JP2004224639A - 版部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】製造が容易で、厚さを薄くすることができるうえ、耐衝撃性にも優れる版部材を提供する。
【解決手段】(A)ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gのセメント100質量部と、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子10〜40質量部と、(C)ブレーン比表面積2500〜30000cm2/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子15〜55質量部と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体からなる版部材であって、該硬化体にプレストレスを導入した版部材。
上記無機粒子(C)は、ブレーン比表面積5000〜30000cm2/gの無機粒子A10〜50質量部と、ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gの無機粒子B5〜35質量部とからなることが好ましい。
上記配合物は、(F)粒径2mm以下の細骨材や、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含むことができる。
【選択図】 なし
【解決手段】(A)ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gのセメント100質量部と、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子10〜40質量部と、(C)ブレーン比表面積2500〜30000cm2/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子15〜55質量部と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体からなる版部材であって、該硬化体にプレストレスを導入した版部材。
上記無機粒子(C)は、ブレーン比表面積5000〜30000cm2/gの無機粒子A10〜50質量部と、ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gの無機粒子B5〜35質量部とからなることが好ましい。
上記配合物は、(F)粒径2mm以下の細骨材や、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含むことができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、U字溝の蓋や床材、耐摩耗版などに使用されるセメント系硬化体からなる版部材に関し、特に、製造が容易で、厚さを薄くすることができるうえ、耐衝撃性にも優れる版部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、U字溝の蓋や床材、耐摩耗版などにコンクリート製の版部材が使用されている。また、ダムなどの耐摩耗部材には天然石材で形成された版部材が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記コンクリート製の版部材では、その厚さを厚くする必要がありその結果、版部材の質量も大きくなるので、U字溝の蓋として使用した場合の該蓋の開閉や、床材として使用した場合の敷設工事などには、重機を使用する必要があるという問題がある。一方、天然石材で形成された版部材では、高価であるほか、加工性に難があり、しかも打撃による変形が大きいという問題がある。
そこで、本発明では、製造が容易で、厚さを薄くすることができるうえ、耐衝撃性にも優れる版部材を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の材料を含む配合物の硬化体からなる版部材であれば、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、(A)ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gのセメント100質量部と、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子10〜40質量部と、(C)ブレーン比表面積2500〜30000cm2/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子15〜55質量部と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体からなる版部材であって、該硬化体にプレストレスを導入したことを特徴とするものである(請求項1)。このように構成した版部材は、そのマトリックスが、プレストレスの導入がない状態においても100MPa以上の超高強度を発現し得るものであるとともに、耐衝撃性にも優れ、また、硬化前のマトリックスの流動性が高いため、成形等の製造作業を容易かつ迅速に行なうことができ、しかも、プレストレスの導入後には、厚さを薄くすることができ、非常に高い引張強度やせん断強度を発現することができる。
上記無機粒子(C)は、ブレーン比表面積5000〜30000cm2/gの無機粒子A10〜50質量部と、ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gの無機粒子B5〜35質量部とから構成することができる(請求項2)。このようにブレーン比表面積の異なる2種の無機粒子を用いることによって、流動性及び強度発現性をより一層向上させることができる。
上記版部材は、配合物に、(F)粒径2mm以下の細骨材を含むことができる(請求項3)。
上記版部材は、配合物に、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含むことができる(請求項4)。このように金属繊維等を含むことによって、版部材の曲げ強度や破壊エネルギー等を向上させることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。
本発明において、版部材の早期強度を向上させようとする場合には、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましく、硬化前の配合物の流動性を向上させようとする場合には、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0007】
セメントのブレーン比表面積は、2500〜5000cm2/g、好ましくは3000〜4500cm2/gである。該値が2500cm2/g未満であると、水和反応が不活発になって、版部材の強度が低下する等の欠点があり、5000cm2/gを超えると、セメントの粉砕に時間がかかり、また、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、版部材の寸法変化が大きくなる等の欠点がある。
【0008】
本発明で使用する微粒子としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5〜25m2/gであり、粉砕等をする必要がないので、本発明の微粒子として好適である。
【0009】
微粒子のBET比表面積は、5〜25m2/g、好ましくは8〜25m2/gである。該値が5m2/g未満であると、配合物を構成する粒子の充填性に緻密さを欠くため、版部材の強度が低下する等の欠点があり、25m2/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、版部材の強度が低下する等の欠点がある。
微粒子の配合量は、セメント100質量部に対して10〜40質量部、好ましくは20〜40質量部である。配合量が10〜40質量部の範囲外では、流動性が極端に低下するので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0010】
本発明で使用する無機粒子としては、セメント以外の無機粒子であり、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、石灰石粉末、石英粉末は、コストの点や硬化後の品質安定性の点で好ましく用いられる。
無機粒子は、ブレーン比表面積が2500〜30000cm2/g、好ましくは4500〜20000cm2/gで、かつセメント粒子よりも大きなブレーン比表面積を有する。
無機粒子のブレーン比表面積が2500cm2/g未満であると、セメントとのブレーン比表面積の差が小さくなり、高い流動性(自己充填性)を確保することが困難になるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点があり、30000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0011】
無機粒子がセメントよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子が、セメントと微粒子との間隙を埋める粒度を有することになり、高い流動性(自己充填性)等を確保することができる。
無機粒子とセメントとのブレーン比表面積の差は、硬化前の流動性と硬化後の強度発現性の観点から、1000cm2/g以上が好ましく、2000cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子の配合量は、セメント100質量部に対して15〜55質量部、好ましくは20〜50質量部である。配合量が15〜55質量部の範囲外では、流動性が極端に低下するので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0012】
本発明においては、無機粒子として、異なる2種の無機粒子A及び無機粒子Bを併用することができる。
この場合、無機粒子Aと無機粒子Bは、同じ種類の粉末(例えば、石灰石粉末)を使用してもよいし、異なる種類の粉末(例えば、石灰石粉末及び石英粉末)を使用してもよい。
無機粒子Aは、ブレーン比表面積が5000〜30000cm2/g、好ましくは6000〜20000cm2/gのものである。また、無機粒子Aは、セメント及び無機粒子Bよりもブレーン比表面積が大きいものである。
無機粒子Aのブレーン比表面積が5000cm2/g未満であると、セメントや無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が小さくなり、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、流動性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。該ブレーン比表面積が30000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため、材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0013】
また、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bと、微粒子との間隙を埋めるような粒度を有することになり、より優れた流動性等を確保することができる。
無機粒子Aとセメント及び無機粒子Bとのブレーン比表面積の差(換言すれば、無機粒子Aと、セメントと無機粒子Bのうちブレーン比表面積の大きい方とのブレーン比表面積の差)は、硬化前の流動性と硬化後の強度発現性の観点から、1000cm2/g以上が好ましく、2000cm2/g以上がより好ましい。
【0014】
無機粒子Bのブレーン比表面積は、2500〜5000cm2/gである。また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差は、100cm2/g以上が好ましく、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、200cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子Bのブレーン比表面積が2500cm2/g未満であると、流動性が低下して自己充填性が得られ難くなるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点があり、5000cm2/gを超えると、ブレーン比表面積の数値が無機粒子Aに近づくため、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、流動性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が100cm2/g以上であることによって、配合物を構成する粒子の充填性が向上し、より優れた流動性等を確保することができる。
【0015】
無機粒子Aの配合量は、セメント100質量部に対して10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部である。無機粒子Bの配合量は、セメント100質量部に対して5〜35質量部、好ましくは10〜30質量部である。無機粒子A及び無機粒子Bの配合量が前記の数値範囲外では、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、流動性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
無機粒子Aと無機粒子Bの合計量は、セメント100質量部に対して15〜55質量部、好ましくは25〜50質量部である。合計量が15〜55質量部の範囲外では、流動性が極端に低下するので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0016】
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましく、特に、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。
減水剤の配合量は、セメント、微粒子及び無機粒子の合計量100質量部に対して、固形分換算で0.1〜4.0質量部が好ましく、0.1〜2.0質量部がより好ましい。配合量が0.1質量部未満では、混練が困難になるとともに、流動性が低下し、版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。配合量が4.0質量部を超えると、材料分離や著しい凝結遅延が生じ、また、版部材の強度等が低下することもある。
なお、減水剤は、液状または粉末状のいずれでも使用することができる。
【0017】
配合物を調製する際の水の量は、セメント、微粒子及び無機粒子の合計量100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは12〜25質量部である。水の量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、流動性が低下し、版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。水の量が30質量部を超えると、版部材の強度等が低下する。
【0018】
本発明で用いる配合物には、細骨材を配合することができる。
細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂等又はこれらの混合物を使用することができる。
細骨材は、粒径2mm以下のものを用いることが好ましい。ここで、細骨材の粒径とは、85%質量累積粒径である。細骨材の粒径が2mmを超えると、硬化後の機械的特性が低下するので好ましくない。
また、細骨材は、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下のものを用いることが好ましい。該含有量が2.0質量%を超えると、配合物の流動性が極端に低下し、版部材の製造に手間がかかるので、好ましくない。
【0019】
なお、本発明においては、版部材の強度等から、最大粒径が2mm以下の細骨材を用いることが好ましく、最大粒径が1.5mm以下の細骨材を用いることがより好ましい。また、流動性等から、75μm以下の粒子の含有量が1.5質量%以下である細骨材を用いることがより好ましい。
細骨材の配合量は、配合物の流動性や版部材の強度等の観点から、セメント、微粒子、無機粒子の合計量100質量部に対して130質量部以下であることが好ましく、自己収縮や乾燥収縮の低減、水和発熱量の低減等の観点から、10〜130質量部(さらには30〜130質量部、特に40〜130質量部)であることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いる配合物には、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を配合することができる。
金属繊維は、版部材の曲げ強度等を大幅に高める観点から、配合される。
金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、鋼繊維は、強度に優れており、また、コストや入手のし易さの点からも好ましいものである。金属繊維の寸法は、配合物中における金属繊維の材料分離の防止や、版部材の曲げ強度の向上の点から、直径が0.01〜1.0mm、長さが2〜30mmであることが好ましく、直径が0.05〜0.5mm、長さが5〜25mmであることがより好ましい。また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは40〜150である。
【0021】
金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)が好ましい。螺旋状等の形状にすれば、金属繊維とマトリックスとが引き抜けながら応力を担保するため、曲げ強度が向上する。
金属繊維の好適な例としては、例えば、直径が0.5mm以下、引張強度が1〜3.5GPaの鋼繊維からなり、かつ、120MPaの圧縮強度を有するセメント系硬化体のマトリックスに対する界面付着強度(付着面の単位面積当たりの最大引張力)が3MPa以上であるものが挙げられる。本例において、金属繊維は、波形または螺旋形の形状に加工することができる。また、本例の金属繊維の周面上に、マトリックスに対する運動(長手方向の滑り)に抵抗するための溝または突起を付けることもできる。また、本例の金属繊維は、鋼繊維の表面に、鋼繊維のヤング係数よりも小さなヤング係数を有する金属層(例えば、亜鉛、錫、銅、アルミニウム等から選ばれる1種以上からなるもの)を設けたものとしてもよい。
【0022】
金属繊維の配合量は、配合物中の体積百分率で、好ましくは4%以下、より好ましくは0.5〜3%、特に好ましくは1〜3%である。該配合量が4%を超えると、流動性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても金属繊維の補強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中でいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0023】
有機繊維及び炭素繊維は、版部材の破壊エネルギー等を高める観点から、配合される。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。中でも、ビニロン繊維及び/又はポリプロピレン繊維は、コストや入手のし易さの点で好ましく用いられる。
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられる。
有機繊維及び炭素繊維の寸法は、配合物中におけるこれら繊維の材料分離の防止や、硬化後の破壊エネルギーの向上の点から、直径が0.005〜1.0mm、長さ2〜30mmであることが好ましく、直径が0.01〜0.5mm、長さ5〜25mmであることがより好ましい。また、有機繊維及び炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは30〜150である。
【0024】
有機繊維及び炭素繊維の配合量は、配合物中の体積百分率で好ましくは10.0%以下、より好ましくは1.0〜9.0%、特に好ましくは2.0〜8.0%である。配合量が10.0%を超えると、流動性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても繊維の増強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中にいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0025】
次に、プレストレスが導入されない状態における配合物(ペースト又はモルタル)の物性(フロー値、圧縮強度、曲げ強度、破壊エネルギー)を説明する。
配合物(ペースト又はモルタル)のフロー値は、好ましくは230mm以上、より好ましくは240mm以上である。
また、無機粒子として無機粒子A及び無機粒子Bを用いた場合、配合物のフロー値は、好ましくは240mm以上、より好ましくは250mm以上である。特に、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下である細骨材を用いた場合には、該フロー値は、好ましくは250mm以上、より好ましくは265mm以上、特に好ましくは280mm以上である。なお、本明細書中において、フロー値とは、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行なわないで測定した値(本明細書中において、「0打フロー値」ともいう。)である。
また、前記フロー試験において、フロー値が200mmに達する時間は、好ましくは10.5秒以内、より好ましくは10.0秒以内である。
【0026】
硬化体(ペースト又はモルタル)の圧縮強度は、好ましくは120MPa以上、より好ましくは130MPa以上である。
硬化体(ペースト又はモルタル)の曲げ強度は、好ましくは15MPa以上、より好ましくは18MPa以上、特に好ましくは20MPa以上である。特に、配合物が金属繊維を含む場合には、硬化体の曲げ強度は、好ましくは30MPa以上、より好ましくは32MPa以上、特に好ましくは35MPa以上である。
硬化体(ペースト又はモルタル)の破壊エネルギーは、例えば、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維のいずれか1種以上を配合した場合において、好ましくは10KJ/m2以上、より好ましくは20KJ/m2以上である。
【0027】
本発明の配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水、減水剤以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、無機粒子及び細骨材)を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水及び減水剤をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状の減水剤を用意し、水以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、無機粒子、減水剤及び細骨材)を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法、等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
【0028】
本発明の版部材の製造は、配合物を所定の型枠に流し込んで硬化させ、該硬化体にプレストレスを導入し、必要に応じて表面に滑り止めなどを施すことにより行うことができる。プレストレスの導入方法は、従来から行なわれているプレテンション方式とポストテンション方式のいずれを用いて行なっても差し支えない。
プレストレスを導入することにより、厚さを薄くすることができ、軽量化が可能となる。また、非常に高い引張強度やせん断強度を発現することができる。
また、本発明で用いる配合物は、0打フロー値が230mm以上と流動性に優れ、自己充填性を有するので、版部材の製造(特に成形)を容易に行なうことができる。
なお、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行なえばよい。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
[1.使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製;ブレーン比表面積3200cm2/g)
(2)微粒子;シリカフューム(BET比表面積10m2/g)
(3)無機粒子A;石英粉末(ブレーン比表面積7500cm2/g)
(4)無機粒子B;石英粉末(ブレーン比表面積4000cm2/g)
(5)骨材;珪砂(最大粒径0.6mm、75μm以下の粒子の含有量0.3質量%)
(6)金属繊維;鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:13mm)
(7)減水剤;ポリカルボン酸系高性能AE減水剤
(8)水;水道水
前記材料を用いた実施例1〜2の配合条件を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
[2.配合物(モルタル)の調製及び評価]
各材料を個別に二軸練りミキサに投入し、混練した。混練後、次のように配合物及び硬化体の物性を測定し評価した。
(1)フロー値
「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行なわないで測定した。
(2)200mm到達時間
上記フロー試験において、フロー値が200mmに達するまでの時間を測定した。
(3)圧縮強度
各混練物をφ50×100mmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、硬化体(3本)を作製した後、「JIS A1108(コンクリートの圧縮試験方法)」に準じて、該硬化体の圧縮強度を測定した。硬化体(3本)の測定値の平均値を圧縮強度とした。
(4)曲げ強度
各混練物を4×4×16cmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、硬化体(3本)を作製した後、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じて、該硬化体の曲げ強度を測定した。載荷条件は、下支点間距離12cm、上支点間距離4cmの4点曲げとした。硬化体(3本)の測定値の平均値を曲げ強度とした。
(5)破壊エネルギー
破壊エネルギーは、上記曲げ強度試験において、荷重が最大荷重に達してから、最大荷重の1/3に低下するまでの間の荷重−荷重点変位の積分値を、供試体断面積で除した値として算出した。なお、荷重点変位としては、曲げ試験機のクロスヘッド変位量を用いた。
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
[プレストレスを導入した版部材の製造]
前述の実施例1又は2の配合物を、長さ5m、幅2m、厚さ15mmの型枠内に、高さ下面から5mmの位置に2本のプレストレス用シース管を等間隔に配置し、前述の実施例1又は2の配合物を、該型枠に流し込んだ。脱型後、90℃で48時間の蒸気養生した後、鋼棒(引っ張り応力1200MPa)を入れ、応力度800MPaで緊張させて本発明の版部材を製造した。また比較のために、プレストレスを導入しない版部材も製造した(プレストレスを導入しない版部材の厚さは20mmとした)。
本発明の版部材および比較の版部材は、大型曲げ試験機に3等分点に乗せられその初期ひび割れ強度を測定した。その結果、前述の実施例1又は2の配合物を使用してブレストレスを導入した本発明の版部材および比較の版部材とも、初期ひび割れ強度は40MPaであり、プレストレスを導入した本発明の版部材では、部材厚を25%薄く出来ることが判明した。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の版部材では、厚さを薄くできるので軽量化が可能である。また、非常に高い引張強度やせん断強度を発現することができる。さらには、耐衝撃性にも優れるものである。
また、本発明の版部材は、流動性に優れる配合物を用いて製造されるので、その製造(特に成形)を容易に行なうことができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、U字溝の蓋や床材、耐摩耗版などに使用されるセメント系硬化体からなる版部材に関し、特に、製造が容易で、厚さを薄くすることができるうえ、耐衝撃性にも優れる版部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、U字溝の蓋や床材、耐摩耗版などにコンクリート製の版部材が使用されている。また、ダムなどの耐摩耗部材には天然石材で形成された版部材が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記コンクリート製の版部材では、その厚さを厚くする必要がありその結果、版部材の質量も大きくなるので、U字溝の蓋として使用した場合の該蓋の開閉や、床材として使用した場合の敷設工事などには、重機を使用する必要があるという問題がある。一方、天然石材で形成された版部材では、高価であるほか、加工性に難があり、しかも打撃による変形が大きいという問題がある。
そこで、本発明では、製造が容易で、厚さを薄くすることができるうえ、耐衝撃性にも優れる版部材を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の材料を含む配合物の硬化体からなる版部材であれば、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、(A)ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gのセメント100質量部と、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子10〜40質量部と、(C)ブレーン比表面積2500〜30000cm2/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子15〜55質量部と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体からなる版部材であって、該硬化体にプレストレスを導入したことを特徴とするものである(請求項1)。このように構成した版部材は、そのマトリックスが、プレストレスの導入がない状態においても100MPa以上の超高強度を発現し得るものであるとともに、耐衝撃性にも優れ、また、硬化前のマトリックスの流動性が高いため、成形等の製造作業を容易かつ迅速に行なうことができ、しかも、プレストレスの導入後には、厚さを薄くすることができ、非常に高い引張強度やせん断強度を発現することができる。
上記無機粒子(C)は、ブレーン比表面積5000〜30000cm2/gの無機粒子A10〜50質量部と、ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gの無機粒子B5〜35質量部とから構成することができる(請求項2)。このようにブレーン比表面積の異なる2種の無機粒子を用いることによって、流動性及び強度発現性をより一層向上させることができる。
上記版部材は、配合物に、(F)粒径2mm以下の細骨材を含むことができる(請求項3)。
上記版部材は、配合物に、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含むことができる(請求項4)。このように金属繊維等を含むことによって、版部材の曲げ強度や破壊エネルギー等を向上させることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。
本発明において、版部材の早期強度を向上させようとする場合には、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましく、硬化前の配合物の流動性を向上させようとする場合には、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0007】
セメントのブレーン比表面積は、2500〜5000cm2/g、好ましくは3000〜4500cm2/gである。該値が2500cm2/g未満であると、水和反応が不活発になって、版部材の強度が低下する等の欠点があり、5000cm2/gを超えると、セメントの粉砕に時間がかかり、また、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、版部材の寸法変化が大きくなる等の欠点がある。
【0008】
本発明で使用する微粒子としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5〜25m2/gであり、粉砕等をする必要がないので、本発明の微粒子として好適である。
【0009】
微粒子のBET比表面積は、5〜25m2/g、好ましくは8〜25m2/gである。該値が5m2/g未満であると、配合物を構成する粒子の充填性に緻密さを欠くため、版部材の強度が低下する等の欠点があり、25m2/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、版部材の強度が低下する等の欠点がある。
微粒子の配合量は、セメント100質量部に対して10〜40質量部、好ましくは20〜40質量部である。配合量が10〜40質量部の範囲外では、流動性が極端に低下するので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0010】
本発明で使用する無機粒子としては、セメント以外の無機粒子であり、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、石灰石粉末、石英粉末は、コストの点や硬化後の品質安定性の点で好ましく用いられる。
無機粒子は、ブレーン比表面積が2500〜30000cm2/g、好ましくは4500〜20000cm2/gで、かつセメント粒子よりも大きなブレーン比表面積を有する。
無機粒子のブレーン比表面積が2500cm2/g未満であると、セメントとのブレーン比表面積の差が小さくなり、高い流動性(自己充填性)を確保することが困難になるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点があり、30000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0011】
無機粒子がセメントよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子が、セメントと微粒子との間隙を埋める粒度を有することになり、高い流動性(自己充填性)等を確保することができる。
無機粒子とセメントとのブレーン比表面積の差は、硬化前の流動性と硬化後の強度発現性の観点から、1000cm2/g以上が好ましく、2000cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子の配合量は、セメント100質量部に対して15〜55質量部、好ましくは20〜50質量部である。配合量が15〜55質量部の範囲外では、流動性が極端に低下するので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0012】
本発明においては、無機粒子として、異なる2種の無機粒子A及び無機粒子Bを併用することができる。
この場合、無機粒子Aと無機粒子Bは、同じ種類の粉末(例えば、石灰石粉末)を使用してもよいし、異なる種類の粉末(例えば、石灰石粉末及び石英粉末)を使用してもよい。
無機粒子Aは、ブレーン比表面積が5000〜30000cm2/g、好ましくは6000〜20000cm2/gのものである。また、無機粒子Aは、セメント及び無機粒子Bよりもブレーン比表面積が大きいものである。
無機粒子Aのブレーン比表面積が5000cm2/g未満であると、セメントや無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が小さくなり、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、流動性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。該ブレーン比表面積が30000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため、材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0013】
また、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bと、微粒子との間隙を埋めるような粒度を有することになり、より優れた流動性等を確保することができる。
無機粒子Aとセメント及び無機粒子Bとのブレーン比表面積の差(換言すれば、無機粒子Aと、セメントと無機粒子Bのうちブレーン比表面積の大きい方とのブレーン比表面積の差)は、硬化前の流動性と硬化後の強度発現性の観点から、1000cm2/g以上が好ましく、2000cm2/g以上がより好ましい。
【0014】
無機粒子Bのブレーン比表面積は、2500〜5000cm2/gである。また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差は、100cm2/g以上が好ましく、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、200cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子Bのブレーン比表面積が2500cm2/g未満であると、流動性が低下して自己充填性が得られ難くなるので版部材の製造に手間がかかる等の欠点があり、5000cm2/gを超えると、ブレーン比表面積の数値が無機粒子Aに近づくため、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、流動性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が100cm2/g以上であることによって、配合物を構成する粒子の充填性が向上し、より優れた流動性等を確保することができる。
【0015】
無機粒子Aの配合量は、セメント100質量部に対して10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部である。無機粒子Bの配合量は、セメント100質量部に対して5〜35質量部、好ましくは10〜30質量部である。無機粒子A及び無機粒子Bの配合量が前記の数値範囲外では、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、流動性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
無機粒子Aと無機粒子Bの合計量は、セメント100質量部に対して15〜55質量部、好ましくは25〜50質量部である。合計量が15〜55質量部の範囲外では、流動性が極端に低下するので版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。
【0016】
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましく、特に、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。
減水剤の配合量は、セメント、微粒子及び無機粒子の合計量100質量部に対して、固形分換算で0.1〜4.0質量部が好ましく、0.1〜2.0質量部がより好ましい。配合量が0.1質量部未満では、混練が困難になるとともに、流動性が低下し、版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。配合量が4.0質量部を超えると、材料分離や著しい凝結遅延が生じ、また、版部材の強度等が低下することもある。
なお、減水剤は、液状または粉末状のいずれでも使用することができる。
【0017】
配合物を調製する際の水の量は、セメント、微粒子及び無機粒子の合計量100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは12〜25質量部である。水の量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、流動性が低下し、版部材の製造に手間がかかる等の欠点がある。水の量が30質量部を超えると、版部材の強度等が低下する。
【0018】
本発明で用いる配合物には、細骨材を配合することができる。
細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂等又はこれらの混合物を使用することができる。
細骨材は、粒径2mm以下のものを用いることが好ましい。ここで、細骨材の粒径とは、85%質量累積粒径である。細骨材の粒径が2mmを超えると、硬化後の機械的特性が低下するので好ましくない。
また、細骨材は、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下のものを用いることが好ましい。該含有量が2.0質量%を超えると、配合物の流動性が極端に低下し、版部材の製造に手間がかかるので、好ましくない。
【0019】
なお、本発明においては、版部材の強度等から、最大粒径が2mm以下の細骨材を用いることが好ましく、最大粒径が1.5mm以下の細骨材を用いることがより好ましい。また、流動性等から、75μm以下の粒子の含有量が1.5質量%以下である細骨材を用いることがより好ましい。
細骨材の配合量は、配合物の流動性や版部材の強度等の観点から、セメント、微粒子、無機粒子の合計量100質量部に対して130質量部以下であることが好ましく、自己収縮や乾燥収縮の低減、水和発熱量の低減等の観点から、10〜130質量部(さらには30〜130質量部、特に40〜130質量部)であることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いる配合物には、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を配合することができる。
金属繊維は、版部材の曲げ強度等を大幅に高める観点から、配合される。
金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、鋼繊維は、強度に優れており、また、コストや入手のし易さの点からも好ましいものである。金属繊維の寸法は、配合物中における金属繊維の材料分離の防止や、版部材の曲げ強度の向上の点から、直径が0.01〜1.0mm、長さが2〜30mmであることが好ましく、直径が0.05〜0.5mm、長さが5〜25mmであることがより好ましい。また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは40〜150である。
【0021】
金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)が好ましい。螺旋状等の形状にすれば、金属繊維とマトリックスとが引き抜けながら応力を担保するため、曲げ強度が向上する。
金属繊維の好適な例としては、例えば、直径が0.5mm以下、引張強度が1〜3.5GPaの鋼繊維からなり、かつ、120MPaの圧縮強度を有するセメント系硬化体のマトリックスに対する界面付着強度(付着面の単位面積当たりの最大引張力)が3MPa以上であるものが挙げられる。本例において、金属繊維は、波形または螺旋形の形状に加工することができる。また、本例の金属繊維の周面上に、マトリックスに対する運動(長手方向の滑り)に抵抗するための溝または突起を付けることもできる。また、本例の金属繊維は、鋼繊維の表面に、鋼繊維のヤング係数よりも小さなヤング係数を有する金属層(例えば、亜鉛、錫、銅、アルミニウム等から選ばれる1種以上からなるもの)を設けたものとしてもよい。
【0022】
金属繊維の配合量は、配合物中の体積百分率で、好ましくは4%以下、より好ましくは0.5〜3%、特に好ましくは1〜3%である。該配合量が4%を超えると、流動性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても金属繊維の補強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中でいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0023】
有機繊維及び炭素繊維は、版部材の破壊エネルギー等を高める観点から、配合される。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。中でも、ビニロン繊維及び/又はポリプロピレン繊維は、コストや入手のし易さの点で好ましく用いられる。
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられる。
有機繊維及び炭素繊維の寸法は、配合物中におけるこれら繊維の材料分離の防止や、硬化後の破壊エネルギーの向上の点から、直径が0.005〜1.0mm、長さ2〜30mmであることが好ましく、直径が0.01〜0.5mm、長さ5〜25mmであることがより好ましい。また、有機繊維及び炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは30〜150である。
【0024】
有機繊維及び炭素繊維の配合量は、配合物中の体積百分率で好ましくは10.0%以下、より好ましくは1.0〜9.0%、特に好ましくは2.0〜8.0%である。配合量が10.0%を超えると、流動性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても繊維の増強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中にいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0025】
次に、プレストレスが導入されない状態における配合物(ペースト又はモルタル)の物性(フロー値、圧縮強度、曲げ強度、破壊エネルギー)を説明する。
配合物(ペースト又はモルタル)のフロー値は、好ましくは230mm以上、より好ましくは240mm以上である。
また、無機粒子として無機粒子A及び無機粒子Bを用いた場合、配合物のフロー値は、好ましくは240mm以上、より好ましくは250mm以上である。特に、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下である細骨材を用いた場合には、該フロー値は、好ましくは250mm以上、より好ましくは265mm以上、特に好ましくは280mm以上である。なお、本明細書中において、フロー値とは、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行なわないで測定した値(本明細書中において、「0打フロー値」ともいう。)である。
また、前記フロー試験において、フロー値が200mmに達する時間は、好ましくは10.5秒以内、より好ましくは10.0秒以内である。
【0026】
硬化体(ペースト又はモルタル)の圧縮強度は、好ましくは120MPa以上、より好ましくは130MPa以上である。
硬化体(ペースト又はモルタル)の曲げ強度は、好ましくは15MPa以上、より好ましくは18MPa以上、特に好ましくは20MPa以上である。特に、配合物が金属繊維を含む場合には、硬化体の曲げ強度は、好ましくは30MPa以上、より好ましくは32MPa以上、特に好ましくは35MPa以上である。
硬化体(ペースト又はモルタル)の破壊エネルギーは、例えば、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維のいずれか1種以上を配合した場合において、好ましくは10KJ/m2以上、より好ましくは20KJ/m2以上である。
【0027】
本発明の配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水、減水剤以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、無機粒子及び細骨材)を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水及び減水剤をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状の減水剤を用意し、水以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、無機粒子、減水剤及び細骨材)を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法、等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
【0028】
本発明の版部材の製造は、配合物を所定の型枠に流し込んで硬化させ、該硬化体にプレストレスを導入し、必要に応じて表面に滑り止めなどを施すことにより行うことができる。プレストレスの導入方法は、従来から行なわれているプレテンション方式とポストテンション方式のいずれを用いて行なっても差し支えない。
プレストレスを導入することにより、厚さを薄くすることができ、軽量化が可能となる。また、非常に高い引張強度やせん断強度を発現することができる。
また、本発明で用いる配合物は、0打フロー値が230mm以上と流動性に優れ、自己充填性を有するので、版部材の製造(特に成形)を容易に行なうことができる。
なお、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行なえばよい。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
[1.使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製;ブレーン比表面積3200cm2/g)
(2)微粒子;シリカフューム(BET比表面積10m2/g)
(3)無機粒子A;石英粉末(ブレーン比表面積7500cm2/g)
(4)無機粒子B;石英粉末(ブレーン比表面積4000cm2/g)
(5)骨材;珪砂(最大粒径0.6mm、75μm以下の粒子の含有量0.3質量%)
(6)金属繊維;鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:13mm)
(7)減水剤;ポリカルボン酸系高性能AE減水剤
(8)水;水道水
前記材料を用いた実施例1〜2の配合条件を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
[2.配合物(モルタル)の調製及び評価]
各材料を個別に二軸練りミキサに投入し、混練した。混練後、次のように配合物及び硬化体の物性を測定し評価した。
(1)フロー値
「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行なわないで測定した。
(2)200mm到達時間
上記フロー試験において、フロー値が200mmに達するまでの時間を測定した。
(3)圧縮強度
各混練物をφ50×100mmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、硬化体(3本)を作製した後、「JIS A1108(コンクリートの圧縮試験方法)」に準じて、該硬化体の圧縮強度を測定した。硬化体(3本)の測定値の平均値を圧縮強度とした。
(4)曲げ強度
各混練物を4×4×16cmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、硬化体(3本)を作製した後、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準じて、該硬化体の曲げ強度を測定した。載荷条件は、下支点間距離12cm、上支点間距離4cmの4点曲げとした。硬化体(3本)の測定値の平均値を曲げ強度とした。
(5)破壊エネルギー
破壊エネルギーは、上記曲げ強度試験において、荷重が最大荷重に達してから、最大荷重の1/3に低下するまでの間の荷重−荷重点変位の積分値を、供試体断面積で除した値として算出した。なお、荷重点変位としては、曲げ試験機のクロスヘッド変位量を用いた。
結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
[プレストレスを導入した版部材の製造]
前述の実施例1又は2の配合物を、長さ5m、幅2m、厚さ15mmの型枠内に、高さ下面から5mmの位置に2本のプレストレス用シース管を等間隔に配置し、前述の実施例1又は2の配合物を、該型枠に流し込んだ。脱型後、90℃で48時間の蒸気養生した後、鋼棒(引っ張り応力1200MPa)を入れ、応力度800MPaで緊張させて本発明の版部材を製造した。また比較のために、プレストレスを導入しない版部材も製造した(プレストレスを導入しない版部材の厚さは20mmとした)。
本発明の版部材および比較の版部材は、大型曲げ試験機に3等分点に乗せられその初期ひび割れ強度を測定した。その結果、前述の実施例1又は2の配合物を使用してブレストレスを導入した本発明の版部材および比較の版部材とも、初期ひび割れ強度は40MPaであり、プレストレスを導入した本発明の版部材では、部材厚を25%薄く出来ることが判明した。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の版部材では、厚さを薄くできるので軽量化が可能である。また、非常に高い引張強度やせん断強度を発現することができる。さらには、耐衝撃性にも優れるものである。
また、本発明の版部材は、流動性に優れる配合物を用いて製造されるので、その製造(特に成形)を容易に行なうことができる。
Claims (4)
- (A)ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gのセメント100質量部と、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子10〜40質量部と、(C)ブレーン比表面積2500〜30000cm2/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子15〜55質量部と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体からなる版部材であって、該硬化体にプレストレスを導入したことを特徴とする版部材。
- 上記無機粒子(C)が、ブレーン比表面積5000〜30000cm2/gの無機粒子A10〜50質量部と、ブレーン比表面積2500〜5000cm2/gの無機粒子B5〜35質量部とからなる請求項1記載の版部材。
- 配合物に、(F)粒径2mm以下の細骨材を含む請求項1又は2に記載の版部材。
- 配合物に、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含む請求項1〜3のいずれかに記載の版部材。
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