JP2007100126A - 転動部材および転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】高接触面圧環境などの過酷な環境下における転動疲労寿命を向上させた転動部材および過酷な環境下においても長寿命な転がり軸受を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受1の外輪2、内輪3および玉4は、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下である鋼からなっている。さらに、表層部に窒素富化層が形成されており、表層部の残留オーステナイト量は20体積%以上40体積%以下であり、外輪転走面2Aおよび内輪転走面3Aは59HRC以上の硬度を有している。
【選択図】図1
【解決手段】深溝玉軸受1の外輪2、内輪3および玉4は、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下である鋼からなっている。さらに、表層部に窒素富化層が形成されており、表層部の残留オーステナイト量は20体積%以上40体積%以下であり、外輪転走面2Aおよび内輪転走面3Aは59HRC以上の硬度を有している。
【選択図】図1
Description
本発明は転動部材および転がり軸受に関し、より特定的には、高接触面圧環境などの過酷な環境下においても使用可能な転動部材および当該転動部材を備えた転がり軸受に関するものである。
近年、転がり軸受などの転動部品が使用される産業機械、輸送機械などの高性能化に伴い、転動部品が使用される環境は一層過酷になっている。そのため、転動部品を構成する軌道輪、転動体などの転動部材に対しては、転動疲労寿命の長寿命化、特に軌道部材と転動体との間の接触面圧の高い高接触面圧環境、潤滑油に硬質の異物が混入する異物混入環境、転動体と軌道部材との間において大きなすべりの発生する高すべり環境、十分な潤滑が得られない稀薄潤滑環境などの過酷な環境下での長寿命化が求められている。
これに対し、転動部材を焼入硬化する焼入硬化工程の加熱時において、加熱時の雰囲気であるRXガスにアンモニアガスを添加することにより転動部材を浸炭窒化する熱処理方法が提案されている。これにより、転動部材の転動疲労寿命、特に異物混入環境における転動疲労寿命を向上させることができる(たとえば特許文献1および2参照)。
特開平8−4774号公報
特開平11−101247号公報
しかし、最近の転動部材に対する要求特性はさらに厳しくなっている。さらに、上述のような高接触面圧環境などの過酷な環境下で転がり軸受などの転動部品が使用される場合、潤滑油が分解することにより水素が発生して転動部材中に侵入し、転動部材の転動疲労寿命が低下するという問題がある。このような状況を考慮すると、上述のような熱処理方法による対策は、必ずしも十分とはいえない。
そこで、本発明の目的は、転動疲労寿命、特に高接触面圧環境などの過酷な環境下における転動疲労寿命を向上させた転動部材および過酷な環境下においても長寿命な転がり軸受を提供することである。
本発明の一の局面における転動部材は、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下である鋼からなっている。さらに、表層部に窒素富化層が形成されており、表層部、特に表面から0.2mmの深さの領域における残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、転走面は59HRC以上の硬度を有している。
本発明の転動部材によれば、上述の成分範囲の鋼からなることにより、安価でかつ転動部材として必要な特性を得ることができる。また、浸炭窒化などの熱処理工程の加熱時において、転動部材を構成する鋼組織にはバナジウム炭化物が分散している。そのため、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。なお、上述のように成分範囲を限定した理由の詳細については後述する。さらに、本発明の転動部材では、転動部材を構成する鋼組織
には粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散している。これにより、転動部材が高接触面圧環境などの過酷な環境下において使用され、潤滑油が分解することにより水素が発生して転動部材中に侵入した場合でも、バナジウム炭化物が水素を捕集(トラップ)するトラップサイトとして機能し、水素の拡散を抑制する。その結果、転動疲労による破壊の起点となる鋼組織中の非金属介在物などの応力集中源周辺における拡散性水素の集積を抑制し、転動部材の転動疲労寿命を向上させることができる。さらに、本発明の転動部材では、転動部材を構成する鋼組織における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下にまで細粒化されている。これにより、転動部材における亀裂の発生や伝播に対する抵抗が上昇し、転動疲労寿命が向上する。
には粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散している。これにより、転動部材が高接触面圧環境などの過酷な環境下において使用され、潤滑油が分解することにより水素が発生して転動部材中に侵入した場合でも、バナジウム炭化物が水素を捕集(トラップ)するトラップサイトとして機能し、水素の拡散を抑制する。その結果、転動疲労による破壊の起点となる鋼組織中の非金属介在物などの応力集中源周辺における拡散性水素の集積を抑制し、転動部材の転動疲労寿命を向上させることができる。さらに、本発明の転動部材では、転動部材を構成する鋼組織における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下にまで細粒化されている。これにより、転動部材における亀裂の発生や伝播に対する抵抗が上昇し、転動疲労寿命が向上する。
さらに、本発明の転動部材においては、転動疲労寿命に対する影響の大きい表層部に窒素富化層が形成されているため、転動疲労に対する抵抗性が向上して転動疲労寿命が向上する。また、表層部、特に表面から0.2mmの深さの領域における残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であるため、転動疲労寿命、特に異物混入環境における転動疲労寿命が向上する。さらに、転走面は59HRC以上の硬度を有しているため、本発明の転動部材は転動部材として十分機能することができる。
本発明の他の局面における転動部材は、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下である鋼からなっている。さらに、表層部に窒素富化層が形成されており、表層部、特に表面から0.2mmの深さの領域における残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下であり、転走面は59HRC以上の硬度を有している。
本発明の転動部材によれば、上述の成分範囲の鋼からなることにより、安価でかつ転動部材として必要な特性を得ることができる。また、浸炭窒化などの熱処理工程の加熱時において、転動部材を構成する鋼組織にはバナジウム炭化物が分散している。そのため、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。さらに、本発明の転動部材では、転動部材を構成する鋼組織には粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散している。これにより、転動部材が高接触面圧環境などの過酷な環境下において使用され、潤滑油が分解することにより水素が発生して転動部材中に侵入した場合でも、バナジウム炭化物が水素を捕集するトラップサイトとして機能し、水素の拡散を抑制する。その結果、転動疲労による破壊の起点となる鋼組織中の非金属介在物などの応力集中源周辺における拡散性水素の集積を抑制し、転動部材の転動疲労寿命を向上させることができる。さらに、本発明の転動部材では、転動部材を構成する鋼組織における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下にまで細粒化されている。これにより、転動部材における亀裂の発生や伝播に対する抵抗が上昇し、転動疲労寿命が向上する。
さらに、本発明の転動部材においては、転動疲労寿命に対する影響の大きい表層部に窒素富化層が形成されているため、転動疲労に対する抵抗性が向上して転動疲労寿命が向上する。また、表層部、特に表面から0.2mmの深さの領域における残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下であるため、転動疲労寿命、特に異物混入環境における転動疲労寿命が向上する。さらに、転走面は59HRC以上の硬度を有しているため、本発明の転動部材は転動部材として十分機能することができる。
上述のように、上記他の局面における本発明の転動部材では、上記一の局面における本発明の転動部材と比較して、表層部の残留オーステナイト量が少なくなっている。残留オーステナイトは、時間の経過とともにマルテンサイトに変態し、当該変態は体積の変化を
伴う。そのため、残留オーステナイト量の少ない上記他の局面における本発明の転動部材は、上記一の局面における本発明の転動部材に比べて寸法安定性に優れている。一方、残留オーステナイトは、転動部材の転動疲労寿命、とくに異物混入環境における転動疲労寿命を向上させる。上記他の局面における転動部材においては、上記一の局面における本発明の転動部材に比べて残留オーステナイト量が同量以下となっている。しかし、上記他の局面における転動部材においては、上記一の局面における本発明の転動部材に比べて旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が小さくなっており、転動疲労寿命を補完している。
伴う。そのため、残留オーステナイト量の少ない上記他の局面における本発明の転動部材は、上記一の局面における本発明の転動部材に比べて寸法安定性に優れている。一方、残留オーステナイトは、転動部材の転動疲労寿命、とくに異物混入環境における転動疲労寿命を向上させる。上記他の局面における転動部材においては、上記一の局面における本発明の転動部材に比べて残留オーステナイト量が同量以下となっている。しかし、上記他の局面における転動部材においては、上記一の局面における本発明の転動部材に比べて旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が小さくなっており、転動疲労寿命を補完している。
ここで、残留オーステナイト量の測定は、たとえばX線回折計(XRD)を用いて、マルテンサイトα(211)面とオーステナイトγ(220)面との回折強度とを測定することにより、算出することができる。また、旧オーステナイト結晶粒の粒径の測定は、たとえばJIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なうことができる。
なお、上記一の局面および他の局面における転動部材においては、上述の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径および表層部の残留オーステナイト量の条件は、転動疲労寿命への影響の大きい、転走面から0.2mmの深さの領域において満たされていることが好ましい。
次に、上記一の局面および他の局面における本発明の転動部材を構成する鋼の成分範囲を上述の範囲に限定した理由について説明する。
炭素量:0.6質量%以上1.2質量%以下
一般に、転動部材は、棒鋼などの素材に対して旋削などの冷間加工を実施して成形する成形部材準備工程を経て製造される。このとき、素材の炭素含有量が多く、素材の硬度が高い場合、素材に対して球状化焼鈍(焼きなまし)が実施されて素材の硬度を低下させることにより冷間加工の容易性(冷間加工性)が確保される。しかし、素材の炭素含有量が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍が実施されても素材の硬度が高く、冷間加工のためのコストが上昇するだけでなく、加工精度を確保することも困難となる可能性がある。さらに、素材の炭素含有量が1.2質量%を超えると、たとえば転動部材の製造工程において浸炭窒化処理が実施された場合、素材の金属組織(ミクロ組織)中に大型の炭化物が生成した過浸炭組織が形成され易くなる。過浸炭組織が形成されると、転動部材の靭性が低下するとともに疲労強度も低下するおそれがある。以上の理由により、炭素含有量は1.2質量%以下である。
一般に、転動部材は、棒鋼などの素材に対して旋削などの冷間加工を実施して成形する成形部材準備工程を経て製造される。このとき、素材の炭素含有量が多く、素材の硬度が高い場合、素材に対して球状化焼鈍(焼きなまし)が実施されて素材の硬度を低下させることにより冷間加工の容易性(冷間加工性)が確保される。しかし、素材の炭素含有量が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍が実施されても素材の硬度が高く、冷間加工のためのコストが上昇するだけでなく、加工精度を確保することも困難となる可能性がある。さらに、素材の炭素含有量が1.2質量%を超えると、たとえば転動部材の製造工程において浸炭窒化処理が実施された場合、素材の金属組織(ミクロ組織)中に大型の炭化物が生成した過浸炭組織が形成され易くなる。過浸炭組織が形成されると、転動部材の靭性が低下するとともに疲労強度も低下するおそれがある。以上の理由により、炭素含有量は1.2質量%以下である。
一方、転動部材の硬度および残留オーステナイト量は転動部材を構成する鋼の炭素含有量に大きな影響を受ける。転動部材を構成する鋼の炭素含有量が0.6質量%未満の場合、上述の転走面の硬度および表層部の残留オーステナイト量を確保するためには、浸炭、浸炭窒化などの処理を長時間実施する必要があり、製造コスト上昇の原因となる。さらに、転動部材を構成する鋼の炭素含有量が0.6質量%未満の場合、長時間の浸炭、浸炭窒化などが実施されて表層部の炭素量が確保されても、転動部材の内部においては炭素量が不足し、十分な内部硬度が得られない。以上の理由により、炭素含有量は0.6質量%以上である。
珪素量:0.15質量%以上1質量%以下
転動部材の使用環境によっては、使用中に温度が上昇し、転動部材の硬度が低下するという問題が生じる場合がある。転動部材を構成する鋼が珪素を含有することにより、これを防止する効果(焼戻軟化抵抗)が向上する。また、転動部材を構成する鋼が珪素を含有することにより、異物混入環境における転動部材の転動疲労寿命が向上する。転動部材を構成する鋼の珪素含有量が0.15質量%未満の場合、転動部材の焼戻軟化抵抗、および
異物混入環境における転動疲労寿命が不十分となる場合がある。また、珪素は鋼の製造工程において、鋼の特性に対して有害な酸素の含有量を低下させるために添加される元素であり、0.15質量%未満に低減することは製造コスト上昇の原因となるため、その必要性もない。一方、転動部材を構成する鋼の珪素含有量が1質量%を超える場合、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下する。以上の理由により、珪素量は0.15質量%以上1質量%以下である。
転動部材の使用環境によっては、使用中に温度が上昇し、転動部材の硬度が低下するという問題が生じる場合がある。転動部材を構成する鋼が珪素を含有することにより、これを防止する効果(焼戻軟化抵抗)が向上する。また、転動部材を構成する鋼が珪素を含有することにより、異物混入環境における転動部材の転動疲労寿命が向上する。転動部材を構成する鋼の珪素含有量が0.15質量%未満の場合、転動部材の焼戻軟化抵抗、および
異物混入環境における転動疲労寿命が不十分となる場合がある。また、珪素は鋼の製造工程において、鋼の特性に対して有害な酸素の含有量を低下させるために添加される元素であり、0.15質量%未満に低減することは製造コスト上昇の原因となるため、その必要性もない。一方、転動部材を構成する鋼の珪素含有量が1質量%を超える場合、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下する。以上の理由により、珪素量は0.15質量%以上1質量%以下である。
マンガン:0.3質量%以上1.5質量%以下
マンガンは、転動部材を構成する鋼に含有されることにより、転動部材の焼入の容易性を向上させる効果を有している。また、マンガンは、転動部材を構成する鋼に不可避に含有される硫黄と化合して硫化マンガンを形成し、ミクロ組織における硫黄の結晶粒界への偏析を抑制して、転動部材の特性の低下を回避する効果を有している。マンガンの含有量が0.3質量%未満の場合、上述の効果を十分に果たすことができない。また、マンガンは珪素と同様に、鋼の製造工程において、鋼の特性に対して有害な酸素の含有量を低下させるために添加される元素である。マンガンの含有量を0.3質量%未満に低減することは、製造コスト上昇の原因となるため、その必要性もない。一方、マンガンの含有量が1.5質量%を超えると、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下する。以上の理由により、マンガン量は0.3質量%以上1.5質量%以下である。
マンガンは、転動部材を構成する鋼に含有されることにより、転動部材の焼入の容易性を向上させる効果を有している。また、マンガンは、転動部材を構成する鋼に不可避に含有される硫黄と化合して硫化マンガンを形成し、ミクロ組織における硫黄の結晶粒界への偏析を抑制して、転動部材の特性の低下を回避する効果を有している。マンガンの含有量が0.3質量%未満の場合、上述の効果を十分に果たすことができない。また、マンガンは珪素と同様に、鋼の製造工程において、鋼の特性に対して有害な酸素の含有量を低下させるために添加される元素である。マンガンの含有量を0.3質量%未満に低減することは、製造コスト上昇の原因となるため、その必要性もない。一方、マンガンの含有量が1.5質量%を超えると、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下する。以上の理由により、マンガン量は0.3質量%以上1.5質量%以下である。
クロム:0.1質量%以上2質量%以下
クロムは、転動部材を構成する鋼に含有されることにより、転動部材に対して浸炭、浸炭窒化が実施された場合に表層部に炭化物、炭窒化物を形成し、表層部の硬度を上昇させる効果を有する。クロムの含有量が0.1質量%未満では、前述の効果を十分に果たすことができない。また、クロムは転動部材を構成する鋼中に不純物として含有され、0.1質量%以下に低減することは製造コスト上昇の原因となるため、その必要性もない。一方、クロムの含有量が2質量%を超えると、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下する。また、クロムの含有量が2質量%を超えると、表層部の硬度を上昇させる効果が小さくなる。以上の理由により、クロム量は0.1質量%以上2質量%である。
クロムは、転動部材を構成する鋼に含有されることにより、転動部材に対して浸炭、浸炭窒化が実施された場合に表層部に炭化物、炭窒化物を形成し、表層部の硬度を上昇させる効果を有する。クロムの含有量が0.1質量%未満では、前述の効果を十分に果たすことができない。また、クロムは転動部材を構成する鋼中に不純物として含有され、0.1質量%以下に低減することは製造コスト上昇の原因となるため、その必要性もない。一方、クロムの含有量が2質量%を超えると、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下する。また、クロムの含有量が2質量%を超えると、表層部の硬度を上昇させる効果が小さくなる。以上の理由により、クロム量は0.1質量%以上2質量%である。
バナジウム:0.1質量%以上2質量%以下
バナジウムは本発明の転動部材を構成する鋼において必須の元素である。バナジウムが添加されていることにより、浸炭窒化などの熱処理工程の加熱時において、本発明の転動部材を構成する鋼組織にはバナジウム炭化物が分散している。そのため、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。さらに、バナジウムが添加されていることにより、本発明の転動部材では、転動部材の使用時においても鋼組織に粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物を分散させることができる。これにより、水素が転動部材中に侵入した場合でも、バナジウム炭化物が水素を捕集するトラップサイトとして機能し、水素の拡散を抑制する。その結果、転動疲労による破壊の起点となる鋼組織中の非金属介在物などの応力集中源周辺における拡散性水素の集積を抑制し、転動部材の転動疲労寿命を向上させることができる。バナジウムの含有量が0.1質量%未満では、前述の効果を十分に果たすことができない。一方、バナジウムの含有量が2質量%を超えると、転動部材の製造工程において仕上げ加工として実施される研削加工が困難となり、十分な仕上げ精度を確保できないおそれがある。以上の理由により、バナジウム量は0.1質量%以上2質量%である。
バナジウムは本発明の転動部材を構成する鋼において必須の元素である。バナジウムが添加されていることにより、浸炭窒化などの熱処理工程の加熱時において、本発明の転動部材を構成する鋼組織にはバナジウム炭化物が分散している。そのため、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。さらに、バナジウムが添加されていることにより、本発明の転動部材では、転動部材の使用時においても鋼組織に粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物を分散させることができる。これにより、水素が転動部材中に侵入した場合でも、バナジウム炭化物が水素を捕集するトラップサイトとして機能し、水素の拡散を抑制する。その結果、転動疲労による破壊の起点となる鋼組織中の非金属介在物などの応力集中源周辺における拡散性水素の集積を抑制し、転動部材の転動疲労寿命を向上させることができる。バナジウムの含有量が0.1質量%未満では、前述の効果を十分に果たすことができない。一方、バナジウムの含有量が2質量%を超えると、転動部材の製造工程において仕上げ加工として実施される研削加工が困難となり、十分な仕上げ精度を確保できないおそれがある。以上の理由により、バナジウム量は0.1質量%以上2質量%である。
ここで、バナジウム炭化物とはバナジウムおよび炭素を主成分とする化合物をいい、純粋なバナジウム炭化物だけでなく、窒素の含まれる炭窒化物や、バナジウムの一部がクロムや鉄などに置換された化合物をも含む。また、表層部とは、転動部材において、表面からの距離が0.2mm以下である領域をいう。さらに、転走面とは、転動部材において、当該転動部材とは別の別部材と接触する表面であり、たとえば転動部材が転がり軸受の軌
道輪である場合、転動体と接触する表面をいう。また、たとえば転動部材が玉軸受の玉である場合、玉の表面全体であり、ころ軸受のころである場合、軌道輪の転走面と接触する外周面をいう。
道輪である場合、転動体と接触する表面をいう。また、たとえば転動部材が玉軸受の玉である場合、玉の表面全体であり、ころ軸受のころである場合、軌道輪の転走面と接触する外周面をいう。
なお、上記一の局面および他の局面における本発明の転動部材を構成する鋼は、より具体的には、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼であることが好ましい。また、前述の鋼は、前述の成分に加えて、0.01質量%以上1質量%以下のニッケルおよび0.01質量%以上0.1質量%以下のモリブデンの一方または両方を含有していてもよい。
なお、珪素は亜共析鋼のA3変態点(鋼の温度を上昇させた場合に、鋼の組織が完全にオーステナイト化する温度に相当する点)を上昇させる効果が大きいため、転動部材を構成する鋼の珪素含有量が多い場合、焼入における冷却前の加熱温度を高くすべき点に留意する必要がある。また、マンガンやクロムは低温でもオーステナイト相を安定化させるオーステナイト生成元素である。そのため、転動部材を構成する鋼のマンガンやクロムの含有量が多い場合、浸炭窒化の温度や焼入における冷却前の加熱温度を高くしすぎるとバナジウム炭化物が安定に存在できず、オーステナイト粒の粗大化を抑制する効果を十分に発揮できない可能性がある。そのため、これらの温度の適正化に留意する必要がある。上記留意点を確認するためには、多元系合金の平衡状態図を用いることができる。現在では、専用のソフトウェアなどを用いることにより、多元系合金の平衡状態図を精度よく容易に作製することができる。
上記転動部材において好ましくは、表面からの深さが0.2mmの領域における窒素含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下である。
転動疲労に対する抵抗性を十分に確保するためには、転動疲労寿命に対する影響の大きい表面からの深さが0.2mmの領域において、窒素含有量が0.1質量%以上の窒素富化層が形成されていることが好ましい。一方、窒素含有量が0.7質量%を超えると、残留オーステナイト量が多くなりすぎ、好ましい範囲の量に制御することが困難となる。上述のように窒素含有量を0.1質量%以上0.7質量%以下とすることにより、転動疲労寿命に対する影響の大きい表面からの深さが0.2mmの領域において、転動疲労寿命の向上に対して十分な効果を有する窒素富化層が形成されるとともに、残留オーステナイト量を好ましい範囲の量に制御することができる。なお、上記条件は転動部材の転動疲労寿命に対する影響の特に大きい、転走面からの深さが0.2mmの領域において満たされていることが、より好ましい。
ここで、上記窒素含有量は、たとえば転動部材の転走面からの距離が0.2mmの領域を切り出し、表面を研磨した上で、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)にて母地の窒素濃度を10箇所測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
上記転動部材において好ましくは、表面からの深さが0.2mmの領域の切断面におけるバナジウム炭化物の面積率は5%以上である。
上述のように、バナジウム炭化物は転動部材を構成する鋼に水素が侵入した場合、水素のトラップサイトとして機能する。そのため、侵入した水素を十分にトラップするためには、バナジウム炭化物の量が多いことが好ましい。本発明者は転動疲労寿命に対して影響の大きい表面からの深さが0.2mmの領域の切断面におけるバナジウム炭化物の面積率
と水素が侵入する環境における転動部材の転動疲労寿命との関係を検討したところ、当該切断面においてバナジウム炭化物の面積率が5%以上であれば、転動疲労寿命が大きく向上することを見出した。すなわち、上述の構成を有することにより、水素が侵入する環境における転動部材の転動疲労寿命が一層向上する。なお、上記条件は転動部材の転動疲労寿命に対する影響の特に大きい、転走面からの深さが0.2mmの領域において満たされていることが、より好ましい。
と水素が侵入する環境における転動部材の転動疲労寿命との関係を検討したところ、当該切断面においてバナジウム炭化物の面積率が5%以上であれば、転動疲労寿命が大きく向上することを見出した。すなわち、上述の構成を有することにより、水素が侵入する環境における転動部材の転動疲労寿命が一層向上する。なお、上記条件は転動部材の転動疲労寿命に対する影響の特に大きい、転走面からの深さが0.2mmの領域において満たされていることが、より好ましい。
ここで、上記バナジウム炭化物の面積率は、たとえば以下のように測定することができる。すなわち、転動部材の転走面からの距離が0.2mmの領域を切り出し、表面を研磨した上で、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用いて当該表面を腐食することにより、バナジウム炭化物を観察可能な状態とする。そして、当該表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)を用いて5000倍の倍率で5箇所撮影する。さらに、撮影されたそれぞれの画像中において、バナジウム炭化物が占める面積率をパソコンにインストールされた画像処理用ソフトウェアにより算出し、その平均値を上記バナジウム炭化物の面積率とする。
上記転動部材において好ましくは、表面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径は1μm以下である。
上述のように、バナジウム炭化物は水素のトラップサイトとして機能するため、転動部材の転動疲労寿命の向上に大きな効果を有する。一方、バナジウム炭化物は大きさが1μmを超えると、応力集中源としての悪影響が大きくなり、転動部材の転動疲労寿命を低下させるおそれがある。そのため、表面からの深さが0.2mmの領域、特に転走面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径が1μm以下であることにより、転動部材の転動疲労寿命を一層向上させることができる。
ここで、上記バナジウム炭化物の粒径は、たとえば以下のように測定することができる。すなわち、転動部材の転走面からの距離が0.2mmの領域を切り出し、表面を研磨した上で、ピクラルを用いて当該表面を腐食することにより、バナジウム炭化物を観察可能な状態とする。そして、当該表面をSEMを用いて5000倍の倍率で5箇所撮影する。さらに、撮影された画像中の各バナジウム炭化物の面積をパソコンにインストールされた画像処理用ソフトウェアにより算出し、その平方根を上記バナジウム炭化物の粒径とする。そして、得られたバナジウム炭化物の粒径の最大値が1μm以下であれば、本発明の上記条件、すなわち表面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径は1μm以下である、との条件を満たすこととなる。
本発明に従った転がり軸受は、上記転動部材を備えている。本発明の転がり軸受によれば、上述の転動疲労寿命に優れた転動部材を備えていることにより、過酷な環境下においても長寿命な転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の転動部材によれば、転動疲労寿命、特に高接触面圧環境などの過酷な環境下における転動疲労寿命を向上させた転動部材を提供することができる。また、本発明の転がり軸受によれば、過酷な環境下においても長寿命な転がり軸受を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の転動部材を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本発明の実施の形態1における転がり軸受としての深溝玉軸受の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の転動部材を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本発明の実施の形態1における転がり軸受としての深溝玉軸受の構成について説明する。
図1を参照して、実施の形態1の深溝玉軸受1は、転動部材としての環状の外輪2と、外輪2の内側に配置された転動部材としての環状の内輪3と、転動部材としての玉4と、円環状の保持器5とを備えている。複数の玉4は、外輪2の内周面に形成された外輪転走面2Aと、内輪3の外周面に形成された内輪転走面3Aとに接触し、かつ保持器5により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪2および内輪3は、互いに相対的に回転可能となっている。
さらに、転動部材(外輪2、内輪3および玉4)は、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下である鋼からなっている。さらに、表層部に窒素富化層が形成されており、表層部、特に表面から0.2mmの深さの領域における残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、外輪転走面2A、内輪転走面3Aおよび玉4の表面は59HRC以上の硬度を有している。
本実施の形態1の転動部材としての外輪2、内輪3および玉4によれば、上述の成分範囲の鋼からなることにより、安価でかつ転動部材として必要な特性を得ることができる。また、浸炭窒化などの熱処理工程の加熱時において、外輪2、内輪3および玉4を構成する鋼組織にはバナジウム炭化物が分散しているため、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。さらに、外輪2、内輪3および玉4を構成する鋼組織には水素のトラップサイトとして機能する粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しているため、鋼組織中の非金属介在物などの応力集中源周辺における拡散性水素の集積が抑制され、外輪2、内輪3および玉4の転動疲労寿命を向上させることができる。
さらに、外輪2、内輪3および玉4では、外輪2、内輪3および玉4を構成する鋼組織における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下にまで細粒化されているため、亀裂の発生や伝播に対する抵抗が上昇し、外輪2、内輪3および玉4の転動疲労寿命が向上している。さらに、外輪2、内輪3および玉4においては、転動疲労寿命に対する影響の大きい表層部に窒素富化層が形成されているため、転動疲労に対する抵抗性が向上して転動疲労寿命が向上している。また、表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であるため、転動疲労寿命、特に異物混入環境における転動疲労寿命が向上している。さらに、外輪転走面2A、内輪転走面3Aおよび玉4は59HRC以上の硬度を有しているため、外輪2、内輪3および玉4は転動部材として十分機能することができる。
さらに、外輪2、内輪3および玉4において、表面からの深さが0.2mmの領域における窒素含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下であることが好ましい。これにより、転動疲労寿命に対する影響の大きい表面からの深さが0.2mmの領域において、転動疲労寿命の向上に対して十分な効果を有する窒素富化層が形成されるとともに、残留オーステナイト量を好ましい範囲の量に制御することができる。
さらに、外輪2、内輪3および玉4において、表面からの深さが0.2mmの領域の切断面におけるバナジウム炭化物の面積率は5%以上であることが好ましい。これにより、
水素のトラップサイトとして十分なバナジウム炭化物の量が確保され、水素が侵入する環境における転動部材の転動疲労寿命が一層向上する。
水素のトラップサイトとして十分なバナジウム炭化物の量が確保され、水素が侵入する環境における転動部材の転動疲労寿命が一層向上する。
さらに、外輪2、内輪3および玉4において、表面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径は1μm以下であることが好ましい。これにより、バナジウム炭化物の応力集中源としての悪影響が小さいため、外輪2、内輪3および玉4の転動疲労寿命を一層向上させることができる。
さらに、実施の形態1の深溝玉軸受1は、転動疲労寿命に優れた上記外輪2、内輪3および玉4を備えているため、過酷な環境下においても長寿命となっている。
図2は、実施の形態1の転がり軸受の変形例である四列円筒ころ軸受の構成を示す概略断面図である。図2を参照して、実施の形態1の転がり軸受の変形例である四列円筒ころ軸受の構成について説明する。
図2を参照して、実施の形態1の変形例の四列円筒ころ軸受6と、上述の深溝玉軸受1とは、基本的に同様の構成を有しており、同様の効果を有しているが、軌道輪および転動体の構成が異なっている。すなわち、四列円筒ころ軸受6は、転動部材としての環状の4つの外輪2、2、2、2と、外輪2の内側に配置された環状の2つの内輪3、3と、外輪2と内輪3との間に配置された複数の円筒ころ7とを備えている。外輪2の内周面には外輪転走面2Aが形成されており、内輪3の外周面には内輪転走面3Aが形成されている。そして、内輪転走面3Aはそれぞれ2つの外輪転走面2A、2Aに対向するように、4つの外輪2、2、2、2と2つの内輪3、3とは配置されている。さらに、複数の円筒ころ7は、外輪転走面2Aのそれぞれに沿って、外輪転走面2Aと内輪転走面3Aとに接触し、周方向に所定のピッチで配置されることにより4列の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、四列円筒ころ軸受6の外輪2および内輪3は、互いに相対的に回転可能となっている。
次に、実施の形態1における転動部材および転がり軸受の製造方法について説明する。図3は実施の形態1における転動部材および転がり軸受の製造方法の概略を示す図である。図3を参照して、実施の形態1における転動部材および転がり軸受の製造方法について説明する。
図3を参照して、まず、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有する鋼からなる成形部材を準備する成形部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば上記成分を含有する棒鋼などの素材に対して鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、図1に示した外輪2、内輪3および玉4の形状に成形された成形部材、または図2に示した外輪2、内輪3および円筒ころ7の形状に成形された成形部材などが準備される。
次に、図3を参照して、上記成形部材をA1点以上の温度で浸炭窒化する浸炭窒化工程と、浸炭窒化工程において浸炭窒化された成形部材を、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却することにより焼入硬化する冷却工程と、焼入硬化された成形部材を焼戻す焼戻工程とを含む熱処理工程が実施される。この熱処理工程の詳細については後述する。
ここで、A1点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、Ms点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
次に、図3を参照して、仕上げ加工工程が実施される。具体的には、熱処理工程が実施された成形部材に対して研削加工などの仕上げ加工が実施されることにより、転動部材としての外輪2、内輪3および玉4または外輪2、内輪3および円筒ころ7が仕上げられる。これにより、実施の形態1の転動部材が完成する。
さらに、図3を参照して、組立て工程が実施される。具体的には、たとえば図1を参照して、転動部材としての外輪2、内輪3および玉4と、保持器5などとを組み合わせることにより、転がり軸受としての深溝玉軸受1が組み立てられる。
次に、熱処理工程について詳細に説明する。図4は実施の形態1における転動部材および転がり軸受の製造方法に含まれる転動部材の熱処理工程の詳細を説明するための図である。図4において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図4において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図4を参照して、実施の形態1の成形部材に対して実施される熱処理工程の詳細を説明する。
図4を参照して、成形部材準備工程において準備された成形部材はA1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば850℃に加熱され、60分間以上300分間以下の時間、たとえば150分間保持される。このとき、RXガスにアンモニア(NH3)を添加した雰囲気において加熱されることにより、成形部材の表層部の炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度に調整される浸炭窒化工程が実施される。その後、成形部材が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却される冷却工程が実施される。これにより、成形部材は焼入硬化される。
さらに、焼入硬化された成形部材はA1点以下の温度である150℃以上350℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。これにより、焼戻工程が完了する。以上の手順により、実施の形態1における転動部材および転がり軸受の製造方法に含まれる転動部材の熱処理工程は完了する。
上記熱処理工程により、成形部材の表層部に窒素富化層を形成し、表層部の残留オーステナイト量を20体積%以上40体積%以下とし、かつ転走面を59HRC以上の硬度とすることができる。また、成形部材を構成する鋼に粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物を分散させ、かつ成形部材を構成する鋼のミクロ組織における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径を12μm以下とすることができる。さらに、上記熱処理工程によれば、成形部材の表面からの深さが0.2mmの領域における窒素含有量を、0.1質量%以上0.7質量%以下とするとともに、成形部材の表面からの深さが0.2mmの領域の切断面におけるバナジウム炭化物の面積率を5%以上とすることも可能である。さらに、成形部材の表面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径を1μm以下とすることも可能である。以上より、上記熱処理工程を備えた実施の形態1の転動部材および転がり軸受の製造方法により、実施の形態1の転動部材および転がり軸受を製造することができる。
(実施の形態2)
実施の形態2における転動部材、転がり軸受およびその製造方法について説明する。実施の形態2の転動部材および転がり軸受は、基本的には図1および図2に基づいて説明した実施の形態1の転動部材および転がり軸受と同様の構成を有している。しかし、実施の形態2の転動部材は、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下である鋼からなっている点、および表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下である
点において、実施の形態1の転動部材および転がり軸受とは異なっている。その他の構成については、実施の形態1と同様である。
実施の形態2における転動部材、転がり軸受およびその製造方法について説明する。実施の形態2の転動部材および転がり軸受は、基本的には図1および図2に基づいて説明した実施の形態1の転動部材および転がり軸受と同様の構成を有している。しかし、実施の形態2の転動部材は、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下である鋼からなっている点、および表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下である
点において、実施の形態1の転動部材および転がり軸受とは異なっている。その他の構成については、実施の形態1と同様である。
これにより、実施の形態2の転動部材および転がり軸受は、実施の形態1の転動部材および転がり軸受と基本的に同様の効果を有している。しかし、転動部材の表層部における残留オーステナイト量、および転動部材を構成する鋼の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径において異なっているため、実施の形態2の転動部材および転がり軸受は、以下の効果を有している。すなわち、残留オーステナイト量の少ない実施の形態2の転動部材は、実施の形態1における転動部材に比べて寸法安定性に優れている。一方、実施の形態2の転動部材においては、実施の形態1の転動部材に比べて旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が小さいことにより、転動部材の転動疲労寿命、とくに異物混入環境における転動疲労寿命が補完されている。
次に、実施の形態2の転動部材および転がり軸受の製造方法について説明する。図5は、本発明の一実施の形態である実施の形態2における転動部材および転がり軸受の製造方法の概略を示す図である。図5を参照して、実施の形態2における転動部材および転がり軸受の製造方法について説明する。
図5を参照して、実施の形態2の転動部材および転がり軸受の製造方法は、基本的には図3に基づいて説明した実施の形態1の転動部材および転がり軸受の製造方法と同様である。しかし、実施の形態2の製造方法は熱処理方法において、実施の形態1の製造方法とは異なっている。すなわち、図5を参照して、まず実施の形態1と同様に、0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有する鋼からなる成形部材を準備する成形部材準備工程が実施されたあと、熱処理工程が実施される。
熱処理工程では、浸炭窒化工程、第1の冷却工程、再加熱工程、第2の冷却工程および焼戻工程が順次実施される。浸炭窒化工程では、成形部材がA1点以上の温度である浸炭窒化温度で浸炭窒化される。第1の冷却工程では、浸炭窒化工程において浸炭窒化された成形部材が、A1点より低い温度に冷却される。再加熱工程では、第1の冷却工程においてA1点より低い温度に冷却された成形部材が、A1点以上の温度であって浸炭窒化温度よりも低い温度である再加熱温度に加熱される。第2の冷却工程では、再加熱工程において再加熱温度に加熱された成形部材が、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却されることにより焼入硬化される。そして、焼戻工程では、焼入硬化された成形部材が焼戻される。その後の仕上げ加工工程および組立て工程は、実施の形態1の場合と同様に実施される。
次に、実施の形態2における熱処理工程について詳細に説明する。図6は実施の形態2における転動部材および転がり軸受の製造方法に含まれる転動部材の熱処理工程の詳細を説明するための図である。図6において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図6において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図6を参照して、実施の形態2の成形部材に対して実施される熱処理工程の詳細を説明する。
図6を参照して、成形部材準備工程において準備された成形部材はA1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度T1、たとえば845℃に加熱され、60分間以上300分間以下の時間、たとえば150分間保持される。このとき、RXガスにアンモニア(NH3)を添加した雰囲気において加熱されることにより、成形部材の表層部の炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度に調整される浸炭窒化工程が実施される。その後、成
形部材が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却される第1の冷却工程が実施される。これにより、1次焼入が完了する。
形部材が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却される第1の冷却工程が実施される。これにより、1次焼入が完了する。
さらに、1次焼入が実施された転動部材がA1点以上の温度である730℃以上830℃以下の温度T2、たとえば800℃に再び加熱される再加熱工程が実施され、その後30分間以上120分間以下の時間、たとえば50分間保持される。このとき、浸炭窒化処理において調整された炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度となるように、たとえば脱炭を防止するため、たとえばRXガスを含む雰囲気において加熱される。さらに、転動部材が、たとえば油冷されることにより、A1点以上の温度からMs点以下の温度に急冷されて焼入硬化される第2の冷却工程が実施される。これにより、2次焼入が完了する。
さらに、2次焼入が完了した転動部材はA1点以下の温度である150℃以上350℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後冷却される。これにより、焼戻工程が完了する。以上の手順により、本実施の形態2における転動部材および転がり軸受の製造方法に含まれる転動部材の熱処理工程は完了する。
ここで、温度T2は、熱処理工程において鋼中に侵入する水素濃度を低減し、かつオーステナイト結晶粒を小さくする観点から、前述のように790℃以上830℃以下とすることが望ましい。また、同様の観点から、温度T2はT1よりも低い温度とすることが好ましい。さらに、再加熱工程における成形部材の表層部の昇温速度は、A1点において3℃/分以上であることが好ましい。これにより、旧オーステナイト結晶粒の大きさのバラツキが小さい整粒組織を有する鋼からなる転動部材を製造することができる。さらに、第2の冷却工程のおいて転動部材を冷却するための冷却媒体は、0.1cm−1以上の焼入強烈度(H値:H=(1/2)(C/k);Cは熱伝達率(単位:W・m−2・K−1)、kは鋼材の熱伝導度(単位:W・m−1・K−1)。改訂6版金属便覧504頁〜505頁参照。)を有していることが好ましい。これにより、転動部材の耐久性を確保するために十分な転走面の硬度、具体的には59HRC以上の硬度を容易に転動部材に付与することができる。
上記熱処理工程により、転動部材の表層部に窒素富化層を形成し、表層部の残留オーステナイト量を15体積%以上20体積%以下とし、かつ転走面を59HRC以上の硬度とすることができる。また、転動部材を構成する鋼に粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物を分散させ、かつ転動部材を構成する鋼のミクロ組織における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径を5μm以下とすることができる。さらに、上記熱処理工程によれば、転動部材の表面からの深さが0.2mmの領域における窒素含有量を、0.1質量%以上0.7質量%以下とするとともに、転動部材の表面からの深さが0.2mmの領域の切断面におけるバナジウム炭化物の面積率を5%以上とすることも可能である。さらに、転動部材の表面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径を1μm以下とすることも可能である。以上より、上記熱処理工程を備えた実施の形態2の転動部材および転がり軸受の製造方法により、実施の形態2の転動部材および転がり軸受を製造することができる。
図7は、実施の形態2の成形部材に対して実施される熱処理工程の変形例の詳細を示す図である。図7において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図7において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図7を参照して、実施の形態2の成形部材に対して実施される熱処理工程の変形例の詳細を説明する。
図7を参照して、本変形例における図7に示す熱処理工程と上述の図6に示す熱処理工程とは基本的には温度および時間の条件を含めて同様の工程となっている。しかし、図7の熱処理工程においては浸炭窒化工程に引き続いて油冷を実施して1次焼入を完了するのではなく、まずA1変態点以下の温度に冷却した後、室温(常温)まで冷却することなく再びA1変態点以上の温度T2に加熱する点において、図6の熱処理工程とは異なっている。
これにより、一度焼入を実施した後に再度温度T2まで加熱する場合に比べて再加熱に要する時間およびエネルギーを小さくすることが可能となるため、製造コストを低減し得る点において有利である。なお、浸炭窒化後に引き続く冷却温度はA1変態点よりも低い温度、すなわち鉄のオーステナイトからフェライトへの変態点以下の温度であればよく、たとえば650℃以上700℃以下とすることができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の転動部材である円筒ころと本発明の範囲外の円筒ころとについて高接触面圧環境における寿命を比較する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。素材として、一般に転動部材に使用されているJIS SUJ2、およびJIS SUJ3の成分をベースとした鋼を採用した。具体的な化学成分を表1に示す。なお、表1に示した化学成分において、炭素(C)、珪素(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)以外の部分は鉄(Fe)および不可避的不純物である。
表1に示すように、本発明の実施例の素材とした鋼はSUJ2またはSUJ3の成分をベースとし、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムを添加したものである。これらの鋼の棒鋼が素材として用いられて旋削加工などにより、円筒ころの成形部材が作製された。さらに、この成形部材に浸炭窒化焼入が実施されることにより窒素富化層が形成され、その後焼戻および仕上げ加工が実施されることにより、本発明の転動部材としての実施例A〜Hの円筒ころが作製された。浸炭窒化には図4の熱処理工程が採用され、浸炭窒化温度T1850℃、Cp値1.1、RXガスに5質量%のアンモニアが添加された雰囲気、の条件で浸炭窒化焼入が実施された後、180℃の温度に2時間保持されることにより、焼戻が行なわれた。
一方、同様の成形部材に対して、850℃に50分間保持された後、100℃の油に浸漬される一般的なずぶ焼入が実施され、その後焼戻および仕上げ加工が実施されることにより本発明の範囲外の比較例A〜Hの円筒ころが作製された。さらに、Vが添加されていない通常のSUJ2およびSUJ3を素材として用いて上述と同様に成形部材を作製し、上述のずぶ焼入または浸炭窒化焼入が実施された後、焼戻および仕上げ加工が実施されることにより本発明の範囲外の比較例I〜Lの円筒ころが作製された。
次に、具体的試験方法について説明する。表2は、本実施例1における転動疲労寿命試
験の試験条件を示している。
験の試験条件を示している。
表2に示すように、試験片は直径φ12mm、長さL12mmの円筒状、試験数は10個、相手試片はSUJ2製で直径φ20mm、長さL20mmの円筒状、接触面圧は4.16GPa、応力の負荷速度は20400回/分、潤滑はタービンVG68油の強制循環による給油とした。
図8は、転動疲労寿命を評価するための試験に用いられた転動疲労寿命試験機の概略を説明するための概略側面図である。また、図9は、図8の転動疲労寿命試験機の概略正面図である。図9においては、内部構造の一部が断面図として示されている。図8および図9を参照して、実施例1において転動疲労寿命を評価するために用いられた試験機について説明する。
図8および図9を参照して、転動疲労寿命試験機20は、円筒状の上部ロール21と、外周面が上部ロール21の外周面に対向するように配置された下部ロール22と、上部ロール21と下部ロール22との間に配置された円筒状の駆動ロール23および支持ロール24とを備えている。円筒状の相手試片25、25は上部ロール21および駆動ロール23の外周面に接触する位置と、下部ロール22および駆動ロール23の外周面に接触する位置とのそれぞれに配置される。そして、円筒状の試験片29は、相手試片25、25の外周面のそれぞれと、支持ロール24の外周面とに外周面が接触するようにセットされる。
駆動ロール23が円周方向に回転すると、駆動ロール23に接触している相手試片25、25が回転する。その結果、相手試片25、25と支持ロール24とで保持されている試験片29が相手試片25、25から高い接触面圧を受けつつ、回転する。このとき、上部ロール21と駆動ロール23との間から試験片29に向けて潤滑油が供給される。そして、試験片29の外周面に剥離が発生して振動が生じると、図示しない振動センサによりこれを感知して駆動ロールを停止させる。このとき、相手試片25、25から受けた応力の繰り返し回数をその試験片29の転動疲労寿命とする。さらに、上述のような試験を10回ずつ行ない、転動疲労寿命を統計的に解析して、10%の試験片が破損するまでの寿命(L10寿命)を算出した。
表3に試験結果を示す。また、表3にはSUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比、およびSUJ3にVが添加された鋼から作製された実施例および比較例に関してはSUJ3をずぶ焼入して作製した比較例Jに対するL10寿命の比を合わせて示している。さらに、図10は、実施例1の転動疲労寿命試験におけるバナジウム(V)添加量とL10寿命(SUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比)との関係を示す図である。図10において、横軸はバナジウムの添加量、縦軸はSUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比を示している。表3およ
び図10を参照して、実施例1の転動疲労寿命試験の結果を説明する。
び図10を参照して、実施例1の転動疲労寿命試験の結果を説明する。
表3および図10を参照して、SUJ2の成分系をベースにVを添加した鋼から構成され、ずぶ焼入された比較例A〜Eは、SUJ2から構成され、ずぶ焼入された比較例Iに対して1.2〜1.8倍程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある。一方、SUJ2の成分系をベースにVを添加した鋼から構成され、浸炭窒化焼入された実施例A〜Eは、比較例Iに対して2.4〜4.8倍程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある点については比較例A〜Eと同様であるが、寿命向上の傾向が強くなっている。すなわち、浸炭窒化を実施して試験片29の表層部に窒素富化層を形成することにより、V添加による長寿命化の効果が増幅されていることがわかる。
また、表3および図10を参照して、SUJ3の成分系をベースにVを添加した鋼から構成され、ずぶ焼入された比較例F〜Hは、SUJ3から構成され、ずぶ焼入された比較例Jに対して1.4〜2.0倍程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある。一方、SUJ3の成分系をベースにVを添加した鋼から構成され、浸炭窒化焼入された実施例F〜Hは、比較例Jに対して2.4〜4.4倍(比較例I
に対して最大5.2倍)程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある点については比較例F〜Hと同様であるが、寿命向上の傾向が強くなっている。すなわち、SUJ3の成分系においても上述のSUJ2の成分系の場合と同様に、浸炭窒化を実施して試験片29の表層部に窒素富化層を形成することにより、V添加による長寿命化の効果が増幅されていることがわかる。なお、この長寿命化効果の増幅は、Vが添加された鋼からなる試験片29に窒素富化層が形成されることにより、単に窒素富化層の効果による寿命向上が得られただけでなく、V炭化物(V炭窒化物を含む)の量が増加し、熱処理工程においてオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果が増幅されるとともに、試験時において水素のトラップサイトとしての効果も増幅されたことに起因するものと考えられる。
に対して最大5.2倍)程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある点については比較例F〜Hと同様であるが、寿命向上の傾向が強くなっている。すなわち、SUJ3の成分系においても上述のSUJ2の成分系の場合と同様に、浸炭窒化を実施して試験片29の表層部に窒素富化層を形成することにより、V添加による長寿命化の効果が増幅されていることがわかる。なお、この長寿命化効果の増幅は、Vが添加された鋼からなる試験片29に窒素富化層が形成されることにより、単に窒素富化層の効果による寿命向上が得られただけでなく、V炭化物(V炭窒化物を含む)の量が増加し、熱処理工程においてオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果が増幅されるとともに、試験時において水素のトラップサイトとしての効果も増幅されたことに起因するものと考えられる。
以上より、Vが添加された鋼からなる転動部材は、表層部に窒素富化層が形成されることにより、V添加による長寿命化の効果が増幅されて、非常に長寿命な転動部材とすることができるといえる。
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明の転動部材である円筒ころと本発明の範囲外の円筒ころとについて高接触面圧環境における寿命を比較する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。素材としては実施例1の場合と同様の鋼を採用した。具体的な化学成分を表4に示す。
また、試験片の作製方法も基本的には実施例1の場合と同様である。しかし、実施例2では、表4に示すように、熱処理において実施例1の浸炭窒化焼入に代えて、浸炭窒化再加熱焼入が採用されている点で実施例1とは異なっている。すなわち、実施例I〜Pおよび比較例MおよびNにおいては、図4の熱処理工程に代えて、図6の熱処理工程が採用されて、成形部材に窒素富化層が形成された。具体的には、浸炭窒化温度T1は850℃、Cp値は1.1、雰囲気はRXガスに5質量%のアンモニアが添加されたもの、再加熱温度T2はT1より低い800℃、の条件で熱処理工程が実施されることにより、浸炭窒化再加熱焼入が実施された。
次に、具体的試験方法および試験結果について説明する。実施例2における試験は実施例1と同様の転動疲労寿命試験機20を用い、同様の条件で実施された。
表5に試験結果を示す。また、表5には表3と同様に、SUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比、およびSUJ3にVが添加された鋼から作製された実施例および比較例に関してはSUJ3をずぶ焼入して作製した比較例Jに対するL10寿命の比を合わせて示している。さらに、図11は、実施例2の転動疲労寿命試験におけるバナジウム(V)添加量とL10寿命(SUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比)との関係を示す図である。図11において、横軸はバナジウムの添
加量、縦軸はSUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比を示している。表5および図11を参照して、実施例2の転動疲労寿命試験の結果を説明する。
加量、縦軸はSUJ2をずぶ焼入して作製した比較例Iに対するL10寿命の比を示している。表5および図11を参照して、実施例2の転動疲労寿命試験の結果を説明する。
表5および図11を参照して、SUJ2の成分系をベースにVを添加した鋼から構成され、浸炭窒化再加熱焼入された実施例I〜Mは、比較例Iに対して4.5〜9.4倍程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある点については比較例A〜Eと同様であるが、寿命向上の傾向が強くなっている。すなわち、実施例1の場合と同様に、浸炭窒化を実施して試験片29の表層部に窒素富化層を形成することにより、V添加による長寿命化の効果が増幅されていることがわかる。
また、表5および図11を参照して、SUJ3の成分系をベースにVを添加した鋼から構成され、浸炭窒化焼入された実施例N〜Pは、比較例Jに対して4.3〜8.4倍(比較例Iに対して最大9.9倍)程度の寿命を有している。また、V添加量が多いほど、寿命が向上する傾向にある点については比較例F〜Hと同様であるが、寿命向上の傾向が強くなっている。すなわち、実施例1の場合と同様に、SUJ3の成分系においても浸炭窒化を実施して試験片29の表層部に窒素富化層を形成することにより、V添加による長寿命化の効果が増幅されていることがわかる。
さらに、表3、表5、図10および図11を参照して、実施例2の本発明の実施例I〜Pにおける試験片29の寿命のレベルは、実施例1の本発明の実施例A〜Hに比べて、さらに上昇していることが分かる。これは、実施例1の浸炭窒化焼入に代えて、実施例2では浸炭窒化再加熱焼入が採用されているため、試験片29を構成する鋼の旧オーステナイト結晶粒が一層細粒化され、さらなる寿命向上効果が得られたためであると考えられる。
以上より、Vが添加された鋼からなる転動部材は、表層部に窒素富化層が形成され、かつ転動部材を構成する鋼の旧オーステナイト結晶粒が一層細粒化されることにより、極めて長寿命な転動部材とすることができるといえる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の転動部材および転がり軸受は、高接触面圧環境などの過酷な環境下で使用される転動部材および転がり軸受に特に有利に適用され得る。
1 深溝玉軸受、2 外輪、2A 外輪転走面、3 内輪、3A 内輪転走面、4 玉、5 保持器、6 四列円筒ころ軸受、7 円筒ころ、20 転動疲労寿命試験機、21
上部ロール、22 下部ロール、23 駆動ロール、24 支持ロール、25 相手試片、29 試験片。
上部ロール、22 下部ロール、23 駆動ロール、24 支持ロール、25 相手試片、29 試験片。
Claims (6)
- 0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、
粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、
旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が12μm以下である鋼からなり、
表層部に窒素富化層が形成されており、
前記表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、
転走面は59HRC以上の硬度を有している、転動部材。 - 0.6質量%以上1.2質量%以下の炭素と、0.15質量%以上1質量%以下の珪素と、0.3質量%以上1.5質量%以下のマンガンと、0.1質量%以上2質量%以下のクロムと、0.1質量%以上2質量%以下のバナジウムとを含有し、
粒径50nm以上300nm以下のバナジウム炭化物が分散しており、
旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が5μm以下である鋼からなり、
表層部に窒素富化層が形成されており、
前記表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上20体積%以下であり、
転走面は59HRC以上の硬度を有している、転動部材。 - 表面からの深さが0.2mmの領域における窒素含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下である、請求項1または2に記載の転動部材。
- 表面からの深さが0.2mmの領域の切断面におけるバナジウム炭化物の面積率は5%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の転動部材。
- 表面からの深さが0.2mmの領域におけるバナジウム炭化物の粒径は1μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の転動部材。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の転動部材を備えた、転がり軸受。
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- 2005-09-30 JP JP2005288015A patent/JP2007100126A/ja not_active Withdrawn
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