本発明は、III−V族窒化物半導体装置に関し、特に、耐圧が高く、且つオン抵抗が低い、大電力用のスイッチング素子として好適な窒化物半導体装置に関する。
半導体装置からなる大電力用のスイッチング素子には、耐圧が高く、且つオン抵抗が低いことが求められる。そのため、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor FET)や、バイポーラトランジスタとMOSFETとを複合したIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)がスイッチング素子として使用されている。耐圧が高く、且つオン抵抗が低い半導体装置として、パワーMOSFETやIGBTの他にSiC半導体装置やIII−V族窒化物半導体装置が知られている。その中でもIII−V族窒化物の物性の長所を活かした電子デバイスの具体的な応用が望まれており、ショットキーバリアダイオードの開発が報告されている(非特許文献1)。
また本願出願人は、先に新たなIII−V族窒化物半導体装置を提案している(特許文献1)。本願出願人が提案した窒化物半導体装置は、III−V族窒化物半導体層と、低温で成膜したIII−V族窒化物半導体層のそれぞれとの間に形成される接合のショットキーバリアの高さが異なるように構成したものである。
吉田他、「低オン電圧動作GaN−FESBD」、電気学会研究会資料、社団法人電気学会、2004、EDD−04−69、p17−21
特開2006−237430号公報
耐圧が高く、且つオン抵抗の低い半導体装置として開発が行われているIII−V族窒化物半導体装置は、開発途上にあり、その物性の長所を十分に活かした報告例は非常に少ない。またすでに報告されているIII−V族窒化物半導体装置の特性改善も望まれる。本発明は、耐圧が高く、且つオン電圧の低い、新たなIII−V族窒化物半導体装置を提供することを目的とする。特に、オン電圧が低く、順方向電流の大きいIII−V族窒化物半導体装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、ガリウム、アルミニウム、及びインジウムからなる群のうち少なくとも1つからなるIII族元素と、窒素からなるV族元素で構成されたIII−V族窒化物半導体層からなる窒化物半導体装置において、基板上に積層した前記III−V族窒化物半導体層からなる第1の窒化物半導体層と、ガリウムを含まない前記III−V族窒化物半導体層からなる第2の窒化物半導体層と、前記第2の窒化物半導体層の一部を凹状に欠き、内部に前記第1の窒化物半導体層を露出する第1の凹部と、該第1の凹部内に露出する前記第1の窒化物半導体層上にショットキー接合する第1のアノード電極と、前記第2の窒化物半導体層にショットキー接続する前記第1のアノード電極と同一あるいは異なる金属からなる第2のアノード電極と、前記第1の窒化物半導体層にオーミック接合するカソード電極とを備え、前記第2のアノード電極と前記第2の窒化物半導体層との間で形成される接合のショットキーバリアの高さが、前記第1のアノード電極と前記第1の窒化物半導体層との間で形成される接合のショットキーバリアの高さより高いことを特徴とする。
本願請求項2に係る発明は、ガリウム、アルミニウム、及びインジウムからなる群のうち少なくとも1つからなるIII族元素と、窒素からなるV族元素で構成されたIII−V族窒化物半導体層からなる窒化物半導体装置において、基板上に積層した前記III−V族窒化物半導体層からなる第1の窒化物半導体層と、ガリウムを含まない前記III−V族窒化物半導体層からなる第2の窒化物半導体層と、前記第1の窒化物半導体層よりも低い温度で成膜した前記III−V族窒化物半導体層からなり微結晶構造である第3の窒化物半導体層と、前記第3の窒化物半導体層の一部を凹状に欠き、内部に前記第2の窒化物半導体層を露出する第2の凹部と、該第2の凹部内に露出する前記第2の窒化物半導体層の一部を凹状に欠き、内部に前記第1の窒化物半導体層を露出する第1の凹部と、該第1の凹部内に露出する前記第1の窒化物半導体層上にショットキー接合する第1のアノード電極と、前記第2の窒化物半導体層にショットキー接続する前記第1のアノード電極と同一あるいは異なる金属からなる第2のアノード電極と、前記第1の窒化物半導体層にオーミック接合するカソード電極を備え、前記第2のアノード電極と前記第2の窒化物半導体層との間で形成される接合のショットキーバリアの高さが、前記第1のアノード電極と前記第1の窒化物半導体層との間で形成される接合のショットキーバリアの高さより高いことを特徴とする。
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載の窒化物半導体装置において、前記基板と前記第1の窒化物半導体層の間に前記III−V族窒化物半導体層からなる第4の窒化物半導体層を備え、該第4の窒化物半導体層は、前記第1の窒化物半導体よりも小さいエネルギーバンドギャップを有することを特徴とする。
本願請求項4に係る発明は、請求項3記載の窒化物半導体装置において、前記第1の窒化物半導体層が窒化アルミニウムガリウム、前記第2の窒化物半導体層が窒化インジウムアルミニウム、前記第4の窒化物半導体層が窒化ガリウムからなり、前記第1および第2の窒化物半導体層の格子定数が前記第4の窒化物半導体層の格子定数と同じか若しくは小さく、前記第1および第2の窒化物半導体層と前記第4の窒化物半導体層が整合するか若しくは前記第1および第2の窒化物半導体層が引っ張り応力を受けていることを特徴とする。
本発明の窒化物半導体装置は、低い順方向バイアスの条件では、ショットキーバリアの高さの低いショットキー接合に電流が流れ、低いオン電圧特性となるとともに、順方向バイアスが高くなると、ショットキーバリアの高さの高いショットキー接合にも電流が流れ、大きな電流を流すことができる。また、低い逆方向バイアスの条件では逆方向のリーク電流が少なく、高い逆方向バイアスの条件では、高いショットキーバリアの接合のみが機能することになり、高い耐圧特性が得られることになる。特に本発明の窒化物半導体装置では、ガリウムを含まない第2の窒化物半導体層にショットキー接合が形成されるため、低い逆方向バイアス条件での逆方向のリーク電流を非常に少なくすることができる。
ショットキーバリアの高さが異なる接合を形成するために、窒化物半導体層の一部を除去し、あるいは選択成長により凹部を形成して第1の窒化物半導体層及び第2の窒化物半導体層にそれぞれ接合するアノード電極を形成すれば良く、簡便に形成することができる。特に本発明の窒化物半導体装置では、ガリウムを含まない第2の窒化物半導体層に形成されるショットキーバリアの高さは、通常のガリウムを含むIII−V族窒化物半導体層からなるショットキーバリアの高さより高くなる。その結果、ショットキーバリアの高さの差が大きくなり、より高い耐圧特性が得られることになる。
さらにショットキーバリアの高さが異なる接合を形成するために、第2の窒化物半導体層に接合するアノード電極を異なる金属で形成すれば良く、簡便に形成することができる。
また、いわゆるHEMT構造の窒化物半導体層を用いて本発明のショットキーバリアダイオードを形成して2次元電子ガスをキャリアとする場合には、さらにオン電圧が低く、順方向電流が大きい、良好な順方向電圧特性が得られた。
さらにまた、いわゆるHEMT構造の窒化物半導体層を用いて本発明のショットキーバリアダイオードを形成して2次元電子ガスをキャリアとする場合において、自発分極が極めて大きいInAlNを第1の窒化物半導体層とし、GaNを第4の窒化物半導体層とすると、高い濃度の2次元電子ガスが形成され、好適である。そしてさらに引っ張り応力が加わると、ピエゾ分極の効果により、さらにオン電圧が低く、順方向電流が大きい、良好な順方向電圧特性が得られる。
本発明の窒化物半導体装置は、基板上に第1の窒化物半導体層とガリウムを含まない第2の窒化物半導体層が積層形成されており、第1の窒化物半導体層に接合する第1のアノード電極と、第2の窒化物半導体層のみに接合する第2のアノード電極を構成する電極金属を適宜選択することによって、第1および第2のアノード電極それぞれのショットキーバリアの高さが異なるように構成している。またカソード電極は、第1の窒化物半導体層に接合する構造となっている。
このような構造の窒化物半導体装置では、第1および第2のアノード電極とカソード電極との間に順方向バイアスを印加する場合、順方向バイアスが小さい初期の段階では、第1の窒化物半導体層とショットキーバリアの高さの低い接合を形成する第1のアノード電極が主に機能することによって、低いオン電圧で電流が流れることになる。さらに順方向バイアスが大きくなると、第2のアノード電極にも電流が流れ、大電流が流れることになる。
また第1および第2のアノード電極とカソード電極との間に逆方向バイアスを印加する場合、低い逆方向バイアスの条件では、ショットキー層14の高い絶縁性により、逆方向リーク電流が減少する。さらに逆方向バイアスが大きくなると、ショットキーバリアの高い接合を形成する第2のアノード電極のみが機能することになり、高い耐圧特性が得られることになる。
以下、本発明の窒化物半導体装置について、スイッチング素子として用いることができるショットキーバリアダイオードを例にとり、詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施例のHEMT構造を利用した電界効果型ショットキーバリアダイオードの断面図を示している。図1に示す電界効果型ショットキーバリアダイオードは次のように形成することができる。まず、半絶縁性あるいは導電性の炭化珪素(SiC)からなる基板11上に、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法や、RF−MBE(RF-Molecular Beam Epitaxy)法等により、厚さ200nm程度の窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層12、厚さ2.5μmのノンドープ窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層13(第4の窒化物半導体層に相当)、厚さ25nmのノンドープの窒化アルミニウムガリウム(Al0.2Ga0.8N)からなるショットキー層14(第1の窒化物半導体層に相当)、厚さ10nmの窒化インジウムアルミニウム(In0.17Al0.83N)からなるキャップ層15(第2の窒化物半導体層に相当)が順次積層した構造の半導体基板を用意する。なお、ここで、In0.17Al0.83Nの格子定数は、GaNの格子定数と同じであり、Al0.2Ga0.8Nの格子定数はGaNの格子定数より小さい。
このような半導体基板においても、窒化ガリウムからなるチャネル層13と窒化アルミニウムガリウムからなるショットキー層14とのヘテロ接合面近傍に、2次元電子ガス(キャリア)が発生する。
次に、カソード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより、露出するキャップ層15を全てエッチングして、ショットキー層14を露出する。その後、露出したショットキー層14上にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/チタン(Ti)/金(Au)の積層体等からなるカソード電極17をパターン形成し、850℃30秒の急速加熱を行い、ショットキー層14にオーミック接触を形成する。
次に、第1のアノード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより、露出するキャップ層15を全てエッチングして、ショットキー層14を露出する凹部(第1の凹部に相当)を形成する。その後、白金(Pt)/金(Au)の積層体等からなる第1のアノード電極および第2のアノード電極を、凹部内のショットキー層14上及びキャップ層15の上に形成する。このように形成したアノード電極は、ショットキー層14とショットキー接合する第1のアノード電極16(a)とキャップ層15とショットキー接合する第2のアノード電極16(b)とからなる構成となる。
この電界効果型ショットキーバリアダイオードに用いた半導体基板では、GaNからなるチャネル層13と、GaNよりも格子定数が小さく引っ張り応力を受けるAl0.2Ga0.8Nからなるショットキー層14とのヘテロ接合面近傍に2次元電子ガス(キャリア)が発生する。また、GaNとほぼ同じ格子定数のIn0.17Al0.83Nからなるキャップ層15の自発分極は極めて大きく、バンドギャップも大きいため、極めて高いショットキーバリアが形成されている。
また、このような構造の電界効果型ショットキーバリアダイオードでは、第1のアノード電極16(a)を構成するPtとショットキー層14を構成するAl0.2Ga0.8Nとの接合により、高さ約1.35eVのショットキーバリアが形成される(図2a)。一方、第2のアノード電極16(b)を構成するPtとキャップ層15を構成するIn0.17Al0.83Nとの接合により、高さ2.40eVのショットキーバリアが形成される(図2b)。
このショットキーバリアの高さは、Al0.2Ga0.8Nとの接合により形成されるショットキー接合のショットキーバリアの高さと比較して1.0eV程度高くなっている。
ショットキーバリアの高さが接触する層によって異なる第1のアノード電極16(a)および第2のアノード電極16(b)とカソード電極17との間に順方向バイアスを印加すると、0.7〜1.0Vのオン電圧で、順方向電流が急激に増大する立ち上りが観測された。また、逆方向バイアスを印加すると、約600Vという大きな耐圧が観測され、耐圧が高く、且つオン抵抗の低いショットキーバリアダイオードであることが確認された。
上記構造のショットキーバリアダイオードにおいて、PtとAl0.2Ga0.8Nとの接合の順方向電流の立ち上りに必要なオン電圧は、一般的には0.7〜1.0V程度である。一方、PtとIn0.17Al0.83Nとの接合のオン電圧は2.0〜2.5V程度である。本実施例に係るショットキーバリアダイオードでは、順方向電流の立ち上りの最初の段階では、ショットキー層14(Al0.2Ga0.8N)とショットキー接合する第1のアノード電極16(a)が主に機能することによって、ショットキーバリアダイオードのオン電圧が、ショットキー層14と第1のアノード電極16のオン抵抗に近い値となっていると考えられる。更に、チャネル層13とショットキー層14とのヘテロ接合面近傍に発生する2次元電子ガスがキャリアとなって順方向電流の増大に寄与しているものと考えられる。
その後順方向バイアスが2.0〜2.5V程度に達すると、ショットキー層14に接触する第1のアノード電極16(a)の他にキャップ層15に接触する第2のアノード電極16(b)が機能し、さらに大きな電流を流すことができるようになる。
また、第1のアノード電極16(a)および第2のアノード電極16(b)に逆方向バイアスを印加したところ、約600Vという大きな耐圧が観測された。一般的には、互いにショットキー接合したPt電極とAl0.2Ga0.8N層との間に−10Vの逆方向バイアスを印加した場合、10-6〜10-4A程度の逆方向リーク電流が発生する。また、Pt電極とIn0.17Al0.83N層とを接合させた場合の逆方向リーク電流は、それよりも2桁以上小さく、約600Vの耐圧が得られる。
上記構造のショットキーバリアダイオードでは、逆方向バイアスが−10V程度以下の最初の段階では、ショットキー層14が高い絶縁性により、逆方向リーク電流がほとんど発生しない。逆方向バイアスが−10V程度より大きくなると、キャリアとなる2次元電子ガスは、第2のアノード電極16(b)とキャップ層15との接合により形成される空乏層により、ほとんど存在しない状態となり、わずかに発生する逆方向リーク電流の流出が阻止される。さらに逆方向バイアスが大きくなると、第2のアノード電極16(b)とキャップ層15との接合により形成される空乏層が広がり、約600Vの耐圧が得られることになる。
図3は本発明の第2の実施例のHEMT構造を利用した電界効果型ショットキーバリアダイオードの断面図を示している。図3に示す電界効果型ショットキーバリアダイオードは次のように形成することができる。まず、半絶縁性あるいは導電性の炭化珪素(SiC)からなる基板11上に、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法や、RF−MBE(RF-Molecular Beam Epitaxy)法等により、厚さ200nm程度の窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層12、厚さ2.5μmのノンドープ窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層13(第4の窒化物半導体層に相当)、厚さ25nmのノンドープの窒化アルミニウムガリウム(Al0.2Ga0.8N)からなるショットキー層14(第1の窒化物半導体層に相当)、厚さ10nmの窒化インジウムアルミニウム(In0.17Al0.83N)からなるキャップ層15(第2の窒化物半導体層に相当)、ショットキー層14の成膜温度より600℃程度低い温度で成膜され、微結晶構造からなり、絶縁性が高い低温成長キャップ層18(第3の窒化物半導体層に相当)が順次積層した構造の半導体基板を用意する。なお、ここで、In0.17Al0.83Nの格子定数は、GaNの格子定数と同じであり、Al0.2Ga0.8Nの格子定数はGaNの格子定数より小さい。
このような半導体基板においても、窒化ガリウムからなるチャネル層13と窒化アルミニウムガリウムからなるショットキー層14とのヘテロ接合面近傍に、2次元電子ガス(キャリア)が発生する。
次に、カソード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより、露出する低温成長キャップ層18とキャップ層15をエッチングして、ショットキー層14を露出する。その後、露出したショットキー層14上にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/チタン(Ti)/金(Au)の積層体等からなるカソード電極17をパターン形成し、850℃30秒の急速加熱を行い、ショットキー層14にオーミック接触を形成する。
次に、第2のアノード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより露出する低温成長キャップ層18を全てエッチングしてキャップ層15を露出する凹部(第2の凹部に相当)を形成する。更に、第1のアノード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより露出するキャップ層15を全てエッチングしてショットキー層14を露出する凹部(第1の凹部に相当)を形成する。その後、白金(Pt)/金(Au)の積層体等からなる第1のアノード電極および第2のアノード電極を、第1の凹部内のショットキー層14及びキャップ層15の上に形成する。このように形成したアノード電極は、ショットキー層14とショットキー接触する第1のアノード電極16(a)とキャップ層15とショットキー接触する第2のアノード電極16(b)とからなる構成となる。
このような構造の電界効果型ショットキーバリアダイオードでは、上述の第1の実施例と比較して、アノード電極16とカソード電極17との間のキャップ層15上に、低温成長キャップ層18を備える点が異なっている。低温成長キャップ層18を備えることで、オフ時からオン時に切り替えた際に、所望の電流が流れなくなる電流コラプスを抑制する効果が得られる。
ここでカソード電極17は、低温成長キャップ層18とキャップ層15をエッチング除去し、ショットキー層14にオーミック接触する構造とする代わりに、成膜後の微結晶構造の低温成長キャップ層18上にカソード電極17を形成することもできる。この場合、微結晶粒界にカソード電極を構成する金属が侵入し、コンタクト抵抗率の低く(10-6Ωcm2台)、第1の窒化物半導体層にオーミック接触するカソード電極を得ることができ、好ましい。
次に図1に示す構造のショットキーバリアダイオードを、別の製造方法により形成する第3の実施例について説明する。半絶縁性あるいは導電性の炭化珪素(SiC)からなる基板11上に、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法や、RF−MBE(RF-Molecular Beam Epitaxy)法等により、厚さ200nm程度の窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層12、厚さ2.5μmのノンドープ窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層13(第4の窒化物半導体層に相当)、厚さ25nmのノンドープの窒化アルミニウムガリウム(Al0.2Ga0.8N)からなるショットキー層14(第1の窒化物半導体層に相当)が順次積層した構造の半導体基板を用意する。
次に、ショットキー層14上の第1のアノード電極形成予定領域に、キャップ層を選択成長させるために酸化ケイ素(SiO2)からなるマスク材を形成する。その後、厚さ10nmの窒化インジウムアルミニウム(In0.17Al0.83N)からなるキャップ層15(第2の窒化物半導体層に相当)を選択成長させる。その後、マスク材を除去することにより、第1の実施例で説明した第1の凹部を形成することができる。以下、第1の実施例で説明説明した工程に従い、カソード電極17、第1のアノード電極16を形成し、本発明のショットキーバリアダイオードを形成することができる。
このようにエッチングによらず、キャップ層15を選択成長させる場合であっても、上述の第1の実施例同様、低いオン電圧特性と高い耐圧特性の窒化物半導体装置を形成することができる。
次に第4の実施例について説明する。第1の実施例同様、半絶縁性あるいは導電性の炭化珪素(SiC)からなる基板11上に、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法や、RF−MBE(RF-Molecular Beam Epitaxy)法等により、厚さ200nm程度の窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層12、厚さ2.5μmのノンドープ窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層13(第4の窒化物半導体層に相当)、厚さ25nmのノンドープの窒化アルミニウムガリウム(Al0.2Ga0.8N)からなるショットキー層14(第1の窒化物半導体層に相当)、厚さ10nmの窒化インジウムアルミニウム(In0.17Al0.83N)からなるキャップ層15(第2の窒化物半導体層に相当)が順次積層した構造の半導体基板を用意する。
次に、第1の実施例同様、カソード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより、露出するキャップ層15を全てエッチングして、ショットキー層14を露出する。その後、露出したショットキー層14上にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/チタン(Ti)/金(Au)の積層体等からなるカソード電極17をパターン形成し、850℃30秒の急速加熱を行い、ショットキー層14にオーミック接触を形成する。
その後、ショットキー層14を露出する凹部(第1の凹部に相当)を形成する。そして、チタン(Ti)/アルミニウム(Al)の積層体等からなる第1のアノード電極16(a)を、凹部内のショットキー層14上にパターン形成する。さらに第1のアノード電極16(a)上及びキャップ層15の上に、第1のアノード電極16(a)と電気的に接続するよう白金(Pt)/金(Au)の積層体等からなる第2のアノード電極16(b)をパターン形成し、キャップ層15との間にショットキー接合を形成する。なお、第1の凹部は、選択成長法により形成することもできる。
このような構造の電界効果型ショットキーバリアダイオードでは、第1のアノード電極16(a)を構成するTiとショットキー層14を構成するAlGaNとの接合により、高さ約0.3eVのショットキーバリアが形成される。一方、第2のアノード電極16(b)を構成するPtとキャップ層15を構成するIn0.17Al0.83Nとの接合により、高さ2.40eVのショットキーバリアが形成される。
ショットキーバリアの高さが異なる第1のアノード電極16(a)および第2のアノード電極16(b)とカソード電極17との間に順方向バイアスを印加すると、0.1〜0.3Vのオン電圧で、順方向電流が急激に増大する良好な立ち上りが観測された。また、逆方向バイアスを印加すると、約600Vという大きな耐圧が観測され、耐圧が高く、且つ、第1の実施例よりもオン抵抗の低いショットキーバリアダイオードであることが確認された。
上記構造のショットキーバリアダイオードにおいて、TiとAl0.2Ga0.8Nとの接合の順方向電流の立ち上りに必要なオン電圧は、一般的には0.3〜0.5V程度である。一方、PtとIn0.17Al0.83Nとの接合のオン電圧は2.0〜2.5V程度である。本実施例に係るショットキーバリアダイオードでは、順方向電流の立ち上りの最初の段階では、ショットキー層14(Al0.2Ga0.8N)とショットキー接合する第1のアノード電極16(a)が主に機能することによって、ショットキーバリアダイオードのオン電圧が、ショットキー層14と第1のアノード電極16のオン抵抗に近い値となっていると考えられる。更に、チャネル層13とショットキー層14とのヘテロ接合面近傍に発生する2次元電子ガスがキャリアとなって順方向電流の増大に寄与しているものと考えられる。
次に第5の実施例について説明する。第4の実施例同様、上述の第2の実施例についても、第1のアノード電極と第2のアノード電極を異種の金属で形成することができる。第2の実施例同様、半絶縁性あるいは導電性の炭化珪素(SiC)からなる基板11上に、MOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法や、RF−MBE(RF-Molecular Beam Epitaxy)法等により、厚さ200nm程度の窒化アルミニウム(AlN)からなるバッファ層12、厚さ2.5μmのノンドープ窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層13(第4の窒化物半導体層に相当)、厚さ25nmのノンドープの窒化アルミニウムガリウム(Al0.2Ga0.8N)からなるショットキー層14(第1の窒化物半導体層に相当)、厚さ10nmの窒化インジウムアルミニウム(In0.17Al0.83N)からなるキャップ層15(第2の窒化物半導体層に相当)が順次積層した構造の半導体基板を用意する。
その後、第2のアノード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより露出する低温成長キャップ層18を全てエッチングしてキャップ層15を露出する凹部(第2の凹部に相当)を形成する。更に、第1のアノード電極の形成予定領域が開口するようにフォトレジストをパターン形成し、塩素系ガスを用いたRIE等のドライエッチングにより露出するキャップ層15を全てエッチングしてショットキー層14を露出する凹部(第1の凹部に相当)を形成する。その後、チタン(Ti)/アルミニウム(Al)の積層体等からなる第1のアノード電極16(a)を、第1の凹部内のショットキー層14上にパターン形成する。さらに第2の凹部内の第1のアノード電極16(a)上及びキャップ層15の上に、第1のアノード電極16(a)と電気的に接続するよう白金(Pt)/金(Au)の積層体等からなる第2のアノード電極16(b)をパターン形成し、キャップ層15との間にショットキー接合を形成して完成する。なお、第2の凹部を選択成長法により形成することもできる。
このような構造の電界効果型ショットキーバリアダイオードでは、上述の第4の実施例と比較して、アノード電極16とカソード電極17との間のキャップ層15上に、低温成長キャップ層18を備える点が異なっている。低温成長キャップ層18を備えることで、オフ時からオン時に切り替えた際に、所望の電流が流れなくなる電流コラプスを抑制する効果が得られる。
ショットキーバリアの高さが異なる第1のアノード電極16(a)および第2のアノード電極16(b)とカソード電極17との間に順方向バイアスを印加すると、0.1〜0.3Vのオン電圧で、順方向電流が急激に増大する良好な立ち上りが観測された。また、逆方向バイアスを印加すると、約600Vという大きな耐圧が観測され、耐圧が高く、且つ、第2の実施例よりもオン抵抗の低いショットキーバリアダイオードであることが確認された。
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものでなく、例えばAl0.2Ga0.8Nからなるショットキー層14とIn0.17Al0.83Nからなるキャップ層15は、アルミニウム組成を増すことで、各層において格子定数が小さくなり、さらに引っ張り応力を持たせることができる。それにより、さらに高いショットキーバリアの形成や、さらに多くの2次元電子ガス(キャリア)の形成ができる。
また、本発明の窒化物半導体層は、GaN/Al0.2Ga0.8N/ In0.17Al0.83Nのヘテロ構造に限定されるものではなく、ガリウム、アルミニウム、及びインジウムからなる群のうち少なくとも1つからなるIII族元素と、窒素からなるV族元素で構成されたIII−V族窒化物半導体層で形成し、ショットキー層14およびキャップ層15のIII−V族窒化物半導体層の格子定数が、窒化ガリウムに比べて同じか若しくは小さく、前記第1および第2の窒化物半導体層が第4の窒化物半導体層と整合しているか若しくは引っ張り応力を受けるようにすればよい。なおこの場合、各層の厚みは臨界膜厚以下となるようにするのが好ましい。
またアノード電極を構成する金属材料は、接合を形成するIII−V族窒化物半導体層の種類に応じて適宜選択すればよい。たとえば上記実施例で説明した窒化物半導体層の場合には、第1のアノード電極を構成する金属材料はTiに限定されず、例えばアルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)や銀(Ag)等、第2のアノード電極より相対的に低いショットキーバリアを形成する金属であればよい。また、第2のアノード電極を構成する金属材料はPtに限定されず、例えばニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)や金(Au)等、第1のアノード電極より相対的に高いショットキーバリアを形成する金属を選択すればよい。なお、高速スイッチング素子として用いるためには、第1のアノード電極のショットキーバリアの高さが0.8eVより低く、第2のアノード電極のショットキーバリアの高さが0.8eVより高い組合せを選択すると、低いオン抵抗で高い耐圧特性が得られ、好ましい。
また基板11は、炭化珪素基板の代りに、サファイア基板やシリコン基板を用いてもよい。その場合バッファ層12は、サファイア基板の場合は低温成長の窒化ガリウム(GaN)、シリコン基板の場合は窒化アルミニウム(AlN)を用いるのが望ましい。
なお本発明の低温成長キャップ層18について微結晶構造と説明したが、これは微結晶粒の集合体あるいはそれらの再配列化した構造であり、成長温度、成長時の雰囲気ガス組成、成長させる基板の種類などによって、結晶粒の大きさや配列等は変わるものであり、所望の絶縁特性が得られる範囲で、成長温度を制御することによって得られるものである。第2の窒化物半導体層の成長温度は、第1の窒化物半導体層の成長温度より600℃程度以上低い温度に設定すると、電流コラプスを抑制するのに好適である。
本発明の第1及び第3の実施例に係る窒化物半導体装置の説明図である。
(a)は、従来の実施例におけるショットキーバリアダイオードのAl0.2Ga0.8N/GaNへテロ接合のバンドダイアグラムを示す図であり、(b)は本発明の第1の実施例に係るショットキーバリアダイオードのIn0.17Al0.83N/Al0.2Ga0.8N/GaNへテロ接合のバンドダイアグラムを示す図である。
本発明の第2の実施例に係る窒化物半導体装置の説明図である。
本発明の第4の実施例に係る窒化物半導体装置の説明図である。
本発明の第5の実施例に係る窒化物半導体装置の説明図である。
符号の説明
10:ショットキーバリアダイオード、11;基板、12;バッファ層、13;チャネル層、14;ショットキー層、15;キャップ層、16(a);第1のアノード電極、 16(b);第2のアノード電極、17;カソード電極、18;低温成長キャップ層