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JP2003113444A - 高強度非調質アプセットボルト用線材およびその製造方法並びに高強度非調質アプセットボルトの製造方法 - Google Patents

高強度非調質アプセットボルト用線材およびその製造方法並びに高強度非調質アプセットボルトの製造方法

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JP2003113444A
JP2003113444A JP2001310561A JP2001310561A JP2003113444A JP 2003113444 A JP2003113444 A JP 2003113444A JP 2001310561 A JP2001310561 A JP 2001310561A JP 2001310561 A JP2001310561 A JP 2001310561A JP 2003113444 A JP2003113444 A JP 2003113444A
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upset
bolt
wire
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政道 千葉
Masato Shikaiso
正人 鹿礒
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Kobe Steel Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 熱間圧延ままの線材を伸線加工および冷間圧
造して、引張強さが900N/mm2以上もの高強度を有
しながら耐遅れ破壊性に優れたアプセットボルトの製造
に用いる線材を提供する。 【解決手段】 線材の金属組織を、フェライトおよびパ
ーライトの2相組織で、該フェライト分率が面積率で3
0〜70%であって、且つ該フェライト中の炭・窒化物
の平均粒径が50nm以下で、粒径50nm以下の炭・
窒化物が50個/μm2以上となるようにする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車や各種産業
用機械に頻繁に使用されるアプセットボルトに関するも
のであって、詳細には、熱間圧延まま熱処理を施さなく
とも冷間圧造時の加工性(以下、冷間圧造性ということ
がある)に優れた線材を用いて、900N/mm2(JI
S強度区分10.9級)以上の高強度を有しながら耐遅
れ破壊性に優れたアプセットボルトを製造する技術に関
するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車、一般機械および建築構造物の製
造に使用される高強度締結部品として、ボルト頭部を有
する高強度アプセットボルトがある。この様な高強度ア
プセットボルトを製造するに際しては、Cr,Mo等を
添加した合金強靭鋼を熱間加工により線状とし、これに
酸洗や機械的デスケーリング処理を施した後、加工性向
上のため、球状化焼鈍等の熱処理を施してから伸線加工
を行い、次いで圧造してボルト形状に成形し、最終的に
所定の強度となるよう焼入れ焼戻し処理を行う方法が採
用されてきた。即ち、これまでの製造方法では、高強度
化に反比例して劣化する冷間圧造性を向上させる目的
で、冷間圧造前に熱処理の施される調質アプセットボル
トが用いられてきた。
【0003】しかし最近では、ボルト製造時の省工程に
よる省エネルギーとコストダウンを目的に、上記熱処理
工程を省略して製造する非調質アプセットボルトが注目
を集めている。
【0004】この様な非調質アプセットボルトを製造す
る方法として、これまでに、例えば特開昭61−284
554号、特開平8−41537号、および特開平5−
339677号等に、冷間圧造性の向上とボルト強度の
ばらつき低減を目指して主要合金成分および熱処理条件
等を調整した技術が提案されている。しかしながら上記
いずれの技術も、ボルト強度の上限がJIS8.8級
(800N/mm2)程度と比較的強度の低いアプセット
ボルトに関するものであって遅れ破壊による破断が問題
となる900N/mm2以上の高強度アプセットボルトを
想定したものではない。
【0005】一方、ボルト強度が900N/mm2以上の
高強度非調質ボルトを製造する方法について、例えば特
開平9−95733号、特開平8−3640号、および
特開平11−140583号等で提案がなされている。
しかしながら、特開平9−95733号は、アプセット
ボルト頭部成形が不要なスタッドボルトを対象にしたも
のであって、アプセットボルトに特有の首下靭性や、ア
プセットボルト頭部成形時に要求される優れた冷間圧造
性といった特性について検討されているものではない。
また、特開平8−3640号では、圧延後に熱湯浴中で
冷却するといった特殊な工程を必要とすることに加え、
55〜85%と高減面率での伸線加工を前提としてい
る。しかしこの様な高減面率で伸線加工を行うと、強度
のみが極端に上昇して冷間圧造性が著しく劣化し、冷間
圧造にてアプセットボルト頭部を成形することが極めて
困難となることから、アプセットボルトを商用的に製造
するには更なる検討を要するものである。また特開平1
1−140583号には、冷間圧造性や疲労限の改善に
主眼を置いた技術が開示されているが、この技術は、高
強度アプセットボルトにおいて懸念される、締結後の遅
れ破壊発生による異常破断を防止することについてまで
検討されているものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような事
情に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱間圧
延まま熱処理を施さない線材を冷間圧造して、引張強度
が900N/mm2以上と高強度でありながら耐遅れ破壊
性に優れたアプセットボルトを得るための線材およびそ
の製造方法、並びに上記の様な高強度かつ耐遅れ破壊性
に優れたアプセットボルトを製造するための有用な方法
を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】高強度かつ耐遅れ破壊性
に優れたアプセットボルトを非調質で得るための線材と
は、熱間圧延後の組織がフェライトおよびパーライトの
2相組織で、該フェライト分率が面積率で30〜70%
であって、且つ該フェライト中の炭・窒化物の平均粒径
が50nm以下で、粒径50nm以下の炭・窒化物が5
0個/μm2以上存在することを要旨とするものであ
る。
【0008】尚、上記炭・窒化物とは、炭化物、窒化物
または炭・窒化物、若しくはこれらの混合物をいうもの
とする。
【0009】本発明に係るアプセットボルト用線材は、
上記要件を満足することで所望の効果を達成するもので
あるが、この線材は、一般に次に示す様な化学成分、即
ちC:0.15〜0.35%、Si:0.10%以下
(0%を含まない)、Mn:1.0〜2.0%、Cr:
0.05〜1.0%、Al:0.005〜0.07%、
N:0.005%以下(0%を含まない)を満たし、更
に、V:0.05〜0.30%、Ti:0.07%以下
(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含ま
ない)よりなる群から選択される少なくとも1種を含有
するものである。また、本発明のアプセットボルト用線
材には、必要によって、B:0.0005〜0.005
%を含有させることも有効である。
【0010】上記本発明の線材を製造するには、熱間圧
延に際してまず900〜1200℃に加熱し、仕上げ圧
延を850℃以上で行った後に、800〜500℃間の
冷却を平均冷却速度2〜10℃/sで行うことが大変有
効である。この様にして製造された線材に、熱処理する
ことなく減面率で20〜40%の伸線加工を施し、次い
で冷間圧造加工した後、更に200〜400℃の温度で
ベーキング処理することによって、900N/mm2以上
もの高強度を有しながら耐遅れ破壊性に優れたアプセッ
トボルトを得ることができるのである。
【0011】尚、上記「平均粒径」とは電子顕微鏡で観
察した500nm×500nmの視野を10視野撮影し
たときの炭・窒化物の粒径平均値をいい、上記「粒径」
とは各炭・窒化物の長径および短径の平均値をいうもの
とする。また、本発明でいう線材とは伸線加工前のもの
をいい、鋼線とは前記線材に伸線加工を施したものをい
うこととする。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明者らは、900N/mm2
上もの高強度でありながら耐遅れ破壊性に優れているア
プセットボルトを、熱間圧延まま線材を冷間圧造して得
るべく、線材の金属組織や析出物等について様々な角度
から検討を行った。
【0013】その結果、アプセットボルト製造に用いる
線材として、金属組織を所定の割合から成るフェライト
およびパーライトの2相組織とし、かつフェライト中に
所定の条件で炭・窒化物を析出させたものを用いれば、
熱処理することなく熱間圧延ままで伸線加工および冷間
圧造することができ、アプセットボルトとして引張強さ
が900N/mm2以上と高強度でかつ耐遅れ破壊性に優
れたものが得られることが分かった。
【0014】以下、本発明で線材の金属組織および析出
物の詳細を規定した理由について詳しく述べる。
【0015】本発明では、線材の金属組織をフェライト
およびパーライトの2相組織とする必要がある。線材の
金属組織がフェライトおよびマルテンサイトの2相組織
の場合には伸線時に断線し易くなり、900N/mm2
上の強度が確保できないといった問題があるので好まし
くなく、またベイナイト組織は他の組織と比較して伸線
加工による強度上昇量が小さく、ベイナイト組織が生成
すると最終的に十分なボルト強度が得られないので好ま
しくないのである。
【0016】図1は、金属組織中のフェライト分率(面
積率)と変形抵抗の関係を示すグラフであり、C量を変
えてフェライト面積率を変化させた個々の試験片につい
て、バウシンガー効果による変形抵抗低減効果が顕著に
なる減面率(40%)で伸線加工した後、同心円溝付き
の拘束型厚板を使用して圧縮した際の変形抵抗を求めた
ものである。試験条件は、圧縮率:80%とし、ひずみ
速度を10s-1とした。
【0017】本発明では、線材の金属組織と伸線加工時
の減面率とを調整することでボルト製品の高強度達成を
図っているが、図1に示す通り、線材のフェライト分率
が面積率で70%を超える場合には、高減面率で伸線加
工を行ったとしても、最終的に得られるアプセットボル
トの強度を900N/mm2以上とすることができないの
である。一方、線材のフェライト分率が面積率で30%
未満になると、その分パーライト組織の面積率が増加
し、図1に示される様に変形抵抗が1000N/mm2
を超え、冷間圧造時に用いる工具の寿命が著しく低下す
ることが懸念される。
【0018】表1は、金属組織中のフェライト分率(面
積率)を変化させたアプセットボルト試験片について、
JIS B1051に規定するくさび引張試験を行った
結果を示したものであり、試験の結果、アプセットボル
ト頭部とねじ部との間で破断が生じたものを×とし、破
断しなかったものを○と評価している。この表1より、
金属組織中のフェライト分率(面積率)が減少するとと
もに、靭性が劣化してアプセットボルト頭部とねじ部と
の間で破断が生じ易くなることが分かる。
【0019】
【表1】
【0020】これら図1および表1の結果より、線材の
金属組織にてフェライトおよびパーライトの2相組織に
占めるフェライト分率を、面積率で30%以上、70%
以下とすることとした。尚、上記フェライト分率は、好
ましくは面積率で40%以上、60%以下である。
【0021】パーライト組織は、その組織中におけるセ
メンタイト層とフェライト層との界面で水素をトラップ
し、粒界脆化をもたらす水素の粒界集中を抑制して遅れ
破壊を防止する効果がある。ゆえに耐遅れ破壊性を向上
させるには、パーライト組織の面積率を増加させること
が望ましいが、多量に生成すると、上述の如く冷間圧造
時の変形抵抗が増加して、工具寿命が低下したり割れ発
生が起こり易くなるのである。
【0022】またパーライト組織のラメラ間隔を狭める
ことによって、上記粒界脆化の原因となる水素を多量に
トラップすることができ、耐遅れ破壊性をより一層高め
ることができる他、割れの発生も起こり難くなる。従っ
てパーライトのラメラ間隔は、250nm以下となるよ
うにすることが好ましいが、前記ラメラ間隔が狭すぎる
と、バウシンガー効果に寄与するパーライト部のフェラ
イト量が減少し、変形抵抗の低減が望めないので、10
0nm以上となるようにすることが好ましい。
【0023】この様にパーライト組織のラメラ間隔を好
ましくは100〜250nm、後述するように伸線加工
を減面率20〜40%で行えば、より好ましい耐遅れ破
壊性を確保することができる他、変形抵抗の低減効果も
有効に発揮されるのである。
【0024】本発明は、900N/mm2以上のボルト強
度を達成すべく、フェライト中に析出物として炭・窒化
物を存在させて析出強化による強度上昇を図るものであ
るが、該炭・窒化物の平均粒径および析出密度が所定の
範囲を超えると、線材の冷間圧造性が阻害されたり遅れ
破壊が生じ易くなると考えられる。従って本発明では、
上記フェライト中に析出する炭・窒化物について、その
平均粒径および析出密度を下記の様に規定した。
【0025】図2は、フェライト中に析出する炭・窒化
物の平均粒径および析出密度と遅れ破壊特性との関係に
ついて調べたものであり、線径11.0mmの圧延材を
線径8.99mmまで伸線して得られた試験片(引張強
度:960〜1170N/mm2)を用いて酸大気遅れ
破壊試験を行った結果を示している。酸大気遅れ破壊試
験は、前記試験片を15%HClの酸溶液中に30分間
浸漬後、水洗・乾燥し、大気中で各試験片の引張強度の
90%の応力を100時間以上負荷させて行った。試験
結果は、前記応力を負荷させて100時間以上破断しな
かったものを○とし、100時間未満で破断したものを
×と評価した。
【0026】この図2より、線材のフェライト組織中に
析出した炭・窒化物の平均粒径を50nm以下とし、か
つ粒径50nm以下の炭・窒化物が50個/μm2以上
となるよう制御すれば、ボルトの強度が900N/mm2
以上と高強度であっても耐遅れ破壊性に優れたアプセッ
トボルトが得られることが分かる。尚、上記炭・窒化物
の平均粒径は、好ましくは30nm以下であり、粒径5
0nm以下の炭・窒化物の好ましい析出密度は、70個
/μm2以上である。
【0027】また、上記炭・窒化物の具体的な種類は特
に限定されるものではなく、CrN、V(C,N)、T
i(C,N)等の炭・窒化物が挙げられる。
【0028】本発明に係るアプセットボルト用線材は、
上記要件を満足することをもって所望の効果が発揮され
るものであり、その化学成分組成については特に限定さ
れるものではないが、好ましい範囲およびその理由を述
べるとすれば以下の通りである。
【0029】C:0.15〜0.35% Cは所望の強度を確保するための必須元素であり、0.
15%以上、好ましくは0.20%を超えて添加する。
しかし過剰に添加すると、金属組織中のパーライト分率
が増加して冷間圧造時の変形抵抗が上昇し、その結果、
工具寿命が低下して生産性の低下やコストアップを引き
起こすこととなるので、0.35%以下、好ましくは
0.30%以下に抑えるのがよい。
【0030】Si:0.10%以下(0%を含まない) Siは、溶製時に脱酸剤として用いる元素であるが、過
剰に添加すると、SiO2等硬質の介在物が生じて伸線
加工時や冷間圧造時に割れが発生したり、フェライト組
織が硬化して変形抵抗の上昇を招き、冷間圧造性を阻害
することとなる。従って、Si含有量を0.10%以
下、好ましくは0.05%以下に抑える。
【0031】Mn:1.0〜2.0% Mnは、脱酸剤としての効果およびフェライト中に固溶
して鋼を強化させる効果を有する元素であり、これらの
効果を有効に発揮させるには、1.0%以上、好ましく
は1.4%以上添加する必要がある。しかしながら、過
剰に添加するとMnの偏析が生じ、該偏析部にマルテン
サイトの過冷組織が生成して伸線加工性を劣化させるこ
ととなるので、その上限を2.0%、好ましくは1.5
%とする。
【0032】Cr:0.05〜1.0% Crは、Cと同様、所望の強度を確保するのに有効な元
素であると共に、アプセットボルト成形後のベーキング
処理時に再析出して強度の低下を抑制する効果を有す
る。また、Cr炭化物が形成されて固溶C量が低減し、
動的ひずみ時効が抑制されるので、Cr添加は変形抵抗
の低減を図る上でも有効である。この様なCrの効果を
有効に発揮させるには、0.05%以上、好ましくは
0.10%以上添加するのがよい。ただし、Cr含有量
が1.0%を超えると、粗大なCr炭化物の生成を招い
て冷間圧造性を低下させることとなるので好ましくな
い。Cr含有量は好ましくは0.50%以下であり、更
に好ましくは0.25%以下である。
【0033】Al:0.005〜0.07% Alは、固溶NをAlNの形で固定して結晶粒を微細化
し、強度を増加させるのに有効な元素である。またAl
N形成により固溶N量が低減されるので、変形抵抗の上
昇を抑えるという観点からも有効な元素である。この様
なAlの効果を有効に発揮させるには、0.005%以
上、好ましくは0.01%以上添加するのがよい。しか
し過剰に添加すると、Al23の生成により変形能が却
って阻害され、アプセットボルト成形加工が困難となる
ので、0.07%以下、好ましくは0.05%以下に抑
えるようにする。
【0034】N:0.005%以下(0%を含まない) Nは、フェライト中に析出させる炭・窒化物の構成元素
であるので、好ましくは0.001%以上含有させる。
しかしNは、Al,Ti等と結合して炭窒化物、窒化物
等を形成する以外は、固溶の形態で組織中に残存し、こ
れが冷間圧造時の動的ひずみ時効を生じさせて変形抵抗
の増大を招くこととなる。従って固溶N量を低減する必
要があるが、固溶N量の低減には、全N量の低減が有効
であることから、N含有量を0.005%以下、好まし
くは0.004%以下に抑えるようにする。
【0035】V:0.05〜0.30% Vは、微細な炭・窒化物を生成し、この炭・窒化物が、
強度の向上に寄与するとともに遅れ破壊に有害な拡散性
水素のトラップサイトともなる。また固溶Nを固定させ
て変形抵抗を低減する効果も有する。この様なVの効果
を有効に発揮させるには、0.05%以上、好ましくは
0.1%以上の添加を要する。しかしながら、0.30
%を超えて過剰に添加すると、Vの炭・窒化物が多量に
析出して必要以上に線材の強度が上昇し、変形抵抗の増
大により冷間圧造時に使用する工具の寿命を低下させる
こととなるので好ましくない。
【0036】Ti:0.07%以下(0%を含まない) Tiには、Vと同様、TiC、Ti(C,N)等の化合
物を析出させて、優れた耐遅れ破壊性および高強度の確
保に寄与する他、固溶Nの固定により変形抵抗を低減す
る効果も有する。この様な効果を有効に発揮させるに
は、0.01%以上添加することが望ましい。しかしな
がら過剰の添加は、線材の強度を必要以上に上昇させて
変形抵抗の増大を招き、工具寿命の低下等の原因となる
ので、0.07%以下、好ましくは0.06%以下に抑
える。
【0037】Nb:0.1%以下(0%を含まない) Nbは、VやTiと同様、析出強化元素として強度の向
上に寄与するとともに、固溶Nを固定して変形抵抗を低
減する効果を有する。この様な効果を有効に発揮させる
には、0.01%以上添加することが望ましい。一方、
過剰の添加は、VおよびTiの場合と同様、極端な強度
上昇を招いて変形抵抗を増大させ、工具寿命を低下させ
る原因となる。従って、Nb含有量は0.1%以下、好
ましくは、0.06%以下に抑えるのがよい。
【0038】B:0.0005〜0.005% Bは、冷間加工性を劣化させることなく焼入れ性を向上
させて、高強度を確保するのに有用な元素であるので、
0.0005%以上、好ましくは0.001%以上添加
する。しかし過剰の添加は、靭性を低下させることとな
るので、0.005%以下、好ましくは0.003%以
下に抑える。
【0039】上記化学成分を規定することによって得ら
れる特性を、更に良好に発揮させるという観点から、
P,S,Oについては下記のように制御することが好ま
しい。
【0040】即ち、Pは粒界偏析を起こして冷間圧造性
を劣化させるので、冷間圧造性の改善を図るには、その
含有量を0.03%以下(0%を含む)に抑えることが
望ましく、より好ましくは0.015%以下(0%を含
む)、更に好ましくは0.005%以下(0%を含む)
である。
【0041】Sは鋼中でMnSを形成し、このMnS
が、応力負荷の際に応力集中箇所となって割れが生じ易
くなる。したがって耐衝撃性の改善を図るには、S含有
量を0.03%以下(0%を含む)に抑えることが望ま
しい。より好ましくは0.015%以下(0%を含む)
であり、更に好ましくは0.005%以下(0%を含
む)である。
【0042】またOは、常温では鋼にほとんど固溶せ
ず、硬質の酸化物として存在するため、伸線時に断線を
引き起こす原因となる。従ってO量は、0.005%以
下(0%を含む)に抑えることが好ましく、より好まし
くは0.003%以下(0%を含む)、更に好ましくは
0.002%以下(0%を含む)である。
【0043】本発明における線材の化学成分組成は上記
の通りであり、残部成分は実質的にFeであるが、本発
明の線材中にAs、Sb、その他の不可避不純物の微量
含有が許容されるのは勿論のこと、前記本発明の作用に
悪影響を与えない範囲で更に他の元素を積極的に含有さ
せることも可能である。
【0044】本発明に係る線材の製造に際しては、規定
する化学成分を含有する鋼材を常法により溶解、鋳造す
ればよいが、熱間圧延まま熱処理を施さない線材を冷間
圧造して、900N/mm2以上もの高強度を有しながら
耐遅れ破壊性に優れたアプセットボルトを得るには、下
記の条件で熱間圧延して線材を得ることが大変有効であ
る。
【0045】<加熱温度>加熱段階にて、析出強化に寄
与するV,Ti等の合金元素を母相へ完全に固溶させる
必要があるので、できるだけ高温で加熱することが望ま
しいが、1200℃を超えると結晶粒の粗大化が顕著と
なって冷間圧造性が低下することから、その上限温度を
1200℃、好ましくは1100℃とする。一方、上記
加熱温度が低すぎると、圧延時の変形抵抗が増大して生
産性が低下することから、上記加熱は900℃以上、好
ましくは1000℃以上で行うこととする。
【0046】<仕上圧延温度>母相への上記V,Ti等
の合金元素の固溶を維持するには、仕上圧延温度を85
0℃以上、好ましくは900℃以上とする必要がある。
しかし、前記仕上圧延温度が高すぎると析出物を微細に
分散させることが困難となることから、好ましくは95
0℃以下とする。
【0047】<熱間圧延後の冷却速度>熱間圧延後の冷
却条件として、800〜500℃の冷却速度が速すぎる
と、ベイナイトやマルテンサイト等の硬質組織が生成し
て冷間圧造性が低下することになる。特にベイナイトは
伸線加工による強度上昇量が小さいので、ベイナイトの
生成はボルト強度確保の観点からも好ましくない。従っ
て、フェライト分率が30〜70%であるフェライト+
パーライトの2相組織を得るには、上記温度範囲におけ
る平均冷却速度を10℃/s以下、好ましくは8℃/s
以下とする必要がある。
【0048】一方、上記圧延工程でフェライト相に固溶
させていたV,Ti等の合金元素を、この冷却工程にて
微細な粒状の炭・窒化物として析出、即ち、平均粒径が
50nm以下で、かつ粒径50nm以下のものが50個
/μm2以上となるよう炭・窒化物を析出させるには、
上記平均冷却速度を2℃/s以上とする必要がある。前
記平均冷却速度が遅すぎると、上記本発明で規定するサ
イズ・個数の炭・窒化物が確保できない他、フェライト
層が著しく軟化して必要な強度が得られず、強度のバラ
ツキも大きくなることが懸念され、また生産性も低下す
ることとなるので好ましくない。
【0049】強度が900N/mm2以上でかつ耐遅れ破
壊性に優れたアプセットボルトの製造には、上述の様に
して得られた線材に減面率20〜40%の伸線加工を施
して得られた鋼線を用いることが有効である。前記減面
率が低すぎると目標強度を確保することができないの
で、減面率20%以上、好ましくは25%以上で伸線加
工を行うこととする。また前記減面率が大きすぎると、
アプセットボルト成形時の割れ発生率が急増するととも
に、強度が高まり過ぎて成形用工具の寿命が著しく低下
することから、前記伸線加工は、減面率40%以下、好
ましくは35%以下で行うこととする。
【0050】冷間圧造後にベーキング処理を行うことが
永久伸びを低減する上で有効であり、該ベーキング処理
は200℃以上で行うのがよい。一方、前記ベーキング
処理温度が高すぎると、加工時に導入されたひずみが緩
和されて強度低下を招くので、400℃以下で行うのが
よく、好ましくは300℃以下である。
【0051】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に
説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限
を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範
囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、そ
れらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】表2に示す化学成分の供試材を溶製後、表
3または表4に示す条件で熱間圧延を行い、φ11.0
mmの線材を得た。次いで、表3または表4に示す減面
率で線材に伸線加工を施してφ8.99mmの鋼線を得
た。この鋼線を用いて冷間圧造を行い、ねじサイズM8
×P1.25のアプセットボルトを成形して得た後、亜
鉛クロメートメッキを施し、最後に200℃で2時間の
ベーキング処理を行った。尚、JIS B 1180で定
めるサイズM8の六角ボルトの首下のR(図3における
R)は最小0.4mmであるが、本試験ではRを0.3
mmとした。
【0053】線材の特性として、引張強度、金属組織、
フェライト組織中の炭・窒化物の平均粒径およびフェラ
イト組織1μm2あたりに占める粒径50nm以下の炭
・窒化物の個数について調査した。
【0054】引張強度は、JIS 9B号試験片とした
ものを用いて測定した。金属組織中のフェライト組織の
面積率は次の様にして求めた。即ち、線材の横断面試験
片を樹脂に埋め込んで研磨後、5%のピクリン酸アルコ
ール液に15〜30秒間浸漬して腐食させた。そして走
査型電子顕微鏡(SEM)でD/4(Dは直径)部位の
組織観察を行い、1000〜3000倍で5〜10視野
を撮影して、フェライト、セメンタイト、ベイナイト、
マルテンサイト、またはパーライト組織等の分類を判断
した後、画像解析装置によりフェライト組織の面積率を
求めた。
【0055】また、フェライト組織中の炭・窒化物の平
均粒径およびフェライト組織1μm 2あたりに占める粒
径50nm以下の炭・窒化物の個数は、次の様にして調
べた。即ち、透過型電子顕微鏡(TEM)で500nm
×500nmの視野を10視野撮影し、各視野内の炭・
窒化物の個数を目視にてカウントして1視野分の平均析
出個数を求めた。次に画像解析で前記10視野分の観察
写真から全炭・窒化物の面積を測定し、1視野分の平均
析出面積を求めた。そして前記平均析出面積を前記平均
析出個数で除して、円換算直径をフェライト組織中の炭
・窒化物の平均粒径とした。また、上記10視野内にお
ける長径と短径の平均が50nm以下の炭・窒化物の個
数を測定し、フェライト組織1μm2あたりに占める粒
径50nm以下の炭・窒化物の個数を求めた。
【0056】次に、前記線材を伸線加工して得られた鋼
線について、引張強度、該鋼線を冷間圧造してボルトを
成形する際の割れ発生の有無、およびボルト成形時の第
3パンチピンの平均寿命を測定した。引張強度は、ボル
トから採取したJIS 14A号試験片を用いて測定
し、第3パンチピンの平均寿命については、ボルトを6
0000個以上製造できたものを○とし、60000個
に満たなかったものを×と評価した。第3パンチピンの
材質はSKH9で、硬さがHRC61〜62のものを使
用した。
【0057】上記鋼線を冷間圧造して得られたアプセッ
トボルトについては、くさび引張試験を行ってアプセッ
トボルトの引張強度を測定し、頭部打撃試験を行って首
下靭性を調査し、永久伸びを測定し、更に耐遅れ破壊試
験を行った。くさび引張試験におけるくさび角度(図4
におけるα)は、JIS B 1051では最大10度で
あるが、本試験では15度とした。更に頭部打撃試験に
おける角度(図5におけるβ)はJIS B 1051と
同じく80度とし、また、永久伸びは、得られたボルト
に9.8級M8ボルトの保証荷重(23800N)を1
5秒間負荷し、荷重を取り除いた後の伸びを測定して、
該伸び量が12.5μm以下の場合を○、12.5μm
を超える場合を×とした。耐遅れ破壊試験として行った
酸大気遅れ破壊試験は、試験片を15%HClの酸溶液
中に30分間浸漬後、水洗・乾燥し、大気中で各試験片
の引張強度の90%の応力を100時間以上負荷させて
行った。試験結果は、前記応力を負荷させて100時間
以上破断しなかったものを○とし、100時間未満で破
断したものを×と評価した。
【0058】これらの結果を表3および表4に併記す
る。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】表3および表4から次のように考察するこ
とができる。尚、以下のNo.は、表3および表4にお
ける実験No.を示す。
【0063】No.1〜4および11〜18は、本発明
で規定する成分組成の要件を満たし、かつ本発明で規定
する工程で製造したアプセットボルトであるので、いず
れも900N/mm2以上の引張強さを有し、かつ優れ
た冷間圧造性を兼備していることがわかる。これに対
し、No.5〜10および19〜34は、鋼材の成分組
成が本発明で望ましいとする規定要件を外れるか、本発
明で規定する条件で製造を行わなかったものであり、ア
プセットボルト圧造時に割れが発生したり、あるいはア
プセットボルトの強度が十分でない等の好ましくない結
果となった。
【0064】No.5〜10は、製造条件が本発明の要
件を外れていることから上記不具合が生じたものと考え
られる。即ちNo.5は、圧延時の仕上圧延温度が低す
ぎたために析出物の平均粒径が大きくなり過ぎ、首下靭
性に劣る結果となった。No.6は圧延後の冷却速度が
小さすぎたことから、フェライトが十分に生成せず、靭
性が劣化する結果となった。No.7は圧延後の冷却速
度が速すぎたことが原因で、マルテンサイト等の硬い組
織が生成して鍛造時に割れが発生したり、工具寿命が低
下する結果となった。またNo.8は、伸線時の減面率
が小さすぎたため十分なアプセットボルト強度が得られ
なかった。No.9は伸線時の減面率が大きすぎたこと
から、加工性が劣化して冷間圧造時に割れが生じたり、
工具寿命の低下や首下靭性の劣化が生じることとなっ
た。更に、No.10ではベーキングを行わなかったた
め、永久伸びを抑制することができなかった。
【0065】No.19〜34は、成分組成が本発明の
要件を外れていることから、アプセットボルト圧造時に
割れが発生したり、該圧造時に用いるパンチ寿命が短か
ったり、また、得られたボルトについて頭部打撃試験を
行った場合に割れが生じたり、耐遅れ破壊試験の結果が
好ましくないものとなった。即ちNo.19および20
ではC量が少なく、No.23ではMn量が少なく、ま
たNo.27ではV量が少ないためにボルト強度が不十
分となり、No.19、23および27では頭部打撃試
験での割れ発生が生じる結果となった。No.21では
C量が多過ぎること、No.22ではSi量が多過ぎる
こと、またNo.24ではMn量が過剰であることから
上記不具合が生じることとなった。
【0066】No.25はCr量が少なすぎることから
上記不具合が生じたものと考えられる。No.26では
Cr量が多過ぎるため、炭化物が多く形成され鍛造時の
割れが生じたものと考えられる。
【0067】No.28ではV量が多く、No.29で
はTi量が多く、またNo.31ではNb量が多過ぎる
ことから工具寿命が低下したり、頭部打撃試験で割れが
発生することとなった。またNo.30から、靭性を確
保するにはB量を本発明の範囲内とすることが好ましい
ことが分かる。
【0068】No.32ではAl量が少ないため固溶N
の低減効果が小さく、またNo.34はN量が過多のた
め、ボルト圧造時の加工発熱に伴うひずみ時効によって
工具寿命が低下したものと考えられる。No.33では
Al量が過剰のため、Al23が多量に生成し、変形能
の低下と工具寿命の低下を招いた。
【0069】
【発明の効果】本発明は、以上の様に構成されており、
900N/mm2以上の高強度でかつ耐遅れ破壊性に優れ
たアプセットボルトの製造に用いる線材として、本発明
で規定する如く金属組織を制御したものを用いれば、該
線材を熱間圧延まま伸線加工および冷間圧造加工に供す
ることができ、上記アプセットボルトを低コストで供給
できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 線材における金属組織中のフェライト分率
(面積率)と変形抵抗との関係を示したグラフである。
【図2】 線材における金属組織中のフェライト粒内に
存在する炭・窒化物の平均粒径および粒径50nm以下
の炭・窒化物の密度と耐遅れ破壊性との関係を示したグ
ラフである。
【図3】 ボルトを例示する側面図である。
【図4】 くさび試験におけるくさび角度を示す断面説
明図である。
【図5】 頭部打撃試験における角度を示す一部断面説
明図である。
フロントページの続き Fターム(参考) 4K032 AA01 AA02 AA05 AA11 AA12 AA16 AA17 AA21 AA22 AA31 AA35 AA36 BA02 CA01 CA02 CC04 CD02 CD03 CG01 CG02 CH04

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 熱間圧延後の組織がフェライトおよびパ
    ーライトの2相組織で、該フェライト分率が面積率で3
    0〜70%であって、且つ該フェライト中の炭・窒化物
    の平均粒径が50nm以下で、粒径50nm以下の炭・
    窒化物が50個/μm2以上存在することを特徴とする
    冷間圧造性に優れた高強度非調質アプセットボルト用線
    材。
  2. 【請求項2】 C:0.15〜0.35%(化学成分の
    場合は質量%を意味する。以下同じ)、Si:0.10
    %以下(0%を含まない)、Mn:1.0〜2.0%、
    Cr:0.05〜1.0%、Al:0.005〜0.0
    7%、N :0.005%以下(0%を含まない)を満
    たし、更に、V :0.05〜0.30%、Ti:0.
    07%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下
    (0%を含まない)よりなる群から選択される少なくと
    も1種を含有する請求項1に記載の高強度非調質アプセ
    ットボルト用線材。
  3. 【請求項3】 更にB:0.0005〜0.005%を
    含有するものである請求項2に記載の高強度非調質アプ
    セットボルト用線材。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の線材を
    製造する方法であって、熱間圧延に際してまず900〜
    1200℃に加熱し、仕上げ圧延を850℃以上で行っ
    た後、800〜500℃間の冷却を平均冷却速度2〜1
    0℃/sで行うことを特徴とする冷間圧造性に優れた高
    強度非調質アプセットボルト用線材の製造方法。
  5. 【請求項5】 請求項1〜3のいずれかに記載の線材
    に、熱処理することなく減面率で20〜40%の伸線加
    工を施し、次いで冷間圧造加工し、更に200〜400
    ℃の温度でベーキング処理することを特徴とする耐遅れ
    破壊性に優れた高強度非調質アプセットボルトの製造方
    法。
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