JP2004026998A - 触媒回収方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】担体に担持された触媒として水素化反応に供され、水素化反応中に担体から脱離して反応混合物中に存在する白金族元素含有触媒を、反応混合物に錯化剤を添加して錯化処理することにより、担体に再担持させて反応混合物から分離回収する。この触媒回収方法は、水素化共役ジエン系重合体の製造に特に好ましく適用され、該重合体を工業的に有利に製造することができる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素化反応混合物に含まれている白金族元素含有触媒の回収方法および水素化共役ジエン系重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
医農薬、石油化学製品、ポリマーなどを製造する化学工業において、各種化合物に含まれる炭素−炭素不飽和結合や炭素−窒素不飽和結合を水素化して、対応する飽和結合に変換する水素化反応が広く行われている。
【0003】
例えばポリマー分野では、共役ジエン系重合体の有用な改質手段として、該重合体の炭素−炭素二重結合を選択的にあるいは部分的に水素化する方法が公知であり、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などの水素化共役ジエン系重合体が工業的規模で生産されている。
【0004】
かかる水素化共役ジエン系重合体を製造するための代表的なプロセスとして、(1)共役ジエンを含む単量体を乳化重合し、得られるラテックスを凝固・乾燥して原料重合体を調製する工程、(2)その原料重合体を有機溶媒(水素化反応溶媒)に溶解し、該有機溶媒に不溶な担体に白金族元素含有触媒を担持させた担持型触媒を用いて水素化する工程、(3)その水素化反応混合物から触媒を担持させた担体を分離した後、目的とする水素化重合体を有機溶媒から回収する工程、からなるプロセスが知られている。
【0005】
上記プロセスで使用する担持型触媒は、水素化反応後に高価な白金族元素触媒を回収する便宜のために、使用有機溶媒に不溶な担体に白金族元素含有触媒を担持させたものである。しかし、白金族元素含有触媒を担体に担持させた形で添加したにもかかわらず、水素化反応を経た後の反応混合物中では、相当量の白金族元素含有触媒が担体から脱離して重合体溶液中、とくに重合体近傍に存在する。したがって、触媒を担持させた担体の分離のみではそれら相当量の白金族元素含有触媒を回収することはできず、触媒を担持させた担体の分離回収操作後に、多量の吸着剤を添加してそれら残存触媒の回収操作をしているのが現状である。
【0006】
また、ラテックス凝固→再溶解といった工程を経ることなく、乳化重合して得られるラテックス状態の共役ジエン系重合体を直接的に水素化するプロセスも検討されているが(例えば米国特許第3,898,208号公報、特開平2−178305号公報など)、この場合に担持型触媒を用いるときにも上記と同様な問題が生じる。水系媒体を含むラテックス状態での水素化反応において、担持型触媒を用いた場合、その触媒活性は十分満足できるものではなく、多量の白金族元素含有触媒を必要とする。
【0007】
このように、水素化反応後に、担持型触媒の分離回収をした後、担体から脱離して重合体溶液もしくはラテックス中に残存している白金族元素含有触媒を回収するために、さらに、多量の吸着剤を添加して回収操作を行うということは、設備的、処理コスト的に好ましいことではなく、改善が望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、化学工業の各種分野において広く行われている水素化物の製造、特にその水素化反応の後処理の段階において、担持型触媒の形で使用した白金族元素触媒を反応混合物から効率よく分離・回収する方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の別の目的は、水素化共役ジエン系重合体を製造するに際して、原料重合体の水素化反応に用いた白金族元素含有触媒を、有機溶媒または水系媒体を含む反応混合物から効率よく分離・回収することができ、工業的に有利な水素化共役ジエン系重合体の製造プロセスを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、水素化共役ジエン系重合体の製造時に、有機溶媒溶液の状態で、担体に担持させた白金族元素含有触媒を用いて水素化する反応系を中心として、反応終了後の後処理方法について鋭意検討を重ねてきた。その結果、該反応混合物に錯化剤を加えて錯化処理すると、担体から脱離していた白金族元素含有触媒が担体に再び担持されて効率よく白金族元素含有触媒を回収できることを見出した。
【0011】
また、上記のような水素化反応の後処理法に関する改良は、(1)水素化ポリマーの製造のみならず、各種分野の水素化反応にも適用可能であること;(2)水素化反応に使用した白金族元素含有触媒を容易に回収して再使用できるので、たとえ多量の触媒を用いても経済性に問題はなく、各種水素化物の製造とりわけ水素化共役ジエン系重合体の製造を工業的に有利に行えること;(3)得られる水素化物中の残存触媒量が少ないので、該水素化物を含む製品の品質面への悪影響が少ないこと;などの利点を有することを確認して、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして、本発明によれば、担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に行った水素化反応の反応混合物に錯化剤を添加して、前記反応混合物中に含有される、担体から脱離した白金族元素含有触媒を錯化し、得られた錯化物を担体に再担持させて、この担体を反応混合物から回収することを特徴とする触媒回収方法が提供される。本発明の触媒回収方法においては、錯化剤を添加する前に反応混合物の酸化処理を行うことが好ましく、白金族元素がパラジウムであるであることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に共役ジエン系重合体を水素化する水素化反応工程(A);前記担体から脱離した白金族元素含有触媒を、反応混合物へ錯化剤を添加することにより錯化する錯化処理工程(B);白金族元素含有触媒の錯化物を前記担体に再担持させて、この担体を反応混合物から回収する触媒回収工程(C);を含む水素化共役ジエン系重合体の製造方法が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の触媒回収方法および水素化共役ジエン系重合体の製造方法について詳述する。
【0015】
本発明の触媒回収方法は、医薬、農薬、工業薬品、石油、石油化学製品、ポリマー製品、油脂製品、食用油、潤滑剤、香料などの製造分野において、白金族元素含有触媒を担体に担持した形で用いて水素化反応を行う場合に広く適用でき、該反応に使用した触媒を反応混合物から効率よく回収することができる。
【0016】
本方法を適用できる水素化反応混合物は、担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に水素化反応を行って得られる反応混合物であれば特に限定されない。そのような水素化反応としては、例えば、アセチレンのエチレンへの水素化、3−ヘキシン−1−オールのシス−3−ヘキセン−1−オールへの水素化などに代表されるアセチレン結合の炭素−炭素二重結合への水素化反応;ガソリンの水素化(ガソリンの品質改善)、ジイソブチレンからイソオクタンの製造、不飽和グリセリドから飽和グリセリドの製造、共役ジエン系重合体から水素化共役ジエン系重合体の製造などに代表される炭素−炭素二重結合の飽和結合への水素化反応;シクロペンタノンやシクロヘキサノンから対応するアルコールを製造するカルボニル基の水素化反応;ニトリル基やアゾメチン基(シッフ塩基)をアミノ基へ変換する水素化反応;などが挙げられる。
【0017】
本発明の触媒回収方法は、担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に上記の各種水素化反応を行い、得られた反応混合物に錯化剤を添加して、前記反応混合物中に含有される、担体から脱離した白金族元素含有触媒を錯化し、得られた錯化物を担体に再担持させて、この担体を反応混合物から回収することを特徴とする。
水素化反応においては担体に担持した白金族元素含有触媒の一部が担体から脱離し反応混合物中に存在する。そして、この反応混合物に錯化剤を添加すると、担体から脱離した白金族元素含有触媒の錯化物が生成する。この錯化物は担体に再び容易に担持されるため、脱離しなかった白金族元素含有触媒を担持している担体に再担持される。
この錯化物を再担持した担体は、反応混合物から容易に回収することができるため、白金族元素触媒は、錯化物も、脱離せずに担体上に留まっていたものも、併せて反応混合物から担体と一緒に回収することができる。
【0018】
上記本発明の触媒回数方法は、上述した各種の水素化反応の中でも、水素化共役ジエン系重合体の製造方法に特に好ましく適用できる。本発明の触媒回収方法が好ましく適用できる水素化共役ジエン系重合体とは、ブタジエンやイソプレンなどに代表される共役ジエン単量体と、これと共重合可能な単量体とを共重合して得られる重合体の炭素−炭素二重結合を水素化して得られる重合体である。共役ジエン単量体と共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどのα,β−エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0019】
以下に、本発明の触媒回収方法を適用した水素化共役ジエン系重合体の製造方法の具体的態様を説明し、その中で本発明の触媒回収方法の錯化方法、再担持方法及び回収方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明の触媒回収方法を適用する水素化共役ジエン系重合体の製造方法(本第二発明である)は、担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に共役ジエン系重合体を水素化する水素化反応工程(A);前記担体から脱離した白金族元素含有触媒を、反応混合物へ錯化剤を添加することにより錯化する錯化処理工程(B);白金族元素含有触媒の錯化物を前記担体に再担持させて、この担体を反応混合物から回収する触媒回収工程(C);を必須工程として含むことを特徴とする。
【0021】
前記の水素化反応工程(A)、錯化処理工程(B)、および触媒回収工程(C)の各工程は通常この並び順に行われるが、工程(B)における錯化物の生成と、工程(C)における錯化物の担体への再担持とは生成→再担持が時間をおかずに起こる場合がある。各工程の間には所望により他の処理工程を付加することができる。また、工程(C)で回収された触媒は、必要に応じて精製または再生処理したのち工程(A)へ再び供することができる。
【0022】
水素化反応工程(A)の水素化とは、共役ジエン系重合体に含まれる炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素添加して飽和結合に変換することをいう。この工程(A)が適用される共役ジエン系重合体は、共役ジエン単量体の1種以上、もしくは共役ジエン単量体と共重合可能な単量体の1種以上を該共役ジエン単量体と組み合わせて、従来公知の乳化重合法または溶液重合法により、好ましくは乳化重合法により製造される。
【0023】
前記共役ジエン単量体は、共役ジエン構造を有する重合性単量体であれば、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらの中でも1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0024】
前記共役ジエン単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、クロトンニトリルなどのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体;アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、トリフルオロエチルアクリレート、メチルメタクリレートなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;アクリルアミド、メタアクリルアミドなどのα,β−エチレン不飽和カルボン酸アミド;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;フルオロエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物;などが挙げられる。
【0025】
これらの共役ジエン単量体と共重合可能な単量体の中でも、工程(A)の水素化反応が進行しやすいという観点から、電子吸引性官能基を有する単量体が好ましく、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体とりわけアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0026】
工程(A)の水素化に適用される共役ジエン系重合体の具体例としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メタアクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0027】
上記共役ジエン系重合体の中でも、水素化共重合体の製造原料としての実用性や汎用性の観点からは、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましく、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体がより好ましい。
【0028】
共役ジエン系重合体における単量体組成比は特に限定されないが、共役ジエン単量体5〜100重量%、これと共重合可能な単量体95〜0重量%であり、好ましくは共役ジエン単量体10〜90重量%、これと共重合可能な単量体90〜10重量%である。また、重量平均分子量(ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー法、標準ポリスチレン換算)も特に限定されないが、通常5,000〜500,000である。
【0029】
共役ジエン系重合体(原料)の調製法として好適な乳化重合法は、一般的にラジカル重合開始剤を用いて水系媒体中で行われ、重合開始剤や分子量調整剤は公知のものを使用すればよい。重合反応は回分式、半回分式、連続式のいずれでもよく、重合温度や圧力も特に制限されない。使用する乳化剤も特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを使用できるが、アニオン性界面活性剤が好ましい。これらの乳化剤は、それぞれ単独で使用しても2種以上を併用してもよい。その使用量は特に限定されない。
【0030】
乳化重合により得られる共役ジエン系重合体ラテックスの固形分濃度は特に限定されないが、通常2〜70重量%、好ましくは5〜60重量%である。その固形分濃度はブレンド法、希釈法、濃縮法など公知の方法により適宜調節することができる。
【0031】
工程(A)の水素化反応をラテックス状態(以下、「ラテックス系水素化」ともいう。)で行う場合は、反応効率の観点からラテックスの固形分濃度を10〜50重量%の範囲に調整することがより好ましい。
【0032】
工程(A)の水素化反応は、触媒活性等の観点から、従来、主として、乳化重合により得られるラテックスを凝固・乾燥して得られる共役ジエン系重合体ゴムを、適当な有機溶媒に溶解した重合体溶液の状態(以下、「溶液系水素化」ともいう。)で行われてきた。
【0033】
この場合、ラテックスの凝固・乾燥は公知法を採用すればよいが、凝固して得られるクラムと塩基性水溶液とを接触させる処理工程を設けることにより、得られる共役ジエン系重合体ゴムをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定される重合体溶液のpHが7を超えるように改質することが好ましい。THFに溶解して測定される重合体溶液のpHは、好ましくは7.2〜12、より好ましくは7.5〜11.5、最も好ましくは8〜11の範囲である。このクラムと塩基性水溶液との接触処理により、溶液系水素化を速やかに進行させることが可能となる。
【0034】
溶液系水素化における共役ジエン系重合体の溶液濃度は、1〜70重量%、好ましくは2〜40重量%である。溶液系水素化に用いられる有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンセンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。これらの有機溶媒の中でもケトン類が好ましく用いられる。
【0035】
工程(A)の水素化反応に用いられる触媒は、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムまたは白金)を含有する水素化触媒である。水素化触媒としては、触媒活性や入手容易性の観点からパラジウム化合物、ロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物がより好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
【0036】
パラジウム化合物は、通常、II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられ、その形態は塩や錯塩である。
【0037】
パラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、シアン化パラジウム、フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラシアノパラジウム酸カリウムなどが挙げられる。
【0038】
これらのパラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、へキサクロロパラジウム酸アンモニウムが好ましく、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび塩化パラジウムがより好ましい。
【0039】
ロジウム化合物としては、例えば、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム、硝酸ロジウム、硫酸ロジウム、酢酸ロジウム、蟻酸ロジウム、プロピオン酸ロジウム、酪酸ロジウム、吉草酸ロジウム、ナフテン酸ロジウム、アセチルアセトン酸ロジウム、酸化ロジウム、三水酸化ロジウムなどが挙げられる。
【0040】
本発明において、水素化触媒は、溶液系水素化およびラテックス系水素化ともに、触媒成分を担体に担持して反応系へ投入する担持型触媒として使用する。
【0041】
担持型触媒の担体は、一般的に金属触媒の担体として用いられているものであればよいが、後述する触媒回収工程において、前記白金族元素含有触媒の錯化物を吸着し得るものである必要がある。具体的には、一般的に吸着剤として使用されている活性炭;ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムなどを含有する無機化合物が好ましく、その中でも、前記触媒の吸着効率を上げるために、担体の特性として、平均粒子径が10nm〜100nm、比表面積が200〜2000m2/gであるものを使用するのが好ましい。
このような担体は、活性炭、活性白土、タルク、クレー、アルミナゲル、シリカゲル、けいそう土、合成ゼオライトなど公知の触媒用担体の中から適宜に選択する。担体への触媒成分の担持方法としては、例えば含浸法、コーティング法、噴霧法、沈殿法などが挙げられる。触媒成分の担持量は、触媒と担体との合計量に対する触媒成分の割合で通常0.5〜80重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜30重量%である。触媒成分を担持した担体は、反応器の種類や反応形式などに応じて、例えば球状、円柱状、多角柱状、ハニカム状などに成形することができる。担持型触媒は、溶液系水素化またはラテックス系の反応系へそのまま添加すればよい。
【0042】
水素化反応の温度は、通常0〜200℃、好ましくは5〜150℃、より好ましくは10〜100℃である。反応温度を過度に高くすると、ニトリル基の水素化のような副反応が起こる場合があるので望ましくない。また、反応温度を過度に低くすると、反応速度が低下して実用的ではない。
【0043】
水素の圧力は、通常、0.1〜20MPaであり、好ましくは0.1〜15MPa、より好ましくは0.1〜10MPaである。反応時間は特に限定されないが、通常30分〜50時間である。なお、水素ガスは、先ず窒素などの不活性ガスで反応系を置換し、さらに水素で置換した後に加圧することが好ましい。
【0044】
工程(A)の溶液系およびラテックス系の水素化反応は、塩基性条件下で行うことにより反応効率が向上し、水素化触媒の使用量を低減できる。該反応を塩基性条件下で行う方法は特に限定されず、溶液系水素化およびラテックス系水素化の反応系それぞれに応じて、適宜選択することができる。
【0045】
例えば、溶液系水素化においては、水素化反応に供される共役ジエン系重合体ゴム(原料)を調製する段階で、該重合体を塩基性水溶液と接触させておく方法;水素化反応開始後に反応系へ塩基性化合物を添加する方法;などが挙げられる。該水素化反応液のpHは、好ましくは7.2〜13、より好ましくは7.5〜12.5、さらに好ましくは8.0〜12の範囲である。
【0046】
また、ラテックス系水素化においては、その反応系へ塩基性化合物を直接添加して、pH測定器で測定される水素化反応液(ラテックス)のpHを7超にする。その方法や時期としては、触媒を水素化反応液へ加える前に予めラテックス中に塩基性化合物を添加しておく方法;水素化反応開始後に塩基性化合物を添加する方法;などが挙げられる。
【0047】
水素化反応液や触媒溶液を塩基性にするための塩基性化合物は特に限定されず、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニア、アンモニウム塩化合物、有機アミン化合物などが挙げられる。好ましくは、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物である。
【0048】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩化合物;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩化合物;酸化リチウム、酸化カリウム、酸化ナトリウムなどの酸化物;酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機酸塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどのアルコキシド類;ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシドなどのフェノキシド類;などが挙げられる。好ましくはアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物であり、より好ましくは水酸化物である。
【0049】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物、酸化物、有機酸塩化合物、アルコキシド類、フェノキシド類などが挙げられる。好ましくは水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物であり、より好ましくは水酸化物である。
【0050】
アンモニウム塩化合物としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。有機アミン化合物としては、脂肪族、脂環族及び芳香族のモノ及びポリアミノ化合物が挙げられ、例えば、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、キシリレンジアミンなどが例示される。
【0051】
これらの塩基性化合物はそのまま用いても、水またはアルコール、ケトンなどの有機溶媒で希釈したり、溶解したりして使用することもできる。塩基性化合物は単独で使用しても2種以上を併用してもよく、その使用量は水素化反応液や触媒溶液が塩基性を呈するように適宜選択すればよい。
【0052】
本発明に係る製造方法の大きな特徴は、前述した反応工程(A)の後処理法として、反応混合物に含まれている触媒(触媒残渣)を錯化剤で処理する錯化処理工程(B)を設けることである。
【0053】
工程(B)に用いられる錯化剤は、白金族元素含有触媒の錯化能を有するものであれば特に限定されず、溶液系水素化およびラテックス系水素化の反応系それぞれに応じて適宜選択することができる。錯化処理法も特に限定されず、所定量の錯化剤をそのまま、または有機溶媒もしくは水の溶液として反応混合物へ添加し、攪拌することにより行うことができる。
【0054】
錯化剤としては、例えばアンモニア;酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどの有機酸または無機酸のアンモニウム塩;などが挙げられる。好ましくはアンモニア、酢酸アンモニウムであり、より好ましくはアンモニアである。
【0055】
錯化剤の使用量は、工程(A)の水素化反応に使用した触媒に含まれる白金族元素に対し、通常1〜50倍モル、好ましくは2〜30倍モルである。錯化処理時間は、通常10分〜20時間、好ましくは30分〜10時間であり、錯化処理温度は通常0〜100℃である。
【0056】
本発明の製造方法では、前述の錯化処理工程(B)に続いて、触媒回収工程(C)を設ける。すなわち、工程(B)で錯化処理されて、反応混合物中に存在する、担体から脱離した白金族元素含有触媒の錯化物を担体に再担持させることにより、これを反応混合物から回収する。再担持は、反応混合物を例えば攪拌、混合することにより前記錯化物を担体に接触させて行う。具体的には、接触温度が好ましくは40〜90℃、接触時間が10分〜10時間である。
なお、錯化処理工程(B)において、触媒が錯化剤により錯化された後に、反応混合物の温度を変えることなく、そのまま反応混合物を攪拌、混合をすることにより、錯化物を担体に再担持させることもできる。
【0057】
触媒回収工程(C)は、脱離触媒の錯化物を再担持させ、その担体を反応混合物から分離回収する工程である。錯化物を再担持させた担体には、脱離しなかった触媒も担持されているので、該担体を回収することにより、脱離触媒及び脱離せずに担体上に留まっていた触媒のいずれも併せて回収することができる。
【0058】
錯化物を再担持させた担体の回収方法は特に限定されず、溶液系水素化およびラテックス系水素化の反応系それぞれに応じて、公知の固液分離方法を採用することができる。すなわち、ろ過や遠心分離などの分離操作をそのまま適用することで、反応混合物から担持を容易に分離回収することができる。
【0059】
本発明の製造方法においては、前述のような工程(B)、(C)を採用することにより、担体から脱離した触媒の回収のために再度吸着剤等を加えて回収操作を行う必要はほとんどなく、工程(A)に用いた白金族元素含有触媒のほぼ全量を、一度の操作で効率よく分離、回収することができる。
【0060】
なお、本発明の触媒回収方法においては、工程(B)の錯化処理を行う前に反応混合物の酸化処理を行うことが好ましい。水素化反応終了後、担体から脱離して系内にある白金族元素含有触媒は、水素化重合体中などに還元状態で存在するため、反応混合物を酸化剤と接触させて酸化処理することにより、水素化重合体から分離しやすくなる。そのように酸化処理した反応混合物を錯化処理することにより、白金族元素含有触媒は、担体にさらに再吸着しやすくなる。
【0061】
酸化剤は触媒酸化能を有するものであれば、特に限定されず、溶液系水素化およびラテックス系水素化の反応系それぞれに応じて、適宜選択することができる。
【0062】
溶液系水素化の場合の酸化剤としては、ヨウ素;塩化第二鉄(FeCl3)などのハロゲン化鉄;過酸化水素、過酢酸、過安息香酸などの過酸化物;などが挙げられ、好ましくは塩化第二鉄、ヨウ素、より好ましくは塩化第二鉄である。また、ラテックス系水素化の場合の酸化剤としては、例えば、空気(酸素);過酸化水素、過酢酸、過安息香酸などの過酸化物;などが挙げられ、好ましくは空気、過酸化水素、より好ましくは過酸化水素である。
【0063】
これらの酸化剤の使用量は特に限定されず、水素化反応に使用した触媒に含まれる白金族元素に対して1〜100倍モル、好ましくは3〜50倍モルである。接触温度は、通常0〜100℃、好ましくは50〜95℃、より好ましくは70〜90℃である。接触時間は、通常10分〜20時間、好ましくは30分〜10時間である。
【0064】
触媒と酸化剤との接触方法は、酸化剤の種類により一様ではないが、溶液系水素化およびラテックス系水素化の反応系それぞれに応じて、適宜選択することができる。例えば、溶液系水素化の工程に塩化第二鉄、ヨウ素、過酸化水素などの酸化剤を適用する場合、それらの所定量を反応混合物へ加えて攪拌すればよい。また、ラテックス系水素化の工程の酸化剤として空気を用いる場合、開放状態にある反応混合物中へ空気を連続的に吹き込む方法;開放または密閉状態にある反応混合物容器の気体部雰囲気を空気にして、反応混合物を攪拌する方法;などが挙げられる。過酸化水素を使用する場合は、反応混合物へ添加して攪拌すればよい。
【0065】
溶液系水素化においては、工程(C)で触媒を担持した担体を分離した後、公知の方法により有機溶媒を留去して、水素化共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0066】
ラテックス系水素化においては、水素化触媒をほとんど除去できた水素化共役ジエン系重合体ラテックスが得られるので、そのままラテックス製品とすることができる。ラテックス中の白金族元素の含有量(重合体当り)は、通常300ppm以下、好ましくは100ppm以下である。また、該重合体ラテックスを公知の方法で凝固・乾燥することにより、水素化触媒がほとんど除去された水素化共役ジエン系重合体ゴムを得ることができる。
【0067】
本発明の製造方法により得られる水素化共役ジエン系重合体の水素化率(反応前の重合体中に存在した炭素−炭素二重結合の総計に対する水素化された炭素−炭素二重結合の割合)は1〜100%の範囲で任意に制御することができる。ヨウ素価で表される水素化率は、好ましくは120以下である。かかる水素化共役ジエン系重合体は、水素化触媒の残留量が少ないため、接触する材料を変質等させることがなく、透明性にも優れていて着色製品も容易に得られ、広範囲の工業的用途において使用することができる。
【0068】
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、これらの例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0069】
水素化触媒の回収後、分離した水素化共役ジエン重合体ゴム中のパラジウム量は、該水素化重合体ゴムの一部を600℃で炭化/灰化後、硫酸に溶解して、原子吸光分析法により測定した。
【0070】
実施例1
オートクレーブに、オレイン酸カリウム2部、イオン交換水180部、アクリロニトリル37部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込んだ。反応器内部を窒素で置換した後、ブタジエン63部を封入した。反応器を10℃に冷却して、クメンハイドロパーオキサイド0.01部、硫酸第一鉄0.01部を添加した。次に反応器を10℃に保ったまま内容物を16時間攪拌した。その後、反応器内へ10%のハイドロキノン水溶液を添加して重合停止させアクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)を得た。重合反応液から未反応の単量体を除去しラテックスを得た。重合転化率は90%であった。
【0071】
塩化カルシウム(凝固剤)3部を溶解した凝固水300部を50℃で攪拌しながら、上記ラテックスを凝固水へ滴下した。そこへ水酸化カリウム水溶液を加えてpHを11.5に保ちながら重合体クラムを析出させた。凝固水からクラムを分取して水洗後、50℃で減圧乾燥した。このクラムをアセトンに溶解して15%重合体溶液を調製した。そのアセトン溶液800部(固形分120部)にカーボン担持型パラジウム(Pd)触媒(Pd担持率2%、Pd量はPd金属/前記NBRの比で500ppm、平均粒子径10nm、カーボンの比表面積800m2/g)を加えて、攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶存酸素を除去した。系内を2回水素ガスで置換後、5MPaの水素を加圧した。内容物を50℃に加温し6時間攪拌して水素化反応を行った。
【0072】
水素化反応終了後、室温に冷却し系内の水素を窒素で置換した。この反応混合物へ塩化第二鉄1.84部を加え30℃で3時間攪拌(酸化処理)した。次にアンモニア水16部を添加し80℃で5時間攪拌して錯化処理した。生成した錯化物は直ちに担体に再担持されたので、この担体をろ過により反応混合物から回収した。得られたろ液を10倍量の水中に投入して析出したゴムを取り出した。それを真空乾燥機で24時間乾燥して水素化NBRを得た。この水素化NBR中のパラジウム量は50ppmであり、担体から脱離して水素化反応に使用されたパラジウム量(水素化NBRに対して200ppm)に対する回収率は75%であった。
【0073】
実施例2
パラジウムカーボンに代えてシリカ担持型Pd触媒(Pd担持率2%、Pd量はPd金属/前記NBRの比で500ppm、平均粒子径17nm、シリカ比表面積260m2/g)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作を行い水素化NBRを得た。この水素化NBR中のパラジウム量は60ppmであり、担体から脱離して水素化反応に使用されたパラジウム量(水素化NBRに対して200ppm)に対する回収率は70%であった。
【0074】
比較例2
実施例1と同様にして、NBRの調製(重合転化率:90%)、そのアセトン溶液の調製、水素化反応を順次行った。実施例1で使用した塩化第二鉄を添加することなく、反応混合物を30℃で3時間攪拌した。次に実施例2で使用したアンモニア水を添加することなく、水16部を加えて80℃で5時間攪拌した。以降、実施例1と同様に処理を行い水素化NBRを得た。この水素化NBR中のパラジウム量は190ppmであり、担体から脱離して水素化反応に使用されたパラジウム量(水素化NBR対して200ppm)に対する回収率は5%に過ぎなかった。
【0075】
上記の実施例および比較例より明らかなように、水素化反応終了後の後処理法として錯化処理を行わない場合(比較例1)には、得られた水素化NBR中のパラジウム含有量が大きく異なることが分かる。これに対し、錯化処理を施すことにより、水素化反応に使用した触媒が担体に再吸着して反応混合物から効率よく分離できることが確認された(実施例1及び実施例2)。
【0076】
【発明の効果】
本発明の触媒回収方法によると、担体から脱離して重合体溶液中に存在していた白金族元素含有触媒が担体に再担持し、一度の分離処理により効率よく白金族元素含有触媒を回収できる。また、白金族元素含有触媒を容易に回収して再使用できるので、たとえ多量の触媒を用いても経済性に問題はなく、各種の水素化物とりわけ水素化共役ジエン系重合体を工業的に有利に製造できるという効果を奏する。また、本発明の水素化共役ジエン系重合体の製造方法を適用して得られる水素化重合体は残存触媒量が少ないので、ラテックス製品やゴム製品の品質面への悪影響がない。
Claims (4)
- 担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に行った水素化反応の反応混合物に錯化剤を添加して、前記反応混合物中に含有される、担体から脱離した白金族元素含有触媒を錯化し、得られた錯化物を担体に再担持させて、この担体を反応混合物から回収することを特徴とする触媒回収方法。
- 錯化剤を添加する前に反応混合物の酸化処理を行う請求項1記載の触媒回収方法。
- 白金族元素がパラジウムである請求項1又は2記載の触媒回収方法。
- 担体に担持させた白金族元素含有触媒の存在下に共役ジエン系重合体を水素化する水素化反応工程(A);前記担体から脱離した白金族元素含有触媒を、反応混合物へ錯化剤を添加することにより錯化する錯化処理工程(B);白金族元素含有触媒の錯化物を前記担体に再担持させて、この担体を反応混合物から回収する触媒回収工程(C);を含む水素化共役ジエン系重合体の製造方法。
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