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JP2009280794A - ポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法 - Google Patents

ポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法 Download PDF

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JP2009280794A JP2009033339A JP2009033339A JP2009280794A JP 2009280794 A JP2009280794 A JP 2009280794A JP 2009033339 A JP2009033339 A JP 2009033339A JP 2009033339 A JP2009033339 A JP 2009033339A JP 2009280794 A JP2009280794 A JP 2009280794A
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Masahiro Inohara
雅博 井ノ原
Takeshi Higashihara
武志 東原
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芳樹 真壁
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Abstract

【課題】本発明は、溶融流動性と成形安定性に優れ、成形時の金型汚れを発生させにくく、さらには靭性に優れた充填材強化樹脂組成物を得ることのできるポリフェニレンスルフィド樹脂を得る。
【解決手段】 メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が500g/10分を越える性質を有するポリフェニレンスルフィド樹脂1gに対し、酸素濃度が2体積%以下である不活性気体を0.2mL/分以上流通させながら、210℃以上ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点未満の温度範囲において熱処理することを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、溶融流動性と成形安定性に優れ、成形時での金型汚れを発生させにくく、さらには靭性に優れた充填材強化樹脂組成物を得ることのできるポリフェニレンスルフィド樹脂を得るための処理方法に関するものである。
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)樹脂は、優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品、フィルム、繊維などに使用されている。
しかし、PPS樹脂はその融点が高い故に、溶融加工温度が高く、そのため溶融加工時に揮発性成分が発生し易い。特に、電気電子部品のように電気絶縁性が求められるPPS樹脂は金属含有量を低下させるために酸処理が行われる。このようなPPS樹脂は、その揮発成分の発生が著しく、金型汚れや金型ベント詰まりによる成形不良を起こす場合があり、揮発成分の低減が強く望まれている。かかる揮発成分はPPS樹脂を融点以下の温度で熱処理をすることにより低減し得るが、過度な熱処理は、溶融粘度の過度な上昇やゲル化物生成による成形性の悪化などの弊害をもたらす。本発明は、PPS樹脂を特定の条件で不活性気体を流通させながら熱処理を行うことによって、溶融粘度を大きく上昇させずに、揮発性成分が大きく減少する事を見い出したものである。
PPS樹脂を熱処理することは以前より行われている。例えば特許文献1にはPPS樹脂を不活性雰囲気下、200℃以上の温度で処理して、さらに酸化性雰囲気下で硬化して、溶融粘度が5000ポイズ(500Pa・s)(300℃、剪断速度200/秒)以上であるPPS樹脂の製造方法が開示されている。しかし、5000ポイズはメルトフローレートに換算すると100g/10分未満であり、かかるPPS樹脂は溶融粘度が高すぎるために射出成形時の流動性が著しく悪化するため、特にフィラー含有PPS樹脂組成物の射出成形には不向きである。また該特許に開示されているPPS樹脂は熱酸化処理度合いも比較的大きく、熱酸化処理度合いが大きすぎると、ガス低減効果が飽和する反面、溶融流動性は低下する難点がある。
特許文献2には気相酸化性雰囲気下でPPS樹脂を硬化させ、機械的強度をあげる方法が開示されているものの、揮発成分を低減させることについては記載されておらず、優れた溶融流動性と低揮発成分化を両立しえることについては何ら記載されていない。
特許文献3にはPPS樹脂の揮発成分の低減方法として、有機溶媒中で加熱し、溶解除去する方法が開示されているが、比較的高沸点の溶媒を揮発除去させる必要があり、設備的にも経済的にも不利であり、現実的ではなかった。
特開平4−339830号公報(特許請求の範囲) 特開平1−121327号公報(特許請求の範囲) 特開平6−172530号公報(特許請求の範囲)
本発明は、比較的安価に、溶融流動性と成形安定性に優れ、成形時での金型汚れを発生させにくく、さらには靭性に優れた充填材強化樹脂組成物を得ることのできるPPS樹脂を得ることを課題として検討した結果達成されたものである。
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく検討した結果、メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が500g/10分を越えるポリフェニレンスルフィド樹脂1gに対し、酸素濃度が2体積%以下である不活性気体を0.2mL/分以上流通させながら、210℃以上ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点未満の温度範囲において熱処理することにより、溶融流動性と成形安定性に優れ、成形時での金型汚れを発生させにくく、さらには靭性に優れた充填材強化樹脂組成物を得ることのできるPPS樹脂の処理方法を見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1.メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が500g/10分を越えるポリフェニレンスルフィド樹脂1gに対し、酸素濃度が2体積%以下である不活性気体を0.2mL/分以上流通させながら、210℃以上ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点未満の温度範囲において熱処理することを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
2.不活性気体が、窒素、二酸化炭素、水蒸気および希ガスから選ばれる少なくとも1種の気体を主成分とすることを特徴とする1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
3.不活性気体の流通量が、ポリフェニレンスルフィド樹脂1gに対し、10L/分以下であることを特徴とする、1または2記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
4.210℃以上270℃未満の温度において熱処理することを特徴とする1〜3いずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
5.ポリフェニレンスルフィド樹脂がフラッシュ法で回収されたポリフェニレンスルフィド樹脂であることを特徴とする1〜4いずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
6.ポリフェニレンスルフィド樹脂を酸処理してから、1〜5いずれかに記載の熱処理を行うことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
7.ポリフェニレンスルフィド樹脂を80〜250℃で熱水処理してから酸処理し、さらに1〜5いずれかに記載の熱処理を行うことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
本発明によれば、溶融流動性と成形安定性に優れ、成形時の金型汚れを発生させにくく、さらには靭性に優れた充填材強化樹脂組成物を得ることのできるPPS樹脂が得られる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の処理方法により得られるPPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
Figure 2009280794
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
Figure 2009280794
本発明の処理方法により得られるPPS樹脂は、真空下、320℃で2時間加熱溶融した際に揮発するガス発生量が0.3重量%以下であり、好ましくは0.28重量%以下、さらに好ましくは0.22重量%以下であることが望ましい。熱処理後のガス発生量が0.3重量%を上回ると、金型や金型ベント部に付着する揮発性成分が増加し、転写不良やガスやけが起こりやすくなるため好ましくない。熱処理後のガス発生量の下限については特に制限しないが、ガス発生量を低減するまで熱処理する時間が長くなると、経済的に不利であり、また、熱処理する時間の長期化により、ゲル化物が生じ易くなり、成形不良を引き起こす一因となり得る。
なお、上記ガス発生量とは、PPS樹脂を真空下で加熱溶融した際に揮発するガスが、冷却されて液化または固化した付着性成分の量を意味しており、PPS樹脂を真空封入したガラスアンプルを、管状炉で加熱することにより測定されるものである。ガラスアンプルの形状としては、腹部が100mm×25mm、首部が255mm×12mm、肉厚が1mmである。具体的な測定方法としては、PPS樹脂を真空封入したガラスアンプルの胴部のみを320℃の管状炉に挿入して2時間加熱することにより、管状炉によって加熱されていないアンプルの首部で揮発性ガスが冷却されて付着する。この首部を切り出して秤量した後、付着したガスをクロロホルムに溶解して除去する。次いで、この首部を乾燥してから再び秤量する。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差よりガス発生量を求める。
本発明の処理方法により得られるPPS樹脂は、メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が500g/10分を超える範囲であることが好ましい。メルトフローレートが500g/10分以下であると、特にフィラーを高充填して使用する場合にPPS樹脂組成物の溶融流動性が著しく悪化し、成形が不安定となるため好ましくない。本発明の処理方法により得られるPPS樹脂の溶融粘度の上限については特に制限はないが、実用に耐える強度を有する樹脂(組成物)を得る観点から、1Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)以上であることが好ましい。
本発明は、酸素濃度が2体積%以下である不活性気体をPPS樹脂1gに対し、0.2mL/分以上流通させながら、熱処理をすることを特徴とするPPS樹脂の処理方法であるが、この本発明において必須の熱処理を施す前のPPS樹脂はいかなる方法で得られたものでも良く、したがって、市販されているPPS樹脂を用いることもできるし、以下に述べるようにモノマーを重合して製造することもできる。
以下に、本発明の必須の熱処理を施す前のPPS樹脂を製造する方法を述べる。まず、使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ−p−キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からスルフィド化剤を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いることが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
[分子量調節剤]
生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
[重合助剤]
比較的高重合度のPPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩および/または水が好ましく用いられる。
上記有機カルボン酸塩のなかでも、アルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
これら重合助剤を用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜0.7モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
また水を重合助剤として用いることは、流動性と高靭性が高度にバランスした樹脂組成物を得る上で有効な手段の一つである。その場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.5モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。
次に、前工程、重合反応工程、回収工程を順を追って具体的に説明する。
[前工程]
スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.5〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂粉粒体を製造することが好ましい。
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜220℃、好ましくは100〜220℃の温度範囲で、有機極性溶媒にスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を加える。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
[回収工程]
重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。
PPS樹脂の最も好ましい回収方法は、急冷条件下に行うことであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2 以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉粒体状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。この回収方法では、固化過程でNaに代表されるイオン性化合物や有機系低重合度物(オリゴマー)がポリマー中に取り込まれやすい傾向がある。そのため、フラッシュ法で回収する場合、水洗することが好ましく、特に熱水処理する直前に水洗することが好ましい。
但し、本発明の処理方法に用いられるPPS樹脂の回収法は、フラッシュ法に限定されるものではない。本発明の要件を満たす方法であれば、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法(クエンチ法)を用いることもやぶさかではない。しかし、経済性、性能を鑑みた場合、本発明の処理方法はフラッシュ法で回収されたPPS樹脂を用いることがより好ましい。
[熱処理工程]
次に本発明の必須要件であるPPS樹脂の熱処理について詳述する。
本発明のPPS樹脂の処理方法は、たとえば上記重合反応工程、回収工程を経て得られたPPS樹脂を、酸素濃度が2体積%以下である不活性気体をPPS樹脂1gに対し、0.2mL/分以上流通させながら熱処理することが必須であり、熱処理する工程の前に酸処理工程を含んでなることが好ましい。さらに、酸処理する工程の前に熱水処理する工程を含んでなることがより好ましい。また、酸処理する工程や熱水処理する工程の前に有機溶媒により洗浄する工程を含んでもよいし、熱処理の後に熱酸化処理する工程を含んでも良い。
本発明の熱処理のための加熱装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく均一に処理するためには、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。またその回転数は特に限定されないが、PPS樹脂が固着せず、なおかつ飛散してしまわない程度にするのが好ましい。回転式装置では1rpm〜100rpmが好ましい範囲として例示でき、撹拌式加熱装置では3rpm〜1000rpmが好ましい範囲として例示できる。
本発明における熱処理は、酸素濃度2体積%以下である不活性気体をPPS樹脂1gに対し、0.2mL/分以上流通させながら実施することが必須であるが、その流量としては0.5mL/分以上流通させることが好ましく、さらに好ましくは1mL/分以上流通させることが好ましい。0.2mL/分未満のガス流量では揮発成分の低減が困難となり好ましくなく、10L/分より大きい流量では、PPS樹脂の飛散によるロスも著しくなることから好ましくない。ここで示す不活性気体の流量は標準状態における体積を基準とする。
また、酸素濃度は2体積%以下であることが必須であるが、好ましくは1.5体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下であることが好ましい。酸素濃度が2体積%よりも大きいと、PPS樹脂の酸化反応を抑制することが困難となり、揮発成分を低減する前にPPS樹脂の溶融粘度が上がってしまい、流動性が著しく低下するために好ましくない。
本発明における不活性気体とは、PPS樹脂を酸化する能力を持たなければ特に限定される訳ではないが、例としては窒素、二酸化炭素、水蒸気、希ガスなどを主成分とする気体が挙げられ、これらの不活性気体が90体積%以上含まれる気体が好ましい。希ガスとしてはヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンなどが挙げられる。なかでも、窒素、二酸化炭素、水蒸気、ヘリウム、アルゴンが好ましく、特に窒素、二酸化炭素、水蒸気が好ましい。また、PPS樹脂の酸化を抑制するために系内を減圧にして酸素分圧を20mmHg以下とすることで、酸素濃度を2体積%以下とすることと同様の効果を得ることも可能である。
また、本発明の熱処理温度は、210℃〜PPS樹脂の融点未満が必須であるが、210〜270℃が好ましく、より好ましくは220〜260℃である。PPS樹脂の融点以上の温度で熱処理を行うと、熱分解によるPPS樹脂の架橋反応が進み、PPS樹脂の溶融粘度が急激に上昇するため、その制御が困難となり流動性が著しく低下するため好ましくない。一方、210℃未満の温度では、揮発成分の低減が十分でなく、好ましくない。
熱処理時間としては、0.2〜50時間が挙げられ、0.5〜10時間がより好ましく、1〜5時間がさらに好ましい。処理時間が0.2時間未満であると十分に揮発成分を低減させることが困難となって好ましくなく、処理時間が50時間を超えると熱分解による架橋反応が進行して流動性が低下するため好ましくない。
本発明におけるPPS樹脂は、熱処理を行う前のメルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が500g/10分を超える範囲であることが必須である。メルトフローレートが500g/10分以下であると、熱処理後に得られるPPS樹脂のメルトフローレートも500g/10分以下となり、特にフィラーを高充填して使用する場合にPPS樹脂組成物の溶融流動性が著しく悪化し、成形が不安定となるため好ましくない。また、PPS樹脂の溶融粘度の上限については特に制限はないが、熱処理後に1Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)以上となるようなPPS樹脂を用いることが、実用に耐える強度を有する樹脂(組成物)を得る観点から好ましい。特に本発明における熱処理方法では、熱処理前後の溶融粘度があまり大きく変化しないので、目的とするPPS樹脂の溶融粘度に合わせて熱処理前のPPS樹脂を設計しやすいという利点がある。
[後処理工程・酸処理]
本発明におけるPPS樹脂は、熱処理を行う前に酸処理を行うことで金属含有量が低減し、熱処理時に揮発成分が低減しやすくなるために好ましい。以下に酸処理工程の方法について詳述する。
酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
酸の水溶液を用いるときの水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。酸の水溶液は、pH1〜7が好ましく、pH2〜4がより好ましい。pHが7より大きいとPPS樹脂の金属含有量が増大するため好ましくなく、pHが1より小さいとPPS樹脂の揮発成分が多くなるため好ましくない。
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に窒素雰囲気下でPPS樹脂を浸漬せしめることが好ましく、必要により適宜撹拌および加熱することも可能である。加熱する際の温度は80〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。80℃未満では酸処理効果が小さく、金属含有量が増大し、250℃を超えると圧力が高くなりすぎるため安全上好ましくない。また、酸の水溶液でPPS樹脂を浸漬せしめて処理した際のpHは、酸処理により8未満となることが好ましく、pH2〜8がより好ましい。pHが8より大きくなると得られるPPS樹脂の金属含有量が増大するため好ましくない。
酸処理の時間は、PPS樹脂と酸の反応が十分に平衡となる時間が好ましく、80℃で処理する場合は2〜24時間が好ましく、200℃で処理する場合は0.01〜5時間が好ましい。
酸処理におけるPPS樹脂と酸または酸の水溶液との割合は、PPS樹脂が酸または酸の水溶液中に十分に浸漬された状態で処理することが好ましく、PPS樹脂500gに対して、酸または酸の水溶液0.5〜500Lが好ましく、1〜100Lがより好ましく、2.5〜20Lがさらに好ましい。PPS樹脂500gに対して酸または酸の水溶液が0.5Lより少ないとPPS樹脂が水溶液に十分浸漬しないため洗浄不良となり、PPS樹脂の金属含有量が増大するため好ましくない。また、PPS樹脂500gに対して、酸または酸の水溶液が500Lを超えると、PPS樹脂に対する溶液量が大過剰となり生産効率が著しく低下するため好ましくない。
これらの酸処理は所定量の水および酸に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱・撹拌する方法、連続的に酸処理を施す方法などにより行われる。特に加熱を伴う処理を行うときは、窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。酸処理後の処理溶液から水溶液とPPS樹脂を分離する方法はふるいやフィルターを用いた濾過が簡便であり、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過などの方法が例示できる。処理液から分離されたPPS樹脂表面に残留している酸や不純物を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄方法は濾過装置上のPPS樹脂に水をかけながら濾過する方法や、予め用意した水に、分離したPPS樹脂を投入した後に再度濾過するなどの方法で水溶液とPPS樹脂を分離する方法が例示できる。洗浄に用いる水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
[後処理工程・熱水処理]
本発明では酸処理工程の前に熱水処理を行うことがさらに好ましく、その方法は次のとおりである。本発明における熱水処理に用いる水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、熱水処理後のpHがアルカリ性となるようにアルカリ金属水酸化物などを添加しても良い。特に、熱水処理中のpHが10以上であれば、カルボン酸末端を持つ不純物の除去率が高くなり、熱処理時に揮発成分を低減しやすくなるために好ましい。また、熱水処理温度は80〜250℃が好ましく、120〜200℃がより好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。80℃未満では熱水処理効果が小さく、揮発するガス発生量が多くなり、250℃を超えると圧力が高くなりすぎるため安全上好ましくない。酸処理工程の前に熱水処理をすることが好ましいのは、熱水処理することで金属含有量を低減でき、熱処理時に揮発成分を低減しやすくなるためである。
熱水処理の時間は、PPS樹脂と熱水による抽出処理が十分である時間が好ましく、80℃で処理する場合は2〜24時間が好ましく、200℃で処理する場合は0.01〜5時間が好ましい。
熱水処理におけるPPS樹脂と水との割合は、PPS樹脂が水に十分に浸漬された状態で処理することが好ましく、PPS樹脂500gに対して、水0.5〜500Lが好ましく、1〜100Lがより好ましく、2.5〜20Lがさらに好ましい。PPS樹脂500gに対して水が0.5Lより少ないとPPS樹脂が水に十分浸漬しないため洗浄不良となり、揮発するガス発生量が増大するため好ましくない。また、PPS樹脂500gに対して、水が500Lを超えると、PPS樹脂に対する水が大過剰となり生産効率が著しく低下するため好ましくない。
これらの熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱・撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われるが、窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。熱水処理後の処理溶液から水溶液とPPS樹脂を分離する方法に特に制限は無いが、ふるいやフィルターを用いた濾過が簡便であり、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過などの方法が例示できる。処理液から分離されたPPS樹脂表面に残留している不純物を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄方法に特に制限は無いが、濾過装置上のPPS樹脂に水をかけながら濾過する方法や、予め用意した水に、分離したPPS樹脂を投入した後に再度濾過するなどの方法で水溶液とPPS樹脂を分離する方法が例示できる。洗浄に用いる水は、蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
また、これら酸処理や熱水処理時のPPS末端基の分解は好ましくないので、酸処理や熱水処理を不活性雰囲気下とすることが望ましい。不活性雰囲気としては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどがあげられるが、経済性の観点から窒素雰囲気下が好ましい。
[後処理工程・有機溶媒洗浄]
本発明では酸処理する工程や熱水処理する工程の前に有機溶媒により洗浄する工程を含んでもよく、その方法は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。特に加熱を伴う処理を行うときは、窒素などの不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
これら酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄は、これらを適宜組み合わせて行うことも可能であるが、順番としては有機溶媒洗浄、熱水処理、酸処理の順に行うことが好ましく、熱水処理、酸処理のみでも充分な効果が得られる。
[後処理工程・熱酸化処理]
本発明における熱処理を行った後に、PPS樹脂の溶融粘度をさらに上げるために熱酸化処理を行うことも可能である。以下にその方法について記す。
熱酸化処理のための加熱装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく均一に処理するためには、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。熱酸化処理の際の雰囲気における酸素濃度は2体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、安全操業的に50体積%程度が限界であり、25体積%以下がより好ましい。熱酸化処理温度は、160〜270℃が好ましく、より好ましくは160〜220℃である。270℃を上回る温度で熱酸化処理を行うと、熱酸化処理が急激に進行するため、その制御が困難となるため好ましくない。一方、160℃未満の温度では、熱酸化処理の進行が著しく遅くなり好ましくない。処理時間は、0.2〜50時間が挙げられ、0.5〜10時間がより好ましく、1〜5時間がさらに好ましい。処理時間が0.2時間未満であると十分な熱酸化処理が行えないため好ましくなく、処理時間が50時間を超えると熱酸化処理による架橋反応が進行して流動性が低下すると同時に、成形安定性が低下するため好ましくない。
[用途]
かくして本発明の処理方法により得られたPPS樹脂は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、射出成形品、フィルム、シート、繊維などに適用することが可能であるが、特に射出成形用途に好適に適用される。
なお、本発明の効果を得る上で、本発明の処理方法により得られるPPS樹脂を100%用いて成形品とすることが好ましいが、必要に応じ、上記条件を満たさないPPS樹脂とブレンド使用する事を排除するものではない。ブレンド比率としては、本発明の処理方法により得られるPPS樹脂を75〜25%(例えば75%、50%、25%)ブレンドするなど適宜必要に応じ選択することは可能である。
また本発明の処理方法により得られるPPS樹脂には本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を添加することも可能である。例えば、柔軟性の高い熱可塑性樹脂を少量添加することにより柔軟性及び耐衝撃性を更に改良することが可能である。但し、この量が組成物全体の50重量%を超えるとPPS樹脂本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、特に30重量%以下の添加が好ましく使用される。熱可塑性樹脂の具体例としては、エポキシ基含有オレフィン系共重合体、その他のオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えるとPPS樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
また、本発明の処理方法により得られるPPS樹脂には機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランを添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
かかるシラン化合物の好適な添加量は、PPS樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲が選択される。
本発明の処理方法により得られるPPS樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で充填材を配合して使用することも可能である。かかる充填材の具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはタルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、カーボンナノチューブ、フラーレン、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
かかる無機フィラーの配合量は通常、PPS樹脂100重量部に対し、0.0001〜500重量部の範囲が好ましく、0.001〜400重量部の範囲がより好ましい。無機フィラーの含有量は、強度と剛性、その他特性のバランスから用途により適宜変えることが可能である。
混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給してPPS樹脂の融解ピーク温度+5〜60℃の加工温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。副原料を用いる際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
このようにして得られる本発明のPPS樹脂(組成物)は、特に射出成形用途に適しており、その具体的用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体封止部品、液晶表示装置部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、エンジンコントロールユニットケース、エンジンドライバーユニットケース、コンデンサーケース、モーター絶縁材料、ハイブリッドカーの制御系部品ケースなどの自動車・車両関連部品、その他の各種用途が例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例において、材料特性については下記の方法により行った。
[ガス発生量]
腹部が100mm×25mm、首部が255mm×12mm、肉厚が1mmのガラスアンプルにPPS樹脂3gを計り入れてから真空封入した。このガラスアンプルの胴部のみを、アサヒ理化製作所製のセラミックス電気管状炉ARF−30Kに挿入して320℃で2時間加熱した。アンプルを取り出した後、管状炉によって加熱されておらず揮発ガスの付着したアンプルの首部をヤスリで切り出して秤量した。次いで付着ガスを5gのクロロホルムで溶解して除去した後、60℃のガラス乾燥機で1時間乾燥してから再度秤量した。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差をガス発生量(重量%)とした。
[メルトフローレート(MFR)]
測定温度315.5℃、5000g荷重とし、ASTM−D1238−70に従って測定した。但し、MFRが1000g/10分を超える低粘度品は流動性が高すぎるため本測定方法では測定が困難である。溶融粘度の低いPPS樹脂(例えば、実施例3〜9)は、下記のキャピログラフによる溶融粘度の測定を行った。なお、MFR=500g/10分のPPS樹脂の溶融粘度を測定したところ約80Pa・s(300℃、剪断速度1000/秒)であった。架橋度などに大きな違いがなく溶融粘度の剪断速度、温度依存性に大きな違いがない場合、PPS樹脂の溶融粘度が80Pa・sより低い時は、MFRが500g/10分を超えることをあらわしている。
[溶融粘度]
東洋精機社製キャピログラフ1Cを用い、孔長10.00mm、孔直径0.50mmのダイスを用い、300℃で溶融粘度の測定を行った。
[成形安定性]
PPS樹脂を100重量部、ガラス繊維(日本電気硝子社製ECS03TN−103/P)67重量部をドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30α型2軸押出機(L/D=45.5)を用い、スクリュー回転数300rpmでシリンダー出樹脂温度が320℃となるように温度を設定し、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを、ファナックロボショットα−30i射出成形機(ファナック社製)に供し、射出速度300mm/秒、射出圧力40MPa、シリンダー設定温度300℃、金型温度150℃、射出時間1秒、冷却時間20秒、スクリュー回転数100rpm、背圧1MPa、サックバック10mmの条件で、棒状成形品(幅12.7mm、厚み0.5mm、サイドゲート0.5mm×5.0mm)を連続成形し、成形品の長さを棒流動長として測定した。最初の20ショットを捨てた後、100ショットの棒流動長の最大と最小の差を求め、100ショットの平均棒流動長に対して最大と最小の差が5%以下のものを成形安定性が「優れる(◎)」、5%〜10%のものを「良好(○)」、10%を超えるものを「劣る(×)」とした。
[金型汚れ性]
PPS樹脂を100重量部、ガラス繊維(日本電気硝子社製ECS03TN−103/P)67重量部ドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30α型2軸押出機(L/D=45.5)を用い、スクリュー回転数300rpmでシリンダー出樹脂温度が320℃となるように温度を設定し、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを、射出成形機UH1000(日精樹脂工業社製)を用いて樹脂温度300℃、金型温度150℃で80mm×80mm×2.0mm厚の試験片を100回連続成形し、金型表面の変色状態を目視確認し、「変色なし(○)」、「変色あり(△)」、「著しく変色(×)」とした。
[アイゾット衝撃試験]
PPS樹脂を100重量部、ガラス繊維(日本電気硝子社製ECS03TN−103/P)100重量部、炭酸カルシウム(金平鉱業社製KSS−1000)133重量部をドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30α型2軸押出機(L/D=45.5)を用い、スクリュー回転数300rpmでシリンダー出樹脂温度が320℃となるように温度を設定し、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを、射出成形機UH1000(日精樹脂工業社製)を用いて樹脂温度300℃、金型温度150℃でアイゾット衝撃試験用テストピースを射出成形し、アイゾット(厚み1/8、ノッチ付き)衝撃強度(ASTMD−256に準拠:測定温度23℃)を測定した。
[参考例1]PPS−1の調製
撹拌機および底に弁のついたオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.4g(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2925.0g(70.2モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13860.0g(140.0モル)、酢酸ナトリウム1894.2g(23.1モル)、及びイオン交換水10500.0gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14772.1gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10646.7g(72.4モル)、NMP6444.9g(65.1モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で70分保持した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
得られた固形物およびイオン交換水53リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ポアサイズ10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をポアサイズ10〜16μmのガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してPPS−1のケークを得た。
[参考例2]PPS−2の調製
PPS−1のケーク18000g、イオン交換水40リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持して熱水処理を施した。オートクレーブ冷却後、内容物をポアサイズ10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。ろ液のpHは10であった。次いで70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。得られたケーク、イオン交換水40リットル、および酢酸700gを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持して酸処理を施した。オートクレーブ冷却後、内容物をポアサイズ10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。ろ液のpHは4であった。次いで、70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下120℃で4時間乾燥し、PPS−2の粉末を得た。得られたPPS−2のMFRは、695g/10分であった。
[参考例3]PPS−3の調製
酢酸700gのかわりに酢酸43gを用いた他は、参考例2と同様にしてPPS−3の粉末を得た。酸処理後のろ液のpHは7であった。得られたPPS−3のMFRは、684g/10分であった。
[参考例4]PPS−4の調製
重合時に酢酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は、参考例1と同様にしてPPS−4のケークを得た。
[参考例5]PPS−5の調製
PPS−1のケークのかわりにPPS−4のケークを用いた他は、参考例2と同様にしてPPS−5の粉末を得た。得られたPPS−5のMFRは、1000g/10分以上であった。
[参考例6]PPS−6の調製
酢酸700gのかわりに酢酸43gを用いた他は、参考例5と同様にしてPPS−6の粉末を得た。酸処理後のろ液のpHは7であった。得られたPPS−6のMFRは、1000g/10分以上であった。
[実施例1]
PPS−2の粉末1400gを撹拌機付き乾燥機に入れ、窒素11.2L/分(8mL/g−PPS・分)を乾燥機に導入し、240℃で4時間熱処理を行った(回転数:9rpm)。ガス発生量0.16重量%、MFR619g/10分のPPS粉末が得られた。
[比較例1、2]
PPS−2の粉末1400gを撹拌機付き乾燥機に入れ、窒素置換した後、240℃で4時間および8時間熱処理を行った。
[比較例3]
実施例1と同様に熱処理温度を200℃に変えて実施した。ガス発生量0.31重量%、MFR468g/10分のPPS粉末が得られた。
[実施例2]
PPS−3の粉末2000gを撹拌機付き乾燥機に入れ、窒素1000mL/分(0.5mL/g−PPS・分)を乾燥機に導入し、210℃で13時間熱処理を行った。ガス発生量0.17重量%、MFR556g/10分のPPS粉末が得られた。
[比較例4]
PPS−3の粉末2000gを撹拌機付き乾燥機に入れ、空気524mL/分と窒素476mL/分(総流量0.5mL/g−PPS・分)を乾燥機に導入し、210℃で2時間熱処理を行った。ガス発生量0.19重量%、MFR474g/10分のPPS粉末が得られた。
Figure 2009280794
比較例1では、窒素ガスの流量が不足するために揮発成分の低減が充分でなく、金型汚れについて良好な結果が得られないことが分かる。また比較例2では、窒素ガスの流量が不足するために良流動性を保って揮発成分を低減することができず、成形安定性に劣る結果となった。
比較例3では温度が低いために揮発成分の低減が充分でなく、成形安定性・金型汚れともに劣る結果となった。
比較例4では、酸化性気体を用いたために良流動性を保って揮発成分を低減することができず、成形安定性に劣る結果となった。
[アイゾット衝撃試験による比較]
また、実施例1、比較例1、比較例4についてはアイゾット衝撃試験も実施した。窒素を流通させながら熱処理した場合(実施例1)は、58J/mと高い機械的強度を示したが、流通させずに熱処理した場合(比較例1)では18J/m、11%酸素を用いて熱処理した場合(比較例4)では21J/mと機械的強度が低く、不活性気体を流通させながら熱処理することが靭性を向上させるのに効果的であることが分かった。
[実施例3〜7]
PPS−5の粉末1800gを撹拌機付き乾燥機に入れ、窒素14.4L/分(8mL/g−PPS・分)を乾燥機に導入し、表2の条件で熱処理を行った。
[実施例8]
PPS−5の粉末1500gを撹拌機付き乾燥機に入れ、窒素4.5L/分(3mL/g−PPS・分)を乾燥機に導入し、240℃で3時間熱処理を行った。ガス発生量0.19重量%、MFR500g/10分以上のPPS粉末が得られた。
[実施例9]
PPS−6の粉末2000gを撹拌機付き乾燥機に入れ、窒素1000mL/分(0.5mL/g−PPS・分)を乾燥機に導入し、210℃で4時間熱処理を行った。ガス発生量0.26重量%、MFR500g/10分以上のPPS粉末が得られた。
Figure 2009280794
実施例3〜9で得られたPPS粉末を用いれば、成形安定性に優れ、金型汚れの少ないPPS樹脂を得ることができることが分かる。
本発明によれば、溶融流動性と成形安定性に優れ、成形時の金型汚れを発生させにくく、さらには靭性に優れた充填材強化樹脂組成物を得ることのできるPPS樹脂が得られる。

Claims (7)

  1. メルトフローレート(ASTM D−1238−70に従い、温度315.5℃、荷重5000gにて測定)が500g/10分を越えるポリフェニレンスルフィド樹脂1gに対し、酸素濃度が2体積%以下である不活性気体を0.2mL/分以上流通させながら、210℃以上ポリフェニレンスルフィド樹脂の融点未満の温度範囲において熱処理することを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
  2. 不活性気体が、窒素、二酸化炭素、水蒸気および希ガスから選ばれる少なくとも1種の気体を主成分とすることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
  3. 不活性気体の流通量が、ポリフェニレンスルフィド樹脂1gに対し、10L/分以下であることを特徴とする、請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
  4. 210℃以上270℃未満の温度において熱処理することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
  5. ポリフェニレンスルフィド樹脂がフラッシュ法で回収されたポリフェニレンスルフィド樹脂であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
  6. ポリフェニレンスルフィド樹脂を酸処理してから、請求項1〜5いずれかに記載の熱処理を行うことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
  7. ポリフェニレンスルフィド樹脂を80〜250℃で熱水処理してから酸処理し、さらに請求項1〜5いずれかに記載の熱処理を行うことを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂の処理方法。
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