帝国主義
帝国主義(ていこくしゅぎ,英語:imperialism)とは、一つの国家が、自国の民族主義、文化、宗教、経済体系などを拡大するため、もしくは同時に、新たな領土や天然資源などを獲得するために、軍事力を背景に他の民族や国家を積極的に侵略し、さらにそれを押し進めようとする思想や政策。本来は19世紀中葉以降の移民を主目的としない植民地獲得を指して使われる用語であるが、歴史学以外の分野ではしばしば文学的・政治的修辞として単純に膨張主義を指して使われる場合もある。また、レーニンは植民地再分割を巡る列強の衝突から共産主義革命に繋げようとする立場から更に限定し、『帝国主義論』(1916年)の中で20世紀初頭以降を帝国主義として論じているが、ソビエト連邦も崩壊して久しい現在ではその様な問題設定がなされる事は少なくなっており、これはマルクス・レーニン主義における特殊な用法ともいえる。
概要
レーニンの定義によると、帝国主義とは、世紀転換期から第一次世界大戦までを指す時代区分でもあり、列強諸国が植民地経営や権益争いを行い世界の再分割を行っていた時代を指す。その為、マルクス・レーニン主義ではこの時期のみを指して帝国主義と呼ぶ。しかし、レーニンの帝国主義論がその大部分を負っていたホブスンの研究では帝国主義は19世紀中葉以降の植民地獲得、特に移民先として不適切な為、余剰人口の捌け口とは成り得ない熱帯地域での拡張を帝国主義として批判の対象としている。
レーニンによれば、高度に資本主義が発展することで成立する独占資本が、市場の確保や余剰資本の投下先として新領土の確保を要求するようになり、国家が彼らの提言を受けて行動するとされる。いくつもの国家が帝国主義に従って領土(植民地)を拡大するなら、世界は有限であるから、いつかは他の帝国主義国家から領土(植民地)を奪取せねばならず、世界大戦はその当然の帰結である、が導かれる。レーニンの『帝国主義論』は、世界大戦の結果としての破局が資本主義体制の破局につながると指摘した。この様な経済決定論的なレーニンの主張はしばしば「ホブスン=レーニン的」帝国主義と評されるが、ホブスンの本来の論では余剰資本の投下先という経済的側面の他に、植民地が社会的地位の高い職を提供するという社会的側面についても指摘されており、必ずしもホブスンとレーニンの主張は同一のものではない。またこの様な経済決定論は、しばしば資本の投資先が自国植民地に限られなかった点を見過ごしている。ギャラハー=ロビンソンによる自由貿易帝国主義(Imperialism of free trade)は非公式帝国という概念を用い、自国の植民地以外への投資を説明している。彼らの論によれば、自由貿易の堅持や権益の保護、情勢の安定化といった条件さえ満たされるのならば、植民地の獲得は必ずしも必要ではなく、上記の条件が守られなくなった場合のみ植民地化が行われたとされる。ギャラハー=ロビンソンは現地の情勢と危機への対応に植民地化の理由を求めた為、それ以降、「周辺理論」と呼ばれる、植民地側の条件を重視する傾向が強くなった。それに対し、再び帝国主義論の焦点を「中心」に引き戻したのがウォーラステインによる世界システム論であり、ケイン=ホプキンズによるジェントルマン資本主義である。ウォーラステインはしばしば余りに経済決定論的過ぎるとして批判されるが、ケイン=ホプキンズはホブスン以来の社会的側面に再び注目し、本国社会における政治的・社会的要因を取り上げた。これらの研究は、第二次大戦後、脱植民地化が進むにつれ指摘される様になった、新植民地主義(間接的に政治・経済・文化を支配する)の影響を受けたものである。
思想
帝国主義は他者を支配する事を積極的に肯定する思想によって正当化された。それは生物学上の概念であった適者生存をより複雑な人間社会にまで拡大した社会ダーウィニズムや科学的レイシズムなどの疑似科学によって裏打ちされた帝国意識であり、キプリングの「白人の責務」という言葉に代表される。帝国主義を批判したホブスンも究極的には人類全体の幸福に寄与する資本主義という理念を信奉しており、周辺地域を然るべき方法で経済圏に組み込む事自体は文明化の一環として肯定している。このオリエンタリズムの典型とも言える思想は非ヨーロッパ地域を支配する事はしばしば経済的原理を超えて、良心の名の下に進められており、安全と文明化の手段が提供されるのであれば、必ずしも自国による政治的支配は要求されなかった反面、ベルギー領コンゴ自由国におけるレオポルド二世の様に「白人の責務」を見失い、度の過ぎた搾取を行う様になれば国際社会から痛烈な批判を浴びる事となった。
関連項目
関連書籍
- Hobson, J.A. (1965/1902), Imperialism, Michigan. ISBN 0472061038
- Lenin, Vladimir Iliich; 聴濤 弘 (訳) (1999)、『帝国主義論』、新日本出版社。ISBN 4406026967
- Said, Edward W. (1994), Culture and Imperialism, repr ed., Vintage. ISBN 0679750541
- 山内 昌之 (2004)、『帝国と国民』、岩波書店。ISBN 4000240102
- 幸徳 秋水;山泉 進 (校注) (2004/1901)、『帝国主義』、岩波書店。ISBN 4003312511
- 後藤 道夫、伊藤 正直;渡辺 治 (編) (1997)、『現代帝国主義と世界秩序の再編』、大月書店。ISBN 4272200623
- 木谷 勤 (1997)、『帝国主義と世界の一体化』、山川出版社。ISBN 4634344009
- 歴史学研究会 (編) (1995)、『強者の論理―帝国主義の時代』、東京大学出版会。ISBN 413025085X