JP2013115235A - 光電素子及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】下部電極の上に、(a)Cu、Zn又はSnを含む複数の薄膜が積層された積層膜からなり、(b)積層膜の成膜時及び硫化の過程においてCu−Zn相又はCu−Zn−S相を生成させることがなく、かつ、(c)膜厚が200〜700nmであるプリカーサを形成し、これを所定の条件下で硫化させる。このような方法により、(a)CZTS系化合物からなり、(b)膜厚方向に見たときに、1個の結晶粒のみからなる領域を含み、(c)気孔率が10%以下であり、かつ、(d)膜厚が300〜1000nmである光吸収層を備えた光電素子が得られる。
【選択図】図7
Description
これらの中でも、CIGSやCZTSに代表されるカルコゲナイト系の化合物は、光吸収係数が大きいので、低コスト化に有利な薄膜化が可能である。特に、CIGSを光吸収層に用いた太陽電池は、薄膜太陽電池中では変換効率が高く、多結晶Siを用いた太陽電池を超える変換効率も得られている。しかしながら、CIGSは、環境負荷元素及び希少元素を含んでいるという問題がある。
一方、CZTSは、太陽電池に適したバンドギャップエネルギー(1.4〜1.5eV)を持ち、しかも、環境負荷元素や希少元素を含まないという特徴がある。
例えば、非特許文献1には、ソーダライムガラス(SLG)基板上にMo膜を形成し、Mo膜上にCu/Sn/ZnS(膜厚:570〜610nm)、Sn/Cu/ZnS(膜厚:620nm)、又は、Cu/SnS2/ZnS(膜厚:950nm)からなるプリカーサを成膜し、510〜550℃×1〜3hで硫化させることにより得られるCZTS系太陽電池が開示されている。
同文献には、プリカーサとしてCu/Sn/ZnS積層膜又はCu/SnS2/ZnSを用いた太陽電池の変換効率は3.80〜3.93%であるのに対し、プリカーサとしてSn/Cu/ZnS積層膜を用いた太陽電池の変換効率は4.53%である点が記載されている。また、プリカーサとしてCu/Sn/ZnS積層膜を用いた場合、CZTS膜中に多くのボイドが含まれる点が記載されている。
すなわち、非特許文献1には、Cuを含む薄膜とZnを含む薄膜とが隣接しているプリカーサを用いた太陽電池は、両者が隣接していない太陽電池に比べて変換効率が高くなる点が記載されている。
同文献には、このような方法により、CZTS膜の厚さが2200nmであり、変換効率が6.77%である太陽電池が得られる点が記載されている。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、光吸収層としてCZTS膜を用い、かつ、変換効率が7%以上である光電素子及びその製造方法を提供することにある。
(a)CZTS系化合物からなり、
(b)膜厚方向に見たときに、1個の結晶粒のみからなる領域を含み、
(c)気孔率が10%以下であり、かつ、
(d)膜厚が300〜1000nmである
光吸収層を備えていることを要旨とする。
(1)基板上に、下部電極を形成する下部電極形成工程。
(2)前記下部電極の上に、
(a)Cu、Zn又はSnを含む複数の薄膜が積層された積層膜からなり、
(b)前記積層膜の成膜時及び硫化の過程においてCu−Zn相又はCu−Zn−S相を生成させることがなく、かつ、
(c)膜厚が200〜700nmである
プリカーサを形成するプリカーサ形成工程。
(3)硫化温度:560〜600℃、昇温速度:2.5〜7.5℃/min、硫化時間:5〜50分の条件下で前記プリカーサを硫化させる硫化工程。
これに対し、例えば、Cu/Sn/ZnS積層膜からなる3層構造のプリカーサを硫化すると、プリカーサは、Cu−Zn合金相を生成させることなく、Cu2SnS3相/ZnS相の2相構造に変化し、最終的にCZTS膜となる。その結果、元素の拡散が最小限となり、ボイドが生じにくくなる。また、粒成長が促進され、膜厚方向に1個の結晶粒のみを含む領域を多く含むCZTS膜となる。
[1. 光電素子]
本発明に係る光電素子は、
(a)CZTS系化合物からなり、
(b)膜厚方向に見たときに、1個の結晶粒のみからなる領域を含み、
(c)気孔率が10%以下であり、かつ、
(d)膜厚が300〜1000nmである
光吸収層を備えていることを特徴とする。
[1.1.1. CZTS系化合物]
本発明において、「CZTS系化合物」とは、Cu2ZnSnS4(CZTS)をベースとする化合物半導体をいう。
本発明において、「CZTS系化合物」というときは、化学量論組成の化合物だけでなく、すべての不定比化合物、あるいは、Cu、Zn、Sn、及びSを主成分とするすべての化合物が含まれる。
CZTS系化合物は、Cu、Zn、Sn及びSのみからなるものでも良く、あるいは、これらに加えて、他のカルコゲン元素や各種のドーパントや不可避的不純物などがさらに含まれていても良い。
後述する方法を用いると、光吸収層は、膜厚方向に見たときに1個の結晶粒のみが存在する領域を含む。すなわち、光吸収層は、粒径が膜厚と同等である結晶粒を含む。製造条件を最適化すると、研磨断面の顕微鏡像に現れる結晶粒の大半が膜厚と同等の粒径を持つ光吸収層が得られる。
本発明において、「粒径」とは、光吸収層の研磨断面の顕微鏡像に現れる個々の結晶粒の投影像に外接する長方形の内、長径が最小となるものの長径(最小長径)をいう。なお、最小長径が光吸収層の膜厚を超えるときは、粒径とは、光吸収層の膜厚をいう。
「平均結晶粒径」とは、視野内(倍率:2万倍)に現れるすべての粒子の粒径を測定し、その内の上位5個の粒径の平均値をいう。1視野内に現れる粒子数が10個に満たないときは、粒子数が10個以上となるように、複数視野の顕微鏡像を撮影し、複数の視野内に現れるすべての粒子の粒径を測定する。
高い変換効率を得るためには、平均結晶粒径は、0.3μm以上が好ましい。平均結晶粒径は、さらに好ましくは、0.5μm以上である。
本発明において、「気孔率」とは、光吸収層の研磨断面の顕微鏡像に現れる光吸収層の全面積に対する気孔の面積の割合をいう。なお、観察面の横方向は、膜厚の10倍程度とする。
高い変換効率を得るためには、気孔率は、10%以下である必要がある。気孔率は、さらに好ましくは、7%以下である。
後述する方法を用いると、気孔がほとんど無いCZTS膜が得られる。
光吸収層の膜厚は、変換効率に影響を与える。
一般に、光吸収層の厚さが薄すぎると、光の吸収率が低下する。従って、膜厚は、300nm以上である必要がある。膜厚は、さらに好ましくは、500nm以上である。
一方、膜厚が厚すぎると、光によって励起されたキャリアが電極に到達する前に再結合により消滅する確率が高くなる。従って、膜厚は、1000nm以下である必要がある。膜厚は、さらに好ましくは、800nm以下、さらに好ましくは、750nm以下である。
上述した光吸収層を備えた光電素子において、製造条件を最適化すると、変換効率は、7.0%以上、あるいは、7.5%以上となる。
本発明に係る光電素子は、必要に応じて、光吸収層以外の構成要素をさらに備えていても良い。
例えば、薄膜太陽電池は、一般に、基板、下部電極、光吸収層、バッファ層、窓層、及び上部電極がこの順で積層された構造を備えている。各層の間には、付加的な層が形成されていても良い。
付加的な層としては、具体的には、
(1)基板と下部電極の接着性を高めるため接着層、
(2)入射した光を反射させ、光吸収層での光吸収効率を高めるため光散乱層であって、光吸収層より上部電極側に形成するもの、
(3)光吸収層より基板側に設けられる光散乱層、
(4)入射した光の窓層での反射量を低減し、光吸収層での光吸収効率を高めるための反射防止層、
などがある。
本発明において、光吸収層以外の各層の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。
基板の材料としては、例えば、ガラス(例えば、SLG、低アルカリガラス、非アルカリガラス、石英ガラス、Naイオンを注入した石英ガラス、サファイアガラスなど)、セラミックス(例えば、シリカ、アルミナ、イットリア、ジルコニアなどの酸化物、Naを含む各種セラミックスなど)、金属(例えば、ステンレス、Naを含むステンレス、Au、Mo、Tiなど)などがある。
従って、ガラス基板のNa2O及びK2Oの総含有量は、3wt%以上が好ましい。Na2O及びK2Oの総含有量は、さらに好ましくは、5wt%以上、さらに好ましくは、7wt%以上である。
また、ガラス基板のNa2O及びK2Oの総含有量は、14wt%以下が好ましい。Na2O及びK2Oの総含有量は、さらに好ましくは、12wt%以下、さらに好ましくは、10wt%以下である。
バッファ層の材料としては、例えば、CdSなどがある。
窓層の材料としては、例えば、ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B、In−Sn−O、In−Zn−O、SnO2:Sb、TiO2:Nbなどがある。
上部電極の材料としては、例えば、Al、Cu、Ag、Au、又は、これらのいずれか1以上を含む合金などがある。また、このような合金としては、具体的には、Al−Ti合金、Al−Mg合金、Al−Ni合金、Cu−Ti合金、Cu−Sn合金、Cu−Zn合金、Cu−Au合金、Ag−Ti合金、Ag−Sn合金、Ag−Zn合金、Ag−Au合金などがある。
光吸収層より上に設ける光散乱層の材料としては、例えば、SiO2、TiO2などの酸化物、Si−Nなどの窒化物などがある。
光吸収層より基板側に設ける光散乱層の材料としてには、例えば、表面に凹凸のある層などがある。
反射防止層の材料としては、例えば、窓層よりも屈折率の小さい透明体、太陽光の波長よりも十分に小さい径を持つ透明粒子から構成された集合体、内部に太陽光の波長よりも十分に小さい径を持つ空間のあるもの、サブマイクロメーターの周期の凹凸構造を表面に有するものなどがある。具体的には、
(1)MgF2、SiO2等からなる薄膜、
(2)酸化物、硫化物、フッ化物、窒化物などの多層膜、
(3)SiO2などの酸化物からなる微粒子、
などがある。
本発明に係る光電素子の製造方法は、下部電極形成工程と、プリカーサ形成工程と、硫化工程とを備えている。
下部電極形成工程は、基板上に、下部電極を形成する工程である。
基板及び下部電極の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。基板及び下部電極の材料の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
基板としてガラス基板を用いる場合、下部電極には、ガラス基板との密着性に優れたMoを用いるのが好ましい。
また、基板としてガラス基板を用いる場合、ガラス基板には、Na2O及びK2Oの総含有量が3wt%以上14wt%以下であるもの(低アルカリガラス)が好ましい。
プリカーサ形成工程は、下部電極の上に、プリカーサを形成する工程である。
本発明において、プリカーサは、
(a)Cu、Zn又はSnを含む複数の薄膜が積層された積層膜からなり、
(b)前記積層膜の成膜時及び硫化の過程においてCu−Zn相又はCu−Zn−S相を生成させることがなく、かつ、
(c)膜厚が200〜700nmである
ものからなる。
所定の比率でCu、Zn及びSnを含むプリカーサは、例えば、3源同時スパッタ法によっても作製することができる。しかしながら、3源同時スパッタ法で作製されたプリカーサを硫化させた場合、CZTS膜中の結晶粒は微細となり、ボイドも多くなる。
従って、プリカーサは、Cu、Zn及びSnから選ばれるいずれか1種又は2種類の元素を含む薄膜の積層膜である必要がある。
積層膜を構成する各薄膜は、金属であっても良く、あるいは、硫化物であっても良い。また、各薄膜の厚さ及び組成は、所定の厚さを有するCZTS膜を生成可能なものである限り、特に限定されない。
CuとZnは、加熱により容易に合金化する。例えば、プリカーサ中に金属Cuと金属Znが隣接していると、硫化反応の際に、まずCu−Zn合金相が生成し、次いでCu−Zn合金相及び他の相の硫化が起こる。このように、硫化の過程においてCu−Zn合金相が生成するようなプリカーサを硫化させた場合、CZTS膜中の結晶粒は微細となり、ボイドも多くなる。この点は、積層膜の成膜時にCu−Zn相が生成する場合、及び、プリカーサにZnSが含まれる場合(すなわち、積層膜の成膜時又は硫化の過程においてCu−Zn−S相が生成する場合)も同様である。
従って、プリカーサは、積層膜の成膜時及び硫化の過程においてCu−Zn相又はCu−Zn−S相(少なくともCuとZnを含む相)を生成させないものである必要がある。
(1)Cuを含む薄膜とZnを含む薄膜とが隣接しないように、Cu、Zn又はSnを含む複数の薄膜が積層されている積層膜、
(2)Cu2SnS3/ZnS積層膜、
などがある。
前者の例としては、例えば、ZnS/Sn/Cu、ZnS/SnS/Cu、Zn/Sn/Cu、Zn/SnS/Cuなどがある。
プリカーサを硫化させると、膜厚は増大する。上述したように、CZTS膜の膜厚は変換効率に影響する。従って、所定の膜厚を有するCZTS膜を得るためには、プリカーサの膜厚は、200〜700nmとする必要がある。
プリカーサの形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。プリカーサの形成方法の詳細は、下部電極と同様であるので、説明を省略する。
硫化工程は、硫化温度:560〜600℃、昇温速度:2.5〜7.5℃/min、硫化時間:5〜50分の条件下でプリカーサを硫化させる工程である。
硫化は、硫化水素又は硫黄蒸気を含む雰囲気下で行われる。
硫化温度が高くなるほど、プリカーサの硫化が容易化する。しかしながら、硫化温度が高すぎると、下部電極の抵抗値が過度に増大する場合がある。特に、下部電極としてMoを用いた場合、高温での硫化は、下部電極の抵抗値を増大させる原因となる。従って、硫化温度は、600℃以下である必要がある。
一方、必要以上に昇温速度を遅くしても、実益がない。従って、昇温速度は、2.5℃/min以上である必要がある。
硫化時間が長くなるほど、プリカーサの硫化が容易化する。しかしながら、硫化時間が長すぎると、下部電極の抵抗値が過度に増大する場合がある。特に、下部電極としてMoを用いた場合、長時間の硫化は、下部電極の抵抗値を増大させる原因となる。従って、硫化時間は、50分以下である必要がある。
上述したように、基板上に下部電極及び光吸収層を形成した後、必要に応じて光吸収層の上にその他の層を形成する。他の層としては、例えば、バッファ層、窓層、上部電極などがある。
他の層の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。他の層の形成方法の詳細は、下部電極と同様であるので、説明を省略する。
後述するように、プリカーサの反応挙動を解析した結果、CZTSは、プリカーサの初期状態にかかわらず、次の(1)式及び(2)式に従って生成することがわかった。
2Cu+Sn+3S → Cu2SnS3 ・・・(1)
Cu2SnS3+ZnS → CZTS ・・・(2)
また、硫化条件も高温・長時間となるために、下部電極としてMoを用いたときには、Mo硫化層が厚くなる。その結果、光電素子のフィルファクター(FF)値が低下する。一方、これを回避するために硫化条件を穏やかにすると、十分に高性能なCZTS膜を作製するのが困難となる。
これに対し、上記のようなプリカーサでは、元素の拡散が容易であるため、硫化温度の低減、時間の短縮が可能となる。その結果、下部電極としてMoを用いた場合であっても、CZTS/Mo界面に生成するMo硫化層を低減することができ、光電素子特性の直流抵抗成分を減少させることができる。その結果、FF値の向上によって光電素子の変換効率が増加する。
これは、3hという長時間硫化により
(1)Snが蒸発して、多数のボイドが形成されたため、及び、
(2)下部電極のMo膜が硫化されて、高抵抗層のMo−S膜が厚く形成されたため、
と考えられる。
[1.反応挙動の調査]
[1.1. 試料の作製]
プリカーサは、ZnS、SnS及びCuの3種類の材料で構成した。
まず、これらの中から任意の2種類を選定した。すなわち、プリカーサとして、ZnS/Cu(試料1)、ZnS/SnS(試料2)、及び、SnS/Cu(試料3)を選択した。それぞれ選択した膜をMo膜(膜厚:1μm)付きPV200ガラス基板(Na2O含有量:5wt%)上にスパッタリングにて成膜を行った。膜厚は、各層とも300nmとなるように調整した。成膜条件は、ZnS:200W×0.5Pa、SnS:200W×0.5Pa、Cu:300W×0.5Paである。
薄膜試料を2種類の雰囲気(H2S、S蒸気)と3種類の温度(200、400、600℃)で熱処理した。
作製した試料について、
(1)XRD(SmartLab:RIGAKU製)による生成相の同定、
(2)GD−OESによる拡散状態の評価、及び、
(3)FE−SEM(S−4800:HITACHI製)による微構造の観察
を行い、反応挙動を調査した。
H2S及びS蒸気雰囲気の熱処理では、基本的に同様の反応、拡散傾向となった。
[1.3.1. ZnS/Cu(試料1)]
試料1の場合、すべての雰囲気及び温度領域において、ZnSとCuの反応相は見られなかった。Cuは200℃時点で硫化反応が見られ、CuSを形成した。
図1に、ZnS/Cuプリカーサを600℃で硫化させた膜のGD−OESの結果を示す。図1中、横軸のスパッタ時間は、表面からの深さに対応している。図1より、Cu及びZnが深さ方向にほぼ均等に分布しており、ZnSとCuが相互拡散していることを確認した。
試料2の場合、すべての雰囲気及び温度領域において、ZnSとSnSの反応相は見られなかった。また、温度が上がるにつれてSnSが硫化され、SnS2が形成していることを確認した。
図2に、ZnS/SnSプリカーサを600℃で硫化させた膜のGD−OESの結果を示す。拡散については400℃までは全く見られなかったが、図2に示すように、600℃では拡散が若干起こっていることを確認した。なお、ZnS/Snの場合は、まずSnが硫化してSnSが形成された。その後は、ZnS/SnSと同様である。
試料3の場合、まず、200℃でCuが硫化してCuSが生成した.続いて、400℃でSnSとCuSが反応し、Cu2SnS3が形成していることを確認した。
図3に、SnS/Cuプリカーサを600℃で硫化させた膜のGD−OESの結果を示す。図3より、他の2つと違い、SnSとCuは容易に反応して、Cu2SnS3を形成することがわかった。なお、Sn/Cuの場合は、まず200℃でCu−Sn合金が形成され、400℃でCu2SnS3が形成されることを確認した。
[2.1. 試料の作製]
上記の実験結果及び文献から、反応経路は、下記に記す二段階反応と推定した。
(1)2CuS+SnS→Cu2SnS3(SnSを用いた場合)、又は、
Cu−Sn合金+S→Cu2SnS3(Snを用いた場合)、
(2)Cu2SnS3+ZnS→Cu2ZnSnS4
なお、ZnSに拡散していたCuは、一旦、ZnSから排出されつつSnSと反応してCu2SnS3を形成すると考えている。
第1条件として、SnS又はSnとCuはCu2SnS3形成のために隣接させることが必要である。
第2条件として、ZnSとCuは相互拡散が起こり、Cu2SnS3形成の阻害要因となるため、隣接させてはいけない。
第3条件として、ZnSとSnS又はSnとの拡散が起こる前に、SnS又はSnとCuの反応がCu2SnS3の形成で完了するので、ZnSとSnS又はSnとは隣接させても良い。
また、比較として、これまでの標準構成であるMo/ZnS/Cu/Sn/ZnSプリカーサを硫化させてCZTS膜を作製した(比較例A)。
作製した試料について、SEM及びEBSDにて微構造及び結晶状態を観察した。
[2.3. 結果]
図4(a)に、Mo/ZnS/SnS/Cuプリカーサを硫化させることにより得られるCZTS膜のEBSD測定結果を示す。図4(b)に、Mo/ZnS/Cu/Sn/ZnSプリカーサを硫化させることにより得られるCZTS膜のEBSD測定結果を示す。
図4より、実施例Aで得られたCZTS膜は、比較例Aに比べて、結晶粒が大きく、空隙も少ないことがわかる。また、実施例Aで得られたCZTS膜は、結晶粒が粗大化しており、大半の結晶粒は、膜厚と同等の粒径を有していた。
[1. 試料の作製]
低アルカリガラス基板上に、スパッタ装置により厚さ1μmのMo膜を成膜した。続いて、このMo膜上に、多源スパッタ装置又は真空蒸着装置により、以下のような構造を有するプリカーサを作製した。
実施例1:Cu/Sn/ZnS/Mo(プリカーサ膜厚:410nm)。
比較例1:ZnS/Sn/Cu/ZnS/Mo(プリカーサ膜厚:410nm)。
硫化後、バッファ層としてCBD法でCdSを約100nm成膜し、続いて窓層としてGa:ZnOをスパッタで約100nm成膜した。最後に上部電極として、くし型形状にAlを真空蒸着により成膜して、太陽電池セルを作製した。
CZTS太陽電池セルの断面のTEM像、並びに、SEM&EBIC像を撮影した。また、CZTS太陽電池セルの太陽電池特性を測定した。
図5に、比較例1(左図)及び実施例1(右図)で得られたCZTS太陽電池の横断面のTEM像を示す。また、図6に比較例1(左図)及び実施例1(右図)で得られたCZTS太陽電池のSEM像とEBIC像を示す。図7に、実施例1及び比較例1で得られたCZTS太陽電池のI−V特性(1sun、AM1.5)を示す。
図5及び図6より、比較例1のCZTS膜(膜厚:800nm)は、ボイドが多く、多孔質な膜であるのに対し、実施例1のCZTS膜(膜厚:700nm)は、緻密で均一な膜が得られていることがわかる。実施例1は、STEM−EDS分析からも各元素が均一に分布しており、不純物も生成していないことがわかった。
また、EBICから、実施例1では膜全体から生成したキャリア(電子)が取り出せているのに対し、比較例1では、CZTS表面で励起された電子しか取り出せていない。この結果、太陽電池特性としての変換効率は、比較例1の6.8%に対して、実施例1では7.6%に向上した(図7)。
[1. 試料の作製]
低アルカリガラス基板上に、スパッタ装置により厚さ1μmのMo膜を成膜した。次いで、Mo膜の上に、Cu/Sn/ZnSプリカーサ(膜厚:410nm)を成膜した。このプリカーサを種々の昇温速度及び硫化時間で硫化させた。硫化温度は580℃とし、硫化ガスにはN2+20%H2Sガスを用いた。硫化後のCZTS膜厚は、それぞれ、700nmであった。以下、実施例1と同様にして、太陽電池セルを作製した。
種々の条件下で硫化させた太陽電池セルの変換効率を測定した。表1に、その結果を示す。表1より、変換効率は、硫化時間及び昇温速度に依存することがわかった。また、硫化時間を15〜50分とし、かつ昇温速度を2.5〜7.5℃/minとすると、高い変換効率が得られることがわかる。
[1. 試料の作製]
低アルカリガラス基板上に、スパッタ装置により厚さ1μmのMo膜を成膜した。次いで、Mo膜の上に、種々の積層構造を備えたプリカーサ(膜厚:410nm)を成膜した。このプリカーサを、硫化ガス:N2+20%H2S、硫化温度:580℃、硫化時間:20min、昇温速度:5℃/minの条件下で硫化させた。硫化後のCZTS膜厚は、それぞれ、700nmであった。以下、実施例1と同様にして、太陽電池セルを作製した。
種々の条件下で硫化させた太陽電池セルのTEM観察を行い、平均結晶粒径及び気孔率を測定した。また、各太陽電池セルについて、変換効率を測定した。表2に、その結果を示す。
Cuを含む層とZnを含む層が隣接しているプリカーサを用いた比較例3.1〜3.5は、いずれも平均結晶粒径が0.2〜0.3μmであり、気孔率も10%を超えていた。また、変換効率は、プリカーサの種類により異なり、0.5〜6.8%であった。
これに対し、実施例3.1〜3.2は、いずれも平均結晶粒径が膜厚と同等であり、気孔率も10%以下であった。また、変換効率は、いずれも7%を超えていた。
[1. 試料の作製]
低アルカリガラス基板上に、スパッタ装置により厚さ1μmのMo膜を成膜した。次いで、Mo膜の上に、膜厚の異なるプリカーサを成膜した。プリカーサの膜構成は、Cu/SnS/ZnSとし、膜厚比は、Cu:19%、SnS:44%、ZnS:36%とした。このプリカーサを、硫化ガス:N2+20%H2S、硫化温度:580℃、硫化時間:20min、昇温速度:5℃/minの条件下で硫化させた。
得られた太陽電池セルのTEM観察を行い、CZTS膜の膜厚を測定した。また、各太陽電池セルについて、変換効率を測定した。表3に、その結果を示す。
表3より、以下のことがわかる。
(1)変換効率は、CZTS膜の膜厚及びプリカーサの膜厚に依存する。
(2)CZTS膜の膜厚を600〜850nmとすると、変換効率は、約5.0%以上となる。
(3)CZTS膜の膜厚を650〜750nmとすると、変換効率は、約6.0%以上となる。
[1. 試料の作製]
基板上に、スパッタ装置により厚さ1μmのMo膜を成膜した。基板には、Na2O含有量の異なる種々のガラス基板を用いた。次いで、Mo膜の上に、Cu/SnS/ZnSプリカーサ(膜厚:410nm)を成膜した。膜厚比は、Cu:19%、SnS:44%、ZnS:36%とした。このプリカーサを、硫化ガス:N2+20%H2S、硫化温度:580℃、硫化時間:20min、昇温速度:5℃/minの条件下で硫化させた。硫化後のCZTS膜の膜厚は、それぞれ、700nmであった。
得られた各太陽電池セルについて、変換効率を測定した。表4に、その結果を示す。
表4より、以下のことがわかる。
(1)変換効率は、ガラス基板中に含まれるNa2O含有量に依存する。
(2)Na2O含有量を2〜9wt%とすると、変換効率は、約6%以上となる。
(3)Na2O含有量を4〜7wt%とすると、変換効率は、約7%以上となる。
Claims (6)
- (a)CZTS系化合物からなり、
(b)膜厚方向に見たときに、1個の結晶粒のみからなる領域を含み、
(c)気孔率が10%以下であり、かつ、
(d)膜厚が300〜1000nmである
光吸収層を備えた光電素子。 - 前記光吸収層は、平均結晶粒径が0.3μm以上である請求項1に記載の光電素子。
- 変換効率が7%以上である請求項1又は2に記載の光電素子。
- 以下の構成を備えた光電素子の製造方法。
(1)基板上に、下部電極を形成する下部電極形成工程。
(2)前記下部電極の上に、
(a)Cu、Zn又はSnを含む複数の薄膜が積層された積層膜からなり、
(b)前記積層膜の成膜時及び硫化の過程においてCu−Zn相又はCu−Zn−S相を生成させることがなく、かつ、
(c)膜厚が200〜700nmである
プリカーサを形成するプリカーサ形成工程。
(3)硫化温度:560〜600℃、昇温速度:2.5〜7.5℃/min、硫化時間:5〜50分の条件下で前記プリカーサを硫化させる硫化工程。 - 前記プリカーサは、Cuを含む薄膜とZnを含む薄膜とが隣接しないように前記複数の薄膜が積層されている請求項4に記載の光電素子の製造方法。
- 前記基板は、Na2O及びK2Oの総含有量が3wt%以上14wt%以下である低アルカリガラス基板である請求項4又は5に記載の光電素子の製造方法。
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