JP2004261858A - マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ - Google Patents
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Abstract
【課題】マルテンサイト系ステンレス鋼管用溶接ワイヤを提案する。
【解決手段】C+N:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:0.2 〜3.0 %、Cr:11〜15%、Ni:2〜10%、O:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面にCuめっきを施すか、またはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施してなる溶接用ワイヤとする。上記した組成に加えて、さらに、Cu、Moのうちの1種または2種、V、Tiのうちの1種または2種、Co、Wのうちの1種または2種、Nb、Zr、Ta、Bのうちの1種または2種以上を含有してもよい。これらのワイヤを用いて、マルテンサイト系ステンレス鋼管の端部同士を突合せて、シールドガスを不活性ガスとするアーク溶接により円周溶接することにより、高靭性で溶接欠陥のない高品質の溶接部を有する鋼管溶接構造物とすることができる。
【選択図】 なし
【解決手段】C+N:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:0.2 〜3.0 %、Cr:11〜15%、Ni:2〜10%、O:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面にCuめっきを施すか、またはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施してなる溶接用ワイヤとする。上記した組成に加えて、さらに、Cu、Moのうちの1種または2種、V、Tiのうちの1種または2種、Co、Wのうちの1種または2種、Nb、Zr、Ta、Bのうちの1種または2種以上を含有してもよい。これらのワイヤを用いて、マルテンサイト系ステンレス鋼管の端部同士を突合せて、シールドガスを不活性ガスとするアーク溶接により円周溶接することにより、高靭性で溶接欠陥のない高品質の溶接部を有する鋼管溶接構造物とすることができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラインパイプとして好適なマルテンサイト系ステンレス鋼管のアーク溶接用ワイヤに係り、とくにワイヤ送給性に優れ、かつ全姿勢においてビード形状に優れ、さらに高靭性を有する溶接部を得ることができるアーク溶接用ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、生産される石油・天然ガスは、湿潤な炭酸ガスや硫化水素を含有するものが増加している。このような湿潤な炭酸ガスや硫化水素を含む石油・天然ガスは、炭素鋼や低合金鋼を著しく腐食することが知られている。こうした腐食性の石油・天然ガスをパイプラインで輸送するに際しては、ラインパイプ(鋼管)の防食対策として、腐食抑制剤の添加が一般的であった。しかし、腐食抑制剤の添加はコストの増加をもたらし、さらには環境汚染の問題もあって、その使用は困難となりつつあり、最近では、腐食抑制剤の添加を必要としない耐食性に優れた鋼管の使用が指向されるようになってきた。
【0003】
耐食性に優れたラインパイプ用材料として、例えば、特許文献1、特許文献2に、CおよびNを低減し、オーステナイト安定化元素を添加した、11〜15%程度のCrを含有する、溶接性に優れかつ炭酸ガス含有環境下での耐食性に優れたラインパイプ用低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼管が提案されている。
ところで、ラインパイプは円周溶接により接続されるが、このような低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼管を円周溶接するに際して、使用できる適切な溶接材料あるいは適切な溶接方法がなく、パイプラインの敷設に問題を残していた。このような問題に対し、例えば、特許文献3には、マルテンサイト系ステンレス鋼用溶接線材として、C:0.01〜0.04wt%、かつC+N:0.02〜0.06wt%、Si:0.01〜0.5 wt%、Mn:0.1 〜2.0 wt%、Cr:11.0〜15.0wt%、Ni:3.5 〜7.0wt %、Mo:0.7 〜3.0 wt%、Nb:0.01〜0.2 wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分系が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、得られる溶接金属の靱性は、0℃でのシャルピー吸収エネルギーが100 J程度の靱性レベルであり、しかもこの程度の靱性を有する溶接金属を得るために1hr以上の後熱処理を要するなど、溶接施工性に問題を残していた。
パイプラインの敷設には、短時間の施工が要求される。とくに、海底パイプラインの敷設は、一般に、ラインパイプを敷設船上で円周溶接するが、敷設船の賃貸料が高価なため、敷設船上での溶接時間を短時間とすることが必須条件となる。したがって、長時間を要する予熱や後熱を必要とする溶接材料の使用は敬遠されることになる。また、パイプラインは厳寒の地に敷設されることも多いことから、ラインパイプには低温、例えば−40℃での高靱性が要求される場合が多い。
【0005】
このような要求に対し、例えば、特許文献4には、Cr:7.5 〜12.0%を含有するマルテンサイト系高Cr鋼を、C:0.005 〜0.12%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.02〜2.0 %、Cr:13.0〜18.0%、Ni:3.0 〜5.0 %、N:0.05〜0.12%を含有し、P:0.03%以下、S:0.01%以下に制限し、かつCr当量/Ni当量比を1.6 〜2.0 に調整したステンレス鋼ワイヤを用いてガスシールドアーク溶接し、溶接金属組織を調整する溶接方法が記載されている。特許文献4に記載された技術では、予熱、後熱を必要とせず、強度と靭性に優れ、さらに耐食性に優れた高Cr鋼の溶接が可能となるとしている。
【0006】
【特許文献1】
特開平4−99154号公報
【特許文献2】
特開平4−99155号公報
【特許文献3】
特開平7−185879 号公報
【特許文献4】
特開平9−295185 号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献4に記載された技術では、ビードが凸形状となりやすく、そのため、融合不良等の溶接欠陥が生成しやすいという問題がある。また、さらに特許文献4に記載された技術では、全姿勢溶接において良好なビード形状を確保することが困難であり、全姿勢溶接が要求されるラインパイプの円周溶接に適用するには問題を残していた。とくに溶接効率を上げるため、ワイヤ送給速度を増加した場合、全姿勢溶接において良好なビード形状を確保することが困難であり、溶接効率向上のための課題となっていた。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、ラインパイプとして好適なマルテンサイト系ステンレス鋼管の円周溶接用として、ワイヤ送給性に優れ、かつ全姿勢においてビード形状に優れ、さらに高靭性を有する溶接部を得ることができるアーク溶接用ワイヤを提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接部のビード形状、溶接欠陥および溶接金属靭性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、アーク溶接用ワイヤの表面にCuめっきを施すか、あるいは溶接用ワイヤの表面にNiめっきを施したのちその上層としてCuめっきを施すことにより、湯流れ性が向上し、ビードが平坦化して、全姿勢溶接において融合不良等の溶接欠陥が抑制されるという知見を得た。また、溶接用ワイヤの表面にNiめっきを施したのちその上層としてCuめっきを施すことにより、さらに密着性の高いめっき層が得られるためワイヤ送給性が向上し、ひいてはアーク安定性が向上するという知見を得た。また、溶接用ワイヤのO含有量を0.01%以下に規制することにより、溶接金属中に持ち込まれるO量が低減し、溶接金属靭性が向上することを知見した。
【0010】
本発明は、上記した知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)質量%で、C+N:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:0.2 〜3.0 %、 Cr:11〜15%、Ni:2〜10%、O:0.01%以下を含み、あるいはさらに、Cu:2%以下、Mo:4%以下のうちの1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面にCuめっきを施すか、またはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施してなることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、V、Tiのうちの1種または2種を合計で0.3 質量%以下含有する組成とすることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、Co、Wのうちの1種または2種を合計で4質量%以下含有することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とするに記載のマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の溶接用ワイヤは、マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用であり、溶接金属の組織がマルテンサイト相主体の組織となるように化学組成を調整することが必要となる。本発明でいう「マルテンサイト相主体の組織」とは、マルテンサイト相が面積率で80%以上である組織をいうものとする。なお、マルテンサイト相以外は、δーフェライト相、残留オーステナイト相を含んでもよい。
【0012】
また、本発明における溶接材料は、主としてガスタングステンアーク溶接(GTAW)用、ガスメタルアーク溶接(GMAW)用であるが、サブマージアーク溶接(SAW)用としても利用できる。
まず、本発明の溶接用ワイヤの成分限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は、単に%と記す。
【0013】
C+N:0.02%以下
C、Nは、いずれも溶接金属の強度を大きく増加させる元素であるが、過剰の含有は靱性を劣化させ、あるいは溶接割れを発生させる。このため、本発明では所望の強度が確保できる範囲でできるだけ低減するのが好ましい。C+Nが0.02%を超えると、溶接金属の靱性を著しく低下させ、溶接割れを発生させるため0.02%を上限とした。これにより、予熱、後熱処理が不要となり、溶接施工の工期が短縮でき、また施工コストの低減が図れる。なお、強度確保の観点からはC+Nは0.010 %以上とすることが好ましい。
【0014】
Si:1.0 %以下
Siは、α相安定化元素であり、過剰の含有はδ−フェライト相を形成するため靱性劣化の原因となる。また、Siは脱酸元素であり、しかもアークを安定させ溶接作業性を向上させる作用を有する。このような効果は0.1 %以上の含有で顕著に認められ、0.1 %以上含有することが望ましい.一方、1.0 %を超える含有は靱性を劣化させる。このため、Siは1.0 %以下に限定した。
【0015】
Mn:0.2 〜3.0 %
Mnは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加させる。このような効果は0.2 %以上の含有で認められるが、一方、3.0 %を超える含有は強度が高くなりすぎ製造時に困難を伴う。このため、Mnは0.2 〜3.0 %に限定した。なお、好ましくは0.3 〜0.8 %である。
【0016】
Cr:11〜15%
Crは、溶接金属の耐食性と強度を向上させる元素であり、本発明では、11%以上の含有を必要とする。一方、15%を超えて含有すると、溶接金属にδ−フェライトが残存し靱性が劣化する。このため、Crは11〜15%の範囲に限定した。
Ni:2〜10%
Niは、オーステナイト安定化元素であり、δ− フェライトの生成を抑制し、溶接金属の靱性向上に有効に作用する。溶接金属の靱性確保の観点から2%以上の含有を必要とする。一方、10%を超える含有は残留オーステナイト量が過大となり強度が低下する。このため、Niは2〜10%の範囲に限定した。なお、より安定な靱性確保の観点から、好ましくは、2〜7%、より好ましくは5〜7%である。
【0017】
O:0.01%以下
ワイヤ中のOは、溶接金属中の介在物を増加させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明ではOはできるだけ低減する必要がある。Oを0.01%を超えてワイヤ中に含有すると、溶接金属の靭性が顕著に低下する。このため、ワイヤ中のOは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.005 %以下である。
【0018】
本発明の溶接材料では、上記した主成分に加え、必要に応じ、つぎの各種元素を添加できる。
Cu:2%以下、Mo:4%以下のうちの1種または2種
Cu、Moは、溶接金属の耐食性と強度を増加させる作用を有し、必要に応じ1種または2種を含有できる。しかし、4%を超えるMoの含有は、溶接金属中にδ− フェライトが残存するとともに、金属間化合物を形成することで靱性を劣化させる。このため、Moは4%以下に限定するのが好ましい。なお、より安定な特性確保の観点から、好ましくは、2〜3%である。
【0019】
また、2%を超えるCuの含有は、溶接材料の製造性を低下させる。このようなことから、Cuは2%以下に限定するのが好ましい。なお、より好ましくは0.2 〜1.5 %である。
V、Tiのうちの1種または2種:合計0.3 %以下
V、Tiは、いずれも炭化物、 窒化物を形成し、 強度を増加させる効果を有する元素であり、必要に応じ選択して1種または2種を含有できる。V、Tiの合計量が0.3 %を超えると、靭性劣化が著しくなるため、0.3 %を上限とするのが好ましい。なお、より好ましくは、合計で0.03〜0.15%である。
【0020】
Co、Wのうちの1種または2種:合計4%以下
Co、Wはいずれも、不働態皮膜を安定化させることを通して、耐CO2 腐食性、耐孔食性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ選択して1種または2種を含有できる。Co、Wの合計量が4%を超えると、靱性劣化が著しくなるため、4%を上限とするのが好ましい。なお、より好ましくは、合計で1〜3%である。
【0021】
Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下のうちの1種または2種以上
Nb、Zr、Ta、Bはいずれも、炭窒化物生成を通して、強度、靱性ならびに耐CO2 腐食性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ選択して1種または2種以上を含有できる。Nb:0.20%、Zr:0.20%、Ta:0.20%、B:0.0050%をそれぞれ超えて含有すると、炭窒化物が粗大化し、逆に靱性が劣化する。このため、本発明では、Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下にそれぞれ限定することが好ましい。
【0022】
残部Feおよび不可避的不純物
上記した成分以外の残部は実質的にFeである。不可避的不純物としては、S:0.01%以下、P:0.03%以下が許容できる。
本発明の溶接用ワイヤは、上記した組成を有する溶接用ワイヤの表面に、Cuめっきを施してなる溶接ワイヤ、あるいは溶接用ワイヤの表面に、Niめっきを施しさらにNiめっきの上層としてCuめっきを施してなる溶接用ワイヤである。溶接ワイヤの表面に、Cuめっきを施すか、あるいはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施すことにより、湯流れ性が向上し、ビードが平坦化して、全姿勢溶接において融合不良等の溶接欠陥が抑制される。とくに、Niめっきおよびその上層としてCuめっきを施すことにより、密着性の高いめっき層が得られるためワイヤ送給性が向上し、ひいてはCuめっき単独よりアーク安定性が向上する。
【0023】
Cuめっき、またはNiめっきおよびCuめっきの厚さは、特に限定する必要はないが、Cuめっき単独の場合には0.1 〜5μm の範囲内とすることが好ましい。Cuめっき厚が0.1 μm 未満では、全姿勢溶接における溶接欠陥の抑制効果が得られない。一方、5μm を超えて厚くしても効果が飽和するため経済的に不利となる。
また、NiめっきとCuめっきとの複合めっきの場合には、Niめっきは0.01〜 1.0μm 、Cuめっきは 0.1〜5μmの範囲内とすることが好ましい。Niめっき厚が0.01μm 未満では、上記した全姿勢溶接における溶接欠陥の抑制、アーク安定化といった効果が得られない。一方、 1.0μm を超えると、逆にめっき密着性が低下するという問題がある。また、Cuめっき厚が 0.1μm 未満では、全姿勢溶接における溶接欠陥の抑制効果が得られない。一方、5μm を超えて厚くしても効果が飽和するため経済的に不利となる。
【0024】
本発明の溶接ワイヤは、公知の溶製方法で上記した組成の溶鋼としたのち、連続鋳造法、造塊法等の公知の方法でワイヤ素材としたのち、該ワイヤ素材を公知の方法で線引きしてワイヤ(線材)とし、ついで、必要により焼鈍、酸洗処理を施され、さらに公知の方法でワイヤ表面に、Cuめっきを施すか、あるいはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施し、その後必要に応じさらに線引きして製品(溶接用ワイヤ)とする。
【0025】
本発明の溶接用ワイヤでアーク溶接される被溶接鋼管としては、公知のマルテンサイト系ステンレス鋼管がいずれも好適である。本発明で対象とするマルテンサイト系ステンレス鋼管は、つぎのような化学組成範囲を有する鋼管が好ましい。
マルテンサイト系ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0 %以下、Mn:0.10〜3.0 %、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cr:10〜14%、N:0.05%以下、Ni:1.0 〜7.0 %を含み、あるいはさらにMo:0.2 〜3.5 %および/またはCu:0.2 〜2.0 %を含み、残部Feおよび不可避的不純物とするのが好ましく、あるいはさらに、V:0.005 〜0.20%、Nb:0.005 〜0.20%、Ti:0.005 〜0.10%、Zr:0.005 〜0.10%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する鋼材とするのが好ましい。本発明で対象とするマルテンサイト鋼管では、母材靱性、溶接性を向上させるため、C、Nが低減される。Cは、0.05%以下、好ましくは0.02%以下、Nは0.05%以下、好ましくは0.02%以下である。
【0026】
このようなマルテンサイト系ステンレス鋼管を被溶接鋼管とし、該被溶接鋼管の端部同士を突合せて、上記した本発明の溶接用ワイヤを用いアーク溶接により円周溶接して接合し、マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接構造物とすることができる。
なお、円周溶接としては、GTAW、GMAW、あるいはSAWとすることが好ましい。なお、GTAW、あるいはGMAWのシールドガスは、酸化性ガスを含まない、100 %不活性ガス、すなわち純不活性ガスとすることが好ましい。溶接時のシールドガスを、純不活性ガスとすることにより、溶接金属中のO含有量が低減でき靭性が向上する。不活性ガスとしては、Arガス、Heガス、およびそれらの混合ガスとすることが好ましい。また、本発明の溶接用ワイヤは、溶接時の溶接姿勢についてはとくに限定されず、下向き、立向き上進、立向き下進、上向きおよび横向きの全ての姿勢に適用できる。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成、母材特性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼管(355mm φ×17.8mm肉厚)をフラットニングして得た鋼板に、表2に示す組成の、1.0mm φの溶接用ワイヤを用いて、自動GTAW溶接機により、下向き、横向き、上向き、立向き上進、立向き下進の各溶接姿勢でビードオンプレート溶接を行った。なお、溶接入熱は6〜12kJ/cm とし、シールドガスは100 %不活性ガス(100 %Ar、80%Ar+20%He、50%Ar+50%Heの3種)を用いた。
【0028】
溶接後、ビード平坦度、溶接欠陥を調査した。ビード平坦度は、溶接線の中央部で溶接線方向と直交する断面でビード形状を観察し測定した。なお、ビード平坦度は、ビード高さ/ビード幅で定義される値である。ビード高さ、ビード幅は、図1に定義される値である。溶接欠陥の有無は、API Standerd 1104 に準拠しX線透過試験により求め、無欠陥の場合を○、欠陥発生した場合を×として評価した。なお、本実施例で発生した溶接欠陥は主に融合不良であった。
【0029】
得られた結果を表3に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
本発明例はいずれも、溶接姿勢によらず、平坦度0.20未満の平坦なビードが得られ溶接欠陥の発生もない良好なビードが得られている。一方、Cuめっきなしの本発明範囲を外れる比較例では、平坦度が0.20以上と凸状のビードとなり、溶接欠陥が発生している。とくに、本発明範囲を外れる比較例では、上向き、横向き、立向き上進の溶接姿勢で凸形状のビードとなりやすいことがわかる。
(実施例2)
表1に示す組成、母材特性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼管(355 mmφ×17.8mm肉厚)と、表2に示す組成とめっき厚さの、1.0mm φの溶接用ワイヤを用いて、自動GTAW溶接機により、被溶接鋼管固定の上進振分け法で円周溶接し鋼管継手(溶接構造物)を作製した。なお、円周溶接の開先形状は図1に示すU型20°開先とし、シールドガスは100 %不活性ガスとし、入熱は6〜12kJ/cm とした。
【0034】
得られた鋼管継手の溶接部について、API Standard 1104 に準拠し、X線透過試験により溶接欠陥の有無を調査し、さらにシャルピー衝撃試験により靭性を評価した。
溶接欠陥は、API Standard 1104 に準拠し、溶接部に存在する融合不良、ブローホール等の欠陥を調査し、無欠陥の場合を○、 欠陥発生した場合を×として評価した。
【0035】
また、靭性は、JIS Z 2202の規定に準拠したVノッチ試験片を、ノッチ位置を溶接金属中央部として採取し、JIS Z 3128の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施し、−40℃におけるシャルピー吸収エネルギーが90J以上の場合に○、90J未満の場合に×として評価した。
得られた結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
本発明範囲の溶接用ワイヤを用いて、好適な溶接条件で円周溶接した本発明例はいずれも、溶接欠陥の発生はなく、しかも良好な溶接部靭性を有している。一方、本発明範囲を外れる溶接用ワイヤを用いた比較例は、溶接欠陥が発生するか、溶接部靭性が低下している。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、高靭性で溶接欠陥のない高品質の溶接部を得ることができ、マルテンサイト系ステンレス鋼管の円周溶接を生産性高くしかも安定して施工でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ビード高さ、ビード幅の定義を示す説明図である。
【図2】実施例で使用した開先形状を示す説明図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラインパイプとして好適なマルテンサイト系ステンレス鋼管のアーク溶接用ワイヤに係り、とくにワイヤ送給性に優れ、かつ全姿勢においてビード形状に優れ、さらに高靭性を有する溶接部を得ることができるアーク溶接用ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、生産される石油・天然ガスは、湿潤な炭酸ガスや硫化水素を含有するものが増加している。このような湿潤な炭酸ガスや硫化水素を含む石油・天然ガスは、炭素鋼や低合金鋼を著しく腐食することが知られている。こうした腐食性の石油・天然ガスをパイプラインで輸送するに際しては、ラインパイプ(鋼管)の防食対策として、腐食抑制剤の添加が一般的であった。しかし、腐食抑制剤の添加はコストの増加をもたらし、さらには環境汚染の問題もあって、その使用は困難となりつつあり、最近では、腐食抑制剤の添加を必要としない耐食性に優れた鋼管の使用が指向されるようになってきた。
【0003】
耐食性に優れたラインパイプ用材料として、例えば、特許文献1、特許文献2に、CおよびNを低減し、オーステナイト安定化元素を添加した、11〜15%程度のCrを含有する、溶接性に優れかつ炭酸ガス含有環境下での耐食性に優れたラインパイプ用低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼管が提案されている。
ところで、ラインパイプは円周溶接により接続されるが、このような低炭素マルテンサイト系ステンレス鋼管を円周溶接するに際して、使用できる適切な溶接材料あるいは適切な溶接方法がなく、パイプラインの敷設に問題を残していた。このような問題に対し、例えば、特許文献3には、マルテンサイト系ステンレス鋼用溶接線材として、C:0.01〜0.04wt%、かつC+N:0.02〜0.06wt%、Si:0.01〜0.5 wt%、Mn:0.1 〜2.0 wt%、Cr:11.0〜15.0wt%、Ni:3.5 〜7.0wt %、Mo:0.7 〜3.0 wt%、Nb:0.01〜0.2 wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分系が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、得られる溶接金属の靱性は、0℃でのシャルピー吸収エネルギーが100 J程度の靱性レベルであり、しかもこの程度の靱性を有する溶接金属を得るために1hr以上の後熱処理を要するなど、溶接施工性に問題を残していた。
パイプラインの敷設には、短時間の施工が要求される。とくに、海底パイプラインの敷設は、一般に、ラインパイプを敷設船上で円周溶接するが、敷設船の賃貸料が高価なため、敷設船上での溶接時間を短時間とすることが必須条件となる。したがって、長時間を要する予熱や後熱を必要とする溶接材料の使用は敬遠されることになる。また、パイプラインは厳寒の地に敷設されることも多いことから、ラインパイプには低温、例えば−40℃での高靱性が要求される場合が多い。
【0005】
このような要求に対し、例えば、特許文献4には、Cr:7.5 〜12.0%を含有するマルテンサイト系高Cr鋼を、C:0.005 〜0.12%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.02〜2.0 %、Cr:13.0〜18.0%、Ni:3.0 〜5.0 %、N:0.05〜0.12%を含有し、P:0.03%以下、S:0.01%以下に制限し、かつCr当量/Ni当量比を1.6 〜2.0 に調整したステンレス鋼ワイヤを用いてガスシールドアーク溶接し、溶接金属組織を調整する溶接方法が記載されている。特許文献4に記載された技術では、予熱、後熱を必要とせず、強度と靭性に優れ、さらに耐食性に優れた高Cr鋼の溶接が可能となるとしている。
【0006】
【特許文献1】
特開平4−99154号公報
【特許文献2】
特開平4−99155号公報
【特許文献3】
特開平7−185879 号公報
【特許文献4】
特開平9−295185 号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献4に記載された技術では、ビードが凸形状となりやすく、そのため、融合不良等の溶接欠陥が生成しやすいという問題がある。また、さらに特許文献4に記載された技術では、全姿勢溶接において良好なビード形状を確保することが困難であり、全姿勢溶接が要求されるラインパイプの円周溶接に適用するには問題を残していた。とくに溶接効率を上げるため、ワイヤ送給速度を増加した場合、全姿勢溶接において良好なビード形状を確保することが困難であり、溶接効率向上のための課題となっていた。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、ラインパイプとして好適なマルテンサイト系ステンレス鋼管の円周溶接用として、ワイヤ送給性に優れ、かつ全姿勢においてビード形状に優れ、さらに高靭性を有する溶接部を得ることができるアーク溶接用ワイヤを提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接部のビード形状、溶接欠陥および溶接金属靭性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、アーク溶接用ワイヤの表面にCuめっきを施すか、あるいは溶接用ワイヤの表面にNiめっきを施したのちその上層としてCuめっきを施すことにより、湯流れ性が向上し、ビードが平坦化して、全姿勢溶接において融合不良等の溶接欠陥が抑制されるという知見を得た。また、溶接用ワイヤの表面にNiめっきを施したのちその上層としてCuめっきを施すことにより、さらに密着性の高いめっき層が得られるためワイヤ送給性が向上し、ひいてはアーク安定性が向上するという知見を得た。また、溶接用ワイヤのO含有量を0.01%以下に規制することにより、溶接金属中に持ち込まれるO量が低減し、溶接金属靭性が向上することを知見した。
【0010】
本発明は、上記した知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)質量%で、C+N:0.02%以下、Si:1.0 %以下、Mn:0.2 〜3.0 %、 Cr:11〜15%、Ni:2〜10%、O:0.01%以下を含み、あるいはさらに、Cu:2%以下、Mo:4%以下のうちの1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面にCuめっきを施すか、またはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施してなることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、V、Tiのうちの1種または2種を合計で0.3 質量%以下含有する組成とすることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、Co、Wのうちの1種または2種を合計で4質量%以下含有することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とするに記載のマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の溶接用ワイヤは、マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用であり、溶接金属の組織がマルテンサイト相主体の組織となるように化学組成を調整することが必要となる。本発明でいう「マルテンサイト相主体の組織」とは、マルテンサイト相が面積率で80%以上である組織をいうものとする。なお、マルテンサイト相以外は、δーフェライト相、残留オーステナイト相を含んでもよい。
【0012】
また、本発明における溶接材料は、主としてガスタングステンアーク溶接(GTAW)用、ガスメタルアーク溶接(GMAW)用であるが、サブマージアーク溶接(SAW)用としても利用できる。
まず、本発明の溶接用ワイヤの成分限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は、単に%と記す。
【0013】
C+N:0.02%以下
C、Nは、いずれも溶接金属の強度を大きく増加させる元素であるが、過剰の含有は靱性を劣化させ、あるいは溶接割れを発生させる。このため、本発明では所望の強度が確保できる範囲でできるだけ低減するのが好ましい。C+Nが0.02%を超えると、溶接金属の靱性を著しく低下させ、溶接割れを発生させるため0.02%を上限とした。これにより、予熱、後熱処理が不要となり、溶接施工の工期が短縮でき、また施工コストの低減が図れる。なお、強度確保の観点からはC+Nは0.010 %以上とすることが好ましい。
【0014】
Si:1.0 %以下
Siは、α相安定化元素であり、過剰の含有はδ−フェライト相を形成するため靱性劣化の原因となる。また、Siは脱酸元素であり、しかもアークを安定させ溶接作業性を向上させる作用を有する。このような効果は0.1 %以上の含有で顕著に認められ、0.1 %以上含有することが望ましい.一方、1.0 %を超える含有は靱性を劣化させる。このため、Siは1.0 %以下に限定した。
【0015】
Mn:0.2 〜3.0 %
Mnは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加させる。このような効果は0.2 %以上の含有で認められるが、一方、3.0 %を超える含有は強度が高くなりすぎ製造時に困難を伴う。このため、Mnは0.2 〜3.0 %に限定した。なお、好ましくは0.3 〜0.8 %である。
【0016】
Cr:11〜15%
Crは、溶接金属の耐食性と強度を向上させる元素であり、本発明では、11%以上の含有を必要とする。一方、15%を超えて含有すると、溶接金属にδ−フェライトが残存し靱性が劣化する。このため、Crは11〜15%の範囲に限定した。
Ni:2〜10%
Niは、オーステナイト安定化元素であり、δ− フェライトの生成を抑制し、溶接金属の靱性向上に有効に作用する。溶接金属の靱性確保の観点から2%以上の含有を必要とする。一方、10%を超える含有は残留オーステナイト量が過大となり強度が低下する。このため、Niは2〜10%の範囲に限定した。なお、より安定な靱性確保の観点から、好ましくは、2〜7%、より好ましくは5〜7%である。
【0017】
O:0.01%以下
ワイヤ中のOは、溶接金属中の介在物を増加させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明ではOはできるだけ低減する必要がある。Oを0.01%を超えてワイヤ中に含有すると、溶接金属の靭性が顕著に低下する。このため、ワイヤ中のOは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.005 %以下である。
【0018】
本発明の溶接材料では、上記した主成分に加え、必要に応じ、つぎの各種元素を添加できる。
Cu:2%以下、Mo:4%以下のうちの1種または2種
Cu、Moは、溶接金属の耐食性と強度を増加させる作用を有し、必要に応じ1種または2種を含有できる。しかし、4%を超えるMoの含有は、溶接金属中にδ− フェライトが残存するとともに、金属間化合物を形成することで靱性を劣化させる。このため、Moは4%以下に限定するのが好ましい。なお、より安定な特性確保の観点から、好ましくは、2〜3%である。
【0019】
また、2%を超えるCuの含有は、溶接材料の製造性を低下させる。このようなことから、Cuは2%以下に限定するのが好ましい。なお、より好ましくは0.2 〜1.5 %である。
V、Tiのうちの1種または2種:合計0.3 %以下
V、Tiは、いずれも炭化物、 窒化物を形成し、 強度を増加させる効果を有する元素であり、必要に応じ選択して1種または2種を含有できる。V、Tiの合計量が0.3 %を超えると、靭性劣化が著しくなるため、0.3 %を上限とするのが好ましい。なお、より好ましくは、合計で0.03〜0.15%である。
【0020】
Co、Wのうちの1種または2種:合計4%以下
Co、Wはいずれも、不働態皮膜を安定化させることを通して、耐CO2 腐食性、耐孔食性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ選択して1種または2種を含有できる。Co、Wの合計量が4%を超えると、靱性劣化が著しくなるため、4%を上限とするのが好ましい。なお、より好ましくは、合計で1〜3%である。
【0021】
Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下のうちの1種または2種以上
Nb、Zr、Ta、Bはいずれも、炭窒化物生成を通して、強度、靱性ならびに耐CO2 腐食性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ選択して1種または2種以上を含有できる。Nb:0.20%、Zr:0.20%、Ta:0.20%、B:0.0050%をそれぞれ超えて含有すると、炭窒化物が粗大化し、逆に靱性が劣化する。このため、本発明では、Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下にそれぞれ限定することが好ましい。
【0022】
残部Feおよび不可避的不純物
上記した成分以外の残部は実質的にFeである。不可避的不純物としては、S:0.01%以下、P:0.03%以下が許容できる。
本発明の溶接用ワイヤは、上記した組成を有する溶接用ワイヤの表面に、Cuめっきを施してなる溶接ワイヤ、あるいは溶接用ワイヤの表面に、Niめっきを施しさらにNiめっきの上層としてCuめっきを施してなる溶接用ワイヤである。溶接ワイヤの表面に、Cuめっきを施すか、あるいはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施すことにより、湯流れ性が向上し、ビードが平坦化して、全姿勢溶接において融合不良等の溶接欠陥が抑制される。とくに、Niめっきおよびその上層としてCuめっきを施すことにより、密着性の高いめっき層が得られるためワイヤ送給性が向上し、ひいてはCuめっき単独よりアーク安定性が向上する。
【0023】
Cuめっき、またはNiめっきおよびCuめっきの厚さは、特に限定する必要はないが、Cuめっき単独の場合には0.1 〜5μm の範囲内とすることが好ましい。Cuめっき厚が0.1 μm 未満では、全姿勢溶接における溶接欠陥の抑制効果が得られない。一方、5μm を超えて厚くしても効果が飽和するため経済的に不利となる。
また、NiめっきとCuめっきとの複合めっきの場合には、Niめっきは0.01〜 1.0μm 、Cuめっきは 0.1〜5μmの範囲内とすることが好ましい。Niめっき厚が0.01μm 未満では、上記した全姿勢溶接における溶接欠陥の抑制、アーク安定化といった効果が得られない。一方、 1.0μm を超えると、逆にめっき密着性が低下するという問題がある。また、Cuめっき厚が 0.1μm 未満では、全姿勢溶接における溶接欠陥の抑制効果が得られない。一方、5μm を超えて厚くしても効果が飽和するため経済的に不利となる。
【0024】
本発明の溶接ワイヤは、公知の溶製方法で上記した組成の溶鋼としたのち、連続鋳造法、造塊法等の公知の方法でワイヤ素材としたのち、該ワイヤ素材を公知の方法で線引きしてワイヤ(線材)とし、ついで、必要により焼鈍、酸洗処理を施され、さらに公知の方法でワイヤ表面に、Cuめっきを施すか、あるいはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施し、その後必要に応じさらに線引きして製品(溶接用ワイヤ)とする。
【0025】
本発明の溶接用ワイヤでアーク溶接される被溶接鋼管としては、公知のマルテンサイト系ステンレス鋼管がいずれも好適である。本発明で対象とするマルテンサイト系ステンレス鋼管は、つぎのような化学組成範囲を有する鋼管が好ましい。
マルテンサイト系ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0 %以下、Mn:0.10〜3.0 %、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Cr:10〜14%、N:0.05%以下、Ni:1.0 〜7.0 %を含み、あるいはさらにMo:0.2 〜3.5 %および/またはCu:0.2 〜2.0 %を含み、残部Feおよび不可避的不純物とするのが好ましく、あるいはさらに、V:0.005 〜0.20%、Nb:0.005 〜0.20%、Ti:0.005 〜0.10%、Zr:0.005 〜0.10%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する鋼材とするのが好ましい。本発明で対象とするマルテンサイト鋼管では、母材靱性、溶接性を向上させるため、C、Nが低減される。Cは、0.05%以下、好ましくは0.02%以下、Nは0.05%以下、好ましくは0.02%以下である。
【0026】
このようなマルテンサイト系ステンレス鋼管を被溶接鋼管とし、該被溶接鋼管の端部同士を突合せて、上記した本発明の溶接用ワイヤを用いアーク溶接により円周溶接して接合し、マルテンサイト系ステンレス鋼管溶接構造物とすることができる。
なお、円周溶接としては、GTAW、GMAW、あるいはSAWとすることが好ましい。なお、GTAW、あるいはGMAWのシールドガスは、酸化性ガスを含まない、100 %不活性ガス、すなわち純不活性ガスとすることが好ましい。溶接時のシールドガスを、純不活性ガスとすることにより、溶接金属中のO含有量が低減でき靭性が向上する。不活性ガスとしては、Arガス、Heガス、およびそれらの混合ガスとすることが好ましい。また、本発明の溶接用ワイヤは、溶接時の溶接姿勢についてはとくに限定されず、下向き、立向き上進、立向き下進、上向きおよび横向きの全ての姿勢に適用できる。
【0027】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成、母材特性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼管(355mm φ×17.8mm肉厚)をフラットニングして得た鋼板に、表2に示す組成の、1.0mm φの溶接用ワイヤを用いて、自動GTAW溶接機により、下向き、横向き、上向き、立向き上進、立向き下進の各溶接姿勢でビードオンプレート溶接を行った。なお、溶接入熱は6〜12kJ/cm とし、シールドガスは100 %不活性ガス(100 %Ar、80%Ar+20%He、50%Ar+50%Heの3種)を用いた。
【0028】
溶接後、ビード平坦度、溶接欠陥を調査した。ビード平坦度は、溶接線の中央部で溶接線方向と直交する断面でビード形状を観察し測定した。なお、ビード平坦度は、ビード高さ/ビード幅で定義される値である。ビード高さ、ビード幅は、図1に定義される値である。溶接欠陥の有無は、API Standerd 1104 に準拠しX線透過試験により求め、無欠陥の場合を○、欠陥発生した場合を×として評価した。なお、本実施例で発生した溶接欠陥は主に融合不良であった。
【0029】
得られた結果を表3に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
本発明例はいずれも、溶接姿勢によらず、平坦度0.20未満の平坦なビードが得られ溶接欠陥の発生もない良好なビードが得られている。一方、Cuめっきなしの本発明範囲を外れる比較例では、平坦度が0.20以上と凸状のビードとなり、溶接欠陥が発生している。とくに、本発明範囲を外れる比較例では、上向き、横向き、立向き上進の溶接姿勢で凸形状のビードとなりやすいことがわかる。
(実施例2)
表1に示す組成、母材特性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼管(355 mmφ×17.8mm肉厚)と、表2に示す組成とめっき厚さの、1.0mm φの溶接用ワイヤを用いて、自動GTAW溶接機により、被溶接鋼管固定の上進振分け法で円周溶接し鋼管継手(溶接構造物)を作製した。なお、円周溶接の開先形状は図1に示すU型20°開先とし、シールドガスは100 %不活性ガスとし、入熱は6〜12kJ/cm とした。
【0034】
得られた鋼管継手の溶接部について、API Standard 1104 に準拠し、X線透過試験により溶接欠陥の有無を調査し、さらにシャルピー衝撃試験により靭性を評価した。
溶接欠陥は、API Standard 1104 に準拠し、溶接部に存在する融合不良、ブローホール等の欠陥を調査し、無欠陥の場合を○、 欠陥発生した場合を×として評価した。
【0035】
また、靭性は、JIS Z 2202の規定に準拠したVノッチ試験片を、ノッチ位置を溶接金属中央部として採取し、JIS Z 3128の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施し、−40℃におけるシャルピー吸収エネルギーが90J以上の場合に○、90J未満の場合に×として評価した。
得られた結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
【0037】
本発明範囲の溶接用ワイヤを用いて、好適な溶接条件で円周溶接した本発明例はいずれも、溶接欠陥の発生はなく、しかも良好な溶接部靭性を有している。一方、本発明範囲を外れる溶接用ワイヤを用いた比較例は、溶接欠陥が発生するか、溶接部靭性が低下している。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、高靭性で溶接欠陥のない高品質の溶接部を得ることができ、マルテンサイト系ステンレス鋼管の円周溶接を生産性高くしかも安定して施工でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ビード高さ、ビード幅の定義を示す説明図である。
【図2】実施例で使用した開先形状を示す説明図である。
Claims (4)
- 質量%で、
C+N:0.02%以下、 Si:1.0 %以下、
Mn:0.2 〜3.0 %、 Cr:11〜15%、
Ni:2〜10%、 O:0.01%以下
を含み、あるいはさらに、Cu:2%以下、Mo:4%以下のうちの1種または2種を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面にCuめっきを施すか、またはNiめっきおよびその上層としてCuめっきを施してなることを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。 - 前記組成に加えてさらに、V、Tiのうちの1種または2種を合計で0.3 質量%以下含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
- 前記組成に加えてさらに、Co、Wのうちの1種または2種を合計で4質量%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.20%以下、Zr:0.20%以下、Ta:0.20%以下、B:0.0050%以下のうちの1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のマルテンサイト系ステンレス鋼管溶接用ワイヤ。
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