JP2004243543A - インクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットプリンタ記録ヘッド用充填液 - Google Patents
インクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットプリンタ記録ヘッド用充填液 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で印字不良が確実に発生しないように且つインク吐出に影響がでない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できるようにする。
【解決手段】インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させるインクジェット記録ヘッドにおいて、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、そのインク流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェット記録ヘッド用充填液を充填しておく。
【選択図】 図1
【解決手段】インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させるインクジェット記録ヘッドにおいて、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、そのインク流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェット記録ヘッド用充填液を充填しておく。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのインク流路に、インクを初期充填するまでの前に充填するためのインクジェット記録ヘッド用充填液、それが充填されたインクジェット記録ヘッド及びその記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、新品のインクジェット記録ヘッドあるいはそれを備えたインクジェット記録装置の輸送時あるいは保管時には、インクジェット記録ヘッドのインク流路内にインクを充填した状態にしておくか、界面活性剤を添加してある液体をインク流路内に充填した状態にするか、もしくはインク流路内に何も充填しない空の状態にしておくかが一般的であった。しかし、インク流路内にインクを充填した場合では、例えば輸送中あるいは保管中の温度、湿度などの環境変化によってノズル部分にてインクが固化し、ノズルの目詰まりを起こすという問題があり、また、インク流路内に何も充填しない空の状態では、記録ヘッド内へのインク初期充填時にすみやかにインク充填が行われず、インクが行き渡らず、インクを吐出しないノズルが発生し、印字不良を起こすという問題があった。
【0003】
そこで、印字に用いるインクが初期充填されるまでの間、水と一価アルコール及び/又は多価アルコールと添加剤としてダイレクトブラック154とを含有する混合液を、インクジェット記録ヘッドのインク流路に充填することが提案されている(特許文献1)。また、水と、蒸気圧が20℃で0.05mmHg以下の水溶性有機溶剤20〜80wt%と、アセチレンジオール化合物とを含有するインクジェット記録ヘッド用充填液をインク流路に充填することも提案されている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特許第2671390号明細書
【特許文献2】特許第3317067号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1及び2で提案された技術では、インクジェット記録ヘッド流路材料とインクとの濡れ性の問題から、インク初期充填時に、インク流路中に速やかにインクを充填することが困難であり、安定したインクの吐出が得られにくく、印字不良が発生し易いという問題があった。このような印字不良を抑制するためにはインク流路内にインクジェットインクを完全充填する必要があり、そのためには、初期インク充填動作を何回も繰り返せざるを得ず、結果的に初期インク充填動作に要するインク量が著しく増大し、実際の印字時に使用するインク量が減少してしまうという問題が生ずる。
【0006】
また、インクジェット記録方式の中に、熱エネルギーを利用してインク液滴を吐出させる方式があるが、その場合に使用するインクジェット記録ヘッドにおける問題点として、コゲーションと呼ばれる現象がある。この現象は、インク中に含有している染料や不純物が熱エネルギーによって、ヒーター表面に付着して、吐出不良を引き起こす現象であるが、このゴゲーションの問題の解決するために様々な手段が提案されているが、インクジェット記録ヘッド用充填液に対しても、その問題の解決の一助となることが求められている。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためのものであり、その目的は、特に新品のインクジェット記録ヘッドやそれを備えたインクジェット記録装置の輸送後あるいは保管後に、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で印字不良が確実に発生しないように且つインクの吐出に影響が生じない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できるようにすることを第1の目的とする。また、第1の目的の達成を前提として、熱エネルギーを用いてインク液滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドにおいて、コゲーションの発生による吐出寿命の短縮化を抑制できるようにすることを第2の目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、インクジェット記録ヘッドのインク流路に充填するための充填液に配合すべき溶剤を選択するにあたり、インクジェット記録ヘッドのインク流路部材に対するインクジェットインクの濡れ性を向上させる溶剤について検討した。その検討の中で、濡れ性を向上させるために一般的に使用される溶剤であるエタノール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族一価アルコール類、界面活性剤あるいは表面張力の低いエーテル系溶剤の使用が検討された。しかし、脂肪族一価アルコールの場合、表面張力が低いので濡れ性を向上させる反面、非常に揮発性が高いため長期間の保存には適しておらず、また、界面活性剤の場合も、濡れを向上させることができる材料であるが、種類によっては、非常に起泡性が高いため、ヘッド流路内への充填時やインク流路外への排出時に起泡が生じ、逆に充填性を損なう場合があった。また、表面張力が低いエーテル系溶剤の場合も、インク流路内の濡れ性を向上させることが可能であるが、所望のレベルにまで濡れ性を向上させるためには、多量のエーテル系溶剤を使用する必要があり、そのため、インク流路内やノズル表面にエーテル系溶剤が残存し、それがインクの吐出精度に影響を及ぼすという問題があった。
【0009】
本発明者は、更に種々の溶剤について検討したところ、予想外にも、脂肪族二価アルコールの一種である1,2−ヘキサンジオールを使用することにより、上述の第1の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、更に、アセチレンアルコールを含有させることにより第2の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、第1の目的を達成する本発明は、インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させるインクジェット記録ヘッドであって、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、そのインク流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェットプリンタ記録ヘッド用充填液が充填されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド、そのインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置、及び、当該インクジェットプリンタ記録ヘッド用充填液を提供する。
【0011】
なお、第2の目的を達成する本発明は、上述のインクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録ヘッド用充填液において、水及び1,2−ヘキサンジオールに加えてアセチレンアルコールを使用する発明である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1は、インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させる、サーマル方式のインクジェット記録ヘッド1の一例を示す斜視図である。このインクジェット記録ヘッド1のヘッドフレーム2には、中央にスリット状のインク供給孔2aが形成されており、ヘッドフレーム2の一方の面には、Si基板で構成された複数個のヘッドチップ3が貼りつけられている。ヘッドチップ3は、ヘッドフレーム2上のインク供給孔2aの両側に配列されている。そして、図2に示すように、ヘッドチップ3上のインク供給孔2a側には、複数個の発熱素子3aが一列に配列され、反対側には、発熱素子3aに対応した接続端子3bが一列に配列されている。
【0014】
また、ヘッドチップ3上には、図3に示すように、複数個のインク室4aとインク流路4bを形成するためのインク室部材4を介して、複数個のノズル5aを有するノズルプレート5が配設されている。インク室部材4は、いわゆるドライフィルムフォトレジストなどの感光性樹脂により、各インク室4aがヘッドチップ3に配列された各発熱素子3aに対応し、かつ各インク流路4bが各インク室4aからヘッドチップ3の端部まで延びるように形成されている。
【0015】
ノズルプレート5は、ニッケルの電鋳等により作製され、インクによる腐食を防ぐため、通常は金あるいはパラジウムなどの耐蝕メッキがされており、インク供給孔2aを塞ぎ且つ各ノズル5aが各発熱素子3aに一対一で対応するように形成されており、従って、各インク室4aは、インク室部材4に形成されたインク流路4bおよびノズルプレート5に形成されたノズル5aに連通している。
【0016】
また、ヘッドフレーム2の他方の面には、フィルタ6を介してインクタンク7が貼り付けられている。フィルタ6は、インク供給孔2aを覆うように貼りつけられており、インクタンク7からゴミやインクの成分の凝集物などがノズル5a側に混入することを防止する役目を果たす。インクタンク7は、袋7aと外筐7bとの二重構造になっている。
【0017】
袋7aと外筐7bとの間には、袋7aを外側に広げるように働くバネ部材(図示せず)が入っている。これにより、インクには負圧が掛かるようになり、インクがノズル5aから自然に漏れ出すことを防止することができる。また、この負圧は、ノズル5aの毛細管力よりは小さくなるよう設定されているため、インクがノズル5aに引き込まれてしまうことを防止することができる。
【0018】
そして、ヘッドチップ3上からヘッドフレーム2の外側を通ってインクタンク7の外周面に至る部分には、いわゆるFPC(フレキシブルプリント基板)でなる電気配線8が貼りつけられている。電気配線8は、ヘッドチップ3に電源や電気信号を供給するものであり、ヘッドチップ3の接続端子3bに接続されている。
【0019】
また、発熱素子3aは、半導体形成のプロセスで広く使用されているスパッタリング法によりタンタル、タンタルアルミ、窒化チタンなどの抵抗材料を所定の基板上に堆積し、その上層にAl等の電極を形成した後、シリコン窒化膜などの保護層を作製して形成されたものである。インクジェット記録ヘッド1は、この保護層の上層にタンタル膜等による耐キャビテーション層、インク室4a、ノズル5aが形成され、これにより発熱素子3aの発熱によりインク室4aのインクを加熱できるように形成される。更にインクジェット記録ヘッド1は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)型、バイポーラ型のトランジスタにより発熱素子3aに電力を供給できるように構成され、さらに所定の駆動回路により駆動してインク液滴を記録媒体に付着できるようになされている。
【0020】
以上説明した構成を有する本発明のインクジェット記録ヘッド1においては、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、その流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェット記録ヘッド用充填液が充填されている。充填液に1,2−ヘキサンジオールを含有させたインクジェット記録ヘッド用充填液をインクジェット記録ヘッドのインク流路へ充填しておくと、インクジェットインクを初期インク充填動作で印字不良が確実に発生しないように且つインク吐出に影響がでない状態を確保しつつ充填でき、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化することができる。
【0021】
従って、インクジェット記録ヘッド用充填液をインクジェット記録ヘッドに充填しておけば、インクジェット記録ヘッドやそれを備えたインクジェット記録装置の輸送時あるいは保管時に、特別なヘッドキャップやそのほかの流路と大気が連通する部分を塞ぐ必要がなくなる。例えばテープなどをノズル表面に貼り付けるなどの作業が必要なくなる。これにより、テープなどをはずす場合に考えられるノズル面を汚染したり、傷をつけたりすることも防止できる。また、テープというゴミを発生させることもなくなる。
【0022】
なお、インクジェット記録ヘッドのインク流路とは、記録ヘッドのインクと接触する部分のことであり、インクジェット記録ヘッド内部のインク流路だけでなく、インクジェット記録ヘッドと接続するインク供給管なども含まれる概念である。この場合、インク供給口からノズル開口までのインク流路内に完全に充填液が充填されていることが好ましいが、発明の効果を奏する限り、一部に充填されていない部分があってもよい。
【0023】
本発明において、インクジェット記録ヘッド用充填液中の1,2−ヘキサンジオールの配合量としては、少なすぎると本発明の効果が得られず、多すぎると配合量に見合う効果が得られないので、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。このインクジェット記録ヘッド用充填液も本発明の範囲に含まれる。
【0024】
また、インクジェット記録ヘッドを熱エネルギーを用いてインク液滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドとして使用する場合には、コゲーションの発生による吐出寿命の短縮化を抑制するために、インクジェット記録ヘッド用充填液中に、一分子中にアセチレン結合と水酸基とを有するアセチレンアルコールを配合することが好ましい。このようなアセチレンアルコールの構造としては、以下の式(1)が好ましく挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
(式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル記、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基)又はアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基)である。)
【0027】
式(1)のアセチレンアルコールの中でも、R1がイソプロピル基、R2がメチル基、そしてR3が水素原子である化合物(商標名:サーフィノール61、エアプロダクト社)やR1及びR2がメチル基でR3が水素原子である化合物(商標名:サーフィノールP、エアプロダクト社)を特に好ましく使用することができる。
【0028】
インクジェット記録ヘッド用充填液中のアセチレンアルコールの配合量としては、少なすぎても多すぎてもゴゲーション発生抑制効果が十分でないので、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0029】
インクジェット記録ヘッド用充填液には、1,2−ヘキサンジオールやアセチレンアルコールの他に、保湿のために、多価アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−プロパンジール、1,5−ペンタンジオールなどを適宜配合することができる。また、トリエタノールアミン等の水溶性有機溶剤なども適宜配合することができる。
【0030】
更に、インクジェット記録ヘッド用充填液には、必要に応じて粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤の添加剤や防カビ剤、防腐剤などを添加することができる。
【0031】
本発明のインクジェット記録ヘッドを用いる以外、従来と同様の構成部材を利用することによりサーマル方式のインクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)を構成することができる。このようなインクジェット記録装置は、本発明のインクジェット記録ヘッドを使用しているので、インクジェット記録装置の輸送後あるいは保管後に、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で確実に印字不良の発生しないように且つインクの吐出へ影響がない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できる。また、インクジェット記録ヘッド用充填液にアセチレンアルコールを含有させれば、熱エネルギーを用いてインク液滴を吐出させた場合に、インクが加熱されて染料の分解物や不純物などの異物が生じても、発熱素子表面におけるコゲーションの発生、堆積が抑制され、長期に渡り、インクの吐出速度が高く、インク液滴の吐出が良好で、高画質記録が可能となる。
【0032】
本発明のインクジェット記録ヘッドを使用するサーマル方式のインクジェット記録装置でインクジェット記録は、次のように行われる。即ち、インクは、インクタンク7からインク供給孔2aに供給され、インク流路4bを通ってインク室4aに供給される。ここで、ノズル5aは通常、円形状に形成されており、ノズル5a先端ではインクの負圧によりインク面の中央部が凹んだ、いわゆるメニスカスが形成される。そして、発熱素子3aに駆動電圧がかかることにより、発熱素子3aが発熱して、インクを局所的に加熱する。インクジェット記録ヘッド1では、この加熱により、インク室4aの発熱素子3a側面に核気泡が発生し、この気泡が合体して膜気泡となって成長する。この気泡による圧力の増大により、インクの液滴がノズル5aから吐出してインクジェット記録紙に飛翔し、付着する。これによりインクジェット記録紙上でインク画像が形成される。
【0033】
なお、本発明のインクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェット記録ヘッド用充填液は、サーマル方式のインクジェット記録方式だけでなく、圧電素子方式などの他のインクジェット記録方式にも適用できる。
【0034】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドから吐出するインクとしては、従来公知のインクジェットインクを使用することができる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明に関して、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0036】
実施例1〜6、比較例1〜6
表1及び表2に示す各成分を攪拌混合し、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過し、インクジェット記録ヘッド用充填液を調製した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
(評価)
得られたインクジェット記録ヘッド用充填液について、以下に説明する「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」を評価した。得られた結果を表3に示す。
【0040】
「初期充填性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、その充填後、ノズル前面からポンプでインク流路内の充填液を吸引しながら供給口からインクを送り込んだ。その後、インク流路内の充填液をインクにて置換した後、全ノズルよりインクの吐出を行い、ノズルからインク液滴が吐出しているかどうかの確認を行った。128全ノズルより吐出することができた場合、表3中に「○」と記し、不吐出ノズルがあった場合、表3中に「×」と記した。
【0041】
「保存性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、ノズル面を開放した状態にて、温度40℃湿度10%の環境下に放置した。放置1週間後、ノズル前面からポンプでインク流路内の充填液を吸引しながら供給口からインクを送り込んだ。その後、インク流路内の充填液をインクにて置換した後に、全ノズルよりインクの吐出を行い、ノズルよりインク液滴が吐出しているかどうかの確認を行った。128全ノズルより吐出することができた場合、表3中に「○」と記し、不吐出ノズルがあった場合、表3中に「×」と記した。
【0042】
「インク吐出特性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、充填液を充填後、ノズル前面からポンプでインク流路内の充填液を吸引しながら供給口からインクを送り込んだ。その後、速やかにべた画像印画を行い、吐出曲がりにより白スジの有無の確認を目視にて行った。このインク吐出特性試験における吐出曲がりは、充填液の溶剤がノズルの内壁に残存した場合に、その溶媒が残存している側に吐出が曲がる現象を意味する。印画物に白筋が観察されなかった場合、表3中に「○」と記し、印画物に白筋が観察された場合、表3中に「×」と記した。
【0043】
【表3】
【0044】
表3より明らかなように、1,2−ヘキサンジオールを添加した実施例のインクジェット記録ヘッド用充填液を充填したインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置は、「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」について、良好な結果を示した。
【0045】
それに対し、1,2−ヘキサンジオールを含まない比較例のインクジェット記録ヘッド用充填液を充填したインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置は、全ての評価項目について同時に満足すべき結果を示したものはなかった。
【0046】
実施例7〜12
表4に示す各成分を攪拌混合し、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過し、インクジェット記録ヘッド用充填液を調製した。
【0047】
【表4】
*1: 3−メチル−3−ヒドロキシ−1−ブチン(エアロプロダクト社)
*2: 3,4−ジメチル−ヒドロキシ−1−ペンチン(エアロプロダクト社)
【0048】
(評価)
得られたインクジェット記録ヘッド用充填液について、実施例1で説明したように「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」を評価した。また、更に「耐ゴゲーション性」を以下に説明するように評価した。得られた結果を表5に示す。
【0049】
「耐ゴゲーション性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、充填液を充填後、ノズル前面からポンプで流路内の充填液を吸引しながら供給口からインク(アッシッドレッド289 4質量%;エチレングリコール 10質量%;ジエチレングリコール 5質量%;グリセリン 10質量%;サーフィノール465(エアプロダクト社) 0.5質量%;水 70.5質量%)を送り込んだ。その後、そのインクにて1億パルスの吐出後にべた画像印画を行い、ゴゲーションの生成によるインク移動速度の低下(換言すれば液滴吐出速度の変化)に基づく吐出遅れによる白スジの有無の確認を目視にて行った。印画物に白筋が観察されなかった場合、表5中に「○」と記し、印画物に白筋が観察された場合、表5中に「×」と記した。
【0050】
【表5】
【0051】
表5からわかるように、1,2−ヘキサンジオールに加えてアセチレンアルコールを添加した実施例のインクジェット記録ヘッド用充填液を充填したインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置は、「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」のみならず、「耐コゲーション特性」についても良好な結果を示した。
【0052】
なお、「耐コゲーション特性」の試験後に、インクジェット記録装置のインクジェット記録ヘッド中の発熱抵抗措素子の表面を目視観察したところ、その表面に堆積物は観察されなかった。一方、先の実施例1〜5のインクジェット記録装置のインクジェット記録ヘッド中の発熱抵抗措素子の表面には、実用上問題がない程度のわずかな堆積物が観察された。従って、実施例1〜5のインクジェット記録装置は、サーマル方式のインクジェット記録方式よりも、圧電素子方式などの他のインクジェット記録方式に好ましく適用できる。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で確実に印字不良の発生しないように且つインクの吐出に影響がない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット記録ヘッドの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット記録ヘッドの部分拡大図である。
【図3】本発明のインクジェット記録ヘッドの部分拡大透視図である。
【符号の説明】
1 インクジェット記録ヘッド、2 ヘッドフレーム、2a インク供給孔、3 ヘッドチップ、3a 発熱素子、4 インク室部材、4a インク室、4bインク流路、5 ノズルプレート、5a ノズル、6 フィルタ、7 インクタンク、7a 袋、7b 外筐、8 電気配線
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのインク流路に、インクを初期充填するまでの前に充填するためのインクジェット記録ヘッド用充填液、それが充填されたインクジェット記録ヘッド及びその記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、新品のインクジェット記録ヘッドあるいはそれを備えたインクジェット記録装置の輸送時あるいは保管時には、インクジェット記録ヘッドのインク流路内にインクを充填した状態にしておくか、界面活性剤を添加してある液体をインク流路内に充填した状態にするか、もしくはインク流路内に何も充填しない空の状態にしておくかが一般的であった。しかし、インク流路内にインクを充填した場合では、例えば輸送中あるいは保管中の温度、湿度などの環境変化によってノズル部分にてインクが固化し、ノズルの目詰まりを起こすという問題があり、また、インク流路内に何も充填しない空の状態では、記録ヘッド内へのインク初期充填時にすみやかにインク充填が行われず、インクが行き渡らず、インクを吐出しないノズルが発生し、印字不良を起こすという問題があった。
【0003】
そこで、印字に用いるインクが初期充填されるまでの間、水と一価アルコール及び/又は多価アルコールと添加剤としてダイレクトブラック154とを含有する混合液を、インクジェット記録ヘッドのインク流路に充填することが提案されている(特許文献1)。また、水と、蒸気圧が20℃で0.05mmHg以下の水溶性有機溶剤20〜80wt%と、アセチレンジオール化合物とを含有するインクジェット記録ヘッド用充填液をインク流路に充填することも提案されている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特許第2671390号明細書
【特許文献2】特許第3317067号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1及び2で提案された技術では、インクジェット記録ヘッド流路材料とインクとの濡れ性の問題から、インク初期充填時に、インク流路中に速やかにインクを充填することが困難であり、安定したインクの吐出が得られにくく、印字不良が発生し易いという問題があった。このような印字不良を抑制するためにはインク流路内にインクジェットインクを完全充填する必要があり、そのためには、初期インク充填動作を何回も繰り返せざるを得ず、結果的に初期インク充填動作に要するインク量が著しく増大し、実際の印字時に使用するインク量が減少してしまうという問題が生ずる。
【0006】
また、インクジェット記録方式の中に、熱エネルギーを利用してインク液滴を吐出させる方式があるが、その場合に使用するインクジェット記録ヘッドにおける問題点として、コゲーションと呼ばれる現象がある。この現象は、インク中に含有している染料や不純物が熱エネルギーによって、ヒーター表面に付着して、吐出不良を引き起こす現象であるが、このゴゲーションの問題の解決するために様々な手段が提案されているが、インクジェット記録ヘッド用充填液に対しても、その問題の解決の一助となることが求められている。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためのものであり、その目的は、特に新品のインクジェット記録ヘッドやそれを備えたインクジェット記録装置の輸送後あるいは保管後に、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で印字不良が確実に発生しないように且つインクの吐出に影響が生じない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できるようにすることを第1の目的とする。また、第1の目的の達成を前提として、熱エネルギーを用いてインク液滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドにおいて、コゲーションの発生による吐出寿命の短縮化を抑制できるようにすることを第2の目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、インクジェット記録ヘッドのインク流路に充填するための充填液に配合すべき溶剤を選択するにあたり、インクジェット記録ヘッドのインク流路部材に対するインクジェットインクの濡れ性を向上させる溶剤について検討した。その検討の中で、濡れ性を向上させるために一般的に使用される溶剤であるエタノール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族一価アルコール類、界面活性剤あるいは表面張力の低いエーテル系溶剤の使用が検討された。しかし、脂肪族一価アルコールの場合、表面張力が低いので濡れ性を向上させる反面、非常に揮発性が高いため長期間の保存には適しておらず、また、界面活性剤の場合も、濡れを向上させることができる材料であるが、種類によっては、非常に起泡性が高いため、ヘッド流路内への充填時やインク流路外への排出時に起泡が生じ、逆に充填性を損なう場合があった。また、表面張力が低いエーテル系溶剤の場合も、インク流路内の濡れ性を向上させることが可能であるが、所望のレベルにまで濡れ性を向上させるためには、多量のエーテル系溶剤を使用する必要があり、そのため、インク流路内やノズル表面にエーテル系溶剤が残存し、それがインクの吐出精度に影響を及ぼすという問題があった。
【0009】
本発明者は、更に種々の溶剤について検討したところ、予想外にも、脂肪族二価アルコールの一種である1,2−ヘキサンジオールを使用することにより、上述の第1の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、更に、アセチレンアルコールを含有させることにより第2の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、第1の目的を達成する本発明は、インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させるインクジェット記録ヘッドであって、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、そのインク流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェットプリンタ記録ヘッド用充填液が充填されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド、そのインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置、及び、当該インクジェットプリンタ記録ヘッド用充填液を提供する。
【0011】
なお、第2の目的を達成する本発明は、上述のインクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録ヘッド用充填液において、水及び1,2−ヘキサンジオールに加えてアセチレンアルコールを使用する発明である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1は、インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させる、サーマル方式のインクジェット記録ヘッド1の一例を示す斜視図である。このインクジェット記録ヘッド1のヘッドフレーム2には、中央にスリット状のインク供給孔2aが形成されており、ヘッドフレーム2の一方の面には、Si基板で構成された複数個のヘッドチップ3が貼りつけられている。ヘッドチップ3は、ヘッドフレーム2上のインク供給孔2aの両側に配列されている。そして、図2に示すように、ヘッドチップ3上のインク供給孔2a側には、複数個の発熱素子3aが一列に配列され、反対側には、発熱素子3aに対応した接続端子3bが一列に配列されている。
【0014】
また、ヘッドチップ3上には、図3に示すように、複数個のインク室4aとインク流路4bを形成するためのインク室部材4を介して、複数個のノズル5aを有するノズルプレート5が配設されている。インク室部材4は、いわゆるドライフィルムフォトレジストなどの感光性樹脂により、各インク室4aがヘッドチップ3に配列された各発熱素子3aに対応し、かつ各インク流路4bが各インク室4aからヘッドチップ3の端部まで延びるように形成されている。
【0015】
ノズルプレート5は、ニッケルの電鋳等により作製され、インクによる腐食を防ぐため、通常は金あるいはパラジウムなどの耐蝕メッキがされており、インク供給孔2aを塞ぎ且つ各ノズル5aが各発熱素子3aに一対一で対応するように形成されており、従って、各インク室4aは、インク室部材4に形成されたインク流路4bおよびノズルプレート5に形成されたノズル5aに連通している。
【0016】
また、ヘッドフレーム2の他方の面には、フィルタ6を介してインクタンク7が貼り付けられている。フィルタ6は、インク供給孔2aを覆うように貼りつけられており、インクタンク7からゴミやインクの成分の凝集物などがノズル5a側に混入することを防止する役目を果たす。インクタンク7は、袋7aと外筐7bとの二重構造になっている。
【0017】
袋7aと外筐7bとの間には、袋7aを外側に広げるように働くバネ部材(図示せず)が入っている。これにより、インクには負圧が掛かるようになり、インクがノズル5aから自然に漏れ出すことを防止することができる。また、この負圧は、ノズル5aの毛細管力よりは小さくなるよう設定されているため、インクがノズル5aに引き込まれてしまうことを防止することができる。
【0018】
そして、ヘッドチップ3上からヘッドフレーム2の外側を通ってインクタンク7の外周面に至る部分には、いわゆるFPC(フレキシブルプリント基板)でなる電気配線8が貼りつけられている。電気配線8は、ヘッドチップ3に電源や電気信号を供給するものであり、ヘッドチップ3の接続端子3bに接続されている。
【0019】
また、発熱素子3aは、半導体形成のプロセスで広く使用されているスパッタリング法によりタンタル、タンタルアルミ、窒化チタンなどの抵抗材料を所定の基板上に堆積し、その上層にAl等の電極を形成した後、シリコン窒化膜などの保護層を作製して形成されたものである。インクジェット記録ヘッド1は、この保護層の上層にタンタル膜等による耐キャビテーション層、インク室4a、ノズル5aが形成され、これにより発熱素子3aの発熱によりインク室4aのインクを加熱できるように形成される。更にインクジェット記録ヘッド1は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)型、バイポーラ型のトランジスタにより発熱素子3aに電力を供給できるように構成され、さらに所定の駆動回路により駆動してインク液滴を記録媒体に付着できるようになされている。
【0020】
以上説明した構成を有する本発明のインクジェット記録ヘッド1においては、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、その流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェット記録ヘッド用充填液が充填されている。充填液に1,2−ヘキサンジオールを含有させたインクジェット記録ヘッド用充填液をインクジェット記録ヘッドのインク流路へ充填しておくと、インクジェットインクを初期インク充填動作で印字不良が確実に発生しないように且つインク吐出に影響がでない状態を確保しつつ充填でき、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化することができる。
【0021】
従って、インクジェット記録ヘッド用充填液をインクジェット記録ヘッドに充填しておけば、インクジェット記録ヘッドやそれを備えたインクジェット記録装置の輸送時あるいは保管時に、特別なヘッドキャップやそのほかの流路と大気が連通する部分を塞ぐ必要がなくなる。例えばテープなどをノズル表面に貼り付けるなどの作業が必要なくなる。これにより、テープなどをはずす場合に考えられるノズル面を汚染したり、傷をつけたりすることも防止できる。また、テープというゴミを発生させることもなくなる。
【0022】
なお、インクジェット記録ヘッドのインク流路とは、記録ヘッドのインクと接触する部分のことであり、インクジェット記録ヘッド内部のインク流路だけでなく、インクジェット記録ヘッドと接続するインク供給管なども含まれる概念である。この場合、インク供給口からノズル開口までのインク流路内に完全に充填液が充填されていることが好ましいが、発明の効果を奏する限り、一部に充填されていない部分があってもよい。
【0023】
本発明において、インクジェット記録ヘッド用充填液中の1,2−ヘキサンジオールの配合量としては、少なすぎると本発明の効果が得られず、多すぎると配合量に見合う効果が得られないので、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。このインクジェット記録ヘッド用充填液も本発明の範囲に含まれる。
【0024】
また、インクジェット記録ヘッドを熱エネルギーを用いてインク液滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドとして使用する場合には、コゲーションの発生による吐出寿命の短縮化を抑制するために、インクジェット記録ヘッド用充填液中に、一分子中にアセチレン結合と水酸基とを有するアセチレンアルコールを配合することが好ましい。このようなアセチレンアルコールの構造としては、以下の式(1)が好ましく挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
(式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル記、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基)又はアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基)である。)
【0027】
式(1)のアセチレンアルコールの中でも、R1がイソプロピル基、R2がメチル基、そしてR3が水素原子である化合物(商標名:サーフィノール61、エアプロダクト社)やR1及びR2がメチル基でR3が水素原子である化合物(商標名:サーフィノールP、エアプロダクト社)を特に好ましく使用することができる。
【0028】
インクジェット記録ヘッド用充填液中のアセチレンアルコールの配合量としては、少なすぎても多すぎてもゴゲーション発生抑制効果が十分でないので、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0029】
インクジェット記録ヘッド用充填液には、1,2−ヘキサンジオールやアセチレンアルコールの他に、保湿のために、多価アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−プロパンジール、1,5−ペンタンジオールなどを適宜配合することができる。また、トリエタノールアミン等の水溶性有機溶剤なども適宜配合することができる。
【0030】
更に、インクジェット記録ヘッド用充填液には、必要に応じて粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤の添加剤や防カビ剤、防腐剤などを添加することができる。
【0031】
本発明のインクジェット記録ヘッドを用いる以外、従来と同様の構成部材を利用することによりサーマル方式のインクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)を構成することができる。このようなインクジェット記録装置は、本発明のインクジェット記録ヘッドを使用しているので、インクジェット記録装置の輸送後あるいは保管後に、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で確実に印字不良の発生しないように且つインクの吐出へ影響がない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できる。また、インクジェット記録ヘッド用充填液にアセチレンアルコールを含有させれば、熱エネルギーを用いてインク液滴を吐出させた場合に、インクが加熱されて染料の分解物や不純物などの異物が生じても、発熱素子表面におけるコゲーションの発生、堆積が抑制され、長期に渡り、インクの吐出速度が高く、インク液滴の吐出が良好で、高画質記録が可能となる。
【0032】
本発明のインクジェット記録ヘッドを使用するサーマル方式のインクジェット記録装置でインクジェット記録は、次のように行われる。即ち、インクは、インクタンク7からインク供給孔2aに供給され、インク流路4bを通ってインク室4aに供給される。ここで、ノズル5aは通常、円形状に形成されており、ノズル5a先端ではインクの負圧によりインク面の中央部が凹んだ、いわゆるメニスカスが形成される。そして、発熱素子3aに駆動電圧がかかることにより、発熱素子3aが発熱して、インクを局所的に加熱する。インクジェット記録ヘッド1では、この加熱により、インク室4aの発熱素子3a側面に核気泡が発生し、この気泡が合体して膜気泡となって成長する。この気泡による圧力の増大により、インクの液滴がノズル5aから吐出してインクジェット記録紙に飛翔し、付着する。これによりインクジェット記録紙上でインク画像が形成される。
【0033】
なお、本発明のインクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェット記録ヘッド用充填液は、サーマル方式のインクジェット記録方式だけでなく、圧電素子方式などの他のインクジェット記録方式にも適用できる。
【0034】
また、本発明のインクジェット記録ヘッドから吐出するインクとしては、従来公知のインクジェットインクを使用することができる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明に関して、実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0036】
実施例1〜6、比較例1〜6
表1及び表2に示す各成分を攪拌混合し、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過し、インクジェット記録ヘッド用充填液を調製した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
(評価)
得られたインクジェット記録ヘッド用充填液について、以下に説明する「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」を評価した。得られた結果を表3に示す。
【0040】
「初期充填性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、その充填後、ノズル前面からポンプでインク流路内の充填液を吸引しながら供給口からインクを送り込んだ。その後、インク流路内の充填液をインクにて置換した後、全ノズルよりインクの吐出を行い、ノズルからインク液滴が吐出しているかどうかの確認を行った。128全ノズルより吐出することができた場合、表3中に「○」と記し、不吐出ノズルがあった場合、表3中に「×」と記した。
【0041】
「保存性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、ノズル面を開放した状態にて、温度40℃湿度10%の環境下に放置した。放置1週間後、ノズル前面からポンプでインク流路内の充填液を吸引しながら供給口からインクを送り込んだ。その後、インク流路内の充填液をインクにて置換した後に、全ノズルよりインクの吐出を行い、ノズルよりインク液滴が吐出しているかどうかの確認を行った。128全ノズルより吐出することができた場合、表3中に「○」と記し、不吐出ノズルがあった場合、表3中に「×」と記した。
【0042】
「インク吐出特性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、充填液を充填後、ノズル前面からポンプでインク流路内の充填液を吸引しながら供給口からインクを送り込んだ。その後、速やかにべた画像印画を行い、吐出曲がりにより白スジの有無の確認を目視にて行った。このインク吐出特性試験における吐出曲がりは、充填液の溶剤がノズルの内壁に残存した場合に、その溶媒が残存している側に吐出が曲がる現象を意味する。印画物に白筋が観察されなかった場合、表3中に「○」と記し、印画物に白筋が観察された場合、表3中に「×」と記した。
【0043】
【表3】
【0044】
表3より明らかなように、1,2−ヘキサンジオールを添加した実施例のインクジェット記録ヘッド用充填液を充填したインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置は、「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」について、良好な結果を示した。
【0045】
それに対し、1,2−ヘキサンジオールを含まない比較例のインクジェット記録ヘッド用充填液を充填したインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置は、全ての評価項目について同時に満足すべき結果を示したものはなかった。
【0046】
実施例7〜12
表4に示す各成分を攪拌混合し、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過し、インクジェット記録ヘッド用充填液を調製した。
【0047】
【表4】
*1: 3−メチル−3−ヒドロキシ−1−ブチン(エアロプロダクト社)
*2: 3,4−ジメチル−ヒドロキシ−1−ペンチン(エアロプロダクト社)
【0048】
(評価)
得られたインクジェット記録ヘッド用充填液について、実施例1で説明したように「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」を評価した。また、更に「耐ゴゲーション性」を以下に説明するように評価した。得られた結果を表5に示す。
【0049】
「耐ゴゲーション性」
サーマル方式のソニー社製MPR−501に使用されている、各色128ノズルであるカラーヘッドのインク流路内に充填液を充填し、充填液を充填後、ノズル前面からポンプで流路内の充填液を吸引しながら供給口からインク(アッシッドレッド289 4質量%;エチレングリコール 10質量%;ジエチレングリコール 5質量%;グリセリン 10質量%;サーフィノール465(エアプロダクト社) 0.5質量%;水 70.5質量%)を送り込んだ。その後、そのインクにて1億パルスの吐出後にべた画像印画を行い、ゴゲーションの生成によるインク移動速度の低下(換言すれば液滴吐出速度の変化)に基づく吐出遅れによる白スジの有無の確認を目視にて行った。印画物に白筋が観察されなかった場合、表5中に「○」と記し、印画物に白筋が観察された場合、表5中に「×」と記した。
【0050】
【表5】
【0051】
表5からわかるように、1,2−ヘキサンジオールに加えてアセチレンアルコールを添加した実施例のインクジェット記録ヘッド用充填液を充填したインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置は、「初期充填性」、「保存性」及び「インク吐出特性」のみならず、「耐コゲーション特性」についても良好な結果を示した。
【0052】
なお、「耐コゲーション特性」の試験後に、インクジェット記録装置のインクジェット記録ヘッド中の発熱抵抗措素子の表面を目視観察したところ、その表面に堆積物は観察されなかった。一方、先の実施例1〜5のインクジェット記録装置のインクジェット記録ヘッド中の発熱抵抗措素子の表面には、実用上問題がない程度のわずかな堆積物が観察された。従って、実施例1〜5のインクジェット記録装置は、サーマル方式のインクジェット記録方式よりも、圧電素子方式などの他のインクジェット記録方式に好ましく適用できる。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドのインク流路内に、インクジェットインクを初期インク充填動作で確実に印字不良の発生しないように且つインクの吐出に影響がない状態を確保しつつ充填し、しかも初期インク充填時にインク流路内にインクを完全充填するために流すインクを少量化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェット記録ヘッドの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明のインクジェット記録ヘッドの部分拡大図である。
【図3】本発明のインクジェット記録ヘッドの部分拡大透視図である。
【符号の説明】
1 インクジェット記録ヘッド、2 ヘッドフレーム、2a インク供給孔、3 ヘッドチップ、3a 発熱素子、4 インク室部材、4a インク室、4bインク流路、5 ノズルプレート、5a ノズル、6 フィルタ、7 インクタンク、7a 袋、7b 外筐、8 電気配線
Claims (13)
- インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させるインクジェット記録ヘッドにおいて、インクジェットインクがインクジェット記録ヘッドのインク流路内に初期充填されるまでの間、そのインク流路内に、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなるインクジェット記録ヘッド用充填液が充填されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
- インクジェット記録ヘッド用充填液中の1,2−ヘキサンジオールの含有量が、3〜30質量%である請求項1記載のインクジェット記録ヘッド。
- インクジェット記録ヘッド用充填液が、更にアセチレンアルコールを含有している請求項1又は2記載のインクジェット記録ヘッド。
- インクジェット記録ヘッド用充填液中のアセチレンアルコールの含有量が、0.05〜5質量%である請求項3記載のインクジェット記録ヘッド。
- インクジェット記録ヘッド用充填液が、更に多価アルコールを含有している請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
- インクジェット記録ヘッド用充填液中の多価アルコールの含有量が、20〜60質量%である請求項5記載のインクジェット記録ヘッド。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドを備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
- インク室内のインクジェットインクをノズルから吐出させるインクジェット記録ヘッドのインク流路内に充填するためのインクジェット記録ヘッド用充填液であって、水および1,2−ヘキサンジオールを含有してなることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用充填液。
- 1,2−ヘキサンジオールの含有量が、3〜30質量%である請求項8記載のインクジェット記録ヘッド用充填液。
- 更にアセチレンアルコールを含有している請求項8又は9記載のインクジェット記録ヘッド用充填液。
- アセチレンアルコールの含有量が、0.05〜5質量%である請求項10記載のインクジェット記録ヘッド用充填液。
- 更に多価アルコールを含有している請求項8〜11のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド用充填液。
- 多価アルコールの含有量が、20〜60質量%である請求項12記載のインクジェット記録ヘッド用充填液。
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Cited By (1)
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---|---|---|---|---|
US8573759B2 (en) | 2010-03-17 | 2013-11-05 | Ricoh Company, Ltd. | Droplet discharging apparatus, image forming apparatus, and bubble separating method |
-
2003
- 2003-02-10 JP JP2003032907A patent/JP2004243543A/ja active Pending
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