JP2004130166A - 汚染土壌等の修復方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、分解時間の短縮化および高い分解効率を達成し、難分解性の有害物質を分解、無害化できる新規な汚染土壌または汚染水の分解処理方法を提供する。
【解決手段】有害物質により汚染された土壌または水中の前記有害物質を分解することにより前記汚染土壌または汚染水を修復する方法であって、嫌気性微生物によって有害物質を嫌気的に分解する嫌気的処理工程と好気性微生物によって有害物質を好気的に分解する好気的処理工程とを含む生物分解工程を有し、更に、前記生物分解工程が、前記嫌気的処理工程からそれに続く好気的処理工程に移行する工程を有するものであり、前記嫌気的処理工程において、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする、汚染土壌または汚染水を修復する方法。
【選択図】 図1
【解決手段】有害物質により汚染された土壌または水中の前記有害物質を分解することにより前記汚染土壌または汚染水を修復する方法であって、嫌気性微生物によって有害物質を嫌気的に分解する嫌気的処理工程と好気性微生物によって有害物質を好気的に分解する好気的処理工程とを含む生物分解工程を有し、更に、前記生物分解工程が、前記嫌気的処理工程からそれに続く好気的処理工程に移行する工程を有するものであり、前記嫌気的処理工程において、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする、汚染土壌または汚染水を修復する方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は汚染土壌又は汚染水(以下、汚染土壌等と略する。)中に含まれる難分解性の有害物質を効率的に短時間で生物的に分解、無害化できる汚染土壌等の分解処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の環境調査によりクロルエチレン類、塩化ビフェニル類(以下、PCB類と略する。)、ダイオキシン類、農薬、環境ホルモンによる環境汚染が明らかにされ、これらの環境汚染物質の生態系に与える悪影響が懸念されている。汚染された環境を修復するための環境修復技術の開発が強く望まれ、かかる環境修復手法の1つとして、微生物のもつ物質変換能を活用することにより、汚染物質を分解、無害化するバイオレメディエーション技術がある。かかるバイオレメディエーション技術は、汚染土壌等を低コストで効率よく浄化できる技術であるとして期待されている。
【0003】
土壌汚染物質の中には、例えば、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、四塩化炭素、高塩素体芳香族化合物など好気性分解微生物では分解できない化合物が存在し、これら化合物が土壌汚染の主原因である場合、嫌気性微生物による処理が適用されている。しかし、多くの嫌気性微生物は、高塩素化合物に対して幅広く分解特性を持つものの、嫌気性分解の特徴上、二酸化炭素、水までの完全分解に至らず、中間代謝物で反応が止まり、毒性の強い中間代謝産物が生成、蓄積するケースが多い。このため、嫌気性微生物により低塩素化または無塩素化された化合物以降の反応を好気性分解微生物により分解させることを特徴とする、嫌気性分解微生物による嫌気性分解処理と好気性分解微生物による好気性分解処理を組み合わせたハイブリッド処理方式(以下、嫌気/好気処理方式と呼ぶ。)により高塩素化合物等の難分解性の有害物質を分解、無害化する試みが検討されている(特許文献1および特許文献2参照。)。かかる処理方式は、嫌気性分解微生物による脱塩素反応を機能させることで、難分解性有害物質を好気性分解微生物が分解できる構造まで変換させた後に、好気性分解微生物の持つ酸化分解能力により、二酸化炭素および水まで効率的に完全分解することを狙いとしている。
【0004】
実際、嫌気/好気処理方式は、クロルエチレン類、PCB類、ダイオキシン類、農薬、環境ホルモンなど難分解性の環境汚染物質を生物的に分解するのに適した有効な手段であることが実証されつつある。しかしながら、嫌気/好気処理方式は、嫌気条件、および好気条件下において、それぞれ異なる種類の微生物(群)が関与するため、嫌気/好気の環境を切り替えた後、有害物質に対して分解能を有する嫌気性または好気性の目的分解微生物(以下、目的分解微生物と略する。)が活動しはじめるまでに長時間を要するのが実情であり、現在の技術は、分解時間の短縮化、分解効率の向上の要素を十分に満足させるものではない。
【0005】
嫌気/好気処理方式で特に問題となるのは、嫌気性分解微生物の多くは酪酸、乳酸、酢酸などの有機酸を利用するため、嫌気性分解の場合、これら有機酸を嫌気性分解微生物の栄養源として供給するケースが一般的である。しかしながら、嫌気性分解で、これら有機酸が完全にメタンと二酸化炭素まで、分解されるのは稀で、一般には酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、メタノールなど分解代謝産物などで、残存するケースが多く、処理環境を嫌気から好気に切り替えた場合に、このような未分解の有機酸および有機酸の分解産物が好気条件下で残存していると、有害物質に対して分解能を有する目的とする好気性分解微生物以外の好気性微生物(以下、好気性雑菌と略する。)がこれら未分解の有機酸および有機酸の分解産物を利用し、増殖するという好ましくない状況になる。
【0006】
好気性雑菌が増殖すると、好気性雑菌により嫌気条件下で消費されずに残存した未分解の有機酸および有機酸の分解産物が完全に消費され尽くすまで環境中の酸素をこれら好気性雑菌が優先的に消費するため、有害物質に対して分解能を有する好気性分解微生物(以下、目的好気性分解微生物と略する。)は効率よく活動することができない。また、一部の好気性雑菌は自らの増殖の際、抗菌性物質を生産することも予想され、目的好気性分解微生物が最悪死滅してしまうこともある。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−34128号公報
【特許文献2】
特開2000−102377号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、このように嫌気/好気処理方式により、効率よく汚染土壌等を修復するためには、目的分解微生物の分解能力を十分に発揮し得るに最適な生育環境を構築する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、分解時間の短縮化および高い分解効率を達成し、難分解性の有害物質を分解、無害化できる新規な汚染土壌または汚染水の分解処理方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、高い分解効率で、難分解性の有害物質を迅速に分解、無害化できる汚染土壌等の修復技術を確立すべく、目的分解微生物の生育環境に焦点をあて、目的分解微生物に添加する栄養源の最適化を求めて鋭意研究を行った結果、嫌気条件下で用いる栄養源として水素および二酸化炭素を供給すると、嫌気/好気処理方式において、嫌気的環境から好気的環境に移行させた際に、速やかに有害物質に対して分解能力を有する目的好気性分解微生物が十分にその分解能力を発揮し得る環境を作り出すことができることを見出し、かかる知見を基礎として本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の方法を概説すれば、請求項1に係る発明は、有害物質により汚染された土壌または水中の前記有害物質を分解することにより前記汚染土壌または汚染水を修復する方法であって、嫌気性微生物によって有害物質を嫌気的に分解する嫌気的処理工程と好気性微生物によって有害物質を好気的に分解する好気的処理工程とを含む生物分解工程を有し、更に、前記生物分解工程が、前記嫌気的処理工程からそれに続く好気的処理工程に移行する工程を有するものであり、前記嫌気的処理工程において、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする、汚染土壌または汚染水を修復する方法に関する。
【0012】
前記したように、嫌気性分解微生物の多くは酪酸、酢酸、乳酸などの有機酸を利用するため、嫌気性分解の場合、これら有機酸を嫌気性分解微生物の栄養源として供給するケースが一般的である。嫌気性分解において、これら有機酸が完全にメタンと二酸化炭素まで分解するのは稀で、一般に酢酸、プロピオン酸、エタノール、メタノールなど分解代謝産物などで残存することになる。処理環境を好気条件に切り替えた際に、未分解の有機酸および有機酸の分解代謝産物が残存していると好気性雑菌がこれらを栄養源として優先的に増殖することから、目的好気性分解微生物の増殖の妨げとなり、目的好気性分解微生物の酸化分解能力を活性化させるまで、長時間を要する。
【0013】
本発明では、脱塩素反応を起こす一部の嫌気性分解微生物は水素と二酸化炭素からエネルギーを獲得することができること、また、水素、二酸化炭素であれば、ほとんどの好気性雑菌は栄養源として利用できないため、嫌気条件から好気条件に切り替えた際、嫌気条件下で消費されずに残存していても好気性雑菌の増殖はおこりにくいことを見出し、嫌気/好気処理方式による汚染土壌等の修復に際して、嫌気性処理時に、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする。したがって、本発明の嫌気/好気処理方式は、栄養源として、従来、使用される有機酸ではなく、水素と二酸化炭素を導入することが注目される。嫌気性処理下で、好気性雑菌の栄養源として利用できない水素と二酸化炭素を添加することによって、嫌気条件から好気条件に切り替えた際、嫌気条件下で利用されずに残存した持込栄養源がほとんど存在しないため、目的好気性分解微生物の増殖の妨げになる好気性雑菌の増殖を抑制できる。これにより、迅速な目的好気性分解微生物の増殖を達成することができると共に、迅速な嫌気/好気の切り替えを確保することができ、分解時間の短縮、分解効率の向上を達成することが可能となる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法において、前記嫌気性微生物が、栄養源として水素と二酸化炭素を利用し得ることを特徴とする。
【0015】
つまり、本発明で利用できる嫌気性分解微生物として、水素と二酸化炭素を利用して増殖しえる微生物が好ましく例示される。本発明の嫌気性分解微生物として、水素と二酸化炭素を利用して増殖しえる微生物を用いることにより、有機酸の添加なくしても嫌気性微生物の増殖および、分解能力を活性化できる。したがって、上記した通り、有機酸添加に起因する好ましくない好気性雑菌の増殖を抑制することができる。
【0016】
本発明で利用できる嫌気性微生物として、例えば、メタノサルシナ属、メタノコッカス属、メタノバクテリウム属、メタノブレビバクター属、メタノゲニウム属、デサルフォバクテリウム属、クロストリジウム属、アセトバクテリウム属、デハロバクター属、デハロコッコイダス属に属する微生物が特に、好ましく例示される。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1〜2のいずれかに記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法において、前記好気性微生物がモノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼから選択される1または2種以上の酵素を生産し得ることを特徴とする。
【0018】
つまり、本発明で利用できる好気性分解微生物として、モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等を産生する微生物が好ましく、例示される。モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等は、酸化酵素であり、難分解性の有害物質が嫌気微生物により低塩素化または、無塩素化された化合物を酸化分解する能力を有する。かかる酵素を産生する微生物は、基質選択性が高く、増殖および酵素誘導のために各酸化酵素に応じた特別の栄養源の添加を必要とし、これらを添加することにより、難分解性の有害物質を酸化分解することができる好気性分解微生物を、他の好気性雑菌に優先して増殖させることが可能となり、分解時間の短縮、分解効率の向上を導くことが可能となる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法において、前記好気性微生物が、シュードモナス属、メチロモナス属、メチロシナス属、メチロシスティス属、メチロコッカス属、ミコバクテリウム属、ニトロソモナス属、ロドコッカス属、アルカリゲネス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、スタフィロコッカス属、ファネロカエーテ属の群から選択される1または2種以上の微生物であることを特徴とする。
【0020】
つまり、本発明で利用できる好気性微生物として、シュードモナス属、メチロモナス属、メチロシナス属、メチロシスティス属、メチロコッカス属、ミコバクテリウム属、ニトロソモナス属、ロドコッカス属、アルカリゲネス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、スタフィロコッカス属、ファネロカエーテ属に属する微生物が特に、好ましく例示される。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の方法において、好適に処理することができる有害物質としては、高塩素化合物等、好気性微生物処理、または嫌気性微生物処理単独では完全に分解、無毒化することが困難な難分解性の有害物質などである。そのような有害物質としては、例えば、テトラクロロエチレン等のクロルエチレン類、コプラナーPCB、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン等のダイオキシン類、ペンタクロロフェノール、1,1,1−トリクロロ−2,2−ビス(p−クロロフェニール)エテン等の農薬、上記した化合物をも含む上位概念的表現を用いるが、環境ホルモンが含まれる。
【0022】
本発明の土壌等の修復方法においては、嫌気条件下において、水素および二酸化炭素を嫌気性微生物の栄養源とするものであり、更に、一般的なバイオレメディエーション処理において使用されると考えられる範囲の無機塩類を添加するものである。水素と二酸化炭素を添加することにより、嫌気的環境を形成できると共に、嫌気性微生物の増殖のための栄養源となる。
【0023】
本発明で添加される水素および二酸化炭素は、精製されたガスとして、単独で別々に、または同時に、また、両者を混合して混合ガスの形態で導入することが可能である。また、これらのガスを窒素ガスなどの不活性ガスで希釈して使用することも可能であり、特に水素ガスは安全性の観点から、不活性ガスと共に導入することが好ましく、二酸化炭素ガス、窒素ガスとの混合ガスとしての使用が特に好ましい。また、水素ガスの導入に際しては、水素放出剤を利用することも可能である。更に、水素ガス、二酸化炭素ガスを水等の液体媒体に溶け込ませた水溶液の形態として導入することができ、一方をガス形態で、他方を水溶液の形態で導入することも可能である。また、水溶液の形態として導入する場合、無機塩類および/又は下記で詳細に説明する任意の嫌気性微生物を混入して、同時に導入することも可能である。二酸化炭素については、炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を必要に応じて添加することで代用することができる。
【0024】
本発明の利用できる反応形態としては、現場で掘削を伴わないで汚染土壌等の修復処理を行う原位置バイオレメディエーション法、汚染土壌等を掘削し、修復処理を行うオンサイトバイオレメディエーション法を含む、一般的なバイオレメディエーション技術のいずれのケースにおいても適用可能である。オンサイトバイオレメディエーション法に基づいて処理を行う場合、密閉型もしくは、半密閉型の反応槽を利用して処理を行うことも、好ましく例示される。なお、ここで言う、密閉型もしくは、半密閉型の反応槽は、所望の均質的な嫌気および好気環境を維持できる手段であればよく、反応槽のタイプに限定されるものではない。
【0025】
本発明の利用できる導入形態としては、汚染土壌にガス形態の水素ガス、二酸化炭素ガスを供給する、固体(汚染土壌)/気体(ガス)処理方式、汚染土壌を流動性を確保できるよう水分を調整したスラリー、汚染水等にガス形態の水素ガス、二酸化炭素ガスを供給する、液体(スラリー、汚染水など)/気体(ガス)処理方式、汚染土壌等に水溶性形態に調整された水素、二酸化炭素を溶け込ませた溶液を供給する、固体(汚染土壌)/液体(水素、二酸化炭素を溶解させた水)処理方式が例示されるが、これらに限定されるものではなく、汚染場所、汚染物質の種類等に応じて適宜設計されるものである。
【0026】
水素と二酸化炭素の分解対象土壌への具体的な導入形態として、以下に主な導入形態を述べるが、これらの形態に限定されることなく、本発明はいかなる導入形態も利用可能である。
【0027】
原位置バイオレメディエーション法を採用して汚染地下水を浄化する場合、例えば、地下汚染箇所の近傍の飽和層に2本以上の井戸を掘削し、地下水流の下流側に掘削された揚水井戸から揚水した地下水の少なくとも一部に水素および二酸化炭素を気体あるいは水溶液の形態で導入し、これを上流側に掘削された注入井戸に注入し循環する方法が好適に利用できる。この場合、嫌気処理が終了した時点で地下水の少なくとも一部に空気や純酸素および、特別の栄養源等を添加することで環境条件を好気性雰囲気に移行させることができ、嫌気/好気処理方式がスムーズに実施できる。
【0028】
また、オンサイトバイオレメディエーション法を採用する場合、例えば、密閉型もしくは半密閉型の反応槽への水素ガスおよび二酸化炭素ガスの導入により反応槽内の気相の置換を行なうことが好適に利用できる。また、反応槽内に散水管または散気管を土壌中あるいは水中に埋設して導入する方法も好適に利用できる。また、水溶液の形態として、水素および二酸化炭素を導入する場合には、上向流、下向流いずれの通水でもよく、固定化した土壌を浸漬することにより行うことができる。
【0029】
また、既存のガス製造装置(純水電解法、メタノール改質法、都市ガス改質法などによる装置)を使用して所定のガスを製造させ、嫌気栄養源として利用することもできる。このとき、同時に得られる酸素ガスを貯留しておき、下記で説明する好気性分解時の電子受容体として転用させることも可能である。
【0030】
嫌気性処理中の制御は、水素、二酸化炭素、酸素のガス濃度もしくは液中濃度を常時モニタリングを行い、これらの計測値に基づき、水素および二酸化炭素の添加量を制御することで対応できる。目標とする制御レベルは、気相中ガス濃度は酸素濃度1%以下、液中条件は酸化還元電位が−100mv以下であり、かかるレベルに制御すべく、随時、水素および二酸化炭素の添加を行う。
【0031】
本発明において用いられ得る嫌気性分解微生物は、水素と二酸化炭素を栄養源として増殖し得る微生物である。水素と二酸化炭素を栄養源として増殖し得るという性質を有する限り、修復対象の土壌又は水中に既に棲息する土着微生物を、また、当該の修復済み土壌、底質土壌、嫌気性消化汚泥等を導入して、これらを使用することが可能であり、嫌気性微生物の栄養源として一般的に使用される有機酸を添加せず、水素および二酸化炭素を土壌又は水に導入することにより、水素と二酸化炭素を栄養源として利用できる微生物を、水素および二酸化炭素以外の栄養源を増殖の必須要素する他の土着微生物に優先して増殖させることができるようになる。また、水素と二酸化炭素を栄養源として増殖し得る性質を有する、任意の嫌気性微生物(群)を導入することも可能である。任意の微生物を添加する場合、該微生物は既に単離されているもの、また、環境中から目的に応じて新たにスクリーニングされたものを利用することが可能であり、複数の株の混合系でもかまわない。また、人為的な変異を施した微生物や遺伝子工学的に改良した微生物も使用することが可能である。また、微生物をセラミックスなどの担体に固定化して使用することも可能である。
【0032】
微生物の導入は、定期的に行ってもよく、また、嫌気性条件を設定する立ち上げ時のみに行ってもよく、水素および二酸化炭素の導入と同時に行うことが可能であり、また、別途導入手段を設けて別々に導入することも可能である。
【0033】
そのような嫌気性分解微生物として、好ましくは、メタノサルシナ(Methanosarcina)属、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)属、メタノゲニウム(Methanogenium)属、デサルフォバクテリウム(Desulfobacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、アセトバクテリウム属(Acetobacterium)、デハロバクター(Dehalobacter)属、デハロコッコイダス( Dehalococcoides )属などに属する微生物を例示することができるが、必ずしも微生物学的な分類に限定されるものではない。
【0034】
好気条件に環境を切り替える際には、酸素の供給が必要であるが、純酸素、空気等のガスの形態で導入することが可能であり、酸素徐放剤を利用することも可能である。また、純酸素、空気、過酸化水素、過マンガン酸塩などの酸化剤を水等の液体媒体に溶け込ませた水溶液の形態として導入することができ、このとき、下記で詳細に説明する無機塩類および/又は特別の栄養源および/又は任意の好気性微生物を混入して、同時に導入することも可能である。また、導入形態は水素、二酸化炭素の導入形態に準拠して行うことができ、また、公知のいずれかの導入形態を適宜選択することも可能である。
【0035】
本発明において用いられ得る好気性分解微生物は、クロルエチレン類、PCB類、ダイオキシン類、農薬、環境ホルモンをはじめとする難分解性の有害物質が嫌気微生物により低塩素化または、無塩素化された化合物、例えば、クロルエチレンの0〜3塩素体、ジベンゾジオキシン、ジベンゾフランの0〜4塩素体、ビフェニルの0〜6塩素体を、好気的に分解し得る微生物であり、好ましくは、モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼなどの酸化酵素を産生する微生物を例示することができる。
【0036】
一般に、二重結合をもつ難分解性の有害物質を分解する酵素を生産する好気性分解微生物は、酵素誘導のための基質選択性が高いため、好ましくは、分解目的対象化合物に応じた、これら好気性分解微生物の有害物質に対する分解能力を活性化させるべく、特別な栄養源を添加する。更に、一般的なバイオレメディエーション処理において使用されると考えられる範囲の無機塩類を添加するものである。
【0037】
そのような特別な栄養源としては、例えば、クロルエチレン類を酸化分解するのに有効なメタンモノオキシゲナーゼ等のモノオキシゲナーゼを誘導させる場合には、メタン、プロパン、アンモニア、トルエン、フェノールの群から選択される、1種または2種以上の化合物および、これら化合物を含有する物質が、ジオキシゲナーゼを誘導させる場合には、トルエン、フェノール、安息香酸、ビフェニル、ジベンゾ−p−ジオキシン、ジベンゾフラン、カルバゾール等の無塩素体化合物の群から選択される、1種または2種以上の化合物および、これら化合物を含有する物質が、ダイオキシン、PCB類などを酸化分解させるためのリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼを誘導させる場合には、リグニンなどの多環芳香族化合物の群から選択される、1種または2種以上の化合物および、これら化合物を含有する物質が、特に好適に利用できる。
【0038】
嫌気条件での栄養源として、水素、二酸化炭素を用いることにより、好気条件への持込栄養源がないため、これらの特別の栄養源を優先的に利用できる目的分解微生物が好気性雑菌となり得る他の微生物に優先して増殖できるため、好気性分解を速やかに進行させることができる。
【0039】
本発明の好気性微生物としては、修復対象の土壌又は水中に既に棲息する土着微生物を、また、当該の修復済み土壌、活性汚泥、コンポスト等を導入して、これらを使用することが可能であり、上記した特別な栄養源を分解対象有害物質に応じて適宜選択して添加することにより、これらを栄養源として利用できる目的好気性分解微生物を、これらを利用することができない好気性雑菌となり得る他の土着微生物に優先して増殖させることができるようになり、結果として、分解対象有害物質の分解に適した目的好気性分解微生物のみを選択的に増殖させることができる。また、上記酵素を産生する、任意の目的好気性分解微生物(群)を導入することも可能である。任意の微生物を添加する場合、該微生物は既に単離されているもの、また、環境中から目的に応じて新たにスクリーニングされたものを利用することが可能であり、複数の株の混合系でもかまわない。また、人為的な変異を施した微生物や遺伝子工学的に改良した微生物も使用することが可能である。また、微生物をセラミックなどの担体に固定化して使用することも可能である。
【0040】
微生物の導入は、定期的に行ってもよく、また、好気性条件を設定する立ち上げ時のみに行ってもよく、酸素および/または特別の栄養源および/又は無機塩類の導入と同時に行うことが可能であり、また、別途導入手段を設けて別々に導入することも可能である。
【0041】
上記酵素を産生できる微生物をしては、好ましくは、シュードモナス(Pseudomonas)属、メチロモナス(Methylimonas)属、メチロシナス(Methylocinus)属、メチロシスティス(Methylocystis)属、メチロコッカス(Methylococcus)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属、ニトロソモナス( Nitrosomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ファネロカエーテ(Phanerochaete)属などに属する微生物を例示できるが、必ずしも微生物学的な分類に限定されるものではない。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)水素および二酸化炭素を嫌気性微生物の栄養源として用いたテトラクロロエチレン(以下、PCEと略する。)の分解実験
(1)分解微生物群の調整
(1)−1.嫌気性微生物群
水素ガスおよび二酸化炭素ガス、窒素ガスの混合ガスによるPCE嫌気性分解能評価を行った。湖沼底質土を採取し、これを種菌源として使用した。無機塩培地17.5mlを25ml容量のバイアル瓶に入れ、あらかじめ水素10%・二酸化炭素10%・窒素80%の混合ガスでパージした。上記底質土0.5gおよび1mg/L相当となるようにPCEを添加し、直ちに密栓をし、30℃、150rpmの条件で振とう培養した。5週間培養後、バイアル瓶のヘッドスペースガスをGC/ECDにて分析し、当該微生物群が上記混合ガスを栄養源としてPCEを脱塩素分解することを確認した。
なお、上記同条件で窒素ガスのみでパージしたバイアル瓶を準備し、並行して分解性を評価したが、PCEの脱塩素分解能は全く認められなかった。
【0043】
(1)−2.好気性分解微生物群
廃水処理施設から汚泥を採取し、これを種菌源として使用した。無機塩培地4.6mlを70ml容量のバイアル瓶に入れ、上記汚泥0.4mlを接種したのち、密栓後バイアル瓶の気相13mlをメタンガスで置換し、液中濃度1mg/L相当となるようにトリクロロエチレン(以下、TCEと略する。)を注入し、30℃、250rpmで振とう培養を行った。10日後にバイアルのヘッドスペースガスをGC/ECDにて分析し、TCE分解能を確認した。さらに、同条件で2回繰り返し植え継ぐことで、メタンガスを炭素栄養源としてTCEを好気性分解する微生物群を得ることができた。
【0044】
(2)PCE分解実験手法
無機塩培地38.4mlを125ml容量のバイアル瓶に入れ、あらかじめ、二酸化炭素10%・水素10%・窒素80%からなる混合ガスでパージした。その後、上記で使用したものと同じ湖沼底質土0.8g(嫌気微生物群)および上記で得られた好気性分解微生物群0.8ml(好気集積微生物群)を添加し、液中濃度10mg/LになるようにPCEを添加し、直ちに密栓して30℃・150rpmの条件で振とう培養した。2〜4日毎にバイアルのヘッドスペースガスをGC/ECDで分析し、PCEの分解動態をモニタリングした。すべてのPCEが嫌気性分解されたところで、20ml純酸素ガスおよび20mlのメタンガスを注入し、好気条件に切り替えて30℃、250rpmの条件で培養を継続した。なお、好気期間中は、バイアル気相中の酸素およびメタン濃度を随時モニタリングし、必要に応じて純酸素ガス(20mlずつ)およびメタンガス(20mlずつ)を注入することで、それぞれ5〜20%のガス濃度範囲を維持させた。2日毎にバイアルのヘッドスペースガスをGC/ECDで分析し、すべてのTCEが好気性分解されるまで実験を継続し、PCEを完全に分解するのに要した日数を算出した。
【0045】
(比較例1)0.4%酪酸を嫌気性微生物の栄養源として用いたPCEの分解実験
(1)分解微生物の調整
(1)−1.嫌気性微生物群
酪酸添加によるPCE嫌気性分解能評価を行った。実施例1で使用したのと同じ湖沼底質土を採取し、これを種菌源として使用した。0.1%酪酸を炭素栄養源とした無機塩培地17.5mlを25ml容量のバイアル瓶に入れ、あらかじめ窒素ガスでパージした。上記底質土0.5gおよび1mg/L相当となるようにPCEを添加し、直ちに密栓して30℃、150rpmの条件で振とう培養した。5週間培養後、バイアル瓶のヘッドスペースガスをGC/ECDにて分析し、当微生物群が酪酸を栄養源としてPCEを脱塩素分解することを確認した。
(1)−2.好気性微生物群
実施例1で使用したものと同一のものを使用した。
(2)PCE分解実験手法
0.4%相当の酪酸を炭素栄養源として添加したことおよび実験開始時に窒素ガスでバイアル瓶内をパージしたことを除いて、実施例1に準拠して行った。
【0046】
(比較例2)0.1%酪酸を嫌気性微生物の栄養源として用いたPCEの分解実験
(1)分解微生物の調整
(1)−1.嫌気性微生物群
比較例1に記載。
(1)−2.好気性微生物群
実施例1および比較例1で使用したものと同一のものを使用した。
(2)PCE分解実験手法
0.1%相当の酪酸を炭素栄養源として添加したこと、および実験開始時に窒素ガスでバイアル瓶内をパージしたことを除いて、実施例1に準拠して行った。
【0047】
表1に上記した実施例および比較例の実験開始時の実験条件について要約する。
【0048】
【表1】
【0049】
(3)結果
実験結果を図1に示すともに、分解所要期間を表2に要約する。
【0050】
【表2】
【0051】
水素ガスと二酸化炭素の混合ガスを施与した本発明の実施例1は、PCEを完全分解に要した時間は30日間であり、最も短期間でPCEを完全分解できた。嫌気期間は比較的長期間を要したが、好気期間が著しく短縮され、最も短期間でPCEを完全分解できることが判明した(図1、結果1−3、表2)。
以上の結果から、水素ガスと二酸化炭素の混合ガスを嫌気性微生物の栄養源とさせることで、嫌気から好気への未分解の酪酸、酪酸分解代謝産物などの嫌気条件下で消費されずに残存した栄養源の持ち込みが極力低減でき、目的好気性分解微生物の増殖を妨げる好気性雑菌の増殖を抑えられ、結果として好気性分解をスムーズに発現させることができることが理解できる。
【0052】
0.4%酪酸を添加した比較例1では、PCEの嫌気性分解(脱塩素反応)は比較的スムーズに起こるが、その後の好気条件ではTCEの分解に時間を要し、結果として完全分解までには48日間要した(図1、結果1−1、表2)。
したがって、嫌気条件下で消費されずに残存した未分解の酪酸、酪酸分解代謝産物などが、嫌気条件下から好気条件下への持ち込みの炭素栄養源となり、それを利用して、切り替え後、真っ先に好気性雑菌が増殖したことが理解できると共に、結果として、好気性雑菌の増殖が、本来増殖を期待する目的好気性分解微生物の妨げとなり、TCE分解速度が著しく低下したことが理解できる。
【0053】
0.1%酪酸を添加した比較例2では、PCEの嫌気性分解は長期間を要したが、好気条件ではTCEを比較的スムーズに分解し、完全分解には46日間を要した。この場合は、添加酪酸濃度が低濃度であることから、嫌気条件下から好気条件下への持ち込みの栄養源濃度が低いことに起因し、好気性分解は比較的スムーズに発現、完了した(図1、結果1−2、表2)。
しかしながら、0.1%濃度の酪酸では、嫌気性分解のための栄養源(電子受容体)が不足していたため、嫌気性処理期間が著しく延長される結果となったこととが理解できる。
【0054】
【効果】
本発明の方法によれば、目的微生物の分解能力を十分に発揮し得るに最適な生育環境を構築することが可能になり、それにより、分解時間の短縮化および高い分解効率を達成し、難分解性の有害物質を分解、無害化できる新規な汚染土壌または汚染水の分解処理方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例、比較例1および比較例2のPCE分解における分解産物の経時変化を示すグラフ
【発明の属する技術分野】
本発明は汚染土壌又は汚染水(以下、汚染土壌等と略する。)中に含まれる難分解性の有害物質を効率的に短時間で生物的に分解、無害化できる汚染土壌等の分解処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の環境調査によりクロルエチレン類、塩化ビフェニル類(以下、PCB類と略する。)、ダイオキシン類、農薬、環境ホルモンによる環境汚染が明らかにされ、これらの環境汚染物質の生態系に与える悪影響が懸念されている。汚染された環境を修復するための環境修復技術の開発が強く望まれ、かかる環境修復手法の1つとして、微生物のもつ物質変換能を活用することにより、汚染物質を分解、無害化するバイオレメディエーション技術がある。かかるバイオレメディエーション技術は、汚染土壌等を低コストで効率よく浄化できる技術であるとして期待されている。
【0003】
土壌汚染物質の中には、例えば、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、四塩化炭素、高塩素体芳香族化合物など好気性分解微生物では分解できない化合物が存在し、これら化合物が土壌汚染の主原因である場合、嫌気性微生物による処理が適用されている。しかし、多くの嫌気性微生物は、高塩素化合物に対して幅広く分解特性を持つものの、嫌気性分解の特徴上、二酸化炭素、水までの完全分解に至らず、中間代謝物で反応が止まり、毒性の強い中間代謝産物が生成、蓄積するケースが多い。このため、嫌気性微生物により低塩素化または無塩素化された化合物以降の反応を好気性分解微生物により分解させることを特徴とする、嫌気性分解微生物による嫌気性分解処理と好気性分解微生物による好気性分解処理を組み合わせたハイブリッド処理方式(以下、嫌気/好気処理方式と呼ぶ。)により高塩素化合物等の難分解性の有害物質を分解、無害化する試みが検討されている(特許文献1および特許文献2参照。)。かかる処理方式は、嫌気性分解微生物による脱塩素反応を機能させることで、難分解性有害物質を好気性分解微生物が分解できる構造まで変換させた後に、好気性分解微生物の持つ酸化分解能力により、二酸化炭素および水まで効率的に完全分解することを狙いとしている。
【0004】
実際、嫌気/好気処理方式は、クロルエチレン類、PCB類、ダイオキシン類、農薬、環境ホルモンなど難分解性の環境汚染物質を生物的に分解するのに適した有効な手段であることが実証されつつある。しかしながら、嫌気/好気処理方式は、嫌気条件、および好気条件下において、それぞれ異なる種類の微生物(群)が関与するため、嫌気/好気の環境を切り替えた後、有害物質に対して分解能を有する嫌気性または好気性の目的分解微生物(以下、目的分解微生物と略する。)が活動しはじめるまでに長時間を要するのが実情であり、現在の技術は、分解時間の短縮化、分解効率の向上の要素を十分に満足させるものではない。
【0005】
嫌気/好気処理方式で特に問題となるのは、嫌気性分解微生物の多くは酪酸、乳酸、酢酸などの有機酸を利用するため、嫌気性分解の場合、これら有機酸を嫌気性分解微生物の栄養源として供給するケースが一般的である。しかしながら、嫌気性分解で、これら有機酸が完全にメタンと二酸化炭素まで、分解されるのは稀で、一般には酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、メタノールなど分解代謝産物などで、残存するケースが多く、処理環境を嫌気から好気に切り替えた場合に、このような未分解の有機酸および有機酸の分解産物が好気条件下で残存していると、有害物質に対して分解能を有する目的とする好気性分解微生物以外の好気性微生物(以下、好気性雑菌と略する。)がこれら未分解の有機酸および有機酸の分解産物を利用し、増殖するという好ましくない状況になる。
【0006】
好気性雑菌が増殖すると、好気性雑菌により嫌気条件下で消費されずに残存した未分解の有機酸および有機酸の分解産物が完全に消費され尽くすまで環境中の酸素をこれら好気性雑菌が優先的に消費するため、有害物質に対して分解能を有する好気性分解微生物(以下、目的好気性分解微生物と略する。)は効率よく活動することができない。また、一部の好気性雑菌は自らの増殖の際、抗菌性物質を生産することも予想され、目的好気性分解微生物が最悪死滅してしまうこともある。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−34128号公報
【特許文献2】
特開2000−102377号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、このように嫌気/好気処理方式により、効率よく汚染土壌等を修復するためには、目的分解微生物の分解能力を十分に発揮し得るに最適な生育環境を構築する必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、分解時間の短縮化および高い分解効率を達成し、難分解性の有害物質を分解、無害化できる新規な汚染土壌または汚染水の分解処理方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、高い分解効率で、難分解性の有害物質を迅速に分解、無害化できる汚染土壌等の修復技術を確立すべく、目的分解微生物の生育環境に焦点をあて、目的分解微生物に添加する栄養源の最適化を求めて鋭意研究を行った結果、嫌気条件下で用いる栄養源として水素および二酸化炭素を供給すると、嫌気/好気処理方式において、嫌気的環境から好気的環境に移行させた際に、速やかに有害物質に対して分解能力を有する目的好気性分解微生物が十分にその分解能力を発揮し得る環境を作り出すことができることを見出し、かかる知見を基礎として本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の方法を概説すれば、請求項1に係る発明は、有害物質により汚染された土壌または水中の前記有害物質を分解することにより前記汚染土壌または汚染水を修復する方法であって、嫌気性微生物によって有害物質を嫌気的に分解する嫌気的処理工程と好気性微生物によって有害物質を好気的に分解する好気的処理工程とを含む生物分解工程を有し、更に、前記生物分解工程が、前記嫌気的処理工程からそれに続く好気的処理工程に移行する工程を有するものであり、前記嫌気的処理工程において、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする、汚染土壌または汚染水を修復する方法に関する。
【0012】
前記したように、嫌気性分解微生物の多くは酪酸、酢酸、乳酸などの有機酸を利用するため、嫌気性分解の場合、これら有機酸を嫌気性分解微生物の栄養源として供給するケースが一般的である。嫌気性分解において、これら有機酸が完全にメタンと二酸化炭素まで分解するのは稀で、一般に酢酸、プロピオン酸、エタノール、メタノールなど分解代謝産物などで残存することになる。処理環境を好気条件に切り替えた際に、未分解の有機酸および有機酸の分解代謝産物が残存していると好気性雑菌がこれらを栄養源として優先的に増殖することから、目的好気性分解微生物の増殖の妨げとなり、目的好気性分解微生物の酸化分解能力を活性化させるまで、長時間を要する。
【0013】
本発明では、脱塩素反応を起こす一部の嫌気性分解微生物は水素と二酸化炭素からエネルギーを獲得することができること、また、水素、二酸化炭素であれば、ほとんどの好気性雑菌は栄養源として利用できないため、嫌気条件から好気条件に切り替えた際、嫌気条件下で消費されずに残存していても好気性雑菌の増殖はおこりにくいことを見出し、嫌気/好気処理方式による汚染土壌等の修復に際して、嫌気性処理時に、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする。したがって、本発明の嫌気/好気処理方式は、栄養源として、従来、使用される有機酸ではなく、水素と二酸化炭素を導入することが注目される。嫌気性処理下で、好気性雑菌の栄養源として利用できない水素と二酸化炭素を添加することによって、嫌気条件から好気条件に切り替えた際、嫌気条件下で利用されずに残存した持込栄養源がほとんど存在しないため、目的好気性分解微生物の増殖の妨げになる好気性雑菌の増殖を抑制できる。これにより、迅速な目的好気性分解微生物の増殖を達成することができると共に、迅速な嫌気/好気の切り替えを確保することができ、分解時間の短縮、分解効率の向上を達成することが可能となる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法において、前記嫌気性微生物が、栄養源として水素と二酸化炭素を利用し得ることを特徴とする。
【0015】
つまり、本発明で利用できる嫌気性分解微生物として、水素と二酸化炭素を利用して増殖しえる微生物が好ましく例示される。本発明の嫌気性分解微生物として、水素と二酸化炭素を利用して増殖しえる微生物を用いることにより、有機酸の添加なくしても嫌気性微生物の増殖および、分解能力を活性化できる。したがって、上記した通り、有機酸添加に起因する好ましくない好気性雑菌の増殖を抑制することができる。
【0016】
本発明で利用できる嫌気性微生物として、例えば、メタノサルシナ属、メタノコッカス属、メタノバクテリウム属、メタノブレビバクター属、メタノゲニウム属、デサルフォバクテリウム属、クロストリジウム属、アセトバクテリウム属、デハロバクター属、デハロコッコイダス属に属する微生物が特に、好ましく例示される。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1〜2のいずれかに記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法において、前記好気性微生物がモノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼから選択される1または2種以上の酵素を生産し得ることを特徴とする。
【0018】
つまり、本発明で利用できる好気性分解微生物として、モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等を産生する微生物が好ましく、例示される。モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等は、酸化酵素であり、難分解性の有害物質が嫌気微生物により低塩素化または、無塩素化された化合物を酸化分解する能力を有する。かかる酵素を産生する微生物は、基質選択性が高く、増殖および酵素誘導のために各酸化酵素に応じた特別の栄養源の添加を必要とし、これらを添加することにより、難分解性の有害物質を酸化分解することができる好気性分解微生物を、他の好気性雑菌に優先して増殖させることが可能となり、分解時間の短縮、分解効率の向上を導くことが可能となる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法において、前記好気性微生物が、シュードモナス属、メチロモナス属、メチロシナス属、メチロシスティス属、メチロコッカス属、ミコバクテリウム属、ニトロソモナス属、ロドコッカス属、アルカリゲネス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、スタフィロコッカス属、ファネロカエーテ属の群から選択される1または2種以上の微生物であることを特徴とする。
【0020】
つまり、本発明で利用できる好気性微生物として、シュードモナス属、メチロモナス属、メチロシナス属、メチロシスティス属、メチロコッカス属、ミコバクテリウム属、ニトロソモナス属、ロドコッカス属、アルカリゲネス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、スタフィロコッカス属、ファネロカエーテ属に属する微生物が特に、好ましく例示される。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の方法において、好適に処理することができる有害物質としては、高塩素化合物等、好気性微生物処理、または嫌気性微生物処理単独では完全に分解、無毒化することが困難な難分解性の有害物質などである。そのような有害物質としては、例えば、テトラクロロエチレン等のクロルエチレン類、コプラナーPCB、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ジオキシン等のダイオキシン類、ペンタクロロフェノール、1,1,1−トリクロロ−2,2−ビス(p−クロロフェニール)エテン等の農薬、上記した化合物をも含む上位概念的表現を用いるが、環境ホルモンが含まれる。
【0022】
本発明の土壌等の修復方法においては、嫌気条件下において、水素および二酸化炭素を嫌気性微生物の栄養源とするものであり、更に、一般的なバイオレメディエーション処理において使用されると考えられる範囲の無機塩類を添加するものである。水素と二酸化炭素を添加することにより、嫌気的環境を形成できると共に、嫌気性微生物の増殖のための栄養源となる。
【0023】
本発明で添加される水素および二酸化炭素は、精製されたガスとして、単独で別々に、または同時に、また、両者を混合して混合ガスの形態で導入することが可能である。また、これらのガスを窒素ガスなどの不活性ガスで希釈して使用することも可能であり、特に水素ガスは安全性の観点から、不活性ガスと共に導入することが好ましく、二酸化炭素ガス、窒素ガスとの混合ガスとしての使用が特に好ましい。また、水素ガスの導入に際しては、水素放出剤を利用することも可能である。更に、水素ガス、二酸化炭素ガスを水等の液体媒体に溶け込ませた水溶液の形態として導入することができ、一方をガス形態で、他方を水溶液の形態で導入することも可能である。また、水溶液の形態として導入する場合、無機塩類および/又は下記で詳細に説明する任意の嫌気性微生物を混入して、同時に導入することも可能である。二酸化炭素については、炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を必要に応じて添加することで代用することができる。
【0024】
本発明の利用できる反応形態としては、現場で掘削を伴わないで汚染土壌等の修復処理を行う原位置バイオレメディエーション法、汚染土壌等を掘削し、修復処理を行うオンサイトバイオレメディエーション法を含む、一般的なバイオレメディエーション技術のいずれのケースにおいても適用可能である。オンサイトバイオレメディエーション法に基づいて処理を行う場合、密閉型もしくは、半密閉型の反応槽を利用して処理を行うことも、好ましく例示される。なお、ここで言う、密閉型もしくは、半密閉型の反応槽は、所望の均質的な嫌気および好気環境を維持できる手段であればよく、反応槽のタイプに限定されるものではない。
【0025】
本発明の利用できる導入形態としては、汚染土壌にガス形態の水素ガス、二酸化炭素ガスを供給する、固体(汚染土壌)/気体(ガス)処理方式、汚染土壌を流動性を確保できるよう水分を調整したスラリー、汚染水等にガス形態の水素ガス、二酸化炭素ガスを供給する、液体(スラリー、汚染水など)/気体(ガス)処理方式、汚染土壌等に水溶性形態に調整された水素、二酸化炭素を溶け込ませた溶液を供給する、固体(汚染土壌)/液体(水素、二酸化炭素を溶解させた水)処理方式が例示されるが、これらに限定されるものではなく、汚染場所、汚染物質の種類等に応じて適宜設計されるものである。
【0026】
水素と二酸化炭素の分解対象土壌への具体的な導入形態として、以下に主な導入形態を述べるが、これらの形態に限定されることなく、本発明はいかなる導入形態も利用可能である。
【0027】
原位置バイオレメディエーション法を採用して汚染地下水を浄化する場合、例えば、地下汚染箇所の近傍の飽和層に2本以上の井戸を掘削し、地下水流の下流側に掘削された揚水井戸から揚水した地下水の少なくとも一部に水素および二酸化炭素を気体あるいは水溶液の形態で導入し、これを上流側に掘削された注入井戸に注入し循環する方法が好適に利用できる。この場合、嫌気処理が終了した時点で地下水の少なくとも一部に空気や純酸素および、特別の栄養源等を添加することで環境条件を好気性雰囲気に移行させることができ、嫌気/好気処理方式がスムーズに実施できる。
【0028】
また、オンサイトバイオレメディエーション法を採用する場合、例えば、密閉型もしくは半密閉型の反応槽への水素ガスおよび二酸化炭素ガスの導入により反応槽内の気相の置換を行なうことが好適に利用できる。また、反応槽内に散水管または散気管を土壌中あるいは水中に埋設して導入する方法も好適に利用できる。また、水溶液の形態として、水素および二酸化炭素を導入する場合には、上向流、下向流いずれの通水でもよく、固定化した土壌を浸漬することにより行うことができる。
【0029】
また、既存のガス製造装置(純水電解法、メタノール改質法、都市ガス改質法などによる装置)を使用して所定のガスを製造させ、嫌気栄養源として利用することもできる。このとき、同時に得られる酸素ガスを貯留しておき、下記で説明する好気性分解時の電子受容体として転用させることも可能である。
【0030】
嫌気性処理中の制御は、水素、二酸化炭素、酸素のガス濃度もしくは液中濃度を常時モニタリングを行い、これらの計測値に基づき、水素および二酸化炭素の添加量を制御することで対応できる。目標とする制御レベルは、気相中ガス濃度は酸素濃度1%以下、液中条件は酸化還元電位が−100mv以下であり、かかるレベルに制御すべく、随時、水素および二酸化炭素の添加を行う。
【0031】
本発明において用いられ得る嫌気性分解微生物は、水素と二酸化炭素を栄養源として増殖し得る微生物である。水素と二酸化炭素を栄養源として増殖し得るという性質を有する限り、修復対象の土壌又は水中に既に棲息する土着微生物を、また、当該の修復済み土壌、底質土壌、嫌気性消化汚泥等を導入して、これらを使用することが可能であり、嫌気性微生物の栄養源として一般的に使用される有機酸を添加せず、水素および二酸化炭素を土壌又は水に導入することにより、水素と二酸化炭素を栄養源として利用できる微生物を、水素および二酸化炭素以外の栄養源を増殖の必須要素する他の土着微生物に優先して増殖させることができるようになる。また、水素と二酸化炭素を栄養源として増殖し得る性質を有する、任意の嫌気性微生物(群)を導入することも可能である。任意の微生物を添加する場合、該微生物は既に単離されているもの、また、環境中から目的に応じて新たにスクリーニングされたものを利用することが可能であり、複数の株の混合系でもかまわない。また、人為的な変異を施した微生物や遺伝子工学的に改良した微生物も使用することが可能である。また、微生物をセラミックスなどの担体に固定化して使用することも可能である。
【0032】
微生物の導入は、定期的に行ってもよく、また、嫌気性条件を設定する立ち上げ時のみに行ってもよく、水素および二酸化炭素の導入と同時に行うことが可能であり、また、別途導入手段を設けて別々に導入することも可能である。
【0033】
そのような嫌気性分解微生物として、好ましくは、メタノサルシナ(Methanosarcina)属、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)属、メタノゲニウム(Methanogenium)属、デサルフォバクテリウム(Desulfobacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、アセトバクテリウム属(Acetobacterium)、デハロバクター(Dehalobacter)属、デハロコッコイダス( Dehalococcoides )属などに属する微生物を例示することができるが、必ずしも微生物学的な分類に限定されるものではない。
【0034】
好気条件に環境を切り替える際には、酸素の供給が必要であるが、純酸素、空気等のガスの形態で導入することが可能であり、酸素徐放剤を利用することも可能である。また、純酸素、空気、過酸化水素、過マンガン酸塩などの酸化剤を水等の液体媒体に溶け込ませた水溶液の形態として導入することができ、このとき、下記で詳細に説明する無機塩類および/又は特別の栄養源および/又は任意の好気性微生物を混入して、同時に導入することも可能である。また、導入形態は水素、二酸化炭素の導入形態に準拠して行うことができ、また、公知のいずれかの導入形態を適宜選択することも可能である。
【0035】
本発明において用いられ得る好気性分解微生物は、クロルエチレン類、PCB類、ダイオキシン類、農薬、環境ホルモンをはじめとする難分解性の有害物質が嫌気微生物により低塩素化または、無塩素化された化合物、例えば、クロルエチレンの0〜3塩素体、ジベンゾジオキシン、ジベンゾフランの0〜4塩素体、ビフェニルの0〜6塩素体を、好気的に分解し得る微生物であり、好ましくは、モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼなどの酸化酵素を産生する微生物を例示することができる。
【0036】
一般に、二重結合をもつ難分解性の有害物質を分解する酵素を生産する好気性分解微生物は、酵素誘導のための基質選択性が高いため、好ましくは、分解目的対象化合物に応じた、これら好気性分解微生物の有害物質に対する分解能力を活性化させるべく、特別な栄養源を添加する。更に、一般的なバイオレメディエーション処理において使用されると考えられる範囲の無機塩類を添加するものである。
【0037】
そのような特別な栄養源としては、例えば、クロルエチレン類を酸化分解するのに有効なメタンモノオキシゲナーゼ等のモノオキシゲナーゼを誘導させる場合には、メタン、プロパン、アンモニア、トルエン、フェノールの群から選択される、1種または2種以上の化合物および、これら化合物を含有する物質が、ジオキシゲナーゼを誘導させる場合には、トルエン、フェノール、安息香酸、ビフェニル、ジベンゾ−p−ジオキシン、ジベンゾフラン、カルバゾール等の無塩素体化合物の群から選択される、1種または2種以上の化合物および、これら化合物を含有する物質が、ダイオキシン、PCB類などを酸化分解させるためのリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼを誘導させる場合には、リグニンなどの多環芳香族化合物の群から選択される、1種または2種以上の化合物および、これら化合物を含有する物質が、特に好適に利用できる。
【0038】
嫌気条件での栄養源として、水素、二酸化炭素を用いることにより、好気条件への持込栄養源がないため、これらの特別の栄養源を優先的に利用できる目的分解微生物が好気性雑菌となり得る他の微生物に優先して増殖できるため、好気性分解を速やかに進行させることができる。
【0039】
本発明の好気性微生物としては、修復対象の土壌又は水中に既に棲息する土着微生物を、また、当該の修復済み土壌、活性汚泥、コンポスト等を導入して、これらを使用することが可能であり、上記した特別な栄養源を分解対象有害物質に応じて適宜選択して添加することにより、これらを栄養源として利用できる目的好気性分解微生物を、これらを利用することができない好気性雑菌となり得る他の土着微生物に優先して増殖させることができるようになり、結果として、分解対象有害物質の分解に適した目的好気性分解微生物のみを選択的に増殖させることができる。また、上記酵素を産生する、任意の目的好気性分解微生物(群)を導入することも可能である。任意の微生物を添加する場合、該微生物は既に単離されているもの、また、環境中から目的に応じて新たにスクリーニングされたものを利用することが可能であり、複数の株の混合系でもかまわない。また、人為的な変異を施した微生物や遺伝子工学的に改良した微生物も使用することが可能である。また、微生物をセラミックなどの担体に固定化して使用することも可能である。
【0040】
微生物の導入は、定期的に行ってもよく、また、好気性条件を設定する立ち上げ時のみに行ってもよく、酸素および/または特別の栄養源および/又は無機塩類の導入と同時に行うことが可能であり、また、別途導入手段を設けて別々に導入することも可能である。
【0041】
上記酵素を産生できる微生物をしては、好ましくは、シュードモナス(Pseudomonas)属、メチロモナス(Methylimonas)属、メチロシナス(Methylocinus)属、メチロシスティス(Methylocystis)属、メチロコッカス(Methylococcus)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属、ニトロソモナス( Nitrosomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、ファネロカエーテ(Phanerochaete)属などに属する微生物を例示できるが、必ずしも微生物学的な分類に限定されるものではない。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)水素および二酸化炭素を嫌気性微生物の栄養源として用いたテトラクロロエチレン(以下、PCEと略する。)の分解実験
(1)分解微生物群の調整
(1)−1.嫌気性微生物群
水素ガスおよび二酸化炭素ガス、窒素ガスの混合ガスによるPCE嫌気性分解能評価を行った。湖沼底質土を採取し、これを種菌源として使用した。無機塩培地17.5mlを25ml容量のバイアル瓶に入れ、あらかじめ水素10%・二酸化炭素10%・窒素80%の混合ガスでパージした。上記底質土0.5gおよび1mg/L相当となるようにPCEを添加し、直ちに密栓をし、30℃、150rpmの条件で振とう培養した。5週間培養後、バイアル瓶のヘッドスペースガスをGC/ECDにて分析し、当該微生物群が上記混合ガスを栄養源としてPCEを脱塩素分解することを確認した。
なお、上記同条件で窒素ガスのみでパージしたバイアル瓶を準備し、並行して分解性を評価したが、PCEの脱塩素分解能は全く認められなかった。
【0043】
(1)−2.好気性分解微生物群
廃水処理施設から汚泥を採取し、これを種菌源として使用した。無機塩培地4.6mlを70ml容量のバイアル瓶に入れ、上記汚泥0.4mlを接種したのち、密栓後バイアル瓶の気相13mlをメタンガスで置換し、液中濃度1mg/L相当となるようにトリクロロエチレン(以下、TCEと略する。)を注入し、30℃、250rpmで振とう培養を行った。10日後にバイアルのヘッドスペースガスをGC/ECDにて分析し、TCE分解能を確認した。さらに、同条件で2回繰り返し植え継ぐことで、メタンガスを炭素栄養源としてTCEを好気性分解する微生物群を得ることができた。
【0044】
(2)PCE分解実験手法
無機塩培地38.4mlを125ml容量のバイアル瓶に入れ、あらかじめ、二酸化炭素10%・水素10%・窒素80%からなる混合ガスでパージした。その後、上記で使用したものと同じ湖沼底質土0.8g(嫌気微生物群)および上記で得られた好気性分解微生物群0.8ml(好気集積微生物群)を添加し、液中濃度10mg/LになるようにPCEを添加し、直ちに密栓して30℃・150rpmの条件で振とう培養した。2〜4日毎にバイアルのヘッドスペースガスをGC/ECDで分析し、PCEの分解動態をモニタリングした。すべてのPCEが嫌気性分解されたところで、20ml純酸素ガスおよび20mlのメタンガスを注入し、好気条件に切り替えて30℃、250rpmの条件で培養を継続した。なお、好気期間中は、バイアル気相中の酸素およびメタン濃度を随時モニタリングし、必要に応じて純酸素ガス(20mlずつ)およびメタンガス(20mlずつ)を注入することで、それぞれ5〜20%のガス濃度範囲を維持させた。2日毎にバイアルのヘッドスペースガスをGC/ECDで分析し、すべてのTCEが好気性分解されるまで実験を継続し、PCEを完全に分解するのに要した日数を算出した。
【0045】
(比較例1)0.4%酪酸を嫌気性微生物の栄養源として用いたPCEの分解実験
(1)分解微生物の調整
(1)−1.嫌気性微生物群
酪酸添加によるPCE嫌気性分解能評価を行った。実施例1で使用したのと同じ湖沼底質土を採取し、これを種菌源として使用した。0.1%酪酸を炭素栄養源とした無機塩培地17.5mlを25ml容量のバイアル瓶に入れ、あらかじめ窒素ガスでパージした。上記底質土0.5gおよび1mg/L相当となるようにPCEを添加し、直ちに密栓して30℃、150rpmの条件で振とう培養した。5週間培養後、バイアル瓶のヘッドスペースガスをGC/ECDにて分析し、当微生物群が酪酸を栄養源としてPCEを脱塩素分解することを確認した。
(1)−2.好気性微生物群
実施例1で使用したものと同一のものを使用した。
(2)PCE分解実験手法
0.4%相当の酪酸を炭素栄養源として添加したことおよび実験開始時に窒素ガスでバイアル瓶内をパージしたことを除いて、実施例1に準拠して行った。
【0046】
(比較例2)0.1%酪酸を嫌気性微生物の栄養源として用いたPCEの分解実験
(1)分解微生物の調整
(1)−1.嫌気性微生物群
比較例1に記載。
(1)−2.好気性微生物群
実施例1および比較例1で使用したものと同一のものを使用した。
(2)PCE分解実験手法
0.1%相当の酪酸を炭素栄養源として添加したこと、および実験開始時に窒素ガスでバイアル瓶内をパージしたことを除いて、実施例1に準拠して行った。
【0047】
表1に上記した実施例および比較例の実験開始時の実験条件について要約する。
【0048】
【表1】
【0049】
(3)結果
実験結果を図1に示すともに、分解所要期間を表2に要約する。
【0050】
【表2】
【0051】
水素ガスと二酸化炭素の混合ガスを施与した本発明の実施例1は、PCEを完全分解に要した時間は30日間であり、最も短期間でPCEを完全分解できた。嫌気期間は比較的長期間を要したが、好気期間が著しく短縮され、最も短期間でPCEを完全分解できることが判明した(図1、結果1−3、表2)。
以上の結果から、水素ガスと二酸化炭素の混合ガスを嫌気性微生物の栄養源とさせることで、嫌気から好気への未分解の酪酸、酪酸分解代謝産物などの嫌気条件下で消費されずに残存した栄養源の持ち込みが極力低減でき、目的好気性分解微生物の増殖を妨げる好気性雑菌の増殖を抑えられ、結果として好気性分解をスムーズに発現させることができることが理解できる。
【0052】
0.4%酪酸を添加した比較例1では、PCEの嫌気性分解(脱塩素反応)は比較的スムーズに起こるが、その後の好気条件ではTCEの分解に時間を要し、結果として完全分解までには48日間要した(図1、結果1−1、表2)。
したがって、嫌気条件下で消費されずに残存した未分解の酪酸、酪酸分解代謝産物などが、嫌気条件下から好気条件下への持ち込みの炭素栄養源となり、それを利用して、切り替え後、真っ先に好気性雑菌が増殖したことが理解できると共に、結果として、好気性雑菌の増殖が、本来増殖を期待する目的好気性分解微生物の妨げとなり、TCE分解速度が著しく低下したことが理解できる。
【0053】
0.1%酪酸を添加した比較例2では、PCEの嫌気性分解は長期間を要したが、好気条件ではTCEを比較的スムーズに分解し、完全分解には46日間を要した。この場合は、添加酪酸濃度が低濃度であることから、嫌気条件下から好気条件下への持ち込みの栄養源濃度が低いことに起因し、好気性分解は比較的スムーズに発現、完了した(図1、結果1−2、表2)。
しかしながら、0.1%濃度の酪酸では、嫌気性分解のための栄養源(電子受容体)が不足していたため、嫌気性処理期間が著しく延長される結果となったこととが理解できる。
【0054】
【効果】
本発明の方法によれば、目的微生物の分解能力を十分に発揮し得るに最適な生育環境を構築することが可能になり、それにより、分解時間の短縮化および高い分解効率を達成し、難分解性の有害物質を分解、無害化できる新規な汚染土壌または汚染水の分解処理方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例、比較例1および比較例2のPCE分解における分解産物の経時変化を示すグラフ
Claims (4)
- 有害物質により汚染された土壌または水中の前記有害物質を分解することにより前記汚染土壌または汚染水を修復する方法であって、
嫌気性微生物によって有害物質を嫌気的に分解する嫌気的処理工程と好気性微生物によって有害物質を好気的に分解する好気的処理工程とを含む生物分解工程を有し、
更に、前記生物分解工程が、前記嫌気的処理工程からそれに続く好気的処理工程に移行する工程を有するものであり、前記嫌気的処理工程において、水素と二酸化炭素を導入することを特徴とする、汚染土壌または汚染水を修復する方法。 - 前記嫌気性微生物が、栄養源として水素と二酸化炭素を利用し得ることを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法。
- 前記好気性微生物がモノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼから選択される1または2種以上の酵素を生産し得ることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法。
- 前記好気性微生物が、シュードモナス属、メチロモナス属、メチロシナス属、メチロシスティス属、メチロコッカス属、ミコバクテリウム属、ニトロソモナス属、ロドコッカス属、アルカリゲネス属、バークホルデリア属、スフィンゴモナス属、スタフィロコッカス属、ファネロカエーテ属の群から選択される1または2種以上の微生物であることを特徴とする請求項3に記載の汚染土壌または汚染水を修復する方法。
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