Nothing Special   »   [go: up one dir, main page]

JP2015099742A - 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法 - Google Patents

耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2015099742A
JP2015099742A JP2013239964A JP2013239964A JP2015099742A JP 2015099742 A JP2015099742 A JP 2015099742A JP 2013239964 A JP2013239964 A JP 2013239964A JP 2013239964 A JP2013239964 A JP 2013239964A JP 2015099742 A JP2015099742 A JP 2015099742A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
layer
extrusion
enamel
resin layer
resin
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2013239964A
Other languages
English (en)
Inventor
秀雄 福田
Hideo Fukuda
秀雄 福田
武藤 大介
Daisuke Muto
大介 武藤
大 藤原
Masaru Fujiwara
大 藤原
恵一 冨澤
Keiichi Tomizawa
恵一 冨澤
恒夫 青井
Tsuneo Aoi
恒夫 青井
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Furukawa Electric Co Ltd
Furukawa Magnet Wire Co Ltd
Original Assignee
Furukawa Electric Co Ltd
Furukawa Magnet Wire Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Furukawa Electric Co Ltd, Furukawa Magnet Wire Co Ltd filed Critical Furukawa Electric Co Ltd
Priority to JP2013239964A priority Critical patent/JP2015099742A/ja
Publication of JP2015099742A publication Critical patent/JP2015099742A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Insulated Conductors (AREA)

Abstract

【課題】導体とこれを被覆する樹脂層との接着強度、エナメル層と押出被覆樹脂層のような皮膜層間での接着強度、耐摩耗性、耐溶剤性及び加工前後での電気絶縁性維持特性のいずれにも優れ、さらに長期間にわたって優れた耐熱老化特性を維持し得る耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法の提供。【解決手段】矩形状の断面を有する導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼付層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層とをする耐インバータサージ絶縁ワイヤであって、該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層との間に厚さ2〜20μmの接着層を有し、該接着層上の押出被覆層がいずれも同一の樹脂からなり、耐インバータサージ絶縁ワイヤの断面における前記エナメル焼付層と前記押出被覆樹脂層の断面形状が矩形状であって、断面図における前記導体を取り囲む該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層が形成する前記矩形の断面形状において、該導体に対して上下または左右で対向する2対の2辺のうちの少なくとも1対の2辺がともに、前記エナメル焼付層の厚さが60μm以下、前記押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下であり、該エナメル焼付層の樹脂がポリアミドイミドであり、該押出被覆樹脂層の樹脂が融点300℃以上370℃以下であり、かつ該耐インバータサージ絶縁ワイヤが、300℃168時間熱処理後の絶縁破壊電圧が熱処理前と比較して90%以上であることを特徴とする耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法に関するものである。
インバータは効率的な可変速制御装置として、多くの電気機器に取り付けられるようになってきている。インバータは数kHz〜数十kHzでスイッチングが行われ、それらのパルス毎にサージ電圧が発生する。インバータサージはその伝搬系内でインピーダンスの不連続点、例えば接続する配線の始端、終端等において反射が発生し、その結果、最大でインバータ出力電圧の2倍の電圧が印加される現象である。特に、IGBT等の高速スイッチング素子により発生する出力パルスは電圧俊度が高く、それにより接続ケーブルが短くてもサージ電圧が高く、更にその接続ケーブルによる電圧減衰も小さく、その結果、インバータ出力電圧の2倍近い電圧が発生する。
インバータ関連機器、例えば高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルにはマグネットワイヤとして、主にエナメル線である絶縁ワイヤが用いられている。しかも前述したように、インバータ関連機器ではそのインバータ出力電圧の2倍近い電圧がかかることから、それら電気機器コイルを構成する材料の一つであるエナメル線のインバータサージ劣化を最小限にすることが要求されるようになってきている。
エナメル線のインバータサージ劣化は、インバータで発生した波高値の高いサージ電圧により絶縁ワイヤに部分放電が起こり、その部分放電により絶縁ワイヤの塗膜が劣化を引き起こす現象、つまり高周波部分放電劣化である。
インバータサージ劣化を抑えるために、エナメル層を厚くすると、製造工程において焼き付け炉を通す回数が多くなり、導体である銅表面の酸化銅からなる被膜の厚さが成長し、それに起因して導体とエナメル層との接着力が低下する。例えば、厚さ60μm以上のエナメル層を得る場合、焼き付け炉を通す回数が12回を超える。12回を超えて焼き付け炉を通すと、導体とエナメル層との接着力が極端に低下することがわかってきた。
一方、焼き付け炉を通す回数を増やさないために1回の焼き付けで塗布できる厚さを厚くする方法もあるが、この方法では、ワニスの溶媒が蒸発しきれずにエナメル層の中に気泡として残るという欠点があった。
ところで、従来、エナメル線の外側に被覆樹脂を設けて特性を高める試みがなされてきた。エナメル層に押出被覆層を設けた従来技術としては、例えば、特許文献1、2等が挙げられる。このような被覆樹脂を設けた絶縁ワイヤにおいては、エナメル層と被覆樹脂との密着性も要求される。これに加え、部分放電開始電圧及び導体とエナメル層との密着性の観点から取り組んだ技術(特許文献3)や、押出被覆樹脂層を2層にする試み(特許文献4)が挙げられる。
また、近年の電気機器では各種性能、例えば耐熱性、機械的特性、化学的特性、電気的特性、信頼性等を従来のものより一段と高度に上げることが要求されるようになってきている。このような中で宇宙用電気機器、航空機用電気機器、原子力用電気機器、エネルギー用電気機器、自動車用電気機器用のマグネットワイヤとして用いられるエナメル線などの絶縁ワイヤには、優れた耐摩耗性、耐熱老化特性、耐溶剤性が要求されるようになってきている。例えば、近年の電気機器において、優れた耐熱老化特性をより長期間にわたって維持できることが要求されることがある。
さらに、近年、モーターやトランスに代表される電気機器はこれらの機器の小型化及び高性能化が進展し、絶縁電線を非常に狭い部分へ押しこんで使用する様な使い方が多く見られるようになった。具体的には、ステータースロット中に何本の電線を入れられるかにより、そのモーターなどの回転機の性能が決定するといっても過言ではない。その結果、ステータースロット断面積に対する導体の断面積の比率(占積率)が非常に高くなってきている。ステータースロットの内部に、丸断面の電線を細密充填した場合、デッドスペースとなる空隙と絶縁皮膜の断面積が問題となる。このため、占積率を向上させる手段として、ごく最近では導体の断面形状が四角型(正方形や長方形)に類似した平角線を使用することが試みられている。平角線の使用は、占積率の向上には劇的な効果を示すが、平角導体上に絶縁皮膜を均一に塗布することが難しく、特に断面積の小さい絶縁電線には絶縁皮膜の厚さの制御が難しいことから、あまり普及していない。
モーターやトランスのコイル巻を行う場合に必要な絶縁皮膜の特性としては、コイル加工前後での電気絶縁性維持の特性(以下、加工前後での電気絶縁性維持特性という。)がある。導体の断面形状が平角線であっても、コイル加工工程によって、電線皮膜に損傷が生じるときは電気絶縁性能が低下し、製品の信頼性を失う結果となる。
この加工前後での電気絶縁性維持特性を電線皮膜に付与する方法は各種の方法が考えられている。例えば、皮膜に潤滑性を付与して摩擦係数を下げコイル加工時の外傷を少なくする方法などである。
しかしながら、皮膜に潤滑性能を付与させても電線皮膜自体の強度を向上させる訳ではないので、外傷要因に対しては効果があるように見えるが、実際にはコイル加工時の効果に限界があった。
一方、導体上のエナメル層と押出被覆樹脂層の間に、接着層を設けることも行われている(特許文献3、4参照)。
特公平7−031944号公報 特開昭63−195913号公報 特開2005−203334号公報 特開2010−123390号公報
本発明は、導体とこれを被覆する樹脂層との接着強度、エナメル層と押出被覆樹脂層のような皮膜層間での接着強度、耐摩耗性、耐溶剤性及び加工前後での電気絶縁性維持特性のいずれにも優れ、さらに長期間にわたって優れた耐熱老化特性を維持し得る耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記の従来技術、特に特許文献3や4に示されている絶縁ワイヤでは、皮膜層間の接着強度が十分でないことから、エナメル層と押出被覆樹脂層の間に接着層を設けた絶縁ワイヤにおいて、更なる検討を行った。
この結果、エナメル層と押出被覆樹脂層の間に接着層を設けた絶縁ワイヤにおいて、押出被覆樹脂層を構成する樹脂の特性、接着層の厚さ、エナメル層及び押出被覆樹脂層それぞれの厚さ及び合計の厚さが課題解決に重要であることを見出した。本発明は、この知見に基づきなされたものである。
すなわち、上記課題は以下の手段により解決される。
(1)矩形状の断面を有する導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼付層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層とを有する耐インバータサージ絶縁ワイヤであって、該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層との間に厚さ2〜20μmの接着層を有し、該接着層上の押出被覆樹脂層がいずれも同一の樹脂からなり、耐インバータサージ絶縁ワイヤの断面における前記エナメル焼付層と前記押出被覆樹脂層の断面形状が矩形状であって、断面図における前記導体を取り囲む該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層が形成する前記矩形の断面形状において、該導体に対して上下または左右で対向する2対の2辺のうちの少なくとも1対の2辺がともに、前記エナメル焼付層の厚さが60μm以下、前記押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下であり、該エナメル焼付層の樹脂がポリアミドイミドであり、該押出被覆樹脂層の樹脂が融点300℃以上370℃以下であり、かつ該耐インバータサージ絶縁ワイヤが、300℃168時間熱処理後の絶縁破壊電圧が熱処理前と比較して90%以上であることを特徴とする耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(2)前記押出被覆樹脂層が、1層であることを特徴とする(1)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(3)前記耐インバータサージ絶縁ワイヤの皮膜層間の接着強度が、100g以上400g未満であることを特徴とする(1)または(2)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(4)断面図における前記導体を取り囲む前記エナメル焼付層と前記押出被覆樹脂層が形成する前記矩形の断面形状において、該導体に対して上下または左右で対向する2対の2辺のうちの少なくとも1対の2辺がともに、該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層との合計厚さが80μm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(5)前記押出被覆樹脂層が、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド及び芳香族ポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂の層であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(6)前記接着層が、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルホン及びポリエーテルサルホンからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂の層であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(7)前記エナメル焼付層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けて前記接着層を形成し、その後、該接着層に用いる樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で溶融状態となる、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を該接着層に押出して接触させ、該エナメル焼付層に該接着層を介して該押出被覆樹脂を熱融着させて該押出被覆樹脂層を形成することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤの製造方法。
本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、導体とこれを被覆する樹脂層との接着強度、エナメル層と押出被覆樹脂層のような皮膜層間での接着強度、耐摩耗性、耐溶剤性及び加工前後での電気絶縁性維持特性のいずれにも優れ、さらに長期間にわたって優れた耐熱老化特性を維持ことができる。
本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼付層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有し、かつ該エナメル層と該押出被覆樹脂層の間に接着層を有する耐インバータサージ絶縁ワイヤである。
従って、本発明では、導体の外周に、少なくともエナメル焼付層、接着層および押出被覆樹脂層を有する耐インバータサージ絶縁ワイヤにおいて、本発明の課題を解決するものである。
接着層の厚みは2〜20μmであり、エナメル焼付層の厚さが60μm以下、押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下であり、エナメル焼付層の樹脂がポリアミドイミドであり、該押出被覆樹脂層の樹脂が融点300℃以上370℃以下であり、かつ該耐インバータサージ絶縁ワイヤが、300℃168時間熱処理後の絶縁破壊電圧が熱処理前と比較して90%以上である。
(導体)
本発明の絶縁ワイヤにおける導体としては、従来、絶縁ワイヤで用いられているものを使用することができるが、好ましくは、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅、さらに好ましくは20ppm以下の低酸素銅または無酸素銅の導体である。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
また、導体はその横断面が所望の形状のものを使用できるが、ステータースロットに対する占有率の点で、円形以外の形状を有するものが好ましく、特に平角形状のものが好ましい。更には、角部からの部分放電を抑制するという点において、4隅に面取り(半径r)を設けた形状であることが望ましい。
(エナメル焼付層)
本発明の絶縁ワイヤにおけるエナメル焼付層(以下、単に「エナメル層」ともいう)は、エナメル樹脂で少なくとも1層に形成され、1層であっても複数層であってもよい。
なお、本発明において、1層とは、層を構成する樹脂および含有する添加物が全く同じ層を積層した場合は同一層とするものであり、同一樹脂で構成されていても添加物の種類や配合量が異なるなど、層を構成する組成物が異なる場合を層の数としてカウントする。
これは、エナメル層以外の他の層においても同様である。
本発明では、エナメル層を形成するエナメル樹脂として、ポリアミドイミドを使用する。
本発明では、エナメル樹脂層が複数層で積層される場合は、これらの層間で同一の樹脂を使用するのが好ましく、各層とも1種の樹脂からなるのが好ましい。本発明では、エナメル層が1層の場合が特に好ましい。
エナメル層の厚さは、厚肉化しても、エナメル層を形成するときの焼付炉を通す回数を減らし、導体とエナメル層との接着力が極端に低下することを防止できる点で、60μm以下であり、50μm以下であるのが好ましい。また、絶縁ワイヤとしてのエナメル線に必要な特性である、耐電圧特性、耐熱特性を損なわないためには、エナメル層がある程度の厚さを有しているのが好ましい。エナメル層の厚さは、ピンホールが生じない程度の厚さであれば特に制限されるものではなく、好ましくは3μm以上、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは30μm以上である。この好適な実施態様においては、一方の2辺及び他方の2辺に設けられたエナメル層の厚さそれぞれが60μm以下になっている。
このエナメル層は、上述のエナメル樹脂を含む樹脂ワニスを導体上に好ましくは複数回塗布、焼付して形成することができる。樹脂ワニスを塗布する方法は、常法でよく、例えば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法、導体断面形状が四角形であるならば井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いる方法が挙げられる。これらの樹脂ワニスを塗布した導体は常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼付条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400〜500℃にて通過時間を10〜90秒に設定することにより達成することができる。
(押出被覆樹脂層)
本発明の絶縁ワイヤにおける押出被覆樹脂層は、エナメル層の外側に少なくとも1層設けられ、1層であっても複数層であってもよい。なお、本発明においては、押出被覆樹脂層を複数層有する場合は、各層間で同一の樹脂が使用される。すなわち、エナメル層側に最も近い押出被覆樹脂層に含まれる樹脂と同じ樹脂で形成された層が積層される。ここで、樹脂が同じであれば、各層間で樹脂以外の添加物の有無、種類、配合量が異なっていてもよい。本発明では、押出被覆樹脂層は1層または2層が好ましく、1層が特に好ましい。
押出被覆樹脂層は熱可塑性樹脂の層であり、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂は、押出成形可能な熱可塑性樹脂であって、耐熱老化特性に加えて、加工前後での電気絶縁性維持特性、エナメル層と押出被覆樹脂層と接着強度及び耐溶剤性にも優れる点で、融点が310℃以上370℃以下の熱可塑性樹脂を使用する。融点の下限は330℃以上が好ましく、融点の上限は360℃以下が好ましい。熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量分析(DSC)により、後述する方法によって、測定できる。
この熱可塑性樹脂は、比誘電率が、4.5以下が好ましく、4.0以下がさらに好ましい。ここで、比誘電率とは市販の誘電率測定装置で測定することができる。測定温度、周波数については、必要に応じて変更するものであるが、本発明においては、特に記載の無い限り、25℃、50Hzにおいて測定した値を意味する。
押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、芳香環を有するポリアミド(芳香族ポリアミドという)、芳香環を有するポリエステル(芳香族ポリエステルという)、ポリケトン(PK)等が挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド及び芳香族ポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく、特にポリエーテルエーテルケトン樹脂、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂が好ましい。これらの熱可塑性樹脂の中から、融点が300℃以上で、好ましくは比誘電率が4.5以下である熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂は1種でもよく、2種以上を用いてもよい。なお、熱可塑性樹脂は、少なくとも融点が上記の範囲から外れない程度であれば、他の樹脂やエラストマー等をブレンドしたものでもよい。
本発明では、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂が好ましいが、これらを単独でもブレンドしたものでもよいが、単独で使用するのがなかでも好ましい。
押出被覆樹脂層の厚さは、200μm以下であり、180μm以下が発明の効果を実現する上で好ましい。押出被覆樹脂層の厚さが厚すぎると、絶縁ワイヤを鉄芯に巻付け、加熱した際に絶縁ワイヤ表面に白色化した箇所が生じることがある。このように、押出被覆樹脂層が厚すぎると、押出被覆樹脂層自体に剛性があるため、絶縁ワイヤとしての可撓性に乏しくなって、加工前後での電気絶縁性維持特性の変化に影響することがある。一方、押出被覆樹脂層の厚さは、絶縁不良を防止できる点で、5μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。この好適な実施態様においては、一方の2辺及び他方の2辺に設けられた押出被覆樹脂層の厚さそれぞれが200μm以下になっている。
押出被覆樹脂層は、導体に形成したエナメル層に上述の熱可塑性樹脂を押出成形して形成することができる。押出成形時の条件、例えば、押出温度条件は、用いる熱可塑性樹脂に応じて適宜に設定される。好ましい押出温度の一例を挙げると、具体的には、押出被覆に適した溶融粘度にするために融点よりも約40℃〜60℃高い温度で押出温度を設定する。このように、押出成形によって押出被覆樹脂層を形成すると、製造工程にて被覆樹脂層を形成する際に焼き付け炉を通す必要がないため、導体の酸化被膜層の厚さを成長させることなく、絶縁層すなわち押出被覆樹脂層の厚さを厚くできるという利点がある。
押出成形によって押出被覆樹脂層を形成する場合に、熱可塑性樹脂をエナメル層上に押出成形した後に10秒以上の時間を空けて冷却、例えば水冷するか、又は、熱可塑性樹脂をエナメル層上に押出成形した後に約250℃まで例えば水冷し、次いで外気温に2秒以上晒すと、所望の絶縁破壊電圧を維持できる。
(接着層)
接着層は、熱可塑性樹脂の層であり、熱可塑性樹脂はエナメル層に押出被覆樹脂層を熱融着可能な樹脂であればいずれの樹脂を用いてもよい。このような樹脂として、ワニス化する必要性があることから溶剤に溶けやすい非結晶性樹脂であるのが好ましい。さらには、絶縁ワイヤとしての耐熱性を低下させないためにも耐熱性に優れた樹脂であるのが好ましい。これらのことを考慮すると、好ましい熱可塑性樹脂として、例えば、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニルサルホン(PPSU)等が挙げられる。これらの中でも、ガラス転移温度(Tg)が200℃を超え、耐熱性に優れた非結晶性樹脂である、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルホン及びポリエーテルサルホンからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂であるのが好ましく、押出被覆樹脂と相溶性が高いポリエーテルイミドがさらに好ましい。
接着層の厚さは、2〜20μmであり、3〜15μmがより好ましく、3〜12μmがさらに好ましく、3〜10μmが特に好ましい。
また、接着層は2層以上の積層構造であっても構わないが、この場合、各層の樹脂は互いに同じ樹脂が好ましい。本発明においては、接着層は1層が好ましい。
押出被覆樹脂層とエナメル層の間の接着力が十分でない場合、過酷な加工条件例えば小さな半径に曲げ加工される場合には、曲げの円弧内側に、押出被覆樹脂層のシワが発生する場合がある。このようなシワが発生すると、エナメル層と押出被覆樹脂層との間に空間が生じることから、曲げの円弧内側にシワが生じないようにする必要があり、エナメル層と押出被覆樹脂層との間に接着機能を有する層を導入して接着強度をさらに高めることで、上記のようなシワの発生を高度に防ぐことができる。本発明の絶縁ワイヤは、エナメル層と押出被覆樹脂層との接着強度が高いので、インバータサージ劣化を効果的に防止できる。また、エナメル層と押出被覆樹脂層との接着強度をさらに高めることによって、加工時の層間剥離等の問題を解決することができる。
接着層は、導体に形成したエナメル層に上述の熱可塑性樹脂を焼き付けて形成することができる。このような接着層を有する、本発明の別の好適な実施態様における絶縁ワイヤは、好適には、エナメル層の外周に、ワニス化された熱可塑性樹脂を焼き付けて接着層を形成し、その後、押出被覆工程において接着層に用いられる樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で溶融状態にある、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を接着層上に押出して接触させることで、エナメル層と押出被覆樹脂層とを熱融着させて、製造することができる。
この製造方法において、接着層、すなわちエナメル層と押出被覆樹脂層を十分に熱融着させるためには、押出被覆工程における、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の加熱温度は、接着層を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上であるのが好ましく、さらに好ましくはTgよりも30℃以上高い温度、特に好ましくはTgよりも50℃以上高い温度である。ここで、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の加熱温度は、ダイス部の温度である。
接着層を形成する熱可塑性樹脂をワニス化する溶剤は、選択した熱可塑性樹脂を溶解させ得る溶剤であればいずれでもよい。
この好適な実施態様において、エナメル層と押出被覆樹脂層との合計厚さは80μm以上であることが好ましい。合計厚さが50μm以上であると、インバータサージ劣化防止の観点で好ましい。この合計厚さは、インバータサージ劣化を高度に防止できる点で、100μm以上であるのが特に好ましい。この好適な実施態様においては、少なくとも、一方の2辺のエナメル層と押出被覆樹脂層との合計厚さは80μm以上で他方の1辺のエナメル層と押出被覆樹脂層との合計厚さは50μm以上であるのが好ましく、両方の2辺に設けられたエナメル層および押出被覆樹脂層の合計厚さがともに80μm以上になっている場合がなかでも好ましく、少なくとも一方の2辺の上記合計厚さが100μm以上である場合がより好ましく、両方の2辺の上記合計厚さがともに100μm以上の場合が特に好ましい。
なお、押出被覆樹脂層の厚さが、該断面の一対の対向する2辺と他の一対の対向する2辺とで異なる場合は、一対の対向する2辺の厚さを1とした時もう1対の対向する2辺の厚さは1.01〜5の範囲にするのが好ましく、さらに好ましくは1.01〜3の範囲である。
このように、エナメル層の厚さを60μm以下、押出被覆樹脂層の厚さを200μm以下、かつエナメル層及び押出被覆樹脂層の合計厚さを80μm以上にすると、インバータサージ劣化の防止、導体とこれを被覆する樹脂層との接着強度、エナメル層と押出被覆樹脂層のような皮膜層間での接着強度を満足できる。なお、エナメル層と押出被覆樹脂層との合計厚さは、260μm以下が好ましく、加工前後での電気絶縁性維持特性を考慮し、問題なく加工できるためには235μm以下がより好ましい。
したがって、この好適な実施態様における絶縁ワイヤは、導体とエナメル層などの被覆層との接着強度及び皮膜層間の接着強度の接着強度がいずれも高い。これらの接着強度は、例えば、JIS C 3003エナメル線試験方法の、8.密着性、8.1b)ねじり法と同じ要領で行い、エナメル層の浮きが生じるまでの回転数で評価することができる。断面方形の平角線においても同様に行うことができる。本発明において、エナメル層の浮き、もしくは、皮膜層間では上層の皮膜層の浮きが生じるまでの回転数は15回転以上であるものを密着性の良いものとし、この好適な実施態様における絶縁ワイヤは15回転以上の回転数になる。
導体と被覆層(皮膜層)の接着強度及び皮膜層間の接着強度は具体的には以下のようにして測定され、これらの好ましい接着強度は以下の通りである。
(導体との接着強度)
絶縁ワイヤの導体に最も近い絶縁被覆層のみを一部剥離した電線試料を引張試験機(例えば、島津製作所製の引張試験機「オートグラフAG−X」)にセットし、4mm/minの速度で押出被覆樹脂層を上方へ引き剥がす(180℃剥離)際に、浮きが生じた引張荷重が接着強度である。
浮きが生じた引張荷重が、20g以上100g未満である場合が好ましく、40g以上100g未満がなかでも好ましい。
(皮膜層間の接着強度)
絶縁ワイヤの押出被覆樹脂層のみを一部剥離した電線試料を引張試験機(例えば、島津製作所製の引張試験機「オートグラフAG−X」)にセットし、4mm/minの速度で押出被覆樹脂層を上方へ引き剥がす(180℃剥離)際に、浮きが生じた引張荷重が接着強度である。
浮きが生じた引張荷重が、100g以上400g未満である場合が好ましい。
皮膜層間の接着強度が400g以上の場合、接着強度が強すぎるため、2層のうち一方の層が酸化劣化もしくは熱劣化をして皮膜に亀裂が生じた場合に、もう一方の層は劣化していなくても亀裂発生の原因となった層と共に亀裂を起こすことがある。
本発明の絶縁ワイヤは、絶縁性能にも優れている。この絶縁性能の優劣は、電線の絶縁破壊電圧値の高低で判断することができる。絶縁破壊電圧が高いと、電線としての信頼性が高いことを示す。エナメル層がPAI(40μm)、接着層がPEI(6μm)、押出被覆樹脂層がPEEK(20μm)の全体皮膜厚が66μmや、エナメル層がPAI(15μm)、接着層がPEI(6μm)、押出被覆樹脂層がPEEK(42μm)の全体皮膜厚が63μmの絶縁ワイヤの絶縁破壊電圧が10kVに満たないことから、電線としての信頼性が低いと言わざるを得ない。一方で、エナメル層がPAI(40μm)、接着層がPEI(5μm)、押出被覆樹脂層がPEEK(40μm)の全体皮膜厚が85μmの絶縁ワイヤの絶縁破壊電圧は10kVを超え、電線としての信頼性は十分に満足する。全体皮膜厚が85μm以上の絶縁ワイヤは、さらに高い信頼性を持っていると言える。
絶縁破壊電圧の測定方法は、以下の通りである。直状片の絶縁ワイヤを300mm切り出し、中央部にアルミホイルを巻きつけ、300mmの一方の端末の被覆層を剥離し、端末剥離箇所とアルミホイル部の間に通電する。500V/minで昇圧させ、絶縁破壊を起こした電圧を読み取る。
本発明の絶縁ワイヤの全体皮膜厚は、上記の絶縁性能の点で、85μm以上が好ましく、85μm以上280μm未満がより好ましく、85〜250μmがさらに好ましい。
本発明の絶縁ワイヤは、耐熱老化特性に優れている。この耐熱老化特性は、高温の環境で使用されても長時間、絶縁性能が低下しないという信頼性を保つための指標になるものであり、300℃168時間熱処理後の絶縁破壊電圧が熱処理前の絶縁破壊電圧と比較して90%以上である。
300℃熱処理後の絶縁破壊電圧は以下のようにして測定し、絶縁破壊電圧変化比率を求める。
(300℃熱処理後絶縁破壊電圧測定)
直状片の絶縁ワイヤを300mm切り出し、300℃168時間加熱処理する。加熱処理後、中央部にアルミホイルを巻きつけ、300mmの一方の端末の被覆層を剥離し、端末剥離箇所とアルミホイル部の間に通電する。500V/minで昇圧させ、絶縁破壊を起こした電圧を測定する。
この電圧をVとし、加熱前絶縁破壊電圧をVとした場合、絶縁破壊電圧変化比率を下記式で求める。
絶縁破壊電圧変化比率=(V/V)×100
本発明においては、加工前後での電気絶縁性維持特性にも優れる。
加工前後での電気絶縁性維持特性は、以下のように、鉄芯に巻付け、加熱前後での絶縁破壊電圧を測定して評価する。
(鉄芯巻付、加熱後絶縁破壊電圧測定)
加熱前後での電気絶縁性維持特性を次のようにして評価する。
絶縁ワイヤを直径が30mmの鉄芯に巻付けて恒温槽内で280℃まで昇温させて30分保持する。恒温槽から取り出した後に、鉄芯に巻き付けたままの状態で鉄芯を銅粒に挿し込んで巻き付けた一端を電極につなぎ、10kVの電圧において絶縁破壊を起こすことなく1分間の通電を保持できることが好ましい。
本発明の絶縁ワイヤは、上述のように、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を選択し、導体と被覆層や皮膜層間の接着強度が高く、昨今絶縁ワイヤに要求されている、耐摩耗性及び耐溶剤性にも優れる。耐摩耗性は、絶縁ワイヤをモーター等へ加工した場合にうける傷の度合いの指標になり、静摩擦係数はステータースロット中への挿入しやすさの度合いになる。耐溶剤性は使用環境や組立工程の多様化から絶縁ワイヤに必要とされている。
耐摩耗性は、例えば、25℃で、JIS C 3003エナメル線試験方法の、9.耐摩耗(丸線)と同じ要領で評価することができる。断面形状が平角線の場合は四隅のコーナーについて行う。具体的には、JIS C 3003で決められた摩耗試験機を用いて、ある荷重下で皮膜が剥離するまで一方向に滑らせる。皮膜が剥離した目盛を読み取り、この目盛値と使用した荷重との積が2000g以上であると非常に優れたものと評価できる。本発明の絶縁ワイヤは、上述の目盛値と使用した荷重の積が2000g以上になる。
耐溶剤性は、例えば、JIS C 3003エナメル線試験方法の、7.可撓性に従って巻き付けたものを溶剤に10秒間浸漬後、エナメル層または押出被覆樹脂層の表面を目視にて確認して行うことができる。本発明においては、アセトン、キシレン及びスチレンの3種類の溶剤を用いて行い、温度は常温と150℃(試料を150℃×30分加熱後に熱い状態で溶剤へ浸漬する)の2水準によって行い、エナメル層または押出被覆樹脂層の表面にいずれも異常が無いと非常に優れたものと評価できる。本発明の絶縁ワイヤは、アセトン、キシレンまたはスチレンのいずれの溶剤であっても、また常温及び150℃であっても、エナメル層及び押出被覆樹脂層の表面にも以上は見られない。
(絶縁ワイヤの製造方法)
絶縁ワイヤの製造方法は、個々の層で説明した通りである。
すなわち、前記エナメル焼付層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けて前記接着層を形成し、その後、該接着層に用いる樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で溶融状態となる、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を該接着層に押出して接触させ、該エナメル焼付層に該接着層を介して該押出被覆樹脂を熱融着させて該押出被覆樹脂層を形成する。
ここで、本発明では、接着層は、押出加工で被覆するのでなく、ワニス化した樹脂を塗布して設けるものである。
本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、導体とこれを被覆する樹脂層との接着強度、エナメル層と押出被覆樹脂層のような皮膜層間での接着強度、耐摩耗性、耐溶剤性及び加工前後での電気絶縁性維持特性のいずれにも優れ、さらに長期間にわたって優れた耐熱老化特性を維持することができる。
したがって、本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤ(以下、単に「絶縁ワイヤ」という)は、耐熱巻線用として好適であり、例えば、インバータ関連機器、高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルや宇宙用電気機器、航空機用電気機器、原子力用電気機器、エネルギー用電気機器、自動車用電気機器用のマグネットワイヤ等に用いることができる。
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
1.8×3.4mm(厚さ×幅)で四隅の面取り半径r=0.3mmの平角導体(酸素含有量15ppmの銅)を準備した。エナメル層の形成に際しては、導体の形状と相似形のダイスを使用して、ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニス(日立化成(株)製、商品名:HI406)を導体へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、この1回の焼き付け工程で厚さ5μmのエナメルを形成した。これを繰り返し8回行うことで厚さ40μmのエナメル層を形成し、エナメル線を得た。
次に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリエーテルイミド樹脂(PEI)(サビックイノベーティブプラスチックス製、商品名:ウルテム1010)を溶解させ、20質量%溶液とした樹脂ワニスを、導体の形状と相似形のダイスを使用して、前記エナメル線へコーティングし、450℃に設定した炉長8mの焼付炉内を、焼き付け時間15秒となる速度で通過させ、これを繰り返し1回行うことで厚さ5μmの接着層を形成し(1回の焼き付け工程で形成される厚さは5μm)、厚さ45μmの接着層付きエナメル線を得た。
得られた接着層付きエナメル線を心線とし、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。材料はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:キータスパイアKT−820、比誘電率3.1)を用い、押出温度条件は表1に従って行った。C1、C2、C3は押出機内のシリンダー温度を示し、樹脂投入側から順に3ゾーンの温度をそれぞれ示す。Hはヘッド部、Dはダイス部の温度を示す。なお、このときの、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の押出温度は、D地点(400℃)で接着層を形成するPEIのガラス転移温度(217℃)よりも183℃高かった。押出ダイを用いてPEEKの押出被覆を行った後、10秒の時間を空けて水冷してエナメル層の外側に厚さ40μmの押出被覆樹脂層を形成した。このようにして、合計厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)80μmの、PEEK押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。
(実施例2〜17、並びに比較例1〜5、8および参考例1、2)
エナメル層の樹脂、接着層の樹脂、押出被覆樹脂層の樹脂の種類および厚みを下記表2〜5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして各絶縁ワイヤを得た。なお、押出温度条件は表1に従って行った。なお、表2〜5では押出樹脂被覆層を「押出被覆層」として示している。
ここで、表2〜5において、実施例9および10の接着層にはポリフェニルサルホン樹脂(PPSU)(ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:レーデルR5800、ガラス転移温度220℃)を使用した。また、押出被覆樹脂層は、実施例13では、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)(ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:アバスパイアAV−650、比誘電率3.1)を使用した。
(押出温度条件)
実施例及び比較例における押出温度条件を下記表1に示す。
表1において、C1、C2、C3は押出機のシリンダー部分における温度制御を分けて行っている3ゾーンを材料投入側から順に示したものである。また、Hは押出機のシリンダーの後ろにあるヘッドを示す。また、Dはヘッドの先にあるダイを示す。
Figure 2015099742
(比較例6および7)
エナメル層の樹脂に、実施例1で使用したポリアミドイミド樹脂(PAI)を使用し、接着層の樹脂にフェノキシ樹脂を使用して、実施例1と同様にして、下記表5に示す厚みの接着層付きエナメル線を得た。押出被覆樹脂層を、下記表5に示すように異なった樹脂で、接着層側に、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)(住友化成(株)製、商品名:スミカエクセル4800G)、接着層と反対側に実施例13で使用した変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(変性PEEK)またはポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)(DIC製、商品名:FZ−2100、比誘電率3.4)となるように押出被覆樹脂層を形成した。なお、実施例1とは異なり、押出ダイを用いて押出被覆を行った後の水冷は行わなかった。
このようにして製造した、実施例1〜17、比較例1〜8および参考例1、2の絶縁ワイヤについて以下の測定を行った。
(融点の測定)
押出被覆樹脂層10mgを、熱分析装置「DSC−60」(島津製作所製)を用いて、5℃/minの速度で昇温させたときの、250℃を超える領域で見られる融解に起因する熱量のピーク温度を読み取って、融点とした。なお、ピーク温度が複数存在する場合には、より高温のピーク温度を融点とする。
(絶縁破壊電圧変化比率の測定)
直状片の絶縁ワイヤを300mm切り出し、300℃168時間加熱処理した。加熱処理後、中央部にアルミホイルを巻きつけ、300mmの一方の端末の被覆層を剥離し、端末剥離箇所とアルミホイル部の間に通電した。500V/minで昇圧させ、絶縁破壊を起こした電圧を測定した。
この電圧をVとし、加熱前絶縁破壊電圧をVとした場合、絶縁破壊電圧変化比率は下記式で求まる。
絶縁破壊電圧変化比率=(V/V)×100
後述の表2〜5には、得られた絶縁破壊電圧変化比率が90%以上100%以下であった場合を「A」、70%以上90%未満であった場合を「B」、30%以上70%未満であった場合を「C」、30%未満であった場合を「D」として示した。
次に、実施例1〜17および比較例1〜8の絶縁ワイヤについて、以下の電線特性の評価を行った。なお、参考データとして、表5に、参考例1および2のデータも記載した。
(鉄芯巻付、加熱後絶縁破壊電圧測定)
加熱前後での電気絶縁性維持特性を次のようにして評価した。すなわち、絶縁ワイヤを直径が30mmの鉄芯に巻付けて恒温槽内で280℃まで昇温させて30分保持した。恒温槽から取り出した後に、鉄芯に巻き付けたままの状態で鉄芯を銅粒に挿し込んで巻き付けた一端を電極につなぎ、10kVの電圧において絶縁破壊を起こすことなく1分間の通電を保持できれば合格である。表2〜5において、合格を「○」で示し、不合格を「×」で示した。なお、10kVの電圧の通電を1分間保持できず、絶縁破壊した場合を不合格とした。絶縁破壊する場合、電線の可撓性が乏しくなり電線表面に白化等変化が生じ、亀裂まで生じることもある。
(導体との接着強度)
まず、絶縁ワイヤの導体に最も近い絶縁被覆層のみを一部剥離した電線試料を島津製作所製の引張試験機「オートグラフAG−X」にセットし、4mm/minの速度で押出被覆樹脂層を上方へ引き剥がした(180℃剥離)。
その際に読み取った引張荷重が40g以上100g未満であった場合を表2〜5に「◎」で示し、20g以上40g未満であった場合を「○」で示し、20g未満であった場合を「×」で示した。
(皮膜層間の接着強度)
まず、絶縁ワイヤの押出被覆樹脂層のみを一部剥離した電線試料を島津製作所製の引張試験機「オートグラフAG−X」にセットし、4mm/minの速度で押出被覆樹脂層を上方へ引き剥がした(180℃剥離)。
その際に読み取った引張荷重が100g以上400g未満であった場合を表2〜5に「◎」で示し、40g以上100g未満であった場合を「○」で示し、40g未満であった場合を「×」で示した。
(総合評価)
総合評価は、優れた耐熱老化特性をより長期間にわたって維持できることを含め、絶縁破壊電圧変化比率が90%以上を満たすとともに、鉄芯巻付、加熱後絶縁破壊電圧、導体との接着強度及び皮膜間の接着強度がいずれも「○」である場合、総合評価は「○」であり、これ以外の場合の総合評価は「×」である。
これらの結果をまとめて、下記表2〜5に示す。
Figure 2015099742
Figure 2015099742
Figure 2015099742
Figure 2015099742
上記表2〜5から明らかなように、厚さ2〜20μmの接着層を有し、エナメル焼付層の厚さが60μm以下、前記押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下であり、押出被覆樹脂層の樹脂が融点300℃以上370℃以下であり、絶縁破壊電圧変化比率が90%以上であると、導体と被覆層の接着強度及び皮膜層間の接着強度、耐摩耗性、耐溶剤性及び加工前後での電気絶縁性維持特性のいずれにも優れることがわかった。
しかも、絶縁破壊電圧変化比率が90%以上であることで、長期間に及ぶ耐熱老化特性を満足できる。
具体的には、実施例1〜17に対して、比較例1、8のように接着層のみを有さないと、皮膜層間の接着強度が劣る。また、比較例2のようにエナメル層がなかったり、比較例3および4のようにエナメル層の厚みが厚いと導体との接着強度に劣る。一方で、比較例5のように、押出被覆樹脂層の厚みが200μmを超えると鉄芯巻付、加熱後絶縁破壊電圧評価に劣る。また、比較例6および7では皮膜層間の接着強度が劣っている。これは、主に、押出被覆樹脂層が異なった樹脂で形成される2層の積層構造のために、特に、この押出被覆樹脂層間での接着強度が劣るためと考えられる。なお、比較例1、8との比較から、参考例1、2は、押出被覆樹脂層のみか、エナメル焼付け層と接着層を有して押出被覆樹脂層のみ有さないものであるが、これらはいずれも絶縁破壊電圧変化比率が90%未満となり、加熱による破壊電圧の変化が大きい点で不十分である。
なお、実施例1〜17の各絶縁電線が上述の耐摩耗性および耐溶剤性を満たしていることを確認している。

Claims (7)

  1. 矩形状の断面を有する導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼付層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層とを有する耐インバータサージ絶縁ワイヤであって、該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層との間に厚さ2〜20μmの接着層を有し、該接着層上の押出被覆樹脂層がいずれも同一の樹脂からなり、耐インバータサージ絶縁ワイヤの断面における前記エナメル焼付層と前記押出被覆樹脂層の断面形状が矩形状であって、断面図における前記導体を取り囲む該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層が形成する前記矩形の断面形状において、該導体に対して上下または左右で対向する2対の2辺のうちの少なくとも1対の2辺がともに、前記エナメル焼付層の厚さが60μm以下、前記押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下であり、該エナメル焼付層の樹脂がポリアミドイミドであり、該押出被覆樹脂層の樹脂が融点300℃以上370℃以下であり、かつ該耐インバータサージ絶縁ワイヤが、300℃168時間熱処理後の絶縁破壊電圧が熱処理前と比較して90%以上であることを特徴とする耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  2. 前記押出被覆樹脂層が、1層であることを特徴とする請求項1に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  3. 前記耐インバータサージ絶縁ワイヤの皮膜層間の接着強度が、100g以上400g未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  4. 断面図における前記導体を取り囲む前記エナメル焼付層と前記押出被覆樹脂層が形成する前記矩形の断面形状において、該導体に対して上下または左右で対向する2対の2辺のうちの少なくとも1対の2辺がともに、該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層との合計厚さが80μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  5. 前記押出被覆樹脂層が、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド及び芳香族ポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂の層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  6. 前記接着層が、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルホン及びポリエーテルサルホンからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂の層であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
  7. 前記エナメル焼付層の外周に、ワニス化された樹脂を焼き付けて前記接着層を形成し、その後、該接着層に用いる樹脂のガラス転移温度よりも高い温度で溶融状態となる、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂を該接着層に押出して接触させ、該エナメル焼付層に該接着層を介して該押出被覆樹脂を熱融着させて該押出被覆樹脂層を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤの製造方法。
JP2013239964A 2013-11-20 2013-11-20 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法 Pending JP2015099742A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013239964A JP2015099742A (ja) 2013-11-20 2013-11-20 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013239964A JP2015099742A (ja) 2013-11-20 2013-11-20 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2015099742A true JP2015099742A (ja) 2015-05-28

Family

ID=53376228

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2013239964A Pending JP2015099742A (ja) 2013-11-20 2013-11-20 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2015099742A (ja)

Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2005203334A (ja) * 2003-12-17 2005-07-28 Furukawa Electric Co Ltd:The 絶縁ワイヤおよびその製造方法

Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2005203334A (ja) * 2003-12-17 2005-07-28 Furukawa Electric Co Ltd:The 絶縁ワイヤおよびその製造方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5972244B2 (ja) 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法
JP6325550B2 (ja) 平角電線およびその製造方法並びに電気機器
JP5391341B1 (ja) 耐インバータサージ絶縁ワイヤ
JP4177295B2 (ja) 耐インバータサージ絶縁ワイヤおよびその製造方法
KR101898356B1 (ko) 평각 절연 전선 및 전동 발전기용 코일
JP2014110241A5 (ja)
JP2013033607A (ja) 絶縁電線及びその製造方法
JP5454297B2 (ja) 絶縁電線
JP4904312B2 (ja) 耐インバータサージ絶縁ワイヤおよびその製造方法
JP5516303B2 (ja) 絶縁電線およびその製造方法
US20230083970A1 (en) Magnet wire with thermoplastic insulation
JP2015099742A (ja) 耐インバータサージ絶縁ワイヤ及びその製造方法
JP5561238B2 (ja) 絶縁電線及びその製造方法
JP2011210519A (ja) 絶縁電線
JP6519231B2 (ja) 巻線及びその製造方法
JP2015228285A (ja) 巻線及びその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20150406

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20150930

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20151104

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20151225

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20160315