JP2004027294A - 耐食性耐熱性アルミニウム合金線及び架空送電線 - Google Patents
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Abstract
【課題】Zrを添加して耐熱性を向上させるとともに、Zrの添加による耐食性の劣化を防止することができ、耐食性及び耐熱性が共に優れていると共に、低コストで製造することができる耐食性耐熱性アルミニウム合金線及び架空送電線を提供する。
【解決手段】Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、更に、必要に応じて、Be:0.01乃至0.07質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有する。そして、荒引き線の時効処理により、Al3Zrが析出している。前記不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されている。
【選択図】 なし
【解決手段】Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、更に、必要に応じて、Be:0.01乃至0.07質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有する。そして、荒引き線の時効処理により、Al3Zrが析出している。前記不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されている。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄塔間に架設される架空送電線等の撚線素線等として使用され、耐食性及び耐熱性の向上を図った耐食性耐熱性アルミニウム合金線及びこれを素線として使用した架空送電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウムは、比重が2.7で銅の約1/3と極めて軽量であり、しかも貴金属を除けば銅に次いで高い導電率を有する。このため、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、総称してアルミニウム合金という)からなる線材は、運搬作業性がよく、アルミニウム合金線を使用した架空送電線は、鉄塔の必要強度を低減できるため鉄塔建設費が低く、また、鉄塔間に架設するための工事費も低減することができる。このため、アルミニウム合金線は鉄塔間に架設される架空送電線として多用されている。
【0003】
ところで、アルミニウム合金の引張強さは、銅の半分程度であり、軟化温度も低いので、高張力が印加されたり、送電電流密度が高くなって発生するジュール熱により電線温度が上昇すると、そのままでは強度不足となることがある。このため、一般にテンションメンバとしての鋼線又は鋼撚線の上に、アルミニウム合金線を多数本撚合わせた鋼心アルミニウム撚線(ACSR:Aluminum ConductorSteel Reinforced )、又は鋼心耐熱アルミニウム合金撚線(TACSR)等が架空送電線として使用され、これが数百メートル間隔で設置された鉄塔間に架設される。
【0004】
従来、アルミニウム合金材の耐熱性の向上を図る場合、一般的にジルコニウムが添加される。例えば、XTAl合金はZrを0.3質量%添加し、高温で数百時間の時効処理を施してAl3Zrを微細に分散させ、高い導電性及び耐熱性を実現している(以下、「従来技術1」という)。
【0005】
一方、アルミニウム合金材は上記軽量性及び高導電性を備えているという特徴の他に、大気中において表面に安定且つ緻密な不動態皮膜が形成されるため、良好な耐食性を示すという特徴がある。このため、アルミニウム合金材は通常の自然環境においては、大気中での腐食は殆ど進行せず、防錆処理を施すことなく使用することができる。そこで、鉄塔間に架設されるアルミニウム合金線又はその撚り線は、自然環境に長期間曝されるにも拘わらず、被覆せずそのままの裸電線で使用されている。しかし、海洋に近い地域における塩分を含む大気及び近年の大気中の硫黄酸化物及び窒素酸化物等の汚染物質が溶解した雨水等により、架空送電線に使用されているアルミニウム合金素線の腐食が進行してしまうという難点がある。
【0006】
これに対して、特開2001−26830号公報には、Mnを0.3乃至4.3質量%含有すると共に、Al−Mn系の金属間化合物を分散析出させることにより、耐食性を向上させた導電用アルミニウム合金線が開示されている(以下、「従来技術2」という)。この公報には、更に、耐食性と同時に耐熱性を向上させるために、心材として耐熱性が優れた導体材料を使用して強度を確保し、被覆材として、上記耐食性を向上させたアルミニウム合金材を使用した導電用高耐食複合線が開示されている
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術1では、アルミニウム系架空送電線の耐熱性を向上させる微細なAl3Zrを十分に分散析出させるためには、その製造工程において高温で数百時間という長時間の時効処理を施さなければならない。このように長時間を要する時効処理工程は、その架空送電線の生産性を低下させるので、生産工程計画上の障害となる。更に、アルミニウム合金にZrを添加すると、耐食性が僅かに低下するという問題がある。特に、近年の大気汚染の影響により、一部地域ではアルミニウム合金にとって極めて腐食性が強い環境となっており、架空送電線においてもアルミニウム合金撚線の性能が腐食により劣化しやすいという問題点がある。
【0008】
一方、従来技術2には、耐食性に加えて耐熱性を向上させたアルミニウム系架空送電線が提案されているが、これは耐熱性を付与するために耐熱性が優れた導体材料を心材として使用し、これにアルミニウム合金を被覆する複合線とするものであり、アルミニウム合金線自体が高耐食性と共に高耐熱性を備えているものではなく、製造コストが高いという問題点がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、Zrを添加して耐熱性を向上させるとともに、Zrの添加による耐食性の劣化を防止することができ、耐食性及び耐熱性が共に優れていると共に、低コストで製造することができる耐食性耐熱性アルミニウム合金線及び架空送電線を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、Al3Zrが析出していることを特徴とする。
【0011】
この耐食性耐熱性アルミニウム合金線において、前記不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されていることが好ましい。また、本発明の耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、更に、Be:0.01乃至0.07質量%を含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る架空送電線は、上記耐食性耐熱性アルミニウム合金線を素線として、鋼心線の周りに撚合わせたものであることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、例えば、上記組成の荒引線を連続鋳造圧延法により製造し、得られた荒引線に時効処理を施すことにより、Al3Zrを析出させて製造することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。先ず、本発明の耐食性耐熱性アルミニウム合金線の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。本発明の耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、更に、必要に応じて、Be:0.01乃至0.07質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、Al3Zrが析出していることを特徴とする。また、不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されている。
【0015】
「Zr:0.1乃至0.5質量%」
Zrはアルミニウム合金線の耐熱性を向上させるために添加する。この耐熱性向上効果を得るためには、Zrを0.1質量%以上添加することが必要である。しかし、Zrを0.5質量%を超えて添加しても耐熱性の向上効果は飽和し、逆に、耐食性が劣化してしまう。また、Zrが0.5質量%を超えると、Al合金溶湯の粘性が大きくなって連続鋳造における溶湯の湯流れが悪化し、鋳造性が低下するという問題点がある。このため、Zrの含有量は0.1乃至0.5質量%とする。
【0016】
アルミニウム合金線の耐熱性は、先ず、連続鋳造後、伸線加工された素線に対し、所定の熱処理を施して、Al3Zrを析出させることにより向上させることができる。本実施形態のアルミニウム合金線は以下のようにして製造することができる。先ず、前述の所定の組成のアルミニウム合金の溶湯を溶製した後、これを連続鋳造圧延法の一種であるプロペルチ方式により連続鋳造して連続鋳造バーを得る。そして、この連続鋳造バーを例えば再加熱することなく3方ロール多段タンデム熱間圧延機で熱間圧延して、例えば、直径9.5mmの荒引線を得る。そして、得られた荒引線に、例えば、340乃至380℃で22時間、一例として360℃で22時間の時効熱処理を施して、Al3Zrの析出を促進させる。その後、この荒引線を連続伸線機で引抜き冷間加工を施して、例えば、直径4.5mmの素線を調製し、得られた素線に、素線の成分組成に応じて300乃至380℃の範囲内の適切な温度で焼鈍を施して冷間加工歪みを除去すると共に再結晶を促進させる。
【0017】
この場合に、アルミニウム合金線の耐熱性の向上は、時効処理によるAl3Zrの析出の効果に大きく依存するため、荒引線段階での熱処理が必要である。この荒引線段階での時効処理によるAl3Zrの析出強化により、マトリクス中の固溶Zrの含有量が減少する。これにより、アルミニウム合金線の導電率が上昇するという効果もある。
【0018】
「Be:0.01乃至0.07質量%」
BeはZrと共にアルミニウム合金中に添加されて、Al3Zrの析出を促進し、従ってアルミニウム合金の耐熱性もより一層向上させる。このため、Beを必要に応じて添加する。Beが0.01質量%未満であると、このような効果が得られない。また、Beが0.07質量%を超えると、その効果が飽和すると共に、Beは材料コストが高いため、製造コストの上昇をもたらす。このため、Beを添加する場合は、0.01乃至0.07質量%とする。
【0019】
「Mn:1.2乃至1.6質量%」
Mnは、アルミニウム合金線の耐食性を向上させる作用があり、Mnの添加により、Zrの添加による耐食性の若干の低下を補償して、耐熱性及び耐食性の双方が優れたアルミニウム合金線を得ることができる。Mnを1.2質量%以上含有することにより、アルミニウム合金線の耐食性が向上する。このMnの添加によりAl−Mn化合物が形成され、これにより耐食性が向上する。しかしながら、Mn含有量が1.2質量%未満では、所望の耐食性向上効果が得られない。なお、Mn含有量が1.2質量%以上であって低めの場合には、連続鋳造時の冷却速度を、50℃/秒以上程度に高めると、Al−Mn化合物を有利に形成させることができる。一方、Mn含有量を1.6質量%を超えて多量に含有させると、荒引線段階における時効処理及び素線の焼鈍処理によっても、マトリクス中の固溶Mnが十分に析出しきれず、又は固溶Mn量の増加により、アルミニウム合金線の導電率が低下する。Mnの添加により、導電率が若干低下するが、このMn含有量が1.6質量%以下であれば、Zrの添加による耐熱性の向上効果に伴なう電流許容量の増大と、導体の線径を大きくすることとにより、導電率の低下を実用上補完することができる。
【0020】
「不純物Cu:0.01質量%以下」
Cuは微量でもAl合金材の耐食性劣化に影響を及ぼす。Cuは通常の鋳造条件、例えば冷却速度が0.5乃至13℃/秒程度のプロペルチ方式においても、その大部分がマトリクス中に固溶する。しかしながら、Al合金材が溶解する際に放出されるCuイオンが直ちにAlにより還元され、強力なカソードとして働くことにより、Al合金線の耐食性を低下させる。Cuの含有量が0.01質量%を超えると、上記作用が顕在化することがある。従って、不可避的不純物のうち、Cuの含有量は0.01質量%以下に規制することが好ましい。
【0021】
「不可避的不純物Fe:0.15質量%以下」
FeはAl合金材中に不可避的に存在する不純物元素である。FeはAlと例えばFeAl3等の金属間化合物を形成する。FeAl3はマトリクスに対して極めて貴な電位を持つため、強力なカソードとなり、腐食の起点となりやすい。本発明においては、連続鋳造時の急冷作用によりFeをマトリクス中に強制的に固溶させて金属間化合物の生成を抑制することができるが、Feの含有量を0.15質量%以下に規制することが望ましい。
【0022】
本発明においては、更に、この耐食性及び耐熱性が優れたアルミニウム合金線を素線として、心線の周りに、所定本数撚り合わせることにより、耐食性及び耐熱性が優れた架空送電線を製造することができる。この架空送電線の製造は、従来の通常の製造装置及び方法により行うことができる。
【0023】
なお、溶湯の鋳造から荒引線までの製造方式は、プロペルチ方式の他に、SCR方式等を採用することができる。更に、プロペルチ方式及びSCR方式等の連続鋳造圧延法ではなく、DC鋳造法と圧延機との通常の組合せ等、種々の方法を採用することができる。
【0024】
本発明においては、上述したようにアルミ合金素線の成分組成を規定すると共に、その製造過程における荒引線の段階における時効処理とこれに伴う析出物の形成、及び連続鋳造とこれに続く熱間加工方法を適切にすることにより、所定量のAl3Zrを析出して、耐食性及び耐熱性が優れた導電用アルミニウム合金素線を製造することができる。
【0025】
【実施例】
次に、本発明の実施例の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。下記表1に示すように、本発明の範囲内の成分組成を有する実施例1乃至4、及び本発明の範囲外にある成分組成を有する比較例1乃至8のAl合金素線を製造した。即ち、種々の組成のアルミニウム合金溶湯を調製し、得られたアルミニウム合金溶湯をプロペルチにより連続鋳造して連続鋳造バーを調製し、これを再加熱することなく3方ロール多段タンデム熱間圧延機で熱間圧延して直径9.5mmの荒引線を調製した。得られた荒引線を冷却することなく、360℃で22時間加熱する時効熱処理を施してAl3Zrを析出させた。得られた時効処理後の荒引線に対して連続伸線機で引抜き冷間加工を施し、直径4.5mmの素線を調製した。得られた素線に、380℃で3時間加熱する焼鈍処理を施した。
【0026】
このようにして製造した実施例及び比較例のアルミニウム合金線に対し、400℃で4時間加熱する熱処理試験を実施し、引張強さ残存率を求めた。その結果を、下記表1に併せて示す。
【0027】
また、耐食性を評価するために、前記熱処理試験前の素線から長さ50mm(直径4.5mm)の試験材を採取して腐食試験を行った。腐食試験方法は、0.5規定の塩酸溶液中に試験材を500時間浸漬し、その腐食による質量減から、腐食減量を求め、これにより耐食性を評価した。腐食減量が0.050g/cm2未満を耐食性良好とした。
【0028】
耐熱性を評価するために焼鈍後の素線(即ち、熱処理試験前の素線)及び熱処理試験後の素線から夫々引張試験片を採取して引張試験を行い、熱処理試験後の引張強さ残存率(熱処理試験後の引張強さ/熱処理試験前の引張強さ)が90%以上を耐熱性良好とした。
【0029】
また、導電性を評価するために、熱処理試験前の素線から試験片を採取し、20℃における導電率を測定した。導電性の合否判定は、各試験で得られた熱処理試験後の引張強さ残存率に基づく耐熱性の向上による電流許容量の増加分と、線径増大の許容値とを考慮して、導電率の合格値を定めて行った。
【0030】
上記試験結果を下記表1に示す。なお、実施例1乃至4及び比較例1乃至8はいずれも、素線の成分組成中不可避不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下であった。このCu及びFe含有量は、溶解材料として高純度アルミニウムを使用したことにより得られたものである。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1乃至4はいずれも、Mn及びZrが本発明の規定範囲内にあるため、耐食性及び耐熱性は共に良好な結果を示している。これは、実施例1乃至4のいずれにおいても、Al−Mn化合物及びAl3Zrの夫々が十分に析出しているためであると考えられる。一方、導電率は、通常の架空送電線、例えばイ号アルミ合金線の水準である52%IACSと比較して低い。これは良好な耐食性を得るために添加したMnによるものであり、避けることができないが、導電率の低下は導体の線径を大きくすること、及びZrの添加による耐熱性向上効果に伴なう電流許容量増大により十分に補うことができる。そして、本発明においてはZr添加による耐熱性の向上効果を考慮すれば、導電率は45%IACS以上であれば本発明における目標値として十分な水準である。従って、実施例1乃至4は導電率についても良好である。
【0033】
これに対して、比較例1はZr含有量が本発明の規定値に達しているので耐熱性は良好である。しかしながら、Mn含有量が0.8質量%で本発明の下限値を外れているので、耐食性が劣っている。導電性については、Mn含有量が比較的低いので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0034】
比較例2は、Zr含有量が本発明の規定値に達しているので、耐熱性が良好である。一方、Mnが2.0質量%と多量に含まれているので、耐食性も優れている。但し、このMn含有量は本発明の上限値を外れており、しかも固溶限濃度である1.8質量%以上に含まれているので、時効処理及び焼鈍処理によってもマトリクス中に固溶Mnが多量に残留する。このため、導電率が低下し不合格となっている。
【0035】
比較例3は、Zr含有量が0.50質量%と本発明の規定値内において高い値であるので、耐熱性はかなり良好である。しかしながらMn含有量が0.8質量%で本発明の下限値を外れているので、耐食性が劣っている。導電性については、Mn含有量が比較的低いので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0036】
比較例4は、Zr含有量が0.50質量%と本発明の規定値内において高い値であるので、耐熱性はかなり良好である。一方、Mnが2.0質量%と多量に含まれているので、耐食性も優れている。但し、このMn含有量は本発明の上限値を外れており、しかも固溶限濃度である1.8質量%以上に含まれているので、時効処理及び焼鈍処理によってもマトリクス中に固溶Mnが多量に残留する。このため、導電率が低下し導電性は不合格となっている。
【0037】
比較例5は、Mn含有量が本発明の規定値に達しているので、耐食性が良好である。しかしながらZr含有量が0.05質量%で本発明の下限値を外れているので、Al3Zrの析出量が少なく、引張強さ残存率が低く、耐熱性が劣っている。導電性については、Mn含有量がそれほど高くないので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0038】
比較例6は、Mn含有量が本発明の規定値内において高い値であるので、耐食性はかなり良好である。しかしながらZr含有量が0.05質量%で本発明の下限値を外れているので、Al3Zrの析出量が少なく、引張強さ残存率が低く、耐熱性が劣っている。
【0039】
比較例7は、Mn含有量が本発明の規定値に達しているので、耐食性が良好である。一方、Zr含有量が0.70質量%で本発明の上限値を外れている。ここでは強度残存率が90%未満で低い。しかしながら、熱処理試験後の引張強さは十分に高いので、耐熱性は良好である。しかしながら、比較例7は、素線における含有量が0.70質量%となるように鋳造時に溶湯中Zr含有量を高く調整したので、溶湯の湯流れが悪化し、鋳造性が低下した。導電性については、Mn含有量がそれほど高くないので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0040】
比較例8は、Mn含有量が本発明の規定値内において高い値であるので、耐食性はかなり良好である。一方、Zr含有量が比較例7と同じ0.70質量%で本発明の上限値を外れている。そして、強度残存率が90%未満で低い。しかしながら、熱処理試験後の引張強さは十分に高いので、耐熱性は良好である。しかしながら、比較例8においても、素線における含有量が0.70質量%となるように鋳造時に溶湯中Zr含有量を高く調整したので、溶湯の湯流れが悪化し、鋳造性が低下した。しかし、導電率は45%IACS以上であるので、合格水準にある。
【0041】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、耐食性及び耐熱性が共に優れたアルミニウム合金線を得ることができ、これを架空送電線に使用することにより、腐食性が強い環境下で使用された場合もその寿命を延長することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄塔間に架設される架空送電線等の撚線素線等として使用され、耐食性及び耐熱性の向上を図った耐食性耐熱性アルミニウム合金線及びこれを素線として使用した架空送電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウムは、比重が2.7で銅の約1/3と極めて軽量であり、しかも貴金属を除けば銅に次いで高い導電率を有する。このため、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、総称してアルミニウム合金という)からなる線材は、運搬作業性がよく、アルミニウム合金線を使用した架空送電線は、鉄塔の必要強度を低減できるため鉄塔建設費が低く、また、鉄塔間に架設するための工事費も低減することができる。このため、アルミニウム合金線は鉄塔間に架設される架空送電線として多用されている。
【0003】
ところで、アルミニウム合金の引張強さは、銅の半分程度であり、軟化温度も低いので、高張力が印加されたり、送電電流密度が高くなって発生するジュール熱により電線温度が上昇すると、そのままでは強度不足となることがある。このため、一般にテンションメンバとしての鋼線又は鋼撚線の上に、アルミニウム合金線を多数本撚合わせた鋼心アルミニウム撚線(ACSR:Aluminum ConductorSteel Reinforced )、又は鋼心耐熱アルミニウム合金撚線(TACSR)等が架空送電線として使用され、これが数百メートル間隔で設置された鉄塔間に架設される。
【0004】
従来、アルミニウム合金材の耐熱性の向上を図る場合、一般的にジルコニウムが添加される。例えば、XTAl合金はZrを0.3質量%添加し、高温で数百時間の時効処理を施してAl3Zrを微細に分散させ、高い導電性及び耐熱性を実現している(以下、「従来技術1」という)。
【0005】
一方、アルミニウム合金材は上記軽量性及び高導電性を備えているという特徴の他に、大気中において表面に安定且つ緻密な不動態皮膜が形成されるため、良好な耐食性を示すという特徴がある。このため、アルミニウム合金材は通常の自然環境においては、大気中での腐食は殆ど進行せず、防錆処理を施すことなく使用することができる。そこで、鉄塔間に架設されるアルミニウム合金線又はその撚り線は、自然環境に長期間曝されるにも拘わらず、被覆せずそのままの裸電線で使用されている。しかし、海洋に近い地域における塩分を含む大気及び近年の大気中の硫黄酸化物及び窒素酸化物等の汚染物質が溶解した雨水等により、架空送電線に使用されているアルミニウム合金素線の腐食が進行してしまうという難点がある。
【0006】
これに対して、特開2001−26830号公報には、Mnを0.3乃至4.3質量%含有すると共に、Al−Mn系の金属間化合物を分散析出させることにより、耐食性を向上させた導電用アルミニウム合金線が開示されている(以下、「従来技術2」という)。この公報には、更に、耐食性と同時に耐熱性を向上させるために、心材として耐熱性が優れた導体材料を使用して強度を確保し、被覆材として、上記耐食性を向上させたアルミニウム合金材を使用した導電用高耐食複合線が開示されている
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術1では、アルミニウム系架空送電線の耐熱性を向上させる微細なAl3Zrを十分に分散析出させるためには、その製造工程において高温で数百時間という長時間の時効処理を施さなければならない。このように長時間を要する時効処理工程は、その架空送電線の生産性を低下させるので、生産工程計画上の障害となる。更に、アルミニウム合金にZrを添加すると、耐食性が僅かに低下するという問題がある。特に、近年の大気汚染の影響により、一部地域ではアルミニウム合金にとって極めて腐食性が強い環境となっており、架空送電線においてもアルミニウム合金撚線の性能が腐食により劣化しやすいという問題点がある。
【0008】
一方、従来技術2には、耐食性に加えて耐熱性を向上させたアルミニウム系架空送電線が提案されているが、これは耐熱性を付与するために耐熱性が優れた導体材料を心材として使用し、これにアルミニウム合金を被覆する複合線とするものであり、アルミニウム合金線自体が高耐食性と共に高耐熱性を備えているものではなく、製造コストが高いという問題点がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、Zrを添加して耐熱性を向上させるとともに、Zrの添加による耐食性の劣化を防止することができ、耐食性及び耐熱性が共に優れていると共に、低コストで製造することができる耐食性耐熱性アルミニウム合金線及び架空送電線を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、Al3Zrが析出していることを特徴とする。
【0011】
この耐食性耐熱性アルミニウム合金線において、前記不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されていることが好ましい。また、本発明の耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、更に、Be:0.01乃至0.07質量%を含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る架空送電線は、上記耐食性耐熱性アルミニウム合金線を素線として、鋼心線の周りに撚合わせたものであることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、例えば、上記組成の荒引線を連続鋳造圧延法により製造し、得られた荒引線に時効処理を施すことにより、Al3Zrを析出させて製造することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。先ず、本発明の耐食性耐熱性アルミニウム合金線の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。本発明の耐食性耐熱性アルミニウム合金線は、Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、更に、必要に応じて、Be:0.01乃至0.07質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、Al3Zrが析出していることを特徴とする。また、不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されている。
【0015】
「Zr:0.1乃至0.5質量%」
Zrはアルミニウム合金線の耐熱性を向上させるために添加する。この耐熱性向上効果を得るためには、Zrを0.1質量%以上添加することが必要である。しかし、Zrを0.5質量%を超えて添加しても耐熱性の向上効果は飽和し、逆に、耐食性が劣化してしまう。また、Zrが0.5質量%を超えると、Al合金溶湯の粘性が大きくなって連続鋳造における溶湯の湯流れが悪化し、鋳造性が低下するという問題点がある。このため、Zrの含有量は0.1乃至0.5質量%とする。
【0016】
アルミニウム合金線の耐熱性は、先ず、連続鋳造後、伸線加工された素線に対し、所定の熱処理を施して、Al3Zrを析出させることにより向上させることができる。本実施形態のアルミニウム合金線は以下のようにして製造することができる。先ず、前述の所定の組成のアルミニウム合金の溶湯を溶製した後、これを連続鋳造圧延法の一種であるプロペルチ方式により連続鋳造して連続鋳造バーを得る。そして、この連続鋳造バーを例えば再加熱することなく3方ロール多段タンデム熱間圧延機で熱間圧延して、例えば、直径9.5mmの荒引線を得る。そして、得られた荒引線に、例えば、340乃至380℃で22時間、一例として360℃で22時間の時効熱処理を施して、Al3Zrの析出を促進させる。その後、この荒引線を連続伸線機で引抜き冷間加工を施して、例えば、直径4.5mmの素線を調製し、得られた素線に、素線の成分組成に応じて300乃至380℃の範囲内の適切な温度で焼鈍を施して冷間加工歪みを除去すると共に再結晶を促進させる。
【0017】
この場合に、アルミニウム合金線の耐熱性の向上は、時効処理によるAl3Zrの析出の効果に大きく依存するため、荒引線段階での熱処理が必要である。この荒引線段階での時効処理によるAl3Zrの析出強化により、マトリクス中の固溶Zrの含有量が減少する。これにより、アルミニウム合金線の導電率が上昇するという効果もある。
【0018】
「Be:0.01乃至0.07質量%」
BeはZrと共にアルミニウム合金中に添加されて、Al3Zrの析出を促進し、従ってアルミニウム合金の耐熱性もより一層向上させる。このため、Beを必要に応じて添加する。Beが0.01質量%未満であると、このような効果が得られない。また、Beが0.07質量%を超えると、その効果が飽和すると共に、Beは材料コストが高いため、製造コストの上昇をもたらす。このため、Beを添加する場合は、0.01乃至0.07質量%とする。
【0019】
「Mn:1.2乃至1.6質量%」
Mnは、アルミニウム合金線の耐食性を向上させる作用があり、Mnの添加により、Zrの添加による耐食性の若干の低下を補償して、耐熱性及び耐食性の双方が優れたアルミニウム合金線を得ることができる。Mnを1.2質量%以上含有することにより、アルミニウム合金線の耐食性が向上する。このMnの添加によりAl−Mn化合物が形成され、これにより耐食性が向上する。しかしながら、Mn含有量が1.2質量%未満では、所望の耐食性向上効果が得られない。なお、Mn含有量が1.2質量%以上であって低めの場合には、連続鋳造時の冷却速度を、50℃/秒以上程度に高めると、Al−Mn化合物を有利に形成させることができる。一方、Mn含有量を1.6質量%を超えて多量に含有させると、荒引線段階における時効処理及び素線の焼鈍処理によっても、マトリクス中の固溶Mnが十分に析出しきれず、又は固溶Mn量の増加により、アルミニウム合金線の導電率が低下する。Mnの添加により、導電率が若干低下するが、このMn含有量が1.6質量%以下であれば、Zrの添加による耐熱性の向上効果に伴なう電流許容量の増大と、導体の線径を大きくすることとにより、導電率の低下を実用上補完することができる。
【0020】
「不純物Cu:0.01質量%以下」
Cuは微量でもAl合金材の耐食性劣化に影響を及ぼす。Cuは通常の鋳造条件、例えば冷却速度が0.5乃至13℃/秒程度のプロペルチ方式においても、その大部分がマトリクス中に固溶する。しかしながら、Al合金材が溶解する際に放出されるCuイオンが直ちにAlにより還元され、強力なカソードとして働くことにより、Al合金線の耐食性を低下させる。Cuの含有量が0.01質量%を超えると、上記作用が顕在化することがある。従って、不可避的不純物のうち、Cuの含有量は0.01質量%以下に規制することが好ましい。
【0021】
「不可避的不純物Fe:0.15質量%以下」
FeはAl合金材中に不可避的に存在する不純物元素である。FeはAlと例えばFeAl3等の金属間化合物を形成する。FeAl3はマトリクスに対して極めて貴な電位を持つため、強力なカソードとなり、腐食の起点となりやすい。本発明においては、連続鋳造時の急冷作用によりFeをマトリクス中に強制的に固溶させて金属間化合物の生成を抑制することができるが、Feの含有量を0.15質量%以下に規制することが望ましい。
【0022】
本発明においては、更に、この耐食性及び耐熱性が優れたアルミニウム合金線を素線として、心線の周りに、所定本数撚り合わせることにより、耐食性及び耐熱性が優れた架空送電線を製造することができる。この架空送電線の製造は、従来の通常の製造装置及び方法により行うことができる。
【0023】
なお、溶湯の鋳造から荒引線までの製造方式は、プロペルチ方式の他に、SCR方式等を採用することができる。更に、プロペルチ方式及びSCR方式等の連続鋳造圧延法ではなく、DC鋳造法と圧延機との通常の組合せ等、種々の方法を採用することができる。
【0024】
本発明においては、上述したようにアルミ合金素線の成分組成を規定すると共に、その製造過程における荒引線の段階における時効処理とこれに伴う析出物の形成、及び連続鋳造とこれに続く熱間加工方法を適切にすることにより、所定量のAl3Zrを析出して、耐食性及び耐熱性が優れた導電用アルミニウム合金素線を製造することができる。
【0025】
【実施例】
次に、本発明の実施例の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。下記表1に示すように、本発明の範囲内の成分組成を有する実施例1乃至4、及び本発明の範囲外にある成分組成を有する比較例1乃至8のAl合金素線を製造した。即ち、種々の組成のアルミニウム合金溶湯を調製し、得られたアルミニウム合金溶湯をプロペルチにより連続鋳造して連続鋳造バーを調製し、これを再加熱することなく3方ロール多段タンデム熱間圧延機で熱間圧延して直径9.5mmの荒引線を調製した。得られた荒引線を冷却することなく、360℃で22時間加熱する時効熱処理を施してAl3Zrを析出させた。得られた時効処理後の荒引線に対して連続伸線機で引抜き冷間加工を施し、直径4.5mmの素線を調製した。得られた素線に、380℃で3時間加熱する焼鈍処理を施した。
【0026】
このようにして製造した実施例及び比較例のアルミニウム合金線に対し、400℃で4時間加熱する熱処理試験を実施し、引張強さ残存率を求めた。その結果を、下記表1に併せて示す。
【0027】
また、耐食性を評価するために、前記熱処理試験前の素線から長さ50mm(直径4.5mm)の試験材を採取して腐食試験を行った。腐食試験方法は、0.5規定の塩酸溶液中に試験材を500時間浸漬し、その腐食による質量減から、腐食減量を求め、これにより耐食性を評価した。腐食減量が0.050g/cm2未満を耐食性良好とした。
【0028】
耐熱性を評価するために焼鈍後の素線(即ち、熱処理試験前の素線)及び熱処理試験後の素線から夫々引張試験片を採取して引張試験を行い、熱処理試験後の引張強さ残存率(熱処理試験後の引張強さ/熱処理試験前の引張強さ)が90%以上を耐熱性良好とした。
【0029】
また、導電性を評価するために、熱処理試験前の素線から試験片を採取し、20℃における導電率を測定した。導電性の合否判定は、各試験で得られた熱処理試験後の引張強さ残存率に基づく耐熱性の向上による電流許容量の増加分と、線径増大の許容値とを考慮して、導電率の合格値を定めて行った。
【0030】
上記試験結果を下記表1に示す。なお、実施例1乃至4及び比較例1乃至8はいずれも、素線の成分組成中不可避不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下であった。このCu及びFe含有量は、溶解材料として高純度アルミニウムを使用したことにより得られたものである。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1乃至4はいずれも、Mn及びZrが本発明の規定範囲内にあるため、耐食性及び耐熱性は共に良好な結果を示している。これは、実施例1乃至4のいずれにおいても、Al−Mn化合物及びAl3Zrの夫々が十分に析出しているためであると考えられる。一方、導電率は、通常の架空送電線、例えばイ号アルミ合金線の水準である52%IACSと比較して低い。これは良好な耐食性を得るために添加したMnによるものであり、避けることができないが、導電率の低下は導体の線径を大きくすること、及びZrの添加による耐熱性向上効果に伴なう電流許容量増大により十分に補うことができる。そして、本発明においてはZr添加による耐熱性の向上効果を考慮すれば、導電率は45%IACS以上であれば本発明における目標値として十分な水準である。従って、実施例1乃至4は導電率についても良好である。
【0033】
これに対して、比較例1はZr含有量が本発明の規定値に達しているので耐熱性は良好である。しかしながら、Mn含有量が0.8質量%で本発明の下限値を外れているので、耐食性が劣っている。導電性については、Mn含有量が比較的低いので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0034】
比較例2は、Zr含有量が本発明の規定値に達しているので、耐熱性が良好である。一方、Mnが2.0質量%と多量に含まれているので、耐食性も優れている。但し、このMn含有量は本発明の上限値を外れており、しかも固溶限濃度である1.8質量%以上に含まれているので、時効処理及び焼鈍処理によってもマトリクス中に固溶Mnが多量に残留する。このため、導電率が低下し不合格となっている。
【0035】
比較例3は、Zr含有量が0.50質量%と本発明の規定値内において高い値であるので、耐熱性はかなり良好である。しかしながらMn含有量が0.8質量%で本発明の下限値を外れているので、耐食性が劣っている。導電性については、Mn含有量が比較的低いので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0036】
比較例4は、Zr含有量が0.50質量%と本発明の規定値内において高い値であるので、耐熱性はかなり良好である。一方、Mnが2.0質量%と多量に含まれているので、耐食性も優れている。但し、このMn含有量は本発明の上限値を外れており、しかも固溶限濃度である1.8質量%以上に含まれているので、時効処理及び焼鈍処理によってもマトリクス中に固溶Mnが多量に残留する。このため、導電率が低下し導電性は不合格となっている。
【0037】
比較例5は、Mn含有量が本発明の規定値に達しているので、耐食性が良好である。しかしながらZr含有量が0.05質量%で本発明の下限値を外れているので、Al3Zrの析出量が少なく、引張強さ残存率が低く、耐熱性が劣っている。導電性については、Mn含有量がそれほど高くないので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0038】
比較例6は、Mn含有量が本発明の規定値内において高い値であるので、耐食性はかなり良好である。しかしながらZr含有量が0.05質量%で本発明の下限値を外れているので、Al3Zrの析出量が少なく、引張強さ残存率が低く、耐熱性が劣っている。
【0039】
比較例7は、Mn含有量が本発明の規定値に達しているので、耐食性が良好である。一方、Zr含有量が0.70質量%で本発明の上限値を外れている。ここでは強度残存率が90%未満で低い。しかしながら、熱処理試験後の引張強さは十分に高いので、耐熱性は良好である。しかしながら、比較例7は、素線における含有量が0.70質量%となるように鋳造時に溶湯中Zr含有量を高く調整したので、溶湯の湯流れが悪化し、鋳造性が低下した。導電性については、Mn含有量がそれほど高くないので導電率の低下が抑制されて合格水準にある。
【0040】
比較例8は、Mn含有量が本発明の規定値内において高い値であるので、耐食性はかなり良好である。一方、Zr含有量が比較例7と同じ0.70質量%で本発明の上限値を外れている。そして、強度残存率が90%未満で低い。しかしながら、熱処理試験後の引張強さは十分に高いので、耐熱性は良好である。しかしながら、比較例8においても、素線における含有量が0.70質量%となるように鋳造時に溶湯中Zr含有量を高く調整したので、溶湯の湯流れが悪化し、鋳造性が低下した。しかし、導電率は45%IACS以上であるので、合格水準にある。
【0041】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、耐食性及び耐熱性が共に優れたアルミニウム合金線を得ることができ、これを架空送電線に使用することにより、腐食性が強い環境下で使用された場合もその寿命を延長することができる。
Claims (4)
- Mn:1.2乃至1.6質量%及びZr:0.1乃至0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、Al3Zrが析出していることを特徴とする耐食性耐熱性アルミニウム合金線。
- 前記不可避的不純物のうち、Cuは0.01質量%以下、Feは0.15質量%以下に規制されていることを特徴とする請求項1に記載の耐食性耐熱性アルミニウム合金線。
- 更に、Be:0.01乃至0.07質量%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性耐熱性アルミニウム合金線。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐食性耐熱性アルミニウム合金線を素線として、鋼心線の周りに撚合わせたものであることを特徴とする架空送電線。
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JP2002185297A JP2004027294A (ja) | 2002-06-25 | 2002-06-25 | 耐食性耐熱性アルミニウム合金線及び架空送電線 |
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Cited By (4)
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WO2011023060A1 (zh) * | 2009-08-27 | 2011-03-03 | 贵州华科铝材料工程技术研究有限公司 | 高强耐热铝合金材料及其制备方法 |
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WO2022183060A1 (en) * | 2021-02-26 | 2022-09-01 | NanoAL LLC | Al-mn-zr based alloys for high temperature applications |
-
2002
- 2002-06-25 JP JP2002185297A patent/JP2004027294A/ja active Pending
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