JP2013075329A - プレス成形品の製造方法およびプレス成形設備 - Google Patents
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Abstract
【課題】深絞り加工が可能な程度に成形性が良好なプレス成形品を生産性良く製造するためのプレス成形方法、及びプレス成形設備を提供する。
【解決手段】プレス成形金型を用いて薄鋼板をプレス成形して成形品を製造する方法であって、前記薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱した後、600℃以下の温度まで冷却してから金型で成形を開始し、マルテンサイト変態開始温度Ms以上の温度で成形を終了した後、前記金型から離型して焼入れをする。
【選択図】図8
【解決手段】プレス成形金型を用いて薄鋼板をプレス成形して成形品を製造する方法であって、前記薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱した後、600℃以下の温度まで冷却してから金型で成形を開始し、マルテンサイト変態開始温度Ms以上の温度で成形を終了した後、前記金型から離型して焼入れをする。
【選択図】図8
Description
本発明は、自動車部品の構造部材に使用されるような強度が必要とされる熱間プレス成形方法、およびその設備に関し、特に予め加熱された薄鋼板(ブランク)を所定の形状に成形加工する際に、形状付与と同時に熱処理を施して所定の強度を得ることのできるプレス成形品を製造する方法、およびそのような製造方法に用いる設備に関するものであり、殊にプレス成形時に破断や割れなどを発生させずに成形品を生産性良く製造できるプレス成形品の製造方法、及びその設備に関するものである。
地球環境問題に端を発する自動車の燃費向上対策の一つとして車体の軽量化が進められており、自動車に使用される薄鋼板をできるだけ高強度化することが必要となる。しかし、自動車の軽量化のために一般に薄鋼板を高強度化していくと伸びELやr値(ランクフォード値)が低下し、プレス成形性や形状凍結性が劣化することになる。
このような課題を解決するために、薄鋼板(ブランク)を所定の温度(例えば、オーステナイト相となる温度)に加熱して強度を下げた(即ち、成形を容易にした)後、薄鋼板(被加工材)に比べて低温(例えば室温)の金型で成形することによって、形状の付与と同時に、両者の温度差を利用した急冷熱処理(焼き入れ)を行って、成形後の強度を確保する熱間プレス成形法(いわゆる「ホットプレス法」)が部品製造に採用されている(例えば特許文献1)。
こうした熱間プレス方法によれば、低強度状態で成形されるので、スプリングバックも小さくなると共に(形状凍結性が良好)、急冷によって引張強度が1500MPa級の強度が得られることになる。尚、このような熱間プレス方法は、ホットプレス法の他、ホットフォーミング法、ホットスタンピング法、ホットスタンプ法、ダイクエンチ法、等様々な名称で呼ばれている。
図1は、上記のような熱間プレス成形を実施するための金型構成を示す概略説明図であり、図中1はパンチ、2はダイ、3はブランクホルダー、4は薄鋼板(ブランク)、BHFはしわ押え力、rpはパンチ肩半径、rdはダイ肩半径、CLはパンチ/ダイ間クリアランスを夫々示している。また、これらの部品のうち、パンチ1とダイ2には冷却媒体(例えば水)を通過させることができる通路1a,2aが夫々の内部に形成されており、この通路に冷却媒体を通過させることによってこれらの部材が冷却されるように構成されている。
上記のような金型構成を有するプレス成形機を備えた熱間プレス成形設備は、例えば非特許文献1に開示されている。この設備では、薄鋼板を加熱して軟化させるための加熱炉、加熱した薄鋼板を搬送するための装置、薄鋼板をプレス成形するためのプレス成形機、および成形した成形品をトリミング加工(レーザ等によって最終形状にするための補正加工)するための装置等を備えたものである(後記図2参照)。
こうした金型を用いてホットプレス(例えば熱間深絞り加工)するに際しては、ブランク(薄鋼板4)を加熱して軟化させた状態で成形を開始する(ダイレクト工法)。即ち、高温状態にある薄鋼板4をダイ2とブランクホルダー3間に挟んだ状態で、パンチ1によってダイ2の穴内に薄鋼板4を押し込み、薄鋼板4の外径を縮めつつパンチ1の外形に対応した形状に成形する。また、成形と並行してパンチおよびダイを冷却することによって、薄鋼板4から金型(パンチおよびダイ)への抜熱を行うと共に、成形下死点(パンチ先端が最上部に位置した時点:図1に示した状態)で更に保持冷却することによって素材の焼き入れを実施する(ダイクエンチ)。こうした成形法を実施することによって、寸法精度の良い1500MPa級の成形品を得ることができ、しかも冷間で同じ強度クラスの部品を成形する場合に比較して、成形荷重が低減できることからプレス機の容量が小さくて済むことになる。このような成形方法は例えば特許文献2にも開示されている。
「新しい自動車生産ライン 熱間プレス成形とレーザ加工」:藍田和雄(AP&T)、FORUM on LASER MATERIAL PROCESSING 2010、pp.42−49
しかしながらこれまでのホットプレスでは、通常700〜900℃付近でプレスを行った後、引き続き金型内で200℃程度まで冷却して焼入れを行うため、成形下死点(パンチ先端が最上部に位置した時点)で一定時間保持する必要があり、ダイクエンチに要する時間が長かった。そのため、1分あたりのプレス回数(spm:ストローク/分)が2〜6回程度と少なく、金型稼働効率が低く、生産性が悪かった。
こうしたことから、冷間プレスによってニアネット(成形品に近い状態)まで成形し、その後、加熱・ダイクエンチする、いわゆるインダイレクト工法も提案されているが、この方法では成形工程が増えるためにやはり成形時間が長くなるという欠点がある。したがって、成形工程がそれほど多くならないダイレクト工法によって生産性を一層向上する技術が求められているのが実情である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、プレス成形時に破断や割れなどを発生させることなく、所望の強度を有するプレス成形品を生産性良く製造するための方法、およびこうした製造方法に適したプレス成形設備を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明のプレス成形方法とは、プレス成形金型を用いて薄鋼板をプレス成形して成形品を製造する方法であって、前記薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱した後、600℃以下の温度まで冷却してから金型で成形を開始し、マルテンサイト変態開始温度Ms以上の温度で成形を終了した後、前記金型から離型して焼入れをすることに要旨を有する。
本発明を実施するにあたって、前記成形は、メカニカルプレス成形、またはプレス速度が100mm/s以上の油圧プレス成形であることが望ましく、また前記600℃以下の温度までの冷却は、前記薄鋼板を金属で挟持して行うものであるか、ガスおよび/またはミストを吹き付けて行うものであることが望ましい。
また上記目的を達成することのできた本発明のプレス成形設備とは、加熱炉とプレス成形機を備え、前記加熱炉で薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱した後、プレス成形機によって薄鋼板をプレス成形して成形品を製造するためのプレス成形設備であって、前記加熱炉内部、または前記加熱炉と前記プレス成形機の間には、加熱された薄鋼板を急冷するための冷却部が備えられていると共に、前記プレス成形機は、メカニカルプレス機、或いはプレス速度が100mm/s以上を有する油圧プレス機であることに要旨を有する。
本発明には上記プレス成形設備によって、得られたプレス成形品も含まれる。
本発明によれば、薄鋼板を加熱した後、所定の温度まで冷却してからプレス成形を開始し、マルテンサイト変態開始温度Ms以上の温度で成形を終了し、金型から離型して焼入れをするようにしたので、金型稼働効率を高めることができ、プレス成形品を生産性良く製造することが可能となった。したがってホットスタンプ部品の製造コストも低減できる。
また本発明によれば、前記加熱炉内部、または前記加熱炉とプレス成形機の間に、加熱された薄鋼板を急冷するための冷却部を備えると共に、メカニカルプレス成形機或いは高速な油圧プレス機を備えたので、この設備によってプレス前に600℃以下に冷却されたブランクをプレス成形すれば、金型稼働効率を高めてプレス成形品を生産性良く製造することが可能である。
したがって本発明によれば、成形時に破断や割れなどを発生させることなく所望の強度を有する良好なプレス成形品を生産性良く提供することが可能である。
本発明者らは、薄鋼板を加熱した後、プレス成形し、良好なプレス成形品を生産性良く製造するために、様々な角度から検討した。
まず、本発明者らはプレス成形工程に着目した。従来は、金型内で成形と共に冷却して焼入れを行うため、成形下死点で一定時間保持しなければならなかった。例えば上記特許文献2では、プレス成形後、プレス下死点でパンチを停止させて金型への抜熱により鋼板温度を低下させているため(下死点保持冷却)、金型稼動効率が悪く、生産性も悪かった。
そこで本発明者らは、薄鋼板を成形後、金型内で焼入れを行わず、金型から取り出して焼入れを行うようにすれば、成形下死点で保持する必要がないため、プレスに要する時間(金型占有時間)が短くなり、金型の稼働効率を高めることが可能となり、生産性を向上できると考え、成形条件について更に検討を重ねた。
その結果、薄鋼板(ブランク)を加熱した後、そのまま成形を開始するのではなく、薄鋼板を加熱した後、600℃以下の温度域まで急冷してから金型で成形を開始し、マルテンサイト変態開始温度Ms以上の温度で成形を終了した後、金型から離型して焼入れするようにすれば、割れなどを生じることなく良好な成形性を維持しつつ、生産性も大幅に向上できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明が完成された経緯を具体的に説明する。
本発明者らは、まず表1に示す化学成分組成を有する薄鋼板を、900℃に加熱した後(この薄鋼板のAc1変態点:718℃、Ac3変態点:830℃、マルテンサイト変態開始温度Ms:411℃)、600℃以下に急冷してから前記図1に示した金型(メカニカルプレス機)を用いて前述した手順で絞り成形実験を行ったところ、成形下死点まで深絞り成形が可能であり、しかもマルテンサイト変態開始温度Msに達するまでに成形を終了させ、金型から薄鋼板を離型して冷却すれば、十分に焼入れを行うことができることが判明した(本発明のヒートパターンを図8に示す)。したがって、金型内で焼入れをする従来例と比べて、金型占有時間を大幅に短縮できるため、例えば1分あたりのプレス回数(spm:ストローク/分)を8〜15回とすることができ、従来の2〜6回と比べると大幅に生産性を向上させることが可能になった。
本発明を実施するに当たっては、まず薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱して成形を容易にする必要がある。なお、Ac1変態点以上とは、Ac1変態点〜Ac3変態点の二相域温度、Ac3変態点以上の単層域温度のいずれでもよい意味である。この加熱温度の上限は1000℃程度までとすることが好ましい。1000℃よりも高くなると、酸化スケールの生成が著しくなって(例えば、100μm以上)、成形品の板厚(デスケーリング後)が所定のものよりも薄くなる恐れがある。
ところで、従来の熱間プレスラインは、図2(概略説明図)に示すような構成(設備構成)となっているのが一般的である。即ち、図2に示すように、コイル状態の薄鋼板10を切り出し機11によって切り出した後(Blanking)、加熱炉12内で加熱し、その後、プレス成形機13に搬送してプレス成形を行うことによって、プレス成形品14が得られる(従来例のヒートパターンを図7に示す)。
本発明では、薄鋼板を加熱炉で所定の温度に加熱した後、そのままプレス成形機に搬送して成形を開始するのではなく、600℃以下の温度まで急冷してから成形を開始する。成形開始温度が600℃を超えると成形後の焼入れ時間が長くなり、生産性が低下するとともに、焼きが入らず十分な強度が得られないことがある。また、成形性が低下し、絞り成形や複雑形状部品の成形が困難となることがある。好ましい成形開始温度は 580℃以下、より好ましくは550℃以下である。一方、成形開始温度を低下させすぎると、成形開始の段階で既に薄鋼板自体が硬くなってしまい、良好な成形性を発揮できなくなる。したがって成形開始温度はMs点よりも高温とすることが好ましく、より好ましくはMs点+30℃以上とすることが望ましい。加熱後、600℃以下まで冷却する際の冷却速度(平均冷却速度)は、冷却速度が遅いと十分な強度が確保できないことや生産性が悪化することから、30℃/s以上の冷却能力を有するものであることが必要である。好ましくは80℃/s以上で冷却することが望ましい。
薄鋼板を加熱後、600℃以下まで冷却を行うに際しては、例えば図3〜6(概略説明図)に示すような設備構成を採用すれば良い(図3において、図2に対応する部分には同一の参照符号が付してある)。本発明のプレス成形設備においては、加熱炉12の内部に、加熱炉12に付随して冷却部15が備えられ、薄鋼板10を加熱炉12からプレス成形機13に移動するまでに冷却する。この冷却部15は、加熱炉12とプレス成形機13の間の備えるようにしても良い(例えば図4〜6の「冷却部」又は「冷却帯」参照。)。冷却部15で行う冷却では、例えば下記(1)〜(4)等の方法で(或は併用して)冷却を実施することができる。
(1)冷媒としての金属と接触させる手段(例えば、金属板や金属ロールなどの金属で挟持することによる冷却手段)を設けて抜熱する(例えば図4、5)。
(2)ガス冷却手段を設けてガスジェット冷却する。
(3)ミスト冷却手段を設けて冷却する(例えば図6)。
(4)ドライアイスショット手段(顆粒ドライアイスをブランク材に衝突させて冷却する)を設けて冷却する。
(2)ガス冷却手段を設けてガスジェット冷却する。
(3)ミスト冷却手段を設けて冷却する(例えば図6)。
(4)ドライアイスショット手段(顆粒ドライアイスをブランク材に衝突させて冷却する)を設けて冷却する。
本発明の冷却設備(冷却部)を用いた冷却では、冷却と同時に雰囲気を制御することも好ましい。雰囲気を制御(例えば、窒素やアルゴン雰囲気)して、薄鋼板の表面酸化を防止することができる。また比較的低い温度に設定することによって表面酸化を抑制することも可能である。
図4は、冷却部の構成例を示す概略図であり、加熱された薄鋼板を金属で挟持して冷却する設備を示す。加熱された薄鋼板は、加熱炉から急冷用の平面金型(冷却専用金型)に搬送され、この金型でプレスすることによって薄鋼板は所定の温度に急冷される(金属挟持による冷却)。冷却後は薄鋼板を所定の形状を有する金型(プレス専用金型)に搬送してプレス成形すればよい。冷却専用金型の形状は、薄鋼板を均一に冷却させるために金型の薄鋼板接触面側が平面であることが好ましいが、あえて温度分布をつける場合や、若干の予備成形を行うためには必ずしも平面である必要はなく段差や曲率を持っていてもよい。
上記のような冷却部で所定温度までの冷却を行った後、成形を行っても良いが(成形を開始するまでに冷却を完了)、成形を開始してからも引き続き成形金型による冷却を行いつつ成形を行っても良い。
またプレス成形は複数回に分けて行ってもよく、例えば図5に示すように平面金型(冷却専用金型)で薄鋼板を所定の温度まで冷却した後、順次所定の形状を有する金型でプレス成形することで、複雑な形状に成形することも可能である(プレス専用金型1、プレス専用金型2)。更に形状凍結性を付与する工程やダイトリム・ピアスを行う工程を付加してもよい。
本発明では、薄鋼板をプレス成形するためのプレス成形機13には、プレス速度が速いこと(例えば、100mm/s以上)、下死点保持が必要ないこと、設備コストが安いことから圧力の発生機構に機械的な駆動力による機械プレス(以下、メカニカルプレスという)を使用することがプレス時間を短縮する観点からは好ましいが、圧力の発生機構に液圧を使用する液圧プレス(例えば油圧プレス)であってもプレス速度が100mm/s以上の油圧プレス機を使用してもよい。このようなプレス速度を有する油圧プレス機であれば、下死点での保持時間も殆どなく、金型稼働効率を高めることが可能である。
従来は金型内で焼入れを行うために成形下死点で保持する手段として、液圧プレスを使う必要があったが、本発明では焼入れを金型から離型して行うため、従来で使用されているような比較的プレス速度の遅い液圧プレスを使用しなくてもよい。メカニカルプレスやプレス速度が100mm/s以上の油圧プレスを使用した場合、プレスに要する時間を短縮でき、しかも本発明では、焼入れのために金型を成形下死点で保持しないため、1分あたりのプレス回数(spm:ストローク/分)を向上できるため、金型稼働効率がよい。
メカニカルプレス機は各種スライド駆動機構のものを使用することができ、例えばクランクプレス、ナックルプレス、リンクプレス、フリクションプレスなどを使用できる。また図4、5は、装置内で薄鋼板を冷却するための冷却専用金型と成形するためのプレス専用金型を備えたトランスファープレス機の概略図を示しているが、プレス成形機はこれに限定されない。
成形終了温度については、マルテンサイト変態開始温度Ms以上とする。成形中にマルテンサイト変態が生じると成形性が低下する場合があるからである。したがって成形終了温度はMs点以上、より好ましくはMs点+10℃以上である。
成形終了後の焼入れ方法は特に限定されず、成形した鋼板を金型から取り出した後、放冷、または上記(1)〜(4)などの各種冷却手段によって冷却速度を制御しながら(例えば10〜200℃/秒)冷却すればよい。焼き入れによって所望の強度を確保するという観点からは成形した鋼板を金型から取り出した後、上記(1)〜(4)などの各種冷却手段によって、30℃/秒以上で冷却することが望ましい。
本発明の熱間プレス成形品の製造方法では、前記図1に示したような単純な形状の熱間プレス成形品を製造する場合は勿論のこと、比較的複雑な形状の成形品を製造する場合にも適用できる。
本発明方法の効果は、しわ押えを有する金型を用いて成形(即ち、絞り成形)する場合に顕著に発揮されることになる。但し、本発明方法は、しわ押えを用いて成形する絞り成形に限らず、通常のプレス成形を実施する場合(例えば、張り出し成形)も含むものであり、こうした方法によって成形品を製造する場合であっても本発明の効果が達成される。
本発明によれば、成形時に破断や割れを発生させることなく、所定の強度を有する良好なプレス成形品の製造が可能となる。
以下、本発明の効果を実施例によって更に具体的に示すが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
(実施例1:No.1〜3)
図3、図4および図6に例示されるような冷却設備(冷却部又は冷却帯)を有するプレス成形設備によって、下記表1に示す化学成分組成を有する薄鋼板(厚さ:1.0mm、直径:100mmの円形ブランク)を、900℃に加熱した後(この鋼板のAc1変態点:718℃、Ac3変態点:830℃、マルテンサイト変態開始温度Ms:411℃)、冷却設備に搬送して表2に示す冷却方法(「急冷方法」)により所定の条件(「急冷速度」、「急冷時間」)で600℃以下の温度まで冷却した後、プレス機まで搬送し、金型[直径が50mmの円形の金型(円筒ダイおよび円筒パンチ)]を用い(前記図1参照)、円筒深絞り成形を行った。この際、パンチおよびダイ内に冷媒(水)を通して金型を冷却しながら薄鋼板をメカニカルプレス成形した(成形時間1秒、成形速度:100mm/sとし、上死点から下死点までの距離を100mmとした。)。このときの搬送条件、冷却設備での急冷条件、プレス成形条件は下記の通りである。
図3、図4および図6に例示されるような冷却設備(冷却部又は冷却帯)を有するプレス成形設備によって、下記表1に示す化学成分組成を有する薄鋼板(厚さ:1.0mm、直径:100mmの円形ブランク)を、900℃に加熱した後(この鋼板のAc1変態点:718℃、Ac3変態点:830℃、マルテンサイト変態開始温度Ms:411℃)、冷却設備に搬送して表2に示す冷却方法(「急冷方法」)により所定の条件(「急冷速度」、「急冷時間」)で600℃以下の温度まで冷却した後、プレス機まで搬送し、金型[直径が50mmの円形の金型(円筒ダイおよび円筒パンチ)]を用い(前記図1参照)、円筒深絞り成形を行った。この際、パンチおよびダイ内に冷媒(水)を通して金型を冷却しながら薄鋼板をメカニカルプレス成形した(成形時間1秒、成形速度:100mm/sとし、上死点から下死点までの距離を100mmとした。)。このときの搬送条件、冷却設備での急冷条件、プレス成形条件は下記の通りである。
なお、下記の「冷却設備での急冷条件」における「急冷速度」は、各急冷方法での冷却曲線をあらかじめ測定し、その測定値に基づいて算出したものである。また、プレス開始温度は、冷却曲線に基づいて、加熱炉から薄鋼板を取り出してプレス成形するまでの急冷時間を制御して調整した。冷却曲線の測定は、熱電対を取り付けた薄鋼板を、各急冷方法を用いて、プレス成形を行わないまま急冷し、温度と時間の変化を測定した。
<搬送条件>
加熱炉から冷却部(冷却帯)および冷却部(冷却帯)からプレス専用金型までの搬送時間:それぞれ3秒で同期
加熱炉から冷却部(冷却帯)および冷却部(冷却帯)からプレス専用金型までの搬送時間:それぞれ3秒で同期
<冷却設備での急冷条件>
急冷速度(ガスジェット):85℃/s(Heガスを利用)
急冷速度(金属挟持):160℃/s(冷却金型の素材には銅合金を利用)
急冷速度(ミスト噴射):310℃/s(空気と水の混合)
急冷速度(ガスジェット):85℃/s(Heガスを利用)
急冷速度(金属挟持):160℃/s(冷却金型の素材には銅合金を利用)
急冷速度(ミスト噴射):310℃/s(空気と水の混合)
<プレス成形条件>
しわ押え力:3トン
ダイ肩半径rd:5mm
パンチ肩半径rp:5mm
パンチ−ダイ間クリアランスCL:0.15/2+1.0(鋼板厚さ)mm
成形高さ:25mm
プレス機:メカニカルプレス(AIDA社製80tクランクプレス)
しわ押え力:3トン
ダイ肩半径rd:5mm
パンチ肩半径rp:5mm
パンチ−ダイ間クリアランスCL:0.15/2+1.0(鋼板厚さ)mm
成形高さ:25mm
プレス機:メカニカルプレス(AIDA社製80tクランクプレス)
なお、Ac1変態点、Ac3変態点、Ms点は、下記の(1)式〜(3)式に基づいて求めたものである(例えば『熱処理』41(3),164〜169,2001 邦武立朗「鋼のAc1,Ac3およびMs変態点の経験式による予測」参照)。
Ac1変態点(℃)=723+29.1×[Si]−10.7×[Mn]+16.9×[Cr]−16.9×[Ni] …(1)
Ac3変態点(℃)=−230.5×[C]+31.6×[Si]−20.4×[Mn]−39.8×[Cu]−18.1×[Ni]−14.8×[Cr]+16.8×[Mo]+912 …(2)
Ms(℃)=560.5−{407.3×[C]+7.3×[Si]+37.8×[Mn]+20.5×[Cu]+19.5×[Ni]+19.8×[Cr]+4.5×[Mo]} …(3)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cr],[Mo],[Cu]および[Ni]は、夫々C,Si,Mn,Cr,Mo,CuおよびNiの含有量(質量%)を示す。また、上記(1)式〜(3)式の各項に示された元素が含まれない場合は、その項がないものとして計算する。
Ac3変態点(℃)=−230.5×[C]+31.6×[Si]−20.4×[Mn]−39.8×[Cu]−18.1×[Ni]−14.8×[Cr]+16.8×[Mo]+912 …(2)
Ms(℃)=560.5−{407.3×[C]+7.3×[Si]+37.8×[Mn]+20.5×[Cu]+19.5×[Ni]+19.8×[Cr]+4.5×[Mo]} …(3)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cr],[Mo],[Cu]および[Ni]は、夫々C,Si,Mn,Cr,Mo,CuおよびNiの含有量(質量%)を示す。また、上記(1)式〜(3)式の各項に示された元素が含まれない場合は、その項がないものとして計算する。
プレス成形した後、金型から取り出して空冷(放冷)した(「プレス成形後冷却速度」)。結果を表2に示す。
試験No.1〜3では、金型(プレス機)の稼動効率の律速を薄鋼板の搬送時間および急冷時間とすることができた。すなわち、次の薄鋼板の搬送時間内に前の薄鋼板のプレス成形が終了するため、従来のようにプレス成形時間を考慮する必要がなくなった。本実施例では加熱炉から冷却設備(冷却部または冷却帯)までの搬送と、冷却設備からプレス機までの搬送を同期させているため、金型(プレス機)の稼動効率(一つのプレス成形品を作製するのに必要な時間)は、搬送時間(3秒)+急冷時間とすることができた。
またプレス成形前の冷却設備における急冷時間を、ガスジェット方式(4秒)、金属挟持方式(2秒)、ミスト方式(1秒)と設定して薄板鋼板のプレス前温度を制御できるため、1分あたりのプレス回数(「一分あたりの部品成型回数」)をそれぞれ8.6回、12回、15回(spm)とすることができた。
試験No.1〜3によれば、良好な成形性が得られ、成形下死点まで深絞りができた(前記図1に示した状態)。また、成形時に破断や割れなどが発生することなく良好なプレス成形品が得られた。更にいずれの場合もビッカース硬さで450Hv以上を達成できた。
下記参考例(表2中、No.4)と比べると、上記本発明の要件を満足する試験No.1〜3は、1分あたりのプレス回数に優れており、プレス成形に要する時間(spm)を短縮でき、金型の稼働効率を高めることが可能となった。したがって本発明によれば、成形時に破断や割れなどを発生させることなく所望の強度を有する良好なプレス成形品を生産性良く製造できた。
(参考例:試験No.4)
前記図2に示した従来のプレス成形設備によって、実施例1と同じ化学成分組成を有する薄鋼板を用いて、900℃に加熱した後、プレス成形機(金型:図1)に搬送して(搬送時間:3秒、プレス開始時の鋼板の温度:840℃)、実施例1と同じく円筒深絞り成形を行った。なお、この参考例では、プレス前に冷却設備による冷却を行っておらず、成形性が悪いため、薄鋼板の直径は90mmとし、成形高さも20mmとした。成形に際してはパンチおよびダイ内に冷媒(水)を通して金型を冷却しながら薄鋼板をプレス成形すると共に(成形時間2秒、成形速度:50mm/sとし、上死点から下死点までの距離を100mmとした。)、成形下死点で20秒保持して焼入れを行った。このときのプレス成形条件は下記の通りである。
前記図2に示した従来のプレス成形設備によって、実施例1と同じ化学成分組成を有する薄鋼板を用いて、900℃に加熱した後、プレス成形機(金型:図1)に搬送して(搬送時間:3秒、プレス開始時の鋼板の温度:840℃)、実施例1と同じく円筒深絞り成形を行った。なお、この参考例では、プレス前に冷却設備による冷却を行っておらず、成形性が悪いため、薄鋼板の直径は90mmとし、成形高さも20mmとした。成形に際してはパンチおよびダイ内に冷媒(水)を通して金型を冷却しながら薄鋼板をプレス成形すると共に(成形時間2秒、成形速度:50mm/sとし、上死点から下死点までの距離を100mmとした。)、成形下死点で20秒保持して焼入れを行った。このときのプレス成形条件は下記の通りである。
<プレス成形条件>
しわ押え力:3トン
ダイ肩半径rd:5mm
パンチ肩半径rp:5mm
パンチ−ダイ間クリアランスCL:0.15/2+1.0(鋼板厚さ)mm
成形高さ:20mm
プレス機:油圧プレス(川崎油工社製300t油圧プレス)
しわ押え力:3トン
ダイ肩半径rd:5mm
パンチ肩半径rp:5mm
パンチ−ダイ間クリアランスCL:0.15/2+1.0(鋼板厚さ)mm
成形高さ:20mm
プレス機:油圧プレス(川崎油工社製300t油圧プレス)
薄鋼板をプレス成形した後、成形下死点で停止してから、焼入れが終了するまでの保持時間は22秒であった。したがって1分あたりのプレス回数は2.7回[2.7spm(ストローク/minute)]程度であり、金型の稼働効率が悪く、生産性が低かった。結果を上記表2に示す。
1 パンチ
2 ダイ
3 ブランクホルダー
4,10 ブランク(薄鋼板)
11 切り出し機
12 加熱炉
13 プレス成形機
14 プレス成形品
15 冷却部
2 ダイ
3 ブランクホルダー
4,10 ブランク(薄鋼板)
11 切り出し機
12 加熱炉
13 プレス成形機
14 プレス成形品
15 冷却部
Claims (6)
- プレス成形金型を用いて薄鋼板をプレス成形して成形品を製造する方法であって、前記薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱した後、600℃以下の温度まで冷却してから金型で成形を開始し、マルテンサイト変態開始温度Ms以上の温度で成形を終了した後、前記金型から離型して焼入れをすることを特徴とするプレス成形品の製造方法。
- 前記成形は、メカニカルプレス成形、またはプレス速度が100mm/s以上の油圧プレス成形である請求項1に記載の製造方法。
- 前記600℃以下の温度までの冷却は、前記薄鋼板を金属で挟持して行うものである請求項1または2に記載の製造方法。
- 前記600℃以下の温度までの冷却は、ガスおよび/またはミストを吹き付けて行うものである請求項1または2に記載の製造方法。
- 加熱炉とプレス成形機を備え、前記加熱炉で薄鋼板をAc1変態点以上の温度に加熱した後、プレス成形機によって薄鋼板をプレス成形して成形品を製造するためのプレス成形設備であって、前記加熱炉内部、または前記加熱炉と前記プレス成形機の間には、加熱された薄鋼板を急冷するための冷却部が備えられていると共に、前記プレス成形機はメカニカルプレス機、またはプレス速度が100mm/s以上の油圧プレス機であることを特徴とするプレス成形設備。
- 請求項5に記載のプレス成形設備によって得られたものであるプレス成形品。
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20140722 |
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A02 | Decision of refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20141202 |