JP2005076679A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 アンギュラ玉軸受10の内輪10及び外輪12は、炭素を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロムを0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上3.0質量%以下、酸素を10ppm以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼で構成されており、浸炭窒化処理,焼入れ,深冷処理,240℃以上400℃以下の焼戻しの順の処理により、表面の窒素濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、表面の残留オーステナイト量が5体積%以下とされている。
【選択図】 図1
Description
そこで、一般的には、これらの部材を構成する材料には、軸受鋼としては日本工業規格のSUJ2、そして肌焼鋼としては日本工業規格のSCR420相当の鋼やSCM420相当の鋼等がよく使用されている。
近年、各種の工作機械は、加工効率及び生産性向上を目的として、主軸の回転速度や周辺機器の送り速度等の高速化が進んでおり、ユーザーの工作機械に対する高速化の要求はますます強くなってきている。特に、工作機械の主軸は超高速回転とすることが要求されており、主軸を支持するグリース潤滑の転がり軸受のDmn値(Dmは転動体のピッチ円直径(mm)であり、nは回転速度(min-1)である)で、1×106 を超えるものも最近では珍しくなくなってきている。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高速回転下においても好適に使用可能とするために軌道溝の曲率半径Rと転動体の半径rとの比率ρ(R/r)を大きくした場合でも、軌道面に塑性変形が生じにくく十分な耐圧痕性を有する転がり軸受を提供することを課題とする。
まず、転がり軸受の耐圧痕性向上のためには、深冷処理によって軸受部品(内輪,外輪,及び転動体)の残留オーステナイト量を低下させることが重要である。残留オーステナイト量を低下させるための熱処理としては、深冷処理により残留オーステナイトを分解させる方法や、高温に保持することにより残留オーステナイトを分解させる方法がある。ただし、後者の方法では、高温に保持することで残留オーステナイトが分解する一方で、焼戻し軟化が進み硬さが低下するという問題がある。これに対して、前者の方法では、焼戻しによる軟化のリスクを負うことなく軟質な残留オーステナイトを分解して硬質なマルテンサイトにすることができるため、残留オーステナイト量を低減できるだけでなく、硬度を上昇させることも可能である。すなわち、深冷処理によって残留オーステナイト量を低減し且つ硬度を上昇させることが、転がり軸受の耐圧痕性の向上のために必要な条件であることが明らかになった。
〔炭素について〕
炭素(C)は焼入れ,焼戻し後の硬さを向上するために必要な元素であり、合金鋼中のCの含有量は0.2質量%以上0.7質量%以下とする必要がある。なお、浸炭窒化処理を施すことにより軸受部品の表面の炭素濃度は上昇するが、この数値は浸炭窒化処理が及ばない軸受部品の芯部におけるCの含有量である。
Cの含有量が0.2質量%未満であると、必要な硬さを得ることのできる炭素濃度とするために浸炭窒化処理時間を長くする必要があり、熱処理生産性が低下するとともにコスト的に不利となる。一方、0.7質量%を超えると、表層部だけでなく芯部まで残留オーステナイト量が多くなり、高温環境下での寸法安定性が阻害される。また、素材の段階で巨大な炭化物が発生するため、機械加工性及び靱性が低下する。
クロム(Cr)は、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性の向上に有効な元素である。また、炭化物の形成を促進させる作用も有するので、浸炭窒化層のC濃度を高めて、浸炭阻害性を有するケイ素を多く含有しても素材の浸炭性を維持することができる。
これらの効果を十分に発揮させ、必要な表面硬さを確保するためには、Crの含有量は0.5質量%以上とする必要がある。しかし、Crの含有量が多すぎると、素材の段階で巨大な炭化物が生じてしまい、この炭化物の周辺で応力集中が生じることが原因となって、軸受寿命が低下するおそれがある。また、必要以上のCr含有量の増加はコスト的にも不利であるし、巨大炭化物を微細化しようとすると高温での焼入れが必要となり、熱処理生産性が低下する。よって、Crの含有量は3.0質量%以下とする必要がある。
ケイ素(Si)は、焼戻し軟化抵抗性の向上に有効であるとともに、浸炭窒化処理の際の合金鋼中への窒素の吸収を助ける働きがある。このような効果を十分に得るためには、Siの含有量は0.4質量%以上とする必要がある。しかし、Siの含有量が多いと靱性,被削性,及び浸炭性の低下につながるため、Siの含有量の上限値は2.0質量%とする必要がある。
モリブデン(Mo)は優れた固溶強化能を有し、焼戻し後の硬さを十分なものとすることができる元素であるため、合金鋼中に添加することにより耐圧痕性の向上を図ることができる。このような効果を十分に得るためには、Moの含有量は0.5質量%以上とする必要がある。しかし、Moの含有量が多いと靱性,被削性,及び浸炭窒化性の低下につながるため、Moの含有量の上限値は3.0質量%とする必要がある。
酸素(O)は酸化物系非金属介在物(特にAl2 O3 )を生成させる元素であり、転がり軸受の寿命を低下させる作用を有するため、その含有量は極力少なくする必要があり、10ppm以下とする必要がある。
なお、アルミニウム(Al)は、Al2 O3 等の酸化物系非金属介在物を生成するため、この点においてはOと同様に転がり軸受の寿命に対し有害である。しかし、Al自体は結晶粒の粗大化を防止する作用を有するため、100ppm以上400ppm以下含有することが有効である。
〔マンガンについて〕
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤,脱硫剤として作用するとともに、焼入れ性の向上に大きく寄与することから、0.2質量%以上添加するとよい。ただし、多量に添加すると、非金属介在物を多く生じさせるため寿命が低下するとともに、鍛造性,被削性等の機械加工性が低下するので、含有量は1.7質量%以下とすることが好ましい。
ニッケル(Ni)は強力なオーステナイト安定化元素であり、δフェライトの生成を抑え、さらに基地に固溶して靱性を向上させ高温特性を高める作用を有している。しかし、必要以上に添加すると、多量の残留オーステナイトが生成して十分な焼入れ硬さが得られなくなる。これらの点を考慮すると、Niの含有量は2.0質量%以下とすることが好ましい。
銅(Cu)は、Niと同様にδフェライトの生成を抑え、耐食性,耐酸性を向上させる作用を有しているため、0.05質量%以上、好ましくは0.5質量%以上添加するとよい。ただし、多量に添加すると、転がり軸受製造工程中の熱間鍛造工程において、熱間割れを生じる場合があるため、Cuの含有量の上限値は2.0質量%とすることが好ましい。
〔リンについて〕
リン(P)は転がり寿命及び靱性を低下させる元素であるので、Pの含有量は極力少ないことが好ましく、0.02質量%以下に抑えることが好ましい。
〔イオウについて〕
イオウ(S)は被削性を向上させる元素であるが、Mnと結合して転がり疲れ寿命を低下させる硫化物系介在物を形成する。また、Sの添加以外の方法でも、被削性の向上を図ることができる。したがって、転がり疲れ寿命を確保する点からは、Sの含有量は極力少ない方が好ましく、0.02質量%以下に抑えることが好ましい。
本発明の合金鋼には、これまで説明した各元素及び鉄(Fe)以外の元素(チタン,ニオブ等)が不可避の不純物として含有される可能性があるが、不可避の不純物は1種につき100ppm以下ならば含有されていてもよい。
〔浸炭窒化処理後の表面炭素濃度について〕
転がり軸受の軸受部品として十分な硬さを得るためには、表面炭素濃度が0.8質量%以上であることが好ましい。ただし、表面炭素濃度が1.2質量%を超えると、巨大炭化物が形成されやすくなり、巨大炭化物が欠陥となって転がり疲労寿命が低下するおそれがあるため、上限値は1.2質量%であることが好ましい。
このアンギュラ玉軸受10は、工作機械のスピンドル支持用として好適な転がり軸受であり、内輪11と、外輪12と、内輪11及び外輪12の間に転動自在に配設された複数の玉13と、内輪11及び外輪12の間に玉13を保持する保持器14と、で構成されている。そして、このアンギュラ玉軸受10の内径は65mm、外径は100mm、幅は18mm、玉13の直径は7.144mm、玉数は28個、接触角は18°、内輪11及び外輪12に形成されている軌道溝の曲率半径は、それぞれ玉13の直径の52%及び56%である。
このようなアンギュラ玉軸受10の耐圧痕性を、以下のような方法で評価した。まず、図2に示すようにして、アンギュラ玉軸受10に圧痕を付けた。すなわち、図示しないプレス機を用いてアンギュラ玉軸受10に治具20を介して3000Nの荷重を負荷し、90秒間保持した後に荷重を除荷した。次に、圧痕を付けたアンギュラ玉軸受10を、アンデロンメータ等の振動選別機に取り付け、グリース潤滑下(使用したグリースはNOKクリューバ株式会社製のイソフレックスNBU15である)で4000min-1の回転速度で回転させた。そして、得られた出力にエンベロープ処理を施した後、FFT分析で周波数分析を行った。
耐圧痕性の評価結果を、表2,3に併せて示す。なお、表2,3においては、上記判定基準の下で十分な耐圧痕性を有すると判定されたものを○印で示してあり、耐圧痕性が劣ると判定されたものを×印で示してある。
11 内輪
12 外輪
13 玉
Claims (1)
- 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、
前記内輪,前記外輪,及び前記転動体のうち少なくとも1つは、
炭素を0.2質量%以上0.7質量%以下、クロムを0.5質量%以上3.0質量%以下、ケイ素を0.4質量%以上2.0質量%以下、モリブデンを0.5質量%以上3.0質量%以下、酸素を10ppm以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物である合金鋼で構成され、
浸炭窒化処理,焼入れ,深冷処理,240℃以上400℃以下の焼戻しの順の処理により、表面の窒素濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、表面の残留オーステナイト量が5体積%以下とされていることを特徴とする転がり軸受。
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