本発明は、ナノインデンテーション試験用圧子及びその製造方法に関する。
ナノインデンテーション法は圧子に微小荷重を加えて試料に押し込むことで試料の微小領域の機械的特性を評価する材料試験法であり、局所的な機械的特性の値が必要とされる膜などの材料を直接的に評価できる試験方法である。
実際のナノインデンテーション法による測定は、まず荷重変位曲線を測定し、試料の硬さや弾性率を計算するが、その計算においては圧子の押込み深さから圧子と試料が接触している面積を求めるため、測定値の精度には接触面検出と圧子先端形状の補正方法が密接に関連してくる。通常は、均一な硬さや剛性率と仮定した溶融石英などの標準片を予め測定し、標準片の測定値が一定になるように圧子形状を校正し、その後に試料の測定を行うことが多く、それが一般的な方法とされている。
ナノインデンテーション法で用いられる測定する圧子には、ダイヤモンドなどの高い硬度の材料が用いられており、標準的な圧子先端形状としては、図15に示すビッカース(Vickers)型圧子と、図16に示すベルコビッチ(Berkovich)型圧子の2種類がある(非特許文献1)。Vickers型圧子は対面角が136度の四角錐形状であり、Berkovich型圧子は対稜角が115度の三角錐形状である。しかしながら、実際の圧子先端形状は研磨によって作製されるため理論的形状とは異なり尖っておらず、意図せずに丸くなっている。例えば、図17(a)は既存のVickers型圧子を横方向から観察したSEM画像であり、図17(b)は既存のBerkovich型圧子を横方向から観察したSEM画像であるが、いずれも圧子先端が丸くなっていることが判る。非特許文献1によれば、SEMとAFMから求められた圧子先端の曲率半径rsは、Vickers型圧子が1,017nmであり、Berkovich型圧子が545nmと記載されている。これは、先端が球形状であるとして近似した値であるが、実際の圧子は高さが1,000nm以下から緩やかに変化している。
上述したように従来の圧子は研磨によって作製されるが、局所的な加工圧力の違いなどによってその先端形状は模式図のようには尖っておらず、意図しない鈍った形状となっている。そこで、実際の試験機においては、まずガラスなどの一様な硬さや剛性率をもつと想定されるバルク標準片にて測定を行い、その標準片にて硬さが一定になるように接触面積を求め、それをベースにした補正を行ってから試験を実施する。つまり、標準片の接触条件をもとに、接触している面積関数を求めていることになる。しかしながら、前記標準片で使用した材料と測定する試料材料の圧子周辺部の変形過程の違い、さらには圧子の理論的な形状と実際の圧子形状の違いなどから、上記補正が有効でない場合が多い。数十nmの膜を評価するようなナノレベルの試験を行う場合、圧子先端と膜表面で発生する現象「パイルアップ(pile-up)とシンクイン(sink-in)」が実際の接触面積を変化させるため、計算される機械的特性値はバルクの測定値と大きく異なる。例えば、バルクの金を試験した場合、圧子の押込みによってパイルアップ現象が観察される。さらに膜では基板が膜より硬いために、膜の一部が横方向へ変形移動して盛り上がる非常に大きなパイルアップ現象が観察される。これらの結果は、バルク標準片の材料で補正した場合と、実際の試験片との圧子の接触面積が求めた計算値と大きく異なることを意味し、得られた測定結果の大きな誤差になっている。
これらの問題点をなくすためには、その先端を理論的に尖った圧子とする必要がある。しかし、ダイヤモンド圧子は硬くて研磨し難く、研磨に多大な時間を要する。また多角錐形状、特に四角錐形状の圧子は原理的に稜線部分が発生するため、研磨条件のみならず位置決めなどによっても先端が鈍るため、それら圧子先端を尖らすことは非常に困難である。このため研磨された圧子の先端形状には大きな個体差があることになり、ナノレベルの試験の場合、その差が試験条件の大きなばらつきとなる問題があった。仮に研磨によってダイヤモンド製の圧子を理論どおりに尖らせることが出来たとしても、先端の尖った圧子は試験により損傷し易く、高価なダイヤモンド製の圧子を頻繁に試験交換することは費用が嵩むため現実的な解決法にはならないことも問題である。
上述の問題点を改善するための方法としては、圧子先端形状を正確な所定形状とすることはもちろんであるが、それと同時に圧子と試料が接触している面積を正確に求める方法も必要とされる。従来の圧子の深さから接触面積を求める方法では、材料による接触界面での挙動の違いがあり、単に計算するのではなく、その状態を正確に評価する手法が求められている。
これまで、ナノインデンテーション法で用いられる圧子先端部の変形現象の対応や微細加工用のダイヤモンド工具の製造に関して各種取り組みがなされている。
特許文献1には、ナノインデンテーション法で用いられる圧子の形状に関して、圧子先端形状が丸くなっていることを前提として、圧子先端形状補正を容易とするために、圧子側面の特定の部位に意図的に凸部(又は凹部)を設けることが記載されている。しかし、上述したように非特許文献1では、ナノインデンテーション法で用いられる圧子の形状に関して、圧子先端形状が丸くなっていることにより、圧子先端形状補正が十分に機能しない場合があることや、圧子先端と膜表面で発生する現象、すなわち「パイルアップとシンクイン」が実際の投影断面積を大きく変化させる現象を数十nmの膜を評価する試験を例として挙げている。そして、この現象のために、計算される機械的特性の値が大きく変化することが、この手法の課題として記載されている。
特許文献2や非特許文献3には、微細加工用のダイヤモンド工具の製造方法に関して、シリコンウエハに異方性エッチングを施して小突起のための凹型を形成し、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によってダイヤモンドを蒸着し、その後上記凹型を溶解させて、四角錐形状や三角柱形状等のダイヤモンド工具を作製するとの記述がある。
非特許文献2には、AFM(Atomic Force Microscope)のカンチレバー用のダイヤモンド工具の製造方法に関して、シリコンウエハに異方性エッチングを施して小突起のための凹型を形成し、次に等方性エッチングを施して先端部に丸みをつけ、HF−CVD(Hot-filament Chemical Vapor Deposition)法によってダイヤモンドを堆積させ、その後、上記凹型をエッチングによって溶解させて、四角錐形状の工具を作製するとの記述がある。
特許文献3には、工具や半導体デバイスとして用いるダイヤモンド成形体の製造方法に関して、モリブデン板にエッチングを施して小突起のための凹部を形成し、プラズマジェットCVD法によって、ダイヤモンド膜を成長させ、その後上記凹部から抜き出すか、上記凹部をエッチングによって溶解させて、凸形状のダイヤモンド体を作製するとの記述がある。
また特許文献4には、半導体デバイスとして用いるため、シリコンウエハに異方性エッチングを多重ステップで施すなど、異方性エッチングを利用した方法の記述がある。
上述したように、既知の圧子はナノレベルの領域ではその圧子先端形状が意図せず丸くなっている。ナノインデンテーション法では、均一な硬さや剛性率と仮定した標準片の試験にて、圧子先端形状補正を行うことが通例であるが、標準片の材料特性と圧子先端形状によって、その補正値が変化する。それは、試料表面で発生するパイルアップやシンクインはその値に大きく影響し、計算された硬さが実際の状態と乖離する場合が多く、予測不可能な値となることがある。また、圧子の先端を研磨する既知の加工方法では加工ばらつきが大きく、圧子先端形状を正確な寸法で所定形状にできているとはいい難い。さらに、作製された圧子の先端形状が個々にばらつき、一定していないという問題もある。このように、高精度な圧子を経済的に製造する方法がいまだ確立していないことから、高精度に研磨された高額な圧子を使用しているのが実情である。
そこで本発明の目的は、半導体技術によって圧子先端形状を原理的に正確な所定形状とし、同様な寸法形状の圧子を一つの大きな型から多数個製造できるナノインデンテーション試験用圧子の製造方法と、圧子先端形状がパイルアップやシンクインの影響を受けにくい、より鋭角で正確な角錐形状をもつ圧子を実現することによって、試験片の材料による接触面積の違いを少なくし、精度良くナノインデンテーション試験を行うことができる新規なナノインデンテーション試験用圧子を提供することにある。
本発明のナノインデンテーション試験用圧子の製造方法は、単結晶基板に異方性エッチング処理を施すことにより作製した凹型の上に、硬質膜を堆積させて、先端部分が多角錐形状の成形体を作り、当該成形体に中間基材を貼り付けてから前記凹型を除去してチップとし、当該チップを測定用ホルダーに接着してナノインデンテーション試験用圧子とすることを特徴とする。
本発明では、予め単結晶基板の上面に所望のエッチング領域のためのマスク形成を行い、当該マスクの上から異方性エッチング処理を施すことによって、単結晶基板の上面に所定形状の凹みを形成したものを凹型とし、当該凹型を前記成形体の型として利用する。本発明によれば、既知の半導体製造プロセスによって、1つの単結晶基板から同時に複数の前記凹型が得られ、前記成形体を多数同時に製造することができるとともに、原理的に同じ形状のものを再現性よく製造することができるという特徴をもつ。また、研磨などの機械的加工ではなく、単結晶材料固有の浸食によって形成した凹型には、原子レベルの形状精度を持たせることができる。つまり、前記凹型の上に緻密な膜を堆積させることができれば原子レベルの形状精度にて尖った圧子を作製することができる。
上記圧子を作製する過程では、従来の膜本体を主に利用する方法と異なり、前記凹型と硬質膜の界面部分の初期成長領域を圧子先端の表面として使用するため、前記界面部分の硬さや表面粗さの管理が重要になる。本発明によれば、前記凹型の上にダイヤモンド結晶成長の核となるナノダイヤモンド粒子を塗布することで、初期成長段階で発生するランダムな成長を抑制し、硬い膜を作製することができる。さらに、CVD法などの薄膜堆積中の高い基板温度を利用することで、結晶成長の促進とともに、前記硬質膜の下のナノダイヤモンド粒子の焼結層の効果により、数十nmの先端形状で、バルクのダイヤモンドに匹敵する硬さの圧子を大量に作製することができる。
前記単結晶基板としては、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)、リン酸カリウム(KH2PO4)等が挙げられる。前記マスキング処理におけるマスク材料としては、窒化シリコン膜や高分子膜(レジスト)等が挙げられる。前記異方性エッチング処理の方法としては、ウエットエッチングとドライエッチングがあるが、エッチングによる寸法精度の観点からはウエットエッチングが好ましい。前記異方性エッチング処理のエッチング材料としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化セシウム(CsOH)、アンモニア水(NH4OH)水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチレンジアミンピロカテコール(EDP)、ヒドラジン(N2H4)アンモニア(NH4OH)+過酸化水素水(H2O2)+水(H2O)液、硫酸(H2SO4)+過酸化水素水(H2O2)+水(H2O)液、臭素(Br2)+メタノール(CH3OH)液などが挙げられ、前記基板材料により適宜選択する。
前記凹型の所定形状の凹みとは、多角錐形状(多角錐台形状を含む)に対応した底形状の凹みのことである。前記異方性エッチング処理を十分に施すことで、多角錐形状に対応した底形状の凹みが得られ、前記異方性エッチング処理を途中で終了した場合は多角錐台形状と対応した底形状の凹みが得られる。
前記硬質膜とは、一般にビッカース硬さHVが1000を越える膜を指しており、前記硬質膜の材料としては、結晶性ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化チタンアルミニウム(TiAlN)、窒化クロム(CrN)、立方晶窒化ホウ素(CBN)等が挙げられる。また前記単結晶基板の材料としては、シリコン(Si)やリン酸カリウム(KH2PO4)等が挙げられる。前記硬質膜を形成する膜形成方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical
Vapor Deposition)のスパッタリング、イオンプレーティングなど既知の膜形成方法が挙げられる。
本発明は、前記単結晶基板がシリコン(Si)であり、Siの(100)面または(111)面に対して前記異方性エッチング処理を施すことで得られる前記成形体の先端部分の稜角が90°である圧子とすることを特徴とする。
本発明では、(100)面を表面(上面)とするSi基板を利用することで、ビッカース(Vickers)型圧子形態に近い正四角錐形状の圧子が作製でき、前記成形体の先端部分の対稜角を正確に90°、対面角を71°(70.5°)とすることができる。また、(111)面を表面(上面)とするSi基板を利用することで、ベルコビッチ(Berkovich)型圧子形態に近い三角錐形状の圧子が作製でき、前記成形体の先端部分の稜角を正確に90°とすることができる。この形態と正確な形状により圧子形状に起因する試験誤差を少なくすることができ、ナノインデンテーション試験精度の大幅な向上が見込める。そして、前記異方性エッチング処理の時間を調節することで、電子部品のバンプ材などの強度測定用圧子に好適な三角錐台形状や四角錐台形状の成形体を得ることができる。このとき、精度の高い表面検出を行うためには三角錐台形状や四角錐台形状の成形体の底面部分(電子部品のバンプ材などとの接触面部分)には高い平滑性が求められる。本発明の手法によれば、これに必要な高い平滑性を有する底面部分を有する成形体を容易に作製することができる。
本発明は、ダイヤモンド結晶成長の核となるナノダイヤモンド粒子を一層以上の厚みで前記凹型の上に塗布してから、CVD法によって多結晶ダイヤモンド膜を前記凹型に堆積させて前記成形体膜の硬さを向上させることを特徴とする。また本発明は、ナノダイヤモンド粒子を前記凹型の上に焼結に必要な量を塗布してから、CVD法によって多結晶ダイヤモンド膜を堆積させて、前記硬質膜と前記凹型との間に焼結層を形成することを特徴とする。
本発明では、予めナノダイヤモンド粒子を前記凹型の上に、少なくとも一層以上の厚みで塗布しておくことで、前記多結晶ダイヤモンド膜の成長核とすることができる。そのため、ランダムに初期成長する従来の方法と違い、均質な結晶粒を持つ結晶膜構造に制御することができ、バルクの人工ダイヤに匹敵する大きな硬さの硬質膜を得ることができる。特に、前記凹型の底部は膜の初期成長段階であるために、従来法では緻密な膜が得られにくく、ナノ粒子による結晶成長の促進作用と焼結作用は、硬い膜を得るための高密度化に適している。作製された膜の硬さは圧子の押し込みによる変形を防ぐためにもなるべく硬い方が測定の精度が上がり好ましい。
一方、基板のナノダイヤモンド粒子は基板との接触面積が小さいことから、基板界面の密着力が弱い傾向がある。そのため、予めナノダイヤモンド粒子を前記凹型の上に塗布しておくことで成形体の前記凹型からの離型が容易となり、本発明の処理方法としては適している。前記ナノダイヤモンド粒子を前記凹型の上に少なくとも一つ塗布するためには、前記ナノダイヤモンド粒子を0.1%程度の薄い濃度で塗布すればよく、このときの塗布方法としては、スピンコート法やディップコート法が挙げられる。前記ナノダイヤモンド粒子を前記凹型の上に焼結に必要な量を塗布するためには、前記ナノダイヤモンド粒子を0.1%よりも濃い濃度で塗布すればよく、このときの塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法が挙げられる。
前記CVDとしては、熱CVDやプラズマCVD等があるが、結晶性に優れた硬い膜を形成する観点からは熱CVDが好ましい。一般的に、熱CVD膜はその基板温度から大きな結晶粒が成長し、膜表面が粗くなる傾向を示すが、本発明においては前記ナノダイヤモンド粒子の塗布によって、膜成長が改善され、より緻密な構造になり、膜の硬さに関して大きな改善が見込める。
本発明は、前記異方性エッチング処理を施した後に等方性エッチング処理を施すことにより、前記成形体の先端部分の曲率半径を500nm以内で丸くなるように制御することを特徴とする。
本発明によれば、前記異方性エッチング処理の後に、等方性エッチング処理を行うことにより、製造される圧子先端の曲率半径を大きくする方向で適宜制御することができ、前記成形体の先端部分の曲率半径を500nm以内で丸くなるように制御することで、被測定試料の材質や形状に応じた最適な寸法形状とすることが容易である。
本発明は、前記チップ(前記成形体と中間基材とが接着剤により接着されたもの)、測定用ホルダー及びそれらを接着する接着剤がいずれも導電性を有する材料からなり、前記成形体と前記測定用ホルダーとが電気的に接続されている構成とすることで、被測定試料が導電性を有する材料からなる場合には、本発明に係る圧子と被測定試料との接触面の接触抵抗値を測定し、当該測定した接触抵抗値から前記接触面の接触面積を算出することができるため、正確な測定を行うことができる。
前記導電性の成形体としては、例えば前記ダイヤモンドの膜にホウ素などの導電性物質をドーピングして抵抗値を下げたものや、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミニウム等の導電性材料を使用する。前記導電性の中間基材としては、例えば窒化アルミなどの窒化物、タングステンカーバイトや炭化バナジウムなどの炭化物、ステンレスなどの導電性材料や酸化インジウムスズ(ITO)膜で覆われたガラス等のいわゆる導電性ガラスが挙げられる。前記導電性の測定用ホルダーとしては、例えば鉄、ニッケル等の導電性材料、若しくはステンレスなど、これらの導電性材料を含む合金等が挙げられる。
前記接着方法としては、ろう付けや接着剤による接着が挙げられるが、作業性や取り扱いの観点からは接着剤による接着が好ましい。接着剤の材質としては、エポキシ、アクリル、ポリアミド、ポリイミド等の各種接着剤が適用される。接着剤の硬化の種類としては熱硬化性、熱可塑性、嫌気性、UV硬化性、湿気硬化性等が挙げられる。導電性の圧子の場合の接着剤としては、金、銀、カーボン等の導電性物質をフィラーとして含有した接着剤が好ましい。
前記接着方法のより具体的な例としては次の手順がある。まず、前記単結晶基板に形成された複数の凹型上にそれぞれ硬質膜を堆積させ、当該硬質膜の上に接着剤を塗布し、中間基材を貼り付け、適宜加圧・加熱することで前記成形体の凹み面と中間基材の下面とを接着する。その後、凹型をエッチングにて除去し、中間基材に支えられた凸形状の硬質膜(その先端部分が多角錐形状の硬質膜)を表面に持つチップの集合体を作製する。そして、前記チップの集合体を1個ずつ切り出す、あるいは中間基材に予め切り込み(切り溝)を入れておき、それを起点に割ることで1つの凸形状のチップを作製する。ここでチップとは、中間基材が貼り付けられた凸形状の硬質膜を指す。そして、作製したチップの凸部を下にして、その部分が欠けない程度の硬さのフィルムの上に載せる。前記フィルムとしては、例えばポリアミドやポリイミドなどが挙げられる。前記フィルムの部分は加熱することもできる。そして、前記中間基材の上面に接着剤を塗っておく。
予めナノインデンテーション試験機に前記チップを取り付ける測定用ホルダーをセットしておき、前記試験機に備え付けの光学顕微鏡で、前記フィルム上の成形体の凸部分中央位置となる前記中間基材の上面中央の真上に位置合わせをする。その後、測定用ホルダーを押込む場所に前記試験機のステージを移動し、ホルダーを押込んで前記チップと測定用ホルダーとを接着する。室温で硬化する接着剤の場合は、その場で接着が完了する。加熱して硬化する接着剤の場合は、加熱ステージを使用した押込み行いながら加熱し、加熱後にそのステージを冷却することで、接着剤を完全に硬化させる。そして、前記成形体が測定用ホルダーに固定されたナノインデンテーション試験用圧子が出来上がる。この方法では、前記試験機のステージの位置決め精度が、測定用ホルダーの中心軸と前記成形体の多角形の頂点のずれの精度になるが、前記試験機は一般に1ミクロン程度の位置決め精度を持っているため、非常に高い精度でチップを測定用ホルダーに付けることができる。
本発明に係るナノインデンテーション試験用圧子は、ダイヤモンド膜、ドーピングされたダイヤモンド膜、チタンを含有した窒化物膜、チタンを含有した炭化物膜のいずれか一種からなる硬質膜を堆積させて作製される先端部分が多角錐形状であり、かつ、先端部分の稜角が90°である成形体、中間基材及び測定用ホルダーからなることを特徴とする。
本発明によれば、圧子となる前記成形体(凸形状の硬質膜)が中間基材に貼り付けられたチップが測定用ホルダーの先端部に接着されている構成であるから、前記成形体の先端部が欠けるか破損しても、その都度接着剤を溶かすなどすることで前記チップを測定用ホルダーから取り除いて、新しいチップを測定用ホルダーに再度接着することで、簡便に前記チップのみを交換することができる。上述した導電性のものであれば、窒化アルミ、炭化タングステンなどの窒化物あるいは炭化物セラミックスの中間基材が適用される。前記硬質膜は、ダイヤモンド膜、ドーピングされたダイヤモンド膜、チタンを含有した窒化物膜、チタンを含有した炭化物膜のいずれかであることが好ましい。本発明は、前記成形体,中間基材及び測定用ホルダーがいずれも導電性を有する材料からなり、前記成形体と前記測定用ホルダーとが電気的に接続されていることが好ましい。本発明は、前記成形体の先端部分の曲率半径が500nm以内で丸くなっていることが好ましい。
本発明によれば、前記成形体が中間基材に接着されており、ピンセット等で容易にハンドリングできる数ミリメートル角程度の適度な大きさの前記チップが測定用ホルダーに接着されている構成であるから、前記チップの取り扱いがし易く、ナノインデンテーション試験機のある現場で特別な装置を使用することなく、前記測定用ホルダーへの接着交換が容易となる。
本発明によれば、異方性エッチングを利用することで精度良く、原子レベルの寸法精度で尖った多角錐形状又は多角錐台形状に成形した凹型を作製することができ、ナノインデンテーション試験で必要とされる理想的な形状をもつ圧子を同時に多数個作製することができる。例えば前記単結晶基板をシリコン(Si)とし、Siの上面を(100)面とすることでビッカース(Vickers)型圧子の形状に近い四角錐形状の成形体を得ることができる。また、Siの上面を(111)面とすることで、ベルコビッチ(Berkovich)型圧子に近い三角錐形状の成形体を得ることができる。前記異方性エッチング処理の後に、等方性エッチング処理を行うことで、製造される圧子先端の曲率半径を大きくする方向で適宜制御することができ、前記圧子先端の曲率半径を被測定試料の材質や形状に応じた最適な寸法形状とすることも可能である。若しくは前記異方性エッチング処理の時間を調節することで、電子部品のバンプ材などの強度測定用の圧子に好適な三角錐台形状や四角錐台形状の成形体を得ることもできる。
また、その上に硬質膜を支持する中間基材を貼り付け、前記凹型をエッチングして所定形状の成形体を作製し、それと当該成形体を支持する測定用ホルダーと接着する構造のため、高価なセンサー付きのホルダーが再利用でき、ランニングコストの非常に安価な圧子とすることができる。このプロセスは既知の半導体製造プロセスをベースにしているために、同時に多数個製造だけでなく、それらは同一寸法形状とすることができる。
本発明によれば、CVD法によって前記凹型上に予め多結晶ダイヤモンドの核となるナノダイヤモンド粒子を塗布し、多結晶ダイヤモンドの膜を堆積させる手法で、バルクダイヤモンドとほぼ同じ硬さを持つ膜を得ることができる。この手法によって、膜の剛性率は約2倍程度上昇し、バルクダイヤモンドと同じ硬さになることが確認できた。この硬さの多結晶ダイヤモンド膜を圧子として利用することによって、これまでの研磨圧子とほぼ同じ機械的特性の圧子として使用することができ、測定値の観点からもまた圧子寿命の点からも、実用上問題ないレベルの圧子を作製することができる。さらに、CVDガスの供給不足などで膜の成長速度が遅い凹型の底部分の硬さの改善として、ナノダイヤモンド粒子による結晶成長促進作用や焼結作用によって、従来の膜作製法のものより硬い先端を持つ成形体を作製することができる。
本発明に係るナノインデンテーション試験用圧子は、前記成形体の凹み面と中間基材の下面とを接着し、当該中間基材の上面と測定用ホルダーの下面とを接着した後、ナノインデンテーション試験に使用される。前記成形体、中間基材及び測定用ホルダーがいずれも導電性を有する材料からなり、前記導電性接着剤にて前記成形体と測定用ホルダーとが電気的に接続されている構造とすることもできる。その構成で、被測定試料が導電性を有する材料の場合には、本発明に係る圧子と被測定試料との接触面の接触抵抗値を測定し、当該測定した接触抵抗値から前記接触面の接触面積を算出することができ、ナノインデンテーション試験中における正確な接触面積の測定ができる。
これら本発明によって、硬くて先端形状が尖った理論的な形状どおりの圧子や、先端部分が平面の圧子の製造も可能で、さらに同じ寸法形状の圧子を一度に大量に製造することができる。そして、ISOのナノレンジの規格で必要とされる前記圧子先端の曲率半径が500nm以下の圧子を、高い精度でかつ安価に作製することができる。また、従来では得られない前記圧子先端の曲率半径が50nm以下の圧子も作製することができ、その曲率半径を膜の結晶粒の大きさと同程度の20nm以下の圧子とすることも可能である。一方、圧子の先端部分の角度が従来の圧子の136°や115°から71°あるいは90°と鋭角になるため、標準片で発生するシンクインやパイルアップの影響を抑制することができ、従来のものより精度良くナノインデンテーション試験を行うことができる新規なナノインデンテーション試験用圧子とすることができる。
本発明を実施するための最良の形態を以下に説明する。
(実施形態)
図1は、本発明を適用した実施形態のナノインデンテーション試験用圧子を側面から示す図である。本実施形態のナノインデンテーション試験用圧子1は、四角錐形状に突出した突出部を有する成形体(圧子膜)2の上面が導電性接着剤からなる接着層6を介して中間基材3の下面に接着固定され、四角板形状の中間基材3の上面が接着層7を介してホルダー4の下面に接着固定されており、円柱形状のホルダー4の上面には位置検出用のフェライトセンサ5が接着固定されている。
ホルダー4の材質は鋼やステンレス等の硬質金属である。中間基材3の材質はガラス、窒化アルミ、又は炭化珪素や炭化ホウ素等の炭化物である。本実施形態では、導電性の圧子膜2とする場合は、多結晶ダイヤモンドにホウ素などの導電性物質をドーピングして抵抗値を下げた膜を使用する。導電性の材料を試験片とする場合、導電性を有する圧子膜2とホルダー4とが電気的に接続されているので、圧子1と試験片との接触面の接触抵抗値を測定し、当該測定した接触抵抗値から前記接触面の接触面積を算出することができる。これにより、ナノインデンテーション試験中における正確な接触面積の測定ができることになる。
図2は、本実施形態のナノインデンテーション試験用圧子1に取り付ける成形体(圧子膜)2を示しており、図2(a)はその底面図、図2(b)はその側面図、図2(c)はその平面図である。硬質膜からなる圧子膜2は、その頂点を2aとする四角錐形状に突出した突出部の開口面2b側に四角板状の鍔部を有しており、底面側はその中央が凹形状2cとなっており(図2(a))、平面側はその中央が凸形状となっている(図2(c))。
図3は、本発明を適用した実施形態のナノインデンテーション試験用圧子の製造手順を示す製造工程フロー図である。図5は、上記実施形態の成形体を製造するためのマスク付き単結晶基板を示す模式図である。図6から図8は上記マスク付き単結晶基板に対する異方性エッチング処理の加工状態を示す模式図であり、それぞれ(a)は底面図(中央が凹形状)を示し、(b)はA−A線断面図を示している。また、図9から図13は圧子1を製造する加工状態を示す模式図であり、それぞれ(a)は底面図を示し、(b)はA−A線断面図を示している。図3に示す製造工程フロー図に沿って、本実施形態のナノインデンテーション試験用圧子の製造手順を以下に説明する。
本実施形態のナノインデンテーション試験用圧子の製造手順は、符号S1から符号S9までの工程からなる(図3)。符号S1から符号S3までの工程は、圧子膜2を製造するための凹型9を作製する工程である。本実施形態では、最初に図5に示すように、単結晶基板9の上面9aに、例えば窓8mとしたマスク8を形成する処理を行い(符号S1)、エッチングする。前記単結晶基板としては、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)、リン酸カリウム(KH2PO4)等が挙げられる。本実施形態では、単結晶基板9の上面9aに所定間隔でマトリックス状に凹型が形成される(図5)。単結晶基板としてSiを使用した場合は、圧子の稜角は90°になる。
図6から図10は、図5に示す単結晶基板9の一部を抜き出して表示している。図6(a)(b)から図10(a)(b)は、四角錐形状の圧子を作製するための手順を示している。この実施形態では、シリコン(Si)の単結晶基板9のSiの上面9aを(100)面としており、これは型をビッカース(Vickers)圧子と類似形状の四角錐形状の圧子とするためである。前記マスキング処理により形成されるマスク8としては、窒化シリコン膜や高分子膜(レジスト)等が挙げられる。マスク8mを円形状(○)にした場合、マスキングされた場所以外の部分を異方性エッチング処理することで、結晶構造に基づく特定方向のみをエッチングすることができる。そのため、円形状の外側のところまでエッチング領域が広がり、それに外挿する正方形状(□)の符号8nまでが最終的なエッチング領域となる。あるいは、その外挿する正方形でその端部が符号8nとなるマスクを使用することでもよい。この正方形マスクを利用し、エッチング寸法を合わせる場合には、基板の結晶方位と正方形の方向を厳密に合わせる必要がある。このため、円形状マスクの方が高い寸法精度で四角錐を作製できることになり、好ましい。
上記の他の例として、図6(c)(d)から図10(c)(d)は、三角錐形状の圧子を作製するための手順を示している。この実施形態では、シリコン(Si)の単結晶基板9のSiの上面9aを(111)面としており、これは型をベルコビッチ(Berkovich)圧子と類似形状の三角錐形状の圧子とするためである。前記マスキング処理により形成されるマスク8としては、窒化シリコン膜や高分子膜(レジスト)等が挙げられる。マスク8mを円形状(○)にした場合には、異方性エッチング処理することで、結晶構造に基づく特定方向のみがエッチング処理され、それに外挿する正三角形(△)8pが最終的なエッチング領域となる。よって、マスク8としては、円形状でその内径が符号8mとなるマスクを使用することでもよいし、それに外挿する正三角形状8pのマスクを使用することでもよい。このときもエッチング寸法を合わせる場合には、基板の結晶方位と正三角形の方向を厳密に合わせる必要がある。このため、円形状マスクの方が高い寸法精度で三角錐にできることになり、好ましい。
エッチングの寸法精度を高める観点から、前記異方性エッチング処理(符号S2)としては、ウエットエッチングを行う。前記異方性エッチング処理のエッチング材料としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化セシウム(CsOH)、アンモニア水(NH4OH)水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチレンジアミンピロカテコール(EDP)、ヒドラジン(N2H4)アンモニア(NH4OH)+過酸化水素水(H2O2)+水(H2O)液、硫酸(H2SO4)+過酸化水素水(H2O2)+水(H2O)液、臭素(Br2)+メタノール(CH3OH)液などが挙げられる。本実施形態では前記異方性エッチング処理のエッチング材料として水酸化カリウムを使用する。
図7は、異方性エッチング処理(符号S2)の途中状態を示しており、前記異方性エッチング処理をここで終了することで多角錐台形状と対応した底形状の凹型9となる。図8は、異方性エッチング処理(符号S2)の終了状態を示しており、前記異方性エッチング処理を十分に施すことで多角錐形状と対応した底形状の凹型9が得られる。そして、異方性エッチング処理(符号S2)の後、等方性エッチング処理(符号S3)を行う。本実施形態によれば、凹型9の底に所望の丸みを形成するので、製造される成形体先端2aの曲率半径を大きくする方向で適宜制御することができ、成形体先端2aの曲率半径を500nm以内で丸く制御し被測定試料の材質や形状に応じた最適な寸法形状とすることが容易である。そして、エッチング処理(符号S3)の後、マスク8を除去して凹型9とする(図9)。
前記凹型9の成形後、前記凹型9上にナノダイヤモンド粒子を塗布して多結晶ダイヤモンドの核とするか、あるいはナノダイヤモンド粒子の塗布量を多くして、焼結用のダイヤモンド層を形成する(符号S4)。前記ナノダイヤモンド粒子を塗布する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法等が挙げられる。その後、前記凹型9上に多結晶ダイヤモンドの膜を熱CVD法によって堆積させて硬質膜を形成する(符号S5)。これにより、圧子先端となる部分の高密度化を可能とすることができる。この方法によって、従来法では十分な硬さが得られなかった型に接している先端となる膜部分にも大きな硬さを持たせることができ、実用的な圧子先端部分が作製できる。また、凹型9との界面にナノダイヤモンド粒子があることから、膜2と単結晶基板9との密着力が下がり凹型9からの離型が容易となる。熱CVDの温度範囲は500℃から800℃に設定する。図10は、凹型9上に硬質膜2が形成されている状態を示す模式図である。本実施形態によれば、前記凹型9は既知の半導体製造プロセスによって、大きな単結晶基板上に同時に多数製造することができ、前記凹型9から同様な寸法形状の前記成形体2を多数製造することができる。
前記硬質膜形成(符号S5)の後、膜2を保持するため、窒化アルミなどからなる中間基材3を導電性接着剤6により接着する(符号S6)。導電性接着剤6は、エポキシ、アクリル、ポリアミド、ポリイミド等に、金、銀、カーボン等の導電性物質をフィラーとして含有した接着剤である。そして、凹型9上に形成された圧子膜となる成形体2の凹み面上に接着剤6を塗布して、その上に中間基材3を取り付けて、適宜加圧・加熱することで成形体の上面2bと中間基材の下面3aとを接着固定する(図11)。
中間基材接着(符号S6)の後、中間基材3及び硬質膜2からなるチップを個別に分断するため、中間基材3に切り出し加工を行う(符号S7)。本実施形態では、ダイシング加工により、中間基材3の厚み方向に所定深さの切り込み(切り溝)3eを入れる(図12)。切り出し加工(符号S7)の後、凹型除去加工を行う(符号S8)。本実施形態では、単結晶基板9をエッチングにより取り除く。そして、中間基材3に設けられた切り溝3eを起点に割ることで、1つの凸形状のチップを容易に作製することができる(図13)。ここで、チップとは、導電性接着剤6を介して一つの凸形状の硬質膜2に中間基材3が貼り付けられた状態の部品を指す。そして、図13に示すチップの凸部を下にして、その部分が欠けない程度の硬さのフィルムの上に載せる。前記フィルムとしては、例えばポリアミドやポリイミドなどが挙げられる。前記フィルムは加熱することができるように加熱ステージ上にセットする。そして、前記中間基材3の上面3bに導電性接着剤7を塗っておく。導電性接着剤7は、エポキシ、アクリル、ポリアミド、ポリイミド等に、金、銀、カーボン等の導電性物質をフィラーとして含有した接着剤である。導電性接着剤7の塗布量は、成形体2の表面に接着剤7がたれないように適量塗布する。
予めナノインデンテーション試験機に前記チップを取り付ける測定用ホルダー4をセットしておき、前記試験機に備え付けの光学顕微鏡で、前記フィルム上の成形体2の凸部分中央位置となる前記中間基材3の上面3b中央の真上に位置合わせをする。位置合わせは前記試験機に付設された顕微鏡を見ながらマニュアル操作する。そして、チップの中間基材3の上面3bに測定用ホルダー4の下面を押し当てて接着する。室温で硬化する接着剤の場合は、その場で接着が完了する。加熱して硬化する接着剤の場合は、測定用ホルダー4を冷却して接着剤を完全硬化させる。この方法では、前記試験機のステージの位置決め精度により、測定用ホルダー4の中心軸と成形体2の多角形の頂点のずれが発生するが、前記試験機は1ミクロン程度の位置決め精度を持っているため、非常に高い精度で成形体2を測定用ホルダー4に取り付けることができる。これら一連のプロセスにて、圧子膜2を持つチップが測定用ホルダー4に固定されたナノインデンテーション試験用圧子1が出来上がる。
上述した実施形態のナノインデンテーション試験用圧子の製造手順の他の例を示す製造工程フロー図を図4に示す。ここで、同一の符号からなる工程は同様の作業を示しており、その説明を省略する。図4に示す製造工程フローは、先端形状が丸い成形体2や先端形状が平面となった成形体2を得るための等方性エッチング処理を行っていない。また、製造工程を単純化するために、ナノダイヤモンド粒子の塗布は行わず、中間基材3は予め切り込みが入っているか、あるいは1つずつ予め分断された状態で硬質膜2の面に接着する。このように、図3の製造工程フローに示す、等方性エッチング(符号S3)、ナノダイヤモンド粒子塗布(符号S4)、切り出し加工(符号S7)は、作製する圧子の加工内容に応じて適宜省く場合がある。
本実施形態の圧子の例として、台形状の成形体2を図14に示す。図14(a)は側面図、図14(b)は平面図である。図14に示す成形体2は、その先端面2dが平面となった四角錐台形状を呈しており、電子部品のバンプ材などの強度測定に好適である。
上記実施形態の圧子の例として、四角錐形状の成形体2を図15に示す。図15(a)は平面図、図15(b)は正面図、図15(c)はA−A断面図、図15(d)はB−B断面図である。図15に示す成形体2は、ビッカース圧子に似た四角錐形状で、マスク8としては、円8m、あるいは面内の結晶方向に沿ってそれの外側に接する正方形状(□)8nとなるマスクを使用し(図6から図8を参照)、Siの(100)面に対して前記異方性エッチング処理を施すことで、前記成形体の先端部分の対面角を71°(70.5°)としており(図15(c))、前記成形体の先端部分の対稜角を正確な90°としている(図15(d))。
上記実施形態の圧子の例として、三角錐形状の成形体2を図16に示す。図16(a)は平面図、図16(b)は正面図、図16(c)はA−A断面図である。図16に示す成形体2は、ベルコビッチ圧子に似た三角錐形状の成形体2で、マスク8としては、その端部が円状の符号8m、あるいは、面内の結晶方向に沿ってそれの外側に接する正三角形状(△)8pとなるマスクを使用し(図6から図8を参照)、Siの(111)面に対して前記異方性エッチング処理を施すことで、前記成形体の先端部分の稜角を正確な90°としている(図16(c))。
(実施例)
上述した実施形態の圧子の製造方法を適用し、Siの(100)面を利用して作製した凹型9の上にダイヤモンド膜2を堆積させた成形体の稜線方向で切り出した断面部分の透過電子顕微鏡像を図20に示す。この画像からダイヤモンド膜2の先端半径rsが約20nmとなっていることが分かる。また、ダイヤモンド膜2の先端部分の対稜角が正確な90°となっており、本発明のプロセスにより先端の尖った理想的な成形体2が作製できることが分かった。
次に、圧子先端半径の異なる圧子を用いてガラス標準片(種別BK7)をナノインデンテーション試験した荷重変位曲線の結果と使用したそれぞれの圧子形状から標準片が接している高さhcを求めた。図21は、ナノインデンテーション試験の押込み深さhとその標準片が接している高さhcとの比率Rp(=hc/h)の関係を示している。ここで、符号V1は先端半径rsが240から310nmのビッカース(Vickers)型圧子であり、符号V2は先端半径rsが270から360nmのビッカース(Vickers)型圧子である。符号B1は先端半径rsが300から400nmのベルコビッチ(Berkovich)型圧子である。
Rpが1よりも小さい場合は、hよりhcが小さいということであるから、シンクインの状態を表している。Rpが1よりも大きい場合は、hよりhcが大きいということであるから、パイルアップの状態を表している。この結果から、ガラス標準片(種別BK7)においても、Rpが1付近で一定しているのではなく、hが100nm以下の領域で最小で0.6と大きなシンクイン現象が起きていることが分かる。特に、ビッカース(Vickers)型圧子では先端半径rsが大きいほど、大きなシンクイン現象が起きていることが分かる。一方、符号B1のベルコビッチ(Berkovich)型圧子は、符号V1とV2のビッカース(Vickers)型圧子よりもシンクイン現象の影響を受けにくい傾向を示しているが、それでもhが10nmではRpの値が0.67と小さい値となっている。実際の試験では、この接触状態の面を基準面として、試験片の硬さを求めることになるので、材料によっては大きな誤差を生じる。上記の結果から、その先端が尖っている圧子のほうが、hが浅い領域でのRp値が1に近く、高精度な試験が可能であることが分かる。よって、圧子先端角度がビッカース(Vickers)型圧子の136°からベルコビッチ(Berkovich)型圧子の115°、さらに本発明の71°あるいは90°になることで、hが浅い領域でのRp値を1に近い値に改善できることになる。
つまり、同じ形状の圧子では先端の尖った理想的な多角錐の形状になるにしたがって、標準片のRpが広範囲に1に近づき試験精度が上がることが分かる。また、異なる形状の圧子では、圧子先端角度が鋭角になるにしたがって、広範囲で標準片のRp値が1に近づき、試験精度が上がることが分かる。そのため、本発明の形状の圧子を使用することで、従来よりも高精度な試験が可能になる。
上述の本実施形態によれば、従来技術では作製できなかった先端形状が尖った圧子や、先端形状が平面となった圧子の製造が可能となり、同様な寸法形状の圧子を同時に多数個製造することができる。さらに、前記圧子先端の曲率半径が500nm以下の圧子を再現性良く容易に作製することができ、前記圧子先端の曲率半径を20nm以下とすることも可能である。また、実施例から、圧子の角度が従来の圧子の136°や115°から71°及び90°と鋭角になっていることとの相乗効果によって、試験片(標準片)のシンクインやパイルアップの影響を受け難くなり、精度良くナノインデンテーション試験を行うことができる新規なナノインデンテーション試験用圧子を製造することができることが分かった。
以上、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。成形体は鍔部を有さない三角錐、四角錐、三角錐台、四角錐台とすることもできる。また、中間基材を介さずに、成形体と測定ホルダーとを直接付けることも可能である。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。