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ダーウィンフィンチ類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ダーウィンフィンチ類
キツツキフィンチ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: スズメ目 Passeriformes
: フウキンチョウ科 Thraupidae
: ダーウィンフィンチ族 Geospizini ?
シノニム
Geospizinae
和名
ダーウィンフィンチ
英名
Darwin’s Finches

ダーウィンフィンチ類フウキンチョウ科に属する、フィンチ類に似た(類縁性は薄い)小型種の総称である。南アメリカ沖のガラパゴス諸島ココ島の島々にのみ生息する。単にダーウィンフィンチとも呼ばれるが、狭義にはこのうちの1種をダーウィンフィンチと呼ぶ。ガラパゴスフィンチ類とも称されるが、1種(ココスフィンチ)はガラパゴス諸島にいないので不適切ともされる[1][2]

絶海の孤島で、しかも地質学的には新しい火山諸島であるガラパゴスにこれだけの種が最初から存在したとは考えにくく、また南米に近縁な種が生息することから、ガラパゴス諸島の北東にかつて存在しすでに海没した島々を伝って、200から300万年前に祖先種の一群が渡来し、環境に合わせて適応放散的に進化したことの例証とされる。

名前の由来

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ビーグル号の航海の途中にガラパゴス諸島に立ち寄ったチャールズ・ダーウィン進化論の着想を与えたとしてこの名称がつけられている。

ダーウィン自身は最初フィンチの差異に気づいてはいたが、それぞれが全く別の種(ここでの“種”とは、生物学的種概念の種ではなく、属ないしは科程度のタクソンと捉えるべきである)の鳥であると考えて重視していなかった。初めてこれらが近縁の種であると発見したのは鳥類学者のジョン・グールド英語版であった。フランク・サロウェイ英語版は、進化論の着想に影響を及ぼしたのはむしろマネシツグミや南米で発見した化石ロンドンで研究に供されたハトであり、フィンチ類はそれほど大きな影響を与えていなかったと述べた。

20世紀に入ってから最初に本格的な研究を行ったのは鳥類学者のデイビッド・ラックであった。「ダーウィンフィンチ」の名は1935年にダーウィンのガラパゴス訪島100周年記念講演で初めて用いられたが、ラックの同名の書により一般に知られるようになり定着した。

ダーウィン自身はこの鳥の採集をいい加減に行ったことをのちにひどく後悔した。また『ビーグル号航海記』の第2版で「もしただ一種の祖先が渡来しこれだけの多様性を持つに至ったとすれば、種の不変性は揺らぐかもしれない」と述べたが、著書の中でこのフィンチ類に触れた箇所はわずかである。

形態

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体長はおおむね10cmから20cmで、日本の鳥ではスズメに似ている。体重は最も大型のオオガラパゴスフィンチで35g、最も小型のムシクイフィンチ属で8gである[3]。ただしガラパゴスフィンチの大型個体とオオガラパゴスフィンチや、ガラパゴスフィンチの小型個体とコガラパゴスフィンチなどは見分けるのが難しい。また、オオガラパゴスフィンチが生息しない島ではガラパゴスフィンチの大型個体がその生態的地位に収まるなど、個体差や変異が大きい[4]。くちばしは他のフィンチ類に比べるとやや小さい。

ムシクイフィンチ[5]、マングローブフィンチなどを除く[6]多くの種では、雄は性成熟すると黒または黒と白のまだら色になる。幼鳥および雌は地味な土色をしている。

生態

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すべての種が、程度の差はあるが雑食である。

近年では観光客や住民の排出する生ゴミを食べるものが増え、生態の破壊が危惧されている。

不定期に訪れる雨季の直後に繁殖行動を取り、雌は一度に2個から5個の卵を産み、10日から2週間ほど抱卵する。親鳥は2週間から4週間ほど子育てをする。

天敵はフクロウ類コミミズク(亜種ガラパゴスコミミズク)のほか、メンフクロウ(亜種ガラパゴスメンフクロウ)やタカ類ガラパゴスノスリも捕食の可能性があるが、重大な天敵とはいえない[7]

研究

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『ビーグル号航海記』より
1.オオガラパゴスフィンチ
2.ガラパゴスフィンチ
3.コダーウィンフィンチ
4.ムシクイフィンチ

20世紀初めのデイビッド・ラックの研究により、それぞれの島で複数の種に分化したフィンチが生息しており、生息状況によってくちばしを始め、特徴、習性が異なることがわかった。古典的な分類を施したのもラックであった。その後、1960年代からは鳥類学者ロバート・ボウマンが、1970年代なかばから生物学者ピーターおよびローズマリー・グラント夫妻のチームにより詳細に観察研究され、現在でも厳しい自然選択にさらされていることなどが確認されている。

グラント夫妻のチームはダフネ島を中心に研究を行っていた。中でも1977年の干ばつと1978年以降の大雨によってフィンチがどのような影響を受けるのか詳細に分析された。干ばつによる食料の減少によって、1977年初めに1,200羽いたガラパゴスフィンチは1977年末に180羽に、280羽いたサボテンフィンチは110羽に減少し、10羽いたコガラパゴスフィンチは全滅した。生存した個体のくちばしの長さの平均は10.68ミリメートルから11.07ミリメートルになった。わずか0.5ミリメートルに満たない個体差が生存上有利に働いたと見られ、翌年生まれた子供の平均的な体格も約5パーセント増大した。しかし1978年以降の大雨によって食料が増えると体格の大きさは不利になり、自然選択の圧力は小型個体に有利に働き、平均的な体格は1977年以前に戻るような傾向を示した。これは自然選択および進化が屋外で詳細に観察された初めてのケースといわれている。

その他にもさえずりの分化や性選択への影響、種分化のメカニズムなどが研究されている。

また地上フィンチ、樹上フィンチそれぞれのグループ間では交雑が可能であり、実際に雑種が生まれ一部は繁栄していることから、生物学的には完全なに分かれているわけではなく、種分化の途中であると考えられている。

創造論者による批判

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創造論者のジョナサン・ウェルズは著書『進化のイコン』で、ダーウィンフィンチを進化論のインチキな象徴であると批判した。例えば乾季が続けばくちばしは増大を続けると予想できるが、実際は雨季と乾季が交互に繰り返されるのだから、それは「根拠のない推論」であると指摘する。また種が分化せず、雑種が誕生しているのは「種の融合」であり、種は分化するはずという進化論の主張に矛盾する、と述べている。

しかし現代の地質学は、環境が永遠に不変であるというウェルズの前提を否定している。また進化論は「種は種分化によってのみ誕生する」と考えているのであり、瞬時に分かれるとか、融合しないとは考えていない。そもそも「種」が綺麗に区別できると考えるのは誤りであり、必ずしも明確に定義できるわけではない。逆にダーウィンフィンチ類の雑種の繁栄は、種分化のメカニズム解明に寄与するものと期待されている。同書は意図的な曲解が多いと批判されている。

系統と分類

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系統樹は、Sato et al. (1999)[8]; Burns et al. (2002)[9]; Grant & Grant (2002[10]; 2008[11]); Weir et al. (2009)[12]より。ダーウィンフィンチ類の各属間の系統関係は Weir et al. により高い確度で求まっており、以前の研究もほぼ整合している。各属内の系統関係は Grant & Grant (2008) によったが、異論も多い(特にガラパゴスフィンチ属)。

クビワスズメ Tiaris canorus

ニショクコメワリ Tiaris bicolor

セントルシアクロシトド Melanospiza

コクロアカウソ Loxigilla noctis

マメワリ Tiaris obscurus

ウスズミコメワリ Tiaris fuliginosus

ダーウィンフィンチ類
ガラパゴスフィンチ属
Geospiza

オオガラパゴスフィンチ G. magnirostris

ガラパゴスフィンチ G. fortis

コガラパゴスフィンチ G. fuliginosa

Cactornis ?

サボテンフィンチ G. scandens

オオサボテンフィンチ G. conirostris

? ハシボソガラパゴスフィンチ G. difficilis

ココスフィンチ Pinaroloxias

ダーウィンフィンチ属
Camarhynchus

オオダーウィンフィンチ C. psittacula

ダーウィンフィンチ C. pauper

コダーウィンフィンチ C. parvulus

Cactuspiza ?

キツツキフィンチ C. pallidus

マングローブフィンチ C. heliobates

ハシブトダーウィンフィンチ Platyspiza

ムシクイフィンチ属
Certhidea

C. olivacea

C. fusca

Gould (1837) はダーウィンフィンチ類をシメ科 Coccothraustinae [sic](現在のアトリ科ヒワ亜科に近い ?)に分類した。その後、ダーウィンフィンチ類だけで Geospizina または Geospizini となり、(広義の)アトリ科に含められた (Salvin 1876 など)[13]。Paynter & Storer (1970) は他の新世界フィンチ類とともにホオジロ科(彼らによるホオジロ科ホオジロ亜科)とし、Sibley & Ahlquist (1990)DNAハイブリダイゼーションによりフウキンチョウ科(彼らによるアトリ科ホオジロ亜科フウキンチョウ族)とした。現在もダーウィンフィンチ類をダーウィンフィンチ亜科 Geospizinae あるいはダーウィンフィンチ族 Geospizini という分類群で呼ばれることもあるが、フウキンチョウ科全体の体系的な下位分類はまだなく、ダーウィンフィンチ類はフウキンチョウ科内の非常に深い系統位置にあるため、亜科ないし族の階級が妥当かは定かではない。

ダーウィンフィンチ類の正確な姉妹群は不明だが、DNAシーケンス解析によれば近縁な群・種として、フウキンチョウ科クビワスズメ属 Tiarisキマユクビワスズメ T. olivaceus を除く)、コクロアカウソ、セントルシアクロシトドが確認されており、それらとともに単系統を形成する[9][12]

Gould (1837) はダーウィンフィンチ類すべてを1属 Geospiza に分類し、Geospiza, Camarhynchus, Cactornis, Certhidea の4亜属に分けた[13]。これらはのちには独立した属とされた。ただし、ココスフィンチ属が発見され、CactornisGeospiza に含められ、ハシブトダーウィンフィンチ属が分離されたため、現在は標準的には5属に分類される。

生態から、ガラパゴスフィンチ属は地上フィンチ ground finches、ダーウィンフィンチ属は樹上フィンチ tree finches とも呼ばれる。地上フィンチは地上で種子(一部は花蜜も)を食べ、樹上フィンチは樹上で昆虫を捕食する。これに対し、かつてダーウィンフィンチ属に含められたハシブトダーウィンフィンチは草食である。なお、ムシクイフィンチ属は虫食・花蜜食、ココスフィンチは雑食である。

ガラパゴスフィンチ属のうちサボテンの花や花蜜を吸うサボテンフィンチとオオサボテンフィンチを Cactornis 属とする(復活させる)こともある。またダーウィンフィンチ属のうちキツツキフィンチ・マングローブフィンチを Cactuspiza 属とすることもある。ただし、ガラパゴスフィンチ属・ダーウィンフィンチ属内部の系統が不確定なため、これらの分類が系統的かどうかも不確定である。

ダーウィンフィンチ類のうち最も祖先の特徴を残しているのはムシクイフィンチ属で、アメリカムシクイに似た(類縁性はない)虫食性の小鳥である。ムシクイフィンチ属はそれ以外のフィンチと最も早く分岐し、その後間もなくハシブトダーウィンフィンチが分かれ、ガラパゴスフィンチ属とダーウィンフィンチ属が分かれた。ただし、ハシボソガラパゴスフィンチがガラパゴスフィンチ属とは別系統で比較的初期に分岐したとする説もある[14]。またダーウィンフィンチ属のマングローブフィンチがムシクイフィンチの近縁種だとする説もあった。ココスフィンチの系統位置については諸説あったが、ダーウィンフィンチ属と姉妹群であり共通祖先がココ島に移住し分岐したという結果が出ている[8][9][12]。他に、ダーウィンフィンチ属に内包される[10]、あるいはダーウィンフィンチ類の比較的初期に分岐したとする[3]説もある。

ダーウィンフィンチ類は、以前は14種とされてきたが、ムシクイフィンチ属が居住環境の異なる2種に分化していることが判明し (Tonnis et al. 2005)[15]、15種となった。しかし、特にガラパゴスフィンチ属内で種間の交雑が頻繁に見られることから、14種以下あるいは16種以上に分類する研究者もいる。オオガラパゴスフィンチおよびハシボソガラパゴスフィンチとして所蔵されている古い標本の中に、現生標本とは遺伝的に区別できる絶滅種が混在しているという指摘もある[16]

属と種

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国際鳥類学会議 (IOC)[17]によるが、アメリカ鳥学会 (AOU) 南アメリカ分類委員会 (SACC)[18]も分類は一致する(通俗名綴りリニアシーケンスに違いがある)。5属15種。

末尾の色つき英大文字はIUCNレッドリストの格付けである。

脚注

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  1. ^ ラック 『ダーウィンフィンチ』 (1974)、26頁
  2. ^ 坂根干, “ダーウィンフィンチ類”, 日本大百科全書, Yahoo!百科事典, 小学館, http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%81/ 
  3. ^ a b Hau, M.; Wikelski, M. (2001), “Darwin’s Finches” (PDF), Encyclopedia of Life Sciences, http://www.princeton.edu/~wikelski/Publications/Darwin_Finches.pdf 
  4. ^ ラック 『ダーウィンフィンチ』 (1974)、98・124・138頁
  5. ^ ラック 『ダーウィンフィンチ』 (1974)、79頁
  6. ^ ラック 『ダーウィンフィンチ』 (1974)、74-75頁
  7. ^ ラック 『ダーウィンフィンチ』 (1974)、56-57頁
  8. ^ a b Sato, A.; O’hUigin, C.; et al. (1999), “Phylogeny of Darwin’s finches as revealed by mtDNA sequences”, PNAS 96 (9): 5101–5106, http://www.pnas.org/content/96/9/5101.full?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=&author1=Sato&andorexactfulltext=and&searchid=1081449482400_6822&stored_search=&FIRSTINDEX=0&sortspec=relevance&volume=96&firstpage=5101&resourcetype=1 
  9. ^ a b c Burns, K.J.; Hackett, S.J.; Klein, N.K. (2002), “Phylogenetic relationships and morphological diversity in Darwin’s finches and their relatives” (PDF), Evolution 56: 1240–1252, http://eebweb.arizona.edu/courses/galapagos/handouts%202009/articles%202009%20for%20web/phylogenetic%20relationships.pdf 
  10. ^ a b Grant, B.R.; Grant, P. (2002), “Adaptive Radiation of Darwin's Finches: Recent data help explain how this famous group of Galapagos birds evolved, although gaps in our understanding remain”, American Scientist 90 (2): 130, http://chiron.valdosta.edu/jbpascar/Courses/Biol1010/ExtraCreditActivities/American%20Scientist%20Online%20-%20Adaptive%20Radiation%20of%20Darwin%27s%20Finches.htm 
  11. ^ Grant, B.R.; Grant, P. (2008), How and Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches (Princeton Series in Evolutionary Biology), Princeton University Press, ISBN 978-0691133607 
  12. ^ a b c Weir, J.T.; Bermingham, E.; Schluter, D. (2009), “The Great American Biotic Interchange in birds”, Proc. Natl. Acad. Sci. 106: 21737-21742, http://www.pnas.org/content/106/51/21737.full 
  13. ^ a b Sato, A.; Tichy, H.; et al. (2001), “On the Origin of Darwin's Finches”, Mol. Biol. Evol. 18: 299–311, http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/content/full/18/3/299 
  14. ^ Campàsa, O.; Mallarino, R.; et al. (2010), “Scaling and shear transformations capture beak shape variation in Darwin’s finches”, PNAS 107 (8): 3356–3360, http://www.pnas.org/content/107/8/3356.full 
  15. ^ Jaramillo, A. (2008), Split the Warbler Finches: Certhidea fusca from Certhidea olivacea, Proposal (#367) to South American Classification Committee, オリジナルの2010年1月31日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20100131131627/http://www.museum.lsu.edu/~Remsen/SACCprop367.html 
  16. ^ Petren, K.; Grant, P.R.; et al. (2010), “Multilocus genotypes from Charles Darwin's finches: biodiversity lost since the voyage of the Beagle”, Phil. Trans. R. Soc. B 365 (1543): 1009–1018, doi:10.1098/rstb.2009.0316 
  17. ^ Gill, Frank; Donsker, David, eds. (2010), “Buntings, tanagers and allies”, IOC World Bird Names, version 2.5, オリジナルの2013年10月21日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20131021042403/http://www.worldbirdnames.org/n-buntings.html 
  18. ^ Remsen, Jr., J.V.; Cadena, C.D.; et al. (2010), “Part 11. Oscine Passeriformes, C (Cardinalidae to end)”, in AOU, A classification of the bird species of South America, Version 8 July 2010, オリジナルの2010年6月26日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20100626231610/http://www.museum.lsu.edu/~Remsen/SACCBaseline11.html 

参考文献

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