海外生産車と国内生産車にクオリティーの違いはあるか?

2024.05.14 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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日本車のなかには、海外の工場で生産され、国内販売されているものがあります。そうしたプロダクトに対し、ちまたでは「〇〇生産だから」と品質を気にする声も聞かれます。今の時代、管理は徹底されていると思いますが、それでも何かしら違いは出るものなのか? 品質の良しあしでなくとも、クセであるとか、傾向などあればお聞かせください。

おっしゃる意味はよくわかります。私の経験から一例を挙げましょう。

「GRスープラ」の開発にはドイツのBMWがかかわり、生産はオーストリアのマグナシュタイアという会社が担いました。その生産準備を進めていくうえで、同社にはトヨタのよしとする生産管理ができていないという点が問題になったのです。

対策として、トヨタで生産管理を担当するかなりの人数のスタッフが同社の工場に詰めて、品質管理上のさまざまなノウハウを伝えるなど、いっしょになって活動しました。しかしそこまでしても、トヨタの国内工場と完全に同一のレベルになったとはいいきれないところがありました。

これは海外でのケースですが、そもそもこうした品質の差異の話は、「海外と国内の違い」というものではありません。例えばトヨタの国内工場だけを見ても、工場によって、クオリティーの違いは出るには出ます。

主な要因は、各工場に納入されている設備です。それらの設備はある一定期間で更新されるものであり、その更新のタイミングは工場によって違う。そのため、同じ自動車ブランドの工場でも、ある工場には最新の設備が導入されていて、別の工場はひと昔前の設備で稼働している、といったことが必然的に起こります。そうした点が、微妙なクセというか、「あの工場でできたクルマは……」みたいな評価につながったりします。

さらにいえば、工場ごとの品質管理上の判断・判定の違いも考えられます。例えば、塗装の最後の検査ライン。もちろん、品質管理上の合否の基準というものは設けられているわけですが、現実的にその判定は、最後は人の主観によることになるのです。

ですので、質問の答えとしては「(違いは)まったくないとはいえない」し、それは決して、海外だから、国内だから……ということではないのです。

なお、違いそのものについては、トルクレンチで数値管理を行う組付のような作業ではあまり差がでないかと思います。一方、塗装であるとか、その下地の鉄板のひずみであるとか、人間の目視判断で許容レベルを判断するところは、比較的差が出やすいでしょう。

いずれにせよ、差異があったところで、それは私がその道の専門家に細かく説明してもらってやっとわかる程度の違いであり、合格基準内におさまる製品だけが送り出されることになります。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。