以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書に示す各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
また、以下では、一例として、溶融金属が溶鋼である実施形態について説明する。ただし、本発明はかかる例に限定されず、本発明は、他の金属に対する連続鋳造に対して適用されてもよい。
<1.連続鋳造機>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機1の構成及び連続鋳造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る連続鋳造機1の一構成例を概略的に示す側断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型110を用いて溶鋼2を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、鋳型110と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型110の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型110に向けて下方に延び、その先端は鋳型110内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型110内に連続供給する。
鋳型110は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板(後述する図2等に示す長辺鋳型板111に対応する)で一対の短辺鋳型板(後述する図4等に示す短辺鋳型板112に対応する)を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板(以下、鋳型板と総称することがある)は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。鋳型110は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型110下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型110の下端から引き抜かれる。
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、鉛直方向)を、Z軸方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を、水平面内において鋳型110の長辺と平行な方向(すなわち、鋳型幅方向)として定義し、Y軸方向を、水平面内において鋳型110の短辺と平行な方向(すなわち、鋳型厚み方向)として定義する。X-Y平面と平行な方向のことを水平方向とも呼称する。また、以下の説明では、各部材の大きさを表現する際に、当該部材のZ軸方向の長さのことを高さともいい、当該部材のX軸方向又はY軸方向の長さのことを幅ともいうことがある。
ここで、図1では図面が煩雑になることを避けるために図示を省略しているが、本実施形態では、鋳型110の長辺鋳型板の外側面に電磁力発生装置が設置される。そして、当該電磁力発生装置を駆動させながら連続鋳造を行う。当該電磁力発生装置は、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を備えるものである。本実施形態では、当該電磁力発生装置を駆動させながら連続鋳造を行うことにより、鋳片の品質を確保しつつ、より高速での鋳造が可能になる。当該電磁力発生装置の構成については、図2~図17を参照して後述する。
二次冷却装置7は、鋳型110の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型110下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型110の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機と呼称される。なお、本発明は、図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型110の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型110から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型110から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図1では左下側の面)とL面(Loose面、図1では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の全体構成について説明した。なお、本実施形態では、鋳型110に対して後述する構成を有する電磁力発生装置が設置され、当該電磁力発生装置を用いて連続鋳造が行われればよく、連続鋳造機1における当該電磁力発生装置以外の構成は、一般的な従来の連続鋳造機と同様であってよい。従って、連続鋳造機1の構成は図示したものに限定されず、連続鋳造機1としては、あらゆる構成のものが用いられてよい。
<2.電磁力発生装置>
続いて、図2~図17を参照して、上述した鋳型110に対して設置される電磁力発生装置170について詳細に説明する。
図2~図5は、本実施形態に係る鋳型設備10の一構成例を示す図である。図2は、本実施形態に係る鋳型設備10のY-Z平面での断面図である。図3は、鋳型設備10の、図2に示すA-A断面での断面図である。図4は、鋳型設備10の、図3に示すB-B断面での断面図である。図5は、鋳型設備10の、図3に示すC-C断面での断面図である。なお、鋳型設備10は、Y軸方向において、鋳型110の中心に対して対称な構成を有するため、図2、図4及び図5では、一方の長辺鋳型板111に対応する部位のみを図示している。また、図2、図4及び図5では、理解を容易にするため、鋳型110内の溶鋼2も併せて図示している。
図2~図5を参照すると、本実施形態に係る鋳型設備10は、鋳型110の長辺鋳型板111の外側面に、バックアッププレート121を介して、2つの水箱130、140と、電磁力発生装置170と、が設置されて構成される。
鋳型110は、上述したように、一対の長辺鋳型板111で一対の短辺鋳型板112を両側から挟むように組み立てられる。鋳型板111、112は銅板からなる。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、鋳型板111、112は、一般的に連続鋳造機の鋳型として用いられる各種の材料によって形成されてよい。
ここで、本実施形態では、鉄鋼スラブの連続鋳造を対象としており、その鋳片サイズは、幅(すなわち、X軸方向の長さ)800~2300mm程度、厚み(すなわち、Y軸方向の長さ)200~300mm程度である。つまり、鋳型板111、112も、当該鋳片サイズに対応した大きさを有する。すなわち、長辺鋳型板111は、少なくとも鋳片3の幅800~2300mmよりも長いX軸方向の幅を有し、短辺鋳型板112は、鋳片3の厚み200~300mmと略同一のY軸方向の幅を有する。
また、本実施形態では、電磁力発生装置170による鋳片3の品質向上の効果をより効果的に得るために、Z軸方向の長さが可能な限り長くなるように鋳型110を構成する。一般的に、鋳型110内で溶鋼2の凝固が進行すると、凝固収縮のために鋳片3が鋳型110の内壁から離れてしまい、当該鋳片3の冷却が不十分になる場合があることが知られている。そのため、鋳型110の長さは、溶鋼湯面から、長くても1000mm程度が限界とされている。本実施形態では、かかる事情を考慮して、溶鋼湯面から鋳型板111、112の下端までの長さが1000mm程度となるように、当該鋳型板111、112を形成する。
バックアッププレート121、122は、例えばステンレスからなり、鋳型110の鋳型板111、112を補強するために、当該鋳型板111、112の外側面を覆うように設けられる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の外側面に設けられるバックアッププレート121のことを長辺側バックアッププレート121ともいい、短辺鋳型板112の外側面に設けられるバックアッププレート122のことを短辺側バックアッププレート122ともいう。
電磁力発生装置170は、長辺側バックアッププレート121を介して鋳型110内の溶鋼2に対して電磁力を付与するため、少なくとも長辺側バックアッププレート121は非磁性体(例えば、非磁性のステンレス等)によって形成され得る。ただし、長辺側バックアッププレート121の、後述する電磁ブレーキ装置160の鉄芯(コア)162(以下、電磁ブレーキコア162ともいう)のティース部164と対向する部位には、電磁ブレーキ装置160の磁束密度を確保するために、磁性体の軟鉄124が埋め込まれる。
長辺側バックアッププレート121には、更に、当該長辺側バックアッププレート121と垂直な方向(すなわち、Y軸方向)に向かって延伸する一対のバックアッププレート123が設けられる。図3~図5に示すように、この一対のバックアッププレート123の間に電磁力発生装置170が設置される。このように、バックアッププレート123は、電磁力発生装置170の幅(すなわち、X軸方向の長さ)、及びX軸方向の設置位置を規定し得るものである。換言すれば、電磁力発生装置170が鋳型110内の溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、バックアッププレート123の取り付け位置が決定される。以下、区別のため、当該バックアッププレート123のことを、幅方向バックアッププレート123ともいう。幅方向バックアッププレート123も、バックアッププレート121、122と同様に、例えばステンレスによって形成される。
水箱130、140は、鋳型110を冷却するための冷却水を貯水する。本実施形態では、図示するように、一方の水箱130を長辺鋳型板111の上端から所定の距離の領域に設置し、他方の水箱140を長辺鋳型板111の下端から所定の距離の領域に設置する。このように、水箱130、140を鋳型110の上部及び下部にそれぞれ設けることにより、当該水箱130、140の間に電磁力発生装置170を設置する空間を確保することが可能になる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の上部に設けられる水箱130のことを上部水箱130ともいい、長辺鋳型板111の下部に設けられる水箱140のことを下部水箱140ともいう。
長辺鋳型板111の内部、又は長辺鋳型板111と長辺側バックアッププレート121との間には、冷却水が通過する水路(図示せず)が形成される。当該水路は、水箱130、140まで延設されている。図示しないポンプによって、一方の水箱130、140から他方の水箱130、140に向かって(例えば、下部水箱140から上部水箱130に向かって)、当該水路を通過して冷却水が流される。これにより、長辺鋳型板111が冷却され、当該長辺鋳型板111を介して鋳型110内部の溶鋼2が冷却される。なお、図示は省略しているが、短辺鋳型板112に対しても、同様に、水箱及び水路が設けられ、冷却水が流動されることにより当該短辺鋳型板112が冷却される。
電磁力発生装置170は、電磁撹拌装置150と、電磁ブレーキ装置160と、を備える。図示するように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160は、水箱130、140の間の空間に設置される。当該空間内で、電磁撹拌装置150が上方に、電磁ブレーキ装置160が下方に設置される。なお、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における設置位置については、下記[2-2.電磁力発生装置の設置位置の詳細]で詳細に説明する。
電磁撹拌装置150は、鋳型110内の溶鋼2に対して、動磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。電磁撹拌装置150は、自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)の電磁力を溶鋼2に付与するように駆動される。図4には、電磁撹拌装置150によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を、模擬的に太線矢印で示している。ここで、図示を省略している長辺鋳型板111(すなわち、図示する長辺鋳型板111に対向する長辺鋳型板111)に設けられる電磁撹拌装置150は、その自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向に沿って、図示する方向とは逆向きの電磁力を付与するように駆動される。このように、一対の電磁撹拌装置150が、水平面内において旋回流を発生させるように駆動される。電磁撹拌装置150によれば、このような旋回流を生じさせることにより、凝固シェル界面における溶鋼2が流動され、凝固シェル3aへの気泡や介在物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。
電磁撹拌装置150の詳細な構成について説明する。電磁撹拌装置150は、ケース151と、当該ケース151内に格納される鉄芯(コア)152(以下、電磁撹拌コア152ともいう)と、当該電磁撹拌コア152に導線が巻回されて構成される複数のコイル153と、から構成される。
ケース151は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース151の大きさは、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース151のX軸方向の幅W4、すなわち電磁撹拌装置150のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向のいずれの位置においても電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。例えば、W4は1800mm~2500mm程度である。また、電磁撹拌装置150では、コイル153からケース151の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース151の材料としては、例えば非磁性体ステンレス又はFRP(Fiber Reinforced Plastics)等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な部材が用いられる。
電磁撹拌コア152は、略直方体形状を有する中実の部材であり、ケース151内において、その長手方向が長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)と略平行になるように設置される。電磁撹拌コア152は、例えば電磁鋼板を積層することにより形成される。
電磁撹拌コア152に対して、X軸方向を巻回軸方向として導線が巻回されることにより、コイル153が形成される(すなわち、電磁撹拌コア152をX軸方向に磁化するようにコイル153が形成される)。当該導線としては、例えば断面が10mm×10mmで、内部に直径5mm程度の冷却水路を有する銅製のものが用いられる。電流印加時には、当該冷却水路を用いて当該導線が冷却される。当該導線は、絶縁紙等によりその表層が絶縁処理されており、層状に巻回することが可能である。例えば、一のコイル153は、当該導線を2~4層程度巻回することにより形成される。同様の構成を有するコイル153が、X軸方向に所定の間隔を有して並列されて設けられる。
複数のコイル153のそれぞれには、図示しない電源装置が接続される。当該電源装置によって、電流の位相が複数のコイル153の配列順に適宜ずれるように、当該複数のコイル153に対して交流電流が印加されることにより、溶鋼2に対して旋回流を生じさせる電磁力が付与され得る。電源装置の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、コイル153のそれぞれに印加される交流電流の電流値、周波数及び位相等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。
電磁撹拌コア152のX軸方向の幅W1は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W1は1800mm程度である。また、電磁撹拌コア152は、例えば、その上端が溶鋼湯面と一致するように設置され、電磁撹拌コア152の高さH1は、後述するように、例えば、250mm程度である。
電磁ブレーキ装置160は、鋳型110内の溶鋼2に対して静磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。ここで、図6は、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2の吐出流に対して付与される電磁力の方向について説明するための図である。図6では、鋳型110及び浸漬ノズル6のX-Z平面での断面が概略的に図示されている。また、図6では、電磁撹拌コア152、及び後述する電磁ブレーキコア162のティース部164の位置が模擬的に破線で示されている。
図6に示すように、浸漬ノズル6には、X軸方向(すなわち鋳型幅方向)における両側に溶鋼2の吐出孔61が一対設けられる。吐出孔61は、短辺鋳型板112と対向し、浸漬ノズル6の内周面側から外周面側へ亘ってこの方向に進むにつれて下方に傾斜して設けられる。電磁ブレーキ装置160は、浸漬ノズル6の吐出孔61からの溶鋼2の流れ(吐出流)を制動する方向の電磁力を、吐出流に対して付与するように駆動される。図6では、吐出流の方向が模擬的に細線矢印で示されるとともに、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向が模擬的に太線矢印で示されている。電磁ブレーキ装置160によれば、このような吐出流を制動する方向の電磁力を生じさせることにより、下降流が抑制され、気泡や介在物の浮上分離を促進する効果が得られ、鋳片3の内質を良化させることができる。
電磁ブレーキ装置160の詳細な構成について説明する。電磁ブレーキ装置160は、ケース161と、当該ケース161内に格納される電磁ブレーキコア162と、当該電磁ブレーキコア162に導線が巻回されて構成される複数のコイル163と、から構成される。
ケース161は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース161の大きさは、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース161のX軸方向の幅W4、すなわち電磁ブレーキ装置160のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向の所望の位置において電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。図示する例では、ケース161の幅W4は、ケース151の幅W4と略同様である。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、電磁撹拌装置150の幅と電磁ブレーキ装置160の幅は異なっていてもよい。
また、電磁ブレーキ装置160では、コイル163からケース161の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース161は、ケース151と同様に、例えば非磁性体ステンレス又はFRP等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な材料によって形成される。
電磁ブレーキコア162は、略直方体形状を有する中実の部材であってコイル163がそれぞれ巻回される一対のティース部164と、同じく略直方体形状を有する中実の部材であって当該一対のティース部164を連結する連結部165と、から構成される。電磁ブレーキコア162は、連結部165から、Y軸方向であって長辺鋳型板111に向かう方向に突出するように一対のティース部164が設けられて構成される。電磁ブレーキコア162は、例えば、磁気特性の高い軟鉄を用いて形成されてもよいし、電磁鋼板を積層することにより形成されてもよい。
具体的には、ティース部164は、X軸方向における浸漬ノズル6の両側に長辺鋳型板111と対向して一対設けられ、このような電磁ブレーキ装置160が、鋳型110における一対の長辺鋳型板111の各々の外側面にそれぞれ設置される。ティース部164の設置位置は、溶鋼2に対して電磁力を付与したい位置、すなわち浸漬ノズル6の一対の吐出孔61からの吐出流がそれぞれコイル163によって磁場が印加される領域を通過するような位置に設けられ得る(図6も参照)。
電磁ブレーキコア162のティース部164に対して、Y軸方向を巻回軸方向として導線が巻回されることにより、コイル163が形成される(すなわち、電磁ブレーキコア162をY軸方向に磁化するようにコイル163が形成される)。当該コイル163の構造は、上述した電磁撹拌装置150のコイル153と同様である。
コイル163のそれぞれには、図示しない電源装置が接続される。当該電源装置によって、各コイル163に直流電流が印加されることにより、溶鋼2に対して吐出流の勢いを弱めるような電磁力が付与され得る。なお、当該電源装置の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、各コイル163に印加する電流量等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。
電磁ブレーキコア162のX軸方向の幅W0、ティース部164のX軸方向の幅W2、及びX軸方向におけるティース部164間の距離W3は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W0は1600mm程度、W2は500mm程度、W3は350mm程度である。また、電磁ブレーキコア162は、例えば、その上端の上下位置が溶鋼湯面から500mm程度の間隔を空けた位置になるように設置され、電磁ブレーキコア162の高さH2は、後述するように、例えば、200mm程度である。
ここで、例えば上記特許文献1に記載の技術のように、電磁ブレーキ装置としては、単独の磁極を有し、鋳型幅方向に一様な磁場を生じさせるものが存在する。かかる構成を有する電磁ブレーキ装置では、幅方向に一様な電磁力が付与されることとなるため、電磁力が付与される範囲を詳細に制御することができず、適切な鋳造条件が限られるという欠点がある。
これに対して、本実施形態では、上記のように、2つのティース部164を有するように、すなわち2つの磁極を有するように、電磁ブレーキ装置160が構成される。かかる構成によれば、例えば、電磁ブレーキ装置160を駆動する際に、これら2つの磁極がそれぞれN極及びS極として機能し、X軸方向(すなわち、鋳型幅方向)の略中心近傍の領域において磁束密度が略ゼロとなるように、上記制御装置によってコイル163への電流の印加を制御することができる。この磁束密度が略ゼロである領域は、溶鋼2に対して電磁力がほぼ付与されない領域であり、電磁ブレーキ装置160による制動力から解放されたいわば溶鋼流れの逃げが確保され得る領域である。かかる領域が確保されることにより、より幅広い鋳造条件に対応することが可能となる。
上記のように、本実施形態では、上述した電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を備える電磁力発生装置170を用いた連続鋳造方法を実施することができる。
本実施形態に係る連続鋳造方法では、電磁撹拌装置150によって鋳型110内の溶鋼2に対して水平面内において旋回流を発生させる電磁力を付与するとともに、電磁撹拌装置150よりも下方に設置される電磁ブレーキ装置160によって鋳型110内への浸漬ノズル6からの溶鋼2の吐出流に対して当該吐出流を制動する電磁力を付与しながら連続鋳造が行われる。
さらに、本実施形態に係る連続鋳造方法は、鋳型110内にダミーバーヘッドを設置した状態で鋳造を開始する鋳造開始工程を含むものであり、当該鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の鉄芯(つまり、電磁ブレーキコア162)の下端に、ダミーバーヘッドの上端が到達した以後に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始する。本実施形態では、このように鋳造開始工程における電磁力発生装置170による電磁力の付与の開始タイミングを適正化することによって、連続鋳造を適切に開始することが可能となる。
[2-1.鋳造開始工程の詳細]
続いて、上述した電磁力発生装置170が設置された連続鋳造機1における鋳造開始工程について詳細に説明する。
鋳造開始工程では、上述したように、鋳型110内にダミーバーヘッド50が設置された状態で鋳造が開始される。
図7は、鋳造開始工程におけるダミーバーヘッド50の設置時点での上下位置を示す図である。
例えば、図7に示すように、ダミーバーヘッド50は、その上端が電磁ブレーキコア162の下端よりも上側に位置するように設置される。
ダミーバーヘッド50は、略直方体形状を有しており、鋳型110の内周面に全周に亘って嵌合されるように鋳型110内に設置される。それにより、鋳型110内にダミーバーヘッド50が設置された状態において、鋳型110の底部がダミーバーヘッド50によって、形成される。また、ダミーバーヘッド50の上部におけるY方向の一側(具体的には、連続鋳造機1の二次冷却帯9の水平部9Cにおいて下側となる側)には、ダミーバーヘッド50が引き抜かれる過程で凝固シェル3aと係合するための切り欠き部51が形成されている。なお、切り欠き部51の形状は図7に示す例に特に限定されない。
ここで、ダミーバーヘッド50は、磁性を有する材料によって形成されている。このことは、仮にステンレスなどの磁性を有さない材料によってダミーバーヘッド50を形成した場合、多様な鋼種の鋳造が繰り返し行われることに起因して、溶鋼2が凝固してダミーバーヘッド50に付着することや、ダミーバーヘッド50が変質して磁性を帯びてしまうこと等が生じ得ることによるものである。
鋳造開始工程では、鋳型110内にダミーバーヘッド50が設置された状態で鋳型110内に溶鋼2が注入され、その後、ダミーバーヘッド50の下方への引き抜きが開始される。詳細には、鋳型110内に溶鋼2が注入される前に、ダミーバーヘッド50と鋳型板111、112との間にシール性を高める目的で耐火物が埋められ、さらに、ダミーバーヘッド50の上面に溶鋼2の初期凝固の促進と安定化の目的で冷材と呼ばれる金属製の部材が設置される。
上述したように、鋳造開始工程では、電磁力発生装置170により鋳型110内の溶鋼2に電磁力が付与される際に、溶鋼2のみならずダミーバーヘッド50にも電磁力が作用する。ゆえに、電磁力発生装置170により生じる電磁力によりダミーバーヘッド50が鋳型板111、112に衝突することが抑制されるように、鋳造開始工程における電磁力発生装置170による電磁力の付与の開始タイミングを適正化することが重要である。
そこで、本件発明者は、実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーションを行うことによって、鋳造開始工程における電磁力発生装置170による電磁力の付与の開始タイミングに関し、以下に説明する知見を見出した。なお、本数値解析シミュレーションでは、電磁撹拌コア152の上端の上下位置を溶鋼湯面と一致する位置に設定し、電磁撹拌コア152の高さH1を250mmに設定し、電磁ブレーキコア162の上端の上下位置を溶鋼湯面から518mm下方の位置に設定し、電磁ブレーキコア162の高さH2を200mmに設定した。
(電磁撹拌装置による電磁力の付与の開始タイミング)
まず、図8~図12を参照し、電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始タイミングに関して得た知見について説明する。
上述したように、電磁撹拌装置150は、鋳型110内の溶鋼2に対して水平面内において旋回流を発生させる電磁力を付与する。電磁撹拌装置150によって発生する磁束密度は鋳型110内において三次元的に広がって分布するものの、旋回流を発生させる電磁力の大きさは、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1(具体的には、図7に示すように、長辺鋳型板111の内側の面)上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分に強く依存する。同様に、電磁撹拌装置150によってダミーバーヘッド50に作用する電磁力の大きさは、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分に強く依存する。なお、電磁撹拌装置150によって発生する磁束密度は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の電流値及び周波数に応じて変化する。
図8は、湯面からの距離と、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度との関係のシミュレーション結果を示す図である。なお、本明細書では、湯面からの距離は、溶鋼2の湯面より下方の上下位置の湯面までの距離を意味し、例えば、湯面からの距離が100mmである上下位置は、湯面より100mm下方の上下位置に相当する。
ここで、図8に示される各上下位置と対応する磁束密度は、具体的には、各上下位置において、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分をX軸方向(つまり、鋳型幅方向)に平均化した値である。なお、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分の値としては、具体的には、時間に伴い変化する当該成分の振幅が用いられる。また、図8に示されるシミュレーション結果は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の電流値及び周波数をそれぞれ680A及び1.5Hzとして算出されたものである。
図8に示すように、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度は、電磁撹拌コア152のZ軸方向の中心位置(つまり、湯面からの距離が125mmである上下位置)で最大値をとり、当該中心位置より下側では、下方に進むにつれて減少していく。
図9は、湯面からの距離と、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1近傍の導体に作用する電磁力の指標B2fとの関係のシミュレーション結果を示す図である。
ここで、一般に、電磁力は、磁束密度の振幅Bの二乗と周波数fとの積に比例することが知られている。ゆえに、図9に示される指標B2fは、具体的には、図8に示されるシミュレーション結果を振幅Bとして用い、周波数fとして1.5Hzを用いて算出されたものである。なお、図9では、電磁ブレーキ装置160があるものと設定した結果が実線により示されており、電磁ブレーキ装置160がないものと設定した結果が破線により示されている。
図9に示すように、指標B2fは、電磁撹拌コア152が設置されているZ軸方向の範囲(つまり、湯面からの距離が0mm~250mmである範囲)で1×10-2T2Hz程度の比較的高い値をとり、当該範囲より下側では、下方に進むにつれて減少していく。ここで、電磁ブレーキコア162が設定されているZ軸方向の範囲(つまり、湯面からの距離が518mm~718mmである範囲)では、指標B2fが、破線で示される電磁ブレーキ装置160がない場合と比較して、高くなっている。このことは、電磁撹拌装置150により発生する磁場によって電磁ブレーキコア162が磁化されることによるものと考えられる。
上記のように、指標B2fは、電磁ブレーキコア162が設定されているZ軸方向の範囲において電磁ブレーキコア162の磁化に起因して高くなるものの、電磁ブレーキコア162の下端の上下位置(つまり、湯面からの距離が718mmである上下位置)より下方では、十分に小さくなっている。例えば、電磁ブレーキコア162の下端の上下位置では、指標B2fは、1×10-5T2Hz程度となっており、電磁撹拌コア152が設置されているZ軸方向の範囲と比較して略1000分の1に低下している。さらに、湯面からの距離が800mmである上下位置では、指標B2fは、1×10-6T2Hz程度となっており、電磁撹拌コア152が設置されているZ軸方向の範囲と比較して略10000分の1に低下している。
ここで、電磁撹拌装置150により溶鋼2に作用する電磁力の最大値は、5000~15000N/m3程度である。溶鋼2の比重を7000kg/m3とし、重力加速度を9.8N/kgとすると、溶鋼2に作用する重力は略70000N/m3である。つまり、電磁撹拌装置150により溶鋼2に作用する電磁力は、溶鋼2に作用する重力の14分の1~5分の1程度である。ゆえに、電磁撹拌装置150により溶鋼2に作用する電磁力が最大値に対して略1000分の1に低下した場合は、1.0N/m3程度の非常に小さい電磁力が溶鋼2に作用する場合に相当する。さらに、電磁撹拌装置150により溶鋼2に作用する電磁力が最大値に対して略10000分の1に低下した場合は、0.1N/m3程度のさらに小さい電磁力が溶鋼2に作用する場合に相当する。
上述したように、電磁撹拌装置150によって発生する磁束密度は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の電流値及び周波数に応じて変化する。そこで、本件発明者は、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1近傍の導体に作用する電磁力に対して電流値及び周波数の変化が与える影響について調査した。
図10は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する電流の電流値を変化させた場合における、湯面からの距離と、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1近傍の導体に作用する電磁力の指標B2fとの関係を示す図である。図11は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する電流の周波数を変化させた場合における、湯面からの距離と、電磁撹拌装置150により鋳型110の内壁面P1近傍の導体に作用する電磁力の指標B2fとの関係を示す図である。
ここで、図10に示されるシミュレーション結果は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の周波数を1.5Hzとし、電流値を100A~740Aの範囲で段階的に変更して算出されたものである。また、図11に示されるシミュレーション結果は、電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の電流値を680Aとし、周波数を0.5Hz~5.0Hzの範囲で段階的に変更して算出されたものである。
図10によれば、電流値が大きくなるにつれて、各上下位置において指標B2fが高くなる傾向があることがわかる。また、図11によれば、周波数が大きくなるにつれて、各上下位置において指標B2fが高くなる傾向があることがわかる。指標B2fは、このように電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の電流値及び周波数に応じて変化するものの、図10及び図11に示すように、電流値及び周波数によらず、電磁ブレーキコア162の下端の上下位置(つまり、湯面からの距離が718mmである上下位置)より下方では、十分に小さくなっていることがわかる。具体的には、指標B2fは、図10及び図11に示すように、電流値及び周波数によらず、電磁ブレーキコア162の下端の上下位置では1×10-5T2Hz程度以下となっており、湯面からの距離が800mmである上下位置では1×10-6T2Hz程度以下となっている。
上記で説明したように、本数値解析シミュレーションによれば、指標B2fは、電磁ブレーキコア162の下端の上下位置(つまり、湯面からの距離が718mmである上下位置)より下方では十分に小さくなっているという知見が得られた。それにより、鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始することによって、電磁撹拌装置150により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制することができることが見出された。
図12は、鋳造開始工程における電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始される際のダミーバーヘッド50の上下位置を示す図である。
図7に示される状態から、ダミーバーヘッド50の下方への引き抜きが開始された後、ダミーバーヘッド50の上下位置は下降していく。この際、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与は行われていない状態となっている。そして、図12に示すように、電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始される。それにより、電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始に伴ってダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を生じさせる程度に大きな電磁力がダミーバーヘッド50に作用することを抑制することができる。ゆえに、電磁撹拌装置150により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制することができる。よって、電磁ブレーキ装置160及び電磁撹拌装置150を両方用いる連続鋳造において連続鋳造を適切に開始することができる。
ここで、連続鋳造を適切に開始しつつ、連続鋳造の歩留まりを向上させる観点では、鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端より280mm下方の上下位置にダミーバーヘッド50の上端が到達する以前に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始することが好ましく、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達したときに、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始することがより好ましい。図12では、ダミーバーヘッド50の上端の上下位置が電磁ブレーキコア162の下端の上下位置と一致した時点で電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始され、電磁撹拌装置150によって鋳型110の内壁面P1上に磁束密度B1が発生している様子が模式的に示されている。この場合、電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始される時点でのダミーバーヘッド50の上端の湯面からの距離L1は、例えば、電磁ブレーキコア162の位置及び寸法が上記数値解析シミュレーションと同条件のとき718mmとなる。
なお、電磁ブレーキコア162の下端より280mm下方の上下位置は、電磁ブレーキコア162の下端との上下方向の距離が厳密に280mmとなる位置には限られず、幅を有する範囲内の位置を意味し得る。例えば、電磁ブレーキコア162の下端より280mm下方の上下位置は、電磁ブレーキコア162の下端との上下方向の距離が厳密に280mmとなる位置に対して50mm上方の上下位置から50mm下方の上下位置の範囲内のいずれかの位置を意味してもよい。また、電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達したときは、ダミーバーヘッド50の上端の上下位置が電磁ブレーキコア162の下端の上下位置と厳密に一致した時点には限られず、幅を有する時間を意味し得る。例えば、電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達したときは、ダミーバーヘッド50の上端の上下位置が電磁ブレーキコア162の下端より50mm上方の上下位置に到達した時点から電磁ブレーキコア162の下端より50mm下方の上下位置に到達した時点までの間のいずれかの時点を意味してもよい。
上記のように、鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端より280mm下方の上下位置にダミーバーヘッド50の上端が到達する以前に(より好ましくは、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達したときに)、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始することによって、電磁撹拌装置150により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制しつつ、電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始タイミングを早めることができる。それにより、鋳造条件を早期に定常化させることができるので、クロップ長さを効果的に短くすることができる。ゆえに、連続鋳造の歩留まりを向上させることができる。
(電磁ブレーキ装置による電磁力の付与の開始タイミング)
次に、図13~図16を参照し、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始タイミングに関して得た知見について説明する。
上述したように、電磁ブレーキ装置160は、鋳型110内への浸漬ノズル6からの溶鋼2の吐出流に対して当該吐出流を制動する電磁力を付与する。電磁ブレーキ装置160によって発生する磁束密度は鋳型110内において三次元的に広がって分布するものの、吐出流を制動する電磁力の大きさは、電磁ブレーキ装置160により鋳型110内の鋳型厚み方向の中心位置P2(図7参照)に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分に強く依存する。ところで、ダミーバーヘッド50は、上述したように、鋳型110の内周面に全周に亘って嵌合されている。ゆえに、電磁ブレーキ装置160によってダミーバーヘッド50に作用する電磁力の大きさは、電磁ブレーキ装置160により鋳型110の内壁面P1(具体的には、図7に示すように、長辺鋳型板111の内側の面)上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分に強く依存する。なお、電磁ブレーキ装置160によって発生する磁束密度は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する直流電流の電流値に応じて変化する。
図13は、湯面からの距離と、電磁ブレーキ装置160により鋳型110の内壁面P1の評価線P3上に発生する磁束密度との関係のシミュレーション結果を示す図である。
ここで、電磁ブレーキ装置160により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分は、X軸方向に関しては、電磁ブレーキコア162のティース部164のX軸方向の中心位置において最大となる。評価線P3は、図6に示すように、鋳型110の内壁面P1上で電磁ブレーキコア162のティース部164の鋳型幅方向(つまり、X軸方向)の中心位置と対応する鋳型幅方向の位置を示す線である。図13に示される各上下位置と対応する磁束密度は、具体的には、このような評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分であり、つまり、電磁ブレーキ装置160により鋳型110の内壁面P1上に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分の各上下位置における最大値である。また、図13に示されるシミュレーション結果は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する直流電流の電流値を1000Aとして算出されたものである。
図13に示すように、電磁ブレーキ装置160により鋳型110の内壁面P1の評価線P3上に発生する磁束密度は、電磁ブレーキコア162が設置されているZ軸方向の範囲(つまり、湯面からの距離が518mm~718mmである範囲)で0.55T~0.60T程度の比較的高い値をとり、当該範囲より下側では、下方に進むにつれて減少していく。
ここで、発明者は、さらに実機試験を行うことによって、当該実機試験の結果及び数値解析シミュレーションの結果から、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.1Tとなる上下位置(以下、0.1T位置とも呼ぶ)又は当該上下位置より下方にダミーバーヘッド50の上端が位置している場合には、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によってダミーバーヘッド50が鋳型板111側に引き寄せられて鋳型板111に衝突する可能性は極めて低いことが見出された。なお、上記実機試験では、具体的には、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する直流電流の電流値を1000Aとし、ダミーバーヘッド50の上下位置を変化させながら電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を行った際のダミーバーヘッド50の動きを確認した。
例えば、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する直流電流の電流値が1000Aである場合、図13に示すように、0.1T位置は湯面からの距離が928mmの上下位置となっている。よって、湯面からの距離が928mmの上下位置又は当該上下位置より下方にダミーバーヘッド50の上端が位置している場合には、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によってダミーバーヘッド50が鋳型板111側に引き寄せられて鋳型板111に衝突する可能性は極めて低くなる。
上述したように、電磁ブレーキ装置160によって発生する磁束密度は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する直流電流の電流値に応じて変化する。そこで、本件発明者は、電磁ブレーキ装置160によって発生する磁束密度に対して電流値の変化が与える影響について調査した。
図14は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する電流の電流値と、電磁ブレーキ装置160により鋳型110内の鋳型厚み方向の中心位置P2に発生する磁束密度との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図14に示される磁束密度は、具体的には、電磁ブレーキ装置160により中心位置P2に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分の最大値である。
図14に示すように、電磁ブレーキ装置160により中心位置P2に発生する磁束密度は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する電流の電流値が大きくなるほど大きくなる傾向がある。ここで、所望の鋳片3の品質を保ちつつ高速安定操業を実現するためには、電磁ブレーキ装置160により中心位置P2に発生する磁束密度を、通常、0.2T以上にする必要がある。例えば、電磁ブレーキ装置160の電流値が200Aである場合、電磁ブレーキ装置160により中心位置P2に発生する磁束密度は、鋳片3の品質及び生産性を良好に維持する観点では比較的低い値(具体的には、略0.174T)となっている。一方、電磁ブレーキ装置160の電流値が300A以上である場合、電磁ブレーキ装置160により中心位置P2に発生する磁束密度が0.2T以上となっている。ゆえに、鋳片3の品質及び生産性を良好に維持する観点では、電磁ブレーキ装置160の電流値を300A以上にすることが望ましいと考えられる。
図15は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する電流の電流値と、0.1T位置の湯面からの距離との関係のシミュレーション結果を示す図である。
図15に示すように、0.1T位置の湯面からの距離は、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する電流の電流値が大きくなるほど長くなる傾向がある。しかしながら、電磁ブレーキ装置160のコイル163に印加する電流の電流値の変化が0.1T位置に与える影響は比較的小さく、例えば、電流値を300Aから1000Aまで変化させた場合の0.1T位置の変化量は100mm以下となっている。このことは、電磁ブレーキ装置160の電流値が鋳片3の品質及び生産性を良好に維持し得る程度の電流値(つまり、300A以上)になっている場合には、電磁ブレーキコア162が磁気飽和した状態となっていることによるものと考えられる。
上記で説明したように、本数値解析シミュレーションによれば、電磁ブレーキコア162の下端よりも下方の0.1T位置又は当該0.1T位置より下方にダミーバーヘッド50の上端が位置している場合には、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によってダミーバーヘッド50が鋳型板111側に引き寄せられて鋳型板111に衝突する可能性が極めて低くなるという知見が得られた。それにより、鋳造開始工程において、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始した後であって、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.1Tとなる上下位置(つまり、0.1T位置)にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を開始することによって、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111への衝突を抑制することができることが見出された。
図16は、鋳造開始工程における電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始される際のダミーバーヘッド50の上下位置を示す図である。
図12に示される状態から、ダミーバーヘッド50が下方へさらに引き抜かれることによって、ダミーバーヘッド50の上端は電磁ブレーキコア162の下端から下降していく。ここで、図16は、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が位置している状態を示している。本実施形態に係る鋳造開始工程では、電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始された後に、図16に示すように、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始される。それにより、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始に伴ってダミーバーヘッド50の鋳型板111への衝突を生じさせる程度に大きな電磁力がダミーバーヘッド50に作用することを抑制することができる。ゆえに、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111への衝突を抑制することができる。よって、電磁ブレーキ装置160及び電磁撹拌装置150を両方用いる連続鋳造において連続鋳造をさらに適切に開始することができる。
ここで、連続鋳造を適切に開始しつつ、連続鋳造の歩留まりを向上させる観点では、鋳造開始工程において、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始した後であって、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.02Tとなる上下位置(以下、0.02T位置とも呼ぶ)にダミーバーヘッド50の上端が到達する以前に、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を開始することが好ましく、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.1Tとなる上下位置にダミーバーヘッド50の上端が到達したときに、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を開始することがより好ましい。図16では、ダミーバーヘッド50の上端の上下位置が0.1T位置と一致した時点で電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始され、電磁ブレーキ装置160によって鋳型110の内壁面P1上に磁束密度B2がさらに発生している様子が模式的に示されている。この場合、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始される時点でのダミーバーヘッド50の上端の湯面からの距離L2は、例えば、電磁ブレーキ装置160の電流値が1000Aであり、電磁ブレーキコア162の位置及び寸法が上記数値解析シミュレーションと同条件のとき928mmとなる。
なお、0.02T位置は、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が厳密に0.02Tとなる上下位置には限られず、幅を有する範囲内の位置を意味し得る。例えば、0.02T位置は、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が厳密に0.02Tとなる上下位置に対して50mm上方の上下位置から50mm下方の上下位置の範囲内のいずれかの位置を意味してもよい。また、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達したときは、ダミーバーヘッド50の上端の上下位置が0.1T位置と厳密に一致した時点には限られず、幅を有する時間を意味し得る。例えば、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達したときは、ダミーバーヘッド50の上端の上下位置が0.1T位置より50mm上方の上下位置に到達した時点から0.1T位置より50mm下方の上下位置に到達した時点までの間のいずれかの時点を意味してもよい。
上記のように、鋳造開始工程において、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始した後であって、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.02Tとなる上下位置にダミーバーヘッド50の上端が到達する以前に(より好ましくは、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.1Tとなる上下位置にダミーバーヘッド50の上端が到達したときに)、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を開始することによって、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111への衝突を抑制しつつ、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始タイミングを早めることができる。それにより、鋳造条件を早期に定常化させることができるので、クロップ長さを効果的に短くすることができる。ゆえに、連続鋳造の歩留まりを向上させることができる。
[2-2.電磁力発生装置の設置位置の詳細]
電磁力発生装置170においては、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における設置位置を適切に設定することにより、鋳片3の品質をさらに向上させることができる。ここでは、電磁力発生装置170における、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の適切な高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における適切な設置位置について説明する。
電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160においては、それぞれ、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さが大きいほど、電磁力を付与する性能が高いと言える。例えば、電磁ブレーキ装置160の性能は、電磁ブレーキコア162のティース部164のX-Z平面での断面積(Z軸方向の高さH2×X軸方向の幅W2)と、印可する直流電流の値と、コイル163の巻き数と、に依存する。従って、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160をともに鋳型110に対して設置する場合には、限られた設置空間において、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の設置位置、より詳細には電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さの割合をどのように設定するかが、鋳片3の品質を向上させるために各装置の性能をより効果的に発揮させる観点から、非常に重要である。
ここで、上記特許文献1にも開示されているように、従来、連続鋳造において電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を両方用いる方法は提案されている。しかしながら、実際には、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置を両方組み合わせても、電磁撹拌装置又は電磁ブレーキ装置をそれぞれ単体で使用した場合よりも、鋳片の品質が悪化してしまう場合も少なくない。これは、単純に両方の装置を設置すれば、簡単に両方の装置の長所が得られるというものではなく、各装置の構成や設置位置等によっては、それぞれの長所を打ち消し合ってしまうことが生じ得るからである。上記特許文献1においても、その具体的な装置構成は明示されておらず、両装置のコアの高さも明示されていない。つまり、従来の方法では、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を両方設けることによる鋳片の品質向上の効果を十分に得られない可能性がある。
これに対して、本実施形態では、以下に説明するように、高速の鋳造であっても鋳片3の品質がより一層確保され得るような、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の適切な高さの割合を規定する。これにより、上述した電磁力発生装置170の構成と併せて、鋳片3の品質を確保しつつ生産性を向上させる効果をさらに効果的に得ることが可能になる。
ここで、連続鋳造における鋳造速度は、鋳片サイズや品種により大きく異なるが、一般的に0.6~2.0m/min程度であり、1.6m/minを超える連続鋳造は高速鋳造と言われる。従来、高い品質が要求される自動車用外装材等については、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造では、品質を確保することが困難であるため、1.4m/min程度が一般的な鋳造速度である。そこで、ここでは、一例として、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造においても従来のより遅い鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを具体的な目標として設定し、当該目標を満たし得るような、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さの割合について、詳細に説明する。
上述したように、本実施形態では、鋳型110のZ軸方向の中央部に電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を設置する空間を確保するために、鋳型110の上部及び下部に、それぞれ水箱130、140を配置する。ここで、溶鋼湯面よりも上方に電磁撹拌コア152が位置してもその効果を得ることができない。従って、電磁撹拌コア152は溶鋼湯面よりも下方に設置されるべきである。また、吐出流に対して効果的に磁場を印加するためには電磁ブレーキコア162は浸漬ノズル6の吐出孔付近に位置することが好ましい。上記のように水箱130、140を配置した場合には、一般的な配置では、浸漬ノズル6の吐出孔は下部水箱140よりも上方に位置することになるため、電磁ブレーキコア162も下部水箱140よりも上方に設置されるべきである。従って、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162を設置することにより効果が得られる空間(以下、有効空間ともいう)の高さH0は、溶鋼湯面から下部水箱140の上端までの高さとなる(図2参照)。
本実施形態では、当該有効空間を最も有効に活用するために、電磁撹拌コア152の上端が溶鋼湯面と略同じ高さになるように、当該電磁撹拌コア152を設置する。このとき、電磁撹拌装置150の電磁撹拌コア152の高さをH1、ケース151の高さをH3とし、電磁ブレーキ装置160の電磁ブレーキコア162の高さをH2、ケース161の高さをH4とすると、下記数式(1)が成立する。
換言すれば、上記数式(1)を満たしつつ、電磁撹拌コア152の高さH1と電磁ブレーキコア162の高さH2との割合H1/H2(以下、コア高さ割合H1/H2ともいう)を規定する必要がある。以下、高さH0~H4についてそれぞれ説明する。
(有効空間の高さH0について)
上述したように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160においては、それぞれ、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さが大きいほど、電磁力を付与する性能が高いと言える。従って、本実施形態では、両装置がその性能をより発揮できるように、有効空間の高さH0ができるだけ大きくなるように鋳型設備10を構成する。具体的には、有効空間の高さH0を大きくするためには、鋳型110のZ軸方向の長さを大きくすればよい。一方、上述したように、鋳片3の冷却性を考慮して、溶鋼湯面から鋳型110の下端までの長さは1000mm程度以下であることが望ましい。そこで、本実施形態では、鋳片3の冷却性を確保しつつ、有効空間の高さH0をできるだけ大きくするために、溶鋼湯面から鋳型110の下端までが1000mm程度になるように鋳型110を形成する。
ここで、十分な冷却能力が得られるだけの水量を貯水し得るように下部水箱140を構成しようとすると、過去の操業実績等に基づいて、当該下部水箱140の高さは少なくとも200mm程度は必要となる。従って、有効空間の高さH0は、800mm程度以下である。
(電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置のケースの高さH3、H4について)
上述したように、電磁撹拌装置150のコイル153は、電磁撹拌コア152に、断面のサイズが10mm×10mm程度の導線を2~4層巻回することにより形成される。従って、コイル153まで含めた電磁撹拌コア152の高さは、H1+80mm程度以上となる。ケース151の内壁と電磁撹拌コア152及びコイル153との間の空間を考慮すると、ケース151の高さH3は、H1+200mm程度以上となる。
電磁ブレーキ装置160についても同様に、コイル163まで含めた電磁ブレーキコア162の高さは、H2+80mm程度以上となる。ケース161の内壁と電磁ブレーキコア162及びコイル163との間の空間を考慮すると、ケース161の高さH4は、H2+200mm程度以上となる。
(H1+H2が取り得る範囲)
上述したH0、H3、H4の値を上記数式(1)に代入すると、下記数式(2)が得られる。
つまり、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162は、その高さの和H1+H2が500mm程度以下になるように構成される必要がある。以下、上記数式(2)を満たしつつ、鋳片3の品質向上の効果が十分に得られるような、適切なコア高さ割合H1/H2を検討する。
(コア高さ割合H1/H2について)
本実施形態では、電磁撹拌の効果がより確実に得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の範囲を規定することにより、コア高さ割合H1/H2の適切な範囲を設定する。
上述したように、電磁撹拌では、凝固シェル界面における溶鋼2を流動させることにより、凝固シェル3aへの不純物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。一方、鋳型110の下方に向かうにつれて、鋳型110内での凝固シェル3aの厚みは大きくなっていく。電磁撹拌の効果は、凝固シェル3aの内側の未凝固部3bに対して及ぼされるものであるから、電磁撹拌コア152の高さH1は、鋳片3の表面品質をどの程度の厚みまで確保する必要があるかによって決定され得る。
ここで、表面品質が厳格な品種では、鋳造後の鋳片3の表層を数ミリ研削する工程が実施されることが多い。この研削深さは、2mm~5mm程度である。従って、このような厳格な表面品質が求められる品種では、鋳型110内において凝固シェル3aの厚みが2mm~5mmよりも小さい範囲において電磁撹拌を行っても、その電磁撹拌により不純物が低減されている鋳片3の表層は、その後の研削工程によって除去されてしまうこととなる。換言すれば、鋳型110内において凝固シェル3aの厚みが2mm~5mm以上となっている範囲において電磁撹拌を行わないと、鋳片3における表面品質向上の効果を得ることができない。
凝固シェル3aは、溶鋼湯面から徐々に成長し、その厚みは下記数式(3)で示されることが知られている。ここで、δは凝固シェル3aの厚み(m)、kは冷却能力に依存する定数、xは溶鋼湯面からの距離(m)、Vcは鋳造速度(m/min)である。
上記数式(3)から、凝固シェル3aの厚みが4mm又は5mmとなる場合の、鋳造速度(m/min)と溶鋼湯面からの距離(mm)との関係を求めた。図17にその結果を示す。図17は、凝固シェル3aの厚みが4mm又は5mmとなる場合の、鋳造速度(m/min)と溶鋼湯面からの距離(mm)との関係を示す図である。図17では、横軸に鋳造速度を取り、縦軸に溶鋼湯面からの距離を取り、凝固シェル3aの厚みが4mmとなる場合、及び凝固シェル3aの厚みが5mmとなる場合における、両者の関係をプロットしている。なお、図17に示す結果を得る際の計算では、一般的な鋳型に対応する値として、k=17とした。
例えば、図17に示す結果から、研削される厚みが4mmよりも小さく、凝固シェル3aの厚みが4mmまでの範囲で溶鋼2を電磁撹拌すればよい場合であれば、電磁撹拌コア152の高さH1を200mmとすれば、鋳造速度3.5m/min以下での連続鋳造において電磁撹拌の効果が得られることが分かる。研削される厚みが5mmよりも小さく、凝固シェル3aの厚みが5mmまでの範囲で溶鋼2を電磁撹拌すればよい場合であれば、電磁撹拌コア152の高さH1を300mmとすれば、鋳造速度3.5m/min以下での連続鋳造において電磁撹拌の効果が得られることが分かる。なお、この鋳造速度の「3.5m/min」という値は、一般的な連続鋳造機において、操業上及び設備上可能な最大の鋳造速度に対応している。
ここで、上述したように、一例として、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造においても従来のより遅い鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合について考える。鋳造速度が1.6m/minを超える場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るためには、図17から、電磁撹拌コア152の高さH1を少なくとも約150mm以上にしなければならないことが分かる。
以上検討した結果から、本実施形態では、例えば、比較的高速である鋳造速度1.6m/minを超える連続鋳造において、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるように、電磁撹拌コア152の高さH1が約150mm以上になるように、当該電磁撹拌コア152を構成する。
電磁ブレーキコア162の高さH2については、上述したように、当該高さH2が大きいほど電磁ブレーキ装置160の性能は高い。従って、上記数式(2)から、H1+H2=500mmである場合において、上記の電磁撹拌コア152の高さH1の範囲に対応するH2の範囲を求めればよい。すなわち、電磁ブレーキコア162の高さH2は、約350mmとなる。
これらの電磁撹拌コア152の高さH1及び電磁ブレーキコア162の高さH2の値から、本実施形態におけるコア高さ割合H1/H2は、例えば、下記数式(4)となる。
まとめると、本実施形態において、例えば、鋳造速度1.6m/minを超える場合であっても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合には、電磁撹拌コア152の高さH1と電磁ブレーキコア162の高さH2が、上記数式(4)を満たすように、当該電磁撹拌コア152及び当該電磁ブレーキコア162が構成される。
なお、コア高さ割合H1/H2の好ましい上限値は、電磁ブレーキコア162の高さH2が取り得る最小値によって規定され得る。電磁ブレーキコア162の高さH2が小さくなるほどコア高さ割合H1/H2は大きくなるが、電磁ブレーキコア162の高さH2が小さ過ぎれば、電磁ブレーキが有効に機能せず、電磁ブレーキによる鋳片3の内質向上の効果が得られ難くなるからである。電磁ブレーキの効果が十分に発揮され得る電磁ブレーキコア162の高さH2の最小値は、鋳片サイズや品種、鋳造速度等の鋳造条件に応じて異なる。従って、電磁ブレーキコア162の高さH2の最小値、すなわちコア高さ割合H1/H2の上限値は、例えば実機試験、又は実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーション等に基づいて規定され得る。
以上、電磁力発生装置170における、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の適切な高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における適切な設置位置について説明した。なお、以上の説明では、上記数式(4)に示す関係性を得る際に、上記数式(2)からH1+H2=500mmとして、これらの関係性を得ていた。ただし、本実施形態はかかる例に限定されない。上述したように、装置の性能をより発揮するためにはH1+H2はできるだけ大きい方が好ましいため、上記の例ではH1+H2=500mmとしていた。一方、例えば水箱130、140、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を設置する際の作業性等を考慮して、Z軸方向においてこれら部材の間に隙間が存在した方が好ましい場合も考えられる。このように作業性等の他の要素をより重視する場合には、必ずしもH1+H2=500mmでなくてもよく、例えばH1+H2=450mm等、H1+H2を500mmよりも小さい値として、コア高さ割合H1/H2を設定してもよい。
また、以上の説明では、鋳造速度が1.6m/minを超える場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るための条件として、図17から、電磁撹拌コア152の高さH1の最小値約150mmを求め、このときのコア高さ割合H1/H2の値である0.43を、当該コア高さ割合H1/H2の下限値としていた。ただし、本実施形態はかかる例に限定されない。目標とする鋳造速度がより速く設定される場合には、コア高さ割合H1/H2の下限値も変化し得る。つまり、実際の操業において目標とする鋳造速度において、凝固シェル3aの厚みが研削工程で除去される厚みに対応する所定の厚みになっても電磁撹拌の効果が得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の最小値を図17から求め、そのH1の値に対応するコア高さ割合H1/H2を、コア高さ割合H1/H2の下限値とすればよい。
一例として、作業性等を考慮してH1+H2=450mmとし、より速い鋳造速度2.0m/minにおいても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とした場合における、コア高さ割合H1/H2の条件を求めてみる。まず、図17から、鋳造速度が2.0m/min以上である場合に、例えば凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るための条件を求める。図17を参照すると、鋳造速度が2.0m/minのときには、溶鋼湯面からの距離が約175mmの位置で、凝固シェルの厚みが5mmになる。従って、マージンを考慮すれば、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の最小値は、200mm程度と求められる。このとき、H1+H2=450mmから、H2=250mmとなるため、コア高さ割合H1/H2に求められる条件は、下記数式(5)で表される。
つまり、本実施形態において、例えば、鋳造速度2.0m/minにおいても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合には、少なくとも上記数式(5)を満たすように、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162を構成すればよい。なお、コア高さ割合H1/H2の上限値については、上述したように、実機試験、又は実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーション等に基づいて規定すればよい。
このように、本実施形態では、鋳造速度を増加させた場合であっても従来のより低速での連続鋳造と同等以上の鋳片の品質(表面品質及び内質)を確保することが可能なコア高さ割合H1/H2の範囲は、その目標とする鋳造速度の具体的な値、及びH1+H2の具体的な値に応じて、変化し得る。従って、コア高さ割合H1/H2の適切な範囲を設定する際には、実際の操業時の鋳造条件や、連続鋳造機1の構成等を考慮して、目標とする鋳造速度、及びH1+H2の値を適宜設定し、そのときのコア高さ割合H1/H2の適切な範囲を、以上説明した方法によって適宜求めればよい。
上記で説明した電磁力発生装置170を用いた連続鋳造に関して、鋳造開始工程における電磁力発生装置170による電磁力の付与の開始タイミングとクロップ長さとの関係について確認するために行った実機試験の結果について説明する。
本実機試験では、上述した電磁力発生装置170と同様の構成を有する電磁力発生装置を実際に操業に用いている連続鋳造機(図1に示す連続鋳造機1と同様の構成を有するもの)に設置し、各種鋳造条件を様々に変更しながら連続鋳造を行った。主な鋳造条件は、具体的には、以下の通りである。
(鋳片)
鋳片サイズ(鋳型のサイズ):幅900mm~1650mm、厚み250mm
鋳造速度:1.0m/min~2.3m/min
(電磁撹拌装置)
コイルに印加する交流電流:680A、1.0Hz~3.5Hz
(電磁ブレーキ装置)
電磁ブレーキによる鋳型厚み方向の成分の最大値:0.15T~0.40T
コイルに印加する直流電流:1000A
(浸漬ノズル)
溶鋼湯面に対する浸漬ノズルの底面の深さ:330mm~450mm
なお、本実機試験は、電磁撹拌コア152をその上端が溶鋼湯面と一致するように設置し、電磁撹拌コア152の高さH1を250mmとし、電磁ブレーキコア162をその上端の上下位置が溶鋼湯面から518mm下方の位置になるように設置し、電磁ブレーキコア162の高さH2を200mmとして(つまり、電磁ブレーキコア162の下端の上下位置を溶鋼湯面から718mm下方の位置にして)行われた。
ここで、本実機試験では、鋳造開始工程における電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始タイミング及び電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始タイミングをそれぞれ様々に変更した各条件で連続鋳造が行われた。そして、鋳造後に得られた鋳片3の先端部(つまり、ダミーバーヘッド50の近傍の部分)のうち鋳片引き抜き方向に500mmの範囲を切り取った。その後、このようにクロップ長さを500mmに設定してクロップ部を切り取った後の鋳片3の先端部(つまり、切断面の近傍の部分)について、表面品質及び内質を調査した。
本実機試験の結果を表1に示す。
表1では、鋳片3の表面品質について、目視により直径0.5mm以上のピンホールがスラブ1枚に対して全く発見されず表面品質が最も良い場合には「◎」を、スラブ1枚に対して上記ピンホールの個数が1個であり表面品質が良好といえる場合には「○」を、スラブ1枚に対して上記ピンホールの個数が2~3個であり手入れが不要なレベルであった場合には「△」を、スラブ1枚に対して上記ピンホールの個数が3個よりも多く手入れが必要であった場合には「×」を付すことにより表現している。
また、表1では、鋳片3の内質について、超音波探傷検査により大型(具体的には、直径0.4mm以上)の介在物がスラブ1枚に対して全く検出されず内質が最も良い場合には「◎」を、スラブ1枚に対して上記介在物の検出数が1~5個であり内質が良好といえる場合には「○」を、スラブ1枚に対して上記介在物の検出数が6~20個程度であり製品として問題ない程度であった場合には「△」を、スラブ1枚に対して上記介在物の検出数が20個よりも多く後工程で問題となる程度であった場合には「×」を付すことにより表現している。
なお、表1において、「C濃度」は溶鋼2の炭素濃度を示しており、「EMS周波数」は電磁撹拌装置150のコイル153に印加する交流電流の周波数を示しており、「EMBr」は電磁ブレーキ装置160により鋳型110内の鋳型厚み方向の中心位置P2に発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分の最大値を示しており、「EMS-ON」は電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始された時点におけるダミーバーヘッド50の上端の湯面からの距離を示しており、「EMBr-ON」は電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始された時点におけるダミーバーヘッド50の上端の湯面からの距離を示している。
上述したように、本実機試験では、電磁ブレーキコア162の下端の湯面からの距離は718mmとなっている。また、0.1T位置(つまり、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.1Tとなる上下位置)の湯面からの距離は928mmとなっている。また、図13に示すように、本実機試験では、0.02T位置(つまり、鋳型110の内壁面P1の評価線P3上において電磁ブレーキ装置160により発生する磁束密度の鋳型厚み方向の成分が0.02Tとなる上下位置)の湯面からの距離は1100mmとなっている。
表1を参照すると、いずれの条件においても、EMS-ONは、電磁ブレーキコア162の下端の湯面からの距離に相当する718mm以上となっている。つまり、いずれの条件においても、鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与が開始されている。また、いずれの条件においても、EMBr-ONは、0.1T位置の湯面からの距離に相当する928mm以上となっている。つまり、いずれの条件においても、鋳造開始工程において、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始した後であって、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始されている。
ここで、本実機試験では、鋳造開始工程において、ダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突が発生したか否かの確認が行われたが、いずれの条件においても、そのような衝突は発生していないことが確認された。このことは、鋳造開始工程において、電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始されたこと、及び、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与が開始されたことによって、電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制する効果が奏されたことによるものと考えられる。
また、表1によれば、EMBr-ONが共通しておりEMS-ONが互いに異なる条件1及び条件2を比較すると、内質の評価は共通するものの、EMS-ONが1500mmである条件1の表面品質の評価(具体的には、「×」)よりも、EMS-ONが電磁ブレーキコア162の下端より280mm下方の位置の湯面からの距離に相当する1000mmである条件2の表面品質の評価(具体的には、「〇」)の方が、良好になっていることがわかる。さらに、EMBr-ONが共通しておりEMS-ONが互いに異なる条件3及び条件4を比較すると、内質の評価は共通するものの、EMS-ONが1000mmである条件3の表面品質の評価(具体的には、「〇」)よりも、EMS-ONが電磁ブレーキコア162の下端の湯面からの距離に相当する718mmである条件4の表面品質の評価(具体的には、「◎」)の方が良好になっていることがわかる。
上記結果から、EMS-ONが短いほど(つまり、電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始タイミングが早いほど)、クロップ長さを500mmに設定してクロップ部を切り取った後の鋳片3の先端部の品質が良好になることが確認された。つまり、EMS-ONが短いほどクロップ長さを短くすることができるので、連続鋳造の歩留まりを向上させることができることが確認された。特に、鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端より280mm下方の上下位置にダミーバーヘッド50の上端が到達する以前に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始することによって、電磁撹拌装置150により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制しつつ、クロップ長さを効果的に短くすることができることが確認された。また、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達したときに、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始することによって、電磁撹拌装置150により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制しつつ、クロップ長さをより効果的に短くすることができることが確認された。ゆえに、電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始タイミングを上記のタイミングにすることによって、連続鋳造を適切に開始しつつ、連続鋳造の歩留まりを向上させることができることが確認された。
また、表1によれば、EMS-ONが共通しておりEMBr-ONが互いに異なる条件2及び条件3を比較すると、表面品質の評価は共通するものの、EMBr-ONが1250mmである条件2の内質の評価(具体的には、「△」)よりも、EMBr-ONが1100mmである条件3の内質の評価(具体的には、「〇」)の方が良好になっていることがわかる。さらに、EMS-ONが共通しておりEMBr-ONが互いに異なる条件4及び条件5を比較すると、表面品質の評価は共通するものの、EMBr-ONが1100mmである条件4の内質の評価(具体的には、「〇」)よりも、EMBr-ONが0.1T位置の湯面からの距離に相当する928mmである条件5の内質の評価(具体的には、「◎」)の方が良好になっていることがわかる。
上記結果から、EMBr-ONが短いほど(つまり、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始タイミングが早いほど)、クロップ長さを500mmに設定してクロップ部を切り取った後の鋳片3の先端部の品質が良好になることが確認された。つまり、EMBr-ONが短いほどクロップ長さを短くすることができるので、連続鋳造の歩留まりを向上させることができることが確認された。特に、鋳造開始工程において、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始した後であって、0.02T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達する以前に、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を開始することによって、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111への衝突を抑制しつつ、クロップ長さを効果的に短くすることができることが確認された。また、鋳造開始工程において、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始した後であって、0.1T位置にダミーバーヘッド50の上端が到達したときに、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与を開始することによって、電磁ブレーキ装置160により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111への衝突を抑制しつつ、クロップ長さをより効果的に短くすることができることが確認された。ゆえに、電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始タイミングを上記のタイミングにすることによって、連続鋳造を適切に開始しつつ、連続鋳造の歩留まりを向上させることができることが確認された。
また、表1によれば、EMS-ONが電磁ブレーキコア162の下端の湯面からの距離に相当する718mmであり、EMBr-ONが0.1T位置の湯面からの距離に相当する928mmであるという点で共通している条件5~条件31のうち、炭素濃度が0.005質量%以下である条件5~条件20と炭素濃度が0.005質量%よりも大きい条件21~条件31とを比較すると、いずれの条件においても、表面品質及び内質の評価が「◎」となっていることがわかる。
ここで、炭素濃度が0.005質量%以下の鉄鋼製品では特に厳格な表面品質が要求される傾向にあるが、上記結果から、炭素濃度が0.005質量%以下の溶鋼2の連続鋳造においても、炭素濃度が0.005質量%よりも大きい場合と同様に、鋳造開始工程における電磁撹拌装置150による電磁力の付与の開始タイミング及び電磁ブレーキ装置160による電磁力の付与の開始タイミングを上記のように適正化することによって、連続鋳造を適切に開始しつつ、連続鋳造の歩留まりを向上させることができることが確認された。
<3.まとめ>
以上説明したように、本実施形態に係る連続鋳造方法では、電磁撹拌装置150によって鋳型110内の溶鋼2に対して水平面内において旋回流を発生させる電磁力を付与するとともに、電磁撹拌装置150よりも下方に設置される電磁ブレーキ装置160によって鋳型110内への浸漬ノズル6からの溶鋼2の吐出流に対して当該吐出流を制動する電磁力を付与しながら連続鋳造を行う。さらに、鋳造開始工程において、電磁ブレーキ装置160の鉄芯である電磁ブレーキコア162の下端にダミーバーヘッド50の上端が到達した以後に、電磁撹拌装置150による電磁力の付与を開始する。それにより、電磁撹拌装置150により生じる電磁力によるダミーバーヘッド50の鋳型板111、112への衝突を抑制することができるので、電磁ブレーキ装置160及び電磁撹拌装置150を両方用いる連続鋳造において連続鋳造を適切に開始することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。