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JP2006336044A - アルミニウム合金鋳物及びその製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金鋳物及びその製造方法 Download PDF

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JP2006336044A JP2005159467A JP2005159467A JP2006336044A JP 2006336044 A JP2006336044 A JP 2006336044A JP 2005159467 A JP2005159467 A JP 2005159467A JP 2005159467 A JP2005159467 A JP 2005159467A JP 2006336044 A JP2006336044 A JP 2006336044A
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英治 中野
Shigetaka Morita
茂隆 森田
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Abstract

【課題】 軽量で安価であることを要求される自動車、自動二輪車、雪上車、小型船舶など車両等の車体構成部品や懸架装置部品として好適な、高強度かつ高延性を有するアルミニウム合金鋳物とその製造方法を得る。
【解決手段】 重量比で、Si:7.0〜11.5%、Mg:0.6%以下、Fe:0.2%以下、Mn:0.2〜0.9%、Ti:0.02〜0.2%、Cr:0.15%以下、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなり、(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数が1.9以下であって、組織中のAl−Mn−Fe−Si系化合物の円相当径10μm以下のアルミニウム合金鋳物。その製造方法は前記組成となる溶湯を、減圧した金型キャビティ内に充填する真空ダイカスト工法であって、溶湯の充填時間を60ms以下とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、高強度かつ高延性を有するアルミニウム合金鋳物に関し、詳細には自動車、自動二輪車、雪上車、小型船舶などの車体構成部品や懸架装置部品として好適なアルミニウム合金鋳物に関する。
自動車、自動二輪車、スノーモービルなどの雪上車、水上バイクやレジャーボートなどの小型船舶など(以下、総称して「車両等」という)の車体構成部品や懸架装置部品には、軽量化、強度、及び耐食性の確保のために、アルミニウム合金の展伸材、または鍛造材が多用されている。
例えば、図5に模式的に示す雪上車50の車体構成部品であるバルクヘッド51、サブフレーム52、リアパネル53等、或いは図6に模式的に示す自動二輪車60の車体構成部品である車体フレーム61のヘッドパイプ61a、タンクレール61b、サイドフレーム61c、シートレール61d等は、高い強度と延性とを要求され、かつ薄肉で複雑な形状の部品である。雪上車や自動二輪車の車体構成部品は、板状、棒状、角状などのアルミニウム合金の展伸材から多数のパーツを加工し、これらパーツを溶接して1つの構造体(車体構成部品)としているため加工及び組み立てに要するコストが高く、製造コスト抑制のためにパーツを一体成形化するニーズが高まっている。
また、例えば、図7に模式的に示す自動車の車体フレーム71(図7(a))を構成する継手72(図7(b))、何れも図示しないエンジンクレードル、クロスメンバー、ピラー等の自動車の車体構成部品、或いは図6に示す自動二輪車60のスイングアーム62、図8に模式的に示す自動車のアーム81、図示しないリンク等の自動車や自動二輪車の懸架装置(サスペンション)部品は、軽量化のためにアルミニウム合金の展伸材、または鍛造材が多用されてきている。自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品は、製造コスト抑制のための一体成形化のニーズに加えて、同時に雪上車や自動二輪車の車体構成部品に比較して、はるかに高い強度と高い延性とを要求されている。
車両等の車体構成部品や懸架装置部品の製法としては、前述した展伸材の溶接、または鍛造のほか鋳造によるダイカスト法がある。ダイカスト法は、アルミニウム合金などの溶湯を金型に高速、高圧で金型キャビティに充填することで、寸法精度と鋳肌が良く、しかも薄肉として大量に得ることができることから、一体成形化のニーズに対しては好適な製法である。
ダイカスト法で製造されるアルミニウム合金鋳物としては、例えば、JIS規格 H 5302に定められた、化学成分でCu:0.6%以下、Si:9.0〜10.0%、Mg:0.4〜0.6%、Zn:0.5%以下、Fe:1.3%以下、Mn:0.3%以下、Ni:0.5%以下、Sn:0.1%以下、残部:Alとした、Al−Si−Mg系のアルミニウム合金ダイカスト(JIS記号:ADC3)がある。ADC3は、衝撃値と耐力が比較的高くまた耐食性も良いので、自動車用ホイルキャップなどに広く適用されている。
ところが、従来のADC3などからなるアルミニウム合金鋳物を、高強度(引張り強さ、0.2%耐力)や高延性(破断伸び)など高い機械的性質が必要とされる車両等の車体構成部品や懸架装置部品に適用しようとすると、鋳放しのままでは、それらの部品の要求特性(必要とされる機械的性質)を満足せず、鋳造後に溶体化処理を伴うT4、T6、T7などの熱処理によって機械的性質を改善する必要があった。一方、従来のアルミニウム合金鋳物は、鋳造時にガスを巻き込んでポロシティを生じやすいことから、機械的性質の向上を狙って溶体化処理を伴う熱処理を施すと、鋳造時に生じたポロシティからブリスター(ふくれ)が発生して逆に機械的性質を低下させてしまうことがあった。また、薄肉で複雑な形状の部品では熱処理の加熱冷却に伴う変形により部品の寸法精度が低下して、変形の矯正が必要な場合もあった。また、熱処理工程や熱処理に伴う変形を矯正するための工程の増加により製造コストが上昇するという問題もあった。このように、鋳放しのままでは勿論、鋳造後熱処理する場合であっても、従来のアルミニウム合金鋳物を車両等の車体構成部品や懸架装置部品に適用することは困難であった。
しかし最近は、真空ダイカスト法によりアルミニウム合金鋳物を鋳造することで、鋳造後に熱処理を施して機械的性質を向上することも可能になってきている。例えば、重量%でSi:9.5〜11.5%、Mg:0.3〜0.5%、Cu:0.1%以下、Fe:0.15%以下を含み、残部がアルミニウム及び不可避的不純物から成るアルミニウム合金を用い、ダイカスト用金型のキャビティ内の圧力を50hPa以下にしてダイカスト成形し、この成形体に展延性を付与する熱処理(溶体化処理、焼き入れ及び時効処理)を施すアルミニウム製品の製造方法の開示がある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1によれば、一般に強度や展延性に対する要求レベルが高いとされる自動車用シャシー部品などの要求品質、例えば引張り強さ290MPa以上、0.2%耐力200MPa以上、破断伸び8%以上といった品質を満足することが可能になるとしている。
アルミニウム合金鋳物は、前述のとおりアルミニウム合金溶湯を金型キャビティ内に高速、高圧で充填して得られるが、薄肉のため充填後の冷却速度が大きく、微細な結晶組織が得られやすい。このため、鋳造時に結晶粒の微細化剤の添加を行われなくても良いとされている。しかし一方では、結晶粒微細化剤を添加するものもある。例えば、AlとSiをベースとするダイカスト合金であって、重量%でSi:9.5〜11.5%、Mg:0.1〜0.5%、Mn:0.5〜0.8%、Fe:0.15%以下、Cu:0.03%以下、Zn:0.10%以下、Ti:0.15%以下を含み、残部:Al、及び微粒化剤としてSr:30〜300ppm(0.0030〜0.0300%)とするダイカスト合金の開示がある(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2によれば、Mnで成形特性を改善し、Srで共晶Siを微細化して破断強度を高くし、またCu、Feによる汚染を回避するためこれらを少なくすることで、自動車用ホイールのようなダイカスト品に求められる機械的特性や耐食性を良くし、また良好な鋳造性を得られるとしている。
また、重量%でSi:6.5〜10%、Mg:0.2〜0.5%、Fe、Cr、Mnの合計が0.5〜1.2%であって、含有重量%に基づき算出されるFe/(Mn+Cr)の値が1.3以下となるようにFe、Mn、Crの何れか1種以上を含んで、不純物:2.0%以下、残部:Alとし、またはさらにSr:0.0050〜0.0150%を含み、またはさらに不純物としてTiとBを含み、このうちTiは0.03〜0.15%とするダイカスト用アルミニウム合金の開示がある(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3によれば、強度が高くしかも靱性に優れるダイカスト用アルミニウム合金が得られるとしている。
さらに、重量比でCu:0.1%以下、Si:7.5〜10.0%、Mg:0.25〜0.6%、Fe:0.25%以下、Mn:0.5〜1.2%、またはさらにSr:0.01〜0.02%を含み、残部:Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いてダイカスト鋳造後に、T5熱処理を施す自動車部品の製造方法の開示がある(例えば、特許文献4参照)。この特許文献4によれば、Cu及びFeをできるだけ少なくすることで耐食性の問題を引き起こさないようにし、Mnを多くすることで耐力を増加させ、Srを添加することで共晶組織を微細化して共晶領域での破壊への抵抗力を増加させ、結果として伸びを向上させることができるとしている。また、この特許文献4によれば、熱処理としてコストの高い溶体化処理を必要とするT6熱処理ではなく、200℃以下で時効処理するT5熱処理のみでもって伸びを比較的低下させることなく耐力を伸ばすことができるので、特に自動車用クロスメンバとして要求される耐力と伸びを確保し、軽量化を図ることができるとしている。
特開2001−198659号公報 特開平8−41575号公報 特開2002−339030号公報 特開2002−105611号公報
一般的に、車両等の車体構成部品や懸架装置部品に要求される機械的性質、即ち要求特性としては、部品毎に異なるものの、例えば0.2%耐力で約140MPa以上、破断伸びで約5%以上が必要とされ、特に高強度と高延性を要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品にあっては、例えば0.2%耐力で約240MPa以上、破断伸びで約10%以上を要求される場合もある。従来のADC3などからなるアルミニウム合金ダイカストでは、鋳放しのままでは、上記の要求特性を満足せず、一方、鋳造後に熱処理を施せば、ブリスター(ふくれ)発生による機械的性質の低下、熱処理に伴う変形による寸法精度の低下、及び熱処理工程や熱処理に伴う変形の矯正工程の増加による製造コスト上昇という問題があった。特に雪上車や自動二輪車の車体構成部品では、熱処理を施した場合、機械的性質が上記要求特性に対し著しく過剰(過剰品質)となる反面、熱処理に伴うコスト増大を招くため、安価な雪上車や自動二輪車の車体構成部品として提供することは困難であった。
特許文献1に開示の製造方法によるアルミニウム合金鋳物は、TiやSrを含有しないので結晶粒の微細化の効果が少なく延性が不足するおそれがある。従って、特に高強度と高延性を要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品に適用するのは難かしい。一方で熱処理を必須としているため、熱処理や熱処理に伴う変形の矯正工程の増加によりコスト高となる。従って、安価に提供することを求められる雪上車や自動二輪車の車体構成部品に適用する場合は、熱処理により機械的性質が要求特性に対して著しく過剰となるうえに、製品が高価になるという問題がある。
また、特許文献2に開示のダイカスト合金は、Srを多量に含有させるため、鋳造時にポロシティを生じやすく、機械的性質を向上しようとして溶体化処理を伴う熱処理を施すと、ポロシティからブリスターが発生して逆に機械的性質を損なうおそれがあるばかりか、Srは高価なため多量に含有させると製造コストが増加して好ましくない。
また、特許文献3に開示のダイカスト用アルミニウム合金ではAl−Mn−Fe−Si系の化合物の形成に影響するFe、Mn及びCr量の関係を規定しているが、生成するAl−Mn−Fe−Si系の化合物が粗大になることがあり、車両等の車体構成部品や懸架装置部品に要求される機械的性質を満たさない場合がある。また、特許文献3には共晶Siの改良による靭性向上を狙って、好ましい構成例としてSrを0.0050〜0.0150wt%添加するとの開示があるが、Srを含有させる場合、その含有量が多いため、鋳造時にポロシティを生じやすく、機械的性質を向上しようとして溶体化処理を伴う熱処理を施すと、ポロシティからブリスターが発生して逆に機械的性質を低下するおそれがあり、またSrは高価なため多量に含有させると製造コストが増加して好ましくない。
また、特許文献4に開示のダイカスト鋳造による自動車部品の製造方法では、200℃以下の低温で時効処理するT5熱処理のみを施して低コスト化を狙ったものであるが、実施例によれば、得られる機械的性質は耐力184〜225MPa、伸び5.2〜6.6%程度にすぎない。特に高強度と高延性を要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品では、特許文献4の製法では機械的性質が十分とはいえない。一方、機械的性質の要求レベルが比較的低く、また安価に提供することを求められる雪上車や自動二輪車の車体構成部品では、特許文献4の製法では熱処理により過剰品質となるばかりか、低コストとはいえ熱処理工程(時効処理)を含むことから製品が高価になることは避けられず好ましくない。
特許文献4では共晶組織の微細化による伸びの向上を狙って、Srを重量比で0.01〜0.02%添加することが望ましいとしているが、Srを添加する場合、その含有量が多いため鋳造時にポロシティを生じやすく、機械的性質を向上しようとして溶体化処理を伴う熱処理を施すと、ポロシティからブリスターが発生して機械的性質を損なうおそれがあり、また高価なSrの多量添加は製造コストを増加するので好ましくない。
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたもので、一体成形のニーズに対応できるダイカスト法を用いて、軽量で安価であることを要求される自動車、自動二輪車、雪上車、小型船舶などの車両等の車体構成部品や懸架装置部品に好適な、高強度かつ高延性を有するアルミニウム合金鋳物及びその製造方法を提供することを目的としている。
本発明者らは、Al−Si−Mg系アルミニウム合金となる溶湯の組成を種々変えてダイカスト法で鋳造し、鋳放し(熱処理なし)、或いはT4、T5、及びT6などの熱処理を施して、組成、組織、及び鋳造条件が、引張り強さ、0.2%耐力、破断伸びに与える影響を鋭意研究した。その結果、組成として、Si、Mg、Fe、Mn、Ti、及びCrの含有量を最適化すること、及び組織中のAl−Mn−Fe−Si系の塊状の化合物であるスラッジ(以下、この塊状のAl−Mn−Fe−Si系化合物を、単に「スラッジ」という)の大きさを小さくする、或いはスラッジを無くすことによって、鋳物の金型への溶着が起こりにくく、高耐力、高延性など優れた機械的性質を有する車両等の車体構成部品や懸架装置部品として好適なアルミニウム合金鋳物が得られるとの知見を得た。さらに、アルミニウム合金鋳物の製造方法は、鋳造条件として金型への充填時間を短くすることで初晶α相の大きさをある値以下に抑制することにより、破断伸びが大きくなり、より延性の高いアルミニウム合金鋳物が得られることを見出して本発明に想到した。
即ち、本発明のアルミニウム合金鋳物は、重量比で、Si:7.0〜11.5%、Mg:0.6%以下、Fe:0.2%以下、Mn:0.2〜0.9%、Ti:0.02〜0.2%、Cr:0.15%以下、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数が1.9以下であって、組織中のAl−Mn−Fe−Si系の塊状の化合物(スラッジ)の円相当径が10μm以下であることを特徴とする。本発明のアルミニウム合金鋳物は上記の構成にくわえて、さらに重量比で、Sr:0.001〜0.005%を含有することが好ましい。
また、本発明のアルミニウム合金鋳物は、鋳放しでの、組織中の初晶α相のDAS2が12μm以下であることが好ましい。また、熱処理後の、組織中の共晶Siの円相当径が2μm以下であり、かつ共晶Siの円形度が70%以上であることが好ましい。
また、本発明のアルミニウム合金鋳物は、0.2%耐力(MPa)の3倍の数値と、破断伸び(%)の40倍の数値との合計を無次元数で表した強靭指数[3×0.2%耐力(MPa)+40×破断伸び(%)]の値が、熱処理を施さない場合で700以上、熱処理を施した場合で1000以上であることが好ましい。
本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法は、重量比で、Si:7.0〜11.5%、Mg:0.6%以下、Fe:0.2%以下、Mn:0.2〜0.9%、Ti:0.02〜0.2%、Cr:0.15%以下、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなり、(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数が1.9以下の溶湯を準備し、前記溶湯を射出スリーブの給湯口より射出スリーブに注入し、前記溶湯の金型キャビティへの充填前に金型キャビティ内を減圧し、続いて、射出スリーブに嵌合するプランジャチップを前進して射出を行うことで射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に充填する真空ダイカスト工法であって、前記金型キャビティへの前記溶湯の充填時間を60ms以下としたことを特徴とする。本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法は、前記溶湯にさらに重量比で0.001〜0.005%のSrを含有することが好ましい。
また、本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法は、特に高強度かつ高延性を要求される場合には、鋳造後に溶体化処理および/または人工時効処理する熱処理を施すことが好ましい。
次に本発明のアルミニウム合金鋳物での、組成、組織、強靭指数、製造方法等の限定理由を説明する。
(1)Si:7.0〜11.5%
Siは、湯流れ性などの鋳造性や延性に影響を及ぼす。7.0%未満では流動性が低く鋳造性が悪くなる。一方、11.5%を超えると靭性が著しく低下する。従って、Siは7.0〜11.5%、高い延性を要求される場合は、好ましくはSiは7.0%以上9.5%未満とする。
(2)Mg:0.6%以下
Mgは、必要に応じて含有させる元素である。Mgを含有させれば、Mg2Siを生じ、引張り強さと0.2%耐力を向上させる働きがある。この効果を得るには、Mgは0.1%以上含有することが好ましい。しかし、Mgは0.6%を超えて含有するとMg2Siが過剰となり、破断伸びが低下する。従って、Mgを含有させる場合は、Mgは0.6%以下とする。なお、Mgを含まない、即ちMgが0%でも、その他の化学成分を適切に含有してダイカスト法で鋳造すれば、鋳放しでも、さらにはT4熱処理やT6熱処理を施すことにより、後述する強靱指数を満足する場合がある。これはダイカスト法を用いることで、急冷凝固により組織が微細化されるためと考えられる。従って、本発明においては、Mgは0%を含むものとする。
(3)Fe:0.2%以下
Feは不可避的不純物である。Feは、0.2%を超えて含有すると、Al−Fe−Si系の針状の化合物を形成して延性の低下を招き、耐食性をも損う。従ってFeは0.2%以下とする。
(4)Mn:0.2〜0.9%
Mnは、Al−Fe−Si系の針状の化合物を、スラッジと称されるAl−Fe−Mn−Si系の塊状の化合物に変える効果があるため、Feによる延性の低下などの悪影響を緩和するとともに、鋳物と金型の溶着(焼きつき)、あるいは金型の溶損を防止する。特に鋳物と金型との溶着を抑えて離型性を改善する。これらの効果を得るためには、Mnを0.2%以上含有させる必要がある。一方、FeやCrの含有量にも影響されるが、Mnを0.9%を超えて含有すると、スラッジが粗大になり延性を損う。従って、Mnは0.2〜0.9%とする。
(5)Ti:0.02〜0.2%
Tiは、0.02%以上の含有で結晶粒を微細化し靭性を向上させる効果がある。一方、Tiは0.2%を超えて含有すると溶湯の粘性が大きくなり、鋳造時の湯流れ性を低下させる。従って、Tiは0.02〜0.2%とする。
(6)Cr:0.15%以下
Crは、結晶粒の微細化に効果がある。しかし、Crを0.15%を超えて含有すると粗大なスラッジの形成を助長し、この粗大スラッジがハードスポットとなって延性を損ねる。従って、Crは0.15%以下、好ましくは0.003〜0.15%とする。
(7)Sr:0.001〜0.005%
Srは、延性向上のために付加的に含有させることができる。Srを0.001%以上含めば、共晶Siを微細化させ、延性を向上させる効果がある。一方、Srは0.005%を超えて多量に含有すると、鋳造時にポロシティを生じやすく、鋳造後に溶体化処理を伴うT4熱処理やT6熱処理を施すと、ポロシティからブリスター(ふくれ)が発生しやすくなる。このため熱処理を施しても十分な機械的性質の向上が得られないおそれがある。また、Srを0.005%を超えて含有しても延性向上効果は飽和し、さらにSrは比較的高価であるため、必要以上に含有させては製造コスト高を招き好ましくない。従ってSrを含有させる場合、Srは0.001〜0.005%とするのが好ましい。
(8)(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数が1.9以下
Fe、Mn、及びCrの重量比の合計を、(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)として算出した無次元数は、アルミニウム合金鋳物の組織中へのスラッジの形成のし易さを現す指標である。以下、これをスラッジファクター(略して「SF値」)という。SF値が大きいほど晶出するスラッジの大きさ(サイズ)と数が増加する傾向にあることから、スラッジの大きさは、SF値を目安に制御することが可能である。具体的にはSF値が1.9を超えると溶湯の凝固時にスラッジが形成し易く、また粗大となってアルミニウム合金鋳物の延性を低下する。従ってSF値は1.9以下とし、好ましくは1.6以下とする。
(9)Al−Mn−Fe−Si系の化合物(スラッジ)の円相当径が10μm以下
Al−Mn−Fe−Si系の化合物であるスラッジは硬い粒子であり、組織中のスラッジが円相当径で10μmを超えて大きくなると、その大きなスラッジが破壊の起点となって、アルミニウム合金鋳物の延性を著しく損ねる。例えば、幾つかの小さなスラッジが分散して存在するより、1個の大きなスラッジが存在するほうがスラッジからの破壊の起点となりやすく延性低下を招きやすい。従って、スラッジの円相当径が10μm以下、好ましくは7μm以下、さらに好ましくは0μm、即ちスラッジ無しとする。本発明では、アルミニウム合金鋳物の任意の部位のミクロ組織を光学顕微鏡にて倍率400で観察し、スラッジが観察される5視野を抽出し、それぞれの視野について、さらに倍率1000にて光学顕微鏡写真を撮影して、それらのうち最も大きいスラッジの円相当径を求めた。なお、スラッジの円相当径(μm)とは、スラッジが真円でなくとも、スラッジの面積から、その面積と同じ面積に相当する円の直径に換算した値である。
(10)初晶α相のDAS2が12μm以下
初晶α相のDAS2(二次デンドライトアームスペーシング)は、初晶α相の大きさを表す指標である。鋳放し、即ち熱処理を施さない状態では、この値が小さいほど組織が微細であることを示し強度と延性とが高く機械的性質に優れる。組織中の初晶α相のDAS2が12μmを超えると破断伸びが低下するため12μm以下であることが好ましい。本発明のアルミニウム合金鋳物は、好ましくは鋳放しで初晶α相のDAS2が12μm以下としているので、熱処理せずとも高強度と高延性を有する。従って、一体成形化のニーズに応えて、かつ熱処理コスト等をかけずに安価な提供を求められる雪上車や自動二輪車の車体構成部品として最適である。
本発明におけるDAS2の値は、軽金属学会指定の交線法により測定されるものである。即ち粒状晶からなる方向性の少ない組織であって、しかも実質的に整列した2次アームを選ぶのが困難な組織に適用できる交線法(「アルミニウムのデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定法」、研究委員会、軽金属学会、1988年8月、研究部会報告書No.20、p.46〜52に開示される方法)によって算出した。即ち、ミクロ組織写真におけるα相粒境界間に線分を引き、以下の(1)式に従ってDAS2を求めた。
DAS2={L1/(N1−1)+L2/(N2−1)+…+Lm/(Nm−1)}/m…(1)
ここで、Liは測定しようとするα相粒子を通る線分の長さ、Niは測定しようとする線分とα相粒子の粒界との交点数、mは測定した線分の数である(ここで、i=1,2,…,m-1,m)。本発明では、アルミニウム合金鋳物の任意の部位3視野を、光学顕微鏡で倍率400にて撮影したミクロ組織について、交線数mを10として、各視野のDAS2を測定して、その平均値を求めた。
(11)共晶Siの円相当径が2μm以下であり、かつ共晶Siの円形度が70%以上
共晶Siとは共晶部に存在するSi粒子をいう。本発明のアルミニウム合金鋳物は、鋳放しで上述した組成と組織としたうえで、さらに適切な熱処理を施すことで、共晶Siの結晶粒、即ち円相当径を小さく、かつその円形度を大きくすることができる。具体的には、組織中の共晶Siの円相当径が2μm以下、かつ共晶Siの円形度が70%以上とすることで、0.2%耐力、引張り強さ、及び破断伸びが一層増加し、特に0.2%耐力と破断伸びから求められる強靱指数が大きくなり、高強度かつ高延性を有することから、はるかに高い機械的性質を要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品として最適である。共晶Siが円相当径で2μm以下、かつ円形度で70%以上のアルミニウム合金鋳物は、溶体化処理後、十分安定な状態まで自然時効処理するT4熱処理、または、溶体化処理後焼入れ後に人工時効処理するT6熱処理を施すことで得ることができる。
共晶Siの円相当径(μm)は、共晶Siの面積から、その面積と同じ面積に相当する円の直径に換算して求めた。また、共晶Siの円形度(%)は、[共晶Siの面積(μm2)/計測した共晶Siと同じ周囲長(μm)をもつ円の面積(μm2)]×100(%)として算出した。共晶Siの円形度(%)は、値が大きいほど共晶Siの形状が真円に近く、真円では100%であることを示す。本発明では、アルミニウム合金鋳物の任意の部位3視野を、光学顕微鏡で倍率400にて撮影したミクロ組織について、各視野の共晶Siを観察し、その円相当径と円形度とを算出し、各々の平均値を求めた。
(12)強靭指数[3×0.2%耐力(MPa)+40×破断伸び(%)]:熱処理を施さないで700以上、或いは熱処理を施して1000以上
車両等の車体構成部品や懸架装置部品は、強度と延性とに優れ、両者のバランスのとれた性能が要求される。本発明ではアルミニウム合金鋳物の強度と延性とを総合的に評価する指標として、0.2%耐力(MPa)の3倍の数値と、破断伸び(%)の40倍の数値とを合計した無次元合計数[3×0.2%耐力(MPa)+40×破断伸び(%)]を算出して強靭指数として表す。例えば、0.2%耐力が150MPaで、破断伸びが10%であれば、強靭指数は3×150+40×10=850となる。強靭指数が大きいほど、強度と延性とを総合した特性である靭性に優れることを示す。
鋳放しでの強靭指数が700以上のアルミニウム合金鋳物は高強度と高延性とを兼備し、即ち高靭性なので、一体成形化のニーズに応えて、かつ熱処理コスト等をかけずに安価な提供を求められる雪上車や自動二輪車の車体構成部品として最適である。一方、強靭指数が700未満では雪上車や自動二輪車の車体構成部品のうち適用できる部品が制限される。このため熱処理を施さない場合の強靭指数は700以上とすることが好ましく、800以上とすることがより好ましく、900以上とすることがさらに好ましい。
また強靭指数は熱処理を施すことで向上する。熱処理を施した後の強靭指数が1000以上のアルミニウム合金鋳物は、鋳放しに比べて、より高強度と高延性とを兼備して、より高靭性なので、はるかに高い機械的性質を要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品として最適である。一方、強靭指数が1000未満であると自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品のうち適用できる部品が制限される。このため熱処理を施した場合の強靭指数は1000以上とすることが好ましく、1100以上とすることがより好ましく、1200以上とすることがさらに好ましい。
(13)金型キャビティへの溶湯の充填時間:60ms以下
金型キャビティへの溶湯の充填時間が長くなると、溶湯が凝固に至るまでの時間が長くなり、粗大な初晶α相を生じ、初晶α相のDAS2が大きくなって、破断伸びを低下させる。充填時間は60msを越える程度から、上記の傾向が顕著となってくる。従って、好ましくは、金型キャビティへの溶湯の充填時間は60ms以下、より好ましくは45ms以下とする。なお、金型キャビティへの溶湯の充填時間は、プランジャチップによる射出速度を適宜制御することで調整する。
(14)溶体化処理
共晶温度直下の高温に到達後冷却する溶体化処理により、凝固過程で生じた化合物の多くがアルミ基地中に固溶し、また、板状または片状の共晶Siが塊状化して、共晶Siの結晶粒、即ち円相当径が小さく、かつその円形度が大きくなる。これによりアルミニウム合金鋳物の0.2%耐力や破断伸びなどの機械的性質が改善して靭性が向上する。
(15)人工時効処理
人工時効処理を施すことによりMg2Siなどの化合物を時効析出し、アルミニウム合金鋳物の引張強さや0.2%耐力などの強度を向上できる。
以上詳細に説明したとおり、本発明のアルミニウム合金鋳物及びその製造方法によれば、軽量で安価であることを要求される自動車、自動二輪車、雪上車、小型船舶などの車両等の車体構成部品や懸架装置部品に好適な、高強度かつ高延性を有するアルミニウム合金鋳物が得られる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
(実施の形態1)
表1に示すほかは残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる化学組成(重量%)を有するAl−Si−Mg系のアルミニウム合金を溶製して、真空ダイカスト法で鋳造して供試材を作製した。溶製に際しては、酸化膜除去と水素除去を目的としてアルゴンガスバブリングによる脱ガス処理を行った。表1で、実施例1〜16は本発明の組成と組織の範囲内の、比較例1〜17は本発明の組成と組織の範囲外の供試材を示す。なお、表1でSF値はスラッジファクター((Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数)を示す。
鋳造条件としては、型締め力350トン、プランジャチップ直径80mm、減圧バルブなど金型キャビティ内を減圧する減圧手段を有するダイカストマシンを用い、160mm×250mm×3mmの平板が形成され、予め離型剤を塗布して型締めした金型キャビティを減圧して、アルミニウム合金溶湯を充填する真空ダイカスト法で行った。具体的には、表1に示す組成で溶製した720℃のアルミニウム合金溶湯を、射出スリーブの給湯口より射出スリーブに充填率30%で注入し、次いで、射出スリーブに嵌合するプランジャチップを前進して、プランジャチップの平均速度0.3m/sで低速射出を、続いて、プランジャチップの平均速度2.3m/sで高速射出を行って射出スリーブ内から金型キャビティ内に、充填時間45msで充填した。金型キャビティ内の空気、溶湯、及び離型剤等から発生するガスの鋳物への巻き込みを抑制するため、低速射出での充填の途中、プランジャチップが射出スリーブの給湯口を塞いだ時点から減圧バルブなど減圧手段を作動させて金型キャビティ内の減圧を開始し、金型キャビティ内の圧力を絶対圧4kPa(大気圧基準で−97kPa)とした後、高速射出直前に減圧バルブを閉じて金型キャビティ内を減圧状態に保持したまま鋳造した。
次に、鋳造して得られたまま(鋳放し、即ち熱処理などを施さない状態)の平板から引張試験片を採取し、引張り強さ、0.2%耐力、及び破断伸びを測定した。また、引張試験において破断した試験片の破断部分近傍のミクロ組織からスラッジの円相当径を求めた。なお、鋳造時に平板の離型性も調べた。
表1の供試材のスラッジの円相当径(μm)、引張り強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)、強靱指数[3×0.2%耐力(MPa)+40×破断伸び(%)]、及び離型性[良好を(○)、悪いを(×)とする]の調査、測定に基づく評価結果を表2に示す。
表1及び表2から、SF値が1.9以下で、延性に影響を及ぼすスラッジの円相当径が9.8μm以下、または円相当径0μm、即ちスラッジが存在しない組織を有する実施例1〜16は、破断伸びは6%以上である。一方、比較例1〜5及び比較例11〜15は、スラッジの円相当径が16.9μm以上で、破断伸びは4%未満で、実施例1〜16に比べ延性が低い。図1に実施例13の、図2に比較例5のミクロ組織の光学顕微鏡写真(何れも倍率1000)を示す。図1及び図2で、中央部の灰色を呈した台形状の粒子がスラッジ11であり、その円相当径は、図1(実施例13)で9.8μm、図2(比較例5)で18.6μmであった。
Mn含有量が0.02〜0.19%の比較例6〜10は、SF値が1.9以下で、スラッジは存在しないものの、離型性が悪く、生産性に問題があることが分かった。
実施例1〜16の破断伸びの最小値は6.0%であるが、実際の製品として適用する場合には、鋳放しでの破断伸びは高い方が信頼性が向上して好ましい。実施例2〜7、9、10、12、及び13のように、Siを9.5%未満とすると、破断伸びは約7%以上となる。さらに延性を改善するには、共晶Siを微細化することが望ましく、共晶Siの微細化を狙ってSrを含有させることが好ましい。実施例14〜16、及び比較例16、17は、Siが9.5%未満で、Srを含まない実施例12に、種々の量のSrを含有させたものである。破断伸びはSrを0.001%以上含有することにより凡そ7%から9%へと約2%上昇して信頼性が向上することが分かる。しかし、比較例16、17のように、Srが0.005%を超えると、実施例14〜16に比べて、破断伸びはむしろ低下し、その上昇効果は飽和する傾向がみられた。また、Srは比較的高価なため、必要以上に含有させては製造コスト高を招く。従ってSrを含有させる場合は0.005%を上限とすることで十分である。
組成及びSF値が本発明の範囲内で、スラッジの円相当径が10μm以下の実施例1〜16は、鋳放しで0.2%耐力145.0〜156.3MPa、破断伸び6.0〜11.7%、強靭指数693〜903である。一方、Mn含有量の少ない比較例6〜10、及びSr含有量の多い比較例16、17を除く比較例1〜17は0.2%耐力150.8〜160.5MPa、破断伸び2.1〜3.5%、強靭指数541〜613である。このように実施例1〜16は、比較例1〜17に対して、特に破断伸びが高く、強靭指数が大きくて高靭性であることが分かる。一般的な車両等の車体構成部品や懸架装置部品への要求特性としては、部品毎に異なるものの、例えば0.2%耐力で約140MPa以上、破断伸びで約5%以上が必要とされ、強靭指数としては約620以上が必要となる。従って、実施例1〜16のアルミニウム合金鋳物は、コスト増を招く熱処理を施さなくとも高強度かつ高延性を有して高靭性なことから、安価であることを要求される雪上車や自動二輪車の車体構成部品として適用可能である。
(実施の形態2)
鋳造時の金型キャビティへの溶湯の充填時間の影響を確認した実施の形態について説明する。実施の形態1の実施例2、5、12、及び15と同一の化学組成(重量%)を有するアルミニウム合金を溶製して、実施の形態1と同一の平板を形成した金型キャビティを用いて、真空ダイカスト法で鋳造して供試材を作製した。表3に示す実施例21〜44の供試材は、実施の形態1の実施例と対応して、実施例21〜32は実施例5と、実施例33〜36は実施例12と、実施例37〜40は実施例15と、及び実施例41〜44は実施例2と、それぞれ同一の組成からなる供試材である。なお溶製は実施の形態1と同じ条件で行った。
鋳造に際しては、低速射出時のプランジャチップの平均速度、及び高速射出時のプランジャチップの平均速度を様々に変えて、金型キャビティへの溶湯の充填時間を15msから75msの間で変化させて鋳造した。充填時間以外の鋳造条件は実施の形態1と同様とした。
得られた鋳放しの供試材から引張試験片を採取して、引張り強さ、0.2%耐力、及び破断伸びを測定し、強靭指数を求めた。また引張試験において破断した試験片の破断部分近傍のミクロ組織の光学顕微鏡写真を撮影して、前述した軽金属学会指定の交線法によって初晶α相のDAS2を求めた。表4に実施例21〜44の鋳造時の金型キャビティへの溶湯の充填時間、初晶α相のDAS2、及び鋳放しでの機械的性質を示した。また、図3に実施例21の、図4に実施例32のミクロ組織の光学顕微鏡写真(何れも倍率400)を示す。図3及び図4で白色の粒子が初晶α相12を示す。実施例21〜44で観察されたスラッジの円相当径は、9.2μm以下で、何れも10μm以下であった。
表4より、金型キャビティへの充填時間が長いほど初晶α相のDAS2が大きくなる傾向があり、同時に破断伸びは小さくなる傾向があることが分かる。また、初晶α相のDAS2が12μm以下の実施例21〜30、33〜35、37〜39、及び41〜43は、破断伸びが7.1%以上である。一方、DAS2が13.6μm以上と大きな実施例31、32、36、40、及び44は、破断伸びが7%に満たない。初晶α相のサイズの大小は、図3(実施例21)と図4(実施例32)とのミクロ組織の光学顕微鏡写真の比較からも明らかである。熱処理を施さなくてもより良好な延性を得るためには、好ましくは、金型キャビティへの充填時間を60ms以下として、初晶α相のDAS2を12μm以下とすればよいことが分かった。
(実施の形態3)
実施の形態1で得られた鋳放しで高強度かつ高延性を有するアルミニウム合金鋳物を、より一層高強度かつ高延性とするために、T4、T5、及びT6熱処理を施した実施の形態について説明する。
実施の形態1の実施例3と同一の化学組成(重量%)としたアルミニウム合金を溶製して、実施の形態1と同一の平板を形成した金型キャビティを用いて、真空ダイカスト法で鋳造して、複数の供試材を作製した。なお溶製及び鋳造は実施の形態1と同じ条件で行った。
得られた鋳放しの供試材に対し、表5に示す各種条件で熱処理を施した。なお、表5で、「F」は鋳造のままの鋳放しで熱処理を施さないもの、「T4」は溶体化処理後十分安定な状態まで自然時効処理したもの、「T5」は鋳造後室温まで冷却した鋳物を人工時効処理したもの、「T6」は溶体化処理後焼入れ後に人工時効処理したものを示す。なお、熱処理の温度は平板の温度を示し、溶体化処理は480〜540℃で0.02時間(約1分)〜2時間の範囲で変えて行い、人工時効処理は140℃で3時間として行った。なお、熱処理を施さない実施例72は、熱処理の効果を確認するための供試材で、実施の形態1の実施例3と同一の供試材である。
次に、鋳放し、及び熱処理した供試材からミクロ組織観察用の試料を作製し、この試料から共晶Siの円相当径(μm)と共晶Siの円形度(%)を測定した。また実施の形態1と同様に引張試験片を採取して、引張り強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)を測定し、強靱指数を求めた。その結果を熱処理条件とともに表5に示す。なお、何れの供試材も、スラッジの円相当径0μm、即ちスラッジは観察されなかった。
表5から次のことが分かる。
(実施例51〜65)
実施例51〜65は、共晶Siの円相当径1.56〜1.97μm、共晶Siの円形度70〜76%で、引張り強さ230.9MPa以上、0.2%耐力116.8MPa以上、破断伸び10.4%以上、強靭指数1102以上を示し、鋳放しの実施例72に比べて、特に共晶Siの円形度が約50%以上大きく、破断伸びが高く、強靭指数が大きい。従って、実施例51〜65は、0.2%耐力と破断伸びのバランスがとれて、高強度かつ高延性を有して、自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品などの、特に高強度、高延性が要求される部品への適用が可能である。
(実施例66)
実施例66は、共晶Siが、円相当径2.27μm、円形度76%で、引張り強さ298.0MPa、0.2%耐力224.1MPa、破断伸び9.4%、強靭指数1048を示す。実施例66は、前述の実施例51〜65に比べ、共晶Siの円相当径が大きく、破断伸びが低く、強靭指数が比較的小さい。共晶Siの円相当径が大きく、破断伸びが低いのは、T6熱処理における溶体化処理温度が比較的高く、かつその保持時間が長く、共晶Siが粗大化したためと考えられる。実施例66は、自動車用の懸架装置部品であるアーム、リンクなどの、特に高強度、高延性が要求される部品に適用することは難しいものの、自動車や自動二輪車の車体構成部品、自動二輪車の懸架装置部品としては適用可能である。
(実施例67)
実施例67は、共晶Siが、円相当径1.49μm、円形度70%で、引張り強さ280.5MPa、0.2%耐力185.6MPa、破断伸び11.9%、強靭指数1033を示す。実施例67は、前述の実施例51〜65のうち、実施例67と同じ溶体化処理温度520℃でT6熱処理を施した実施例60〜62に比べ、0.2%耐力が低く、強靭指数が比較的小さい。0.2%耐力が低いのは、T6熱処理における溶体化処理での保持時間が短く、0.2%耐力の向上に寄与するMg2Siの析出が十分でないためと考えられる。実施例67は、自動車用の懸架装置部品であるアーム、リンクなどの、特に高強度、高延性が要求される部品に適用することは難しいものの、自動車や自動二輪車の車体構成部品、自動二輪車の懸架装置部品としては適用可能である。
(実施例68〜71)
実施例68〜71は、共晶Siが、円相当径1.12〜1.56μm、円形度25〜68%で、引張り強さ232.0〜334.2MPa、0.2%耐力120.0〜197.3MPa、破断伸び7.5〜15.6%、強靭指数888〜998を示す。実施例68〜71は、前述の実施例51〜67に比べ、共晶Siの円形度が小さく、強靭指数が比較的小さい。共晶Siの円形度が小さいのは、T6熱処理における溶体化処理温度が比較的低く、また、その保持時間が比較的短い(実施例68〜70)ため、或いは人工時効処理のみのT5熱処理(実施例71)によるため、共晶Siの円形度の改善がさほど進んでいないためと考えられる。実施例68〜71は、自動車用の懸架装置部品であるアーム、リンクなどの、特に高強度、高延性が要求される部品に適用することは難しいものの、自動車や自動二輪車の車体構成部品としては適用可能である。
共晶Siの円相当径と共晶Siの円形度とは、何れも、溶体化処理温度が高く、溶体化処理の保持時間が長いほど大きくなる傾向がある。これはSiの拡散が溶体化により促進され、共晶Si粒子が大きく丸くなるためと考えられる。ここで共晶Siの円相当径と円形度と、溶体化処理の温度と保持時間の関係について以下説明する。
まず、共晶Siの円相当径については、溶体化処理を高温で長時間保持すると共晶Siが粗大化して、かえって破断伸びが低下する。このことは、例えば、540℃で1.0時間の溶体化処理をした実施例65が、共晶Siの円相当径が1.90μmと小さく、かつ破断伸びが10.4%と大きいのに対し、540℃で2.0時間と長時間の溶体化処理をした実施例66は、共晶Siの円相当径が2.27μmと大きくなり、破断伸びが9.4%と小さくなっていることからも分かる。
次に、共晶Siの円形度については、(1)同じ保持時間であれば、溶体化処理温度が高くなると円形度は向上し、(2)同程度の円形度に到達するに要する溶体化処理の保持時間は、その処理温度が高くなると短くなる。このことは、まず、(1)については、例えば、溶体化処理を、540℃で0.02時間(約1分)の短時間保持とした実施例63は、共晶Siの円形度が75%と大きく、共晶Siが十分に丸くなり、強靭指数も1116と大きいのに対し、500℃で0.02時間(約1分)の短時間保持とした実施例70は、共晶Siの円形度が65%と丸みが若干少なく、強靭指数も996と小さいことから分かる。次に(2)については、溶体化処理を、540℃で0.02時間(約1分)の短時間保持とした、前述(1)の実施例63は、共晶Siの円形度75%、強靭指数1116と大きいのに対し、480℃で0.5時間(約30分)保持した実施例69は、共晶Siの円形度が68%と丸みが若干少なく、強靭指数も998と小さいことから分かる。
実施例51〜71から、熱処理を施す場合は、熱処理温度と保持時間とを適切に制御して、共晶Siの円相当径を2μm以下とし、同時に共晶Siの円形度を70%以上とすることで、引張り強さ、0.2%耐力、及び破断伸びが向上し、強靱指数が大きくなり、靭性が改善されることが確認された。また、実施例51〜71には、熱処理でのブリスター発生による機械的性質の低下はみられなかった。これは真空ダイカスト法を用いて、金型キャビティ内を減圧して鋳造することで、金型キャビティ内の空気、溶湯、及び離型剤等から発生してアルミニウム合金鋳物に巻き込んでポロシティの要因となるガスを減少させた効果によると考えられる。
実施例51〜71から、溶体化処理については、その処理温度と保持時間として、480℃なら1時間以上、500℃なら0.5時間以上、520℃以上なら0.02時間(約1分)以上とすることで、好ましい強靭指数1000以上を確保できることが分かる。特に高強度と高延性を要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品では、部品毎にその要求特性は異なるものの、例えば0.2%耐力で約240MPa以上、破断伸びで約10%以上、強靭指数として約1120以上と高い特性を要求される場合もある。実施例51〜67のアルミニウム合金鋳物は、強靭指数1000以上と大きく高靭性なので、高い強度と高い延性とを要求される自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品への適用が可能となる。
(実施の形態4)
Mgの含有による影響を確認した実施の形態について説明する。Mg含有量を除き、実施の形態1の実施例3と同一の化学組成(重量%)とし、表6に示すように、Mgを凡そ0.1%、0.2%、0.4%、0.60%、0.65%含有するものと、Mgを含有しないアルミニウム合金を溶製し、複数の平板を鋳造した。なお溶製及び鋳造は実施の形態1と同じ条件で行った。
鋳造して得られた平板に対し、表6に示す各種条件で熱処理を施した。次に、熱処理を施した平板からミクロ組織観察用の試料を作製し、この試料から共晶Siの円相当径(μm)と共晶Siの円形度(%)を測定した。また実施の形態1と同様にして引張り強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)、破断伸び(%)を測定し、強靱指数も求めた。その結果を表6に示す。なお、何れの供試材も、スラッジの円相当径0μm、即ちスラッジは観察されなかった。
表6から次のことが分かる。
(実施例81〜88)
実施例81〜88は、共晶Siが、円相当径1.88μm以下、円形度74%以上で、引張り強さ188.1〜326.0MPa、0.2%耐力82.3〜276.4MPa、破断伸び7.3〜26.1%、強靭指数1109〜1301を示す。実施例81〜88から、熱処理条件が同一なら、Mg含有量の増加にともなって、引張り強さ及び0.2%耐力は高くなり、一方、破断伸びは一旦高くなったのち低下する傾向にあることが分かる。実施例81〜88は、強靭指数1100以上であり、実施例81〜88は、高強度かつ高延性を有し、自動車の車体構成部品、自動二輪車や自動車の懸架装置部品などの、特に高強度、高延性が要求される部品に適用可能である。
(実施例89〜94)
実施例89〜94は、共晶Siが、円相当径1.88μm以下、円形度74%以上で、共晶Siの円相当径と円形度は実施例81〜88と同程度であるが、引張り強さ179.5〜277.9MPa、0.2%耐力80.1〜158.2MPa、破断伸び12.7〜19.2%を示し、強靭指数が903〜1073と比較的小さい。これは、実施例89〜93は、Mgを含有しないか、含有量しても0.20%以下と少ないために、強度や耐力の向上に寄与するMg2Siの析出が少なく、0.2%耐力が小さいためと考えられる。一方、これとは逆に、Mg含有量が0.59%と多く、T4熱処理(溶体化処理後、自然時効処理)した実施例94は、Mg2Siの析出が多く、破断伸びが小さいためと考えられる。実施例89〜94は、自動車用の懸架装置部品であるアーム、リンクなどの、特に高強度、高延性が要求される部品に適用することは難しいものの、自動車や自動二輪車の車体構成部品、自動二輪車の懸架装置部品としては適用可能である。
(実施例95〜99)
表6で、熱処理欄に(F)で示す熱処理を施さない実施例95〜99は、鋳放しのため共晶Siの円形度が24〜25%と小さいく、引張り強さ219.4〜347.7MPa、0.2%耐力107.3〜181.0MPa、破断伸び7.0〜9.6%で、強靭指数674〜850と比較的小さい。Mg含有量が多くなるに従い引張り強さ、及び0.2%耐力は高くなり、一方、破断伸びは、Mg含有量が0.4%以上になると減少し、これにともなって、強靭指数もMg含有量の増加とともに大きくなるが、Mg含有量が0.59%では小さくなる。これは、Mg含有量の増加にともなってMg2Siが多くなるためである。実施例95〜99は、コスト増を招く熱処理を施さなくとも高強度と高延性を兼備して高靭性なことから、安価であることを要求される雪上車や自動二輪車の車体構成部品として好適である。
(比較例81、82)
Mg含有量が0.65%の比較例81及び82は、破断伸びがそれぞれ、1.5、及び1.9と極めて小さい。これはMg含有量が0.6%を超えると、鋳放しかT6熱処理を施すかとは無関係に、Mg2Siが著しく増加して、延性が極端に低下するためと考えられる。
表6から、本発明のアルミニウム合金鋳物は、実施例89、92、93、及び95のようにMgを含有しなくても、鋳放しで、さらには熱処理により、高強度と高延性を有し、高靭性とすることができる。これはダイカスト法により組織の微細化が図られて、引張り強さと0.2%耐力とが向上するためと考えられる。また、Mgを含有する場合、その含有量の増加にともなって、また溶体化処理や人工時効処理などの熱処理に応じて、引張り強さ、0.2%耐力、及び破断伸びは大きくなるが、Mg含有量が0.4%程度になると破断伸びの増加はそれ以上促進されず、0.6%程度ではむしろ破断伸びは低下し、Mg含有量が0.6%を超えると破断伸びは著しく低下し、溶体化処理を施しても破断伸びはほとんど改善されないことが分かった。Mgを含有する場合、その含有量は0.6%以下とすべきである。
(実施例101)
図5に模式的に示す雪上車50の車体構成部品であるバルクヘッド51を、本発明の組成範囲となる、重量比で、Si:9.2%、Mg:0.3%、Fe:0.12%、Mn:0.5%、Cr:0.01%、Ti:0.15%、Sr:0.0012%、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金を溶製して、真空ダイカスト法で鋳造した。鋳造に際しては、型締め力1350トン、直径90mmのプランジャチップにリングチップを付加した、減圧バルブ付きのダイカストマシンを用い、バルクヘッド51となるキャビティが形成された金型に離型剤を塗布して型締め後、上記組成となるアルミニウム合金溶湯を720℃の温度で射出スリーブ内に注入し、次いで、低速射出時のプランジャチップの平均速度を0.54m/s、高速射出時のプランジャチップの平均速度を1.8m/sとして、金型キャビティ内に、充填時間75msで充填した。充填時には減圧バルブを作動させ、金型キャビティ内の圧力を絶対圧4kPa(大気圧基準で−97kPa)として、金型キャビティ内の空気、溶湯、及び離型剤等から発生するガスを減少させた。次に、鋳造して得られた鋳放しのバルクヘッド51の素材から引張り試験片を切り出し、組織観察するとともに機械的性質を調べた。その結果、スラッジの円相当径6.5μm、初晶α相のDAS2が10μm、引張り強さ293MPa、0.2%耐力153MPa、破断伸び8%、強靭指数779であった。実施例101の本発明のアルミニウム合金鋳物からなるバルクヘッド51は、熱処理を施さなくとも、高強度かつ高延性を有し、優れた機械的性質を備えていることが確認され、一体成形のニーズに応えて、加工及び溶接等の組み立てコストのかかる展伸材製のバルクヘッドからの代替として十分に適用可能なことが分かった。
(実施例102)
図6に模式的に示す自動二輪車60の車体構成部品であるシートレール61dを、本発明の組成範囲となる、重量比で、Si:9.4%、Mg:0.2%、Fe:0.13%、Mn:0.5%、Cr:0.01%、Ti:0.10%、Sr:0.0025%、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金を溶製して、真空ダイカスト法で鋳造した。鋳造に際しては、型締め力1350トン、直径90mmのプランジャチップにリングチップを付加した、減圧バルブ付きのダイカストマシンを用い、シートレール61dとなるキャビティが形成された金型に離型剤を塗布して型締め後、上記組成となるアルミニウム合金溶湯を720℃の温度で射出スリーブ内に注入し、次いで、低速射出時のプランジャチップの平均速度を0.54m/s、高速射出時のプランジャチップの平均速度を1.8m/sとして、金型キャビティ内に、充填時間60msで充填した。充填時には減圧バルブを作動させ、金型キャビティ内の圧力を絶対圧4kPa(大気圧基準で−97kPa)として、金型キャビティ内の空気、溶湯、及び離型剤等から発生するガスを減少させた。次に、鋳造後のシートレール61dに、T5熱処理に相当する180℃で30分の焼付け塗装を施した。得られたシートレール61dの素材から引張り試験片を切り出し、組織観察するとともに機械的性質を調べた。その結果、T5熱処理相当の焼付け塗装によるブリスター(ふくれ)の発生はなく、スラッジの円相当径6.0μm、初晶α相のDAS2が10μm、引張り強さ299MPa、0.2%耐力180MPa、破断伸び7%、強靭指数820であった。実施例102の本発明のアルミニウム合金鋳物からなるシートレール61dは、高強度かつ高延性を有し、優れた機械的性質を具備していることが確認され、一体成形のニーズに応えて、加工及び溶接等の組み立てコストのかかる展伸材製のシートレールの代替として十分に適用可能なことが分かった。
(実施例103)
図7(b)に模式的に示す自動車の車体構成部品である車体フレーム71を構成する継手72を、本発明の組成範囲となる、重量比で、Si:8.9%、Mg:0.4%、Fe:0.12%、Mn:0.7%、Cr:0.01%、Ti:0.05%、Sr:0.0040%、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる化学組成を有するアルミニウム合金を溶製して、真空ダイカスト法で鋳造した。鋳造に際しては、型締め力800トン、直径90mmのプランジャチップにリングチップを付加した、減圧バルブ付きのダイカストマシンを用い、継手72となるキャビティが形成された金型に離型剤を塗布して型締め後、上記組成となるアルミニウム合金溶湯を720℃の温度で射出スリーブ内に注入し、次いで、低速射出時のプランジャチップの平均速度を0.54m/s、高速射出時のプランジャチップの平均速度を1.8m/sとして、金型キャビティ内に、充填時間60msで充填した。充填時には減圧バルブを作動させ、金型キャビティ内の圧力を絶対圧4kPa(大気圧基準で−97kPa)として、金型キャビティ内の空気、溶湯、及び離型剤等から発生するガスを減少させた。次に、鋳造後の継手72に、500℃で30分保持後急冷する溶体化処理の後、140℃×5時間保持する人工時効処理を行うT6熱処理を施した。得られた継手72の素材から引張り試験片を切り出し、組織観察するとともに機械的性質を調べた。その結果、T6熱処理によるブリスターの発生はなく、スラッジの円相当径6.0μm、共晶Siの円相当径1.35μm、共晶Siの円形度73%、引張り強さ281MPa、0.2%耐力180MPa、破断伸び15%で、強靭指数1140であった。実施例103の本発明のアルミニウム合金鋳物からなる継手72は、高強度かつ高延性を有し、優れた機械的性質を具備することが確認され、一体成形と軽量化のニーズに応えて、展伸材製または鍛造材製の継手の代替として十分に適用可能なことが分かった。
(実施例104)
図8に模式的に示す自動車の懸架装置(サスペンション)部品であるアーム81を、本発明の組成範囲となる、重量比で、Si:9.2%、Mg:0.35%、Fe:0.16%、Mn:0.5%、Cr:0.05%、Ti:0.15%、Sr:0.0035%、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、SF値1.31となるアルミニウム合金を溶製して、充填時間を50msとした以外は実施例101と同じ条件で、アーム81となるキャビティが形成された金型に充填する真空ダイカスト法で鋳造した。次に、鋳造後のアーム81に、520℃で30分保持後急冷する溶体化処理の後、180℃×8時間保持する人工時効処理を行うT6熱処理を施した。得られたアーム81の素材から引張り試験片を切り出し、組織観察するとともに機械的性質を調べた。その結果、T6熱処理によるブリスターの発生はなく、スラッジの円相当径2.0μm、共晶Siの円相当径1.75μm、共晶Siの円形度75%、引張り強さ290MPa、0.2%耐力242MPa、破断伸び11%で、強靭指数1166であった。実施例104の本発明のアルミニウム合金鋳物からなるアーム81は、高強度かつ高延性を有し、優れた機械的性質を備えていることが確認され、一体成形と軽量化のニーズに応えて、展伸材製または鍛造材製のアームの代替として十分に適用可能なことが分かった。
以上、雪上車、自動二輪車、及び自動車の車体構成部品や懸架装置部品について説明したが、高強度かつ高延性を有し、機械的性質に優れた本発明のアルミニウム合金鋳物は、これら以外にも、水上バイクやレジャーボートなどの小型船舶、鉄道車両、セスナ機やヘリコプターなどの小型航空機等の車体構成部品や懸架装置部品にも使用可能である。
実施例13のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。 比較例5のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。 実施例21のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。 実施例32のミクロ組織を示す光学顕微鏡写真である。 雪上車の車体構成部品を示す模式図である。 自動二輪車の車体構成部品と懸架装置部品とを示す模式図である。 自動車の車体構成部品を示し、(a)は車体フレームの、(b)は(a)の車体フレームを構成する継手を示す模式図である。 自動車の懸架装置部品であるアームを示す模式図である。
符号の説明
11:スラッジ
12:初晶α相
50:雪上車
51:バルクヘッド
52:サブフレーム
53:リアパネル
60:自動二輪車
61a:ヘッドパイプ
61b:タンクレール
61c:サイドフレーム
61d:シートレール
62:スイングアーム
71:車体フレーム
72:継手
81:アーム

Claims (9)

  1. 重量比で、Si:7.0〜11.5%、Mg:0.6%以下、Fe:0.2%以下、Mn:0.2〜0.9%、Ti:0.02〜0.2%、Cr:0.15%以下、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数が1.9以下であって、組織中のAl−Mn−Fe−Si系の化合物の円相当径が10μm以下であることを特徴とするアルミニウム合金鋳物。
  2. 前記アルミニウム合金鋳物において、さらに重量比で、Sr:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金鋳物。
  3. 前記アルミニウム合金鋳物は、組織中の初晶α相のDAS2が12μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金鋳物。
  4. 前記アルミニウム合金鋳物は、組織中の共晶Siの円相当径が2μm以下であり、かつ共晶Siの円形度が70%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金鋳物。
  5. 前記アルミニウム合金鋳物は、0.2%耐力(MPa)の3倍の数値と、破断伸び(%)の40倍の数値との合計を無次元数で表した強靭指数が、熱処理を施さないで700以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のアルミニウム合金鋳物。
  6. 前記アルミニウム合金鋳物は、熱処理を施した後の前記強靭指数が1000以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のアルミニウム合金鋳物。
  7. 重量比で、Si:7.0〜11.5%、Mg:0.6%以下、Fe:0.2%以下、Mn:0.2〜0.9%、Ti:0.02〜0.2%、Cr:0.15%以下、残部実質的にAl及び不可避的不純物からなり、(Fe%+2×Mn%+3×Cr%)の合計の無次元数が1.9以下の溶湯を準備し、前記溶湯を射出スリーブの給湯口より射出スリーブに注入し、前記溶湯の金型キャビティへの充填前に金型キャビティ内を減圧し、続いて、射出スリーブに嵌合するプランジャチップを前進して射出を行うことで、射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に充填する真空ダイカスト工法であって、前記金型キャビティへの前記溶湯の充填時間を60ms以下としたことを特徴とするアルミニウム合金鋳物の製造方法。
  8. 前記溶湯に、さらに重量比で、Sr:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法。
  9. 前記アルミニウム合金鋳物の製造方法において、鋳造後に溶体化処理および/または人工時効処理する熱処理を施すことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法。
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