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JP2010100583A - 脂質代謝改善剤 - Google Patents

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JP2010100583A JP2008274969A JP2008274969A JP2010100583A JP 2010100583 A JP2010100583 A JP 2010100583A JP 2008274969 A JP2008274969 A JP 2008274969A JP 2008274969 A JP2008274969 A JP 2008274969A JP 2010100583 A JP2010100583 A JP 2010100583A
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Abstract

【課題】 長期間摂取しても安全な脂質代謝改善剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 グルコースを構成糖とするα−グルカンであって、メチル化分析において、下記の特徴を有する分岐α−グルカン:
(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;
ことを特徴とする分岐α−グルカンを含有する脂質代謝改善剤を提供することによって上記課題を解決する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、分岐α−グルカンを有効成分とする脂質代謝改善剤に関し、詳細には、グルコースを構成糖とするα−グルカンであって、メチル化分析において、
(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;
ことを特徴とする分岐α−グルカン、及び、マルトース及びグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し、α−グルコシル転移することによって、当該分岐α−グルカンを生成する分岐α−グルカンを含んでなる脂質代謝改善剤に関する。
近年、食生活や生活習慣の洋風化に伴い、高カロリー、高脂肪食を摂取する機会が増えて、高脂血症、さらには、肥満乃至標準体重を超過した過体重のヒトが増加している。肥満や過体重に加えて、高血圧や高脂血症などの生活習慣病の因子を有する場合は、メタボリックシンドロームと呼ばれ、その状態が継続すると、心筋梗塞、脳卒中、II型糖尿病などの心血管性疾患を発症するリスクが増大するといわれており、これらを回避するためにも、脂質代謝をコントロールすることは、ますます重要になってきている。脂質代謝を改善して、体重の超過を抑制及び/又は予防するために一般に栄養士によって提唱されている方法としては、低カロリーまたは低脂肪養生法が知られている。また、脂質代謝改善に訴求した食品も市販されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、低カロリー食は風味が単調であるために長期間経つとその人によって拒絶される場合がある。また、健康補助食品にあっても、その味質や食感などに問題があり、これらを長期間継続することはできない場合などには、そのリバウンドがおこり、これらの療法を開始前するよりも脂質代謝が増悪する結果となったり、健康に障害がでる場合すら認められる。
近年、高脂血症やメタボリックシンドロームの予防乃至改善用の食品素材として、食物繊維が注目されている。食物繊維とは、本来、動物が消化し難いセルロース、リグニン、ヘミセルロース、ペクチンなど植物細胞成分を意味するものの、広義には、アミラーゼで消化されない難消化性の水溶性多糖類も含まれ、これらは水溶性食物繊維と呼ばれている。近年、食物繊維は、その本来の機能としての整腸作用、血中コレステロール低下作用、血糖調節作用などに加えて、腸内フローラを改善するプレバイオティクスとしての機能も注目されつつある。しかしながら、食物繊維はカルシウムと並んで日本人の食生活で不足している栄養素と言われており、現在の日本人の平均的な食物繊維摂取量は、平成6年に出された第5次改定「日本人の栄養所要量」において示された食物繊維の目標摂取量20〜25g/日に対し、目標の5〜8割にしか達していないことが指摘されている(例えば、非特許文献1などを参照)。このような状況下、各種飲食物の原料として利用でき、且つ、水溶性食物繊維として有用な難消化性の多糖類が種々提案されている。
例えば、水溶性食物繊維として、難消化澱粉(湿熱処理ハイアミロースコーンスターチ)、グァーガム分解物、グルコマンナン、低分子アルギン酸など、自然界に存在する多糖を原料とするものが市場に流通している。しかしながら、これらはいずれも粘性が高く、食品に添加した場合、風味・食感を損なうなどの欠点を有することから、その利用は一部に限定されている。一方、低粘度の水溶性食物繊維として、ポリデキストロース(米国ファイザー社が開発)や難消化性デキストリンが食品分野で広く利用されている。ポリデキストロースは、グルコースとソルビトール及びクエン酸を高真空下で加熱し、化学的な反応により重合させて得られる合成多糖であり、グルコースが1,2、1,3、1,4、1,6、1,2,6、1,4,6位などでグルコシド結合した複雑な分岐を有することが知られている。また、難消化性デキストリンは、化学的な反応により澱粉を分解すると同時に転移や逆合成反応を起こさせ、澱粉が本来有さない、1,2、1,3、1,2,4、1,3,4の各グルコシド結合を導入することにより消化性を低減させた合成多糖である。この難消化性デキストリンは、澱粉に少量の塩酸を添加し、粉末の状態で加熱して得た焙焼デキストリンを水に溶解し、α−アミラーゼを添加して加水分解して得られた低粘度溶液を精製し、濃縮、噴霧乾燥して製造されている。難消化性デキストリンには、さらに消化性を低減させる目的で、グルコアミラーゼを添加して可消化部分をグルコースにまで分解し、グルコースを分離除去して同様に精製、噴霧乾燥して製造した製品もある。これらポリデキストロースや難消化性デキストリンに導入された新たなグルコシド結合はα−及びβ−の両アノマー型が共に含まれ、さらに還元末端グルコース残基は部分的に1,6−アンヒドロ−グルコースに変化していると言われている(例えば、非特許文献2などを参照)。しかしながら、難消化性デキストリンは、原料澱粉からの収率が低く、加えて、着色し易く、工業生産する上で大きな欠点となっている。また、ポリデキストロースや難消化性デキストリンも、これら単独では、十分な脂質代謝改善効果が得られない場合もある。
グルカンにおけるグルコースの結合様式であるグルコシド結合(以下、本明細書では「グルコシド結合」を単に「結合」と略称する。)の内、α−1,6結合はα−1,4結合に比べてアミラーゼで分解され難いことから、α−1,6結合を多く含むグルカンにも水溶性食物繊維としての用途が期待できる。例えば、乳酸菌に属するロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来のデキストランスクラーゼ(EC 2.4.1.5)によりスクロースを原料として製造されるデキストランは、グルコースが主にα−1,6結合で重合したグルカンであって、α−1,2結合及びα−1,3結合の分岐を有する場合もある。ロイコノストック・メセンテロイデス B−512F株由来のデキストランスクラーゼを用いた場合、得られるデキストランにおける結合のα−1,6結合の含量は90%以上にもなり、難消化性であることが期待される。しかしながら、デキストランは、スクロースからの収率が低く、また、粘性が高いため精製操作が煩雑で、コスト高になることから、水溶性食物繊維として利用しようとする試みはほとんど行われていない。
また、安価な澱粉にアミラーゼを作用させ、主としてα−1,4結合を分解することによりα−1,6結合の含量を高めて水溶性食物繊維を調製しようとする試みも為されている。特許文献2には、澱粉液化液に、α−アミラーゼとβ−アミラーゼの混合物を作用させた後、残存するデキストリン部を回収することにより、α−1,4結合に対するα−1,6結合の割合を10〜20%に高めた分岐デキストリンを調製する方法が提案されている。しかしながら、この分岐デキストリンは、澱粉が本来持つ分岐(α−1,6結合)を保持しつつ、グルコースがα−1,4結合で連なった直鎖部分を取り除くことでα−1,6結合の割合を高めるという方法で製造されるため、原料澱粉からの収率が低く、また、大幅な消化性の低減が期待できないなどの課題がある。また、澱粉部分分解物(デキストリン)に作用しα−1,6結合を導入する酵素として、デキストリンデキストラナーゼ(EC 2.1.1.2)が知られている(例えば、非特許文献3を参照)。デキストリンデキストラナーゼは、澱粉部分分解物に作用し、主としてα−1,6グルコシル転移反応を触媒することにより、デキストラン構造(グルコースがα−1,6結合で連なった構造)を生成する酵素であるものの、従来から知られている、酢酸菌に属するアセトバクター・カプスラタム(Acetobacter capsulatum)由来のデキストリンデキストラナーゼは、α−1,6結合の導入割合が少ない(例えば、非特許文献4などを参照)こと、また、酵素自体の安定性が低いことなどの問題点があり、現実に使用されるに至っていない。このような状況下、従来の難消化性グルカンの持つ上記のごとき物性的な問題を解決でき、且つ、脂質代謝改善作用に優れた新規難消化性グルカン(食物繊維)を含有する脂質代謝改善剤の提供が強く望まれている。
特開2004−315379号公報 特開2001−11101号公報 『食物繊維の市場動向を探る』、「食品と開発」、第34巻、第2号、第24乃至27頁(1999年) 『低分子水溶性食物繊維』、食品成分シリーズ「食物繊維の科学」、第116頁乃至131頁、朝倉書店(1997年) 山本一也ら、『バイオサイエンス・バイオテクノロジー・バイオケミストリー』、第56巻、(1992年)、第169頁乃至173頁 鈴木雅之ら、「ジャーナル・オブ・アプライド・グリコサイエンス(Journal of Applied Glycoscience)」、第48巻、第2号、第143頁乃至151頁(2001年)
本発明は、長期間摂取しても安全な、食物繊維を含有する脂質代謝改善剤を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンを原料(基質)とし、分岐(本明細書において、「分岐」とは、グルカンにおけるグルコースの結合様式の内、α−1,4結合以外のグルコースの結合様式を意味する)を比較的多く有する分岐α−グルカンを広く探索した。その結果、土壌から単離した微生物、PP710株及びPP349株が産生する新規なα−グルコシル転移酵素を、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンに作用させたときに生成する下記に示す特徴を有するα−1,4、α−1,6、α−1,3、α−1,4,6及びα−1,3,6結合を有する分岐α−グルカンが、原料α−1,4グルカンに比べて、α−1,6結合の割合が大幅に増加しており、且つ、α−1,3及びα−1,3,6結合を有し、顕著な難消化性を示す水溶性食物繊維であり、これを配合した組成物が、脂質代謝改善剤として有用であることを見出した。さらに、当該分岐α−グルカンは、意外にも、固状の組成物の形態で摂取するよりも液状の組成物の形態で摂取する方が、分岐α−グルカンの配合割合を少なくしても、その生理機能を効果的に発揮できることを見出して本発明を完成した。
当該分岐α−グルカンの特徴:
メチル化分析において、
(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である。
すなわち、本発明は、グルコースを構成糖とするα−グルカンであって、メチル化分析において、
(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;
ことを特徴とする分岐α−グルカンを配合した脂質代謝改善剤、とりわけ、液液の形態の脂質代謝改善剤を提供することによって上記課題を解決するものである。
本発明によれば、脂質代謝を効果的に改善することができるので、血中インスリンの上昇、血中脂質の増加、内臓脂肪の蓄積などを効果的に抑制乃至予防することができる。また、本発明の脂質代謝改善剤は、長期間摂取しても副作用の心配がなく安心して使用することができる。
本発明で言うグルカンとは、グルコースを構成糖とするグルコース重合度3以上のオリゴ糖ないしは多糖を意味する。本発明で使用する分岐α−グルカンは、グルコースを構成糖とするα−グルカンであって、メチル化分析において、
(1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
(2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
(3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
(4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である;
ことを特徴とする。
本発明でいうメチル化分析とは、多糖又はオリゴ糖においてこれを構成する単糖の結合様式を決定する方法として一般的に知られている方法である。メチル化分析をグルカンにおけるグルコースの結合様式の分析に用いる場合、まず、グルカンを構成するグルコース残基における全ての遊離の水酸基をメチル化し、次いで、完全メチル化したグルカンを加水分解する。次いで、加水分解により得られたメチル化グルコースを還元してアノマー型を消去したメチル化グルシトールとし、さらに、このメチル化グルシトールにおける遊離の水酸基をアセチル化することにより部分メチル化グルシトールアセテート(以下、本明細書では、「部分メチル化グルシトールアセテート」におけるアセチル化された部位と「グルシトールアセテート」の表記を省略して、「部分メチル化物」と略称する場合がある。)を得る。得られる部分メチル化物を、ガスクロマトグラフィーで分析することにより、グルカンにおいて結合様式がそれぞれ異なるグルコース残基に由来する各種部分メチル化物は、ガスクロマトグラムにおける全ての部分メチル化物のピーク面積に占めるピーク面積の百分率(%)で表すことができる。そして、このピーク面積%から当該グルカンにおける結合様式の異なるグルコース残基の存在比、すなわち、各グルコシド結合の存在比率を決定することができる。本願明細書においては、部分メチル化物についての「比」は、メチル化分析のガスクロマトグラムにおけるピーク面積の比を意味し、部分メチル化物についての「%」はメチル化分析のガスクロマトグラムにおける「面積%」を意味するものとする。
上述した(1)における、2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトール(以下、「2,3,6−トリメチル化物」と略称する)とはC−4位が1,4結合にあずかるグルコース残基を意味し、2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトール(以下、「2,3,4−トリメチル化物」と略称する)はC−6位が1,6結合にあずかるグルコース残基を意味する。そして、「2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の比が1:0.6乃至1:4の範囲にある」とは、すなわちメチル化分析における部分メチル化グルシトールアセテートのガスクロマトグラムにおいて、本発明で使用する分岐α−グルカンは、C−1位以外にC−4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC−1位以外にC−6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計に対するC−1位以外にC−6位のみが結合にあずかるグルコース残基の割合が37.5乃至80.0%の範囲を示すことを意味する。
上述した(2)における、「2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物との合計が部分メチル化物の60%以上を占める」とは、本発明で使用する分岐α−グルカンは、C−1位以外にC−4位のみが結合にあずかるグルコース残基とC−1位以外にC−6位のみが結合にあずかるグルコース残基の合計がグルカンを構成する全グルコース残基の60%以上を占めることを意味する。
同様に、上述した(3)における、「2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトール」(以下、「2,4,6−トリメチル化物」と略称する)とは、C−3位が1,3結合にあずかるグルコース残基を意味し、「2,4,6−トリメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上10%未満である」とは、本発明で使用する分岐α−グルカンは、C−1位以外にC−3位のみが結合にあずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上10%未満存在することを意味する。
さらに同様に、上述した(4)における「2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトール」(以下、「2,4−ジメチル化物と略称する」)とは、C−3位及びC−6位の両方がそれぞれ1,3結合と1,6結合にあずかるグルコース残基を意味し、「2,4−ジメチル化物が部分メチル化物の0.5%以上である」とは、本発明で使用する分岐α−グルカンは、C−1位以外にC−3位とC−6位が結合にあずかるグルコース残基がグルカンを構成する全グルコース残基の0.5%以上存在することを意味する。
上記の(1)乃至(4)の条件を全て充足する本発明で使用する分岐α−グルカンは、これまで知られていない新規なグルカンである。本発明で使用する分岐α−グルカンは、メチル化分析において、上記(1)乃至(4)の条件を充足する限り、グルコース残基の結合順序は特に限定されない。
本発明で使用する分岐α−グルカンは、通常、様々なグルコース重合度を有する分岐α−グルカンの混合物の形態にあり、そのグルコース重合度は、通常、10以上である。また、本発明で使用する分岐α−グルカンにおいて、その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)は、通常、20未満である。
さらに、本発明で使用する分岐α−グルカンは、グルカンにおけるイソマルトース構造の還元末端側に隣接するα−1,2、α−1,3、α−1,4及びα−1,6結合のいずれの結合であっても加水分解する特徴を有するイソマルトデキストラナーゼ(EC 3.2.1.94)を作用させると、消化物の固形物当たりイソマルトースを、通常、25質量%以上50質量%以下生成する。
また、本発明で使用する分岐α−グルカンは、平成8年5月厚生省告示第146号の栄養表示基準、「栄養成分等の分析方法等(栄養表示基準別表第1の第3欄に掲げる方法)」における第8項、「食物繊維」に記載された、「高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)」に準じて水溶性食物繊維含量を求めると、水溶性食物繊維を、通常、40質量%以上含有する。上記高速液体クロマトグラフ法(以下、本明細書では「酵素−HPLC法」と略称する)の概略を説明するならば、試料を熱安定α−アミラーゼ、プロテアーゼ及びアミログルコシダーゼ(グルコアミラーゼ)による一連の酵素処理により分解処理し、イオン交換樹脂により処理液から蛋白質、有機酸、無機塩類を除去することにより高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用の試料溶液を調製する。次いで、ゲル濾過HPLCに供し、クロマトグラムにおける、未消化グルカンとグルコースのピーク面積を求め、それぞれのピーク面積と、別途、常法のグルコース・オキシダーゼ法により求めておいた試料溶液中のグルコース量を用いて、試料の水溶性食物繊維含量を算出する方法である。本法の詳細については後述の実験の項で説明する。
本発明で使用する分岐α−グルカンは、後述する実験19−2乃至19−4に示すように、経口摂取しても唾液α−アミラーゼ、膵液α−アミラーゼや小腸粘膜酵素(小腸粘膜α−グルコシダーゼ)による分解を受け難いことから、消化吸収されにくく、血糖を急激に上昇させたり、インスリンの分泌を刺激することの少ない、低カロリーの水溶性食物繊維として利用することができる。また、当該分岐α−グルカンは、口腔内の微生物によって、酸発酵を起こし難く、スクロースと併用した場合にも歯垢の原因となる不溶性デキストランの生成を抑制する作用を有しているので、低う蝕性又は抗う蝕性糖質としても有利に利用できる。さらに、実験15−5に示すように、当該分岐α−グルカンは、マウスを用いた急性毒性試験において、何ら毒性を示さないグルカンである。
さらに、当該分岐α−グルカンは、後述する実験20及び21に示すように、通常の澱粉質とともに摂取すると、澱粉質のみを摂取した場合に比べ、血糖値やインスリンの上昇を抑制する生理作用を有していることから、血糖上昇抑制剤として使用することもできる。
またさらに、上記生理作用に加えて、当該分岐α−グルカンは、後述する実験22に示すように、摂取することにより、血中の中性脂肪やコレステロールの上昇を抑制する作用を有していることから、脂質代謝改善剤として使用することができる。さらに、当該分岐α−グルカンは、内臓脂肪の蓄積を抑制する作用を有していることから、内臓脂肪蓄積抑制剤、さらには、腹囲の増加抑制剤、メタボリツクシンドロームの予防剤乃至治療剤としても有利に利用できる。
当該分岐α−グルカンを脂質代謝改善剤の有効成分として用いる場合、分岐α−グルカンは、水溶性食物繊維含量が高いものほど作用効果に優れていることから、水溶性食物繊維として、通常、40質量%以上、望ましくは、50質量%以上、さらに望ましくは、60質量%以上含有するものが好適に利用できる。
本発明で使用する分岐α−グルカンの調製に使用するα−グルコシル転移酵素とは、マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し、実質的に加水分解することなくα−グルコシル転移を触媒することにより、本発明で使用する分岐α−グルカンを生成する酵素を意味する。当該α−グルコシル転移酵素は、加水分解活性が弱い点、低濃度から高濃度まで基質溶液の濃度に依存せず効率の良い転移活性を有する点、及び、α−1,3及びα−1,3,6結合をも生成する点で、従来公知の真菌由来α−グルコシダーゼや酢酸菌由来デキストリンデキストラナーゼとは異なる酵素である。
α−グルコシル転移酵素の酵素活性は、次のようにして測定することができる。マルトースを最終濃度1w/v%となるように20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解させて基質液とし、その基質液5mlに、酵素液0.5mlを加え40℃で30分間酵素反応させ、その反応液0.5mlと5mlの20mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを混合し、沸騰水浴中で10分間加熱することにより反応停止させた後、反応液中のグルコース量を、常法に従ってグルコース・オキシダーゼ法で測定し、反応によって生成したグルコース量を算出する。α−グルコシル転移酵素の活性1単位は、上記の条件下で1分間に1μモルのグルコースを生成する酵素量と定義する。
本発明で使用するα−グルコシル転移酵素の1つの具体例としては、例えば、下記の理化学的性質を有するα−グルコシル転移酵素が挙げられる。
(1)分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、90,000±10,000ダルトン;
(2)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、50乃至55℃;
(3)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で5.0乃至6.3;
(4)温度安定性
pH6.0、60分間保持の条件下で40℃まで安定;及び
(5)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下でpH3.5乃至8.4の範囲で安定;
また、このα−グルコシル転移酵素の別の具体例としては、下記の理化学的性質を有するα−グルコシル転移酵素が挙げられる。
(1)分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、90,000±10,000ダルトン;
(2)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、約50℃;
(3)至適pH
40℃、30分間反応の条件下で約6.0;
(4)温度安定性
pH6.0、60分間保持の条件下で40℃まで安定;及び
(5)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下でpH4.0乃至8.0の範囲で安定;
これらのα−グルコシル転移酵素はその給源によって制限されないものの、好ましい給源として微生物が挙げられ、とりわけ、本発明者らが土壌より単離した微生物PP710株又はPP349株が好適に用いられる。以下、本発明で使用するα−グルコシル転移酵素の産生能を有する微生物PP710株及びPP349株の同定試験において判明した菌学的諸性質を表1及び2にそれぞれ示す。なお、同定試験は、『微生物の分類と同定』(長谷川武治編、学会出版センター、1985年)に準じて行った。
以上の菌学的性質に基づき、『バージーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー』(Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology)、第2巻(1986年)、及び、『リボソーマルデータベース』(URL:http://rdp.cme.msu.edu/index.jsp)を参考にして、微生物PP710株及びPP349株と公知菌との異同をそれぞれ検討した。その結果、微生物PP710株は、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)に属する微生物であり、微生物PP349株は、アルスロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)に属する微生物であることが判明した。本発明者等は、これら2菌株をそれぞれ、新規微生物バチルス・サーキュランス PP710及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349と命名し、いずれも平成18年2月1日付で日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6所在の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、それぞれ受託番号 FERM BP−10771及びFERM BP−10770として受託された。本発明で使用するα−グルコシル転移酵素産生能を有する微生物には、上記菌株はもとより、上記菌株に突然変異を誘発し、選抜して得られる酵素高産生変異株なども包含される。
α−グルコシル転移酵素産生能を有する微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、本発明で使用するα−グルコシル転移酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地および天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が生育に利用できる物であればよく、例えば、植物由来の澱粉やフィトグリコーゲン、動物や微生物由来のグリコーゲンやプルラン、また、これらの部分分解物やグルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸も使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択できる。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物および、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を適宜用いることができる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などの塩類を適宜用いることができる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いることができる。
α−グルコシル転移酵素産生能を有する微生物の培養は、通常、温度15乃至37℃でpH5.5乃至10の範囲、好ましくは温度20乃至34℃でpH5.5乃至8.5の範囲から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は当該微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは10時間乃至150時間である。また、培養条件における培養液の溶存酸素濃度には特に制限はないが、通常は、0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、攪拌したりするなどの手段を適宜採用する。また、培養方式は、回分培養、半連続培養又は連続培養のいずれでもよい。
このようにしてα−グルコシル転移酵素産生能を有する微生物を培養した後、α−グルコシル転移酵素を含む培養物を回収する。α−グルコシル転移酵素活性は、培養微生物がバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)のいずれの場合も、主に培養物の除菌液に認められ、除菌液を粗酵素液として採取することも、培養物全体を粗酵素液として用いることもできる。培養物から菌体を除去するには常法の固液分離法が採用される。例えば、培養物そのものを遠心分離する方法、あるいは、プレコートフィルターなどを用いて濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などの膜濾過により分離する方法などが適宜採用される。除菌液はそのまま粗酵素液として用いることができるものの、一般的には、濃縮して用いられる。濃縮法としては、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空膜などを用いた膜濃縮法などを採用することができる。
さらに、α−グルコシル転移酵素活性を有する除菌液及びその濃縮液を用いて、α−グルコシル転移酵素を斯界において常用されている適宜の方法により固定化することもできる。固定化の方法としては、例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合法・吸着法、高分子物質を用いた包括法などを適宜採用できる。
上記のように本発明で使用するα−グルコシル転移酵素は、粗酵素液をそのまま又は濃縮して用いることができるものの、必要に応じて、斯界において常用されている適宜の方法、例えば、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、調製用電気泳動などの方法によって、さらに分離・精製して利用することもできる。
α−グルコシル転移酵素の基質となるグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンとしては、澱粉、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンなどや、それらをアミラーゼまたは酸などによって部分的に加水分解して得られるアミロデキストリン、マルトデキストリン、及びマルトース以上のマルトオリゴ糖などの澱粉部分分解物が挙げられる。アミラーゼで分解した部分分解物としては、例えば、『ハンドブック・オブ・アミレーシズ・アンド・リレーテッド・エンザイム(Handbook of Amylases and Related Enzymes)(1988年)パーガモン・プレス社(東京)に記載されている、α−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)、β−アミラーゼ(EC 3.2.1.2)、マルトテトラオース生成アミラーゼ(EC 3.2.1.60)、マルトペンタオース生成アミラーゼ、マルトヘキサオース生成アミラーゼ(EC 3.2.1.98)、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19、以下、本明細書では「CGTase」と略称する)などのアミラーゼを用いて澱粉、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンなどを分解して得られる部分分解物を用いることができる。さらには、部分分解物を調製する際、プルラナーゼ(EC 3.2.1.41)、イソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)などの澱粉枝切酵素を作用させることも随意である。澱粉は、例えば、とうもろこし、小麦、米など由来の地上澱粉であっても、また、馬鈴薯、さつまいも、タピオカなど由来の地下澱粉であってもよい。澱粉から本発明で使用する分岐α−グルカンを製造するに際しては、上記のような原料澱粉を、通常、糊化及び/又は液化して用いるのが好適である。澱粉の糊化・液化の方法自体は、公知の方法を採用することができる。さらに、本発明で使用するα−グルコシル転移酵素の基質は、エーテル化澱粉(ヒドロキシプロピル澱粉、カルボキシメチル澱粉、酢酸澱粉など)、エステル化澱粉(リン酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉など)及び架橋澱粉(アセチル化アジピン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉など)など、澱粉の一部を化学的方法により誘導体化した化工澱粉であってもよい。
α−グルコシル転移酵素を基質に作用させるに際し、その基質濃度は特に限定されず、例えば、基質濃度0.5%(w/v)の比較的低濃度の溶液を用いた場合でも、本発明で使用するα−グルコシル転移酵素の反応は進行して分岐α−グルカンを生成する。工業的には、基質濃度は1%(w/v)以上、望ましくは5乃至60%(w/v)、更に望ましくは、10乃至50%(w/v)の範囲から選ばれる濃度が好適であり、この条件下で、本発明で使用する分岐α−グルカンを有利に生成させることができる。反応温度は反応が進行する温度、すなわち60℃付近までの温度で行えばよい。好ましくは30乃至50℃付近の温度を用いる。反応pHは、通常、4乃至8の範囲、好ましくはpH5乃至7の範囲に調整するのがよい。酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的とする酵素反応の進行により適宜選択すればよい。
例えば、澱粉又はその部分分解物やアミロースの水溶液に、α−グルコシル転移酵素を作用させた場合の分岐α−グルカンの生成メカニズムは、以下のように推察される。
1)本酵素は、基質としてマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し、非還元末端グルコース残基を他のα−1,4グルカンの非還元末端グルコース残基に主としてα−1,4又はα−1,6グルコシル転移することにより、非還元末端グルコース残基の4位又は6位水酸基にグルコースがα−結合したα−1,4グルカン(グルコース重合度が1増加したα−グルカン)と、グルコース重合度が1減じたα−1,4グルカンを生成する。
2)本酵素はさらに、1)で生じたグルコース重合度が1減じたα−1,4グルカンに作用し、1)で生じたグルコース重合度が1増加したα−グルカンに対して、1)と同様に分子間α−1,4又はα−1,6グルコシル転移することにより、1)で生成したグルコース重合度が1増加したα−グルカンの非還元末端グルコース残基の4又は6位水酸基にグルコースをさらに転移し、鎖長を伸長する。
3)上記1)及び2)の反応を繰り返すことにより、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンからα−1,4及びα−1,6結合を有するグルカンを生成する。
4)本酵素は、さらに、頻度は低いながらも、α−1,3グルコシル転移やグルカンの内部にあるα−1,6結合したグルコース残基に対するα−1,4又はα−1,3グルコシル転移を触媒することにより、α−1,3結合、α−1,4,6結合及びα−1,3,6結合をも有するグルカンを生成する。
5)上記1)乃至4)の反応が繰り返される結果として、グルコースが主としてα−1,4結合及びα−1,6結合で結合し、僅かながらα−1,3結合、α−1,4,6結合及びα−1,3,6結合を有する本発明で使用する分岐α−グルカンを生成する。
また、α−グルコシル転移酵素産生能を有するバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)は、その培養物中に本発明で使用するα−グルコシル転移酵素のみならず、ある種のアミラーゼをも同時に産生し、意外にも、α−グルコシル転移酵素とこのアミラーゼを併用してマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用させると、α−グルコシル転移酵素を単独で作用させた場合よりも水溶性食物繊維含量を更に高めた分岐α−グルカンを製造できることが判明した。
バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)が産生するアミラーゼとしては、下記の理化学的性質を有するものが挙げられる。
(1)作用
澱粉を加水分解するとともにグリコシル基の転移を触媒し、シクロデキストリンをも生成する。プルランを加水分解しパノースを生成する;
(2)分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法において、58,000±10,000ダルトン;
(3)至適温度
pH6.0、30分間反応の条件下で、55℃;
(4)至適pH
35℃、30分間反応の条件下で6乃至7;
(5)温度安定性
pH6.0、60分間保持の条件下で40℃まで安定、
pH6.0、1mM Ca2+イオン存在下で50℃まで安定;及び
(6)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下でpH6.0〜8.0の範囲で安定;
本発明で使用する分岐α−グルカンを調製する際に、α−グルコシル転移酵素とこのアミラーゼを併用して澱粉部分分解物に作用させた場合に得られる分岐α−グルカンの水溶性食物繊維含量が、α−グルコシル転移酵素のみを用いて調製した分岐α−グルカンの場合よりも高い理由としては、α−グルコシル転移酵素の作用で生成する分岐α−グルカンに対し、アミラーゼがさらにグリコシル基を転移し、グルカンにおける分岐の程度(頻度)をさらに高めたものと推察される。
また、酵素反応によって当該分岐α−グルカンを調製する際、他の公知のアミラーゼを併用して反応させることにより、分岐α−グルカンの分子量分布を調節することも、また、消化性をさらに低減した分岐α−グルカンにすることも、さらには還元力を低減することも有利に実施できる。例えば、澱粉液化液に、α−グルコシル転移酵素とともに、α−アミラーゼやCGTaseなど、澱粉の内部のα−1,4結合を加水分解し、新たな非還元末端グルコース残基を生じさせる酵素を併用して作用させることにより、分子量分布の幅を狭め、粘度を低減させ消化性の低減に寄与するα−1,3、α−1,6及びα−1,3,6結合の割合をさらに増加させることも有利に実施できる。また、イソアミラーゼなどの澱粉枝切り酵素を併用することにより、分子量分布の幅を狭め、粘度を低減させたり、特開平7−143876号公報などに開示された非還元性糖質生成酵素(別名:マルトオリゴシルトレハロース生成酵素(EC 5.4.99.15))を併用することにより、還元末端部分を部分的にトレハロース構造に変換して還元力を低減させることも有利に実施できる。
また、本発明で使用する分岐α−グルカンは、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンを含有する栄養培地で、α−グルコシル転移酵素産生能を有する微生物を培養し、培養液中に生成する分岐α−グルカンを採取することによっても製造することができる。
上記の反応又は培養によって得られた分岐α−グルカンは、そのまま分岐α−グルカン製品とすることもできる。また、必要に応じて、反応液に、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ及びα−グルコシダーゼから選ばれる1種又は2種以上を作用させて、可消化部分を加水分解した後、非消化部分を分画により回収したり、酵母などを用いた発酵処理によりグルコースをはじめとする分解物を除去したりすることにより、消化性のさらに低減した分岐α−グルカンを調製することもできる。一般的には、分岐α−グルカンを含有する反応液はさらに精製して用いられる。精製方法としては、糖の精製に用いられる通常の方法を適宜採用すればよく、例えば、活性炭による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩、アルコールおよびアセトンなど有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離などの1種または2種以上の精製方法が適宜採用できる。
α−グルコシル転移酵素を、糊化澱粉や比較的低DE(Dextrose Equivalent)、好ましくはDE20未満の澱粉部分分解物に作用さて、本発明で使用する分岐α−グルカンを調製する場合、グルコースやマルトースなどの低分子オリゴ糖をほとんど生成しないので、得られる反応生成物をカラムクロマトグラフィーなどの精製手段で精製する必要は特にないものの、用途など目的に応じてさらに分画することも随意である。この分画にイオン交換クロマトグラフィーを採用する場合、例えば、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーを有利に用いることができる。この際、固定床方式、移動床方式、疑似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
また、マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンにα−グルコシル転移酵素を作用させても当該分岐α−グルカンを調製することができるが、さらに当該分岐α−グルカンをイソマルトデキストラナーゼ(EC 3.2.1.9)で消化することにより、食物繊維成分の含量を増やすことも有利に実施できる。ちなみに、マルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンにα−グルコシル転移酵素を作用させて調製した該分岐α−グルカンに、イソマルトデキストラナーゼ(EC 3.2.1.9)を作用させると、イソマルトースが基質固形物当たり25質量%以上50質量%以下生成する。
このようにして得られた本発明で使用する分岐α−グルカンは溶液のまま利用できるものの、保存に有利で、且つ、用途によっては利用しやすいように、乾燥し、粉末品とするのが望ましい。乾燥には、通常、凍結乾燥、或いは噴霧乾燥やドラム乾燥などの方法を用いることができる。乾燥物は、必要に応じて、粉砕し粉末化することも、篩別又は造粒して、特定粒度の範囲に整えることも有利に実施できる。
また、当該分岐α−グルカンは、難消化性であり、経口摂取すると食物繊維作用により優れた脂質代謝改善作用を発揮することができるので、脂質代謝改善剤としてはもとより、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤、乃至、予防剤、腹囲の増加抑制剤、メタボリツクシンドロームの予防剤乃至治療剤などとしても有利に利用できる。また、当該分岐α−グルカンを有効成分として配合した本発明の脂質代謝改善剤は、固状よりも液状の形態の方が、組成物における配合割合が低くても優れた脂質代謝改善作用をはじめとする生理機能を発揮するという特徴を有している。
本発明の脂質代謝改善剤の投与剤型としては、各種の形態が利用目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤等の経口剤、座剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の非経口剤が挙げられる。
上記本発明の脂質代謝改善剤は、分岐α−グルカンを、そのまま製剤として単独で使用してもよいが、必要に応じて、製剤学的に許容される食品素材や、食品添加物、医薬品、医薬品添加物、医薬部外品添加物などの添加剤と組み合わせた経口用製剤又は高カロリー輸液剤などとするか、若しくは輸液製剤などに添加して非経口用の製剤とすることもできる。具体的には、例えば、界面活性剤、防腐剤(抗菌剤)、保湿剤、増粘剤、水溶性高分子、抗酸化剤、キレート剤、色素、香料、pH調整剤、ビタミン類、各種アミノ酸、電解質、水、アルコール類、有機溶媒、動物や植物のエキス等と組み合わせて、公知の方法により製剤化すればよい。より具体的には、経口剤の製造に際しては、例えば、通常用いられる乳糖、白糖、マルトース、トレハロース、環状四糖、デキストリン、澱粉、結晶セルロース、コーンスターチ等の賦形剤、カルボキシメチルセルロース、寒天、ゼラチン末等の崩壊剤、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、シリカ、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖等のコーティング剤等を使用すればよい。また、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等の経口液剤、注射剤の製造に際しては、注射用蒸留水、生理食塩水等に溶解ないし、懸濁し、例えば、無機又は有機の酸あるいは塩基等のpH調整剤、等張化剤、安定化剤、希釈剤等を必要により添加すればよい。
また、本発明の脂質代謝改善剤は、そのままで、あるいは、他の糖質、甘味料、増量剤、賦形剤、結合剤と混合して、既存の飲食品に配合して利用することも随意である。具体的には、例えば、粉飴、ブドウ糖、果糖、異性化糖、砂糖、麦芽糖、トレハロース、蜂蜜、メープルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、ラカンカ甘味物、グリチルリチン、ソーマチン、スクラロース、L−アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような甘味料と、また、デキストリン、澱粉、デキストラン、乳糖などのような増量剤と混合して、粉末、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体など各種形状に成形して、飲食品に配合することもできる。
また、本発明の脂質代謝改善剤は飲食品に配合した場合でも、有効成分の分岐α−グルカンは消化され難いので、脂質代謝改善効果を発揮することができる。具体的には、例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼き肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなどの各種調味料への品質改良剤などとして使用することも有利に実施できる。また、例えば、せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、ういろう、餡類、羊羹、水羊羹、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディーなどの各種洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペーストなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬け、べったら漬、千枚漬などの漬物類、たくわん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、タラ、タイ、エビなどの田麩などの各種珍味類、海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類、煮豆、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜の瓶詰、缶詰類、合成酒、増醸酒、清酒、果実酒、発泡酒、ビールなどの酒類、珈琲、ココア、ジュース、ミネラルウオーター、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料、茶飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席汁粉、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品などの各種飲食物に配合すればよい。また、本発明の脂質代謝改善剤は液状形態の方が固状より、組成物への配合割合が低くても、脂質代謝改善作用などの生理機能を効果的に発揮できるので、清涼飲料、アルコール飲料、スープ、ドリンク剤などの液状形態で使用するのが特に望ましい。
また、本発明の脂質代謝改善剤は、家畜、家禽などの飼育動物のための飼料、餌料などとして脂質代謝改善の目的で使用することができる。
以上、本発明の脂質代謝改善剤に有効成分の分岐α−グルカンを含有させる方法としては、その製品が完成するまでの工程において含有せしめればよく、例えば、混和、混捏、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、組成物の、通常、0.1質量%以上、望ましくは、1質量%以上含有せしめるのが好適である。組成物が固状の場合には、1質量%以上配合するのが望ましく2%以上が特に望ましい。液状の場合には、0.5質量%以上配合するのが望ましく1%以上が特に望ましい。配合量が0.1質量%未満では、脂質代謝改善効果が発揮されない場合がある。
以下、実験により本発明で使用する分岐α−グルカンとその分岐α−グルカンの調製に使用するα−グルコシル転移酵素、及び、当該分岐α−グルカンの持つ生理作用を詳細に説明する。
<実験1:バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)由来α−グルコシル転移酵素を用いたグルカンの調製>
<実験1−1:バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)由来α−グルコシル転移酵素の調製>
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#4』、松谷化学工業株式会社販売)1.5w/v%、酵母抽出物(商品名『ポリペプトン』、日本製薬株式会社販売)0.5w/v%、酵母抽出物(商品名『酵母エキスS』、日本製薬株式会社販売)0.1w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム・2水和物0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水和物0.05w/v%、硫酸マンガン・5水和物0.001w/v%、硫酸第一鉄・7水和物0.001w/v%及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコ1本に100ml入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して、バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)を接種し、27℃、230rpmで48時間回転振盪培養したものを種培養とした。
500ml容三角フラスコ12本に種培養と同じ組成の液体培地を100mlずつ入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液約1mlずつを接種し、温度27℃、24時間回転振盪培養した。培養後、三角フラスコから培養液を抜き出し、遠心分離(8,000rpm、20分間)して菌体を除去し、得られた培養上清のα−グルコシル転移酵素活性を測定したところ、2.8単位/mlであった。この培養上清約1Lに、80%飽和となるように硫安を添加、溶解し、4℃、24時間放置することにより塩析した。沈殿した塩析物を遠心分離(11,000rpm、30分間)にて回収し、これを20mM酢酸緩衝液(pH4.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、粗酵素液約20mlを得た。この粗酵素液を20mM酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化した東ソー株式会社製『CM−トヨパール 650S』ゲルを用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量20ml)に供した。非吸着タンパク質を溶出後、食塩濃度0Mから0.5Mのリニアグラジエントで溶出させ、食塩濃度約0.18M付近から0.45M付近に溶出した画分を回収し、20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に対して透析した。得られた透析液をα−グルコシル転移酵素標品とした。
<実験1−2:α−グルコシル転移酵素を用いた分岐α−グルカンの調製>
実験1−1で得たα−グルコシル転移酵素標品100mlを酵素液として用いて、これに終濃度30w/v%になるように澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社販売)を添加し、72時間、40℃で反応させた後、約100℃で10分間、熱処理することによって反応を停止した。不溶物を濾過して除去した後、三菱化学製イオン交換樹脂『ダイヤイオンSK−1B』と『ダイヤイオンWA30』及びオルガノ製アニオン交換樹脂『IRA411』を用いて脱色、脱塩し、精密濾過した後、エバポレーターで濃縮し、固形分濃度30質量%のグルカン溶液を、基質として用いた澱粉部分分解物から固形物当り85.8%の収率で得た。
<実験2:アルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)由来α−グルコシル転移酵素を用いたグルカンの調製>
<実験2−1:アルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)由来α−グルコシル転移酵素の調製>
バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)に替えてアルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)を接種した以外は実験1−1と同様に培養したものを種培養とした。
500ml容三角フラスコ12本に種培養と同じ組成の液体培地を100mlずつ入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液約1mlずつを接種し、温度27℃、24時間回転振盪培養した。培養後、三角フラスコから培養液を抜き出し、遠心分離(8,000rpm、20分間)して菌体を除き、得られた培養上清のα−グルコシル転移酵素活性を測定したところ、0.53単位/mlであった。この培養上清約1Lに、80%飽和となるように硫安を添加、溶解し、4℃、24時間放置することにより塩析した。沈殿した塩析物を遠心分離(11,000rpm、30分間)にて回収し、これを20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析した。この粗酵素液を20mM酢酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した東ソー株式会社製『DEAE−トヨパール 650S』ゲルを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量20ml)に供した。非吸着タンパク質を溶出後、食塩濃度0Mから0.5Mのリニアグラジエントで溶出させ、食塩濃度約0.05M付近から0.2M付近に溶出した画分を回収し、20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に対して透析した。得られた透析液をα−グルコシル転移酵素標品とした。
<実験2−2:α−グルコシル転移酵素を用いたグルカンの調製>
実験2−1で得たα−グルコシル転移酵素標品20mlを酵素液として用いて、これに終濃度30w/v%になるように澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社販売)を添加し、72時間、40℃で反応させた後、約100℃で10分間、熱処理することによって反応を停止した。不溶物を濾過して除去した後、三菱化学製イオン交換樹脂『ダイヤイオンSK−1B』と『ダイヤイオンWA30』及びオルガノ製アニオン交換樹脂『IRA411』を用いて脱色、脱塩し、精密濾過した後、エバポレーターで濃縮し、固形分濃度30質量%のグルカン溶液を、基質として用いた澱粉部分分解物から固形物当り83.6%の収率で得た。
以下の実験3及び4では、実験1−2で得たグルカンと実験2−2で得たグルカンを区別する目的で、それぞれを「グルカンA」及び「グルカンB」と呼称する。
<実験3:グルカンA及びBの水溶性食物繊維としての評価>
得られたグルカンの水溶性食物繊維含量を、栄養表示基準(平成8年5月厚生省告示第146号)における栄養成分等の分析方法等(栄養表示基準別表第1の第3欄に掲げる方法)、8.食物繊維、(2)高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)記載の方法に準じて下記の方法により調べた。酵素処理用のキットとして、総食物繊維測定キット(Dietary Fiber,Total,Assay,Control Kit、シグマ社製)を用いた。また、グルカンA及びBの調製に用いた基質である澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社販売)を対照1とし、市販の難消化性グルカン(商品名『パインファイバー』、松谷化学工業株式会社販売)を対照2として、同様にそれぞれの水溶性食物繊維含量を調べた。
<分析用試料溶液の調製>
被験試料として固形分0.1gのグルカンを試験管にとり、0.08Mリン酸緩衝液5mlを添加しpHを6.0に調整した。これに、食物繊維測定キット付属の熱安定α−アミラーゼ(バチルス・リケニホルミス由来耐熱性α−アミラーゼ、シグマ社製)溶液0.01mlを加え、アルミ箔で覆い、沸騰水浴中で5分毎に攪拌しつつ30分間反応させ、冷却した。得られた反応液に、0.275M水酸化ナトリウム溶液約1mlを添加しpHを7.5に調整した後、キット付属のプロテアーゼ(バチルス・リケニホルミス由来、シグマ社製)溶液0.01mlを加え、アルミ箔で覆い、60℃の水浴中で振盪しつつ30分間反応させ、冷却した。得られたプロテアーゼ処理液に0.325M塩酸を約1ml添加し、pHを4.3に調整した後、キット付属のアミログルコシダーゼ(アスペルギルス・ニガー由来、シグマ社製)溶液0.01mlを加え、アルミ箔で覆い、60℃の水浴中で振盪しつつ30分間反応させ、冷却した。次いで、得られた反応液約7mlを、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社販売のアンバーライトIRA−67(OH型)とアンバーライト200CT(H型)を1:1で混合)にSV1.0で通液することにより脱塩し、さらに約3倍量の脱イオン水にて溶出し、溶出液の総量を約28mlとした。得られた溶出液をエバポレーターにて濃縮し、孔径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過した後、メスフラスコで25mlに定容したものを分析用試料溶液とした。
<高速液体クロマトグラフィー条件>
上記で得られた分析用試料溶液は、下記の条件による高速液体クロマトグラフィーに供した。
カラム :TGKgel G2500PWXL(内径7.8mm×長さ300mm,株式会社東ソー製)2本を直列に連結したもの
溶離液 :脱イオン水
試料糖濃度:0.8質量%
カラム温度:80℃
流 速 :0.5ml/分
検 出 :示差屈折計
注入量 :20μl
分析時間:50分
<被験試料の水溶性食物繊維含量の算出>
上記で得られたクロマトグラムにおいて、酵素処理によっても分解されずに残存する未消化グルカンを水溶性食物繊維とした。この水溶性食物繊維と分解されて生成したグルコースのピーク面積をそれぞれ求め、別途、常法のグルコース・オキシダーゼ法にて定量した分析用試料溶液中のグルコース量を用いて、下記の式1により水溶性食物繊維量を求めた。さらに、下記の式2により被験試料の水溶性食物繊維含量を求めた。
式1:
式2:
上記の酵素−HPLC法により求めたグルカンA及びグルカンBの水溶性食物繊維含量はそれぞれ42.1質量%及び41.8質量%であった。一方、対照1の澱粉部分分解物は酵素処理により全てグルコースにまで分解され、水溶性食物繊維含量は0質量%と評価された。また、対照2の市販の難消化性デキストリン(商品名『パインファイバー』、松谷化学工業株式会社販売)のそれは48.7質量%であった。これらの結果は、水溶性食物繊維を含まない澱粉部分分解物を基質としてα−グルコシル転移酵素を作用させることにより、市販の難消化性デキストリンとほぼ同等の水溶性食物繊維含量を示すグルカンを容易に調製できることを示している。
<実験4:グルカンA及びBの構造解析>
<実験4−1:メチル化分析>
実験1−2及び2−2の方法で得たグルカンA及びBについて、常法に従って、メチル化分析を行い、下記の条件によるガスクロマトグラフィー法で部分メチル化物を調べた。結果を表3にまとめた。
<ガスクロマトグラフィー条件>
カラム :DB−5 キャピラリーカラム(内径0.25mm×長さ30m×膜厚1μm,J&W Scientific社製)
キャリアーガス :ヘリウム
カラム温度:130℃で2分間保持した後、250℃まで5℃/分で昇温し、250℃で20分間保持
流 速 :1.0ml/分
検 出 :FID
注入量 :3μl(スプリット1/30)
分析時間:46分
表3の結果から明らかなように、バチルス・サーキュランス PP710由来及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来α−グルコシル転移酵素によりそれぞれ調製したグルカンA及びBのメチル化分析の結果を、基質である澱粉部分分解物のそれと比較すると、いずれのグルカンの場合も、2,3,6−トリメチル化物が著しく減少しており、一方、2,3,4−トリメチル化物が30%以上まで著しく増加していた。このことは、バチルス・サーキュランス PP710及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来α−グルコシル転移酵素の反応によって、グルコースが主としてα−1,4結合によって重合した構造を有する澱粉部分分解物が、α−1,6結合を30%以上含む分岐α−グルカンに変換されたことを物語っている。また、2,3,4,6−テトラメチル化物、2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物が増加していることから、非還元末端グルコース、α−1,3結合及びα−1,3,6結合が新たに生成していることも判明した。グルカンAの部分メチル化物における2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物の含量は、それぞれ1.1%及び0.8%であり、グルカンBの部分メチル化物における2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物の含量は、それぞれ0.9%及び1.1%であった。さらに、グルカンA及びBにおいて、2,3−ジメチル化物の存在比は基質とほとんど差がないことから、基質に元々存在する分岐であるα−1,4,6結合に大きな変化はないと考えられた。この結果から、グルカンA及びBは、基質である澱粉部分分解物とは大きく異なり、グルコースの結合様式がα−1,4結合及びα−1,6結合を主体とし、α−1,3結合及びα−1,3,6結合をも僅かに有する分岐グルカン(分岐α−グルカン)であることが判明した。なお、分岐α−グルカンA及びBを構成するグルコースの1位のアノマー型は、核磁気共鳴(NMR)分析において、H−NMRスペクトルから、全てα型であることが判明した。
<実験4−2:分岐α−グルカンA及びBのイソマルトデキストラナーゼ消化試験>
分岐α−グルカンA及びBの構造を特徴づける目的で、イソマルトデキストラナーゼ消化試験を行った。分岐α−グルカンA及びBの水溶液(最終濃度1w/v%)にアルスロバクター・グロビホルミス由来のイソマルトデキストラナーゼ(株式会社林原生物化学研究所内にて調製)を基質固形物1グラム当たり100単位加え、50℃、pH5.0で16時間作用させ、100℃で10分間保持して反応を停止した後、その反応液中の糖組成を高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略称する。)及びガスクロマトグラフィー(以下、「GC」と略称する)を用いて調べた。HPLCは、カラムに『MCI GEL CK04SS』(株式会社三菱化学製造)2本を用い、溶離液に水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID−10A(株式会社島津製作所製造)を用いて行った。GCは、常法に従って糖質をトリメチルシリル化(TMS化)した後、カラムに『2%シリコンOV−17 Chromosorb W/AW−DMS』(株式会社ジー・エル・サイエンス製造)を用い、1分間当たり7.5℃の昇温速度で温度160℃から320℃まで昇温した。キャリアーガスとして窒素ガスを用い、検出はFID法にて行った。イソマルトデキストラナーゼ消化において、分岐α−グルカンの調製に用いた基質である澱粉部分分解物からはイソマルトースが全く生成しなかったのに対し、分岐α−グルカンAからは糖組成として28.4質量%のイソマルトースが、また、分岐α−グルカンBからは糖組成として27.2質量%のイソマルトースが、それぞれ生成した。この結果は、分岐α−グルカンA及びBがイソマルトース構造をそれぞれ、少なくとも28.4質量%及び27.2質量%程度含んでいることを示しており、分岐α−グルカンではα−1,6結合の割合が増加していることを示した実験4−1におけるメチル化分析の結果を支持するものである。なお、イソマルトデキストラナーゼは、グルカンにおけるイソマルトース構造の還元末端側に隣接するα−グルコシド結合であれば、それがα−1,3、α−1,4及びα−1,6結合のいずれであっても加水分解する特異性を有していることから、得られたイソマルトースが分岐α−グルカンA及びBにおいてどのような結合様式で結合しているのか、その詳細は不明である。
<実験4−3:分岐α−グルカンA及びBのα−グルコシダーゼ及びグルコアミラーゼ消化試験>
分岐α−グルカンA又はBの水溶液(最終濃度1w/v%)にアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来α−グルコシダーゼ(商品名『トランスグルコシダーゼアマノL』、天野エンザイム製)及びリゾプス属(Rhizopus sp.)由来グルコアミラーゼを同時に作用させ消化試験を行った。基質固形物1グラム当たりα−グルコシダーゼを5,000単位とグルコアミラーゼを100単位加え、50℃、pH5.0で16時間作用させ、100℃で10分間保持して反応を停止した後、その酵素反応液の糖組成を実験4−2と同じ条件でHPLCを用いて調べた。その結果、グルカンA及びBはいずれも、基質である澱粉部分分解物の場合と同様に、実質的に全てグルコースにまで分解された。この結果は、分岐α−グルカンA及びBがいずれもグルコースを構成糖とするα−グルカンであることを示すものである。
<実験4−4:分子量分布分析>
分岐α−グルカンA及びBについて、分子量分布を常法のゲル濾過HPLC法にて分析した。ゲル濾過HPLCは、カラムに『TSK GEL α−M』(株式会社東ソー製)を2本連結したものを用い、溶離液に10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、カラム温度40℃、流速0.3ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計RID−10A(株式会社島津製作所製造)を用いて行った。なお、試料中のグルカンの分子量は、分子量測定用プルラン標準品(株式会社林原生物化学研究所販売)を同様にゲル濾過分析に供して作成した分子量の検量線に基づき算出した。図1に分岐α−グルカンA及びBのゲル濾過HPLCクロマトグラム(図1における符号b及びc)を、基質として用いた澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』)のそれ(図1における符号a)と比較しつつ、それぞれ示した。なお、図1における符号イ、ロ、ハ、ニ及びホは、それぞれ、分子量1,000,000、100,000、10,000、1,000及び100ダルトンに相当する溶出位置を意味する(後述する図15乃至19においても同様)。また、ゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づき各試料の分子量分布を分析した結果を表4に示した。
基質として用いた澱粉部分分解物が、分子量分布分析においてグルコース重合度499及び6.3に相当する位置に2つのピーク(図1のクロマトグラムaにおける符号1及び2)を有する糖質混合物であるのに対して、分岐α−グルカンAは、グルコース重合度384、22.2、10.9及び1に相当する位置に4つのピーク(図1のクロマトグラムbにおける符号3、4、5及び6)を有する糖質の混合物、また、分岐α−グルカンBは、グルコース重合度433、22.8、10.9及び1に相当する位置に4つのピーク(図1のクロマトグラムcにおける符号7、8、9及び10)を有する糖質の混合物であった。符号6及び10のピークはグルコースに相当するものの、その含量はごく僅かであることから、バチルス・サーキュランス PP710及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来酵素の加水分解作用は僅かであることがわかる。表4から明らかなように、基質である澱粉部分分解物に比べ、グルカンA及びBの数平均分子量及び重量平均分子量は共に60%程度に減少しており、全体として低分子化していた。また、分子量分布の拡がりの指標である重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)が澱粉部分分解物とグルカンA及びB間でそれほど変化していないことから、バチルス・サーキュランス PP710及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来α−グルコシル転移酵素は、澱粉部分分解物の非還元末端にのみ作用していると考えられた。
以上の結果から、基質として用いた澱粉部分分解物においてはグルコースの結合様式の約90%がα−1,4結合であり、わずかにα−1,4,6結合を有しているのに対し、グルカンA及びBは、α−1,4結合に対するα−1,6結合の割合が極めて高く、α−1,4,6結合に加えて、α−1,3結合及びα−1,3,6結合をも有する分岐を有するグルカンであることが判明した。このような構造を有する分岐α−グルカンはこれまで全く知られていない。
メチル化分析の結果に基づいて分岐α−グルカンの構造を推定し、その構造を模式的に示した図を基質である澱粉部分分解物のそれとともに図2に示した。図2中、符号1及び2は、それぞれ原料澱粉部分分解物及び分岐α−グルカンの模式図である。なお、図2において、符号a、b、c、d、e及びfはそれぞれ、澱粉部分分解物または分岐α−グルカンにおける、非還元末端グルコース残基、α−1,3結合しているグルコース残基、α−1,4結合しているグルコース残基、α−1,6結合しているグルコース残基、α−1,3,6結合しているグルコース残基及びα−1,4,6結合しているグルコース残基を意味している。また、同模式図におけるグルコース間の斜め破線、横実線及び縦実線はそれぞれ、α−1,3結合、α−1,4結合及びα−1,6結合を意味している。
<実験5:バチルス・サーキュランス PP710株由来α−グルコシル転移酵素の生産>
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#4』、松谷化学工業株式会社製造)1.5w/v%、酵母抽出物(商品名『ポリペプトン』、日本製薬株式会社製造)0.5w/v%、酵母抽出物(商品名『酵母エキスS』、日本製薬株式会社製造)0.1w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム・2水和物0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水和物0.05w/v%、硫酸マンガン・5水和物0.001w/v%、硫酸第一鉄・7水和物0.001w/v%及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコ2本に100mlずつ入れ、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し、冷却して、バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)を接種し、27℃、230rpmで48時間回転振盪培養したものを種培養とした。
容量30Lのファーメンターに種培養と同じ組成の液体培地を約20L入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液約200mlを接種し、温度27℃、pH5.5乃至8.0に保ちつつ、24時間通気攪拌培養した。培養後、ファーメンターから培養液を抜き出し、遠心分離(8,000rpm、20分間)して菌体を除き、培養上清約18Lを得た。培養液及び培養上清について、α−グルコシル転移酵素活性を測定したところ、培養液の該酵素活性は約2.7単位/ml、培養上清の該酵素活性は約2.6単位/mlであった。バチルス・サーキュランス PP710によって生産される−グルコシル転移酵素はその大部分が菌体外に存在することが判明した。
<実験6:バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の精製>
実験5で得た培養上清のうち、約4L(総活性約10,400単位)に、80%飽和となるように硫安を添加、溶解し、4℃、24時間放置することにより塩析した。沈殿した塩析物を遠心分離(11,000rpm、30分間)にて回収し、これを20mM酢酸緩衝液(pH4.5)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、粗酵素液約65mlを得た。粗酵素液中のα−グルコシル転移酵素活性は約74単位/mlであった(総活性約4,780単位)。この粗酵素液を東ソー株式会社製『CM−トヨパール 650S』ゲルを用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量70ml)に供した。α−グルコシル転移酵素活性は、20mM酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化した『CM−トヨパール 650S』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.4M付近に溶出した。この活性画分を回収し、終濃度1Mとなるように硫安を添加して4℃、24時間放置した後、遠心分離して不溶物を除き、東ソー株式会社製『ブチル−トヨパール 650M』ゲルを用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル容量9ml)に供した。α−グルコシル転移酵素活性は、1M硫安を含む20mM酢酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した『ブチル−トヨパール 650M』ゲルに吸着し、硫安濃度1Mから0Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、硫安濃度約0.2M付近に溶出した。この活性画分を回収し、これを20mM酢酸緩衝液(pH4.5)に対して透析後、東ソー株式会社製『CM−5PW』ゲルを用いた陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量3.3ml)に供した。α−グルコシル転移酵素活性は、20mM酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化した『CM−5PW』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.4M付近に溶出した。この活性画分を回収し、これを20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に対して透析した。各精製の各工程におけるα−グルコシル転移酵素活性、α−グルコシル転移酵素の比活性及び収率を表5に示す。
精製したα−グルコシル転移酵素標品を5乃至20w/v%濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であり、純度の高い標品であった。
<実験7:バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の性質>
<実験7−1:分子量>
実験6の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来のα−グルコシル転移酵素精製標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(5乃至20w/v%濃度勾配)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して分子量を測定したところ、本α−グルコシル転移酵素の分子量は90,000±10,000ダルトンであることが判明した。
<実験7−2:酵素反応の至適温度及び至適pH>
実験6の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定の方法に準じて調べた。これらの結果を図3(至適温度)及び図4(至適pH)に示した。本α−グルコシル転移酵素の至適温度はpH6.0、30分間反応の条件下で50乃至55℃であり、至適pHは40℃、30分間反応の条件下で5.0乃至6.3であることが判明した。
<実験7−3:酵素の温度安定性及びpH安定性>
実験6の方法で得たα−グルコシル転移酵素精製標品を用いて、本酵素の温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH6.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。pH安定性は、本酵素を各pHの20mM緩衝液中で4℃、24時間保持した後、pHを6.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図5(温度安定性)及び図6(pH安定性)に示した。図5及び図6から明らかなように、本α−グルコシル転移酵素は40℃まで安定であり、また、pH3.5乃至8.4の範囲で安定であった。
<実験7−4:酵素活性に及ぼす金属塩の影響>
実験6の方法で得たα−グルコシル転移酵素精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす金属塩の影響を濃度1mMの各種金属塩存在下で活性測定の方法に準じて調べた。結果を表6に示す。
表6の結果から明らかなように、本α−グルコシル転移酵素の活性は、Hg2+イオンで著しく阻害され、Cu2+イオンで阻害されることが判明した。
<実験8:アルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)由来α−グルコシル転移酵素の調製>
バチルス・サーキュランス PP710に替えてアルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)を接種した以外は実験5と同様に培養して種培養とした。
容量30Lのファーメンターに種培養と同じ組成の液体培地を約20L入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液約200mlを接種し、温度27℃、pH5.5乃至7.0に保ちつつ、24時間通気攪拌培養した。培養後、ファーメンターから培養液を抜き出し、遠心分離(8,000rpm、20分間)して菌体を除き、培養上清約18Lを得た。培養液及び培養上清について、α−グルコシル転移酵素活性を測定したところ、培養液の該酵素活性は約0.36単位/ml、培養上清の該酵素活性は約0.42単位/mlであった。アルスロバクター・グロビホルミス PP349によって生産される本α−グルコシル転移酵素はその大部分が菌体外に存在することが判明した。
<実験9:アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来α−グルコシル転移酵素の精製>
実験8で得た培養上清約18L(総活性約7,560単位)に、80%飽和となるように硫安を添加、溶解し、4℃、24時間放置することにより塩析した。沈殿した塩析物を遠心分離(11,000rpm、30分間)にて回収し、これを20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、遠心分離して不溶物を除き、粗酵素液約500mlを得た。粗酵素液中のα−グルコシル転移酵素活性は約14単位/mlであった(総活性約7,000単位)。この粗酵素液に終濃度2Mとなるように硫安を添加し、遠心分離して不溶物を除き、2M硫安を含む20mM酢酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した東ソー株式会社製『フェニル−トヨパール 650M』ゲルを用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル容量300ml)に供した。α−グルコシル転移酵素活性は、ゲルに吸着し、硫安濃度2Mから0Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、硫安濃度約0.6M付近に溶出した。この活性画分を回収し、20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に対して透析後、東ソー株式会社製『DEAE−トヨパール 650S』ゲルを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量100ml)に供した。α−グルコシル転移酵素活性は、20mM酢酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した『DEAE−トヨパール 650S』ゲルに吸着し、食塩濃度0Mから0.5Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、食塩濃度約0.1M付近に溶出した。各精製の各工程におけるα−グルコシル転移酵素活性、α−グルコシル転移酵素の比活性及び収率を表7に示す。
精製したα−グルコシル転移酵素標品を5乃至20w/v%濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であり、純度の高い標品であった。
<実験10:アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来α−グルコシル転移酵素の性質>
<実験10−1:分子量>
実験9の方法で得たアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素精製標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(5乃至20w/v%濃度勾配)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して分子量を測定したところ、本α−グルコシル転移酵素の分子量は90,000±10,000ダルトンであることが判明した。
<実験10−2:酵素反応の至適温度及び至適pH>
実験9の方法で得たアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定の方法に準じて調べた。これらの結果を図7(至適温度)及び図8(至適pH)に示した。本α−グルコシル転移酵素の至適温度はpH6.0、30分間反応の条件下で約50℃であり、至適pHは40℃、30分間反応の条件下で約6.0であることが判明した。
<実験10−3:酵素の温度安定性及びpH安定性>
実験9方法で得たα−グルコシル転移酵素精製標品を用いて、本酵素の温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH6.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。pH安定性は、本酵素を各pHの20mM緩衝液中で4℃、24時間保持した後、pHを6.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図9(温度安定性)及び図10(pH安定性)に示した。図9及び図10から明らかなように、本発明のアルスロバクター・グロビホルミス由来α−グルコシル転移酵素は、40℃まで安定であり、pH4.0乃至8.0の範囲で安定であった。
<実験10−4:酵素活性に及ぼす金属塩の影響>
実験9の方法で得たα−グルコシル転移酵素精製標品を用いて、酵素活性に及ぼす金属塩の影響を濃度1mMの各種金属塩存在下で活性測定の方法に準じて調べた。結果を表8に示す。
表8の結果から明らかなように、本α−グルコシル転移酵素の活性は、Hg2+イオンで著しく阻害され、Cu2+イオンで阻害されることが判明した。
<実験11:各種糖質への作用>
各種糖質を用いて、α−グルコシル転移酵素の基質特異性を調べた。メチル−α−グルコシド、メチル−β−グルコシド、パラニトロフェニル−α−グルコシド、パラニトロフェニル−β−グルコシド、グルコース、スクロース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、ネオトレハロース、セロビオース、ラクトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、イソマルトトリオース又はイソパノースを含む水溶液を調製した。これらの基質溶液に、最終濃度20mM酢酸緩衝液(pH6.0)を加えた後、実験6の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品を基質固形物1グラム当たりそれぞれ10単位ずつ加え、基質濃度を1w/v%になるように調製し、これを40℃、pH6.0で24時間作用させた。酵素反応前後の反応液の糖質を調べるため、展開溶媒としてn−ブタノール、ピリジン、水混液(容量比6:4:1)を、また、薄層プレートとしてメルク社製『キーゼルゲル60』(アルミプレート、10×20cm)を用い、2回展開するシリカゲル薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略す)を行い、10%硫酸−メタノール溶液を噴霧した後、加熱することにより糖質を検出した。TLCにおける基質糖質以外の反応生成物の生成の有無を調べ、それぞれの糖質に対する酵素作用の有無又は強さの程度を確認した。結果を表9に示す。なお、アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素についても基質特異性を同様にして調べた結果、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素と同様であった。
表9の結果から明らかなように、このα−グルコシル転移酵素は、試験した糖質のうち、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースによく作用し、また、ニゲロース、イソマルトース、ネオトレハロース、イソマルトトリオース、イソパノースに作用した。さらに、コージビオースにも僅かに作用した。作用した糖質からは、いずれも分解生成物と共に、糖転移生成物も認められた。一方、このα−グルコシル転移酵素は、メチル−α−グルコシド、メチル−β−グルコシド、パラニトロフェニル−α−グルコシド、パラニトロフェニル−β−グルコシド、トレハロース、セロビオース、スクロース、ラクトースなどには作用が認められなかった。これらの結果及び本α−グルコシル転移酵素が澱粉部分分解物に作用し分岐α−グルカンを生成することより、本酵素はマルトース及びグルコース重合度3以上のα−1,4グルカン又はグルコースから構成されるα−グルコオリゴ糖に幅広く作用することが判明した。
<実験12:作用メカニズム>
α−グルコシル転移酵素の作用メカニズムを検討するため、最小の基質であるマルトースに作用させた場合の生成糖の構造を調べた。なお、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素を用いた場合と、アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素を用いた場合の結果は同等であった。本実験では、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品を用いた結果を示す。
<実験12−1:マルトースからの生成物>
最終濃度1w/v%のマルトース水溶液に、最終濃度10mM酢酸緩衝液(pH6.0)を加えた後、実験6の方法で得たα−グルコシル転移酵素精製標品を、基質固形分1グラム当たり10単位加え、40℃、pH6.0で作用させ、経時的にサンプリングを行い、100℃で10分間保持して反応を停止した。その酵素反応液の糖組成をHPLC及びGCを用いて測定した。HPLC及びGCは、実験4−2に記載の条件を用いて行った。結果を表10に示す。
表10の結果から明らかなように、反応初期(反応1時間)において、α−グルコシル転移酵素の作用により、基質マルトースから、主としてグルコース、マルトトリオース及びパノースが生成した。さらに反応2時間及び4時間からグルコース重合度4及び5のオリゴ糖が生成した。反応が進むと、マルトトリオースは反応2時間(14.4%)をピークに、また、パノースは反応4時間(29.3%)をピークに減少し、その減少とともにイソマルトースの増加が認められた。さらに、反応48時間までイソマルトース及び重合度4以上のオリゴ糖の増加が認められた。
これらの結果から推察すると、α−グルコシル転移酵素はマルトースに作用し、反応初期において、α−1,4グルコシル転移とα−1,6グルコシル転移の両グルコシル転移を触媒することにより、グルコース、マルトトリオース及びパノースを生成し、反応の進行にともない、グルコースにα−1,6グルコシル転移したイソマルトースや、そのイソマルトースにα−1,4グルコシル転移及びα−1,6グルコシル転移したイソパノース及びイソマルトトリオースが生成することがわかった。本実験においては、多種類存在する重合度4以上のオリゴ糖を同定することは困難であることから、実験12−2において、マルトースより重合度の高いマルトペンタオースを基質として、さらに反応メカニズムを解析した。
<実験12−2:マルトペンタオースからの生成物>
最終濃度1w/v%のマルトペンタオース水溶液に、最終濃度10mM酢酸緩衝液(pH6.0)を加えた後、実験6の方法で得たα−グルコシル転移酵素精製標品を、基質固形分1グラム当たり10単位加え、40℃、pH6.0で作用させ、経時的にサンプリングを行い、100℃で10分間保持して反応を停止した。その酵素反応液の糖組成を、HPLCを用いて測定した。HPLCは、実験4−2に記載の条件を用いて行った。また、酵素反応液について、常法に従って、メチル化分析を行いガスクロマトグラフィー法で部分メチル化物を調べた。生成する部分メチル化物の組成からグルコースの結合様式における各グルコシド結合の存在比を求めた。また、実験4−2と同様にイソマルトデキストラナーゼ消化試験も行った。反応中の糖組成の変化を表11に、反応生成物のメチル化分析とイソマルトデキストラナーゼ消化試験の結果を表12に示す。
表11及び12の結果から明らかなように、反応初期(反応1時間)において、基質マルトペンタオースから、基質よりグルコース重合度が1小さいオリゴ糖とグルコース重合度が1大きいオリゴ糖が優先的に生成したことから、本酵素がグルコシル転移を触媒していることが確認された。さらに反応が進むと、種々のグルコース重合度を有する反応生成物が生成し、反応24時間後には、グルコース重合度9以上のグルカンが21.1%にも達した。メチル化分析の結果から、反応が進行するにつれて、反応生成物においては1,4結合したグルコース残基が減少するとともに、1,6結合したグルコース残基が顕著に増加し、また、1,3結合したグルコース残基、1,4,6結合したグルコース残基及び1,3,6結合したグルコース残基が徐々に増加することが判明した。また、イソマルトデキストラナーゼ消化後の糖組成におけるイソマルトース含量もまた、反応の進行とともに顕著に増加することが判明した。なお、アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素を用いて同様に試験した場合も、ほぼ同様な結果が得られた。
実験12−1及び12−2の結果から、α−グルコシル転移酵素の反応メカニズムは以下のように考えられた。
1)本酵素は、基質としてマルトース及び/又はグルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンに作用し、非還元末端グルコース残基を他のα−1,4グルカンの非還元末端グルコース残基に主としてα−1,4又はα−1,6グルコシル転移することにより、非還元末端グルコース残基の4位又は6位水酸基にグルコースがα−結合したα−1,4グルカン(グルコース重合度が1増加したα−グルカン)と、グルコース重合度が1減じたα−1,4グルカンを生成する。
2)本酵素はさらに、1)で生じたグルコース重合度が1減じたα−1,4グルカンに作用し、1)で生じたグルコース重合度が1増加したα−グルカンに対して、1)と同様に分子間α−1,4又はα−1,6グルコシル転移することにより、1)で生成したグルコース重合度が1増加したα−グルカンの非還元末端グルコース残基の4又は6位水酸基にグルコースをさらに転移し、鎖長を伸長する。
3)上記1)及び2)の反応を繰り返すことにより、マルトース及び/又はグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンからα−1,4及びα−1,6結合を有するグルカンを生成する。
4)本酵素は、さらに、頻度は低いながらもα−1,3グルコシル転移やグルカンの内部にあるα−1,6結合したグルコース残基に対するα−1,4又はα−1,3グルコシル転移を触媒することにより、α−1,3結合、α−1,4,6結合及びα−1,3,6結合をも有するグルカンを生成する。
5)上記1)乃至4)の反応が繰り返される結果として、グルコースが主としてα−1,4結合及びα−1,6結合で結合し、僅かながらα−1,3結合、α−1,4,6結合及びα−1,3,6結合を有する分岐α−グルカンを生成する。
<実験13:α−グルコシル転移反応と反応液の還元力の変化>
マルトース水溶液(最終濃度1又は30w/v%)に、最終濃度20mM酢酸緩衝液(pH6.0)を加えた後、実験6の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品を、基質固形物1グラム当たり4単位加え、40℃、pH6.0で作用させ、経時的にサンプリングを行い、100℃で10分間保持して反応を停止した。反応液中に残存するマルトース量を実験4−2に記載のHPLC法及びGC法で定量した。また、酵素反応液の還元糖量をソモギー・ネルソン法で、全糖量をアンスロン法で定量し、次式、 還元力=(還元糖量/全糖量)×100 で還元力を算出した。結果を表13に示す。
表13の結果から明らかなように、このα−グルコシル転移酵素をマルトースに作用させたところ、マルトース濃度が1w/v%と比較的低い場合には、ごく僅かな還元力の増加が認められ、また、マルトース濃度が30w/v%と比較的高い場合には、ほとんど反応液の還元力の増加は認められなかった。マルトース濃度が1w/v%と比較的低く、且つ、マルトースの残存量が10%以下の場合においても反応液の還元力の増加がごく僅かであることは、このα−グルコシル転移酵素は本質的に転移反応を触媒する酵素であり、反応に際してほとんど加水分解を行わないことを意味している。このα−グルコシル転移酵素は効率良くα−グルコシル転移を行う酵素であることがわかった。なお、アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素を用いて同様に試験した場合も、ほぼ同様な結果が得られた。
<実験14:分岐α−グルカンの生成における精製α−グルコシル転移酵素と粗酵素の比較>
分岐α−グルカンの工業的生産を考慮した場合、α−グルコシル転移酵素の粗酵素が使用できれば酵素を精製する手間と労力が省けることとなり、より好適である。そこで、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素を用いて、実験1−2で調製したグルカンAと同等の分岐α−グルカンが得られるか否かを検討した。実験1−1に記載した方法でバチルス・サーキュランス PP710を培養し、培養上清を硫安塩析し、20mM酢酸緩衝液(pH4.5)に対して透析したものをα−グルコシル転移酵素の粗酵素液とした。この粗酵素液を実験1−2に記載した方法で澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学工業株式会社販売)に作用させ、固形分濃度30%のグルカン溶液を、基質として用いた澱粉部分分解物から固形物当り88.2%の収率で得た。得られた分岐α−グルカンを「グルカンC」と名付け、そのメチル化分析を行った結果を表14に、また、実験4及び実験3に記載した方法によって分子量分布及び水溶性食物繊維含量を測定した結果を表15にそれぞれ示す。なお、表14及び表15には、比較のため表3及び表4より調製の原料とした澱粉部分分解物と部分精製α−グルコシル転移酵素を用いて調製したグルカンAのデータをそれぞれ再掲した。
表14に示すように、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素を用いて調製したグルカンCは、意外にも、メチル化分析において、非還元末端グルコース残基に相当する2,3,4,6−テトラメチル化物と、α−1,6結合したグルコース残基に相当する2,3,4−トリメチル化物の含量がグルカンAに比べ増加していた。この結果は、グルカンCにはグルカンAに比べて非還元末端が多く、また、α−1,6結合がより多く存在することを物語っている。さらに、グルカンCでは2,4−ジメチル化物が4.8%と、グルカンAの0.8%に比べ増加していた。この結果は、1,3結合と1,6結合の両方にあずかるグルコース残基が増加していることを示している。
また、表15から明らかなように、グルカンCは、グルカンAに比べ数平均分子量及び重量平均分子量がいずれも小さく(グルコース重合度が小さく)、遙かに高い水溶性食物繊維含量を示した。この結果は、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素には、α−グルコシル転移酵素とは相違する他の酵素が混在しており、その混在酵素が分岐α−グルカンにおけるα−1,6結合の増加、1,3結合と1,6結合の両方にあずかるグルコース残基の増加、低分子化、及び、水溶性食物繊維含量の増加に寄与していることを示唆するものである。
<実験15:バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素に混在する酵素の同定と単離・精製>
バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素に混在し、分岐α−グルカンにおけるα−1,6結合の増加、1,3結合と1,6結合の両方にあずかるグルコース残基の増加、低分子化、及び、水溶性食物繊維含量の増加に関与する酵素を同定し、単離・精製する実験を行った。
<実験15−1:混在する酵素の同定と活性測定>
実験1−1と同じ方法でバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)を培養し、得られた培養上清約3Lを硫安塩析した後、1mMの塩化カルシウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液に対して透析して得た透析液約40mlを粗酵素液とした。この粗酵素液を、2w/v%可溶性澱粉溶液又は2w/v%プルラン溶液にpH6.0、40℃で16時間作用させ、100℃、10分間加熱して反応を停止させた後、縦10cm、横20cmのシリカゲル60F254(メルク社製)TLCプレートを用いたTLCに供した。展開溶媒としてn−ブタノール:ピリジン:水(容量比6:4:1)を用いて2回展開を行い、20%硫酸−メタノール溶液を噴霧した後、100℃で5分間加熱して生成物のスポットを検出した。その結果、可溶性澱粉からは、マルトース及びグルコース重合度3以上のマルトオリゴ糖の生成が、また、プルランからは僅かなイソマルトースとパノースの生成が認められた。バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)のα−グルコシル転移酵素の粗酵素には澱粉を分解し、さらにプルランをも分解するアミラーゼが混在していることが判明した。
混在するアミラーゼの活性は、以下のようにして測定した。すなわち、短鎖アミロース(商品名「アミロースEX−I」、株式会社林原生物化学研究所販売、平均重合度17)を最終濃度1w/v%となるように1mMの塩化カルシウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解させて基質液とし、その基質液2mlに、酵素液0.2mlを加え35℃で30分間酵素反応させ、その反応液0.2mlを8mlの0.02N硫酸溶液に混合し、反応停止させた後、0.2mlの0.1Nヨウ素溶液を添加し、25℃で15分間保持した後に660nmの吸光度を測定する。別途反応0時間の反応液について同様に測定し、反応時間当たりのヨウ素呈色の減少を測定する。アミラーゼの活性1単位は、上記の条件下で20mgの短鎖アミロースの660nmにおける吸光度(ヨウ素呈色)を10%低下させる酵素量の10倍量と定義した。
<実験15−2:混在アミラーゼの単離・精製>
実験15−1で調製した粗酵素液を東ソー株式会社製『DEAE−トヨパール 650S』ゲルを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量70ml)に供した。アミラーゼは、1mMの塩化カルシウム20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『DEAE−トヨパール 650S』ゲルに吸着せず、非吸着画分に溶出した。この活性画分を回収し、終濃度1.5Mとなるように硫安を添加して4℃、24時間放置した後、遠心分離して不溶物を除き、ファルマシアバイオテク製『リソース PHE』ゲルを用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル容量1ml)に供した。目的のアミラーゼは、1.5M硫安、1mM塩化カルシウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『リソース PHE』ゲルに吸着し、硫安濃度1.5Mから0Mのリニアグラジエントで溶出させたところ、硫安濃度約0.3M付近に溶出した。この活性画分を回収し、濃縮した後、ファルマシアバイオテク製『スーパーデックス 200pg』ゲルを用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィー(ゲル容量118ml)に供し、0.2M食塩、1mM塩化カルシウムを含む20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)にて溶出した。活性画分を回収し、ファルマシアバイオテク製『リソース Q』ゲルを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル容量1ml)に供した。アミラーゼは、1mMの塩化カルシウム20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化した『リソース Q』ゲルに吸着せず、非吸着画分に溶出した。得られた活性画分をアミラーゼ精製標品とした。各精製の各工程におけるアミラーゼ活性、アミラーゼの比活性及び収率を表16に示す。
精製したアミラーゼ標品を5乃至20w/v%濃度勾配ポリアクリルアミドゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一であり、純度の高い標品であった。
<実験16:バチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼの性質>
<実験16−1:分子量>
実験15−2の方法で得たアミラーゼ精製標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(5乃至20w/v%濃度勾配)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して分子量を測定したところ、当該アミラーゼの分子量は58,000±10,000ダルトンであることが判明した。
<実験16−2:アミラーゼの至適温度及び至適pH>
実験15−2の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼ精製標品を用いて、アミラーゼ活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定の方法に準じて調べた。これらの結果を図11(至適温度)及び図12(至適pH)に示した。当該アミラーゼの至適温度はpH6.0、30分間反応の条件下で55℃であり、至適pHは35℃、30分間反応の条件下で6.0乃至7.0であることが判明した。
<実験16−3:アミラーゼの温度安定性及びpH安定性>
実験15−2の方法で得たアミラーゼ精製標品を用いて、温度安定性及びpH安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液(20mM酢酸緩衝液、pH6.0又は1mM塩化カルシウムを含む同緩衝液)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。pH安定性は、本酵素を各pHの20mM緩衝液中で4℃、24時間保持した後、pHを6.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。これらの結果を図13(温度安定性)及び図14(pH安定性)に示した。図13及び図14から明らかなように、当該アミラーゼはカルシウムイオン非存在下では40℃まで安定であり、1mMカルシウムイオン存在下では50℃まで安定であった。また、当該アミラーゼはpH6.0乃至8.0の範囲で安定であった。
<実験16−5:アミラーゼの基質特異性>
実験15−2の方法で得たアミラーゼ精製標品を用いて、当該アミラーゼの各種基質への作用を調べたところ、当該アミラーゼは、澱粉、マルトース及びグルコース重合度3以上のα−1,4グルカンを加水分解するとともに、グリコシル転移をも触媒することが判明した。また、当該アミラーゼは、澱粉からシクロデキストリンを生成し、プルランを加水分解してパノースを生成する作用を有することも判明した。
<実験17:α−グルコシル転移酵素とアミラーゼを併用した分岐α−グルカンの調製>
実験6の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品と実験15−2の方法で得たアミラーゼ精製標品を用いて、実験14に記載したバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素を用いたグルカンCの調製が再現できるか否かを検討した。すなわち、澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学株式会社販売)を濃度30質量%になるよう水に溶解し、これをpH6.0に調整し、実験6の方法で得たバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品を固形物1グラム当たり10単位加え、さらに、実験15―2の方法で得たアミラーゼを固形物1グラム当たり0、0.1、0.2、0.5又は1.0単位加え、40℃、pH6.0で72時間作用させた後、その反応液を10分間煮沸して反応を停止させた。各反応条件によりそれぞれ得た分岐α−グルカンを実験4−4記載のゲル濾過HPLC法に供して得たクロマトグラムを、基質として用いた澱粉部分分解物のそれとともに図15に示した。図15において、符号aは基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラムであり、符号b、c、d及びeは、それぞれ、α−グルコシル転移酵素をいずれも10単位とし、アミラーゼを0.1単位、0.2単位、0.5単位及び1.0単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムである(α−グルコシル転移酵素のみ10単位作用させた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムは図1に示したグルカンAのクロマトグラムとほぼ同様であり、図15では省略した。後述する図17〜20についても同様)。これらゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づく各分岐α−グルカンの分子量分布分析の結果と、実験3記載の酵素−HPLC法にて調べた水溶性食物繊維含量を併せて表17に示す。また、基質として用いた澱粉部分分解物について調べた分子量分布分析と水溶性食物繊維含量の結果(α−グルコシル転移酵素0単位、アミラーゼ0単位)を表17に併記した。
表17の結果から明らかなように、このα−グルコシル転移酵素にアミラーゼを併用すると、得られる分岐α−グルカンの分子量は低下し、水溶性食物繊維含量は飛躍的に増加した。また、アミラーゼの作用量が多くなるにつれて、得られる分岐α−グルカンの数平均分子量及び重量平均分子量は共に低下し、さらに重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)も低下したことから、分子量分布の幅が狭くなることが判明した。アミラーゼの作用量が固形物1グラム当たり0.5単位の場合、Mw/Mnは2.1まで低下した。さらに、得られた分岐α−グルカンにおける水溶性食物繊維の含量は、アミラーゼの作用量が固形物1グラム当たり0.5単位以上で約76質量%にまで達した。
この結果から、実験14においてバチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の粗酵素を用いて得られたグルカンCにおいて、分子量が小さく、食物繊維含量が高くなったのは、粗酵素に混在するアミラーゼに起因することが確認された。混在するアミラーゼが、基質である澱粉部分分解物およびα−グルコシル転移酵素の産物である分岐α−グルカンを部分的に加水分解することにより分岐α−グルカンの分子量を低下させ、また、グリコシル基をさらに分岐α−グルカンに転移することにより、結果的に食物繊維含量を高めるよう作用しているものと推察される。さらに、この結果は、アミラーゼをこのα−グルコシル転移酵素と組み合わせることにより分子量が小さく、水溶性食物繊維含量を高めた分岐α−グルカンを製造できることを示している。
<実験18:α−グルコシル転移酵素と他の公知のアミラーゼを併用した分岐α−グルカンの調製>
本発明で使用するα−グルコシル転移酵素と他の公知のアミラーゼを併用して、澱粉部分分解物に作用させて分岐α−グルカンを調製し、その構造的な特徴及び水溶性食物繊維含量を検討した。なお、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素を用いた場合と、アルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素を用いた場合の結果は同等であったことから、本実験では、バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製標品を用いた結果を示す。
<実験18−1:α−グルコシル転移酵素とイソアミラーゼを併用した分岐α−グルカンの調製と得られた分岐α−グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>
バチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼに変えて、シュードモナス・アミロデラモサ(Pseudomonas amyloderamosa)由来のイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり0、50、200、500又は1,000単位加えた以外は実験17と同様に反応させた。各反応条件によりそれぞれ得た分岐α−グルカンを実験4−4記載のゲル濾過HPLC法に供して得たクロマトグラムを、基質として用いた澱粉部分分解物のそれとともに図16に示した。図16において、符号aは基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラムであり、符号b、c、d及びeは、それぞれ、α−グルコシル転移酵素をいずれも10単位とし、イソアミラーゼを50単位、200単位、500単位及び1,000単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムである。また、これらゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づく各分岐α−グルカンの分子量分布分析の結果と、実験3記載の酵素−HPLC法にて調べた水溶性食物繊維含量を併せて表18に示す。
表18のα−グルコシル転移酵素のみを澱粉部分分解物に作用させた場合の結果から明らかなように、α−グルコシル転移酵素のみでは分子量分布に大きな影響を及ぼさないものの、表18及び図16の結果から明らかなように、イソアミラーゼの作用量が多くなるにつれて、得られる分岐α−グルカンの数平均分子量及び重量平均分子量は共に低下し、さらに重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)も低下したことから、分子量分布の幅が狭くなることが判明した。イソアミラーゼの作用量が固形物1グラム当たり1000単位の場合、Mw/Mnは1.9まで低下し、分岐α−グルカンは、グルコース重合度20.6にピークを有する分子量分布を示した。一方、各反応条件により得られた分岐α−グルカンにおける水溶性食物繊維の含量は、イソアミラーゼの作用量にあまり影響されず、40乃至44質量%程度であった。
この結果から、このα−グルコシル転移酵素にさらにイソアミラーゼを併用して澱粉部分分解物に作用させることにより、水溶性食物繊維含量をほとんど変化させることなく、分子量が低下した分岐α−グルカンを製造できることが判明した。
<実験18−2:α−グルコシル転移酵素にα−アミラーゼを併用した分岐α−グルカンの調製と得られた分岐α−グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>
シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼに変えて市販のα−アミラーゼ(商品名「ネオスピターゼPK2」、ナガセ生化学工業株式会社製)を固形物1グラム当たり0、0.1、0.2、0.5又は1.0単位加えた以外は実験18−1と同様に反応させた。各反応条件によりそれぞれ得た分岐α−グルカンを実験4−4記載のゲル濾過HPLC法に供して得たクロマトグラムを、基質として用いた澱粉部分分解物のそれとともに図17に示した。図17において、符号aは基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラムであり、符号b、c、d及びeは、それぞれ、α−グルコシル転移酵素をいずれも10単位とし、α−アミラーゼを0.1単位、0.2単位、0.5単位及び1.0単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムである。また、これらゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づく各分岐α−グルカンの分子量分布分析の結果と、実験3記載の酵素−HPLC法にて調べた水溶性食物繊維含量を併せて表19に示す。
図17及び表19の結果から明らかなように、α−アミラーゼの作用量が多くなるにつれて得られる分岐α−グルカンの数平均分子量及び重量平均分子量が共に低下し、さらに重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)も低下したことから、分子量分布の幅が狭くなることが判明した。α−アミラーゼの作用量が固形物1グラム当たり1.0単位(図17の符号e)の場合、Mw/Mnは2.4まで低下し、分岐α−グルカンは、グルコース重合度11.8にピークを有する分子量分布を示した。一方、各反応条件により得られた分岐α−グルカンにおける水溶性食物繊維の含量は、α−アミラーゼの作用量が多くなるほど増加する傾向が認められた。
この結果から、このα−グルコシル転移酵素にα−アミラーゼを併用して澱粉部分分解物に作用させることにより、水溶性食物繊維含量が増加し、分子量が低下した分岐α−グルカンを製造できることが判明した。
<実験18−3:α−グルコシル転移酵素とCGTaseを併用した分岐α−グルカンの調製と得られた分岐α−グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>
シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼに変えてバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus thermophilus)由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり0、0.1、0.2、0.5又は1.0単位加えた以外は実験18−1と同様に反応させた。各反応条件によりそれぞれ得た分岐α−グルカンを実験4−4記載のゲル濾過HPLC法に供して得たクロマトグラムを、基質として用いた澱粉部分分解物のそれとともに図18に示した。図18において、符号aは基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラムであり、符号b、c、d及びeは、それぞれ、α−グルコシル転移酵素をいずれも10単位とし、CGTaseを0.1単位、0.2単位、0.5単位及び1.0単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムである。また、これらゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づく各分岐α−グルカンの分子量分布分析の結果と、実験3記載の酵素−HPLC法にて調べた水溶性食物繊維含量を併せて表20に示す。
図18及び表20の結果から明らかなように、CGTaseの作用量が多くなるにつれて、数平均分子量及び重量平均分子量が共に低下し、さらに重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)も低下したことから、分子量分布の幅が狭くなることが判明した。CGTaseの作用量が固形物1グラム当たり1.0単位(図18の符号e)の場合、Mw/Mnは3.2まで低下し、分岐α−グルカンは、グルコース重合度79.1にピークを有する分子量分布を示した。一方、分岐α−グルカンにおける水溶性食物繊維の含量は、CGTaseの作用量が多くなるほど増加する傾向が認められ、実験18−2のα−アミラーゼを併用した場合よりも顕著に増加し、CGTaseを固形物1グラム当たり1.0単位用いた場合では、水溶性食物繊維含量は70.5質量%に達した。
この結果から、このα−グルコシル転移酵素にCGTaseを併用して澱粉部分分解物に作用させることで、分子量が低下し、水溶性食物繊維含量が顕著に増加した分岐α−グルカンが調製できることが判明した。CGTaseはα−1,4結合の加水分解作用と共に転移作用をも有していることから、α−アミラーゼと比較して極端に分子量を低下させることなく、非還元末端グルコシル残基を生成するため、α−グルコシル転移酵素の作用頻度が高くなり、α−アミラーゼ添加よりも水溶性食物繊維含量が増加した分岐α−グルカンが得られたものと推察される。
<実験18−4:α−グルコシル転移酵素とイソアミラーゼ及びCGTaseを併用した分岐α−グルカンの調製と得られた分岐α−グルカンの分子量分布と水溶性食物繊維含量>
実験18−1に記載した実験において、さらにバチルス・ステアロサーモフィラス由来のCGTaseを固形物1グラム当たり0又は1.0単位を加えた以外は実験18−1と同様にして反応させた。各反応条件によりそれぞれ得た分岐α−グルカンを実験4−4記載のゲル濾過HPLC法に供して得たクロマトグラムを、基質として用いた澱粉部分分解物のそれとともに図19に示した。図19において、符号aは基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラムであり、符号b、c、d及びeは、いずれもα−グルコシル転移酵素とCGTaseをそれぞれ10単位及び1単位とし、イソアミラーゼを50単位、200単位、500単位及び1,000単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラムである。また、これらゲル濾過HPLCで得たクロマトグラムに基づく各分岐α−グルカンの分子量分布分析の結果と、実験3記載の酵素−HPLC法にて調べた水溶性食物繊維含量を併せて表21に示す。
図19及び表21の結果から明らかなように、このα−グルコシル転移酵素と固形物1グラム当たり1単位のCGTaseを併用して調製した分岐α−グルカンの重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は3.2まで低下し、さらに固形物1グラム当たり1000単位のイソアミラーゼを併用した場合(図19の符号e)には1.9まで低下した。α−グルコシル転移酵素とCGTaseを組み合わせて調製した分岐α−グルカンの水溶性食物繊維含量は約70質量%にまで増加し、さらにイソアミラーゼを併用した場合にも低下することなく、高い含量を維持していた。
この結果から、このα−グルコシル転移酵素とイソアミラーゼ及びCGTaseを併用して澱粉部分分解物に作用させることにより、分子量が顕著に低下すると共に水溶性食物繊維含量が顕著に増加した分岐α−グルカンを調製できることが判明した。
<実験19:分岐α−グルカンの機能性>
水溶性食物繊維含量が最も高く、分子量が比較的小さい分岐α−グルカンとして、実験18−4において固形物1グラム当たり10単位のα−グルコシル転移酵素、50単位のイソアミラーゼ、及び1単位CGTaseを組み合わせて調製した分岐α−グルカンを選択し、当該分岐α−グルカンの消化性及び構造的な特徴及び機能性を検討した。
<実験19−1:α−グルコシル転移酵素とイソアミラーゼ及びCGTaseを併用した分岐α−グルカンの精製>
固形物1グラム当たり10単位のα−グルコシル転移酵素、50単位のイソアミラーゼ、及び1単位のCGTaseを用い、実験18−4と同様に反応させて得た分岐α−グルカンの反応液を、濾過して不溶物を除去した後、三菱化学製イオン交換樹脂『ダイヤイオンSK−1B』と『ダイヤイオンWA30』及びオルガノ製アニオン交換樹脂『IRA411』を用いて脱色、脱塩し、精密濾過した後、エバポレーターで濃縮し、固形分濃度30%の分岐α−グルカン含有液を、用いた澱粉から固形物当り85.8%の収率で得た。得られた分岐α−グルカンのメチル化分析を実験4−1記載の方法で行った結果を表22に示した。また、実験4−4記載のゲル濾過HPLC法で行った分子量分布分析、実験3記載の酵素−HPLC法で求めた水溶性食物繊維含量、実験4−2記載のイソマルトデキストラナーゼ消化試験の結果を表23にまとめた。
表22及び23の結果から明らかなように、得られた分岐α−グルカンは、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物を1対2.4の比で含有し、2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の合計は部分メチル化物の77.5%を占めていた。また、本分岐α−グルカンにおいて、2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の1.6%及び2.4%を示した。また、本分岐α−グルカンは、重量平均分子量5,480ダルトン、Mw/Mn2.3を示し、酵素−HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量が68.6質量%、イソマルトデキストラナーゼ消化により、糖組成当たりイソマルトースを36.4質量%生成するグルカンであった。
当該分岐α−グルカンの有用性を評価する目的で、実験19−1で調製した分岐α−グルカンを用いて、う蝕原性、消化性、血糖値とインスリン量に及ぼす影響、及び急性毒性を実験19−2乃至19−7で調べた。
<実験19−2:分岐α−グルカンのう蝕原性菌による酸発酵性試験>
実験19−1の方法で得た分岐α−グルカンを用い、『インフェクション・アンド・イムニティー(Infection and Immunity)』、第39巻、43乃至49頁(1983年)に記載の大島らの方法に準じて、う蝕原性菌を用いた酸発酵性試験を行った。う蝕原性菌として、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)6715株及びストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)OMZ−176株の2株を用いた。対照として、スクロースを用いて同様に操作した。結果を表24に示す。
表24の結果から明らかなように、酸発酵を受けるスクロースの場合はpH約4にまで低下するのに対して、当該分岐α−グルカンは、ストレプトコッカス・ソブリナス及びストレプトコッカス・ミュータンスによる酸発酵をほとんど受けず、pHは約6を維持しており、歯のエナメル質が脱灰する臨界pHである5.5より高いpHであった。当該分岐α−グルカンは、う蝕原性が極めて低いことが確認された。
<実験19−3:分岐α−グルカンの消化性試験>
実験19−1の方法で得た分岐α−グルカンを用いて、日本栄養食糧学会誌、第43巻、第23乃至29頁(1990)に記載の岡田らの方法に準じて、試験管内において唾液アミラーゼ、人工胃液、膵液アミラーゼ及び小腸粘膜酵素による分岐α−グルカンの消化性を調べた。対照として、市販の難消化性デキストリン(商品名『パインファイバー』、松谷化学工業株式会社製造)を用いた。結果を表25に示す。
表25の結果から明らかなように、当該分岐α−グルカンは、唾液アミラーゼ、人工胃液によっては全く消化されず、膵液アミラーゼでごく僅か分解された。また、対照の難消化性デキストリンの小腸粘膜酵素による分解率が41.1%であるのに対して、分岐α−グルカンの分解率は16.4%と低く、当該分岐α−グルカンは市販の難消化性デキストリンよりもさらに消化され難いことが判明した。
<実験19−4:分岐α−グルカンの摂取が血糖値及びインスリン量に与える影響>
実験19−1の方法で得た分岐α−グルカンを用いて、血糖値の上昇及びインスリンの上昇を調べた。7週齢のウィスター系雄ラット各群5匹を用いて、1日絶食後、胃ゾンデにて分岐α−グルカンの水溶液を経口投与した。投与量はラット体重1kg当り固形物として1.5gとした。血液を、経口投与直前、経口投与15分後、30分後、60分後、120分後に尾静脈から採血した。それぞれの血液を、ヘパリン処理済採血管に採取し、遠心分離(2,000rpm、10分間)して、血漿を得た。血糖値はグルコース・オキシダーゼ法で測定し、インスリン量はラットインスリン測定キット(株式会社森永生科学研究所製造)を用いて測定した。対照1としてグルコースを、また、対照2として市販の難消化性デキストリン(商品名『パインファイバー』、松谷化学工業株式会社製造)を用いた。それぞれの試験系における血糖値及びインスリン量の結果をそれぞれ表26及び表27に示す。
表26及び表27の結果から明らかなように、当該分岐α−グルカンは、市販の難消化性デキストリンと同様に、血糖値の上昇及びインスリン量の上昇が、グルコースに比べ低いことが判明した。
<実験19−5:急性毒性試験>
マウスを使用して、実験19−1の方法で得た分岐α−グルカンを経口投与して急性毒性試験を行った。その結果、当該分岐α−グルカンは無毒性であり、投与可能な最大量においても死亡例は認められず、そのLD50値は、5g/kg−マウス体重以上であった。
<実験20:分岐α−グルカンの血糖上昇抑制作用>
実験19−4において、分岐α−グルカンの摂取により、血糖値及びインスリン量の上昇が、グルコースに比べて低いことが判明したので、後述する実施例5の方法で得た分岐α−グルカンを用いて、分岐α−グルカンの摂取が血糖上昇に与える影響をさらに詳細に検討した。
<実験20−1:分岐α−グルカンの摂取が澱粉部分分解物摂取時の血糖値及びインスリン量に与える影響>
分岐α−グルカンが、澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#1』、松谷化学工業株式会社販売)摂取後の血糖上昇に与える影響を検討した。ラット飼育用飼料(株式会社林原生物化学研究所調製、「AIN−93G」;ジャーナル・オブ・ニュートリッション(Journal of Nutrition)、第123巻、第1939−1951頁(1993)参照、以下「精製飼料」という。後述の表33に示す配合組成を参照)で、1週間予備飼育した7週齢のウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社販売)3群各群5匹を用いて、1日絶食後、胃ゾンデにて、澱粉部分分解物(固形物として1.5g/kg・体重)と分岐α−グルカンとを溶解した水溶液を経口投与した。分岐α−グルカンの投与量はラット体重1kg当り固形物として、0.15g、0.30g又は0.75gとした。ラットの血液を、経口投与直前、経口投与15分後、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後に尾静脈から採血した。それぞれの血液を、ヘパリン処理済採血管に採取し、遠心分離(2,000rpm、10分間)して、血漿を得た。血糖値とインスリン量とを実験19−4と同じ方法で測定した。対照1として、1群5匹のラットに澱粉部分分解物のみを固形物として1.5g/kg・体重経口投与した。また、対照2として、分岐α−グルカンに換えて、市販の難消化性デキストリン(商品名『ファイバーソル2』、松谷化学工業株式会社製造)を、澱粉部分分解物と同時に、2群各群5匹のラットに、体重1kg当り固形物として0.15g又は0.75gの何れかを経口投与した。それぞれの試験系における血糖値の変化、血糖値のAUC値(血中濃度−時間曲線下面積)、インスリン量及びインスリン量のAUC値の測定結果をそれぞれ表28、表29、表30及び表31に示す。
表28乃至表31の結果から明らかなように、当該分岐α−グルカンは、市販の難消化性デキストリン(対照2)と同様に、用量依存的に、糖質(澱粉部分分解物)負荷時の、血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUC値の上昇を、澱粉部分分解物を単独で摂取させた場合(対照1)に比べ抑制することが判明した。また、これらの上昇抑制効果の程度を比較すると、測定した何れの指標においても、当該分岐α−グルカンの方が市販の難消化性デキストリンよりも強い抑制効果を示した。
<実験20−2:澱粉部分分解物摂取時の血糖値及びインスリン量への分岐α−グルカンの分子量の影響>
実験20−1において、分岐α−グルカンが、糖質(澱粉部分分解物)負荷時の血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUCの上昇を何れも抑制することが判明したので、この分岐α−グルカンの分子量の違いが、糖質負荷時の血糖値及びインスリン量の上昇抑制作用に及ぼす影響を検討した。すなわち、原料澱粉部分分解物、α−グルコシル転移酵素、アミラーゼの使用量等を調整して、表32に示す重量平均分子量の分岐α−グルカンを調製した。実験20−1と同様に、精製飼料で1週間予備飼育した7週齢のウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社販売)9群各群5匹を用いて、1日絶食後、8群各群5匹のラットには、胃ゾンデにて、澱粉部分分解物(固形物として1.5g/kg・体重)又は表32に示す分岐α−グルカンの何れかを溶解した水溶液を経口投与した。分岐α−グルカンの投与量はラット体重1kg当り固形物として0.75gとした。残りの1群5匹のラットには、澱粉部分分解物のみをラット体重1kg当り固形物として1.5g経口投与し、対照群とした。これらのラットの血液を、経口投与直前及び投与30分後に尾静脈から採血した。それぞれの血液をヘパリン処理済採血管に採取し、遠心分離(2,000rpm、10分間)して血漿を得た。各群における血糖値及びインスリン量の測定結果を表32に併せて示す。なお、投与後の採血時間は、澱粉部分分解物のみを投与した場合に、血糖値及び血中インスリン量がピークとなる投与30分後とした。
表32の結果から明らかなように、重量平均分子量が1,168乃至200,000の範囲にある分岐α−グルカンは、何れも澱粉部分分解物を経口投与した後の血糖値及びインスリン量の上昇を抑制した。また、この血糖値及びインスリン量の上昇抑制効果の強さの程度で比較すると、分岐α−グルカンの分子量が1,168乃至60,000(水溶性食物繊維含量が58.1乃至80.4質量%)の場合に抑制効果が顕著となり、2,670乃至44,151(水溶性食物繊維含量が64.2乃至80.4質量%)の場合に特に強い抑制効果が認められた。
<実験20−3:分岐α−グルカンの長期摂取が澱粉部分分解物摂取時の血糖値及びインスリン量に与える影響>
実験20−1において、分岐α−グルカンの摂取により、糖質負荷時の血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUC値の上昇が抑制されることが判明したので、当該分岐α−グルカンを長期摂取後(8週間)に、糖質負荷時の血糖値、血糖値AUC値、インスリン量及びインスリン量のAUC値の上昇抑制作用を検討した。精製飼料で1週間予備飼育した7週齢のウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社販売)5群各群5匹を使用した。3群各群5匹のラットを、各々表33に示す分岐α−グルカン(固形物換算)を1、2又は5質量%配合した3種類の試験飼料の何れかで8週間飼育した。飼育期間中の餌及び水は自由摂取とした。試験飼料での飼育4週間と8週間で、1日絶食後、胃ゾンデにて、澱粉部分分解物の水溶液を固形物として1.5g/kg・体重となるように経口投与した。ラットの血液を、投与直前、投与15分後、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後に尾静脈から採血した。それぞれの血液を、ヘパリン処理済採血管に採取し、遠心分離(2,000rpm、10分間)して血漿を得た。血糖値とインスリン量とを実験19−4と同じ方法で測定した。対照1として、1群5匹のラットを精製飼料のみで飼育した。また、残りの1群5匹のラットは、対照2として、精製飼料のコーンスターチの一部を、市販の難消化性デキストリン(商品名『ファイバーソル2』、松谷化学工業株式会社販売)で置き換えた表33に示す配合組成の飼料で飼育した。飼育4週間と8週間とはほぼ同じ結果となったので、試験飼料で飼育4週間における、それぞれの試験系における血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUC値の測定結果をそれぞれ表34、表35、表36及び表37に示す。
表34乃至37の結果から明らかなように当該分岐α−グルカンは、市販の難消化性デキストリン(対照2)と同様に、糖質(澱粉部分分解物)負荷時の、血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUCの上昇を、精製飼料のみで飼育した場合(対照1)に比べ抑制することが判明した。また、これらの数値上昇の抑制は、飼料に配合した分岐α−グルカンの濃度に依存しており、その効果は固形物として、分岐α−グルカンを2質量%配合した場合に顕著となり、5質量%では特に強い抑制が認められた。また、市販の難消化性デキストリンを、固形物として5質量%配合した飼料で飼育したラットにおける、これらの指標の抑制の程度は、固形分として分岐α−グルカンを1質量%配合した飼料と同程度の抑制が認められたことから、当該分岐α−グルカンは、当該難消化性デキストリンよりも、糖質(澱粉部分分解物)負荷時の、血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUCの上昇抑制効果に優れていることが確認された。更に、澱粉部分分解物投与前の血糖値及びインスリン量を比較すると、分岐α−グルカンを固形物として2質量%又は5質量%配合した飼料を摂取させた群では、精製飼料のみ或いは難消化性デキストリンを固形物として5質量%含む飼料を摂取させた群よりも低く、当該当該分岐α−グルカンは、長期摂取により空腹時血糖値及び血中インスリン量を、市販の難消化性デキストリンよりも効果的に抑制する作用を有していることも明らかになった。なお、試験飼料又は対照飼料で飼育4週間及び8週間で、ラットの体重を比較したところ、何れの群間でも、平均体重に差は認められなかったので、本実験で確認された分岐α−グルカンによる血糖値及びインスリン量の上昇抑制作用は、ラットの健康状態には何ら影響を与えないと判断した。
<実験21:分岐α−グルカンの摂取がヒトの血糖値及びインスリン量に与える影響>
分岐α−グルカンをラットに摂取させると澱粉部分分解物を摂取させた場合に比べて、血糖値及びインスリン量の増加が抑制されることが明らかになったので、分岐α−グルカンの摂取がヒトの血糖値及び血中のインスリン量に与える影響を調べる試験を行った。市販の澱粉部分分解物(松谷化学工業株式会社販売、商品名「パインデックス#1」)及び後述する実施例5の方法に準じて調製した分岐α−グルカンを用いて、ヒトでの血糖値及びインスリンの上昇を調べた。健康なボランティアの男性12名(年齢26乃至54歳、平均41±7歳)を被験者として、試験前日の21時以降、翌日の試験開始時(9時頃)までの間、水以外の飲食物の摂取を禁止した。この被験者に、まず澱粉部分分解物50g(固形物換算)を水に溶解して全量200mlとした試験標品を、摂取開始から2分以内に摂取させた。血液を、経口投与直前、経口投与15分後、30分後、45分後、60分後、90分後、120分後に採血した。次いで、1週間以上の間隔をあけて、同じ被験者に分岐α−グルカン50g(固形物換算)を水に溶解して全量200mlとした試験標品を用いた以外は澱粉部分分解物の場合と同様にして試験し、採血した。それぞれの血液の血糖値及びインスリン量を、民間の臨床検査機関(社団法人岡山市医師会総合メディカルセンター)に委託して測定した。試験標品摂取時の血糖値及びインスリン量の経時的な変化、及び、その数値に基づき計算した、摂取直後乃至摂取120分間血糖値のAUC値(血中濃度−時間曲線下面積:AUC0−2hr(mg・hr/dl))及びインスリン量のAUC0−2hr(μU・hr/dl)値、摂取直後乃至摂取120分間の血糖値のAUC値の増加量及びインスリン量のAUC値の増加量(ΔAUC0−2hr)を、表38にまとめて示す。
表38の結果から明らかなように、当該分岐α−グルカンをヒトが摂取した場合には、ラットを用いた実験(実験20)と同様に、血糖値、血糖値のAUC値、インスリン量及びインスリン量のAUC値が、澱粉部分分解物を摂取させた場合に比べ有意に低いことが判明した。
<実験22:分岐α−グルカンの生体内脂質低減作用>
実験19−4、実験21において、分岐α−グルカンを摂取することにより、血糖値及び血中のインスリン量の上昇が低くなることが判明したので、当該分岐α−グルカンの摂取が生体内脂質に及ぼす影響についても検討した。
<実験22−1:分岐α−グルカンの摂取が脂肪吸収に与える影響>
後述する実施例5の方法で調製した分岐α−グルカンを用いて、7週齢のウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社販売)を、無作為に4群各群15匹に分けて、1週間、表33に示す精製飼料で予備飼育後、2群各15匹は、同表に示す分岐α−グルカンを固形物として5質量%配合した組成の飼料(試験飼料)で、週間または8週間飼育した。残りの2群各15匹は、対照として、精製飼料で同様に4週間または8週間飼育した。分岐α−グルカン配合飼料で飼育した1群15匹を飼育開始4週間で、及び、残り1群15匹を8週間で、各々、エーテル麻酔下で下大静脈より採血後屠殺し、解剖して、内臓蓄積脂肪量、血清脂質、腸粘膜湿質量および盲腸内容物などを調べた。対照のラットも同様に処理した。その結果を表39に示す。なお、ラットの飼育は、試験期間中を通じて、2又は3日おきに体重と摂餌量を測定しながら、実験20−1と同様に餌及び水は飼育期間中を通じて自由摂取とした。また、解剖前は一晩絶食とした。分岐α−グルカン配合飼料飼育4週間及び8週間の体重増加量、摂餌量、飼料利用効率(体重増加量/摂餌量)、解剖時の、体重、臓器等の質量、腸粘膜質量、内臓脂肪質量、盲腸内の内容物の質量、水分、pHを表39に示す。また、血清脂質の測定結果も表39に併せて示す。なお、血清脂質のうち、中性脂肪、総コレステロール及びHDL−コレステロールの測定は、それぞれ市販の中性脂肪トリグリセライド測定用キット(商品名「トリグリセライド E−テスト ワコー」、和光純薬工業株式会社販売)、総コレステロール測定用キット(商品名「コレステロール E−テスト ワコー」、和光純薬工業株式会社販売、)及びHDL−コレステロール測定用キット(商品名「HDL−コレステロール E−テスト ワコー」、和光純薬工業株式会社販売)を使用した。また、総コレステロール値からHDL−コレステロール値を減じてLDL−コレステロール値とした。
表39の結果から明らかなように、分岐α−グルカンを、固形物として5質量%配合した飼料を摂取させると、精製飼料のみで飼育した場合に比して、摂取4週間では、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪質量が低値を示し、摂取8週間では、腎臓周囲及び睾丸周囲脂肪のいずれも有意に低値を示し、その低下は、特に睾丸周囲脂肪で顕著であった。また、摂取4週間及び8週間で腸粘膜質量が有意に増加し、その増加は摂取8週間で顕著となった。また、摂取8週間で盲腸内pHが有意に低下した。さらに、血清脂質についてみると、中性脂肪値が摂取8週間で、総コレステロールが摂取4週間及び8週間で、何れも低下傾向を示し、LDL−コレステロールも低下した。これら以外の測定値は、対照と差は認められなかった。なお、具体的なデータは示さないが、盲腸内の有機酸濃度は、対照と差は認められなかった。この結果は、分岐α−グルカンが、生体内脂質の低減作用を有することを物語っている。また、腸粘膜の質量増加が認められることから、分岐α−グルカンによる脂質の過剰蓄積の抑制や実験20乃至21で確認された耐糖性の増強には、この試験で確認されたムチン分泌の増大を伴う小腸粘膜層の肥厚に起因する消化酵素の作用性低下や消化されたグルコースや脂肪の消化・吸収阻害、遅延が、重要な役割を果たしていると推察される。
<実験22−2:生体内脂質の過剰蓄積抑制に与える分岐α−グルカンの分子量の影響>
実験22−1において、分岐α−グルカンの摂取により、生体内脂質の過剰蓄積が抑制されることが判明したので、当該分岐α−グルカンの重量平均分子量の違いによる作用を検討した。すなわち、精製飼料に、実験20−2で使用したものと同じ重量平均分子量の異なる8種類の分岐α−グルカンを、それぞれ固形物として5質量%配合した8種類の試験飼料を調製した。ウィスター系ラット雌性7週齢(日本チャールスリバー株式会社販売)45匹を、無作為に9群各群5匹に分けて、1週間、精製飼料で予備飼育した。このラットのうち、8群については、表40に示す重量平均分子量の異なる分岐α−グルカンの何れかを配合した試験飼料(試験飼料1乃至8)で8週間飼育した。残りの1群5匹のラットは、精製飼料でそのまま8週間飼育し、対照群とした。分岐α−グルカンを配合した飼料を摂取して8週間経過したラット及び精製飼料を摂取して8週間経過した対照群のラットを、それぞれエーテル麻酔下で採血後、屠殺して、その腸間膜周囲、腎臓周囲及び睾丸周囲の脂肪質量(湿質量)、並びに、血清中の中性脂肪及び総コレステロールを、実験22−1と同じ方法で測定した。結果を表40に示す。
表40の結果から明らかなように、重量平均分子量が異なる分岐α−グルカンを摂取させた場合、何れの群においても内臓脂肪質量及び血清脂質量が、対照群よりも低値となり、当該分岐α−グルカンが内臓脂肪質量及び血清脂質量の上昇を抑制することが分かった。また、この抑制効果の程度で比較すると、分岐α−グルカンの重量平均分子量が2,670乃至44,151のもので効果が顕著となり、2,670乃至25,618の場合に特に強い効果が認められた。
<実験22−3:分岐α−グルカンの摂取量の違いが内臓蓄積脂肪に与える影響>
7週齢のウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社販売)を、無作為に5群各群5匹に分けて、1週間、市販の固形飼料で予備飼育後、3群各5匹は、分岐α−グルカンを1、2又は5質量%配合した表33に示す配合の精製飼料(各々、試験飼料1、試験飼料2又は試験飼料3)で4週間飼育した。残りの2群各5匹の内、1群5匹は、市販の難消化性デキストリン(松谷化学販売、商品類「ファイバーソルII」)を5質量%配合した表33に示す精製飼料で4週間飼育した(対照1)。また、残りの1群5匹は、表33に示す精製飼料で4週間飼育した(対照2)。分岐α−グルカンを配合した精製飼料で4週間飼育後、各群のラットを、各々、屠殺し、解剖して、内臓蓄積脂肪量を測定した。対照1及び2のラットも同様に処理した。その結果を表41に示す。なお、ラットの飼育は、試験期間中を通じて、2又は3日おきに体重と摂餌量を測定しながら、実験22−1と同様に餌及び水は飼育期間中を通じて自由摂取とした。なお、解剖前のラットは一晩絶食とした。また、分岐α−グルカン或いは難消化性デキストリンを配合した精製飼料で4週間飼育したときの、飼育期間中の餌の総摂取量に分岐α−グルカン又は難消化性デキストリンの配合割合(%)を乗じ、100で除して、当該飼料で飼育した期間中の分岐α−グルカン又は難消化性デキストリンの総摂取量を計算し、さらに、飼育期間(28日)で、除して、1日当たりの分岐α−グルカン又は難消化性デキストリンの摂取量を計算して、表41に併せて示す。
表41の結果から明らかなように、分岐α−グルカンを、固形物として1質量%配合した精製飼料(試験飼料1)を4週間摂取させると、精製飼料のみで飼育した場合(対照2)に比して、睾丸周囲の内臓脂肪質量が低値を示し、2又は5質量%配合した精製飼料(試験飼料2又は試験飼料3)を4週間摂取させると、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪質量が低値を示し、睾丸周囲脂肪質量は有意に低値を示した。腸間膜周囲脂肪質量は、分岐α−グルカンを、固形物として1又は2質量%配合した精製飼料(試験飼料1又は試験飼料2)で飼育した場合には、精製飼料のみで飼育した場合(対照2)に比して増加し、5質量%配合した精製飼料(試験飼料3)で飼育した場合には、精製飼料で飼育した場合(対照2)と差は認められなかった。また、5質量%市販難消化性デキストリンを配合した精製飼料を4週間摂取させた場合(対照1)には、精製飼料のみで飼育した場合(対照2)に比して、腸間膜周囲脂肪質量に差は認められず、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪質量が低値を示したものの、個体間の脂肪質量の変動幅が大きく、有意な差は認められなかった。分岐α−グルカンと市販難消化性デキストリンとを摂取させた場合の、内臓脂肪蓄積に対する抑制効果の強さを比較すると、分岐α−グルカンの方が強く、その効果は、睾丸周囲脂肪について顕著であった。この結果は、当該分岐α−グルカンが、内臓脂肪、とりわけ、睾丸周囲脂肪の蓄積抑制作用を有することを物語っている。なお、具体的なデータは示さないが、各群間で、体重の増加量、摂餌量に有意の差は認められなかった。
<実験22−4:分岐α−グルカンの摂取形態の違いが内臓蓄積脂肪に与える影響>
7週齢のウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社販売)を、無作為に5群各11匹に分けて、1週間、市販の固形飼料で飼育後、3群各11匹は、後述する実施例5の方法で調製した分岐α−グルカンを、0.5、1又は2質量%含む脱イオン水(各々、試験飲水1、試験飲水2又は試験飲水3)を飲水として与えながら、市販のラット用固形飼料で4週間飼育した。残りの2群各11匹の内、1群11匹は、市販の難消化性デキストリン(松谷化学販売、商品類「ファイバーソルII」)を2質量%含む脱イオン水を飲水として与えながら、市販のラット用固形飼料で4週間飼育した(対照1)。また、残りの1群11匹は、脱イオン水を飲水として与えながら、市販のラット用固形飼料で同様に4週間飼育した(対照2)。分岐α−グルカンを含む飲水で4週間飼育後の各群のラットを、屠殺し、解剖して、内臓蓄積脂肪質量を測定した。対照1及び2のラットも同様に処理した。その結果を表42に示す。なお、ラットの飼育は、試験期間中を通じて、2又は3日おきに体重、摂餌量と飲水の摂取量を測定しながら、実験22−1と同様に餌及び水は飼育期間中を通じて自由摂取とした。また、分岐α−グルカン或いは難消化性デキストリンを含む飲水で4週間飼育したときの、飼育期間中の飲水の総摂取量に分岐α−グルカン又は難消化性デキストリンの含有割合(%)を乗じ、100で除して、当該飲水で飼育した期間中の分岐α−グルカン又は難消化性デキストリンの総摂取量を計算し、さらに、飼育期間(28日)で、除して、1日当たりの分岐α−グルカン又は難消化性デキストリンの摂取量を計算して、表42に併せて示す。
表42の結果から明らかなように、分岐α−グルカンを、固形物として0.5、1又は2質量%含む飲水(試験飲水1、試験飲水2又は試験飲水3)を与えて4週間飼育すると、脱イオン水のみで飼育した場合(対照2)に比して、腸間膜周囲、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪質量が何れも有意に低値を示した。また市販難消化性デキストリンを5質量%含む飲水を与えて4週間飼育した場合(対照1)にも、腸間膜周囲、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪質量が何れも有意に低値を示した。分岐α−グルカンと市販難消化性デキストリンとを飲水摂取させた場合の、内臓脂肪蓄積に対する抑制効果の強さを比較すると、分岐α−グルカンの方が強く、その効果の差は、腸間膜周囲、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪の何れの部位について顕著であった。また、飼育条件は違うものの、分岐α−グルカンを混餌摂取させた場合(実験22−3)と飲水に溶解して摂取させた場合との内臓脂肪質量を比較すると、例えば、2質量%分岐α−グルカン配合精製飼料(試験飼料2)と0.5質量%含有飲水(試験飲水1)で4週間飼育した場合には、1日あたりの分岐α−グルカン摂取量は、各々0.71g及び0.34gと、0.5質量%分岐α−グルカン含有飲水で飼育した場合の方が、分岐α−グルカンの1日あたり摂取量は少ないにも拘わらず、腸間膜周囲、腎臓周囲および睾丸周囲脂肪の何れの部位について、飲水摂取の方が脂肪質量の増加の抑制が顕著であった。具体的には、2質量%分岐α−グルカン配合精製飼料(試験飼料2)で飼育した場合には睾丸周囲脂肪質量のみが対照2と有意の差が認められただけで、腸間膜周囲脂肪質量は対照2に比して増加したのに対して、0.5質量%含有飲水(試験飲水1)で飼育した場合には、腸間膜周囲、腎臓周囲および睾丸周囲の脂肪質量が何れも有意に低値を示した。この結果は、当該分岐α−グルカンが、優れた内臓脂肪の蓄積抑制作用を有することを物語っている。また、当該分岐α−グルカンは、混餌摂取よりも飲水に溶解して摂取する方が、摂取量が同じ場合、内臓脂肪蓄積抑制効果に優れていることを物語っている。なお、具体的なデータは示さないが、各群間で、体重の増加量、摂餌量及び飲水の摂取量に有意の差は認められなかった。
以上の実験の結果から、当該分岐α−グルカンは、炭水化物や脂質摂取後の血中インスリン上昇抑制剤、内臓脂肪蓄積抑制剤及び脂質代謝改善剤として利用できることが判明した。さらに、実験22の結果から、分岐α−グルカンは、固状の形態で摂取するよりも、溶液の形態で摂取する方が、摂取量が同じ場合には、その生理機能を効果的に発揮でき、また、その生理作用は市販の難消化性デキストリンよりも強いことも判明した。
以下、本発明で使用するα−グルコシル転移酵素の製造例を実施例1及び2に、本発明の脂質代謝改善剤の有効成分である分岐α−グルカンの製造例を実施例3乃至6に示す。また、本発明の脂質代謝改善剤の有効成分である分岐α−グルカンの物理化学的性質を実施例7に例示する。本発明の脂質代謝改善剤である分岐α−グルカンを含有せしめた脂質代謝改善剤を実施例8乃至15に示す。
バチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)を実験5の方法に準じて、ファーメンターで約24時間培養した。培養後、遠心分離して培養液上清を回収し、80%飽和となるように硫安を添加して4℃、24時間放置することにより塩析した。塩析物を遠心分離して回収し、これに20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、膜濃縮して濃縮粗酵素液を調製した。本濃縮粗酵素液のα−グルコシル転移酵素活性は200単位/mlであった。また、本濃縮酵素液には約25単位/mlのアミラーゼ活性も認められた。本品は、澱粉質の基質を用いた本発明で使用するα−グルカンの製造に有利に利用できる。
アルスロバクター・グロビホルミス PP349(FERM BP−10770)を実験8の方法に準じて、ファーメンターで約24時間培養した。培養後、遠心分離して培養液上清を回収し、80%飽和となるように硫安を添加して4℃、24時間放置することにより塩析した。塩析物を遠心分離して回収し、これに20mM酢酸緩衝液(pH6.0)に溶解後、同緩衝液に対して透析し、膜濃縮して濃縮酵素液を調製した。本濃縮酵素液のα−グルコシル転移酵素活性は50単位/mlであった。本品は、澱粉質の基質を用いた本発明で使用する分岐α−グルカンの製造に有利に利用できる。
澱粉部分分解物(商品名『パインデックス#100』、松谷化学株式会社販売)を濃度30質量%になるよう水に溶解し、これをpH6.0に調整し、実施例1の方法で得た濃縮粗酵素液を、α−グルコシル転移酵素活性として基質固形物1グラム当たり10単位加え、40℃、48時間作用させた。反応終了後、反応液を95℃に加熱し、10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度50質量%の分岐α−グルカン溶液を得た。本分岐α−グルカンは、メチル化分析における2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物との比が1対1.3を示し、2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の合計は部分メチル化物の70.3%を占めていた。また、2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の3.0%及び4.8%であった。また、本分岐α−グルカンは、重量平均分子量6,220ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.2であった。さらに、本分岐α−グルカンは、イソマルトデキストラナーゼ消化により、消化物の固形物当たりイソマルトースを35.1質量%生成し、酵素−HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量は75.8質量%であった。本品は、脂質代謝改善剤として、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で利用できる。また本品は、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
30%タピオカ澱粉乳に最終濃度0.1質量%となるように炭酸カルシウムを加えた後、pH6.5に調整し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製造、商品名ターマミール60L)を澱粉グラム当たり0.2質量%になるように加え、95℃で15分間反応させた。その反応液を、オートクレーブ(120℃)を10分間行った後、40℃に冷却し、これに実施例2の方法で調製したα−グルコシル転移酵素の濃縮粗酵素液を、α−グルコシル転移酵素活性として基質固形物1グラム当たり10単位加え、さらに、バチルス・ステアロサーモフィラス由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所製)を固形物1グラム当たり1単位加え、40℃、pH6.0で72時間作用させた。その反応液を95℃で10分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮、噴霧乾燥して分岐α−グルカン粉末を得た。本分岐α−グルカンは、メチル化分析において、2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物との比が1:1.6を示し、2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の合計は部分メチル化物の80.0%を占めていた。また、2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の1.4及び1.7%を示した。また、本分岐α−グルカンは、重量平均分子量10,330ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.9であった。さらに、本分岐α−グルカンは、イソマルトデキストラナーゼ消化において、消化物の固形物当たりイソマルトースを40.7質量%生成し、酵素−HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量は68.6質量%であった。本分岐α−グルカンは、本品は、脂質代謝改善剤として、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で利用できる。また本品は、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
27.1質量%トウモロコシ澱粉液化液(加水分解率3.6%)に、最終濃度0.3質量%となるように亜硫酸水素ナトリウムを、また、最終濃度1mMとなるように塩化カルシウムを加えた後、50℃に冷却し、これに実施例1の方法で調製した濃縮粗酵素液を、α−グルコシル転移酵素活性として基質固形物1グラム当たり11.1単位加え、さらに、50℃、pH6.0で68時間作用させた。その反応液を80℃で60分間保った後、冷却し、濾過して得られる濾液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮、噴霧乾燥して分岐α−グルカン粉末を得た。本分岐α−グルカンは、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の比が1:2.5を示し、2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の合計は部分メチル化物の68.4%を占めていた。また、2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の2.6及び6.8%を示した。また、本分岐α−グルカンは、重量平均分子量4,097ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.1であった。さらに、本分岐α−グルカンは、イソマルトデキストラナーゼ消化において、消化物の固形物当たりイソマルトースを35.6質量%生成し、酵素−HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量は79.4質量%であった。本分岐α−グルカンは、本品は、脂質代謝改善剤として、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で利用できる。また本品は、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
濃縮粗酵素液に替えて実験6の方法で調製したバチルス・サーキュランス PP710(FERM BP−10771)由来の精製α−グルコシル転移酵素を用い、シュードモナス・アミロデラモサ由来のイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を基質固形物1グラム当たり1,000単位加えた以外は実施例5と同様にして分岐α−グルカン粉末を得た。本分岐α−グルカンは、メチル化分析において、部分メチル化物である2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の比は1:4を示し、2,3,6−トリメチル化物と2,3,4−トリメチル化物の合計は部分メチル化物の67.9%を占めていた。また、2,4,6−トリメチル化物及び2,4−ジメチル化物は、それぞれ部分メチル化物の2.3及び5.3%を示した。また、本分岐α−グルカンは、重量平均分子量2,979ダルトンであり、重量平均分子量を数平均分子量で除した値(Mw/Mn)は2.0であった。さらに、本分岐α−グルカンはイソマルトデキストラナーゼ消化において、消化物の固形物当たりイソマルトースを40.6質量%生成し、酵素−HPLC法により求めた水溶性食物繊維含量は77質量%であった。本分岐α−グルカンは、本品は、脂質代謝改善剤として、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で利用できる。また本品は、そのままで、部分精製して、分画して、さらには、これらを配合した組成物の形態で血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
実施例5で調製した分岐α−グルカンについて、常法に従って物理化学的性質を調べ、本発明で使用する分岐α−グルカンの性質の一例として表43にまとめた。
<脂質代謝改善剤>
原乳100質量部に実施例3の方法で得た分岐α−グルカン溶液2質量部及び蔗糖3重量を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して、加糖練乳形態の脂質代謝改善剤を得た。本品を使用したスイーツや料理を摂取すれば、効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
脱脂粉乳175質量部、実施例4の方法で得た分岐α−グルカン粉末50質量部及びラクトスクロース高含有粉末(株式会社林原商事販売、登録商標『乳果オリゴ』)50質量部を水1、500質量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30質量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料形態の脂質代謝改善剤を得た。本品は液状なので、摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33質量部に対して、実施例4の方法で得た分岐α−グルカン粉末10質量部、含水結晶トレハロース20質量部、無水結晶マルチトール20質量部、無水クエン酸0.65質量部、リンゴ酸0.1質量部、2−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸0.2質量部、クエン酸ソーダ0.1質量部、及び粉末香料の適量をよく混合攪拌し、粉砕し微粉末にして、これを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃とし、これに実施例3の方法で得た分岐α−グルカン溶液をバインダーとして適量スプレーし、30分間造粒し、計量し、包装して粉末ジュース形態の脂質代謝改善剤を得た。本品を水に溶解してジュースとして摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
コーンスターチ100質量部、実施例3の方法で得た分岐α−グルカン溶液30質量部、トレハロース含水結晶70質量部、蔗糖40質量部、および食塩1質量部を充分に混合し、鶏卵280質量部を加えて攪拌し、これに沸騰した牛乳1、000質量部を徐々に加え、更に火にかけて攪拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装してカスタードクリーム形態の脂質代謝改善剤を得た。本品を、シューに詰めるなどして、摂取すれば、脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
原料小豆10質量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きし、水溶性夾雑物を除去して、小豆粒餡約21質量部を得た。この生あんに蔗糖14質量部、実施例3の方法で得た分岐α−グルカン溶液5質量部と水4質量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えて粒餡を壊さないように練り上げ、餡形態の脂質代謝改善剤を約35質量部得た。本品を使用して餡パン、まんじゅう、団子、最中、氷菓などを製造し、摂取すれば脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
小麦粉100質量部、イースト菌2質量部、蔗糖5質量部、実施例4の方法で得た分岐α−グルカン粉末1質量部および無機フード0.1質量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成、焼き上げて、パン形態の脂質代謝改善剤を得た。本品を摂取すれば脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
40質量%食品用大豆ペプチド溶液(不二製油株式会社販売、商品名『ハイニュートS』)1質量部に、実施例4の方法で得た分岐α−グルカン粉末2質量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末形態の脂質代謝改善剤を得た。本品を水に溶解して摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
実施例4の方法で得た分岐α−グルカン粉末100質量部、トレハロース含水結晶200質量部、マルトテトラオース高含有粉末200質量部、粉末卵黄270質量部、脱脂粉乳209質量部、塩化ナトリウム4.4質量部、塩化カリウム1.8質量部、硫酸マグネシウム4質量部、チアミン0.01質量部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.1質量部、ビタミンEアセテート0.6質量部およびニコチン酸アミド0.04質量部からなる配合物を調製し、この配合物を25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして、流動食形態の脂質代謝改善剤を得た。本品を摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
実施例4の方法で得た分岐α−グルカン粉末30質量部、茶抽出物0.1質量部、グァバ葉抽出物0.01質量部、L−カルニチン酒石酸塩0.02質量部、蔗糖糖1質量部、α、α−トレハロース2質量部、チアミン0.001質量部に水を加えて、全量を500質量部とし、350mlずつペットボトルに充填して、清涼飲料形態の脂質代謝改善剤を調製した。本品を摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
焙煎され、挽かれたレギュラーコーヒー用の豆を、常法により、沸騰水道水を用いて、90℃で、5分間ネルドリップして、コーヒー抽出液を得た。このコーヒー抽出液50質量部、実施例6の方法で調製した分岐α−グルカン4質量部、牛乳3.5質量部、グラニュー糖6質量部を混合し、全体として100質量部になるように沸騰水道水を加えた。次に、5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて、pHを6.5に調整し、250mlずつスチール缶に充填して、湯浴中で、93℃になるまで予備加熱した後、密封し、123℃で、15分間殺菌し、次いで、流水中で、1時間急冷して、缶コーヒー形態の脂質代謝改善剤を調製した。本品を摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
<脂質代謝改善剤>
実施例6の方法で調製した分岐α−グルカン粉末3質量部、フマル酸第一鉄0.06質量部、イノシトール0.1質量部、塩化カルニチン0.2質量部、硝酸チアミン0.01質量部、リン酸リボフラビンナトリウム0.01質量部、塩酸ピリドキシン0.01質量部、2−O−α−グルコシル−L−アスコルビン酸1質量部、アミノエチルスルホン酸2質量部、キシリトール4質量部、α,α−トレハロース5質量部、エリスリトール5、クエン酸0.8質量部、安息香酸ナトリウム0.06質量部、ミックスフルーツフレーバー0.1質量部に適量のクエン酸ナトリウムを加え、精製水に溶解した後、pHを3.0に調整し、精製水を加えて全量を100質量部とした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、100mlずつ、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液形態の脂質代謝改善剤を調製した。本品を摂取すれば、同量の分岐α−グルカンを固状の組成物の形態で摂取するよりも効果的に脂質代謝の改善をはかることができる。また、本品は、血中のインスリンや中性脂肪の上昇抑制剤乃至予防剤、内臓脂肪蓄積抑制剤乃至予防剤として利用することもできる。
本発明の脂質代謝改善剤は、有効成分である分岐α−グルカンの安全性が高く、消化性も市販の難消化性デキストリンと遜色がなく、しかも、優れた脂質代謝改善作用を備えている。また、本発明の脂質代謝改善剤は、長期間摂取しても副作用がなく、安心して使用することができ。本発明は、斯くも顕著な作用効果を奏する発明であり、斯界に多大の貢献をする、誠に意義のある発明である。
バチルス・サーキュランス PP710由来及びアルスロバクター・グロビホルミス PP349由来のα−グルコシル転移酵素標品をそれぞれ用いて澱粉部分分解物より調製したグルカンA及びBのゲル濾過HPLCのクロマトグラムを基質である澱粉部分分解物のそれと比較した図である。 澱粉部分分解物及び本発明で使用する分岐α−グルカンの構造を模式的に示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の至適温度を示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の至適pHを示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素の温度安定性を示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素のpH安定性を示す図である。 アルスロバクター・グロビホルミスPP349由来α−グルコシル転移酵素の至適温度を示す図である。 アルスロバクター・グロビホルミスPP349由来α−グルコシル転移酵素の至適pHを示す図である。 アルスロバクター・グロビホルミスPP349由来α−グルコシル転移酵素の温度安定性を示す図である。 アルスロバクター・グロビホルミスPP349由来α−グルコシル転移酵素のpH安定性を示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼの至適温度を示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼの至適pHを示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼの温度安定性を示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来アミラーゼのpH安定性を示す図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製品とアミラーゼ精製品とを併用して調製した分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCのクロマトグラムを基質である澱粉部分分解物のそれと比較した図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製品とイソアミラーゼとを併用して調製した分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCのクロマトグラムを基質である澱粉部分分解物のそれと比較した図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製品とα−アミラーゼとを併用して調製した分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCのクロマトグラムを基質である澱粉部分分解物のそれと比較した図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製品とCGTaseとを併用して調製した分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCのクロマトグラムを基質である澱粉部分分解物のそれと比較した図である。 バチルス・サーキュランス PP710由来α−グルコシル転移酵素精製品と、イソアミラーゼ及びCGTaseを併用して調製した分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCのクロマトグラムを基質である澱粉部分分解物のそれと比較した図である。
符号の説明
図1及び図15〜19において、
イ:分子量1000,000ダルトンに相当する溶出位置
ロ:分子量100,000ダルトンに相当する溶出位置
ハ:分子量10,000ダルトンに相当する溶出位置
ニ:分子量1,000ダルトンに相当する溶出位置
ホ:分子量100ダルトンに相当する溶出位置
図1において、
a:基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:グルカンAのゲル濾過HPLCクロマトグラム
c:グルカンBのゲル濾過HPLCクロマトグラム
1:グルコース重合度499に相当する位置
2:グルコース重合度6.3に相当する位置
3:グルコース重合度384に相当する位置
4:グルコース重合度22.2に相当する位置
5:グルコース重合度10.9に相当する位置
6:グルコース重合度1に相当する位置
7:グルコース重合度433に相当する位置
8:グルコース重合度22.8に相当する位置
9:グルコース重合度10.9に相当する位置
10:グルコース重合度1に相当する位置
図2において、
1:澱粉部分分解物の模式図
2:本発明で使用する分岐α−グルカンの模式図
a:非還元末端グルコース残基
b:α−1,3結合しているグルコース残基
c:α−1,4結合しているグルコース残基
d:α−1,6結合しているグルコース残基
e:α−1,3,6結合しているグルコース残基
f:α−1,4,6結合しているグルコース残基
斜め向き破線:α−1,3結合
横向き実線:α−1,4結合
縦向き実線:α−1,6結合
図13において、
●:カルシウムイオン非存在下
○:1mMカルシウムイオン存在下
図15において、
a:基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、アミラーゼを0.1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
c:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、アミラーゼを0.2単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
d:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、アミラーゼを0.5単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
e:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、アミラーゼを1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
図16において、
a:基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを50単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
c:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを200単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
d:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを500単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
e:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを1000単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
図17において、
a:基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、α−アミラーゼを0.1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
c:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、α−アミラーゼを0.2単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
d:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、α−アミラーゼを0.5単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
e:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、α−アミラーゼを1.0単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
図18において、
a:基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、CGTaseを0.1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
c:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、CGTaseを0.2単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
d:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、CGTaseを0.5単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
e:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、CGTaseを1.0単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
図19において、
a:基質とした澱粉部分分解物のゲル濾過HPLCクロマトグラム
b:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを50単位、CGTaseを1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
c:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを200単位、CGTaseを1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
d:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを500単位、CGTaseを1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム
e:基質1グラム当たりα−グルコシル転移酵素を10単位、イソアミラーゼを1000単位、CGTaseを1単位作用させて得られた分岐α−グルカンのゲル濾過HPLCクロマトグラム

Claims (8)

  1. グルコースを構成糖とするα−グルカンであって、メチル化分析において、下記の特徴を有する分岐α−グルカンを含有する脂質代謝改善剤。
    (1)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールの比が1:0.6乃至1:4の範囲にある;
    (2)2,3,6−トリメチル−1,4,5−トリアセチルグルシトールと2,3,4−トリメチル−1,5,6−トリアセチルグルシトールとの合計が部分メチル化グルシトールアセテートの60%以上を占める;
    (3)2,4,6−トリメチル−1,3,5−トリアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上10%未満である;及び
    (4)2,4−ジメチル−1,3,5,6−テトラアセチルグルシトールが部分メチル化グルシトールアセテートの0.5%以上である。
  2. 分岐α−グルカンのグルコース重合度が10以上であって、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)が20未満である請求項1記載の脂質代謝改善剤。
  3. 分岐α−グルカンが、イソマルトデキストラナーゼ(EC 3.2.1.94)消化により、消化物の固形物当たりイソマルトースを25質量%以上50質量%以下生成することを特徴とする請求項1又は2記載の脂質代謝改善剤。
  4. 分岐α−グルカンが、高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)により求めた水溶性食物繊維含量が40質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の脂質代謝改善剤。
  5. 分岐α−グルカンと共に食品素材、食品添加物、医薬品、医薬品添加物、医薬部外品添加物から選ばれる1種または2種以上を配合してなる請求項1乃至4の何れかに記載の脂質代謝改善剤。
  6. 液状の形態であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の脂質代謝改善剤。
  7. 脂質代謝改善作用を有することを標榜してなる請求項1乃至6のいずれかに記載の脂質代謝改善剤。
  8. 請求項1乃至7の何れかに記載の脂質代謝改善剤の、血中インスリン上昇抑制剤又は予防剤、血中中性脂肪上昇制剤又は予防剤、乃至、内臓脂肪蓄積抑制剤又は予防剤としての使用。
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