図1に本発明を適用した画像形成装置の概略を示す。画像形成装置100は、インクジェットプリンタとしてのプリンタであってフルカラーの画像形成を行うことが可能となっている。画像形成装置100は、外部から受信した画像情報に対応する画像信号に基づき画像形成処理を行なう。
画像形成装置100は、一般にコピー等に用いられる普通紙の他、OHPシートや、カード、ハガキ等の厚紙や、封筒等の何れをもシート状の記録媒体としてこれに画像形成を行なうことが可能である。画像形成装置100は、記録媒体である記録用紙としての被記録体である転写紙Sの片面に画像形成可能な片面画像形成装置であるが、転写紙Sの両面に画像形成可能な両面画像形成装置であってもよい。
画像形成装置100は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色に色分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な液体である、当該色のインクとしての記録液を吐出言い換えると噴射する液体噴射ヘッドとしてのインクヘッドである記録ヘッドとしてのヘッド61Y、61M、61C、61BKを有している。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、画像形成装置100の本体99の略中央部に配設された中間転写ドラムである中間転写ローラとしての中間転写体37の外周面に対向する位置に配設されている。ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、中間転写体37の移動方向であって図1において時計回り方向であるA1方向の上流側からこの順で並んでいる。同図において各符号の数字の後に付されたY、M、C、BKは、イエロー、マゼンタ、シアン、黒用の部材であることを示している。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKはそれぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(BK)の画像を形成するための画像形成手段としてのであるインク吐出装置60Y、60M、60C、60BKに備えられている。
中間転写体37は、図1の紙面に垂直な方向である主走査方向に、画像形成装置100において画像形成可能な最大幅の転写紙Sの幅に対応した幅を有している。
中間転写体37は、A1方向に回転している状態で、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに対向する領域で、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKからイエロー、マゼンタ、シアン、黒の記録液が順次重ね合わされる態様で吐出されて付与され、その表面である一次画像形成面上に一次画像である画像が形成されるようになっている。
このように、画像形成装置100は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKを中間転写体37に対向させA1方向に並設したタンデム構造となっている。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKによる中間転写体37に対する記録液の吐出すなわち付与は、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の各色の画像領域が中間転写体37上の同じ位置に重なるよう、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして行われる。
図1に示すように、画像形成装置100は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKをそれぞれ備えたインク吐出装置60Y、60M、60C、60BKと、中間転写体37を備え中間転写体37のA1方向への回転に伴って転写紙Sを搬送する用紙搬送ユニットとしての搬送ユニット10と、転写紙Sを多数枚積載可能であり積載した転写紙Sのうち最上位の転写紙Sのみを搬送ユニット10に向けて給送する給紙ユニット20と、搬送ユニット10によって搬送されてきた画像形成済み言い換えるとプリント済みの転写紙Sを多数積載可能な排紙台25とを有している。
画像形成装置100はまた、中間転写体37の側方において中間転写体37に対向するように配設され、記録液が転写紙Sに転写された後の中間転写体37から、中間転写体37上すなわち一次画像形成面上に残留している記録液を除去してクリーニングするためのクリーニング手段としてのクリーニング機構であるクリーニング装置40と、ヘッド61Y、61M、61C、61BKを一体に支持したヘッド支持体としてのキャリッジ62とを有している。
画像形成装置100はまた、図2(b)に示すようにヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された直後の記録液による液柱がヘッド61Y、61M、61C、61BKと中間転写体37との間を一時的にブリッジした状態で中間転写体37とヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間に電位差が形成されるように、かかる液柱の状態の記録液の内部に電極酸化反応もしくは電極還元反応に起因する電流成分を含んだ通電を行うことが可能な通電手段33を有している。
画像形成装置100はまた、主走査方向において中間転写体37が占めている領域と異なる位置、具体的には図1における紙面手前側の位置に配設され、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された記録液の特性値を取得する、図3に示す液特性測定手段としての液特性測定装置70を有している。
画像形成装置100はまた、キャリッジ62を主走査方向に駆動することによってヘッド61Y、61M、61C、61BKを主走査方向に駆動する、図4に示すキャリッジ駆動装置91と、画像形成装置100の動作全般を制御する、図示しないCPU、メモリ等を含む制御手段としての制御部98とを有している。
搬送ユニット10は、中間転写体37の他に、中間転写体37に対向して配置され中間転写体37に従動回転し中間転写体37との間の転写部31を転写紙Sが通過するときに中間転写体37上に担持された記録液による一次画像をその転写紙Sに転写して転写記録する転写記録手段である転写手段としての加圧ローラである転写ローラ38を有している。
搬送ユニット10はまた、給紙ユニット20から給送されてきた転写紙Sを転写部31、排紙台25に向けて搬送する搬送ローラ32と、給紙ユニット20から給送されてきた転写紙Sを転写部31に案内するとともに、転写部31を通過した転写紙Sを排紙台25に案内するガイド板39と、中間転写体37をA1方向に回転駆動する図示しない駆動手段としてのモータ等とを有している。
搬送ローラ32は、給紙ユニット20から搬送されてきた転写紙Sを一旦停止させるとともに、中間転写体37上に形成された画像が中間転写体37のA1方向への回転に伴って転写部31に至るタイミングに応じて停止させた転写紙Sを転写部31に給送するレジストローラとしての機能を有する。
このように、画像形成装置100は、転写紙Sへの画像形成を中間転写体37を用いて間接的に行う間接方式の画像形成装置となっている。
図2に示すように、中間転写体37は、アルミニウム製の支持体37aと、支持体37a上に形成された導電性シリコーンゴム製の導電性ゴム層である表面層37bからなっている。このように、中間転写体37は、導電性ローラとなっている。
支持体37aの材質はアルミニウムに限られるものではなく、良導電性で機械的強度がある必要があり、金属や合金によって形成される。よって、支持体37aの材質としては、SUS等を用いることが可能である。
表面層37bは、導電性シリコーンゴム製に限らず、導電性及び撥水性が高く平滑な弾性材料で形成すれば良い。表面層37bの導電性は、中間転写体37とヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間に電圧を印加してこれらの間に形成された記録液のブリッジに水の電気分解を起こさせるのに必要な機能である。表面層37bの撥水性は、記録液が中間転写体37の表面層37bから転写紙Sへ転写するときの転写しやすさの指標となり、撥水性が高いほど転写率が良い。ただしその反面、撥水性が高いと、粘度が不十分な記録液では、表面層37bへの着弾位置での固定化が困難でビーディングの原因となるというトレードオフの関係がある。表面層37bの弾性は、転写の際に必要な機能で、表面層37bが転写紙Sの繊維に沿って変形することで接触面積が向上し高い転写率が達成される。低い圧力で転写するには表面層37bの材料としてある程度柔らかい材料を選択しなければならない。
表面層37bのこれらの機能を満たす材料としては、例えば、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのゴム材料にカーボンブラックやカーボンナノチューブ、金や銀などの金属微粒子を混入させた導電性ゴムが挙げられる。導電性を上げるためには導電性微粒子を増やすことが考えられるが、表面の導電性微粒子の密度が高いと撥水性低下の要因となる。導電性は、支持体37aと表面層37bとの膜厚方向に対して有していれば良く、面方向には絶縁の異方導電性であっても良い。導電性微粒子の大きさは、画像を構成する20〜50μm程度のドットより十分小さい必要があり、0.1μm以下であれば問題ない。また、表面層37bは、撥水性を上げるためシリコンオイルを含浸させたものでも構わないし、単層構造、多層構造のどちらでも構わない。
表面層37bのバルク物性と表面物性は以下のものが好ましい。撥水性は水の後退接触角が60°以上、好ましくは80°以上であり、硬度はJIS−Aで60以下、好ましくは40以下である。また、表面層の厚みは0.1〜1mm程度がよく、0.2〜0.6mmが好適である。電気抵抗率は1000Ω・cm以下、好ましくは10Ω・cm以下である。
表面層37bの後退接触角についてはさらに、後述するノズル面61dの後退接触角よりも小さく、後述するクリーニングブレードの後退接触角よりも大きくなるように設定されている。ノズル面61d上にはミストや吐出不良によって吐出液体である記録液が付着することがあり、表面層37bとノズル面61dとの間を記録液が埋めてしまう懸念があるが、このような事象が生じても、ノズル面61dの後退接触角よりも表面層37bの後退接触角が小さいため、中間転写体37の回転運動に伴ってノズル面61dから表面層37bに効率的に記録液が移動して除去されることから、ノズル面61dが清浄な状態に戻る。また、表面層37bの後退接触角がクリーニングブレードの後退接触角よりも大きいため、表面層37b上の記録液はクリーニングブレードへ移行しやすく、クリーニング効率が高くなっている。よって、中間転写体37の回転運動に伴って表面層37bからクリーニングブレードに効率的に記録液が移動して除去され、表面層37bが清浄な状態に戻る。
図1に示すように、給紙ユニット20は、転写紙Sを多数枚積載可能な給紙トレイ21と、給紙トレイ21に積載された転写紙Sのうち最上位の転写紙Sのみを搬送ユニット10に向けて給送する送り出しローラとしての給紙ローラ22と、給紙トレイ21及び給紙ローラ22を支持した筐体23と、給紙ローラ22を、ヘッド61Y、61M、61C、61BKにおける記録液の吐出タイミングに合わせるように回転駆動し転写紙Sを給送させる図示しない駆動手段としてのモータ等とを有している。
クリーニング装置40は、中間転写体37に付着した記録液を除去しクリーニングするために中間転写体37に当接した絶縁性のクリーニング部材としての図示しないクリーニングブレード(図17において符号41で示した部材と同一構成)と、クリーニングブレードによって中間転写体37から除去された記録液等を収納する廃液受けとしての廃液タンク(図17において符号42で示した部材と同一構成)とを有している。クリーニングブレードは、中間転写体37にその一部すなわち先端を当接することで、中間転写体37表面の記録液、具体的には転写後に残留している記録液を掻き取るような機能があればよく、耐磨耗性を有する。
キャリッジ駆動装置91は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKが記録液を吐出するとき、ヘッド61Y、61M、61C、61BKが中間転写体37に対向する範囲でキャリッジ62を主走査方向に往復動することで、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された記録液によって、中間転写体37上に画像が形成されるようにする。このように、画像形成装置100はシャトル型の液体噴射装置としての液体吐出装置であるインクジェットプリンタとなっている。
キャリッジ駆動装置91の構成は、かかるインクジェットプリンタにおいて一般的に採用されている構成とすることが可能であり、たとえば、図18に示すように、キャリッジ62に螺合したねじ軸32aと、ねじ軸32aを正逆回転駆動するモータ32bとを有する構成が挙げられる。
キャリッジ駆動装置91は、画像形成を行うときにキャリッジ62を主走査方向に往復動の態様で駆動するほか、後述するメンテナンス時、非画像形成時に、キャリッジ62を主走査方向に駆動して、図3に示すように、ヘッド61Y、61M、61C、61BKが液特性測定装置70に対向する位置である液特性測定位置としてのメンテナンス位置を占めるようにする。
キャリッジ62は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKに劣化等が生じたときにこれらが新規のものに交換可能であるように、またメンテナンスを容易にするために、ヘッド61Y、61M、61C、61BKと一体で、本体99に対して着脱可能となっている。ヘッド61Y、61M、61C、61BKもそれぞれ、劣化等が生じたときに新規のものに交換可能であるように、またメンテナンスを容易にするために、独立して本体99に対して着脱可能となっている。これによって、交換作業、メンテナンス作業が容易化されている。
インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKは、用いる記録液の色が異なるものの、その余の点では互いに略同様の構成となっている。
インク吐出装置60Y、60M、60C、60BKは、複数のヘッド61Y、61M、61C、61BKに供給される当該色の記録液を収容したメインタンクとしての記録液カートリッジであるインクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKと、インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BK内に収容された記録液を各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに向けて圧送し給送するための供給ポンプとしての図示しないポンプと、インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKとヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間の記録液の給送路をポンプとともに形成している図示しないパイプとを有している。
インクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKは、内部の記録液が消費されて残り少なくなったときあるいはなくなったとき等に新規のものに交換可能であるように、またメンテナンスを容易にするために、本体99に対して着脱可能となっている。
記録液は、イエロー、マゼンタ、シアン、黒に対応した着色剤である色剤と、この色剤の溶媒と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるカルボン酸系界面活性剤とを少なくとも含んでいる。溶媒は安全性の観点及び後述する電気分解を生じせしめるための導電性の観点から水を含んだ水性溶媒であり、記録液は水性インク組成物となっている。色剤は、溶媒中に溶解または分散して溶媒中にて帯びるイオン性がアニオン性の、アニオン性着色剤及び/又はアニオン性樹脂を使用している。
ABA型両親媒性高分子の疎水性Aセグメントすなわち疎水性Aブロックは、以下のいずれのものでも適用可能である。たとえば炭素数12以上の直鎖アルキル基であるドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシルなどである。また、分岐アルキル基として、2−デシルドデシル、2−ドデシルドデシル、2−デシルヘキサデシルなどの組み合わせが上げられる。また、芳香族含有アルキル基として、フェニルアルキル、ジフェニルアルキル、トリフェニルアルキル、ナフチルアルキル、ジナフチルアルキル、トリナフチルアルキル、アントラセニルアルキル、ベンゼン環が分岐点の分岐アルキル基であるフェニル基を含んだジアルキルフェニルアルキル、トリアルキルフェニルアルキル、また、環状アルキル基含有として、シクロヘキシルアルキル、ジアルキルシクロヘキシルアルキル、トリアルキルシクロヘキシルアルキル、シクロペンチルアルキル、ジアルキルシクロペンチルアルキル、トリアルキルシクロペンチルアルキルなどがある。このように、疎水性Aブロックは、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、フェニル基の何れかを少なくとも含むことが望ましい。
また、疎水性モノマーによるブロック重合体であっても構わない。たとえば、スチレン重合体、アクリル酸アルキル重合体、メタクリル酸アルキル重合体、アクリルアミドアルキル重合体、メタクリルアミドアルキル重合体などが挙げられる。
ABA型両親媒性高分子の親水性Bセグメントすなわち親水性Bブロックは水性溶媒に対して親和性があるものであればいずれのものでも適用可能である。水性溶媒中で疎水会合による物理架橋でインク組成物の粘度を増加させるためには、親水性Bブロックは疎水性Aブロックに対して十分鎖長が長い(大きい)必要があり、そのようなものとして直鎖ポリエチレンオキサイドを含むエチレンオキサイド重合体やプロピレンオキサイド重合体などの100量体以上のものが挙げられる。親水性Bブロックは、親水部分が分岐した多分岐ポリエチレンオキサイドを含む4−Arms構造や6−Arms構造であっても構わない。Armsは、親水性Bブロックの分岐数を意味しており、分岐した数だけ複数の疎水性Aブロックが分岐親水性Bブロック末端に結合している。このように、親水性Bブロックは、直鎖ポリエチレンオキサイド、多分岐ポリエチレンオキサイドの何れかを少なくとも含むことが望ましい。
またこのように、ABA型両親媒性高分子は、疎水性Aブロックを3つ以上備えたAnB型両親媒性高分子であることが望ましい。これは、後述する疎水性Aセグメント同士の疎水会合が起こりやすくなり、pH変化に対する粘度応答性が向上するためである。なお、ABA型両親媒性高分子における「ABA型」とは、親水性Bブロックを中心として親水性Bブロックと複数の疎水性Aブロックとが結合した構造であることを意味している。
親水性Bブロックとしては、そのほかにはビニルアルコール重合体、ビニルエーテル重合体、ビニルピロリドン重合体、アクリルアミド重合体、メタクリルアミド重合体、及びそれらの誘導体など挙げられる。また、イオン性の場合でもよく、アクリル酸塩重合体、メタクリル酸塩重合体、アクリル酸アルキル四級アンモニウム塩重合体、メタクリル酸アルキル四級アンモニウム塩重合体、アクリルアミドアルキル四級アンモニウム塩重合体、スチレンスルホン酸塩重合体などが挙げられる。また、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、メチルデンプン、エチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、カルボキシメチルデンプンなどのデンプン誘導体、アルギン酸プロピレングリコールなどのアルギン酸誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲンなどの動物系ポリマーの誘導体、グアーガム、ローカストビーンガム、クインスシードガム、カラギーナンなどの植物系ポリマーの誘導体、キサンタンガム、デキストラン、ヒアルロン酸、プルラン、カードランなどの微生物系ポリマーの誘導体等も挙げられる。
疎水性Aブロックと親水性Bブロックの化学結合は安定であればいずれでもよく、たとえばエーテル結合、ウレタン結合、アミド結合、エステル結合などが挙げられる。
ABA型両親媒性高分子を水性溶媒に溶解または分散せしめるカルボン酸系界面活性剤は、疎水性アルキル部分とカルボン酸塩で構成されるものであれば何れでもよい。そのようなものとして、カプロン酸ナトリウム、カプロン酸カリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリル酸カリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどの脂肪酸塩が挙げられる。また、上述のようなモノカルボン酸以外に、ジカルボン酸塩、トリカルボン酸塩であっても構わない。
後述するように、記録液を構成している水性インク組成物は、pHによって粘度変化するものとなっているが、本形態における記録液のpH変化は、プロトンをインク組成物に供給することを意味する。弱酸塩であるカルボキシルイオンのプロトン化するpHの目安としてpKaがある。脂肪酸塩のpKaは概ねpKa:7〜9くらいでより高いもののほうが好ましい。
ABA型両親媒性高分子の平均重量分子量としては特に制限がないが、カルボン酸系界面活性剤等で完全に溶解または分散した状態でのインクジェット吐出性を考慮すると分子量は小さいほうが好ましく、着弾後の増粘状態の強度を考慮するとポリマーの分子量は大きいほうが好ましい。そのため、1万以上10万以下の範囲のものが好ましい。また、2万以上5万以下のものがより好ましい。重合体部分の繰り返し数としては、100量体以上1000量体以下が好ましい。インク組成物中のポリマーの濃度としては、0.1重量%以上10重量%以下の範囲が好ましく、0.5重量%以上5重量%以下がより好ましい。
吐出時の記録液の粘度は、1〜20mPa・s、好ましく2〜8mPa・sである。記録液は、後述する着弾後のpH変化による増粘により、吐出時の少なくとも10倍、好ましくは100倍、より好ましくは1000倍以上の粘度増加を生じ、ゲル状態になる。その他、記録液の物性の好適な範囲は、表面張力が10〜60mN/m、好ましくは20〜50mN/m、導電率が0.01〜1S/m、好ましくは0.02〜0.2S/mである。
記録液に含有させる着色剤成分すなわちアニオン性の色剤であるアニオン性染料の具体例としては、たとえば、カラーインデックスにおいて酸性染料、直接性染料、食用染料に分類される染料が挙げられる。
より具体的には、酸性染料および食用染料として、C.I.アシッドイエロー 17、23、42、44、79、142 C.I.アシッドレッド 1、8、13、14、18、26、27、35、37、42、52、82、87、89、92、97、106、111、114、115、134、186、249、254、289 C.I.アシッドブルー 9、29、45、92、249 C.I.アシッドブラック 1、2、7、24、26、94 C.I.フードイエロー 3、4 C.I.フードレッド 7、9、14 C.I.フードブラック 1、2等がある。
直接性染料として、C.I.ダイレクトイエロー 1、12、24、26、33、44、50、86、120、132、142、144 C.I.ダイレクトレッド 1、4、9、13、17、20、28、31、39、80、81、83、89、225、227 C.I.ダイレクトオレンジ 26、29、62、102 C.I.ダイレクトブルー 1、2、6、15、22、25、71、76、79、86、87、90、98、163、165、199、202 C.I.ダイレクトブラック 19、22、32、38、51、56、71、74、75、77、154、168、171 等がある。
反応性染料として、C.I.リアクティブ.ブラック3、4、7、11、12、17、C.I.リアクティブ.イエロー1、5、11、13、14、20、21、22、25、40、47、51、55、65、67、C.I.リアクティブ.レッド1、14、17、25、26、32、37、44、46、55、60、66、74、79、96、97、C.I.リアクティブ.ブルー1、2、7、14、15、23、32、35、38、41、63、80、95等があり、溶解性の高さ、色調の良好さ、本発明にかかる方法で記録した場合の耐水性の良さから、好ましく用いられる。
記録液に用いられる着色剤成分すなわち色剤である顔料としては、無機顔料、有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの白色顔料や酸化鉄などの黒色顔料などが挙げられる。
有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(たとえば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどが使用可能である。
また、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用され得る。
より具体的には、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、138、153、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(ベンガラ)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等がある。
着色剤成分として顔料を含む記録液を用いる場合には、たとえば、酸化反応によりカルボキシル基が導入されたカーボンブラック、カルボキシル基やスルホン酸基を含むジアゾニウム塩から生成されるラジカルとカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドンなどの顔料を反応させてなる自己分散性の顔料、カルボキシル基やスルホン酸基を含むラジカル開始剤とカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドンなどの顔料を反応させてなる自己分散性の顔料、顔料の官能基とカルボン酸の無水物を反応させてなる自己分散性顔料などが好ましく用いられる。
顔料を分散させた記録液を用いる場合に、顔料の粒径に特に制限は無いが、最大個数換算で最大頻度が20〜150nmの粒径の顔料インクを用いることが好ましい。粒径が150nmを超えると、記録液としての顔料分散安定性が悪くなるばかりでなく、記録液の吐出安定性も劣化し、画像濃度などの画像品質も低くなり好ましくないためである。また、粒径が20nm未満では、記録液の保存安定性、プリンタでの噴射特性は安定し高い画像品質も得られるが、そのように細かな粒径にまで分散せしめるのは、分散操作や、分級操作が複雑となり、経済的に記録液を製造することが困難となるためである。
記録液は、顔料を分散させる分散剤として、アニオン性の、高分子分散剤のような高分子タイプあるいは界面活性剤のような低分子タイプの分散剤を含むことが好ましい。
アニオン性基を有する高分子タイプの分散剤の例として、ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体およびその塩、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−アクリル酸共重合体およびその塩、スチレン−メタクリル酸共重合体およびその塩、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体およびその塩、スチレン−αメチルスチレン−アクリル酸共重合体−アクリル酸アルキルエステル共重合体およびその塩、スチレン−マレイン酸共重合体およびその塩、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体およびその塩、酢酸ビニル−エチレン共重合体およびその塩、酢酸ビニル−クロトン酸共重合およびその塩、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体およびその塩、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、等が挙げられる。
これらのアニオン性高分子は、水の電気分解で発生する水素イオンと反応して凝集するため自己分散顔料単体よりも凝集性において好ましい。また、これらのアニオン性高分子は着色剤の接着機能を有するため、転写工程における中間転写体37から転写紙Sへの転写率を向上させる利点がある。
アニオン性基を有する低分子タイプの分散剤としては、具体的には、オレイン酸およびその塩、ラウリン酸およびその塩、ベヘン酸およびその塩、ステアリン酸およびその塩、またそのような脂肪酸およびその塩、ドデシルスルホン酸およびその塩、デシルスルホン酸およびその塩、またそのようなアルキルスルホン酸およびその塩、ラウリル硫酸塩、オレイル硫酸塩などのアルキル硫酸エルテル類、ドデシルベンゼンスルホン酸およびその塩、ラウリルベンゼンスルホン酸およびその塩、またそのようなアルキルベンゼンスルホン酸とその塩、ジオクチルスルホ琥珀酸およびその塩、ジヘキシルスルホ琥珀酸およびその塩、またそのようなジアルキルスルホ琥珀酸およびその塩、ナフチルスルホン酸およびその塩、ナフチルカルボン酸およびその塩、またそのような芳香族アニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、フッ素化アルキルカルボン酸およびその塩、フッ素化アルキルスルホン酸およびその塩等のフッ素系アニオン性界面活性剤などを用いた分散剤が挙げられる。
記録液に用いる着色剤成分としての他の例は、着色樹脂微粒子によって構成された着色エマルジョンを用いた記録液である。
着色樹脂微粒子は、スチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などを油性染料、分散染料または顔料などにより着色したものである。微粒子の殻に当たる部分をポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの親水性を有する樹脂で形成し、または反応性の界面活性剤などイオン性を有する界面活性剤で懸濁することによりたとえばアニオン性の着色微粒子が水を主体とする液媒体に懸濁された記録液が得られる。
記録液に親水性高分子化合物を添加することで、水素イオンとの反応により記録液の増粘作用、凝集作用を強めることが可能である。
記録液に添加可能な親水性高分子化合物としては、天然系ではアラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸塩、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子またはセラック等、半合成系ではメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、力ルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子、純合成系ではポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸及びそのアルカリ金属塩、水溶性スチレン−アクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレン−マレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレン−アクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレン−マレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、等が挙げられる。
記録液に、着色剤を含まない樹脂エマルジョン、ラテックスを添加しても良い。樹脂エマルジョンの種類によっては、転写紙S表面で樹脂エマルジョンが皮膜を形成し、画像形成が行われた場合の転写紙Sの耐光性、耐水性、耐擦性をも向上させる利点がある。懸濁相の樹脂成分としてはアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂成分の粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、150nm程度以下が好ましく、より好ましくは5〜100nm程度である。市販の樹脂エマルジョンの例としては、マイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製)、などが挙げられる。
記録液中、樹脂エマルジョンは、その樹脂成分が記録液の0.1〜40重量%となるよう添加するのが好ましく、より好ましくは1〜10重量%の範囲である。
以上述べた高分子タイプの顔料分散剤や着色エマルジョン、水溶性高分子化合物などは、ABA型両親媒性高分子と併せて、転写工程における中間転写体37から転写紙Sへの転写率を向上させるのに効果的である。
記録液は水を主な液媒体として使用するが、記録液を所望の物性にするため、あるいは記録液の乾燥による後述するノズル61bの詰まりを防止するため、次に述べる水溶性有機溶媒を保湿剤成分として使用することが好ましい。
水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、グリセリン、1,2,6−へキサントリオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ε−カプロラクタム等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
また、その他の保湿成分として、ソルビトール等の糖アルコール、ヒアルロン酸等の多糖類、ポリエチレングリコール等の高分子、また、尿素、乳酸、クエン酸塩、アミノ酸系といった天然保湿成分も用いることが可能である。これらの溶媒は、水とともに単独もしくは複数混合して用いられる。これらの水溶性有機溶媒の含有量は特に制限はないが、好ましくはインク全体の1〜60重量%、更に好ましくは10〜40重量%の範囲で用いる。
記録液中の水を電気分解させるには、記録液のイオン伝導性を上げるための電解質成分を添加する必要がある。記録液に添加する電解質成分として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ルビジウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、などの無機アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸水素カリウムなどの有機アルカリ金属塩、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、塩化コリンなどの有機アンモニウム塩などが挙げられる。
2価以上の多価金属塩は着色剤やABA型両親媒性高分子等の溶解または分散性を損ねるので、1価の金属塩であることが好ましい。特に電解質成分として第四級アンモニウム塩を添加するのが好ましい。第四級アンモニウムイオンは中心元素に結合したアルキル基によって電荷分散しており、着色剤やABA型両親媒性高分子等との相互作用が小さく安定に存在するためである。また、第四級アンモニウムイオンは水とのクラスターを形成しにくく、着色剤やABA型両親媒性高分子等の溶解または分散に必要な水和水を奪うことも少ない。単位分子量あたりの導電率(モルイオン伝導率)は分子量の小さい化合物が高く、四級アンモニウム塩のなかで特にテトラメチルアンモニウム塩が好ましい。また、カウンターイオンとして塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等があるが、塩化物イオンはアノードで電極反応を起こして塩素を発生するおそれがある。そのため、不活性な硝酸イオンや硫酸イオンが好ましい。
酸性pH調整剤としては、ホウ酸、炭酸、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、塩化アンモニウム等を用いることが可能である。アルカリ性pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物、四級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類を用いることが可能である。
その他、必要に応じてpH緩衝剤、粘度調整剤、防腐剤、酸化防止剤、防錆剤等の添加剤を用いても構わない。
このようにして調整された記録液は、pHによって粘度変化するという特性、具体的には、酸によって増粘するという特性を有している。すなわち、記録液は、水性溶媒と、この水性溶媒中に溶解または分散した着色剤と、疎水性Aセグメントと親水性BセグメントとからなるABA型両親媒性高分子と、このABA型両親媒性高分子を前記水性溶媒に溶解または分散せしめるカルボン酸系界面活性剤とを少なくとも含むため、記録液のpHが下がるにつれて弱酸塩であるカルボン酸系界面活性剤のカルボキシルイオンのプロトン化が進み、その界面活性機能を失うと、ABA型ポリマーはインク組成物中で安定に分散できず、複数のABA型ポリマーの疎水性Aセグメント同士が疎水会合(物理架橋)を起こして液体中にネットワーク構造を形成することにより記録液の粘度が増加する。このように、記録液は、pH変化に応答して粘度変化を示すpH応答性インク組成物となっている。増粘は、ゲル化を伴って生じる場合がある。
図2に示すように、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、同図において下方を向く記録液吐出側に配設された導電性のノズル部材であるノズルプレートとしてのノズル板61aと、ノズル板61aに形成されたノズル孔であるノズル61bと、ポンプによってインクカートリッジ81Y、81M、81C、81BKから記録液を供給され記録液を充填され記録液を保持する液室であるインク室61cと、インク室61c内の記録液をノズル61bから吐出させる図示しないインク吐出手段とを有している。ノズル板61a、ノズル61b、インク室61c、インク吐出手段はこれらが1組となって、それぞれ各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに多数備えられているが、同図においてはそのうちの1組のみを図示している。
ノズル板61aは、詳細な図示を省略するが、導電性の基板と、この基板の、中間転写体37に対向する側の面に形成された撥水膜とを有している。撥水膜は、フッ素系撥水剤やシリコン系撥水剤などを塗布して形成しても良いし、フッ素系高分子やフッ素―金属化合物共析などをメッキして形成しても良く、撥水性がある膜なら特に限定されない。ノズル板61aは、インク室61c側の面をインク室61c内の記録液との界面を形成する界面形成部として備えており、後述するようにカソードとして機能する。
ノズル板61aは、全体が導電性であっても良いし、インク室61c側の面のみを導電処理された部材であっても良いし、インク室61c側に配設された導電性部材と中間転写体37側に配設された絶縁性部材とによって構成しても良い。
ノズル板61aの導電性の部分は、後述するようにカソードとして備えられるため、金属溶出に対して耐性を有する材質によって構成する必要はなく、SUS合金、ニッケル等の金属、カーボンなど導電性の高い材料によって構成されればよい。
本形態のノズル板61aは金属製であり、このようなノズル板を備えたヘッドとしては、市販インクジェットプリンタGX5000:リコー製が挙げられる。後述するデータは、このヘッドを用いて取得したものである。
ノズル板61aは、画像形成時において中間転写体37とのギャップが50〜600μmの間で設定される。かかるギャップが50μm未満であると、回転体である中間転写体37とノズル板61aとのギャップを維持することが困難になることがあり、またかかるギャップが600μmを超えると、後述する液注のブリッジが形成されにくくなることがあるためである。ただし、ギャップの維持さえ可能なら50μm未満でも特に問題はない。
ノズル板61aは、ノズル61bを備えたノズル部となっており、とくに、中間転写体37に対向した表面であるノズル面61dがノズル部となっている。
インク吐出手段は、各ノズル61bから記録液を液滴化して吐出させ中間転写体37に着弾させるための液体吐出手段として、インク室61c内の記録液に圧力印加を行う圧力印加手段であるアクチュエータとしての圧電素子を有している。
圧電素子は、制御部98によって制御される、図4に示すヘッド駆動手段としてのヘッド駆動回路92によって駆動される。ヘッド駆動回路92は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから記録液を吐出させるための駆動信号を生成する駆動信号生成手段として機能するものである。駆動信号は、制御部98による制御のもとで、形成すべき画像などに応じた所定の駆動波形であるヘッド駆動波形言い換えると信号波形の電圧パルスとして生成される。このように、ヘッド駆動回路92ないし制御部98は、必要に応じて、随意に記録液の吐出のオン・オフを制御する駆動信号を生成可能となっている。生成された駆動信号は圧電素子に入力される。
よって、制御部98による制御によって圧電素子に印加される電圧パルスに応じてノズル61bから記録液が吐出されるようになっている。この点、制御部98は、インク吐出制御手段として機能する。
インク吐出制御手段として機能する制御部98は、かかる電圧パルスをかかる圧電素子のそれぞれに入力する。インク吐出制御手段として機能する制御部98は、各ノズル61bから吐出された記録液により、任意のパターンすなわち画像を形成するように、各圧電素子を時系列に駆動する。この点、制御部98は、画像制御装置として機能する。インク室61c内の圧力はノズル61bから記録液が吐出、排出されるとき以外は負圧に保たれるようになっている。
インク吐出手段のアクチュエータはピエゾ方式等の、形状変形素子方式である他の方式の可動アクチュエータであってもよいし、サーマル方式等の加熱ヒータ方式を採用した加熱手段による記録液の沸騰によってノズル61bから記録液を吐出させるものであっても良く、あらゆる方法で記録液を吐出するものを採用可能である。
図2に示すように、通電手段33は、支持体37aとノズル板61aとの間に接続された電源33aと、電源33aによる電圧印加によって支持体37aとノズル板61aとの間に流れる電流を検知して制御部98に入力する電流検知手段としての電流計33bと、制御部98の機能の一部として実現され電源33aによる電圧の印加タイミング、印加時間を制御する電圧印加制御手段とを有している。電圧印加制御手段としての制御部98は、電源33aの電圧を変更する電圧変更手段としても機能する。
電源33aは、電気回路により、陽極を支持体37aに接続され、陰極をノズル板61aに接続されている。よって、通電手段33は、中間転写体37をアノードとして備え、ノズル板61aをカソードとして備えている。
電源33aは、ヘッド61Y、61M、61C、61BKに接続され記録液に電流を流すことを可能とするものであれば良い。よって、電源33aは、ノズル板61aでなく、たとえばインク室61c内において記録液に接触するように配置された電極に接続されていても良い。
通電手段33は、後述するように、画像形成時において、記録液が電気分解する電圧を支持体37aとヘッド61Y、61M、61C、61BKとの間に印加する電圧印加手段として機能する。通電手段33は、後述するメンテナンス時においても電圧印加手段として機能し、画像形成時よりも小さな電圧を印加するようになっている。
液特性測定装置70は、メンテナンス位置を占めたヘッド61Y、61M、61C、61BKのノズル板61aに対向する位置に配設され、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された記録液を受ける受容体としての導電性部材である金属メッシュ71と、金属メッシュ71をその内側に固定され、メンテナンス位置を占めたヘッド61Y、61M、61C、61BKのキャッピングを行う受容体支持部材としてのキャッピング部材72とを有している。
液特性測定装置70はまた、キャッピング部材72の底部に接続され金属メッシュ71を透過した記録液をキャッピング部材72の外部に排出するための廃液チューブ73と、廃液チューブ73による廃液を行うために廃液チューブ73に接続された吸引手段としてのチュービングポンプ74と、廃液チューブ73によってキャッピング部材72から排出されてきた記録液を廃液として収納する廃液受けとしての廃液タンク75とを有している。
液特性測定装置70はまた、制御部98によって駆動を制御され、キャッピング部材72を金属メッシュ71とともに上下動させる、図4に示すキャッピング駆動装置93と、ヘッド61Y、61M、61C、61BKがキャッピング部材72によってキャッピングされた状態でノズル板61bの表面をワイピングしてノズル面61dのクリーニングを行うワイピング機構94と、ノズル板61aと金属メッシュ71との間に流れる電流を検出する検出装置95とを有している。
液特性測定装置70はその他、ヘッド駆動回路92、インク吐出手段として機能する制御部98、ヘッド61Y、61M、61C、61BK等を有している。
キャッピング駆動装置93は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKがメンテナンス位置を占めたときに、キャッピング部材72の上端部が、ノズル板61aの、ノズル61bが形成されていない位置に突き当たって当接する当接位置まで、キャッピング部材72を上昇させる。それ以外のときは、キャッピング駆動装置93は、キャッピング部材72を、ヘッド61Y、61M、61C、61BKに当接することのないように、かかる当接位置よりも下方の、退避位置に位置決めする。
キャッピング部材72が当接位置を占めると、ヘッド61Y、61M、61C、61BKはキャッピング部材72によって密閉された状態となり、記録液の乾燥、増粘が抑制される。
また、キャッピング部材72が当接位置を占めると、ヘッド61Y、61M、61C、61BKと金属メッシュ71との距離、より具体的にはノズル板61aとヘッド61Y、61M、61C、61BKとの距離が一定に保たれる。この点、キャッピング部材72は、かかる距離を一定に保つスペーサー部材として機能する。
キャッピング部材72が当接位置を占めた状態で、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された記録液は、金属メッシュ71に接触することとなるが、この接触部分はメッシュ構造となっている。
また、キャッピング部材72が当接位置を占めた状態で、チュービングポンプ74が制御部98の制御によって動作すると、キャッピング部材72の内部の圧力を減圧させることが可能になっている。
キャッピング駆動装置93の構成としては、ステッピングモータ、ピニオン&ラック等の機構を用いることが可能である。
ワイピング機構94の構成としては、ヘッド61Y、61M、61C、61BKのような液体噴射装置のノズル面61dをクリーニングするのに一般的に用いられている、ゴム製のブレードによってノズル面61dをワイプする等の機構を用いることが可能である。
検出装置95は、図3に示すように、通電手段33の構成と共通化されている。具体的には、検出装置95は、電圧印加制御手段、電圧変更手段として機能する制御部98と、この制御部98によって駆動を制御され、ノズル板61aと金属メッシュ71との間に電圧を印加する電圧印加手段として機能する電源33aと、この電源33aによる電圧印加によってノズル板61aと金属メッシュ71との間に流れる電流を検知、測定して制御部98に入力する電流検知手段としての電流計33bとを有している。
電流計33bは、電源33aに直列に接続された抵抗部としての既知の抵抗33a1と、この抵抗33a1による電圧降下量を測定するための電圧計33a2とを有しており、電圧計33a2の測定値を制御部98に入力するようになっている。
制御部98は、電圧計33a2からの入力値に基づいて、ノズル板61aと金属メッシュ71との間に流れる電流を測定する処理回路を内蔵している。制御部98は、かかる電流に基づいて、かかる処理回路において、後述する通電特徴量を、通電プロファイルとして測定するようになっている。この点、制御部98は、特徴量測定手段として機能するようになっている。
また、制御部98は、特徴量測定手段として機能する制御部98によって測定された通電特徴量に基づいて、記録液の特性値を算出して取得する特性値算出手段としての液特性算出手段である特性値取得手段として機能するようになっている。
以上のような構成の液特性測定装置70は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKのメンテナンス時に、キャッピング駆動装置93によってキャッピング部材72を当接位置に移動させた状態で、電圧印加制御手段、電圧変更手段として機能する制御部98により、電源33aを駆動してノズル板61aと金属メッシュ71との間に電圧を印加する。
この状態で、液特性測定装置70は、ヘッド駆動回路98を駆動してヘッド61Y、61M、61C、61BKから記録液を吐出させ、吐出された記録液がノズル61aと金属メッシュ71との間をブリッジしたときにこの記録液の液柱に流れる電流を電流計33bで検知する。
そして、液特性測定装置70は、かかる電流について、特徴量測定手段として機能する制御部98によって測定された通電特徴量に基づいて、特性値取得手段として機能する制御部98によって特性値を取得し、取得した特性値に基づいて、必要に応じて、キャッピング部材72を当接位置に保ったままの状態で、後述するように、ヘッド61Y、61M、61C、61BKのクリーニング動作を行う。電源33aの駆動によるノズル板61aと金属メッシュ71との間の電圧印加は、特性値の取得完了まで継続されるが、特性値の取得が完了すると、停止される。
このクリーニング動作は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKによる記録液の吐出及び/又はチュービングポンプ74の駆動によるヘッド61Y、61M、61C、61BKからの記録液の強制排出に、ワイピング機構94の駆動によるノズル面61dのワイプ動作を適宜組み合わせることによって行われる。
クリーニング動作によって生じた記録液の廃液、これに混ざっている記録液の固化成分や埃等の異物等は、チュービングポンプ74の駆動により、廃液チューブ73によってキャッピング部材72から排出され、廃液タンク75に収納される。このとき、キャッピング部材72がノズル板61aに当接しておりキャッピング部材72の内部が密閉され、その圧力が減圧されることで、キャッピング部材72からの廃液等の排出効率が高くなっている。
このように、液特性測定装置70は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKのメンテナンス手段としてのメンテナンス装置、クリーニング手段としてのクリーニング装置として機能する。
受容体がメッシュ構造の金属メッシュ71であることから、吐出された記録液はある量に達すると下方に滴下され透過するため、記録液が必要以上に蓄積されることが防止され、特性値の取得を連続的に行うことが可能となっているとともに、特性値の取得が正確に行われる。
チュービングポンプ74は金属メッシュ71に付着した記録液を除去するクリーニング手段としても機能し、金属メッシュ71のクリーニングが行われることで、これによっても特性値の取得を連続的に行うことが可能であるとともに、特性値の取得が正確に行われる。
特性値の取得及びこれに続いて必要に応じて行われるヘッド61Y、61M、61C、61BKのクリーニング動作は、キャリッジ駆動装置91によってヘッド61Y、61M、61C、61BKがメンテナンス位置に変位され、キャッピング駆動装置93によってキャッピング部材72が当接位置に変位された、ヘッド61Y、61M、61C、61BKのキャッピング状態となったことに加えて、次の条件の何れかが満たされたときなどに行われる。
・ユーザ指定の画像形成終了後の非画像形成時であって前回の特性値の取得から所定回数の画像形成が行われたとき
・ユーザによってヘッド61Y、61M、61C、61BKのメンテナンスを行うべき指示が画像形成装置100に入力されたとき
・キャッピング状態が所定時間維持されたとき
なお、これらの条件が満たされないときでも、キャッピング状態は、たとえば、次の画像形成指示、所定時間の経過まで継続され、これによって記録液の増粘が抑制される。
また、キャッピング状態の形成は、ユーザ指定の画像形成終了後から所定時間経過したとき、上記各条件の何れかが満たされたとき、の何れかに行うようにしても良い。
このようなキャッピング状態を形成する点において、液特性測定装置70は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKのキャッピングを行うキャッピング装置として機能する。
液特性測定装置70のその余については後述する。
このような構成の画像形成装置100においては、画像形成開始の旨の所定の信号の入力により、中間転写体37が各ヘッド61Y、61M、61C、61BKに対向しながらA1方向に回転し、この過程で、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の各色の画像領域が中間転写体37の同じ位置に重なるよう、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKから、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の記録液が、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして順次重ね合わされる態様で吐出され、中間転写体37上に一時的に画像が担持される。
このとき、電圧印加制御手段としての制御部98により、通電手段33が駆動され、電源33aから支持体37aとノズル板61aとの間に電圧が印加されている。
この状態で、記録液が、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKから中間転写体37上に付与される。このとき、まず、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから、図2(a)に初期状態が示されているように、ノズル61bにおいてメニスカスを形成している記録液が、電圧パルスの印加により、同図(b)に示すように、中間転写体37に向けて移動し、記録液の先端が中間転写体37に着弾して、ノズル61bと中間転写体37との間に、記録液からなる液柱のブリッジが一時的に形成され、次いで、同図(c)に示すように、記録液からなる液柱のブリッジが分断されることによって、中間転写体37に担持され、中間転写体37上に記録液による画像が形成される。ブリッジを形成している液柱の径は10μm程度であり、ブリッジ分断後に中間転写体37に担持されている記録液のドット径は50μm程度である。
そして、図2(b)に示した、記録液からなる液注のブリッジが形成された状態では、通電手段33により、記録液中の色剤成分が凝集作用を受ける。具体的には、通電手段33の電圧印加により、カソードであるノズル板61aとアノードである中間転写体37とにはそれぞれ次の電極反応が生じ、記録液の液柱のブリッジに含まれる水が電気分解される。
カソード:4H2O+4e−→2H2+4OH−・・・反応式(1)
アノード:2H2O→4H++O2+4e−・・・反応式(2)
これにより、アノードとして機能する中間転写体37の表面で、記録液の液柱のブリッジに含まれる水が酸化してプロトン(H+)が生成するため、図5に示すように、アニオン性分散剤Dにより分散されている顔料Pが、プロトンを介して凝集する。これにより、隣接するドット間の滲みの発生が抑制され、高精細な画像が形成される。また、かかる電圧印加によりノズル61bの目詰まりが予防されるという利点もある。なお、かかるブリッジを形成する時間は、圧電素子に印加される電磁パルスのピーク電圧とパルス幅等により制御可能である。
ここで、図6を用いて、カソード及びアノードの間に形成される液柱のブリッジについて説明する。液柱のブリッジBの内部では、カチオン及びアニオンは、それぞれカソードC及びアノードAの近傍に移動する。その結果、カソードC及びアノードAの表面に、それぞれ電気二重層EC及びEAが形成されるが、電気二重層EC及びEAの充電速度は、液柱のブリッジBの導電率、記録液に含まれるイオンの濃度でほぼ決定される。このとき、電気二重層EAの電圧が数Vに達すると、水が電気分解してファラデー電流が流れる。その結果、アノードAの表面では、水が酸化してプロトンが生成し、アニオン性分散剤により分散されている顔料が凝集する。一方、電気二重層ECの容量は、電気二重層EAの容量よりも十分に大きいため、カソードCの表面では、水が還元しにくい。これは、カソードCであるノズル板61aの面積は、アノードAとしての中間転写体37の面積よりも十分に大きいためである。なお、顔料の凝集の度合いは、プロトンの生成量、即ち、液柱のブリッジを形成する時間、通電手段33による印加電圧等により制御することが可能である。また、水が酸化してプロトンが生成する際に、酸素も発生するが、微量であることに加え、水に溶解すると考えられるため、画像形成を阻害しない。
このようにして、電極界面での電気二重層形成に相当する非ファラデー電流と、水の電気分解に起因したファラデー電流とが発生する。中間転写体37に記録液による画像を形成するためには、通電手段33による印加電圧は、水の理論分解電圧である1.23Vや一般的な水の電気分解の条件である数V〜十数Vでは不十分であり、数十V〜数百Vであることが好ましいが、数十V〜数百Vでは水の電気分解の反応抵抗はほぼ無視できるほど小さく記録液の溶液抵抗が支配的となる。液柱のブリッジBが形成されてからノズル61b近傍で液柱が分断してブリッジ状態が終わるのは数μs〜数十μsで、この時間とファラデー電流の積が通電電荷量であり、この値が大きいほど水素イオン発生量及び水酸化物イオン発生量が増える。
記録液は酸によって増粘するという特性を有するため、ブリッジBを形成した記録液には、増粘部が生ずる。水素イオンは中間転写体37の電極界面から発生するので、増粘部は、記録液の、中間転写体37表面に当接している部分及びその近傍に多く存在することになる。増粘部の存在により、中間転写体37の表面張力でドットが大きくなったり位置がずれたりといったビーディングの問題は抑制される。
通電手段33は、ブリッジBが形成された状態で中間転写体37とノズル板61aとの間に電圧を印加して記録液に含まれる水を電気分解することで、記録液の粘度を変化させるための、具体的には増粘させるためのpH処理を行うようになっている。このような通電手段33とこれを駆動する電圧印加制御手段としての制御部98とは、かかるpH処理を行うpH制御手段として機能する。
かかる電気分解を行うためには、ブリッジBを形成することが不可欠である。そのため、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、記録液を中間転写体37に付与するときに中間転写体37との間でかかるブリッジBを形成可能な距離で、中間転写体37に対向して配設されている。具体的にはノズル板61aの表面と中間転写体37の表面とのギャップ距離が、50〜300μmの間で設定され、好ましくは100〜200μmであって、本形態では100μmとされている。200μmを超えると、記録液の種類や吐出方法によっては、ブリッジする前に記録液の表面張力により液柱がノズル61b近傍で分断して通常の液滴化が起きてしまい、ノズル板61aと中間転写体37との間での記録液のブリッジによる水の電気分解が不可能となるためである。また、ギャップが小さければ記録液の着弾精度が向上するとともに、紙種対応性が良いなど、中間転写体37を用いることによる利点が得られるが、50μmを下回ると、振動や位置合わせ誤差などによる距離変動の影響を受け易くなってそのギャップを保つことが困難となり、さらにはノズル板61aと中間転写体37との接触が生じうることとなるためである。
図2(a)に示した状態から同図(b)に示した状態に移行するまでの間、同図(b)に示した状態から同図(c)に示した状態に移行するまでの間には、それぞれ、図7(a)ないし(c)、図8(a)ないし(c)の状態を経る。
たとえば、図7(a)に示されている状態では、液柱が形成されつつあり、荷電した液柱先端の移動に伴い、ノズル板61aと中間転写体37との間に極微量な誘導電流が流れるが、この電流は非常に微弱なものであり、電流計33bでは検出できない程度のものである。
同図(b)に示されている状態では、液柱先端が中間転写体37表面に着液し、ブリッジ状の液柱を形成している。液柱先端の中間転写体37表面への着液と同時に大きな電流が流れ始め、電流計33bによって電流値が測定される。
図8(b)は、液柱がノズル面61d近傍で分断された状態を示している。液柱が細くなることによって液柱の抵抗が増加し通電電流量が低下して、最終的に液柱が分断されることによって通電電流は停止する。
図2、図7、図8に示した各状態は、金属メッシュ71への記録液の吐出時にも同様に生じる。
中間転写体37上に担持された画像の先端が転写部31に到達するタイミングに合わせて、給紙ユニット20から給送された一枚の転写紙Sが転写部31に供給され、転写ローラ38が連れ回りしながら、転写部31を通過する転写紙Sに圧力をかけて中間転写体37に密着させ、中間転写体37上に担持されている画像を転写紙Sの表面に転写させる転写工程で、転写紙Sに画像が形成される。このように、転写ローラ38は、pH処理によって粘度が変化した記録液を中間転写体37から転写紙Sに転写するようになっている。転写によって画像が形成された転写紙Sは、排紙台25に案内され排紙台25上に積載される。
このようにして、画像が転写紙Sに転写されるときには、増粘した記録液、記録液の反応によって形成された凝集成分等の混合物が、転写紙Sに転写される。したがって、増粘した記録液中の、凝集作用により凝集した色剤によって、画像が形成されることにより、転写紙Sが普通紙である場合であっても、フェザリングやブリーディングがビーディングとともに防止ないし抑制されつつ、高速で高画像濃度、高画質の画像形成が可能である。
また、高速の画像形成を行うには、記録液を速乾性とすることを要するため、記録液は転写紙Sへの吸収性が一般に高いが、この場合には記録液が転写紙Sの奥深くまで浸透し、いわゆる裏移りを生じ、両面画像形成に不向きとなる。しかし、かかる増粘及び凝集作用により記録液の転写紙Sへの吸収性が低減されるためかかる裏移りが防止ないし抑制され、両面画像形成にも適している。さらにまた、記録液の転写紙Sへの吸収性が低減されることとともに増粘した記録液を紙繊維孔中に押し込めることにより転写工程を行うため、転写紙Sのコックリングやカールなどの変形も抑制ないし防止されるとともに、これによって画像を担持した転写紙Sの搬送性が向上し、ジャムが防止ないし抑制されるなど、転写紙Sの取り扱いが容易化する。
画像形成装置100では記録液が増粘するため、粘度変化がない場合と比べて、記録液は転写紙S内部に浸透しにくくなり、速乾性が低下するとも考えられる。しかし、転写ローラ38は、中間転写体37から記録液を転写紙Sに転写すると同時に、記録液と転写紙Sとに中間転写体37との間で圧力を印加することで、転写紙S内部への記録液の浸透性を向上している。この点、転写ローラ38と中間転写体37とは記録液と転写紙Sとに圧力を印加する圧力印加手段として機能するようになっている。定着工程における圧力の印加は、速乾性の担保とともに、中間転写体37と転写紙Sとの押圧・シアリングにより転写紙Sに対する増粘した記録液とくに記録液中の色剤の定着性を向上するために行われるものである。転写ローラ38と中間転写体37とが圧力印加手段を兼ねていることにより、画像形成装置100の構造が簡易となり、小型化、低廉化に寄与している。
転写ローラ38は、記録液による汚れ防止の観点から、表面エネルギーの低い撥水性部材を表面に配設されていることが好ましい。よって、転写ローラ38は、表面に、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのゴム材料、樹脂や金属、ゴムの表面にフッ素処理をした表面層を有している。
転写ローラ38の表面部材としての物性は、撥水性については水の後退接触角が60°以上、好ましくは80°以上であり、硬度についてはJIS−Aで60以上、好ましくは80以上である。また、表面層の厚みは0.1〜1mm程度がよく、0.2〜0.6mmが好適である。
加圧するときの圧力としては、1〜100kgf/cm2が好ましく、5〜20kgf/cm2がより好ましい。転写紙S上の記録液を加圧することで、記録液の浸透性をアシストする以外にも記録液のドットの平滑性を向上させることが可能となり、画像の光沢性が改善されるという利点がある。転写紙Sは、かかる加圧によって記録液の浸透性が向上しているため、排紙台25へのスタックの際の、他の転写紙Sの裏面への記録液の転写が防止ないし抑制される。
以上述べた画像形成動作の終了後、すでに述べた条件が満たされたときに、特性値の取得及びこれに続いて必要に応じてクリーニング動作が行われる。
特性値の取得にあたっては、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから記録液を吐出し、上述したノズル板61aと中間転写体37との間における記録液のブリッジと同様に、ノズル板61aと金属メッシュ71との間に記録液のブリッジを形成する必要がある。
そのため、キャッピング状態におけるノズル板61aと金属メッシュ71との距離は、ノズル板61aと中間転写体37との距離についてすでに述べたのと同様に設定されている。
具体的には、かかる距離は、50〜300μmの間で設定され、好ましくは100〜200μmであって、本形態では100μmとされている。200μmを超えると、記録液の種類や吐出方法によっては、ブリッジする前に記録液の表面張力により液柱がノズル61b近傍で分断して通常の液滴化が起きてしまい、ノズル板61aと金属メッシュ71との間での記録液のブリッジによる水の電気分解が不可能となるためである。また、50μmを下回ると、振動や位置合わせ誤差などによる距離変動の影響を受け易くなってそのギャップを保つことが困難となるためである。
この点、液特性測定装置70は、キャッピング部材72がスペーサー部材として機能し、かかる距離が高精度で一定に保たれ、ノズル板61aと金属メッシュ71との接触が生じることが防止されるという利点がある。
金属メッシュ71の、記録液のブリッジを形成するメッシュ構造の部分は、吐出された記録液がブリッジを形成するように十分に接触する程度には細かく、液滴がメッシュ構造上部に留まらない程度に粗くなっている。最適なメッシュ間隔は吐出する液体の体積に大きく依存するが、試行錯誤により5μm以上40μm以下となっていることが好ましいことが分かった。液滴を速やかに落下させるために、金属メッシュ71は吐出液体に対する濡れ性が高いことが好ましい。
なお、受容体は、本形態では記録液を透過させるためにメッシュ構造としているが、記録液を透過させることを要しなければ、プレート状、ローラ状、ベルト状などどのような形状であっても良い。また、高い導電性を有するものであれば、金属のほか、導電性酸化物、導電性ポリマー、カーボンを含有した導電性ゴム等を素材としても良い。受容体をローラ状の導電性ゴムとする例については図17に示して後述する。
特性値の取得のために電源33aによって印加する電圧は数ボルトから数十ボルト程度で十分であり、たとえば、すでに述べた従来技術すなわち液体を噴射する噴射面と液体を受ける検出部との間に電界を与える手法よりも低い電圧で十分な強度の信号を検出することが可能であり、装置の小型化、簡易化、放電の抑制が可能となる。
また、かかる電圧は、反応式(1)、反応式(2)に示したように水を電気分解するための、すでに述べた電圧よりも低い。よって、特性値の取得のための電圧印加による記録液の増粘は生じることはない。
ところで、液柱における抵抗値Rligは、原理的には次式1で表わされる。
同式において、σは液体、ここでは記録液の導電率、r(x)はノズル板61aから金属メッシュ71に向かう方向における液柱断面の半径を表している。
同式より、通電電流量の変化は液柱形状の変化によって生じる液柱抵抗Rligの変化によるものであり、通電電流量は液柱形状を反映した値であることが解る。特に液柱の一部が細っているとき、最も細い部分における抵抗値が液柱全体の抵抗値に対して支配的となる。
図9に、ヘッド駆動回路92で生成し、圧電素子に印加した駆動信号の駆動波形を示し、図10に、この駆動信号の入力によって電流計33bにおいて検出された通電電流値の時間変化を示す。図9において、符号PWは、かかる駆動波形のパルス幅を示している。
図10中のA点、B点、C点、D点はそれぞれ、図7(b)、図7(c)、図8(a)、図8(b)に示した記録液の状態での通電電流値を示している。
図10に従って通電電流量の時間変化に関して説明する。
駆動波形の印加によって吐出された記録液は通電開始時間T1において金属メッシュ71上に到達し電流が流れ始める。このとき、初期状態は図7(b)に示されるように太い液柱が形成されているため、A点近辺で示されるように、急激に大きな電流が流れる。
次に、B点近辺で示されるように、図7(c)に示した状態のように安定的で比較的に均一な太さの液柱が形成されると安定的な電流が流れる。その後、C点近辺で示されるように、図8(a)に示した状態のように液中の一部において次第に液柱が細ると電流値が低下する。このとき、前述の通り液柱の抵抗値は最も細い液柱部分における抵抗値が支配的であるため、流れる電流値の変化は液柱が細る過程を良く反映している。
最終的にD点近辺で示されるように、通電終了時間T2においては、図8(b)に示した状態のように記録液がノズル61bから分断されるため、通電が終了する。
なお、特徴量測定手段として機能する制御部98に備えられている処理回路は、電圧降下量に相当する電圧信号を直接処理し、たとえば閾値を設け、この閾値を基準として、通電開始時間や通電時間を測定する構成を取ることが可能である。
このように、液柱のブリッジを流れる電流量は、従来の手法によって測定される誘電電流量、その他、圧電素子の圧力検知信号等に比べて非常に大きいものであるため、特性値が高精度に取得可能となるという利点がある。
以上説明したことから明らかなように、通電プロファイルは記録液等の液の吐出速度および液柱の形成過程等の形状に深く関わっており、通電プロファイルは吐出液の特性値と深く関わりがある。たとえば、液柱のブリッジが形成されている時間を反映した通電時間Twは、おおよそ粘度が高いほど大きな値となり、表面張力が高いほど小さな値となる傾向にある。あるいは、C点における電流量は表面張力が高いほど急激に低下することとなる。
そこで、特徴量測定手段として機能する制御部98は、このような通電プロファイルの特徴を捉えるために、通電時の最大電流量Imax、通電時の電荷量すなわち総電荷量である通電電荷量CL、ヘッド駆動回路92で生成された駆動信号が発せられてから通電が開始されるまで言い換えると通電が測定されるまでの通電開始時間T1、ヘッド駆動回路92で生成された駆動信号が発せられてから通電が終了するまで言い換えると通電が測定されなくなり通電が停止するまでの通電終了時間T2、通電が開始されてから液体が分断して通電が停止するまでの時間である、通電終了時間T2からの通電開始時間T1の差分に等しい通電継続時間としての通電時間Twを、それぞれ通電特徴量として使用する。
通電特徴量と液特性、たとえば粘度との関係は、次に述べる測定結果のように、物性が既知の複数の記録液に対してその傾向を予め算出し、特性値取得手段として機能する制御部98に記憶されている。特性値取得手段として機能する制御部98は、特徴量測定手段として機能する制御部98によって実際に測定された通電特徴量の測定結果に基づいて、かかる関係を用いて、粘度などの特性値を算出等して取得する。
通電特徴量と液粘度の関係を求めた結果の一例を説明する。
条件としては、図3に示した構成において、受容体として受容プレートであるSUS板を用い、ノズル面61dとこの受容プレートのギャップを100μmに保ち、吐出と同時に通電電流プロファイルを測定し、測定結果から通電特徴量を算出した。
図11に、評価に使用した3種類の記録液の物性値を示す。これらの記録液は、すでに述べた記録液と同様に、水、カーボンブラック顔料、湿潤剤、界面活性剤の混合液であり、湿潤剤量のみを変えて粘度調整を行ったものである。
図12、図13にそれぞれ、図11に示した記録液の通電特徴量と粘度との関係を示す。
図12から、通電開始時間T1、通電終了時間T2、通電時間Twについてはそれぞれ、粘度が一次関数で近似可能であることが解る。したがって、この関係を基に、測定時には通電特徴量として通電開始時間T1、通電終了時間T2、または通電時間Twのうちの少なくとも1つを測定することによって、特性値取得手段として機能する制御部98において、特性値として粘度を算出することが可能である。
図13では、通電特徴量として、通電電荷量CLを通電時間Twで割った平均電流量Iavgを使っている。同図から、平均電流量Iavgと粘度との間に2次関数の相関があることがわかる。したがって、この結果に基づいて2次関数で平均電流量Iavgと粘度の関係を求めておくことで、測定時に、平均電流量Iavgから、特性値取得手段として機能する制御部98において、特性値として粘度を算出することが可能となる。
このように、複数の通電特徴量からある1つの新しい通電特徴量となるパラメータを、特徴量測定手段として機能する制御部98において算出し、そのパラメータから吐出液体の特性値を算出しても良い。平均電流量Iavgと異なる通電特徴量としては、たとえば、平均電流量Iavgをさらに最大電流量Imaxで割ったものが挙げられる。
まとめると、上記各通電特徴量のうち1の少なくとも1つに基づいて、記録液の特性値である粘度等の物性値を取得することが可能である。
特性値の中で、粘度は、記録液の吐出状態に大きな影響を与えるため、各種の特性値の中でもこれが取得されることは重要である。
以上で説明した、特性値である粘度の算出方法は、たとえばオンデマンド型インクジェット方式を用いた画像形成装置において、ノズル近傍のインクが水分蒸発によって増粘しているときにその増粘具合を測定するのに使用するときに有効である。ノズルにおける水分蒸発は1秒以下の非常に短い時間スケールでも生じ、さらに非常に局所的であることから、従来の手法では測定することが容易ではなかった。しかし、ここに述べている通電特徴量を用いた特性値の取得手法によれば、ノズル部の局所的なインクに対して、溶媒蒸発に伴う増粘の有無および程度を簡易な装置によって測定することが可能となり、その結果に基づきインクのフラッシングや加圧・吸引などによるインク排出動作を最適化することが可能であり、無駄なインクおよび電力の消費を避けることが可能である。
記録液の性質に応じて、次のように、特性値を取得するための通電特徴量の種類、特性値の取得方法、特性値の種類等を変化させることが可能である。
上述の測定環境を用いるとともに、液体として水に硝酸テトラメチルアンモニウムを2重量%溶解した液体を用い、所定時間吐出せずに放置した後の初滴吐出状態における通電プロファイルから通電特徴量として通電電荷量を測定した結果を、図14に示す。
同図から、水の乾燥に従ってノズル部の硝酸テトラメチルアンモニウム質量比が増えて導電率が向上し、全体として通電電荷量が向上していることが読み取れる。この結果から、初期の通電電荷量との比より、吐出液体の導電率を特性値として測定し、取得する手法を採用可能であることが分かる。
図14に示した例は、吐出する液体として単なる電解質の水溶液を用いた場合について測定したものであるが、この例から得られる測定方法を、少量のポリマーや微粒子を精密に等量だけ吐出する目的に対して応用することも可能である。
たとえば、溶媒に対する溶解物もしくは分散物の量が少ない場合には、乾燥によってその濃度は大きく変化するが、粘度はほとんど変化しないことが多いため、この場合には、粘度を特性値として用いることは好ましくない。しかしながら、上述の測定方法を用いれば、溶質すなわち溶解物の濃度変化を導電率という指標で測定することが可能であり、導電率を特性値として測定し、取得することが可能である。
これはすでに述べた従来の手法では出来なかったことである。また、このような目的で本測定方法を利用する際には、測定対象である液体中に微量の電解質を予め含ませておくことも有効である。
複数の通電特徴量から複数の特性値を算出し取得することも可能である。たとえば、平均電流量、最大電流量、通電時間などの特徴量を用いて、特性値として粘度と表面張力とを算出、取得することが可能である。
ただし、通電特徴量と液特性との関係は、吐出液体や吐出条件に強く依存するため、吐出液体において起こりうる変化、たとえば乾燥による増粘や、乾燥による濃度の変化について、予め通電特徴量の変化を測定しておき、特性値取得手段として機能する制御部98に記憶させておくことが必要である。
複数種の駆動波形で生成された駆動信号について測定された通電特徴量に基づいて特性値を取得することも可能である。図12、図13に示した例では、通電特徴量と同図記載の粘度範囲において、1対1の良好な関係を有している。しかし、広範囲な粘度については必ずしもそのような関係が成立しない。
そのため、より広範囲な液特性に対応し、その特性値を算出、取得することを可能とする方法として、複数の駆動波形を用いてプローブすることがより好ましい。すでに述べたように、ヘッド駆動回路92は、必要に応じて、随意に記録液の吐出のオン・オフを制御する駆動信号を生成可能となっており、複数の駆動波形を生成可能である。
たとえば、ヘッド駆動回路92は、駆動波形のパルス幅PWを変えることで、複数の駆動波形を発生させることが可能である。図15に、複数のパルス幅PWの駆動波形について、通電開始時間T1とパルス幅PWの差分を使用した通電特徴量T1−PWを測定した例を示す。同図に示されている例では、特性値として粘度を取得している。
同図から、粘度μ1、μ2、μ3(μ1<μ2<μ3)のそれぞれのインクに対して、T1−PWが最小となる値を通電特徴量として採用し、これを用いて特性値である粘度を取得すれば、広い粘度範囲に対してより正確に粘度を算出することが可能となることが分かる。
以上述べたような種々の方法により、特性値を取得することが可能である。そして、取得した特性値を用いて、ヘッド、ノズルのメンテナンスを行うことが可能である。特性値を用いたかかるメンテナンスを、画像形成装置100において行う例を図16に沿って説明する。
同図は、装置使用直前のノズルメンテナンス処理フローを簡単に示したものである。このメンテンナンス処理は、たとえば画像形成装置100をしばらく使用しておらずキャッピングされた状態で放置されていたヘッド61Y、61M、61C、61BKに対して使用直前に行うものを想定している。
このノズルメンテナンス処理では、まず初期化動作を行う(S1)。この動作はヘッド61Y、61M、61C、61BKの位置およびキャッピング部材の位置の初期化、およびヘッド61Y、61M、61C、61BKに所定の吐出動作を行わせ、ヘッド61Y、61M、61C、61BKからある程度記録液を吐出する動作を行う。
次に、電源33aによって所定の電圧を印加しヘッド61Y、61M、61C、61BKから記録液を吐出させることで、通電特徴量を測定し、記録液の特性値として粘度を取得する液特性測定としての液物性測定を行う(S2)。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKは複数のノズル61bを有するため、全てのノズル61bに順次吐出を行わせ、液特性測定を行う。ただし、複数のノズル61bからの吐出を同期して行っても良い。測定結果は制御部98のメモリに保持される。この点、制御部98は、特性値記憶手段として機能する。液特性測定後、電源33aをオフにする。
同図に示されているメンテナンス処理については特性値に関する2つの閾値を用いた2段階のメンテナンス条件を用意しており、まず、液特性測定結果である特性値に関する値が第1の閾値以下であるか否かを判断し(S3)、第1の閾値を超えている場合は第1のメンテナンス動作(S4)を行い、再度、ステップS2を行う。
第1のメンテナンス動作としては、チュービングポンプ74によってキャッピング部材72の内部を減圧し、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから記録液を吸引する動作を行う。さらに必要であれば、ノズル面61dに付着した記録液をワイピング機構94の駆動によって払拭するワイピング動作を行ってもよい。
ステップS3において特性値に関する値が第1の閾値以下ではあると判断されたときは、その特性値に関する値が第2の閾値以下であるか否かを判断し(S5)、第2の閾値を超えているときは第2のメンテナンス動作を行い、再度、ステップS2を行う。
ステップS5において特性値に関する値が第2の閾値以下であると判断されたときは、メンテナンス動作を行わずに終了する。
第1の閾値、第2の閾値は、たとえば液特性測定結果より所定粘度以上の液体を吐出するノズルが所定個数以上存在するか否かなどの条件として設定される。
第2のメンテナンス動作としては、ヘッド61Y、61M、61C、61BKから所定回数の吐出動作を行い、増粘した記録液を排出する動作を行う。この場合も、必要であれば、ノズル面61dに付着した記録液をワイピング機構94の駆動によって払拭するワイピング動作を行ってもよい。
第1のメンテナンス動作と第2のメンテナンス動作とでは、前者の方が記録液の排出量が多いものの、ノズル回復機能としては高い。そのため、第1の閾値と第2の閾値とでは第1の閾値に大きな値を用いている。
これらのメンテナンス動作は、ステップS2の液特性測定の結果が最終的に第1の閾値および第2の閾値についての条件を満たすまで、複数回続けられることがある。このときは、メンテナンス動作回数をカウントして、多数回のメンテナンス動作にも関わらず液特性測定結果がかかる条件を満たすまでに向上しない際にはエラー表示を行う。
以上のメンテナンス処理によって、記録液の状態、ノズル部の液特性を常に測定しながらメンテナンスが行われるため、必要以上の記録液が排出されることが抑制され効率的なメンテナンスが行われる。また、記録液の不吐出などの不具合を防ぐことも可能であるため、画像形成に関して高い安定性を備えた高品質な画像形成装置が得られる。
メンテナンス処理動作はここに述べた方法に限られるわけではなく、より多段階のメンテナンス動作を用意することも可能であるし、メンテナンス動作中に定期的に液特性を測定することも可能である。
取得した特性値は、メンテナンス要否の判断に用いるのみならず、記録液の劣化判断を行い、またこれに加えて記録液が劣化していると判断されたときに記録液の交換を促すために用いられても良い。
以上述べた画像形成装置100においては、受容体として金属メッシュ71を用いているが、図17に示すように、受容体は、導電性のローラである中間転写体37であっても良い。この場合、図3に示した液特性測定装置70が省略可能であり、装置の構造の簡易化、小型化、低廉化が可能となる。また、通電手段33を、特性値の取得に用いることが可能であり、このことによっても、装置の構造の簡易化、小型化、低廉化が可能となる。
また、ヘッド61Y、61M、61C、61BKを金属メッシュ71に対向する位置まで移動させることが不要となることに伴って、キャリッジ駆動装置91を省略可能となり、装置の構造の簡易化、小型化、低廉化が可能となる。キャリッジ駆動装置91を省略する場合には、画像形成装置100をフルライン型とすれば良い。
通電特徴量を測定するための記録液の吐出を中間転写体37に行うため、中間転写体37のクリーニングを行うことを要するが、これについてはクリーニング装置40を用いることが可能である。よって、中間転写体37を受容体としても、装置の構造の複雑化、大型化、高コスト化が回避可能である。中間転写体37のクリーニングを行うことで、特性値の取得を連続的に行うことが可能である。
また、中間転写体37表面の後退接触角は、ノズル面61dの後退接触角よりも小さく、クリーニングブレード41の後退接触角よりも大きくなるように設定されていることから、ノズル面61dに付着した記録液が中間転写体37表面へ移動するとともに、特性値を取得するために中間転写体37に吐出された記録液も、中間転写体37表面からクリーニングブレード41に移動し、ノズル面61dが清浄な状態とされるとともに、中間転写体37の表面が清浄な状態とされる。よって、特性値の取得が正確に行われる。
図18に、画像形成装置100の別の構成例を示す。この画像形成装置100において、図1に示した画像形成装置100に備えられたのと同様の構成については、同じ符号を付して適宜説明を省略し、図1に示した画像形成装置100と異なる点について主に説明する。
図18に示す画像形成装置100は、図1に示した画像形成装置100が備えている中間転写体37、転写ローラ38を備えておらず、フルライン型とされたヘッド61Y、61M、61C、61BKとガイド板39とが対向した記録液の吐出部53において転写紙Sへの画像形成を直接的に行う直接方式の画像形成装置となっている。
図18に示す画像形成装置100において、液特性測定装置70は、記録紙Sの搬送方向において吐出部53の下流側に位置している。これに伴って、ヘッド61Y、61M、61C、61BKが液特性測定装置70に対向するメンテナンス位置も、記録紙Sの搬送方向において吐出部53の下流側にある。
キャリッジ駆動装置91は、かかる搬送方向に沿って延びキャリッジ62に螺合したねじ軸32aと、ねじ軸32aを正逆回転駆動するモータ32bとを有し、キャリッジ62を同図における一点差線で示す位置に変位させることで、ヘッド61Y、61M、61C、61BKをメンテナンス位置に変位するようになっている。
キャッピング駆動装置93は、ヘッド61Y、61M、61C、61BKがメンテナンス位置を占めたときに、液特性測定装置70に備えられているキャッピング部材72の上端部が、ノズル板61aの、ノズル61bが形成されていない位置に突き当たって当接する当接位置まで、キャッピング部材72を上昇させる。それ以外のときは、キャッピング駆動装置93は、キャッピング部材72を、吐出部53を経て排紙台25へ向けて搬送される転写紙Sに当接することのないように、かかる当接位置よりも下方の、退避位置に位置決めする。
ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、吐出部53を搬送されるメディアである転写紙Sに相対移動しながら各色の記録液を吐出して転写紙Sに画像を形成する。ヘッド61Y、61M、61C、61BKは、シャトル型でも良く、この場合、メディアである転写紙S上を移動しながら各色の記録液を吐出して転写紙Sに画像を形成する。
このような構成の画像形成装置100においては、画像形成開始の旨の所定の信号の入力により、給紙ユニット20から給送された一枚の転写紙Sが吐出部53に向けて給送される。この転写紙Sは、搬送ローラ32を経て吐出部53に供給され、吐出部53を通過する過程で、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の各色の画像領域が同じ位置に重なるよう、各ヘッド61Y、61M、61C、61BKから、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の記録液が、その搬送方向において上流側から下流側に向けてタイミングをずらして順次重ね合わされる態様で吐出され、画像が形成される。
圧力印加部70を通過した転写紙Sは、排紙台25に案内され排紙台25上に積載される。
制御部98は、メモリに、以上述べた、電圧を印加されたヘッド61Y、61M、61C、61BKとヘッド61Y、61M、61C、61BKから吐出された記録液を受ける金属メッシュ71または中間転写体37との間をブリッジした記録液に流れる電流について測定された、最大電流量と、電荷量と、記録液を吐出させる駆動信号が発せられてから通電が開始されるまでの通電開始時間と、かかる駆動信号が発せられてから通電が停止するまでの通電停止時間と、かかる通電開始時間からかかる通電停止時間までの通電継続時間と、のうちの少なくとも1つである通電特徴量に基づいて、記録液の特性値を取得する液特性測定方法を実行するための液特性測定プログラムを記憶している。この点、制御部98ないしメモリは、液特性測定プログラム記憶手段として機能している。かかる液特性測定プログラムは、制御部98に備えられたメモリのみならず、半導体媒体(たとえば、RAM、不揮発性メモリ等)、光媒体(たとえば、DVD、MO、MD、CD−R等)、磁気媒体(たとえば、ハードディスク、磁気テープ、フレキシブルディスク等)その他の記憶媒体に記憶可能であり、かかるメモリ、他の記憶媒体は、かかる液特性測定プログラムを記憶した場合に、かかる液特性測定プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記録媒体を構成する。
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
たとえば、本発明に係る液特性測定方法、液特性測定装置、液体吐出装置は、画像形成装置に適用されるのみならず、微細な配線パターンを作製する加工装置、液晶ディスプレイのカラーフィルターをパターニングする加工装置などに適用されても良いし、独立した液特性測定装置、液体吐出装置に適用されても良い。
ヘッドから吐出される液体は、画像形成に用いられる記録液に限らず、かかる加工装置に用いられるものなど、液体であれば良い。
中間転写体はローラ状でなく、無端ベルト状であっても良い。
また、本発明を適用する画像形成装置は、上述のタイプの画像形成装置に限らず、他のタイプの画像形成装置、すなわち、複写機、ファクシミリの単体、あるいはこれらの複合機、これらに関するモノクロ機等の複合機、その他、電気回路形成に用いられる画像形成装置、バイオテクノロジー分野において所定の画像を形成するのに用いられる画像形成装置であっても良い。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。