JP2004035587A - ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜97質量%及び(B)スチレン系樹脂3〜40質量%からなる樹脂100質量部に対して、(C)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.05〜2質量部、(D)官能基含有シリコーン化合物0.05〜3質量部、(E)無機充填材0〜15質量部、及び(F)ポリフルオロオレフィン樹脂0〜2質量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物である。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、より詳しくは、ハロゲンやリンを含まず、少量の添加剤を含有することによって優れた難燃性を示すとともに、耐衝撃性、ウエルド強度、高流動性及び成形外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃特性、耐熱性、電気的特性等により、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器及び家庭電化機器等の電気・電子機器、自動車分野及び建築分野等様々な分野において幅広く利用されている。
ポリカーボネート樹脂は、一般的に自己消火性樹脂ではあるが、OA機器、情報・通信機器及び家庭電化機器等の電気・電子機器分野を中心として、高度の難燃性を要求される分野があり、各種難燃剤の添加により、その改善が図られている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の難燃性を向上する方法として、ハロゲン化ビスフェノールA及びハロゲン化ポリカーボネートオリゴマー等のハロゲン系難燃剤が難燃剤効率の点から酸化アンチモンなどの難燃助剤とともに用いられてきた。
しかし、近時、安全性及び廃棄・焼却時の環境への影響の観点から、ハロゲンを含まない難燃剤による難燃化方法が市場より求められている。
ノンハロゲン系難燃剤として、有機リン系難燃剤、特に、有機リン酸エステル化合物を配合したポリカーボネート樹脂組成物は優れた難燃性を示すとともに、可塑剤としての作用もあり、多くの方法が提案されている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂をリン酸エステル化合物で難燃化するためには、リン酸エステル化合物を比較的多量に配合する必要がある。
又、ポリカーボネート樹脂は成形温度が高く、溶融粘度も高いために、成形品の薄肉化及び大型化に対応するために、益々成形温度が高くなる傾向にある。
このため、リン酸エステル化合物は一般的に難燃性には寄与するものの、成形加工時の金型腐食、ガスの発生等、成形環境や成形品外観上必ずしも十分でない場合がある。
又、成形品が加熱下に置かれたり、高温高湿度下に置かれた場合の、衝撃強度の低下、変色の発生等の問題点が指摘されている。
更に、近時の省資源化におけるリサイクル適性が熱安定性が不十分であることから困難である等の問題点を残している。
【0005】
これに対して、ポリカーボネート樹脂にシリコーン化合物を配合することによって、燃焼時に有害なガスを発生することなく難燃性を付与することも知られている。
例えば、(1)特開平10−139964号公報には特定の構造や特定分子量を有するシリコーン樹脂からなる難燃剤が開示されている。又、(2)特開昭51−45160号公報、特開平1−318069号公報、特開平6−306265号公報、特開平8−12868号公報、特開平8−295796号公報及び特公平3−48947号公報等においてもシリコーン化合物を用いる難燃性ポリカーボネート樹脂が開示されている。
前者の(1)記載のものは、難燃性のレベルはある程度優れたものである。後者の(2)記載のシリコーン化合物は難燃剤としての単独使用ではなく、耐ドリッピング性の改良を目的としての、例示化合物としての使用であったり、他の難燃性添加剤、即ち、リン酸エステル化合物、第2族金属塩等の難燃剤を必須とするものである点において、前者とは異なるものである。
【0006】
更に、特開平8−81620号公報には、ポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体含有樹脂及びフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンを用いるポリカーボネート樹脂組成物からなる難燃性樹脂組成物が開示されている。
この組成物は、ポリオルガノシロキサンの含有率が少量である特定範囲において、優れた難燃性を示す優れた組成物である。
しかし、前記(1)の特開平10−139964号公報と同様に、難燃特性は優れたものであるが、ポリカーボネート樹脂の特徴である耐衝撃性の低下や成形性が不十分な場合がある。
又、特開2001−55500号公報には、ポリカーボネート樹脂及びスチレン系樹脂からなる樹脂に対して、ポリフルオロオレフィン樹脂、無機充填剤及びポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体及び/又は官能基含有シリコーン化合物を含有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。しかし、目標とする難燃性V−0を達成するためにはシリコーン化合物を多量に添加する必要があり、成形時の外観不良、耐衝撃強度及びウエルド強度低下を引き起こし易くコスト面からも不利であり、より優れた方法が求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状の下、ポリカーボネート樹脂のノンハロゲン・ノンリン化合物による難燃化において、少量の添加剤の含有によって優れた難燃性を示すとともに、耐衝撃性、ウエルド強度、高流動性及び成形外観に優れたポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、シリコーン化合物と有機金属塩を添加することにより、シリコーン化合物量を低減することができ、シリコーン化合物が原因である成形外観不良、耐衝撃性及びウエルド強度低下を解決することができ、更に、特定のシリコーン化合物を用いることにより、耐衝撃性及びウエルド強度が向上し、末端がアルキル基である芳香族ポリカーボネート樹脂を用いると、流動性が向上することも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
1.(A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜97質量%及び(B)スチレン系樹脂3〜40質量%からなり、(A)及び(B)の合計100質量部に対して、(C)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.05〜2質量部、(D)官能基含有シリコーン化合物0.05〜3質量部、必要に応じて(E)無機充填材0〜15質量部、及び(F)ポリフルオロオレフィン樹脂0〜2質量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物、
2.芳香族ポリカーボネート樹脂が、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
3.ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂のポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである上記2に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
4.芳香族ポリカーボネート樹脂の分子末端が炭素数10〜35のアルキル基である上記1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
5.スチレン系樹脂が、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及び耐衝撃性ポリスチレンから選ばれる1種以上である上記1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
6.有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、ポリスチレンスルホン酸金属塩及びポリスチレンスルホン酸土類金属塩から選ばれる1種以上である上記1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
7.官能基含有シリコーン化合物が、一般式(1)
R1 aR2 bSiO(4−a−b)/2 (1)
(式中、R1は官能基、R2は炭素数1〜12の炭化水素基、a及びbは、0<a≦3、0≦b<3、0<a+b≦3の関係を満たす数を示す。)
で表される基本構造を有するオルガノポリシロキサンである上記1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
8.R1が、水素基、アルコキシ基、水酸基、エポキシ基及びビニル基から選ばれる1種以上である請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
9.無機充填材が板状フィラーである上記1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物、
10.板状フィラーがタルク、マイカ及びワラストナイトから選ばれる1種以上である上記9に記載のポリカーボネート樹脂組成物、
11.ポリフルオロオレフィン樹脂がポリテトラフルオロエチレンである上記1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物及び
12.上記1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品に関するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、(A)ポリカーボネート樹脂としては、特に制限はなく種々のものを挙げることができる。
通常、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネートを用いることができる。
二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法、即ち、二価フェノールとホスゲンの反応、二価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換法により反応させて製造されたものを用いることができる。
【0011】
二価フェノールとしては、様々なものを挙げることができるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル及びビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。
【0012】
特に、好ましい二価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特に、ビスフェノールAを主原料としたものである。
又、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホルメート等であり、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等である。
この他、二価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることができる。
これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
尚、ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸及びイサチンビス(o−クレゾール)等がある。
又、分子量の調節のためには、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール及びp−クミルフェノール等が用いられる。
【0014】
又、本発明に用いるポリカーボネート樹脂としては、テレフタル酸等の2官能性カルボン酸、又はそのエステル形成誘導体等のエステル前駆体の存在下でポリカーボネートの重合を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネート樹脂等の共重合体、又は種々のポリカーボネート樹脂の混合物を用いることもできる。
【0015】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10,000〜50,000、好ましくは13,000〜35,000、更に好ましくは15,000〜20,000である。
この粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度 [η]を求め、次式にて算出するものである。
[η]=1.23×10−5Mv0.83
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂としては、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート部とポリオルガノシロキサン部からなるものであり、例えば、ポリカーボネートオリゴマーとポリオルガノシロキサン部を構成する末端に反応性基を有するポリオルガノシロキサンとを、塩化メチレン等の溶媒に溶解させ、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を加え、トリエチルアミン等の触媒を用い、界面重縮合反応することにより製造することができる。
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、特開平3−292359号公報、特開平4−202465号公報、特開平8−81620号公報、特開平8−302178号公報及び特開平10−7897号公報等に開示されている。
【0017】
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂のポリカーボネート部の重合度は、3〜100、ポリオルガノシロキサン部の重合度は2〜500程度のものが好ましく用いられる。
又、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂のポリオルガノシロキサンの含有量としては、通常0.1〜2質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%の範囲である。
本発明に用いられるポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常5,000〜100,000、好ましくは10,000〜30,000、特に好ましくは12,000〜30,000である。
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性の向上の観点から有用である。
ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂において、ポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチレンシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等が好ましく、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
ここで、これらの粘度平均分子量(Mv)は、前記のポリカーボネート樹脂と同様に求めることができる。
【0018】
更に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂としては、分子末端が炭素数10〜35のアルキル基を有するポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0019】
ここで分子末端が炭素数10〜35のアルキル基を有するポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂の製造において、末端停止剤として、炭素数10〜35のアルキル基を有するアルキルフェノールを用いることにより得ることができる。
これらのアルキルフェノールとしては、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、ヘプタデシルフェノール、オクタデシルフェノール、ノナデシルフェノール、イコシルフェノール、ドコシルフェノール、テトラコシルフェノール、ヘキサコシルフェノール、オクタコシルフェノール、トリアコンチルフェノール、ドトリアコンチルフェノール及びペンタトリアコンチルフェノール等が挙げられる。
【0020】
これらのアルキルフェノールのアルキル基は、水酸基に対して、o−、m−、p−のいずれの位置であってもよいが、p−の位置が好ましい。
又、アルキル基は、直鎖状、分岐状又はこれらの混合物であってもよい。
この置換基としては、少なくとも1個が前記の炭素数10〜35のアルキル基であればよく、他の4個は特に制限はなく、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数6〜20アリール基、ハロゲン原子又は無置換であってもよい。
【0021】
この分子末端が炭素数10〜35のアルキル基を有するポリカーボネート樹脂は、後述するポリカーボネート系樹脂のいずれの場合でもよく、例えば、二価フェノールとホスゲン又は炭酸エステル化合物との反応において、分子量を調節するために、これらのアルキルフェノールを末端封止剤として用いることにより得られるものである。
【0022】
例えば、塩化メチレン溶媒中において、トリエチルアミン触媒、前記炭素数が10〜35のアルキル基を有するフェノールの存在下、二価フェノールとホスゲン、又は、ポリカーボネートオリゴマーとの反応により得られる。
ここで、炭素数が10〜35のアルキル基を有するフェノールは、ポリカーボネート樹脂の片末端又は両末端を封止し、末端が変性される。
この場合の末端変性は、全末端に対して20%以上、好ましくは50%以上とされる。
即ち、他の末端は、水酸基末端、又は下記の他の末端封止剤を用いて封止された末端である。
【0023】
ここにおいて、他の末端封止剤として、ポリカーボネート樹脂の製造で常用されているフェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、p−tert−アミルフェノール、ブロモフェノール及びトリブロモフェノール、ペンタブロモフェノール等を挙げることができる。
なかでも、環境問題からハロゲンを含まない化合物が好ましい。
【0024】
又、高流動化のためには、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子末端は、炭素数10〜35のアルキル基であるものが好ましい。
分子末端を炭素数10以上のアルキル基にすると、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が向上する。
しかし、分子末端が炭素数36以上のアルキル基では、耐熱性及び耐衝撃性が低下する。
【0025】
(B)スチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン等のモノビニル系芳香族単量体20〜100質量%、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体0〜60質量%、及びこれらと共重合可能なマレイミド、(メタ)アクリル酸メチル等の他のビニル系単量体0〜50質量%からなる単量体又は単量体混合物を重合して得られる重合体がある。
これらの重合体としては、ポリスチレン(GPPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル−アクリル酸メチル−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−(エチレン/プロピレン/ジエン共重合体)−スチレン共重合体(AES樹脂)等がある。
【0026】
又、スチレン系樹脂としてはゴム変性スチレン系樹脂を好ましく用いることができる。
このゴム変性スチレン系樹脂としては、好ましくは、少なくともスチレン系単量体がゴムにグラフト重合した耐衝撃性スチレン系樹脂である。
ゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、ポリブタジエン等のゴムにスチレンが重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したABS樹脂、ポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンが重合したMBS樹脂等があり、ゴム変性スチレン系樹脂は、二種以上を併用することができるとともに、前記のゴム未変性であるスチレン系樹脂との混合物としても用いることができる。
【0027】
ゴム変性スチレン系樹脂中のゴムの含有量は、例えば、2〜50質量%、好ましくは、5〜30質量%、特に5〜15質量%である。
ゴムの割合が2質量%未満であると、耐衝撃性が不十分となり、又、50質量%を超えると熱安定性が低下したり、溶融流動性の低下、ゲルの発生、着色等の問題が生じる場合がある。
上記ゴムの具体例としては、ポリブタジエン、アクリレート及び/又はメタクリレートを含有するゴム質重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム(SBS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン−アクリルゴム、イソプレンゴム、イソプレン−スチレンゴム、イソプレン−アクリルゴム及びエチレン−プロピレンゴム等を挙げることができる。
このうち、特に好ましいものはポリブタジエンである。
ここで用いるポリブタジエンは、低シスポリブタジエン(例えば、1,2−ビニル結合を1〜30モル%、1,4−シス結合を30〜42モル%含有するもの)、高シスポリブタジエン(例えば、1,2−ビニル結合を20モル%以下、1,4−シス結合を78モル%以上含有するもの)のいずれを用いてもよく、又、これらの混合物であってもよい。
【0028】
又、スチレン系樹脂としてはゴム変性スチレン系樹脂を好ましく用いることができる。
スチレン系樹脂において、HIPS、AS樹脂、ABS樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂及びAES樹脂が好ましく、HIPS、AS樹脂及びABS樹脂が特に好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂にスチレン系樹脂を配合することにより、樹脂組成物の難燃性、流動性及び耐溶剤性の向上を図るものである。
ここで、両樹脂の配合比は、(A)ポリカーボネート樹脂60〜97質量%、好ましくは70〜95質量%、(B)スチレン系樹脂が3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%である。
スチレン系樹脂が3質量%未満では、流動性と耐溶剤性が不良である。
又、40質量%を超えると、目標とする難燃性がV−2以上を達成することができない。
【0029】
(C)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩としては、種々のものが挙げられるが、少なくとも一つの炭素原子を有する有機酸又は有機酸エステルのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩である。
ここで、有機酸又は有機酸エステルは、有機スルホン酸,有機カルボン酸、ポリスチレンスルホン酸等である。
一方、アルカリ金属は、ナトリウム,カリウム,リチウム及びセシウム等、又、アルカリ土類金属は、マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム及びバリウム等である。
中でも、ナトリウム,カリウム及びセシウムの塩が好ましく用いられる。
又、その有機酸の塩は、フッ素、塩素及び臭素のようなハロゲンが置換されていてもよい。
【0030】
上記各種の有機アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩の中では、例えば、有機スルホン酸の場合、一般式(2)
(CnF2n+1SO3)mM (2)
(式中、nは1〜10の整数を示し、Mはリチウム,ナトリウム,カリウム及びセシウム等のアリカリ金属、又はマグネシウム,カルシウム,ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属を示し、mはMの原子価を示す。)
で表されるパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好ましく用いられる。
これらの化合物としては、例えば、特公昭47−40445号公報に記載されているものがこれに該当する。
【0031】
一般式(2)において、パーフルオロアルカンスルホン酸としては、例えば、パーフルオロメタンスルホン酸,パーフルオロエタンスルホン酸,パーフルオロプロパンスルホン酸,パーフルオロブタンスルホン酸,パーフルオロメチルブタンスルホン酸,パーフルオロヘキサンスルホン酸,パーフルオロヘプタンスルホン酸及びパーフルオロオクタンスルホン酸等を挙げることができる。
特に、これらのカリウム塩が好ましく用いられる。
その他、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ジフェニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸及びこれらのフッ素置換体並びにポリスチレンスルホン酸等の有機スルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等を挙げることができる。
特に、パーフルオロアルカンスルホン酸及びジフェニルスルホン酸が好ましい。
次に、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又アルカリ土類金属塩としては、一般式(3)
【0032】
【化1】
【0033】
(式中、Xはスルホン酸塩基であり、mは1〜5を表し、Yは水素又は炭素数1〜10の炭化水素である。又、nはモル分率を表し、0<n≦1である。)
で表わされるスルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂を用いることができる。
ここで、スルホン酸塩基はスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であり、金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、等が挙げられる。
【0034】
尚、Yは水素又は炭素数10の炭化水素であり、好ましくは水素又はメチル基である。
又、mは1〜5であり、nは、0<n≦1の関係である。
即ち、スルホン酸塩基(X)は、芳香環に対して、全置換したものであっても、部分置換したもの、又は無置換のものを含んだものであってもよい。
本発明の難燃性の効果を得るためには、スルホン酸塩基の置換比率は、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の含有量等を考慮して決定され、特に制限なく、一般的には10〜100%置換のものが用いられる。
【0035】
尚、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又アルカリ土類金属塩において、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂は、上記の一般式(3)のポリスチレン樹脂に限定されるものではなく、スチレン系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
ここで、酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の製造方法としては、▲1▼前記のスルホン酸基等を有する芳香族ビニル系単量体、又はこれらと共重合可能な他の単量体とを重合又は共重合する方法。▲2▼芳香族ビニル系重合体、又は芳香族ビニル系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体、又はこれらの混合重合体をスルホン化し、アルカリ金属及び/又アルカリ土類金属で中和する方法がある。
【0036】
例えば、▲2▼の方法としては、ポリスチレン樹脂の1,2−ジクロロエタン溶液に濃硫酸と無水酢酸の混合液を加えて加熱し、数時間反応することにより、ポリスチレンスルホン酸化物を製造する。次いで、スルホン酸基と当モル量の水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムで中和することによりポリスチレンスルホン酸カリウム塩又はナトリウム塩を得ることができる。
【0037】
本発明で用いる、スルホン酸塩基含有芳香族ビニル系樹脂の重量平均分子量としては、1,000〜300,000、好ましくは2,000〜200,000程度である。尚、重量平均分子量は、GPC法で測定することができる。
【0038】
又、有機カルボン酸としては、例えば、パーフルオロギ酸,パーフルオロメタンカルボン酸,パーフルオロエタンカルボン酸,パーフルオロプロパンカルボン酸,パーフルオロブタンカルボン酸,パーフルオロメチルブタンカルボン酸,パーフルオロヘキサンカルボン酸,パーフルオロヘプタンカルボン酸及びパーフルオロオクタンカルボン酸等を挙げることができ、これら有機カルボン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が用いられる。
アルカリ金属やアルカリ土類金属塩は前記と同じである。
有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類塩において、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、ポリスチレンスルホン酸アルカリ金属塩及びポリスチレンスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。
【0039】
有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類塩は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
又、有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類塩の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び(B)スチレン系樹脂100質量部に対して、0.05〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。
その含有量が0.05質量部未満であると、目標とする難燃性が得られない。含有量が2質量部を超えると、これ以上の難燃性が得られないばかりか、耐衝撃強度等の物性が大幅に低下する。
【0040】
(D)官能基含有シリコーン化合物は、官能基含有オルガノポリシロキサン化合物であり、例えば、一般式(1)
R1 aR2 bSiO(4−a−b)/2 ・・・(1)
(式中、R1は官能基、R2は炭素数1〜12の炭化水素基、a及びbは、0<a≦3、0≦b<3、0<a+b≦3の関係を満たす数を示す。)
で表される基本構造を有するオルガノポリシロキサン重合体及び/又は共重合体が挙げられる。
又、官能基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ポリオキシアルキレン基、水素基、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基及びビニル基等を含有するものである。
中でも、アルコキシ基、水素基、水酸基、エポキシ基及びビニル基が好ましい。
【0041】
これら官能基としては、複数の官能基を有するオルガノポリシロキサン重合体及び/又は共重合体並びに異なる官能基を有するオルガノポリシロキサン重合体及び/又は共重合体を併用することもできる。
一般式(1)で表される基本構造を有するオルガノポリシロキサン重合体及び/又は共重合体は、その官能基(R1)/炭化水素基(R2)が、通常0.1〜3、好ましくは0.3〜2程度のものである。
これら官能基含有シリコーン化合物は液状物、ハウダー等であるが、溶融混練において分散性の良好なものが好ましい。
例えば、室温での粘度が10〜500,000cst程度の液状のものを例示できる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物にあっては、官能基含有シリコーン化合物が液状であっても、組成物に均一に分散するとともに、成形時又は成形品の表面にブリードすることが少ない特徴がある。
【0042】
官能基含有シリコーン化合物は、更なる難燃性及び耐衝撃強度の向上のために添加されるもので、官能基含有シリコーン化合物の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び(B)スチレン系樹脂100質量部に対して、0.05〜3質量部、好ましくは0.1〜2質量部である。
含有量が0.05質量部未満であると、難燃性が向上しない。
又、含有量が3質量部を超えると、外観不良、耐衝撃強度低下の原因となる。尚、ポリカーボネート樹脂組成物中の全シリコーン量[(A)成分のポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂中のシリコーン量と(D)成分の官能基含有シリコーン化合物中のシリコーン量の合計]が0.1〜3質量%、好ましくは0.1〜2質量%の範囲であると、成形外観のよい耐衝撃性の樹脂組成物が得られる。
全シリコーン量が0.1未満であると、耐衝撃性の向上が見られず、3質量%を超えると、成形外観及び難燃性が低下する場合がある。
【0043】
(E)無機質充填剤としては、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、ケイソウ土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、炭素繊維及びチタン酸カリウム等が用いられる。
これら無機質充填剤の中でも、その形態が板状であるタルク、マイカ及びワラストナイトが特に好ましい。
タルクは、マグネシウムの含水ケイ酸塩であり、一般に市販されているものを用いることができる。
更に、無機質充填剤としては、その平均粒径が0.1〜50μmであるものが用いられるが、平均粒径0.2〜20μmであるものが特に好適に用いられる。
【0044】
(E)無機質充填剤は、剛性及び更なる難燃性の向上のために添加されるもので、無機質充填剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び(B)スチレン系樹脂100質量部に対して、0〜15質量部、好ましくは0〜12質量部である。
含有量が15質量部を超えると、耐衝撃強度及びウエルド強度の低下が著しい。
【0045】
(F)ポリフルオロオレフィン樹脂としては、通常フルオロエチレン構造を含む重合体、共重合体であり、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体が挙げられる。
好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、特に好ましくは500,000〜10,000,000である。
本発明で用いることができるポリテトラフルオロエチレンとしては、現在知られているすべての種類のものを用いることができる。
【0046】
尚、ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能力のあるものが好ましい。
フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)には特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。
その具体例としては、例えば、テフロン6−J(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)、ポリフロンD−1、ポリフロンF−103、ポリフロンF201(ダイキン工業株式会社製)及びCD076(旭アイシーアイフロロポリマーズ株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
又、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えば、アルゴフロンF5(モンテフルオス株式会社製)、ポリフロンMPA及びポリフロンFA−100(ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。
これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、例えば、テトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、1〜100psiの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得ることができる。
【0048】
フルオロオレフィン樹脂は、更なる難燃性の向上(例えば、V−0、5V)のために添加されるもので、フルオロオレフィン樹脂の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び(B)スチレン系樹脂100質量部に対して、0〜2質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。
含有量が2質量部を超えると、添加量に見合った難燃性の向上はない。
【0049】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、成形性、耐衝撃性、外観改善、耐候性改善及び剛性改善等の目的で、上記(A)〜(F)からなる成分に、その他の合成樹脂、エラストマーを含有させることができる。
又、熱可塑性樹脂に常用されている添加剤成分を必要により含有させることもできる。
例えば、フェノール系、リン系、イオウ系酸化防止剤、帯電防止剤、ポリアミドポリエーテルブロック共重合体(永久帯電防止性能付与)、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤(耐候剤)、可塑剤、抗菌剤、相溶化剤及び着色剤(染料、顔料)等が挙げることができる。
任意成分の配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0050】
次に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記の各成分(A)〜(F)を上記割合で、更に必要に応じて用いられる各種任意成分を適当な割合で配合し、混練することにより得られる。
配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。
混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。
この溶融混練成形としては、押出成形機、特に、ベント式の押出成形機の使用が好ましい。
尚、ポリカーボネート樹脂以外の含有成分は、あらかじめ、ポリカーボネート樹脂又は他の熱可塑性樹脂と溶融混練、即ち、マスターバッチとして添加することもできる。
【0051】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機、又は、得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法等により各種成形品を製造することができる。
しかし、上記溶融混練方法により、ペレット状の成形原料を製造し、次いで、このペレットを用いて、射出成形及び射出圧縮成形による射出成形品の製造に特に好適に用いることができる。
尚、射出成形方法としては、外観のヒケ防止のため、又は軽量化のためのガス注入成形を採用することもできる。
【0052】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形品としては、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジなどのOA機器、電気・電子機器のハウジウング又は部品等の分野に用いられる。
【0053】
【実施例】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらによって、何ら制限されるものではない。
実施例1〜7及び比較例1〜4
第1表及び第2表に示す割合で各成分を配合〔(A)と(B)成分は質量%、他の成分は、(A)と(B)からなる樹脂100質量部に対する質量部で示す。〕し、ベント式二軸押出成形機(機種名:TEM35、東芝機械社製)に供給し、260℃で溶融混練し、ペレット化した。
尚、全ての実施例及び比較例において、酸化防止剤としてイルガノックス1076(チバ・スペシヤルティ・ケミカルズ社製)0.2質量部及びアデカスタブC(旭電化工業社製)0.1質量部をそれぞれ配合した。
得られたペレットを、120℃で12時間乾燥した後、成形温度260℃、金型温度80℃で射出成形して試験片を得た。
得られた試験片を用いて性能を各種試験によって評価し、その結果を第1表及び第2表に示した。
【0054】
用いた成形材料及び性能評価方法を次に示す。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
PC−1:タフロン・A1900(出光石油化学社製)、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、MI=20g/10分(300℃、1.2kg荷重)、粘度平均分子量;19,000
PC−2:下記参考例1で調製したものを使用した。ポリジメチルシロキサン(PDMS)含有芳香族ポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量;20,000、PDMS含有率;4.0質量%、PDMS鎖長(n);30
PC−3:下記参考例2で調製したものを使用した。分子末端が炭素数12のアルキル基である芳香族ポリカーボネート樹脂(末端変性PC)、粘度平均分子量;17,500
(B)スチレン系樹脂
ABS:アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体;AT−05(A&L社製)、MI=55g/10分(200℃、10kg荷重)
HIPS:耐衝撃性ポリスチレン;IT44(出光石油化学社製)、ポリブタジェンにスチレンがグラフト重合したもの;ゴム含有量=10質量%、MI=8g/10分(200℃、5kg荷重)
AS:アクリロニトリルスチレン共重合体;290FF(テクノポリマー社製)、MI=50g/10分(200℃、10kg荷重)
(C)有機アルカリ金属塩
金属塩1:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、メガファックF114(DIC社製)
金属塩2:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ライオン社製)
(D)官能基含有シリコーン化合物
シリコーン1:ビニル基メトキシ基含有メチルフェニルシリコーン;KR219(信越化学社製)、粘度=18cstシリコーン−2
シリコーン2:メチル水素シリコーン;KF99(信越化学社製)
シリコーン1:ジメチルシリコーン;SH200(東レダウコーニング社製)、粘度=350cst
(E)無機充填材
タルク:TP−A25(浅田製粉社製)、平均粒径;3μm
(F)ポリフルオロオレフィン樹脂
PTFE:CD076(旭硝子フロロポリマーズ社製)
【0055】
〔性能評価方法〕
(1)溶融流動性MI(メルトインデックス):JIS K7210に準拠。260℃、2.16kg荷重
(2)IZOD(アイゾット衝撃強度):ASTM D256に準拠、23℃(肉厚1/8インチ)、単位:kJ/m2
(3)ウエルド引張り強度:引張強度試験片成形金型を用いて2点ゲートで成形し、引張強度(MPa)を測定した。
(4)表面外観:引張り強度試験片による目視評価。
〇:良好、×:ゲート付近にフローマークあり
(5)UL94燃焼試験に準拠(試験片厚み:2.0mm)
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
第1表より、(C)成分と(D)成分を併用することで成形外観が優れ、ノンハロゲン・ノンリン化合物であって、難燃性のポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
又、分子末端が炭素数10〜35のアルキル基である芳香族ポリカーボネート樹脂を用いると、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が更に向上する。
第2表の比較例1より、(C)成分と(D)成分を添加しないと、難燃性がV−2に達しない。比較例2より、(A)と(B)成分の合計量100質量部に対して、(D)成分を4質量部添加すると、目標とする難燃性は得られるが成形外観が低下するとともに耐衝撃強度とウエルド強度が低下する。
又、比較例3より、(C)成分のみでは、耐衝撃強度及びウエルド強度が低く、難燃性のレベルもV−0には達しない。比較例4より、本発明の(D)成分ではない一般のシリコーン化合物を添加すると、耐衝撃強度及びウエルド強度の向上はなく、難燃性の向上も小さい。
【0059】
参考例1:PC−2;ポリジメチルシロキサン(PDMS)含有芳香族ポリカーボネート樹脂の製造
▲1▼芳香族ポリカーボネートオリゴマーの製造
400リットルの5重量%水酸化ナトリウム水溶液に、60kgのビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
次いで、室温に保持したこのビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を138リットル/時間の流量で、又、塩化メチレンを69リットル/時間の流量で、内径10mm、管長10mの管型反応器にオリフィス板を通して導入し、これにホスゲンを並留して10.7kg/時間の流量で吹き込み、3時間連続的に反応させた。
ここで用いた管型反応器は二重管となっており、ジャケット部分には冷却水を通して反応液の排出温度を25℃に保った。又、排出液のpHは10〜11となるように調整した。
このようにして得られた反応液を静置することにより、水相を分離、除去し、塩化メチレン相(220リットル)を採取して、これに、更に塩化メチレン170リットルを加え、十分に攪拌したものを芳香族ポリカーボネートオリゴマー(濃度317g/リットル)とした。ここで得られた芳香族ポリカーボネートオリゴマーの重合度は3〜4であった。
【0060】
▲2▼反応性ポリジメチルシロキサン(PDMS)の製造
1,483gのオクタメチルシクロテトラシロキサン、96gの1、1、3、3−テトラメチルジシロキサン及び35gの86%硫酸を混合し、室温で17時間攪拌した。
その後、油相を分離し、25gの炭酸水素ナトリウムを加え1時間攪拌した。このものを濾過した後、150℃、3torr(4×102Pa)で真空蒸留し、低沸点物を除き油状物を得た。
60gの2−アリルフェノールと0.0014gの塩化白金−アルコラート錯体としてのプラチナとの混合物に、上記で得られた油状物294gを90℃の温度で添加した。
この混合物を90〜115℃の温度に保ちながら3時間攪拌した。
生成物を塩化メチレンで抽出し、80%の水性メタノールで3回洗浄し、過剰の2−アリルフェノールを除いた。
その生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で115℃の温度まで溶剤を留去した。
得られた末端がフェノールのポリジメチルシロキサンは、NMRの測定により、PDMS鎖長(ジメチルシラノオキシ単位の繰り返し数)(n)は30であった。
【0061】
▲3▼ポリジメチルシロキサン(PDMS)含有芳香族ポリカーボネート樹脂の製造上記▲2▼で得られた反応性ポリジメチルシロキサン185gを塩化メチレン2リットルに溶解し、上記▲1▼で得られた芳香族オリカーボネートオリゴマー10リットルを混合した。
次に、水酸化ナトリウム26gを水1リットルに溶解させたものと、トリエチルアミン5.7ccを加え、500rpmで室温にて1時間攪拌、反応させた。反応終了後、上記反応系に、5.2重量%の水酸化ナトリウム水溶液5リットルにビスフェノールA600gを溶解させたもの、塩化メチレン8リットル及びp−tert−ブチルフェノ−ル81gを加え、500rpmで室温にて1時間攪拌、反応させた。
反応後、塩化メチレン5リットルを加え、更に、水5リットルで水洗、0.01規定水酸化ナトリウム水溶液5リットルでアルカリ洗浄、0.1規定塩酸5リットルで酸洗浄、及び水5リットルで水洗を順次行い、最後に塩化メチレンを除去し、チップ状のポリジメチルシロキサン(PDMS)含有芳香族ポリカーボネート樹脂を得た。
【0062】
参考例2:PC−3;分子末端が炭素数12のアルキル基である芳香族ポリカーボネート樹脂の製造
▲1▼芳香族ポリカーボネートオリゴマーの製造
400リットルの5質量%水酸化ナトリウム水溶液に、60kgのビスフェノールAを溶解させ、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
次いで、室温に保持したこのビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を138リットル/時間の流量で、又、塩化メチレンを69リットル/時間の流量で、内径10mm、管長10mの管型反応器にオリフィス板を通して導入し、これにホスゲンを並流して10.7kg/時間の流量で吹き込み、3時間連続的に反応させた。
ここで用いた管型反応器は二重管となっており、ジャケット部分には冷却水を通して反応液の排出温度を25℃に保った。又、排出液のpHは10〜11となるように調整した。
このようにして得られた反応液を静置することにより、水相を分離、除去し、塩化メチレン相(220リットル)を採取して、芳香族ポリカーボネートオリゴマー(濃度317g/リットル)を得た。ここで得られた芳香族ポリカーボネートオリゴマーの重合度は2〜4であり、クロロホーメイト基の濃度は0.7規定であった。
【0063】
▲2▼分子末端が炭素数12のアルキル基である芳香族ポリカーボネート樹脂の製造
内容積50リットルの攪拌付き容器に、上記▲1▼で得られた芳香族ポリカーボネートオリゴマー10リットルを入れ、p−ドデシルフェノール(分岐状ドデシル基含有)〔油化スケネクタディ社製〕162gを溶解させた。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム53g、水1リットル)とトリエチルアミン5.8ccを加え、1時間、300rpmで攪拌し、反応させた。
その後、上記系にビスフェノールAの水酸化ナトリウム溶液(ビスフェノールA:720g、水酸化ナトリウム412g、水5.5リットル)を混合し、塩化メチレン8リットルを加え、1時間500rpmで攪拌し、反応させた。
反応後、塩化メチレン7リットル及び水5リットルを加え、10分間、500rpmで攪拌し、攪拌停止後静置し、有機相と水相を分離した。
得られた有機相を5リットルのアルカリ(0.03規定−NaOH)、5リットルの酸(0.2規定−塩酸)及び5リットルの水(2回)の順で洗浄した。
その後、塩化メチレンを蒸発させ、フレーク状の末端変性芳香族ポリカーボネート樹脂を得た。粘度平均分子量は17,500であった。
【0064】
【発明の効果】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物及び成形品は、(D)官能基含有シリコーン化合物を添加することにより、耐衝撃強度及びウエルド強度が向上する。
(C)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩、及び(D)官能基含有シリコーン化合物を添加することにより、シリコーン量を低減することができ、シリコーンが原因の成形外観不良、耐衝撃強度及びウエルド強度の低下を解決できる。
又、分子末端が炭素数10〜35のアルキル基である芳香族ポリカーボネート樹脂を用いると、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が更に向上する。
Claims (12)
- (A)芳香族ポリカーボネート樹脂60〜97質量%及び(B)スチレン系樹脂3〜40質量%からなり、(A)及び(B)の合計100質量部に対して、(C)有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩0.05〜2質量部、(D)官能基含有シリコーン化合物0.05〜3質量部、必要に応じて(E)無機充填材0〜15質量部、及び(F)ポリフルオロオレフィン樹脂0〜2質量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物。
- 芳香族ポリカーボネート樹脂が、ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- ポリオルガノシロキサン含有芳香族ポリカーボネート樹脂のポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 芳香族ポリカーボネート樹脂の分子末端が炭素数10〜35のアルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- スチレン系樹脂が、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及び耐衝撃性ポリスチレンから選ばれる1種以上である請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩が、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩、ポリスチレンスルホン酸金属塩及びポリスチレンスルホン酸土類金属塩から選ばれる1種以上である請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 官能基含有シリコーン化合物が、一般式(1)
R1 aR2 bSiO(4−a−b)/2 (1)
(式中、R1は官能基、R2は炭素数1〜12の炭化水素基、a及びbは、0<a≦3、0≦b<3、0<a+b≦3の関係を満たす数を示す。)
で表される基本構造を有するオルガノポリシロキサンである請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。 - R1が、水素基、アルコキシ基、水酸基、エポキシ基及びビニル基から選ばれる1種以上である請求項7に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 無機充填材が板状フィラーである請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 板状フィラーがタルク、マイカ及びワラストナイトから選ばれる1種以上である請求項9に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- ポリフルオロオレフィン樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 請求項1〜11のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
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