JP2004197112A - 生体用超弾性チタン合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】Ti−Ni合金と比較して超弾性を示すひずみ量が劣らず、応力ヒステリシスが狭い生体用超弾性チタン合金を提供する。
【解決手段】成分がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、ついで、450℃以上の温度で加熱処理することを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法。また、前記チタン合金は、成分組成でMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%である。
【選択図】 なし
【解決手段】成分がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、ついで、450℃以上の温度で加熱処理することを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法。また、前記チタン合金は、成分組成でMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は生体用超弾性チタン合金およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超弾性を備えた合金材料が医療分野に利用されている。例えば、Ti−Ni系合金は、強度があり、耐磨耗性が大きい、耐食性に優れている、また、生体とのなじみが良いなどの特徴があるため、生体用材料として、一時的あるいは半永久的に多種多様の分野で用いられている。
【0003】
ところで、Ti−Ni系合金を用いた生体用材料は、アレルギー症状に関与すると思われるNi元素が体内で溶出することが懸念されている。Niが主要な構成元素であるTi−Ni系合金は、アレルギー症状に関与する面から不安視されており、そのため、人体に対して毒性やアレルギー性のある元素を含まず、より安全な超弾性合金への要求が高まっている。
【0004】
図7には、各種純金属元素に対して、横軸を鶏胚心筋繊維牙組織の細胞成長係数とし、縦軸をマウス繊維牙組織由来L929細胞の細胞相対増殖率として、まとめた結果(出典:Materials Science and Engineering A, A243(1998)244−249)を示した。この図によれば、V、Cu、Zn、Cd、Co、Hgなどは細胞毒性が強い元素であること、Zr、Ti、Ta、Pd、Auなどは、生体適合性に優れていることが示されている。
【0005】
さらに、図8には、横軸を生体適合性とし、縦軸を生体内の耐食性の指標となる分極抵抗(R/Ω・m)としてまとめた結果(出典:図7に同じ)を示した。この図によれば、Pt、Ta、Nb、Ti、Zrは生体適合性に優れていることが示されている。
【0006】
上記に基づいて、特開2001−329325号公報には、生体適合性に優れた元素で構成されるTi−Nb系合金に着目し、第3元素として毒性の指摘のないSnを加えた3元系合金を生体用の形状記憶合金として活用できることが提案されている。
【0007】
また、本発明者らは、特願2002−102531号において、毒性の指摘のないMoと、Al、Ge、Gaのうち何れかを添加して構成されるTi−Mo−Al系合金、Ti−Mo−Ge系合金、Ti−Mo−Ga系合金を超弾性合金として提案した。
【0008】
このような生体用超弾性チタン材料は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステントのような生体用医療器具に使用でき、また、眼鏡のフレームにも使用できるものである。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−329325号公報
【非特許文献1】
Daisuke Kuroda, 他4名, Materials Science and Engineering A, Elsevier Science, 1998年3月15日,243巻,P.244−249
【非特許文献2】
舟久保煕康編、「形状記憶合金」、初版、産業図書株式会社、昭和59年6月7日、P36
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前記の特開2001−329325号公報、および、特願2002−102531号では、チタン合金を溶体化熱処理することにより、ある成分組成で変形後の残留ひずみが小さくなる、つまり超弾性を得るものである。
【0011】
しかし、上記の超弾性は、Ti−Ni合金と比較して超弾性を示すひずみ量が小さく、生体用医療器具に用いるには不十分であった。この原因としては、溶体化熱処理したために、すべりに対する臨界応力が低くなり、完全な超弾性発現の前にすべりによる永久変形が生じていることが考えられた。
【0012】
また、応力ヒステリシス(負荷時と除荷時の応力差)が大きいと、医療用ガイドワイヤに用いた場合に手元の回転がワイヤ先端に伝わりにくく、操縦性が悪い(トルク伝達性が悪い)という問題が生じる。
【0013】
従って本発明は、優れた超弾性を示すTi−Ni合金と比較して超弾性を示すひずみ量が劣らず、応力ヒステリシスが狭い生体用超弾性チタン合金の製造方法及び生体用超弾性チタン合金を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための本発明の第1の態様は、成分がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、
前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、
前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、
ついで、450℃以上の温度で加熱処理することを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記チタン合金は、成分組成でMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0016】
本発明の第3の態様は、前記加熱処理の加熱時間が1分〜2時間であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様は、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0018】
本発明の第5の態様は、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0019】
本発明の第6の態様は、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下であり、かつ、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。まず、超弾性の発現に関して簡単に述べる。図9は、(出典:形状記憶合金、舟久保煕康編 36ページ)超弾性の発現条件を示した模式図である。図9は、すべりに対する臨界応力が(A)のように高ければ、斜線を引いた応力一温度範囲で超弾性が発現し、すべりに対する臨界応力が(B)のように低ければ、超弾性は発現しないことを示している。また、図9は、超弾性はAfからMdの温度範囲で発現することを示している。
【0021】
ここで、Msはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度をであり、Mfはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度を示す。Asはオーステナイト変態開始温度あり、Afはオーステナイト変態終了温度である。Mdは、応力誘起マルテンサイトが生成する最高温度である。
【0022】
生体材料は、体内で、又は体に密着した状態で使用されるので、使用温度範囲は常温近傍といえる。このため、超弾性を得るためには、Afを室温以下にし、かつ、Mdを室温以上となるように制御する必要がある。一般に、Afは成分組成に大きく依存し、成分組成以外の因子により変化させることは難しい。そのため、Afは成分組成を変化させて制御することが望ましい。
【0023】
Mdは、すべりに対する臨界応力の向上により上昇し、Mdの上昇に伴い良好な超弾性が得られる。つまり、良好な超弾性を得るには、すべりに対する臨界応力を高くする必要がある。
【0024】
すべりに対する臨界応力を高める方法として、すべり変形のおきにくい加工組織にする方法があげられる。Ti−Mo−Al系合金、Ti−Mo−Ge系合金、Ti−Mo−Ga系合金、Ti−Nb−Sn系合金においても、冷間加工を施して加工組織にし,転位の動きにくい組織にすることにより臨界応力を上昇させることができると考えた。
【0025】
ここで,本発明のTi合金は、β安定型のTi合金である。β安定型Ti合金の微細析出相としてω相がある。しかし、ω相が析出すると脆化を招くことがある。このため、超弾性を付与するための熱処理時には脆化を防ぐためにω相の析出をなるべく抑える必要がある。
【0026】
本発明では、成分組成がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、ついで、450℃以上の温度で加熱処理して生体用超弾性チタン合金を製造する。
【0027】
本発明では、Moと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有するTi合金、または、Nbと、Snを含有するTi合金のインゴットを用いる。ここで、チタン合金はMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%であることが望ましい。この成分組成及び組成範囲とすることにより、好適な生体用超弾性チタン合金が得られる。
【0028】
本発明では、焼鈍後の最終冷間加工率を20%以上とする。この理由は、すべり変形の起きにくい加工組織とするためであり、20%未満では求める加工組織が得られないためである。
【0029】
本発明では、加熱処理する温度を450℃以上とする。この理由は、450℃未満の温度、例えば400℃で6時間に渡るような長時間の熱処理を行うと、ω相が析出して脆化し、良好な超弾性が得られないからである。望ましい温度範囲は、450〜700℃である。しかし、700℃を超えても加工組織を再結晶させないような、例えば、800℃で15秒間程度の短時間の加熱処理であれば優れた超弾性が得られる。なお、上記理由からも、熱処理時間は1分〜2時間の範囲で行うことが望ましい。
【0030】
本発明の生体用超弾性チタン合金は、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下である。その理由は、0.2%を超えると残留ひずみが大きく、生体用医療器具に用い難いためである。なお、引張試験はJISH7103に準じて行ったものである。
【0031】
本発明の生体用超弾性チタン合金は、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下である。その理由は、医療用ガイドワイヤに用いた場合、応力ヒステリシスが小さいほどトルク伝達性が向上するためであり、従来の製造法では応力ヒステリシスが150MPaを超えていたためである。なお、引張試験はJISH7103に準じて行ったものである。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
Nb:16at%、Sn:4at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Nb−Sn系合金となるように、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製した。インゴットには熱間加工、および冷間加工を施した。冷間加工時の焼鈍後には加工率を60%として最終冷間加工を施し、直径0.4mmの加工上がり線材を得た。
【0033】
この加工上がり線材に、400〜750℃の温度範囲で50℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0034】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図1としての表1に示した。
【0035】
以下表1により説明する。比較例のA−1は、熱処理温度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破断した。本発明例であるA−2〜A−8は、950℃で30分間溶体化処理を行った比較例のA−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。比較例のA−9、A−10は、熱処理温度がそれぞれ700℃、750℃と高く、再結晶したために残留ひずみがそれぞれ、0.23%、0,27%と高い値を示した。
【0036】
本発明例であるA−7について、応力−ひずみ曲線を図5に示した。また、比較例である溶体化処理材A−11の応力−ひずみ曲線を図6に示した。図5及び図6から、本発明例は、残留ひずみ、応力ヒステリシスともに値が小さいことが分かる。
【0037】
(実施例2)
Mo:6at%、Al:7at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Mo−Al系合金を用意し、実施例1と同様に製造して直径0.4mmの加工上がり線材を製造した。この加工上がり線材に、400〜750℃の温度範囲で50℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0038】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図2としての表2に示した。
【0039】
比較例のB−1は、熱処理温度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破談した。本発明例であるB−2〜B−9は、950℃で30分間溶体化処理を行った比較例のB−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。B−10は熱処理温度が750℃と高く、再結晶したために残留ひずみが0.29%と高い値を示した。
【0040】
(実施例3)
Mo:5at%、Ga:5at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Mo−Ga系合金を用意し、実施例1と同様に製造して直径0.4mmの加工上がり線材を製造した。この加工上がり線材に、400〜750℃の温度範囲で50℃毎に加熱処理を施した。加熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0041】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図3としての表3に示した。
【0042】
比較例のC−1は、熱処理濃度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破断した。本発明例であるC−2〜C−9は、950℃で30分の溶体化処理を行った比較例のC−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。C−10は熱処理温度が750℃と高く、再結晶したために残留ひずみが0.35%と高い値を示した。
【0043】
(実施例4)
Mo:6at%、Ge:4at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Mo−Ge系合金を用意し、実施例1と同様の製造方法にて直径0.4mmの加工上がり線材を製造した。この加工上がり線材に、400〜750℃の濃度範囲で50℃毎に加熱処理を施した。加熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0044】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図4としての表4に示した。
【0045】
比較例のD−1は、熱処理温度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破断した。本発明例であるD−2〜D−9は、950℃で30分の溶体化処を行った比較例のD−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。D一10は熱処理温度が750℃と高く、再結晶したために残留ひずみが0.25%と高い値を示した。
【0046】
以上、本発明例では線材を用いて説明したが、これらの方法は線材だけでなく板材、条材、テープ材、パイプ材、異形線材、その他冷間加工の可能な形態であれば何れも適用することができる。
【0047】
【発明の効果】
生体適合性に優れているTi−Nb−Sn系合金、Ti−Mo−Al系合金、Ti−Mo−Ga系合金、Ti−Mo−Ge系合金に対して、適切な熱処理を施すことにより良好な超弾性特性を発現させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、Ti−Nb−Sn系合金の評価結果である。
【図2】図2として示した表2であり、Ti−Mo−Al系合金の評価結果である。
【図3】図3として示した表3であり、Ti−Mo−Gan系合金の評価結果である。
【図4】図4として示した表4であり、Ti−Mo−Ge系合金の評価結果である。
【図5】本発明例の応力−ひずみ曲線である。
【図6】比較例の応力−ひずみ曲線である。
【図7】純金属の細胞毒性を示した図である。
【図8】分極抵抗および純金属等の生体適合性の相互関係を示した図である。
【図9】超弾性の出現状況を示す模式図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は生体用超弾性チタン合金およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超弾性を備えた合金材料が医療分野に利用されている。例えば、Ti−Ni系合金は、強度があり、耐磨耗性が大きい、耐食性に優れている、また、生体とのなじみが良いなどの特徴があるため、生体用材料として、一時的あるいは半永久的に多種多様の分野で用いられている。
【0003】
ところで、Ti−Ni系合金を用いた生体用材料は、アレルギー症状に関与すると思われるNi元素が体内で溶出することが懸念されている。Niが主要な構成元素であるTi−Ni系合金は、アレルギー症状に関与する面から不安視されており、そのため、人体に対して毒性やアレルギー性のある元素を含まず、より安全な超弾性合金への要求が高まっている。
【0004】
図7には、各種純金属元素に対して、横軸を鶏胚心筋繊維牙組織の細胞成長係数とし、縦軸をマウス繊維牙組織由来L929細胞の細胞相対増殖率として、まとめた結果(出典:Materials Science and Engineering A, A243(1998)244−249)を示した。この図によれば、V、Cu、Zn、Cd、Co、Hgなどは細胞毒性が強い元素であること、Zr、Ti、Ta、Pd、Auなどは、生体適合性に優れていることが示されている。
【0005】
さらに、図8には、横軸を生体適合性とし、縦軸を生体内の耐食性の指標となる分極抵抗(R/Ω・m)としてまとめた結果(出典:図7に同じ)を示した。この図によれば、Pt、Ta、Nb、Ti、Zrは生体適合性に優れていることが示されている。
【0006】
上記に基づいて、特開2001−329325号公報には、生体適合性に優れた元素で構成されるTi−Nb系合金に着目し、第3元素として毒性の指摘のないSnを加えた3元系合金を生体用の形状記憶合金として活用できることが提案されている。
【0007】
また、本発明者らは、特願2002−102531号において、毒性の指摘のないMoと、Al、Ge、Gaのうち何れかを添加して構成されるTi−Mo−Al系合金、Ti−Mo−Ge系合金、Ti−Mo−Ga系合金を超弾性合金として提案した。
【0008】
このような生体用超弾性チタン材料は、医療用ガイドワイヤ、歯列矯正用ワイヤ、ステントのような生体用医療器具に使用でき、また、眼鏡のフレームにも使用できるものである。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−329325号公報
【非特許文献1】
Daisuke Kuroda, 他4名, Materials Science and Engineering A, Elsevier Science, 1998年3月15日,243巻,P.244−249
【非特許文献2】
舟久保煕康編、「形状記憶合金」、初版、産業図書株式会社、昭和59年6月7日、P36
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前記の特開2001−329325号公報、および、特願2002−102531号では、チタン合金を溶体化熱処理することにより、ある成分組成で変形後の残留ひずみが小さくなる、つまり超弾性を得るものである。
【0011】
しかし、上記の超弾性は、Ti−Ni合金と比較して超弾性を示すひずみ量が小さく、生体用医療器具に用いるには不十分であった。この原因としては、溶体化熱処理したために、すべりに対する臨界応力が低くなり、完全な超弾性発現の前にすべりによる永久変形が生じていることが考えられた。
【0012】
また、応力ヒステリシス(負荷時と除荷時の応力差)が大きいと、医療用ガイドワイヤに用いた場合に手元の回転がワイヤ先端に伝わりにくく、操縦性が悪い(トルク伝達性が悪い)という問題が生じる。
【0013】
従って本発明は、優れた超弾性を示すTi−Ni合金と比較して超弾性を示すひずみ量が劣らず、応力ヒステリシスが狭い生体用超弾性チタン合金の製造方法及び生体用超弾性チタン合金を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための本発明の第1の態様は、成分がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、
前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、
前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、
ついで、450℃以上の温度で加熱処理することを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記チタン合金は、成分組成でMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0016】
本発明の第3の態様は、前記加熱処理の加熱時間が1分〜2時間であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様は、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0018】
本発明の第5の態様は、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0019】
本発明の第6の態様は、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下であり、かつ、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。まず、超弾性の発現に関して簡単に述べる。図9は、(出典:形状記憶合金、舟久保煕康編 36ページ)超弾性の発現条件を示した模式図である。図9は、すべりに対する臨界応力が(A)のように高ければ、斜線を引いた応力一温度範囲で超弾性が発現し、すべりに対する臨界応力が(B)のように低ければ、超弾性は発現しないことを示している。また、図9は、超弾性はAfからMdの温度範囲で発現することを示している。
【0021】
ここで、Msはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度をであり、Mfはオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度を示す。Asはオーステナイト変態開始温度あり、Afはオーステナイト変態終了温度である。Mdは、応力誘起マルテンサイトが生成する最高温度である。
【0022】
生体材料は、体内で、又は体に密着した状態で使用されるので、使用温度範囲は常温近傍といえる。このため、超弾性を得るためには、Afを室温以下にし、かつ、Mdを室温以上となるように制御する必要がある。一般に、Afは成分組成に大きく依存し、成分組成以外の因子により変化させることは難しい。そのため、Afは成分組成を変化させて制御することが望ましい。
【0023】
Mdは、すべりに対する臨界応力の向上により上昇し、Mdの上昇に伴い良好な超弾性が得られる。つまり、良好な超弾性を得るには、すべりに対する臨界応力を高くする必要がある。
【0024】
すべりに対する臨界応力を高める方法として、すべり変形のおきにくい加工組織にする方法があげられる。Ti−Mo−Al系合金、Ti−Mo−Ge系合金、Ti−Mo−Ga系合金、Ti−Nb−Sn系合金においても、冷間加工を施して加工組織にし,転位の動きにくい組織にすることにより臨界応力を上昇させることができると考えた。
【0025】
ここで,本発明のTi合金は、β安定型のTi合金である。β安定型Ti合金の微細析出相としてω相がある。しかし、ω相が析出すると脆化を招くことがある。このため、超弾性を付与するための熱処理時には脆化を防ぐためにω相の析出をなるべく抑える必要がある。
【0026】
本発明では、成分組成がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、ついで、450℃以上の温度で加熱処理して生体用超弾性チタン合金を製造する。
【0027】
本発明では、Moと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有するTi合金、または、Nbと、Snを含有するTi合金のインゴットを用いる。ここで、チタン合金はMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%であることが望ましい。この成分組成及び組成範囲とすることにより、好適な生体用超弾性チタン合金が得られる。
【0028】
本発明では、焼鈍後の最終冷間加工率を20%以上とする。この理由は、すべり変形の起きにくい加工組織とするためであり、20%未満では求める加工組織が得られないためである。
【0029】
本発明では、加熱処理する温度を450℃以上とする。この理由は、450℃未満の温度、例えば400℃で6時間に渡るような長時間の熱処理を行うと、ω相が析出して脆化し、良好な超弾性が得られないからである。望ましい温度範囲は、450〜700℃である。しかし、700℃を超えても加工組織を再結晶させないような、例えば、800℃で15秒間程度の短時間の加熱処理であれば優れた超弾性が得られる。なお、上記理由からも、熱処理時間は1分〜2時間の範囲で行うことが望ましい。
【0030】
本発明の生体用超弾性チタン合金は、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下である。その理由は、0.2%を超えると残留ひずみが大きく、生体用医療器具に用い難いためである。なお、引張試験はJISH7103に準じて行ったものである。
【0031】
本発明の生体用超弾性チタン合金は、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下である。その理由は、医療用ガイドワイヤに用いた場合、応力ヒステリシスが小さいほどトルク伝達性が向上するためであり、従来の製造法では応力ヒステリシスが150MPaを超えていたためである。なお、引張試験はJISH7103に準じて行ったものである。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
Nb:16at%、Sn:4at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Nb−Sn系合金となるように、非消耗タングステン電極型アルゴンアーク溶解炉を用いて溶解し、必要な形状に鋳造してインゴットを作製した。インゴットには熱間加工、および冷間加工を施した。冷間加工時の焼鈍後には加工率を60%として最終冷間加工を施し、直径0.4mmの加工上がり線材を得た。
【0033】
この加工上がり線材に、400〜750℃の温度範囲で50℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0034】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図1としての表1に示した。
【0035】
以下表1により説明する。比較例のA−1は、熱処理温度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破断した。本発明例であるA−2〜A−8は、950℃で30分間溶体化処理を行った比較例のA−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。比較例のA−9、A−10は、熱処理温度がそれぞれ700℃、750℃と高く、再結晶したために残留ひずみがそれぞれ、0.23%、0,27%と高い値を示した。
【0036】
本発明例であるA−7について、応力−ひずみ曲線を図5に示した。また、比較例である溶体化処理材A−11の応力−ひずみ曲線を図6に示した。図5及び図6から、本発明例は、残留ひずみ、応力ヒステリシスともに値が小さいことが分かる。
【0037】
(実施例2)
Mo:6at%、Al:7at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Mo−Al系合金を用意し、実施例1と同様に製造して直径0.4mmの加工上がり線材を製造した。この加工上がり線材に、400〜750℃の温度範囲で50℃毎に熱処理を施した。熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0038】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図2としての表2に示した。
【0039】
比較例のB−1は、熱処理温度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破談した。本発明例であるB−2〜B−9は、950℃で30分間溶体化処理を行った比較例のB−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。B−10は熱処理温度が750℃と高く、再結晶したために残留ひずみが0.29%と高い値を示した。
【0040】
(実施例3)
Mo:5at%、Ga:5at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Mo−Ga系合金を用意し、実施例1と同様に製造して直径0.4mmの加工上がり線材を製造した。この加工上がり線材に、400〜750℃の温度範囲で50℃毎に加熱処理を施した。加熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また、比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0041】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図3としての表3に示した。
【0042】
比較例のC−1は、熱処理濃度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破断した。本発明例であるC−2〜C−9は、950℃で30分の溶体化処理を行った比較例のC−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。C−10は熱処理温度が750℃と高く、再結晶したために残留ひずみが0.35%と高い値を示した。
【0043】
(実施例4)
Mo:6at%、Ge:4at%、残りがTi及び不可避不純物であるTi−Mo−Ge系合金を用意し、実施例1と同様の製造方法にて直径0.4mmの加工上がり線材を製造した。この加工上がり線材に、400〜750℃の濃度範囲で50℃毎に加熱処理を施した。加熱処理時間は30分とした。なお、熱処理温度が600℃の場合には、熱処理時間が2分、及び5分についても行った。また比較のために、加工上がり線材に950℃で30分の溶体化処理を施した。
【0044】
この合金線について室温で引張試験を行った。結果は、2%引張後の残留ひずみと応力ヒステリシスとを合せて図4としての表4に示した。
【0045】
比較例のD−1は、熱処理温度が400℃と低いために脆化し、ひずみが1%程度で破断した。本発明例であるD−2〜D−9は、950℃で30分の溶体化処を行った比較例のD−11に比べ、残留ひずみ、および応力ヒステリシスが小さい値である。D一10は熱処理温度が750℃と高く、再結晶したために残留ひずみが0.25%と高い値を示した。
【0046】
以上、本発明例では線材を用いて説明したが、これらの方法は線材だけでなく板材、条材、テープ材、パイプ材、異形線材、その他冷間加工の可能な形態であれば何れも適用することができる。
【0047】
【発明の効果】
生体適合性に優れているTi−Nb−Sn系合金、Ti−Mo−Al系合金、Ti−Mo−Ga系合金、Ti−Mo−Ge系合金に対して、適切な熱処理を施すことにより良好な超弾性特性を発現させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1として示した表1であり、Ti−Nb−Sn系合金の評価結果である。
【図2】図2として示した表2であり、Ti−Mo−Al系合金の評価結果である。
【図3】図3として示した表3であり、Ti−Mo−Gan系合金の評価結果である。
【図4】図4として示した表4であり、Ti−Mo−Ge系合金の評価結果である。
【図5】本発明例の応力−ひずみ曲線である。
【図6】比較例の応力−ひずみ曲線である。
【図7】純金属の細胞毒性を示した図である。
【図8】分極抵抗および純金属等の生体適合性の相互関係を示した図である。
【図9】超弾性の出現状況を示す模式図である。
Claims (6)
- 成分がTiにMoと、Al、Ge、Gaのうちのいずれか1種を含有させたTi合金、又はTiにNbと、Snを含有させたTi合金であり残部が不可避不純物からなるインゴットを用意し、
前記インゴットに熱間加工及び冷間加工を施し、
前記冷間加工に引き続いて焼鈍を行った後に、加工率が20%以上の最終冷間加工を施し、
ついで、450℃以上の温度で加熱処理することを特徴とする生体用超弾性チタン合金の製造方法。 - 前記チタン合金は、成分組成でMoが2〜12at%、Alが3〜14at%、Geが8at%以下、Gaが14at%以下であり、Nbが10〜20at%、Snが3〜6at%であることを特徴とする請求項1に記載の生体用超弾性チタン合金の製造方法。
- 前記加熱処理の加熱時間が1分〜2時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体用超弾性チタン合金の製造方法。
- 請求項1に記載の方法により製造したチタン合金であって、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
- 請求項1に記載の方法により製造したチタン合金であって、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
- 請求項1に記載の方法により製造したチタン合金であって、2%引張後の残留ひずみが0.2%以下であり、かつ、2%引張後の1%における応力ヒステリシスが150MPa以下であることを特徴とする生体用超弾性チタン合金。
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