クルマの損なオプション/得なオプションは?
2024.10.01 あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマを購入する際にはさまざまなオプションが用意されていて、このコーナーでも「今後オプションはますます細分化されるだろう」という話がありました。では、選ぶと損なオプション、お得なオプションは? 開発者の“ここだけの話”があればお願いします。
極端な言い方をすると、オプションはそもそも売る側がもうけるためにあるもので、ユーザーにとっての損得でいうなら、何も付いていない素の状態で買うのが最も“得”です(笑)。それが大前提と断ったうえでお話ししましょう。
例えば、ボディーカラー。近年ではオプション化が進み、どのメーカーもいくつかの車体色にはかなり高額なオプション価格をつけて販売しています。2トーンなら10万円以上、なんてことも当たり前になっていますね。
これはひと昔前ならとんでもないことで、「どんな色であれ同じ値段で売らなければならない」というのが普通でした。今から20年ほど前、私が初めてクルマを企画する部門に身を置いたときには「それが常識だ」と言われたものです。
そのとき、車体に塗る塗料の原価というものを初めて知ったのですが、びっくりしたのは、「赤は白の10倍の価格だった」という事実です。これを同じ値段で売るなんてむちゃくちゃな話じゃないか! と思ったのを覚えています。
当時は、“色”はお金がとれないものでした。白のなかでは高かった「ホワイトパール」も、オプション価格はせいぜい3万円くらい。それでもメーカー側は「そんな高い値段でお客さんがお金を出してくれるわけないだろう」と思っていたのが、予想外に売れてしまったために、ホワイト路線でさまざまな色が試されるようになりました。
海外からの輸入車を見れば数十万円のオプションカラーでも普通に選ばれている。国産車も、売れちゃうもんだからどんどん上がっていってしまったというのが現実です。しかし、原価でいえば微々たる違いですから、売る側は大変もうかるわけです。はっきり言って、ぼろもうけです。
なにが言いたいかというと、結局、オプションの損得というのは、お客さま次第だということ。ユーザーが満足するかどうか、だけの話なんです。
それでも何かしら「損得の見分け方」があるとしたら……いわゆるブームになっているものは、だいたいぼったくられていると思っていいでしょう(笑)。
スマホの地図アプリ全盛の今は違うでしょうが、かつては、「カーナビ1台売ったら車両本体よりも利益が大きい」なんて時代もあったのです。「デジタル〇〇」とか「〇〇システム」とか、どのクルマを見ても目につく「きっと今、これがはやっているんだな」と思えるものは、立ち止まって必要性を考えたほうがいいかもしれません。
あと、「〇〇パッケージ」に代表される“セットオプション”には、損になってしまう危険性もあるでしょう。ご自身にとって必要なものが含まれているのか、そのセット販売は本当に満足できるのか、要チェックです。
繰り返しになりますが、損得はユーザー次第、あなた次第です。逆に、損得を考えずに自分が気に入ったものを選ぶのが一番、ともいえますね。
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多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。