JP2004277858A - 超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板およびその製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】鋼成分中、特にC,Si, Mn, Ni, Ti及びNbが次式(1), (2), (3)をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成にすると共に、主相として平均結晶粒径が 3.5μm 以下のフェライト相を75 vol%以上有し、残部は実質的に焼戻しマルテンサイトからなる鋼組織とする。
637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 −−− (1)
A3 ≦ 860 −−− (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 −−− (3)
ただし、Ti* = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] 、A1 :計算式により求めたA1 変態点の予測値(℃)、A3 :計算式により求めたA3 変態点の予測値(℃)
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や家電、さらには機械構造用鋼としての用途に供して好適な冷延鋼板、とくに超微細粒組織を有し、強度、延性に優れ、さらには衝撃吸収特性にも優れる高張力冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用、家電用および機械構造用鋼板として用いられる鋼材には、強度および加工性といった機械的性質に優れていることが要求される。さらに、自動車用鋼板においては、衝突時における乗員の保護の面から、高強度化に加えて衝撃吸収特性にも優れていることが要求されている。これらの諸特性を総合的に向上させる手段としては、組織を微細化することが有効であることから、これまでにも微細組織を得るための製造方法が数多く提案されてきた。
【0003】
組織の微細化手段としては、従来から大圧下圧延法が知られている。この大圧下圧延法における組織の微細化機構の要点は、オーステナイト粒に大圧下を加えて、γ−α歪誘起変態を促進させることにある(例えば特許文献1)。
また、制御圧延法や制御冷却法を適用した場合などについても知られている(例えば特許文献2)。
【0004】
その他、素材鋼について、少なくとも一部がフェライトからなる鋼組織としておき、これに塑性加工を付加しつつ変態点(Ac1点)以上の温度域に昇温するか、この昇温に続いてAc1点以上の温度域に一定時間保持して、組織の一部または全部を一旦オーステナイトに逆変態させたのち、超微細オーステナイト粒を出現させ、その後冷却して平均結晶粒径が5μm 以下の等方的フェライト結晶粒を主体とする組織にする技術が提案されている(例えば特許文献3)。
【0005】
以上のような技術は全て、熱延プロセスにおいて結晶粒を微細化する技術、すなわち熱延板の微細粒化を狙った技術である。
この点、熱延鋼板に比べて板厚が薄く、板厚精度や表面性状が厳しい用途、あるいは表面に亜鉛や錫などのめっきを施す用途に適用される冷延鋼板に対しては、通常の冷間圧延−焼鈍プロセスにおいて結晶粒を微細化する技術はほとんど見当たらない。
【0006】
また、衝撃吸収能に優れる高強度鋼板としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織からなる二相組織鋼板(DP鋼板)が代表的である(例えば特許文献4)。
しかしながら、本来、降伏強度が低いDP鋼板が高い衝撃吸収能を示すのは、プレス加工による加工硬化が大きいこと、および加工歪が入るとそれに続く塗装焼付け工程で歪時効を生じて降伏強度が大きく上昇することがその理由であり、曲げ加工など加工量の小さな部品では必ずしも十分な衝撃吸収能を発揮しないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】
特公平5−65564 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭63−128117号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平2−301540号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開平9−111396号公報(特許請求の範囲)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、自動車用、家電用および機械構造用鋼板等として用いられる冷延鋼板について、その超微細粒化を可能ならしめ、強度、延性、さらには衝撃吸収特性を効果的に向上させた超微細粒組織を有する冷延鋼板を、その有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0009】
ここに、本発明における冷延鋼板の強度−延性バランスおよび衝撃吸収特性の目標値は次のとおりである。
・強度−延性バランス(TS×El)≧ 17000 MPa・%
・衝撃吸収特性:衝撃吸収エネルギー(AE)≧100 MJ/m3 かつ引張強度TS(MPa) との比(AE/TS)≧0.15
【0010】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、合金元素を適正に調整して鋼板の再結晶温度とA1 およびA3 変態温度を制御した上で、冷延後の再結晶焼鈍温度およびその後の冷却速度を適正化することにより、主相であるフェライトの平均結晶粒径が 3.5μm 以下の超微細粒組織になると共に、第2相を焼戻しマルテンサイト(一旦急冷してマルテンサイトに変態させたものを 300℃以上の温度に再加熱して得る)にすることにより衝撃吸収特性が著しく向上することの知見を得た。
本発明は、上記知見に立脚するものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、フェライト相の体積分率が75%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が 3.5μm 以下で、さらにフェライト相以外の残部組織が実質的に焼戻しマルテンサイトの鋼組織になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0012】
2.上記1において、鋼板が、さらに質量%で、
Mo:1.0 %以下および
Cr:1.0 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板。
【0013】
3.上記1または2において、鋼板が、さらに質量%で、
Ca, REMおよびBのうちから選んだ一種または二種以上を合計で 0.005%以下
を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板。
【0014】
4.質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 200℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、さらにその後 300℃以上、下記(5) 式で求められる温度A1 (℃)以下の温度域に30〜400 秒保持することを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板の製造方法。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0015】
5.上記4において、鋼素材が、さらに質量%で、
Mo:1.0 %以下および
Cr:1.0 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板の製造方法。
【0016】
6.上記4または5において、鋼素材が、さらに質量%で、
Ca, REMおよびBのうちから選んだ一種または二種以上を合計で 0.005%以下
を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.03〜0.16%
Cは、安価な強化成分であるだけでなく、マルテンサイト等の低温変態相を生成させる上でも有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.16%を超えて含有させると延性や溶接性が劣化するため、Cは0.03〜0.16%の範囲に限定した。
【0018】
Si:2.0 %以下
Siは、固溶強化成分として、強度−伸びバランスを改善しつつ強度を向上させるのに有効に寄与するが、過剰な添加は、延性や表面性状、溶接性を劣化させるので、Siは 2.0%以下で含有させるものとした。なお、好ましくは0.01〜0.6 %の範囲である。
【0019】
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下
MnおよびNiはいずれも、オーステナイト安定化元素であり、A1 ,A3 変態点を低下させる作用を通じて結晶粒の微細化に寄与し、また第2相の形成を進展させる作用を通じて強度−延性バランスを高める作用を有する。しかしながら、多量の添加は鋼を硬質化し、却って強度−延性バランスを劣化させるので、いずれも 3.0%以下で含有させるものとした。
なお、Mnは、有害な固溶SをMnSとして無害化する作用も併せて有するので、0.1 %以上含有させることが好ましい。また、Niは0.01%以上含有させることが好ましい。
【0020】
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下
Ti, Nbを添加することによって、TiCやNbC等が析出し、鋼板の再結晶温度が上昇する効果がある。そのためには、それぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。そして、これらは各々単独で添加しても複合して添加してもよいが、いずれも 0.2%を超えて添加しても効果が飽和するだけでなく、析出物が多くなりすぎてフェライトの延性の低下を招くので、いずれも 0.2%以下で含有させるものとした。
【0021】
Al:0.01〜0.1 %
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸の工程で添加することが望ましい。ここに、Al量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.1%を超えると効果は飽和し、むしろ製造コストの上昇を招くので、Alは0.01〜0.1 %の範囲に限定した。
【0022】
P:0.1 %以下
Pは、延性の大きな低下を招くことなく安価に高強度化を達成する上で有効な元素であるが、一方で多量の含有は加工性や靱性の低下を招くので、Pの含有量は 0.1%以下とした。なお、加工性や靱性に対する要求が厳しい場合には、Pはむしろ低減させることが好ましいので、この場合には0.02%以下とすることが望ましい。
【0023】
S:0.02%以下
Sは、熱延時における熱間割れの原因になるだけでなく、鋼板中にMnS等の介在物として存在し延性や伸びフランジ性の劣化を招くので、極力低減することが望ましいが、0.02%までは許容できるので、本発明では0.02%以下とした。
【0024】
N:0.005 %以下
窒素は、時効劣化をもたらす他、靱性の低下を通じて衝撃吸収特性を劣化させるため、0.005 %以下に抑制するものとした。
【0025】
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Mo:1.0 %以下およびCr:1.0 %以下のうちから選んだ一種または二種
Mo,Crはいずれも、強化成分として、必要に応じて含有させることができるが、多量の添加はかえって強度−延性バランスを劣化させるので、それぞれ 1.0%以下で含有させることが望ましい。なお、上記の作用を十分に発揮させるには、Mo, Crはそれぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。
【0026】
Ca, REM およびBのうちから選んだ一種または二種以上を合計で 0.005%以下
Ca, REM,Bはいずれも、硫化物の形態制御や粒界強度の上昇を通じて加工性を改善する効果を有しており、必要に応じて含有させることができる。しかしながら、過剰な含有は清浄度に悪影響を及ぼすおそれがあるため、合計で 0.005%以下とするのが望ましい。なお、上記した作用を十分に発揮させるにはCa, REM,Bのうちから選んだいずれか一種または二種以上を0.0005%以上含有させることが好ましい。
【0027】
以上、適正な成分組成範囲について説明したが、本発明では各成分が上記の組成範囲を単に満足しているだけでは不十分で、C,Si, Mn, Ni, TiおよびNbについては、下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲で含有させる必要がある。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0028】
なお、上記のA1 , A3 はそれぞれ、鋼のAc1変態点温度(℃)、Ac3変態点温度(℃)の予測値であり、発明者らの詳細な基礎実験に基づいて導出された成分回帰式である。この予測値温度(℃)は、2℃/s以上、20℃/s以下の昇温速度で加熱する際に適用して特に好適である。
【0029】
以下、上記の(1), (2), (3) 式の限定理由を順に説明する。
(1) 式は、Ti,Nbの添加量を規定する条件であり、以下の知見に基づく。
一般に、Ti,Nbを添加するとTiCやNbC等が析出し、鋼板の再結晶温度が上昇する効果があることが知られている。そこで、Ti,Nb添加量と再結晶温度Treの関係について詳細に調査したところ、Ti,Nbをある量以上添加すると、再結晶温度は上記(6) 式で算出されるA3 と等価になることが判明した。
【0030】
図1に、A1 =700 ℃、A3 =855 ℃に調整した鋼組成において、Ti,Nb添加量を種々に変更した場合のTi,Nb添加量と再結晶温度Treとの関係について調べた結果を示す。なお、ここで再結晶温度Treは、加熱温度を種々に変化させて連続焼鈍を実験室的に行い、硬度を測定すると共に組織を観察することにより決定した。また、Ti添加量はTiCを析出させる上での有効Ti量としてTi* を用い、Nb添加量はTiに換算するため 48/93・[%Nb] を用いて、Ti, Nb添加量と再結晶温度との関係について表わしている。
同図によれば、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }が 700℃すなわちA1 以上になると、再結晶温度Treは 855℃近傍すなわちA3 近傍に急上昇し飽和することが分かる。
【0031】
次に、図2に、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 の条件下において、A3 (C,Si,Mn, Ni等を変化させることで変動)を種々に変化させた場合におけるA3 と再結晶温度Treとの関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 の条件下では、再結晶温度TreはA3 と等価になっている。
【0032】
この理由については、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
すなわち、Ti,Nbが添加され、それらの微細炭窒化物のピン止め力により再結晶温度が上昇し、A1 未満のフェライト(α)域で再結晶できなくなった場合、未再結晶の加工αのまま(フェライト+オーステナイト(γ))2相域温度になり、高転位密度部、不均一変形部などの優先核生成サイトにおいて、加工αからの再結晶α核生成とα→γ変態核生成の競合が生じる。この時、α→γ変態の駆動力の方が再結晶の駆動力よりも大きいため、再結晶α核生成より優先してγ核が次々と生成し、優先核生成サイトを占有すると考えられる。
このα→γ変態での原子再配列により歪み(転位)は消費され、転位密度の低い加工αのみ残留し、加工αの再結晶はますます困難となる。温度が上昇し、A3 を超え、γ単相域になって初めて歪みが完全に解消され、見かけ上再結晶が完了する。これが、再結晶温度がA3 に一致し、飽和する機構と考えられる。
なお、この際のα→γ変態は、加工α(優先核生成サイトが多い)から核生成することになるので、再結晶が完了した高温でのγ粒は微細化する。従って、焼鈍中の高温γ粒微細化のために再結晶温度をA3 に調整することは極めて有効であるので、本発明では式(1) を満足するTi, Nbを添加することにしたのである。
【0033】
次に、 (2)式は、A3 を規定する条件である。
上述したとおり、 (1)式を満足する場合には、A3 は実質的に再結晶温度になるため、A3 以上の温度で再結晶焼鈍を行う必要がある。ここに、A3 が 860℃を超えた場合、再結晶焼鈍温度をより高温で施す必要が生じ、γ粒成長が激しく、結果として平均結晶粒径:3.5 μm 以下の微細粒は得られなかった。よって、A3 ≦860 ℃を満足させる必要がある。なお、好ましくはA3 ≦830 ℃である。
【0034】
次に、 (3)式は、MnやNiすなわちオーステナイト安定化元素の添加量を規定する条件である。
オーステナイト安定化元素の増大により、CCT 図におけるフェライトスタート線が低温側にシフトすることにより、焼鈍後の冷却過程におけるγ→α変態時の変態過冷度が増大してαが微細核生成することにより、α結晶粒が微細化する。ここに、平均結晶粒径:3.5 μm 以下の微細粒を得るためには、上掲した(1), (2)式に加えて [%Mn]+[%Ni] ≧ 1.3(%)とする必要があった。
なお、 [%Mn]+[%Ni] ≧ 1.3(%)さえ満足していれば、MnやNiは単独添加でも複合添加でもどちらでも良い。より好ましくは [%Mn]+[%Ni] ≧ 2.0(%)の範囲である。
【0035】
次に鋼組織について説明する。
本発明では、鋼組織は、体積分率で75%以上を平均結晶粒径が 3.5μm 以下のフェライト相とし、残部は実質的に焼戻しマルテンサイトよりなる相とする。
というのは、本発明で所期した強度、延性および衝撃吸収特性を得るには微細フェライトを主体とする必要があり、特にその粒径を平均結晶粒径が 3.5μm 以下とすることが重要だからである。
ここに、フェライトの平均結晶粒径が 3.5μm を超えると強度−延性バランスが低下し、また軟質なフェライトの体積分率が75%に満たないと延性が低下して加工性に乏しくなる。
【0036】
一方、フェライト相以外の第2相組織を、実質的に焼戻しマルテンサイト相としたのは、第2相を焼戻しマルテンサイトとすることにより、強度−延性バランスおよび衝撃吸収特性が有利に向上するからである。
そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、焼き戻されて十分な延性を有する焼戻しマルテンサイトとすることで、強度を維持しつつ良好な延性を確保できることによるものと考えられる。
【0037】
なお、焼戻しマルテンサイトの他にベイナイト、セメンタイトなどの副相が混入する場合もあるが、これらの体積分率が組織全体に対して3 vol%未満であれば特に問題はない。
また、本発明鋼においては、フェライト相の平均結晶粒径を 3.5μm 以下とすることにより、第2相の焼戻しマルテンサイト相の平均結晶粒径も概ね2μm 以下となる。
【0038】
次に、製造条件について説明する。
上記の好適成分組成に調整した鋼を、転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。この鋼素材を、高温状態のまま、あるいは一旦冷却したのち、1200℃以上に加熱してから、熱間圧延を施し、ついで冷間圧延後、温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 200℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、ついで 300℃以上、前掲(5) 式で求められる温度A1(℃)以下の温度域に30〜400 秒保持する。
【0039】
上記の工程において、スラブの加熱温度が1200℃未満では、TiCなどが十分に固溶せずに粗大化し、後の再結晶焼鈍工程での再結晶温度上昇効果および結晶粒成長抑止効果が不十分となるため、スラブの加熱温度は1200℃以上とする必要がある。
また、本発明において、熱間仕上げ圧延出側温度は特に限定されるものではないが、Ar3変態点未満では、圧延中にαとγが生じて、鋼板にバンド状組織が生成し易くなり、かかるバンド状組織は冷間圧延後や焼鈍後にも残留し、材料特性に異方性を生じさせる原因となる場合があるので、仕上げ圧延終了温度はAr3変態点以上とすることが好ましい。
【0040】
熱延終了後の巻取り温度も特に限定されるものではないが、500 ℃未満または650 ℃超えでは、窒素による時効劣化を抑制するためのAlNの析出が不十分であり、材料特性が劣ることとなる。また、鋼板の組織を均一化し、その結晶粒径をなるべく微細で均一化するためにも、コイルの巻取り温度は 500℃以上、 650℃以下とすることが好ましい。
【0041】
ついで、好ましくは熱延鋼板表面の酸化スケールを酸洗により除去したのち、冷間圧延に供して、所定の板厚の冷延鋼板とする。ここに、酸洗条件や冷間圧延条件は特に制限されるものでなく、常法に従えばよい。
なお、冷間圧延時の圧下率は、再結晶焼鈍時の核生成サイトを増やし、結晶粒の微細化を促すという観点から40%以上とすることが望ましく、一方圧下率を上げすぎると鋼板の加工硬化によって操業が困難となるので、圧下率の上限は90%以下程度とするのが好ましい。
【0042】
ついで、得られた冷延鋼板を、前掲(6) 式に示した温度A3(℃)以上、(A3+30)(℃)以下に加熱して、再結晶焼鈍を施す。
前述のように成分調整した本発明の鋼素材では、A3 が実質的に再結晶温度と等価となっているので、A3 未満の温度では再結晶が不十分となる。一方、(A3 +30)(℃)を超える温度では、焼鈍中のγ粒の成長が激しく、微細化に不適切である。この再結晶焼鈍は、連続焼鈍ラインで行うことが好ましく、連続焼鈍する場合の焼鈍時間は再結晶が生じる10秒から 120秒程度とすることが好ましい。というのは、10秒より短時間では再結晶が不十分であり、圧延方向に伸展したままの加工組織、再結晶していない回復組織が残存するために、十分な延性が確保できない場合があり、一方 120秒より長時間ではγ結晶粒の粗大化を招いて、所望の強度を得ることができないことがあるからである。
【0043】
引き続き、焼鈍温度から少なくとも 200℃まで5℃/s以上の速度で冷却する。なお、ここで冷却速度は、焼鈍温度から 200℃までの平均冷却速度である。ここに、上記冷却速度が5℃/s未満では、冷却中におけるγ→α変態時の過冷度が小さく、結晶粒が粗大化する。よって、焼鈍温度から少なくとも 200℃までの冷却速度は5℃/s以上とする必要がある。
また、上記の制御冷却処理の終点温度を 200℃としたのは、結晶粒の微細化と同時に、パーライトやベイナイトへの変態を抑制してマルテンサイト変態を生じさせるためである。なお、200 ℃以下の処理は特に限定する必要はなく、例えば200 ℃以下も引き続き5℃/s以上で冷却する等、適宜冷却してよい。
【0044】
さらに、これに続いて 300℃以上、前掲(5) 式で求められる温度A1 (℃)以下の温度域に30〜400 秒保持する。
ここに、保持温度が 300℃未満、また保持時間が30s未満の場合には、マルテンサイトの焼戻しが進行せず、無加工の状態で良好な衝撃吸収特性が得られない。すなわち、(フェライト+マルテンサイト)組織は無加工の状態で降伏点が低く、十分な衝撃吸収特性を有していないが、マルテンサイトを焼戻すことによって降伏点が上昇し、無加工でも良好な衝撃吸収特性が得られるようになる。
一方、A1 (℃)を超える温度に加熱した場合は、再度オーステナイト(γ)を生じて、冷却中にパーライト、ベイナイト、マルテンサイトなどの変態相が再生されるため、良好な衝撃吸収特性が得られない。同じく、保持時間が 400sを超えても焼戻し効果が飽和するばかりか、結晶粒の成長が生じて諸特性の低下を招くようになる。
【0045】
なお、焼戻しマルテンサイトとするための加熱処理は、焼鈍・冷却を行った同じラインで実施しても、焼鈍・冷却後に別のラインで実施してもいずれでも効果に変わりはなく、適宜選択してよい。また、連続溶融亜鉛めっきライン等で焼鈍を行うと共に、同じライン内で亜鉛めっきなどの表面処理を施しても特性に変わりはなく、さらに焼鈍・冷却後の再加熱のみをめっきラインで実施することも何ら妨げるものではない。
かくして、上記の製造方法とすることにより、超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板を得ることができるのである。
【0046】
【実施例】
表1に示す成分組成になるスラブを、表2に示す条件でスラブ加熱後、常法に従い熱間圧延して4.0mm 厚の熱延板とした。この熱延板を、酸洗後、冷間圧延(圧下率:60%)して、1.6 mm厚の冷延板としたのち、連続焼鈍ラインにて同じく表2に示す条件下で再結晶焼鈍および再加熱処理を施し、製品板とした。
かくして得られた製品板の組織、引張特性および衝撃吸収特性について調査した結果を表3に示す。
【0047】
なお、組織は、鋼板の圧延方向断面について、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて観察し、フェライトの平均結晶粒径を求めると共に、各組識の面積率を求めてこれを体積率とした。ここで、フェライトの平均結晶粒径はJIS G 0552に規定される切断法に準拠して求めた。
引張特性(引張強さTS、伸びEL)は、鋼板の圧延方向から採収したJIS 5号試験片を用いた引張試験により測定した。
衝撃吸収特性は、同じく無加工の鋼板の圧延方向から採取した試験片を用い、歪速度:2000(s−1)で引張試験を行ったときの変形量:15%までの吸収エネルギーで評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示したとおり、発明例はいずれも、75%以上の分率を占める主相フェライトの平均粒径が 3.3μm 以下と微細であり、特にNi,Mn量を増量してA3 を低下させたG鋼を用いたNo.16 は、平均結晶粒径が 1.0μm と超微細粒となっている。また、発明例はいずれも、TS×ELが 17000 MPa・%以上と強度−延性バランスに優れ、さらに衝撃吸収エネルギー(AE)が 100 MJ/m3以上でかつTSとの比(AE/TS)も0.15以上と、衝撃吸収特性にも優れていることが分かる。
【0052】
これに対し、No.3は、再加熱の温度が 250℃と低すぎるため、マルテンサイトが十分焼き戻されず、衝撃吸収エネルギーが劣っている。
No.4は、再加熱温度が730 ℃とA1 点(680 ℃)を超えているため、冷却中にマルテンサイトやベイナイトが再生され、衝撃吸収エネルギーが劣っている。
No.5は、再加熱時間が30s未満であるため、マルテンサイトが十分焼き戻されず、衝撃吸収エネルギーが劣っている。
No.6は:再加熱時間が 400sを超えているため、焼戻の間にフェライトの粒成長が生じ、TS×EL、衝撃吸収エネルギーが劣っている。
No.11 は、スラブの加熱温度が低かったため、TiCが粗大化し、再結晶温度上昇効果が抑制されて鋼板の結晶粒径微細化効果が得られず、結晶粒径が大きくなった。TS×ELおよび衝撃吸収エネルギーも小さくなっている。
No.12 は、焼鈍温度が本発明の適正上限温度(846 ℃)を大きく超えたため、結晶粒成長が激しく、TS×EL、衝撃吸収エネルギーが劣っている。
No.13 は、焼鈍温度が本発明の下限(816 ℃)に満たなかったため、再結晶が完了せず、加工組織が残留したため、TS×EL、衝撃吸収エネルギーが極めて劣っている。
No.14 は、焼鈍後の冷却速度が小さかったために、結晶粒が粗大化して強度が低下し、TS×EL、衝撃吸収エネルギーの劣化を招いた。
No.23 は、再結晶温度がAl未満であるため、再結晶焼鈍によるγ粒微細化効果が得られず、粗大粒となったため、十分な強度が得られなかった。
No.24 は、A3 が 860℃を超えていることから、高温焼鈍が必要となり、その結果結晶粒が成長して、TS×EL、衝撃吸収エネルギーが劣っている。
No.25 は、(Ni+Mn)量が少ないために、焼鈍後冷却過程でのγ−α変態時の過冷度が小さく、αが微細核生成することができなかったため、結晶粒が粗大化した。
【0053】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、超微細粒組織を有し、機械的特性なかでも強度−伸びバランスおよび衝撃吸収エネルギーに優れた高張力冷延鋼板を、製造設備の大幅な改造を伴うことなしに安定して製造することができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】A1 =700 ℃、A3 =855 ℃に調整した鋼組成において、Ti,Nb添加量を種々に変更した場合のTi,Nb添加量と再結晶温度との関係を示した図である。
【図2】637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 の条件下において、A3 を種々に変化させた場合におけるA3 と再結晶温度Treとの関係を示した図である。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、フェライト相の体積分率が75%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が 3.5μm 以下で、さらにフェライト相以外の残部組織が実質的に焼戻しマルテンサイトの鋼組織になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 請求項1において、鋼板が、さらに質量%で、
Mo:1.0 %以下および
Cr:1.0 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板。 - 請求項1または2において、鋼板が、さらに質量%で、
Ca, REMおよびBのうちから選んだ一種または二種以上を合計で 0.005%以下
を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板。 - 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 200℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、さらにその後 300℃以上、下記(5) 式で求められる温度A1 (℃)以下の温度域に30〜400 秒保持することを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板の製造方法。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 請求項4において、鋼素材が、さらに質量%で、
Mo:1.0 %以下および
Cr:1.0 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板の製造方法。 - 請求項4または5において、鋼素材が、さらに質量%で、
Ca, REMおよびBのうちから選んだ一種または二種以上を合計で 0.005%以下
を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有し衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板の製造方法。
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