再び細胞増殖が開始され、細胞塊から増殖した細胞が広がっていく。さらに精巣に移植した場合、少なくとも半年間は癌化しないという性質を有する。また、上記(iv)について、Muse細胞は、セルフリニューアル(自己複製)能を有する。ここで、「セルフリニューアル」とは、1個のMuse細胞から浮遊培養で培養することにより得られる胚様体様細胞塊に含まれる細胞から3胚葉性の細胞への分化が確認できると同時に、胚様体様細胞塊の細胞を再び1細胞で浮遊培養に持っていくことにより、次の世代の胚様体様細胞塊を形成させ、そこから再び3胚葉性の分化と浮遊培養での胚様体様細胞塊が確認できることをいう。セルフリニューアルは1回又は複数回のサイクルを繰り返せばよい。
本発明の細胞製剤は、限定されないが、上記(1)で得られたMuse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団を生理食塩水や適切な緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁させることによって得られる。この場合、自家又は他家の組織から分離したMuse細胞数が少ない場合には、細胞移植前に細胞を培養して、所定の細胞濃度が得られるまで増殖させてもよい。なお、すでに報告されているように(国際公開第WO2011/007900号パンフレット)、Muse細胞は、腫瘍化しないため、生体組織から回収した細胞が未分化のまま含まれていても癌化の可能性が低く安全である。また、回収したMuse細胞の培養は、特に限定されないが、通常の増殖培地(例えば、10%仔牛血清を含むα−最少必須培地(α−MEM))において行うことができる。より詳しくは、上記国際公開第WO2011/007900号パンフレットを参照して、Muse細胞の培養及び増殖において、適宜、培地、添加物(例えば、抗生物質、血清)等を選択し、所定濃度のMuse細胞を含む溶液を調製することができる。ヒト対象に本発明の細胞製剤を投与する場合には、ヒトの腸骨から数ml程度の骨髄液を採取し、例えば、骨髄液からの接着細胞として骨髄間葉系幹細胞を培養して有効な治療量のMuse細胞を分離できる細胞量に達するまで増やした後、Muse細胞をSSEA−3の抗原マーカーを指標として分離し、自家又は他家のMuse細胞を細胞製剤として調製することができる。あるいは、例えば、Muse細胞をSSEA−3の抗原マーカーを指標として分離後、有効な治療量に達するまで細胞を培養して増やした後、自家又は他家のMuse細胞を細胞製剤として調製することができる。
gのBalb/cマウス又はSCIDマウスに対しては、SSEA3陽性細胞を2×104細胞/頭で投与することにより、非常に優れた効果が得られた。この結果から哺乳動物一個体あたり6.6〜10×105細胞/kgを体重換算した細胞量を投与することで優れた効果が得られることが期待される。なお、対象とする個体はマウス、ヒトを含むがこれに限定されない。また、本発明の細胞製剤は、所望の治療効果が得られるまで、複数回(例えば、2〜10回)、適宜、間隔(例えば、1日に2回、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1カ月に1回、2カ月に1回、3カ月に1回、6カ月に1回)をおいて投与されてもよい。したがって、対象の状態にもよるが、治療上有効量としては、例えば、一個体あたり1×103細胞〜1×107細胞で1〜10回の投与量が好ましい。一個体における投与総量としては、限定されないが、1×103細胞〜1×108細胞、1×104細胞〜5×107細胞、2×104細胞〜2×107細胞、5×104細胞〜5×106細胞、1×105細胞〜1×106細胞などが挙げられる。
本明細書においては、本発明の細胞製剤による慢性腎障害の治療効果を検討するためにマウス慢性腎障害モデルを構築し、使用することができる。該モデルとして使用されるマウスには、限定されないが、一般的に、Balb/cマウス、SCIDマウスが挙げられる。慢性腎障害モデルは、これらのマウスに抗ガン剤(例えば、塩酸ドキソルビシン)を静脈投与することによって作製され得る。塩酸ドキソルビシンは、アドリアマイシン(慣用名)としても知られ、過剰投与により腎障害(ヒトの単状糸球体硬化症に類似した慢性腎障害)を引き起こすことは広く知られている。本発明によれば、塩酸ドキソルビシンの投薬量は、好ましくは個体1gあたり11.5μgである。
本実施例におけるマウスを用いた実験プロトコールは、「国立大学法人東北大学動物実験等に関する規定」を遵守し、実験動物は、東北大学動物実験センターの監督下において該規定に沿って作製された。より具体的には、マウス慢性腎障害モデルは、Balb/cマウス及びSCIDマウス(雄性11〜13週齢)の尾静脈に塩酸ドキソルビシン(Sigma)を11.5μg/gマウスを投与することによって作製した。これらは、ヒト慢性腎不全の原因疾患の一つである単状糸球体硬化症(FSGS)様の病像を呈するモデルである。
ヒトMuse細胞の調製は、国際公開第WO2011/007900号に記載された方法に従って行った。より具体的には、ヒト骨髄液から接着性を有する間葉系細胞を培養し、増殖を経て、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団をSSEA−3陽性細胞としてFACSにて分離した。また、非Muse細胞は、上記間葉系細胞のうち、SSEA−3陰性の細胞群であり、対照として用いた。その後、リン酸緩衝生理食塩水又は培養液を用いて、所定濃度に調整し、以下の慢性腎障害マウスモデルにおけるMuse細胞による腎機能評価等に使用した。なお、骨髄間葉系細胞などの間葉系細胞を培養して得たものをMuse細胞の母集団として用いる場合、Wakaoら(2011、上述)によって報告されているように、SSEA−3陽性細胞は全て、CD105陽性細胞であることが分かっている。
実施例1で作製した慢性腎障害マウス(Balb/c)を3群に分け、塩酸ドキソルビシン投与の1週間後に各群のマウスにMuse細胞(2×104個、200μl)、ヒト骨髄由来の非Muse細胞(2×104個、200μl)、又は生理食塩水(200μl)を尾静脈に投与した。その後、所定期間経過後に、各マウスについて、クレアチニンクリアランス、血清クレアチニン、血中尿素窒素(BUN)、及び尿タンパクを常法に従って測定し、慢性腎障害マウスに対するMuse細胞の治療効果を評価した。なお、投与に使用した細胞はいずれもヒト由来であるが、該細胞のマウスへの投与に際して、実験期間中、免疫抑制剤を用いていない。
上記マウスモデル群のそれぞれについて、塩酸ドキソルビシン投与から6週間後のクレアチニンクリアランス(μl/分)の測定結果を図1右に示す。Muse細胞の投与群におけるクレアチニンクリアランスは、非Muse細胞及び生理食塩水の投与群と比較して有意に高かった。Muse細胞の投与群と非Muse又は生理食塩水の投与群は、それぞれ有意差があった。これにより、非Muse細胞及び生理食塩水の投与群と比較して、Muse細胞を投与された慢性腎障害マウスでは、腎臓において血清中のクレアチニンを排泄する機能が回復していることがわかる。さらに、上記のマウスモデルのそれぞれについて、血清クレアチニン濃度(mg/dl)を測定した(図1左)。Muse細胞の投与群の血清クレアチニン濃度は、生理食塩水の投与群と比較して低く、統計的有意差を示した。一方、非Muse細胞の投与群は、生理食塩水の投与群と比較して統計的有意差を示さなかった。
腎臓による尿の排泄機能を調べるために、塩酸ドキソルビシン投与から6週間後の血中の尿素窒素(BUN)濃度(mg/dl)を測定した。図2左に示すように、Muse細胞の投与群では、非Muse細胞の投与群及び生理食塩水の投与群と比較して、血中の尿素窒素濃度が低下した。さらに、排泄尿中の尿タンパク/クレアチニン比を測定すると、Muse細胞の投与群では、他の群と比較して該比が低く、腎機能が改善されていることを示唆した(図2右)。
塩酸ドキソルビシン投与から6週間後に、慢性腎障害に伴う糸球体硬化に対するMuse細胞の糸球体修復効果を検討した(図3)。各マウスを屠殺後、腎組織切片を作製し、PAS染色を行った。この染色によって、糸球体基底膜の変化から、糸球体硬化の程度を観察した。図3の上段に、Muse細胞、非Muse細胞、及び生理食塩水の投与群における各マウスの腎組織(糸球体)切片を示す。Muse細胞の投与群(左)では、糸球体基底膜が非常に明確であることがわかる。一方、非Muse細胞及び生理食塩水の投与群(中央及び右)では、糸球体硬化が進行し、糸球体基底膜の輪郭が不鮮明である。さらに、各モデル群の1個体あたり連続する20個の糸球体を観察し、糸球体硬化の面積比を画像解析ソフトNISelement(登録商標)(Nicon社)を用いて、1糸球体におけるPAS陽性面積を解析した(下段)。Muse細胞の投与群では、他の投与群と比較して、糸球体硬化の面積比が小さかった。これにより、Muse細胞は、糸球体硬化の進行を防ぎ、さらに糸球体の再建及び修復を促すことが示唆された。
(a)Muse細胞の腎組織における生着
尾静脈投与されたMuse細胞及び非Muse細胞の挙動を調べるために、これらの細胞が腎組織に生着するかどうかを検討した。最初に、GFP陽性のMuse細胞及び非Muse細胞を作製し、これらを投与8週後のマウスを用い、実施例3と同様に腎組織切片を調製し、蛍光顕微鏡下で観察した。単位面積あたりの移植細胞数をカウントして、Muse細胞及び非Muse細胞の生着について検討した。図4に示されるように、投与されたMuse細胞は、腎組織に生着しているのに対して、非Muse細胞はほとんど生着しなかった。
腎組織に生着したMuse細胞が分化するかどうかを検討した。本実験では、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子が導入されたGFP陽性のMuse細胞を用いた。また、遠位尿細管の上皮細胞において特異的に発現しているカルビンジンに対する抗体を用いて、Muse細胞の上皮細胞への分化について検討した。図6中央は、遠位尿細管に生着したMuse細胞(GFP陽性)を示す。一方、図6右は、カルビンジンに対する抗体染色による上皮細胞を示す。これらの画像を重ね合わせた画像を図6左に示す。特に蛍光が強い領域を拡大すると、GFP蛍光とカルビンジン蛍光が同一細胞群において観察されたことから、Muse細胞は、遠位尿細管に集積し、遠位尿細管の細胞に分化していることが示唆された。さらに、Muse細胞は、近位尿細管に生着し、近位尿細管の上皮細胞に分化するかどうかをアクアポリン(AQP1)の発現に基づいて検討した。図7上段は、Muse細胞を投与した場合にGFP蛍光画像(中央)、AQP1染色画像(右)、及び両者を重ね合わせた画像(左)を示す。重ね合わせた画像から分かるように、GFP陽性のMuse細胞は、近位尿細管の上皮細胞の分子マーカーであるアクアポリンを発現していることから、投与されたMuse細胞は、近位尿細管に集積し、近位尿細管の細胞に分化していることが示唆された。なお、陰性対照としてGFP及びAQP1に対する1次抗体で染色していないものを用いた(図7下段)。
上記の通り、慢性腎障害マウスモデルの尾静脈に投与されたMuse細胞は、腎障害部位に集積し、糸球体、遠位尿細管、及び近位尿細管の再建及び修復に大いに寄与していることが示唆された。次に、Muse細胞の腎障害部位への集積に関して、インビトロにおいてボイデンチャンバー法により、Muse細胞の遊走能を検討した。具体的には、使用したボイデンチャンバーは、BDマトリゲルインベージョンチャンバー(登録商標)(BD Biosceince−Discovery Labware)であり、チャンバー内に8.0μmのポアサイズを有するBDファルコンセルカルチャーインサートを含む。該インサートの上面にはマトリゲルマトリックスが塗布されている。インサートの下部に疾患モデルマウス血清を添加し、インサート内にMuse細胞(3.5×104個/ウェル)又は非Muse細胞(3.5×104個/ウェル)を播種した。培養20時間後、インサートを通過した細胞数を顕微鏡下で求めた。結果を図8に示す。縦軸は、顕微鏡下で拡大した観察した1視野あたりに存在する細胞数を表す。陰性対照として用いたMuse細胞+疾患モデルマウス血清不含、又は非Muse+疾患モデルマウス血清不含の系では、インサートを通過する細胞はほとんど観察されなかった。これに対して、疾患モデルマウス血清が添加された系では、Muse細胞は非常に高い遊走性を示し、これは、非Muse細胞+疾患モデルマウス血清の件と比較しても顕著であった。このことから、疾患モデルマウス血清には、Muse細胞を遊走させるための何らかの因子を含むことが示唆された。
慢性腎障害マウスモデルにおける腎障害部位へのMuse細胞の移動性を検討した。Muse細胞及び非Muse細胞をそれぞれ培養ディッシュに接着させ、一晩培養後、Hoechest 33342(Sigma)を用いて、これらの細胞核を染色した。続いて、トリプシン処理後、細胞数をカウントし、2×104個を慢性腎障害マウスモデルに尾静脈投与した。投与の24時間後、常法に従って、腎組織を固定し、蛍光顕微鏡下で観察した。Muse細胞を投与した系の蛍光画像を図9に示し、非Muse細胞を投与した系の蛍光画像を図10に示す。いずれの画像においても、各染色されたMuse細胞及び非Muse細胞の核は強いシグナルのスポットとして特定される(矢印部分)。尾静脈に投与されたMuse細胞は、糸球体、尿細管、間質部等に広く分布していたが、非Muse細胞は、尿細管及び間質部にのみ観察された。このことから、Muse細胞は、非Muse細胞と比較して、疾患部位に対して高い遊走性及び生着能を有していると考えられる。
ヒト細胞を拒絶しない免疫不全のSCIDマウスを用いて、腎機能評価の1つとしてクレアチニンクリアランスを経時的に測定した。実験手順は、実施例3と同様に、実施例1で作製した慢性腎障害マウス(SCID)を3群に分け、塩酸ドキソルビシン投与の1週間後に各群のマウスにMuse細胞(2×104個、200μl)、ヒト骨髄由来の非Muse細胞(2×104個、200μl)、又は生理食塩水(200μl)を尾静脈に投与した。その後、各マウスについて、クレアチニンクリアランスを経時的に測定し、結果を図11に示す。ヒトMuse細胞の投与群におけるクレアチニンクリアランスは、測定開始から6週目まで減少するが、測定期間中、非Muse細胞及び生理食塩水の投与群と比較して、有意に高かった。また、Muse細胞の投与群では、Balb/c慢性腎障害モデルと同様に、腎機能が顕著に回復していることが示唆された。
Claims (10)
- 生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞から分離されたSSEA−3陽性の多能性幹細胞を含む、慢性腎障害を予防及び/又は治療するための細胞製剤。
- 外部ストレス刺激によりSSEA−3陽性の多能性幹細胞が、濃縮された細胞画分を含む、請求項1に記載の細胞製剤。
- 慢性腎障害が、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、糖尿病性腎症、嚢胞腎、慢性腎盂腎炎、急速進行性糸球体腎炎、悪性高血圧症、SLE腎炎、アミロイド腎、腎・尿路腫瘍、骨髄腫、閉塞性尿路生涯、痛風腎、腎形成不全、及び腎・尿路結核からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の細胞製剤。
- 前記多能性幹細胞が、CD105陽性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞製剤。
- 前記多能性幹細胞が、CD117陰性及びCD146陰性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞製剤。
- 前記多能性幹細胞が、CD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性、及びCD271陰性である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞製剤。
- 前記多能性幹細胞が、CD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snai1陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性、及びDct陰性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞製剤。
- 前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞製剤:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。 - 前記多能性幹細胞が、腎障害部位に集積する能力を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞製剤。
- 前記多能性幹細胞が、足細胞、メサンギウム細胞、糸球体内皮細胞、傍糸球体細胞、近位尿細管細胞、遠位尿細管細胞、血管内皮細胞、ヘンレわな、及び/又は集合管の細胞からなる群から選択される1つ以上の細胞に分化する能力を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞製剤。
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