以下、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図において、共通の機能を有する部材間、又は、相互に対応する機能を有する部材間には、原則として共通の参照符号を付するものとする。また、説明の便宜のため、部材のサイズ及び形状は、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の概要〕
はじめに、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の概要について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の概要を表す構成図である。
本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10は、油圧回路を媒介して制動力を発生させる既存のブレーキシステムに加えて、電気回路を媒介して制動力を発生させる、バイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムを備えている。車両用制動力発生装置10は、不図示の電気自動車(以下、単に“車両”という。)に搭載されている。
車両用制動力発生装置10は、図1に示すように、運転者による制動操作を、ブレーキペダル(不図示)を通して受け付ける液圧発生装置14と、少なくとも運転者による制動操作に応じた電気信号に基づくブレーキ液圧を発生するESB装置(本発明の“第1の電動制動装置”に相当する。)16と、ESB装置16で発生したブレーキ液圧に基づき車両の挙動の安定化を支援するビークル・スタビリティ・アシスト装置18(以下、“VSA装置18”と省略する。ただし、VSAは登録商標;本発明の“第2の電動制動装置”に相当する。)と、を備えて構成されている。
液圧発生装置14、ESB装置16、及び、VSA装置18のそれぞれは、図1に示すように、配管チューブ22a〜22fを介して相互に分離するように設けられている。バイ・ワイヤ式のブレーキシステムを構成する液圧発生装置14及びESB装置16は、不図示の電線を介して、後記するECU(Electronic Control Unit)111(図2参照)と電気的に接続されている。液圧発生装置14及びESB装置16の内部構成について、詳しくは後記する。
VSA装置18は、制動操作時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時等の車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能等を備えて構成されている。
VSA装置18は、図1に示すように、ブレーキ液圧を増加させるポンプ136、及び、ポンプ136を駆動する第2の電動モータ(本発明の“第2の電動アクチュエータ”に相当する。)135を備えている。
図1に示すVSA装置18において、その他の構成要素116,120,124,142については、本発明とは直接関係がないため、後記する作用の説明で引用するが、その説明を省略する。
(液圧路の構成)
まず、液圧路の構成について説明する。液圧路は、大別すると、液圧発生装置14に属するマスタシリンダ34の第1液圧室56aと複数のホイールシリンダ32FR,32RLとを接続する第1液圧系統70a、及び、液圧発生装置14に属するマスタシリンダ34の第2液圧室56bと複数のホイールシリンダ32RR,32FLとを接続する第2液圧系統70bから構成される。
なお、以下の説明において、ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLを総称する場合、“ホイールシリンダ32”と呼ぶことがある。
第1液圧系統70aは、液圧発生装置14に属するマスタシリンダ34(シリンダ部38)の出力ポート54a及び接続ポート20a間を接続する第1液圧路58aと、液圧発生装置14の接続ポート20a及びESB装置16の出力ポート24a間を(第1連結点A1を介して)接続する第1及び第2配管チューブ22a,22bと、ESB装置16の出力ポート24a及びVSA装置18の導入ポート26a間を(第1連結点A1を介して)接続する第2及び第3配管チューブ22b,22cと、VSA装置18の第1及び第2導出ポート28a,28b並びに各ホイールシリンダ32FR,32RL間をそれぞれ接続する第7及び第8配管チューブ22g,22hと、を有する。
第2液圧系統70bは、液圧発生装置14に属するマスタシリンダ34(シリンダ部38)の出力ポート54b及び他の接続ポート20b間を接続する第2液圧路58bと、液圧発生装置14の他の接続ポート20b及びESB装置16の出力ポート24b間を(第2連結点A2を介して)接続する第4及び第5配管チューブ22d,22eと、ESB装置16の出力ポート24b及びVSA装置18の導入ポート26b間を(第2連結点A2を介して)接続する第5及び第6配管チューブ22e,22fと、VSA装置18の第3及び第4導出ポート28c,28d並びに各ホイールシリンダ32RR,32FL間をそれぞれ接続する第9及び第10配管チューブ22i,22jと、を有する。
ディスクブレーキ機構30a〜30dを構成する各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLのそれぞれには、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jを介して、ブレーキ液(ブレーキフルード)が供給される。ブレーキ液が供給されると、各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL内の液圧が上昇する。これにより、各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
(液圧発生装置14の構成)
液圧発生装置14は、運転者によるブレーキペダルの操作量に応じて液圧を発生させるタンデム式のマスタシリンダ34と、マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。第1リザーバ36は、ブレーキ液を貯留する容器である。第1リザーバ36は、配管チューブ86を介して、ESB装置16に付設された後記する第2リザーバ84に連通接続されている。第1及び第2リザーバ36,84は、その内圧が大気圧に略等しくなっている。
マスタシリンダ34のシリンダ部38内には、第1マスタピストン40a及び第2マスタピストン40bが、シリンダ部38の軸線方向に沿って所定間隔離間した状態で摺動自在に設けられている。第1マスタピストン40aは、ブレーキペダルの側に近接して配設され、プッシュロッド42を介してブレーキペダルと連結される。また、第2マスタピストン40bは、第1マスタピストン40aと比べてブレーキペダルから離間して配設される。
なお、第1マスタピストン40a及び第2マスタピストン40bを総称する場合、“マスタピストン40a,40b”と呼ぶことがある。
マスタピストン40a,40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a,44bがそれぞれ設けられている。一対のピストンパッキン44a,44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a,46bと連通する背室48a,48bが形成される。第1マスタピストン40aと第2マスタピストン40bとの間には、マスタピストン40a,40bの間を連結する第1ばね部材50aが設けられている。第2マスタピストン40bとシリンダ部38の内壁部との間には、第2マスタピストン40b及びシリンダ部38の内壁部の間を連結する第2ばね部材50bが設けられている。
マスタシリンダ34のシリンダ部38には、2つのサプライポート46a,46bと、2つのリリーフポート52a,52bと、2つの出力ポート54a,54bと、がそれぞれ設けられている。各サプライポート46a,46b及び各リリーフポート52a,52bは、それぞれ合流して第1リザーバ36内の不図示のリザーバ室と連通するようになっている。
また、マスタシリンダ34のシリンダ部38内には、運転者によるブレーキペダルの踏み込み力(踏力)に対応したブレーキ液圧を発生させる第1液圧室56a及び第2液圧室56bがそれぞれ設けられている。第1液圧室56aは、第1液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するようになっている。また、第2液圧室56bは、第2液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するようになっている。
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第1液圧路58aの上流側には、ブレーキ液圧センサPmが設けられている。また、第1液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aが設けられている。このブレーキ液圧センサPmは、第1液圧路58a上において、第1遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の一次液圧を検知する機能を有する。
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第2液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60bが設けられている。また、第2液圧路58bの下流側には、ブレーキ液圧センサPpが設けられている。このブレーキ液圧センサPpは、第2液圧路58b上において、第2遮断弁60bよりもホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL側の二次液圧を検知する機能を有する。
第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(非励磁(非通電)時の弁体の位置)が開放位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1において、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bは、励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
マスタシリンダ34と第2遮断弁60bとの間の第2液圧路58bには、第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられている。この分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64と、が直列に接続されている。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(非励磁(非通電)時の弁体の位置)が閉止位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
マスタシリンダ34(シリンダ部38)の出力ポート54bに連なる第2液圧路58bには、分岐液圧路58cを介して、ストロークシミュレータ64が連通接続されている。ストロークシミュレータ64は、分岐液圧路58cに連通する反力液圧室65を有する。この反力液圧室65に対し、マスタシリンダ34の第2液圧室56bで生じたブレーキ液圧が印加される。ストロークシミュレータ64は、そのハウジングに、シミュレータピストン67と、第1のリターンスプリング68aと、第2のリターンスプリング68bとを備える。
〔ESB装置16の構成〕
次に、ESB装置16の構成について、図1を参照して説明する。
ESB装置16は、図1に示すように、第1の電動モータ(本発明の“第1の電動アクチュエータ”に相当する。)72の回転駆動力によって第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを軸方向に駆動し、これをもって、ホイールシリンダ32に与えるブレーキ液圧を発生させる機能を有する。
なお、以下の説明において、第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを総称する場合、“スレーブピストン88a,88b”と呼ぶことがある。
ESB装置16において、スレーブピストン88の移動方向のうち、図1中の矢印で示すX1方向を前進方向(液圧発生方向)とし、前進方向(液圧発生方向)とは逆の、図1中の矢印で示すX2方向を後退方向と定義する。
ESB装置16は、図1に示すように、シリンダ部76と、第1の電動モータ72と、第1の電動モータ72の駆動力をスレーブピストン88に伝達するための駆動力伝達部73と、を備えている。
シリンダ部76は、図1に示すように、略円筒形状のシリンダ本体82と、シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、配管チューブ86を介して、液圧発生装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36に連通接続されている。これにより、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が、配管チューブ86を介して、第2リザーバ84内に供給されるように構成されている。
シリンダ本体82内には、スレーブピストン88a,88bが、シリンダ本体82の軸線方向に所定間隔離間した状態で、この軸線方向に沿って摺動自在に設けられている。第1スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80の側に配設される一方、第2スレーブピストン88bは、第1スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配設される。
第1の電動モータ72は、ブレーキペダルセンサ125(図2参照)で検出される運転者によるブレーキペダルの操作量(ストローク量)に応じて、次述する動力伝達機構74を介して、スレーブピストン88a,88bを駆動する機能を有する。第1の電動モータ72としては、例えば、ブラシレスDCモータやACサーボモータのような永久磁石同期モータを採用することができる。以下の説明では、本実施形態で用いられる第1の電動モータ72として、埋め込み構造の永久磁石(界磁に永久磁石を埋め込んだ、空隙を有する常磁性体)により励磁される三相交流モータを例示して説明する。
第1の電動モータ72は、不図示の固定子コイル及び回転子を有している。第1の電動モータ72では、固定子コイルの三相巻線に三相交流電流が流れると回転磁界を生じる。この回転磁界を回転子の回転角度に合わせて制御することによって、回転子に取り付けられた永久磁石が回転磁界に作用してトルクが生まれるようになっている。第1の電動モータ72には、ホールセンサ127(図2参照)が内蔵されている。ホールセンサ127は、第1の電動モータ72の回転角度(スレーブピストン88a,88bの軸線方向における現在位置情報)を検出する機能を有する。
駆動力伝達部73は、図1に示すように、第1の電動モータ72の回転駆動力を伝達する減速機構78、及び、第1の電動モータ72の回転駆動力をボールねじ軸部80aの軸方向に沿った直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80を含む動力伝達機構74を有している。
第1スレーブピストン88aにおける後退方向の端部は、運転者によるブレーキペダルの操作がなされていない状態において、後記する第1及び第2のリターンスプリング96a,96bのばね力を受けて、シリンダ本体82内に形成された環状段部に突き当てられるように位置している。要するに、第1スレーブピストン88aは、後退方向に付勢されている。
第1スレーブピストン88aにおける後退方向の端部には、図1に示すように、略円筒形状の穴部が設けられている。この穴部に、ボールねじ軸部80aにおける略円筒形状の前端部が収容されるようになっている。ボールねじ軸部80aは、運転者によるブレーキペダルの操作がなされていない状態において、不図示の初期位置に位置付けられている。
なお、運転者によるブレーキペダルの操作がなされていない状態において、ボールねじ軸部80aを初期位置に位置付けるために、この初期位置に対応する第1の電動モータ72の回転角度情報が、後記する第1の制動制御部77(図3参照)に記憶されている。
第1スレーブピストン88aにおける前端側の外周面には、図1に示すように、環状段部を介してスレーブピストンパッキン90aが設けられる。また、第1スレーブピストン88aにおける前端側及び後端側の中間における外周面には、環状凹部による第1背室94aが形成されている。第1背室94aは、後記するリザーバポート92aと連通している。第1背室94aの後端側には、スレーブピストンパッキン90bが設けられる。スレーブピストンパッキン90bは、第1背室94a及び動力伝達機構74間を液密状態でシールする機能を有する。
第1及び第2スレーブピストン88a,88bの間には、第1のリターンスプリング96aが設けられている。
一方、第2スレーブピストン88bの外周面には、図1に示すように、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90c、90dがそれぞれ設けられる。一対のスレーブピストンパッキン90c、90dの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第2背室94bが形成される。そして、第2スレーブピストン88bとシリンダ本体82の前端部との間には、第2のリターンスプリング96bが設けられている。
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92b、及び、2つの出力ポート24a,24bがそれぞれ設けられている。リザーバポート92a,92bは、第2リザーバ84内のリザーバ室と連通するようになっている。
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR,32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98a、及び、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR,32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98bがそれぞれ設けられている。
第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの間には、これら88a,88bの間の最大離間区間と最小離間区間とを規制する規制部材100が設けられている。また、第2スレーブピストン88bには、第2スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第1スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられている。これにより、例えばマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、仮にある系統で失陥が発生しても、他の系統にまでその影響を及ぼさないようになっている。
VSA装置18の導入ポート26aに近接する液圧路上には、ESB装置16の第1液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知するブレーキ液圧センサPhが設けられる。ブレーキ液圧センサPhで検知された液圧情報は、VSA装置18の統括制御を行うVSA−ECU31(図2参照)に送られる。
〔車両用制動力発生装置10の基本動作〕
次に、車両用制動力発生装置10の基本動作について説明する。
車両用制動力発生装置10の正常作動時には、マスタシリンダ34にブレーキ液圧が発生しているか否かにかかわらず、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが励磁されて閉止状態となると共に、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁されて開放状態となる(図1参照)。
したがって、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bによって第1液圧系統70a及び第2液圧系統70bが遮断されるため、液圧発生装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLに伝達されない。車両用制動力発生装置10の正常作動時には、ESB装置16による電動式のブレーキシステムが実働するからである。
このとき、マスタシリンダ34の第2液圧室56bにおいてブレーキ液圧が発生すると、発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び開放状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の反力液圧室65に伝達される。この反力液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン67がリターンスプリング68a、68bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダルのストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力が創り出されてブレーキペダルにフィードバックされる。この結果、運転者にとって違和感のない制動操作感が得られる。
このようなシステム状態において、ESB装置16の統括制御を行うESB−ECU29(図2参照)は、運転者によるブレーキペダルの踏み込みを検知すると、ESB装置16の第1の電動モータ72を駆動させ、第1の電動モータ72の駆動力を、動力伝達機構74を介して伝達し、第1のリターンスプリング96a及び第2のリターンスプリング96bのばね力に抗してスレーブピストン88a,88bを図1中の矢印X1方向に向かって変位させる。このスレーブピストン88a,88bの変位によって第1液圧室98a及び第2液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
こうして発生したブレーキ液圧は、VSA装置18を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLに伝達され、各ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FLが作動することで各車輪毎に所要の制動力が付与される。
換言すると、車両用制動力発生装置10では、ESB−ECU29(図2参照)の正常作動時において、運転者がブレーキペダルを踏むと、バイ・ワイヤ式のESB装置16がアクティブになる。具体的には、正常作動時の車両用制動力発生装置10では、運転者がブレーキペダルを踏むと、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが、マスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL)との連通を遮断した状態で、ESB装置16が発生するブレーキ液圧を用いてディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させる。
一方、車両用制動力発生装置10では、ESB−ECU29を含むESB装置16の異常時において、運転者がブレーキペダルを踏むと、既存の油圧式のブレーキ装置がアクティブになる。具体的には、異常時の車両用制動力発生装置10では、運転者がブレーキペダルを踏むと、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bをそれぞれ開放状態とし、かつ、第3遮断弁62を閉止状態として、マスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL)に伝達して、ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR,32RL,32RR,32FL)を作動させる。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が有するESB−ECU29及びVSA−ECU31の周辺構成〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が有するESB−ECU29及びVSA−ECU31の周辺構成について、図2を参照して説明する。図2は、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10が有するESB−ECU29及びVSA−ECU31の周辺構成を表す説明図である。
ESB−ECU29、VSA−ECU31、及び、後記する衝突被害軽減システム35の各間は、図2に示すように、例えば後記のCAN通信媒体(本発明の“情報通信媒体”に相当する)33を介して相互に情報通信可能に接続されている。
衝突被害軽減システム35は、例えば、自車両の進行方向に衝突危険度の高い物体が存在するケースにおいて、緊急制動を要すると判断して、運転者による制動操作とは無関係に、ESB装置16を用いてブレーキ液圧の自動制御を行い、これをもって物体との衝突を回避する機能を有する。前記ケースにおいて、衝突被害軽減システム35は、緊急制動要求に係る情報を、CAN通信媒体33を介して、VSA−ECU31に送る。
CAN(Controller Area Network)通信媒体33とは、車載機器間の情報通信の用途に汎用される多重化されたシリアル通信網である。CANは、優れたデータ転送速度及びエラー検出能力を有する。ただし、本発明の“情報通信媒体”としては、CAN通信媒体33に限定されない。本発明に係る“情報通信媒体”として、例えば“FlexRay”を採用してもよい。
〔ESB−ECU29の構成〕
本発明の“第1の制御装置”に相当するESB−ECU29には、図2に示すように、入力系統として、イグニッションキースイッチ(以下“IGキースイッチ”と省略する。)121、車速センサ123、ブレーキペダルセンサ125、ホールセンサ127、及び、ブレーキ液圧センサPm,Ppがそれぞれ接続されている。
IGキースイッチ121は、車両に搭載された電装部品の各部に、車載バッテリ(不図示)を介して電源を供給する際に操作されるスイッチである。IGキースイッチ121がオン操作されると、ESB−ECU29に電源が供給されて、ESB−ECU29が起動される。
車速センサ123は、車両の走行速度(車速)を検出する機能を有する。車速センサ123で検出された車速に係る情報は、ESB−ECU29へと送られる。
ブレーキペダルセンサ125は、運転者によるブレーキペダルの操作量(ストローク量)及びトルクを検出する機能を有する。ブレーキペダルセンサ125で検出されたブレーキペダルの操作の量及びトルクに係る情報は、ESB−ECU29へと送られる。
ただし、ブレーキペダルセンサ125は、単にON(踏まれている)・OFF(踏まれていない)を検出する機能を有するブレーキSWであってもよい。
ホールセンサ127は、第1の電動モータ72の回転角度(スレーブピストン88a,88bの軸線方向における現在位置情報)を検出する機能を有する。ホールセンサ127で検出された第1の電動モータ72の回転角度に係る情報は、ESB−ECU29へと送られる。
ブレーキ液圧センサPm,Ppは、ブレーキ液圧系統における第1遮断弁60aの上流側液圧、第2遮断弁60bの下流側液圧をそれぞれ検出する機能を有する。ブレーキ液圧センサPm,Ppで検出されたブレーキ液圧系統における各部の液圧情報は、ESB−ECU29へと送られる。
一方、ESB−ECU29には、図2に示すように、出力系統として、前記第1の電動モータ72、及び、前記第1〜第3遮断弁60a,60b,62がそれぞれ接続されている。
ESB−ECU29は、図2に示すように、第1の情報取得部71、第1の診断部75、及び、第1の制動制御部77を備えて構成されている。
第1の情報取得部71は、IGキースイッチ121のオン・オフ操作に係る情報、車速センサ123で検出される車速に係る情報、ブレーキペダルセンサ125で検出される制動操作の量及びトルクに係る情報、ホールセンサ127で検出される第1の電動モータ72の回転角度情報、及び、ブレーキ液圧センサPm,Ppで検出される各部のブレーキ液圧に係る情報などを取得する機能を有する。
また、第1の情報取得部71は、VSA−ECU31からCAN通信媒体33を介して送られてくる、VSA装置(VSA−ECU31を含む)18の異常診断結果に係る情報、及び、ブレーキ液圧センサPhで検出される液圧情報を含むVSA装置18の稼働情報、並びに、衝突被害軽減システム35からCAN通信媒体33を介して送られてくる緊急制動要求に係る情報、をそれぞれ取得する機能を有する。
本発明の“診断部”に相当する第1の診断部75は、基本的には、電動サーボブレーキ装置(ESB装置)16の異常診断を行う機能を有する。ここで、第1の診断部75が診断対象とするESB装置16とは、ESB−ECU29それ自体、並びに、ESB−ECU29に接続される入力系センサ類及び出力系機器類を含む概念である。具体的には、例えば、第1の電動モータ72の回転異常によりESB装置16がブレーキ液圧調整機能を発揮できない場合に、第1の診断部75は、ESB装置16が異常である旨の診断を下す。
第1の制動制御部77は、基本的には、第1の情報取得部71で取得される制動操作に係る情報や各部のブレーキ液圧に係る情報などに基づいて、ESB装置16で発生するブレーキ液圧(制動トルク)が、制動操作に応じたブレーキ液圧(目標制動トルク)に追従するように、ホイールシリンダ32に与えるブレーキ液圧(制動トルク)を制御する機能を有する。
また、第1の制動制御部77は、第1の診断部75によるESB装置16の異常診断結果に係る情報に基づいて、後記のVSA装置(VSA−ECU31を含む)18宛に助勢要求を行うか否かを判断する機能を有する。ここで、助勢要求とは、ESB装置16の失陥時に、VSA装置18によるブレーキ液圧増圧機能を用いたブレーキ液圧(制動トルク)の助勢を求めることをいう。
前記ESB−ECU29は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピュータにより構成される。このマイクロコンピュータは、ROMに記憶されているプログラムやデータを読み出して実行し、ESB−ECU29が有する、各種の情報取得機能、ESB装置16の異常診断機能、及び、ホイールシリンダ32に与えるブレーキ液圧(制動トルク)制御機能を含む各種機能に係る実行制御を行うように動作する。
〔VSA−ECU31の構成〕
本発明の“第2の制動制御装置”に相当するVSA−ECU31には、図2に示すように、車輪速度センサ150、アクセルペダルセンサ151、ヨーレイトセンサ152、Gセンサ153、操舵角センサ155、及び、ブレーキ液圧センサPhがそれぞれ接続されている。
車輪速度センサ150a〜150dは、各車輪17a〜17d毎の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する機能を有する。車輪速度センサ150a〜150dでそれぞれ検出される各車輪17a〜17d毎の回転速度に係る情報は、VSA−ECU31へと送られる。
アクセルペダルセンサ151は、運転者によるアクセルペダルの操作量(ストローク量)を検出する機能を有する。アクセルペダルセンサ151で検出されたアクセルペダルの操作量に係る情報は、VSA−ECU31へと送られる。
ヨーレイトセンサ152は、自車両に発生しているヨーレイトを検出する機能を有する。ヨーレイトセンサ152で検出されたヨーレイトに係る情報は、VSA−ECU31へと送られる。
Gセンサ153は、自車両に発生している前後G(前後加速度)及び横G(横加速度)をそれぞれ検出する機能を有する。Gセンサ153で検出された前後G及び横Gに係る情報は、VSA−ECU31へと送られる。
操舵角センサ155は、ステアリングの操舵量や操舵方向を検出する機能を有する。操舵角センサ155で検出されたステアリングの操舵角に係る情報は、VSA−ECU31へと送られる。
ブレーキ液圧センサPhは、ブレーキ液圧系統のうちVSA装置18内のブレーキ液圧を検出する機能を有する。ブレーキ液圧センサPhで検出されたブレーキ液圧系統のうちVSA装置18内の液圧情報は、ESB−ECU29へと送られる。
一方、VSA−ECU31には、図2に示すように、出力系統として、前記第2の電動モータ135が接続されている。
VSA−ECU31は、図2に示すように、ABS(Antilock Brake System)147、及び、EDC(Engine drag torque Control)149を備えている。ABS147は、VSA装置18の制動制御を通じて車輪17a〜17dのロックを回避する機能を有する。一方、EDC149は、不図示の車輪駆動モータに係る回生制動制御を通じて車輪17a〜17dのロックを回避する機能を有する。
VSA−ECU31は、ABS147及びEDC149の他に、第2の情報取得部161、スリップ情報演算部163、第2の診断部165、及び、第2の制動制御部167を備えて構成されている。
第2の情報取得部161は、車輪速度センサ150a〜150dでそれぞれ検出される各車輪17a〜17d毎の回転速度(車輪速度)に係る情報、アクセルペダルセンサ151で検出されるアクセルペダルの加減速操作量に係る情報、ヨーレイトセンサ152で検出される車両に発生しているヨーレイトに係る情報、Gセンサ153で検出される車両に発生している前後G及び横Gに係る情報、操舵角センサ155で検出されるステアリング操舵角に係る情報、及び、ブレーキ液圧センサPhで検出されるVSA装置18における液圧系統の液圧情報をそれぞれ取得する機能を有する。
また、第2の情報取得部161は、ESB−ECU29からCAN通信媒体33を介して送られてくる、ESB装置16の異常診断結果に係る情報、及び、車速センサ123による車速に係る情報、並びに、衝突被害軽減システム35からCAN通信媒体33を介して送られてくる緊急制動要求に係る情報をそれぞれ取得する機能を有する。
スリップ情報演算部163は、自車両の走行時に、第2の情報取得部161で取得した車速に係る情報及び各車輪17a〜17d毎の回転速度(車輪速度)に係る情報に基づいて、各車輪17a〜17d毎のスリップ率(スリップ情報)SRを演算により求める機能を有する。スリップ情報演算部163で求められた各車輪17a〜17d毎のスリップ率SRに係る情報は、第2の制動制御部167において、ABS147やEDC149の作動要否を判定する際などに適宜参照される。
第2の診断部165は、VSA装置18の異常診断を行う機能を有する。ここで、第2の診断部165が診断対象とするVSA装置18とは、VSA−ECU31、VSA−ECU31に接続される入力系センサ類及び出力系機器類、並びに、VSA−ECU31宛に送られてくる通信メッセージが流通するCAN通信媒体33を含む概念である。具体的には、例えば、第2の電動モータ135の回転異常によりVSA装置18がブレーキ液圧増圧機能を発揮できない場合に、第2の診断部165は、VSA装置18が異常状態にある旨の診断を下す。
また、第2の診断部165は、例えば、車輪速度センサ150a〜150dの検出出力レベルが、予め定められる範囲を外れる場合に、第2の診断部165は、VSA装置18が異常である旨の診断を下す。
ここで、車輪速度センサ150a〜150dの検出出力レベルが、予め定められる範囲を外れる場合とは、車輪速度センサ150a〜150dが正常に機能していない状態に他ならない。また、車輪速度センサ150a〜150dの検出出力は、VSA制御機能を実現する上で不可欠な情報である。したがって、第2の診断部165は、車輪速度センサ150a〜150dの検出出力レベルが、予め定められる範囲を外れる場合に、VSA装置18が異常状態にある旨の診断を下す。
なお、第2の診断部165による診断対象として、車輪速度センサ150a〜150dの検出出力を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。ABS147やEDC149が参照するその他のセンサの検出出力を、第2の診断部165による診断対象として適宜用いてもよい。
さらに、第2の診断部165は、ESB−ECU29からESB装置16が異常状態にある旨の異常状態情報を取得したが、助勢要求に係る情報を併せて取得しない場合、ESB装置16に係る異常状態情報が不確かである(誤りを含む疑いがある)旨の診断を下す。ESB装置16が異常状態に陥っているケースでは、本来であればESB−ECU29の第1の制動制御部77は、VSA−ECU31宛に助勢要求を送るからである。
第2の制動制御部167は、基本的には、スリップ情報演算部163で求められる各車輪17a〜17d毎のスリップ率SRに係る情報などに基づいて、ABS147やEDC149の作動要否を判定する。この判定の結果、ABS147が作動要である旨の判定が下された場合、第2の制動制御部167は、各車輪17a〜17dのスリップを抑制するように、VSA装置18によるブレーキ液圧調整機能の発揮により各車輪17a〜17d毎の制動制御を行うように動作する。
また、第2の制動制御部167は、ESB装置16が異常状態にある旨の異常状態情報を取得した際に、ESB装置16によるブレーキ液圧調整機能が失陥しているとみなして、VSA装置18によるブレーキ液圧調整機能の発揮により各車輪17a〜17d毎の制動制御を行うように動作する。
ただし、前記の制動制御を行うにあたり、ESB装置16に係る異常状態情報が不確かな場合、第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させるように動作する。ESB装置16に係る異常状態情報が不確かである(誤りを含む疑いがある)ケースでは、実際には、ESB装置16が正常な場合と、ESB装置16が失陥しており異常状態にある場合との二通りを想定することができる。
仮に、ESB装置16が正常(ESB装置16によるブレーキ液圧が要求液圧に追従)の場合に、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、ESB装置16が現に異常状態にある際のVSA装置18によるブレーキ液圧に係る失陥時増加量を採用したとする。すると、ESB装置16による要求液圧に追従したブレーキ液圧に、失陥時増加量が加えられるため、車両用制動力発生装置10は、ブレーキ液圧が要求液圧を過剰に超える、いわゆる“ダブルブースト”の状態に陥ってしまう。
そこで、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10では、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧調整機能の発揮により各車輪17a〜17d毎の制動力を助ける助勢制御を行うにあたり、ESB装置16に係る異常状態情報が不確かな場合、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させる構成を採用することとした。その作用機序について、詳しくは後記する。
さらに、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、CAN通信媒体33を介して衝突被害軽減システム35から送られてくる緊急制動要求に係る情報を第2の情報取得部161が取得した場合で、異常状態情報が不確かな場合に、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量を採用するように動作する。
しかも、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、前記助勢要求に係る情報を、CAN通信媒体33を介して、ESB−ECU29の第1の制動制御部77から取得した場合、異常状態情報が不確かか否かにかかわらず、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量を採用するように動作する。
そして、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、第2の情報取得部161が異常状態情報を取得したが、VSA装置18による助勢制御に係る助勢要求を、CAN通信媒体33を介して、ESB−ECU29の第1の制動制御部77から取得しない場合、異常状態情報が不確かであるとみなして、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させるように動作する。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の動作〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の動作について、図3A及び図3B、並びに、図4A〜図4Eを参照して説明する。図3A及び図3Bは、VSA−ECU31が行う助勢制御に係る処理の流れを表すフローチャート図である。図4A〜図4Eは、図3A及び図3Bに示す助勢制御に係る複数の処理でそれぞれ実現されるブレーキ液圧の説明に供する図である。
図3Aに示すステップS11において、VSA−ECU31は、第2の情報取得部161が、ESB−ECU29からCAN通信媒体33を介して送られてくる、ESB装置16の異常診断結果に係る情報(ESBステータス)を取得したか否かを調べる。
ステップS11の判定の結果、第2の情報取得部161がESBステータスを取得した旨の判定が下されると(ステップS11の“Yes”)、VSA−ECU31は、処理の流れを次のステップS12へと進ませる。一方、ステップS11の判定の結果、第2の情報取得部161がESBステータスを取得しない旨の診断が下されると(ステップS11の“No”)、VSA−ECU31は、処理の流れをステップS17(図3B参照)へとジャンプさせる。
ステップS12において、VSA−ECU31は、ステップS11で取得したESBステータスに基づいて、ESB装置16が正常か否かを判定する。
ステップS11の判定の結果、ESB装置16が正常である旨の判定が下されると(ステップS12の“Yes”)、VSA−ECU31は、処理の流れを次のステップS13へと進ませる。一方、ステップS12の判定の結果、ESB装置16が正常でない旨の判定が下されると(ステップS12の“No”)、VSA−ECU31は、処理の流れをステップS14へとジャンプさせる。
ステップS13において、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によりブレーキ液圧を増加させる助勢制御の実行を禁止する(図4A参照)。このとき、ESB−ECU29の第1の制動制御部77は、通常制動を行わせる。具体的には、第1の制動制御部77は、第1の情報取得部71で取得される制動操作に係る情報などに基づいて、ESB装置16で発生するブレーキ液圧(制動トルク)が、制動操作に応じたブレーキ液圧(目標制動トルク)に追従するように、ホイールシリンダ32に与えるブレーキ液圧(制動トルク)を制御する。
一方、ステップS14において、VSA−ECU31は、第2の情報取得部161が、ESB−ECU29からCAN通信媒体33を介して送られてくる、助勢要求に係る情報を取得したか否かを調べる。
ステップS14の判定の結果、第2の情報取得部161が助勢要求に係る情報を取得しない旨の判定が下されると(ステップS14の“No”)、VSA−ECU31は、処理の流れを次のステップS15へと進ませる。一方、ステップS14の判定の結果、第2の情報取得部161が助勢要求に係る情報を取得した旨の診断が下されると(ステップS14の“Yes”)、VSA−ECU31は、処理の流れをステップS16へとジャンプさせる。
ステップS15において、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させる、抑制助勢制御を実行する(図4B参照)。このとき、ESB−ECU29の第1の制動制御部77は、ESB装置16の失陥により同装置を稼働させることができない。このため、第1の制動制御部77は、マスタシリンダ34によるブレーキ液圧(M/C圧)を用いたバックアップ制動を行わせる。
一方、ステップS16において、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量を採用する、通常助勢制御を実行する(図4C参照)。このとき、ESB−ECU29の第1の制動制御部77は、ステップS15と同様に、マスタシリンダ34によるブレーキ液圧(M/C圧)を用いたバックアップ制動を行わせる。
さて、ステップS11の判定の結果、第2の情報取得部161がESBステータスを取得しない旨の診断が下されると(ステップS11の“No”)、図3Bに示すステップS17において、VSA−ECU31は、第2の情報取得部161が、ESB−ECU29からCAN通信媒体33を介して送られてくる、助勢要求に係る情報を取得したか否かを調べる。
ステップS17の判定の結果、第2の情報取得部161が助勢要求に係る情報を取得した旨の判定が下されると(ステップS17の“Yes”)、VSA−ECU31は、処理の流れを次のステップS18へと進ませる。一方、ステップS17の判定の結果、第2の情報取得部161が助勢要求に係る情報を取得しない旨の診断が下されると(ステップS17の“No”)、VSA−ECU31は、処理の流れをステップS19へとジャンプさせる。
ここで、第2の診断部165は、第2の情報取得部161が助勢要求に係る情報を取得したか否かを、受信した助勢要求の信頼度に応じて診断する。具体的には、例えば、CAN通信媒体33を冗長化した際に、複数のチャンネルのうち一部のチャンネルからのみ助勢要求を受信した場合や、電源電圧の変動に起因した正常時とは異なるCAN信号を受信した場合に、第2の診断部165は、第2の情報取得部161が助勢要求に係る情報を取得しない旨の診断を下す。
ステップS18において、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量を採用する、通常助勢制御を実行する。このとき、ESB−ECU29の第1の制動制御部77は、ステップS15,S16のバックアップ制動と同様に、マスタシリンダ34によるブレーキ液圧(M/C圧)を用いたバックアップ制動を行わせる。
一方、ステップS19において、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させる、抑制助勢制御を実行する(図4D参照)。このとき、ESB−ECU29の第1の制動制御部77は、ESB装置16が正常であれば、ステップS13と同様の通常制動を行わせる一方、ESB装置16が異常であれば、ステップS15,S16,S18のバックアップ制動と同様に、マスタシリンダ34によるブレーキ液圧(M/C圧)を用いたバックアップ制動を行わせる。
次に、ステップS20において、VSA−ECU31は、ESB装置16が失陥しているか否かを判定する。この判定は、VSA−ECU31において、ESB−ECU29からCAN通信媒体33を介して取得される制動操作に係る情報、及び、第2の情報取得部161で取得されるVSA装置18における液圧系統のブレーキ液圧に係る情報を、ESB装置16が正常である際の制動操作量(制動操作トルクでもよい)に対するブレーキ液圧の分布範囲を関連付けて記憶したテーブルにあてはめて適用することで行われる。
ステップS20の判定の結果、ESB装置16が失陥している旨の判定が下されると(ステップS20の“Yes”)、VSA−ECU31は、処理の流れをステップS18へと戻す。一方、ステップS20の判定の結果、ESB装置16が失陥していない旨の診断が下されると(ステップS20の“No”)、VSA−ECU31は、処理の流れを次のステップS21へと進ませる。
ステップS21において、VSA−ECU31の第2の制動制御部167は、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させる、抑制助勢制御を実行する。このとき、ESB−ECU29の第1の制動制御部77は、ESB装置16が正常であるから、前記通常制動(ステップS13参照)を行わせる。
〔本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の作用効果〕
次に、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10の作用効果について説明する。
第1の観点に基づく車両用制動力発生装置10は、少なくとも運転者による制動操作に応じた電気信号に基づく第1の電動モータ(第1の電動アクチュエータ)72の作動によってホイールシリンダ32に与えるブレーキ液圧を発生させるESB装置(第1の電動制動装置)16と、ESB装置(第1の電動制動装置)16に連通されて車両の挙動を安定化させるための第2の電動モータ(第2の電動アクチュエータ)135の作動によって前記ブレーキ液圧を増加させるVSA装置(第2の電動制動装置)18と、ESB装置16の制動制御を行うESB−ECU(第1の制動制御装置)29と、VSA装置18の制動制御を行うVSA−ECU(第2の制動制御装置)31と、ESB−ECU29及びVSA−ECU31間の情報通信を行う際に用いられるCAN通信媒体(情報通信媒体)33と、少なくともESB装置16の異常診断を行う第1の診断部(診断部)75と、を備える。
仮に、ESB−ECU29を含むESB装置16が正常(ESB装置16によるブレーキ液圧が要求液圧に追従)の場合に、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、ESB装置16が現に異常状態にある際のVSA装置18によるブレーキ液圧に係る失陥時増加量を採用したとする。すると、ESB装置16による要求液圧に追従したブレーキ液圧に、失陥時増加量が加えられるため、車両用制動力発生装置10は、ブレーキ液圧が要求液圧を過剰に超える、いわゆる“ダブルブースト”の状態(図4E参照)に陥ってしまう。
そこで、第1の観点に基づく車両用制動力発生装置10では、第1の診断部(診断部)75による異常診断の結果、ESB装置(第1の電動制動装置)16が異常状態にある旨の異常状態情報を、CAN通信媒体33を介して、ESB−ECU29から取得した際に、VSA装置(第2の電動制動装置)18によりブレーキ液圧を増加させる助勢制御を行うと共に、当該助勢制御を行うにあたり、前記異常状態情報が不確かな場合、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、前記異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させる。
第1の観点に基づく車両用制動力発生装置10によれば、助勢制御を行うにあたり、ESB装置16に係る異常状態情報が不確かな場合、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、異常状態情報が確かな場合の失陥時増加量と比べて低減させるため、仮に、ESB装置16が正常であったとしても、ブレーキ液圧が要求液圧を過剰に超える事態を抑制することができる。その結果、ESB装置16を含む液圧発生装置14に何らかの異常が生じた場合であっても、運転者による制動操作感を良好に維持することができる。
また、第2の観点に基づく車両用制動力発生装置10では、VSA−ECU(第2の制動制御装置)31は、緊急制動要求に係る情報を取得した場合で、かつ、異常状態情報が不確かな場合に、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、失陥時増加量を採用する、ことを特徴とする。
一般に、緊急制動要求が生じた場合、運転者による制動操作感を犠牲にしても、少なくとも要求液圧を超える強い制動力を付与することで車両を速やかに停止させることが何よりも優先される。
そこで、第2の観点に基づく車両用制動力発生装置10では、VSA−ECU31は、緊急制動要求に係る情報を取得した場合で、かつ、異常状態情報が不確かな場合に、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、失陥時増加量を採用(図4E参照)することとした。
第2の観点に基づく車両用制動力発生装置10によれば、緊急制動要求が生じた場合に、車両を速やかに停止させることができる。
また、第3の観点に基づく車両用制動力発生装置10では、ESB−ECU(第1の制動制御装置)29は、ESB装置(電動サーボブレーキ装置)16が異常状態に陥った場合、VSA装置(挙動安定化支援装置)18による助勢制御を求める助勢要求を行い、VSA−ECU(第2の制動制御装置)31は、助勢要求に係る情報を、CAN通信媒体(情報通信媒体)33を介して、ESB−ECU29から取得した場合、前記異常状態情報が不確かか否かにかかわらず、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、前記失陥時増加量を採用する、ことを特徴とする。
助勢要求に係る情報とは、ESB装置16が異常状態に陥った場合に、ESB−ECU29からVSA−ECU31宛に送られる、いわばSOS情報としての性質をもつ。こうした特別な性質を有する助勢要求に係る情報を取得したVSA−ECU31は、異常状態情報が不確かか否かにかかわらず、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量として、前記失陥時増加量を採用する、いわゆる通常の助勢制御を行うことが好ましい。
第3の観点に基づく車両用制動力発生装置10によれば、助勢要求に係る情報を取得したVSA−ECU31は、異常状態情報が不確かか否かにかかわらず、通常の助勢制御を行うため、第1の観点に基づく運転者による制動操作感を良好に維持する作用効果に加えて、より確実な助勢制御を実現することができる。
そして、第4の観点に基づく車両用制動力発生装置10では、VSA−ECU(第2の制動制御装置)31は、異常状態情報を取得したが、VSA装置(挙動安定化支援装置)18による助勢制御に係る助勢要求を、CAN通信媒体(情報通信媒体)33を介して、ESB−ECU(第1の制動制御装置)29から取得しない場合、異常状態情報が不確かであるとみなして、VSA装置18によるブレーキ液圧に係る増加量を、前記失陥時増加量と比べて低減させる、ことを特徴とする。
第4の観点に基づく車両用制動力発生装置10によれば、異常状態情報を取得したが、助勢要求に係る情報を取得しない場合、異常状態情報が不確かであるとみなして、液圧増加量を、失陥時増加量と比べて低減するため、第1の観点に基づく運転者による制動操作感を良好に維持する作用効果を、より高いレベルで実現することができる。
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
例えば、本発明に係る実施形態において、動力源として車輪駆動モータを搭載した電気自動車に対して、本発明の実施形態に係る車両用制動力発生装置10を適用する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。動力源として車輪駆動モータ及びレシプロエンジンを搭載したハイブリッド車両に対して、本発明を適用してもよい。