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JP2011071392A - 有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び発光表示装置 - Google Patents

有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び発光表示装置 Download PDF

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Abstract

【課題】電極形成時に有機発光層等に与えるダメージを低減するとともに、電極から有機発光層等への電荷注入を容易にすることができる素子構造を備えた有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極2と陰極5との間に発光物質を含む有機層3が挟まれた有機EL素子において、陽極2乃至陰極5と有機層3との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層4が設けられるように構成して上記課題を解決する。このとき、有機層3と透明保護層4との間に、仕事関数の小さい金属層を含む導電層6’を形成することが好ましく、その導電層6’が、仕事関数の小さい金属層である第1導電層6aと、元素周期律の1族又は2族に属する元素を少なくとも含む第2導電層6bとからなるように構成することが好ましい。
【選択図】図3

Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び発光表示装置に関し、更に詳しくは、電極形成時に有機層に与えるダメージを低減するとともに、電極から有機層への電荷注入を容易にすることができる素子構造を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子、その製造方法及び発光表示装置に関する。
発光物質を含む有機発光層を一対の電極の間に挟み、両電極間に電圧をかけて発光させる有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略す場合がある。)は、自己発色により視認性が高いこと、液晶素子と異なり全固体素子であるため耐衝撃性に優れていること、応答速度が速いこと、温度変化による影響が少ないこと、及び、視野角が大きいこと等の利点を有しており、表示装置における発光素子としての利用が注目されている。
有機EL素子は、陽極/有機発光層/陰極からなる積層構造を基本的な構成とし、従来では、ガラス基板等の透明基材上に透明導電膜からなる陽極を積層し、次いで有機発光層と陰極を順に積層して形成するのが一般的であり、陽極側から光を取り出すボトムエミッション型の有機EL素子が採用されていた。
一方、近年では、上記構成において、陰極を透明導電膜として、陰極側から光を取り出すトップエミッション型の有機EL素子が注目されている。トップエミッション型の有機EL素子の実現により、陰極とともに陽極も透明導電膜とした場合、全体として透明な発光素子とすることが可能となり、両面発光が実現できる。このような透明な発光素子は、背景色として任意の色が採用できるので、発光時以外においても着色された表示装置とすることが可能となり、装飾性が向上する。また、トップエミッション型の有機EL素子では、アクティブ駆動素子であるTFT(薄膜トランジスタ)により発光が遮蔽されることがないため、開口率の高い表示装置とすることが可能となる。
トップエミッション型の有機EL素子は、通常、陽極と陰極との間に有機発光層が形成されている。その構成形態としては種々挙げることができるが、一例として、陰極がAl等の電子注入層とITO(インジウム錫酸化物)等の透明導電膜とで構成され、その電子注入層が有機発光層側に配置されているものがある。
しかしながら、そうした有機EL素子においては、一般にITO等の透明導電膜がスパッタリング法により成膜されるため、電子注入層上に透明導電膜を形成する際に、有機発光層又は電子注入層が、スパッタされた粒子、スパッタ時のArイオン又は電離した電子等の衝撃によりダメージを受け、発光特性が低下(電流密度の低下、発光効率の低下、リーク電流の発生等)するという問題があった。
また、透明導電膜の形成にプラズマが用いられるときは、有機発光層又は電子注入層がプラズマ雰囲気に曝されることにより、上記同様のダメージを受け、発光特性が低下するという問題があった。さらに、透明導電膜を形成する際に、電子注入層を構成する反応性の高いAl等の金属が、雰囲気中の酸素又はターゲットから放出した酸素と反応して酸化し、電子注入性能が低下(電流密度特性の低下、発光効率の低下、ダークスポットの増大)するという問題もあった。
このような問題を解決するために、有機発光層と透明導電膜(上部電極)との間に種々の層を形成した有機EL素子が提案されている。
例えば、特許文献1には、有機発光層と透明導電膜との間に、金、ニッケル、又はアルミニウムからなるスパッタ保護層を形成した有機EL素子が提案されている。また、特許文献2には、陰極を2層構造とし、第1陰極と第2陰極との間に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(Li、Cs、Ba、Sr、Ca等)がドープされたバソキュプロイン(BCP)等の電子輸送性有機材料からなる電子輸送保護層を形成した有機EL素子が提案されている。また、特許文献3には、陰極を薄い金属膜(Ca膜)とし、この薄い金属膜を、広いバンドギャップをもつ半導体(ZnSe等)からなる保護膜で覆った有機EL素子が提案されている。また、特許文献4には、有機発光層と透明導電膜(上部陽極)との間に、厚さ30nm〜1000nmの正孔注入層を形成した有機EL素子が提案されている。また、特許文献5には、有機発光層と透明導電膜(上部電極)との間に、Au、Pt、Ag等の金属がドーピングされたフタロシアニン化合物からなるバッファ層を形成した有機EL素子が提案されている。
また、特許文献6には、有機発光層に注入される正孔と電子のバランスを保つため、有機発光層上に半透過陰極層/透明緩衝層/透明導電保護層を形成し、非表示領域に半透過陰極層と透明導電保護層とが接触する接触領域を設けることにより、半透過陰極と透明導電保護層を介して電流を流し、有機発光層に効率的に電子を供給するようにした有機EL素子が提案されている。
特開2003−77651号公報 特開2004−127740号公報 特開平10−223377号公報 特開2004−227943号公報 特開2004−296234号公報 特開2007−265792号公報
上記特許文献1〜5で提案された有機EL素子は、有機発光層と透明導電膜(上部電極)との間に種々の層を挿入しているが、トップエミッション型の有機EL素子を構成する場合には、挿入するそれらの層には透明性が要求されるとともに、有機発光層に電荷を供給するための電子輸送性と電子注入性も十分に高いことが要求される。特に電子輸送性及び電子注入性が十分に高くないと、素子全体としての電気抵抗が高くなり、電流−電圧特性が低下するほか、有機発光層に注入される正孔と電子のバランスが崩れ、発光特性が低下するという問題を生じる。
また、上記特許文献6で提案された有機EL素子では、半透過陰極層を介して電流を流す必要があるため、半透過陰極層の膜厚を厚くしなければならず、そのために透明性が低下するおそれがある。また、半透過陰極層は、アルカリ金属単体等の反応性の高い材料で形成されているため、透明導電保護層と接触する接触領域において、透明導電保護層形成時に酸化等のダメージが生じるおそれがある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極形成時に有機発光層等に与えるダメージを低減するとともに、電極から有機発光層等への電荷注入を容易にすることができる素子構造を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた発光表示装置を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に発光物質を含む有機層が挟まれた有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記陽極乃至陰極と前記有機層との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層が設けられていることを特徴とする。
この発明によれば、陽極乃至陰極と有機層との間に透明保護層が設けられ、その透明保護層が、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含むので、その電子受容性化合物がバイポーラ性電荷輸送用有機化合物に及ぼす作用により、透明保護層は高い電荷移動性能を有するものとなる。そのため、その透明保護層上に陽極乃至陰極を例えばスパッタリング法等で形成した場合において、雰囲気中の酸素又はターゲットから放出した酸素、さらに、電極形成時に発生するスパッタ粒子、Arイオン又は電離電子等の衝撃によっても、透明保護層は高い電荷移動性能を保持することができる。さらに、透明保護層が有機層を覆うように設けられているので、有機層が特性低下を伴うダメージを受けることがない。したがって、有機層は特性低下を伴うダメージを受けず、透明保護層も高い電荷移動性能を保持できるので、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下(電流密度の低下、発光効率の低下、リーク電流の発生等)しない有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
さらにこの発明によれば、透明保護層を構成する電荷輸送用有機化合物がバイポーラ性を有しているため、正孔と電子のいずれも電荷輸送が可能であり、例えば有機層が正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層で構成されている場合に、その正孔注入輸送層と電子注入輸送層のいずれの側の上にも形成することができ、しかも上記のように、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下しない有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができるので、特性上も製造上も極めて便利である。
なお、本発明において、透明保護層が、陽極と有機層との間に設けられるか、陰極と有機層との間に設けられるかは、陽極と陰極の成膜順に基づく。すなわち、陽極が先に設けられる場合には、有機層上に透明保護層が設けられ、その後に陰極が設けられて、少なくとも陰極側から発光するトップエミッション型(又は両面発光型)の有機エレクトロルミネッセンス素子となり、他方、陰極が先に設けられる場合には、有機層上に透明保護層が設けられ、その後に陽極が設けられて、少なくとも陽極側から発光するトップエミッション型(又は両面発光型)の有機エレクトロルミネッセンス素子となる。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい態様として、前記電子受容性化合物が、三酸化モリブデン又は五酸化バナジウムであるように構成する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい態様として、導電層が、仕事関数の小さい金属層を含み、前記透明保護層と前記有機層との間に設けられているように構成する。
この発明によれば、仕事関数の小さい金属層を含む導電層を、透明保護層と有機層との間に設けるので、ダメージのない有機層への電荷注入を、電荷移動性能のよい透明保護層を介して効率的に行うことができる。その結果、電流−電圧特性と発光特性をより優れたものとすることができる。
前記の場合における好ましい態様として、前記導電層が、仕事関数の小さい金属層である第1導電層と、元素周期律の1族又は2族に属する元素を少なくとも含む第2導電層とからなり、前記第1導電層が前記有機層の側になるように構成されている。
この発明によれば、仕事関数の小さい金属層である第1導電層は、電荷を有機層に効率的に注入することができる。さらに、この第1導電層上に設けられた第2導電層は、陰極又は陽極から、電荷移動性能のよい透明保護層を介して供給された電荷を、第1導電層に効率的に供給する。その結果、ダメージのない有機層への電荷注入を、電荷移動性能のよい透明保護層を介して効率的に行うことができ、電流−電圧特性と発光特性をより優れたものとすることができる。
さらに前記の場合における好ましい態様として、前記第1導電層が、海島状のアルミニウム薄膜であり、前記第2金属層が、層状のMgAg薄膜であるように構成する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好ましい態様として、前記バイポーラ性電荷輸送用有機化合物が、CBP、spiro−CBP、CzTT、m−CP、TBADN、及びこれらの誘導体から選ばれるいずれか1種又は2種以上であるように構成する。
上記課題を解決するための本発明の発光表示装置は、上記本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を有することを特徴とする。
また、上記課題を解決するための本発明の発光表示装置は、上記本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子と、該有機エレクトロルミネッセンス素子をアクティブ駆動する薄膜トランジスタとを有することを特徴とする。
また、上記課題を解決するための本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、陽極と陰極との間に発光物質を含む有機層が挟まれており、且つ該陽極乃至陰極と該有機層との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層が設けられている有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記陽極乃至陰極を無機透明導電膜で形成し、前記透明保護層の形成を、前記有機層の形成後であって前記無機透明導電膜の形成前に行うことを特徴とする。
無機透明導電膜は通常、スパッタリング法等により成膜されるものであり、緻密で比較的高い導電性を持ち、さらに透明性も比較的高いため、発光物質を含む有機層からの発光を効率的に取り出すことができるが、そうしたスパッタリング法等は有機層を構成する有機化合物に特性低下を伴うダメージを与え易い成膜方法でもある。この発明によれば、透明保護層の形成を、有機層の形成後であってその有機層上に無機透明導電膜を形成する前に行うので、無機透明導電膜を形成するスパッタリング法等により有機層に特性低下を伴うダメージを与えるのを防ぐことができる。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、透明保護層に含まれる電子受容性化合物がバイポーラ性電荷輸送用有機化合物に及ぼす作用により、透明保護層は高い電荷移動性を有するものとなるので、その透明保護層上に陽極乃至陰極を例えばスパッタリング法等で形成した場合において、雰囲気中の酸素又はターゲットから放出した酸素、さらに、電極形成時に発生するスパッタ粒子、Arイオン又は電離電子等の衝撃によっても、透明保護層は高い電荷移動性を保持することができる。さらに、透明保護層が有機層を覆うように設けられているので、有機層が特性低下を伴うダメージを受けることがない。したがって、有機層は特性低下を伴うダメージを受けず、透明保護層も高い電荷移動性能を保持できるので、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下(電流密度の低下、発光効率の低下、リーク電流の発生等)しない有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
さらに、透明保護層を構成する電荷輸送用有機化合物がバイポーラ性を有しているため、正孔と電子のいずれの電荷移動も可能であり、例えば有機層が正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層で構成されている場合に、その正孔注入輸送層と電子注入輸送層のいずれの側の上にも形成することができ、しかも上記のように、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下しない有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができるので、特性上も製造上も極めて便利である。
本発明の発光表示装置によれば、アクティブ駆動素子である薄膜トランジスタを有する場合であっても有しない場合であっても、電流−電圧特性と発光特性の優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた効率のよい発光表示装置を提供することができる。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法によれば、透明保護層の形成を、有機層の形成後であってその有機層上に無機透明導電膜を形成する前に行うので、無機透明導電膜を形成するスパッタリング法等により有機層に特性低下を伴うダメージを与えるのを防ぐことができる。
本発明の有機EL素子の基本構造を示す模式的な断面図である。 本発明の有機EL素子の他の一例を示す模式的な断面図である。 本発明の有機EL素子のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。 図1の有機EL素子のより具体的な構成例である。 図2の有機EL素子のより具体的な構成例である。 図3の有機EL素子のより具体的な構成例である。 本発明の発光表示装置の一例を示す模式的な断面図である。 本発明の発光表示装置の他の一例を示す模式的な断面図である。 実施例1の有機EL素子と比較例1の素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。 実施例2と比較例2の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。 実施例3と比較例3の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。 実施例1〜3の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。 実施例1〜3の有機EL素子それぞれの輝度−電圧特性を示すグラフである。 実施例5と比較例1の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。 実施例6と比較例1の有機EL素子それぞれの輝度−電圧特性を示すグラフである。 実施例7の発光表示装置の電流密度−電圧特性を、実施例3の有機EL素子の電流密度−電圧特性と併せて示すグラフである。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略すことがある。)、その製造方法及び発光表示装置について詳しく説明する。
[有機EL素子及びその製造方法]
図1は、本発明の有機EL素子の基本構造を示す模式的な断面図である。図1に示す有機EL素子1Aは、陽極2と陰極5との間に発光物質を含む有機層3が挟まれた発光素子である。そして、その特徴は、陽極2乃至陰極5と有機層3との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層4が設けられていることにある。図1においては、基材1上に、陽極2、有機層3、透明保護層4、陰極5がその順で設けられており、透明保護層4は有機層3と陰極5との間に設けられている。
透明保護層4が、有機層3と陰極5との間(図1参照)に設けられるか、有機層3と陽極2との間(図示しない)に設けられるかは、陽極2と陰極5の成膜順に基づく。すなわち、図1に示すように、基材1上に陽極2が先に設けられる場合には、有機層3上に透明保護層4が設けられ、その後に陰極5が設けられて、少なくとも陰極5側から発光するトップエミッション型(又は両面発光型)の有機EL素子1Aとなる。他方、基材上に陰極が先に設けられる場合(図示しない)には、有機層上に透明保護層が設けられ、その後に陽極が設けられて、少なくとも陽極側から発光するトップエミッション型(又は両面発光型)の有機EL素子となる。
図2は、本発明の有機EL素子の他の一例を示す模式的な断面図である。図2に示す有機EL素子1Bは、図1に示す有機EL素子1Aにおいて、有機層3と透明保護層4との間に導電層6が設けられている形態であり、その導電層6は、仕事関数の小さい金属層を含んでいることに特徴がある。
図3は、本発明の有機EL素子のさらに他の一例を示す模式的な断面図である。図3に示す有機EL素子1Cは、図2に示す有機EL素子1Cの導電層6の代わりに、仕事関数の小さい金属層である第1導電層6aと、元素周期律の1族又は2族に属する元素を少なくとも含む第2導電層6bとからなる導電層6’が設けられていることに特徴がある。このとき、第1導電層6aが、有機層3の側になるように構成されている。
以下、有機EL素子の各構成について、図1〜図3(特定しない場合は「図1等」という。)を参照しつつ詳しく説明する。なお、以下の説明では、基材1上に、陽極2、正孔注入輸送層/発光層(発光物質を含む層)/電子注入輸送層からなる3層構造の有機層3、透明保護層4、陰極5の順で設けた例で説明するが、これに限定されるものではない。
したがって、図示しないが、基材1側から、陰極、電子注入輸送層/発光層(発光物質を含む層)/正孔注入輸送層からなる3層構造の有機層、透明保護層、陽極の順で設けたものであってもよく、その場合にも、各層は以下に示すのと同様の作用効果を奏するように振る舞うことになるが、いずれにしてもトップエミッション型(又は両面発光型)の有機EL素子を構成することになるとなる。そのため、有機層上に形成される透明又は半透明からなる陽極は、透明保護層を介して形成される。
(基材)
基材1は、図1等に示すように、陽極2、有機層3、透明保護層4、陰極5等を支持するものである。本発明の有機EL素子は各層を順次積層する方向の側(陰極5側)から光を取り出すトップエミッション型の発光素子であるので、この基材1は透明性を有していても有していなくてもよいが、陽極2の側からも光を取り出す両面発光型の場合は、透明性を有する基材1が用いられる。
基材1の構成材料としては、例えば、石英、ガラス、シリコンウェハ、TFT(薄膜トランジスタ)が形成されたガラス等の無機材料を挙げることができる。また、基材を高分子材料で形成してもよく、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の高分子材料を挙げることができる。
上記の中でも、石英、ガラス、シリコンウェハ、又はスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が好ましく用いられる。これらの材料は200℃以上の耐熱性を有しており、製造工程での基材温度を高くすることができるからである。特にTFTを用いたアクティブ駆動型の発光表示装置を製造する場合は、製造工程中に高温となるので、上記の材料を好適に用いることができる。
基材1の厚さとしては、用いる材料及び有機EL素子の用途により適宜選択される。具体的には、基材1の厚さは、0.005mm〜5mm程度である。
また、基材1の構成材料として上記した高分子材料を用いた場合、高分子材料から発生するガスによって有機層3が劣化する可能性があることから、基材1と陽極2との間にガスバリア層(図示しない)を設けることが好ましい。そうしたガスバリア層の構成材料としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。
(陽極)
陽極2は、その後に形成される発光物質を含む有機層3に正孔を供給するための電極である。図1〜図3で例示する有機EL素子は層を順次積層する方向の側(陰極5側)から光を取り出すトップエミッション型の発光素子であるので、この陽極2は透明性を有していても有していなくてもよいが、陽極2の側からも光を取り出す両面発光型の場合は、透明性を有する陽極2が用いられる。
陽極2の構成材料としては、導電性材料であれば特に限定されるものではなく、例えばAu、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、Cu、Mo、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属単体、これらの金属の酸化物、及びAlLi、AlCa、AlMg等のAl合金、MgAg等のMg合金、Ni合金、Cr合金、アルカリ金属の合金、アルカリ土類金属の合金等の合金等を挙げることができる。これらの導電性材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上を用いて積層させてもよい。
また、陽極2の構成材料として、In−Sn−O(ITO)、In−Zn−O(IZO)、Zn−O、Zn−O−Al、Zn−Sn−O等の導電性酸化物を用いることもできる。また、金属がドープされたポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体等の導電性高分子、α−Si、α−SiC等を用いることもできる。陽極2に透明性をもたせて陽極側からも光を取り出すような場合には、ITO、IZOが特に好ましく用いられる。ITO、IZOは導電性及び光透過性が高く、電気抵抗率が低いことから、光の取り出し効率を向上させるとともに、有機層3の駆動電圧を低電圧化することができる。
陽極2の厚さは特に限定されるものではなく、用いる導電性材料に応じて適宜設定される。具体的には、陽極2の厚さは、5nm〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは40nm〜500nmの範囲内である。陽極2の形成方法としては、例えば化学的気相成長法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法が挙げられる。
なお、図1等においては、陽極2を基材1上に設けているために必ずしも透明である必要はないが、基材1上に陰極5を設け、有機層3を形成した後に陽極2を形成するような場合には、陽極2の構成材料としては、後述の陰極5と同様、透明導電膜であるITO又はIZOが用いられる。
(有機層)
有機層3は、発光物質を含む層(以下「発光層」という)であり、少なくとも発光層を含む1層又は2層以上の層から構成される。図1〜図3では有機層3を詳しく表していないが、有機層3としては各種の形態を挙げることができる。例えば、発光層からなる単一構造の有機層、正孔注入輸送層/発光層からなる2層構造の有機層、発光層/電子注入輸送層からなる2層構造の有機層、正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層からなる3層構造の有機層、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層からなる5層構造の有機層等を挙げることができる。5層構造の有機層では、必要に応じて任意の層を省略してもよいし、正孔ブロック層又は電子ブロック層等のように、正孔又は電子の突き抜けを防止し、さらに励起子の拡散を防止して発光層内に励起子を閉じ込めて再結合効率を高めるための層等を加えてもよい。
正孔輸送層は、正孔注入層に正孔輸送機能を付与することにより、正孔注入層と一体化して正孔注入輸送層と表される場合が多い。また、電子輸送層も、電子注入層に電子輸送機能を付与することにより、電子注入層と一体化して電子注入輸送層として表される場合が多い。そのため、以下では、代表的な構成として、図4に示すように、陽極2側から、正孔注入輸送層3a、発光層3b、電子注入輸送層3cで構成されてなる有機層3を例にして具体的に説明するが、本発明の有機層3はそれらに限定されるものではない。なお、図4は、導電層を有さない図1の有機EL素子のより具体的な構成例であり、図5は、単一の導電層を有した図2の有機EL素子のより具体的な構成例であり、図6は、2層構造の導電層を有した図3の有機EL素子のより具体的な構成例である。
(正孔注入輸送層)
正孔注入輸送層3aは、陽極2に接する態様で有機層3の一部を構成し、発光層3bへの正孔の注入を安定化させるように作用するとともに、発光効率を高めるように作用する。
正孔注入輸送層3aは、陽極2と発光層3bとの間に設けられるので、陽極2から注入された正孔を発光層3b内へ輸送するように作用する層であれば特に限定されない。正孔注入輸送層3aは、正孔注入機能と正孔輸送機能を有するものであれば、正孔注入層と呼ばれる単一層であっても正孔輸送層と呼ばれる単一層であってもよく、また、正孔注入層と呼ばれる層と正孔輸送層と呼ばれる層からなる2層構造であってもよく、また、発光層3bが正孔注入機能と正孔輸送機能の両機能を有する場合には正孔注入輸送層として設けられていなくてもよい。
正孔注入輸送層3aの構成材料は、陽極2から注入された正孔を発光層3b内に安定して輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、後述する発光層3bの発光材料(色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料)として例示した化合物の他、アリールアミン類、スターバースト型アミン類、フタロシアニン類、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子及びそれらの誘導体を用いることができる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子及びそれらの誘導体は、酸がドープされていてもよい。具体的には、N,N´−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N´−ビス(フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
中でも、正孔注入輸送層3aの構成材料としては、正孔と電子を輸送できるバイポーラ材料が好ましい。バイポーラ材料を正孔注入輸送層3aに用いることにより、駆動中における発光層3bと正孔注入輸送層3aとの界面での劣化を効果的に抑制することができる。バイポーラ材料については、後述の透明保護層のところで詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
なお、正孔注入輸送層3aと後述の電子注入輸送層3cのいずれもがバイポーラ材料を含む場合、正孔注入輸送層3aと電子注入輸送層3cに含まれるバイポーラ材料は同一であってもよいし異なっていてもよい。さらに、正孔注入輸送層3aと発光層3bと電子注入輸送層3cのすべてがバイポーラ材料を含む場合、正孔注入輸送層3aと発光層3bと電子注入輸送層3cが含むバイポーラ材料は同一であってもよいし異なっていてもよい。
正孔注入輸送層3aの構成材料が有機化合物(正孔注入輸送層用有機化合物)である場合、形成された正孔注入輸送層3aは、少なくとも陽極2との界面に、上記正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合した領域が存在することが好ましい。そうした領域が陽極2と正孔注入輸送層3aとの界面に少なくとも存在することにより、陽極2から正孔注入輸送層3aに正孔が注入される際の正孔注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができる。
陽極2から正孔注入輸送層3a(正孔注入輸送層3a等からなる有機層3は基本的に絶縁物である。)への正孔注入過程は、陽極2の表面での有機化合物の酸化、すなわちラジカルカチオン状態の形成に基づいている(Phys. Rev.Lett., 14, 229(1965))。上記のように、予め有機化合物を酸化する作用を持つ酸化性ドーパントを陽極2に接触する側の正孔注入輸送層3aにドープすることにより、陽極2から正孔が注入される際のエネルギー障壁を低下させることができる。酸化性ドーパントがドープされた正孔注入輸送層3aには、酸化性ドーパントにより酸化された状態(すなわち電子を供与した状態)の有機化合物が存在するので、正孔が注入される際のエネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができるという利点がある。なお、酸化性ドーパントは、後述する透明保護層に含まれる酸化性ドーパントと同様のものを用いることができ、その含有量も後述の透明保護層のところで説明するのと同様、電荷移動性能を向上させることができる濃度が任意に選択される。
正孔注入輸送層3aが、正孔注入輸送層用有機化合物に酸化性ドーパントが混合された領域を有する場合、正孔注入輸送層3aは、少なくとも陽極2との界面にその領域を有していればよく、例えば、正孔注入輸送層3aの厚さ方向の全域に酸化性ドーパントが均一にドープされていてもよいし、正孔注入輸送層3a中の酸化性ドーパントの含有量が発光層3bの側から陽極2の側に向かって連続的に多くなるようにドープされていてもよいし、正孔注入輸送層3aの陽極側の界面のみに局所的に酸化性ドーパントがドープされていてもよい。
正孔注入輸送層3aの成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法等を挙げることができる。
正孔注入輸送層3aの厚さは、陽極から正孔が注入され、発光層に正孔を輸送することができる機能を十分に発揮する厚さであれば特に限定されるものではないが、具体的には0.5nm〜1000nm程度で設定することができ、中でも5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。
(発光層)
発光層3bは、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を有するものであり、例えば図4に示すように、正孔注入輸送層3aと電子注入輸送層3cとの間に挟まれて構成されている。発光層3bの構成材料としては、色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料を挙げることができる。
色素系発光材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー等を挙げることができる。
金属錯体系発光材料としては、中心金属にAl、Zn、Be、Ir、Pt等、又はTb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。そうした金属錯体としては、例えば、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体、イリジウム金属錯体、プラチナ金属錯体等が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)を用いることができる。
高分子系発光材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体、及びそれらの共重合体等を挙げることができる。また、上記の色素系発光材料及び金属錯体系発光材料を高分子化したものも挙げられる。
また、発光層3bの構成材料はバイポーラ材料であってもよい。バイポーラ材料を発光層の構成材料として用いることにより、駆動中における正孔注入輸送層3aと発光層3bとの界面での劣化、又は、発光層3bと電子注入輸送層3cとの界面での劣化を効果的に抑制することができる。バイポーラ材料は、それ自体が蛍光発光又は燐光発光する発光材料であってもよいし、後述の発光ドーパントがドープされるホスト材料であってもよい。なお、バイポーラ材料については、後述の透明保護層4のところで詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
また、発光層3bは、発光効率の向上又は発光波長の変化等の目的で、蛍光発光又は燐光発光する発光ドーパントを含んでいてもよい。すなわち、発光層3bは、上記の色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料、バイポーラ材料等を1種以上含むホスト材料と、発光ドーパントとを含有するものであってもよい。発光ドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体等を挙げることができる。
発光層3bの厚さは、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる程度の厚さであれば特に限定されるものではなく、1nm〜200nm程度とすることができる。
発光層の形成方法としては、有機EL素子に要求される微細なパターンの形成が可能な方法であれば特に限定されない。例えば、蒸着法、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、自己組織化法(交互吸着法、自己組織化単分子膜法)等を挙げることができる。中でも、蒸着法、スピンコート法、インクジェット法が好ましい。
ホスト材料と発光ドーパントとを含有する場合における発光層3bの形成方法としては、ホスト材料と発光ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましい。なお、こうした発光層3bを溶液を用いた塗布法で薄膜形成する場合には、スピンコート法及びディップコート法等を用いることができる。この場合、ホスト材料と発光ドーパントとを不活性なポリマー中に分散して用いることが好ましい。なお、発光層3b中の発光ドーパント濃度が傾斜構造となるように厚さ方向に分布をつける場合には、例えば、ホスト材料と発光ドーパントの蒸着速度を連続的又は周期的に変化させる方法を用いることができる。
本発明の有機EL素子を用いてフルカラー表示又はマルチカラー表示の発光表示装置を作製する際には、異なる色を発光する発光層3bを微細な形状に形成した上、所定の配列で並べる必要があることから、発光層3bをパターン状に形成する必要がある。発光層3bをパターン状に形成する方法としては、異なる発光色ごとに、マスキング法で塗り分けしたり蒸着したりする方法、印刷法又はインクジェット法により塗り分けする方法が挙げられる。
また、塗り分けする領域毎に予め隔壁(図示しない)を形成し、その後に隔壁によって区分けされた領域内に、異なる発光色を発する発光層3bを形成することにより、発光層3bをパターン状に形成してもよい。隔壁の形成は、インクジェット法等で発光層を形成する際に、発光材料が隣接する区域に濡れ広がらないという利点がある。こうした隔壁の構成材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂等を用いることができる。また、無機材料等で形成してもよい。さらに、そうした隔壁に対しては、隔壁の表面エネルギー(濡れ性)を変化させる処理を行ってもよい。
発光層3bは、ベタ状に形成した正孔注入輸送層3a上に、上記隔壁等を必要に応じて設けて塗り分けてもよいし、陽極2上に、上記隔壁等を必要に応じて設けて正孔注入輸送層3aと発光層3bとを順次積層して塗り分けてもよい。
(電子注入輸送層)
電子注入輸送層3cは、は、発光層3cと陰極5との間に設けられるので、陰極5から注入された電子を発光層3cに安定して輸送するように作用する層であれば特に限定されない。電子注入輸送層3cは、電子注入機能と電子輸送機能を有するものであれば、電子注入層と呼ばれる単一層であっても電子輸送層と呼ばれる単一層であってもよく、また、電子注入層と呼ばれる層と電子輸送層と呼ばれる層からなる2層構造であってもよく、また、発光層3bが電子注入機能と電子輸送機能の両機能を有する場合には電子注入輸送層として設けられていなくてもよい。
電子注入機能を有する構成材料としては、発光層3b内への電子の注入を安定化させることができる材料であれば特に限定されるものではなく、上記発光層3bの発光材料(色素系発光材料、金属錯体系発光材料、高分子系発光材料)として例示した化合物の他、Ba、Ca、Li、Cs、Mg、Sr等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の単体、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のフッ化物、アルミリチウム合金等のアルカリ金属の合金、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物、ポリメチルメタクリレートポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機錯体等を挙げることができる。
また、電子輸送機能を有する構成材料としては、陰極5から注入された電子を発光層3c内へ輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bpehn)等のフェナントロリン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)等のアルミキノリノール錯体等を挙げることができる。
中でも、電子注入輸送層3cの構成材料としては、正孔と電子を輸送できるバイポーラ材料が好ましい。バイポーラ材料を電子注入輸送層3cに用いることにより、駆動中における発光層3bと電子注入輸送層3cとの界面での劣化を効果的に抑制することができる。バイポーラ材料については、後述の透明保護層のところで詳しく説明するので、ここでの説明は省略する。
なお、電子注入輸送層3cと上述の正孔注入輸送層3aのいずれもがバイポーラ材料を含む場合、電子注入輸送層3cと正孔注入輸送層3aに含まれるバイポーラ材料は同一であってもよいし異なっていてもよい。さらに、正孔注入輸送層3aと発光層3bと電子注入輸送層3cのすべてがバイポーラ材料を含む場合、正孔注入輸送層3aと発光層3bと電子注入輸送層3cが含むバイポーラ材料は同一であってもよいし異なっていてもよい。
電子注入輸送層3cの構成材料が有機化合物(電子注入輸送層用有機化合物)である場合、形成された電子注入輸送層3cは、少なくとも陰極5との界面に、上記電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有することが好ましい。そうした領域が陰極5と電子注入輸送層3cとの界面に少なくとも存在することにより、陰極5から電子注入輸送層3cに電子が注入される際の電子注入障壁が小さくなり、駆動電圧を低下させることができる。
陰極5から電子注入輸送層3c(電子注入輸送層3c等からなる有機層3は基本的に絶縁物である。)への電子注入過程は、陰極5の表面での有機化合物の還元、すなわちラジカルアニオン状態の形成に基づいている(Phys. Rev.Lett., 14, 229(1965))。上記のように、予め有機化合物を還元する作用を持つ還元性ドーパントを陰極5に接触する側の電子注入輸送層3cにドープすることにより、陰極5から電子が注入される際のエネルギー障壁を低下させることができる。還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層3cには、還元性ドーパントにより還元された状態(すなわち電子を受容し、電子が注入された状態)の有機化合物が存在するので、電子が注入される際のエネルギー障壁が小さく、従来の有機EL素子と比べて駆動電圧を低下させることができる。なお、このとき、陰極5としうて、一般に配線材として用いられている安定なAlのような金属を使用することが好ましい。
還元性ドーパントとしては、電子注入輸送層用有機化合物を還元する性質をもつものであれば特に限定されないが、通常は電子供与性化合物が用いられる。電子供与性化合物としては、金属(金属単体)、金属化合物、又は有機金属錯体が好ましく用いられる。金属(金属単体)、金属化合物、又は有機金属錯体としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものを挙げることができる。中でも、仕事関数が4.2eV以下である、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び希土類金属を含む遷移金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むものであることが好ましい。このような金属(金属単体)としては、例えば、Li、Na、K、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Mg、Sm、Gd、Yb、W等が挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO等の金属酸化物、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の金属塩等が挙げられる。有機金属錯体としては、例えば、Wを含む有機金属化合物、8−ヒドロキシキノリノラトリチウム(Liq)等が挙げられる。中でも、Cs、Li、Liqが好ましく用いられる。これらの還元性ドーパントを電子注入輸送層用有機化合物にドープすることにより、良好な電子注入特性を得ることができる。
電子注入輸送層3cが、電子注入輸送層用有機化合物に還元性ドーパントが混合された領域を有する場合、電子注入輸送層3cは、少なくとも陰極5との界面にその領域を有していればよく、例えば、電子注入輸送層3cの厚さ方向の全域に還元性ドーパントが均一にドープされていてもよいし、電子注入輸送層3c中の還元性ドーパントの含有量が発光層3bの側から陰極5の側に向かって連続的に多くなるようにドープされていてもよいし、電子注入輸送層3cの陰極側の界面のみに局所的に還元性ドーパントがドープされていてもよい。なお、還元性ドーパントの含有量は、上述した正孔注入輸送層3aの場合と同様に、電荷移動性能を向上させることができる濃度が任意に選択される。
電子注入輸送層3cの成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等の乾式法、あるいは、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法等の湿式法等を挙げることができる。
電子注入輸送層3cの厚さは、電子注入機能と電子輸送機能とが十分に発揮される厚さであれば特に限定されるものではなく、また、還元性ドーパントがドープされた電子注入輸送層の厚も特に限定されるものでないが、いずれの場合においても、0.1nm〜300nmの範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.5nm〜200nmの範囲内である。電子注入輸送層3cの厚さが上記範囲未満であると、陰極界面近傍に存在する、還元性ドーパントにより還元された電子注入輸送層用有機化合物の量が少ないため、ドーピングの効果が十分に得られない場合がある。一方、電子注入輸送層3cの厚さが上記範囲を超えると、電子注入輸送層全体の膜厚が厚すぎて、駆動電圧の上昇を招くおそれがある。
(透明保護層)
透明保護層4は、陽極乃至陰極と有機層との間に設けられる層であり、図4の例では、電子注入輸送層3c上、すなわち、電子注入輸送層3cと陰極5とに挟まれるように設けられる。透明保護層4は本発明の特徴的な層であり、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む層である。
こうした構成からなる透明保護層4の最も重要な機能は、その電子受容性化合物がバイポーラ性電荷輸送用有機化合物に及ぼす作用により、透明保護層4が高い電荷移動性能を有することにある。そのため、その透明保護層4上に陽極乃至陰極(図4の例では陰極5)を例えばスパッタリング法等で形成した場合において、雰囲気中の酸素又はターゲットから放出した酸素、さらに、電極形成時に発生するスパッタ粒子、Arイオン又は電離電子等の衝撃によっても、その透明保護層4は高い電荷移動性能を保持することができるという効果がある。さらに、透明保護層4が有機層3(図4の例では電子注入輸送層3c)を覆うように設けられているので、有機層3を保護し、有機層3が特性低下を伴うダメージを受けることがない。したがって、有機層3は特性低下を伴うダメージを受けず、透明保護層4も高い電荷移動性能を保持できるので、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下(電流密度の低下、発光効率の低下、リーク電流の発生等)しない有機EL素子を提供できるという優れた効果がある。
さらに、透明保護層4を構成する電荷輸送用有機化合物がバイポーラ性を有しているため、正孔と電子のいずれも電荷輸送が可能であり、例えば有機層3が正孔注入輸送層3a/発光層3b/電子注入輸送層3cで構成されている場合(図4の例を参照)に、その正孔注入輸送層3aと電子注入輸送層3cのいずれの側の上にも形成することができ、しかも上記のように、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下しない有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができるので、特性上も製造上も極めて便利である。
なお、透明保護層4が、陽極2と有機層3との間に設けられるか、陰極5と有機層3との間に設けられるかは、陽極と陰極の成膜順に基づく。すなわち、陽極2が先に設けられる場合(図4を参照)には、有機層3上に透明保護層4が設けられ、その後に陰極5が設けられて、少なくとも陰極5側から発光するトップエミッション型(又は両面発光型)の有機EL素子となる。他方、陰極5が先に設けられる場合には、有機層3上に透明保護層4が設けられ、その後に陽極2が設けられて、少なくとも陽極2側から発光するトップエミッション型(又は両面発光型)の有機EL素子となる。
バイポーラ性材料は、正孔と電子のいずれをも安定に輸送することができる材料であって、材料に還元性ドーパントをドープしたものを用いて電子のユニポーラデバイスを作製した場合には電子を安定に輸送することができ、一方、材料に酸化性ドーパントをドープしたものを用いて正孔のユニポーラデバイスを作製した場合には正孔を安定に輸送することができる材料のことである。本発明において、透明保護層4を構成するバイポーラ性電荷輸送用有機化合物は、こうした手法により正孔と電子のいずれかの電荷の輸送が可能であると確認される材料は、すべて本発明におけるバイポーラ材料として用いることができる。
バイポーラ性電荷輸送用有機化合物としては、例えば、ジスチリルアレーン誘導体、多芳香族化合物、芳香族縮合環化合物類、カルバゾール誘導体、複素環化合物等を挙げることができる。具体的には、下記化学式1〜7で示される4,4'-bis(carbazol-9-yl)biphenyl(CBP)(下記化学式1)、2,2',7,7'-tetrakis(carbazol-9-yl)-9,9'-spiro-bifluorene(spiro-CBP)(下記化学式2)、4,4''-di(N-carbazolyl)-2',3',5',6'-tetraphenyl-p-terphenyl(CzTT)(下記化学式3)、1,3-bis(carbazole-9-yl)-benzene(m-CP)(下記化学式4)、3-tert−butyl-9,10-di(naphtha-2-yl)anthracene(TBADN)(下記化学式5)、4,4',4''-tris(carbazolyl)-triphenylamine(TCTA:4,4’,4”−トリス(カルバゾリル)−トリフェニルアミン)(下記化学式6)、9,10-bis[4-(6-methylbenzothiazol-2-yl)phenyl]anthracene(DBzA:9,10−ビス(4−(6−メチルベンゾチアゾール−2−イル)フェニル)アントラセン)(下記化学式7)、及びこれらの誘導体等を挙げることができ、これらの化合物から選ばれるいずれか1種又は2種以上を用いることができる。
Figure 2011071392
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バイポーラ性電荷輸送用有機化合物にドープするドーパントとしては、上記のように、酸化性ドーパントでも還元性ドーパントでもよい。ドーパントは、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物中に混合して混合領域を形成し、その領域が電極(陽極2又は陰極5)から正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3cに電荷(正孔又は電子)を移動させるように作用する。
混合するドーパントとしては、酸化性ドーパントが好ましい。正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3cに形成された酸化性ドーパントを有する領域は、電極(陽極2又陰極5)から正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3cへの電荷の移動を容易にすることができる。なお、還元性ドーパントを有する領域も電荷の移動が可能であるが、還元性ドーパントを有する透明保護層4上にスパッタリング法等で透明導電膜等の電極を形成する際に、還元性ドーパントがスパッタガスである酸素と反応する等の影響を受けて電流特性が低下することがある。
酸化性ドーパントとしては、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物を酸化する性質を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常は電子受容性化合物が用いられる。電子受容性化合物としては、無機物及び有機物のいずれも用いることができる。電子受容性化合物が無機物である場合、例えば、塩化第2鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化バナジウム(V)等のルイス酸が挙げられる。また、電子受容性化合物が有機物である場合、例えば、トリニトロフルオレノン等が挙げられる。これらのうち、三酸化モリブデン(MoO)又は五酸化バナジウム(V)等のルイス酸が好適に用いられる。
バイポーラ性電荷輸送用有機化合物中に酸化性ドーパント(電子受容性化合物。以下同じ。)が混合した領域は、電極(陽極2又は陰極5)と正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3cとの界面に少なくとも有していればよく、透明保護層4の厚さ方向の全体に均一の酸化性ドーパント濃度で有していてもよいし、酸化性ドーパント濃度が有機層3(正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3c)側から電極(陽極2又は陰極5)側に向けて連続的に多くなるように傾斜していてもよい。
透明保護層4に含まれる酸化性ドーパント濃度は特に限定されるものではないが、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と酸化性ドーパントとのモル比率が、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物:酸化性ドーパント=1:0.1〜1:10の範囲内であることが好ましい。酸化性ドーパントの比率が上記範囲未満であると、酸化性ドーパントにより酸化されたバイポーラ性電荷輸送用有機化合物の濃度が低すぎて、ドーピングの効果(電荷移動性能を向上させるという効果。以下同じ。)が十分に得られないことがある。また、酸化性ドーパントの比率が上記範囲を超えると、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物中の酸化性ドーパント濃度がバイポーラ性電荷輸送用有機化合物濃度をはるかに超えて含まれていることになるので、酸化性ドーパントで酸化されたバイポーラ性電荷輸送用有機化合物の濃度の絶対量が極端に低い。その結果、酸化性ドーパントが少ない場合と同様、ドーピングの効果が十分に得られない場合がある。
透明保護層4の形成方法としては、発光層等を含む有機層3に影響を及ぼさない方法であれば特に限定されるものではなく、例えば化学的気相成長法、又は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法が挙げられる。中でも、化学的気相成長法と真空蒸着法が好ましい。化学的気相成長法及び真空蒸着法では、気体となった物質のもつ運動エネルギーが低いので、発光層等を含む有機層3に対して与えるエネルギーが小さいからである。
また、透明保護層4の形成方法として、塗布法を用いることもできる。さらに、透明保護層4がフィルム状に成形されている場合は、直接もしくは粘着剤を介して、有機層3上にフィルム状の透明保護層4を積層する(転写する)こともできる。
特に、透明保護層4の形成方法としては、真空蒸着法が好適である。真空蒸着法は上述した利点があるだけではなく、酸素等の反応性を有する気体が導入されないという利点がある。したがって、化学的気相成長法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を用いる場合においても、酸素等の反応性を有する気体を導入せず、希ガス等の反応性のない気体を導入することが好ましい。
真空蒸着法としては、抵抗加熱蒸着法、フラッシュ蒸着法、アーク蒸着法、レーザー蒸着法、高周波加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法等を挙げることができる。中でも、酸化性ドーパントがドープされた透明保護層4の成膜方法としては、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と酸化性ドーパントとを共蒸着させる方法が好ましく用いられる。この共蒸着の手法としては、塩化第2鉄、塩化インジウム等の比較的飽和蒸気圧の低い酸化性ドーパントをるつぼに入れて行う一般的な抵抗加熱法を挙げることができる。
なお、上記した共蒸着において、用いる材料によっては常温でも蒸気圧が高く真空装置内の気圧を所定の真空度以下に保てない場合がある。こうした場合には、ニードルバルブ又はマスフローコントローラーのようにオリフィス(開口径)を制御して蒸気圧を制御したり、試料保持部分を独立に温度制御可能な構造にして冷却によって蒸気圧を制御したりしてもよい。
また、有機層3側から電極(例えば陰極5)側に向けて酸化性ドーパントの含有量が連続的に多くなるように、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物に酸化性ドーパントを混合させる方法としては、例えば、上記のバイポーラ性電荷輸送用有機化合物と酸化性ドーパントとの蒸着速度を連続的に変化させる方法を用いることができる。
また、透明保護層4は透明であり、可視光領域(380nm〜780nm)における平均透過率が10%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上である。これにより、トップエミッション型に適した有機EL素子とすることができる。なお、平均透過率は、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 UV−2200A)を用い、室温、大気中で測定した値とする。
透明保護層4の厚さは、透明保護層4が透過性を有し、電極(陽極2又は陰極5)形成時の衝撃を緩和でき、正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3cへ電荷を輸送する機能が十分に発揮される厚さであれば特に限定されるものではない。具体的には、10nm〜200nm程度の厚さで設定することができ、中でも50nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
以上説明した透明保護層4は、その上に形成される陽極2又は陰極5がスパッタリング法等で形成される無機透明導電膜であり、有機層3(正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3c)を形成した後であって陽極2又は陰極5を形成する前に形成された層であるように構成される。ところで、無機透明導電膜は通常、スパッタリング法等により成膜されるものであり、緻密で比較的高い導電性を持ち、さらに透明性も比較的高いため、発光物質を含む有機層3からの発光を効率的に取り出すことができるが、そうしたスパッタリング法等は有機層3を構成する有機化合物に特性低下を伴うダメージを与え易い成膜方法でもある。この発明は、透明保護層4の形成を、有機層3の形成後であってその有機層3上に無機透明導電膜からなる陽極2又は陰極5を形成する前に行うので、無機透明導電膜を形成するスパッタリング法等により有機層3に特性低下を伴うダメージを与えるのを防ぐことができるという効果がある。この形成手順を有機EL素子の製造方法として構成すれば、陽極2と陰極5との間に発光物質を含む有機層3が挟まれており、且つ陽極2乃至陰極5と有機層3との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層4が設けられている有機EL素子の製造方法であって、陽極2乃至陰極5を無機透明導電膜で形成し、透明保護層4の形成を、有機層3の形成後であって前記無機透明導電膜の形成前に行うように構成することができる。
(導電層)
本発明においては、図2に示すように、有機層3と透明保護層4との間に、導電層6を設けることが好ましい。図5の例では、導電層6は、有機層3を構成する電子注入輸送層3cと透明保護層4との間に設けられている。
導電層6としては、仕事関数の小さい金属層を含むものであるように構成され、単一の金属層であってもよいし、金属層を含む複数の層で構成されているものであってもよい。そうした金属層としては、Al、MgAg、Ag等を挙げることができる。仕事関数の小さい金属層を含む導電層6を、透明保護層4と有機層3との間に設けることにより、透明保護層4によってダメージを極力小さくした有機層3への電荷注入を、電荷移動性能のよい透明保護層4を介して効率的に行うことができる。その結果、電流−電圧特性と発光特性をより優れたものとすることができる。
導電層6のより好ましい形態としては、図3に示すように、第1導電層6aと第2導電層6bとで構成されたもの(以下「導電層6’」と表す。)を挙げることができる。導電層6’を構成する第1導電層6aは、仕事関数の小さい金属層であることが好ましく、第2導電層6bは、元素周期律の1族又は2族に属する元素を少なくとも含む層であることが好ましい。なお、第1導電層6aと第2導電層6bは、第1導電層6aが有機層3側になるように配置されている。
仕事関数の小さい金属層である第1導電層6aは、電荷を有機層3に効率的に注入することができるという効果があり、この第1導電層6a上に設けられた第2導電層6bは、陰極5又は陽極2から、電荷移動性能のよい透明保護層4を介して供給された電荷を、第1導電層6aに効率的に供給することができるという効果がある。その結果、ダメージのない有機層3への電荷注入を、電荷移動性能のよい透明保護層を介して効率的に行うことができ、電流−電圧特性と発光特性をより優れたものとすることができる。
第1導電層6aの構成材料としては、例えば、Al、Cs、Er等、仕事関数の小さい金属が用いられる。中でも、Alが好ましい。一方、第2導電層6bの構成材料としては、例えば、MgAg、AlLi、AlMg、CsTe等、元素周期律の1族又は2族に属する元素を1又は2以上有する金属、合金、化合物等が用いられる。中でも、MgAgが好ましい。
単一層からなる導電層6(図2、図5を参照)の厚さは、有機EL素子全体の透過率を考慮して任意に選択することができるが、通常、0.5nm〜10nm、好ましくは、1nm〜5nmである。導電層6の厚さが0.5nm未満であると、発光開始電圧の高電圧化となることがあり、一方、導電層6の厚さが10nmを超えると、透過率が低下して陰極側からの発光が低下する。より好ましい導電層6の厚さは、1nm〜2nmであり、この範囲内とすることにより電子注入特性を向上させ且つ高透過率を示すという利点がある。
第1導電層6aと第2導電層6bとからなる導電層6’(図3、図6を参照)の厚さも上記同様、特に透明保護層形成膜時にその透明保護層に含まれる酸化性ドーパントによる導電層6’(特に第2導電層6b)へのダメージの影響を考慮して任意に選択することができる。第1導電層6aは海島状になっていることが好ましく、通常その厚さは0.5nm〜5nm、好ましくは、1nm〜2nmである。一方、第2導電層6bは層状であることが好ましく、通常その厚さは2nm〜15nm、好ましくは、5nm〜10nmである。
第1導電層6aの厚さが0.5nm未満であると、第1導電層6aとして成膜された海島状の間隔が広くなり、第2導電層6bが単一の導電層として機能した態様の発光状態と同じになることがあり、第1導電層6aの厚さが10nmを超えると、海島状から層状になり、第1導電層6aの透過率が低下して陰極側からの発光が低下することがある。また、第2導電層6bの厚さが2nm未満であると、海島状になって第1導電層6aが単一の導電層として機能した態様の発光状態と同じになることがあり、第2導電層6bの厚さが15nmを超えると、第2導電層6bの透過率が低下して陰極側からの発光が低下することがある。第1導電層6aの厚さと第2導電層6bの厚さを上記の好ましい厚さの範囲内とすることにより、上記した導電層6と同様の透過率を有し且つ電子注入特性の向上及び透明保護層形成時の酸化性ドーパントの影響を低減させるという利点がある。
上記した導電層6,6’(第1導電層6a、第2導電層6b)は、各種の方法で成膜することができるが、物理蒸着法で形成することが好ましく、特に抵抗加熱蒸着法で形成することが好ましい。導電層6,6’は有機層3上に形成することになるので、抵抗加熱蒸着法での導電層6,6’の形成は、有機層3(正孔注入輸送層3a又は電子注入輸送層3c)に対する成膜時のダメージを減少させることができる。なお、例えば厚さ2nmの導電層が海島状になっているということは、成膜手段においての見積厚さとして2nm相当の厚さを成膜できるように条件設定するが、結果的に海島状になっていることである。
このように、図2,3に示す態様では、有機層3にダメージを与えない形成手段で有機層3上に導電層6,6’が形成され、そしてその導電層6,6’上に透明保護層4が形成され、さらにその透明保護層4上に通常のスパッタリング法統で電極(陽極2又は陰極5)が形成されている。こうした態様とすることにより、有機層3は透明保護層4の作用効果によって電極形成時のダメージを受けず、また、その透明保護層4は、電極からの電荷注入性能と電荷移動性能に優れるので、電極からの電荷を導電層6,6’に良好に供給でき、さらにその導電層6,6’は供給された電荷を有機層3に効率的に供給できる。その結果、電流−電圧特性と発光特性をより優れたものとすることができる。
中でも、第1導電層6aと第2導電層6bとからなる導電層6’を設けたものが特に好ましい特性を有していた(後述の実施例を参照)。
(陰極)
陰極5は、発光物質を含む有機層3に電子を供給するための電極である。図1〜図3で例示する有機EL素子は層を順次積層する方向の側(陰極5側)から光を取り出すトップエミッション型の発光素子であるので、この陰極5は透明性を有している必要がある。
陰極5の構成材料としては、透明性のある導電性材料からなるものであれば特に制限はなく、例えば、In−Sn−O(ITO)、In−Zn−O(IZO)、Zn−O、Zn−O−Al、Zn−Sn−O等の透明導電性酸化物を挙げることができる。これらの中で、ITO又はIZOからなる透明導電膜が特に好ましく用いられる。ITO又はIZOからなる透明導電膜は、導電性と光透過性に優れ、電気抵抗率が低いことから、光の取り出し効率を向上させるとともに、有機層3の駆動電圧を低電圧化することができる。
陰極5の厚さは特に限定されるものではないが、上記透明導電膜を用いた場合の厚さは、通常、10nm〜500nmの範囲であり、特に50nm〜300nmの範囲であることが好ましい。また、その厚さの設定にあたっては光透過率を考慮する必要があり、可視領域380nm〜780nmにおける光透過率が50%以上になるように、好ましくは80%以上になるように厚さを設定することが望ましい。陰極5の厚さが10nm未満であると、導電性が不十分となり、厚さが500nmを超えると、光透過性が不十分となり、また、製造工程中又は製造後において組み込んだ発光表示装置を変形させた時に、有機EL素子を構成する陰極5にクラック等の欠陥が発生し易くなることがある。なお、光透過率は、上記した透明保護層4での平均透過率の測定と同じ方法で得ることができ、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 UV−2200A)を用い、室温、大気中で測定した値とする。
陰極5の形成方法としては、例えば化学的気相成長法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法が挙げられるが、特に融点の高い材料からなる緻密な膜を成膜できる高エネルギーでの成膜手段であるスパッタリング法又はイオンプレーティング法が好ましい。このように、本発明では、有機層3上に透明保護層4が設けられているので、緻密で比較的高い導電性を持ち且つ透明性も比較的高いために発光物質を含む有機層3からの発光を効率的に取り出すことができる透明導電膜を容易に成膜できるスパッタリング法又はイオンプレーティング法を、有機層3へのダメージが問題になることなく適用できる。
(その他の構成)
陰極5を形成した後においては、必要に応じて、例えば封止材を介して透明基材を設けてもよい。その場合の封止材としては、ガラス、フィルム材料を挙げることができる。また、透明基材としては、上記した基材1のうち、特に透明性の高いガラス、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を用いることができる。
以上説明したように、本発明の有機EL素子によれば、透明保護層に含まれる電子受容性化合物がバイポーラ性電荷輸送用有機化合物に及ぼす作用により、透明保護層は高い電荷移動性を有するものとなるので、その透明保護層上に陽極乃至陰極を例えばスパッタリング法等で形成した場合において、雰囲気中の酸素又はターゲットから放出した酸素、さらに、電極形成時に発生するスパッタ粒子、Arイオン又は電離電子等の衝撃によっても、透明保護層は高い電荷移動性を保持することができる。さらに、透明保護層が有機層を覆うように設けられているので、有機層が特性低下を伴うダメージを受けることがない。したがって、有機層は特性低下を伴うダメージを受けず、透明保護層も高い電荷移動性能を保持できるので、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下(電流密度の低下、発光効率の低下、リーク電流の発生等)しない有機EL素子を提供することができる。
さらに、透明保護層を構成する電荷輸送用有機化合物がバイポーラ性を有しているため、正孔と電子のいずれの電荷移動も可能であり、例えば有機層が正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層で構成されている場合に、その正孔注入輸送層と電子注入輸送層のいずれの側の上にも形成することができ、しかも上記のように、電流−電圧特性と発光特性が優れ、発光特性が低下しない有機EL素子を提供することができるので、特性上も製造上も極めて便利である。
[発光表示装置]
本発明の発光表示装置は、上記本発明の有機EL素子を有することに特徴がある。有機EL素子を有するものであれば、以下の形態に限定されるものではなく、現在知られている各種の構成を適用できる。特に、有機EL素子10をアクティブ駆動するための薄膜トランジスタ21を備えた発光表示装置20が好ましい。
図7は、本発明の発光表示装置の一例を示す概略の等価回路図である。本発明の発光表示装置20は、マトリクス状に配置された多数の薄膜トランジスタ21を有し、ゲート電極のゲートバスライン22とソース電極のソースバスライン23が縦横に延びている。各薄膜トランジスタ21のドレイン電極には出力素子24が接続され、この出力素子24は、上記本発明の有機EL素子であり、抵抗とコンデンサ25からなる等価回路で示されている。出力素子24毎の領域は、発光表示装置の画素を構成している。なお、符号26は水平駆動回路であり、符号27は垂直駆動回路である。
薄膜トランジスタ21は、少なくともゲート電極、絶縁層(ゲート絶縁膜を含む)、半導体膜、ソース電極及びドレイン電極から構成されていればよく、構造形態としては、ボトムゲート・トップコンタクト構造、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造、トップゲート・トップコンタクト構造、トップゲート・ボトムコンタクト構造のいずれの構造であってもよい。なお、半導体膜は、有機半導体膜であってもよいし、無機半導体膜であってもよい。
図8は、本発明の発光表示装置の一例を示す模式的な断面図である。具体的には、ボトムゲート・トップコンタクト構造の薄膜トランジスタ21を、有機EL素子10のアクティブ駆動素子として用いた発光表示装置20の一例を示している。図8に示す発光表示装置20は、基材1上に、有機EL素子10と、有機EL素子10をアクティブ駆動する薄膜トランジスタ21とを備えている。図8の薄膜トランジスタ21は、ゲート電極31と、ゲート絶縁膜32と、半導体膜33と、ソース電極34と、ドレイン電極35と、保護膜36とを有するボトムゲート・トップコンタクト型の薄膜トランジスタである。有機EL素子10は、基材1側から、陽極2、発光材料を有する有機層3、導電層6、透明保護層4、陰極5の順で積層されている。有機EL素子10の陽極2は、薄膜トランジスタ21のドレイン電極35に接続され、ドレイン電極35からのアクティブ信号によって有機EL素子10の有機層3が発光するように構成されている。この例は、本発明の発光表示装置の一例を示すものであり、これ以外にも各種の形態に変形可能である。
以上、本発明の発光表示装置20によれば、アクティブ駆動素子である薄膜トランジスタ21を有する場合であっても有しない場合であっても、電流−電圧特性と発光特性の優れた有機EL素子を用いた効率のよい発光表示装置を提供することができる。
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明の有機EL素子を更に具体的に説明する。
(実施例1)
まず、ガラス基板からなる透明基材1上に、厚さ150nmのITOからなる陽極2が2mm幅のライン状にパターニングされてなるITO基板を準備した。そのITO基板上に、上記化学式5で表されるTBADNと酸化性ドーパントであるMoOとが重量比67:33になるように、真空度10−5Paの条件下、1.5Å/secの蒸着速度で共蒸着して、膜厚10nmの正孔注入層を形成した。
次に、上記正孔注入層上に、上記と同じ化学式5のTBADNを、真空度10−5Paの条件下、1.0Å/secの蒸着速度で真空蒸着して、膜厚10nmの正孔輸送層を形成した。こうした正孔注入層と正孔輸送層との積層体は、陽極側に酸化性ドーパントの混合領域(正孔注入層)を有する正孔注入輸送層3aということができる。
次に、上記正孔輸送層上に、ホスト材料である上記化学式6で表されるTCTAと、発光中心となる発光ドーパントである下記化学式8で表されるルブレンとを、ルブレン濃度が1重量%となるように、真空度10−5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで真空蒸着して、膜厚70nmの発光層3bを形成した。
Figure 2011071392
次に、上記発光層上に、上記化学式5で表されるTBADNを、真空度10−5Paの条件下、蒸着速度が1Å/secで真空蒸着して、膜厚20nmの電子輸送層を形成した。
次に、上記電子輸送層上に、上記化学式5で表されるTBADNと、下記化学式9で表される還元性ドーパントのLiqとを、両者の重量比が1:1となるように、真空度10−5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで共蒸着して、膜厚12nmの電子注入層を形成した。こうした電子輸送層と電子注入層との積層体は、陰極側に還元性ドーパントの混合領域(電子注入層)を有する電子注入輸送層3cということができ(以下、ここでの「電子注入層」を言うときは、上記電子輸送層と合わせて「電子注入輸送層3c」という。)、また、上記正孔注入層から電子注入層(電子注入輸送層3c)までを有機層3ということができる。
Figure 2011071392
次に、上記電子注入輸送層3c上に、上記化学式5で表されるTBADNと酸化性ドーパントであるMoOとを両者の重量比が80:20となるように、真空度10−5Paの条件下、1.5Å/secの蒸着速度で共蒸着して、膜厚100nmの透明保護層4を形成した。
最後に、上記透明保護層上に、IZOからなる透明導電膜を対向ターゲット式スパッタリング法により成膜し、膜厚150nmの陰極5を形成した。こうして実施例1の有機EL素子を作製した。
(比較例1)
実施例1の有機EL素子において、透明保護層4を形成しない、すなわち透明保護層4を形成せずに電子注入層上に陰極を形成した他は、実施例1と同様にして比較例1の素子を作製した。
(評価:実施例1と比較例1)
得られた有機EL素子の両電極(陽極と陰極)間に15Vの直流電圧を印加したところ、実施例1の有機EL素子はルブレン由来の黄色発光したが、比較例1の素子は発光しなかった。
実施例1の有機EL素子が発光する理由は以下のように考えられる。すなわち、透明保護層4はバイポーラ性電荷輸送用有機化合物(TBADN)と電子受容性の金属酸化物(MoO)との混合層であるため、電子注入輸送層3cと陰極5との界面は、電荷発生部位として又はキャリア密度の大きい擬似電極部位として作用すると考えられる。その界面が電子注入部位として作用する場合には、電圧印加時に透明保護層4中の電荷が陰極方向と陽極方向(電子注入輸送層3c方向)の両方に移動し、その結果、電子注入輸送層3cを介して発光層3bに電荷が移動し、発光層3bでの発光が観測されたものと推察される。一方、その界面が擬似電極部位として作用する場合には、その界面で電荷が移動し易いため、陰極5から注入された電荷(電子)はその界面を経由して電子注入輸送層3cに移動し、発光層3bでの発光が観測されたものと推察される。
一方、比較例1の素子が発光しない理由は、電子注入輸送層上にIZOからなる透明導電膜を、ダメージレスで成膜可能とされている対向ターゲット式スパッタリング法による成膜においても、そのスパッタリングによるダメージにより電子注入層として機能しない状態に変化したためであると考えられる。
図9は、実施例1の有機EL素子と比較例1の素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。発光現象を示す実施例1の電流値よりも発光現象を示さない比較例1の電流値が高い理由は、比較例1の素子では陰極形成時に有機層3(正孔注入輸送層3a、発光層3b、電子注入輸送層3cのうち、特に電子注入輸送層)にダメージが加わって正孔輸送層と電子輸送層間でキャリアの突き抜けを生じやすい状態となり、その結果、電圧の印加と共にリーク電流が発生しやすい状態になったと考えられるため、図9に示すように、電流値が高い結果が得られていると考えられる。
(実施例2)
実施例1の有機EL素子において、電子注入輸送層3cと透明保護層4との間にAl(厚さ2nm)からなる導電層6を真空度10−5Paの条件下、蒸着速度0.5Å/secで形成した以外は、実施例1と同様にして実施例2の有機EL素子を作製した。なお、走査型電子顕微鏡で観察した結果、厚さ2nmのAlは海島状に形成されていた。
(比較例2)
比較例1の有機EL素子において、電子注入輸送層3cと陰極5との間にAl(厚さ2nm)からなる導電層6を真空度10−5Paの条件下、蒸着速度0.5Å/secで形成した以外は、比較例1と同様にして比較例2の有機EL素子を作製した。
(評価:実施例2と比較例2)
図10は、実施例2と比較例2の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。このとき、実施例2の有機EL素子は、実施例1の有機EL素子に比べて電流特性の顕著な向上が見られ、また、実施例1の有機EL素子と同様に発光した。一方、比較例2の有機EL素子は、比較例1の素子に比べてリーク電流が抑制され、比較例1の素子とは異なり発光した。これは、導電層6により陰極形成時の有機層3へのダメージが低減したためであるが、実施例2の有機EL素子のように透明保護層4がないため同等の電流特性を示さなかった。
実施例2の有機EL素子は実施例1の有機EL素子よりも著しく高い電流値を示したが、その理由は、電子注入輸送層3cと透明保護層4との間に導電層6を設けたためと言うことができる。実施例2の有機EL素子も実施例1と同様、透明保護層4を設けたことによって陰極形成時に有機層3に加わるダメージを防ぐことができると共に、導電層6を設けたことにより、実施例1に比べて電子注入輸送層3c内への電子注入特性が向上したためであると考えられる。こうした電子注入特性の向上は、導電層6が電子注入輸送層3cへの電荷移動を補助する錯体を形成したため、あるいはエネルギー準位を形成したためであろう。
(実施例3)
実施例1の有機EL素子において、電子注入輸送層3cと透明保護層4の間に、電子注入輸送層3c側からAl(厚さ2nm)からなる第1導電層6aを真空度10−5Paの条件下、蒸着速度0.5Å/secで形成し、さらにその第1導電層6a上にMgAg(厚さ5nm)からなる第2導電層6bを真空度10−5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで形成してなる導電層6’を設けた以外は、実施例1と同様にして実施例3の有機EL素子を作製した。
(比較例3)
比較例1の素子において、電子注入輸送層3cと透明保護層4の間に、電子注入輸送層3c側からAl(厚さ2nm)からなる第1導電層6aを真空度10−5Paの条件下、蒸着速度0.5Å/secで形成し、さらにその第1導電層6a上にMgAg(厚さ5nm)からなる第2導電層6bを真空度10−5Paの条件下、蒸着速度1Å/secで形成してなる導電層6’を設けた以外は、比較例1と同様にして比較例3の有機EL素子を作製した。
(評価:実施例3と比較例3)
図11は、実施例3と比較例3の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。このとき、実施例3の有機EL素子は実施例2の有機EL素子に比べて電流特性の顕著な向上が見られ、また、実施例1の有機EL素子と同様に発光した。比較例3の有機EL素子においても比較例2の有機EL素子に比べて電流特性が顕著に向上し、比較例2の有機EL素子と同様に発光が見られた。これは、導電層6bにより陰極形成時の有機層3へのダメージが更に低減したためである。また、図12は、実施例1〜3の有機EL素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフであり、図13は、実施例1〜3の有機EL素子それぞれの輝度−電圧特性を示すグラフである。
実施例3の有機EL素子は実施例2の有機EL素子よりも著しく高い電流値を示し、さらに著しく高い輝度を示したが、その理由は、電子注入輸送層3cと透明保護層4との間に導電層6’を設けたためと言うことができる。実施例3の有機EL素子も実施例1,2と同様、透明保護層4を設けたことによって陰極形成時に有機層3に加わるダメージを防ぐことができると共に、実施例1,2とは異なり、第1導電層6aと第2導電層6bとからなる導電層6’を設けたことにより、実施例1,2に比べて電子注入輸送層3c内への電子注入特性が極めて向上したためであると考えられる。こうした電子注入特性の顕著な向上は、導電層6’が、実施例2の場合よりも電子注入輸送層3cへの電荷移動を補助する効果がより大きくなったためであろう。
(実施例4)
実施例1の有機EL素子において、透明保護層4を形成する酸化性ドーパントであるMoOに代えてV(他の成膜条件は同じ)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の有機EL素子を作製した。
(評価:実施例4)
実施例4の場合も実施例1と同様、電子注入輸送層3cへの電荷の移動を確認した。実施例1の場合と同様、実施例4の透明保護層4もバイポーラ性有機化合物と電子受容性金属酸化物との混合層であるため、その透明保護層4は電荷発生機能と擬似電極機能を有しているものと考えられる。
(実施例5)
実施例1の有機EL素子において、透明保護層4を形成するバイポーラ性電荷輸送用有機化合物である上記化学式5のTBADNに代えて上記化学式1のCBP(他の成膜条件は同じ)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の有機EL素子を作製した。
(評価:実施例5と比較例1)
実施例5の場合も実施例1と同様、電子注入輸送層3cへの電荷の移動を確認した。実施例1の場合と同様、実施例5の透明保護層4もバイポーラ性有機化合物と電子受容性金属酸化物との混合層であるため、その透明保護層4は電荷発生機能と擬似電極機能を有しているものと考えられる。図14は、実施例5の有機EL素子と比較例1の素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。図14より、実施例5は実施例1と同様に比較例1に比べ電流値は低い。これは、陰極形成時の有機層3(正孔注入輸送層3a、発光層3b、電子注入輸送層3cのうち、特に電子注入輸送層3c)へのダメージが抑制されていることを示し、実施例1と同様の透明保護層が形成されていると考えられる。
(実施例6)
実施例1の有機EL素子において、透明保護層4を形成するバイポーラ性電荷輸送用有機化合物である上記化学式5のTBADNに代えて上記化学式7のDBzA(他の成膜条件は同じ)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の有機EL素子を作製した。
(評価:実施例6)
実施例6の場合も実施例1と同様、電子注入輸送層3cへの電荷の移動を確認した。実施例1の場合と同様、実施例6の透明保護層4もバイポーラ性有機化合物と電子受容性金属酸化物との混合層であるため、その透明保護層4は電荷発生機能と擬似電極機能を有しているものと考えられる。図15は、実施例6の有機EL素子と比較例1の素子それぞれの電流−電圧特性を示すグラフである。図15より、実施例6は実施例1と同様に比較例1に比べ電流値は低い。これは、陰極形成時の有機層3(正孔注入輸送層3a、発光層3b、電子注入輸送層3cのうち、特に電子注入輸送層3c)へのダメージが抑制されていることを示し、実施例1と同様の透明保護層が形成されていると考えられる。
(実施例7)
実施例3の有機EL素子を用いて発光表示装置を作製した。発光表示装置は、まず、薄膜トランジスタが形成され、且つ配線層(陽極)として金属膜がパターニングされたTFT基板を準備した。そのTFT基板の配線層上に、実施例3を構成する正孔注入輸送層3aから陰極5までを順に形成して、実施例7の発光表示装置を作製した。
(評価:実施例7)
図16は、実施例7の発光表示装置の電流密度−電圧特性を、実施例3の有機EL素子の電流密度−電圧特性と併せて示すグラフである。実施例5の発光表示装置は、図16の電流密度−電圧特性からも確認されるように、良好な特性を示し、ルブレン由来の黄色の発光が観測された。また、図16より、実施例7の発光表示装置で観測された電流密度−電圧特性は、実施例3の有機EL素子と同等であり、透明保護層を有することで陰極(スパッタリング法により形成した透明導電膜)形成時のダメージによる電流特性の劣化を抑制していることがわかる。
1 基材
2 陽極
3 有機層
3a 正孔注入輸送層
3b 発光層
3c 電子注入輸送層
4 透明保護層
5 陰極
6,6’ 導電層
6a 第1導電層
6b 第2導電層
10,10A,10B,10C 有機EL素子
20,20A,20B 発光表示装置
21 薄膜トランジスタ
22 ゲートバスライン
23 ソースバスライン
24 有機EL素子(発光材料を含む有機層)
25 コンデンサ
26 水平駆動回路
27 垂直駆動回路
31 ゲート電極
32 ゲート絶縁膜
33 半導体膜
34 ソース電極
35 ドレイン電極
36 保護膜

Claims (9)

  1. 陽極と陰極との間に発光物質を含む有機層が挟まれた有機エレクトロルミネッセンス素子において、
    前記陽極乃至陰極と前記有機層との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層が設けられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
  2. 前記電子受容性化合物が、三酸化モリブデン又は五酸化バナジウムである、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  3. 導電層が、仕事関数の小さい金属層を含み、前記透明保護層と前記有機層との間に設けられている、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  4. 前記導電層が、仕事関数の小さい金属層である第1導電層と、元素周期律の1族又は2族に属する元素を少なくとも含む第2導電層とからなり、
    前記第1導電層が前記有機層の側になるように構成されている、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  5. 前記第1導電層が、海島状のアルミニウム薄膜であり、前記第2金属層が、層状のMgAg薄膜である、請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  6. 前記バイポーラ性電荷輸送用有機化合物が、CBP、spiro−CBP、CzTT、m−CP、TBADN、及びこれらの誘導体から選ばれるいずれか1種又は2種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を有する、発光表示装置。
  8. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子と、該有機エレクトロルミネッセンス素子をアクティブ駆動する薄膜トランジスタとを有する、発光表示装置。
  9. 陽極と陰極との間に発光物質を含む有機層が挟まれており、且つ該陽極乃至陰極と該有機層との間に、バイポーラ性電荷輸送用有機化合物と電子受容性化合物とを含む透明保護層が設けられている有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
    前記陽極乃至陰極を無機透明導電膜で形成し、
    前記透明保護層の形成を、前記有機層の形成後であって前記無機透明導電膜の形成前に行うことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
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