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JP2007325543A - 細胞足場材料およびその製造方法 - Google Patents

細胞足場材料およびその製造方法 Download PDF

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JP2007325543A JP2006159301A JP2006159301A JP2007325543A JP 2007325543 A JP2007325543 A JP 2007325543A JP 2006159301 A JP2006159301 A JP 2006159301A JP 2006159301 A JP2006159301 A JP 2006159301A JP 2007325543 A JP2007325543 A JP 2007325543A
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哲司 近藤
Takashi Miwa
敬史 三和
Yoshihiro Naruse
恵寛 成瀬
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Abstract

【課題】
細胞や培養液が構造体の内部に侵入し、三次元的に細胞を保持することができ、培養液を通液できるような空隙率の高さ、あるいは幹細胞や造血系の細胞が多く生育している骨髄に類似した細胞足場材料を提供する。
【解決手段】
合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm以上1000nm未満のナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料で、この細胞足場材料は、合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm〜1000nmのナノファイバーを分散媒中に分散させて繊維分散液を作成し、その繊維分散液を乾燥して分散媒を除去し、空隙を有するスポンジ状の三次元構造体を形成することにより製造することができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、合成ポリマーで作製されたナノファイバーを三次元に配しスポンジ状に成形した構造体を含む細胞足場材料およびその製造方法に関するものである。
細胞医療や再生医療に、移植用の細胞、組織や臓器を提供するため、あるいはそれら医療の検討を行うため、生体外において効率よく細胞を培養する細胞培養用の足場となる材料、あるいは生体内において組織の再生や再構築を促進するような足場となる材料(細胞足場材料という)が求められている。このような細胞足場材料は、細胞を取り囲む生体内環境を模倣することにより、足場として上記のような目的を達成するための様々な要求を満たすことができる。
一方、細胞を取り囲む生体内環境の一種である骨髄や基底膜において、細胞はコラーゲンなどのナノレベルの繊維状構造で構成された細胞外マトリクスとよばれる三次元マトリクス中で生育し、増殖している。そのため、細胞を上記のような目的のために生体外において培養する場合、従来は生体から抽出したコラーゲンなどのマトリクス構成物質をゲルやスポンジ状構造体として加工し、これを三次元の培養用の足場とする検討が進められてきた(特許文献1参照)。しかしながら、主にタンパク質からなるこれら生体由来の物質については、オートクレーブやγ線などの滅菌処理に代表される医療用材料として製造する過程での過酷な処理に耐えられないことや、使用するまでの長期保存に対する安定性の問題、および力学的な強度や形状安定性などの問題がある。また、これらコラーゲンなどの生体由来物質は、一般的に牛や豚などの動物から抽出されるため、これら動物からウィルスやプリオンに代表される既知あるいは未知の感染性物質が混入する危険性があり、生体内外において細胞を培養する足場材料として使用する際、特に医療用途に使用する際に問題となっていた。
そのため、最近では生体から抽出した物質に代わり、合成ポリマーを材料として使用し、発泡構造体あるいは不織布や織物などの繊維構造体を作製し、これを三次元の培養足場とする研究も進められている(特許文献2〜特許文献5参照)。しかしながら、これら従来の合成ポリマーを材料として使用した三次元培養足場の物理的な形状は、実際のコラーゲンに代表される生体内において細胞を取り囲んでいる細胞外マトリクスとよばれる繊維状構造体の形状、特にナノレベルの繊維からなる構造体を模倣した構造を有していないため、生体内の環境を忠実に模倣しているとは言えず、細胞に対する親和性に劣るなど、これら従来の足場上では生体内と同様の細胞機能を発現できないという影響が懸念されている。
そのため、近年ナノレベルの繊維径を持つ繊維(ナノファイバー)で構成された構造体が細胞足場材料として注目を浴びている。例えば、エレクトロスピニングと呼ばれる高電圧をかけながら繊維を吹き付ける方法によってナノファイバーの構造体を得て、その上で細胞医療や再生医療に使用する機能細胞や幹細胞やES細胞の機能を保持、促進しながら培養する試みが多数なされており、一定の効果は得られている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
しかしながら、このようなエレクトロスピニングにより得られるナノファイバーは、繊維強度が弱いこと、繊維径が一定でなくバラツキがあること、および作製の際に有機溶媒を使用するということなど、細胞を培養する足場材料として使用する上での欠点があった。また、上記のようなエレクトロスピニングと呼ばれる特殊な製法を使うために、得られる構造体の形状はいわゆる紙状の不織布構造のものに限定され、そのままでは空隙率が低く細胞が構造の内部にまで入り込めないため、細胞を表層でしか培養することができなく、三次元状態で細胞を培養できないため、実質高密度で細胞培養することが不可能であり、また厚みのある臓器や組織を生体内外で再生し、再構築することが不可能であった。また、不織布構造では、形状的に細胞が生育している骨髄などの生体内の三次元環境までは忠実に再現できていないという欠点があった。
そのため、特に細胞や培養液が構造体の内部に侵入して、三次元的に細胞を保持することができ、培養液を通液できるような空孔構造と空隙率の高さを持つ点、あるいは幹細胞や造血系の細胞が多く生育している骨髄への類似性の点から、細胞を培養する細胞足場材料として、繊維状物質、特に合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料が求められていた。
特開昭62−502936号公報 特開昭62−122586号公報 特開平2−291260号公報 特開平7−299876号公報 特開2003−265593号公報 Biomaterials 26 p5158(2005) Tissue Eng. 11 p1149 (2005)
そこで本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消するものであり、細胞を培養する足場として好適な三次元構造体として、細胞や培養液を構造体の内部に三次元的に保持することができ、さらに細胞を取り囲む生体内の環境を模倣したような、合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料を提供することにある。
本発明の細胞足場材料は、合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm以上1000nm未満のナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料である。
本発明の細胞足場材料の好ましい態様によれば、前記のナノファイバーの数平均直径は1nm〜500nmであり、より好ましくは1nm〜200nmであり、そして直径500nmより大きいナノファイバーの繊維比率は3重量%以下である。
本発明の細胞足場材料の好ましい態様によれば、前記のナノファイバーは溶融紡糸によって作製されたものであり、前記合成ポリマーは熱可塑性ポリマーである。
本発明の細胞足場材料の好ましい態様によれば、前記のスポンジ状の三次元構造体の見かけ密度は0.0002〜0.05g/cmであり、その空隙率は90%以上であり、そのスポンジ状の三次元構造体内に構成される微細孔の数平均孔径は10μm〜500μmである。
本発明の細胞足場材料の好ましい態様によれば、前記のナノファイバー表面にタンパク質等の機能性物質が吸着および/または固定されている。
本発明の細胞足場材料の好ましい態様によれば、前記のスポンジ状の三次元構造体は、他の基材上で形成されたものであり、そして前記のナノファイバー同士は部分的に接合されている。本発明の細胞足場材料は、細胞培養用あるいは組織再生用に好適に使用される。
また、本発明の細胞足場材料は、合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm〜1000nmのナノファイバーを分散媒中に分散させて繊維分散液を作成し、その繊維分散液を乾燥して分散媒を除去し、空隙を有するスポンジ状の三次元構造体を形成することにより製造することができる。
本発明の細胞足場材料の製造方法の好ましい態様によれば、前記のナノファイバーのカット繊維長は0.2mm〜30mmであり、そして前記の繊維分散液中のナノファイバー濃度は0.05〜5重量%である。
本発明の細胞足場材料の製造方法の好ましい態様によれば、前記の乾燥手段は凍結乾燥であり、凍結乾燥する際の凍結温度は−80℃以上−20℃以下である。
そして本発明には、上記のようにして得られたスポンジ状構造体を含む細胞足場材料を、さらに加圧蒸気処理することが好ましい態様として含まれる。
本発明が提供する合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料により、細胞や培養液をその構造体の内部に保持することができ、さらに培養液を通液できるような空隙率の高さから、高密度で細胞を培養することができる。
また、合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体においては、様々な処理によりその表面性状を制御することができ、特に比表面積が高いため、サイトカインなどのタンパク質に代表される、細胞に対して機能のある機能性物質をその繊維表面に高密度で吸着、提示することが可能となり、効率的な培養が行えるなどの効果がある。
さらに、本発明の細胞足場材料は、生体内において幹細胞、造血系の細胞および間葉系の細胞のような機能性の細胞が多く生育している骨髄、基底膜および羊膜などにおいて細胞を取り囲んでいるコラーゲンを代表とするナノレベルの繊維状物質である細胞外マトリクスに類似している点から、従来は培養が難しかったこれら機能性細胞の機能を保持あるいは促進しながら培養することができ、これら細胞を使用した細胞培養あるいは組織再生が係わる医療、診断、研究および分析などの分野、特に再生医療や細胞医療のような医療分野へと応用することが可能となる。
以下、本発明に係る細胞足場材料とその製造方法について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明の細胞足場材料は、合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料であり、本発明でいうところのナノファイバーとは、数平均直径が1nm以上1000nm未満の繊維のことをいう。
本発明のスポンジ状の三次元構造体は、空隙率Fが80%以上99.99%以下である。空隙率を上記範囲にすることにより、構造体中に多数の空間を含むため、内部へ細胞が侵入し易くなり、また、細胞培養液の保持能力も増大する。また、通液性、気体透過性および保温性等に優れた構造となり、細胞培養に使用する足場材料として優れた構造とすることが可能となる。空隙率の下限は、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。空隙率の上限は、より好ましくは99.95%以下であり、さらに好ましくは99.9%以下である。
本発明において空隙率F(%)は、次のようにして求めることができる。すなわち、後述の見かけ密度を求めた際に使用した体積V(cm)とW(g)を用い、さらにスポンジ状の三次元構造体を形成する繊維(ナノファイバー)の比重S(g/cm)を用いて、次式(1)により求める。
(%)=(W/S)/V×100 (1)
このとき、繊維以外の他の成分、例えば、添加剤等が含まれている場合には、その添加剤の密度と重量も考慮した上で、例えば、次式(2)を用いて空隙率を求めれば良く、さらに複数の添加剤等が含まれている場合においても、同様の考え方で空隙率を求めることができる。
Fv(%)=((W/S)+(W/S))/V×100 (2)
(式中、Wは繊維の重量、Sは繊維の比重、Wは添加剤の重量、Sは添加剤の比重をそれぞれ表す。)
本発明でいう細胞足場材料とは、生体内外で細胞あるいは細胞が集合した組織や臓器、あるいは細胞を含むような血液や体液や培養液などに接するような部分に使用される材料全般をいう。本発明の細胞足場材料は、その材料上あるいは材料内で細胞と材料が接することにより、細胞の付着、接着、増殖、分化、活性化、移動、遊走、形態変化および定着など様々な細胞機能を発現、促進、抑制あるいは維持されるような材料を指す。具体的には、本発明の細胞足場材料としては、生体内外で細胞、組織、移植組織および移植臓器を培養し形成するための容器やバックやカラムなどの一部あるいは全部として使用される材料、人工骨、人工心臓、人工血管、人工角膜、人工皮膚および人工神経などの人工臓器や人工組織の一部あるいは全部として使用する材料、縫合糸や骨折接合用のテンプレートなどの手術や施術に使用する道具や器具の一部あるいは全部として使用される材料、およびシリンジ、カテーテル、創傷保護材および癒着防止材などの疾患や創傷などを治癒するために使用する医療用用具の一部あるいは全部に使用される材料などの医療用や研究用として有効な材料等が挙げられる。
このような細胞を培養する足場として使用するために、細胞足場材料の構造としては、細胞を高密度で培養あるいは生育させるため、内部に細胞が侵入して保持され、増殖、分化できるような空孔を持ち、あるいは内部に培養液を保持あるいは循環させるようにするため高い空隙率を持つことが好ましい。このような点から、細胞足場材料がスポンジ状の三次元構造体であることにより、細胞あるいは培養液を保持する空間を維持することができ、さらに空孔内あるいは繊維間を培養液が通液することが可能となることから、好適な細胞足場用の構造体として採用することができる。
さらには、このようなスポンジ状の三次元構造体は、生体内の環境として機能性細胞が多く存在する骨髄、基底膜および羊膜などを模倣していることが好ましく、これにより細胞が生体内と同様の機能を維持したまま、あるいは生体内と同様の機能を発現させて培養を行うことができると考えられる。そのためには、実際にそのような環境において細胞を取り囲んでいるコラーゲンなどの細胞外マトリックスの形状を模倣していることが好ましい。このような細胞外マトリックスは、ナノレベルの繊維状の形状、すなわちナノファイバーの形状をしており、特に骨髄においてはさまざまな幹細胞や血液系の細胞のような機能性の細胞が多く存在するため、骨髄の環境を模倣していることが好ましい。このような骨髄は、立体構造としてコラーゲン繊維からなるスポンジ状の三次元構造をしていることから、特にナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体は骨髄構造を忠実に模倣することができ、骨髄内に存在する幹細胞に代表される細胞医療あるいは再生医療に有用な細胞を培養する上で好適な培養用材料といえる。このようなスポンジ状の三次元構造体は、提供する細胞足場材料の全部または一部を構成していればよいが、細胞足場材料として細胞に接する部分はスポンジ状の三次元構造体で構成されていることが好ましい。
ここで幹細胞とは、ある細胞に変化するようにという指示を受けると特定の細胞に変身、すなわち分化する能力を持っており、様々な機能を備える細胞になる能力を持ち、また、変化を遂げる前の未分化の状態で長期間にわたって自らを複製し、再生する能力も備えている細胞を指す。また、このような幹細胞や機能を備える前の前駆細胞のような細胞を、生体外において培養し加工して、機能性の細胞、組織および臓器などとして移植する、あるいは生体内においてこれら細胞に機能を発現させて、組織や臓器の修復や再生し再構築を促すことにより、疾患治療や組織および臓器の再生や機能回復を図る医療を細胞医療あるいは再生医療と呼ぶ。
本発明で使用されるスポンジ状の三次元構造体とは、三次元の構造体内部に微細な細孔や空隙を無数に有している構造体のことであり、その構造体を液体に浸すと孔内がその液体により置換されて液体を吸収する作用を有する構造体である。三次元の形状としては、立方体、直方体、円筒形、球形および錐形など、どのような形をしていても良い。
また、本発明の細胞足場材料においては、スポンジ状の三次元構造体はナノファイバーから構成されており、ナノファイバーは分散していても、凝集していても良い。分散していれば構造体内に均一な細孔や空隙を形成することができる。逆に、ナノファイバー同士が凝集することにより、スポンジ状の三次元構造体の細孔の壁部分を形成し、これによってさまざまな大きさの細孔や空隙が存在していても良い。また、細孔や空隙同士が独立した形状や細孔や空隙同士が連続したような連続孔が形成されていても良い。細孔や空隙はどのような形状も取りうることができる。また、これらスポンジ状の三次元構造体において、ナノファイバー同士はバラバラであっても、部分的あるいは全体的にナノファイバー同士が接合していてもかまわない。また、このスポンジ状の三次元構造体を構成するナノファイバーは数平均直径が1nm〜500nmの範囲であることが好ましい。ナノファイバーの数平均直径をかかる範囲内にすることにより、ナノファイバーがスポンジ状の三次元構造体全体として部分的に偏在することなく、均一に存在し易くなるため、等質かつ再現性の高いスポンジ状の三次元構造体を得やすいという利点がある。ナノファイバーの数平均直径はより好ましくは1〜200nmであり、さらに好ましくは1〜100nmである。
ナノファイバーの繊維径を小さくすれば、後に述べる作製方法において構造体内においてナノファイバーの分散状態を制御しやすくなる。その意味からもナノファイバーの数平均直径としては1〜500nmの範囲であることが好ましい。また、細胞を培養するという目的において、骨髄などに存在するコラーゲン繊維を代表とする細胞外マトリクス繊維を模倣するという点で、これらの細胞外マトリクス繊維はナノレベルのバンドル形状をしているため、その形状を模倣するという点からも、ナノファイバーの数平均直径が1〜500nmであることが好ましく、より好ましくは1〜200nmであり、さらに好ましくは1〜100nmである。
また、繊維径を小さくすれば、それだけ構造体の体積当たりの比表面積が大きくなり物質の吸着性も向上する。吸着する物質として、サイトカインなどの細胞の機能制御に影響を与えるような機能性物質を吸着すれば、細胞足場材料として細胞に対して高密度でこのような機能性物質を提示することが可能となる。そのため、ナノレベルの繊維径を有するナノファイバーを使用することは、細胞機能に関係する物質を高密度で提示するという観点からも非常に有用である。また、ナノファイバーを使用すれば、構造体内において繊維間に無数の数nm〜数百nmの空間が形成され、この空間に物質を保持することができるため、従来のマイクロファイバーでは見られなかったナノファイバー特有の優れた吸収特性を示すようになる。そのため、細胞足場材料を、細胞培養や組織再生用の足場材料や埋め込み型の医療材料として使用する際に、細胞培養液、体液あるいは血液が繊維間に吸収され保持され、その保持性能が従来のマイクロファイバーに比べて飛躍的に向上し、多量の液体を保持できるだけでなく、ナノファイバーからなる三次元構造体から液体がこぼれにくくなるという、細胞培養の際あるいは培養細胞や組織を移植する際の操作性に対して好ましい性質を示すようになる。
本発明において、ナノファイバーの数平均直径は、下記のようにして求めることができる。すなわち、スポンジ状の三次元構造体の横断面あるいは縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、同一面内で無作為に抽出した150本の単繊維の断面積を画像処理ソフトにより解析し、さらに円換算直径を求め、数平均を計算する。
また、本発明で用いられるナノファイバーにおいては、上記したような様々なナノフアィバーとしての特性を発現させる意味で、単繊維直径が500nmより大きい繊維(粗大繊維というとがある)の繊維構成比率が3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下である。すなわち、これは500nmを超える粗大な繊維分散体の存在がゼロに近いことを意味するものである。ここで粗大繊維の繊維構成比率とは、直径が1nmより大きい繊維全体の重量に対する粗大単繊維(この場合、直径500nmより大きいもの)の重量の比率のことを意味し、次のようにして計算する。すなわち、繊維分散体それぞれの繊維直径をdとし、その2乗の総和(d +d +・・+d )=Σd (i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きいそれぞれの繊維直径をDとし、その2乗の総和(D +D +・・+Dm)=ΣD (i=1〜m)を算出する。Σd に対するΣD の割合を算出することにより、全繊維構造体に対する粗大繊維の面積比率、すなわち重量比率を求めることができる。
また、ナノファイバーの数平均直径が200nm以下の場合には、直径200nmより大きい繊維の繊維構成比率は、好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下であることである。また、ナノファイバーの数平均直径が100nm以下の場合には、直径100nmより大きい繊維の繊維構成比率は、好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下であることである。これらにより、本発明のナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料としての機能を十分に発揮することができるとともに、製品の品質安定性も良好とすることができる。
本発明で用いられるナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を構成するナノファイバーとしては、ポリアミド、ポリエステルおよびアクリル系ポリマーなどに代表される合成ポリマーで作製されることが重要である。合成ポリマーで作製されることにより、後にあげるオートクレーブによる滅菌処理や化学的な表面処理に代表される様々な処理に対する強度や、医療用途に使用する際の未知の感染性物質の混入に関する安全性などを付与することができる。
合成ポリマーとしての種類は特に限定はないが、熱可塑性ポリマーであることが好ましい。熱可塑性ポリマーを用いることにより、ナノファイバーを溶融紡糸法を利用して製造することができるために、生産性を非常に高くすることができる。本発明でいう熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと呼ぶことがある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと呼ぶことがある)、ポリ乳酸(以下、PLAと呼ぶことがある)などのポリエステル、ナイロン6(以下、N6と呼ぶことがある)、ナイロン66などのポリアミド、ポリスチレン(以下、PStと呼ぶことがある)、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶことがある)などのポリオレフィン、およびポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶことがある)等が挙げられるが、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、特に好ましく用いられる。ポリマーの融点が165℃以上であるとナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体のさまざまな処理における耐熱性が向上する。例えば、PLAの融点は170℃であり、PETの融点は255℃、N6の融点は220℃である。
また、合成ポリマーには、粒子、難燃剤、帯電防止剤および表面改質剤等の添加物を含有させていてもよい。また、合成ポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。さらに、溶融紡糸の容易さから、融点が300℃以下の合成ポリマーが好ましい。合成ポリマーについては様々な目的に応じて最適な物を選定することができるが、細胞足場材料として使用する点からは生体適合性の高い合成ポリマーが好ましく、ポリアミド(ナイロン)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオルソエステル、ポリ酸無水物、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリプロピレン等のような医療用具として実績の高い合成ポリマーを使用することが好ましい。また、細胞を培養する足場材料として、培養液、体液および血液等を含浸させるには、ナイロンを例とするポリアミドなどの親水性ポリマーを使用することが好ましい。また、細胞に対して機能を持つ機能性物質を疎水性相互作用により強く吸着させるには、ポリスチレンなどの疎水性ポリマーを使用することが好ましい。本発明では、特に、細胞足場材料としてタンパク質の吸着性能と徐放性能のバランス、生体適合性および成形性の面から鑑みて、ポリアミド、ポリウレタンおよびポリ乳酸などの合成ポリマーからなるナノファイバーを使用することが好ましい。
本発明の空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体は、見かけ密度ρが0.0002〜0.05g/cmであることが好ましい。見かけ密度を上記範囲にすることにより、細胞や培養液を保持する空間の確保することができると共に、通液性、気体透過性、耐衝撃性、軽量性、保温性、クッション性、成形性、構造安定性等および細胞培養に使用する足場材料として優れた構造体となる。特に、細胞や培養液の保持性能あるいは通液性という観点から、見かけ密度はより好ましくは0.0005〜0.02g/cmであり、さらに好ましくは0.001〜0.01g/cmである。
本発明において見かけ密度ρ(g/cm)は、次のようにして求めることができる。すなわち、スポンジ状の三次元構造体を、例えば、立方体や直方体などの形状に切り出し、定規やノギス等を用いて各辺の大きさを測定し、該スポンジ状の三次元構造体の体積を求め、これをV(cm)とする。また、切り出した該スポンジ状構造体の重量を測定し、これをW(g)とする。WをVで除すことにより見かけ密度ρを求めることができる。
本発明の空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体においては、ナノファイバーが凝集した壁構造で構成される微細孔の数平均孔径は10μm〜500μmであることが好ましい。上記微細孔の数平均孔径を500μm以下とすることにより、細胞や細胞培養液を添加した際に、細胞、細胞培養液および細胞培養液中の成分を効率よく捕集し、保持することが可能となる。また細胞間の距離が近くなるため、細胞同士の接触による相互作用も効率よく行われ、骨髄のスポンジ状の三次元構造を理想的に模倣することができる。微細孔の数平均孔径は、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下である。上記微細孔の数平均孔径の下限は、10μm以上であることが好ましい。微細孔の数平均孔径が10μmを下回ると、細胞が構造体内に侵入しにくくなり、自由に移動することも難しくなり、また、細胞培養液も自由に構造体内を通過しにくくなり、細胞への栄養分の供給や老廃物の排出が阻害され、細胞培養や組織形成が効率よく行なわれなくなるという問題がある。
本発明において、ナノファイバーの製造方法は特に限定されないが、繊維強度や繊維径の問題から、溶融紡糸法により製造することが好ましい。溶融紡糸法としては常法の製造方法を採用することが可能であるが、特に数平均直径が1μm以下のナノファイバーを得るための製造方法の一例として、下記の方法を挙げることができる。
すなわち、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上の合成ポリマーをポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして、必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。そして、易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより本発明で使用するナノファイバーを得ることができる。
ここで、使用するナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維中で易溶解性ポリマーを海(マトリックス)とし、難溶解性ポリマーを島(ドメイン)として、その島サイズを制御することが重要である。ここで、島サイズとは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、直径換算で評価したものである。前駆体であるポリマーアロイ繊維中での島サイズによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、島サイズの分布は繊維の直径分布に準じて設計される。そのため、ナノファイバーを得るにはアロイ化するポリマーの混練が非常に重要であり、混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。特開平6−272114号公報や特開平10−53967号公報で提案されている単純なチップブレンドでは、混練が不足するため、数十nmサイズで島を分散させることは困難である。
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせる合成ポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、合成ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給してもよい。また、2種以上の合成ポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしてもよい。
混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練と合成ポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部の長さをスクリューの有効長さの20%以上とすることにより高混練とすることができる。また、混練部の長さをスクリュー有効長さの40%以下とすることにより、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができ、合成ポリマーの熱劣化やポリアミド成分等のゲル化を抑制することができる。また、混練部はなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることにより、混練後の滞留時間を短くし、島ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。
また、島を数十nmサイズで超微分散させるには、合成ポリマーの組み合わせも重要である。
島ドメイン(ナノファイバー断面)を円形状に近づけるためには、島ポリマーと海ポリマーは非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせでは、島ポリマーが十分に超微分散化し難い。そのため、組み合わせる合成ポリマーの相溶性を最適化することが好ましいが、そのための指標の一つが、溶解度パラメータ(SP値)である。SP値とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近い物同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。SP値は、種々の合成ポリマーで知られているが、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。2つの合成ポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/2であると、非相溶化による島ドメインの円形化と超微分散化が両立させやすい。例えば、ナイロン6(N6)とPETはSP値の差が6(MJ/m1/2程度であり好ましい例であるが、N6とポリエチレン(PE)はSP値の差が11(MJ/m1/2程度であり好ましくない例として挙げられる。
また、合成ポリマー同士の融点差が20℃以下であると、特に押出混練機を用いた混練の際、押出混練機中での融解状況に差を生じにくいため高効率混練しやすい。
また、熱分解や熱劣化し易い合成ポリマーを1成分に用いる際は、混練や紡糸温度を低く抑える必要があるが、これにも有利となるのである。ここで、非晶性の合成ポリマーの場合は、融点が存在しないためガラス転移温度あるいはビカット軟化温度あるいは熱変形温度でこれに代える。
さらに、溶融粘度も重要であり、海ポリマーの溶融粘度は紡糸性に大きな影響を与える場合があり、海ポリマーとして100Pa・s以下の低粘度ポリマーを用いると島ポリマーを分散させ易い。また、これにより紡糸性を著しく向上できるのである。このとき、溶融粘度は紡糸の際の口金面温度で剪断速度1216sec−1における値である。
本発明で用いられる超微分散化したポリマーアロイを紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、糸の冷却条件も重要である。上記したように、ポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、ポリマーアロイを口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。そのため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
このようにして紡糸したポリマーアロイ繊維(海島型繊維)から、易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより、本発明で使用するのに好ましいナノファイバーを得ることができる。
また、上記のナノファイバーの製造方法において、特に口金直上に静止混練器を位置させた場合には、ナノファイバーが理論上無限に伸びた長繊維形状のナノファイバーが得られる場合もある。
上記製造方法により得られるナノファイバーは、従来のナノファイバーとは全く異なり、前駆体であるポリマーアロイ繊維を延伸・熱処理することによりナノファイバーも延伸・熱処理することが初めて可能となっているため、細胞足場材料として使用するための引っ張り強度や収縮率を自由にコントロールできるようになっている。延伸・熱処理により結晶配向化されるために、結晶化度が20%以上であり、通常の衣料用繊維と同等の強度を持つような高強度のナノファイバーとなるため、下記するようなスポンジ状の三次元構造体の作製方法に初めて適用することができ、かつ細胞足場材料として適切な構造体強度を始めて達成されるものであり、これによって始めて様々な設計パターンの三次元構造体の形成が可能となっている。また、さらに前駆体であるポリマーアロイ繊維において、捲縮加工することも可能である。
本発明の合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体においては、ナノファイバーの分散状態はどのような状態となっていてもかまわないが、本発明では、以下、分散媒中に単繊維が分散された状態のものを、特に繊維(ナノファイバー)分散液という。後述するように、本発明で使用するナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体は、繊維(ナノファイバー)分散液から好ましく製造されるため、次に、繊維(ナノファイバー)分散液の調整方法について説明する。
例えば、上述のようにして得られた繊維(ナノファイバー)を、ギロチンカッター、スライスマシンおよびクライオスタットなどの切断機などを使用して、所望の繊維長にカットする。上述のように溶融紡糸法により得られたナノファイバーは、繊維同士が一定方向に揃った繊維束として得られるため、すべてのカット繊維(ナノファイバー)を所望の繊維長に揃えることが可能である。従来のエレクトロスピニング法によるナノファイバー繊維では、その作製方法から一定方向に繊維が揃った繊維束を作製することができないため、カットしても繊維長を揃えることができなく、繊維分散液を作製するのには不向きであった。繊維分散液中でのナノファイバーの分散性を向上させるためには、カット繊維の繊維長は長すぎると分散性が不良となる傾向がある。一方、カット繊維の繊維長が短すぎるとスポンジ状の三次元構造体としたときに、ナノファイバーの絡み合いの程度が小さくなり、その結果として構造体の強度が低くなる。そのため、これらを改善する観点から、繊維長としては0.2mm〜30mmにカットすることが好ましい。繊維長は、より好ましくは0.5mm〜10mmであり、さらに好ましくは0.8mm〜5mmである。
次に、得られたカット繊維(ナノファイバー)を分散媒中に分散させる。分散媒としては、水だけでなく、繊維との親和性も考慮して、ヘキサンやトルエンなどの炭化水素系溶媒、クロロホルムやトリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールおよびヘキサノールなどのアルコール系溶媒、エチルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸メチルや酢酸エチなどのエステル系溶媒、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多価アルコール系溶媒、トリエチルアミンやN,N−ジメチルホルムアミドなどのアミンおよびアミド系溶媒などの一般的な有機溶媒を好適に用いることができる。分散媒は、単独でも2種類以上を組み合わせても良いが、安全性や環境等に考慮すると、水を用いることが好ましい。また、下記するような分散媒の除去によりスポンジ状の三次元構造体を作製する方法の観点からは、常圧あるいは低圧状態で昇華できるような性質をもつ分散媒であることが好ましいため、分散媒としてはこのような性質をもつ水を使用することが好ましい。
カット繊維(ナノファイバー)を分散媒中に分散させる方法としては、ミキサー、ホモジナイザーおよび超音波型攪拌機等の攪拌機を用いることができる。溶融紡糸法で得られたナノファイバーのように、カット繊維中の単繊維同士が強固に凝集した形態の場合には、撹拌による分散の前処理工程として、分散媒中で叩解することが好ましい。ナイアガラビータ、リファイナー、カッター、ラボ用粉砕器、バイオミキサー、家庭用ミキサー、ロールミル、乳鉢、PFI叩解機、バス型超音波処理機およびプローブ型超音波処理機などでせん断力を与えてナノファイバーを分散させ、分散媒中に投与することができる。
ナノファイバーの分散液を作製するためには、繊維自体がさまざまな操作に耐えうる機械的な強度を有している必要があるため、上記のように溶融紡糸法によって作製され、結晶配向化されることによって機械的な強度を得たナノファイバーを使用することが好ましい。上記製造方法によって製造されたナノファイバーは、結晶化度が20%以上であり、通常の衣料用繊維と同等の強度を持つ。
また、ナノファイバー分散液中でのナノファイバーの分散性を均一にする、あるいは、スポンジ状の三次元構造体とした際に構造体の細胞足場材料としての力学的強度を向上させるために、分散液中のナノファイバー濃度は分散液全重量に対して0.001〜30重量%にすることが好ましい。特に、スポンジ状の三次元構造体の力学的強度は、分散液中のナノファイバーの存在状態、すなわちナノファイバー間距離に大きく依存するため、分散液中のナノファイバー濃度を上記範囲に制御することが好ましい。分散液中のナノファイバー濃度は、より好ましくは0.05〜5重量%であり、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
また、ナノファイバー同士の再凝集を抑制あるいは向上したり、ナノファイバーの表面状態を改善したり、ナノファイバー同士の接着性や接合性を向上させたり、ナノファイバーに機能性を与えるために、必要に応じて分散液中に添加剤を添加して用いてもよい。添加剤の種類としては、天然ポリマー、合成ポリマー、有機化合物および無機化合物等が挙げられる。例えば、水系で用いる場合のポリマー系の添加剤であって、ナノファイバー同士の凝集を抑制して分散性を上げる添加剤として、ポリカルボン酸塩などのアニオン系化合物、第4級アンモニウム塩などのカチオン系化合物、ポリオキシエチレンエーテルやポリオキシエチレンエステルなどのノニオン系化合物から選択することができる。このような分散性を向上させる添加剤の分子量としては1000〜50000であることが好ましく、分子量はより好ましくは5000〜15000である。
また、添加剤の濃度は、分散液全体に対し0.00001〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.0001〜5重量%であり、さらに好ましくは0.001〜1重量%である。これにより十分な分散効果などが得られる。
逆に、ナノファイバー同士の接着性を向上させて構造体強度を向上させる添加剤として、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基および水酸基を持つような反応性ポリマーや疎水性ポリマーを、分散液中に添加しても良い。また、スポンジ状の三次元構造体内に、孔を形成させる物質として無機塩を添加してもかまわない。また、後で述べるナノファイバーの表面に吸着させるような機能性物質を、分散液中に添加しても構わない。これら添加剤の濃度は、その目的や用途によってさまざまな濃度で添加することが可能であるが、ナノファイバーが構造を維持できる範囲の濃度で添加することが好ましい。
次に、本発明で用いられる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体の製造方法について説明する。
上記のようにして得られた繊維分散液中の繊維(ナノファイバー)を、スポンジ状に成形するために、繊維分散液を適当な容器や型枠などに入れる。容器や型枠の形状を任意に変更することにより、スポンジ状の三次元構造体を所望の形状、例えば、組織再生やインプラントとして使用するために組織や臓器の形状、細胞培養用として使用するためにカラム形状やディッシュ形状、膜形状および中空形状など様々な形状に成形することが可能である。その後、容器や型枠に入れた繊維分散液から分散媒を除去する。分散媒の除去方法としては、特に限定されないが、分散媒を乾燥により除去することが好ましい。乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥および凍結乾燥等が挙げられるが、成形性の点や見かけ密度の小さいスポンジ状の三次元構造体とするためには、凍結乾燥することが好ましい。凍結乾燥による方法としては、例えば、まず繊維分散液を液体窒素、ドライアイスおよび超低温フリーザーなどで、分散媒が凍結する温度以下で凍結させる。これにより、繊維分散液が凍結した状態、すなわち分散媒の固体中で繊維が三次元状態で固定される。その後、真空化により分散媒を昇華させるのであるが、繊維が三次元状態で固定化されたままで分散媒のみが除去されるため、見かけ密度が小さく、空隙率が高く、所望の形状が作製し易く、成形性の高いスポンジ状の三次元構造体を得ることが可能となる。また、繊維分散液中の繊維濃度を変化させることにより、見かけ密度と空隙率を自由に変化させることができる。繊維分散液のナノファイバー濃度は、好ましくは0.05〜5重量%であり、より好ましくは0.1〜1重量%である。
繊維(ナノファイバー)分散液を凍結させる温度は、分散媒が凍結する温度であれば構わないが、凍結温度によりスポンジ状の三次元構造の細孔構造や繊維の凝集状態を制御することも可能である。例えば、分散媒として水を使用した場合、0℃以下であれば凍結が可能であるが、凍結温度を低くすれば、分散媒である水が瞬時に凍結され、凍結中に形成される氷の結晶が小さくなり、繊維の再凝集も抑制される傾向にある。その結果、その後の真空化により氷を昇華させることによりスポンジ状の三次元構造体の細孔が小さくなり、きめ細かな構造となる。それに対して凍結温度を0℃に近づければ、凍結がゆっくり進行し、凍結中に形成される氷の結晶が大きくなり、さらにこの過程で繊維が再凝集する傾向がある。その結果、その後の真空化により氷を昇華させることによりスポンジ状の三次元構造体の細孔が大きくなり、細孔同士が連結したような連続孔を有するような構造も可能となる。これらの氷の結晶の形成や繊維の再凝集は凍結温度だけでなく、凍結する際の降温速度、溶媒のpHおよび添加剤なども深く関係する。すなわち、凍結温度、時間および溶媒の状態などを制御することにより、スポンジ状の三次元構造体の細孔の孔径や連続性の制御が可能となる。
細胞を培養する細胞足場材料として、スポンジ状の三次元構造体における細孔の大きさは500μm以下の孔径とすることが理想であり、分散媒として水を使用して凍結乾燥でスポンジ状の三次元構造体を形成する場合は、−5℃以下の温度で凍結することが好ましい。また、凍結されるまでの時間と氷の結晶化状態の関係から、凍結温度はより好ましくは−20℃以下である。また、細胞培養用基材として内部に細胞を保持させて、培養液を保持し通液させるためには、その孔径は10μm以上であることが好ましく、その点から凍結温度は−150℃以上であることが好ましく、より好ましくは−80℃以上である。凍結時間は分散媒が全て凍結するまで凍結処理することが好ましく、その点から凍結時間は2時間以上であることが好ましく、より好ましくは6時間以上である。
培養する細胞種や培養目的や用途に応じて様々な微細孔の孔径が要求されるため、またスポンジ状の三次元構造体を作製するために使用する繊維(ナノファイバー)分散液におけるナノファイバー濃度も関係するため、これら凍結温度には限定はされないが、使用する分散液中のナノファイバーの濃度は上記したとおり0.1重量%〜1重量%で使用することが好ましく、この範囲においては−80℃以上−20℃以下で凍結することにより微細孔の数平均孔径を細胞培養にとって好ましいとされる10μm〜500μmの範囲にすることができる。また、分散媒の昇華の過程も細孔径の制御や繊維の再凝集に深く関係しており、昇華の際の真空度と温度の制御も、スポンジ状の三次元構造体の形成においては重要である。昇華の際の真空度を高くすることにより溶媒を素早く除去することができるため、繊維の再凝集を防ぐことができる。また、昇華の温度を低温にすることにより溶媒が溶解するのを防ぐことができ、これによっても繊維の再凝集を防ぐことが可能となる。
また、その他に、ナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体の細孔構造を制御する手段としては、繊維分散液に対して、所望する細孔と同じ大きさと形状であり、かつ分散媒には溶解しないような無機塩などからなる物質(以下、ポローゲンと呼ぶことがある)を添加して、上記と同様の方法で分散媒を除去した後、溶媒による溶解あるいは熱処理などによりポローゲンを溶解して除去することにより、所望の大きさと形状の細孔を形成させることも可能である。
また、本発明で用いられるナノファイバーは、細胞足場材料として使用する用途に応じて様々な処理を行うことも可能である。処理としては、加熱処理、冷却処理、凍結処理、酸やアルカリによる加水分解処理、溶媒処理、熱水処理、グロー放電処理、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、γ線処理、電子線処理、レーザー処理、紫外線処理、赤外線処理、オゾン処理、加圧処理、減圧処理、加圧蒸気処理、ガス処理、蒸気処理、火炎処理、コーティング処理、グラフト重合処理、延伸処理、真空処理、架橋処理、化学的修飾処理およびイオン注入等が挙げられるが、これらに限定されない。
特に、作製されたナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体の表面は、培養を目的とする細胞の付着、接着性、成長、増殖、分化誘導および活性化などの細胞の機能発現にとって、自然な基質ではない場合がある。このよう場合、細胞培養の足場または組織再生の足場という細胞足場材料として適当な表面性状するために、様々な処理を行うことが好ましい。コーティング処理あるいはグラフト重合処理などの表面処理は、ナノファイバー表面の性状を様々に変化させる上で重要であり、ナノファイバー表面を、生体適合性ポリマー、生物分解性ポリマーおよび親水性ポリマーなどで被覆することも可能である。
このような処理に用いられる物質としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリリシンおよびポリアリルアミン等のカチオン性ポリマー、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などアニオン性ポリマーのようなイオン性ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、セルロース、アガロースおよびシリコーンなどの親水性ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラートなどの疎水性ポリマー、コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブロネクチンおよびプロテオグリカンなどの細胞外マトリックスを形成するポリマー、ゼラチン、キチン、キトサンおよびリン脂質などの生体ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、ハイドロキシアパタイトやβリン酸3カルシウムなどのセラミック系の無機物質や、タンタル、チタン、白金、金、銅およびステンレスなどの金属系の無機物質を、ナノファイバー表面にコーティングすることもできる。これらのコーティング処理あるいはグラフト処理を行う物質は、生体適合性の物質を使用することが本件の目的である細胞足場材料として使用する点からも好ましい。特に、本発明の細胞足場材料で模倣対象としている骨髄は、細胞外マトリクス成分としてコラーゲンのようなタンパク質だけでなく、ハイドロキシアパタイトによっても構成されている。そのため、骨髄を模倣するという点においては、ハイドロキシアパタイトでナノファイバーをコーティングすることは好ましい処理であるといえる。また、ナノファイバー表面を部分加水分解処理することにより、表面への血清タンパク質や細胞培養に有用なタンパク質の吸着性が改質されることによって、細胞付着、接着性などの細胞機能発現の促進、あるいは、これによる細胞培養密度を向上させることもできる。
また、処理方法として、スポンジ状の三次元構造体を形成させたナノファイバー同士が絡み合った状態で、ナノファイバー表面を軟化、溶融あるいは溶解させ、再凝固させることにより、ナノファイバー同士を部分的に融着することにより接合させることも可能である。このような処理の代表例として、熱処理、電子線処理および溶媒処理があるが、中でも加圧蒸気処理がもっとも好ましく用いられる。この場合、ナノファイバーの原料として使用する合成ポリマーのガラス転移温度以上、溶融温度以下の温度条件で処理することが好ましい。
また、これらの処理は、スポンジ状の三次元構造体を作製する前の状態であっても後の状態であっても、いずれの時点で行っても良い。
特にこれらの処理において、ナノファイバー同士を部分的に接合させることにより、ナノレベルの構造を保持したまま、耐水性や耐圧性のような外部からの物理的な力に対する耐久性を向上させることが可能となる。このようなナノファイバー同士を接合させる好ましい処理方法として、コーティング処理による被覆、熱処理による融着、および溶媒処理による溶着が好ましい様態として含まれる。しかしながら、コーティング処理は上記したように他のポリマー類でナノファイバーを被覆することによりナノファイバー同士を接合させて耐久性を向上させることができるが、ナノファイバー自体の物性を著しく変化させる可能性がある。また、溶媒処理による溶着はナノファイバーのナノレベルの構造を変化させてしまう可能性が高い。そのため、特にナノファイバー自体の物性やナノ構造を変化させない点で熱処理がより好ましく用いられる。
本発明で用いられるナノファイバーにおいて、本発明のスポンジ状の三次元構造体を細胞足場材料として最適に使用するための処理の一つとして、そのナノファイバー表面に機能性物質を吸着および/または固定させることが好ましい。ここでいう吸着とは、水との親和性が低いために起きる疎水性相互作用により物質と物質が物理的に結合している状態を指している。また、固定とは共有結合に代表される化学的な結合により物質と物質が結合している状態を指す。
機能性物質をナノファイバー表面に吸着させる方法としては、機能性物質をナノファイバー表面に接触させるだけで良く、特に機能性物質を溶媒で溶解し、この溶液中にナノファイバーを浸漬することによる吸着法が良く用いられる。この際、ナノファイバーは比表面積が大きいため好ましく吸着が起きるが、加温処理あるいは長時間で処理することにより、吸着が促進される。
また、機能性物質をナノファイバー表面に固定させる方法としては、ナノファイバー表面の官能基と機能性物質の官能基を反応させることによる共有結合やイオン結合により結合する方法が挙げられる。このような官能基として、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、ピリジルジスルフィド基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、フェニルアジド基、ジアゾカルベン基、ヒドラジン基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、イミドエステル基、ニトロアリールハライド基、イミダゾリルカルバミン酸基、マレイミド基、チオフタルイミド基および活性化ハロゲン基などが挙げられる。このような官能基をナノファイバー表面に導入するためには、官能基を持つポリマーや分子をナノファイバー作製時の原料として使用しても良いし、ナノファイバー表面にコーティングし吸着させても良い。また、市販の二種類の違った官能基と反応する活性基をもつ架橋剤を使用して、ナノファイバー表面に活性基を導入しても良い。また、ナノファイバー表面に、ビオチン基、アビジン基、ストレプトアビジンおよびポリヒスチジンなどの特異的な結合性をもつ官能基を導入しても良い。
また、これらの機能性物質をナノファイバー表面に吸着および/または固定させる方法には特に制限はなく、スポンジ状の三次元構造体とする前の繊維(ナノファイバー)分散液の状態で、溶媒中に機能性物質を添加してあらかじめ吸着および/または固定させても良いし、スポンジ状の三次元構造体にした後で、コーティング等の後加工によりナノファイバー表面に吸着および/または固定させても良い。また、繊維(ナノファイバー)の前駆体であるポリマーアロイ繊維に含有させておいても良い。
また、機能性物質は、そのものを直接ナノファイバー表面に吸着および/または固定させても良い。また、機能性物質の前駆体物質をナノファイバー表面に吸着および/または固定させた後、その前駆体物質を所望の機能性物質に変換することもできる。後者の方法のより具体的な例としては、ナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体に有機物を含浸させ、その後それを外的な処理により化学変化させる方法が挙げられる。例えば、易溶解性物質を浴中処理により、ナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体に含浸させた後、酸化還元反応、配位子置換、カウンターイオン交換反応、酵素反応、光化学反応および加水分解反応などにより、難溶解性にする方法や活性化体に構造を変換させる方法等がある。また、繊維(ナノファイバー)の紡糸過程で機能性物質の前駆体を吸着させる場合には、紡糸過程では耐熱性の高い分子構造にしておき、後加工により機能性が発現する分子構造に戻すという方法も採用可能である。
機能性物質をナノファイバー表面に吸着させるに際して、ナノファイバーとして特に単繊維直径が200nm以下のナノファイバーを使用すると、比表面積が飛躍的に大きくなるだけでなく、スポンジ状の三次元構造体におけるナノファイバー間に無数の数nm〜数百nmの空間が形成される。そのため、従来のマイクロファイバーのような繊維では見られなかったナノファイバー特有の優れた吸着、吸収特性を示すようになる。そのため、ナノファイバー上には機能性物質を高密度で吸着、保持させることが可能となり、機能性物質の担う機能を最大限に発現することが可能となる。
ここでいう機能性物質とは、ナノファイバーの足場材料としての機能を向上し得る物質全般を指す。例えば、吸湿剤、保湿剤、撥水剤、保温剤、表面改質剤および平滑剤なども、機能性物質の対象として用いることができる。ナノファイバーの表面の物理的性質あるいは生物学的性質を改良する意味において、機能性ポリマー、アミノ酸、タンパク質、ビタミン類、ステロイド類、糖類、ポリアミンおよび光触媒のようなポリマー、低分子物質および薬剤などを使用することができる。
本発明のスポンジ状の三次元構造体を細胞足場材料として最適に使用するようにするためには、そのナノファイバー表面に機能性物質として、細胞付着、細胞増殖や分化および活性化など細胞の機能発現に直接影響を与えるようなタンパク質を吸着および/または固定させることが好ましい。さらに、吸着および/または固定するタンパク質としては、細胞付着、細胞増殖および細胞機能にとって重要な機能タンパクであるサイトカイン等が挙げられる。サイトカインとは、極微量で細胞表面の特異的レセプターを介して生理活性を示すタンパクを指し、免疫の調節、炎症反応の調節、ウィルス感染細胞や腫瘍細胞の障害や死、および細胞の増殖や分化を担うタンパクの総称を指す。
サイトカインには、インターロイキン、増殖因子、ケモカイン、腫瘍壊死因子およびインターフェロンなどが含まれる。具体的には、インシュリン、IGF(インシュリン様成長因子)−I、IGF−II、EGF(上皮成長因子)、TGF(トランスフォーミング成長因子)−α、TGF−β1、TGF−β2、FGF(繊維芽細胞成長因子)−1、FGF−2、FGF−3、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−7、FGF−8、FGF−9、FGF−10、FGF−11、FGF−12、FGF−13、FGF−14、FGF−15、FGF−16、FGF−17、FGF−18、FGF−19、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、NGF(神経成長因子)、IL(インターロイキン)−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、M−CSF(マクロファージコロニー刺激因子)、SCF(幹細胞因子)、FL(flt−3リガンド)、アンジオポエチン、EPO(エリスロポエチン)、TPO(トロンボポエチン)、OSM(オンコスタチンエム)、LIF(白血病抑制因子)、アクチビン、インヒビン、BMP(骨形成タンパク質)、PDGF(血小板由来増殖因子)、HGF(肝細胞成長因子)、TNF(腫瘍壊死因子)−α、TNF−β、Fas−L(Fasリガンド)、CD40リガンド、MIP(マクロファージ炎症蛋白)、MCP(単球化学誘導蛋白)、IFN(インターフェロン)α、IFNβ、IFNγ、GDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)、およびアンジオテンシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
また、サイトカイン以外にも細胞に影響を及ぼすタンパクとして、ノッチリガンド(デルタ1〜3、ジャギド/セレート1,2)、抗CD3抗体や抗CD28抗体などの刺激抗体、T細胞レセプター(TCR)、Wnt(ウイント)分泌蛋白、およびTie(タイエ)レセプターなどが挙げられ、これらも使用することができる。また、これら以外にも、細胞培養や組織再生に有効なタンパク質として、細胞外マトリックスあるいは接着因子とよばれる細胞の接着にかかわるタンパクがあり、このようなタンパク質をナノファイバー上に吸着および/または固定させることも、細胞足場材料として細胞培養や組織再生の点から有効である。
細胞外マトリックスとは、細胞が合成し、細胞外に分泌・蓄積した生体高分子化合物の複雑な会合体を指す。すなわち、細胞周辺に沈着した組織の構造支持体に該当し、細胞接着や細胞骨格の配向、細胞の形、細胞移動、細胞増殖、細胞内代謝および細胞分化を細胞から調整する。このような物質としては、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、グリコサミノグリカン(ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸など)、ヘパリン、キチン、およびキトサン等が挙げられる。また、接着因子とは、細胞表面に存在し、細胞−細胞間および細胞−細胞外マトリックスの接着に関わる因子を指す。細胞−細胞間接着に関わる因子としては、カドヘリンファミリー、Igスーパーファミリー、セレクチンファミリーおよびシアロムチンファミリー等が挙げられる。また、細胞−細胞外マトリックス間の結合に関わる因子としてはインテグリンファミリーが挙げられる。また、人工的に合成されたペプチドや細胞外マトリックスの全部あるいは部分タンパク質や、遺伝子組み換えタンパク質として、三洋化成工業製“プロネクチンF”(登録商標)、“プロネクチンL”(登録商標)、および宝酒造製“レトロネクチン”(登録商標)等が挙げられる。上記のタンパク質は、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
また、細胞足場材料としては、一度ナノファイバー表面に吸着された上記のような機能性物質やタンパク質が徐放されることが好ましい場合もある。これらの物質が放出されることによって、初めて細胞に対して機能を与えることが可能となる場合もあるからである。本発明においては、ナノファイバー表面に高密度で吸着され保持された、あるいはナノファイバー間に吸収され保持された機能性物質は、長期間にわたって、ナノファイバー表面あるいはファイバー間から放出されるという徐放性を示す。すなわち、ナノファイバーを使用すれば、ナノファイバー表面に吸着あるいはファイバー間に吸収されたタンパク質などの機能性物質は、吸着または吸収後長期間にわたって培養液中などに放出される性質を示す。放出される量や期間は、ナノファイバーの表面の性質、吸着または吸収したタンパク質の量、タンパク質自体の性質、pH、温度および塩濃度など環境によって左右される。例えば、疎水性相互作用によって吸着されているタンパク質については、ナノファイバー表面が親水性に近いほど放出されやすくなる。このような徐放性を高める試みとしては、親水性ポリマーをナノファイバーの素材として使用することや、ナノファイバー表面を親水性にするために、例えば、ナノファイバー表面を塩酸あるいは水酸化ナトリウムなどで加水分解する方法や、親水性のポリマーでコーティングする方法等を採用することもできる。この場合は、吸着性と徐放性のバランスを考慮する必要がある。
また、ナノファイバー表面に吸着したタンパク質を溶液中に徐放させる際に、徐放されやすい環境を作ること、例えば、培養液などの溶液中に高分子量のタンパクのような高吸着性の物質を添加することにより、ナノファイバーからのタンパク質の放出量を増加させることができる。このような目的で細胞培養液などの溶液中に添加する高吸着性物質としては、アルブミン、血清タンパク、乳タンパク、スキムミルクおよび脂質等が挙げられ、その添加量を調整することにより、タンパク質の放出量及び徐放期間を調整することが可能となる。また、使用するナノファイバーの素材として、ポリ乳酸などの分解性のポリマーを利用することにより、ポリマー自体の分解に伴い、吸着または吸収したタンパク質を徐放させることも可能である。また、ゼラチンなどの分解性の物質を、ナノファイバー表面に吸着させ保持させた後、ここに機能性物質やタンパク質を吸着または吸収させ、徐放させることも可能である。
合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む本発明の細胞足場材料は、細胞培養用あるいは組織再生用に好適に使用される。細胞培養用とは、足場材料上で、細胞の増殖、接着、遊走および分化などの機能発現を引き起こす用途を指し、また、組織再生用とは、足場材料上で、働きも似通った細胞の集団が集合体として機能を持つ組織を生体内あるいは生体外で形成させる用途を指しており、ここにおいて、さまざまな組織を集めることにより器官を形成することも可能である。
本発明の細胞足場材料は、次のような用途に好適である。すなわち、本発明の細胞足場材料を用いて、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、ES細胞(胚性幹細胞)、多能性幹細胞、CD34陽性細胞、免疫系細胞、血球系細胞、神経細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、心筋細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、骨髄細胞、羊膜細胞および臍帯血細胞などの生体由来の細胞、NIH3T3(エヌアイエイチスリーティースリー)細胞、3T3−L1(スリーティースリーエルワン)細胞、3T3−E1(スリーティースリーイーワン)細胞、Hela(ヒーラ)細胞、PC−12(ピーシーツェルブ)細胞、P19(ピーナインティーン)細胞、CHO(チャイニーズハムスター卵母)細胞、COS(シーオーエス)細胞、HEK(エッチイーケー)細胞、Hep−G2(ヘップジーツー)細胞、CaCo2(カコツー)細胞、L929(エルナインツーナイン)細胞、C2C12(シーツーシーツェルブ)細胞、Daudi(ダウディ)細胞、Jurkat(ジャーカット)細胞、KG−1a(ケージーワンエー)細胞、CTLL−2(シーティーエルエルツー)細胞、NS−1(エヌエスワン)細胞、MOLT−4(エムオーエルティーフォー)細胞、HUT78(エッチユーティーセブンティエイト)細胞およびMT−4(エムティーフォー)細胞などの株化細胞、あるいは抗体産生細胞である各種ハイブリドーマ細胞株、およびこれら細胞を遺伝子工学的に改変した細胞のような細胞を1種類以上培養することが可能である。
すなわち、本発明の細胞足場材料は、その用途として、細胞培養に用いられるバッグ、フラスコ、ディスク、ウェル、シャーレおよびボトルなどの成形体の一部あるいは全部、神経、心臓、血管、軟骨、皮膚、角膜、腎臓、肝臓、毛髪、心筋、筋肉、腱などの組織再生および移植用組織形成に使用すされる細胞足場材料用の成形体の一部あるいは全部、動脈瘤コイル、塞栓物質、人工神経、人工粘膜、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工胸壁、人工心膜、人工心筋、人工横隔膜、人工腹膜、人工靱帯、人工腱、人工角膜、人工皮膚、人工関節、人工軟骨、歯科材料および眼内レンズなどの生体内埋め込み用医療成型体の一部あるいは全部、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、癒着防止材、骨折接合材、カテーテル、シリンジ、輸液・血液バッグ、血液フィルターおよび体外循環用材料などの医療行為に使用する成形体の一部あるいは全部、その他コンタクトレンズ、眼内レンズなどの材料、および成形体の一部あるいは全部として使用することができる。また、これら成型体は医療用途だけでなく、実験用途や分析用途としても使用することが可能である。
また、熱可塑性ポリマーとして繊維(ナノファイバー)に使用されるポリ乳酸、ポリグリコール酸やポリラクトン酸、は、皮膚、歯周組織および顎骨などの組織再生・修復用の足場や、テンプレートとしての細胞足場材料として使用されており、また、ナイロンは、手術用の縫合糸などとして、細胞、組織、体液および血液に接する部分の材料として使用されており、また、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタンやポリスルホンは、人工腎臓やコンタクトレンズの材料として使用されている。そのため、これらの合成ポリマーを、本発明においてナノファイバーを作製する素材として使用することは好適である。
上記した用途の大部分においては、従来のエレクトロスピニングによって製造されたナノファイバーによる不織布では、細胞や培養液を保持するための空隙率が小さく、形態安定性が不足し、また強度や大きさ(広さ)そのものが足りないという問題があり、従来のナノファイバー作製方法で製造されたナノファイバー仕様では、用途展開能力が不十分の分野であった。
これに対し、上記したように、本発明において使用されるポリマーアロイ溶融紡糸法を用いたナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料によれば、細胞や培養液が保持するための空隙率、形態安定性および強度などの面が改良され、初めて用途展開が可能となる。例えば、生体内埋め込み用あるいは循環培養中に使用される細胞足場材料は、製品強度と適切な空孔率が要求される。しかしながら、従来のエレクトロスピニングにより作製されるナノファイバーは、高電圧により吹き付けた繊維であるため繊維強度自体が弱く、またエレクトロスピニングで唯一可能である不織布状態の構成では一般的に細胞足場としての微細構造の制御性に欠ける恐れがあり、また細胞が入り込むような均一な空孔率を得ることは不可能であった。このように従来のナノファイバー繊維を使用した細胞足場材料では、機械的構造が脆弱であり、構造的安定性を確保するためには、特定の結合材料または裏地材料が必要とされる場合があり、使用面での制約が多かった。ところが、本発明において好適に用いられるポリマーアロイ溶融紡糸で作製されたナノファイバーは、結晶配向化された高強度のナノファイバーであるため、スポンジ状の三次元構造体とすることにより、上記したような細胞足場材料として求められる各種性能を達成することができ、細胞培養や組織再生に最適であり、かつ生体内の骨髄内あるいは間質のような環境を模倣した微細構造を有し、サイトカインなどの機能タンパク質の微細分布が実現できる細胞足場材料である。以上の理由から、本発明で使用される合成ポリマーで作製されたナノファイバーとしては、溶融紡糸によって作製したナノファイバーが好適に用いられる。
本発明の合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料を成形体とし、培養の足場として生体外で細胞培養および組織培養を行う場合、細胞培養液として、例えば、Minimum Essential Medium(MEM、ミニマム基礎培地)、Basal Medium Eagle(BME、イーグル基礎培地)、Media 199(199培地)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D-MEM、ダルベッコ変法イーグル培地)、α−Minimum Essential Medium(α-MEM、アルファミニマム基礎培地)、F-10 Nutrient Mixture(Ham’s F-10、ハムエフ10培地)、F-10 Nutrient Mixture(Ham’s F-12、ハムエフ12培地)、RPMI1640(アールピーエミアイ1640)、L-15(エル15)、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM、イスコブス変法ダルベッコ培地)、ES medium(イーエス培地)、MCDB 131 Medium(エムシーディービー131培地)、CMRL 1066 Meida(シーエムアールエル1066培地)、DM-160 Medium(ディーエム160培地)、Fisher Medium(フィッシャー培地)、StemSpan Medium(ステムスパン培地)、StemPro Medium(ステムプロ培地)、Hybridoma Serum Free Medium(ハイブリドーマ無血清培地)と呼ばれる市販の細胞培養液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン−塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液およびハンクス緩衝液などの各種緩衝液、およびこれらの混合物を用いることができるが、培養の目的とする細胞に最適な細胞培養液を使用すれば良く、これらに限定されない。
また、これらの培養液中に、ウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清およびヒト血清などの血清、血漿成分、インターロイキン、インターフェロンおよびインシュリンなどのサイトカイン、アラニン、アスパラギン、グリシン、プロリン、アルギニン、ヒスチジンおよびリシンなどのアミノ酸、トランスフェリン、セレン、メルカプトエタノール、およびアスコルビン酸などの添加物を添加しても良い。
本発明の細胞足場材料を使用して細胞培養を行う際には、静置状態であっても流動状態であっても良い。流動状態としては、懸濁培養、循環培養、回転培養および撹拌培養などで培養することも可能である。また、細胞培養に際して、5%COインキュベーター内で培養したり、気体透過性バッグ内で培養したり、本発明のスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料をカラム内に組み込んで培養したり、あるいは細胞懸濁液の入ったリザーバー、市販の人工肺などを利用した酸素負荷装置、培地を交換するための透析カラムなどを組み込んだような灌流培養システムを利用して細胞を培養することも可能である。また、細胞自体あるいは細胞を懸濁した液を本発明の細胞足場材料に添加する場合、細胞をスポンジの三次元状構造体に対して均一に播種するために、先端に細い針等を有したシリンジ状の治具を使用してスポンジ状の三次元構造体の内部に細胞を添加することも可能である。スポンジ状の三次元構造体を低圧状態にさらした後、細胞を添加して均一に播種することも可能である。また、細胞を播種した後、スポンジ状の三次元構造体を振とうし、細胞を構造体内に均一に存在させることも可能である。
また、上記した細胞培養用の培養液および添加物を、予め本発明のナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料に含浸させておき、その中に細胞を添加して細胞を培養することも可能である。このような方法をとることより培養した細胞の操作性が向上する。
本発明は細胞足場材料として、合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体が他の基材上でその構造を形成していても良い。基材とは土台、基礎および基盤となるようなまとまった構造を持ち、スポンジ状の三次元構造体を支え、形状を安定化させるような役割をはたすことができる材料を指す。また、この基材の形状は平面状でも立体構造をとっていても良く、本発明の目的から他の基材の形状が細胞培養用器具あるいは医療用器具として使用される形状であることが好ましい。本発明の細胞足場材料は、医療用途あるいは医療につながる研究を目的とした用途にも使用することができるため、例えば、細胞の機能や組織、器官形成、再生を検討するための細胞培養、組織培養を研究するためのフラスコ、シャーレ、ディッシュ、ウェル、プレート、多穴ウェル、多穴プレート、スライド、フィルム、バック、カラム、タンク、ボトル、中空糸、不織布、球状、粒子状およびフレーク状などの細胞培養用器具として使用される形状の基材上で、本発明で得られるナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料を形成して使用することも可能である。
本発明の合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料は、幹細胞移植に代表される細胞医療や再生医療において使用する移植用細胞の製造方法にも使用することができる。例えば、近年、白血病などの重い血液疾患に対して骨髄移植の代わりに、特に臍帯血を供給源として用いた造血幹細胞移植が行われている。臍帯血を用いた移植は、主に急性リンパ性白血病(ALL)や急性骨髄性白血病(AML)、再生不良性貧血、先天性免疫不全症および先天性代謝異常疾患などの治療に用いられており、骨髄移植や末梢血幹細胞移植に比べて移植後の移植片対宿主病(GVHD)が軽く、また、増殖能力が旺盛であるため骨髄移植時に使用される細胞数の10分の1程度の細胞数でも移植が可能となる。ところが、臍帯血に含まれる幹細胞の総細胞絶対数は少なく、成人における造血幹細胞の生着に必要な細胞数が確保するのが難しいため、これまでの移植では主に小児に対して行われていた。そのため、例えば、本発明の生体内環境を模倣した細胞足場材料を用いて、臍帯血中の造血幹細胞および前駆細胞を未分化状態で維持しつつ増殖させることにより、成人に移植できるだけの幹細胞や前駆細胞を確保することができ、成人への幹細胞移植などの適応拡大や生着不全の回避、造血回復の促進、輸血量の軽減、複数の患者への移植、一人の患者への複数回の移植および患者の入院期間の短縮やより安全な移植を実現することができる。この他にも、本発明の生体内環境を模倣した細胞足場材料は、癌免疫治療に使用するヘルパーT細胞、キラーT細胞および樹状細胞などの移植用細胞の培養にも使用することができる。このように幹細胞、前駆細胞あるいは免疫細胞を培養するためには、細胞を細胞増殖あるいは細胞分裂するような機能を誘発するタンパク質の一種であるサイトカインを、本発明の合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料に吸着させ、徐放させることが好ましい。
また、本発明の細胞足場材料を細胞培養用の足場材料成形体として用いることにより、様々な疾病や疾患に対して有効な細胞を培養して細胞製剤を製造することも可能である。細胞製剤とは、組織や細胞を加工した医薬品や医療用具を指し、細胞製剤の製造方法とは細胞の分離、細胞の増殖、細胞への刺激、細胞への分化誘導および細胞のアポトーシス誘導など細胞を細胞製剤として疾病や疾患に対して有効な形態に加工するためのあらゆる工程を含んでいる。細胞製剤を製造するには、まず、細胞群の供給源となる組織や体液などを採取する。これら細胞群の供給源は、ヒト由来のものが好ましいがこれに限定されない。このような細胞群の供給源として、末梢血、臍帯血、骨髄液、羊膜組織、胎盤組織、生殖巣、G−CSF動員末梢血および胎児組織などが挙げられるが、これらに限定されない。供給源として特に体液などを使用するときは、予め培養前に遠心法、単位重力沈降法および遠心選別法などで、細胞培養に余分な成分を排除した均一な細胞群を得ることが一般的である。
また、さらに細胞培養前に、フローサイトメトリー、磁気ビーズ法およびアフィニティーカラム法など細胞分離の方法を用いて、移植目的とする細胞の純度が高い細胞群にしておくことが好ましい。このような様々な加工を行った後、本発明の合成ポリマーで作製されたナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料を用いて、細胞培養や組織再生を行うことにより、細胞製剤として必要な細胞を純度高く得ることができる。また、本発明の細胞足場材料を用いて細胞を培養した後に再度細胞分離を行うことは、細胞製剤の製造方法として好ましい態様である。この製造方法により、目的とする有用な細胞を高純度で大量に得ることができ、効果の優れた細胞製剤を製造することができる。
また、本発明の細胞足場材料を生体内に挿入するインプラント材料として使用すれば、材料上で様々な機能細胞の活性を促すことにより、細胞を三次元的に分布させ、細胞の機能を制御しながら再生させる組織や臓器として特定の形を付与しつつ、再生のスペースを提供する足場とすることができ、骨、神経、筋肉などの組織や臓器の再生および再建を促進することができる。
以下、本発明の細胞足場材料について、実施例を用いて詳細に説明する。実施例中の測定方法は、下記の方法を用いた。
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製作所製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
B.ポリマーの融点
Perkin Elmaer社製 DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
C.口金吐出孔での剪断応力
口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力は、ハーゲンポワズユの式(剪断応力(dyne/cm2)=R×P/2L)から計算する。ここで、Rは口金吐出孔の半径(cm)であり、Pは口金吐出孔での圧力損失(dyne/cm2)であり、Lは口金吐出孔長(cm)である。また、P=(8LηQ/πR4 )であり、ηはポリマー粘度(poise)であり、Qは吐出量(cm/sec)であり、πは円周率である。また、CGS単位系の1dyne/cm2 はSI単位系では0.1Paとなる。
D.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて、給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
E.SEM観察
サンプルに白金を蒸着し、超高分解能電解放射型走査型電子顕微鏡で観察した。SEM装置は、日立製作所(株)製のUHR−FE−SEMを用いた。
F.TEMによるナノファイバーの横断面観察
分散前のナノファイバー束を用い、これの横断面方向に超薄切片を切り出してTEM装置でナノファイバーの横断面を観察した。また、必要に応じ金属染色を施した。TEM装置は日立製作所(株)製H−7100FA型を用いた。
G.繊維(ナノファイバー)の数平均直径
繊維(ナノファイバー)の数平均直径は、次のようにして求める。すなわち、上記SEM装置もしくはTEM装置観察による写真から、画像処理ソフト(“WinROOF”(登録商標))を用いて繊維の単繊維直径を円換算で計算し、それの単純な平均値を求めた。この際、同一横断面内で無作為に抽出した150本の繊維の直径を解析し、計算に用いた。
H.繊維構成比率
上記繊維の直径解析を利用し、繊維分散体中のそれぞれの単繊維直径をdとし、その2乗の総和(d +d +・・+d )=Σd (i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きい繊維分散体中のそれぞれの繊維直径をDとし、その2乗の総和(D +D +・・+Dm)=ΣD (i=1〜m)を算出する。Σd に対するΣD の割合を算出することにより、全繊維に対する粗大繊維の面積比率、すなわち繊維構成比率とした。
I.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013(平成11年4月20日改訂)に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に、破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。
J.見かけ密度
スポンジ状の三次元構造体の見かけ密度ρ(g/cm)は、次のようにして求めた。すなわち、スポンジ状の三次元構造体を、立方体や直方体などの形状に切り出し、定規やノギス等を用いて各辺の大きさを測定し、該スポンジ状の三次元構造体の体積を求め、これをV(cm)とする。また、切り出した該スポンジ状の三次元構造体の重量を測定し、これをW(g)とする。WをVで除すことにより見かけ密度ρを求める。
K.空隙率
スポンジ状の三次元構造体の空隙率F(%)は、次のようにして求めた。すなわち、前述の見かけ密度を求めた際に使用した体積V(cm)とW(g)を用い、さらにスポンジ状の三次元構造体を形成する繊維の比重S(g/cm)を用いて、次式(1)により求める。
(%)=(W/S)/V×100 (1)
このとき、繊維以外の他の成分、例えば、添加剤等が含まれている場合には、その添加剤の密度と重量も考慮した上で、例えば下記式(2)を用いて空隙率を求める。さらに、複数の添加剤等が含まれている場合においても、同様の考え方で空隙率を求めることができる。
Fv(%)=((W/S)+(W/S))/V×100 (2)
ここで、Wは繊維の重量であり、Sは繊維の比重であり、Wは添加剤の重量であり、Sは添加剤の比重である。
L.数平均孔径
スポンジ状の三次元構造体中の繊維で構成される微細孔の数平均孔径は、次のようにして求める。上記E項で測定したSEM写真上に、1辺が50mmとする正方形の枠を任意の場所に描く。さらに、枠内の繊維画像を画像処理ソフト(WinROOF)に取込み、取込んだ画像上に均等間隔で任意の8本以上の輝度分布測定用ラインを載せ、その上の各繊維の輝度分布を画像を2値化するために測定する。表面輝度が高い方から10本の繊維を選択し、その輝度を平均して平均高輝度Lhとする。平均高輝度Lhの50%の輝度をしきい値Luとして、輝度Lu以下の繊維を画像処理(Threshold機能)で消去する(この処理で表面部分付近の孔を選択したことになる)。選択された繊維に囲まれた面積Aiを画像処理で全数測定する(手作業およびコンピュータ自動方式どちらでも可能)。面積Aiを孔数nで除し、その値から円換算直径を求めることで数平均孔径を求める。
[分散液の製造例1]
溶融粘度57Pa・s(240℃、剪断速度2432sec-1)、融点220℃のN6(ナイロン6)(20重量%)と、重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、剪断速度2432sec-1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)(80重量%)を、2軸押出混練機で220℃の温度で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。ここで、ポリL乳酸の重量平均分子量は、次のようにして求めた。すなわち、試料のクロロホルム溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を混合し、測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃の温度で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。N6の262℃、剪断速度121.6sec-1での溶融粘度は、53Pa・sであった。また、このポリL乳酸の215℃、剪断速度1216sec-1での溶融粘度は、86Pa・sであった。また、このときの混練条件は、下記のとおりであった。
・ポリマー供給 :N6とポリL乳酸を別々に計量し、別々に混練機に供給した。
・スクリュー型式:同方向完全噛合型 2条ネジ
・スクリュー :直径37mm、有効長さ1670mm、
L/D=45.1混練部長さは、スクリュー有効長さの1/3より吐出側に位置させた。
・温度 :220℃
・ベント :2箇所
このポリマーアロイチップを230℃の温度の溶融部で溶融し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度215℃とした口金から溶融紡糸した。このとき、口金は口金孔径0.3mm、孔長0.55mmのものを使用したが、バラス現象はほとんど観察されなかった。そして、このときの単孔あたりの吐出量は、0.94g/分とした。さらに、口金下面から冷却開始点(チムニーの上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の温度の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金から1.8m下方に設置した給油ガイドで給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して巻き取った。そして、これを第1ホットローラーの温度を90℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を1.5倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は、62dtex、36フィラメント、強度3.4cN/dtex、伸度38%、U%=0.7%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ポリL乳酸が海、N6が島の海島構造を示し、島N6の数平均による直径は55nmであり、N6が超微分散化したN6ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維が得られた。
得られたポリマーアロイ繊維を95℃の温度の5%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することにより、ポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバーの繊維束を得た。このN6ナノファイバーの繊維束をTEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は60nmと従来にない細さであり、単繊維直径100nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%であった。
得られたN6ナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、N6ナノファイバーのカット繊維を得た。タッピースタンダードナイヤガラ試験ビータ((株)東洋精機製作所製)に、水23リットル(L)と先に得られたカット繊維30gを仕込み、5分間予備叩解し、その後余分な水を切って繊維を回収した。この繊維の重量は250gであり、その含水率は88重量%であった。含水状態の繊維250gをそのまま自動式PFIミル(熊谷理機工業(株)製)に仕込み、回転数1500rpm、クリアランス0.2mmで6分間叩解した。オスターブレンダー(オスター社製)に叩解した繊維42gと水500gを仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌し、N6ナノファイバーの含有率が1.0重量%のN6ナノファイバー分散液1を得た。さらに、その分散液1を水で希釈してN6ナノファイバーの含有率が0.5重量%のN6ナノファイバー分散液2を得、前記分散液1を水で希釈してN6ナノファイバーの含有率が0.1重量%のN6ナノファイバー分散液3を得た。
[分散液の製造例2]
溶融粘度120Pa・s(262℃、121.6sec-1)、融点225℃のPBT(ポリブチレンテレフタレート)と2エチルヘキシルアクリレートを22%共重合したポリスチレン(PS)を用い、PBTの含有率を20重量%とし、混練温度を240℃として分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。このとき、共重合PSの262℃、121.6sec-1での溶融粘度は140Pa・sであり、245℃、1216sec-1での溶融粘度は60Pa・sであった。
これを溶融温度260℃、紡糸温度260℃(口金面温度245℃)、紡糸速度1200m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。このとき、口金として、吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.7mm、吐出孔長が1.85mmのものを使用した。紡糸性は良好であり、1tの紡糸で糸切れは1回であった。このときの単孔あたりの吐出量は、1.0g/分とした。得られた未延伸糸を延伸温度100℃、延伸倍率を2.49倍とし、熱セット温度115℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。得られた延伸糸は161dtex、36フィラメントであり、強度1.4cN/dtex、伸度33%、U%=2.0%であった。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、共重合PSが海で、PBTが島の海島構造を示し、PBTの数平均による直径は70nmであり、PBTがナノサイズで均一分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
得られたポリマーアロイ繊維をトリクロロエチレンに浸漬することにより、海成分である共重合PSの99%以上を溶出し、これを乾燥して、PBTナノファイバーの繊維束を得た。このPBTナノファイバーの繊維束をTEM写真から解析した結果、PBTナノファイバーの数平均直径は85nmと従来にない細さであり、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%であり、単繊維直径で100nmより大きいものの繊維比率は1重量%であった。
得られたPBTナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PBTナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPBTナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25gと水1000gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PBTナノファイバーの含有率が0.5重量%のPBTナノファイバー分散液4を得た。
[分散液の製造例3]
分散液の製造例1のN6を、溶融粘度350Pa・s(220℃、121.6sec-1)、融点162℃のPP(ポリプロピレン)(23重量%)としたこと以外は、分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。ポリL乳酸の220℃、121.6sec-1における溶融粘度は、107Pa・sであった。このポリマーアロイチップを用い、溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、単孔吐出量1.5g/分、紡糸速度900m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率を2.7倍、熱セット温度130℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。
得られたポリマーアロイ繊維を98℃の温度の5%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬することによりポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPナノファイバーの繊維束を得た。このPPナノファイバーの繊維束をTEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は240nmであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維比率は0重量%であった。
得られたPPナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PPナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率75重量%のPPナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維を10gと水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPナノファイバーの含有率が0.5重量%のPPナノファイバー分散液5を得た。
[分散液の製造例4]
海成分にアルカリ可溶型共重合ポリエステル樹脂60重量%、島成分にN6樹脂40重量%を用い、溶融紡糸で島成分を100島とし、5.3dtexの高分子配列体複合繊維(以後、複合繊維という)を作成後、2.5倍延伸して2.1dtexの複合繊維を得た。この複合繊維の強度は2.6cN/dtexであり、伸度は35%であった。その後、この複合繊維を98℃の温度の3%濃度の水酸化ナトリウム水溶液で1時間処理することにより、複合繊維中のポリエステル成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥してN6の極細繊維を得た。得られたN6の極細繊維の平均単糸繊度をTEM写真から解析したところ、0.02dtex(平均繊維径2μm)相当であった。得られたN6極細繊維を2mm長に切断してカット繊維とした後、このカット繊維25gと水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、N6極細繊維の含有率が0.5重量%の繊維分散液6を得た。
[分散液の製造例5]
従来公知の溶融紡糸法により単繊維繊度10dtex(平均繊維径30μm)のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維を得た後、これを2mm長に切断して、カット繊維を得た。このカット繊維25gと水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数10000rpmで1分間撹拌して、PET繊維の含有率が0.5重量%の繊維分散液7を得た。
[分散液の製造例6]
従来公知の溶融紡糸法により単繊維繊度33dtex(平均繊維径55μm)のPET繊維を得た後、これを2mm長に切断して、カット繊維を得た。このカット繊維25g、水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数10000rpmで1分間撹拌して、PET繊維の含有率が1.0重量%の繊維分散液8を得た。
以上説明した製造例で作製した各分散液をまとめて表1に示す。
[構造体の製造例1]
分散液の製造例1〜6で得られた繊維分散液1〜8を用い、この分散液をそれぞれ細胞培養用96ウェルプレート(ウェル直径6.4mm)に1ウェル毎に100μL入れ、−80℃の温度の超低温フリーザー中に12時間静置した。凍結したサンプルをEYELA社製の凍結乾燥機(FD−5N)のチャンバー内に入れ、0.1kPa以下の真空度で凍結乾燥して構造体1〜8を得た。構造体1〜5はいずれも空隙率が80%以上のスポンジ状の三次元構造体を形成したが、分散液6と分散液7については分散性が不良で、凍結乾燥の過程で繊維同士が寄り集まって繊維束状の形状となったため、作製された構造体6と構造体7は空隙率が80%未満となり、スポンジ状の三次元構造体を形成できなかった。また、分散液8については繊維径が大きすぎ、分散液中で繊維が沈殿してしまうため、作製された構造体8はシート状の扁平な構造体となってしまい、空隙率が80%未満となり、スポンジ状の三次元の構造体を形成できなかった。また、作製した各構造体についてはそれぞれ、121℃、103.7kPaの条件下で20分間加圧蒸気処理を行った。
得られたスポンジ状の三次元構造体1〜5をSEMで観察した。数平均直径、繊維比率、微細孔および空隙率は、表2に示したとおりであった。また、SEMによる観察により、加圧蒸気処理により繊維同士が、部分的に融着して接合していることが確認された。
[構造体の製造例2]
分散液の製造例1で得られたナノファイバー分散液2を用い、凍結温度を−20℃、−40℃および−150℃にそれぞれ変えたこと以外は、構造体の製造例1と同様に凍結乾燥、加圧蒸気処理を行って構造体9〜11を得た。これらの構造体9〜11は、いずれもスポンジ状の三次元構造体を形成していた。得られたスポンジ状の三次元構造体の数平均直径、繊維比率、微細孔の数平均孔径、見かけ密度および空隙率は、表2に示したとおりであり、空隙率80%以上のスポンジ状構造体を形成することが可能であった。
上記の各構造体1〜11の特性等を、まとめて表2に示す。また、上記構造体10のSEM写真による観察結果を図1に示す。
(実施例1)
構造体の製造例2で作製した構造体9を細胞足場材料として細胞培養用96ウェルプレート中に置き、マウス骨芽系3T3-E1細胞懸濁液(細胞濃度5×10/mL、10%牛胎児血清添加αMEM培地)を100μL添加し、37℃の温度で1時間静置した後、リン酸緩衝液を900μL添加して、非接着細胞を洗浄して回収して血球計算盤で非接着細胞をカウントすることにより、接着した細胞の割合(細胞保持率)を算出した。
さらに10%牛胎児血清添加αMEM培地を200μL添加して温度37℃、5%CO雰囲気下で48時間培養を行った。48時間後、250μLの細胞ライゼート液(0.2%TritonX−100、1mMEDTA、10mMトリス緩衝液(pH7.0))を添加し、―80℃の温度での凍結と室温での融解を3回繰り返した後、ライゼートを回収した。回収したライゼートは細胞の増殖と分化を評価するため、ピコグリーンアッセイキット(モレキュラープローブ社製)により細胞DNA量を測定して細胞数を評価し、APアッセイキット(シグマ社)によりアルカリフォスフォターゼ(AP)活性を測定し、骨芽細胞分化を評価した。
(実施例2〜4)
細胞足場材料として、上記の構造体10(実施例2)、構造体2(実施例3)および構造体11(実施例4)を使用して、実施例1と同様の方法で細胞の保持率および細胞培養48時間後の細胞数と細胞分化を評価した。
(比較例1)
構造体を用いないブランクの細胞培養用96ウェルプレートを使用して、実施例1と同様の方法で、細胞の保持率および細胞培養48時間後の細胞数と細胞分化を評価した。
(比較例2)
比較細胞足場材料として、上記の構造体の製造例1の方法において、スポンジ状の三次元構造体を形成できなかった構造体8を使用して、実施例1と同様の方法で、細胞の保持率および細胞培養48時間後の細胞数と細胞分化を評価した。
実施例1〜4および比較例1と2の結果を、まとめて表3に示す。細胞培養48時間後の細胞数とAP活性については、比較例1の値を基準(1.0)として相対評価で比較した。実施例1〜4において、増殖および分化の活性向上が確認された。
(実施例5)
細胞培養用96ウェルプレート中に上記の構造体10(実施例2で使用したものと同じスポンジ状の三次元構造体を使用)を設置して細胞足場材料とした。構造体10を設置したウェル(実施例5)と設置していないウェル(ブランク)に、それぞれ塩基性繊維画細胞増殖因子(bFGF)を10ng/mL含むリン酸緩衝液を100μL添加し、37℃の温度で1時間静置してbFGFを吸着させた。リン酸緩衝液を除いた後、マウス(C57BL/6,雌)大腿骨より採取したマウス骨髄細胞(20%牛胎児血清入りIMDM培地に懸濁)をそれぞれのウェルに5×10個を播いて、14日間培養を行った。2日ごとに培養液を半量交換し、14日後セルカウンティングキット(同仁化学製)で細胞数を評価した結果、構造体10を設置したウェルにおいて、ブランクと比較して約3倍の細胞数の増殖を確認した。
(実施例6)
分散液2を使用して構造体9と同様の方法で1cm×1cm×0.2cmのスポンジの三次元状構造体を作製した。分析の結果、表2に示した構造体9と同様の構造をもつスポンジ状の三次元構造体を作製された。このスポンジ状三次元構造体に対して、100μgのbFGFを含む1mLのリン酸緩衝液に37℃の温度で一昼夜浸漬して、bFGFをこのスポンジ状の三次元構造体表面に吸着させた生体組織再生用の細胞足場材料を作製した。この生体組織再生用の細胞足場材料を、ddYマウス(7週令、メス)の背部皮下に埋入し、1週間後にマウスを犠牲死させた。組織切片をヘマトキシリンエオジン染色し、顕微鏡観察を行ったところ、bFGF含有した細胞足場材料内に新生血管が均一に誘導されていることが確認された。
本発明の合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm以上1000nm未満のナノファイバーからなるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料は、医療、診断、研究および分析分野、特に再生医療や細胞医療のような医療分野へと応用することが可能な、体内あるいは体外での細胞培養用や組織再生用に使用される細胞足場材料として好適である。
図1は、本発明の実施例2と5で構造体10として用いたスポンジ状の三次元構造体のSEMによる観察結果を示す図面代用写真である。

Claims (20)

  1. 合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm以上1000nm未満のナノファイバーからなる空隙率が80%以上99.99%以下であるスポンジ状の三次元構造体を含む細胞足場材料。
  2. ナノファイバーの数平均直径が1nm〜500nmであることを特徴とする請求項1記載の細胞足場材料。
  3. ナノファイバーの数平均直径が1nm〜200nmであることを特徴とする請求項2記載の細胞足場材料。
  4. 直径500nmより大きいナノファイバーの繊維比率が3重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞足場材料。
  5. ナノファイバーが溶融紡糸によって作製されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細胞足場材料。
  6. 合成ポリマーが熱可塑性ポリマーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞足場材料。
  7. スポンジ状の三次元構造体の見かけ密度が0.0002〜0.05g/cmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞足場材料。
  8. スポンジ状の三次元構造体の空隙率が90%以上99.99%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞足場材料。
  9. スポンジ状の三次元構造体内に構成される微細孔の数平均孔径が10μm〜500μmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細胞足場材料。
  10. ナノファイバー表面に機能性物質を吸着および/または固定させてなることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の細胞足場材料。
  11. 機能性物質がタンパク質であることを特徴とする請求項10記載の細胞足場材料。
  12. 細胞培養用あるいは組織再生用に使用されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の細胞足場材料。
  13. スポンジ状の三次元構造体が、他の基材上で形成された三次元構造体であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の細胞足場材料。
  14. ナノファイバー同士が部分的に接合されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の細胞足場材料。
  15. 合成ポリマーで作製された数平均直径が1nm〜1000nmのナノファイバーを分散媒中に分散させて繊維分散液を作成し、その繊維分散液を乾燥して分散媒を除去し、空隙を有するスポンジ状の三次元構造体を形成することを特徴とする細胞足場材料の製造方法。
  16. ナノファイバーのカット繊維長が0.2mm〜30mmであることを特徴とする請求項15記載の細胞足場材料の製造方法。
  17. 繊維分散液中のナノファイバー濃度が0.05〜5重量%であることを特徴とする請求項15または16記載のスポンジ状構造体を含む細胞足場材料の製造方法。
  18. 乾燥手段が凍結乾燥であることを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載のスポンジ状構造体を含む細胞足場材料の製造方法。
  19. 凍結乾燥する際の凍結温度が、−80℃以上−20℃以下であることを特徴とする請求項18に記載細胞足場材料の製造方法。
  20. 請求項15〜19のいずれかに記載の細胞足場材料の製造方法により製造されたスポンジ状構造体を含む細胞足場材料を、さらに加圧蒸気処理することを特徴とする細胞足場材料の製造方法。
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