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JP2005034868A - アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法 - Google Patents

アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法 Download PDF

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Abstract

【課題】第1パルス電流群の通電と第2パルス電流群の通電とを予め定めた切換周波数で切り換えることによってアーク長を上下方向に揺動させて溶接を行うアーク長揺動パルスアーク溶接を用いたアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法において、ブローホールの発生を抑制して健全な溶接部を得る。
【解決手段】本発明は、前記切換周波数を0.5〜30Hzに設定し、前記アーク長揺動アーク溶接によって形成される溶融池2aの溶融部と非溶融部との前方境界部A近傍にレーザを照射しながら溶接を行い、このレーザ照射によって照射部を表面から1mm以上の深さまで溶融させて、この溶融部に存在する空孔からガスを外部に放出させるレーザのエネルギー密度に設定する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法に関し、特に、ダイキャストの溶接において問題となるブローホールの発生を抑制するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、合わせてアルミニウムという)、マグネシウム又はマグネシウム合金(以下、合わせてマグネシウムという)は、軽量で強度も高いことから、自動車、車両等に使用されている。これらの材料は、ダイキャストに代表される鋳造材が一般的である。この鋳造材の中で特にダイキャストの内部には、ガスを内包した空孔が多数個存在することが多い。このために、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストをアーク溶接した場合、溶接中に空孔内のガスが溶融池に溶解し溶接後も残留して溶接部に多量のブローホール及びピット(以下、合わせてブローホールという)を発生する。
【0003】
このように内部にガスを含有するダイキャストのアーク溶接において、ブローホールの発生を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この方法は、パルスアーク溶接において電流波形パラメータ又は送給速度を周期的に変化させることによって、アーク長を上下方向に揺動させて溶融池を攪拌する。この攪拌によって溶融池に溶解したガスを外部に放出してブローホールの発生を抑制する(以下、この溶接方法をアーク長揺動パルスアーク溶接方法という)。
【0004】
図7は、上述したアーク長揺動パルスアーク溶接の電流波形図の一例である。同図(A)はアーク長切換信号STcの、同図(B)は溶接電流Iwの波形図である。以下、同図を参照して説明する。
【0005】
同図(A)に示すように、アーク長切換信号STcは、予め定めた高アーク長期間HTcと予め定めた低アーク長期間LTcとを切換周期Tc(切換周波数fc)ごとに繰り返す。同図(B)に示すように、高アーク長期間HTc中は、下記の第1パルス電流群を通電する。すなわち、第1パルス電流群は、高ピーク期間HTp中の高ピーク電流HIpと高ベース期間HTb中の高ベース電流HIbとを繰り返して通電するパルス電流群である。また、低アーク長期間LTc中は、下記の第2パルス電流群を通電する。すなわち、第2パルス電流群は、低ピーク期間LTp中の低ピーク電流LIpと低ベース期間LTb中の低ベース電流LIbとを繰り返して通電するパルス電流群である。
【0006】
アーク長揺動パルスアーク溶接では、上記の第1パルス電流群の通電によってアーク長を高くし、上記の第2パルス電流群の通電によってアーク長を低くし、アーク長を上記の切換周波数fcごとに揺動させる。アーク長が揺動すると溶融池へのアーク力が変動するために、溶融池が攪拌される。この攪拌作用によって溶融池内のガスが外部に放出される。この結果、ガスは溶融池の冷却後に残留することがなく、ブローホールの発生が抑制される。
【0007】
【特許文献1】
特許第2993174号公報
【特許文献2】
特開平6−285643号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来技術のアーク長揺動パルスアーク溶接では、ブローホールの原因となるガスの含有量が、溶接ワイヤ、シールドガス等から侵入して溶融池に溶解する程度(0.5〜1.0cc/100g)と少ない場合には、上述したブローホール低減効果によって健全な溶接部を形成することができる。しかし、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのガス含有量は、一般的に3〜5[cc/100g]程度と多い。このために、従来技術のアーク長揺動パルスアーク溶接では、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接時に発生するブローホールを大幅に低減して健全な溶接部を形成することはできない。
【0009】
そこで、本発明では、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接において、ブローホールの発生を大幅に抑制して健全な溶接部を形成することができるアーク溶接方法を提供する。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、第1パルス電流群の通電と第2パルス電流群の通電とを予め定めた切換周波数で切り換えることによってアーク長を上下方向に揺動させて溶接を行うアーク長揺動パルスアーク溶接を用いたアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法において、
前記切換周波数を0.5〜30Hzに設定し、前記アーク長揺動アーク溶接によって形成される溶融池の溶融部と非溶融部との前方境界部近傍にレーザを照射しながら溶接を行い、このレーザ照射によって照射部を表面から1mm以上の深さまで溶融させてこの溶融部に存在する空孔からガスを外部に放出させるレーザのエネルギー密度に設定することを特徴とするアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法である。
【0011】
請求項2の発明は、レーザのビームスポットの中心位置を、溶融池の前方境界部から前記ビームスポットの半径だけ前後させた範囲内に設定することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法である。
【0012】
請求項3の発明は、ダイキャストのガス含有量が、1〜5[cc/100g]の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本発明の実施の形態は、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法において下記の構成要件を具備するものである。
(1)アーク長揺動パルスアーク溶接を用い、溶融池の溶融部と非溶融部との前方境界部近傍にレーザを照射しながら溶接を行う。
(2)切換周波数fcを0.5〜30Hzに設定する。
(3)レーザ照射によって照射部を表面から1mm以上の深さまで溶融させて、この溶融部に存在する空孔からガスを外部に放出させるレーザのエネルギー密度に設定する。
以下、上記の(1)〜(3)について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、上記(1)項に対応する溶接装置の構成図である。溶接電源装置6は、アーク長揺動パルスアーク溶接用の溶接電源装置であり、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力すると共に、ワイヤ送給モータを制御するための送給制御信号Mcを出力する。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMに直結された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4を通って送給されて、母材2との間にアーク3が発生し、溶融池2aが形成される。溶接電流Iwは、図7で上述した第1パルス電流群及び第2パルス電流群を通電する。
【0015】
レーザ発振装置7は、YAGレーザ、半導体レーザ等のレーザ9を出力値Pw[W]で出力する。レーザトーチ8は、レーザ9を溶融池2aの溶融部と非溶融部との前方境界部A近傍に照射する。この照射位置の詳細については、図4及び5で後述する。
【0016】
図2は、上記(2)項に対応する切換周波数fc[Hz]とブローホールの発生総数との関係図である。同図は、上述した図1の溶接装置を使用して、レーザのエネルギー密度は上記(3)項の条件を満たした値である。レーザ照射位置は、溶融池の前方境界部近傍である。試験材は、ガス含有量が4[cc/100g]の厚さ6mmのマグネシウム製ダイキャストである。この試験材に100mmの溶接長のビードを形成し、このビード内部に存在するブローホールの総数を計数した。同図から明らかなように、切換周波数fcが0.5〜30Hzの範囲でブローホールは大幅に減少している。これは、切換周波数fcと溶融池の固有周波数とが近い値であるときに溶融池が共振して攪拌作用が大きくなるためである。
【0017】
図3は、上記(3)項に対応するレーザのエネルギー密度の設定値を説明するための照射部溶融深さとブローホールの発生総数との関係図である。溶接条件は上述した図2と同一である。レーザのエネルギー密度を大きくすると、照射部の溶融深さが深くなる。同図は、この照射部溶融深さを変化させて、ブローホールの発生総数を計数したものである。同図から明らかなように、照射部の溶融深さが1mmに達するまではブローホールは急減しており、1mm以上で飽和状態となる。したがって、照射部の溶融深さが1mm以上になるように、レーザのエネルギー密度を設定すれば良い。エネルギー密度は、レーザ出力値Pw[W]/ビームスポット直径によって算出されるので、出力値Pw又はビームスポット直径を調整することによって設定することができる。
【0018】
上述したように、照射部の溶融深さが1mmまではブローホールが急減する理由は、以下のとおりである。すなわち、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストの空孔は、表面から1mm深さに多く存在している。このために、レーザの照射によって1mm以上溶融すると、この部分の空孔内のガスは外部に放出される。この後にアーク溶接による溶融池が既に照射されてガスが放出された位置に移動するために、溶融池にガスが溶解する量が大幅に減少する。そして、溶融池に溶解した少量のガスは、アーク長揺動パルスアーク溶接による攪拌作用によって外部に放出される。この結果、ブローホールの発生総数は激減して、健全な溶接部が形成される。
【0019】
図4は、レーザ照射位置の設定範囲を説明するための照射位置説明図である。同図(A)は側面から溶接部を見た図であり、同図(B)は上面から溶接部を見た図である。同図(A)に示すように、右方向に溶接が進行しており、ビード2bの前方に溶融池2aが形成されている。レーザ9は、溶融池2aの溶融部と非溶融部との前方境界部Aを中心位置としてそこからの前後の所定範囲に照射する必要がある。同図(B)に示すように、ビームスポットが前方に移動したとき(9a)と後方に移動したとき(9b)のビームスポットの中心位置と、前方境界部Aとの距離をLa[mm]とする。この前方境界部Aからの距離Laは、前方向を正としている。
【0020】
図5は、上記の前方境界部Aからの距離Laとブローホールの発生総数との関係図である。溶接条件は上述した図2と同一である。同図は、ビームスポット直径DB[mm]を2mm、4mm及び5mmの3段階に設定し、La[mm]とブローホールの発生総数との関係を測定したものである。
【0021】
同図に示すように、どのビームスポット直径DBの場合でも、Laが所定範囲内であればブローホールが激減している。Laがこの所定範囲外になると、ブローホールは急激に増加する。この所定範囲は、同図から−DB/2≦La≦+DB/2の範囲として整理することができる。したがって、レーザ照射位置は、前方境界部Aからの距離Laをビームスポット半径(DB/2)だけ前後に移動させた範囲内に設定する必要がある。この範囲が上記(1)項でいう前方境界部近傍の範囲となる。
【0022】
レーザ照射位置が上記の所定範囲に制限される理由は、以下のとおりである。まず、レーザ照射位置が後方に設定されると(La<0)、溶融池の前方境界部Aの方が前方となり、ガスが大量に溶融池に溶解する。溶融池にガスが一旦溶解した後に、レーザ照射してもガスは外部に多く放出させない。このために、レーザ照射位置は、la=−DB/2が後方限界位置となる。他方、レーザ照射位置が前方に設定されると、ビームスポット直径の範囲は溶融するがその周辺部の溶融深さが不十分になり、溶融池へのガスの溶解を招くことになる。La≦+DB/2の範囲では、レーザ照射による入熱と溶融池からの入熱とが合わさってビームスポット直径よりも幅広い領域が十分な溶融深さとなる。このために、溶融池へのガスの溶解を阻止してブローホールの発生を激減させることができる。
【0023】
図6は、従来技術及び本発明におけるダイキャストのガス含有量[cc/100g]とブローホールの発生総数との関係図である。従来技術はアーク長揺動パルスアーク溶接方法であり、本発明は上記(1)〜(3)を具備したアーク溶接方法である。溶接条件は上述した図2と同一である。ブローホール発生総数が数個以下である場合には健全な溶接部となるので、基準値を2個以下とする。同図から明らかなように、従来技術では、ブローホール発生総数が2個以下になる範囲は、ガス含有量が1[cc/100g]未満の範囲である。これに対して、本発明では、この範囲は5[cc/100g]以下となる。したがって、本発明では、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのガス含有量が1〜5[cc/100g]の範囲であっても健全な溶接部を形成することができる。
【0024】
【発明の効果】
本発明のアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法によれば、(1)アーク長揺動パルスアーク溶接による溶融池の前方境界部近傍にレーザを照射し、(2)切換周波数を0.5〜30Hzの範囲に設定し、(3)レーザ照射部の溶融深さが1mm以上となるエネルギー密度に設定することによって、ブローホールの発生を大幅に低減することができ、健全な溶接部を得ることができる。特に、アルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのガス含有量が1〜5[cc/100g]である場合、従来技術では健全な溶接部を形成することができなかったが、本発明では可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る溶接装置の構成図である。
【図2】本発明において、切換周波数fcとブローホール発生総数との関係図である。
【図3】本発明において、レーザ照射部の溶融深さとブローホール発生総数との関係図である。
【図4】本発明において、レーザ照射位置の説明図である。
【図5】本発明において、前方境界部Aからのレーザ照射位置までの距離Laとブローホール発生総数との関係図である。
【図6】本発明において、ダイキャストのガス含有量とブローホール発生総数との関係図である。
【図7】従来技術のアーク長揺動パルスアーク溶接の電流波形図である。
【符号の説明】
1 溶接ワイヤ
2 母材
2a 溶融池
2b ビード
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
6 溶接電源装置
7 レーザ発振装置
8 レーザトーチ
9 レーザ
A 前方境界部
DB ビームスポット直径
fc 切換周波数
HIb 高ベース電流
HIp 高ピーク電流
HTb 高ベース期間
HTc 高アーク長期間
HTp 高ピーク期間
Iw 溶接電流
La 前方境界部からの距離
LIb 低ベース電流
LIp 低ピーク電流
LTb 低ベース期間
LTc 低アーク長期間
LTp 低ピーク期間
Mc 送給制御信号
Pw レーザ出力値
STc アーク長切換信号
Tc 切換周期
Vw 溶接電圧
WM ワイヤ送給モータ

Claims (3)

  1. 第1パルス電流群の通電と第2パルス電流群の通電とを予め定めた切換周波数で切り換えることによってアーク長を上下方向に揺動させて溶接を行うアーク長揺動パルスアーク溶接を用いたアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法において、
    前記切換周波数を0.5〜30Hzに設定し、前記アーク長揺動アーク溶接によって形成される溶融池の溶融部と非溶融部との前方境界部近傍にレーザを照射しながら溶接を行い、このレーザ照射によって照射部を表面から1mm以上の深さまで溶融させてこの溶融部に存在する空孔からガスを外部に放出させるレーザのエネルギー密度に設定することを特徴とするアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法。
  2. レーザのビームスポットの中心位置を、溶融池の前方境界部から前記ビームスポットの半径だけ前後させた範囲内に設定することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法。
  3. ダイキャストのガス含有量が、1〜5[cc/100g]の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアルミニウム又はマグネシウム製ダイキャストのアーク溶接方法。
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