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JP2007179753A - 走査透過電子顕微鏡、及び収差測定方法 - Google Patents

走査透過電子顕微鏡、及び収差測定方法 Download PDF

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JP2007179753A JP2005373756A JP2005373756A JP2007179753A JP 2007179753 A JP2007179753 A JP 2007179753A JP 2005373756 A JP2005373756 A JP 2005373756A JP 2005373756 A JP2005373756 A JP 2005373756A JP 2007179753 A JP2007179753 A JP 2007179753A
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Abstract

【課題】収差補正器を搭載した走査透過電子顕微鏡において、従来よりも簡便で取り扱いやすい収差補正器の調整方法、および当該機能を備えた走査透過電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】球状の標準試料を用いてロンチグラム像を取得し、得られたロンチグラムから調整に必要なパラメータを取得する。
【効果】ユーザフレンドリーな装置を実現できる。
【選択図】図1

Description

本発明は球面収差補正器を具備した走査透過電子顕微鏡とその調整方法に関し、より詳しくは、ロンチグラム像の画像データから各種収差係数を測定して、装置の収差補正器を行うための技術に関する。
SEMやSTEM等の走査電子線を応用した電子顕微鏡においては、一般に走査電子線のプローブ径が細いほど分解能の高い画像が得られる。しかし、電子線を収束させるための電子レンズの収束条件をきつくすると電子線に収差が生じ、プローブ径は絞れても得られる電子線画像にぼけが発生する。このため、最近では収差補正器を搭載したSEM、STEMが開発され、収差を除去した電子線を用いて電子線画像を取得することにより、高分解能と画像の解像度を両立させている。
一般に、収差補正器は、複数の多極子レンズと回転対称レンズにより構成され、収差補正器を動作させる際には、多極子及び回転対称レンズの励磁電圧(電流でもよい)を調整する必要がある。励磁電圧は、収差係数から求まるので、多極子の励磁電圧を調整する際には収差係数を計算する必要がある。非特許文献1には、ロンチグラムを用いた走査透過電子顕微鏡の収差係数の測定方法の一つが開示されている。非特許文献1に記載された方法では,アモルファスのようなランダムな構造をもつ試料を用いてロンチグラム像を取得し、ロンチグラム像に現れる無限大倍率リングパターンの直径を測定して、収差係数を計算する。走査透過電子顕微鏡の分解能が主に球面収差により制限されている場合,倍率が無限大となる円状のラインがロンチグラム中に現れる。この無限大倍率のラインは入射電子線に含まれる各種幾何収差の程度を反映しており,その円状のラインの半径や形状から収差係数の測定を行うことができる。
T. Hanai, M. Hibino, S. Maruse, Ultramicroscopy 20, pp329-336 (1986)
非特許文献1に開示された方法では、無限大倍率リングパターンの直径をロンチグラム像から目視により推定して測定する。しかしながら、ロンチグラム像に現れる倍率無限大に対応するリングパターンは、周辺とコントラストの差がつかないため,一般に特定が困難である。さらに非特許文献1に記載の手法では,収差係数を測定する際に、デフォーカスを変化させた,少なくとも2枚のロンチグラムから倍率無限大のリングパターンを推定し、デフォーカスに伴うリングパターンの直径の変化分から測定する。そのため,複数のロンチグラムを取得する分だけ調整時間が多くなるという問題があった。
また、同様の理由から、画素演算によりリングパターンを推定する場合のスライスレベルの設定が非常に困難であった。従って、倍率無限大に対応するパターンの特定は、不正確ではあるが目視に頼らざるを得ず、結果的に誤差を含んだ収差係数の値しか得られないという問題があった。
本発明では球状試料を用いてロンチグラムを取得し,該ロンチグラムに現れるリングパターンの内径,外径及び試料の半径から各種収差係数の測定を行い,それを元に球面収差補正器の調整を行う。これによりロンチグラムから特定することが困難である無限大倍率のラインを直接測定することなく収差係数の測定が可能となる。また球状試料を用いることで、1枚のロンチグラムの画像データから収差係数の測定が可能となる。これにより調整時間の短縮が見込まれる。
(ロンチグラムから収差係数を求めるための原理)
まず、図1(a)(b)を用いて、本実施例におけるロンチグラムの取得原理について説明する。ロンチグラムとは、電子線の走査を停止し,絞りを開放もしくは孔径の大きな絞りを用いた場合に軸上において観測される像であり,軸上収差の影響を敏感に反映する性質を持つ。図1(a)は、透過電子顕微鏡/走査透過電子顕微鏡におけるロンチグラム取得時の試料周辺の光学系を示す模式図である。図1(a)において、8が対物前磁場レンズ、一点鎖線24が対物前磁場レンズに入射する一次電子線の光軸を示す。一次電子線光軸24は、通常は対物前磁場レンズ8の中心と一致する。一次電子線光軸24の進行方向前方の試料面27の位置には、ロンチグラム取得用の球状試料が配置されている。通常、試料は、試料の中心軸と対物前磁場レンズの中心軸とが一致するように配置される。試料を透過した一次電子線は、試料の配置位置前方で焦点を結び、像面25を形成する。
対物前磁場レンズ8に入射する一次電子線は、対物前磁場レンズの作用により軌道が曲げられて試料に照射される。今、対物前磁場レンズに入射する一次電子線が、異なる軌道をもつ複数の電子線により構成されると仮想的に考え、対物前磁場レンズにより軌道を曲げられた後の任意の電子線が光軸24と形成する角度を収束角と定義する。また、対物前磁場レンズに入射する(仮想的な)複数の電子線には、対物前磁場レンズを通過した後の軌道が、球状試料に対して接線を形成するものがある。そのような接線を形成する電子線を軌道a電子線、軌道a電子線に対して対物前磁場レンズ中心よりも外側を通過する電子線を軌道b電子線と定義する。以下の原理説明は、全て上の条件を前提として進める。
次に、球面収差係数を求める方法について説明する。簡単のため、収差としては、3次の球面収差のみを考慮する。図1(a)において対物前磁場レンズ8を通過し、試料に対して小さな収束角で、即ち対物前磁場レンズの中心軸に比較的近い位置を通過した電子線は,試料を通過して像面25で収束する。しかし収束角が大きくなることで電子線は球面収差の影響を依り強く受け,像面より試料に近い位置で光軸24と交わるようになる。さらに収束角が大きくなると、電子線は一旦試料を通過しなくなる。さらに角度成分が大きな軌道aをとるときは再び試料を通過するようになる。さらに収束角が大きくなり,電子線が試料面27より対物前磁場レンズ8に近い側で光軸24と交わる軌道bをとるとき,再度試料を通過しなくなる。従って球状試料を用いてロンチグラムを取得すると、図1(a)の像面25に示されるようなリングパターンを有するロンチグラムが観測される。上記の説明からわかるよう,ロンチグラム中心からのリングパターン半径方向距離は、電子線の収束角に比例する。リングパターンの内径36及び外径37は、それぞれ軌道a,軌道bに対応する電子線により形成されるため,ロンチグラムからリングパターンの内径36,外径37を測定することで軌道a,軌道bに対応する収束角を求めることができる。電子線軌道の収束角には、収差係数が反映されるため、軌道a電子線と軌道b電子線の収束角を計算することにより、収差係数を推定することができる。なお図1(a)における点線は像面上で無限大倍率に対応するライン29を形成するような収束角で入射した電子線を示している。
次に、軌道a電子線と軌道b電子線の収束角と収差係数の関係について説明する。上述の通り、簡単のため、以下では3次の球面収差係数に絞って説明を行う。図1(b)には、図1(a)の試料周辺の拡大図を示す。軌道a電子線が光軸と交わる点26と像面25との距離をL1,軌道aが光軸と交わる点26と試料面27との距離をL2,軌道bが光軸と交わる点28と試料面27との距離をL3、rを球状試料の半径,θ1,θ2を軌道a電子線,軌道b電子線の収束角、C3を3次球面収差係数と表記すると、L2,L3は,

(式1)

(式2)
と表される。球面収差により生じるデフォーカス量は,球面収差係数C3と電子線の収束角の二乗の積に比例するため,図1(a)から,
(式3)
(式4)
が得られる。式3に式1,2、4を代入してC3について解くと、
(式5)
が得られる。
また,図1(a)から明らかなように,デフォーカス量C1は,
(式6)
で求められる。
ここで、リングパターンの内径36及び外径37から収束角θ1,θ2を求める方法を説明する。図1(a)から,収束角θ1,θ2はリングパターンの内径36及び外径37と比例関係にあることがわかる。すなわちリングパターンの内径36及び外径37から収束角θ1,θ2を求めるためには,ロンチグラムを取得した画像上で,一画素あたりの収束角の変化分がわかればよい。そこで,ロンチグラム取得時と同じレンズ条件で結晶試料の回折像を撮影する。その回折像に現れる面間隔がdである結晶面からの回折スポットの位置を測定することで一画素あたりの収束角の変化分を算出する。結晶面間隔dの回折スポットと収束角θの関係は,入射電子線の波長λを用いて,θ=λ/dで表される。したがって,結晶面間隔dが既知である試料を用い,これに対応する取得回折像中の回折スポット間の画素数で測定することで,1画素あたりの収束角度を算出できる。これにより,リングパターンの内径36及び外径37を収束角に換算することができる。
したがって、ロンチグラムに現れるリングパターンの内径、外径を計測し、得られた内径、外径の値から測定軌道a電子線,軌道b電子線の収束角θ1,θ2を算出し、式5に代入すればC3が得られる。
図2には、従来のアモルファス試料を用いて得られるロンチグラム像(図2(a))と本実施例の球状試料を用いて得られるロンチグラム像(図2(b))とを対比して示した。いずれもアンダーフォーカス条件で撮影されたロンチグラムである。図2(a)は、カーボン膜上に金粒子を蒸着した試料を用いて得られたロンチグラムであるが、球面収差の影響により非常に複雑な形状を示すため、無限大倍率リングパターンの特定が難しいことがわかる。また、このロンチグラムから従来の手法で収差係数を算出するためには、デフォーカスに伴うリングパターンの直径の変化量が必要であるため、少なくとも2枚のロンチグラムが必要である。図2(b)に示されるロンチグラムにおいては、中心に円,そしてその円を取り囲むようにリングパターンが現れており,金粒子を用いた場合に比べ,非常にシンプルな形状を示すことが分かる。図2(b)のロンチグラムに現れるリングパターンの内径と外径は、デフォーカス変化させて撮影したロンチグラムの無限大倍率リングパターンの位置から得られる情報と同等の情報、即ち図2(a)のロンチグラム2枚分と同等量の情報を持つ。すなわち球状試料を用いることで、ロンチグラム中の収差係数測定に必要な情報量が増加し、一枚のロンチグラムから収差係数の算出が可能となる。
なお、ロンチグラムの撮影に用いる球状試料としては,電子線が透過しにくい材質で、直径ができるだけ小さく,かつ高い真球度を持つことが望ましい。従って、球状試料の材料としては、ポリスチレン等のラテックス素材や金属などが適している。また球状試料には粒径が既知のものを用いる場合と,既知でない物を用いる場合が考えられる。粒径が既知でないものを用いる場合は,球状試料の走査透過像を撮影し,その径を測定すればよい。
得られた収差係数から球面収差補正器の調整量を決定するには、収差補正器を構成する極子の励磁条件を収差係数から求める必要がある。励磁条件を収差係数から求めるためには、既知の計算式が利用でき、このような計算式を用いて得られた励磁条件を用いて調整を行うことができる。
(ロンチグラムを取得する装置の構成)
次に、取得したロンチグラム像から収差係数を求めるための荷電粒子線装置の一構成例について説明する。図3には、本実施例の走査透過電子顕微鏡の外観構成図を示す。
走査透過電子顕微鏡は主に走査透過電子顕微鏡の鏡体301,制御ユニット302,ディスプレイ303,情報処理装置421により構成されている。鏡体301内は真空に保たれており,電子源,各種レンズ,偏向器,検出器を内部に備えている。鏡体301は外乱磁場による入射電子線への影響を低減するために磁性体で作製されている。鏡体内部の電子源,各種レンズ,偏向器,検出器に印加される電圧,電流の制御は外部に備え付けられている制御ユニット302により行われる。この光学系の制御ユニット302は電子源,各種レンズ,偏向器,検出器に電流,電圧を印加するための電源,情報処理装置421に含まれるCPU422により制御される駆動電源回路,さらにA/Dコンバータ,A/Dコンバータを備えている。情報処理装置421にはCPU422,記憶装置423が含まれており,使用者は光学系の設定をディスプレイ303,キーボード304,マウス305などのインターフェースで入出力を行い,情報処理装置421を通して走査透過電子顕微鏡を制御できる。
図4には、図3で示した走査電子顕微鏡鏡体の内部構成図を示す。電子線源41から出射された電子は42a、42b、42cに示す静電レンズにより所定の加速電圧まで加速される。一段あたりの静電レンズに印加する電圧を制御することで、最終的な加速電圧を制御することができる。所定の加速電圧まで加速された電子線は43a、43bの収束レンズにより縮小される。43a、43bの電流励磁の組み合わせにより、任意の縮小率を実現できる。43bの下部にある収束絞り44によりプローブの開き角を変化させ、プローブに及ぼす球面収差、回折収差のバランスを調整することができる。この収束絞り44は、光軸上から取り除くことができるように、可動機構を備えている。
収束絞りを通った電子線は、球面収差補正器45を通ることで、球面収差、非点収差などの収差が補正される。球面収差補正器45は、走査透過電子顕微鏡の分解能を最も制限している3次球面収差を補正する装置である。本実施例の球面収差補正器45は、多段の静電、あるいは磁界型の多極子レンズや回転対称レンズ、偏向コイルで構成されている。場合によっては、複数の回転対称レンズとにより構成されていることもある。多極子レンズの各極子および回転対称レンズの印加電圧、あるいは励磁電流を制御することで、収差の補正量を調整できる。
非点収差の補正が不十分な場合は,球面収差補正器45の下部にある非点収差補正コイル435により補正を行うことができる。また,偏向コイル46a、46bにより、試料に入射する電子線の入射角を制御することができる。対物前磁場レンズ48で収束され試料49に入射した電子線は,試料内部で散乱され、対物後磁場レンズ410により試料49下部に電子線回折像が形成される。投影レンズ411の下部に設置した検出系アライメントコイル412は暗視野像検出器413、明視野像検出器414、カメラ415に対する軸合わせのために用いる。
偏向コイル46a、46bにより電子線を試料に対して斜入射させた場合、電子線回折像は暗視野像検出器413、明視野像検出器414、カメラ415に対して大きく離軸してしまうため、この場合も検出系アライメントコイル412を用いて軸合わせを行う。走査透過像はスキャンコイル47a、47bにより電子線を偏向し、試料49上で二次元的に走査させ、それに同期して暗視野像検出器413もしくは明視野像検出器414での信号を像強度に輝度変調して取得する。このとき像強度はプリアンプ417で増幅されA/Dコンバータ418の出力を元にデジタルの画像ファイルとして保存される。明視野像検出器414は光軸上に設置してあるため、カメラ415を使用する際には光軸上から取り除くことができるよう可動な機構を備えている。カメラ415には、CCD、ハーピコンカメラなどの高感度、高S/N、高直線性の特徴を持った検出器を用い、電子線回折像またはロンチグラム強度の定量的な記録を行う。このカメラ415面上でのカメラ長は投影レンズ411により任意に変化させることが可能で、任意の結像面での電子線回折像及びロンチグラムを観察することが可能である。
一連の操作におけるすべてのレンズ、コイル、検出器の制御は情報処理装置421に組み込まれたCPU422がD/Aコンバータ420を介して行い、マウス,ディスプレイ,キーボード等のインターフェース419を通じて操作者が条件を設定することができる。対物前磁場レンズ48の上段には二次電子検出器416が設置してあり、上記の走査像取得と二次電子像の取得が可能である。ロンチグラムを撮影する際には走査を止め、電子線が光軸に沿った状態に保って行う。撮影されたロンチグラムは走査透過像と同様に画像ファイルとして記憶装置423に保存され,いつでもインターフェース419を通して呼び出すことが可能である。
次に、図3,図4に示した走査透過電子顕微鏡に搭載された収差補正器の調整手順について説明する。球面収差補正器を走査透過電子顕微鏡に搭載し、3次球面収差を補正することで,走査透過像の観察を非常に高分解能で行うことが可能となる。しかし,高分解能観察を行うためには,球面収差補正器に含まれる各種レンズの調整が非常に高い精度で行われていなければならない。そのため,毎観察時に球面収差補正器の微調整を行い,残留収差を十分に低下させる必要がある。
球面収差補正器に含まれる複数のレンズの励磁を精密に調整するためには,上で説明したロンチグラムを用いた手法により,まず走査透過電子顕微鏡の各種収差係数の測定を行う。続いて測定された収差係数から各種収差を補正するための励磁条件を算出し,球面収差補正器にフィードバックすることで調整を達成する。上記のような手順を経て,高分解能観察を行うことが可能となる。
図5には、収差補正器の調整時に処理されるステップを示すフローチャート、図6には、球面収差補正器の調整を行う際のGUI(Graphical User Interface)の一例を示した。走査透過電子顕微鏡の本体の電源を投入し走査透過像取得の準備が整った後,インターフェース上には走査透過像の通常観察を行うためのGUIが表示される。通常観察を行う場合はこのGUIを通して行う。収差補正器の調整を行う場合は,通常観察用のGUI上に備えられたアイコンをクリックする。
以上の工程が終了すると、図6に示すGUI画面が、図4に示すユーザインタフェース419に表示される。図6に示すGUIの操作画面は、操作部,走査透過像表示部,ロンチグラム表示部に大きく分けられる。操作部には試料の半径を入力するためのテキストボックス600と目標とする分解能を入力するためのテキストボックス601及び調整開始/中止ボタン602が備えられている。試料の半径及び目標とする分解能をそれぞれ入力した後,使用者が調整開始/中止ボタン602を押すことで球面収差補正器の調整が開始される。また調整中にこのボタンを押すことで調整を中止することができる。算出された各収差係数は表603にまとめられて表示される。ここで表603に記載されているC1,A1,A2,B2,はそれぞれデフォーカス量,1次2回対称非点収差,2次3回対称非点収差,2次軸上コマ収差係数であるが,本実施例では球面収差係数のみを測定するため,ここでは値は表示されない。
走査透過像表示部には,試料の明視野像,暗視野像もしくは二次電子検出器により撮影されるSEM像などの走査像604が表示される。ロンチグラム表示部には撮影されたロンチグラム605が表示される。ロンチグラム撮影は電子線走査を停止して行うため,ロンチグラム取得時は走査透過像表示部には走査停止前の画像が表示される。球面収差補正器の調整中においてもロンチグラムの撮影は継続され,ロンチグラムの経過画像が表示される。
次に、図5のフローチャートの説明に戻る。最初に、調整に用いる球状試料の半径が設定入力される。この入力は、操作者が図6のGUIを通して行う。操作者は、図6の「試料の半径」テキストボックス600に設定すべき半径の数値を入力する。次に、「目標分解能」テキストボックス601右横のプルダウンメニューから、設定すべき数値を選択することにより目標とする分解能を入力する。続いて操作者が調整開始/中止ボタン602をクリックすると、球面収差補正器の調整が開始される。球面収差補正器の調整が開始されると,情報処理装置421に組み込まれたプログラムにより自動的に電子線の走査が停止し,対物レンズ,投影レンズが予め記憶装置に保存されている設定値に設定され,予め記憶装置に設定されている画像取得のための積算時間,取得画像サイズなどを参考にしてロンチグラムの取得が行われる。
次に、取得したロンチグラム像の画像データに対して、情報処理装置421による画像処理が実行され、リングパターンの内径・外径の値が測定される。次に、情報処理装置421は収差係数の算出ステップを実行し、内径・外径及び球状試料の半径の値から収差係数を算出する。収差係数の算出に当たっては、情報処理装置421は記憶装置423に格納されている計算式を参照する。図5のフローチャートにおいては、ロンチグラム像の画像処理ステップ後に「極座標変換像の作成」ステップが示されているが、本実施例では、極座標変換像(実施例2で詳述)を用いずに収差係数を算出する。従って、ロンチグラム像の画像処理ステップ後、「極座標変換像の作成」ステップ及び「ラインの検出」ステップを実行せずに、直接「収差係数の算出」ステップが実行される。
収差係数が算出されると、情報処理装置421は記憶装置423に格納された判定テーブルを参照し、得られた収差係数の値が、高分解能観察を行うのに十分であるか判断する。図7に判定テーブルの一例を示す。図7に示した判定テーブルは、複数の目標分解能フィールドにより構成される。また、各フィールドは、補正すべき収差の種類に応じた、複数の収差係数レコードにより構成されている。収差係数レコードには、目標分解能を達成するのに必要な各収差係数の値が格納される。目標分解能を達成するためには、測定収差係数がテーブルに記された値より小さい必要がある。そのため情報処理装置421は,算出された収差係数と判定テーブルの値とを比較することにより、テキストボックス43において設定した目標分解能に対して、算出された収差係数が十分に小さな値であるかをで判断する。本実施例ではC3の値のみが比較される。
算出されたC3が目標分解能達成に十分であると判断された場合は球面収差補正器の調整を終了し,走査透過像観察に移る。不十分であると判断された場合は算出された収差係数から,収差を補正するような球面収差補正器のレンズ励磁条件を算出し,その条件を走査透過電子顕微鏡の制御ユニット302を通して各レンズにフィードバックする。上記手順を収差係数が十分に低減されるまで繰り返し行うことで球面収差補正器の調整が達成される。
本実施例の手法は、従来技術に比べてC3が正確に測定できる。従って、収差補正器調整の繰り返し回数を低減することができ,より短時間で調整が達成される。
実施例1では、3次の残留球面収差が小さくなるように収差補正器を調整する方式について説明した。しかし、試料に照射される一次電子線電子線には、実際には3次球面収差以外の収差も含まれるため、それらの収差も含めた収差全体が小さくなるように収差補正器の調整を行う必要がある。そこで、本実施例では、他の収差も低減されるような収差補正器の調整方式について説明する。
はじめに、図1(a)と図1(b)を用いて、3次球面収差以外の収差係数を求めるために必要なパラメータについて説明する。
ロンチグラム像が無限大倍率となる場合の,入射電子線の角度θinfは次式によって求められる。
(式7)
この角度θinfで入射した電子線は、図1(a)の像面25中において無限大倍率に対応するライン29を形成する。実際に撮影されるロンチグラム像においては、このラインはコントラストがほぼ一様のリングパターン中に含まれる。
次に非点収差を含む場合を考える。1次2回対称非点収差を含むとき,電子線のスポットは楕円になる。その結果,球状試料を通過する電子線の収束角成分が変化し,ロンチグラムのリングパターンも楕円に変化する。このとき楕円のリングパターンの長軸を形成する電子線の軌道はデフォーカス量及び収束角が最大となっており,短軸を形成する軌道はデフォーカス量及び収束角が最小となっている。1次2回対称非点収差による収束角の変化分をa1とすると,最大収束角はθ→θinf + a1,最小収束角はθ→θinf - a1,最大デフォーカス量はC1→C1 + A1,最小デフォーカス量はC1→C1 - A1と表すことができる。ここでA1は1次2回対称非点収差係数である。以上からA1は以下のように表される。
(式8)
2次3回対称非点収差のみを含むとき,リングパターンは三角状に変化する。このときデフォーカスの変化分はA2θinfであるため,2次3回対称非点収差による収束角の変化分をa2とすると,2次3回対称非点収差係数A2は以下のように表される。
(式9)
2次軸上コマ収差のみを含む場合,リングパターンは一方向に伸びる。2次軸上コマ収差係数B2は,収束角の変化分b2を用いて以下のように表される。
(式10)
一般にn次の非回転対称収差係数Pは,その収差による収束角の変化分pを用いて以下のように表される。
(式11)
従って、1次2回対称非点収差係数、2次3回対称非点収差係数を求めるにはθinfとa1,a2が,2次軸上コマ収差係数を求めるにはb2がわかればよい。
次に、上記のパラメータを計測する方法について説明する。図2(b)に示されるロンチグラムにはほぼ球面収差とデフォーカス成分しか含まれていないため回転対称なリングパターンが現れているが,すべての収差が同時に現れている場合,ロンチグラムは図8(a)のように回転対称ではなくなる。従って、各収差に対応する収差係数を測定するためには、図8(a)のロンチグラムから各収差に対応する成分を分離する必要がある。そのため,取得したロンチグラムの中心を原点にとり極座標変換する。これによりリングパターンの内径,外径の収束角を精度良く測定することが可能となる。
図8(b)に、図8(a)のロンチグラムの極座標変換像の一例を示す。縦軸が収束角θ,横軸が方位角φに対応している。図中のラインa,bはそれぞれ図1(a)における軌道a電子線,軌道b電子線の収束角θ1,θ2に対応している。また、図8(b)の極座標変換像に現れるライン29は、ラインa,bの各方位角に対応する収束角から求められる無限大倍率に対応する。
θinfは、実施例1で示したように,図8(a)のロンチグラム像から求まる内径・外径の値を用いてθ1,θ2を計算し、得られたθ1,θ2を式7に代入して計算することも可能であるが、図8(b)の極座標変換像に現れるラインa,bから計算することも可能であり、こちらの方が精度良い値が得られる。以下説明する。極座標変換像に現れるラインa,bは非点収差,コマ収差等の回転対称でない収差の影響を含んでいるため曲線になっている。ここで、球面収差およびデフォーカスによる焦点位置ずれは回転対称に起こるため,ラインa,bに対応するそれぞれの収束角の方位角方向の平均値は、式5におけるθ1,θ2に等しくなる。そこで、このラインa,bに対応する収束角の方位角方向の平均値から求めたθ1,θ2を式7に代入すれば、θinfが得られる。また、このようにしてθ1,θ2を式5に代入すればC3の測定も可能であり、実施例1で説明した方法よりも精度良くC3が得られる。
a1,a2を求めるには,図8(b)のライン29に含まれる各収差成分を分離する必要がある。電子線が1次2回対称非点収差のみを含むとき,ロンチグラムに現れるリングパターンは楕円であるため,極座標変換後の無限大倍率に対応するラインは周期πの波形になる。また,2次3回対称非点収差成分のみを含むときは三角形状になるため,周期2/3πの波形となり,2次軸上コマ収差のみを含む場合は周期2πの波形となる。ライン29を各周期成分に分離する方法としては,例えばフーリエ級数展開を用いる。フーリエ級数展開は,図8(b)においてライン29を方位角φを変数とする収束角の関数θ(φ)として抽出し,その関数θ(φ)に対して行われる。フーリエ級数展開により分離された周期π,周期2/3π及び周期2πの波形の振幅がそれぞれa1,a2,b2に対応するため,2回及び3回対称非点収差係数,2次軸上コマ収差係数を求めることができる。上記の方法を用いることでその他の非回転対称収差係数についても測定が可能となる。
次に、本実施例の収差補正器調整方法を、図3および図4に示す走査透過電子顕微鏡に対して適用した場合の装置動作について説明する。走査透過電子顕微鏡の外観及び内部構成については、実施例1で説明したので説明を省略する。但し、本実施例の走査透過電子顕微鏡は、記憶装置423に格納されているプログラムが、実施例1の走査透過電子顕微鏡と異なっている。よって、情報処理装置421の動作が、実施例1の走査透過電子顕微鏡と異なる。
次に、図5のフローチャートを用いて、本実施例の走査透過電子顕微鏡の収差係数算出方法について説明する。「球状試料の半径入力」ステップから「取得ロンチグラムの画像処理」ステップまでの装置の動作は、実施例1と同様のため説明を省略する。操作者が行う入力も,実施例1で示した図6と同様のGUIが利用できる。
ノイズ除去,二値化などの画像処理が行われ,極座標変換像が作成される。続いてこの極座標変換像からリングパターンの内径,外径に対応するラインの検出を行い,方位角φについての収束角の関数θ(φ)として抽出する。
ロンチグラムの極座標変換像からリングパターンのラインを検出するためには,まずノイズの除去を行う。続いてラインの検出を行うが,リングパターンの端部には焦点ずれのためフレネル縞が現れる。そのため,リングパターン端部の黒と白のラインの境界を,リングパターンのラインとして検出する。検出は,例えば極座標変換像に、二値化もしくはエッジ強調等の処理を施した後,閾値などの特定の条件を満たしている処理画像内の画素を検出することで行う。
続いてラインの検出により作製された関数θ(φ)をフーリエ級数展開することで各収差を反映する周期成分の波形に分離する。これにより各周期の波形の振幅が求められ,前述の式から各収差係数を算出することができる。なお,ここで算出された各収差係数は,図6のGUIの表603上に表示される。
算出された収差係数は,実施例1の場合と同様に判定テーブルに記された値と比較され,目標分解能を達成するのに十分であるかどうか判断される。本実施例ではC3の値のみではなく,算出された全ての収差係数について行われる。
算出された収差係数が目標分解能達成に十分であると判断された場合は球面収差補正器の調整を終了し,走査透過像観察に移る。不十分であると判断された場合は算出された収差係数から,収差を補正するような球面収差補正器のレンズ励磁条件(例えば極子への印加電圧補正量など)を算出し,その条件を走査透過電子顕微鏡の制御ユニット302を通して各レンズにフィードバックする。上記手順を各収差係数が十分に低減されるまで繰り返し行うことで球面収差補正器の調整が達成される。
なお,実施例2に示した手法によれば、球面収差のみではなく回転対称でない収差係数も測定できる。従って、高分解能測定を行うに当たり、実施例1に示した手法に比べて、より実用的な手法ないし装置を実現可能である。
球状試料のロンチグラムの光学系を示す図。 ロンチグラムの一例を示す図。 走査透過電子顕微鏡装置の外観構成図。 走査透過電子顕微鏡鏡体の内部構成を示す図。 収差補正器の調整手順を示すフローチャート。 収差補正器調整時のユーザインターフェースを示す図。 測定した収差係数の判定テーブルの一例を示す図。 回転対称でない収差を含むロンチグラム及びその極座標変換像の一例を示す図。
符号の説明
24…光軸、
25…像面、
26…軌道aが光軸と交わる点、
27…試料面、
28…軌道bが光軸と交わる点、
29…無限大倍率に対応するライン、
36…リングパターンの内径、
37…リングパターンの外径、
301…鏡体、
302…制御ユニット、
303…ディスプレイ、
304…キーボード、
305…マウス
41…電子線源、
42a…1段目静電レンズ、
42b…2段目静電レンズ、
42c…3段目静電レンズ、
43a…1段目収束レンズ、
43b…2段目収束レンズ、
44…収束絞り、
45…球面収差補正器、
46a…上段偏向コイル、
46b…下段偏向コイル、
47a…上段スキャンコイル、
47b…下段スキャンコイル、
48…対物前磁場レンズ、
49…試料、
410…対物後磁場レンズ、
411…投影レンズ、
412…検出系アライメントコイル、
413…暗視野像検出器、
414…明視野像検出器、
415…カメラ
416…二次電子検出器、
417…プリアンプ、
418…A/Dコンバータ、
419…インターフェース
420…D/Aコンバータ、
421…情報処理装置、
422…CPU、
423…記憶装置、
435…非点収差補正器、
600…試料の半径を入力するためのテキストボックス、
601…目標分解能を入力するためのテキストボックス、
602…調整開始/中止ボタン、
603…収差係数を表示する表、
604…走査像、
605…ロンチグラム。

Claims (12)

  1. 複数のレンズにより構成される収差補正器を備え、該収差補正器により収差の補正された電子線を対象物に対して走査する電子光学系と、前記対象物を透過した電子線を検出する検出器とを有する走査透過電子顕微鏡鏡体と、
    前記検出器の検出信号を処理して走査透過電子線像を形成する情報処理装置と、
    前記情報処理装置により形成された走査透過電子線像の画像データを格納する記憶手段とを有し、
    前記情報処理装置は、球状試料に対して得られるロンチグラム像の画像データから当該ロンチグラム像に現れるリングパターンの内径と外径を算出し、
    該得られた内径と外径から前記収差補正器の収差係数を計算し、
    該収差係数から複数のレンズの励磁条件を計算することを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  2. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記複数のレンズに励磁電圧を供給する電源と、
    該電源から供給される電圧の制御手段と、
    前記情報処理装置により計算された複数のレンズの励磁条件を該制御手段に伝達するための伝送手段とを備えることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  3. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記ロンチグラム像を表示する画像表示手段を備えたことを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  4. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記ロンチグラム像が、前記対象物として球状の金属試料もしくはラテックスボールを使用した場合に得られるロンチグラム像であることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  5. 請求項3に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記画像表示手段に、前記計算されたレンズの励磁条件により励磁条件が補正される前のロンチグラム像と、補正された後のロンチグラム像とが表示されることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  6. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記記憶手段が、前記内径及び外径と前記収差係数との対応テーブルを備えることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  7. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記情報処理装置が、前記リングパターンの内径及び外径から、倍率無限大に対応するリングパターンの径を推定し、
    該倍率無限大のリングパターンの径を用いて前記収差係数を算出することを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  8. 請求項7に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記記憶手段が、前記倍率無限大に対応するリングパターンの径と前記収差係数との対応テーブルを備えることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  9. 請求項1に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    前記記憶手段には、前記収差補正器を構成する複数のレンズの励磁条件の初期設定条件が格納されることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  10. 請求項9に記載の走査透過電子顕微鏡において、
    装置立ち上げ時に、前記初期設定条件に基づく励磁電圧が前記複数のレンズに印加され、
    前記初期設定条件により前記収差補正器が動作した場合に得られるロンチグラム像が、前記画像表示手段に表示されることを特徴とする走査透過電子顕微鏡。
  11. 複数のレンズにより構成される収差補正器を備えた走査透過電子顕微鏡の調整方法において、
    球状試料のロンチグラム像を取得し、
    当該球状試料のロンチグラム像に現れるリングパターンの内径と外径を求め、
    当該内径、外径の値及び球状試料の径を用いて前記収差補正器の収差係数を計算し、
    得られた収差係数から前記複数のレンズの励磁条件を決定することを特徴とする走査透過電子顕微鏡の調整方法。
  12. 請求項11に記載の走査透過電子顕微鏡の調整方法において、
    前記内径,外径の値及び球状試料の径から、前記リングパターンに現れる倍率無限大に対応するリングパターンの径を推定し、
    当該倍率無限大のリングパターンの値から前記複数のレンズの励磁条件を決定することを特徴とする走査透過電子顕微鏡の調整方法。
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