図1〜図5を用いて本発明の実施の形態に係る車両駆動システムについて説明する。
本実施の形態に係る車両駆動システム1は、前輪3,3側の第1駆動系5を駆動するエンジン7と、第1駆動系5を駆動しバッテリ10に接続された第1モータジェネレータ11と、後輪13,13側の第2駆動系15を駆動しバッテリ10に接続された第2モータジェネレータ17と、第1駆動系5に設けられエンジン7及び第1モータジェネレータ11から伝達される駆動力を低速で伝達する低速動力伝達部19と、第1駆動系5に設けられエンジン7及び第1モータジェネレータ11から伝達される駆動力を高速で伝達する高速動力伝達部21と、出力部23に伝達される低速動力伝達部19の駆動力を断続する低速クラッチ25と、出力部23に伝達される高速動力伝達部21の駆動力を断続する高速クラッチ27とを有する。
また、第2駆動系15は、第2モータジェネレータ17と後輪13,13との間に伝達される駆動力を断続する第2駆動クラッチ29を有する。
まず、図1を用いて本発明の実施の形態に係る車両駆動システム1が適用された車両の動力系について説明する。
図1に示すように、車両駆動システム1を備えた車両は、エンジン7と第1モータジェネレータ11とを駆動源とし、前輪3,3側を駆動する第1駆動系5と、第2モータジェネレータ17を駆動源とし、後輪13,13側を駆動する第2駆動系15とに大別される。
この第1駆動系5の第1モータジェネレータ11と、第2駆動系15の第2モータジェネレータ17とは、車両に搭載されたバッテリ10にそれぞれインバータ31,33を介して接続されており、モータとして機能する場合にはバッテリ10から電力が供給されると共に、ジェネレータとして機能する場合にはバッテリ10に充電する。なお、電源としては、バッテリ10に限らず、蓄電池などであってもよい。
この車両駆動システム1における第1駆動系5と第2駆動系15との各機構は、その作動がECUからなるコントローラ9によって制御されている。コントローラ9は、低速クラッチ25(図2参照)のアクチュエータ、高速クラッチ27(図2参照)のアクチュエータ、第2駆動クラッチ29(図3参照)のアクチュエータ、前後左右車輪の回転を検知する回転センサ4,4,6,6、第1モータジェネレータ11の電源及び回転を検知する電源/回転センサ12、第2モータジェネレータ17の電源及び回転を検知するリヤ電源/回転センサ18、エンジン7の回転を検出するエンジン回転センサ8、アクセル角センサなどからなる加減速フィールセンサ、車速センサ、操舵角センサ、車両の傾斜状況を検知するグラビティセンサ、エンジン7の起動・停止、燃料・エア供給量などを制御するエンジン制御指令などの各種センサの情報が受信可能となっている。
なお、車速センサから直接車速を検知してもよいが、前後左右車輪に設けられた回転センサが検知した回転に基づいて車速を演算してもよい。また、コントローラ9は、上述した各種センサの他に、ブレーキセンサ、スロットル開度センサ、左右輪差回転センサ、前後輪差回転センサ、ヨーモーメントセンサ、油温センサ、外気温センサなどの各種センサの情報が入力される。
このような各種センサの情報を受信可能であるコントローラ9は、必要なセンサ情報を選択、演算又は記録チャートとの対比が可能であり、車両駆動システム1における第1駆動系5と第2駆動系15との各機構に制御情報を出力して各機構の作動を制御する。以下、図1〜図5を用いて車両駆動システム1の詳細について説明する。
図1,図2に示すように、第1駆動系5は、駆動源としてのエンジン7及び第1モータジェネレータ11と、複数の回転軸やギヤ組からなる伝達機構35と、前輪3,3側の左右輪の差動を許容するフロントデフとしての差動機構37と、前車軸39,39と、前輪3,3などで構成されている。なお、伝達機構35と差動機構37とは、フロントトランスファ装置41の一部を構成している。
エンジン7は、伝達機構35と差動機構37とを収容するケーシング43の一側面側の外部に配置され、出力軸であるエンジン軸(不図示)がダンパー45を介して伝達機構35の第1駆動軸47に一体回転可能に直結されている。
このエンジン7は、コントローラ9と図示外の燃料タンクに接続されており、車両の走行状態に応じて、コントローラ9の制御によって燃料タンクから燃料が供給される。
第1モータジェネレータ11は、エンジン7と反対側であるケーシング43の他側面側の外部に配置され、出力軸であるモータ軸が連結部を介して伝達機構35の第2駆動軸49に一体回転可能に連結されている。
この第1モータジェネレータ11は、コントローラ9とバッテリ10に接続されており、車両の走行状態に応じて、コントローラ9の制御によって、モータとして機能する場合にはバッテリ10から電力が供給され、ジェネレータとして機能する場合にはバッテリ10に充電する。
なお、第1モータジェネレータ11は、車両の停車や減速などにおける減速時にジェネレータとして機能し、車両の減速によるブレーキエネルギーが第1モータジェネレータ11を介してバッテリ10に充電される。
このようなエンジン7及び第1モータジェネレータ11からの駆動力は、フロントトランスファ装置41に伝達される。エンジン7からの駆動力は、ダンパー45を介して第1駆動軸47に伝達される。第1モータジェネレータ11からの駆動力は、第2駆動軸49に伝達され、変速ギヤ組63を介して第1駆動軸47に伝達される。
このエンジン7及び第1モータジェネレータ11から駆動力が入力される第1駆動軸47には、速比の異なる低速動力伝達部19と高速動力伝達部21とにおける低速入力ギヤ101と高速入力ギヤ107とが配置されている。
低速入力ギヤ101と低速出力ギヤ103とからなる低速動力伝達部19に伝達された駆動力は、低速クラッチ25に伝達され、低速クラッチ25が接続状態であると、第3駆動軸51に伝達される。高速入力ギヤ107と高速出力ギヤ109とからなる高速動力伝達部21に伝達された駆動力は、高速クラッチ27に伝達され、高速クラッチ27が接続状態であると、第3駆動軸51に伝達される。
この低速クラッチ25と高速クラッチ27とを選択的に接続させることにより、車両の走行状態に合わせて駆動源としてのエンジン7と第1モータジェネレータ11の適切な使用回転(駆動力)を適切に変速させ、第3駆動軸51に伝達させることができる。
この第3駆動軸51に伝達された駆動力は、ピニオン147とリングギヤ149とからなる出力部23を介して差動機構37に伝達される。この差動機構37に伝達された駆動力は、一対のサイドギヤ85,87にそれぞれ連結されたシャフト(不図示)及び前車軸39,39を介して前輪3,3に分配される。
フロントトランスファ装置41は、伝達機構35と差動機構37とを有し、ケーシング43内に収容され、伝達機構35の第1駆動軸47と、第2駆動軸49と、第3駆動軸51と、差動機構37の回転軸線とが平行に配置されている。
第1駆動軸47は、軸方向両側を一対のベアリング53,55を介してケーシング43に回転可能に支持されている。また、第1駆動軸47の端部外周には、連結部57が形成され、ダンパー45を構成する連結部材59が一体回転可能に連結される。また、第1駆動軸47とケーシング43との径方向間には、ケーシング43の内部と外部とを区画するシール部材61が配置されている。
この第1駆動軸47には、ダンパー45を介してエンジン7からの駆動力が入力されると共に、変速ギヤ組63と第2駆動軸49とを介して第1モータジェネレータ11のモータ機能による駆動力が入力される。
なお、第1モータジェネレータ11がジェネレータとして機能している場合には、第1駆動軸47に入力された駆動力が変速ギヤ組63と第2駆動軸49とを介して第1モータジェネレータ11に出力される。
第2駆動軸49は、中空状に形成され、軸方向両側を一対のベアリング65,67を介してケーシング43に回転可能に支持されている。また、第2駆動軸49の端部内周には、連結部69が形成され、第1モータジェネレータ11のモータ軸が一体回転可能に連結される。また、第2駆動軸49の中央部には、第1駆動軸47と一体回転可能に形成された高速動力伝達部21の大径の高速入力ギヤ107と噛み合う小径のギヤ部71が形成されている。このギヤ部71と高速入力ギヤ107とは、互いに平行に配置され、変速ギヤ組63を構成している。
なお、第2駆動軸49のギヤ部71を低速動力伝達部19の低速入力ギヤ101と噛み合わせて変速ギヤ組63を構成してもよい。また、第2駆動軸49とケーシング43との径方向間には、ケーシング43の内部と外部とを区画するシール部材73が配置されている。
この第2駆動軸49には、第1モータジェネレータ11がモータとして機能したとき、第1モータジェネレータ11からの駆動力が入力され、変速ギヤ組63を介して第1駆動軸47に出力する。一方、第1モータジェネレータ11がジェネレータとして機能したとき、変速ギヤ組63を介して入力される第1駆動軸47側からの駆動力を第1モータジェネレータ11に出力する。このようなエンジン7及び第1モータジェネレータ11のモータ機能による駆動力は、第1駆動軸47を介して第3駆動軸51に出力される。
第3駆動軸51は、軸方向両側を一対のベアリング75,77を介してケーシング43に回転可能に支持されている。この第3駆動軸51には、低速クラッチ25及び高速クラッチ27を介して第1駆動軸47側から駆動力が入力され、出力部23を介して差動機構37に出力する。
差動機構37は、ケーシング43内に収容され、デフケース79と、ピニオンシャフト81と、ピニオン83と、一対のサイドギヤ85,87とを備えている。
デフケース79は、軸方向両側に形成されたボス部でそれぞれベアリング89,91を介してケーシング43に回転可能に支持されている。このデフケース79は、出力部23を介して駆動力が伝達されて回転駆動される。このようなデフケース79には、ピニオンシャフト81とピニオン83と一対のサイドギヤ85,87とが収容されている。
ピニオンシャフト81は、端部をデフケース79に係合してピンで抜け止めされデフケース79と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト81には、ピニオン83が支承されている。
ピニオン83は、デフケース79の周方向等間隔に複数配置され、それぞれピニオンシャフト81に支承されてデフケース79の回転によって公転する。また、ピニオン83の背面側とデフケース79との径方向間には、ピニオン83の公転時に発生する径方向への移動を受ける球面ワッシャが配置されている。
このピニオン83は、一対のサイドギヤ85,87に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ85,87に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト81に自転可能に支持されている。
一対のサイドギヤ85,87は、デフケース79に相対回転可能に支持され、ピニオン83と噛み合っている。また、サイドギヤ85,87とデフケース79との軸方向間には、ピニオン83との噛み合い反力によるサイドギヤ85,87の軸方向への移動を受けるスラストワッシャが配置されている。
この一対のサイドギヤ85,87は、内周側にスプライン形状の連結部93,95が設けられ、前輪3,3側に連結された前車軸39,39と一体回転可能に連結されるシャフト(不図示)がサイドギヤ85,87と一体回転可能に連結される。
なお、シャフトとケーシング43との径方向間には、ケーシング43の内部と外部とを区画するシール部材97,99が配置されている。このような一対のサイドギヤ85,87は、デフケース79に入力された駆動力をシャフト(不図示)及び前車軸39,39を介して前輪3,3へ出力する。
このような第1駆動軸47と第2駆動軸49と第3駆動軸51と差動機構37とは、低速動力伝達部19と、高速動力伝達部21と、低速クラッチ25と、高速クラッチ27と、出力部23とを介して動力伝達可能に配置されている。
低速動力伝達部19は、互いに平行に配置された低速入力ギヤ101と低速出力ギヤ103とからなる。低速入力ギヤ101は、第1駆動軸47に連結部105を介して第1駆動軸47と一体回転可能に連結されている。この低速入力ギヤ101は、低速出力ギヤ103よりも小径に形成され、低速出力ギヤ103と噛み合っている。低速出力ギヤ103は、高速出力ギヤ109の外周上にニードルベアリングを介して高速出力ギヤ109及び第3駆動軸51と相対回転可能に配置されている。
この低速動力伝達部19は、エンジン7及びモータとして機能する第1モータジェネレータ11から第1駆動軸47を介して伝達される駆動力を低速で低速クラッチ25に伝達する。このような低速動力伝達部19には、高速動力伝達部21が軸方向に隣接配置されている。
高速動力伝達部21は、互いに平行に配置された高速入力ギヤ107と高速出力ギヤ109とからなる。高速入力ギヤ107は、第1駆動軸47に連続する一部材で形成され、第1駆動軸47と一体回転される。この高速入力ギヤ107は、高速出力ギヤ109よりも大径に形成され、高速出力ギヤ109と噛み合っている。高速出力ギヤ109は、第3駆動軸51上にニードルベアリングを介して第3駆動軸51と相対回転可能に配置されている。
この高速動力伝達部21は、エンジン7及びモータとして機能する第1モータジェネレータ11から第1駆動軸47を介して伝達される駆動力を高速で高速クラッチ27に伝達する。
このような低速動力伝達部19と高速動力伝達部21とから伝達される駆動力は、それぞれ低速と高速とで低速クラッチ25と高速クラッチ27とに伝達され、低速クラッチ25及び高速クラッチ27の接続によって第3駆動軸51に伝達される。
低速クラッチ25は、低速出力ギヤ103とボルトで一体回転可能に固定された低速クラッチハブ111と、第3駆動軸51と溶接などの固定手段によって一体回転可能に固定された低速クラッチハウジング113と、低速クラッチハブ111の外周と低速クラッチハウジング113の内周とにそれぞれ軸方向移動可能で一体回転可能に連結された複数のクラッチ板とからなる。
この低速クラッチ25は、接続されると低速動力伝達部19によって低速に変速された駆動力を第3駆動軸51に伝達する。この低速クラッチ25の内径側には、高速クラッチ27が径方向にオーバーラップして配置されている。
高速クラッチ27は、高速出力ギヤ109と連結部115で一体回転可能に連結された高速クラッチハウジング117と、高速クラッチハウジング117の内周と第3駆動軸51の外周とにそれぞれ軸方向移動可能で一体回転可能に連結された複数のクラッチ板とからなる。
この高速クラッチ27は、接続されると高速動力伝達部21によって高速に変速された駆動力を第3駆動軸51に伝達する。
この低速クラッチ25と高速クラッチ27とは、複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。このような低速クラッチ25と高速クラッチ27とは、第3駆動軸51の端部に配置されたアクチュエータとしての操作部119によって断続操作される。
操作部119は、ピニオン147と同軸的に設けられ、より詳しくは後述する油圧機構121やオイルポンプ(不図示)が第3駆動軸51と同軸的に連結配置されている。操作部119は、油圧機構121と、低速押圧部材123と、高速押圧部材125とを備えている。
操作部119の作動を制御する制御機構としての油圧機構121は、ケーシング43の外部に配置される外装タイプからなるバルブボディ127内に配置され、コントローラ9に接続された図示外の小型電動モータで駆動されるオイルポンプ(不図示)と、バルブボディ127内に設けられた油圧回路129とを備えている。
オイルポンプは、2つのポンプギヤが組み合わされたギヤポンプからなる。このオイルポンプは、バルブボディ127内で第3駆動軸51の端部側に配置されている。このようなオイルポンプは、バルブボディ127内及びケーシング43内の油溜まりに貯留されたオイルを、異物をろ過するオイルストレーナを介して吸入し、オイルに油圧を付与して油圧回路129を流通させる。
油圧回路129は、バルブボディ127内に設けられ、複数の油路などで形成され、コントローラ9の制御によって図示外の小型電動モータで駆動されるオイルポンプにより、規定油圧を油圧室内に蓄え、図示外のソレノイドバルブにより油圧が制御されたオイルが、径方向孔131,133から軸方向孔135,137を介して低速油圧シリンダ139及び高速油圧シリンダ141へ供給され、低速押圧部材123及び高速押圧部材125が移動操作される。
低速押圧部材123及び高速押圧部材125は、それぞれ第3駆動軸51上に軸方向相対移動可能に配置されている。低速押圧部材123は、低速クラッチハウジング113によって軸方向位置が固定され、低速クラッチ25の複数のクラッチ板と軸方向に対向配置されている。高速押圧部材125は、スナップリングなどの固定手段によって軸方向位置が固定され、高速クラッチ27の複数のクラッチ板と軸方向に対向配置されている。
なお、低速押圧部材123の内周側には、スナップリングなどの固定手段によって軸方向位置が固定された区画部材143が配置され、低速押圧部材123と高速押圧部材125と区画部材143とで解除油圧シリンダ145が構成されており、この解除油圧シリンダ145は低速押圧部材123に形成された孔部によって低速油圧シリンダ139に連通されている。
この低速押圧部材123は、油圧機構121から油圧が制御されたオイルが低速油圧シリンダ139に供給されることによって低速クラッチ25の接続方向に軸方向移動される。この低速押圧部材123の軸方向移動により、低速クラッチ25が押圧操作されて接続状態となる。この低速クラッチ25の接続により、第1駆動軸47から低速動力伝達部19を介して低速に変速された駆動力が第3駆動軸51に伝達される。
このとき、低速油圧シリンダ139にオイルが供給されると、低速押圧部材123の孔部を介して解除油圧シリンダ145にもオイルが供給される。この解除油圧シリンダ145へのオイルの供給により、高速押圧部材125が高速クラッチ27の接続解除方向に軸方向移動される。この高速押圧部材125の軸方向移動により、高速押圧部材125が高速クラッチ27の複数のクラッチ板を押圧することがなく、低速クラッチ25が接続された状態で、高速クラッチ27が接続されることがない。
一方、高速押圧部材125は、油圧機構121から油圧が制御されたオイルが高速油圧シリンダ141に供給されることによって高速クラッチ27の接続方向に軸方向移動される。この高速押圧部材125の軸方向移動により、高速クラッチ27が押圧操作されて接続状態となる。この高速クラッチ27の接続により、第1駆動軸47から高速動力伝達部21を介して高速に変速された駆動力が第3駆動軸51に伝達される。
このとき、高速油圧シリンダ141にオイルが供給されると、低速押圧部材123が低速クラッチ25の接続解除方向に軸方向移動される。この低速押圧部材123の軸方向移動により、低速押圧部材123が低速クラッチ25の複数のクラッチ板を押圧することがなく、高速クラッチ27が接続された状態で、低速クラッチ25が接続されることがない。
このように低速クラッチ25及び高速クラッチ27を介して第3駆動軸51に伝達された駆動力は、出力部23から差動機構37側に出力される。
なお、低速油圧シリンダ139と高速油圧シリンダ141(或いは解除油圧シリンダ145も含む)は、第3駆動軸51と同軸上に配置されているが、低速油圧シリンダ139と高速油圧シリンダ141をケーシング43側に形成し、ロッドとベアリングなどの相対回転吸収手段を介して低速クラッチ25と高速クラッチ27との断続制御を行うこともできる。加えて、油圧機構121のバルブボディ127は、ケーシング43の外部に配置される外装タイプとなっているが、ケーシング43の内部に配置される内装タイプとしてもよい。
出力部23は、互いに平行に配置されたピニオン147とリングギヤ149とからなる。ピニオン147は、操作部119が配置された第3駆動軸51の反対側の端部に連結部151を介して第3駆動軸51と一体回転可能に連結されている。また、ピニオン147は、高速動力伝達部21の高速出力ギヤ109と軸方向に隣接配置されている。
このピニオン147は、リングギヤ149よりも小径に形成され、リングギヤ149と噛み合い、前輪3,3側への出力系路としては減速ギヤ機構をなしている。リングギヤ149は、差動機構37のデフケース79とボルトなどの固定手段によって一体回転可能に固定されている。
この出力部23は、第3駆動軸51に伝達された駆動力を差動機構37に出力する。この差動機構37に伝達された駆動力は、一対のサイドギヤ85,87に連結されたシャフト(不図示)及び前車軸39,39を介して前輪3,3へ出力される。
このような第1駆動系5では、駆動源としてのモータが第1モータジェネレータ11であるので、ジェネレータのみとして機能するモータを削減でき、低コスト化することができる。
また、第1駆動系5には、低速動力伝達部19と、高速動力伝達部21とが設けられているので、エンジン7及び第1モータジェネレータ11から前輪3,3側に出力される駆動力を2つの速度に選択することができる。
さらに、第1駆動系5は、出力部23に伝達される低速動力伝達部19の駆動力を断続する低速クラッチ25と、出力部23に伝達される高速動力伝達部21の駆動力を断続する高速クラッチ27とを有するので、車両の走行速度に応じて、駆動源の選択を行うことができ、モードの選択範囲を増やすことができる。
詳細には、第1モータジェネレータ11がモータとして機能する場合、第2駆動軸49から変速ギヤ組63を介して駆動力が出力され、第1モータジェネレータ11がジェネレータとして機能する場合、エンジン7からの駆動力が変速ギヤ組63から第2駆動軸49を介して入力される。
このため、第2駆動軸49の適切な使用回転(駆動力)を組み合わせることにより、車両の広範囲の走行駆動状態とエネルギー回生とに対応することができる。
一方、第2駆動系15は、図1,図3に示すように、駆動源としての第2モータジェネレータ17と、減速ギヤ組などからなる減速機構153と、後輪13,13側の左右輪の差動を許容するリヤデフとしての差動機構155と、第2モータジェネレータ17と差動機構155との間の動力伝達を断続する第2駆動クラッチ29と、後車軸157,157と、後輪13,13などで構成されている。なお、減速機構153と差動機構155と第2駆動クラッチ29とは、リヤトランスファ装置159を構成している。
第2モータジェネレータ17は、減速機構153と差動機構155と第2駆動クラッチ29とを収容するケーシング161の一側面側の外部に配置され、出力軸であるモータ軸が連結部を介して減速機構153の入力軸163に一体回転可能に連結されている。
この第2モータジェネレータ17は、コントローラ9とバッテリ10に接続されており、車両の走行状態に応じて、コントローラ9の制御によって、モータとして機能する場合にはバッテリ10から電力が供給され、ジェネレータとして機能する場合にはバッテリ10に充電する。
なお、第2モータジェネレータ17は、第1モータジェネレータ11と同様に、車両の停車や減速などにおける減速時にジェネレータとして機能し、車両の減速によるブレーキエネルギーが第2モータジェネレータ17を介してバッテリ10に充電される。
このような第2モータジェネレータ17からの駆動力は、リヤトランスファ装置159に伝達される。詳細には、第2モータジェネレータ17からの駆動力は、入力軸163から減速機構153に伝達され、第1ギヤ組165と中間軸167と第2ギヤ組169とを介して出力部材171に伝達される。
この出力部材171に伝達された駆動力は、第2駆動クラッチ29に伝達され、第2駆動クラッチ29が接続状態であると、差動機構155に伝達される。この差動機構155に伝達された駆動力は、一対のサイドギヤ203,205にそれぞれ連結されたシャフト(不図示)及び後車軸157,157を介して後輪13,13に分配される。
一方、車両が前輪駆動の2輪駆動状態である場合には、第2駆動クラッチ29を接続解除状態とすることにより、後輪13,13の回転が差動機構155から減速機構153に伝達されることがなく、無駄な回転系を削減して燃費向上を図ることができる。
リヤトランスファ装置159は、減速機構153と、差動機構155と、第2駆動クラッチ29とを備えている。
減速機構153は、ケーシング161内に収容され、入力軸163と、第1ギヤ組165と、中間軸167と、第2ギヤ組169と、出力部材171とを備えている。
入力軸163は、一端側が中空状に形成され、回転軸心が第2モータジェネレータ17のモータ軸と平行に配置されている。また、入力軸163は、軸方向の両側外周でベアリング173,175を介してケーシング161に回転可能に支持され、軸方向の一端側の内周に形成された連結部177を介して第2モータジェネレータ17のモータ軸が一体回転可能に連結されている。
この入力軸163の軸方向一端側の外周とケーシング161の内周との径方向間には、ケーシング161の内部と外部とを区画するシール部材179が配置されている。このような入力軸163の他端側外周には、第1小径ギヤ部181が連続する一部材で形成され、第1小径ギヤ部181と第1大径ギヤ部183とで第1ギヤ組165が構成されている。
第1ギヤ組165は、入力軸163に設けられた第1小径ギヤ部181と、中間軸167に設けられた第1大径ギヤ部183とからなる。第1大径ギヤ部183は、中間軸167と一体回転可能に圧入などの固定手段で固定され、第1小径ギヤ部181と噛み合っている。この第1ギヤ組165は、第2モータジェネレータ17から出力される駆動力を入力軸163から減速させて中間軸167に出力する。
中間軸167は、回転軸心が入力軸163と平行に配置され、軸方向の両側外周でベアリング185,187を介してケーシング161に回転可能に支持されている。この中間軸167の外周には、第2小径ギヤ部189が連続する一部材で形成され、第2小径ギヤ部189と第2大径ギヤ部191とで第2ギヤ組169が構成されている。
第2ギヤ組169は、中間軸167に設けられた第2小径ギヤ部189と、出力部材171に設けられた第2大径ギヤ部191とからなる。第2大径ギヤ部191は、出力部材171の軸方向端部に一体回転可能に溶接などの固定手段で固定され、第2小径ギヤ部189と噛み合っている。この第2ギヤ組169は、中間軸167から出力される第1ギヤ組165で減速された駆動力をさらに減速させて出力部材171に出力する。
出力部材171は、筒状に形成され、回転軸心が中間軸167と平行に配置されている。また、出力部材171は、第2大径ギヤ部191の内周側でベアリング193,195を介して差動機構155のデフケース197と相対回転可能に配置されている。この出力部材171は、中間軸167から第2ギヤ組169を介して減速された駆動力が入力される。このような減速機構153で減速された駆動力は、出力部材171から第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に伝達される。
差動機構155は、ケーシング161内に収容され、デフケース197と、ピニオンシャフト199と、ピニオン201と、一対のサイドギヤ203,205とを備えている。
デフケース197は、回転軸心が減速機構153の出力部材171と平行に配置され、軸方向両側に形成されたボス部でそれぞれベアリング207,209を介してケーシング161に回転可能に支持されている。このデフケース197には、ピニオンシャフト199と、ピニオン201と、一対のサイドギヤ203,205とが収容されている。
ピニオンシャフト199は、端部をデフケース197に係合してピンで抜け止めされデフケース197と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト199には、ピニオン201が支承されている。
ピニオン201は、デフケース197の周方向等間隔に複数配置され、それぞれピニオンシャフト199に支承されてデフケース197の回転によって公転する。また、ピニオン201の背面側とデフケース197との径方向間には、ピニオン201の公転時に発生する径方向への移動を受ける球面ワッシャが配置されている。
このピニオン201は、一対のサイドギヤ203,205に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ203,205に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト199に自転可能に支持されている。
一対のサイドギヤ203,205は、デフケース197に相対回転可能に支持され、ピニオン201と噛み合っている。また、サイドギヤ203,205とデフケース197との軸方向間には、ピニオン201との噛み合い反力によるサイドギヤ203,205の軸方向への移動を受けるスラストワッシャが配置されている。
この一対のサイドギヤ203,205は、内周側にスプライン形状の連結部211,213が設けられ、後輪13,13側に連結された後車軸157,157と一体回転可能に連結されるシャフト(図1参照)がサイドギヤ203,205と一体回転可能に連結される。
なお、シャフトとケーシング161との径方向間には、ケーシング161の内部と外部とを区画するシール部材215,217が配置されている。このような一対のサイドギヤ203,205は、デフケース197に入力された駆動力をシャフト(不図示)及び後車軸157,157を介して後輪13,13へ出力する。
このような差動機構155に伝達される駆動力は、減速機構153の出力部材171とデフケース197との間に設けられた第2駆動クラッチ29によって断続される。なお、このような出力部材171とデフケース197との間に第2駆動クラッチ29が配置された機構は、いわゆるフリーランニングデフとなっている。
第2駆動クラッチ29は、複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とからなる。複数の外側クラッチ板は、出力部材171の内周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能で出力部材171と一体回転可能に係合されている。複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、デフケース197の外周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でデフケース197と一体回転可能に係合されている。
この第2駆動クラッチ29は、複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とで構成された多板クラッチであり、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチとなっている。このような第2駆動クラッチ29は、アクチュエータ219によって断続操作される。
アクチュエータ219は、押圧部材221と、ロータ223と、パイロットクラッチ225と、アーマチャ227と、電磁石229と、カム機構231とを備えている。
押圧部材221は、デフケース197のボス部の外周側で第2駆動クラッチ29の複数のクラッチ板に対して軸方向に隣接配置され、出力部材171内に軸方向移動可能に配置されている。また、押圧部材221とデフケース197との軸方向間には、押圧部材221を第2駆動クラッチ29の接続解除方向に付勢する付勢部材233が配置されている。
この付勢部材233により、第2駆動クラッチ29の接続解除状態では、押圧部材221が第2駆動クラッチ29の複数のクラッチ板を押圧することがなく、第2駆動クラッチ29における引きずりトルクの発生を抑制することができる。この押圧部材221は、ロータ223と、パイロットクラッチ225と、アーマチャ227と、電磁石229と、カム機構231とによって第2駆動クラッチ29の接続方向に軸方向移動され、第2駆動クラッチ29を接続させる。
ロータ223は、磁性材料からなり、デフケース197のボス部の外周側で軸方向移動が規制されて配置され、電磁石229とパイロットクラッチ225との軸方向間に配置されている。また、ロータ223には、磁束ループを形成させるための非磁性材料からなる磁路形成部材が溶接などの固定手段によってロータ223と一体的に設けられている。
このロータ223は、電磁石229のコアとの径方向間に微小隙間を持って対向するエアギャップが設けられており、電磁石229のコアからロータ223への磁束の受け渡しが可能となっている。このようなロータ223には、パイロットクラッチ225が隣接配置されている。
パイロットクラッチ225は、出力部材171内でロータ223とアーマチャ227との軸方向間に配置されている。このパイロットクラッチ225は、出力部材171の内周に形成された係合部に軸方向移動可能で出力部材171と一体回転可能に連結する複数の外側プレートと、カムリング235の外周に複数の外側プレートに対して軸方向間に交互に配置され軸方向移動可能でカムリング235と一体回転可能に連結する複数の内側プレートとで構成されている。このようなパイロットクラッチ225は、アーマチャ227が電磁石229の励磁によって吸引移動されることにより接続される。
アーマチャ227は、磁性材料からなり、軸方向にパイロットクラッチ225を挟んでロータ223と対向配置され、出力部材171内で軸方向移動可能に配置されている。このアーマチャ227は、電磁石229が励磁されたときに形成される磁束ループによって電磁石229側に吸引移動され、パイロットクラッチ225を接続させる。
電磁石229は、ケーシング161内に固定配置され、電磁コイルとコアとを備えている。電磁コイルは、合成樹脂などの絶縁部材によってモールド成形され、コアの内部に配置されている。コアは、磁性材料からなり、ロータ223とで電磁コイルの周囲を囲むように配置されてロータ223と共に磁束を透過して磁束ループを形成させる。
この電磁石229は、電磁コイルが通電を制御するコントローラ9に接続され、コントローラ9による制御によって第2駆動クラッチ29で必要な摩擦トルクを生じさせるように電磁コイルに通電される。この電磁コイルの通電により、パイロットクラッチ225が接続され、カム機構231でスラスト力が発生される。
カム機構231は、カムリング235と、カムリング235と押圧部材221とに周方向に形成された複数のカム面間に介在されたカムボール237とからなる。カムリング235は、デフケース197のボス部の外周に軸方向移動可能に配置されている。また、カムリング235とロータ223の軸方向間には、カム機構231で生じるスラスト反力を受けるスラストベアリングが配置されている。このカムリング235の外周には、パイロットクラッチ225の複数の内側プレートが軸方向移動可能で一体回転可能に係合されている。
カムボール237は、カムリング235と押圧部材221とに周方向に形成された複数のカム面を対向させ、これらのカム面間に介在されている。このカムボール237は、パイロットクラッチ225の接続によってカムリング235と押圧部材221との間に差回転が生じることにより、パイロットクラッチ225に生じる摩擦トルクに応じた強さで押圧部材221を第2駆動クラッチ29側へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
このような第2駆動系15では、電磁石229の電磁コイルへの通電により、コア、ロータ223、パイロットクラッチ225、アーマチャ227を介した磁力線が循環されて磁束ループが形成され、アーマチャ227が電磁石229側に吸引移動されてパイロットクラッチ225が締結される。
このパイロットクラッチ225の締結トルクは、カム機構231を介して軸方向推力に変換され、押圧部材221が付勢部材233の付勢力に抗して第2駆動クラッチ29の複数のクラッチ板を押圧して第2駆動クラッチ29が接続される。この第2駆動クラッチ29の接続により、出力部材171とデフケース197とが接続されて減速機構153で減速された駆動力が差動機構155に伝達される。
この第2駆動クラッチ29の接続状態は、電磁石229への通電を停止することにより、付勢部材233の付勢力によって押圧部材221が第2駆動クラッチ29の接続解除方向に軸方向移動されて解除される。
この第2駆動クラッチ29の接続解除により、出力部材171とデフケース197との間の動力伝達が遮断され、車両の走行による後輪13,13の回転が減速機構153に入力されることがなく、車両の燃費向上を図ることができる。
このような車両駆動システム1において、第1モータジェネレータ11及び第2モータジェネレータ17のモータ機能のみで車両を駆動させるEVモードは、バッテリ10の残量が所定値以上ある場合に選択される。
このEVモードでは、車両が後輪駆動の2輪駆動状態である場合、第1駆動系5ではエンジン7及び第1モータジェネレータ11が停止され、低速クラッチ25及び高速クラッチ27が接続解除状態となる。第2駆動系15では、第2駆動クラッチ29が接続され、第2モータジェネレータ17のモータ機能による駆動力を第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に出力する。
一方、EVモードでは、車両が前後輪駆動の4輪駆動状態である場合、第1駆動系5では低速クラッチ25又は高速クラッチ27が接続され、第1モータジェネレータ11のモータ機能による駆動力を低速動力伝達部19又は高速動力伝達部21を介して出力部23から差動機構37に出力する。第2駆動系15では、第2駆動クラッチ29が接続され、第2モータジェネレータ17のモータ機能による駆動力を第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に出力する。
なお、EVモードにおける第1モータジェネレータ11及び第2モータジェネレータ17による電力の回生は、車両の減速時などの車両のブレーキエネルギーに対して第1モータジェネレータ11及び第2モータジェネレータ17をジェネレータとして機能させることによって行われる。
エンジン7を電力供給源とし、第1モータジェネレータ11のジェネレータ機能で発電させ、第2モータジェネレータ17のモータ機能で車両を駆動させるシリーズモードは、バッテリ10の残量の有無に関わらず選択可能であるが、特に、バッテリ10の残量が所定値以下である場合に選択される。
このシリーズモードでは、車両が後輪駆動の2輪駆動状態である場合、第1駆動系5では低速クラッチ25及び高速クラッチ27が接続解除状態とされ、エンジン7の駆動力を第1モータジェネレータ11のジェネレータ機能でバッテリ10に充電させる。第2駆動系15では、第2駆動クラッチ29が接続され、第2モータジェネレータ17のモータ機能による駆動力を第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に出力する。
一方、シリーズモードでは、車両が前後輪駆動の4輪駆動状態である場合、第1駆動系5では低速クラッチ25又は高速クラッチ27が接続され、エンジン7の駆動力を第1モータジェネレータ11のジェネレータ機能でバッテリ10に充電させつつ、低速動力伝達部19又は高速動力伝達部21を介して出力部23から差動機構37に出力する。第2駆動系15では、第2駆動クラッチ29が接続され、第2モータジェネレータ17のモータ機能による駆動力を第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に出力する。
エンジン7と第1モータジェネレータ11及び第2モータジェネレータ17のモータ機能とで車両を駆動させるパラレルモードは、バッテリ10の残量が所定値以上ある場合に選択される。
このパラレルモードでは、車両が前輪駆動又は後輪駆動の2輪駆動状態である場合、第1駆動系5では低速クラッチ25又は高速クラッチ27が接続され、エンジン7の駆動力を低速動力伝達部19又は高速動力伝達部21を介して出力部23から差動機構37に出力する。第2駆動系15では、第1駆動系5の低速クラッチ25及び高速クラッチ27の断続状況に応じて、第2駆動クラッチ29が断続され、第2駆動クラッチ29が接続状態であると、第2モータジェネレータ17のモータ機能による駆動力を第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に出力する。
一方、パラレルモードでは、車両が前後輪駆動の4輪駆動状態である場合、第1駆動系5では低速クラッチ25又は高速クラッチ27が接続され、エンジン7の駆動力を低速動力伝達部19又は高速動力伝達部21を介して出力部23から差動機構37に出力する。このとき、第1モータジェネレータ11は、車両の走行状況に応じて、モータとして機能し、駆動力をエンジン7の駆動力に付加する。第2駆動系15では、第2駆動クラッチ29が接続され、第2モータジェネレータ17のモータ機能による駆動力を第2駆動クラッチ29を介して差動機構155に出力する。
エンジン7のみを駆動源として車両を駆動させるエンジンモードは、バッテリ10の残量の有無に関わらず選択可能であり、車両が前輪駆動の2輪駆動状態で、エンジン7で走行した方が第1モータジェネレータ11のモータ機能で走行するよりも効率が高くなる場合に選択される。
このエンジンモードでは、車両が前輪駆動の2輪駆動状態である場合、第1駆動系5では低速クラッチ25又は高速クラッチ27が接続され、エンジン7の駆動力を低速動力伝達部19又は高速動力伝達部21を介して出力部23から差動機構37に出力する。第2駆動系15では、第2モータジェネレータ17が停止され、第2駆動クラッチ29が接続解除状態とされ、車両の走行による後輪13,13の回転の減速機構153への伝達を遮断する。
第1モータジェネレータ11のジェネレータ機能によってバッテリ10に充電させる発電充電モードでは、車両の停車時に、第1駆動系5では低速クラッチ25及び高速クラッチ27を接続解除状態とし、エンジン7の駆動力を第1モータジェネレータ11のジェネレータ機能でバッテリ10に充電させる。第2駆動系15では、第2モータジェネレータ17が停止され、第2駆動クラッチ29が接続解除状態とされる。
このように車両駆動システム1では、車両の走行状況によってエンジン7と第1モータジェネレータ11及び第2モータジェネレータ17との駆動源を選択すると共に、第1駆動系5における低速クラッチ25及び高速クラッチ27と第2駆動系15における第2駆動クラッチ29との断続を選択的に行うことによって、低速動力伝達部19及び高速動力伝達部21で駆動力を適切に変速させ、モードの選択範囲を増やすことができる。
ここで、車両駆動システム1と、低速動力伝達部19及び高速動力伝達部21と第2駆動クラッチ29とを備えず、第1駆動系5にモータ、ジェネレータ、エンジンを備え、第2駆動系15にモータを備えた従来システムとの各モードにおける可否と、駆動源の作動状況とを図4,図5の表に示す。
なお、この表では、車両駆動システム1を本システムとし、第1駆動系5をフロントとし、第2駆動系15をリヤとし、第1モータジェネレータ11をモータ/ジェネレーターとし、第2モータジェネレータ17をモータとして表示している。
この表から明らかなように、従来システムでは、低速動力伝達部19及び高速動力伝達部21を備えていないので、車両の2輪駆動状態、或いは4輪駆動状態における低速時に、パラレルモードやエンジンモードを選択することができなかった。
これに対して車両駆動システム1では、低速動力伝達部19及び高速動力伝達部21を備えているので、車両の2輪駆動状態、或いは4輪駆動状態における低速時に、パラレルモードやエンジンモードを選択することができ、モードの選択範囲を増やすことができる。
加えて、従来システムでは、第2駆動クラッチ29を備えていないので、第2モータジェネレータ17を使用しないときにも、車両の走行による後輪13,13の回転が第2モータジェネレータ17に伝達されてしまい、無駄な回転系が多くなっていた。
これに対して車両駆動システム1では、第2駆動クラッチ29を備えているので、第2モータジェネレータ17を使用しないとき、第2駆動クラッチ29を接続解除状態とすることにより、車両の走行による後輪13,13の回転が第2モータジェネレータ17側に伝達されることがなく、無駄な回転系が削減され、車両の燃費向上を図ることができる。
このような車両駆動システム1では、第1駆動系5を駆動するモータが第1モータジェネレータ11であり、第2駆動系15を駆動するモータが第2モータジェネレータ17であるので、ジェネレータのみとして機能するモータを削減でき、低コスト化することができる。
また、第1駆動系5には、エンジン7及び第1モータジェネレータ11から伝達される駆動力を低速で伝達する低速動力伝達部19と、エンジン7及び第1モータジェネレータ11から伝達される駆動力を高速で伝達する高速動力伝達部21とが設けられているので、エンジン7及び第1モータジェネレータ11から前輪3,3側に出力される駆動力を2つの速度に選択することができる。
さらに、第1駆動系5は、出力部23に伝達される低速動力伝達部19の駆動力を断続する低速クラッチ25と、出力部23に伝達される高速動力伝達部21の駆動力を断続する高速クラッチ27とを有するので、車両の走行速度に応じて、駆動源の選択を行うことができ、モードの選択範囲を増やすことができる。
従って、このような車両駆動システム1では、低コスト化でき、モードの選択範囲を増やすことができる。
また、第2駆動系15は、第2モータジェネレータ17と後輪13,13との間に伝達される駆動力を断続する第2駆動クラッチ29を有するので、車両が前輪駆動の2輪駆動状態である場合、第2駆動クラッチ29を接続解除状態とすることにより、車両の走行による後輪13,13の回転が第2モータジェネレータ17側に伝達されることがなく、フリクションを削減し車両の燃費向上を図ることができる。
なお、本発明の実施の形態に係る車両駆動システムでは、第1駆動系が前輪側に配置され、第2駆動系が後輪側に配置されているが、これに限らず、第1駆動系を後輪側に配置し、第2駆動系を前輪側に配置させてもよい。
また、第1駆動系の低速クラッチと高速クラッチとを断続操作するアクチュエータとしては、油圧機構のような油圧式アクチュエータを適用しているが、電磁式アクチュエータ、磁性流体、電動モータ、或いはシフトロッドとシフトフォークを用いるなど低速クラッチと高速クラッチとを断続できる構成であれば、アクチュエータはどのような形態であってもよい。
さらに、第1駆動系における伝達機構の第1駆動軸と第2駆動軸との間の変速ギヤ組は、平行な2軸の関係上で変速機能を持たせているが、第1モータジェネレータの規定回転数の許容設定によっては、変速ギヤ組を設けずに第1モータジェネレータを第1駆動軸と直接連結させてもよく、或いはプラネタリーギヤを用いた変速ギヤ組を第1駆動軸と同軸的に配置し、第1駆動軸と同軸的に第1モータジェネレータが連結されてもよい。
また、低速クラッチと高速クラッチとは、多板クラッチに限定されるものではなく、軸方向に対向する一対のドグ歯からなるドグクラッチ、電磁式などの摩擦単板クラッチ、軸方向に隣接する一対のスプライン歯と軸方向に可動する断続スリーブからなるスリーブクラッチ、断続制御可能な2ウェイクラッチ或いは1ウェイクラッチ、磁性流体クラッチなど、装置の特性に応じて実用に供するクラッチを備えることができる。