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成長を見据える中堅企業が、世界で戦えるビジネスモデルへと転換 Fit to Standardによる業務改革からリアルタイム経営管理 SAP S/4HANAで攻めと守りのDXを実現したオプテックス

自動ドアセンサーや屋外用侵入検知センサーなどで世界トップシェアを誇る、「ニッチトップメーカー」のオプテックス(本社・滋賀県大津市)。リーマンショックによる創業以来初めての大幅な減収減益をきっかけに、自社の潜在的経営課題に気付いた同社代表取締役社長の上村透氏は、ビジネスの効率化と抜本的なビジネスモデル変革を決断し、SAP のERPであるSAP S/4HANAを導入。ビジネスモデルを世界で戦える仕様へと転換した。上村氏が攻めと守りのDXの切り札としてSAPを選んだ理由とは?

リーマンショックをきっかけに、
潜在的な経営課題に気付く

日本一の面積を誇る琵琶湖。そのほとりに立つ、白く大きな建物がオプテックスの本社だ。同社の創業は1979年。各種センサーの企画・開発・販売を主な事業として、45年の歴史を歩んできた。

一般にはあまり社名が知られていないかもしれないが、オプテックスの製品は、日本のあらゆる場所、そして、世界中の人々の身近な場所に存在している。

「1980年に遠赤外線を利用した世界初の自動ドアセンサーを開発しました。それまでの自動ドアは床に敷いたマットを踏むとスイッチが入る方式でしたが、遠赤外線センサーを利用して非接触で開閉する方法を、世界で初めて開発したのです」

そう語るのは、同社代表取締役社長の上村 透氏である。

オプテックス 代表取締役社長 上村 透 氏

オプテックス
代表取締役社長

上村 透

オプテックスは、不審者などの侵入を検知する侵入検知センサー、商業施設の来店者数などを数える人数カウントセンサー、駐車場への車両の入退場を検知する車両検知センサーなど、様々なシーンや用途に用いられるセンサーを世に送り出してきた。

驚くべきは、その製品の大半が世界トップクラスのシェアを誇っていることだ。創業当初から提供している自動ドアセンサーは、世界シェアは約30%、国内シェアに至っては約50%を握る。屋外侵入検知センサーも世界シェア約40%、防犯カメラによる夜間撮影を補助するカメラ補助LED照明は世界シェア約50%と圧倒的である。

同社のセンサーは今や世界中で約3000万台が稼働、様々な場所で人々の安心・安全・快適を支えている。

オプテックス製品展示イメージ

オプテックス本社1階の出入り口やエントランス、会議スペースには、これまで同社が手掛けてきた歴代のセンサー製品群が展示されている

「従業員数が約630人と、メーカーとしては中堅・中小規模ですが、ニッチな市場で世界一になることを目指し、グローバルに事業を展開しています」と上村氏は胸を張る。

現在では、世界14の国と地域に製造・販売拠点を置き、世界80カ国以上で製品を販売。売上高252億円(2023年度)と、創業から45年で事業規模も大きく拡大した。

しかし、その歩んできた道は、決して平坦だったわけではない。大きな試練にさらされたのが、2008年のリーマンショックである。

「衝撃はあまりにも大きく、創業30年目にして初の大幅な減収減益となりました。しかし、そこで気付いたのが、我々自身の問題です。リーマンショックの影響は確かに大きかったけれど、その衝撃に耐えられなかったのは、自分たちが潜在的な経営課題を抱えているからではないかと思い至ったのです」と上村氏は明かす。

オプテックス社屋プロムナード オプテックス社屋と琵琶湖 働き方イメージ

魅力ある職場づくりを推し進めているオプテックス。外観、内観共に意図を持ってデザインされたオフィスが、社員の働くモチベーションを加速させる。社員が固定席を持たない、いわゆるフリーアドレス制やオフィスカジュアルを積極導入し、風通しの良い職場環境の下、上村氏をはじめとするトップ層と社員の交流が盛んに行われている

2008年の当時、オプテックスが抱えていた課題とは――。それは、大きく分けて2つであった。

1つは、国ごとや業務ごとにシステムが分散していたこと。もう1つは、マーケティングや営業を代理店に依存するビジネスモデルを採用してきたことである。

創業以来、グローバルに事業を拡大したオプテックスは、1つ、また1つと国内外に拠点を増やしていった。その都度、拠点ごとにシステムを構築し、拠点内の業務が最適化する仕組みを作り上げた結果、拠点間や、全社としての情報共有を阻む“壁”ができてしまったのだ。

「拠点ごとの受注や、生産状況、どれだけ在庫を抱えているのか? といった現状が見えにくく、会社全体を見通しての経営判断が困難な状況でした。そのため、リーマンショックによる需要の急変に迅速に対応できず、業績が大幅に落ち込んでしまったのです」と上村氏は当時を振り返る。

また、各拠点が利用するシステムの中には、かなり以前に導入したものも多く、必ずしも効率的なシステムばかりではなかった。そこで上村氏は、「拠点ごとにバラバラに導入・運用されているシステムを一元化し、最新のシステムにすることでグローバルに業務のデジタル化と標準化を推進したい」と考えた。

これが1つ目の課題を解決する方策、すなわち「グローバル業務改革」である。

オプテックスはこれと並行して、もう1つの課題を解決する「ビジネスモデル変革」にも着手した。

リーマンショックで売り上げが落ち込んだのは、市場・需要の変化をダイレクトにつかめていなかったことが大きな原因だ。マーケティングや営業を代理店に依存していては、市場・ユーザーの動向に関する情報を間接的にしか得られないので、市場・需要が急変してもタイムリーな善後策を打てない。

そこで上村氏は、マーケティングや営業は自分たちで行い、それを代理店につなぐ「ダイレクトマーケティング」という新たなビジネスモデルを構築することにした。

「直接お客様を訪ねて“お困りごと”をうかがい、それを解決するためのソリューションを提案するビジネスモデルへの転換を目指しました。自分たちで動けば、新たな顧客やニーズの掘り起こしもできると考えたからです」と上村氏は語る。

このビジネスモデルを実践するためにも、グローバルで共通化されたシステム基盤が不可欠だ。どの市場で、どんな製品やソリューションが求められているのか、といったニーズをタイムリーにキャッチできれば、スピード感のある施策を打てるからである。

オプテックスは、守りのDXである「グローバル業務改革」を「Inner DX」、攻めのDXである「ビジネスモデル変革」を「Business DX」と名付け、この2つを同時に進めていくために、クラウドサーバーの利用、電子申請・電子押印、オンライン会議・リモートワーク対応、ペーパーレス化など、様々なデジタル化に着手してきた。

そして、このグローバルの業務改革で「一番コアの改革」(上村氏)となったのが、サプライチェーンの改革である。

「グローバルでビジネスをしていますが、我々の作っているモノは小さく、集中的に作って配ったほうが消費地で作るよりも効率が良い。ただ、中国で作って世界中に船で配送すると、リードタイムが極めて長い。これではあまりにも効率が悪いため、欧州と米国、日本、香港に拠点となるハブ倉庫を設けました。ここからお届けすれば、2~3日でお客様の元に届きます。しかし、この配送を管理するには、管理するための仕組みがいります」(上村氏)

これに伴って、オプテックスは全社の基幹業務システム(ERP)を導入するプロジェクトを2011年に始動させた。その後、サプライチェーンだけでなくすべてのデータを一元管理し、同社が攻めと守りのDXを実現するため、2018年にSAPのERPシステム「SAP S/4HANA」を選定したのである。