本発明は、カラーディスプレイなどに用いられる表示素子に好適に用いられる有機材料、およびこれを用いた自発光型の表示素子に関する。
近年、マルチメディア指向の商品を初めとし、人間と機械とのインターフェースの重要性が高まってきている。人間がより快適に効率良く機械操作するためには、操作される機械からの情報を誤りなく、簡潔に、そして瞬時に、充分な量を取り出す必要があり、その為にディスプレイを初めとする様々な表示素子について研究が行われている。
また、機械の小型化に伴い、表示素子の小型化、薄型化に対する要求も日々、高まっているのが現状である。例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、ノート型ワードプロセッサなどの、表示素子一体型であるラップトップ型情報処理機器の小型化には目を見張る進歩があり、それに伴い、その表示素子である液晶ディスプレイに関しての技術革新も素晴らしいものがある。液晶ディスプレイは、様々な製品のインターフェースとして用いられており、ラップトップ型情報処理機器はもちろんのこと、小型テレビや時計、電卓を初めとし、我々の日常使用する製品に多く用いられている。
ところが、液晶ディスプレイは、自発光性でないためバックライトを必要とし、このバックライト駆動に液晶を駆動するよりも電力を必要する。また、視野角が狭いため、大型ディスプレイ等の大型表示素子には適していない。さらに、液晶分子の配向状態による表示方法なので、視野角の中においても、角度によりコントラストが変化してしまう。しかも、液晶は基底状態における分子のコンフォメーションの変化を利用して表示を行っているので、ダイナミックレンジが広くとれない。これは、液晶ディスプレイが動画表示には向かない理由の一つになっている。
これに対し、自発光性表示素子は、プラズマ表示素子、無機電界発光素子、有機電界発光素子等が研究されている。
また、有機電界発光素子については、有機半導体と組み合わせた研究も精力的に行われており、発明はもちろん、表示素子として当概発明を用いるのであれば、この有機半導体についても特許請求項の範囲に含まれる。
プラズマ表示素子は低圧ガス中でのプラズマ発光を表示に用いたもので、大型化、大容量化に適しているものの、薄型化、コストの面での問題を抱えている。また、駆動に高電圧の交流バイアスを必要とし、携帯用デバイスには適していない。
無機電界発光素子は、緑色発光ディスプレイ等が商品化されたが、プラズマ表示素子と同様に、交流バイアス駆動であり駆動には数百V必要であり、ユーザーに受け入れられなかった。しかし、技術的な発展により、今日ではカラーディスプレイ表示に必要なRGB三原色の発光には成功しているが、青色発光材料が高輝度、長寿命で発光可能なものが無く、また、無機材料のために、分子設計などによる発光波長等の制御は困難である。
2000年には、無機電界発光素子を用いたフルカラーディスプレイが発表されたが、色変換方式を用いており、理想的な独立三原色駆動方式でのデバイス化は難しい。
一方、有機化合物による電界発光現象は、1960年代前半にHelfrichらにより強く蛍光を発生するアントラセン単結晶への、キャリア注入による発光現象が発見されて以来、長い期間、研究されてきたが、低輝度、単色で、しかも単結晶であった為、有機材料へのキャリア注入という基礎的研究として行われていた。
しかし、1978年にEastman Kodak社のTangらが低電圧駆動、高輝度発光が可能なアモルファス発光層を有する積層構造の有機電界発光素子を発表して以来、各方面でRGB三原色の発光、安定性、輝度上昇、積層構造、作製法等の研究開発が盛んに行なわれている。C. Adachi 、S. Tokito 、T. Tsutsui、S. Saito等の Japanese Journal of Applied Physics第27巻2号L269〜L271頁(1988年)掲載の研究報告に記載されているように、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料の3層構造(ダブルヘテロ構造の有機EL素子)が開発され、更に、C. W. Tang、S. A. VanSlyke、C. H. Chen等の Journal of Applied Physics 第65巻9号3610〜3616頁(1989年)掲載の研究報告に記載されているように、電子輸送材料中に発光材料を含ませた素子構造などが開発されてきた。
また、有機材料の特徴である分子設計等により様々な新規材料が発明され、直流低電圧駆動、薄型、自発光性等の優れた特徴を有する有機電界発光素子のカラーディスプレイへの応用研究も盛んに行われ始めている。
図4には、このような表示素子(有機電界発光素子)の一構成例を示す。この図に示す表示素子1は、例えばガラス等からなる透明な基板2上に設けられている。この表示素子1は、基板2上に設けられたITO(Indium Tin Oxide:透明電極)からなる陽極3、この陽極3上に設けられた有機層4、さらにこの上部に設けられた陰極5とで構成されている。有機層4は、陽極側から、例えば正孔注入層4a、正孔輸送層4bおよび電子輸送性の発光層4cを順次積層させた構成となっている。このように構成された表示素子1では、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが発光層4cにて再結合する際に生じる光が基板2側から取り出される。
またこのような構成の他にも、基板2側から順に、陰極5、有機層4、陽極3を順次積層した構成や、さらには上方に位置する電極(上部電極)を透明材料で構成することで、基板2と反対側から光を取り出すようにした、いわゆる上面発光型の表示素子もある。そして特に、基板上に薄膜トランジスタ(thin film transistor:以下TFTと記す)を設けて成るアクティブマトリックス型の表示装置においては、TFTが形成された基板上に上面発光型の表示素子を設けた、いわゆる上面発光素子構造とすることが、発光部の開口率を向上させる上で有利になる。
このような上面発光素子構造の表示装置において、上部電極が陰極である場合、この上部電極は、例えばLiF、Li2Oや、CsO等の金属フッ化物或いは酸化物層を用いて注入電極が構成される。また、これらの注入電極上にMgAg層を積層させる場合もある。
また、上面発光素子構造では、陽極としてITO等の透明電極を用いることで両サイドからの光の取り出しも可能であるが、一般的には不透明電極が用いられ、キャビティ構造を形成する。キャビティ構造の有機層膜厚は、発光波長によって規定され、多重干渉の計算から導くことが可能である。上面発光素子構造では、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能である。
ところで、有機電界発光素子の実用化については、主にカーオーディオ、携帯電話、デジタルカメラを中心に年々、参入メーカーが増えてきているのが実状である。
用いている有機材料も、年々改良が加えられ、蛍光発光材料でも外部量子効率が5%を超えるものも報告され、りん光材料に至っては20%近い値も報告されている。一般的に内部量子効率は外部量子効率の約5倍近いと見積もることが出来、りん光材料に至っては限界に近い値になってきている。
しかしながら、効率が改善されているのに比べ、信頼性の一つの指針である連続駆動寿命に至っては、発光色にもよるが、初期輝度が数百〜数千cd/m2からの半減寿命が1〜4万時間程度と開きが大きく、思ったほど延びていないのが実状である。
この事が、有機電界発光素子が次世代テレビの有力候補と言われながら、なかなか大型化ができず、また寿命が厳しく要求される製品として実用化に至っていない要因の一つに挙げられる。
有機電界発光素子の寿命は、一般的には注入された電荷によって決まっており、この事は駆動における初期輝度を落すことで解決することはできる。しかしながら、初期輝度を落すことは、実用化におけるアプリケーションが制限され、有機電界発光素子の潜在的な可能性を自ら否定することになり、次世代テレビの実現は不可能になる。
この問題を解決するためには、用いる有機材料をより耐久性があり、電荷を効率良く輸送する発光材料または周辺材料を用いることが手段の一つとして挙げられる。
ここで重要なことは、これらの有機電界発光素子に用いられているOPC(Organic PhotoConductor=有機光伝導体)材料や有機半導体材料に用いられている有機導電性材料の正孔ドリフト移動度はせいぜい10-6〜10-3cm2V-1s-1程度であり、導電体というよりはむしろ絶縁体に近いことである。
この様な絶縁体に近い有機材料を用い、有機電界発光素子が、大量の電流を流すことが可能である理由は、伝導電流が空間電荷制限電流(SCLC)機構によって説明できることによる。
有機薄膜中を流れる電流の大きさを決める主要因子は、薄膜中の平衡キャリア密度ではなく、キャリア移動度である。SCLCはチャイルド則に従い、J=9/8・(εε0・μV2)/L3で記述される。チャイルド則ではキャリア移動度μのみが関与し、従って、μが大きくなれば、Jを大きくすることができる。Jが大きくなるということは、駆動電圧を下げることができ、高効率の素子を得ることができる。
キャリア移動度μとしてアモルファス有機色素薄膜の典型値であるμ=10-3を用いると厚さL=100nmの薄膜に1.0Vの電圧を印可した場合、約300mAcm-2もの大きな電流が流れることになる。実際の有機電界発光素子は、有機層の膜厚を合計数十nm程度にすることで電荷の注入効率を上げ、実用に耐えるデバイスを作製している。
従って、キャリア(電荷)を効率良く輸送することのできる材料を用いることは、有機電界発光素子の特性を改善し、長寿命化を達成するには極めて重要なことである。
材料そのもののキャリア移動度を改善することも手段の一つであるが、キャリアのホッピングサイトを別途ドーピング等の手法を用いて形成することでも改善することは可能である。
また、一方の手段としては、素子に対しての負荷を減らすことにより、長寿命化を達成することも可能である。その為には、駆動電流を変えずに輝度を上げる、即ち効率を改善するか、或いは駆動電流を下げても同様の輝度を得ることができる素子構成を実現する必要がある。
駆動電流を変えずに輝度を上げる、即ち効率を改善する手法には、発光材料にりん光発光材料を用いることが精力的に研究開発されているが、原理的に青色の色度の良いりん光発光材料を開発することは極めて困難であり、現実的ではない。
駆動電流を下げても同様の輝度が得られる手法としては、複数の有機発光素子を重ねて配置したスタック型のマルチフォトンエミッション素子(MPE素子)が提案されている。この場合、例えば、複数の有機発光素子のユニットが中間導電層を介して電気的に直列に接合されている素子が提案されている(下記特許文献1参照)。公報では、複数の有機発光素子が中間導電層を介して電気的に直列に接合されていることを特徴とする素子について述べられている。
しかしながら、中間導電層を介して有機発光素子を重ねた素子構成では、複数の素子を平面的に配列して表示装置を構成する場合の中間導電層からの漏れ電流が懸念され、特にパッシブマトリックスにとっては、画像表示を行う上では致命的な欠陥となりかねない。そこで、図5に示すように、陽極3と陰極5との間に、少なくとも発光層4cを有する有機層からなる複数の発光ユニット4-1,4-2,…を、絶縁性の電荷発生層6を介して重ねて配置したMPE素子(表示素子1’)の構成が提案されている。
ここで、電荷発生層6とは、電圧印加時において、電荷発生層6の陰極5側に配置された発光ユニット4-2に対して正孔を注入する一方、電荷発生層6の陽極3側に配置された発光ユニット4-1に対して電子を注入する役割を果たす層であり、酸化バナジウム(V2O5)や7酸化レニウム(Re2O7)のような金属酸化物を用いて構成されている。
また、このような電荷発生層6から陽極3側の発光ユニット4への電子注入効率を上げるために、「その場反応生成層」となる電子注入層7を電荷発光層6の陽極3側に設けることが好ましい。このような「その場反応生成層」となる電子注入層7としては、例えばバソクプロイン(BCP)と金属セシウム(Cs)との混合層や、(8−キノリノラト)リチウム錯体とアルミニウムとの積層膜が用いられる。
以上のような電荷発生層6を介して発光ユニット4-1,4-2,…を積層させたスタック型の有機電界発光素子では、2つの発光ユニットを積層した場合には、理想的には発光効率[lm/W]は変ること無しに輝度[cd/A]を2倍に、3つの発光ユニットを積層した場合には、理想的には[lm/W]は変ること無しに[cd/A]を3倍にすることが可能であるとされている(以上、下記特許文献2,3参照)。
そして、このようなスタック型の有機電界発光素子においては、キャリア移動度の高い有機材料と共に、電荷発生層を構成する材料においての電荷注入効率の向上が図られる有機材料が求められている。
このような中、正孔注入層に、金属フタロシアニンなどのポルフィリン化合物を用いた構成の有機電界発光素子が提案された(下記特許文献4参照)。またこの他にも、発光材料としてフタロシアニン化合物を用いた構成(下記特許文献5参照)や、電子輸送材料としてフタロシアニンなどのポルフィリン化合物を用いた構成(下記特許文献6参照)も提案されている。
特開平11−329748号公報
特開2003−45676号公報
特開2003−272860号公報
特開昭63−295695号公報
特開平7−288184号公報
特開平9−3447号公報
ところで、有機電界発光素子や有機半導体に用いられている電荷輸送層には、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。一般的に、有機電界発光素子にいては、これらの電荷輸送層におけるキャリア移動度を上げることで発光効率が改善されて低電圧駆動が可能になる。一方、発光層については、ホスト材料とゲスト材料との組み合わせが重要であり、発光に関わる生成した励起子を閉じ込めるためには、必ずしも電荷輸送性のみに着目して移動度を上げれば発光効率が改善されるというものではなく、正孔と電子とのバランスが重要である。
有機電界発光素子の開発経緯が、OPC材料を用いることから始まっているように、正孔注入材料、正孔輸送材料に関しては、様々なバリエーションや特徴を持った材料が多くあるのに対し電子輸送材料、電子注入材料の種類は少なく、開発が遅れているのが現状である。しかしながら、正孔注入材料、正孔輸送材料の移動度を高くすることは、有機電界発光素子の低電圧駆動に繋がる重要な改善項目である。例えば、上記特許文献4では、銅フタロシアニン(CuPc)が正孔注入材料として機能することが示されている。しかしながら、特開平8−199161には、定電流駆動において500時間後の電圧が7Vから11Vへと著しい増加が認められており,このような電圧上昇が課題となっている。本発明の一部は、この様な問題を考えて成されたものである。
また、上記特許文献2,3に開示されているスタック型の有機電界発光素子では、図5に示した電荷発生層6から発光ユニット4-1への電子注入効率を上げるために、例えばバソクプロイン(BCP)と金属セシウム(Cs)との混合層や、(8−キノリノラト)リチウム錯体とアルミニウムとの積層膜からなる「その場反応生成層(電子注入層7)」を電荷発光層6の陽極3側に設ける構成が開示されている。しかしながら、これらの材料によって構成される電子注入層7は、層を構成するそれぞれの材料の化学量論比が重要であり、このバランスが崩れると層として不安定になると考えられる。
例えば、BCPは錯形成能に富み、フリーな成分が合った場合には、周辺材料と錯体を形成する可能性が大きく、素子の安定性といった点を考慮すれば用いるのには困難である。加えて、BCPを用いた素子では、耐環境性に対して信頼性が乏しい事も問題点として考えられる。
そして、このようなスタック型の有機電界発光素子においては、上記特許文献2,3に開示されているように、V2O5やRe2O7のような金属酸化物を用いて電荷発生層6を構成した場合、一般的なAlq3の様な電子輸送層を直接、電荷発生層6にコンタクトすることにより注入される電子の効率は極めて低い。そして、スタック型の有機電界発光素子においては、電荷発生層6から発光ユニット4-1への電子の注入、および発光ユニット4-2への正孔の注入が効率良く行われることが、長寿命化において極めて重要なポイントとなる。
そこで本発明の目的は、長寿命化に効果があり、効率も向上することができる素子構成に必要な、キャリア移動度の高い有機材料を提供することであり、また繰り返し型(スタック型)素子を構成する上で極めて重要な、電荷発生層を構成することができる性質を持つ材料を提供すること、さらにはこの材料を用いることで長時間の安定した発光を与えることが可能な表示素子を提供することを目的としている。
以上のような目的を達成するための本発明の表示素子用有機材料は、下記一般式(1)で示される。
ただし、一般式(1)中において、R1〜R8はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン化合物基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基であり、隣接するRm(m=1〜8)は環状構造を通じて互いに結合しても良い。X1〜X8はそれぞれ独立に炭素もしくは窒素原子であり少なくとも一つは窒素原子から選ばれる。Y1〜Y4はそれぞれ独立に炭素もしくは窒素原子である。Mtは水素二原子、銅、亜鉛、鉄、コバルト、もしくはニッケルから選ばれる。
尚、この表示素子用有機材料を、陰極と陽極との間に少なくとも有機発光層を含む発光ユニットを狭持してなる表示素子において、発光ユニットの一部に用いる場合には、一般式(1)におけるR1〜R8うちの一つ以上が電子吸引性の置換基から選ばれることとする。電子吸引性の置換基としては、シアノ基、フッ素化合物基、またはメトキシ基が好ましく用いられる。
そして本発明の第1の表示素子は、陰極と陽極との間に、少なくとも有機発光層を含む発光ユニットを狭持してなり、この発光ユニットが一般式(1)で示される有機材料を含む層を少なくとも一層用いて構成されていることを特徴としている。尚、一般式(1)におけるR1〜R8うちの一つ以上が電子吸引性の置換基から選ばれることとする。
このような一般式(1)に示される構成のアザフタロシアニン化合物は、キャリア移動度が非常に良好である。
このため、上記一般式(1)に示される有機材料は、陰極−陽極間に発光ユニットとして有機発光層や電荷輸送層を狭持してなる表示素子において、電荷輸送層として好適に用いられる。また、骨格、特に側鎖の性質により、一般式(1)の有機材料の特性は異なるが、本有機材料の多くは正孔輸送特性に優れ、多くは電荷輸送層のうちの正孔注入層または正孔輸送層として優れた性質を有する。つまり、フタロシアニン骨格を分子内に有するため、分子が三次元状に重なるスタッキング(柱状配列)あるいはネマティック構造(平面方向にランダムにスタッキング)を取り得る。そして特に本発明のアザフタロシアニン化合物は、一般式(1)中のR1〜R8のうち、互いに結合する部位を除いた位置を、電子吸引性の置換基とすることにより、柱状配列を制御する分子間相互作用を調整することが可能であり、キャリア移動度をさらに高めることができる。
さらに本発明の第2の表示素子は、陰極と陽極との間に、電荷発生層を介して発光ユニットが複数積層されており、特に電荷発生層が下記一般式(2)で示される有機材料を用いて構成されていることを特徴としている。
尚、一般式(2)におけるR1〜R8、X1〜X8,Y1〜Y4、およびMtは、一般式(1)で定義したと同様である。ただし、R1〜R8は、少なくとも一つが電子吸引性の置換基であることが好ましいが、これに限定されることはない。
このような、一般式(2)の有機材料は、陰極−陽極間に有機材料からなる複数の発光ユニットを電荷発生層を介して積層させたスタック型の表示素子において、非常に安定で電荷の注入効率に優れた電荷発生層を構成できることがわかった。つまり、本発明の有機材料は、フタロシアニン骨格を分子内に有するため、分子が三次元状に重なるスタッキング(柱状配列)あるいはネマティック構造(平面方向にランダムにスタッキング)を取り得る。このため、電場印加下では、形成された電荷が容易に分子間で移動でき、これにより有効な電荷発生層として機能すると考えられる。そして、X1〜X8の窒素部位が電荷発生を司る部位ともなっているため、分子骨格内において、その数や配置を適宜に調整することによって、素子に応じた所望の電荷発生層を形成させることができる。
また上述したように、一般式(2)の有機材料の多くは、主に正孔輸送性能を持つ。そして、その骨格によっては、分子内キャリアは正孔のみである場合も示唆される。このため、この有機材料を用いて構成された電荷発生層を狭持する状態で発光ユニットを積層させた場合でも、これらの光ユニット間で発光に寄与しない電荷の漏れや、生成した励起子からのエネルギ拡散を生じさせることが無い。したがって、重ね合わせた光ユニットを、効率的にかつ効果的に独立して機能させてそれぞれを発光させることができる。これにより、スタック型の表示素子における低電圧駆動が可能になる。
以上説明したように本発明の一般式(1)に示す有機材料は、キャリア移動度(特に正孔輸送性)に優れていることから、このような有機材料を用いた発光ユニットを陰極−陽極間に狭持させた表示素子を構成することにより、以降に表示素子の実施例でも示すように、発光効率が改善されて低電圧駆動が可能になる。具体的には、従来と遜色の無い有機電界発光素子を作製することができ、駆動電圧は一般的な正孔注入材料を用いた時と比較して、実用領域で1V以上の低電圧化が可能になり、表示素子としての消費電力の低減も行うことが出来た。また低電圧駆動が可能となったことにより、このような有機材料を用いた発光ユニットを陰極−陽極間に狭持させた表示素子の長寿命化を図ることが可能になる。
また、陰極−陽極間に発光ユニットとて有機発光層や電荷輸送層を狭持してなるスタック型の表示素子における電荷輸送層として一般式(2)の有機材料を用いることにより、上述したように、スタック型の表示素子における低電圧駆動が可能になる。
以下、本発明の実施の形態を、表示素子用有機材料、合成方法、表示素子の順に説明する。
<表示素子用有機材料>
本発明の表示素子用有機材料(以下、単に有機材料と記す)は、上記一般式(1)または一般式(2)に示されるフタロシアニン骨格を有する有機化合物である。上述した一般式(1)中におけるR1〜R8は、上述した置換基の中でも、互いに結合する部位を除いた位置が、電子吸引性の置換基であることが好ましい。ここで電子吸引性の置換基とは、アリール核から電子を引き抜く効果を示す置換基であり、一般にハメット則における置換基定数(σ+)が指標となる。
本化合物では原子Xに対してメタ位の置換基効果,すなわちメタ位の求電子置換基定数σm +が正の値を持つ置換基が配置することが好ましい。なお,代表的なメタ位の求電子置換基定数σm +は,例えば「有機電子論解説(第4版),東京化学同人,1992年,291ページ」にある数値を用いることができる。そのような置換基としては、ハロゲン化合物基、カルボニル基、カルボニルエステル基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、もしくはアルコキシ基が挙げられる。
このような電子吸引性の置換基の中でも、シアノ基、フッ素化合物基(ハロゲン化合物基)、メトキシ基(アルコキシ基)が、さらに好ましく用いられる。このうち、フッ素化合物基の具体例としては、フッ素の他に,トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
このように一般式(1)および一般式(2)における有機材料において、アザフタロシアニン骨格に上述したような電子吸引性の置換基を導入することによって、柱状配列を制御する分子間相互作用を調整することが可能となる。このため、さらにキャリア移動度を高めることが可能になる。またこの効果は、上記置換基としてシアノ基、フッ素化合物基、メトキシ基を用いることでさらに顕著になる。
下記表1〜表6には、上記一般式(1)および一般式(2)で表される本発明の有機材料のさらに代表的な構造を示すが、本発明の有機材料はこれらの分子骨格に限定されるものではない。尚、これらの表1〜表6に示す構造のうちの全てが一般式(2)で表される有機材料であり、一般式(2)のR1〜R8うちの一つ以上が電子吸引性の置換基から選ばれる構造が特に一般式(1)の化合物として分類される。また、構造式(1)-4に代表して示される置換基は非環状の炭化水素基の分岐構造を示す。
<合成方法>
上記に示されたアザフタロシアニン類の合成は公知の方法としてあるフタロシアニン類の合成方法を応用することによって得ることができる。フタロシアニン類の代表的な方法について列記すれば,
1)無水フタル酸やフタルイミドを尿素の存在下に200〜300℃で加熱する方法
2)フタロニトリルをアンモニアや触媒と共に150〜250℃で加熱する方法
3)1,3−ジイミノイソインドリンを150〜200℃で12時間程度加熱する方法
などが挙げられるが、上記の化合物群におけるアリール部位に適切な窒素で置き換えることによってアザフタロシアニンを得ることができる(例えば,特公平6−99432)。
また,アザフタロシアニンの金属誘導体における中心金属(Mt)が取りうる元素種にはLi、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。これらの金属誘導体を得るには上記に示した反応において、対応する金属酸化物、金属水酸化物、もしくは金属ハロゲン化物などを共存させることなどより得ることができる。
尚、本発明の有機材料がアザフタロシアニンの金属誘導体である場合の中心金属(Mt)は、Fe、Co、Ni、Cu、Znである。このため、上記下反応にはFe、Co、Ni、Cu、Zn等の、それぞれのハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等を共存させる。さらに具体的には、塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。
本発明のアザフタロシアニン骨格を有する有機材料は、表示素子、特に、有機電界発光素子の有機層を構成する材料として用いられるものであり、有機電界発光素子の製造プロセスに供する前に純度を高めておくことが好ましく、該純度が95%以上、より好ましくは99%以上とするのがよい。かかる高純度の有機化合物を得る方法としては有機化合物の合成後の精製である再結晶法、再沈殿法、もしくはシリカやアルミナを用いたカラム精製のほかに、昇華精製やゾーンメルト法による公知の高純度化方法を用いることができる。
また、これらの精製方法を繰り返し行うことや異なる精製法を組み合わせて行うことで本発明における有機発光材料中の未反応物、反応副生成物、触媒残渣、もしくは残存溶媒などの混合物を低減することができ、その結果、より良いデバイス特性の優れた有機電界発光素子を得ることが可能となる。
さらに本化合物は、光や酸素といった外因から以下に掲げるa)〜c)の保管方法をとることによって、その酸化、分解からの劣化反応を抑制し、特にこの有機発光材料を用いて構成される有機電界発光素子において、より優れた発光特性をもたらすことだけでなく、製造装置の負荷の軽減などに効果を発揮する。
a)有機発光材料を合成した後、速やかに冷所に静置させる。その保管温度は−100℃から100℃の範囲が好ましく、より好ましくは−50℃から50℃の温度範囲で保管させる。
b)有機発光材料を合成した後、速やかに遮光性を有する容器に保管する。
c)有機発光材料を合成した後、合成した有機発光材料を窒素、二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で保管する。
<表示素子−1>
次に、本発明の表示素子用有機材料を用いた第1の表示素子の実施形態を図1に基づいて詳細に説明する。
この図に示す表示素子10は、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に重ねて設けられた有機材料層からなる発光ユニット14、この発光ユニット14上に設けられた陰極15を備えた有機電界発光素子である。
以下の説明においては、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子とが発光ユニット14内で結合する際に生じた発光とを、基板2と反対側の陰極15側から取り出す上面発光方式の表示素子の構成を説明する。
先ず、表示素子10が設けられる基板12は、ガラスのような透明基板や、シリコン基板、さらにはフィルム状のフレキシブル基板等の中から適宜選択して用いられることとする。また、この表示素子10を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、基板12として、画素毎にTFTを設けてなるTFT基板が用いられる。この場合、この表示装置は、上面発光方式の表示素子10をTFTを用いて駆動する構造となる。
そして、この基板12上に下部電極として設けられる陽極13は、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いることができる。
表示素子10が上面発光方式の場合は、陽極13を高反射率材料で構成することで、干渉効果及び高反射率効果で外部への光取り出し効率を改善することが可能であり、この様な電極材料には、例えばAl、Ag等を主成分とする電極を用いることが好ましい。これらの高反射率材料層上に、例えばITOのような仕事関数が大きい透明電極材料層を設けることで電荷注入効率を高めることも可能である。
尚、この表示素子10を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陽極13は、TFTが設けられている画素毎にパターニングされていることとする。そして、陽極13の上層には、ここでの図示を省略した絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13表面を露出させていることとする。
また、発光ユニット14は、陽極13側から順に、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c及び電子輸送層14dを積層してなる。これらの各層は、例えば真空蒸着法や、例えばスピンコート法などの他の方法によって形成された有機層からなる。そして、これらの層14a〜14dの何れかに、本発明の一般式(1)を用いて説明した有機材料が用いられている。
そして特に、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bの少なくとも一方が、上記の一般式(1)を用いて示される有機材料を用いて構成されていることが好ましい。この場合、一般式(1)の有機材料の単一材料からなる層として正孔注入層14aまたは正孔輸送層14bが構成されるか、または、一般式(1)の有機材料と、ベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、およびヒドラゾン誘導体等の例えば三級アミン骨格を有する材料のうちから少なくとも1種類の材料を選択して用いた混合層として正孔注入層14aや正孔輸送層14bが構成される。尚、正孔注入層14aや正孔輸送層14bを混合層とする場合には、一般式(1)の有機材料と、他の材料とを共蒸着することによってこれらの層が形成される。
そして、等の例えば三級アミン骨格を有する材料を共蒸着して用いることにより、表示素子10の駆動電圧を下げることも可能であり、厚膜化した素子を構成することも可能である。この厚膜化が可能な点は、非発光点による欠陥、ショート等を防ぐことができる点で極めて有利であり、パッシブ素子、アクティブ素子のどの場合に於いても、信頼性の高い素子を構成することができる。
また、発光層14cは、微量分子の共蒸着を行うことで構成される場合が多く、例えば、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素、トリフェニルアミン誘導体等の有機物質を微量含む有機薄膜として構成される。特に正孔輸送の特徴を持つ三級アミンを分子構造中に有する発光中心は、分子間相互作用が小さく、濃度消光しにくい特徴を有するものであれば、発光層14cへの高濃度のドーピングが可能になり、最適なドーパントの1つとして機能する。
以上の各有機層、例えば正孔注入層14a、正孔輸送層14bは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。
さらに、各層14a〜14dが他の要件を備えることは、これを妨げず、例えば発光層14cが電子輸送層14dを兼ねた電子輸送性発光層であることも可能であり、発光層14cは、正孔輸送性の発光層14cであっても良く、また、各層が積層構造になることも可能である。例えば発光層14cが、さらに青色発光部と緑色発光部と赤色発光部から形成される白色発光素子であっても良い。
次に、陰極15は、陽極13側から順に第1層15a、第2層15b、場合によっては第3層15cを積層させた3層構造で構成されている。
第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料として、例えばリチウム(Li)の酸化物であるLi2Oや炭酸化物であるLi2SiO3、セシウム(Cs)の炭酸化物であるCs2CO3、さらにはこれらの酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層15aはこのような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム(Li),セシウム(Cs)等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属のフッ化物、酸化物等を、単体でまたはこれらの金属およびフッ化物、酸化物の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
また、第2層15bは、MgAg等のアルカリ土類金属で構成される電極或いはAl等の電極で構成される。上面発光素子の様に半透過性電極で陰極15を構成する場合には、薄膜のMgAg電極やCa電極を用いることで光を取り出すことが可能である。光透過性を有しかつ導電性が良好な材料で構成することで、この表示素子10が、特に陽極13と陰極15との間で発光光を共振させて取り出すキャビティ構造で構成される上面発光素子の場合には、例えばMg−Agのような半透過性反射材料を用いて第2層15bを構成する。これにより、この第2層15bの界面と、光反射性を有する陽極13の界面で発光を反射させてキャビティ効果を得る。
さらに第3層15cは、電極の劣化抑制のために透明なランタノイド系酸化物を設けることで、発光を取り出すこともできる封止電極として形成することも可能である。尚、この表示素子10が、基板12側から発光光を取り出す「透過型」である場合、第3層15cとしてAuGeやAu、Pt等の封止電極を付けても良い。
尚、以上の第1層15a、第2層15b、および第3層15cは、真空蒸着法、スパッタリング法、さらにはプラズマCVD法などの手法によって形成される。また、この表示素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、ここでの図示を省略した陽極13の周縁を覆う絶縁膜および発光ユニット14の積層膜によって、陽極13に対して絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に共通電極として用いても良い。
また、ここに示した陰極15の電極構造は3層構造である。しかしながら、陰極15は、陰極15を構成する各層の機能分離を行った際に必要な積層構造であれば、第2層15bのみで構成したり、第1層15aと第2層15bとの間にさらにITOなどの透明電極を形成したりすることも可能であり、作製されるデバイスの構造に最適な組み合わせ、積層構造を取れば良いことは言うまでもない。
以上のような構成の表示素子10においては、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bの少なくとも一方が、上記一般式(1)で示される有機材料を用いて構成されているため、正孔注入層14aや正孔輸送層14bの正孔輸送性の向上を図ることが可能になる。
そして特に、一般式(1)の有機材料において、置換部位の一つ以上が電子吸引性の置換基となっているため、有機材料における柱状配列を制御する分子間相互作用を調整することが可能となってキャリア移動度を高められ、発光効率と寿命特性の向上を図ることが可能になる。
<表示素子−2>
次に、本発明の表示素子用有機材料を用いた第2の表示素子の実施形態を図2に基づいて詳細に説明する。尚、図1に示す表示素子と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を行う。
この図に示す表示素子11は、発光ユニットを積層してなるスタック型の表示素子11であり、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に重ねて設けられた複数の発光ユニット14-1、14-2、…(ここでは2個)、最上層の発光ユニット14-2上に設けられた陰極15、さらには発光ユニット14-1,14-2間に設けられた電荷発生層16を備えている。
このような構成の表示素子11において基板12、陽極13、陰極15は、第1実施形態の表示素子10と同一のものが用いられる。
また、各発光ユニット14-1、14-2は、第1実施形態の表示素子10における発光ユニット14と同一に、すなわち一般式(1)で示される有機材料を用いた正孔注入層14aや正孔輸送層14bを設けて構成されても良い。ただし、以上の各発光ユニット14-1、14-2は、全く同一の構造でも良いが、他の構造にすることも可能である。例えば、発光ユニット14-1を橙色発光素子用の有機層構造、発光ユニット14-2を青緑色発光素子用の有機層構造として形成することにより、発光色は白色となる。
そして、発光ユニット14-1と発光ユニット14-2との間に設けられた電荷発生層16に、本発明の一般式(2)の有機材料が用いられている。
ここで、電荷発生層16は、例えば陽極13側から順に、界面層16aと真性電荷発生層16bとを積層させた構造となっていることが好ましい。尚、この界面層16aは、陽極13に接して設けられた発光ユニット14-1に対して陰極として作用することになる。このため、以下においては、この界面層16aを中間陰極層16aと記す。
このうち、この中間陰極層16aは、アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の少なくとも一方で構成されていることが好ましい。中間陰極層16aを構成するアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物としては、一般的な酸化物及び複合酸化物が用いられ、具体的にはメタ硼酸化物、テトラ硼酸化物、ゲルマン酸化物、モリブデン酸化物、ニオブ酸化物、珪酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物、バナジン酸化物、タングステン酸化物、ジルコン酸化物、炭酸化物、蓚酸化物、亜クロム酸化物、クロム酸化物、重クロム酸化物、フェライト、亜セレン酸化物、セレン酸化物、スズ酸化物、亜テルル酸化物、テルル酸化物、ビスマス酸化物、テトラホウ酸化物、メタホウ酸化物の内から少なくとも1種類以上選ばれる。
この中でも特に、中間陰極層16aは、Li2SiO3からなることが好ましい。
このように、中間陰極層16aを構成する材料としてアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の少なくとも一方を含んでいることにより、電荷発生層16から陽極13側の発光ユニット14-1への電子の注入効率が向上する。そして特に、電荷発生層16における中間陰極層16aを構成するアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物と言った材料は、成膜段階から安定的な材料として供給される。このため、これを用いた中間陰極層16a、すなわち荷電発生層15の安定化が図られる。中間陰極層16aが、を構成する材料としてアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の単一材料によって構成されるため、また、特許文献3に示されているように、従来のバソクプロイン(BCP)+Cs、Liq+Alと言った複数材料からなる中間陰極層16a(中間電子注入層)と比較して、プロセス上、また、製品の歩留まりを考えても有利である。
そして、発光ユニット14-2に接して設けられた真性電荷発生層16bとして、本発明の一般式(2)の有機材料が好ましく用いられる。この場合、真性電荷発生層16bは、一般式(2)の有機材料のみで構成されて良い。
そして、以上の中間陰極層16aと真性電荷発生層16bとは、必ずしも明確に分離されている構成に限定されることはなく、中間陰極層16a内に真性電荷発生層16bを構成する材料が含有されていたり、またこの逆であっても良い。
尚、電荷発生層16は、上述した中間陰極層16aと真性電荷発生層16bとの2層構造に限定されることはなく、必要に応じて3層以上の積層構造であっても良い。ただし、この電荷発生層16には、本発明の一般式(2)の有機材料が含有されていることとし、好ましい形態としては、陰極15側に配置された発光ユニット14-2に接する層が、本発明の一般式(2)の有機材料を用いて構成されていることとする。
そして、電荷発生層16のうちの真性電荷発生層16bが上記一般式(2)で示される有機材料を用いて構成されている場合、この真性電荷発生層16bが正孔注入層14aを兼ねても良い。この場合、電荷発生層16よりも陰極15側に設けられた発光ユニット14-2には、正孔注入層14aを必ずしも設ける必要はない。
また、以上のように電荷発生層16に一般式(2)の有機材料を用いる構成と、図1を用いて説明した表示素子のように発光ユニット内に一般式(1)の有機材料を用いる構成とを組み合わせることも可能である。この場合、図1を用いて説明した表示素子における発光ユニットと同様に、発光ユニット14-1,14-2内の各層に一般式(1)の有機材料が用いられる。
特に発光ユニット14-1,14-2内における正孔注入層14aまたは正孔輸送層14bとして、一般式(2)または一般式(1)で示される有機材料とベンジジン誘導体、スチリルアミン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、およびヒドラゾン誘導体のうちから選ばれる少なくとも1種類の材料との混合膜が用いられることが好ましい。また特に好ましくは、一般式(2)または一般式(1)を用いて構成された真性電荷発生層16bに接する、発光ユニット14-2の正孔14aとして、上記混合層が好適に用いられる。
以上説明した構成の第2実施形態の表示素子11においては、電荷発生層16に上述した一般式(2)に示す有機化合物を用いたことにより、発光ユニット14-1、14-2を積層させたことによる高電圧化を抑えることが可能になった。これは、一般式(2)の有機材料の多くは、主に正孔輸送性能を持つ。そして、その骨格によっては、分子内キャリアは正孔のみである場合も測定されており、この有機材料を用いて構成された電荷発生層を狭持する状態で発光ユニットを積層させた場合でも、これらの光ユニット間で発光に寄与しない電荷の漏れや、生成した励起子からのエネルギ拡散を生じさせることが無い。したがって、重ね合わせた光ユニットを、効率的にかつ効果的に独立して機能させてそれぞれを発光させることができる。これにより、スタック型の表示素子における低電圧駆動が可能になったためと考える。
この結果、例えば発光ユニット14-1、14-2を2ユニット積層させた場合に、従来は駆動電圧が2倍以上に上昇したが、本発明により、この駆動電圧の上昇を抑えることが可能になり、理想的なスタック型の表示素子11を得ることが可能になった。
また特に、一般式(2)の有機材料において、置換部位の一つ以上を電子吸引性の置換基とすることにより[つまり一般式(1)の範囲の有機材料とすることにより]、有機材料における柱状配列を制御する分子間相互作用を調整することが可能となり、電荷発生層16に係わる電荷移動に対して効果を発揮し、発光効率と寿命特性の向上を図ることが可能になる。
また、従来、電荷発生層16における、発光ユニット14-2側に接する層(真性電荷発生層16b)としてV2O5を用いた場合と同程度の電荷注入効率を得ることが可能である。この場合には、真性電荷発生層16bが正孔注入層を兼ねるものとすることができるため、電荷発生層16よりも陰極15側に配置された発光ユニット14-2に特別に正孔注入層14aを設けなくても良く、層構造の簡略化を図ることが可能になる。
さらに、従来用いていたV2O5は、吸湿性が激しく、金属種との反応性も高く、活性であることから、扱いにくく、安定して電荷発生層として用いることは困難であった。しかしながら、これに換えて一般式(2)の有機材料を用いる構成としたことで、電荷発生層16の化学的安定性の向上を図ることが可能になった。
尚、以上の各実施形態で説明した本発明の表示素子は、TFT基板を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置に用いる表示素子に限定されることはなく、パッシブ方式の表示装置に用いる表示素子としても適用可能であり、同様の効果(長期信頼性の向上)を得ることができる。
また、以上各実施形態においては、基板12と反対側に設けた陰極15側から発光を取り出す「上面発光型」の場合を説明した。しかし本発明は、基板12を透明材料で構成することで、発光を基板12側から取り出す「透過型」の表示素子にも適用される。この場合、図2を用いて説明した積層構造において、透明材料からなる基板12上の陽極13を、例えばITOのような仕事関数が大きい透明電極材料を用いて構成する。これにより、基板12側および基板12と反対側の両方から発光光が取り出される。また、このような構成において、陰極15を反射材料で構成することにより、基板12側からのみ発光光が取り出される。この場合、陰極6の最上層にAuGeやAu、Pt等の封止電極を付けても良い。
さらに、図2を用いて説明した積層構造を、透明材料からなる基板12側から逆に積み上げて陽極13を上部電極とした構成であっても、基板12側から発光光を取り出す「透過型」の表示素子を構成することができる。この場合においても、上部電極となる陽極13を透明電極に変更することで、基板12側および基板12と反対側の両方から発光光が取り出される。
≪有機材料の合成≫
本発明の有機材料の合成例を説明する。
<合成例1> 構造式(2)−18の合成
メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、2,3,5,6-テトラシアノピラジン(9g,50mmol)を200mlの1−プロパノールに溶解させ、還流温度まで昇温させた。還流温度に到達して10分後、1−プロパノール(50ml)に金属リチウム(100mg,14mmol)を加えた調製溶液をゆっくりと滴下し、更に30分程加熱還流した。その後、冷却し1−プロパノールをエバポレートによって溜去し、続いてエタノールを加えて不溶部をろ集した。この粉末をトルエンおよびアセトンで洗浄精製し、黒緑色粉末を得た。得られた固体を13C−NMR、およびTOF−MSにて測定した結果、目的物である構造式(2)−18であることを確認した。
<合成例2> 構造式(2)−10の合成
合成例1において用いた2,3,5,6-テトラシアノピラジンの代わりに、2,3−ジシアノ―5,6−ジメトキシピラジンへ変更した以外は、合成例1と同様の手順で合成を行った。得られた固体を1H−NMR,13C−NMR、およびTOF−MSにて測定した結果、目的物である構造式(2)−10であることを確認した.
<合成例3> 構造式(2)−7の合成
合成例1において用いた2,3,5,6-テトラシアノピラジンの代わりに、2,3−ジシアノ―5,6−ジフルオロピラジンへ変更した以外は、合成例1と同様の手順で合成を行った。得られた固体を13C−NMR、およびTOF−MSにて測定した結果、目的物である構造式(2)−7であることを確認した
<合成例4> 構造式(3)−18の合成
メカニカルスターラーを装着させた300mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、2,3,5,6-テトラシアノピラジン(3.5g,19mmol)と銅粉末(320mg,5mmol)を100mlのキノリンに溶解させた.反応は180℃で3時間行った.反応終了後に過剰のエタノールに注ぎ、不溶部をろ集した。この粉末をトルエンおよびアセトンで洗浄精製し、黒緑色粉末を得た。得られた固体を13C−NMR、およびTOF−MSにて測定した結果、目的物である構造式(3)−18であることを確認した。
≪表示素子≫
次に、実施例の表示素子における製造手順と、その比較例の表示素子における製造手順、さらにこれらの評価結果を説明する。
<実施例1〜4>
各実施例1〜4においては、上述した実施の形態において、図1を用いて説明した構成の表示素子10を形成した。ただし、各実施例においては、正孔注入層14aとして、一般式(1)でしめされるそれぞれの材料を用いた。以下に実施例1〜4の表示素子10の製造手順を説明する。
30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13としてAg合金(膜厚約100nm)を形成し、さらにSiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
次に、正孔注入層14aとして、下記表7に示す本発明の一般式(1)の各材料を、それぞれ真空蒸着法により10nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
次いで、正孔輸送層14bとして、下記構造式1に示すα-NPDを、それぞれ真空蒸着法により10nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
さらに、発光層14cとして、下記構造式2に示すADNをホストにし、ドーパントとしてBD−052x(出光興産株式会社:商品名、青色ドーパント)を用い、ドーパント濃度が膜厚比で5%になるように、これらの材料を真空蒸着法により28nmの合計膜厚で成膜した。
最後に、電子輸送層14dとして、下記構造式3に示すAlq3(8-hydroxy quinorine alminum)を、真空蒸着法により12nmの膜厚で蒸着成膜した。
以上のようにして正孔注入層14a〜電子輸送層14dまでの有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、Li2CO2を真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で形成し、次いで、第2層15bとしてMgAgを真空蒸着法により10nmの膜厚で形成し、2層構造の陰極15を設けた。
<比較例1>
正孔注入層14aとして、アリールアミン系材料であるHI−406(出光興産株式会社製、正孔注入材料商品名)を10nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)形成したこと以外は、実施例1〜4と全く同じ構成とした。
≪評価結果−1≫
表7に示す通り、本発明による新規構造を有する有機材料(非アリールアミン系)を用いて正孔注入層14aが構成された実施例1〜4の有機電界発光素子では、アリールアミン系正孔注入材料を用いて正孔注入層14aが構成された比較例1の有機電界発光素子に対して遜色のない同等の発光効率[cd/A]を得ることができ、本発明の効果が確認できた。
尚、実施例1〜4において正孔注入層14aに用いた本発明の各有機材料に、比較例1の正孔注入層14aとして用いたアリールアミン系材料を膜厚比で5〜10%ドーピングを施すと、駆動電圧は実用領域で0.5V以上低電圧化することが可能であった。これにより、本発明における非アリールアミン系の有機材料を単独で用いる場合と比較して、本発明における非アリールアミン系の有機材料に対して他の材料(ここではアリールアミン系材料)を共蒸着により微量ドーピングして用いることにより、本発明の新規骨格を有する有機材料を用いた有機電界発光素子の、さらなる長寿命化を達成できることが確認された。
<実施例5〜8>
各実施例5〜8においては、上述した実施の形態において、図2を用いて説明した構成の表示素子11を形成した。ただし、各実施例においては、真性電荷発生層16bとして、一般式(1)で示されるそれぞれの材料を用いた。以下に実施例5〜8の表示素子11の製造手順を説明する。
30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13としてAg合金(膜厚約100nm)を形成し、さらにSiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
次に第1層目の発光ユニット14-1における正孔注入層14aとして、下記構造式4に示すアザトリフェニレン系材料を真空蒸着法により10nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
次いで、正孔輸送層14b〜電子輸送層14dまでは、実施例1〜4と同様の構成とした。すなわち、構造式1のα-NPDを、それぞれ真空蒸着法により10nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。
さらに、発光層14cとして、構造式2のADNをホストにし、ドーパントとしてBD−052x(出光興産株式会社:商品名、青色ドーパント)を用い、ドーパント濃度が膜厚比で5%になるように、これらの材料を真空蒸着法により28nmの合計膜厚で成膜した。
次に、電子輸送層14dとして、構造式3のAlq3(8-hydroxy quinorine alminum)を、真空蒸着法により12nmの膜厚で蒸着成膜した。
以上のようにして正孔注入層14a〜電子輸送層14dまでの第1層目の発光ユニット14-1を形成した後、電荷発生層16の中間陰極層(界面層)16aとしてLi
2CO
3を15Å蒸着し、次に真性電荷発生層16bとして下記表8に示す本発明の一般式(2)の各材料を30Åの膜厚で蒸着した。
その後さらに、第2層目の発光ユニット14-2における正孔注入層14aとして、構造式4のアザトリフェニレン系材料を真空蒸着法により50nm(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)の膜厚で形成した。第1層目の発光ユニット14-1における正孔注入層14aと膜厚が違う理由は、光学的に光取出しを最大にするためである。
以降、正孔輸送層14b〜電子輸送層14dまでを、第1層目と同様の構成(つまり実施例1〜4と同様の構成)として第2層目の発光ユニット14-2を形成した。
次に、第2層目の発光ユニット14-2上に、陰極15の第1層15aとして、LiFを真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)形成した。次いで、第2層15bとしてMgAgを真空蒸着法により10nm形成した。
<比較例2>
実施例5〜8において形成した第1層目の発光ユニット14-1上に、電荷発生層16および第2層目の発光ユニット14-2を設けることなく、陰極15を設けた単層構造の発光素子を作製した。
≪評価結果−2≫
表8に示すように、本発明による新規構造を有する有機材料を用いて電荷発生層16が構成された実施例5〜8のスタック型の有機電界発光素子では、比較例2に示した1ユニット素子の約2倍の発光効率[cd/A]を得ることが、本発明の効果が確認できた。
図3には、実施例8と比較例2を初期輝度2500cd/m2、のDuty比50%の駆動条件で寿命測定した結果である。この結果から、初期輝度を同一にした場合、スタックすることによる長寿命効果があり、本発明における新規構造を有する有機材料の電荷発生層への応用による効果が確認された。
さらに、上述した実施例5〜8の構成において、第2層の発光ユニット14-2における正孔注入層14aの構成を、真性電荷発生層16bに用いたと同様の一般式(2)で示される有機材料に、正孔輸送層14bに用いた材料を膜厚比で5〜10%ドーピングした構成とすることにより、実用領域での駆動電圧は約1V低電圧化することが出来た。これにより、一般式(2)で示されるそれぞれの有機材料を用いた電荷発生層16を用いた場合に、正孔注入層14aを、一般式(2)の有機材料と他の材料(ここではα−NPD)との混合層による長寿命化効果も確認できた。
実施形態の表示素子−1を示す断面構成図である。
実施形態の表示素子−2を示す断面構成図である。
実施例8と比較例2の表示素子の相対輝度の径時変化を示すグラフである。
有機電界発光素子の一例を示す断面構成図である。
スタック型の有機電界発光素子の一例を示す断面構成図である。
符号の説明
10,11…表示素子、13…陽極、14,14-1,14-2…発光ユニット、14a…正孔注入層、14b…正孔輸送層、14c…発光層(有機発光層)、15…陰極、16…電荷発生層