JP2004098432A - 平版印刷版原版 - Google Patents
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Abstract
【課題】親水性が高く、また、その持続性に優れた親水性層を備えることで、特に印刷汚れ性が改善され、厳しい印刷条件においても、汚れが生じない印刷物が多数枚得られる平版印刷版原版を提供すること、更には、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、且つ、画像形成後に現像処理操作を行なうことなく、そのまま印刷機に装着し印刷すること、が可能な平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、
前記架橋構造を有する親水性層が、下記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする。
【化1】
【選択図】 なし
【解決手段】本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、
前記架橋構造を有する親水性層が、下記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする。
【化1】
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規な平版印刷版原版に関するものであり、詳細には、デジタル信号に基づいてレーザ光による画像の走査露光が可能であり、感度及び汚れ性に優れた平版印刷版原版に関する。
【0002】
【従来の技術】
平版印刷は、インキを受容する親油性領域と、インキを受容せず湿し水を受容する撥インク領域(親水性領域)を有する版材を利用する印刷方法であり、現在では広く感光性の平版印刷版原版(PS版)が用いられている。
PS版は、アルミニウム板などの支持体の上に、感光層を設けたものが実用化され広く用いられている。このようなPS版は、画像露光及び現像により非画像部の感光層を除去し、基板表面の親水性と画像部の感光層の親油性を利用して印刷が行われている。このような版材では、非画像部の汚れ防止のため、基板表面には高い親水性が要求される。
【0003】
従来、平版印刷版に用いる親水性基板又は親水性層としては、陽極酸化されたアルミニウム基板、若しくは更に親水性を上げるためにこの陽極酸化されたアルミニウム基板をシリケート処理することが一般的に行なわれている。更に、これらアルミニウム支持体を用いた親水化基板若しくは親水性層に関する研究が盛んに行われており、ポリビニルホスホン酸を含む下塗り剤で処理された基板や、感光層の下塗り層としてスルホン酸基を有するポリマーを使用する技術が知られており、その他にも、ポリビニル安息香酸などを下塗り剤として用いる技術も提案されている。
【0004】
一方、アルミニウムの様な金属支持体を用いずPET(ポリエチレンフタレート)、セルロースアセテートなどのフレキシブルな支持体を用いたときの親水性層に関しては、PET支持体上に、親水性ポリマーを含有し、加水分解されたテトラアルキルオルソシリケートで硬化された親水性層を設ける技術(例えば、特許文献1参照。)や、親水性ポリマーを主成分とする相と疎水性ポリマーを主成分とする相の2相からなる相分離構造を有する親水層を設ける技術(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
【0005】
これらの親水性層は、従来のものより親水性が向上し、印刷開始時には汚れの生じない印刷物が得られる平版印刷版を与えたが、印刷を繰り返すうちに剥離したり、親水性が経時的に低下したりする問題があり、より厳しい印刷条件においても、親水性層が支持体から剥離したり、表面の親水性が低下することなく、多数枚の汚れの生じない印刷物が得られる平版印刷版原版が望まれていた。また、実用的な観点から、更なる親水性の向上も要求されるのが現状である。
【0006】
一方、近年進展が目覚ましいコンピュータ・トゥ・プレートシステム用刷版については、多数の研究がなされている。その中で、一層の工程合理化と廃液処理問題の解決を目指すものとして、露光後、現像処理することなしに、印刷機に装着して印刷できる現像不要の平版印刷版原版が研究され、種々の方法が提案されている。
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの印刷用原版を印刷機のシリンダーに装着し、シリンダーを回転しながら湿し水とインキを供給することによって、印刷用原版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。すなわち、印刷用原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で処理が完了する方式である。
【0007】
このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な感光層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取り扱い性を有することが必要とされる。
現像工程を必要としない刷版としては、基板上に架橋された親水性層を設けその中にマイクロカプセル化された熱溶融物質を含有した無処理刷版が知られている(例えば、特許文献3参照。)。この刷版ではレーザーの露光領域に発生した熱の作用によりマイクロカプセルが崩壊し、カプセル中の親油物質が溶け出し、親水層表面が疎水化される。この印刷版原版は現像処理を必要としないが、基板上に設けられた親水性層の親水性や耐久性が不充分であり、印刷するにつれて非画像部に徐々に汚れが生じてくる問題点があった。
【0008】
【特許文献1】
特開平8−272087号公報
【特許文献2】
特開平8−292558号公報
【特許文献3】
国際公開第94/23954号パンフレット
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の諸問題を解決すべくなされた本発明の目的は、親水性が高く、また、その持続性に優れた親水性層を備えることで、特に印刷汚れ性が改善され、厳しい印刷条件においても、汚れが生じない印刷物が多数枚得られるポジ型又はネガ型の平版印刷版原版を提供することにある。
本発明の更なる目的は、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、且つ、画像形成後に簡易な水現像処理操作による製版、或いは、特別の現像処理を行なうことなく、そのまま印刷機に装着し印刷すること、が可能な平版印刷版原版を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく検討した結果、特定の親水性ポリマーを含有する有機無機複合体からなる架橋構造が形成された親水性層中に表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有させることにより問題が解決することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、
前記架橋構造を有する親水性層が、下記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする。
【0012】
【化2】
【0013】
上記一般式(I)は、構造単位(i)、(ii)で表されるポリマーユニットの末端に、構造単位(iii)で表されるシランカップリング基を有する高分子化合物であり、一般式(I)中、R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、mは、0、1又は2を表す。L1、L2及びL3は、それぞれ独立に、単結合又は有機連結基を表し、Yは、−NHCOR5、−N(R5)(R6)、−COR5、−OH、−CO2M、又は−SO3Mを表し、ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表す。x及びyは、x+y=100とした時の組成比を表し、x:yは99:1〜50:50の範囲を表す。
【0014】
本発明に係る親水性層は、上記一般式(I)で表される共重合体、好ましくは、更に、下記一般式(II)で表される架橋成分を含有する親水性塗布液組成物を調製し、支持体表面に塗布、乾燥することで形成することができる。
【0015】
【化3】
【0016】
上記一般式(II)中、R7は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R8はアルキル基又はアリール基を表し、XはSi、Al、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。
【0017】
本発明の作用は明確ではないが、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層は、グラフト鎖の状態で導入された親水性の官能基が表面にフリーの状態で偏在するとともに、アルコキシド化合物の加水分解、縮重合により、高密度の架橋構造を有する有機無機複合体皮膜が形成されているため、高い親水性を有する高強度の皮膜となる。
具体的には、上記一般式(I)で表される共重合体を含有する親水性塗布液組成物を調製し、塗布して親水性層を形成する際に、前記共重合体が主鎖の末端のみならず側鎖にもシランカップリング基を有しているため、これらの相互作用により、Si(OR)4による高密度の架橋構造が形成される。このため、強固な架橋構造による耐刷性の向上が実現できる。また、親水性グラフト鎖の親水性基を有する部分は、直鎖状の幹部分において、架橋構造を形成している部位との反対側の末端に位置するため、運動性が高く、印刷時に供給される湿し水の給排水速度が速くなり、高い親水性により非画像部の汚れを効果的に抑制し、高画質の画像形成が可能となるものと推定される。また、親水性塗布液組成物に上記一般式(II)で表される架橋成分を添加することで、高密度で存在するシランカップリング基と架橋成分との相互作用により、架橋構造が更に高密度で形成され、更なる皮膜強度の向上による高耐刷性が期待される。
【0018】
更に、本発明では、前記親水性層中に表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有させることにより、親水性高分子化合物からなるマトリックス中において、熱極性変換化合物や熱溶融性疎水性粒子などの表面疎水化領域を形成し得る化合物が加熱、又は輻射線照射領域において極性変換、又は相互融着によって疎水性領域を形成し、短時間でのレーザー光等の走査露光による画像形成が可能となり、画像形成層として機能する。また、非画像部領域は高い皮膜強度を有する親水性層により優れた親水性を保持することから、現像処理を必要とせず、直接印刷機に装着して製版することが可能となった。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の平版印刷版原版について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、前記架橋構造を有する親水性層が、上記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする。ここで、本発明の平版印刷版原版においては、前記親水性層自体が画像形成機能を有する。
以下、本発明の平版印刷版原版の各構成について詳細に説明する。
【0020】
〔親水性層〕
本発明における親水性層は、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有するものであるが、このような架橋構造を有する親水性層は、先に例示されたアルコキシド化合物構造と、親水性グラフト鎖を形成し得る親水性の官能基を有する化合物とを用いて、適宜、形成することができる。アルコキシド化合物の中でも、反応性、入手の容易性からSiのアルコキシドが好ましく、具体的には、シランカップリング剤に用いる化合物を好適に使用することができる。
【0021】
前記したようなアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を、本発明では以下、適宜、ゾルゲル架橋構造と称する。
このようなフリーの親水性グラフト鎖とゾルゲル架橋構造とを備える親水性層は、好ましくは、以下に詳述される親水性共重合体を含有する。
以下、本発明に係る親水性層の好ましい態様における各構成成分及び親水性層の形成方法について詳細に説明する。
【0022】
(1.一般式(I)で表される共重合体)
この一般式(I)で表される共重合体は、主鎖及び側鎖の末端にシランカップリング基を有する親水性の共重合体であり、以下、適宜、特定親水性共重合体と称する。
一般式(I)で表される共重合体は、構造単位(i)、(ii)で表されるポリマーユニットの両末端の少なくとも一方に、構造単位(iii)で表されるシランカップリング基を有していればよく、他の末端にもこの官能基を有していてもよく、水素原子、又は重合開始能を有する官能基を有していてもよい。
【0023】
上記一般式(I)において、R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、mは、0、1又は2を表す。
炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素数8以下の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bは、効果及び入手容易性の観点から、好ましくは、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
【0024】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。
アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いらる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、Ν−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、
【0025】
N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイト基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−Ν−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、
【0026】
アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)及びその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基ホスフォノ基(−PO3H2)及びその共役塩基基(以下、ホスフォナト基と称す)、ジアルキルホスフォノ基(−PO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノ基(−PO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノ基(−PO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナト基と称す)、モノアリールホスフォノ基(−PO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスフォナト基と称す)、ホスフォノオキシ基(−OPO3H2)及びその共役塩基基(以後、ホスフォナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナトオキシ基と称す)、モノアリールホスフォノオキシ基(−OPO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールフォスホナトオキシ基と称す)、モルホルノ基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0027】
これらの置換基中のアルキル基の具体例としては、前述のアルキル基が挙げられる。
また、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル2基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスフォノフェニル基、ホスフォナトフェニル基等を挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。アシル基(G1CO−)におけるG1としては、水素、並びに上記のアルキル基、アリール基を挙げることができる。
【0028】
これら置換基のうち、より好ましいものとしてはハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0029】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12まての分岐状並びに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせることにより得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチルと、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチルル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0030】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0031】
上記一般式(I)において、L1及びL2は、それぞれ独立に、単結合又は有機連結基を表す。ここで、L1及びL2が有機連結基を表す場合、L1及びL2は非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には、1個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、1個から100個までの水素原子、及び0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。より具体的な連結基としては、下記の構造単位又はこれらが組合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0032】
【化4】
【0033】
また、上記一般式(I)において、L3は、単結合又は有機連結基を表す。ここで、L3が有機連結基を表す場合、L3は非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には、上記L1及びL2と同様のものを挙げることができる。中でも、特に好ましい構造としては、−(CH2)n−S−である(nは1〜8の整数)。
【0034】
上記一般式(I)において、Yは、−NHCOR5、−N(R5)(R6)、−COR5、−OH、−CO2M、又は−SO3Mを表し、ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表す。また、Yが−N(R5)(R6)である場合、R5及びR6が互いに結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。R5及びR6は更に置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、前記R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bがアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様に挙げることができる。
【0035】
R5及びR6としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。
また、Mとしては、具体的には、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、又は、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウムなどのオニウムが挙げられる。
Yとしては、具体的には、−NHCOCH3、−NH2、−COOH、−SO3 −NMe4 +、モルホリノ基等が好ましい。
【0036】
上記一般式(I)において、x及びyは、x+y=100とした時の組成比を表し、x:yは99:1〜50:50の範囲を表し、99:1〜80:20の範囲がより好ましく、99:1〜90:10の範囲が更に好ましい。
【0037】
特定親水性共重合体の分子量としては、5,000〜100,000が好ましく、5,000〜50,000がより好ましく、5,000〜40,000が更に好ましい。
【0038】
本発明に好適に用い得る特定親水性共重合体の具体例(例示化合物1〜12)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
<特定親水性共重合体の合成方法>
本発明に係る特定親水性共重合体は、下記構造単位(a)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記構造単位(b)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤と、を用いてラジカル重合させると共に、更に、下記構造単位(c)で表されるシランカップリング基が導入されたモノマーを共重合させることにより合成することができる。
ここで、構造単位(b)のシランカップリング剤が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマーの主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
この反応様式は特に制限されるものではないが、ラジカル重合開始剤の存在下、或いは、高圧水銀灯の照射下、バルク反応、溶液反応、懸濁反応などを行えばよい。
【0042】
【化7】
【0043】
また、重合反応において、構造単位(b)の導入量を制御し、これと構造単位(a)又は構造単位(c)の単独重合を効果的に抑制するため、不飽和化合物の分割添加法、逐次添加法などを用いたじ重合法を行うことが好ましい。また、これらの化合物は、市販されおり、また容易に合成することもできる。
構造単位(b)に対する構造単位(a)、(c)の反応比率は特に制限されるものではないが、構造単位(b)1モルに対して、構造単位(a)、(c)が0.5〜50モルの範囲内とすることが、副反応の抑制や加水分解性シラン化合物の収率向上の観点から好ましく、1〜45モルの範囲がより好ましく、5〜40モルの範囲であることが最も好ましい。
【0044】
上記一般式(I)で表される特定親水性共重合体を合成するためのラジカル重合法としては、従来公知の方法の何れをも使用することができる。具体的には、一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成と反応1(高分子学会編、共立出版)、新実験化学講座19、高分子化学(I)(日本化学会編、丸善)、物質工学講座、高分子合成化学(東京電気大学出版局)等に記載されており、これらを適用することができる。
【0045】
また、特定親水性共重合体は、後述するような他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリルエステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0046】
アクリル酸エステル類の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、(n−又はi−)プロピルアクリレート、(n−、i−、sec−又はt−)ブチルアクリレート、アミルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、クロロベンジルアクリレート、ヒドロキシベンジルアクリレート、ヒドロキシフェネチルアクリレート、ジヒドロキシフェネチルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシフェニルアクリレート、クロロフェニルアクリレート、スルファモイルフェニルアクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0047】
メタクリル酸エステル類の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、(n−又はi−)プロピルメタクリレート、(n−、i−、sec−又はt−)ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、ヒドロキシベンジルメタクリレート、ヒドロキシフェネチルメタクリレート、ジヒドロキシフェネチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート、クロロフェニルメタクリレート、スルファモイルフェニルメタクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0048】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
メタクリルアミド類の具体例としては、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−トリルメタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N−(トリルスルホニル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0050】
ビニルエステル類の具体例としては、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート等が挙げられる。
スチレン類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、シクロヘキシルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、カルボキシスチレン等が挙げられる。
【0051】
本発明における特定親水性共重合体の合成に使用されるこれらの他のモノマーの割合は、諸物性の改良に十分な量である必要があるが、割合が大きすぎる場合には、親水性層としての機能が不十分となる。従って、特定親水性共重合体中の他のモノマーの総割合は、80重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは50重量%以下である。
【0052】
(2.一般式(II)で表される架橋成分)
ここで用いられる下記一般式(II)で表される架橋成分は、その構造中に重合性の官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす化合物であり、前記特定親水性共重合体と縮重合することで、架橋構造を有する強固な皮膜を形成する。
【0053】
【化8】
【0054】
上記一般式(II)中、R7は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R8はアルキル基又はアリール基を表し、XはSi、Al、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。
R7及びR8がアルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。
なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量1000以下であることが好ましい。
【0055】
以下に、一般式(II)で表される架橋成分の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
XがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、γ−クロロプリピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
これらのうち特に好ましいものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトルイメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
【0056】
また、XがAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、テトラエトキシアルミネート等を挙げることができる。
XがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。
XがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
【0057】
(3.親水性層の形成)
本発明においては、親水性層は、前記特定親水性共重合体を含む親水性塗布液組成物を調製し、それを適切な支持体上に、塗布、乾燥することで形成し得る。親水性塗布液組成物を調製するにあたっては、特定親水性共重合体の含有量は固形分換算で、10重量%以上、50重量%未満とすることが好ましい。含有量が50重量%以上になると膜強度が低下する傾向があり、また、10重量%未満であると、皮膜特性が低下し、膜にクラックが入るなどの可能性が高くなり、いずれも好ましくない。
【0058】
また、好ましい態様である親水性塗布液組成物の調製に架橋成分を添加する場合の添加量としては、特定親水性共重合体中のシランカップリング基に対して架橋成分が5mol%以上、更に10mol%以上となる量であることが好ましい。架橋成分添加量の上限は親水性ポリマーと十分架橋できる範囲内であれば特にないが、大過剰に添加した場合、架橋に関与しない架橋成分により、作製した親水性表面がべたつくなどの問題を生じる可能性がある。
【0059】
シランカップリング基を末端に有する特定親水性共重合体、好ましくは、更に架橋成分とを溶媒に溶解し、よく攪拌することで、これらの成分が加水分解し、重縮合することにより製造される有機無機複合体ゾル液が本発明に係る親水性塗布液となり、これによって、高い親水性と高い膜強度を有する表面親水性層が形成される。有機無機複合体ゾル液の調製において、加水分解及び重縮合反応を促進するために、酸性触媒又は塩基性触媒を併用することが好ましく、実用上好ましい反応効率を得ようとする場合、触媒は必須である。
【0060】
触媒としては、酸、或いは塩基性化合物をそのまま用いるか、或いは水又はアルコールなどの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒という)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸、或いは塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよいが、濃度が高い場合は加水分解、重縮合速度が速くなる傾向がある。但し、濃度の高い塩基性触媒を用いると、ゾル溶液中で沈殿物が生成する場合があるため、塩基性触媒を用いる場合、その濃度は水溶液での濃度換算で1N以下であることが望ましい。
【0061】
酸性触媒或いは塩基性触媒の種類は特に限定されないが、濃度の濃い触媒を用いる必要がある場合には乾燥後に塗膜中にほとんど残留しないような元素から構成される触媒がよい。
具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などが挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。
【0062】
親水性塗布液の調製は、シランカップリング基を末端に有する親水性ポリマー、好ましくは更に架橋成分をエタノールなどの溶媒に溶解後、所望により上記触媒を加え、攪拌することで実施できる。反応温度は室温〜80℃であり、反応時間、即ち攪拌を継続する時間は1〜72時間の範囲であることが好ましく、この攪拌により両成分の加水分解・重縮合を進行させて、有機無機複合体ゾル液を得ることができる。
【0063】
前記親水性ポリマー及び、好ましくは架橋成分を含有する親水性塗布液組成物を調製する際に用いる溶媒としては、これらを均一に、溶解、分散し得るものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、水等の水系溶媒が好ましい。
【0064】
以上述べたように、本発明に係る親水性表面を形成するための有機無機複合体ゾル液(親水性塗布液組成物)の調製はゾルゲル法を利用している。ゾルゲル法については、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年〕、平島硯「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作成技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述され、それらに記載の方法を本発明に係る親水性塗布液組成物の調製に適用することができる。
【0065】
本発明に係る親水性塗布液組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、種々の添加剤を目的に応じて使用することができる。例えば、塗布液の均一性を向上させるため界面活性剤を添加することができる。
【0066】
上記のようにして調製した親水性塗布液組成物を支持体表面に塗布、乾燥することで親水性層を形成することができる。親水性層の膜厚は目的により選択できるが、一般的には乾燥後の塗布量で、0.5〜5.0g/m2の範囲であり、好ましくは1.0〜3.0g/m2の範囲である。塗布量が、0.5g/m2より少ないと親水性の効果が発現しにくくなり、5.0g/m2を超えると感度や膜強度の低下を生じる傾向があるためいずれも好ましくない。
【0067】
〔加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物〕
親水性層に添加される画像形成機能を有する化合物、即ち、加熱或いは輻射線露光により疎水化領域を形成することのできる化合物としては、加熱又は輻射線の照射により化合物自体の物性が親水性から疎水性に変化する化合物、若しくは熱溶融性疎水性粒子を挙げることができる。
【0068】
(親水性から疎水性に変化する化合物)
親水性から疎水性に変化する化合物としては特開2000−122272号公報に記載の熱により脱炭酸を起こして親水性から疎水性に変化する官能基を有するポリマーを挙げることができ、具体的には、以下に示す高分子化合物が好ましく例示される。好ましい物性としては、このポリマー自身を塗布したときの被膜表面の空中水滴による接触角が、加熱前に20°以下であり、加熱後には65°以上に変化するものが特に好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0069】
【化9】
【0070】
更に、親水性から疎水性に変化する官能基を側鎖に有するポリマーの具体例としては、特開平6−317899号公報記載のアンモニウム塩基を有するポリマー、及び特開2000−309174号公報記載のスルホニル酢酸などの下記一般式(1)で示されるような脱炭酸型極性変換基を有するポリマーも好適なものとして挙げることができる。
【0071】
【化10】
【0072】
上記一般式(1)中、Xは−O−、−S−、−Se−、−NR3−、−CO−、−SO−、−SO2−、−PO−、−Si(R3)(R4)−、−CS−を表し、R1、R2、R3及びR4は各々独立して1価の基を表し、Mは陽電荷を有するイオンを表す。
【0073】
R1、R2、R3及びR4の具体例としては、−F、−Cl、−Br、−I、−CN、−R5、−OR5、−OCOR5、−OCOOR5、−OCON(R5)(R6)、−OSO2R5、−COR5、−COOR5、−CON(R5)(R6)、−N(R5)(R6)、−NR5−COR6、−NR5−COOR6、−NR5−CON(R6)(R7)、−SR5、−SOR5、−SO2R5、−SO3R5等が挙げられる。
R5、R6及びR7の具体例としては、水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、これら官能基の具体例としては、前述のような官能基が挙げられる。
【0074】
これらのうちR1、R2、R3及びR4として好ましいのは、水素、アルキル基、アリール基、アルキニル基、アルケニル基である。
本発明における極性変換高分子化合物は、上記のような親水性官能基を有するモノマー1種の単独重合体であっても、2種以上の共重合体であってもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、他のモノマーとの共重合体であってもよい。
本発明における疎水性から親水性に変化する官能基を側鎖に有するポリマーの具体例〔例示化合物(P−1)乃至(P−17)〕を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
【化11】
【0076】
【化12】
【0077】
これら親水性から疎水性に変化する化合物の親水性層全固形物中に占める割合は0.01〜94重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜90重量%の範囲である。
【0078】
(熱溶融性疎水性粒子)
本発明において、表面疎水化領域を形成し得る化合物として用いられる熱溶融性疎水性粒子としては、EP816070記載のポリスチレンなどを挙げることができ、更に、WO94/23954に記載のマイクロカプセル内包疎水性粒子も同様の目的で使用することができる。
【0079】
本発明において、親水性層に含有させる画像形成成分である熱溶融性疎水性粒子は、加熱により、或いは、赤外線レーザ照射により発生した熱により互いに融着して結合し、疎水性領域(インク受容性領域:画像部)を形成するものであり、疎水性有機化合物からなる粒子である。
所定の加熱により粒子が速やかに融着する観点からは、疎水性有機化合物の融点(融着温度)は50〜200℃の範囲であることが好ましい。熱溶融性疎水性粒子の熱融着温度が50℃未満であると、製造工程における塗膜乾燥時などの熱の影響、或いは、保存時の環境温度などの影響により粒子が軟化或いは溶融する懸念があり、好ましくない。熱融着温度は、80℃以上であることが好ましく、経時安定性を考えると100℃以上が更に好ましい。融点が高いほど安定性は向上するが、記録感度及び取り扱い性の観点からは200℃以下であることが望ましい。
熱溶融性疎水性粒子を構成する疎水性有機化合物としては、具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルカルバゾールなど、又はそれらの共重合体、又は混合物等の樹脂類が挙げられる。また、パラフィンワックス、マイクロワックス、或いはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、ステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリスチルアミド、パルミトアミド、オレイン酸アミドなど脂肪酸系ワックス、ステアリン酸、トリデカン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸等も好適に使用し得る。
【0080】
本発明において親水性層に含有させる画像形成成分としては、上記の疎水性有機化合物のうち、熱溶融性疎水性粒子同志が熱により容易に融着、合体するものが画像形成性の観点から好ましく、また、親水性低下防止の観点から、その表面が親水性で、水に容易に分散し得るものが、特に好ましい。
熱溶融性疎水性粒子表面の親水性の目安としては、熱溶融性疎水性粒子のみを塗布し、凝固温度よりも低い温度で乾燥して作製した時の皮膜の接触角(空中水滴)が、凝固温度よりも高い温度で乾燥して作製した時の皮膜の接触角(空中水滴)よりも低くなることが好ましい。熱溶融性疎水性粒子表面の親水性をこのような好ましい状態にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマー或いはオリゴマー、又は親水性低分子化合物を熱溶融性疎水性粒子表面に吸着させてやればよいが、熱溶融性疎水性粒子の表面親水化方法はこれらに限定されるものではなく、公知の種々の表面親水化方法を適用することができる。
熱溶融性疎水性粒子の平均粒径は、0.01〜20μmが好ましいが、その中でも0.05〜2.0μmが更に好ましく、特に0.1〜1.0μmが最適である。平均粒径が大き過ぎると解像度が悪くなる傾向があり、また小さ過ぎると経時安定性が悪化する懸念がある。
熱溶融性疎水性粒子の添加量は、親水性層固形分の30〜98重量%が好ましく、40〜95重量%の範囲が更に好ましい。
【0081】
これらの表面親水化された熱溶融性疎水性粒子としては、以下に示す水分散性粒子をも用いることができる。
本発明の画像形成成分として好適な水分散性粒子は、下記一般式(a)の構造単位を含む疎水性ポリマーを、水と非混和性の溶剤に溶解し、その溶液を下記一般式(b)又は(c)の構造単位を有する水溶性樹脂及び/又は周期表2〜15族の元素から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物粒子を含んだ水相に分散し、油滴を形成した後、該油滴から溶剤を除去して得られる。
【0082】
【化13】
【0083】
上記一般式(a)中、R1、R2及びR3は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、R4は炭素数1〜40のアルコキシ基又はアシロキシ基を表し、kは0〜2の整数であり、mは0〜3の整数であって、かつk+mは3以下であることを表し、Xは1価の金属又は水素原子を表し、Zは下記から選ばれる基を表す。
【0084】
【化14】
【0085】
上記式中、R5は水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、R6は炭素数5以下のアルキレン基又は複数の連鎖炭素原子団が互いに炭素原子若しくは窒素原子で結合した2価の有機残基を表し、nは0〜4の整数を表す。
【0086】
【化15】
【0087】
上記一般式(b)及び(c)中、R1〜R4、X、k及びmは一般式(a)と同じであり、Y1は−NHCOR7、―CONH2、―CON(R7)2、−COR7、−OH、−CO2M1、−SO2M1又は下記の基を表し、ここで、R7は炭素数1〜8のアルキル基を表し、M1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表す。
【0088】
【化16】
【0089】
(一般式(a)の構造単位を有する疎水性ポリマー)
本発明の画像形成成分として好適な水分散性粒子を構成する疎水性ポリマーは、水と非混和性の溶剤に溶解する疎水性ポリマーであり、上記一般式(a)で表わされる有機珪素基を有する構造単位を含むポリマーである。
【0090】
この有機珪素基を有するポリマーは、上記一般式(a)の構造単位に変換しうる不飽和二重結合性単量体を単独で重合させることにより、又は、該単量体とスチレン、アクリル系、ビニル系、オレフィン系などの単量体とを共重合させることにより得られる。また、本発明における有機珪素基を有するポリマーは、有機珪素基を有する構造単位がポリマー分子中にランダムに導入されているもののほかに、重合体の分子末端に導入されているものでもよい。
【0091】
本発明において使用される疎水性ポリマー中の、上記一般式(a)で表わされる有機珪素基を有する構造単位の含有量は、0.01〜100モル%が好ましく、0.05から90モル%が更に好ましく、とくに0.1から80モル%が好ましい。有機珪素基を含有する構造単位の含有量が0.01モル%より少ない場合には本発明の効果が乏しい。
【0092】
(水と非混和性の溶剤)
本発明において、疎水性ポリマーの調製に使用し得る水と非混和性の溶剤の具体例としては、クロロメタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トリクロロメタン、四塩化炭素、エチレンクロライド、トリクロロエタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、2−ニトロプロパンなどが例示されるが、これらに制限されるものではなく、疎水性ポリマーを溶解することができ、且つ、水と不混和性であれば、あらゆる適当な溶剤が本発明に適用できる。例示された溶剤の中でも特に有用なものとして、ジクロロメタンとMEKを挙げることができる。これらは、疎水性ポリマーの調製において、蒸発により油層粒子から溶剤を除去し、速やかにポリマー粒子を硬化させる工程に、好適に使用し得る。
【0093】
(水溶性樹脂)
本発明において、前記疎水性ポリマーは、水分散性である、即ち、表面が親水性であることを要するが、このような表面親水性の疎水性ポリマーを、前述のように水相中に油滴を分散させて調製する際には、水相に水溶性樹脂を含有させることが好ましい。また、本発明においては、親水性層として、Si、Ti,Zr、Alから選択される元素を含むアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有するにものを用いており、このため、親水性層との相互作用を形成し得る水溶性樹脂を用いることが更に好ましい。疎水性ポリマーの表面親水性と前記親水性層との相互作用の形成の観点から、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、上記一般式(b)又は(c)の構造単位を有する水溶性樹脂が好ましく選択される。これらは、末端、或いは、側鎖に有機珪素基を有する水溶性樹脂である。なお、上記一般式(c)の構造単位を有する水溶性樹脂においては、2種の構造単位のうち、側鎖に有機珪素基を有する構造単位の含有量が0.01〜20モル%程度であることが水溶性の観点から好ましく、さらに好ましくは1〜15モル%の範囲である。
【0094】
本発明における水分散性粒子の調製に際して用いられる水溶性樹脂の含有量は、水相成分に対して、1〜25質量%が適当であり、好ましい範囲は2〜15質量%である。
【0095】
上記のように、疎水性ポリマーと水溶性樹脂とが共に特定の有機珪素基を有することによって良好な水分散性粒子が得られ、有機珪素基の熱反応性が、画像記録層を形成する樹脂、例えば、ゾルゲル変換系の結着樹脂との組み合わせにおいては、結着樹脂マトリックスと直接化学結合できるため、機械強度に優れた、耐摩耗性の良好な皮膜を形成できる。この感光層のレーザー光照射を受けて疎水性に変換した被照射領域においても、同様に結着樹脂と化学結合したまま均一層を形成できるので、耐摩耗性に優れた画像領域が形成される。
【0096】
(酸化物又は水酸化物微粒子)
本発明における水分散性粒子の調製に際しては、前記疎水性ポリマーの表面物性を改良するために、上記水溶性樹脂に代えて、又は、上記水溶性樹脂に加えて、水相に周期表2族〜15族の元素から選ばれた少なくとも一つの元素の酸化物又は水酸化物微粒子を添加することができる。
好適な元素の具体例として、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、亜鉛、アルミニウム、珪素、錫、鉄などを挙げることができる。中でも好ましい元素として、珪素、チタン、アルミニウム、錫を挙げることができる。
上記元素の酸化物微粒子又は水酸化物微粒子は、酸化物コロイド又は水酸化物コロイドとして用いることができ、微粒子の粒径は、一般に約0.001〜1μm、好ましくは5〜40nm、最も好ましくは10〜30nmである。
これらのコロイドの分散液は、日産化学工業(株)などの市販品を購入することもできる。
【0097】
(水分散性粒子の製造方法)
上記の原料を用いた水分散性粒子の製造は、よく知られた操作で行うことができる。すなわち、疎水性ポリマーを水と非混和性の溶剤に溶かした油相溶液と、水溶性樹脂、及び/又は、周期表2族〜15族の元素から選ばれた少なくとも一つの元素の酸化物又は水酸化物微粒子、更に必要に応じて、界面活性剤、酸性又は塩基性触媒などの任意成分を含んだ水相溶液を調製した後、両者を混合し、ホモジナイザーなどの乳化分散機を用いて、例えば、12,000rpm程度の条件で10〜15分間激しく攪拌混合して水相中に油滴を乳化分散する。次いで、得られた乳化分散物を加熱攪拌して溶剤を蒸発させることにより、目的とするポリマー微粒子の水分散物が得られる。このポリマー微粒子分散物(水分散性粒子)は、親水性層に配合する際に、水相に分散した状態で配合してもよく、水相を除去した後、粒子の状態で配合してもよい。
【0098】
本発明に係る加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物としての、水分散性粒子についてのより詳細な説明は、特願2001−379053に記載されている。
【0099】
本発明の平版印刷版原版の画像形成機能を有する親水性層には、種々の特性を得るため、必要に応じて上記以外に種々の化合物を添加してもよい。
【0100】
(光熱変換剤)
本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーなどで画像記録する場合には、光エネルギーを熱エネルギーに変換するための光熱変換剤を平版印刷版原版のどこかに含有させておくことが好ましい。該光熱変換剤を含有させておく部分としては、例えば、画像形成層兼ねる親水性層、支持体表面層、支持体のいずれが挙げられ、その他にも、支持体表面層と支持体との間に薄層を設け、そこに添加してもよい。
【0101】
本発明の平版印刷版原版に用い得る光熱変換剤としては、金属、金属の酸化物、窒化物若しくは硫化物、顔料及び染料が好ましい。金属及び金属化合物としては、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Mo、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、In、Sn、Wからなる金属の中から選択された金属又は金属化合物の中から選択された、粒子化して親水性層中に分散し得るものを用いることができる。中でも、鉄、銀、白金、金、パラジウムの金属微粒子が好ましい。
その他、TiOx(x=1.0〜2.0)、SiOx(x=0.6〜2.0)、AlOx(x=1.0〜2.0)、銅、銀及び錫のアジド化物などの金属アジド化合物も好ましい。
上記の各金属酸化物、窒化物及び硫化物は、いずれも公知の製造方法によって得られる。また、チタンブラック、鉄黒、モリブデン赤、エメラルドグリーン、カドミウム赤、コバルト青、紺青、ウルトラマリンなどの名称で市販されているものも多い。
【0102】
本発明において親水性層に含有される顔料としては、上記の金属化合物及び金属のほかに、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、骨炭(ボーンブラック)などの非金属単体粒子や各種の有機、無機顔料なども用いることができる。これらの顔料や各種微粒子は、容易に水分散し得る表面親水性のものを用いることが効果の観点から好ましい。
【0103】
また、光熱変換性の色素(染料)も用いることができる。このような色素としては、画像形成に用いられる照射光の分光波長領域に光吸収域を有し、水に容易に溶解し得るものが好ましい。好ましい固体微粒子状、染着性及び分子分散性の色素は、赤外線吸収剤として知られているものであり、具体的には、ポリメチン色素、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム色素、ジインモニウム色素、フタロシアニン化合物、トリアリールメタン色素、金属ジチオレンから選ばれる染料である。これらのうち更に好ましいものとしては、ポリメチン色素、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム色素、ジインモニウム色素、フタロシアニン化合物であり、その中でも合成適性の観点からポリメチン色素、シアニン色素、フタロシアニン化合物がもっとも好ましい。上記した色素は、水溶性基、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基及びホスホン酸基などを分子内に有する水溶性染料であることが、機上現像性の観点から好ましい。
本発明において光熱変換剤として用いられる染料(赤外線吸収剤)の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0104】
【化17】
【0105】
【化18】
【0106】
親水性層中への光熱変換剤の添加は、上記の光熱変換剤を親水性層の形成時に、塗布液中に添加してもよいが、水分散性粒子中に含有させて添加することもできる。すなわち、水分散性粒子を製造するときの油相に添加することによって、水分散性粒子中に含有させることができる。その場合には、上記の光熱変換剤でもよいが、疎水性ポリマーと親和性のよい親油性光熱変換剤を用いることが好ましい。そのような親油性光熱変換剤を以下に例示するが、これに限定されるものではない。
【0107】
【化19】
【0108】
【化20】
【0109】
光熱変換剤の含有量は、光熱変換剤の光吸収により発生する熱によって水分散性粒子の近傍が熱融着を引き起こして疎水化するのに足りる量であればよく、固形の構成成分の2〜50質量%の間で広く選択できる。2質量%以下では発熱量が不足して感度が低下し、50質量%以上では膜強度が低下する。
【0110】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版に使用される支持体は寸度的に安定な板状物であり、必要な強度、耐久性、可撓性などの特性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙やプラスチックフィルム等が挙げられる。
本発明の支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板が特に好ましい。
【0111】
好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタン等がある。合金中の異元素の含有量は高々10重量%以下である。本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
基材として使用するアルミニウム板には必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの公知の表面処理を行なってもよい。
【0112】
また、他の好ましい態様であるポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムを用いる場合にも、親水性層の形成性、支持体と親水性層との密着性の観点から、親水性層が形成される面が公知の方法により粗面化されたものを用いることが好ましい。
【0113】
〔断熱層〕
本発明の平版印刷版原版においては、支持体と画像記録層の間に断熱層を設けることが好ましい。以下に、断熱層について説明する。
画像記録層の下層として設けられている断熱層は、熱伝導率が低く支持体への熱拡散を抑制する機能を有する層である。また、この断熱層には、光熱変換剤を含有させることもでき、その場合には光照射によって発熱して画像記録層の記録感度の向上に寄与する。
このような断熱層は、有機性又は無機性の樹脂を含有する。
【0114】
断熱層に使用しうる有機性或いは無機性の樹脂は、親水性或いは、疎水性のものから広く選択することができる。例えば、疎水性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ピニリデン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ニトロセルロース、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−樹脂ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−アクリレート共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。
【0115】
この断熱層においては、疎水性樹脂は、水性エマルジョンの形態を有するものも用いることができる。水性エマルジョンとは、微小な樹脂粒子と、必要に応じて該粒子を分散安定化する保護剤とからなる粒子を水中に分散させた疎水性ポリマー懸濁水溶液のことである。
用いられる水性エマルジョンの具体例としては、ビニル系ポリマーラテックス(ポリアクリレート系、酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系など)、共役シエン系ポリマーラテックス(メタクリル酸メチル−ブタジエン系、スチレン−ブタジエン系、アグリロニトリル−プブタジエン系、クロロプレン系など)及びポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0116】
親水性樹脂としては、具体的には、ポリビニルアルコール(PVA),カルボキシ変性PVA等の変性PVA、澱粉及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース誘導体、アルギン酸アンモニウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート系ポリマー、N−ビニルカルボン酸アミドポリマー、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等の水溶性樹脂、などが挙げられる。
【0117】
断熱層に上記親水性樹脂を用いる場合には、架橋し、硬化させて用いることが膜性向上の観点から好ましく、架橋剤としては、用いる親水性樹脂に適合する公知の架橋剤を適宜使用することができる。
【0118】
断熱層に用いる無機性の樹脂としては、ゾルゲル変換によって形成される無機マトリックスが好ましい。本発明に好ましく適用できるゾルゲル変換が可能な系は、多価元素に結合した結合基が酸素原子を介して網目状構造を形成し、同時に多価金属は未結合の水酸基やアルコキシ基も有していてこれらが混在した樹脂状構造となっている高分子体であって、アルコキシ基や水酸基が多い段階ではゾル状態であり、脱水縮合が進行するのに伴って網目状の樹脂構造が強固となる。
また、樹脂組織の親水性度が変化する性質に加えて、水酸基の一部が固体微粒子に結合することによって固体微粒子の表面を修飾し、親水性度を変化させる働きをも併せ持っている。ゾルゲル変換を行う水酸基やアルコキシ基を有する化合物の多価結合元素は、アルミニウム、珪素、チタン及びジルコニウムなどであり、これらはいずれも本発明に用いることができる。
【0119】
画像記録層との接着性の観点から、断熱層を構成する樹脂としては、とくに親水性樹脂が好ましい。
断熱層中に光熱変換剤を含有させる場合、その光熱変換剤としては、前記した画像記録層に用いた光熱変換剤と同じ物質を使用することができる。
断熱層中に含まれる光熱変換剤の含有量は、固形の構成成分の2〜95質量%の間で広く選択できる。2質量%以下では発熱量が不足して添加の効果が顕著でなく、95質量%以上では膜強度が低下する。
【0120】
断熱層中には、上記した樹脂及び光熱変換剤のほかに、断熱層の物理的強度の向上、層を構成する組成物相互の分散性の向上、塗布性の向上、画像記録層との接着性向上などの理由で、無機微粒子、界面活性剤など種々の目的の化合物を添加することができる。
【0121】
(無機微粒子)
断熱層に添加しうる無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム若しくはこれらの混合物などが好適な例として挙げられ、これらは光熱変換性でなくても皮膜の強化や表面粗面化による界面接着性の強化などに寄与する。
【0122】
無機微粒子の平均粒径は5nm〜10μmのものが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。粒径がこの範囲内で、水分散性粒子や光熱変換剤の金属微粒子とも結着樹脂内に安定に分散し、画像記録層の膜強度を充分に保持し、印刷汚れを生じにくい親水性に優れた非画像部を形成できる。
このような無機微粒子は、コロイダルシリカ分散物などの市販品として容易に入手できる。
無機微粒子の断熱層への含有量は、断熱層の全固形分の1.0〜70質量%が好ましく、より好ましくは5.0〜50質量%である。
【0123】
〔水溶性保護層〕
本発明の平版印刷原版の画像記録層表面は親水性であるので、原版が製品形態で輸送されたり、保管されたりする際、或いは使用前の取り扱いの際、環境の雰囲気の影響によって疎水性化したり、温湿度の影響を受けたり、或いは機械的な傷など又は汚れなどの影響を受けやすい。これを防止するために、本発明の平版印刷版原版には、水溶性高分子を主成分とする水溶性表面保護層を設けることが好ましい。
水溶性保護層は、印刷の初期の段階で湿し水により溶解、除去されるので、特に除去の工程は必要とせず、機上現像性を低下させることもない。
【0124】
以下、水溶性保護層に含有される成分について説明する。
水溶性保護層は水溶性高分子を含有するが、これは、水溶性保護層の結着樹脂(層形成成分)として機能する。水溶性高分子としては、例えば水酸基、カルボキシル基、塩基性窒素含有基等の親水性の官能基を十分に有する高分子が挙げられる。
【0125】
具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシ変性PVA等の変性PVA、アラビアガム、水溶性大豆多糖類、ポリアクリルアミド及びその共重合体、アクリル酸共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、焙焼デキストリン、酸素分解デキストリン、酵素分解エーテル化デキストリン、澱粉及びその誘導体、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルローズ、メチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズのようなセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸及びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩、ポリアクリル酸、ポリ(エチレンオキサイド)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、N−ビニルカルボン酸アミドポリマー等が挙げられる。
中でも、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシ変性PVA等の変性PVA、アラビアガム、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、アルギン酸及びそのアルカリ金属塩の使用が好ましく、これらは1種のみを用いてもよく、目的に応じて2種以上混合使用してもよい。
水溶性保護層塗布液中の上記水溶性高分子の含有量は、3〜25質量%が適当であり、好ましい範囲は10〜25質量%である。
【0126】
水溶性保護層には、上記水溶性高分子以外に、種々の界面活性剤を含有してもよい。使用できる界面活性剤としては、アニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤が挙げられる。用いられる界面活性剤としては、前記した画像記録層に用いられる界面活性剤と同様なものを用いることができる。界面活性剤は水溶性保護層の全固形分当たり、好ましくは0.01〜1質量%であり、更に好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0127】
また、この保護層塗布液には、上記成分のほか、必要により湿潤剤としてグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール等の低級多価アルコールも使用することができる。これら湿潤剤の使用量は保護層中に0.1〜5.0質量%となる量が適当であり、好ましい範囲は0.5〜3.0質量%となる量である。
更に、保護層塗布液には、防腐剤などを添加することができる。例えば安息香酸及びその誘導体、フェノール、ホルマリン、デヒドロ酢酸ナトリウム等を0.005〜2.0質量%の範囲で添加できる。
塗布液には消泡剤を添加することもできる。好ましい消泡剤には有機シリコーン化合物が含まれ、その添加量は0.0001〜0.1質量%の範囲が好ましい。
【0128】
また、水溶性保護層には、光熱変換剤を添加してもよい。この場合、画像記録層の光照射による熱融着の感度が更に高まるので、好ましい結果が得られる。光熱変換剤としては、断熱層に添加しうる光熱変換剤として挙げたものを使用することができ、好ましい添加量も同様である。
【0129】
支持体上に、親水性層、及びその他の任意の層が設けられることで得られた平版印刷版原版は、公知の方法により露光、現像されて平版印刷版となり、多数枚の印刷に用いられる。
本発明の平版印刷版原版の画像形成機構では、熱溶融性疎水性粒子などの表面疎水化領域を形成し得る化合物が加熱、又は輻射線照射領域において互いに融着して疎水性領域を形成し、該領域がインク受容性の画像部領域となり、また、非加熱領域、又は輻射線未照射領域においては、親水性層がそのままの表面状態で残存することになり、高い親水性を保持する非画像部領域となるため、簡易な水現像処理操作による製版、或いは、特段の湿式現像処理を経なくても、直接印刷機に装着する製版が可能となり、優れた機上現像性を発現する。
【0130】
本発明の平版印刷版原版の画像形成は、熱により行われる。また、前記光熱変換材料を併用するタイプであれば、赤外線領域のレーザー光等の走査露光による加熱により、画像形成が可能である。
画像形成に用いる方法としては、熱定着、光定着、圧力定着、溶剤定着等の方法がある。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられる。
生産性向上の観点から、コンピュータ・トゥ・プレートによるダイレクト製版を行うためには、レーザを用いて溶融することが好ましい。レーザとしては、炭酸ガスレーザ、窒素レーザ、Arレーザ、He/Neレーザ、He/Cdレーザ、Krレーザ等の気体レーザ、液体(色素)レーザ、ルビーレーザ、Nd/YAGレーザ等の固体レーザ、GaAs/GaAlAs、InGaAsレーザ等の半導体レーザ、KrFレーザ、XeClレーザ、XeFレーザ、Ar2等のエキシマレーザ等を使用することができる。中でも、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
【0131】
以上の方法で、画像露光された親水性層では、加熱により形成された疎水性領域と親水性層の表面性状が保持された親水性領域が形成され、そのまま印刷機に装着し、インキと湿し水を供給することで通常の手順で印刷することができる。また、露光装置を備えた印刷機に平版印刷版原版を装着し、印刷機上で画像様露光することによる画像形成を行うこともできる。
【実施例】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0132】
(合成例1:特定親水性共重合体の合成)
500ml三口フラスコにジメチルアセトアミド126.3gを入れ、65℃窒素気流下で攪拌を行った後、アクリルアミド60g、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル3.14g、メルカプトプロピルトリメトキシシラン5.8g、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.63g、及びジメチルアセトアミド126.3gを2時間かけて滴下した。滴下後、4時間攪拌しながら同温度に保った後、室温まで冷却した。酢酸エチル2リットル中に投入し、析出した固体をろ取し、酢酸エチルで洗浄して特定親水性共重合体(1)を得た。乾燥後の重量は63.5gであった。GPC(ポリスチレン標準)により重量平均分子量3500のポリマーであることが確認された。
【0133】
(合成例2:水分散性粒子)
油相成分として、疎水性ポリマー(PI−1)30.0g、MEK45.0g、アニオン界面活性剤パイオニンA41C(竹本油脂(株)製)0.5gの溶液を調製し、水相成分として、日産化学工業(株)製スノーテックスC60g、水259.8gの溶液を調製し、両者を混合した後、ホモジナイザーにて12,000rpm、10分間激しく攪拌混合して、水相中に油滴を分散した乳化分散物を得た。次に、ステンレス製ポットに乳化分散物を投入し、40℃、3時間攪拌して溶剤成分を除去することによって、粒径0.21μmの水分散性粒子(a)を得た。
【0134】
〔実施例1〕
(支持体の作製)
厚さ0.30mmのアルミニウム板(材質1050)をトリクロロエチレン洗浄して脱脂した後、ナイロンブラシと400メッシュのパミストン−水懸濁液とを用いその表面を砂目立てした後、水でよく洗浄した。この板を45℃の25重量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングし、水洗後、更に2重量%硝酸に20秒間浸漬して水洗した。この時、砂目立て表面のエッチング量は約3g/m2であった。
次に、この板を7重量%硫酸を電解液として電流密度15A/dm2で、厚さが2.4g/m2になるように、直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗乾燥して支持体を得た。
【0135】
(親水性層の形成)
以下の成分を均一に混合し、室温で2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状の親水性塗布液組成物1を得た。
(親水性塗布液組成物1)
・合成例1で得られた特定親水性共重合体(1) 21g
・テトラメトキシシラン〔架橋成分〕 62g
・エタノール 470g
・水 470g
・硝酸水溶液(1N) 10g
【0136】
その後、上記親水性塗布液組成物1を用いて下記画像形成能を有する親水性層形成用塗布液1を調製し、上記アルミニウム支持体上に乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
(親水性層形成用塗布液)
・親水性塗布液組成物1 66g
・界面活性剤(ポリマーに対して1.5wt%)で安定化した熱溶融性ポリスチレン粒子(粒径:0.2μm、融点120℃)
(10重量%水分散液) 400g
・赤外線吸収性染料I(下記化合物) 10g
・水 374g
【0137】
【化21】
【0138】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、7.5°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0139】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したクレオ社製トレンドセッター3244VFSにて外面ドラム回転数100rpm、版面エネルギー200mJ/cm2、解像度2400dpiの条件で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は99°であり、疎水性に変化し、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、下記印刷機に装着し印刷に用いた。
印刷機としては、ハイデルベルグ社製SOR−Mを用い、湿し水にIF201(2.5%)、IF202(0.75%)(富士写真フイルム(株)製)を、インキとしてGEOS−G墨(大日本インキ化学工業(株)製)を用いた。印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、10,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。
【0140】
〔実施例2〕
(親水性層の形成)
以下の成分を均一に混合し、室温で2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状の親水性塗布液組成物2を得た。
(親水性塗布液組成物2)
・特定親水性共重合体(5) 21g
・テトラメトキシシラン〔架橋成分〕 62g
・エタノール 470g
・水 470g
・硝酸水溶液(1N) 10g
【0141】
その後上記親水性塗布液組成物2を用いて下記画像形成能を有する親水性層形成用塗布液2を調製し、実施例1で用いたのと同じアルミニウム支持体上に乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
(親水性層形成用塗布液2)
・親水性塗布液組成物2 66g
・スルホニル酢酸ポリマー 40g
〔親水性から疎水性に変化する例示化合物(p−9)〕
・赤外線吸収性染料I 10g
・水 374g
【0142】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、9.3°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0143】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、実施例1と同様の方法で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は95°であり、疎水性に変化し、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、8,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。このことから表面疎水化領域を形成し得る化合物として親水性から疎水性に変化する化合物を用いた平版印刷版原版においても、熱溶融性疎水性粒子を用いた場合と同様に本発明の効果を奏することが確認された。
【0144】
〔実施例3〕
コロナ処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、実施例1で用いたのと同じ画像形成能を有する親水性層形成用塗布液1を乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
【0145】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、6.7°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0146】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、実施例1と同様の方法で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は103°であり、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、9,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。このことから支持体として樹脂フィルムを用いた平版印刷版原版においても本発明の効果を奏することが確認された。
【0147】
〔実施例4〕
実施例1で用いた親水性塗布液組成物1を用いて下記画像形成能を有する親水性層形成用塗布液3を調製し、コロナ処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
(親水性層形成用塗布液3)
・親水性塗布液組成物1 66g
・合成例2で得られた水分散性粒子(a)(10重量%) 400g
・赤外線吸収性染料I 10g
・水 374g
【0148】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、8.5°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0149】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、実施例1と同様の方法で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は100°であり、疎水性に変化し、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、10,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。
【0150】
【発明の効果】
本発明の平版印刷版原版は、厳しい印刷条件においても高い親水性が維持され、耐刷性が良好であり、非画像部に汚れが生じない高画質の印刷物が多数枚得られる。更に、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、且つ、簡易な水現像処理操作による製版、或いは、現像処理を行わずに印刷機に装着し印刷することが可能であり、優れた機上現像性を示す平版印刷版原版を提供することができるという効果を奏する。
【発明の属する技術分野】
本発明は新規な平版印刷版原版に関するものであり、詳細には、デジタル信号に基づいてレーザ光による画像の走査露光が可能であり、感度及び汚れ性に優れた平版印刷版原版に関する。
【0002】
【従来の技術】
平版印刷は、インキを受容する親油性領域と、インキを受容せず湿し水を受容する撥インク領域(親水性領域)を有する版材を利用する印刷方法であり、現在では広く感光性の平版印刷版原版(PS版)が用いられている。
PS版は、アルミニウム板などの支持体の上に、感光層を設けたものが実用化され広く用いられている。このようなPS版は、画像露光及び現像により非画像部の感光層を除去し、基板表面の親水性と画像部の感光層の親油性を利用して印刷が行われている。このような版材では、非画像部の汚れ防止のため、基板表面には高い親水性が要求される。
【0003】
従来、平版印刷版に用いる親水性基板又は親水性層としては、陽極酸化されたアルミニウム基板、若しくは更に親水性を上げるためにこの陽極酸化されたアルミニウム基板をシリケート処理することが一般的に行なわれている。更に、これらアルミニウム支持体を用いた親水化基板若しくは親水性層に関する研究が盛んに行われており、ポリビニルホスホン酸を含む下塗り剤で処理された基板や、感光層の下塗り層としてスルホン酸基を有するポリマーを使用する技術が知られており、その他にも、ポリビニル安息香酸などを下塗り剤として用いる技術も提案されている。
【0004】
一方、アルミニウムの様な金属支持体を用いずPET(ポリエチレンフタレート)、セルロースアセテートなどのフレキシブルな支持体を用いたときの親水性層に関しては、PET支持体上に、親水性ポリマーを含有し、加水分解されたテトラアルキルオルソシリケートで硬化された親水性層を設ける技術(例えば、特許文献1参照。)や、親水性ポリマーを主成分とする相と疎水性ポリマーを主成分とする相の2相からなる相分離構造を有する親水層を設ける技術(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
【0005】
これらの親水性層は、従来のものより親水性が向上し、印刷開始時には汚れの生じない印刷物が得られる平版印刷版を与えたが、印刷を繰り返すうちに剥離したり、親水性が経時的に低下したりする問題があり、より厳しい印刷条件においても、親水性層が支持体から剥離したり、表面の親水性が低下することなく、多数枚の汚れの生じない印刷物が得られる平版印刷版原版が望まれていた。また、実用的な観点から、更なる親水性の向上も要求されるのが現状である。
【0006】
一方、近年進展が目覚ましいコンピュータ・トゥ・プレートシステム用刷版については、多数の研究がなされている。その中で、一層の工程合理化と廃液処理問題の解決を目指すものとして、露光後、現像処理することなしに、印刷機に装着して印刷できる現像不要の平版印刷版原版が研究され、種々の方法が提案されている。
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの印刷用原版を印刷機のシリンダーに装着し、シリンダーを回転しながら湿し水とインキを供給することによって、印刷用原版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。すなわち、印刷用原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で処理が完了する方式である。
【0007】
このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な感光層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに適した明室取り扱い性を有することが必要とされる。
現像工程を必要としない刷版としては、基板上に架橋された親水性層を設けその中にマイクロカプセル化された熱溶融物質を含有した無処理刷版が知られている(例えば、特許文献3参照。)。この刷版ではレーザーの露光領域に発生した熱の作用によりマイクロカプセルが崩壊し、カプセル中の親油物質が溶け出し、親水層表面が疎水化される。この印刷版原版は現像処理を必要としないが、基板上に設けられた親水性層の親水性や耐久性が不充分であり、印刷するにつれて非画像部に徐々に汚れが生じてくる問題点があった。
【0008】
【特許文献1】
特開平8−272087号公報
【特許文献2】
特開平8−292558号公報
【特許文献3】
国際公開第94/23954号パンフレット
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の諸問題を解決すべくなされた本発明の目的は、親水性が高く、また、その持続性に優れた親水性層を備えることで、特に印刷汚れ性が改善され、厳しい印刷条件においても、汚れが生じない印刷物が多数枚得られるポジ型又はネガ型の平版印刷版原版を提供することにある。
本発明の更なる目的は、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、且つ、画像形成後に簡易な水現像処理操作による製版、或いは、特別の現像処理を行なうことなく、そのまま印刷機に装着し印刷すること、が可能な平版印刷版原版を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく検討した結果、特定の親水性ポリマーを含有する有機無機複合体からなる架橋構造が形成された親水性層中に表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有させることにより問題が解決することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、
前記架橋構造を有する親水性層が、下記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする。
【0012】
【化2】
【0013】
上記一般式(I)は、構造単位(i)、(ii)で表されるポリマーユニットの末端に、構造単位(iii)で表されるシランカップリング基を有する高分子化合物であり、一般式(I)中、R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、mは、0、1又は2を表す。L1、L2及びL3は、それぞれ独立に、単結合又は有機連結基を表し、Yは、−NHCOR5、−N(R5)(R6)、−COR5、−OH、−CO2M、又は−SO3Mを表し、ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表す。x及びyは、x+y=100とした時の組成比を表し、x:yは99:1〜50:50の範囲を表す。
【0014】
本発明に係る親水性層は、上記一般式(I)で表される共重合体、好ましくは、更に、下記一般式(II)で表される架橋成分を含有する親水性塗布液組成物を調製し、支持体表面に塗布、乾燥することで形成することができる。
【0015】
【化3】
【0016】
上記一般式(II)中、R7は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R8はアルキル基又はアリール基を表し、XはSi、Al、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。
【0017】
本発明の作用は明確ではないが、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層は、グラフト鎖の状態で導入された親水性の官能基が表面にフリーの状態で偏在するとともに、アルコキシド化合物の加水分解、縮重合により、高密度の架橋構造を有する有機無機複合体皮膜が形成されているため、高い親水性を有する高強度の皮膜となる。
具体的には、上記一般式(I)で表される共重合体を含有する親水性塗布液組成物を調製し、塗布して親水性層を形成する際に、前記共重合体が主鎖の末端のみならず側鎖にもシランカップリング基を有しているため、これらの相互作用により、Si(OR)4による高密度の架橋構造が形成される。このため、強固な架橋構造による耐刷性の向上が実現できる。また、親水性グラフト鎖の親水性基を有する部分は、直鎖状の幹部分において、架橋構造を形成している部位との反対側の末端に位置するため、運動性が高く、印刷時に供給される湿し水の給排水速度が速くなり、高い親水性により非画像部の汚れを効果的に抑制し、高画質の画像形成が可能となるものと推定される。また、親水性塗布液組成物に上記一般式(II)で表される架橋成分を添加することで、高密度で存在するシランカップリング基と架橋成分との相互作用により、架橋構造が更に高密度で形成され、更なる皮膜強度の向上による高耐刷性が期待される。
【0018】
更に、本発明では、前記親水性層中に表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有させることにより、親水性高分子化合物からなるマトリックス中において、熱極性変換化合物や熱溶融性疎水性粒子などの表面疎水化領域を形成し得る化合物が加熱、又は輻射線照射領域において極性変換、又は相互融着によって疎水性領域を形成し、短時間でのレーザー光等の走査露光による画像形成が可能となり、画像形成層として機能する。また、非画像部領域は高い皮膜強度を有する親水性層により優れた親水性を保持することから、現像処理を必要とせず、直接印刷機に装着して製版することが可能となった。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の平版印刷版原版について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、前記架橋構造を有する親水性層が、上記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする。ここで、本発明の平版印刷版原版においては、前記親水性層自体が画像形成機能を有する。
以下、本発明の平版印刷版原版の各構成について詳細に説明する。
【0020】
〔親水性層〕
本発明における親水性層は、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有するものであるが、このような架橋構造を有する親水性層は、先に例示されたアルコキシド化合物構造と、親水性グラフト鎖を形成し得る親水性の官能基を有する化合物とを用いて、適宜、形成することができる。アルコキシド化合物の中でも、反応性、入手の容易性からSiのアルコキシドが好ましく、具体的には、シランカップリング剤に用いる化合物を好適に使用することができる。
【0021】
前記したようなアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を、本発明では以下、適宜、ゾルゲル架橋構造と称する。
このようなフリーの親水性グラフト鎖とゾルゲル架橋構造とを備える親水性層は、好ましくは、以下に詳述される親水性共重合体を含有する。
以下、本発明に係る親水性層の好ましい態様における各構成成分及び親水性層の形成方法について詳細に説明する。
【0022】
(1.一般式(I)で表される共重合体)
この一般式(I)で表される共重合体は、主鎖及び側鎖の末端にシランカップリング基を有する親水性の共重合体であり、以下、適宜、特定親水性共重合体と称する。
一般式(I)で表される共重合体は、構造単位(i)、(ii)で表されるポリマーユニットの両末端の少なくとも一方に、構造単位(iii)で表されるシランカップリング基を有していればよく、他の末端にもこの官能基を有していてもよく、水素原子、又は重合開始能を有する官能基を有していてもよい。
【0023】
上記一般式(I)において、R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、mは、0、1又は2を表す。
炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素数8以下の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bは、効果及び入手容易性の観点から、好ましくは、水素原子、メチル基、又はエチル基である。
【0024】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。
アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いらる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、Ν−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、
【0025】
N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイト基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−Ν−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、
【0026】
アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)及びその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基ホスフォノ基(−PO3H2)及びその共役塩基基(以下、ホスフォナト基と称す)、ジアルキルホスフォノ基(−PO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノ基(−PO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノ基(−PO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナト基と称す)、モノアリールホスフォノ基(−PO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスフォナト基と称す)、ホスフォノオキシ基(−OPO3H2)及びその共役塩基基(以後、ホスフォナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナトオキシ基と称す)、モノアリールホスフォノオキシ基(−OPO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールフォスホナトオキシ基と称す)、モルホルノ基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0027】
これらの置換基中のアルキル基の具体例としては、前述のアルキル基が挙げられる。
また、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル2基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスフォノフェニル基、ホスフォナトフェニル基等を挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。アシル基(G1CO−)におけるG1としては、水素、並びに上記のアルキル基、アリール基を挙げることができる。
【0028】
これら置換基のうち、より好ましいものとしてはハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0029】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12まての分岐状並びに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせることにより得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチルと、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチルル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0030】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0031】
上記一般式(I)において、L1及びL2は、それぞれ独立に、単結合又は有機連結基を表す。ここで、L1及びL2が有機連結基を表す場合、L1及びL2は非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には、1個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、1個から100個までの水素原子、及び0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。より具体的な連結基としては、下記の構造単位又はこれらが組合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0032】
【化4】
【0033】
また、上記一般式(I)において、L3は、単結合又は有機連結基を表す。ここで、L3が有機連結基を表す場合、L3は非金属原子からなる多価の連結基を示し、具体的には、上記L1及びL2と同様のものを挙げることができる。中でも、特に好ましい構造としては、−(CH2)n−S−である(nは1〜8の整数)。
【0034】
上記一般式(I)において、Yは、−NHCOR5、−N(R5)(R6)、−COR5、−OH、−CO2M、又は−SO3Mを表し、ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表す。また、Yが−N(R5)(R6)である場合、R5及びR6が互いに結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。R5及びR6は更に置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、前記R1a、R2a、R3a、R4a、R1b、R2b、R3b及びR4bがアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様に挙げることができる。
【0035】
R5及びR6としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。
また、Mとしては、具体的には、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、又は、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウムなどのオニウムが挙げられる。
Yとしては、具体的には、−NHCOCH3、−NH2、−COOH、−SO3 −NMe4 +、モルホリノ基等が好ましい。
【0036】
上記一般式(I)において、x及びyは、x+y=100とした時の組成比を表し、x:yは99:1〜50:50の範囲を表し、99:1〜80:20の範囲がより好ましく、99:1〜90:10の範囲が更に好ましい。
【0037】
特定親水性共重合体の分子量としては、5,000〜100,000が好ましく、5,000〜50,000がより好ましく、5,000〜40,000が更に好ましい。
【0038】
本発明に好適に用い得る特定親水性共重合体の具体例(例示化合物1〜12)を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
【化5】
【0040】
【化6】
【0041】
<特定親水性共重合体の合成方法>
本発明に係る特定親水性共重合体は、下記構造単位(a)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記構造単位(b)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤と、を用いてラジカル重合させると共に、更に、下記構造単位(c)で表されるシランカップリング基が導入されたモノマーを共重合させることにより合成することができる。
ここで、構造単位(b)のシランカップリング剤が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマーの主鎖末端にシランカップリング基が導入されたポリマーを合成することができる。
この反応様式は特に制限されるものではないが、ラジカル重合開始剤の存在下、或いは、高圧水銀灯の照射下、バルク反応、溶液反応、懸濁反応などを行えばよい。
【0042】
【化7】
【0043】
また、重合反応において、構造単位(b)の導入量を制御し、これと構造単位(a)又は構造単位(c)の単独重合を効果的に抑制するため、不飽和化合物の分割添加法、逐次添加法などを用いたじ重合法を行うことが好ましい。また、これらの化合物は、市販されおり、また容易に合成することもできる。
構造単位(b)に対する構造単位(a)、(c)の反応比率は特に制限されるものではないが、構造単位(b)1モルに対して、構造単位(a)、(c)が0.5〜50モルの範囲内とすることが、副反応の抑制や加水分解性シラン化合物の収率向上の観点から好ましく、1〜45モルの範囲がより好ましく、5〜40モルの範囲であることが最も好ましい。
【0044】
上記一般式(I)で表される特定親水性共重合体を合成するためのラジカル重合法としては、従来公知の方法の何れをも使用することができる。具体的には、一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成と反応1(高分子学会編、共立出版)、新実験化学講座19、高分子化学(I)(日本化学会編、丸善)、物質工学講座、高分子合成化学(東京電気大学出版局)等に記載されており、これらを適用することができる。
【0045】
また、特定親水性共重合体は、後述するような他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いられる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリルエステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性等の諸物性を改善することができる。
【0046】
アクリル酸エステル類の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、(n−又はi−)プロピルアクリレート、(n−、i−、sec−又はt−)ブチルアクリレート、アミルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、クロロベンジルアクリレート、ヒドロキシベンジルアクリレート、ヒドロキシフェネチルアクリレート、ジヒドロキシフェネチルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシフェニルアクリレート、クロロフェニルアクリレート、スルファモイルフェニルアクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0047】
メタクリル酸エステル類の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、(n−又はi−)プロピルメタクリレート、(n−、i−、sec−又はt−)ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、ヒドロキシベンジルメタクリレート、ヒドロキシフェネチルメタクリレート、ジヒドロキシフェネチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート、クロロフェニルメタクリレート、スルファモイルフェニルメタクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0048】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
メタクリルアミド類の具体例としては、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−トリルメタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N−(トリルスルホニル)メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0050】
ビニルエステル類の具体例としては、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート等が挙げられる。
スチレン類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、シクロヘキシルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、カルボキシスチレン等が挙げられる。
【0051】
本発明における特定親水性共重合体の合成に使用されるこれらの他のモノマーの割合は、諸物性の改良に十分な量である必要があるが、割合が大きすぎる場合には、親水性層としての機能が不十分となる。従って、特定親水性共重合体中の他のモノマーの総割合は、80重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは50重量%以下である。
【0052】
(2.一般式(II)で表される架橋成分)
ここで用いられる下記一般式(II)で表される架橋成分は、その構造中に重合性の官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす化合物であり、前記特定親水性共重合体と縮重合することで、架橋構造を有する強固な皮膜を形成する。
【0053】
【化8】
【0054】
上記一般式(II)中、R7は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R8はアルキル基又はアリール基を表し、XはSi、Al、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。
R7及びR8がアルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。
なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量1000以下であることが好ましい。
【0055】
以下に、一般式(II)で表される架橋成分の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
XがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、γ−クロロプリピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
これらのうち特に好ましいものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトルイメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
【0056】
また、XがAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、テトラエトキシアルミネート等を挙げることができる。
XがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。
XがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
【0057】
(3.親水性層の形成)
本発明においては、親水性層は、前記特定親水性共重合体を含む親水性塗布液組成物を調製し、それを適切な支持体上に、塗布、乾燥することで形成し得る。親水性塗布液組成物を調製するにあたっては、特定親水性共重合体の含有量は固形分換算で、10重量%以上、50重量%未満とすることが好ましい。含有量が50重量%以上になると膜強度が低下する傾向があり、また、10重量%未満であると、皮膜特性が低下し、膜にクラックが入るなどの可能性が高くなり、いずれも好ましくない。
【0058】
また、好ましい態様である親水性塗布液組成物の調製に架橋成分を添加する場合の添加量としては、特定親水性共重合体中のシランカップリング基に対して架橋成分が5mol%以上、更に10mol%以上となる量であることが好ましい。架橋成分添加量の上限は親水性ポリマーと十分架橋できる範囲内であれば特にないが、大過剰に添加した場合、架橋に関与しない架橋成分により、作製した親水性表面がべたつくなどの問題を生じる可能性がある。
【0059】
シランカップリング基を末端に有する特定親水性共重合体、好ましくは、更に架橋成分とを溶媒に溶解し、よく攪拌することで、これらの成分が加水分解し、重縮合することにより製造される有機無機複合体ゾル液が本発明に係る親水性塗布液となり、これによって、高い親水性と高い膜強度を有する表面親水性層が形成される。有機無機複合体ゾル液の調製において、加水分解及び重縮合反応を促進するために、酸性触媒又は塩基性触媒を併用することが好ましく、実用上好ましい反応効率を得ようとする場合、触媒は必須である。
【0060】
触媒としては、酸、或いは塩基性化合物をそのまま用いるか、或いは水又はアルコールなどの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒という)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸、或いは塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよいが、濃度が高い場合は加水分解、重縮合速度が速くなる傾向がある。但し、濃度の高い塩基性触媒を用いると、ゾル溶液中で沈殿物が生成する場合があるため、塩基性触媒を用いる場合、その濃度は水溶液での濃度換算で1N以下であることが望ましい。
【0061】
酸性触媒或いは塩基性触媒の種類は特に限定されないが、濃度の濃い触媒を用いる必要がある場合には乾燥後に塗膜中にほとんど残留しないような元素から構成される触媒がよい。
具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などが挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。
【0062】
親水性塗布液の調製は、シランカップリング基を末端に有する親水性ポリマー、好ましくは更に架橋成分をエタノールなどの溶媒に溶解後、所望により上記触媒を加え、攪拌することで実施できる。反応温度は室温〜80℃であり、反応時間、即ち攪拌を継続する時間は1〜72時間の範囲であることが好ましく、この攪拌により両成分の加水分解・重縮合を進行させて、有機無機複合体ゾル液を得ることができる。
【0063】
前記親水性ポリマー及び、好ましくは架橋成分を含有する親水性塗布液組成物を調製する際に用いる溶媒としては、これらを均一に、溶解、分散し得るものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、水等の水系溶媒が好ましい。
【0064】
以上述べたように、本発明に係る親水性表面を形成するための有機無機複合体ゾル液(親水性塗布液組成物)の調製はゾルゲル法を利用している。ゾルゲル法については、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年〕、平島硯「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作成技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述され、それらに記載の方法を本発明に係る親水性塗布液組成物の調製に適用することができる。
【0065】
本発明に係る親水性塗布液組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、種々の添加剤を目的に応じて使用することができる。例えば、塗布液の均一性を向上させるため界面活性剤を添加することができる。
【0066】
上記のようにして調製した親水性塗布液組成物を支持体表面に塗布、乾燥することで親水性層を形成することができる。親水性層の膜厚は目的により選択できるが、一般的には乾燥後の塗布量で、0.5〜5.0g/m2の範囲であり、好ましくは1.0〜3.0g/m2の範囲である。塗布量が、0.5g/m2より少ないと親水性の効果が発現しにくくなり、5.0g/m2を超えると感度や膜強度の低下を生じる傾向があるためいずれも好ましくない。
【0067】
〔加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物〕
親水性層に添加される画像形成機能を有する化合物、即ち、加熱或いは輻射線露光により疎水化領域を形成することのできる化合物としては、加熱又は輻射線の照射により化合物自体の物性が親水性から疎水性に変化する化合物、若しくは熱溶融性疎水性粒子を挙げることができる。
【0068】
(親水性から疎水性に変化する化合物)
親水性から疎水性に変化する化合物としては特開2000−122272号公報に記載の熱により脱炭酸を起こして親水性から疎水性に変化する官能基を有するポリマーを挙げることができ、具体的には、以下に示す高分子化合物が好ましく例示される。好ましい物性としては、このポリマー自身を塗布したときの被膜表面の空中水滴による接触角が、加熱前に20°以下であり、加熱後には65°以上に変化するものが特に好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0069】
【化9】
【0070】
更に、親水性から疎水性に変化する官能基を側鎖に有するポリマーの具体例としては、特開平6−317899号公報記載のアンモニウム塩基を有するポリマー、及び特開2000−309174号公報記載のスルホニル酢酸などの下記一般式(1)で示されるような脱炭酸型極性変換基を有するポリマーも好適なものとして挙げることができる。
【0071】
【化10】
【0072】
上記一般式(1)中、Xは−O−、−S−、−Se−、−NR3−、−CO−、−SO−、−SO2−、−PO−、−Si(R3)(R4)−、−CS−を表し、R1、R2、R3及びR4は各々独立して1価の基を表し、Mは陽電荷を有するイオンを表す。
【0073】
R1、R2、R3及びR4の具体例としては、−F、−Cl、−Br、−I、−CN、−R5、−OR5、−OCOR5、−OCOOR5、−OCON(R5)(R6)、−OSO2R5、−COR5、−COOR5、−CON(R5)(R6)、−N(R5)(R6)、−NR5−COR6、−NR5−COOR6、−NR5−CON(R6)(R7)、−SR5、−SOR5、−SO2R5、−SO3R5等が挙げられる。
R5、R6及びR7の具体例としては、水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、これら官能基の具体例としては、前述のような官能基が挙げられる。
【0074】
これらのうちR1、R2、R3及びR4として好ましいのは、水素、アルキル基、アリール基、アルキニル基、アルケニル基である。
本発明における極性変換高分子化合物は、上記のような親水性官能基を有するモノマー1種の単独重合体であっても、2種以上の共重合体であってもよい。また、本発明の効果を損なわない限り、他のモノマーとの共重合体であってもよい。
本発明における疎水性から親水性に変化する官能基を側鎖に有するポリマーの具体例〔例示化合物(P−1)乃至(P−17)〕を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
【化11】
【0076】
【化12】
【0077】
これら親水性から疎水性に変化する化合物の親水性層全固形物中に占める割合は0.01〜94重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜90重量%の範囲である。
【0078】
(熱溶融性疎水性粒子)
本発明において、表面疎水化領域を形成し得る化合物として用いられる熱溶融性疎水性粒子としては、EP816070記載のポリスチレンなどを挙げることができ、更に、WO94/23954に記載のマイクロカプセル内包疎水性粒子も同様の目的で使用することができる。
【0079】
本発明において、親水性層に含有させる画像形成成分である熱溶融性疎水性粒子は、加熱により、或いは、赤外線レーザ照射により発生した熱により互いに融着して結合し、疎水性領域(インク受容性領域:画像部)を形成するものであり、疎水性有機化合物からなる粒子である。
所定の加熱により粒子が速やかに融着する観点からは、疎水性有機化合物の融点(融着温度)は50〜200℃の範囲であることが好ましい。熱溶融性疎水性粒子の熱融着温度が50℃未満であると、製造工程における塗膜乾燥時などの熱の影響、或いは、保存時の環境温度などの影響により粒子が軟化或いは溶融する懸念があり、好ましくない。熱融着温度は、80℃以上であることが好ましく、経時安定性を考えると100℃以上が更に好ましい。融点が高いほど安定性は向上するが、記録感度及び取り扱い性の観点からは200℃以下であることが望ましい。
熱溶融性疎水性粒子を構成する疎水性有機化合物としては、具体的には、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルカルバゾールなど、又はそれらの共重合体、又は混合物等の樹脂類が挙げられる。また、パラフィンワックス、マイクロワックス、或いはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、ステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリスチルアミド、パルミトアミド、オレイン酸アミドなど脂肪酸系ワックス、ステアリン酸、トリデカン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸等も好適に使用し得る。
【0080】
本発明において親水性層に含有させる画像形成成分としては、上記の疎水性有機化合物のうち、熱溶融性疎水性粒子同志が熱により容易に融着、合体するものが画像形成性の観点から好ましく、また、親水性低下防止の観点から、その表面が親水性で、水に容易に分散し得るものが、特に好ましい。
熱溶融性疎水性粒子表面の親水性の目安としては、熱溶融性疎水性粒子のみを塗布し、凝固温度よりも低い温度で乾燥して作製した時の皮膜の接触角(空中水滴)が、凝固温度よりも高い温度で乾燥して作製した時の皮膜の接触角(空中水滴)よりも低くなることが好ましい。熱溶融性疎水性粒子表面の親水性をこのような好ましい状態にするには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマー或いはオリゴマー、又は親水性低分子化合物を熱溶融性疎水性粒子表面に吸着させてやればよいが、熱溶融性疎水性粒子の表面親水化方法はこれらに限定されるものではなく、公知の種々の表面親水化方法を適用することができる。
熱溶融性疎水性粒子の平均粒径は、0.01〜20μmが好ましいが、その中でも0.05〜2.0μmが更に好ましく、特に0.1〜1.0μmが最適である。平均粒径が大き過ぎると解像度が悪くなる傾向があり、また小さ過ぎると経時安定性が悪化する懸念がある。
熱溶融性疎水性粒子の添加量は、親水性層固形分の30〜98重量%が好ましく、40〜95重量%の範囲が更に好ましい。
【0081】
これらの表面親水化された熱溶融性疎水性粒子としては、以下に示す水分散性粒子をも用いることができる。
本発明の画像形成成分として好適な水分散性粒子は、下記一般式(a)の構造単位を含む疎水性ポリマーを、水と非混和性の溶剤に溶解し、その溶液を下記一般式(b)又は(c)の構造単位を有する水溶性樹脂及び/又は周期表2〜15族の元素から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物粒子を含んだ水相に分散し、油滴を形成した後、該油滴から溶剤を除去して得られる。
【0082】
【化13】
【0083】
上記一般式(a)中、R1、R2及びR3は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、R4は炭素数1〜40のアルコキシ基又はアシロキシ基を表し、kは0〜2の整数であり、mは0〜3の整数であって、かつk+mは3以下であることを表し、Xは1価の金属又は水素原子を表し、Zは下記から選ばれる基を表す。
【0084】
【化14】
【0085】
上記式中、R5は水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を表し、R6は炭素数5以下のアルキレン基又は複数の連鎖炭素原子団が互いに炭素原子若しくは窒素原子で結合した2価の有機残基を表し、nは0〜4の整数を表す。
【0086】
【化15】
【0087】
上記一般式(b)及び(c)中、R1〜R4、X、k及びmは一般式(a)と同じであり、Y1は−NHCOR7、―CONH2、―CON(R7)2、−COR7、−OH、−CO2M1、−SO2M1又は下記の基を表し、ここで、R7は炭素数1〜8のアルキル基を表し、M1は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はオニウムを表す。
【0088】
【化16】
【0089】
(一般式(a)の構造単位を有する疎水性ポリマー)
本発明の画像形成成分として好適な水分散性粒子を構成する疎水性ポリマーは、水と非混和性の溶剤に溶解する疎水性ポリマーであり、上記一般式(a)で表わされる有機珪素基を有する構造単位を含むポリマーである。
【0090】
この有機珪素基を有するポリマーは、上記一般式(a)の構造単位に変換しうる不飽和二重結合性単量体を単独で重合させることにより、又は、該単量体とスチレン、アクリル系、ビニル系、オレフィン系などの単量体とを共重合させることにより得られる。また、本発明における有機珪素基を有するポリマーは、有機珪素基を有する構造単位がポリマー分子中にランダムに導入されているもののほかに、重合体の分子末端に導入されているものでもよい。
【0091】
本発明において使用される疎水性ポリマー中の、上記一般式(a)で表わされる有機珪素基を有する構造単位の含有量は、0.01〜100モル%が好ましく、0.05から90モル%が更に好ましく、とくに0.1から80モル%が好ましい。有機珪素基を含有する構造単位の含有量が0.01モル%より少ない場合には本発明の効果が乏しい。
【0092】
(水と非混和性の溶剤)
本発明において、疎水性ポリマーの調製に使用し得る水と非混和性の溶剤の具体例としては、クロロメタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トリクロロメタン、四塩化炭素、エチレンクロライド、トリクロロエタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、2−ニトロプロパンなどが例示されるが、これらに制限されるものではなく、疎水性ポリマーを溶解することができ、且つ、水と不混和性であれば、あらゆる適当な溶剤が本発明に適用できる。例示された溶剤の中でも特に有用なものとして、ジクロロメタンとMEKを挙げることができる。これらは、疎水性ポリマーの調製において、蒸発により油層粒子から溶剤を除去し、速やかにポリマー粒子を硬化させる工程に、好適に使用し得る。
【0093】
(水溶性樹脂)
本発明において、前記疎水性ポリマーは、水分散性である、即ち、表面が親水性であることを要するが、このような表面親水性の疎水性ポリマーを、前述のように水相中に油滴を分散させて調製する際には、水相に水溶性樹脂を含有させることが好ましい。また、本発明においては、親水性層として、Si、Ti,Zr、Alから選択される元素を含むアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有するにものを用いており、このため、親水性層との相互作用を形成し得る水溶性樹脂を用いることが更に好ましい。疎水性ポリマーの表面親水性と前記親水性層との相互作用の形成の観点から、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、上記一般式(b)又は(c)の構造単位を有する水溶性樹脂が好ましく選択される。これらは、末端、或いは、側鎖に有機珪素基を有する水溶性樹脂である。なお、上記一般式(c)の構造単位を有する水溶性樹脂においては、2種の構造単位のうち、側鎖に有機珪素基を有する構造単位の含有量が0.01〜20モル%程度であることが水溶性の観点から好ましく、さらに好ましくは1〜15モル%の範囲である。
【0094】
本発明における水分散性粒子の調製に際して用いられる水溶性樹脂の含有量は、水相成分に対して、1〜25質量%が適当であり、好ましい範囲は2〜15質量%である。
【0095】
上記のように、疎水性ポリマーと水溶性樹脂とが共に特定の有機珪素基を有することによって良好な水分散性粒子が得られ、有機珪素基の熱反応性が、画像記録層を形成する樹脂、例えば、ゾルゲル変換系の結着樹脂との組み合わせにおいては、結着樹脂マトリックスと直接化学結合できるため、機械強度に優れた、耐摩耗性の良好な皮膜を形成できる。この感光層のレーザー光照射を受けて疎水性に変換した被照射領域においても、同様に結着樹脂と化学結合したまま均一層を形成できるので、耐摩耗性に優れた画像領域が形成される。
【0096】
(酸化物又は水酸化物微粒子)
本発明における水分散性粒子の調製に際しては、前記疎水性ポリマーの表面物性を改良するために、上記水溶性樹脂に代えて、又は、上記水溶性樹脂に加えて、水相に周期表2族〜15族の元素から選ばれた少なくとも一つの元素の酸化物又は水酸化物微粒子を添加することができる。
好適な元素の具体例として、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、亜鉛、アルミニウム、珪素、錫、鉄などを挙げることができる。中でも好ましい元素として、珪素、チタン、アルミニウム、錫を挙げることができる。
上記元素の酸化物微粒子又は水酸化物微粒子は、酸化物コロイド又は水酸化物コロイドとして用いることができ、微粒子の粒径は、一般に約0.001〜1μm、好ましくは5〜40nm、最も好ましくは10〜30nmである。
これらのコロイドの分散液は、日産化学工業(株)などの市販品を購入することもできる。
【0097】
(水分散性粒子の製造方法)
上記の原料を用いた水分散性粒子の製造は、よく知られた操作で行うことができる。すなわち、疎水性ポリマーを水と非混和性の溶剤に溶かした油相溶液と、水溶性樹脂、及び/又は、周期表2族〜15族の元素から選ばれた少なくとも一つの元素の酸化物又は水酸化物微粒子、更に必要に応じて、界面活性剤、酸性又は塩基性触媒などの任意成分を含んだ水相溶液を調製した後、両者を混合し、ホモジナイザーなどの乳化分散機を用いて、例えば、12,000rpm程度の条件で10〜15分間激しく攪拌混合して水相中に油滴を乳化分散する。次いで、得られた乳化分散物を加熱攪拌して溶剤を蒸発させることにより、目的とするポリマー微粒子の水分散物が得られる。このポリマー微粒子分散物(水分散性粒子)は、親水性層に配合する際に、水相に分散した状態で配合してもよく、水相を除去した後、粒子の状態で配合してもよい。
【0098】
本発明に係る加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物としての、水分散性粒子についてのより詳細な説明は、特願2001−379053に記載されている。
【0099】
本発明の平版印刷版原版の画像形成機能を有する親水性層には、種々の特性を得るため、必要に応じて上記以外に種々の化合物を添加してもよい。
【0100】
(光熱変換剤)
本発明の平版印刷版原版を赤外線レーザーなどで画像記録する場合には、光エネルギーを熱エネルギーに変換するための光熱変換剤を平版印刷版原版のどこかに含有させておくことが好ましい。該光熱変換剤を含有させておく部分としては、例えば、画像形成層兼ねる親水性層、支持体表面層、支持体のいずれが挙げられ、その他にも、支持体表面層と支持体との間に薄層を設け、そこに添加してもよい。
【0101】
本発明の平版印刷版原版に用い得る光熱変換剤としては、金属、金属の酸化物、窒化物若しくは硫化物、顔料及び染料が好ましい。金属及び金属化合物としては、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Mo、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、In、Sn、Wからなる金属の中から選択された金属又は金属化合物の中から選択された、粒子化して親水性層中に分散し得るものを用いることができる。中でも、鉄、銀、白金、金、パラジウムの金属微粒子が好ましい。
その他、TiOx(x=1.0〜2.0)、SiOx(x=0.6〜2.0)、AlOx(x=1.0〜2.0)、銅、銀及び錫のアジド化物などの金属アジド化合物も好ましい。
上記の各金属酸化物、窒化物及び硫化物は、いずれも公知の製造方法によって得られる。また、チタンブラック、鉄黒、モリブデン赤、エメラルドグリーン、カドミウム赤、コバルト青、紺青、ウルトラマリンなどの名称で市販されているものも多い。
【0102】
本発明において親水性層に含有される顔料としては、上記の金属化合物及び金属のほかに、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、骨炭(ボーンブラック)などの非金属単体粒子や各種の有機、無機顔料なども用いることができる。これらの顔料や各種微粒子は、容易に水分散し得る表面親水性のものを用いることが効果の観点から好ましい。
【0103】
また、光熱変換性の色素(染料)も用いることができる。このような色素としては、画像形成に用いられる照射光の分光波長領域に光吸収域を有し、水に容易に溶解し得るものが好ましい。好ましい固体微粒子状、染着性及び分子分散性の色素は、赤外線吸収剤として知られているものであり、具体的には、ポリメチン色素、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム色素、ジインモニウム色素、フタロシアニン化合物、トリアリールメタン色素、金属ジチオレンから選ばれる染料である。これらのうち更に好ましいものとしては、ポリメチン色素、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム色素、ジインモニウム色素、フタロシアニン化合物であり、その中でも合成適性の観点からポリメチン色素、シアニン色素、フタロシアニン化合物がもっとも好ましい。上記した色素は、水溶性基、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基及びホスホン酸基などを分子内に有する水溶性染料であることが、機上現像性の観点から好ましい。
本発明において光熱変換剤として用いられる染料(赤外線吸収剤)の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0104】
【化17】
【0105】
【化18】
【0106】
親水性層中への光熱変換剤の添加は、上記の光熱変換剤を親水性層の形成時に、塗布液中に添加してもよいが、水分散性粒子中に含有させて添加することもできる。すなわち、水分散性粒子を製造するときの油相に添加することによって、水分散性粒子中に含有させることができる。その場合には、上記の光熱変換剤でもよいが、疎水性ポリマーと親和性のよい親油性光熱変換剤を用いることが好ましい。そのような親油性光熱変換剤を以下に例示するが、これに限定されるものではない。
【0107】
【化19】
【0108】
【化20】
【0109】
光熱変換剤の含有量は、光熱変換剤の光吸収により発生する熱によって水分散性粒子の近傍が熱融着を引き起こして疎水化するのに足りる量であればよく、固形の構成成分の2〜50質量%の間で広く選択できる。2質量%以下では発熱量が不足して感度が低下し、50質量%以上では膜強度が低下する。
【0110】
〔支持体〕
本発明の平版印刷版原版に使用される支持体は寸度的に安定な板状物であり、必要な強度、耐久性、可撓性などの特性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙やプラスチックフィルム等が挙げられる。
本発明の支持体としては、ポリエステルフィルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板が特に好ましい。
【0111】
好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネート又は蒸着されたプラスチックフィルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタン等がある。合金中の異元素の含有量は高々10重量%以下である。本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
基材として使用するアルミニウム板には必要に応じて粗面化処理、陽極酸化処理などの公知の表面処理を行なってもよい。
【0112】
また、他の好ましい態様であるポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムを用いる場合にも、親水性層の形成性、支持体と親水性層との密着性の観点から、親水性層が形成される面が公知の方法により粗面化されたものを用いることが好ましい。
【0113】
〔断熱層〕
本発明の平版印刷版原版においては、支持体と画像記録層の間に断熱層を設けることが好ましい。以下に、断熱層について説明する。
画像記録層の下層として設けられている断熱層は、熱伝導率が低く支持体への熱拡散を抑制する機能を有する層である。また、この断熱層には、光熱変換剤を含有させることもでき、その場合には光照射によって発熱して画像記録層の記録感度の向上に寄与する。
このような断熱層は、有機性又は無機性の樹脂を含有する。
【0114】
断熱層に使用しうる有機性或いは無機性の樹脂は、親水性或いは、疎水性のものから広く選択することができる。例えば、疎水性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ピニリデン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ニトロセルロース、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−樹脂ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−アクリレート共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。
【0115】
この断熱層においては、疎水性樹脂は、水性エマルジョンの形態を有するものも用いることができる。水性エマルジョンとは、微小な樹脂粒子と、必要に応じて該粒子を分散安定化する保護剤とからなる粒子を水中に分散させた疎水性ポリマー懸濁水溶液のことである。
用いられる水性エマルジョンの具体例としては、ビニル系ポリマーラテックス(ポリアクリレート系、酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系など)、共役シエン系ポリマーラテックス(メタクリル酸メチル−ブタジエン系、スチレン−ブタジエン系、アグリロニトリル−プブタジエン系、クロロプレン系など)及びポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0116】
親水性樹脂としては、具体的には、ポリビニルアルコール(PVA),カルボキシ変性PVA等の変性PVA、澱粉及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース誘導体、アルギン酸アンモニウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート系ポリマー、N−ビニルカルボン酸アミドポリマー、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等の水溶性樹脂、などが挙げられる。
【0117】
断熱層に上記親水性樹脂を用いる場合には、架橋し、硬化させて用いることが膜性向上の観点から好ましく、架橋剤としては、用いる親水性樹脂に適合する公知の架橋剤を適宜使用することができる。
【0118】
断熱層に用いる無機性の樹脂としては、ゾルゲル変換によって形成される無機マトリックスが好ましい。本発明に好ましく適用できるゾルゲル変換が可能な系は、多価元素に結合した結合基が酸素原子を介して網目状構造を形成し、同時に多価金属は未結合の水酸基やアルコキシ基も有していてこれらが混在した樹脂状構造となっている高分子体であって、アルコキシ基や水酸基が多い段階ではゾル状態であり、脱水縮合が進行するのに伴って網目状の樹脂構造が強固となる。
また、樹脂組織の親水性度が変化する性質に加えて、水酸基の一部が固体微粒子に結合することによって固体微粒子の表面を修飾し、親水性度を変化させる働きをも併せ持っている。ゾルゲル変換を行う水酸基やアルコキシ基を有する化合物の多価結合元素は、アルミニウム、珪素、チタン及びジルコニウムなどであり、これらはいずれも本発明に用いることができる。
【0119】
画像記録層との接着性の観点から、断熱層を構成する樹脂としては、とくに親水性樹脂が好ましい。
断熱層中に光熱変換剤を含有させる場合、その光熱変換剤としては、前記した画像記録層に用いた光熱変換剤と同じ物質を使用することができる。
断熱層中に含まれる光熱変換剤の含有量は、固形の構成成分の2〜95質量%の間で広く選択できる。2質量%以下では発熱量が不足して添加の効果が顕著でなく、95質量%以上では膜強度が低下する。
【0120】
断熱層中には、上記した樹脂及び光熱変換剤のほかに、断熱層の物理的強度の向上、層を構成する組成物相互の分散性の向上、塗布性の向上、画像記録層との接着性向上などの理由で、無機微粒子、界面活性剤など種々の目的の化合物を添加することができる。
【0121】
(無機微粒子)
断熱層に添加しうる無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム若しくはこれらの混合物などが好適な例として挙げられ、これらは光熱変換性でなくても皮膜の強化や表面粗面化による界面接着性の強化などに寄与する。
【0122】
無機微粒子の平均粒径は5nm〜10μmのものが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。粒径がこの範囲内で、水分散性粒子や光熱変換剤の金属微粒子とも結着樹脂内に安定に分散し、画像記録層の膜強度を充分に保持し、印刷汚れを生じにくい親水性に優れた非画像部を形成できる。
このような無機微粒子は、コロイダルシリカ分散物などの市販品として容易に入手できる。
無機微粒子の断熱層への含有量は、断熱層の全固形分の1.0〜70質量%が好ましく、より好ましくは5.0〜50質量%である。
【0123】
〔水溶性保護層〕
本発明の平版印刷原版の画像記録層表面は親水性であるので、原版が製品形態で輸送されたり、保管されたりする際、或いは使用前の取り扱いの際、環境の雰囲気の影響によって疎水性化したり、温湿度の影響を受けたり、或いは機械的な傷など又は汚れなどの影響を受けやすい。これを防止するために、本発明の平版印刷版原版には、水溶性高分子を主成分とする水溶性表面保護層を設けることが好ましい。
水溶性保護層は、印刷の初期の段階で湿し水により溶解、除去されるので、特に除去の工程は必要とせず、機上現像性を低下させることもない。
【0124】
以下、水溶性保護層に含有される成分について説明する。
水溶性保護層は水溶性高分子を含有するが、これは、水溶性保護層の結着樹脂(層形成成分)として機能する。水溶性高分子としては、例えば水酸基、カルボキシル基、塩基性窒素含有基等の親水性の官能基を十分に有する高分子が挙げられる。
【0125】
具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシ変性PVA等の変性PVA、アラビアガム、水溶性大豆多糖類、ポリアクリルアミド及びその共重合体、アクリル酸共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、焙焼デキストリン、酸素分解デキストリン、酵素分解エーテル化デキストリン、澱粉及びその誘導体、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルローズ、メチルセルローズ、ヒドロキシエチルセルローズのようなセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸及びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩、ポリアクリル酸、ポリ(エチレンオキサイド)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、N−ビニルカルボン酸アミドポリマー等が挙げられる。
中でも、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシ変性PVA等の変性PVA、アラビアガム、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、アルギン酸及びそのアルカリ金属塩の使用が好ましく、これらは1種のみを用いてもよく、目的に応じて2種以上混合使用してもよい。
水溶性保護層塗布液中の上記水溶性高分子の含有量は、3〜25質量%が適当であり、好ましい範囲は10〜25質量%である。
【0126】
水溶性保護層には、上記水溶性高分子以外に、種々の界面活性剤を含有してもよい。使用できる界面活性剤としては、アニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤が挙げられる。用いられる界面活性剤としては、前記した画像記録層に用いられる界面活性剤と同様なものを用いることができる。界面活性剤は水溶性保護層の全固形分当たり、好ましくは0.01〜1質量%であり、更に好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0127】
また、この保護層塗布液には、上記成分のほか、必要により湿潤剤としてグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール等の低級多価アルコールも使用することができる。これら湿潤剤の使用量は保護層中に0.1〜5.0質量%となる量が適当であり、好ましい範囲は0.5〜3.0質量%となる量である。
更に、保護層塗布液には、防腐剤などを添加することができる。例えば安息香酸及びその誘導体、フェノール、ホルマリン、デヒドロ酢酸ナトリウム等を0.005〜2.0質量%の範囲で添加できる。
塗布液には消泡剤を添加することもできる。好ましい消泡剤には有機シリコーン化合物が含まれ、その添加量は0.0001〜0.1質量%の範囲が好ましい。
【0128】
また、水溶性保護層には、光熱変換剤を添加してもよい。この場合、画像記録層の光照射による熱融着の感度が更に高まるので、好ましい結果が得られる。光熱変換剤としては、断熱層に添加しうる光熱変換剤として挙げたものを使用することができ、好ましい添加量も同様である。
【0129】
支持体上に、親水性層、及びその他の任意の層が設けられることで得られた平版印刷版原版は、公知の方法により露光、現像されて平版印刷版となり、多数枚の印刷に用いられる。
本発明の平版印刷版原版の画像形成機構では、熱溶融性疎水性粒子などの表面疎水化領域を形成し得る化合物が加熱、又は輻射線照射領域において互いに融着して疎水性領域を形成し、該領域がインク受容性の画像部領域となり、また、非加熱領域、又は輻射線未照射領域においては、親水性層がそのままの表面状態で残存することになり、高い親水性を保持する非画像部領域となるため、簡易な水現像処理操作による製版、或いは、特段の湿式現像処理を経なくても、直接印刷機に装着する製版が可能となり、優れた機上現像性を発現する。
【0130】
本発明の平版印刷版原版の画像形成は、熱により行われる。また、前記光熱変換材料を併用するタイプであれば、赤外線領域のレーザー光等の走査露光による加熱により、画像形成が可能である。
画像形成に用いる方法としては、熱定着、光定着、圧力定着、溶剤定着等の方法がある。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられる。
生産性向上の観点から、コンピュータ・トゥ・プレートによるダイレクト製版を行うためには、レーザを用いて溶融することが好ましい。レーザとしては、炭酸ガスレーザ、窒素レーザ、Arレーザ、He/Neレーザ、He/Cdレーザ、Krレーザ等の気体レーザ、液体(色素)レーザ、ルビーレーザ、Nd/YAGレーザ等の固体レーザ、GaAs/GaAlAs、InGaAsレーザ等の半導体レーザ、KrFレーザ、XeClレーザ、XeFレーザ、Ar2等のエキシマレーザ等を使用することができる。中でも、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
【0131】
以上の方法で、画像露光された親水性層では、加熱により形成された疎水性領域と親水性層の表面性状が保持された親水性領域が形成され、そのまま印刷機に装着し、インキと湿し水を供給することで通常の手順で印刷することができる。また、露光装置を備えた印刷機に平版印刷版原版を装着し、印刷機上で画像様露光することによる画像形成を行うこともできる。
【実施例】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0132】
(合成例1:特定親水性共重合体の合成)
500ml三口フラスコにジメチルアセトアミド126.3gを入れ、65℃窒素気流下で攪拌を行った後、アクリルアミド60g、メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル3.14g、メルカプトプロピルトリメトキシシラン5.8g、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.63g、及びジメチルアセトアミド126.3gを2時間かけて滴下した。滴下後、4時間攪拌しながら同温度に保った後、室温まで冷却した。酢酸エチル2リットル中に投入し、析出した固体をろ取し、酢酸エチルで洗浄して特定親水性共重合体(1)を得た。乾燥後の重量は63.5gであった。GPC(ポリスチレン標準)により重量平均分子量3500のポリマーであることが確認された。
【0133】
(合成例2:水分散性粒子)
油相成分として、疎水性ポリマー(PI−1)30.0g、MEK45.0g、アニオン界面活性剤パイオニンA41C(竹本油脂(株)製)0.5gの溶液を調製し、水相成分として、日産化学工業(株)製スノーテックスC60g、水259.8gの溶液を調製し、両者を混合した後、ホモジナイザーにて12,000rpm、10分間激しく攪拌混合して、水相中に油滴を分散した乳化分散物を得た。次に、ステンレス製ポットに乳化分散物を投入し、40℃、3時間攪拌して溶剤成分を除去することによって、粒径0.21μmの水分散性粒子(a)を得た。
【0134】
〔実施例1〕
(支持体の作製)
厚さ0.30mmのアルミニウム板(材質1050)をトリクロロエチレン洗浄して脱脂した後、ナイロンブラシと400メッシュのパミストン−水懸濁液とを用いその表面を砂目立てした後、水でよく洗浄した。この板を45℃の25重量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングし、水洗後、更に2重量%硝酸に20秒間浸漬して水洗した。この時、砂目立て表面のエッチング量は約3g/m2であった。
次に、この板を7重量%硫酸を電解液として電流密度15A/dm2で、厚さが2.4g/m2になるように、直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗乾燥して支持体を得た。
【0135】
(親水性層の形成)
以下の成分を均一に混合し、室温で2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状の親水性塗布液組成物1を得た。
(親水性塗布液組成物1)
・合成例1で得られた特定親水性共重合体(1) 21g
・テトラメトキシシラン〔架橋成分〕 62g
・エタノール 470g
・水 470g
・硝酸水溶液(1N) 10g
【0136】
その後、上記親水性塗布液組成物1を用いて下記画像形成能を有する親水性層形成用塗布液1を調製し、上記アルミニウム支持体上に乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
(親水性層形成用塗布液)
・親水性塗布液組成物1 66g
・界面活性剤(ポリマーに対して1.5wt%)で安定化した熱溶融性ポリスチレン粒子(粒径:0.2μm、融点120℃)
(10重量%水分散液) 400g
・赤外線吸収性染料I(下記化合物) 10g
・水 374g
【0137】
【化21】
【0138】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、7.5°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0139】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したクレオ社製トレンドセッター3244VFSにて外面ドラム回転数100rpm、版面エネルギー200mJ/cm2、解像度2400dpiの条件で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は99°であり、疎水性に変化し、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、下記印刷機に装着し印刷に用いた。
印刷機としては、ハイデルベルグ社製SOR−Mを用い、湿し水にIF201(2.5%)、IF202(0.75%)(富士写真フイルム(株)製)を、インキとしてGEOS−G墨(大日本インキ化学工業(株)製)を用いた。印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、10,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。
【0140】
〔実施例2〕
(親水性層の形成)
以下の成分を均一に混合し、室温で2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状の親水性塗布液組成物2を得た。
(親水性塗布液組成物2)
・特定親水性共重合体(5) 21g
・テトラメトキシシラン〔架橋成分〕 62g
・エタノール 470g
・水 470g
・硝酸水溶液(1N) 10g
【0141】
その後上記親水性塗布液組成物2を用いて下記画像形成能を有する親水性層形成用塗布液2を調製し、実施例1で用いたのと同じアルミニウム支持体上に乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
(親水性層形成用塗布液2)
・親水性塗布液組成物2 66g
・スルホニル酢酸ポリマー 40g
〔親水性から疎水性に変化する例示化合物(p−9)〕
・赤外線吸収性染料I 10g
・水 374g
【0142】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、9.3°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0143】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、実施例1と同様の方法で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は95°であり、疎水性に変化し、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、8,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。このことから表面疎水化領域を形成し得る化合物として親水性から疎水性に変化する化合物を用いた平版印刷版原版においても、熱溶融性疎水性粒子を用いた場合と同様に本発明の効果を奏することが確認された。
【0144】
〔実施例3〕
コロナ処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、実施例1で用いたのと同じ画像形成能を有する親水性層形成用塗布液1を乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
【0145】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、6.7°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0146】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、実施例1と同様の方法で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は103°であり、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、9,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。このことから支持体として樹脂フィルムを用いた平版印刷版原版においても本発明の効果を奏することが確認された。
【0147】
〔実施例4〕
実施例1で用いた親水性塗布液組成物1を用いて下記画像形成能を有する親水性層形成用塗布液3を調製し、コロナ処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、乾燥後の塗布量が3g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥して平版印刷版原版を得た。
(親水性層形成用塗布液3)
・親水性塗布液組成物1 66g
・合成例2で得られた水分散性粒子(a)(10重量%) 400g
・赤外線吸収性染料I 10g
・水 374g
【0148】
得られた支持体上の画像形成能を有する親水性層表面の接触角(空中水滴)を協和界面科学(株)製、CA−Zを用いて測定したところ、8.5°であり、優れた親水性を有することが確認された。
【0149】
〔平版印刷版原版の評価〕
得られた平版印刷版原版を、実施例1と同様の方法で露光し、露光部表面に画像領域を形成した。
この印刷版の赤外線レーザ照射領域表面の水滴接触角は100°であり、疎水性に変化し、疎水性領域(インク受容性領域)が形成されたことを示した。露光後、現像処理することなく、実施例1と同様にして印刷を行ったところ、印刷工程の初期において直ちに高画質の印刷物が得られた。その後も連続的に印刷を継続したところ、10,000枚印刷しても非画像部に汚れのない良好な印刷物が得られ、非画像部領域は優れた親水性が維持され、また、耐刷性にも優れることが分かった。
【0150】
【発明の効果】
本発明の平版印刷版原版は、厳しい印刷条件においても高い親水性が維持され、耐刷性が良好であり、非画像部に汚れが生じない高画質の印刷物が多数枚得られる。更に、デジタル信号に基づいた走査露光による製版が可能であり、且つ、簡易な水現像処理操作による製版、或いは、現像処理を行わずに印刷機に装着し印刷することが可能であり、優れた機上現像性を示す平版印刷版原版を提供することができるという効果を奏する。
Claims (1)
- 支持体上に、親水性グラフト鎖を有し、且つ、Si、Ti、Zr、Alから選択されるアルコキシド化合物の加水分解、縮重合により形成された架橋構造を有する親水性層を備え、該親水性層に加熱又は輻射線の照射により表面疎水化領域を形成し得る化合物を含有する平版印刷版原版であって、
前記架橋構造を有する親水性層が、下記一般式(I)で表される共重合体を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
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