Nothing Special   »   [go: up one dir, main page]

Academia.eduAcademia.edu
―1― Bulletin of Japan Association for Fire Science and Engineering Vol. 56. No. 1 (2006) アラスカの大規模森林火災について ―衛星と気象データによる考察― 早坂 洋史*,福田 正己**,串田 圭司**,中右 浩二**,木村 圭司*** (平成17年4月22日受付,平成1 7年12月2日受理) Large-Scale Forest Fires in Alaska ―Discussion Based on Satellite and Weather Data― Hiroshi HAYASAKA*, Masami FUKUDA**, Keiji KUSHIDA**, Kouji NAKAU**, Keiji KIMURA*** *Graduate School of Engineering, Hokkaido University Kita-ku, Sapporo, 060-8628, Japan **Institute of Low Temperature Science Kita-ku, Sapporo, 060-0819, Japan ***Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University Kita-ku, Sapporo, 060-0814, Japan Abstract The boreal forest or Taiga occupies one third of forest area in the world. From spring to fall, the risk of fire is high in this region due to low precipitation regime which amounts to less than 300mm. Due to ongoing global climate change, fire incidence in high latitude may increase because of the observed decreasing trend of summer precipitation. In 2002, many large-scale forest fires occurred near Yakutsk, the capital city of the Sakha Republic in Siberia. The total burnt area was estimated at more than 23,000km2, this burnt area is the largest reported in Sakha since 1955 and about ten times larger than mean burnt area (about 2,400km2). In 2003, forests near the Baykal lake in Siberia burned severely. The total burnt area in Russia (whole Siberia) was estimated at more than 234,000km2. In 2004, many large-scale forest fires occurred in Alaska. The main cause was lightning. Many of them grew into large-scale fires due to severe drought conditions and the presence of Chinook or Foehn phenomenon. As a result, the total burnt area in 2004 was about 26,000km2, the largest historical record since 1956. To protect the Taiga from severe forest fires due to global climate change, it is important to investigate the trends and characteristics of not only forest fire occurrences but also weather. 1.はじめに 通称タイガと呼ばれる北方林は,ユーラシア大陸と 北米大陸の高緯度地帯に分布している。この高緯度地 帯では,近年の気候変動により,顕著な気温上昇と降 水量増加の現象が生じているが,この気温上昇と降水 量増加は主に冬季の現象である。年間降水量が3 0 0mm 北海道大学大学院工学研究科(〒0 6 0 ‐ 8 6 2 8 札幌市北区北1 3西8) 北海道大学低温科学研究所(〒0 6 0 ‐ 0 8 1 9 札幌市北区北1 9西8) *** 北海道大学情報科学研究科(〒0 6 0 ‐ 0 8 1 4 札幌市北区北1 4西9) * ** 程度の砂漠気候並の降水量しか期待できない北方林で は,夏季の気温上昇はあまり大きくないものの,夏季 降水量の低下傾向1)のため,森林火災が発生しやすい 状態となっている。この様な状況下で, 2 0 0 2年にシベ リア・サハ共和国のヤクーツク周辺で1),2 0 0 3年にバ イカル湖の東西両側の地帯2)などで,大火災が発生し た。そして,2 0 0 4年には,米国アラスカ州で大火災が 発生した。この火災は,1 9 5 6年からの観測史上,最大 の焼損面積(約2 6, 0 0 0km2,北海道の面積の3 0%)を 記録した。さらに,2 0 0 5年には,史上3番目となる焼 (1) ―2― 損面積の火災が発生した。この2年連続の火災の詳細 は今後の課題である。 以上のような近年の大規模な森林火災からは,地球 球温暖化ガスである二酸化炭素の大量排出が危惧され ており,地球温暖化防止のため,森林火災の特性把握 と防止策の確立が急がれている。 2 0 0 4年のアラスカ大火災に対し,著者らの2名は急 遽,調査隊を結成し,7月末から8月上旬にフェアバ ンクスを拠点に現地調査を行った。本論文では,現地 調査 の 結 果 に,衛 星 と 気 象 デ ー タ の 分 析 結 果 を 加 え,2 0 0 4年アラスカ大火災を詳細に分析した結果につ いて報告する。なお,アラスカでの雷が原因の森林火 災の特性については,著者の論文3)〜7)などで報告済み で,これら過去に得られた知見も必要に応じて引用し た。また,著者らが提案している北方林森林火災制御, BFFC(Boreal Forest Fire Control)の観点からの考察 も加えた。 は,雷が原因の火災であった。 2. 2 2 0 0 4年火災の発生傾向と状況写真 Fig. 2 に NASA が MODIS で検知したアラスカ州の ホットスポット9)(≒火災,以下 HS と略)数の日変 化傾向を示した。HS は赤外センサーが熱放射を検知 することで求められ,1個の HS に相当する広さ(解 像 度)は MODIS の 場 合,1. 1km 四 方 で あ る。Fig. 2 中の横軸は,1月1日より数えた日数(Day Number, 以下 DN と略)である。 Fig. 2 よ り 火 災 は6月1 1日(以 下6/1 1と 略 記,DN 0 (DN=1 7 0) には HS が5 0 0 =1 6 1)頃より始まり,6/2 個を越え火災が活発化した。6/2 9 (DN=1 8 1) に HS 数 は, 3, 2 1 2個と2 0 0 4年の最大個数となり,激しい火災と なったことがわかる。この後,火災は7月中旬,8月 下旬にも HS 数は2, 5 0 0を越し,三度にわたり活発化 したことがわかる。 2.2 0 0 4年アラスカ大火災 2. 1 森林火災の履歴と2 0 0 4年の火災概要 アラスカ森林火災局 (Alaska Fire Service8),以下 AFS と略)が所有する,1 9 5 6年からの森林火災データによ る火災発生傾向を Fig. 1 に示した。棒グラフは焼損面 積を,折れ線グラフは火災件数を表している。各年2 本の棒グラフのうち,右側の棒グラフと,折れ線グラ フのうち,値の小さな細線の折れ線グラフは,雷が原 因の火災を示している。 Fig. 1 より,雷により発生する火災件数は,全体の 4 0%程度であること,焼損面積を示す各年の2本の棒 グラフの高さに違いはあまりなく,焼損面積のほとん どは雷が原因の火災であることなどが見て取れる。 2 0 0 1年以降,火災件数と焼損面積は共に増加傾向にあ ると言える。 2 0 0 4年の大火災は,火災件数約6 5 0件,焼損面積約 2 6, 0 0 0km2であった。焼損面積は統計を開始した1 9 5 6 年以来で最大となった。2 0 0 4年も焼損面積のほとんど Fig. 1 Fire history in Alaska (1956~2004). Fig. 2 Tendency of Hot Spot (≒Fire). Picture 1 に HS 数が最大となった,6/2 9 (DN=1 8 1) の衛星写真を示した。Picture 1 の右側で縦の直線は カナダとの国境線で,Picture 1 下側の白い部分は, 区別しにくいが,アラスカ山脈の雪と氷河,雲,火災 からの煙である Picture 1 より,火災が多くの場所で 発生し,主に東からの風で煙がたなびいていることが わかる。各火災から生じている濃い煙の長さは,数1 0 !から百!程度であるが,各火災から集まった煙が, ユーコン川沿いにフェアバンクスから西方に数百!た なびいていることがわかる。この後,煙は拡散しなが らも,一部は東風に流され,ベーリング海峡を横切り, シベリアにまで達した。その後,西風が吹き,煙はフ ェアバンクスから約3千!以上離れたハドソン湾を通 過し,一部は米国東海岸や南はテキサス州にまで達し た事が衛星観測により確認されている9)。なお,Picture 1 中の Fairbanks という文字の右上にある,大きな HS の塊が後述する Boundary Fire という名前の付いた火 災域である。 (2) ―3― を使って地図上に番号を付け,比較しやすいようにし た。 Fig. 3 より,2 0 0 4年の火災発生場所は,Fairbanks を 終点・起点とする,Alaska Highway と Dalton Highway (Fig. 3 の右下から左側上方に抜ける線)の東側で主 に発生していることがわかる。この地域は,これまで あまり大きな火災が発生していない,所謂,火災の空 白地帯である。 Picture 1 Large-Scale forest Fires in Alaska (29 June, 2004). Picture 2 は,フェアバンクスからシアトルへの帰 路の航空機内から撮影した,8/9 (DN=2 2 1) に発生し た巨大火災雲の映像である。Picture 2 から火災雲は 地上より立ちのぼっていること,推定約2〜3千 m 付近の温度逆転層で,比較的すすの多く含まれる黒煙 と,水蒸気の多く含まれる白煙とが分離されているこ と,白煙は含まれる水蒸気の凝縮熱により,温度逆転 層を突き破り,さらに上昇していること,などが見て とれる。通常,Picture 2 のような黒煙は,あまり観 測されていない。黒煙は主として油脂の多い針葉樹が 燃える時に発生するので,大量の黒煙は針葉樹が激し く燃えた結果,つまり樹冠火の発生で生じたと言える。 確認しにくいが,Picture 2 で左側火災雲の右基部に は,炎らしきものが写っている。 Picture 2 Large fire clouds ( 9 August, 2004). 2. 3 2 0 0 4年火災分布 森林火災の分布や焼損面積の大きさを示すため,Fig. 3 を作成した。原図は,米国農業省(USDA)が作成 したものである1 0) 。Fig. 3 の左半分には6/2 8 (DN= 1 8 0) の,右半分には8/2 1 (DN=2 3 4) の火災の位置と大 きさを色付けて示した。主な火災には,!〜*と2 1 ‐ 2 4 Fig. 3 Location and size of forest fires (28 June and 21 August). 8 (DN=1 8 0) からの約5 0日間 (6/2 8〜8/2 1) の火災 6/2 挙動は,Fig. 3 の左右の図を比較することでわかる。 Fig. 3 より,以下のことなどが把握できる。 1.一旦発生した(番号を付した)火災の多くは,延 焼拡大し大きな焼失面積となっていること(Fig. 3 中 の!,",$,%,',),2 1〜2 3な ど) 。こ の 理由として,火災が同時多発し対応が遅れたことや, 雷が原因の火災に対しては消火活動が行なわれない, ことによるためと思われる。 2.火災はおおよそ左右に細長く,つまり西と東の方 向に延焼拡大していること。 3.数カ所の火災は延焼拡大し合体していること(Fig. 3 中の'と(,),2 1〜2 3など) 。 4.6/2 8 (DN=1 8 0) 以降も,新たに火災が発生してい ること(Fig. 3 右図中,#の上側,$の下側,&の 左側など) 。 本論文では,森林火災をさらに詳細に検討するため, フェアバンクス近郊の Fig. 3 中に'で示す"Boundary Fire"を選んだ。この理由は,Boundary Fire 域の中 を 道路が走っており,アクセスが比較的容易で,アラス カ大学の演習林が近く,気象データが取得しやすいた めである。 2. 4 2 0 0 4年火災の原因−降水量 2 0 0 4年の大森林火災の主原因として,日照りが考え られる。Fig. 4 にフェアバンクス空港で観測された時 間降水量8)の傾向を示した。積算降水量は5月1日よ (3) ―4― りの降水量を加算したもので,8月末までの積算降水 量は9 2mm 程で,年平均値の約1 2 0mm と比べ少ない ことがわかる。5月に数 mm/h 程度の頻繁な降水が見 られ,5月の積算降水量は約4 4!で,2 0 0 4年の夏期降 水量の約半分近くが5月に集中したことになった。事 実,5月は例年の3倍近くの降水量を記録することに なった。多雨となった地域は,フェアバンクス西方か ら海岸地帯ノームまで広がっており,フェアバンクス 西方での火災が少なかった原因の一つと思われる。 Fig. 4 Tendency of precipitation and drought. 雨は5月から6月上旬まで続くが,それから一転し て今度は日照りが始まる。6月中旬(DN=1 6 3)から 7月中旬(DN=2 0 2) 頃まで4 0日近くの長い日照りと な る。こ の 間,6/2 8 (DN=1 8 1) に HS 数 最 大 と な り,7/1 3 (DN=1 9 5) にも HS 数が3千近くを記録した (Fig. 2 参照) 。7月下旬に3 0mm 程の降水があったも のの,8月になると,8/1 (DN=2 1 4) よりほとんど雨 が降らず,日照りが始まった。8/2 1 (DN=2 3 4) には HS 数が2, 5 0 0を越え火災が活発化した。 以上から,2 0 0 4年の大火の主な原因は,Fig. 2 と4 よ り,6/9 (DN=1 6 0) 頃 の 降 雨 後,6/2 3〜6/2 8 (DN= 2 0 5〜2 1 0) 頃まで降雨が無く,約4 5日間の1回目の日 照りと,7/3 1 (DN=2 1 3) 頃からの2回目の日照りであ ったと言える。 Fig. 2 で7/8 (DN=1 9 0) 頃に降雨がほとんど観測さ れないにも拘わらず,一旦 HS が低下した現象は,火 災から発生した大量の煙により,日射量が半減,気温 と風速が低下したことと,風向も変わって,相対湿度 も高くなり,燃えにくい条件が揃ったために生じたと 思われる。 自己鎮火 とも呼べる現象である。 Fig. 2 で HS がほとんど観測されなった期間は, 7/2 7 (DN=2 0 9〜2 1 4) である。これは,Fig. 4 で7/2 1 〜8/1 〜7/3 1 (DN=2 0 3〜2 1 3) の降雨による火災の一時鎮火 と言え,この後,8/2 (DN=2 1 5) より HS は徐々 に 増 え始める。この事から7/2 1〜7/3 1の総降雨量,約4 0mm 程度では火災は鎮火しない,と言える。 3.森林火災 Boundary Fire の挙動 3. 1 Boundary Fire の概要 Boundary Fire は,2 0 0 4年6月1 3日 (DN=1 6 5) 山頂 付近(後述の Fig. 6 ほぼ中央)への落雷で発生し,フ ェアバンクス北東約4 0"付近の主にトウヒと白樺から なる山岳樹林帯が燃えた火災である8)。焼損面積は, 東京都とほぼ同じ2, 1 7 4km2 に達した。焼損面積は, アラスカ全体の火災の8. 4%を占め,2 0 0 4年の全米火 災で2番目に大きな火災であった。この火災に費やし た金額は,1, 7 7 1万ドル (約1 9億円) とされる11)。この ような大きな火災となった理由は,雷が原因の森林火 災は,天然更新の考えが適用されたためである。つま り,積極的な消火活動が火災発生後の早期になされて いないためである。米国では,多くの火災は人的被害 が予測されるまで放置されているのが現状である。 Fig. 5 に Boundary Fire 域での HS 数の推移を示した。 Fig. 5 より,Fig. 2 と同様に,HS のピークが6月下旬 と7月中旬に表れたものの,8月のピークは無かった。 Fig. 5 Tendency of Hot Spot in Boundary Fire. 3. 2 HS を使った火災挙動の把握 本論文では,NASA の HS データ9)を使って,Boundary Fire の挙動の把握を試みた。この処理過程の一例 を Fig. 6 に示した。Fig. 6 は,AFS が作成した Boundary Fire 火災地図8)の上に,6月2 8日に観測された HS を白い四角形でプロットしたものである。四角形の大 きさは,地図上で一辺1. 1km の正方形 (HS の原寸) を 表すようにした。 Fig. 6 のほぼ中央の×印が火災発生位置で,発生後 2週間後の火災位置である HS が四角で示されている。 火災は,発生源より延焼拡大し数1 0"の範囲にまで達 している。一方で,発生源近くの西側も燃えているこ となどがわかる。この様に,検知した HS を日毎にプ ロットすることで,火災の挙動や最前線などを把握す (4) ―5― ることができる。最終的に Boundary Fire は,Fig. 6 中に黒い太線で示され位置まで燃え広がった。 本手法の検証は,AFS が記録した日毎の Boundary Fire の焼損面積値との比較で行った。AFS では,航空 機や地上観測の報告結果をまとめ,焼損面積を出して いる。比較の結果を Fig. 8 に示した。Fig. 8 から,両 者の積算焼損面積の値には,あまり違いはないことが わかる。 Fig. 6 Map of Boundary Fire and Hot distribution. 3. 3 焼損面積の把握と火災特性 Fig. 6 に示すように,日毎の HS の四角形は,複数 衛星からのデータを使うことになるため,重なること になる。また,火災の移動速度が遅いと,数日間ほぼ 同じ場所で HS が観測されることもある。この結果, 焼損面積は日毎の HS 数を単純に積算し,それに HS 2 の面積の1. 2 1km(= 1. 1x1. 1km) を掛けただけで,求 めることは出来ない。この事が HS を使う上での最大 の欠点であった。そこで,著者らは,CAD ソフトを 利用し,図形合成による,焼損面積の算出法を開発し た。 Fig. 7 に CAD ソフトによる,重なりあった四角形 の面積を求める手法を示した。複数個の重なりあった 図形の面積は,CAD ソフトの 貼り合わせ コマン ドを実行することで,比較的容易に一個の多角形に変 換することができる。また,同時に面積や周長などの 情報を得ることができるのが,CAD ソフトを使う本 手法の最大の利点である。 Fig. 7 Composite process for multi-squares by CAD Command. Fig. 8 Comparison of burnt area tendencies. 2 最終的な焼損面積の差,約4 0 0km(誤差約 2 0%) は, 主に以下の2つから生じていると思われる。1.衛星 観測の欠点である,小さな火災を検出できないこと, 雲により火災検出ができないことなど,欠測によるも の。2. HS を単純に正方形での取扱いや,山岳地帯で あるので斜面の傾斜角の考慮していないなど,幾何学 的な誤差によるもの。今回の誤差は,Fig. 8 から,焼 損面積の差が大きくなったのは DN が1 8 4から1 9 4の辺 りで,上記の値4 0 0km2 の差が生じている。この期間 は,アラスカ全土で火災が活発化し,大量の煙が発生 した時期であった。このことから,誤差原因は主に HS の欠測と思われる。 以上のように,本論文で示した,HS データから焼 損面積を把握する手法は誤差を含むものの,火災挙動 の大まかな把握には十分利用可能であることがわかる。 3. 4 気象データの解析 本論文では,Boundary Fire の火災域に最も近い場 所,Carib 山 (Fig. 6 左端,真中より少し下) の気象デ ータ(アラスカ大学が設置した気象観測タワーで計 1 2) 測) を分析した。分析の結果を下記に述べる。 3. 4. 1 相対湿度と気温 Fig. 9 に,6/1から7/3 1 (DN=1 5 3〜2 1 3) までの相対 湿度と温度の推移を示した。Fig. 9 中の四角と縦線は, 各々,Fig. 5 の HS 数が1 0 0を上回った火災の顕著な 日々を四角形2つと縦線1本で,火災の HS が検知さ れた日と,検知されなくなくなった日を縦線2本で示 (5) ―6― している。Fig. 9 中の横の太線は,相対湿度は5 0%, 気温は2 0℃ (Carib 山の高さ7 7 3m の海抜補正後約2 5℃ に相当) を示している。 Fig. 9 Tendency of relative humidity and air temperature. Boundary Fire は6/1 3 (DN=1 6 5) で発生,Fig. 9 に示 した1本目の縦線位置6/2 0 (DN=1 7 1) で,HS が初め て観測されている。この発生と検知の時間差の原因と しては,火災が小さかったか,火災現場の上空に雲が あったりして,衛星検知が出来なかった,などが考え られる。 6/2 0 (DN=1 7 1) を境に,数日間は,気温が2 0℃以上 に急上昇,相対湿度も5 0%以下で経過している。その 後,6/2 6 (DN=1 7 8) まで,気温は徐々に低下,湿度は 8 (DN=2 1 0) Boundary Fire はほぼ終焉した(但し, 7/2 に HS が3個観測されている) 。 以上により,火災が活発化する条件として,相対湿 度は5 0%程度以下,気温は2 0℃(平地気温約2 5℃)程 度が目安であることがわかる。 これより,BFFC での火災予知には,湿度の低下傾 向と気温の上昇傾向の把握が重要であることが再認識 された。これに加え,着火源である雷の発生を予知で きれば,火災予知の確率はかなり高くなる。雷の発生 は,衛星画像で雷雲の発達を見て行なえる可能性があ るが,現状の一日数回程度の観測では不十分である。 落雷位置はアラスカの場合,全米をカバーする雷検地 システムから情報を得ることができる。 3. 4. 2 風速と風向 Fig. 10 に風速と風向の推移を示した。火災が活発 化 し た,6/2 7〜7/2 (DN=1 7 9〜1 8 4) に は,風 速5m/s 程度以上で,風向6 0度の東北東の風が吹き続けている ことがわかる。アラスカ全体でも,6/2 9 (DN=1 8 1) に 最大の HS 数を観測しており,この時の東北東の風, Chinook が,2 0 0 4年のアラスカ大火の原因とも言える。 AFS によると,Chinook は,アラスカ山脈に沿って 峠を越えて流れ込む風の通称で,フェーン現象による 乾燥をもたらすとし冬と春は,南寄りの風であるが, 夏はほとんど東寄りの風としている。また,AFS で は,弱い樹冠火が発生する条件として,風速4. 4 7m/s, 湿度5 0%以下としている。 徐 々 に 上 昇 し て い る。そ し て,HS 数 が1 0 0を 越 え た,6/2 7〜7/2 (DN=1 7 9〜1 8 4) (Fig. 9 中の最初の四 角形)では,ほぼ一日中湿度が5 0%以下,気温も高め に経過していることがわかる。その後,気温は漸減 (DN=1 8 7) で HS が検知されなくな り,気 温 し,7/5 は1 5℃,湿度6 0〜1 0 0%であった。7/7 (DN=1 8 9) で HS 2〜7/1 5 (DN=1 9 4〜1 9 7,Fig. が再び検知され始め,7/1 9 中の2番目の四角形) で HS 数が1 0 0を越え,火災が 活発化した。2本目の縦線,7/1 7 (DN=1 9 9) でも HS 数が1 0 0を越え,これらの期間では,概ね湿度が5 0% 以下で,気温も2 0℃を越えていることがわかる。この 後,気温は徐々に低下,湿度は徐々に上昇し,3本目 の縦線,7/2 3 (DN=2 0 5) で HS が観測されなくなり, (6) Fig. 10 Tendency of windvVelocity and direction. ―7― 6/2 7 (DN=1 7 9) 頃からの火災で激しく燃えたのは, 風速5m/s 以上・湿度5 0%以下・温度2 0℃以上・風向 一定という条件が揃ったためとも言える。 風速と風向の分析結果から,アラスカでは Chinook の発生予測が重要であると言える。BFFC でも,Chinook に関する情報収集が必要であることがわかた。 3. 4. 3 日射量 Fig. 11 に日射量の推移を示した。Fig. 11 から6/3 0 (DN=1 8 2) 付近で日最高日射量が約3 0 0W/m2 程度と 通常の半分以下にまで減少したことがわかる。この現 象は,激しい森林火災が同時多発的に生じたため,Picture 1 のように,大量の煙が発生し漂い,フェアバン クス周辺の日射量を激減させたため,と言える。この 日射量の激減は,前述のような,気温の低下傾向や風 速や風向の変化にも影響していると思われる。 スポット数も5 0 0を越えるようになった。 4.その後,火災は衛星観測によるホットスポット数 の推移から,以下の3回に渡り活発化した。 !6月下旬の火災(6月火災と呼ぶ,ピーク6/3 0) , 3) , "7月中旬の火災(7月火災と呼ぶ,ピーク7/1 #8月下旬の火災(8月火災と呼ぶ,ピーク8/2 1) である。 5.6月火災は,6月1 1日頃からの4 0日間近くの長い 日照り下で生じ,Chinook で活発化した。 6.7月火災は,6月火災の沈静化後,日射量が徐々 に回復,これに伴い気温が上昇し,湿度も低下,西 風の吹く状態下で復活し生じた。 1〜7/3 1頃の約4 0$の降雨で火災は沈静化し, 7.7/2 ホットスポットが観測されなくなったが, 8月1日頃 より再び日照りとなり, 8月下旬に火災が再活発化し た。 以上の火災経過と原因に加え,フェアバンクス近 くからカナダ国境までの火災の位置と規模につき, 2 枚の火災分布図(6月2 8日と8月2 1日)を比較し検 討した結果, 8.6月火災の多くは,8月火災まで鎮火しないで燃 え続けていること。 9.上記8から,火災は地中火としてくん焼で持続し ており,火災条件が整えば,地上火となること。 1 0.複数の火災は,延焼し合体してしまうこと。 などがわかった。 最後に,BFFC(北方林森林火災制御)の観点から Fig. 11 Tendency of solar radiation. の重要な考察として, 以上の気象データの分析結果から,2 0 0 4年のアラス 1.アラスカの大火災は,DN=1 6 0〜1 9 0で発生3)して カ大火災で,7月上旬に観測された,火災の休止(自 おり,Boundary Fire も例外ではなかった。 己鎮火)現象は,火災の煙による日射量の激減が原因 2.アラスカでの火災要注意期間3)である DN=1 7 5〜 で,気温低下(約1 0℃)と相対湿度の上昇(約3 5%か 1 8 7は, 2 0 0 4年の火災も例外ではなく,上記!の6月 ら7 0%)を招き,火災を沈静化したために,引き起こ 下旬の火災(ピーク DN=1 8 1)が発生しており, された,と言える。通常の降雨による鎮火とは異なり, 改めて火災要注意期間が再認識された。 あまり想定できない希な現象であったと言える。 こ の よ う に,2 0 0 4年 の ア ラ ス カ 大 森 林 火 災 は, BFFC の実行を考える上で貴重な例であったと言える。 4.考察 激しい森林火災であったがため,気象条件との強い因 2 0 0 4年の火災の経過と原因を下記に列記した。 果関係が示されたため,より具体な BFFC の実行の方 1.5月の多雨の後,6月は一転,高温・少雨傾向と 策を明らかにできた。すなわち, なり,激しく雷が発生した。この結果, 6月上・中旬 1.火災気温,火災湿度,火災風速,火災風向とも呼 頃の落雷で多くの森林が着火された。 べるもので,それぞれ約2 5℃以上, 5 0%以下,5m/s 2.火災は6月1 2日頃のやや乾燥した南南東の風で 以上,東北東風(アラスカでは Chinook,フェーン 徐々に活発化,ホットスポットとして検知され始め 現象)である。風向以外はシベリアでも共通である。 た。 2.火災発生の予知では,気象予報の中でも,雷発生 3.6月1 9日頃から東北東風(Chinook)による高温 と落雷位置の早期検知が重要である。このため, ・低湿度の条件下で,急激に火災が活発化,ホット MODIS 衛星画像の逐次監視や,航空機による雷雲 (7) ―8― の挙動の監視が重要である。 論文集,Vol. 5 5,No. 1,pp. 1 ‐ 9,2 0 0 5. 2)谷,福田,大規模森林火災が及ぼす環境への影響, 5.結論 自然災害科学,J.JSNDA, 2 3 ‐ 3,pp. 3 1 5 ‐ 3 4 7,2 0 0 4. 2 0 0 4年のアラスカ大森林火災を,衛星と気象データ 3)早坂,アラスカの森林火災と雷の最近の傾向,日 を基に詳細に検討し,火災の経過と原因を明らかにし 本火災学会論文集,Vol. 5 3,No. 1,pp. 1 7 ‐ 2 2,2 0 0 3. た。この結果,アラスカの森林火災の特徴として,火 4)早坂,橋本,花薗,アラスカの森林火災と雷の最 災が一旦,雷の着火により始まってしまうと,多少の 近の傾向,平成1 4年度日本火災学会研究発表会概 降雨では消えないこと, 6〜8月に火災に適した気象条 要集,pp. 1 8 6 ‐ 1 8 9,2 0 0 2. 件が整う度に,激しく燃えることなどがわかった。ま 5)早坂,橋本,橋場,関岡,アラスカの森林火災, た,本論文で提示した,CAD を使ってのホットスポ 第3 9回日本伝熱シンポジウム講演論文集,pp. 2 6 5 ットから焼損面積を算出する手法は,アラスカのよう ‐ 2 6 6,2 0 0 2. な広大な森林地帯で同時多発する火災の挙動を把握す 6)早坂,橋本,橋場,関岡,アラスカの雷,第3 9回 るのに,有効な方法と言える。 日 本 伝 熱 シ ン ポ ジ ウ ム 講 演 論 文 集,pp. 2 6 7 ‐ 2 6 8,2 0 0 2. 謝辞 7)早坂,橋本,橋場,関岡,アラスカの森林火災と 最後に,本研究の一部は,文部科学省環境プロジェ 雷,第3 9回日本伝熱シンポジウム講演論文集, クト(人・自然・地球共生) , (独)宇宙航空研究開発 pp. 2 7 3 ‐ 2 7 4,2 0 0 2. 機 構 地 球 観 測 利 用 推 進 セ ン タ ー(EORC/JAXA)の 8)Alaska Fire Service, http : //fire. ak.blm.gov/ 「IARC/JAXA 北極圏研究」 ,文部科学省環境プロジェ 9)NASA,MODIS Rapid Response Project, http : //rapidクト,人・自然・地球共生プロジェクト(新世紀重点 fire.sci.gsfc.nasa.gov/gallery/ 研究創生プラン) ,陸域生態系モデル作成のためのパ 1 0)USDA (United States Department of Agriculture), ラメタリゼーションの関する研究,の各支援を受けた。 Forest Service, http : //activefiremaps.fs.fed. us/cusここに付記して,謝意を表す。 tomProducts2.php 1 1)National Inter-agency Fire Center, http : //www.nifc. 参考文献 gov/ index. Html 1)早坂,木村,工藤,サハ共和国における森林火災 1 2)University of Alaska Fairbanks, http : //www.gi.alaska. の最近の傾向と2 0 0 2年大規模火災,日本火災学会 edu/ (8)