以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態に係る移乗装置を説明する。
図1~図3を参照して、本発明の実施形態に係る移乗装置で使用される身体保持装具を説明する。これらの図に示す身体保持装具は、要介護者を車椅子や搬送車等の車両と移乗装置との間の移乗や、移乗装置と入浴装置との間の移乗の際における介助に使用される。
身体保持装具1は、要介護者の腹部から背中及び腰部に巻き付けられて要介護者を支持する支持部材2と、支持部材2に着脱可能に設けられ支持部材2の上から要介護者に巻付けられて固定されるベルト状の固定部材3と、固定部材3の上から支持部材2に着脱可能に設けられて身体保持装具1を移乗装置の被係止金具に係止する紐状の係止部材4とを備えている。係止部材4は、移乗装置の回動操作アーム18(後述)に係止可能な係止具としての係止金具5をその両端に具備している。
支持部材2は、要介護者の背中から腰側全周に巻付けられる長さを有する、柔軟で耐水性または撥水性を有するスポンジ状部材からなり、要介護者の背中から腰側にかけて巻付けられる幅広の中央部2aと、中央部2aの両側から左右に伸びて要介護者の腹部側に巻付けられる幅狭の端部2b1、2b2とを有する。中央部2aは、平行に対向する上側一対と下側一対の左側斜めスリット2cと、平行に対向する上側一対と下側一対の右側斜めスリット2dと、一対の縦長スリット2eとを有する。図1に示すように、左側斜めスリット2cは上から左斜め下方向(鉛直方向に対して例えば30°を成す方向)に並んで形成されており、各スリット(長穴)の長手方向は右斜め下方向に傾斜している。右側斜めスリット2dは上から右斜め下方向(鉛直方向に対して例えば30°を成す方向)に並んで形成されており、各スリット(長穴)の長手方向は左斜め下方向に傾斜している。すなわち、左側斜めスリット2c及び右側斜めスリット2dは傾斜して形成されている。また、図1に示すように、中央部2aの左側の端部2b1は一対の縦長スリット2fを有する。
固定部材3は、支持部材2に着脱可能で耐水性または撥水性の部材からなり、両端部に相互に締結可能なバックル部3aを有している。支持部材2の上から固定部材3の両端が支持部材2の縦長スリット2e,2fに挿通されバックル部3aで締結される。
係止部材4は、支持部材2に着脱可能で固定部材3より細幅で身体保持装具1を移乗装置に係止固定するための耐水性または撥水性の部材である。
係止部材4は、上下で対向する二股状の本体係止部分4a1,4a2と、本体係止部分4a1,4a2間に斜め交叉する一対の斜め交叉係止部分4b1,4b2とを有する。係止部材4はまた、上側一対の左側斜めスリット2cに挿通され端部にバックル部4cを有する紐状の左上側斜め係止部分4dと、下側一対の左側斜めスリット2cに挿通され端部にバックル部4eを有する紐状の左下側斜め係止部分4fと、上側一対の右側斜めスリット2dに挿通され端部にバックル部4gを有する紐状の右上側斜め係止部分4hと、下側一対の右側斜めスリット2dに挿通され端部にバックル部4iを有する紐状の右下側斜め係止部分4jとを有している。本体係止部分4a1,4a2は、中央側がほぼ一定間隔に平行に離間し、両端に近づくにつれて互いに接近して両端でつながっており、両端に係止具としての係止金具(係止具)5が取り付けられている。係止金具5は、回動操作アーム18に係止される金具であり、複数の穴、この実施形態では2つの挿通穴5a,5bと1つの鍵穴状の係止穴5cとを有する。
図1(a)の破線Aの拡大図である図1(b)で示すように、本体係止部分4a1,4a2は係止金具5の挿通穴5aに挿通された後、本体係止部分4a1,4a2の両端が連結される無端状に形成されている。本体係止部分4a1,4a2は第一係止部材を構成し、この第一係止部材から分岐して挿通穴5bと挿通穴5aに折返し接続された第二係止部材としての分岐部材4a3を有する。縫目4a5は、係止穴5a,5bを通して折り返された分岐部材4a3の端部がその分岐部材4a3に縫い合わされた部分の縫目であり、縫目4a6は、分岐部材4a3と本体係止部分4a1とが縫い合わされた部分の縫目である。この第一係止部材及び第二係止部材により、万一、要介護者の移乗動作中に、第一係止部材が切断した場合でも分岐した第二係止部材で移乗装置10(後述)との連結が解除されないので、安全性を向上できる。また、分岐部材4a3は移乗装置10の回動操作アーム(後述)に連結された際に分岐部材4a3に張力がかからないように遊貫状態に設けられている。
以上の身体保持装具1において、図4、図5に示すように要介護者Mの背中及び腰部から腹部にかけ支持部材2が巻き付けられ、その上から固定部材3が、支持部材2に設けられた縦長スリット2e,2fに挿入されその両端のバックル部3aが締結され、これにより、固定部材3が支持部材2の上から要介護者Mに巻き付けられて支持部材2が要介護者Mに固定される。この巻き付け固定により支持部材2は要介護者Mの背中及び腰部の所要位置からずれることが防止される。
この身体保持装具1を要介護者Mに装着した状態から、図5に示すように、係止部材4の本体係止部分4a1,4a2の両端の係止金具5が移乗装置10の回動操作アーム18に設けた3つの被係止金具40a~40c(被係止部分)のいずれかに係止される。
図5に示すように、移乗装置10の回動操作アーム18を時計回りの方向に回動させると、身体保持装具1側の係止金具5が移乗装置10側の被係止金具40a~40cのいずれかに引っ掛けられているので、座面部20に着座している要介護者Mは身体保持装具1の本体係止部分4a1,4a2により矢印Bで示す水平に対して前方上方に所定角度、例えば30°で持ち上げられる。要介護者Mを持ち上げる際に本体係止部分4a1、4a2のうち、特に下側の本体係止部分4a2に張力がかかる。ここで、係止部材4の左上側斜め係止部分4dが上側一対の左側斜めスリット2cに挿通され、左下側斜め係止部分4fが下側一対の左側斜めスリット2cに挿通され、互いのバックル部4c,4eで締結され、また、右上側斜め係止部分4hが上側一対の右側斜めスリット2dに挿通され、右下側斜め係止部分4jが下側一対の右側斜めスリット2dに挿通され、互いのバックル部4g,4iで締結されている。
これにより、斜め係止部分4d,4f;4h,4jは鉛直方向Cの前方所定角度、例えば30°で傾斜しており、それに対応して左側斜めスリット2c及び右側斜めスリット2dが傾斜して形成されているので、要介護者Mを持ち上げる際に本体係止部分4a2にかかる張力は、左側斜めスリット2c及び右側斜めスリット2dの長穴の長手方向に作用する。このため、特に下側一対の左側斜めスリット2cの間のつなぎ部分(支持部材2の一部分)2c1とその左側斜めスリット2c近傍の支持部材2、下側一対の右側斜めスリット2dの間のつなぎ部分(支持部材2の一部分)2d1とその右側斜めスリット2d近傍の支持部材2が変形して破損することを抑えることができる。このように、支持部材2には、支持部材2を変形させる方向の持ち上げ力が作用しにくくなる。なお、上記所定角度は、好ましくは、30°ないし30°前後であるが、これに限定されない。
以上の身体保持装具1によれば、支持部材2が要介護者Mの背中及び腰部の所定位置からずれないため、要介護者Mの上肢が濡れていたり、後述する移乗装置10上で姿勢が変わったりしても、移乗装置10の座面部20から安定して起立・着座動作ができる。例えば、腰部に装着した身体保持装具1がずれないため、移乗装置10の座面部20から起立した際に起立状態を維持でき、臀部等を洗ったり、着衣や脱衣の作業をしたりすることが容易となる。また、支持部材2、固定部材3、係止部材4が、単独で破損や劣化した際、容易に交換でき、身体保持装具1の全体を買え変える必要がなく、コストメリットに優れる。さらに、後述するように、回動操作アーム18の回動操作で身体保持装具1が回転軌道で持ち上げられても、係止部材4がねじれることがないので、スポンジ製の支持部材2の変形や破損を抑えることができる。また、後述する入浴装置で入浴後に、身体が濡れた要介護者Mの移乗動作に使用しても、カビ等の発生を防ぐことができる。
移乗装置10を、図5を含め、図6ないし図12を参照して説明する。移乗装置10において前後左右の各方向を図6に示すように設定する。これらの各方向は、図5に示すように移乗装置10によって移乗される要介護者Mから見たときの前後左右の方向である。
これらの図を参照して、移乗装置10は、台車11と、装置本体12とを有する。台車11は、前後に車輪13を備えた左右一対の台車フレーム14と、両台車フレーム14を左右方向で連結する連結フレーム15と、足載置板16とを有する。
装置本体12は、台車11に一体に組み付けられている。装置本体12は、左右一対の把持レバー17、左右一対の回動操作アーム18、座面操作レバー19、左右一対の座面部20、要介護者M用の足当て部21、介護者N用の足当て部30、ロックカバー26、及び、複数のフレーム22等、を有する。
介護者N(図5参照)は、把持レバー17を利用して移乗装置10の移動・停止を制御し、回動操作アーム18を利用して要介護者Mの介助を行い、座面操作レバー19を利用して座面部20の起立・倒伏の挙動を制御することができる。また、要介護者Mは、座面部20に着座したり、足当て部21に膝や脛を当てたりすることができる。足当て部21は、座面部20に着座している要介護者Mが立ち上がる際、足当て部21に膝または脛の少なくとも一部が当たることで、いわゆる梃子の作用で立ち上がり易くさせる。
また、介護者Nにおいても、移乗装置10の前方から介護者N用の足当て部30に膝または脛の少なくとも一部を当てた状態で前方から回動操作アーム18を回動操作できる。そのため、女性等の腕力が弱い介護者Nでも回動操作アーム18に力を入れて回動操作しやすく、要介護者Mを楽に座面部20から起立させられる。
足当て部30は、図5に特に示すように、介護者N側から見て、側面視における下方部30aが上方部30bよりも前方に突出している。そのため、小柄な介護者の場合、膝位置が大柄な介護者に比べて下位置になるが、足当て部30の下方部30aが介護者側に突出しているため、小柄な介護者が足当て部30に膝をあてがい易くできる。また、膝を上方部30bにあてがうことができる介護者の場合、膝から下の部位を足当て部30の前面に沿わせて膝を屈曲した姿勢で回動操作アーム18の操作をすることができる。なお、足当て部30は、弾性を有する材料でなり、好ましくはシリコンゴム製または熱圧縮により成形されたものである。これにより、介護者Nが足当て部30に膝ないし脛をあてがうときに痛みを感じ難くすることができる。
回動操作アーム18は、途中が折れ曲がって回動支点になっていると共に一端側181が介護者Nにより操作される操作端である一方、他端側182に沿って身体保持装具1の係止が可能な被係止金具40a~40cが複数順次配列されている。図5において、回動操作アーム18の他端側182の点線部分E1を前方から見た部分の拡大図E2に示すように、複数の被係止金具40a~40cは、回動操作アーム18の他端側182の端部からの距離が離れるに従い長くなっている。すなわち、回動操作アーム18の初期位置(後述、図9参照)において、要介護者Mからの距離が離れるに従い被係止金具40a~40cが長くなるように構成されている。
したがって、係止部材4の本体係止部分4a1、4a2が途中で弛んだりしないように要介護者Mの体格の大小に対応して身体保持装具1の係止金具5を回動操作アーム18のいずれかの被係止金具40a~40cに容易かつ確実に係止することができるようになっている。すなわち、要介護者Mが大柄な人ほど手前側(要介護者Mに近い方)の被係止金具40aに係止金具5を取り付ける。これは、身体保持装具1の長さが変わらないため、大柄で恰幅のよい要介護者Mの場合、腹部から被係止金具40a~40cまでの距離が短くなり、係止金具5を取り付ける位置を変えないと被係止金具40a~40cに取り付けにくくなるためである。また、被係止金具40a~40cの長さを変えているが、これは、小柄な要介護者Mに対して奥側(要介護者Mから離れた方)の被係止金具40cに係止金具5を取り付ける際に、手前の被係止金具40a、40bが邪魔にならないようにするためである。
回動操作アーム18は介護者Nが回動操作のため把持する把持部183を備え、その把持部183の先端183aは球状に形成されている。そのため、介護者Nは、回動操作アーム18を把持し易く力を入れて回動操作することが可能となる。
装置本体12は、下方でU字状に曲折され台車11から略垂直上方に延びる前側左右一対の第1本体フレーム22と、連結フレーム15から垂直上方に延びる後側左右一対の第2本体フレーム23と、両第1本体フレーム22を上方側で左右に連結する第1連結フレーム24と、第1、第2本体フレーム22,23を前後に連結する上側と下側一対の第2、第3連結フレーム25a,25bとを有する。なお、足載置板16は第1本体フレーム22の下方部分と連結フレーム15にわたって設けられている。
図7及び図8を参照して、左右一対の回動操作アーム18を更に説明する。これらの図には、一方(図6の左側)の回動操作アーム18の一部のみが示されているが、他方の回動操作アーム18も同様である。両回動操作アーム18は、一対の連結フレーム18a,18bで平行に連結されている(連結フレーム18bは図6参照)。なお。連結フレーム18bは要介護者Mが握る握持部となっている(図5参照)。
回動操作アーム18は、その折曲がり下端にアーム板18cが固定されている。アーム板18cには、アームボルト18d,18eが固定され、回動操作アーム18はアーム板18cを介してフレーム板33にアーム軸18fで軸着されている。アーム板18cの下端側には、歯部18gが形成されている。
第1連結フレーム24には、フレーム板33が固定されている。フレーム板33において、その上端側は、アームボルト18d,18e間に位置し、ラチェット爪部33aの支軸33bが、フレーム板33に軸支されている。ラチェット爪部33aは、回動操作アーム18のアーム板18cにおける歯部18gと噛み合う方向に引張コイルばね33cで付勢されている。
以上の回動操作アーム18のアーム板18cに設けられた歯部18gと、この歯部18gに噛み合うラチェット爪部33aは、回動操作アーム18を後述する初期位置から回動操作した所定位置でロックするロック機構を構成する。なお、ロック機構を構成する部分を覆う保護カバー26(図5参照)が設けられている。
上記ロック機構における回動操作アーム18のロック及びそのロック解除を図9及び図10を参照して説明する。図10(a)~(c)は、図9に示す回動操作アーム18の初期位置、ロック位置、ロック解除位置それぞれに対応する要部の図である。すなわち、図10(a)は回動操作アーム18が初期位置にあるときの図9の要部の図であり、図10(b)は回動操作アーム18がロック位置にあるときの図9の要部の図であり、図10(c)は回動操作アーム18がロック解除位置にあるときの図9の要部の図である。
回動操作アーム18が図9の実線で示す位置、すなわち、図10(a)の初期位置にあるときは、アームボルト18eは、フレーム板33に当接していることで、回動操作アーム18の自重による右回りの回転が抑止され、回動操作アーム18の初期位置が維持されている。回動操作アーム18がこの初期位置から図9の第1仮想線18´の位置まで矢印F方向に回動操作されると、図10(b)に示すように、アーム板18cの歯部18gにフレーム板33のラチェット爪部33aが係合して、回動操作アーム18はロックされる。このとき、ラチェット爪部33aは回動操作アーム18の回動に伴ってアーム板18cに当接し押され図10(a)の状態から右回り方向に回転しており、引張コイルばね33cによって左回り方向への付勢力が働いている。すなわち、回動操作アーム18が初期位置において、ラチェット爪部33aは歯部18gと噛み合うように回動する方向に付勢されている。回動操作アーム18が図9の第1仮想線18´のロック位置から更に矢印F方向に第2仮想線18´´の位置まで回動操作されると、図10(c)に示すように、アーム板18cの歯部18gに対するフレーム板33のラチェット爪部33aの係合が外れてロックが解除される。このとき、ラチェット爪部33aは、回動操作アーム18の回動に伴ってアーム板18cに当接し右回り方向に押された後、アーム板18cと当接しなくなると、引張コイルばね33cによる付勢力によって左回り方向に回転し、図10(c)の状態となる。
上記ロック機構により、要介護者Mの起立動作支援時に要介護者Mの体重で回動操作アーム18が引っ張られる危険性を低減できる。また、介護者Nが回動操作アーム18に対して特別なロック操作をすることなく、所定位置で回動操作アーム18をロックすることができるため、安全性を高めることができる。
図11及び図12を参照して、座面操作レバー19の操作による一対の座面部20の同期した起立・倒伏制御を説明する。第3連結フレーム25bの内部に座面アーム27が挿入され、座面アーム27の後端側は第3連結フレーム25bから後方に突出している。突出した座面アーム27の後端に座面部20が固定されている。座面アーム27の前端側に回動軸29が固定され、この回動軸29回りに突出端29a、29bが突出している。一方の回動軸29(突出端29bが設けられる回動軸)に、座面部20の起立・倒伏を操作する座面操作レバー19が固定されている。
前側左右一対の第1本体フレーム22間に要介護者Mの膝または脛が当てられる足当て部21が設置されている。この足当て部21の前側には介護者Nの膝または脛が当てられる足当て部30が設置されている。この足当て部30の内部には、リンク機構31が内蔵されている。リンク機構31は、座面操作レバー19の回動操作で左右一対の座面部20を同期させて起立・倒伏させる。リンク機構31は、左右一対の第1、第2リンク片31a,31bを含む。左右一対の第1、第2リンク片31a,31bそれぞれの一端側同士は接続され、それぞれの他端側は左右の各突出端29a、29bに連結されている。引張コイルばね32の両端は第2リンク片31bの一端寄り側と第1本体フレーム22間に設けられる不図示のフレーム板との間に固定されている。
座面操作レバー19が図12で示す左上斜めの操作位置にあるときは、左側突出端29aは左下斜めに突出し、右側突出端29bは左上斜めに突出して、左右座面部20は共に水平姿勢にある。そして、座面操作レバー19が図12の矢印Gで示す時計回りで、仮想線19´で示す位置まで回動操作されると、引張コイルばね32とリンク機構31により、左側突出端29aは反時計回りに回動して仮想線29a´で示す位置になり、右側突出端29bは時計回りに回動して仮想線29b´で示す位置になる結果、左右の座面部20は仮想線20´で示すように起立する。左右の座面部20が起立しているとき、引張コイルばね32は座面部20の起立状態を維持する方向に第2リンク片31bを付勢する。なお、リンク機構31のリンク片は2本のリンク片でなく、1本のリンク片で構成してもよい。
以上の座面操作レバー19は、要介護者Mの着座側とは反対の前方右側に配置されるため、介護者Nは左右一対の座面部20を別々に起立・倒伏させる必要がなく、介護者Nの介助作業手数を削減できる。また、要介護者Mを起立させたその場で座面部20を起立・倒伏できる。また、介護者Nが回動操作アーム18を回動操作する際にその介護者Nの膝や脛が押し当たる足当て部30が前方側に設けられ、また、リンク機構31は、足当て部30で覆い隠されている。そのため、介護者Nの下肢がリンク機構31に接触して負傷する危険を回避できる。
なお、移乗装置10の座面部20が起立姿勢にあると、移乗装置10は後方にスペースができる。そうすると、このスペースを利用して、介護者Nによる車椅子の一部のスペース内外の進入・退出、要介護者Mの起立・着座の挙動、といった一連の介助・被介助が可能となる。
移乗装置10においては、一対の台車フレーム14の対向間隔が、後方になる従い漸次長くなっており、これにより座面部20が起立した際の前記スペースが後方側で広がっており、座面部20が起立した際に車椅子の進入・退出が容易となっている(図6参照)。
以上の移乗装置10によれば、要介護者Mの腰部に装着した身体保持装具1がずれないため、要介護者Mが座面部から起立した際に、要介護者Mの臀部等を洗ったり、着衣、脱衣の作業をしたりすることが容易となる。また、回動操作アーム18は所定の位置でロックが可能であるので、要介護者Mの座面部からの起立動作の支援時に要介護者Mの体重で回動操作アームが引っ張られる危険性を低減することができる。さらに、身体保持具1の係止が可能な被係止金具40a~40cが複数設けられているので、要介護者Mの体格等に合わせて身体保持装具1の取付け位置を調整できる。さらには、身体保持装具1の取付け位置を変更する際に、使用しない係止部材4が邪魔になり難い体格の小柄な要介護者Mの場合は、要介護者Mから前方に離れた長い寸法の係止箇所に係止部材4をかけることで好適に起立、着座動作を支援できる。
以下、図13~図15を参照して移乗装置10を用いた移乗方法を説明する。ここでは移乗装置10を用いて移乗させる機器及び他の機器を車椅子50及び入浴用車椅子51として説明する。なお、図13~図15において介護者の記載を省略している。
まず、図13(a)に示すように、脱衣場において要介護者Mの上着等の衣服を可能な範囲で脱がせた後、身体保持装具1を装着する。身体保持装具1で保持された要介護者Mが載っている車椅子50の一部を、座面部20を起立させてなる移乗装置10のスペースSに進入させると共に、身体保持装具1の係止金具5を要介護者の身長、体格に合わせて回動操作アーム18の被係止金具40a~40cのいずれかに係止する。
次いで、図13(b)に示すように、介護者は回動操作アーム18を前方に回動操作して要介護者Mを持ち上げながら、回動操作アーム18をロックして要介護者Mを車椅子50の座面部から臀部を浮かせた姿勢(中腰姿勢)にする。車椅子50をスペースSから退出させた後、この中腰姿勢を維持して介護者は要介護者Mに対して脱衣できていない下着やズボンを膝下ないしはその近傍まで下ろす作業を実施する。
次いで、図13(c)に示すように、座面操作レバー19を操作して座面部20を水平姿勢にすると共に回動操作アーム18を初期位置に戻して要介護者Mを座面部20に着座させ、下着やスボンを要介護者Mから完全に脱がせる。図示はしていないが、その後、介護者は、要介護者Mを着座させた移乗装置10を浴室まで移動させる。
次いで、浴室において、介護者は移乗装置10の座面部20に着座している要介護者Mの胸等、洗身可能な部位を洗身した後、図14(a)に示すように、回動操作アーム18を前方に回動操作して要介護者Mを中腰姿勢となるよう起立させると共に、座面操作レバー19を操作して座面部20を起立状態にする。この状態で介護者は要介護者Mの臀部、大腿部の裏側や背中等の部位の洗身を行う。
次いで、図14(b)に示すように移乗装置10のスペース内に入浴用車椅子51の一部を進入させると共に、回動操作アーム18を後方に回動操作して要介護者Mを入浴用車椅子51の座面部に着座させる。介護者は回動操作アーム18の被係止金具から係止金具5を外し、入浴用車椅子51をスペースSから退出させた後、身体保持装具1を要介護者Mから外す。
次いで、図14(c)に示すように入浴用車椅子51を専用浴槽52内に挿入し入浴を行う。入浴が終了すると、入浴用車椅子51を専用浴槽52から出し、移乗装置10近傍に移動させる。要介護者Mの胸部や腹部等の身体の部位を拭いた後、身体保持装具1を装着する。移乗装置10のスペースに入浴用車椅子51を進入させ、身体保持装具1の係止金具5を回動操作アーム18の被係止金具40a~40cのいずれかに係止し、回動操作アーム18を回動操作して要介護者Mを中腰姿勢となるよう起立させる。図15(a)に示すように、座面操作レバー19を操作して座面部20を水平にし、要介護者Mを座面部20上に着座させる。図示はしていないが、その後、介護者は、要介護者Mを着座させた移乗装置10を浴室から脱衣場まで移動させる。
次いで、図15(b)に示すように、回動操作アーム18を前方に回動操作して要介護者Mを起立させ、座面操作レバー19を操作して座面部20を起立姿勢にした後、要介護者Mの臀部、大腿部の裏側や背中等の部位を拭いた後、下着やズボンを着衣させる作業を行う。
最後に、図15(c)に示すように移乗装置10のスペース内に車椅子50を進入させ、進入させた車椅子50に要介護者Mを着座させる。そして、身体保持装具1の係止金具5を回動操作アーム18から外し、移乗装置10を車椅子50から離すことで、車椅子50を移乗装置10外に退出させる。身体保持装具1を要介護者Mから外し、要介護者Mに上着を着衣させて移乗が終了する。
なお、図14(c)の入浴中に移乗装置10を浴室から脱衣場に移動させておき、入浴終了後、図15(a)のステップを経ることなく、要介護者Mを着座させた入浴用車椅子51をそのまま脱衣場に移動させ、図15(b)のステップに移行できるようにしてもよい。
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々適宜に変更可能である。上述の移乗方法では機器及び他の機器を車椅子50及び入浴用車椅子51とした例を説明したが、これに限定されず、例えば、機器及び他の機器をベッド及び車椅子とする、あるいはベッド及びトイレとすることも可能である。