Blood
& Vessel
1975-5
6:
367
將 集・脳出血の治 療
脳 出 血急 性 期 の診 断 と内科 的治 療*
東
Key
儀
words:
英
夫**亀
山
diagnosis,
treatment,
hemorrhage.
正
邦**
intracerebral
は, そ のす べ て に つ い て羅 列 的 に ふ れ る こ とは
緒
言
避 け, か な り意 識 障 害 の強 い患 者 の神 経 学 的 診
脳 卒 中 の患 者 を診 た 際 に, 第 一 にな す べ き こ
とはvitalsignの
察 の要 点 を のべ る1)〜5).
チ ェ ッ クで あ り, 緊 急 を要 す
1.
意識障害
る徴 候 を認 めた な らば, まず そ の 対 策 を講 じな
まず 意 識 障 害 の程 度 をみ る. 傾 眠 状 態 で簡 単
くて は な らない. 第 二 に病 変 の 性 質 と部位 を知
な 命 令 に応 ず る程 度 か ら, 呼 び か け に応 じ て開
る こ とで あ る. この 場 合, 脳 出血, 脳 硬 塞, ク モ
眼 す るの み の 場 合, 呼 び か け に も応 じな い が 疹
膜 下 出 血 な ど を鑑別 す る こ とが必 要 で あ る が,
痛刺 激 を与 え る と反 応 す る場 合, 痙 痛 刺 激 に も
それ 以 前 に低 血糖, 脱 水 症 な ど脳 に器 質 的 病 変
ま った く反 応 しな い深 い 昏 睡 ま で種 々の段 階 が
を有 さず, 一 見脳 卒 中 に似 た症 状 を呈 す る症 例
あ る. 最 近 太 田 ら20)は, 意 識 障 害 の 程度 を簡 単
が 少 な くな い こ とに も留 意 す る必 要 が あ る. 病
な指 標 を用 い て9段 階 に分 け る こ と を提 案 して
変 の 部位 診 断 は外 科 的 治 療 を行 な う場 合 に重 要
い る(表1).
で あ る こ とは もち ろ ん で あ るが, 内 科 的 治 療 で
障 害 の 深 さ を あ る程 度 客 観 的 に表 示 し うる点 が
経 過 を み る方 針 を とる場 合 に も, そ の 後 の症 状
の変 化 に適 切 に対 応 して ゆ く上 で きわ め て重 要
長所 で あ る.
2.
こ の方 法 は実 用 的 で あ り, 意 識
症 状 のlaterality
で あ る. 内科 的 治 療 を行 な うに 際 して は, 適 切
つ ぎに病 変 が 大 脳 半 球 に あ る の か, あ る い は,
な輸 液, ス テ ロイ ド剤使 用 の適 否, 合 併 症 の予
視 床, 脳 幹 部, 小 脳 に あ る のか を知 る上 で重 要
防 と対 策 な ど, 種 々の 問題 が生 じる.
な こ とは, 片 麻 痺, あ るい は 症 状 のlaterality
本 稿 で は, 脳 出血 急 性 期 患 者 の診 断 と治 療 に
の有 無 で あ る. 意 識 障 害 が比 較 的 軽 い場 合 に は,
つ い て のべ た あ と, 症 例 を あ げ て具 体 的 な考 察
刺 激 を与 え て そ れ に対 す る手 足 の 動 か し方 をみ
を加 え る.
て い る と, 片 麻 痺 の有 無 が わ か る. 意 識 障 害 の
強 い 患 者 で は仰 臥 位 の状 態 で両 上 肢 ま た は両 下
1. 神 経学 的診 察
肢 を持 ち上 げ, 同 時 に放 す と麻 痺 側 で は落 下 が
脳 卒 中患 者 の診 察 に あた って は, 脈搏, 血 圧,
体 温, 眼底 所 見, 全 身 の理 学 的所 見 な どを み た
急 速 で あ る(armdroPPingtest,
legdroPPing
test). 脳 卒 中急 性 期 に は麻 痺 側 で筋 緊 張 が低 下
あ と, 患 者 の意 識 状態 に応 じて可 能 な か ぎ り詳
して い る こ とが 多 い. した が っ て麻 痺 側 の 下肢
細 に神 経 学 的 診 察 を行 な う必 要 が あ る. こ こで
は 外旋 し, 大腿 部 の 筋 が 弛 緩 し反 対 側 よ り幅 広
*Diagnosis
**Hideo
ogy,
and
TOHGI,
Tokyo
treatment
and
of
Masakuni
Metropolitan
intracerebral
hemorrhage.
KAMEYAMA:
Geriatric
東 京 都 養 育 院 付 属 病 院 神 経 科;
Hosptal,
Tokyo,
‑21‑
Japan.
Depertment
of
Neurol‑
6:
368
血 液 と 脈 管 第6巻
表1
く見 え る(Breites
Bein).
第5号
意 識 障 害 レベ ル の分 類 法(太 田 ら20)によ る)
意 識 障 害 患 者 で顔 面
る い は小 脳 の病 変 で あれ ば 病巣 と反 対 側(す
な
茎状 突起 や 眼窩
わ ち片麻 痺 と同 側)へ の 共 同偏 視 を示 す. 視 床
上 縁 の 三 叉 神 経 の 出 口 を 圧 迫 す る と顔 を し か め
出 血 の 際 に は, 眼 球 が 内 下方 に偏 位 す る のが 特
る の で,
徴 的 で あ る6).
神 経 麻 痺 の 有 無 を み る際 に は,
そ の 左 右 差 を み る こ と に よ り可 能 で あ
る. 腱 反 射,
Babinski徴
技 もlateralityを
候,
Marie‑Foixの
手
患 者 の頭 を被 動 的 に左 右 上 下 に 回転 させると,
見 出 す の に役 に 立 つ. 顔1面神
脳 幹 部 に障 害 が な い場 合 に は回 転 方 向 と逆 向 き
経 麻 琿万 側 と, 他 の 神 経 症 状 のlateralityの 関
に 眼球 が 反 射 的 に 動 く (oculocephalic reflex,
係 か らも病 変 部 位 を診 断 し うる. 大 脳 半 球 病 変
doll's eye movement).
で は 中 枢 性顔 面神 経 麻 痺 が あ り, 病 変 と反 対 側
害 と脳 幹 部 障 害 の鑑 別 に重 要 で あ る. ま れ な現
に あ る. 小 脳, 橋 病 変 で は 末 梢 性 麻 痺 で あ り,
象 で あ るが, 眼 球 が 下 方 に 急 に 落 下 しゆ っ く り
病 変 と同側 の麻 痺 が み られ る.
と上 方 に 戻 る運 動(ocular
3.
眼症 状
こ の反 射 は 大 脳 半球 障
bobbing)は,
橋出
血 に特 徴 的 とい わ れ て い る.
深 い昏 睡 状 態 の場 合 に は, 大 脳 半 球 の 障 害 で
瞼 裂 の 左右 差 に も注 意 を要 す る. 安 静 時 に観
あ っ て も症 状 に左 右 差 を認 め難 くな り, 診 断 の
察 す る と, 麻 痺側 の方 が や や大 き くまつ げ が 目
手 掛 りを つ か む こ とが 困難 とな る. この よ うな
立 ち, 上 眼 瞼 を持 ち上 げ て放 す と麻 痺 側 で は 上
場 合 に は眼 症 状 か ら貴 重 な情 報 を うる こ とが少
眼 瞼 の 下 降 が遅 く, 完 全 に 閉 じない. しか し逆
な くない. テ ン ト切 痕 ヘ ル ニ ア に よ る動 眼 神 経
に麻 痺側 で, む しろ 眼 瞼裂 が小 さ く意識 障 害 が
障 害 では 瞳 孔 不 同 が 出 現 す る. 両 側 瞳 孔 の縮 小
軽 い場 合 に は, 開眼 を命 ず る と開 眼 が不 十 分 な
(pinpoint pupil)
は 橋 出 血 に特 徴 的 で あ る.
視 床 出 血 で も瞳 孔 は縮 小 す る こ とが 多 く, しば
場 合 もあ る. 左 方 ま た は右 方 か ら患者 の 目に急
に物 を近 づ け て瞬 目反 射 を観 察 す る. 左 右 差 の
しば 左右 不 同 とな る. 対 光 反 射 が 減 弱 また は 消
あ る場 合 に は 半 旨 の 可能 性 が あ る.
失 す る場 合 に は 中脳 病 変 を意 味 す る. 頸 部 ま た
は前 胸 部 に 強 い 痙痛 を 与 え る と瞳 孔 散 大 を きた
す反 射(ciliospinal reflex)
に左 右 差 が あ る場
4.
呼吸運動
呼 吸運 動 の観 察 は病 変 の部 位 と患 者 の予 後 を
知 る上 に重 要 で あ る. Cheyne‑Stokes呼
吸は両
合 は重 要 な所 見 で あ る. この反 射 の局 所 診 断上
の意 味 づ け に は問 題 が残 され て い る が, こ の反
側 大 脳 半球, あ るい は間 脳 の 障 害 で 出現 し, 橋,
射 の消 失 は脳 幹 部 障 害 を示 す とい われ て い る.
中脳 下 部, 橋 上 部 の 障 害 を示 し,失 調 性 呼 吸 は延
つ ぎ に眼 球 の位 置 を観 察 す る. 共 同 偏 視 が あ
延 髄 に は 障 害 が な い こ とを意 味 す る. 過 呼 吸 は
る場 合 に は, そ の 方 向 と他 の神 経 症 状 との関 係
髄 障害 で 出現 す る. 最 近, Leeら が脳 硬 塞 例 に
つ い て検 討 した 結 果 に よ る と, 正 常呼 吸 を示 し
か ら病 変 部 位 を診 断 し うる.典 型 的 な場 合 に は,
た もの は,片 側 大脳 半球 硬 塞 例 に もっ と も多 く,
大 脳 半球 に病 変 が あ れ ば 眼 球 は 病 巣 側(す
両 側 大 脳 半 球 硬 塞 が これ に つ ぎ, 脳 幹 部 硬 塞 で
ち片 麻 痺 と反 対 側)へ
なわ
の 共 同偏 視 を示 し, 橋 あ
‑22‑
は1例 もみ られ な か った. ま たCheyne‑Stokes
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& Vessel
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6:
369
呼 吸 は両 側 大 脳 半 球硬 塞 例 に も っ と も多 い が,
発 作 か ら脳 血 管 写 施 行 ま で の期 間, 動 脈硬 化,
片 側 大 脳 半 球 硬 塞 あ るい は脳 幹 部硬 塞 例 で もか
血 圧, 糖 尿病 の有 無 な どは, そ の頻 度 に影 響 を
な りの症 例 にみ られ た とい う23).脳 幹 部 硬 塞 で
お よ ぼ さな い8).
は頻呼 吸 の例 が 多 い. 熊 田, 田崎 ら22)も, 呼 吸
は積 極 的 に, か つ慎 重 に行 うべ きで あ ろ う.
数 が25/分
を越 え る症例 は予 後 が わ るい とのべ
3.
脳
した が って適 応 の あ る患 者 に
波
脳 波 は病 変 部 位 の診 断 に参 考 に な る. しか し
て い る.
II. 検
脳 血 管 障害 で は脳 腫 瘍 の場 合 に くらべ る と脳 波
査
上 の 異 常所 見 がdiffuseで
患 者 を診 察 した あ と, あ るい は これ と並行 し
あ り, 局 所 的 な異 常
を示 す こ とが 比較 的少 な い. 脳 血 管 障 害 で は発
て種 々 の検 査 を行 な う. 内 科 的検 査 と して は,
症 が急 激 で あ り, 大 脳 半 球 障 害 の 場 合 に は反 対
血 液, 尿, 生 化 学, 頭 頸 部, 胸 腹 部 レ ン トゲ ン
側 に も血 流 障 害 が お よび, 意 識 障 害 を きた す こ
写 真, 心 電 図 な どが 必 要 で あ る. これ らの検 査
と もそ の理 由 の一 つ で あ ろ う. ま た 血 管 障 害 で
成 績 は, も し発 作 前 の 成 績 と比較 し うる場 合 に
は 比較 的深 部 に 起 る こ とが 多 い こ と も, 脳 波 に
は さ らに有 効 で あ る. 脳 障 害 の 性 質 と局 在 を知
局 所 的 異 常所 見 を 示 し難 い理 由に あ げ られ る.
るた め に腰 椎 穿 刺, 脳 血 管 写, 脳 波検 査 な どを
わ れ わ れ が剖 検所 見 と対 比 して 検討 した と ころ
行 な う. 以 下 これ ら神 経 学 的 検査 の 意 義 に つ い
に よ る と, 脳 出 血 で は 外 側 型 で も っ と も局所 的
て の べ る.
異 常 が 出現 しや す く, 内 側 型 で も っ と も出現 し
1.
腰椎穿刺
に く く, 混 合 型 で は 両 者 の 中 間 で あ った. 硬 塞
脳卒 中患 者 に腰 椎 穿 刺 を行 な う主 要 な 目的 は
で も皮 質 硬 塞, と くに 中 大 脳 動 脈領 域 の 皮 質 硬:
脳 出 血, ク モ膜 下 出 血 と脳 硬 塞 の 鑑 別 に あ る.
塞 で は 深 部 の 硬 塞 よ りも局 所 的 異 常 所 見 の 出 現
す な わ ち, 髄 液 圧 と髄 液 が 清 澄 か あ るい は 血性
頻度 が 高 か った.
な い しは キ サ ン トク ロ ミー か をみ れ ば, そ の 目
脳 幹 部 障 害 で は, 深 い 昏 睡 に もか かわ らず 脳
的 は ほ とん ど達 せ られ た とい え る. した が って
波 で は α波 が比 較 的 に よ く保 た れ てい た り, 低
重 篤 な 患 者 で は か な らず し も髄 液 を採 取 しな く
振 幅 速 波 を呈 す る こ とが あ り, 部 位 診 断 上 重 要
て も よ く, 圧棒 中 の髄 液 の高 さ と性 状 を観 察 す
で あ る.
る のみ で と どめ る. と くに血 性 の髄 液 が急速 に
圧 棒 を上 昇 す る場 合 に は直 ち に抜 去 す る. しか
III.鑑 別 診 断
し患 者 が 危 険 な 状態 で な い場 合 に は充 分 量 の髄
脳 卒 中 の鑑 別 に際 して第 一 に注 意 しな くては
液 を採 取 して, 蛋 白, 細 胞 数, 糖 を検 索 し, 必
な らない 点 は脳 出 血, 脳 硬 塞 以 外 の疾 患 を見 落
要 な らば細胞 診 も行 な うべ き で あ る. 髄 膜 炎,
さ な い こ とで あ る. 老 人 専 門病 院 に お け る われ
転 移 性 あ るい は 原発 性脳 腫 瘍 が卒 中様 の発 症 を
われ の経 験 に よ る と, 脳 卒 中 と診 断 され や す い
示 す こ とが あ るか らで あ る.
疾 患 は, 硬 膜 下 血 腫, 脳 腫 瘍, 髄 膜 炎 お よ び低
2.
血管写
血 糖, 脱 水 に よ る急 激 な意 識 水 準 の低 下 な どで
脳 卒 中患 者 に 脳 血管 写 を行 な う 目的 は, 脳 腫
あ る. と くに低 血 糖 が 多 い.
瘍, 硬 膜 下 血 腫 な ど,脳 出 血, 脳 硬 塞 以 外 の疾 患
抗 糖 尿 病 剤 の投 与 を受 け て い る糖 尿病 患 者 が
で あ る可 能 性 が あ るの で, そ の 有 無 をみ る こ と,
低 血 糖 を起 し, 意 識 障 害 に お ち い る こ とは しば
第 二 に脳 出 血 の部位 とそ れ に よ る脳 実 質 の偏 位
しば経 験 され る. こ の場 合, 冷 汗, 頻脈, 低 体 温 な
あ る い は脳 血 管 閉 塞部 位 と側 副 血 行 路, 脳 動 脈,
ど典 型 的 症 状 を示 さな い こ と も少 な くな い. 老
脳 動 静 脈 奇 形 の有 無 な ど を検 索 す る こ と に あ
年 者 で は古 い片 麻 痺 が あ った り, も と も と片 麻
る. 老 年 者 に脳 血 管 写 を行 な う場 合 の合 併 症 と
痺 が な くて も脳 に小 さな病 変 が あ る場 合 に は そ
して, 一 過 性 の意 識低 下, 軽 度 の発 熱 な どをみ
れ が神 経 症 状 と して現 わ れ て くる こ とが あ り,
る こ とが あ る. わ れ わ れ の経 験 に よ る と, 卒 中
誤 診 の原 因 に な る.
‑23‑
した が って, 神 経 症 状 に
6:
370
血 液 と 脈 管 第6巻
表2
第5号
脳 出血, 脳 血 栓, 脳塞 栓 の鑑 別(亀 山, 田崎21)に よ る)
lateralityが な い 場 合 は も ち ろ ん, lateralityを
認 め る場 合 に も血 糖 値 の チ ェックは重 要 で あ る.
老 年 者 で は容 易 に脱 水 を起 し, しか も 自覚 症
一 は, 脳卒 中患 者 の 腰 椎 穿刺 は患 者 の状 態 がわ
る く, 体位 を充 分 に 変 え られ な い状 態 で行 な う
た めtraumatic
tapを 行 い や す く, 髄 液 が血 性
状 を訴 え な い た め, 周 囲 の者 が気 づ かず 急 速 に
で あ って もそ の 結 果 に 自信 が持 て な い こ とが あ
意 識 障 害 を起 す こ とが あ る. 糖 尿病 患 者 が脱 水
る場 合 で あ る. さ らに 髄液 が血 性 で あ る場 合 に
状 態 に な り, non‑ketotic hyperosmikar
coma
も, 脳 出 血, 出 血 性 硬 塞, ク モ膜 下 出血 の三 者
の鑑 別 が 問題 に な る. また, 髄液 が清 澄 で あ っ
を呈 す る例 もあ る.
硬 膜 下 血 腫, 脳 腫 瘍 が, あ た か も脳 血 管 障 害
て も, 脳 出 血, クモ 膜 下 出 血 の可 能 性 を完 全 に
の よ うな発 症 を示 す 例 が あ る こ とは す で に の べ
否 定 す る根 拠 に は な りえな い. と くに視 床 出一
血,
た7). 老 年者 で はspace‑taking
lesionが あ って
小 脳 出 血 な ど, 症 状 にlateralityが 乏 しい場 合
も, うっ血 乳 頭, 頭 痛 な どの脳 圧 充 進 症 状 を示 す
に クモ 膜 下 出 血 との鑑 別 が 困難 とな る. 大 脳 半
こ とは む しろ少 な い の で注 意 す る必 要 が あ る.
球, 橋 ・小 脳 出 血 の鑑 別 は, 神 経 学 的 診 察 と種
以 上 の諸 疾 患 を否 定 した あ とで, は じめ て脳
々 の検査 所 見 を参 考 に して行 な う.
出血, 脳 硬 塞, ク モ膜 下 出血 の鑑 別 が 問題 に な
る. 原 則 的 な事 項 は表2に 示 した が21), 実 際 上
鑑 別 の 困難 な場 合 が少 な くな い. そ の原 因 の第
‑24‑
IV. 治
療
脳 卒 中急 性期 の 患 者 に 対 して まず なす べ き こ
Blood & Vessel
1975-5
6:
とは, 気 道 の 確保, 血 圧 の管 理 で あ る が, 尿 閉
ン投 与 時 に起 りや す い. 中 枢 性 に 高Na血
に も注 意 を要 す る. 膀 胱 の充 満 は しば しば血 圧
きた す こ と もあ る とい わ れ て い る.
の 上 昇, 不穏 の原 因 に な っ て い る. 治 療 に関 し
一 方, 低Na血
371
症を
症 は, 混 合 性脱 水 で 水 分 の み を
て述 べ るべ き問題 は 多岐 に わ た る が, ここ では
与 え た場 合 に み られ る こ とが も っ と も多 い が,
輸 液, 脳 浮 腫 に 対 す る ス テ ロイ ドの効 果, 降 圧
高 血 糖, 高 脂 血 症, 高 蛋 白血 症, 高 窒 素 血 症 な
剤 な ど を と りあ げ る.
どの場 合 に, 細 胞 内 か ら細 胞 外 へ水 が移 動 し,
1.
輸
液
細 胞 外 液 が稀 釈 され て血 清Na値
脳 卒 中 患者 に み られ る脱 水 に は種 々 の ものが
と も少 な くな い. ADH分
drome
あ る.
第 一 は水 分 欠 乏性 脱 水 症 で あ り, 意 識 障 害 や
of inappropriate
SIADH18)19))で
が低 下 す る こ
泌 異 常症 候 群(Syn‑
secretion of ADH
も低Na血
症 が起 る.
嚥 下 障 害 の た め, 水 分 の経 口摂 取 が不 可 能 か あ
な お 低K血 症 は嘔 吐 や 下 痢 で起 るこ とが多 い.
るい は不 充 分 な場 合 にみ られ る. 脳 卒 中患 者 で
老 年 者 で は容 易 に低K血 症 を きた し. しか も心
は, 発 熱, 発 汗 過 多, 過 呼 吸 を伴 な うこ とが 多
電 図 な どに そ の徴 候 を あ ま り示 さな い.
く, レス ピ レー タ ー を使 用 す る な どに よ り水 分
以 上 の よ うに, 脳 卒 中患 者 は種 々 の体 液 異 常
欠 乏 性脱 水 症 は さ らに助 長 され る. と くに 老年
を起 し うるの で あ り, 血 清 電 解 質, Hb,
者 で は細 胞 内液 量 が も と も と少 ない た め, 脱 水
尿 素 窒 素, 尿 量, 水 分 投 与 量, 体 温 を常 に チ ェ
Ht,
症 を起 しや す い. 口渇, 皮 膚 ・口腔 粘 膜, 舌 の
ッ ク し, 適 切 な輸 液 を行 な う必 要 が あ る. 同 時
乾 燥, 体 温 上 昇 な どの症 状 を呈 し, 検 査所 見 で
に, 部 屋 の温 度, 湿 度 も考 慮 に入 れ てお くべ きで
は血 清 電 解質, 尿 素 窒 素, Hb値,
あ る. 輸 液 は脱 水 や 電 解 質 の ア ンバ ラ ン ス を防
Ht値 の上 昇
ぎ, あ る い は是 正 す る た め に行 な うの で あ るが,
を示 し, 尿量 は い ち じ る し く減 少 す る.
第 二 は混 合 性 脱 水 症 で あ り, 大 量 の 発 汗 や経
同 時 に 脳浮 腫 や 脳 圧 充 進 を起 こ した り助 長 しな
管 栄 養 患 者 に よ くみ られ る下痢 に よって出現 し,
い よ うに 注 意 す る必 要 が あ る. した が っ ては じ
血 漿量 減少 のた め に循 環 不 全 に お ち い りやす い.
め に は 輸 液 量 は や や 少 な め にす る よ う心 が け る
第 三 はNa欠
乏 性脱 水 症 で あ る. これ は混 合
の が よく,体 重 に もよ る が1日1, 000〜1, 500mlあ
性 脱 水 症 に際 し, 水 分 を補 給 して電 解 質 を与 え
るい は発 熱 ・発 汗 ・多 尿 の 場 合 に は1, 500〜2, 000
な い場 合 に起 る. す な わ ち不 適 切 な治 療 の結 果
mlと す る. 速 度 は ゆ っ く り と行 ない, 2, 000m1
で あ る. この 場合 に は, 血 清Na,
の点 滴 な らば持 続 点 滴 あ るい は そ れ に近 い速 度
Clが 低 下 し,
嘔 吐, 痙 攣 な どの水 中毒 の症 状 や, 頻 脈, 血 圧
が望 ま し く, 心 肺 へ の負 荷 が か か らな い よ うに
低 下 な ど循 環 不全 の症 状 が 出現 す る.
注 意 す る. 電 解 質 の一 日の必 要 量 はNa 60mEq,
老 年 者 では脱 水 の み で も意 識 障 害, 発 熱 を き
た し, しか も 口渇 を訴 え る こ とが少 な くない の
K50mEqと
され て お り, これ を満 た す よ うに種
々 の製 品 を組 み合 わせ て与 え る. ブ ドウ糖 は1
で,脳 卒 中 とま ちが え られ る こ とが 少 な くな い.
目最 低100gは 必 要 で あ るが, 経 口投 与 が可 能 で
したが っ て初 診 時 に は最 近2,
あれ ば経 口的 に よ り多 く投 与 す べ きで あ る.
3日 間 の食 事,
水 分摂 取 状 況 を聴 取 し, 脱 水 症 の可 能 性 を考 慮
2.
ス テ ロ イ ドホ ルモ ン
してお く必 要 が あ る. ま た, 脳 卒 中 で あ っ て も
脳 出 血, 脳 硬 塞 の急 性 期 に しば しば み られ る
脱 水 症 の 合併 に よ り, 意 識 レベ ル が脳 卒 中そ の
脳 浮 腫 に対 して ス テ ロイ ドホル モ ン が有 効 か否
もの に よ る以上 に低 下 してい る こ と もあ る.
か に つい て は, 報 告 に よ り結 果 が 異 な る9). そ の
高Na血 症 も脳 卒 中患 者 に しば しばみ られ る.
理 由 と して は, (1)ステ ロイ ドホ ル モ ンが 明 らか
そ の も っ と も多 い原 因 は高 張 性 脱 水 に よ る もの
に無 効 とは い え な い現 状 に お い て, 脳 浮 腫 の存
で あ るが, そ の他 に非 ケ トン性 高 滲 透 圧 性高 血
在 が明 らか な多 数 の症 例 に対 し, 完 全 な二 重 盲
糖 に よ る もの が あ る. これ は老 年 の糖 尿 病 患 者
検 法 を行 な うこ とが 困難 で あ る こ と, (2)二重 盲
が 高 度 の脱 水 を伴 な った 場 合 や 副 腎 皮 質 ホル モ
検 法 を行 な う場 合 に も実 薬 群 と偽 薬 群 を互 い に
‑25‑
6:
372
血 液 と 脈 管 第6巻
(a)入 院 直 後
図1
(b)2500ml導
第5号
尿 後.
脳 卒 中 の症 例 で尿 閉 の た め著 明 な腹 部膨 隆 を きた した もの.
比 較 し うる よ うな ほ ぼ等 しい症 例 で構 成 す る こ
ロ イ ド使 用 に よ る非 ケ トン 性 高 滲 透 圧 性 昏 睡 に
とが 困難 で あ る こ とな どが あ げ られ る.
も 注 意 す る 必 要 が あ る.
二重 盲検 法 に よっ て検 討 した報 告 に つ い て み
る と, Pattenら10)はdexamethasoneの
効果 を
実 際 に 使 用 す る に あ た っ て はTooleら13)は
キ サ メ サ ゾ ン1日16mgを6時
デ
間 毎 に4mgつ
つ
脳 出血, 脳 硬 塞 の両 者 を含 む症 例 群 に つ い て検
投 与 す る こ と を す す め て い る が,
日本 人 で 老 年
討 し,推 計 学 的 に有 効 で あ る と結 論 してい るが,
者 の 場 合 に は,
し, 抗 潰 瘍 剤
実 薬群 と偽 薬 群 の 聞 に症 例 の か た よ りが あ り,
を 併 用 し な が ら慎 重 に 投 与 す べ き で あ ろ う.
1日8〜12mgと
偽 薬群 に脳 出 血 が含 まれ て い る と い う 点 で 問
3.
題 が あ る. 一方, Bauerら11)は
止 血 剤 が 脳 出 血,
脳 硬 塞 例 に,
止血 剤
ク モ 膜 下 出 血に 有 効 で あ る
Tellezら12)は 脳 出 血例 に つ い て検 討 し, い ず れ
か に つ い て 検 討 し た 報 告 は あ ま りな い が,
ル チ ン,
ビ タ ミ ンC,
ア ド
も推 計 学 的 に 有 意 の 差 が ない との べ て い る. わ
レ ノ ク ロ ー ム 剤,
凝 固促
れ わ れ が剖 検 で診 断 を確 認 しえ た 症例 に つ い て
進 剤, 抗 プ ラ ス ミ ン剤 な ど を 使 用 す る こ と が あ
竹 越 が ま とめ た 結果 に よ る と14), 出血 例 で は病
る.
初 の意 識 障 害 が 比較 的軽 度 で あ った症 例 に お い
4.
て のみ, 一 過 性 の意 識 水 準 の回復 が み られ た に
血 管拡 張剤 は脳 循 環 障害 の改 善 を 目的 に用 い
血 管拡 張 剤
す ぎ ない. 剖 検 例 を対 象 に した 場 合 に は成 績 が
られ る の で あ る が,
悪 い のは 当 然 で あ り, 臨 床 例 に つ い て も検 討 す
困 難 で あ る ば か りで な く, 急 性 期 に は む し ろ 正
る必 要 が あ るが, 重 症 の 脳 卒 中 に は ス テ ロ イ ド
常 脳 組 織 の 血 流 を 増 し, 病 変 部 の 血 流 を 減 少 さ
ホル モ ンの 効果 は期 待 しが た い とい え る.
せ る よ うに 働 くた め(luxury‑perfusion
以 上 の よ うに 脳 腫 瘍 に く らべ て 脳卒 中 に 対 す
ome)16)か
臨床 的 に そ の効 果 の 判 定 が
syndr‑
え って 逆効 果 を まね くこ と もあ る と
る ス テ ロイ ドホル モ ンの 効 果 に は 問題 が残 され
い わ れ て い る,
てい るが, 一 方 で は ス テ ロイ ドが 有 効 で あ る と
は 発 作 後2〜3週
思 わ れ る個 々の 症 例 を経 験 す る こ と も少 な くな
血 管 拡 張剤 を用 い る とすれ ば これ 以 後 に 用 い る
い. これ が 単 な る 自然 経 過 で あ った の か 否 か
べ き で あ る.
5.
は, 今 後 さ らに 検討 す る必 要 が あ ろ う.
Luxury‑perfusion
syndrome
間 に 起 る と さ れ て い る の で,
脳 代謝賦活剤
意 識 障 害 の 改 善 を 目 的 と し て チ トク ロ ー ム,
副 作 用 と して は 消 化 管 出 血 が も っ と も多 い.
統 計 的 に は ステ ロイ ド使 用 例 の 方 が, 非 使 用 例
ル シ ド リー ル,
よ りも消 化 管 出 血 の 頻 度 が低 い とす る もの もあ
とが 少 な く な い.
CDP‑cholineな
どを用 い る こ
るが15), 老 年者 で は ス テ ロイ ド使 用 に よ り容 易
6.
に消 化 管 出 血 を きた す よ うで あ る. また, ステ
高 血 圧 を 伴 な う脳 出 血 急 性 期 の 患 者 はauto‑
‑26‑
降圧剤
Blood
& Vessel
1975-5
6:
regulationが 障害 され てい るた め, 急 激 な血 圧
は 上 下 肢 で 充 進 し右>左,
降 下 を行 な うべ き で は ない. 収 縮 期 血 圧240mm
Hg程
度 で あ れ ば そ の ま ま経 過 をみ るべ きで あ
左(‑),
Marie‑Foix両
る とす る もの もあ る. しか しMeyerら17)は,
1)一
般 検 査(入
530mg/dl,
し生 存 率 が 良 い こ とを示 して い る. レ セル ピ ン,
蛋 白(+++),
便:
ク ロール プ ロマ ジ ン な どに よ り, 収 縮 期 血 圧
学:
200mmHg以
GOT20,
白 血 球10, 000,
mg/dl,
例
断 と治 療 上 の問題 を具 体 的 に考 察 す る.
〔症 例 〕
GPT
76才, 女(Y‑1785).
LDH227,
3)脳
血清生化
尿素窒
ク レ ア ナ ニ ン4. 1mg/dl,
K4.0mEq/1,
液 検 査:
10月5日,
尿 酸9.2
Cl
108mEq/1.
圧40mmH
20,
蛋 白33mg/dl,
波:
キ
細胞 数
と ん ど赤 血 球), 糖65mg/dl.
細 胞 数62/3(リ
尿
常0〜35).
A1‑Pase30,
日, キ サ ソ トク ロ ミ ー(‑),
時, 掃 除 中急 に右 片 麻 痺, 言 語 障 害 が 出 現 し,約
尿 糖(++),
CPK321U(正
サ ン トク ロ ミ ー(+),
2mg/dl,
血 小 板24. 3×104,
FDP×40.
グ ァ ヤ ッ ク 反 応(+).
7,
10, 11/3(ほ
50才 頃 よ り高 血圧 を指 摘 され て い た. 57才 の
く 左).
赤 血 球267×104,
29/dl.
Na148mEq/1,
2)髄
こ こ で症 例 を呈 示 して脳 出血 急 性 期 患 者 の診
Hb8.
総 蛋 白6. 99/dl,
素71. 9mg/dl,
V. 症
側(+)(右
院 時):
fibrinogen
れ る.
候 右(+)
検 査 成 績:
高 血圧 を伴 な う頭 蓋 内 出 血 の発 作 時 に は 降圧 剤
に よ って一
血圧 を適 切 に維持 した 方 が 対 照 群 に比
下 に維 持 す るの が望 ま しい と思 わ
Babinski徴
373
10月16
圧90mmH2O,
蛋 白57.
ン パ 球1. 9, 好 中 球43).
10月7日:
7〜9c/s
slow
α wave
1週 間 で回 復 した こ とが あ る. こ の時 意 識 障 害
を 基 礎 律 動 と し, β 波 の 混 入 を 認 め る. β 波 は
は な か った とい う.1973年3月,
左 半 球 に よ り多 い.
高 血 圧 の精 査 の
た め 当院 に入 院, 血 圧220〜260/80〜100,
見 はKeith‑Wagener皿
素27〜62mg/dl,
眼底所
度, 尿 蛋 白(帯), 尿 素 窒
ク レアチ ニ ン2. 4〜2. 7mg/dl,
尿 酸7. 2〜8. 3mg/d1な
どの所 見 を認 めた. 減塩
10月29日:
slow
α‑waveに
θ波 の 混 入 を 認 め る. θ波 は 右 半 球 に よ り多 い.
10月29日:
slow
α‑waveに
多 量 に 認 め る. θ波,
θ波,
δ波 の 混 入 を
δ波 は 右 半 球 に よ り多 い.
入 院 後 経 過: 意 識 状 態 は10月12日
頃 ま で に徐
食 と降 圧剤 を投 与 した が 血 圧 は190〜250/90〜
々 に 改 善 し, 呼 名 反 応 が わ ず か に 出 現 し, 左 方
100と 高 値 を示 した.
へ の 共 同 偏 視,
後 方 へ の 頸 の 伸 展 な どは 消失 し
た. Babinski徴
候 は 両 側 に 出 現 す る よ うに な っ
1974年10月3日
午 後10時 頃, 就 眠 中急 に 嘔吐
し, か け つ け る とま った く反 応 が な か った. 右
上 下肢 にFlockenlesenを
認 め, 翌 朝 午 前2時
頃 ま で頻 回 に嘔 吐 した. 10月4日 午 後3時
た.
そ の 後,
当科
mg/dlと
に入 院.
入 院 時 現 症: 血 圧260/118,
呼 吸18/分 整, 尿 閉(500ml),
脈博78/分
整,
喀 疫 を 多 量 に 排 出 す る よ うに な り両
下 肢 に 浮 腫 が 出 現 し た. 10月15日
す る こ と に よ り, 正 常 に 復 し た. 10月21日
疹 痛 刺 激 に対 して
顔 を しか め る. 左方 へ の共 同 偏 視 がみ られ, 時 々
り貧 血 が 進 行 し(Hb
りgastic
erosionを
5. 99/dl),
認 め た.
正 中位 ま で動 くこ とが あ る. 眼 球 が上 下 方 向 に
計2, 400mlの
不 規 則 に緩 徐 に動 くこ と もあ る. doll's eyemo‑
vementを 行 な う と, 左右 上下 に動 く. 瞳 孔 正 円
復 し た.
同大(直 径 約3mm)対
剤 を 投 与 し た. 10月27日
両 側(+),
tendencyを
頃, 尿 酸12〜15
上 昇 し た が 点 滴 中 の ビ タ ミ ンCを 中 止
光 反 射 正 常, 角 膜 反 射
中 枢性 の左 顔 面 神 経 麻 痺 あ り, oral
認 め る. 頸 は後 方 に の け ぞ る よ う
に伸 展 し, 右 上 下肢 に捜 衣 模 装 あ り, 左 上 下 肢
輸一
血 を 行 な い, Hb
10月25日
の 弛 張 熱 が 出 現,
(131〜158mg/dl),
み られ,
8. 09/dlま
な お, 10月7日
で回
浮 腫 も高 度 と な っ た た め 利 尿
よ り尿 素 窒 素 の 上 昇
ト リ ウ ム 血 症(173〜180mEq/1)と
正 常, 左 上 肢 弛 緩 性, 左 下 肢 軽度 の痙 性, 腱 反 射
総
よ り肺 炎 を 併 発 し, 38〜390C
低 蛋 白 血 症(5.
K3. 6〜4. 8mEq/1,
‑27‑
胃 内視 鏡 に よ
貧 血 に 対 し,
褥 創 が 出 現 し た. 11月2日
は ま った く動 か さず 伸展 位 を とる. 筋 緊 張 は右
頃よ
69/dl)が
よ り, 高 ナ
な っ た.
Cl111〜115mEq/lで
あ っ た.
心 電 図 上V1‑V3にSTの
上昇が
6: 374
血 液 と 脈 管 第6巻
図3呈
図2
呈 示 した 症 例 の 出 脳 血 発 作 後4日
V1‑V3でSTの
上 昇 を認 め る.
目の 心 電 図.
図4
呈示 した症 例 の 剖 検 所 見. 右 外 側 型 出血(a. b)左
硬 塞 巣(c)を 認 め る.
(a)
み られ(図2),
V4〜V6でST下
二昇,
(c)
GPT69,
左 線 状 体 の古 い 硬 塞(a), 右 小 脳 に古 い
530g), 食 道 下 部1/3お
よび 直腸 にerosuinが
あ
腎動 脈 硬 化 が著 明 で あ った. 大 脳 で は右 前 障,
LDH333,
上 昇 傾 向 を 示 し た, 11月10日
視 床 出血(b),
り, 胃 の粘 膜 出血 を認 めた. 肺 水 腫 と うっ血,
降 が 認 め られ た(図3)‑11月7日
頃 の 血 清 酵 素 はGOT120,
CPK45と
示 した症 例 の脳 出血 発 作 後35日 目の心 電 図.
VIV2でST上
昇. V4‑V6でST下
降 を認 め る.
(b)
11,月7日 に はV1・V2でSTの
第5号
大 量 の嘔
被 殻 を 中心 とす る外 側 型 出 血, 左視 床 の 出血 を
吐 が あ り死 亡 した, 末 期 に お け る 血 小 板 数 は3I. 7
認 め た. そ の ほ か に, 左 線 条 体, 左 前頭 葉 に 点
×104, fibrinogen428mg/dl,
状 出血, 後 頭 葉 白質 に小 硬 塞, 右 小 脳 の上 小 脳
剖 検 所 見(4図):
FDP×10で
あ っ た‑
著 明 な 左 室 肥 大(心
重量
‑28‑
動脈 の領 域 に古 い硬 塞 がみ られ た.
Blood
& Vessel
1975-5
6:
375
考 察: こ の症 例 には脳 出血 急 性期 の診 断 と治
な い. 本 例 で は ス テ ロイ ドを使 用 しな か った が,
療 の上 で しば しば 問題 に な る点 が数 多 く含 まれ
消 化 管 の大 出 血 を き た し,直接 の死 因 とな った.
て い る.
結
まず 診 断 につ い て み る と, 左 片 麻 痺 と眼 球 の
語
左 方 へ の共 同 偏 視 が あ り, 大 脳 半 球 病 変 と して
脳 出 血 の診 断 と内 科 的 治 療 に つ い て, 急 性 期
は典 型 的 で ない. しか もか な り強 い意 識 障 害 に
を 中心 に のべ た. 脳 出 血 は き わ め て多 い疾 患 で
もか か わ らず 脳 波 の 変化 は少 な く と も初 期に は
あ る が, そ の診 断 が 困難 で あ る こ とが少 な くな
比 較 的 軽 度 で あ り, 脳 幹 部 病 変 の可 能 性も 老 身
い. 治 療 面 に お い て も, 疑 問 の余 地 の な い有 効
られ た. しか し脳 幹部 障害 で 明 らか な片 麻 痺 を
な手 段 とい え る もの は少 な い. した が って個 々
み る こ と は まれ で あ り, 眼 球 の共 同偏 視 は か な
の症 例 に応 じた 対 策 を講iずる こ とに な る.
らず しも大 脳 半 球 の病 巣 側 を 向 く とは限 らない
脳 出 血 例 に は も と も と心, 腎 は じめ全 身 臓 器
点 か ら右 大 脳半 球 の病 変 と診 断 され た. 意 識 障
に な ん らか の問 題 を有 して い る症 例 が多 く, 発
害 が 強 く, 嘔 吐 を頻回 に く りか え し, 髄 液 に キ
作 後 も種 々 の合 併 症 を併 発 す る. した が っ て全
サ ン トロ ミー を認 め た こ とか ら脳 出 血 と診 断 さ
身 疾 患 と して管 理 す る必 要 が あ る.
れ た. しか し本 例 に は57才 の時 に脳 卒 中 の既 往
症例 の主治医清水輝夫学士, 心電 図所見 について
が あ り, 大 硬塞 を疑 う もの もあ っ た. 剖 検 では
御意見 をいただいた大川真一郎 医長, 図1を 提 さ供
左 片 麻 痺 の原 因 と考 え られ る右 外 側 型 出血 を認
れた稲松孝思学士 の御好意 に深謝致 します.
めた が, 左視 床 出血 を伴 ない, 古 い 硬 塞 巣 もみ
文
られ, これ らが複 雑 に臨 床 症 状 を修 飾 した もの
と思 わ れ る.
つ ぎ に発 作 後 の治 療 と経 過 をみ る と, 最 初1
日1,000mlの
1) McNealy,
dysfunction
輸 液 を行 な って い た が, 浮 腫 が 著
明 に な った た め, 輸 液 量 を 減 少 して1日200〜
300mlと
して利 尿剤 を投 与 した. 末 期 に高 ナ ト
リウ ム血 症 が 出現 した の は, 低 蛋 白血 症 に よ る
循 環 血 液 量 の減 少, 輸 液 量 の制 限, 利 尿 剤 の使
Arch.
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stupor
献
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用, 発 熱 な ど種 々 の要 因 に よ る もの と思 わ れ る.
経 過 中, 血 中 の 尿酸 値 が 上 昇 した が, 点 滴 中 の
ビ タ ミンCを 中止 す る こ と に よ り低 下 した. ビ
4) Reeves, A. G. and Posner.
られ て い るが, こ の例 の よ うに腎 障 害 を伴 な う
場 合 に は と くに注 意 を要 す る.
Vol. 45. Suppl.
る もの が あ り, 心 筋 硬 塞 が 併 発 した の か否 か の
判 断 に迷 うこ とが あ る. こ の症 例 で も血 清 酵 素
が 上 昇 し, 心筋 硬 塞 の合 併 が問 題 に な った が,
例 の心 電 図所 見 は経 過 中 か な り変 動 して お り,
著 明 な心 筋 の肥 大 と貧 血 のた め に, 心 筋 が相 対
的 に虚 血 状態 に 陥 り, そ の た め の心 電 図 異 常 と
考 え られ た.
脳 卒 中 患者 に消 化 管 出 血 をみ る こ と もまれ で
‑29‑
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