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JP2014214401A - ポリイミド繊維、その製造方法及び繊維用ポリイミド - Google Patents

ポリイミド繊維、その製造方法及び繊維用ポリイミド Download PDF

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JP2014214401A JP2013093586A JP2013093586A JP2014214401A JP 2014214401 A JP2014214401 A JP 2014214401A JP 2013093586 A JP2013093586 A JP 2013093586A JP 2013093586 A JP2013093586 A JP 2013093586A JP 2014214401 A JP2014214401 A JP 2014214401A
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Yoshiki Sudo
芳樹 須藤
亮 森
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亮 森
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Abstract

【課題】柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性に優れ、機能性素材として利用価値が高いポリイミド繊維を提供する。【解決手段】ポリイミドを繊維状に加工してなるポリイミド繊維であって、前記ポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸無水物とジアミノシロキサンから形成されるm単位の部分と、芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミン化合物から形成されるn単位の部分からなり、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内であるを有し、末端がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止されているポリイミド繊維。【選択図】なし

Description

本発明は、例えば繊維製品や医療製品などの材料として有用なポリイミド繊維及びその製造方法並びにそれに用いる繊維用ポリイミドに関する。
ポリイミドは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気的絶縁性などに優れていることから、各種の工業材料に利用されている。また、新たな用途として、ポリイミドを繊維状に加工した機能性素材の開発も検討されている。
ポリイミドを原料とする繊維材料として、例えば特許文献1では、分子内にシロキサン骨格を導入したポリアミド酸を乾式紡糸した後、イミド化して得られるポリイミド繊維が提案されている。しかし、特許文献1では、ポリアミド酸の段階で紡糸した後、イミド化してポリイミド繊維を得ているため、ポリイミドの分子量を制御することが困難である。また、特許文献1の実施例には、シロキサン変性率が5%程度のポリイミド樹脂を用いたポリイミド繊維が開示されているが、このポリイミド繊維は、伸度が35〜48%程度であり、伸縮性が少なく、低吸湿性、透湿性、断熱性などの機能性についても評価されていない。
また、一般にポリイミドは、ガラス転移温度が高いため、熱分解開始温度との温度差が狭く、溶融粘度も高いことから、溶融成形によって繊維状に加工することが容易ではない、という問題もあった。
なお、以上のような問題を解決すべく、本発明者らは、特定の化学構造を有するポリイミドを繊維状に加工してなる機能性に優れたポリイミド繊維について、既に出願している(特願2012−218808)。
特開2009−228190号公報
本発明の第1の目的は、柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性に優れ、機能性素材として利用価値が高いポリイミド繊維を提供することであり、第2の目的は、繊維化が容易で機能性に優れたポリイミド繊維を工業的規模で製造可能な性質を持つポリイミドを提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の化学構造を有するポリイミドを用いることによって、容易に機能性に優れたポリイミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明のポリイミド繊維は、ポリイミドを繊維状に加工してなるポリイミド繊維であって、前記ポリイミドが、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有し、末端がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止されているポリイミド樹脂である。
Figure 2014214401
[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基、Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内である]
本発明のポリイミド繊維は、前記ジアミノシロキサンが、下記の一般式(3)で表されるものであってもよい。
Figure 2014214401
[式中、R及びRは、それぞれ、酸素原子を含有していてもよい2価の有機基を示し、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜6の炭化水素基を示し、平均繰り返し数であるmは、1〜20である]
また、本発明のポリイミド繊維は、前記構成単位の存在モル比mが、0.7〜0.9の範囲内、nが、0.1〜0.3の範囲内であってもよい。
また、本発明のポリイミド繊維は、基Ar及び/又は基R中にケトン基を含み、末端がジカルボン酸無水物で封止されていてもよい。
また、本発明のポリイミド繊維は、基Ar及び基R中にケトン基を含まないものであってもよい。
本発明のポリイミド繊維の製造方法は、ポリイミドを原料とするポリイミド繊維の製造方法であって、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドを合成する工程と、
前記ポリイミドの末端をモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止する工程と、
前記ポリイミドを原料として紡糸する工程と、
を含んでいる。
Figure 2014214401
[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基、Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内である]
本発明のポリイミド繊維の製造方法は、前記紡糸する工程を、溶融紡糸法、湿式紡糸法又はエレクトロスピニング法で行ってもよい。
本発明の繊維用ポリイミドは、繊維状に加工して使用される繊維用ポリイミドであって、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有し、末端がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止されている。
Figure 2014214401
[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基、Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内である]
本発明のポリイミド繊維は、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドにより構成されるため、柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性に優れ、機能性素材として利用価値が高いものである。また、本発明のポリイミド繊維は、末端がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止されていることよって、溶融紡糸をはじめとする紡糸法によって容易に製造できるため、工業的な規模での大量生産も可能である。
実施例2で使用したポリイミドの溶融粘度の経時変化の測定結果を示す図である。 参考例2で使用したポリイミドの溶融粘度の経時変化の測定結果を示す図である。
[ポリイミド繊維]
本発明のポリイミド繊維は、ポリイミド樹脂を繊維状に加工してなるポリイミド繊維である。このポリイミド繊維は、その用途に応じて、例えば長いフィラメント状の単繊維の形態でもよいし、短いファイバー状の単繊維に撚りをかけた紡績糸の形態でもよく、さらに不織布の形態でもよい。また、本発明のポリイミド繊維は、その用途に応じて、例えば中空糸の形態としてもよい。なお、本発明で定義する「ポリイミド繊維」とは、その直径の平均(平均繊維径)に対する長さの比が約10以上であるポリイミド樹脂の形態をいう。
本発明のポリイミド繊維は、柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性を有するため、これらの性質を生かした機能性素材として有用であり、例えばスポーツウェア、水着、断熱衣料(防寒用、軍事用、消防用等)、下着などの衣料素材として利用価値が高い。また、本発明のポリイミド繊維は、上記諸特性に加え、生体適合性も有しているため、例えば縫合糸、絆創膏、人工皮膚、人工臓器等の医療用素材としても利用価値が高いものである。さらに、本発明のポリイミド繊維は、優れた耐熱性を有するため、例えば焼却炉等から排出される高温の排ガス処理用のバグフィルター材料や、ディーゼルエンジンからの排ガス用フィルター材料などへの適用も可能である。
本発明のポリイミド繊維の繊維径は、特に限定されるものではなく、用途に応じて設定できる。例えば、本発明のポリイミド繊維を上記衣料素材や織物として用いる場合、例えば平均繊維径は0.1μm〜3mmの範囲内であることが好ましい。また、本発明のポリイミド繊維を上記医療用素材として用いる場合、例えば平均繊維径は0.1μm〜3mmの範囲内であることが好ましい。また、不織布素材に用いる場合、例えば平均繊維径は1nm〜0.1μmの範囲内であっても良い。なお、平均繊維径は、ポリイミド繊維の断面が円形以外の形状(例えば、長方形、三角形など)の場合には、長辺の長さを基準とする。
<ポリイミド>
ここで、ポリイミド繊維の原料となるポリイミド樹脂について説明する。ポリイミド繊維を構成するポリイミドは、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有する。ポリイミド樹脂が上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有することによって、ポリイミド繊維に十分な柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性を付与できる。
上記一般式(1)及び(2)中の基Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基であり、基Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基であり、基Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基である。また、構成単位の存在モル比を示すmは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内、好ましくは、mは0.7〜0.9の範囲内、nは0.1〜0.3の範囲内である。
(芳香族テトラカルボン酸)
一般式(1)及び(2)で表される構成単位において、基Arを形成するための原料となる芳香族テトラカルボン酸としては、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ジシクロへキシル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(HBPDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA、別名;5,5’−オキシビス−1,3−イソベンゾフランジオン)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物(6FDA)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等を使用することができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
(ジアミノシロキサン)
一般式(1)で表される構成単位において基Rで示されるジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基としては、例えば、上記式(3)で表されるジアミノシロキサンから誘導されたジアミノシロキサン残基を挙げることができる。特に、基Rとしては、ポリイミドに可溶性を付与するために、式(3)中のR及びRがそれぞれ2価の炭化水素基であり、R〜Rがそれぞれ炭素数1〜6の炭化水素基であり、平均繰り返し数であるmが5〜15であるものが好ましい。
上記ジアミノシロキサン残基は、ジアミノシロキサンからアミノ基を除いたシロキサン結合(Si−O−Si)を有する基であるが、このシロキサン結合の割合を増加させることによって、機能性繊維素材として求められる諸特性、例えば柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性を向上させる効果が得られる。具体的には、シロキサン結合の割合を増加させることによって、ポリイミド繊維の柔軟性や伸縮性を大幅に向上させることができる。また、シロキサン結合の割合が多くなると、ポリイミド鎖同士の間に空間が生じて比較的空気を多く含んだ状態となるため、ポリイミド繊維に優れた低吸湿性(撥水性)、透湿性及び断熱性を付与することができる。以上のような理由から、本発明では、式(1)におけるmの値を0.5以上、好ましくは0.7以上とする。mの値が0.5未満では、機能性繊維素材として求められる上記諸特性を向上させる効果が十分に得られない。また、シロキサン結合を増加させることによって、ポリイミドのイミド結合部位の減少による硬化収縮を低減させる効果もあると考えられる。このように、ポリイミド中にシロキサン骨格を導入することにより、得られるポリイミドに機能性繊維素材として有利な特性を与えることができる。
一般式(3)で表されるジアミノシロキサンの具体例としては、下記の式(4)〜式(8)で表されるジアミノシロキサンが好ましく、これらの中でも式(4)又は式(5)で表されるジアミノシロキサンがより好ましく、式(4)で表されるジアミノシロキサンが最も好ましい。これらのジアミノシロキサンは、2種以上を組み合わせて配合することもできる。また、2種以上のジアミノシロキサンを組み合わせて配合する場合、式(4)又は式(5)で表されるジアミノシロキサンを全ジアミノシロキサン100重量部に対し、90重量部以上配合することが好ましい。なお、式(4)〜式(8)において、平均繰り返し数であるmは1〜20の範囲内であり、好ましくは5〜15の範囲内である。mが1より小さいとポリイミド繊維の柔軟性、伸縮性、低吸湿性、透湿性、断熱性が低下し、20を超えると引張り強度等の機械的強度が低下する。
Figure 2014214401
一般式(2)で表される構成単位において、基R(芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基)としては、例えば以下の式(9)、(10)で表される芳香族ジアミン残基を挙げることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、芳香族ジアミン残基は、ポリイミド繊維の耐熱性を向上させるのみならず、ポリイミド繊維のガラス転移温度を制御するために有用なユニットである。このような観点から、式(2)における構造単位の存在モル比nは0.1〜0.3の範囲内にあることが好ましい。
Figure 2014214401
[ここで、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、XはCOを示し、nは独立に0〜4の整数を示す]
上記式(9)、(10)で表される基Rを形成するための芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’―ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等を挙げることができる。
また、一般式(2)で表される構成単位において、基Rを形成するための原料となる他のジアミン化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、3,4,5,6−テトラフルオロ−1,2−フェニレンジアミン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−アミノフェニル)エーテル、ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−アミノフェニル)スルフォン、ヘキサフルオロ−2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等の芳香族ジアミン、イソフタル酸ジヒドラジド等の芳香族ジヒドラジドなどを挙げることができる。これらのジアミン化合物は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ポリイミド樹脂の原料となる以上の酸無水物成分及びジアミン成分は、それぞれ、その1種のみを使用してもよいし、あるいは2種以上を併用することもできる。また、上記以外の酸無水物及びジアミンを併用することもできる。
本発明のポリイミド繊維は、その末端部分がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリド、好ましくはモノアミン又はジカルボン酸無水物で封止されている。末端がモノアミン又はジカルボン酸無水物で封止されたポリイミド繊維は、その末端部分の構造として、下記一般式(11)又は一般式(12)で表される構造を有していることが好ましい。なお、一般式(11)及び(12)において括弧内は繰り返し単位を表す。
Figure 2014214401
一般式(11)及び(12)におけるArは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族、Rはジアミン化合物(ジアミノシロキサン又は芳香族ジアミン化合物)から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、一般式(11)におけるR’はモノアミンから誘導される1価のモノアミン残基を示し、一般式(12)におけるAr’はジカルボン酸無水物から誘導される2価のジカルボン酸無水物残基を示す。ここで、モノアミン残基とは、モノアミンからアミノ基(−NH)を除いた構造を意味し、ジカルボン酸無水物残基とは、ジカルボン酸無水物からカルボン酸の脱水縮合基(−CO−O−CO−)を除いた構造を意味する。
モノアミン残基の具体例としては、例えば、置換されていてもよい芳香族基、置換されていてもよい環状又は鎖状の脂肪族基などを挙げることができ、好ましくは、後で例示する末端封止剤としてのモノアミンからアミノ基を除いた構造、例えば、フェニル基、置換されたフェニル基等のアリール基、シクロヘキシル基、アルキレン基などを挙げることができる。
また、ジカルボン酸無水物残基の具体例としては、例えば、置換されていてもよい芳香族基、置換されていてもよい環状又は鎖状の脂肪族基などを挙げることができ、好ましくは、後で例示する末端封止剤としてのジカルボン酸無水物からカルボン酸の脱水縮合基(−CO−O−CO−)を除いた構造、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基等のアリーレン基などを挙げることができる。
このように、分子末端をモノアミン又はジカルボン酸無水物で封止することで、ポリイミド末端の重合性を低下させ、溶融混練時の経時変化を抑制することができる。
また、本発明のポリイミド繊維が、基Ar及び/又はR中にケトン基を含む場合、末端がジカルボン酸無水物で封止されていることが好ましい。基Ar及び/又はR中にケトン基を含む場合に、末端封止剤としてモノアミンを使用すると、ポリイミド中のカルボニル基(上記ケトン基に由来するもの)とモノアミンのアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合がある。
末端封止の方法は、限定されるものではなく、従来公知のいずれかの方法を用いることができる。好ましくはポリアミド酸をイミド化してポリイミドを得たのち、末端を封止する方法が好ましい。例えば、末端アミノ基を封止する際の末端封止剤としては、無水フタル酸、1,2−ジカルボン酸無水物、(2−メチル−2−プロペニル)コハク酸無水物等のジカルボン酸無水物、安息香酸クロリド等のような有機酸クロリドが挙げられる。また、末端酸無水物基を封止する際の末端封止剤としては、3−アミノフェニルアセチレン、アニリン、シクロヘキシルアミン等のモノアミンが挙げられる。
<ポリイミドの合成>
ポリイミドは、上記芳香族テトラカルボン酸無水物、上記ジアミン成分[ジアミノシロキサン及び/又は脂肪族ジアミン、及びその他のジアミン化合物(必要な場合)]を溶媒中で反応させ、前駆体樹脂であるポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜300℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
以上のようにイミド化させて得られたポリイミドに対し、末端封止剤を添加し、更に必要に応じて上記イミド化と同様の条件で加熱することによって、末端が封止されたポリイミドを得ることができる。なお、末端封止剤の添加は、ポリアミド酸が残った状態(イミド化が完結する前)に行ってもよい。
また、ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸無水物と、上記ジアミン成分との反応で得られるイミド構造となる。本発明のポリイミド繊維では、繊維としての物理的・化学的特性を安定させるために、完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm−1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm−1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
(ガラス転移温度及び熱分解開始温度)
本発明のポリイミド繊維の原料として用いるポリイミドのガラス転移温度は30〜250℃の範囲内であることが好ましく、45〜200℃の範囲内であることがより好ましい。また、原料として用いるポリイミドの熱分解開始温度は、大気中での5%重量減少温度(Td5)として、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。原料として用いるポリイミドが、上記のようなガラス転移温度及び熱分解開始温度を有することによって、ポリイミドを繊維状に溶融成形する場合の温度領域を広くとることができる。従って、ポリイミドを繊維状に成形加工しやすく、さらに、優れた耐熱性を有するポリイミド繊維が得られる。ポリイミドのガラス転移温度及び熱分解開始温度は、主に原料として使用するジアミノシロキサン又は脂肪族ジアミンの種類とその使用量により調節できる。
(分子量)
本発明のポリイミド繊維の原料として用いるポリイミドの分子量(重量平均)は、ガラス転移温度以上、熱分解開始温度(大気中での5%重量減少温度)未満の溶融温度範囲において、溶融粘度を適切な範囲に調節しやすくする観点から、例えば100〜500,000の範囲内が好ましく、1,000〜200,000の範囲内がより好ましい。
(溶融粘度)
原料のポリイミドの溶融粘度は、溶融紡糸を行う場合の繊維化を容易にするため、例えばガラス転移温度以上、熱分解開始温度(大気中での5%重量減少温度)未満の溶融温度範囲において、10,000Pa・s以下であることが好ましく、1,000Pa・s以下であることがより好ましい。
(弾性率)
原料のポリイミドの弾性率は、ポリイミド繊維に十分な柔軟性及び伸縮性を与えるために、例えば1,000MPa以下であることが好ましく、750MPa以下であることがより好ましい。ポリイミドの弾性率を上記範囲内とすることによって、ポリイミド繊維を、例えばスポーツウェア、水着、断熱衣料(防寒用、軍事用、消防用等)、下着などの衣料素材として利用する場合に優れた柔軟性と伸縮性が得られる。
(吸湿率)
原料として用いるポリイミド(フィルム状)の吸湿率は、ポリイミド繊維及びこれを用いる繊維製品に十分な低吸湿性(撥水性)を付与する観点から、例えば1%以下であることが好ましく、0.3%以下がより好ましい。ポリイミドの吸湿率を上記範囲内とすることによって、ポリイミド繊維を、例えばスポーツウェア、水着、断熱衣料(防寒用、軍事用、消防用等)、下着などの衣料素材として利用する場合に優れた低吸湿性(撥水性)が得られる。
(長期耐熱性)
原料として用いるポリイミド(フィルム状)は、ポリイミド繊維及びこれを用いる繊維製品に十分な熱耐久性を付与する観点から、長期耐熱性を有することが好ましい。長期耐熱性は、大気下、200℃、3000時間熱処理後のポリイミド(フィルム状)の試験片の5%重量減少温度(Td5)が、熱処理前の試験片の5%重量減少温度に対して、±5%以内の変化率であればよい。
ポリイミド繊維の原料であるポリイミドの弾性率、吸湿率、及び長期耐熱性は、主として、原料となるポリイミド中の基Rで表されるジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基の量によって調節することができる。そして、上記一般式(1)中のmの値を0.5以上とすることによって、ポリイミド繊維を機能性素材として用いる場合に必要な上記諸特性を満足することができる。
(生体適合性)
ポリイミド繊維を例えば縫合糸、絆創膏、人工皮膚、人工臓器等の医療用素材として利用するためには、原料のポリイミドは、柔軟性、伸縮性に加え、生体適合性を有することが必要である。
(伸度)
ポリイミド繊維の伸度は、衣料素材や医療素材として十分な伸縮性を得るために、例えば30%以上であることが好ましく、50〜2,000%の範囲内がより好ましい。ポリイミド繊維の伸度は、主として、原料となるポリイミド中の基Rで表されるジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基の量[つまり、上記一般式(1)中のmの値]によって調節できる。
[ポリイミド繊維の製造方法]
本発明のポリイミド繊維は、上記ポリイミドを繊維状に加工することによって製造できる。ポリイミドを繊維化する方法は、特に限定されるものではなく、例えば溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、エレクトロスピニング法等の方法で繊維化することができる。上記繊維化の方法の中でも、上記ポリイミドの溶融加工性と貧溶媒中での良好な紡糸性や、実用面での高い生産性と低コスト化の観点から、溶融紡糸法又は湿式紡糸法が好ましい。なお、以下の説明で使用する溶液状のポリイミドとしては、ポリイミドの合成(アミド化反応及びイミド化反応)を行った溶液の状態のまま利用してもよいし、ポリイミドを任意の溶媒に溶解させて調製してもよい。
<溶融紡糸>
溶融紡糸法によるポリイミド繊維の製造手順の代表例として、以下の手順A及び手順Bを挙げて説明する。
手順A:
手順Aは、例えば溶液状のポリイミドを乾燥する乾燥工程、乾燥後のポリイミドを凍結粉砕する粉砕工程、粉砕物(ペレット)を溶融させて繊維化する紡糸工程、を含むことができる。
乾燥工程は、例えば熱風乾燥、真空乾燥等の方法で行うことができる。熱風乾燥の場合は、溶液状のポリイミドを例えば200℃以下の温度の熱風で0.5〜5時間程度加熱して乾燥することができる。本発明のポリイミド繊維の原料であるポリイミドは、一般式(1)中の基Rで表されるジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基を一定比率以上含有することにより、可塑剤を配合しなくても柔軟性に優れている。そのため、通常、可塑剤を含有するポリイミドでは実施できない200℃程度の高温での乾燥が可能である。
また、乾燥工程において、例えば100℃以上の温度で数時間程度加熱して乾燥する場合、一般式(1)及び(2)で表される構成単位において、基Ar及び基R中にはケトン基を含有しないポリイミドを使用することが好ましい。例えば、ポリイミド繊維の原料であるポリイミドを大気中(又は水蒸気を含有する雰囲気下)で溶融混練する場合、ポリイミドの分子鎖が開裂して反応活性なアミノ基末端が生成することがある。基Ar及び基R中にはケトン基を含有すると、当該ケトン基とポリイミドの末端のアミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成し、紡糸が困難となる場合がある。ここで、一般式(1)及び(2)で表される構成単位において、基Ar及び基R中にケトン基を含まないための原料の組み合わせは、基Arの原料として、例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA、別名;5,5’−オキシビス−1,3−イソベンゾフランジオン)等を用い、基Rの原料として、例えば2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)等を用いることが好ましい。
粉砕工程では、乾燥後のポリイミドを例えば液体窒素等で冷却して凍結させて粉砕し、例えば一辺が0.3mm程度の均一な大きさのペレットにする。
紡糸工程では、粉砕物(ペレット)を例えば150〜350℃の範囲内の温度に加熱して融液の状態とし、押し出して冷却、固化することによって繊維化する。紡糸工程は、必要に応じ、延伸加工を含むことができる。
手順B:
手順Bは、例えば溶液状のポリイミドを貧溶媒中で沈殿させて沈殿物を分取する分別工程、沈殿物を乾燥する乾燥工程、乾燥後のポリイミドを所定の形状に成形した後、切断してペレットに細分化する成形工程、切断物(ペレット)を溶融させて繊維化する紡糸工程、を含むことができる。
分別工程では、溶液状のポリイミドを貧溶媒中に投入し、ポリイミドを沈殿させて沈殿物を分取する。ここで用いる貧溶媒としては、例えばアセトン系のケトン溶媒、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒、水等やこれらの2種類以上の混合溶媒等を挙げることができる。
乾燥工程は、沈殿物を例えば熱風乾燥、真空乾燥等の方法で乾燥し、粉末状のポリイミドを得る。乾燥工程は、手順Aの乾燥工程と同様に実施できる。
成形工程では、粉末状のポリイミドを均一形状のペレットに加工する。まず、粉末状のポリイミドを例えば100〜250℃程度の温度、0.1〜100Pa程度の圧力で加熱、加圧し、板状に成形する。次に、板状のポリイミドを、例えば一辺が0.3mm程度の均一な大きさのペレットに切断する。
紡糸工程では、ペレットを例えば150〜350℃の範囲内の温度に加熱して融液の状態とし、ノズルから押し出して冷却、固化することによって繊維化する。紡糸工程は、必要に応じ、延伸加工を含むことができる。
<湿式紡糸>
湿式紡糸は、例えば以下の手順Cによって行うことができる。
手順C:
手順Cは、例えば溶液状のポリイミドを貧溶媒(凝固液)中に紡出させて繊維化する紡糸工程と、必要に応じて、繊維を乾燥する乾燥工程と、を含むことができる。
紡糸工程では、有機溶媒に溶解した状態のポリイミド(ポリイミド溶液)を、ノズルを介して貧溶媒中に押し出し、繊維化する。ここで用いる貧溶媒(凝固液)としては、例えばアセトン等のケトン系溶媒、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒、水等や、これらの2種類以上の混合溶媒等を挙げることができる。紡糸工程は、必要に応じ、延伸加工を含むことができる。
乾燥工程は、紡糸工程で得られたポリイミド繊維を例えば熱風乾燥、真空乾燥、溶媒抽出等の方法で乾燥する。熱風乾燥の場合は、ポリイミド繊維を例えば200℃以下の温度の熱風で0.5〜5時間程度で加熱して乾燥することができる。なお、この手順Cにおける乾燥工程は任意工程である。
<エレクトロスピニング法>
エレクトロスピニング法によるポリイミド繊維の製造手順の代表例として、以下の手順D、手順E及び手順Fを挙げて説明する。
手順D:
手順Dは、例えば溶液状のポリイミドをエレクトロスピニング法によって繊維化する紡糸工程、を含むことができる。この紡糸工程は、ポリイミド溶液に高電圧を印加することによって、電荷の反発力を利用してノズルから噴射させて紡糸する。紡糸工程は、必要に応じ、延伸加工を含むことができる。
手順E:
手順Eは、例えば溶液状のポリイミドを乾燥する乾燥工程、乾燥後のポリイミドを凍結粉砕する粉砕工程、粉砕物(ペレット)を溶融させてエレクトロスピニング法によって繊維化する紡糸工程、を含むことができる。ここで、乾燥工程及び粉砕工程は、上記手順Aと同様であるため、説明を省略する。
紡糸工程は、エレクトロスピニング法によって行う。すなわち、ペレットを例えば150〜350℃の範囲内の温度に加熱して溶融させた状態で、高電圧を印加することによって、電荷の反発力を利用してノズルから噴射させて紡糸することができる。紡糸工程は、必要に応じ、延伸加工を含むことができる。
手順F:
手順Fは、例えば溶液状のポリイミドを貧溶媒中で沈殿させて分取する分別工程、沈殿物を乾燥する乾燥工程、乾燥後のポリイミドを所定の形状に成形した後、切断してペレットに細分化する成形工程、切断物(ペレット)を溶融させてエレクトロスピニング法によって繊維化する紡糸工程、を含むことができる。ここで、分別工程、乾燥工程及び成形工程は、上記手順Bと同様であるため、説明を省略する。
紡糸工程は、手順Eと同様に、エレクトロスピニング法によって行う。紡糸工程は、必要に応じ、延伸加工を含むことができる。
以上、溶融紡糸法、湿式紡糸法及びエレクトロスピニング法による繊維化の手順について概略を説明したが、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の状態で、上記いずれかの方法によって繊維化し、その後イミド化をしてもよい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテロラヒドロフランを用いた。
[長期耐熱性の評価]
長期耐熱性の評価は、以下の手順で行った。まず、ポリイミド溶液をガラス基板上に塗布し、80℃で15分間乾燥してフィルム状にしたサンプルから、試験片(縦×横×厚さ=200mm×300mm×35μm)を作製した。この試験片を大気下で、200℃、3000時間熱処理後に、サンプルの5%重量減少温度(Td5)を測定して、熱処理前の試験片の5%重量減少温度に対して変化率が±5%以内となるサンプルを合格とした。
[5%重量減少温度(Td5)の測定]
熱分解開始温度は、以下の手順で測定した。上記長期耐熱性の評価と同様にして調製したフィルム状のサンプルから、10〜20mgの試験片を取り出し、空気雰囲気下で、熱重量分析(TG)装置にて一定の速度で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、5%重量減少温度(Td5)を求めた。
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度は、以下の手順で測定した。まず、熱機械分析装置(Bruker製、4000SA)を用いて、上記長期耐熱性の評価と同様にして調製したフィルム状のサンプルから、試験片(幅2mm×長さ30mm)を作製した。この試験片をチャック間距離15mmにて、荷重2g、昇温速度5℃/分の条件で試験片の長さ方向の熱膨張量を測定し、その変曲点をガラス転移温度(Tg)とした。
[溶融粘度の測定]
溶融粘度は、キャピログラフ1D(東洋精機製作所製)を用いて測定した。長径5mm以下のポリイミド粒子をキャピログラフ1Dのシリンダー内に充填後、220℃における溶融粘度を測定した。
[弾性率、伸度及び強度の測定]
弾性率、伸度及び強度は、以下の手順で測定した。まず、テンションテスター(オリエンテック製テンシロン)を用いて、上記長期耐熱性の評価と同様にして調製したフィルム状のサンプルから、試験片(幅12.7mm×長さ127mm)を作製した。この試験片を用い、50mm/minで引張り試験を行い、25℃における引張り弾性率、引張り伸度及び引張り強度を求めた。
[吸湿率の測定]
吸湿率は、以下の手順で測定した。上記長期耐熱性の評価と同様にして調製したフィルム状のサンプルから、試験片(幅4cm×長さ20cm)を3枚用意し、105℃で1時間乾燥した。乾燥後直ちに23℃/50%RHの恒温恒湿室に入れ、24時間以上静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸湿率(wt%)=[(吸湿後重量−乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
[透湿度の測定]
透湿度は、JIS Z0208に準拠したカップ法により測定した。透過面積2.826×10−3のアルミニウム製の透湿カップ内に吸湿剤として塩化カルシウム(無水)を入れ、上記フィルム状のサンプルによって封入した。その後、40℃、90RH%の試験条件下で24時間毎の秤量操作を繰り返し、カップの質量増加を水蒸気の透過量として評価した。
[粘弾性の測定]
粘弾性は、以下手順で測定した。まず、ポリイミド溶液を120℃で3時間乾燥してフィルム状にしたサンプルから、試験片(縦×横×厚さ=25mm×25mm×600μm)を作製した。レオメーター(TAインスツルメント社製 ARES G2)を用いて、紡糸温度保持時の貯蔵弾性率、損失弾性率、溶融粘度の経時変化を測定した。溶融樹脂が流動(液体的)挙動からゴム的(固体的)挙動へ移行する目安となる貯蔵弾性率と損失弾性率のクロスオーバー時間が短いほど曳糸性が低く、逆にこのクロスオーバー時間が長いほど曳糸性が高いと判断した。
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物
PSX−A:下記式で表されるジアミノシロキサン(但し、mの数平均値は1〜20の範囲内であり、重量平均分子量は740である)
Figure 2014214401
合成例1
1000mlのセパラブルフラスコに、36.27gのBPDA(0.123モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、室温で良く混合した。次に滴下ロートを用いて、73.50gのPSX−A(0.993モル)を滴下し、この反応溶液を攪拌下で氷冷し、10.23gのBAPP(0.0248モル)を添加し、室温にて2時間攪拌し、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、重量平均分子量が59,000のポリイミド溶液を得た後、次いで0.368gの無水フタル酸(0.00248モル)とキシレン20gを添加し、更に190℃で5時間加熱、攪拌し、イミド化を完結したポリイミド溶液aを得た。得られたポリイミド溶液aの重量平均分子量は64,700であった。
合成例2
1000mlのセパラブルフラスコに、38.55gのBTDA(0.119モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、室温で良く混合した。次に滴下ロートを用いて、71.53gのPSX−A(0.0967モル)を滴下し、この反応溶液を攪拌下で氷冷し、9.92gのBAPP(0.0242モル)を添加し、室温にて2時間攪拌し、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、重量平均分子量が78,000のポリイミド溶液を得た後、次いで0.358gの無水フタル酸(0.00242モル)とキシレン20gを添加し、更に190℃で5時間加熱、攪拌し、イミド化を完結したポリイミド溶液bを得た。得られたポリイミド溶液bの重量平均分子量は115,000であった。
合成例3
1000mlのセパラブルフラスコに、36.46gのBPDA(0.124モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、室温で良く混合した。次に滴下ロートを用いて、73.36gのPSX−A(0.0991モル)を滴下し、この反応溶液を攪拌下で氷冷し、10.17gのBAPP(0.0248モル)を添加し、室温にて2時間攪拌し、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、イミド化を完結したポリイミド溶液cを得た。得られたポリイミド溶液cの重量平均分子量は54,600であった。
合成例4
1000mlのセパラブルフラスコに、38.81gのBTDA(0.1205モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、室温で良く混合した。次に滴下ロートを用いて、71.30gのPSX−A(0.09635モル)を滴下し、この反応溶液を攪拌下で氷冷し、9.89gのBAPP(0.0241モル)を添加し、室温にて2時間攪拌し、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、イミド化を完結したポリイミド溶液dを得た。得られたポリイミド溶液dの重量平均分子量は59,000であった。
実施例1
合成例1で得られたポリイミド溶液aを120℃で3時間乾燥し、ポリイミド固形物a’を得た。さらに、液体窒素を入れた容器にポリイミド固形物a’を入れて凍結粉砕し、最大長径が5mm以下のポリイミド粒子a”を得た。得られたポリイミド粒子a”の重量平均分子量は64,700であった。
混練押出装置(オランダDSM Xplore社製、商品名;Pharma extrudesr)を用いて、ポリイミド粒子a”を260℃、引取速度230m/分の条件で紡糸し、ポリイミド繊維1(繊維径;50〜100μm)を得た。なお、ポリイミド粒子a”を260℃で10分間溶融混練して紡糸したポリイミド繊維の重量平均分子量は66,000であった。また、ポリイミド繊維1の評価結果は、以下のとおりである。
長期耐熱性;合格、5%重量減少温度;429℃、ガラス転移温度;47.6℃、弾性率;181MPa、伸度;365%、強度;11MPa、吸湿率;0.1%
実施例2
合成例2で得られたポリイミド溶液bを120℃で3時間乾燥し、ポリイミド固形物b’を得た。さらに、液体窒素を入れた容器にポリイミド固形物b’を入れて凍結粉砕し、最大長径が5mm以下のポリイミド粒子b”を得た。得られたポリイミド粒子b”の重量平均分子量は115,000であった。
混練押出装置(オランダDSM Xplore社製、商品名;Pharma extrudesr)を用いて、ポリイミド粒子b”を300℃、引取速度150m/分の条件で紡糸し、ポリイミド繊維2(繊維径;50〜100μm)を得た。なお、ポリイミド粒子b”を300℃で10分間溶融混練して紡糸したポリイミド繊維の重量平均分子量は113,000であり、実施例1のポリイミド繊維と比較すると引取速度の低下が見られた。
また、ポリイミド繊維2の評価結果は、以下のとおりである。
長期耐熱性;合格、5%重量減少温度;425℃、ガラス転移温度;49.7℃、弾性率;213MPa、伸度;458%、強度;17MPa、吸湿率;0.1%
上記実施例1と実施例2のポリイミド繊維を比較すると、実施例1では曳糸性が良好であったのに対し、実施例2では実施例1に比べて曳糸性が低かった。この実施例2の曳糸性の低下原因を以下のように推察する。実施例2では、紡糸前のポリイミド粒子b”の重量平均分子量が115,000に対して、紡糸後の繊維は113,000へ低下していた。ここで、実施例2で使用したポリイミドの溶融粘度の経時変化の測定結果を図1に示した。図1に示したように、実施例2で使用したポリイミドは、フィルムの紡糸温度300℃保持時の溶融粘度が経時的に大きくなり、約14分で流動状態からゴム状態へ変化している。この現象は、以下のように考えれば合理的な説明が可能になる。すなわち、実施例2では、溶融混練時にポリイミド分子鎖が開裂して活性なアミン末端が生成し、その後、原料のBTDAのケトン基に由来するポリイミド分子鎖中のカルボニル基と、生成したアミン末端が反応してイミノ化反応が進行したものと推測される。その結果、溶融粘度が経時的に増加すると共に溶融状態からゴム状態へ変化し、紡糸速度の低下につながったと考えられる。それに対し、実施例1では、原料として一般式(1)、(2)の基Ar中にケトン基を有しないBPDAを使用したため、ポリイミド中のカルボニル基と、開裂によって生じたアミン末端とのイミノ化反応が生じることが少なく、良好な曳糸性が維持できたものと考えられる。
参考例1
合成例3で得られたポリイミド溶液cを120℃で3時間乾燥し、ポリイミド固形物c’を得た。さらに、液体窒素を入れた容器にポリイミド固形物c’を入れて凍結粉砕し、最大長径が5mm以下のポリイミド粒子c”を得た。得られたポリイミド粒子c”の重量平均分子量は54,600であった。
混練押出装置(オランダDSM Xplore社製、商品名;Pharma extrudesr)を用いて、ポリイミド粒子c”を180℃、引取速度125m/分の条件で紡糸し、ポリイミド繊維3(繊維径 50〜100μm)を得た。なお、ポリイミド粒子c”を180℃で10分溶融混練して紡糸したポリイミド繊維の重量平均分子量は55,000であり、曳糸性の低下は見られなかった。また、ポリイミド粒子c”を260℃で10分溶融混練後の重量平均分子量は62,000であった。末端封止した実施例1と比較すると、重量平均分子量の増加が大きく、ポリイミド分子鎖末端同士の反応によって高分子量化が生じたと考えられる。
参考例2
合成例4で得られたポリイミド溶液dを120℃で3時間乾燥し、ポリイミド固形物d’を得た。さらに、液体窒素を入れた容器にポリイミド固形物d’を入れて凍結粉砕し、最大長径が5mm以下のポリイミド粒子d”を得た。得られたポリイミド粒子d”の重量平均分子量は59,000であった。
混練押出装置(オランダDSM Xplore社製、商品名;Pharma extrudesr)を用いて、ポリイミド粒子d”を260℃、引取速度150m/分の条件で紡糸し、ポリイミド繊維4(繊維径 50〜100μm)を得た。なお、ポリイミド粒子d”を260℃で10分間溶融混練して紡糸したポリイミド繊維の重量平均分子量は80,000であり、メルトフラクチャーを伴い樹脂が押し出される状態となり、曳糸性の低下が確認された。また、得られたポリイミド繊維のラマンスペクトルを測定したところ、1567cm−1付近にイミノ基の形成によるピークが確認された。また、参考例2で使用したポリイミドの溶融粘度の経時変化の測定結果を図2に示した。図2により、参考例2で使用したポリイミドの流動状態は約4分と短いことがわかる。これらの測定結果から、ポリイミド粒子d”では、溶融混練と同時に、ポリイミド末端同士の縮合反応と原料のBTDA中のケトン基に由来するポリイミド中のカルボニル基と末端のアミノ基とのイミノ化による縮合反応が生じたと推定される。
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。

Claims (8)

  1. ポリイミドを繊維状に加工してなるポリイミド繊維であって、
    前記ポリイミドが、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位:
    Figure 2014214401
    [式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基、Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内である]
    を有し、末端がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止されているポリイミド繊維。
  2. 前記ジアミノシロキサンが、下記の一般式(3):
    Figure 2014214401
    [式中、R及びRは、それぞれ、酸素原子を含有していてもよい2価の有機基を示し、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜6の炭化水素基を示し、平均繰り返し数であるmは、1〜20である]
    で表されるものである請求項1に記載のポリイミド繊維。
  3. 前記構成単位の存在モル比mが、0.7〜0.9の範囲内、nが、0.1〜0.3の範囲内である請求項1又は2に記載のポリイミド繊維。
  4. 基Ar及び/又は基R中にケトン基を含み、末端がジカルボン酸無水物で封止されている請求項3に記載のポリイミド繊維。
  5. 基Ar及び基R中にケトン基を含まない請求項3に記載のポリイミド繊維。
  6. ポリイミドを原料とするポリイミド繊維の製造方法であって、
    下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位:
    Figure 2014214401
    [式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基、Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内である]
    を有するポリイミドを合成する工程と、
    前記ポリイミドの末端をモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止する工程と、
    前記ポリイミドを原料として紡糸する工程と、
    を含むポリイミド繊維の製造方法。
  7. 前記紡糸する工程を、溶融紡糸法、湿式紡糸法又はエレクトロスピニング法で行う請求項6に記載のポリイミド繊維の製造方法。
  8. 繊維状に加工して使用される繊維用ポリイミドであって、
    下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位:
    Figure 2014214401
    [式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミン残基、Rは芳香族ジアミン化合物から誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.5〜1.0の範囲内、nは0〜0.5の範囲内である]
    を有し、末端がモノアミン、ジカルボン酸無水物又は有機酸クロリドで封止されている繊維用ポリイミド。
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